1 名前: ◆7SHIicilOU[sagesaga] 投稿日:2012/10/20(土) 21:28:17.72 ID:Figy27dlo
はい
2 名前: ◆7SHIicilOU[sagesaga] 投稿日:2012/10/20(土) 21:29:27.57 ID:Figy27dlo
「なにって……、お前に関係ないだろ?」
昼休み、昼食を終えて教室に入るなり涼宮が俺に詰め寄ってきた、
毎度のことながらこの威圧感は今年十六歳になる高校一年生がだしていい物ではない。
親父にだってここまでの威圧感を覚えた事はないぞ。
「さっきもべつのクラスでその娘とお弁当食べてたでしょう!?」
「だからなんだ……」
「どんな関係なのか言ってみなさいっての! 弱みでも握って脅してる訳?」
なんでそんなことしなくちゃならないんだ俺は。
「あんたがあんな可愛い娘と昼食してたらそうおもうわよみんな!」
なんて言い草だ。
4 名前: ◆7SHIicilOU[sagesaga] 投稿日:2012/10/20(土) 21:32:15.77 ID:Figy27dlo
どうしたものか、付き合ってると素直に白状するか?
いや、また変なへりくつを捏ねくりまわして澪の方にまで悪手を伸ばしかねないし
下手な監視をされても敵わない。
しかし人の話も感情もなにも知らぬ存ぜぬで物事を進める癖に、
こういう時だけやたら心の機敏に敏感な涼宮を俺はだまくらかせるのだろうか……。
「あー、あれだべつに――」
「キョンは秋山と付き合ってんだよなー」
谷口が俺の逡巡とそこから判断し行おうとしていた弁解を一気瓦解させた。
とりあえずお前はいますぐこの前貸した三千円を返せ。
「……あの娘と付き合ってるの?」
「あー、まぁ、そうだ」
「ふぅん」
目が細くなり、涼宮の俺に対する視線になにやら剣呑な物が混じる。
鋭い眼光はやはり高校生が出していいものではない。
とりあえず谷口には利子込みで五千円にして返して貰おう。
5 名前: ◆7SHIicilOU[sagesaga] 投稿日:2012/10/20(土) 21:39:22.89 ID:Figy27dlo
「あっそ、三年生になるまえに父親にならないようにしなさい」
たっぷりと一分半。
じろじろと目を逸らせないままに睨まれ続けた後に
涼宮は嘲笑とも苦笑ともつかないえもいえぬ表情をしてそう吐き捨てた。
「ぬぁっ!? ば、馬鹿を言え! まだキスもしていない!」
咄嗟に立ち上がり叫んでしまう俺。
――昼休みの教室がこんなにも静寂に包まれるとは……。
「ぐぁっ!」
大声で否定した自分の台詞がブーメランの様に俺を痛めつけ、
俺は力なく席に腰を下ろす。
「……馬鹿ね」
17 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2012/10/26(金) 09:13:38.99 ID:43GGApQyo
―――
「ごめん、待たせちゃったな」
「いや、俺もさっき団活が終わった所でな、遅れたと思ったんだが……
軽音楽部は練習熱心だな」
「またわかってる癖にそんなことを言う……。今日もほとんど楽器にすら触ってないよ」
「ま、確かに演奏はまったく聞こえなかった」
「今度音楽室に来てみる? ギャラリーがいればみんなもやる気だすだろうし」
「それもいいな」
談笑しながらの帰宅道。
なにに気を使うでもない、自然な会話は非常に心地よい。
19 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2012/10/26(金) 19:08:02.06 ID:43GGApQyo
夏も近くに迎える物の、まだ春。
陽気は暖かいけれど、五時を過ぎると途端に暗くなる季節。
橙から紅、そしてゆっくりと紫色から紺に変わっていく空を眺める。
そんな俺に釣られて澪も同じく空をみる、飛行機雲でもあれば、
風情がありそうな彩りの空に、しばし目を奪われる。
端には浮かびはじめたばかりの月や、宵の明星こと火星もみえる。
……火星だったよな?
「金星だよ、宵の明星は」
「……あれ? じゃあ火星は明けの明星?」
「明けも金星」
えー。……どうやらただの無知を晒す結果となったようだ。
20 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2012/10/28(日) 23:15:39.99 ID:aw4w32i8o
そうやって、しばし足をとめて空を眺めながら会話をしていると、
ひとつふたつと空に浮かぶ星は数を増していく。
「……行こうか」
「そうだな、あんまり遅くなると澪は女の子だからな」
「ははっ、子供じゃないんだからこれくらいの時間なら大丈夫だよ」
ぼんやりと暗くなり始め、街灯がつき始めた頃。
そんな会話をしてまた歩きだす。
二人肩を並べて、ゆっくりとした歩調を維持しながら、
少しだけ遠回りしたいつもの分かれ道まで談笑を続ける。
「なぁ、澪」
別れ際、俺に向かって手を振る彼女にふと声をかける。
なにか言いたいことがあった訳じゃ無いけれど、つい。
「なに?」
「……今度、デートでもしようぜ」
「え? う、うん。えと、いっ、いつかな?」
「じゃあ……、今度の週末は?」
「わかった! あ、あけとく! 絶対だぞ!」
「あぁ、わかってる」
「デートか……」
「……澪」
「なにっ!?」
「好きだ」
「はうっ……、わ、私も好きだよ」
21 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2012/10/28(日) 23:17:52.53 ID:aw4w32i8o
こつこつと、アスファルトを踏みしめる自分の足音。
二人分から一人に減ったそれは住宅街の人通りの少ない道に僅かに響いて消える。
カラカラと、自転車のシャフトが空回りする音。
二人から一人になっても、なんとなく自転車に乗らず押しつづける俺。
「遅かったねー」
そうやって歩いて到着した家の門の前。
一つの、比較的小さな影がこちらを向いて言葉を発する
妹より大きい人影に、俺は変わらぬ速度で近づいて。
「待ちくたびれちゃったよ」
「それはすまなかったな」
門の前に俺がたどり着くと、そいつはスッと移動してその場を俺に譲る。
俺はいつものように自転車をしまい込んでから、そいつに向き直れば、
そいつは少し高い場に移動した俺を見上げて人畜無害な笑顔を浮かべる。
鞄と、もう一つ大きな荷物を背中に背負った少女。
俺はそいつを知っている。
「とりあえず、あがってけ。……平沢」
22 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2012/10/28(日) 23:50:10.56 ID:aw4w32i8o
人懐っこく、人の良さそうな笑顔。
幼さが残る顔立ちに、若干舌足らずな言葉遣い。
「あれ?」
開け放した門から入ってくる平沢が背負っていた大きく重そうな荷物を
さりげなく持ってやる。……ギター。軽音楽部所属。
「……先に行くぞ」
「あ、うん。……ありがとうキョン君、相変わらずやさしいね」
「はいはい」
適当に相槌をうつ俺に笑いかけながら、
見慣れた制服を着込んだ平沢は家にあがってくる。
下校してすぐ門の前で待っていたということは、
そこそこ待たせてしまったのだろうかと若干の罪悪感も生まれる。
23 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2012/10/28(日) 23:57:29.98 ID:aw4w32i8o
「あー、唯お姉ちゃん。また来たんだー!」
日課とも言える帰宅と同時にやってくる妹のタックルを軽く受け、
そして妹はその有り余る元気を全面にだしたまま平沢に対しても同様にタックルをかます。
「あははー、また来ちゃったー」
その無警戒且つ豪快なコミュニケーションに
平沢はまったくたじろぐ事も無く、朗らかに笑う。
「平沢、あんまり構わなくていいぞ?」
「えー? 妹ちゃんかわいいよー」
「……まぁ、お前がいいならいいが」
平沢のギターを担いで、はしゃぐ二人を置いて階段を一人のぼる。
きゃいきゃいと声をあげる二人はまるで姉妹のようで、
しかし決して平沢が姉に見えることはなかった。
なんというか、まるで双子……みたいな。
幼い妹と、同レベルで話せる平沢。
決して悪い奴ではないし、妹も懐いているのだが
涼宮とは別のベクトルでうるさい。
26 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2012/10/29(月) 01:41:07.38 ID:kfDEThbWo
―――
「ごめんね、キョン君」
結局、平沢が部屋にあがってきたのは
俺が部屋で一人、ギターを眺めながら五分ほど待った頃だった。
「部活でもあんな感じなのか?」
「え?」
「澪が愚痴ってたぞ? 練習してくれないって」
「え〜、澪ちゃんだって一緒になってケーキ食べたりしてるよ〜?」
話には聞いてたが改めて聞くとちょっとひるむな。
軽音楽部、部室でケーキを食べてます。……訳がわからん。
具体的に言うとSOS団がなにをやりたいのか位わからん。
「でも一応さ、最低限一日一時間でも三十分でも練習とかできないのか?」
「う〜ん……」
悩まれた。俺の言ってる事は間違ってないよな?
33 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2012/11/06(火) 08:10:48.10 ID:ePXNKDqko
「キョン君って、澪ちゃんと仲いいんだね」
そして飛び出たのは、予想外の言葉。
「……考えてたのはそっちか?」
だからかどうかわからないが、
答え方も少々変則的になった。
「うん」
「そうか……。まぁ、仲いいのは認めるよ」
「恋人、だもんね」
「あぁ」
部屋の真ん中、クッションに座る平沢と、ベッドに腰掛ける俺。
平沢はおもむろに汗をかいた冷たい麦茶入りのグラスを手にとり、軽く煽る。
34 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2012/11/06(火) 08:15:56.48 ID:ePXNKDqko
「澪ちゃんの事、好き?」
グラスが置かれ、氷がカランと音を立てた。
「そりゃ、好きだよ」
俺はそう答える。
なんでそんな事をいまさら聞かれてるのかもわからず、
ただいつもと違う雰囲気の平沢に気圧される様に答える。
「本当に?」
「……あぁ」
先程から俯いたままの平沢の表情は、
当然俺からは窺えない。
「告白、澪ちゃんからしたんだよね?」
「そうだ」
確認するかのような口調に軽く息がつまる。
35 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2012/11/06(火) 08:23:50.04 ID:ePXNKDqko
「キョン君って、押しが弱いからさ。
告白されたら割とすんなり行きそうだもんね」
それは責めるような口調だった。
なにがいいたい。そう思った。
「なにがいいたい?」
「本当に澪ちゃんの事、好きで付き合ったのかな? って」
嫌味、とは多分違う。
でもなんなのかはわからなかった。
「……」
「ねぇ、キョン君。私ね……」
平沢は口を噤む。
36 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2012/11/06(火) 18:57:07.49 ID:ePXNKDqko
しばらく、なにか言い出すのを待って。
それでもなにも言わないから「なんだよ?」と聞いてみる。
「ううん、なんでもない」
それは蛍の光みたいに儚い笑顔だった。
「あぁ、そういえばこの間りっちゃんが――」
その笑顔もほんの一瞬で消えて、
人が変わったかのようにいつも通りの笑顔で話を切り替える平沢。
それはそれはもうわざとらしくて。
「ははっ、なんだそりゃ」
俺は黙ってそれに乗った。
37 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2012/11/06(火) 19:44:38.63 ID:ePXNKDqko
―――
「うわわ、もうこんな時間だぁ!」
グラスの氷も全て溶けて水になった頃、
不意に時計を見て慌てたように声を上げる。
「本当だ、ずいぶん暗くなっちまったな。送ろうか?」
「えへへっ、大丈夫大丈夫」
「そうか?」
「うん、それにキョン君だって私を送ってるところ見られたくないでしょ?」
「……そう思うんなら放課後に黙ってやってくるのをどうにかしろ」
45 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2012/11/26(月) 07:34:17.37 ID:lsEwTtIho
嘆息する。
最後の台詞、それは心からの願いだった。
澪のあらぬ誤解を避ける為にも、
俺の為にも、誰よりも平沢の為にも。
「お前だって、軽音部の連中とギクシャクしたくはないだろ?」
「……」
平沢は押し黙る。
何度か言葉を言おうとして、やめてを繰り返した後。
「私はね、それでもいいと思ってるよ」
そういった。
46 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2012/11/26(月) 07:36:40.41 ID:lsEwTtIho
「どういう意味だ?」
一応、聞き返す。
一応というのは、意味を大方理解しているから。
「わかってるでしょ?」
そして平沢もそれをまた理解しているのだろう。
自嘲した様な表情で答えた。
「じゃあ、そろそろ帰らないと」
言って。鞄とギターを背負い部屋からでていく。
俺はなにも言わずにその後ろを追う。
47 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2012/11/26(月) 07:47:28.97 ID:lsEwTtIho
廊下を歩いて、靴を履いて。
玄関を開けて、門を出る。
「あのさ……」
そこでやっと口を開いた平沢は。
「私、まだキョン君の事、好きだよ」
去り際にとんでもない言葉を残して走って行った。
57 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2012/12/05(水) 08:02:47.89 ID:+9/hf6Wuo
―――
「えぇっ!?」
翌日の昼。
中庭に澪の驚いた声が響
58 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2012/12/05(水) 08:06:22.42 ID:+9/hf6Wuo
―――
「えぇっ!?」
翌日の昼。中庭に澪の驚いた声が響く。
その反応を予想していた俺は勢い良く立ち上がった
彼女の膝にのっていた弁当が地面に落ちる前にキャッチしてから
改めて台詞を繰り返す。
「ハルヒに付き合ってるのバレた」
「バレた。付き合ってるの……涼宮さんに……バレた……」
まるでこの世の終わりか破滅の始まりか。
七人の天使がラッパを吹いてる光景を見てしまったかのような表情で
澪は俺の台詞を倒置法を利かせて反芻する。
59 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2012/12/05(水) 08:11:05.65 ID:+9/hf6Wuo
「昨日ちょいと予期せぬ事態があってな……」
後頭部を掻きながら谷口の失態を思い出す。
まぁどうせ時間の問題であろうとは思っていたし、
別段口止めをしていた訳でもないからそこまで責めるつもりもないが。
それでもあいつの所為に変わりは無い。
「あぁ……終わりだ……」
両手で顔を隠して澪はそう呟く。
――どうにも澪はハルヒに対して異常な苦手意識を持っている。
それは人見知り気味で大人しい澪と
誰が相手でも容赦も遠慮も無くガンガン行く豪快なハルヒの両極端な性格によるものであるのは
双方とそれなりに深くて長い付き合いがある俺は知っている。
澪からすればあいつの大胆というか何者も恐れない姿勢そのものが恐怖になる。
60 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2012/12/05(水) 08:17:46.86 ID:+9/hf6Wuo
それは誤解ではないが最近のアイツは改善してきてるし
今はそこまで無茶苦茶じゃないぞと再三言ってはいるものの。
「どどど、どうしよう……」
この極端な苦手意識はそう簡単に改善されず今に至る訳だ。
「そんな心配しなくても、大丈夫だと思うがなぁ。
バレたのは昨日だけど、昨日の部室でも今日の教室でもいつも通りだったぞ?」
昼休み入って直に教室を出る俺を茶化しはしたものの。
入学当初から顔付き合わせてる上にこの一年半あいつの顔色ばかり窺ってきた俺にはわかる。
少なくとも澪の心配する様な行動はとりはしない。……筈。
70 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2013/01/10(木) 17:57:02.03 ID:SkaJP3dIo
「そ、そうかなぁ……?」
すでに潤み始めた瞳でこちらを不安げに見上げてくるその姿は、
いっちゃあ悪いがまさに小動物と言った感じで庇護欲を程よく刺激される。
「あぁ。それに万一の事があっても俺がなんとかするさ」
なんとかしよう。そう思って実際あいつの行動をなんとかできた事が
この一年半にあったかどうかは考えてはいけない。
「そう、だよな! うん、キョンがそういうなら」
精一杯の虚勢を張る澪に俺は手に持ったままの弁当を返し
自分の食事を再開する。
――さて、どうしたものか。