1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 20:42:45.27 ID:YZ0VpcoP0
スネ夫「ひっ」ビクッ
のび太「はぁっ、痛いっ、痛いよぉ!痛いよぉ!」
ジャイアン「なんだよ、いつもみたいにバットで腕をやっただけだろ?」
のび太「救急車ぁぁぁ! 頼むジャイアン、スネ夫ぉ!」
スネ夫「…ねぇ、ジャイアン…」
スネ夫「これ、本気でヤバイんじゃない……?」
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 20:45:34.13 ID:YZ0VpcoP0
ジャイアン「……は、はぁ?」
スネ夫の一言で、一気に背筋が冷める。
いやいやいやいやいや。
スネ夫「いや、明らかに普通じゃないでしょこれ! やばい、やばいよ! 絶対腕折れてる!」
のび太「だっ、だから言ってるだろ? はやく、救急車ぁ!!」
……嘘だろ?
おいおいおいおいおいおい。
スネ夫「…救急車、呼んでくるから!」ダッ
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 20:48:50.34 ID:YZ0VpcoP0
それから15分ぐらいだろうか、救急車がやって来た。
俺は、それをボーッと見つめていた。
赤い光。
鳴り響くサイレン。
集まる野次馬ども。
大声を上げなから運ばれて行くのび太。
事の重大さにあらためて戦慄する。何も考えられない。
俺がやったのか、これ。
そんなつもりじゃなかった。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 20:53:22.77 ID:YZ0VpcoP0
それから俺とスネ夫は署へ向かった。
それから事情聴取を終えて、カーチャンが迎えに来て。
とりあえずは家に帰ることになった。
カーチャンと家路に着くまでの間のことは何も覚えてない。
ただ、のび太の痛みに歪む顔が、何度も何度も頭に浮かんでいた。
カーチャンとの会話で、ハッと現実に返る。
ジャイアン母「あんた、やっちまったね」
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 20:56:48.28 ID:YZ0VpcoP0
ジャイアン「…うん…」
ジャイアン母「あんたさぁ、こんなクソ汚いことしてたんだね。楽しかった?」
ジャイアン「…うん…」
ジャイアン母「……うんじゃないだろう?」
ジャイアン「…ごめんなさい」
ジャイアン母「…あーっイライラする! 今すぐあんたを立てなくなるまでボコボコにしたいけどねぇ」
ジャイアン母「あんたはこれからやらなくちゃいけないこと、たくさんある。ボコボコにするのは償ってからにしてやるから、しっかりするんだよ!」
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 21:00:07.95 ID:YZ0VpcoP0
ジャイアン宅
カーチャン。
呆れた顔してたな。当然だ。
息子だから放っておけない。そんな様子で絞り出した優しさが
すごく、つらかった。
自分でもわかんねぇ。なんで途中で気づかなかったのか。なんで途中でやめられなかったのか。
ジャイアン「……くそ……」
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 21:06:14.87 ID:YZ0VpcoP0
あー。
病院に行って、のび太に謝って。のび太の家族に謝って。ドラえもんに謝って。
そんぐらいか?
わかんねぇ、わかんねぇよ。
どうやったら、あののび太の顔を忘れられる?
……。
申し訳ないという気持ちより、はやくこのモヤモヤを取ることだけを考えている。
それは、とっても汚いことだと分かっているけど。
ジャイアン「あーあ。やっちまった」
後悔……その思いだけが、俺の頭を埋め尽くしていた。
82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 21:10:29.59 ID:YZ0VpcoP0
翌日
ジャイアン「ん……」ムクッ
最悪の目覚め。
しかし、外は爽やかな晴れだ。
その天気は、俺に昨日のことを夢だと思わせた。
何も、無かったんじゃねーか?
寝ぼけているからか、一瞬ではあるが馬鹿な考えを信じかける。
しかし、その希望は、カーチャンの一言でかき消された。
ドンドン
ジャイアン母「おーい。起きてるかい、クソ息子」
95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 21:13:29.62 ID:YZ0VpcoP0
ジャイアン「ひぃっ」
ガラッ
ジャイアン母「……あんた……今起きたのかい?」
ジャイアン母「ったく……ひぃっじゃないだろう!!!! 飯食ったら病院行くよ!!」
ジャイアン母「わかったね!?」
ジャイアン「わ、わかったよ、カーチャン……」
ガラガラ……ピシャ
ジャイアン「……夢じゃない、のか」
ジャイアン「やってらんねぇ……」
114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 21:18:56.63 ID:YZ0VpcoP0
三時間後、のび太の病室前
あぁ…来ちまった。
昨日から一つ一つの出来事が俺の心をどんどんえぐる。
お前はやっちまったんだよ。
取り返しつかねぇぞ。
のび太とどの面下げて会う?
許してもらえるか?
ジャイアン「……っ」
ジャイアン母「んじゃ、いくよ?」
ジャイアン「…うん…」
コンコン
130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 21:24:40.98 ID:YZ0VpcoP0
ジャイアン母「剛田ですが、入ってもよろしいでしょうか?」
「うわっ、来たみたいだ」
「……ドラちゃんは、のびちゃんをお願い。私が出るわ。はーい、今出ますね」
ジャイアン「……っ!」
いや、馬鹿だろ俺。
そうだよ、いるに決まってるよな、のび太のカーチャンぐらい。
ドラえもんだって、いるに決まってる。
なんで覚悟してなかったんだよ。
のび太より会いたくねぇよ……。
ガラッ
たまこ「はい、野比です」
ジャイアン「……っ」
159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 21:30:10.14 ID:YZ0VpcoP0
目が合った。即座にその姿が目に焼きつく。
目の下に、はっきりとクマが出来ている。
のび太のことが心配で……そして、なにより。
俺への怒りで寝れなかったのだろう。
俺に向けられたはっきりとした悪意に、俺は震えた。
ジャイアン母「……このたびはっ、クソ息子がご迷惑をおかk」
たまこ「何の用でしょうか」
ジャイアン母「……謝罪に来ました! ほら、武、あんたm」
たまこ「お帰りください」
187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 21:34:29.77 ID:YZ0VpcoP0
ジャイアン母「え、あ……」
やばい、やばい。
その圧倒的な悪意に突き動かされるように、俺は大声を上げていた。
ジャイアン「……すんませんでしたぁ! すんませんでしたぁぁ! 腕を折るなんてまさか思ってなくて…軽い気持ちでぇ! 大丈夫だろって思ってて! 本当に、本当に……!」
たまこ「いいんですよ、別に」
ジャイアン「いや、本当に謝りたくてっ……!」
たまこ「治らない怪我でもありません。心配ないですから、お引き取りください」
208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 21:39:19.53 ID:YZ0VpcoP0
……怒って、ない……のか……?
たまこ「安心してください。今回のことで、君達二人が生きる価値のない人だって確認できたから。これからは、絶対にのび太に近づけないようにしようって思ういいキッカケになったから」
たまこ「怪我のことは心配ありません。お引き取りくださ…」
すっげー怖かった。
でも、ここで引いたらやばい気がして、食らいついた。
ジャイアン「……本当にすみません、でしたぁぁぁ!!!!!」
たまこ「…武君、ちょっといい?」
220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 21:42:17.68 ID:YZ0VpcoP0
ジャイアン「は、はい! なんですか!」
パチンッ
ジャイアン「つっ……」
鋭い痛み。
……はたかれたのか、俺。
たまこ「本当、いらないから」
ピシャンッ
242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 21:47:37.52 ID:YZ0VpcoP0
ジャイアン母「……」
ジャイアン「……」
ジャイアン母「まぁ、当然だね。今までの分を考えたらこれでも足りないだろうよ」
ジャイアン「……」
頬をさする。
これより痛い思いはたくさんしてきた。
でも、その痛みは。
今まで味わってきたどの痛みよりも、俺を責めた。
ジャイアン「……ぅうっ……」グスッ
ジャイアン「……いってぇ……! いてぇよ……!」ポロポロ
ジャイアン母「……はんっ。ほら、行くよ。いつまでもここにいたら向こうも迷惑だろうさ」
274 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 21:53:48.92 ID:YZ0VpcoP0
カーチャンと家に向かう。
ジャイアン「うう、ぅぅぅ……ぁぁぁ」ポロポロ
今までの張りつめた緊張、病院で向けられた悪意。
それだけでも、限界に近かった。
そして、悪意を示す分かりやすい一発。
それが、俺を崩壊させた。
涙が、止まらなかった。
301 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 22:00:01.52 ID:YZ0VpcoP0
すると。
ジャイアン母「ん……あれ、しずかちゃんじゃないかい?」
ジャイアン「え……?」ゴシゴシ
本当だ。向こうから歩いてきたのは、しずかちゃんだった。
小さい花束を持っている。
「あっ」
気づかれた。
いやだ、会いたくない会いたくない。
もう、俺に向けられた悪意を受け止められる気がしない。怖い。
逃げたい。
330 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 22:05:42.25 ID:YZ0VpcoP0
逃げ、ないと。
しかし。
しずか「剛田さん! 待って!」
ジャイアン「っ……し、しずかちゃん……」
しずか「ちょっと、話したいことがあるの!」
こう、名前で呼ばれると、逃げるに逃げれなくなる。
気づかれたのが運の尽きだ。
でも、これ以上カーチャンに情けないとこだけは見せたくなかった。
見たくないだろ、息子が友達だったやつに馬鹿にされるとこなんて。
ジャイアン「……カーチャン……先帰っててくれ」
347 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 22:11:54.08 ID:YZ0VpcoP0
ジャイアン母「…はいはい。あんまり遅くなるんじゃないよ」
しずか「剛田さん……ありがとう」
ありがとう?
何を言ってるんだ。
ジャイアン「礼を言われるようなことはしてねぇよ」
しずか「ううん、ありがとう」
ジャイアン「……マジでやめてくれ、しずかちゃん」
しずか「…私、お見舞いに行くところだったんだけど…どうしても先に剛田さんとお話がしたいって思ってたの」
しずか「空き地がちょうどいいと思う。一緒に来てくれる?」
ジャイアン「……わかったよ……」
380 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 22:18:57.70 ID:YZ0VpcoP0
空き地に着くまで、一言もしゃべらなかった。
俺は何も言えなかったし、しずかちゃんは何も言わなかった。
あんなことがあったにもかかわらず、しずかちゃんは動揺していないようだった。
いや…してるんだろうけど、それを表に出そうとしないのか?
俺は、こんな時にもかかわらずしずかちゃんをすごく綺麗だと思った。
純粋で…女なのに、強い意志を持ってて。
それと同時に、ますます自分が醜く思える。
俺にも、しっかりとしたものがあれば……こんなことにならずに済んだんだろうな。
404 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 22:25:43.79 ID:YZ0VpcoP0
空き地
しずか「……」
ジャイアン「……話って、なんだ」
しずか「…うん。まず、聞きたいことがあるの」
しずか「本当に、のび太さんをバットで殴ったりしたの? わたし、信じられない」
しずかちゃんのまっすぐな瞳。
話を少しでも飾ること。
それは許さないと言っているようだった。
ジャイアン「……おう。殴った。それで、腕の骨を折った。のび太、すげー痛がってた」
ジャイアン「事実だよ」
しずか「……」
しずか「……事実……」
425 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 22:31:50.61 ID:YZ0VpcoP0
しずか「……」
ジャイアン「失望したよな。まさかここまでのクズだとは思ってなかっただろ」
しずか「……ううん」
しずか「そうじゃなくて……っ」グスッ
ジャイアン「……しずかちゃん?」
しずかちゃんの目から涙が溢れる。
しずか「ううっ、ぁあ……っ」ポロポロ
しずか「私達、友達じゃなかったの……っ?」ポロポロ
しずか「のび太さんのこと、嫌いだったのっ?」
450 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 22:38:18.58 ID:YZ0VpcoP0
ジャイアン「……っ」
しずかちゃんの意図が分かって。
すごく、痛かった。
しずか「…ごめん、なさい…」ゴシゴシ
ジャイアン「…いや、俺が悪いんだ」
しずか「……実はね」
しずか「スネ夫さんにも話を聞いてたの」
「スネ夫さん、のび太さんのこと……本当なの!?」
「……本当だよ。僕ら二人が調子に乗ったからさ。謝りに行ったけど門前返しだよ。当然だよねー。はは、ははは……」
「……スネ夫さん……」
しずか「でも、絶対に信じたくなかった……のび太さんも含めて、私達は友達だと思っていたから……」
475 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 22:46:12.29 ID:YZ0VpcoP0
ジャイアン「……」
病院で感じた悪意。
それよりも、はるかに重く、痛い。
人を傷つけるとはこういうことなんだな。
悪意を生み、周囲の人間さえも巻き込んで……。
絶対に償えない、底なしの哀しみを生む。
しずか「私にとって、のび太さんは大切な存在よ」
しずか「二人にとっても、そうだと思ってた。ううん、そう思いたかった」
ジャイアン「……あの」
ジャイアン「……すまねぇ。本当に、なんて言ったらいいかわかんねぇけど……本当に、すまねぇ……」
492 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 22:50:47.00 ID:YZ0VpcoP0
しずか「……でも、ありがとう。正直に話してくれて」
ジャイアン「……っ」
痛すぎる。
しずかちゃんの哀しみが、優しさが、強さが。
俺には、耐えられなかった。
しずか「……その上で、一つ提案があるの」
……なんだろう。
大体、俺みたいなクズ、もう見たくもないだろ。よく話してられるな。
しかし、答えなければいけない。
償いにもならないことだけど。
ジャイアン「……なに?」
499 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 22:53:52.55 ID:YZ0VpcoP0
しずか「ありがとう」
いちいち、礼を言わないでくれ……。
俺みたいなやつに。
しずか「……あれから、のび太さんに会ってないでしょう?」
ジャイアン「……あ? ぁあ、そうだな」
まさか。
しずか「一度会ってみないと駄目だと思うの」
511 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 22:58:17.63 ID:YZ0VpcoP0
ジャイアン「……っ!」
冗談だろ。
ジャイアン「……駄目だっ、そんなの!」
しずか「大丈夫よ! 二人のことは伏せて、私が呼び出すから!」
しずか「腕だけでしょう? それに、私思うの。たぶん、ドラちゃんのおかげで腕はとっくに治ってる。今は検査入院してるだけだと思うの」
ジャイアン「そういう問題じゃねぇんだ! しずかちゃんの頼みは聞いてやりたい、誠意を見せたいと思うけどな!」
ジャイアン「会いたくねぇに決まってるだろ! のび太が!俺達に!」
531 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 23:04:08.27 ID:YZ0VpcoP0
しずか「……本当にそう思うの!?」
ジャイアン「当たり前だろ!」
しずか「二人が会いたくないだけよ! 怖いんでしょう!?」
ジャイアン「……はぁ!?」
しずか「『今まで好き放題に扱ってきたのび太に、何を言われるかわかったもんじゃない』……『聞きたくない、会いたくない』……いい加減にして!」
うっせぇよ。
違うに決まってんだろ。
ここまで来て自分の身が可愛いわけじゃねぇよ。
のび太のためだよ。
ジャイアン「……うっせぇ、うっせぇ」
そう言えよ、俺。
549 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 23:10:51.71 ID:YZ0VpcoP0
ジャイアン「……うっせぇ、んだよ……」
しずか「……」
しずか「のび太さんは会いたがってると思うの」
しずか「私だって、のび太さんが何を考えてるかわからないけど……そう思うの」
しずか「たくさん言いたいことがあるかもしれない。もしかしたら、謝って欲しいのかもしれない。もしかしたら、殴ってやりたいのかもしれない」
しずか「……お願い。一度だけでいいの。会って、謝りましょう?」
会って、謝る……。
ジャイアン「……」
しずか「明日の午後三時、のび太さんを散歩に誘ってみるわ。病院の横に噴水があるのは知ってるでしょう?」
ジャイアン「……知ってる、けどよ」
556 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 23:13:43.73 ID:YZ0VpcoP0
しずか「ちなみに」
しずか「スネ夫さんは、覚悟を決めてくれたわ」
ジャイアン「……!」
違う、違うんだ。
俺が殴ったんだよ。
だから……
しずか「……」
ジャイアン「……」
しずか「……」スッ
ジャイアン「……どこ、行くんだ」
しずか「待ってる。」
そう言うと、しずかちゃんは花束を持って、去っていった。
562 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 23:15:24.03 ID:YZ0VpcoP0
ジャイアン「……」
どうしろってんだよ。
本当に……。
ジャイアン「……帰るか」
570 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 23:18:37.59 ID:YZ0VpcoP0
翌日
午前10時。目が覚める。
ジャイアン「……起きちまったか」
いっそずっと目が覚めなければよかったのによ……。
疲れきっていた。
昨日は、ぐちゃぐちゃになった頭を整理したくてすぐ寝てしまった。
そして今、向き合わなければならない。
行くか、行かないか。
576 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 23:22:25.29 ID:YZ0VpcoP0
ジャイアン「……」
怖い。
もう、傷つけるのもウンザリだし、キズつくのもウンザリだ。
……のび太に会うということは、その二つに向き合うということだ。
のび太も、俺達に会ってこれ以上かき乱されたくないだろう。
怒り、哀しみ。そんな感情、普通は避けて通りたいものだろう。
そして、なにより。
これ以上、俺のせいで起きた哀しみに目を向けたくない。
ジャイアン「……」
582 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 23:25:42.42 ID:YZ0VpcoP0
しかし、あの言葉が、頭をよぎる。
ジャイアン「『待ってる』……か」
しずかちゃんが見せた涙。
しずかちゃんが見せてくれた誠意。
それに答えたい。
そして、もう一つ。頭によぎるのは。
のび太の、苦痛にゆがむ顔だった。
謝りたい、謝りたい。
もちろん、そんな思いもある。
……ぐっちゃぐちゃだな俺。
今までいじめてきたツケが回ってきたか。
まぁ、この程度の痛み、のび太の足元にも及ばないかもな……。
591 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 23:28:10.00 ID:YZ0VpcoP0
ジャイアン「……くそっ」
このまま逃げたってしかたないよな。
ここで逃げたら……。
一生、あの顔が浮かぶんだろうな。
それは嫌だな。
そうだ、最後まで自分のためだよ。
でも、行かないよりマシだろ?
ジャイアン「……支度するか」
ジャイアン「三時に、病院の横の噴水だったな」
595 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 23:30:45.56 ID:YZ0VpcoP0
午後二時半、病院横の噴水
……スネ夫。
スネ夫「……ジャイアン、来たんだね」
ジャイアン「……お前が来るのに、来ないわけにはいかないだろ?」
強がってみる。
スネ夫「…そういえば、あれ以来まともに話してないね」
ジャイアン「そう、だな」
スネ夫「ねぇ、ジャイアン」
ジャイアン「ん?」
スネ夫「つくづく馬鹿なことしてたね、僕達」
ジャイアン「……そう、だな」
600 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 23:34:41.47 ID:YZ0VpcoP0
スネ夫「だからさ……」
ジャイアン「……」
わかるぞ、スネ夫。
スネ夫「そろそろ、成長しよう。もちろん、しずかちゃん、のび太のためにも」
スネ夫「自分たちのためにも」
スネ夫も、分かっているんだ。
俺達は取り返しのつかないことをした。
向き合っても意味ないかもしれない。
しかし、その上で来ているのだ。
少しでも償うために、自分たちのために。
ジャイアン「……ああ」
606 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 23:38:02.24 ID:YZ0VpcoP0
午後三時
ジャイアン「……きた、か」
スネ夫「……」ゴクッ
しずか「……来てくれたのね、二人とも」
のび太「……」
のび太は俺達を見つめている。
何を考えているのかは、読み取れない。
のび太。俺が傷つけたやつ。
目を背けたくなる。
しかし、まっすぐ目を見つめ返す。
ここで逃げているんじゃ、来た意味がない。
610 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 23:40:43.94 ID:YZ0VpcoP0
しずか「ねぇ、二人とも」
しずか「私、やっぱり隠し事はよくないと思って……二人のことを伏せるのはやめたの」
……!
しずか「のび太さん、その上で来てくれたのよ? ね、のび太さん」
のび太「……うん」
驚き。それと同時に。
自然に口から言葉が漏れていた。
ジャイアン「…あり、がとよ、のび太」
スネ夫「……ありがとう」
614 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 23:43:32.91 ID:YZ0VpcoP0
のび太「……」
返事はない。当然だ。
しずか「のび太さん……?」
のび太「いいよ。二人の好きにさせるんだ」
しずか「……わかったわ」
のび太。
お前、それでいいのか?
もっと言いたいこと、あるだろう。殴りたいとは思わないのか?
しずか「……二人とも。もっと言いたいことがあって来たんでしょう?」
しずか「言うなら、今よ。それで……終わりだから」
620 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 23:48:31.40 ID:YZ0VpcoP0
怖い。
どうなるんだろうな。
でも、これを言いに来たんだ。
俺とスネ夫は、土下座していた。
ジャイアン「のび太、ごめんっ!」
スネ夫「ごめんなさぃぃっ!! 許してくれなくていい、とにかく、ごめんっ!!!!」
スネ夫「僕、調子に乗ってたよ! なくさん傷つけた! ごめんっ!!!!」
ジャイアン「今まで悪かった。あげくの果てにこんなことになっちまって、本当に申し訳ないと思ってる! ごめん!! 」
ジャイアン「今さらなんだって思うだろ! でも、言わせてくれ!!!ごめん!!!」
『ごめん、ごめん、ごめん……』
のび太「……」
何の工夫もない謝罪。
最終的には、ごめんしか言えなかった。
625 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 23:50:59.43 ID:YZ0VpcoP0
どれぐらい謝っただろうか。
のび太「もう、いい。二人とも頭を上げて」
ジャイアン・スネ夫「……え?」
しずか「……のび太さん?」
のび太「いくら謝られても許せない。それは分かってくれるだろ?」
当然だ。
のび太「だから、もういい。ただ、僕は……」
635 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 23:55:10.17 ID:YZ0VpcoP0
俺とスネ夫、しずかちゃんがのび太の顔を見つめる。
そして。
のび太は、少し目に涙を浮かべながら。
こう言ったんだ。
のび太「そうさ。二人は許さない。これからもう話したくもない」
のび太「でも。僕は二人に怒りたいんじゃない……責めたいんじゃない……」
のび太「ただ……謝って欲しかっただけなんだ……っ」
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640 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 23:57:05.11 ID:YZ0VpcoP0
数カ月後
俺もスネ夫ものび太も学校に来ている。
当然、話すことはない。
許されることもないし、許して欲しいとも思わない。
でも。
646 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/08/28(水) 23:59:26.36 ID:YZ0VpcoP0
謝ってよかった。
それだけは、強く思うのだ。
なぁ、のび太。
あの時お前が言った言葉が本心かわからないけどさ。
お前は、謝られて、少しでも胸のつっかえが取れたかな。
あの噴水での出来事は、互いに良かったことなのかな。
少なくとも、俺は良かったと思ってるけどな。
お前も、そう思ってたらいいな。
おわり