1 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 20:54:22.82 ID:4As/q9du0
隼鷹メインのSS。
艦これSS投稿スレに投下したものが、我ながら出来に満足いかず、加筆修正して初めてスレを立ててみた。
以下の点に注意。
・メインヒロインは橿原丸(断言)
・世紀末空母?何それおいしいの?
・艦娘達の戦後からスタート
・勢いで書いたので短い
2 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 20:56:01.23 ID:4As/q9du0
隼鷹「はぁ……今日もこんなにいい天気になるとはねぇ……」
佐世保の港は、夏の熱い日差しに照り付けられていた。
港を見下ろす高台に、軍服とも巫女服とも取れるような恰好をした女性が佇んでいた。
彼女の傍らには松葉杖があり、落下防止のための木の柵に立てかけられていた。
その隣に並んで立つ軍服の男性は、女性の言葉をただ聞いていた。
隼鷹「なぁ……提督」
提督「なんだ?」
隼鷹「戦いは……終わっちまったな」
提督「……ああ、終わった」
昭和20年(1945年)8月15日。ポツダム宣言の受諾により、日本は無条件降伏をし、これを玉音放送で知らせた。
3 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 20:57:21.34 ID:4As/q9du0
商船改装空母 隼鷹。
一航戦をはじめとした空母四隻を緒戦でいきなり失った日本帝国海軍は、当然のことながらその補完の必要に迫られた。
結果、彼女は商船から空母へと転身した。
元々そういう前提で作られたのだ。
いくつかの戦いに身を投じたが、敵の攻撃を受け、その機関の損傷で自力航行ができなくなり佐世保に停泊したままとなっていた。
機関の損傷が影響してか、艦艇の魂である艦娘の体にも影響が出て、隼鷹は杖を突かねば歩けない体になっていた。
もっとも、それがわかるのは彼女の姿を見ることができる提督に限られていた。
降伏が知らされてから数日が経っていた。
上層部とそりが合わずに事実上の退役扱いだった提督は、人材不足を理由に再び軍服に袖を通していた。
隼鷹「提督……この後、どうなるんだろうな」
提督「私にはわからん……ただの軍人だからな。だが、それなりにわかることはある」
視線を港に向けた提督は、少し前の会議の内容を思い出していた。
提督「無事だった船は、復員任務に就くそうだ。鳳翔や北上、雪風……動かせる船はできるだけ動かす」
隼鷹「お艦は結局無事だったか」
提督「空襲の被害も受けなかったのが幸運だったな。無事なドックで外洋航行できるように改装を受けることが決定した」
提督「もっと言えば、呉にいる伊勢、日向、利根なども動かしたかったのだがな。流石に、着底していては難しい」
隼鷹「で、あたしは行けないのか……」
4 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 20:58:32.11 ID:4As/q9du0
提督「すまん」
言葉に詰まった提督は、視線をまた港の方へと向けた。
隼鷹「良いって良いって……あたしの機関は結構手が込み過ぎてるんだし」
隼鷹の機関部は修復のめどが立たず、おそらく復員任務に就けないと推測されていた。
何しろ、資源もなく、整備をする人間もなく、そして時間もなかった。
あっけらかんと言う隼鷹だったが、提督は包帯が巻かれた足にちらりと目が行ってしまった。
それを悟ってか、隼鷹はわざと明るく言った。
隼鷹「提督だって、いろいろ手を尽くしてくれたんだろ?それでもできないなら仕方ない」
隼鷹「今なら、提督と酒も飲めるしぃ」
提督「……そうだな」
昼酒を飲めるほど、提督には余裕はない。降伏したら降伏したで、やることは山ほどあるからだからだ。
だが、息が詰まるような提督を楽にしてくれるのが、この隼鷹だった。
提督「また、来る」
隼鷹「ん、待ってるよ」
ひらひらと手を振る隼鷹に見送られ、提督は石段を下りて行った。
まだ、やることは多いのだと、提督は自分に言い聞かせていた。
だから、この感情はまだ殺すべきだった。
5 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 20:59:37.22 ID:4As/q9du0
隼鷹の視線の先は、遠いマリアナを見ていた。
提督が去ってから、隼鷹は高台に残っていた。
隼鷹「なぁ……飛鷹、戦争が終わっちまったよ」
隼鷹の前身となった橿原丸と出自を同じくする軽空母飛鷹。
彼女は、隼鷹とともに挑んだマリアナ沖の戦いで傷つき、そのまま沈没した。
船体の不燃化及び鎮火能力が高められていたのだが、燃料タンクへの被弾はそのキャパシティを超えていたのだった。
あの戦いで、隼鷹も飛鷹と同じ被害を受けていてもおかしくはなかった。
隼鷹「戦争終わったら、今度こそ太平洋を股にかけることができるって、そう話していたのになぁ」
答える相手は、もういない。マリアナの水底で静かに眠っているだろう。
紙一重で彼女が沈み、自分は生き残った。
それを分けたのは運なのだろうか。
隼鷹「提督は幸運だっていうけど、こうして一人残されるのは幸運とは呼ばねえだろ……」
なあ、と呼びかければ、いつもなら神経質な声が帰ってきたものだが、もう聞こえない。
隼鷹「……帰るか」
隼鷹の手が、松葉杖をつかんだ。
足音に交じる松葉杖の乾いた音が、虚しかった。
6 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 21:00:57.39 ID:4As/q9du0
次に提督が隼鷹の元を訪れたとき、既に季節は巡って晩秋に差し掛かっていた。
冬の気配は徐々に強まり、夜ともなれば肌寒さが身に染みる。思わず身震いしながらも、提督は埠頭を袋を下げて歩いていた。
打ち寄せる波が静かなためか、足を投げ出すようにして、隼鷹は埠頭の先に腰かけている。
提督は、少しためらいを感じ、しかしいつものように彼女を呼んだ。
提督「隼鷹」
隼鷹「お、待ってたよ。提督」
相変わらず、隼鷹の傍らには松葉杖があった。
それを一度だけちらりと見た提督は、隣へと腰を下ろした。
そして、持参した袋から大きめの瓶を取り出した。
隼鷹「提督、それって……」
提督「秘蔵の大吟醸だ……屋敷の地下で見つけたんだ。多分、祖父のだろう」
隼鷹「提督の爺さんの?」
提督「ああ……間違いなくな。何かと隠し事の多い祖父だったが、まさかこんな一品まで隠しているとは」
提督「私が提督に昇格した時だって、こんな上等なのは飲んだことがなかった。あの狸ジジイめ、独占する気だったな」
用意していた猪口の一つを隼鷹の手に押し付けると、提督はそれに静かに酒を注いでいく。
芳醇な香りが潮の香りを塗り替えて鼻孔を刺激し、思わず隼鷹の口もほころんだ。
元来、酒に目がないのが隼鷹だ。それは提督も同じだ。親しくなったきっかけは、酒が要因だった。
食指が動かないはずがなかった。
7 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 21:02:06.17 ID:4As/q9du0
提督「駆けつけ三杯とはいうが、一気に飲むのももったいないな」
隼鷹「そうか?」
提督「普通の椀ならたった一杯で安酒が一瓶買えるくらいはするぞ?」
隼鷹「マジかよ……そんな高い酒なら、それに合うつまみが欲しいねぇ」
提督「そんな贅沢はできないな。月を肴に、と洒落こんでみろ」
隼鷹「あたしはそこまでできないなぁ」
ケラケラと隼鷹は笑う。笑って、猪口を呷った。
実際、晴れた夜空には程よい雲と見事な満月が浮かんでいる。
暫くは、二人の間で酒が酌み交わされた。
その沈黙を守って、不意に隼鷹が提督を呼んだ。
隼鷹「復員任務、始まったんだって?」
提督「一部ではな。何しろ、あまりにも広い地域に人が散らばっているからな」
隼鷹「そっか……それでさ、提督」
隼鷹は、猪口を手にしたまま静かに提督に問う。
8 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 21:03:16.67 ID:4As/q9du0
隼鷹「あたしへの沙汰、決まったんだろ?」
提督「……」
9 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 21:03:44.29 ID:4As/q9du0
無言のまま猪口が置かれ、提督の手は軍服の内側へと向かう。
取り出された書簡を開け、提督は中身を読み上げた。
提督「元日本帝国海軍第二航空戦隊所属 隼鷹。その任を遂行する能力なく、既にその任の大義なく、これを明朝午前零時を以て解任し……」
10 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 21:04:38.64 ID:4As/q9du0
提督「……解体処分とする」
非情な宣告が、提督の口から絞り出された。
11 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 21:05:43.92 ID:4As/q9du0
くしゃりと、提督の手に合った書類が形を失う。
隼鷹「そっか……」
空になった猪口に、隼鷹は酒を注ぎながら、ただ呟いた。
隼鷹「ま、覚悟はしていたんだけどねぇ……なんだよ提督、そんな顔して」
提督「すまないな……お前を元の商船に戻したかった……」
隼鷹「謝るなって……て、酒がこぼれてるぞ、勿体ない」
慌てて、隼鷹が提督の手を支え、瓶を手に取って継ぎ足した。
隼鷹「あたしに責任感じてんの?」
提督「いや……そうではなくだな」
中身が継ぎ足された猪口をぐっと空けた提督は、言葉を探した。
だが、言いたい言葉はあまりにも多く、それを言い表せるものではなかった。
隼鷹「あのさ、提督。そんな責任取ろうなんて考えないでくれよ」
提督「だが……!」
隼鷹「あたしのことも考えてくれよ……動けなくても、戦えなくても、あたしは軍艦なんだ」
隼鷹「もう太平洋の夢は諦めてる。それなら、軍艦として、もう終わらせてくれよ」
隼鷹の懇願する声に、提督は殴られたような衝撃と、隼鷹の悲哀を感じた。
サンフランシスコ-横浜間の北米航路を駆ける、豪華客船となるはずだった隼鷹と飛鷹。
しかし、戦争の開始によって彼女らはその夢をあきらめた。途絶えた夢に対して、思うところは当然あったのだろう。
12 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 21:06:48.21 ID:4As/q9du0
提督「……」
隼鷹「あたしだって、一応は未練はある。けど、軍に身を置いて戦ったのは覚悟と希望があったからだよ」
提督「覚悟と、希望?」
隼鷹「ああ……」
隼鷹「いつか戦いが終わった時には、また改装を受けて、本当の自分の役を果たせると信じていたのさ」
隼鷹「まぁ……それは叶わなかったし、一緒にいるはずの飛鷹も沈んじまったけどさ……」
口を湿らせるようにして、隼鷹は酒をもう一度呷る。
提督「なら……もう、いいのか?」
絞り出すような提督の言葉。
隼鷹「十分さ」
それに、隼鷹は静かにうなずいた。
隼鷹「所詮は夢……見るだけでも儲けもんだよ」
悲しげな隼鷹の言葉に、提督は今度こそ言葉を失った。
隼鷹「人の夢と書いて儚い……船だけどさ、それを実感できた」
13 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 21:08:35.36 ID:4As/q9du0
冷たい風が、二人の間を走った。
思わず身震いした提督は猪口の中を一気に飲み干した。酒が、熱燗ではないが体を温めてくれた。
その傍らで隼鷹は、言葉をポツリと漏らした。
隼鷹「みんな、あたしを置いて逝っちまった……」
提督「そうだな……」
生き残った空母は、いや、まともに運用できる軍艦自体が少なかった。
作戦行動が可能な、駆逐艦を除いた水上機はおよそ40隻ほどで、潜水艦が60隻ほど。
戦前・戦時中に建造された総数がおよそ650隻だったことを考えれば、おおよそ6隻に1隻しか残っていない。
当てはめるのはやや乱暴だが、軍事定義上の全滅をはるかに超えていた。
隼鷹「戦争が終わってみるとさ、どいつもこいつも、戦いの中で死に急いでいるみたいだったな」
隼鷹「あたしら艦艇も、提督達軍人もな」
提督「死に急いだわけじゃない……生きようとして、結果的に死んでしまっただけだ」
提督「傍から見れば、滑稽かもしれないがな」
隼鷹「滑稽なはずはないぜ」
提督「そうか」
14 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 21:09:42.20 ID:4As/q9du0
暫く黙々と二人は酒を飲んだ。
徐々に酒瓶の中身は空に近づいていた。
酒には強い隼鷹と提督も、さすがに頬に赤みが差し、少し思考が定まらなかった。
隼鷹「……っと、もう無くなったな。互いに最後の一杯になっちまった」
提督「ああ……」
提督は猪口を目線の高さまで持ち上げた。
そこには酒に反射して、満月の付きが揺らいでいた。
提督「酒に酔ったのか、それとも月に酔っているのか……わからんな」
隼鷹「提督、自分で言ってて恥ずかしくないか?」
提督「そうか?思ったままを言っているだけだ」
隼鷹「意外とそんなとこもあるだと感心してんだっての」
そうか、とつぶやいた声は漣の音に消えた。
提督「なあ、隼鷹」
そして、提督は目を細めて口を開いた。
15 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 21:10:09.80 ID:4As/q9du0
提督「杯の酒に映る月も、綺麗なものだな」
16 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 21:10:36.30 ID:4As/q9du0
隼鷹は、おちゃらけた何時もの表情を失った。
代わりに浮かんだのは、儚げな乙女の、太平洋を夢見た少女の顔だった。
すぐにそれは消え去る。わずかに口角が上がって、隼鷹はいつもの調子と表情で言い返した。
17 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 21:11:06.77 ID:4As/q9du0
隼鷹「ははっ、このまま死んでも悔いがないよ、提督」
21 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 21:57:59.86 ID:4As/q9du0
最後の一杯を二人は同時に飲み干した。示し合わせたわけではないが、なんとなくそうなった。
暫く、二人は掛け合いの余韻に浸る。
先程の言葉が、まだ酒の酔いと共に体を回っている気がした。
体を走る熱は、酒とは関係ないだろう。
提督「有難う、隼鷹」
隼鷹「あたしにいきなり何言わせてんだ……全く……」
提督「その答えだけで、もう十分な気がした」
提督がよろりと立ち上がると、隼鷹の手を取って立ち上がらせた。
隼鷹は松葉杖を突き、提督は酒瓶の入った袋を背負った。
提督「……これから、隼鷹の船体に戻るのは大変じゃないか?」
隼鷹「そうだなぁ……ちょっと酔ってるし、海に落っこちたら洒落にならないな」
提督「少し歩くが、私の家ならば空いているが。どうだ?」
提督の言葉に、少し沈黙を挟んだ隼鷹は、やがて上品な笑みを浮かべ、答えた。
隼鷹「この私でよろしければ、お相手いたしましょう」
怪我を抱え、軍服じみた格好をしながらも、優雅に誘いを受ける様は、太平洋の華となりえた艦娘に相応しいものだった。
連れ立った二人は、ゆっくりと足を海からそむけた。
海には、未練が無くなっていた。
22 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 21:59:19.64 ID:4As/q9du0
提督「いいのか、隼鷹」
隼鷹「はい……私の願いでもあります」
提督「そうか、ありがとう」
隼鷹「ん……ちゅ……」
提督の自宅で、男と女の一夜は静かに始まる。
熱情と、愛情と、独占欲が、二人の体を突き動かした。
月だけがそれをやさしく見守っていた。
23 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 22:00:55.68 ID:4As/q9du0
そして、1947年(昭和22年)8月1日、日本帝国海軍空母 隼鷹の解体が完了した。
24 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 22:04:52.65 ID:4As/q9du0
隼鷹の解体が終了してから、すでに四半世紀近くが経過していた。
戦火によって焼け野原となった日本は、再びかつての隆盛を取り戻さんとしていた。
文字通り、ほとんどを失った状態から、たくましく人々は立ち上がっていた。
提督「その足場になったんだな、隼鷹」
自宅の自室で、提督は既にいなくなった隼鷹へと思いをはせていた。
提督「伊勢、日向、榛名、利根、北上、葛城、鳳翔……たくさんの船が、お前を追いかけて逝ってしまった」
解体された資材が、具体的にどのように使われたかを知るすべは、退役した身となっては持っていなかった。
分かるのは、めざましい復興と発展を遂げている陰に、文字通り彼女たちの遺産が役立てられていることだ。
風に聞いた噂で、あの大戦艦長門がアメリカの標的艦となったことを知った。
原爆を二発も受けて、しかも二度目は沈みやすいように細工をしてもなお、長門は浮かんでいたという。
他の標的艦が悉く沈んだことから、その異常性は日本側にも伝わってきていた。
提督(ビックセブンの名は、伊達や酔狂ではなかったのか……)
また、いくつかの艦艇が戦後賠償のために海外へと引き渡されたとも聞いた。
それぞれの船の艦娘達もまた、故国日本に別れを告げて、新しい道を歩み始めていた。
提督(彼女たちは、何を思って行ったんだろうか……)
窓の外の世界は、遠い異国とつながっている。だが、あまりにも距離があった。
25 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 22:07:21.13 ID:4As/q9du0
既に、25年。
解体された海軍の尻拭いと言えば良いのか、提督は平和主義・民主主義を掲げる日本政府の命令を受けて活動してきた。
その中で、多くの艦娘達が海軍将兵たちと戦いへ挑んだ遺産や記録を目にすることとなった。
6隻に1隻しか、艦として生き残らなかった、あの大戦。
信じていた正義が覆され、多くの軍人が涙を流したと、身をもって理解していた。
提督(……無駄な戦いではなかったと、思いたいな)
おそらく、自分が生きているうちに日本帝国は他国との間で砲火を交えることはない。
そのように連合国は日本をつくりかえたのだから。
この体は既に痩せ衰えた老体だ。もはや提督として働くことはない。
ならば、出来る事は彼女たちと日本帝国海軍の戦いを語り継ぐことだけだった。
提督(いかん……眠くなってきたな……)
既に、夜だった。
何時かと同じ、満月が浮かんでいた。
提督「お前がいないと、少し残念だなぁ」
提督は、自室の壁際に置かれた木製の冷蔵庫へと歩み寄った。氷を注ぎ足して使うそれは、祖父の遺産だ。
なんと手作りしたものだ。変わり者の祖父ながら、よくぞこんなものを作ったと思う。
提督「敢えて、冷酒を飲むのがたまらん」
そこから、ゆっくりと酒瓶を一つ取り出す。
提督「あの時より、時代は良くなっているぞ隼鷹……」
隣にある戸棚から、大切に保管している猪口を取り出す。
数は二つ。出来るならば、あの佐世保の埠頭にまで行きたいが、それができるほど若くはない。
二つのそれに静かに注ぐと、一つを手に取った。
一人酌だ。
だから、会話などなかった。
もう一つの猪口も、中身がけっして減ることはないだろう。
提督「ああ……月だけは、あの時と変わらんな」
今ある平穏を、敗戦で勝ちえたのなら、それも悪くないと思っていた。
戦時中は勝利を目指していたのがひどく懐かしい。負けてこそ、得るものがあったのだから、不思議なものだ。
26 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 22:12:04.44 ID:4As/q9du0
提督「……と、これはいかんな」
おかわりを注ぐために瓶を持ち上げようとして、腕が痺れていることに気が付いた。
昔なら俊敏に動き頑強だった肉体も、今となっては年相応となっていた。
いや、戦時中よりも改善した環境でも維持ができなかったのは、自分の意志が弱くなったからだろうと知っていた。
情けないことに、酒を自力でそそげないほど疲労しているようだった、
提督(これでも健康なつもりだったが……張り合いがないせいかねぇ)
独り身を貫いたのだが、やがて見合い婚をした。
だが、結婚した妻は自分の想い人に薄々感づいているようだった。
こちらは初めての結婚だが、相手は子連れの未亡人だった。
それでも何も言わないほど出来た女だったのが悔やまれた。
文句の一つでも、言われておかしくなかったというのに。
だからこそ、結婚生活というものが特に変化を生んだわけではなかったのだ。
27 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 22:15:09.18 ID:4As/q9du0
あれだけの女が自分に惚れたわけが、よくわからない。
自分が一方的に迷惑をかけたようなものだというのに。
提督「なんでだろうなあ……ん?」
その時、提督は隣に気配を感じた。
提督(なんだ……そこにいたのか)
彼女が、そこに変わらぬ笑みを浮かべて寄り添っていた。
あの時と変わらぬ、白磁のような肌を持つ腕が伸びて、そっと瓶を持ち上げた。
提督「まだ出てくるの早いだろう……お前」
珍しく、悪態をついてしまった。
彼女がいなくなってからは、言い合う仲もいなくなったためか、他の人よりも物静かだと思われていた。
しかし、その悪態に笑みで返した彼女が瓶の注ぎ口をこちらに向けた。
提督「ふっ……あの時と同じ月見酒か」
口元へ、淵まで入った猪口を運んでいきながらつぶやいた。
提督「杯に映らなくても、綺麗な月だな……隼鷹」
わずかに残っていた酒が喉へと吸い込まる。
その猪口は静かに机の上へと置かれ、二度と持ち上がることはなかった。
その日の日付は奇しくも1972年(昭和47年)8月1日。
彼女に遅れながらも、提督は同じ日に静かにこの世を去った。
平均寿命が延び始めていた日本においては、いささか早い老衰だった。
28 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 22:16:17.88 ID:4As/q9du0
もう一つの猪口がいつの間にか空になっていたことに気が付いたのは、誰一人としていなかった。
32 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 22:30:00.86 ID:4As/q9du0
混濁し、徐々に薄れゆく提督の意識は、不意に過去へと回帰した。
それは走馬灯のようなもの。
あるいは、無意識に思い出していた記憶だった。
最期の瞬間に、最高の時が再生された。
33 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 22:31:15.73 ID:4As/q9du0
提督「なあ、隼鷹」
隼鷹「ん?」
丑三つ時。草木が眠りについたころ、隼鷹と提督は窓から降り注ぐ月明かりの下で同じベットに横たわっていた。
同じシーツで、互いが体をわずかしか隠していなかったが、気になるほどではない。
今更、気にするような仲ではないのだ。
提督「いや、橿原丸か?もう、零時を過ぎているし、隼鷹の名前は返上したことになるか?」
隼鷹「どっちでもいいんじゃね?」
あっけらかんという隼鷹に、提督は少し眉を顰める。
提督「……少しは慎ましくしゃべらないのか?もう『隼鷹』じゃないんだ」
隼鷹「いや、一度体に染みつくとなかなか抜けないっていうかさ……そんなもんだ」
提督「そうか」
洋風の寝室で、隼鷹はシーツで体を隠しながら視線を逸らしていた。
乱れたベットの上には独特の匂いがこびりつくようにして残っており、二人とも体には倦怠を感じていた。
だが、それが先ほどまでの至福の時が夢でないことの証であった。
34 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 22:34:12.63 ID:4As/q9du0
提督「……それより、足は大丈夫か?何か障りがあったら大変だ」
隼鷹「解体待ちの艦娘に言うセリフじゃないっての……一応大丈夫さ」
艦娘の体が船体の影響を受けるのと同様に、船体もまた艦娘から影響を受ける。それを心配したのだ。
だが、流石に不謹慎だったなと、提督は反省した。
提督「すまん、気が回らなかった」
隼鷹「良いって、良いって……」
隼鷹の言葉に提督は謝ると、手を伸ばした提督は、テーブルから水の入ったグラスをとる。
二人きりの夜戦に入る前に氷を入れていたものだが、すでに溶けて温くなっていた。
だが、水分を体が欲しているため、提督にはそれで十分だった。
喉に落ちる水に体のほてりがわずかに冷めていく。
そして、提督は口の中に水を含むと隼鷹を呼んだ。
提督「隼鷹」
隼鷹「ん?……んむぅ!?」
隼鷹の顔がこちらを向いた瞬間に、提督は一瞬で唇を重ね、水を舌と共に隼鷹の中へと滑り込ませた。
隼鷹「んぅっ……ちゅ……あ……て、ていふぉ、く……」
この不意打ちに隼鷹は抗えず、しばらくなすがままに口の中を蹂躙される。
やがて提督が満足すると、静かに唇は離れ、銀の橋が二人の間に架かった。
提督「まだ、飲むか?」
隼鷹「……い、いきなり何をすると思ったらぁ……」
顔を赤くし抗議する隼鷹に、提督は素知らぬ顔でコップを差し出した。
それをしばらく見つめて考えた隼鷹は、大人しくそれを受け取って嚥下した。
隼鷹「あれだな、コップで間接的に接吻してるって考えると、少し変な気分だなぁ」
提督「接吻……育ちが言い方に出るな」
隼鷹「これでもお嬢様だぜ?箱入りの」
提督「その口調はお嬢様らしくないな」
隼鷹「へいへい」
35 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 22:36:16.31 ID:4As/q9du0
ところで、と提督はコップをテーブルに戻して居住まいを正した。
隼鷹に尋ねたいことがあった。
提督「輪廻思想って、知っているか?」
隼鷹「あー、人並みには知っているけど?死んだら別な世界に生まれて、何度も何度も生まれ変わっていくやつでしょ?」
提督「ああ。その輪から抜け出せずに人間は苦しみ続けるという仏教の思想だ」
提督「隼鷹が、命を全うして眠ったらどうなるかと、少し考えていた」
隼鷹「提督……」
艦娘は、艦艇に宿った魂であり、艦艇そのものだ。体は鋼鉄の塊であろうとも、その魂は人のものだ。
同時に体である船体が無くなれば、それは艦娘にとっての死ではないかと考えていた。
提督「死んだ後の世界なんて、誰もわからない。だが、隼鷹のことだから少し気になってしまった」
36 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 22:38:36.44 ID:4As/q9du0
暫く提督の言葉を黙って聞いていた隼鷹だが、やがて不意に反応した。
隼鷹「……っぷ、アハハハハ!」
提督「な、なんだ!」
思わず声を上げた提督に構わず、隼鷹は笑う。
隼鷹「アハハハッ!さっきまでずっと考えていたのか?ヤってる最中も?」
提督「そ、それが悪いか!?これでも私は真剣にだな」
図星を疲れた提督の頬に赤みがさす。
隼鷹「あたしを機関部をぶっ壊すような勢いで襲ってきたのに、そんなこと考えていたのかよ……プハハハ……」
提督「お、おい」
流石に声を荒げた提督だが、隼鷹の声に遮られた。
隼鷹「わかってるって。あたしと提督の仲だ、提督の考えた意味くらい分かるって」
弾んだ息を整えながらも、隼鷹は提督を制する。ふざけていないのは口調ではっきりわかる。
隼鷹「あれだろ?提督もあたしも死んだとしても、生まれ変わって遭えるんじゃないかって考えてるわけだろ?」
提督「ま、まあ、そうなるな」
提督「おかしいと思うなら、別にかまわんが……少なくとも、私はそう願ってる」
隼鷹「うれしいこと言ってくれるじゃん。さっすがあたしが惚れ込んだ提督だよ」
提督「むぅ……」
からかったかと思えば、いきなり褒めてきた態度に少し困惑する。
そんな提督との距離を詰めた隼鷹は、表情を改め、じっと目を覗き込んだ。
提督は心を見透かされそうな視線に思わずたじろいだが、隼鷹は有無を言わせぬ口調で迫る。
隼鷹「いいか、提督」
提督「う、うむ」
隼鷹「確かに、提督の考えも間違いじゃない。あたしら艦娘の元となる魂は、多分だが船として一生を全うすれば輪廻の輪に乗る」
隼鷹「だけど、あたしらは提督と違う。人が生み出した、限りなく人に近い魂だ」
提督「付喪神のようなもの、ということか?」
隼鷹「ああ、そういうこった。モノが祀られるうちに神や人になるっつう神道の考えにもよるあたしの解釈だ」
隼鷹「でもな、そんな出自の違う魂同士が同じような輪廻をめぐるかといえば、多分そうじゃない」
少ないが確かな希望を知り、浮かれかけた提督に隼鷹は釘を刺す。
38 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 22:39:49.68 ID:4As/q9du0
隼鷹「あたしの言いたいこと、分かるだろ?」
提督「次に生まれ変わって逢う可能性はあるが、保証はないと、そういうことか」
隼鷹「そう。勝手な予想だが、あたしは『隼鷹』か『橿原丸』にしか生まれ変わることはない」
隼鷹「生まれが生まれだから、おいそれと人様に生まれることはない。魂と肉体が、反発するだろうな」
そうか、と提督は深く頷いた。少なからず、提督が予想していたことだった。
生物というくくりの中で、自分は輪廻をめぐる。だが一方で、隼鷹は艦艇というくくりの中で輪廻をめぐる。
その二つが重なり合うのは、どれほど先になるのだろうか?
だとするなら、と提督は腹をくくった。
いや、いつからか覚悟を決めていたのを、今ようやく認識したのだ。
隼鷹の死が近づいた、今頃になって。
40 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 22:42:27.43 ID:4As/q9du0
提督「なら隼鷹」
隼鷹「ん?」
提督「私は、隼鷹と再会できるまで、その時まで、生まれ変わるたびに船乗りか提督になろう」
提督「どれほど先になるか、どういう形になるかはわからん」
提督「だが、いずれ逢えると信じて、私は生きよう」
42 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 22:45:23.12 ID:4As/q9du0
隼鷹は提督の言葉に呆気をとられたかのように、固まってしまった。
壁に掛けられた古い時計の秒針が一周はしてから、漸く隼鷹は復活した。
見る見るうちに隼鷹の顔が赤く染まり、ついでに体もボイラーが動いたかのように熱を発した。
提督「じゅ、隼鷹?」
隼鷹「あ、あ、あの……あの……提督?」
提督「うん?」
隼鷹「埠頭でお酒を酌み交わしながら、漱石の訳のような告白をされて、喜んで受けましたが……」
隼鷹は混乱してか、何時もの砕けた口調ではなく、上品な言葉づかいへと戻っていた。
たどたどしく言葉を選ぶ様子に新鮮さを感じながら、提督は隼鷹の言葉を待った。
隼鷹「ええっと……さすがにいきなりそんなことを言われますと、流石に恥ずかしいというかうれしいというか……」
隼鷹「あー……もう!なんと言えば良いのでしょう……!」
手で顔を覆い隠した隼鷹は、そのまま提督の胸へと縋り付くようにして身を沈めた。
それを両腕で自然と抱き寄せながらも、提督は隼鷹の答えを待った。
暫くして、隼鷹は提督の名を呼んだ。
隼鷹「提督、離してくださいます?」
身を離し、隼鷹はややあってから、まっすぐに提督を見つめた。
その顔には、何か付き物が堕ちたような清々しさがあった。
迷いが、消えたのだろうか。
43 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 22:48:00.28 ID:4As/q9du0
隼鷹「提督のお覚悟、この胸に刻みました」
身を起こし、隼鷹はベットの上で正座をした。
正対するように、提督も慌てて身を起こした。
隼鷹「それに応えて、この私も覚悟をきめました」
隼鷹「いつしか……輪廻の巡りあうその時まで、この隼鷹、提督をお待ち申し上げます」
提督「……隼鷹」
そのまま、三つ指をついた隼鷹は静かに頭を下げる。
提督「こちらこそ、だな。隼鷹」
隼鷹「フフッ……橿原丸でも構いませんのよ?」
提督「なんだか、くすぐったいなその口調は」
身を起こした隼鷹は、まるで別人のようだった。
同じ艦娘であるはずなのに、纏っている空気、表情、笑い方。その全てが違っている。
月下で見る幻覚とは思えない。
それが表情に出たかのか、隼鷹は口角を釣り上げ、目を細めた。
隼鷹「女は、生まれながらに女優の才を持つのですよ。特に、好きな殿方に対しては、ね?」
嫣然と微笑んだ隼鷹は、そのまま提督の体を抱きしめ、耳元で囁く。
思わず、提督の体が興奮に震えた。
隼鷹「まだ月夜も序の口です……楽しみませんと」
提督「お言葉に、甘えよう」
そのまま、隼鷹は提督の体に押し倒された。
別れの時まで、少しでも互いに互いを刻み込むために。
夜の宴は、始まったばかりだ。
45 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 22:54:08.30 ID:4As/q9du0
突如として現れた深海棲艦と呼ばれる艦隊と人類が争うようになって数年。
日本帝国海軍の鎮守府の一つであった佐世保鎮守府にも多くの提督が集い、日夜艦娘達を率いて戦いに身を投じていた。
戦局は一進一退を繰り返しており、戦力の拡充が日々進んでいた。
よく晴れた、とある日のことだ。
鎮守府の一角の執務室の電話が、けたたましい音を立てた。それをとった人物が、一言二言言葉を交わして頷いた。
???「Hey.提督ぅ?連絡が来たネー」
提督「む……金剛か?」
金剛「寝てたみたいネー。What's happen?」
秘書艦である金剛の声に、執務机で居眠りをしていた提督はびくりと身を震わせ、瞬きを繰り返した。
久しぶりに、あの夢を見た気がした。
提督「いや……少し昔をな」
だが、言えるはずもない。かつて、帝国海軍の一人として生きた時を思い出したなど。
未練がましくも、一人の女性を追いかけていることなど。
金剛「実は、工廠から連絡が来たのヨー」
金剛が、何事かを提督に伝えた。
すると、手にした紅茶をうっちゃり、部屋の主は扉を蹴破らんばかりの勢いで部屋を飛び出していた。
紅茶を入れた金剛の抗議の声も無視し、その足は工廠へと向いていた。
提督「……!」
弾む息と、胸を打つ鼓動。
抑えようとしても、抑えきれない高揚が体を走り抜けた。
広い鎮守府の敷地を突っ切り、まったく勢いを落とすことなく走る。
建造ドッグに入ると、提督の姿に妖精さんたちが驚きの声をあげ、連鎖的に何かがひっくり返る音がした。
だが、それに振り替えることすらしない。
46 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 22:54:53.87 ID:4As/q9du0
提督「あっちか」
ドック内に船体が完成したことを知らせる鐘が鳴り、作業を終えた妖精さんたちがわっと船体から降りてきた。
見覚えのある船体。
アメリカのそれを参考に作られた傾斜煙突。
飛龍型を凌駕する24000トンの船体。
広い飛行甲板。
提督「あ……」
そして、視線の先、見覚えのある衣装を身にまとった艦娘が佇んでいた。
特徴的な頭髪、胸元の勾玉のような飾り。
あの時、再会を誓い合った瞳が、こちらを捉えた。
提督「あぁ……」
万感の思いが、息となって漏れた。
それが届いたのか、艦娘が笑みを浮かべて、言葉を紡いだ。
47 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 22:55:28.10 ID:4As/q9du0
「お待ちしていました、提督」
48 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 22:56:51.34 ID:4As/q9du0
艦娘は優雅な仕草で一礼した。
提督は言葉を少し躊躇したが、すぐに表情を引き締めて、しかしあふれる想いを込めて尋ねた。
提督「君のことを、どう呼んだらいいだろうか」
「お好きなように……私には二つも名前はございますが、どちらで構いません」
提督「なら……好きなように呼ばせてもらう」
「はい……では、着任のご挨拶をいたしましょうか」
互いに身だしなみを整え、提督と艦娘は向かい合った。
49 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 22:59:37.40 ID:4As/q9du0
提督(あれから、どれほどかかっただろう)
(もう、覚えていない……いえ、思い出せない)
幾度、会えないことに涙を流し、苦しんだかはわからない。
提督(でも、構わない)
(貴方に、こうしてまた出逢えたのだから……)
50 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 23:00:19.07 ID:4As/q9du0
提督「また、戦いの中で出逢えたな」
隼鷹「そういう運命と、覚悟しておりました」
そうか、と提督は頷いた。
彼女がすでに覚悟を固めていることに提督も喜びを抑えきれなくもあり、悲しくもある。
だが、再会の喜びに勝るものは無い。
提督「今度も、戦いの終わりを二人で迎えよう」
隼鷹「はい、今度は敗北などしません。他の艦娘の犠牲など、出したくありません」
隼鷹は力強く提督の言葉を肯定した。
提督「ああ、勝とう。そして、平和をつかみ取ろう」
隼鷹「はい」
51 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 23:01:14.23 ID:4As/q9du0
提督「そしていつかは」
隼鷹「夢見た航路を二人で」
FIN
53 名前: ◆1aois5N.L2[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 23:06:15.97 ID:4As/q9du0
投下終了。
今回は自分が満足できるものが書きあげられたと思う。
あとは小ネタが書きあがり次第投下する予定。あ、あくまで予定だなんだからね!?
次は飛鷹を主人公にして書いてみるかなぁ……
支援と読了してくれた全ての人に感謝を。
最後に、空母 隼鷹と幻の豪華客船 橿原丸にこの作品を捧げる。