キョン「言葉は難しいな…」


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6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/02(木) 23:24:43.60 ID:cJwSxbab0

ようやく見っけた…
始めます



「…」

俺の目覚まし時計が家の外まで響くのではなかろうかと思うぐらいに、けたたましく、ジリジリと鳴り始めた。
眠気の覚めない、微睡んだ状態ではあったが、俺は何としても先程から耳に劈くそれを止めたい衝動に駆られ、音源の方に手を伸ばそうとした。
自分の体温で暖かくなった布団から手を出すのを一瞬躊躇ったが、忌々しい快音波時計と天秤にかければ、やはり音の方をなんとかすべきだろうと、寝ぼけた頭で時計をすぐに止めるように自分の腕に命令した。
寒い気温の中でさらにヒャドを食らった後のように冷えきった時計を手にとって見てみると、そこには目を背けたくなるような時間が示されていた。


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/02(木) 23:27:25.08 ID:cJwSxbab0

「…」

そういや、妹のやつ、明日遠足だからとか云々言ってたっけか。
だから今日に限って俺を起こしに来なかったというわけで…。
俺は少しの間、昨日の記憶を呼び起こして反省をしつつ、早々に温くなったベッドとのお別れをした。
このままだと、本当に遅刻してしまうからな。


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/02(木) 23:30:51.23 ID:cJwSxbab0

昨日は谷口から借りた、いや借りるように強制されたと言った方が適切だろうか、そのゲームで夜通し遊んでいた。
内容は有名な、某横スクリーン移動型のゲームであり、今更なんでこんな古いのをやらなければならんのかと、当初は愚痴をこぼした。
しかし、懐かしいゲームには不思議な魅力というものがあり、やればやるほどゲームの世界にのめり込んでしまうのだ。
俺もその誘惑に負け、黄色い帽子とメタボ体型がトレードマークの配管工員のゲームに熱中してしまった。
赤い人ではなく、黄色い人をチョイスしたのは谷口らしいと言っちゃあ、谷口らしいか。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/02(木) 23:31:50.94 ID:cJwSxbab0

このように、昨日の出来事を反省しつつも登校準備をすませ、誰も居ない自宅に寒さで震えながら鍵を閉めた。
マフラーをしっかりと首に巻きつけ、俺は心臓破りの坂を目指し、目一杯に走った。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/02(木) 23:34:36.92 ID:cJwSxbab0

***************


色々とカッコつけて家を颯爽と出ていったはいいが、結局俺は一時間目の途中から授業に参加することになってしまった。
途中までは頑張って坂を登ったのだ。
そう、非常に良く頑張った。
無神論者ではあるが、必死に神様仏様に祈ったリ、追い風が吹くように思念もした。
しかし、帰宅部とほぼ同じ身分である為なのかは知らんが、仏様たちと気候は俺に未知なる力を無償で与えてはくれず、あの坂を一気に登り切ることができなかった。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/02(木) 23:36:56.51 ID:cJwSxbab0

そんなこんなで諦めムードに入った俺は、ゆっくりとハイキングすることに決め、後々の体力温存のために潔く遅刻することにした。
そして今、通学中に走ったことで消費した体力を自分の机という整った環境のなかで回復するために、授業時間を睡眠に充てる。
睡眠は元気の源だからな。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/02(木) 23:39:04.50 ID:cJwSxbab0

結局一日が無駄に終わった。
もう少し詳しく言うと、学生の本分でもある学業には全く手を触れずに一日が終わった。
まぁ、今が楽しければそれでいいとも思ってはいるが、さすがに中間テストが近いと、そうも現実逃避をするわけにはいかない。
今日ぐらいは家に帰ったら勉強でもするか、と嘆きつつも帰り支度をして椅子から立ち上がろうとした瞬間、後ろからアイツに肩をつかまれ、無理矢理方向転換させられ、再び椅子に座ることになった。
若干肩が外れそうになり、さらに臀部を打撲したがその痛みは俺の持ち合わせているありったけの素面成分で補ったことで事無きを得た。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/02(木) 23:41:05.69 ID:cJwSxbab0

「ねぇ、キョン」

ソイツは、痛みに苦しんでいる俺に対して、はち切れんばかりの笑顔で声をかけてきた。
普通、こういう時は『ごめんなさい』と謝罪するのが礼儀ってもんだが、コイツは俺にそんな態度をとる筈がない。
自己完結してしまう自分がなんとも情けない。


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/02(木) 23:42:39.85 ID:cJwSxbab0

「呼び止めるだけなら肩を叩くだけで十分だと思うが」

「だってこうでもしないとアンタ、こっち向かないじゃない」

「安心しろ。お前を無視するなんていう自殺行為は今後一切しない。だから無理矢理引き留めるようなことはしないでくれ」

「ふーん。じゃあ、覚えていたら今度実践してあげる」

「そこは即日で頼む」


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/02(木) 23:46:05.66 ID:cJwSxbab0

「…んまぁ、話なんだけどね…」

「なぁハルヒよ、話だけなら歩きながらでも出来るだろ。今、この教室内じゃなきゃダメなのか?」

「うーん…そうねぇ」

そう言いながら、ハルヒは右腕で頬杖をつきながら白く曇っている窓の方に体を向けた。
アイツが着ている白のダッフルコートの方が、今俺が着ている緑の安物コートよりも暖かそうだ。
なかなか暖まらない教室に対して、俺は少し遺憾に思った。


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/02(木) 23:47:55.54 ID:cJwSxbab0


「この前思ったんだけどね、カップルが同棲するときってさ、オナラとかちょっと下品なことをものすごーく気にするのに、夫婦になると別に気にしなくなるわよね?」

まったく、コイツはいきなりなんてことを言い出すんだ…。
仮にも、花の女子高生であるわけで、それなりの伴侶を持って下品な発言は控えて欲しい。

「それは家族によって違うと思うが…」

「いつから気にならなくなるのかしら?」

「…お前はいつもどーでもいいことに気がつくな」

「だって気になるんだからしょうがないじゃない」

「気になるからっていって、全てを考える必要はないんだぞ?」

「キョン、アンタちょっとは真剣に何事にも取り組んでみたら?」

「内容にもよるけどな」


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/02(木) 23:50:28.55 ID:cJwSxbab0

「ほらさっさと考えるのよ」

「面倒くせぇ…」

そう思いつつも真剣に考え込んでしまう自分がいた。
そういえば、いつからそういったことに気にならなくなるのか…。
その、オナラをするという下品なアクションに対して互いに耐性が付く…といった感じなのだろうか。
まだ学生である自分が真の正解に辿り着けるとは到底思えないが、ハルヒは俺の答えを求めている。
つまりは、一般的な何処にでもいるような高校生に対して、テレビでするアンケートみたいな無意味極まりない考えを聞く、ということだ。
何が楽しいのだろうか。
そもそもどうして俺になんかに…。

……あぁ、もういかんいかん。考えが別の方向にシフトしてしまった。
無難な答えを言えばハズレはないだろう。


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/02(木) 23:52:00.59 ID:cJwSxbab0


「…まぁ、そういうのは徐々に慣れていくものじゃないのか?」

「ふーん…」

「最初は謝って、次は笑ってごまかして…ってのが続いて最終的にはあまり反応しなくなる、とか」

「…そう考えると《慣れ》ってこわいわね」

「まぁ…そうだな」

俺はハルヒの満足に至る正解に近いものだったのか、若干心配した。
ここでヘマをやると、あとであのニヤニヤ野郎に『バイトが入りました』なんて言われるかわからんからな。


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/02(木) 23:55:29.17 ID:cJwSxbab0

教室内に設置してあるストーブの温かさをようやく感じ始めたとき、ハルヒは藪から棒に、とんでもないメガトン級の事を言い放ちやがった。

「んー、あと、キス、とかもそうなのかしら?」

「…は?」

自分でも驚くぐらいの裏声でリアクションをしてしまいましたよ。
いやまて、ついぞ恋愛について無関心だったハルヒが何故、どうしてこのタイミングで言うのか。
これはおかしい。
もしかすると、誰かがハルヒの体を乗っ取ったのか?普通の女子高校生ならこのぐらいは話すだろうと思案した挙句、このような行動に出たのか…?
いつもと違う事を経験した俺の脳内サイレンが控えめに注意警報を発令した。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/03(金) 00:01:33.72 ID:aGFqeO+U0

「なにすっとんキョンなこと言ってんのよ」

「…ダジャレか?」

「あら、よく気づいたわね」

「そうじゃなくて、いつの日だかそういう行動する人のことを精神病の一種だとか言ってた気がするんだが?」

「だから、気になるんだからしょうがないって先から言ってんでしょ?」

ああ言えばこう言う奴だ、本当に。
この減らず口はハルヒでしか繰り出せないものだ。
なにはさておき、これで俺が話している相手はほぼハルヒに間違いない事が俺の中で勝手に確定することにした。
偉そうに乗っ取りが云々と思ったが、そんなことが実際に起こればアイツらが黙っちゃおれんから心配することは無意味だ。
しかし、注意警報はまだ解除されない。


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/03(金) 00:02:29.81 ID:aGFqeO+U0


「――まぁいいわ」

「ひとつもよくねぇよ」

「あんた、男なら少しぐらい空気を読みなさいよ」

「さっきダジャレを吐き出した時のお前に聞かせてやりたいな、そのセリフ」


38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/03(金) 00:04:44.80 ID:aGFqeO+U0


「疑問に思ったキッカケはね、この前B級の映画を見たとき。まぁ、恋愛のメリットは意味わかんないけど…なんとなく、楽しそうに見えたわ」

「またB級映画かよ…」

どうも悪い予感がしてならない。
俺の脳内サイレンがさらにワンランク上の厳重警戒を発令。

「んで?キョンは恋愛についてはどう、思う?」

「はい?」

恥ずかしくも本日二回目の裏声での返事となった。
だってそうだろ?
恋愛滅却主義のハルヒが恋愛に興味を持つと、誰が想像つくのだろうか。


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/03(金) 00:05:55.87 ID:aGFqeO+U0


「なにすtt」

「言わせないぞ」

「…空k」

「わかりましたよ、今度はちゃんと空気読みますよ」

「…」

そう何度もオッサンのダジャレに付き合ってられるかっての。


40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/03(金) 00:07:30.71 ID:aGFqeO+U0

「また他人事だと思って、今適当に考えたでしょ」

「だってs『バカキョン!』」

「あんたには真剣さが足りないわ!」

「どうでもいいだろうがそんな話題じゃあよ」

「私にとっちゃ、その、えと…とっても重要なのよ!」

「オナラの事が、か?」

「オナラの件はどうでもいいけど、今回はちゃんと答えなさい!」

「やっぱりあれはどうでも良かったのかよ」

「さぁ答えなさい!団長命令よ!」


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/03(金) 00:08:52.11 ID:aGFqeO+U0

「また他人事だと思って、今適当に考えたでしょ」

「だってs『バカキョン!』」

「あんたには真剣さが足りないわ!」

「どうでもいいだろうがそんな話題じゃあよ」

「私にとっちゃ、その、えと…とっても重要なのよ!」

「オナラの事が、か?」

「オナラの件はどうでもいいけど、今回はちゃんと答えなさい!」

「やっぱりあれはどうでも良かったのかよ」

「さぁ答えなさい!団長命令よ!」


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/03(金) 00:10:20.91 ID:aGFqeO+U0


「恋愛って急にいわれてもなぁ…今までした事ないし…」

「付き合ったことはないの?」

「…生憎、そういった関係にまで発展した異性は一人もいない」

「へー…、高校生なのにそんなことで大丈夫なの?」

高校生だから全員恋愛経験があるなんて常識はどこから湧き出てきやがった。
自分はモテたから上から目線で言えるんだよ。
何の取り柄もない俺に誰が擦り寄ってくるってんだ、ちくしょう。
……なんか自分で自分を卑下すると悲しくなってきたので、腹いせに反撃してやることにした。

「お前はどうなんだよ」

「私は自分が楽しければいいもん。男に興味が無いわけではないけど、ほら、キョンと違って色々経験したし別にいいかなーなんて」


45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/03(金) 00:11:19.52 ID:aGFqeO+U0


「そうかい…。なら、経験の乏しい俺が聞くけどな、この暇つぶしの会話にどれだけの重要性があんだよ?お前が色々経験したのなら俺の経験はいらないし、なんの足しにもならないだろ。そもそも恋愛に関することを俺に聞くこと自体が間違ってるぞ」

「平団員のアンタだからこそ聞いてるのよ?滅多にそういう意見とか聞かないからとっても貴重なの」

「それなら古泉にでも聞いたらどうだ?あいつはモテるし、朝比奈さんとか長門ならもっといいアドバイスも出来るかもしれん」


47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/03(金) 00:12:44.86 ID:aGFqeO+U0


「アンタねぇ…『にしてもだ』」

「お前からそういう話を振られるとはなぁ」

「はぁ…?」

異性交遊した事をまんざらでもないようにハルヒは俺にひけらかしたが、そのことで俺は感情的になる程子供ではない。
むしろ感傷的になってしまった、と表現すればいいのか。
こういった与太話が世間並みにできるようになって、さらに女として異性に興味を持ち始めている。
だから眉間にシワを寄せて俺を睨む必要はないんだぞ、ハルヒさん。
問題発言をした四月の頃とは大違いだな。
なんだか自分の娘が旅立っていく一般リーマンなオヤジの心境だ。


49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/03(金) 00:14:08.63 ID:aGFqeO+U0


「色々思うことがあるが、明日は雪どころか天地がひっくり返るんじゃないか?」

「…」

「あのハルヒが赤い顔して恋愛を語るなんて、想像もつかない。これは事件だな」

「…」

「いやいや、中々人間らしく、一般的でいいじゃないか…」

ここで俺はハルヒの様子がおかしい事に気づいた。
爪が手に食い込むのが見てわかるくらいに固く握りこぶしを作っており、さっきから口を真一文字に結んだままだ。
気に食わないことでも俺が言ったのか?



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/03(金) 00:15:19.19 ID:aGFqeO+U0


「…おい…急にどうした?」

「もういい、あんたに聞いた私がバカだったわ」

「なんだ、機嫌でも悪いのかよ。腹でも痛いのか?なんなら、保健室行くか?」


51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/03(金) 00:16:20.71 ID:aGFqeO+U0

俺が聞くと、ため息混じりで目線を合わせず、吐き捨てるようにハルヒは言った。

「別に?目の前にいる一般性を大事にするバカに呆れてただけよ」

「人が心配しているのにそんな態度をとる事はないんじゃないか?」

「なんで?真剣に答えを言わないアンタのせいじゃん」

「何で真剣じゃないって分かるんだよ。俺なりに真面目に答えただけだろうが」

「人が何かすればその度に事件だの大変だの言っちゃってさ。アンタは私の親かっての」

「わかった、訂正するよ。俺はお前の腹じゃなく、真面目に言った事を冗談だと認識してしまうお前の頭が心配になってきた」


52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/03(金) 00:17:07.21 ID:aGFqeO+U0

「冗談じゃない話を揚げ足で返すのも相当頭にキてると思うけどね」

「お前なぁ…」

「じゃあ私、先に部室行ってるわ」

そうハルヒが言葉を紡ぎ出したと思いきや、俺のすぐ脇を通り、肩をぶつけて無言で教室を出ていった。


53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/03(金) 00:18:36.72 ID:aGFqeO+U0

俺は自分の考えを述べただけだが、それはハルヒの満足する解答ではなかったようだ。
しかしだからと言って怒るほどの事ではないだろうに。
一時前に感じた一般的な高校生のような雰囲気は何処へやら…。
これではまるで映画の時に逆戻りだ。
自分の思ったように縦横無尽に事が運ばないとイライラして、周りにその鬱憤を無差別にまき散らす。
そういう面ではまだまだアイツはガキんちょだ。
クリスマスパーティの日程を一人一人確認していたあのハルヒは、どこにいっちまったんだよ。



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/03(金) 00:20:06.10 ID:aGFqeO+U0

……であるからして、ここで俺は前言撤回をして、まとめたいと思う。
アイツは女として異性の行動を気にかける乙女の意識は1ナノグラムも持ち合わせていない、単なるワガママなガキんちょだ。
結局、俺が体を張って教えたあの映画の出来事も、アイツは学習してはいなかったのだ。
なんでこう物覚えが悪いのか。
世界改変後のお前の方がまだ物わかり良かったぞ…。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/03(金) 00:21:54.66 ID:aGFqeO+U0

ハルヒとの静かなる戦闘のせいで少しだけ倦怠感が増した俺の体はあろうことか、早く部室にいけ、とのたまっている。
いわゆる勘というやつだ。
だがその目標地点には唯我独尊団長様がいるかもしれないし、変に刺激を与えたら状況が悪化、負のスパイラルを辿る事になるかもしれん。
…でも、そうだな。向こうには長門と古泉、何より朝比奈さんと朝比奈さんの作ってくれた速攻全回復アイテム、エンジェルティーがあるではないか。
それを飲んで俺が元気を取り戻し、アイツの機嫌も取り戻しに行こうか。
リスキーで面倒くさいが…今の世界をハルヒのひょんな考えで改変されたくない。
しかし、ハルヒの浅はかさだけは納得がいかない。
そこだけは看過できない。
ハルヒの性格を一般人的に書き換え、なおかつ宥める。
こんなプログラミング任務をやることで、またいつもの非日常的な生活が本当に始まるのだろうか。

「ったく、また面倒になってきたな…」


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 00:23:45.87 ID:aGFqeO+U0

***************

部室等への渡り廊下を渡っていると、虎落笛と窓の振動音のハーモニクスが校舎内に響いて、耳障りに感じた。
いつもの俺ならここで利休が微笑みつつ、修正箇所を教授してくれる程の一句を読み上げる、といったぐらいの風流な行動を起こすだろうが、生憎今はそんな気持ちには微塵にもなれない。
そもそも屋内でこんなに空気の流れる音がするなら、教師たちはそろそろ部室棟の建て替えも考慮に入れなければならないのではないか。
そうだな、せめて全部屋冷暖房完備といった案を是非実行に移してもらいたい。
それだけで活動に充実さが増してくるってもんだ。ワガママな子供の駄々を聞いてストーブを借りに行ったり、コンビニでクリスマスの飾りを買ってきたりといったお使いもなくなるだろうしな。



61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 00:26:05.65 ID:aGFqeO+U0

一向に収まらない風や寒さといったマイナスポイントが俺を早足にさせ、気づいたときには部室前に到着していた。
これがアイツの言っていた《慣れ》の恐ろしさなのか――何も考えずにここに辿り着いてしまった自分に少々呆れてしまう。
いくらなんでも慣れすぎだな、俺。
自分の行動パターンが一定である事に気づき少々気が重くなったが、部室の扉を軽く数回ノックしてみる。
中から聞こえてきたのは天使の可愛らしい返事ではなく、キザな男の声だった。


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 00:27:12.30 ID:aGFqeO+U0

「どうぞ」
ひんやりと冷たいドアノブを回して部屋に入ってみると案の定、スマイルマスター古泉しかそこにはいなかった。
部室を見渡すと、どうやら女性陣は不在のようだ。
そんな寂しい空間を古泉は本を読んで一人で過ごしていたようで、机には『虐殺○○』と書かれたタイトルの本がある。
古泉の趣味なのかは知らんが、おどろおどろしいタイトルだ。


66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 00:29:12.63 ID:aGFqeO+U0

「お前だけか…」

古泉の趣味よりも、女性陣が居なくなることで部室が荒んでいる事に俺は嘆いた。

「華がないと盛り上がりに欠ける、というやつですか?」

俺の言いたいことが分かっている古泉のニヤニヤを受け止めながら、俺はドアノブに手をかけて扉を閉める。
まだ部屋は微妙に温まりきっていないからコートは着たままにするか。

「女性陣はどうした?」

「彼女たちは朝比奈さんの衣装を買いに外へ行きましたよ」

「長門も連れて行くなんて…珍しいな」

本を読み始めると石像のように中々そこから動こうとしないあの長門がねぇ。


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 00:30:29.32 ID:aGFqeO+U0

「ところで…あなたはまた何かやってしまったようですね」

「なんのことだ」

「今日の涼宮さん、機嫌悪いようですねぇ」

語尾を伸ばし、強調しながら古泉は椅子に深く腰掛け直す。
眼を細めたいつもの安売り笑顔のままではあるが、それは表面上のことである。
体勢はしっかり整えて俺の言った事を一字一句聞き逃さない、そう受け取れる構えだ。

「…」

「できれば詳細を教えてくれると、こちら側としてもありがたいのですが」

「…」

俺が黙秘権を行使していると、古泉の笑顔に困惑の色が濃くなった。


68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 00:32:13.47 ID:aGFqeO+U0

「このままだと閉鎖空間が乱発…という程ではないでしょうが、バイト時間が延長する可能性大
ですから」

「…」

今の俺に乱発なんて言葉を強調して同情を誘っても何も起こらないぞ、古泉。

「言いたかねぇよ」

「…そうですか」

半ば俺から情報を集めるのを諦めたかのように見えたが、古泉は急に机の下から将棋盤を取り出してきた。
マグネットタイプではなく、ちゃんとしたプロの人たちが使うような四角い台の方だ。
これを机の上でやるとなると、実に見づらい。
なんで利便性ではなく本格的な方を選ぶのか、というツッコミはなんだか古泉が哀れになるから今は止めておこう。

「では久しぶりに、一局どうですか?」


69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 00:36:36.33 ID:aGFqeO+U0

パチンパチン、と駒が盤を叩く乾いた音が部室にこだまする。
唯一の暖房器具であるストーブが頑張って寒さをなんとかしてくれてはいるが、まだまだ心地よい気温には程遠い。
外気との温度差をひと目で感じ取れる窓は若干、斑に曇ってきている。
だが、まだまだ寒い。
どうにかならんのかと、シベリア寒気団、北風寒太郎達にテレパシーを爆弾メール並みに送信したくなる気分だ。
それよりも、俺はハルヒのせいでモヤモヤした自分の心境を、どのように対処し、澄み切った晴れやかな状態に戻せばいいのかを思案した。
そうするうちに黙々と将棋を続けるのも飽きてきて、気分転換のついでに俺は古泉に話題を持ちかける事にした。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 00:38:42.28 ID:aGFqeO+U0


「今日谷口から不可解であり、なおかつ不愉快になる話を聞いた」

「いきなりどうしました?」

「興味ないのなら話さないが…残念だ」

「そういうわけではないのですが…どんな話ですか?」

古泉は俺の飛車の前に香車を置く。
飛車はどこまでも縦横に進めるのに、何を考えているのか。


71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 00:41:04.42 ID:aGFqeO+U0

「あいつによるとだな」

「ある場所で男女が雑談していたらしい」

「内容はどうでもいいことらしいがな」

俺は古泉の香車を難なく取り、飛車を龍王にする。
初期配置のまま動いていないヤツの桂馬の事を考えると非常に勿体なく感じてならない。

「んで、女のほうが話題を変えてきた」

「どんな話題に、ですか?」

古泉がようやく銀を出して龍王を牽制してきやがった。


72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 00:44:59.63 ID:aGFqeO+U0


「恋愛の話だ。よし、銀とった」

「これはこれは」

「しかもそいつは今まで恋愛にこれっぽっちも興味のなかった奴らしい」

「それはそれは…。どうして急に恋愛の話をしたのでしょうかね?」

「なんでも恋愛の価値観が変わったから、らしい」

「ふふっ、歯がゆく感じますね」

古泉が自分の玉将を守るために金を前に指してきた。

「なぜだ?」

「女性から男性に恋愛関係の話をするのは相場が決まってます」

「どんな相場だ」

「言い換えれば、フラグが立った、といったところでしょうか」

「フラグ?旗が立ってどうするんだ?」

俺はとりあえず金を無視して、歩を龍王でとることにした。
既に勝ちパターンに入っているから他の駒を全部とってやろうか。


73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 00:45:50.63 ID:aGFqeO+U0

「あなたもいずれ意味がわかるでしょう」

「…それで?その後はどうなったのですか?」

「…男は言ってやった」

「『お前から恋愛話を持ちかけられるなんて、天地がひっくり返る』ってな」

「しつこく同じ事を聞いてくるからカウンターを入れてやった…のだとさ」

「ほう…」

ようやく古泉が桂馬を動かしてきた。
くそ、全然使わないから桂馬の存在を忘れていた。


74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 00:46:55.35 ID:aGFqeO+U0

「そしたら女が怒ってどっかに行ってしまった…と」

「そうだ」

「お前はどう思う?」

「どう、とは?」

「なんで女が怒ったのか、だよ」

「本当にわからないのですか?」

「あいにく、俺には考えるという習慣を身につけていないからさっぱりだ」

俺は桂馬から逃げつつ、歩を取る。


75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 00:48:51.25 ID:aGFqeO+U0


「いえ、この話女性の立場を理解すればわかるはずですよ」

「なんでそうなる」

「一般的には、女性が女性同士で話す恋愛話と異性と話す恋愛話では全く異なる、と言われています」

「それは話の内容が、か?」

「それもそうですし、脳内の活性化している範囲が若干異なるところもあるそうです」

「別に、仲のいい異性となら大差ないんじゃないか?」

「確かにそうかもしれません」

俺の龍王を狙って古泉が桂馬を動かす。


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 00:49:48.53 ID:aGFqeO+U0

「しかし、今回のはそれと明らかに違います」

「今までに恋愛に興味がなかった女性。その女性は男性にわざわざ『自分の恋愛に対する価値観が変わった』と伝えた」

「ああ」

「そして《しつこく》男性に意見を求めた。たぶん彼女は常日頃、その男性を慕っているのでしょうね。…いや、親近感とでも言ったほうが正解でしょう」

俺は角で桂馬を取る。


77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 00:51:30.08 ID:aGFqeO+U0

「んっふ…もうお分かりですか?」

「わからんな、全く」

「…あなたには敵いませんね」

「桂馬を取られたからか?」

「それもありますが、もう一つありますよ」

机の上で手を組み、古泉は最も気味の悪いスマイルを浮かべて、こう言った。

「その女性は、男性に気があるんですよ」



78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 00:53:49.67 ID:aGFqeO+U0

ほう、なかなか意味深なジョークを飛ばすぜ。

「…ただの日常的な会話だ」

しかし、そのジョークを理解する脳を持ち合わせていない俺には無意味。
なんだって突拍子もなくそんな見解に至るのか、全くもってさっぱりだ。

「気になる人からの考えは聞きたいものですよ」

「…」

「仮に…そうですね、その女性と男性が、昔恋愛に発展するようなことをしたのなら…例えば手をつないだり、それこそキスとか…は行き過ぎでしょうかねぇ。…ふふっ」

「古泉、なにが言いたい?」


79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 00:55:30.61 ID:aGFqeO+U0

「もし僕がその女性の立場で、加えて今のような、過去に起きた例を意識した女性がその男性に興味を持ったとします」

「意識的なのかは存じませんが、他愛のない日常的話題から気になる人の恋愛話へと切り替える。しかし、返ってきた答えは適当なもの…」

「適当では断じてない」

「あなたはそうでしょうが、女性はこう思ったことでしょう」

「『私と意見を合わせてくれない』とか『それは、私をのけ者扱いしているからかも』、『やっぱり恋愛なんてくだらないもんなんだ』とね」


そこまで心理把握出来るのなら、いっそ電車の広告に貼ってあるような恋愛のハウツー本でも出せばいいじゃないか。
お前は見た目いいから若いOL達が続々と集まってくるだろうよ。


80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 00:56:32.06 ID:aGFqeO+U0

「つまり、その男性は彼女の恋愛感情を踏みにじったといっても過言ではないでしょう」

「日常会話だけで精神ダメージを与えるとは思えない」

「そ・れ・は、今回の会話は結構重要だったのではないでしょうか?」

「…」

「その女性にとって、ね」

人差し指でリズムを刻んだかと思えば、それを自分の口元に近づけた。
寒気がしたのは部室のストーブの本領が発揮されていないからだろうし、気にする必要はない、と俺は自己暗示をかけた。


81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 00:59:33.72 ID:aGFqeO+U0


「王手だ」

俺がさっき取った桂馬で王を攻めて、将棋を終了させた。


「…参りましたね」

馬鹿な話をして、ろくに作戦を立てないでいるからだ。

「お前のお得意のトレース話には仮定と飛躍が多いんだよ」

「すみません。僕の周囲にあまりにも似たようなことがついさっき起こりましてね」

すると古泉は勝利の余韻に浸っていた俺に向けて、胸ポケットからペン型の装置を取り出してきた。

「どうしても、感情移入してしまうのですよ」

「おい、なんだその機械は」

古泉は俺の質問に答えず、ただ笑顔のまま、軽く装置のボタンを押す。


83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:02:24.21 ID:aGFqeO+U0



『先に部室行ってるわ』


「…んっふ」

「…」

ありのまま今起きたことを話すぞ。
古泉が懐から出してきた装置はウルトラマンを呼ぶ変身装置なんて大層なモノではなく、そこら辺の電気街で安売りしてそうな録音機器である。
その機器から聞こえてきた声の主は我らが団長様であり、非常にご立腹な様子だ。
そう、俺の教室にて一悶着があった時の声だった。
世界を変える力が含まれているかもしれないこの音を古泉が録音していたということは、その場に古泉がいた、もしくは装置だけをどこかに設置していたということになる。


84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:06:25.86 ID:aGFqeO+U0

これはたまげた。
どれ位かというと、スパゲッティの茹でる前の固い麺を真っ二つに割ることが出来ないくらいたまげた。
盗聴されたことは俺にとってそれと同等、もしくはそれ以上にもどかしいことであり、さっさとこの場から離れて帰路につきたいと考えさせられた。

「プライベートには突っ込まないんじゃないのか?」

「閉鎖空間が出る原因を調査したまでです」

「調査か…。なんでもありだな」

「すみません。しかし、あなたにも彼女の気持ちをわかっていただきたいのです」

「プライバシーを侵害した犯罪者が一般人にお説教か?」


85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:07:59.77 ID:aGFqeO+U0

「そう怒らずに…。行き過ぎた行為をしたことについては謝ります」

俺にすぐ謝るなら行動に起こすな。お前ならこうなる事ぐらい簡単に予想できただろうが。

「ですが、あなたにも女心というものを理解してほしいのです」

「そこまでして女心というのは理解すべきことなのか?」

「彼女はあなたの事が気になっているのです。気づいてあげる優しさも大切ですよ」

「…今日は帰る」

「そうですか…。しかし、ここは待たれた方がよろしいのでは?日曜日は雨のようですから、何かしら連絡があるかもしれませんよ?」

「犯罪者に指図されたくはない」


86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:10:16.00 ID:aGFqeO+U0

窓が完全に曇るほど暖かい部屋から空気が凍りそうな屋外に出るなんて野暮な真似、本当はしたくないが、どうにも古泉と同じ空間にいたくはない。
身の危険を感じてしまうからな。
怪しい人がいたら近寄らないことは幼稚園生でも分かりきったことだ。
俺もその教育を受けてきた身であるため、体が自然に拒否反応を示すことにした。
要するに机の上あるカバンを手に取り、部室をさっさと出たわけだ。

「s…ま…n」

ドアを閉める間際で古泉が何かを言っていたようだが、俺の聴覚は言語として認識することができなかった。
今更何を言っても後の祭り。
騒ぐだけ騒いで後片付けもしない祭りなんざ、すぐに廃れちまえばいい。

さて、プライバシーが保たれた家でゆっくりこれからのことでも考えるか。


87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:13:03.48 ID:aGFqeO+U0

***************

自分の部屋に入るとシャミセンが俺のベッドで丸く縮こまっている。非常に知識豊富な、それでいてバリトンボイスな三毛猫さんの睡眠を邪魔したくはないが、残念ながらここのベッドの所有権は俺だ。
今回は俺のしたいようにさせてくれ。

「すまんが、横になりたいんだ。しばらく他へ行っててくれないか?」

「…了解した。ゆっくり休むといい」

サンキュー、シャミセン。
あとでネコ缶をサービスするよ。


88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:15:24.49 ID:aGFqeO+U0

あーあ…。なんか嫌な展開になっちまった…。
この前までの騒ぎがまた起こらなければいいが。
世界が改変され、失意のどん底に送り込まれてもがき苦しんだあの12月18日の出来事。
それ以来やはり、刺激がある世界の方が面白いのは当然と思うようになった。
しかしこうもアイツと言い争ってギクシャクするのは、はっきり言ってお断りだ。
世界、いや宇宙の中心に立つ団長様を取り巻く摩訶不思議な怪奇現象、SF小説顔負けのタイムトラベルといったおおよそ一般人が経験しないであろう貴重な思い出が、俺の人生の冒険章を形作っており結構面白い。
それはこの世界に帰還してきたからには認めなくてはならない。
ハルヒ、長門、朝比奈さん、それにストーカー気質のある古泉…こいつらがいるからこの世界は面白い…はずなんだ。
あの世界で感じた孤立感はもう二度と味わいたくない。
背に腹はかえられない。
今の状況を他人の力で解決しないで、なんとか解決方法を自分の力で編み出さなくては。


89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:17:24.91 ID:aGFqeO+U0

そもそもアイツは性格が子供じみている…。
ということは、あいつが子供なら俺が大人な対応を試みてあやせば良いってことか。
だが、妙にませたガキに大人な対応をしても、逆に返り討ちに合う可能性がある事も危惧しなければならない。
あいつのことだから、駄々をこねる可能性が高いのも考慮すべきだな。
それに、俺が懸命に和平を結ぶようにすれば多分アイツも乗ってくる。
ペリー提督のように圧力的な交渉は出来ないが今までの経験上、早めに行動に出れば面倒くさいことにはならないはずだ。
よし、明日はそれで行こう。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:21:06.41 ID:aGFqeO+U0

***************

ハルヒとの揉め事があった次の日の朝。
制服に着替えて台所に行くと、朝のトップニュースでスパイダーマンやMIBが実在したとテレビがほざいている。
が、興味が沸かずして家を出た。
こんな朝っぱらから番宣やら特別企画、ハリウッド俳優を繰り出しても視聴者は食いつくとは思えん。
日本のテレビ界の将来を危惧しつつ心臓破りの坂を乗り越え、やがて授業開始直前に教室についた俺は、自分の席にまっすぐ向かった。
俺の後ろの席にいるハルヒは相変わらず窓の方に顔を向けたまんまで、体中に不機嫌オーラをまとっている。
これほどオーラを具現化出来るなら麦わら一味に加われるかもしれん。
だが、昨日の会話だけでなんでオーラを発するほど覚醒できるんだか…。



91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:22:57.92 ID:aGFqeO+U0

とりあえず俺は昨日ベッドの上で考えた大人な対応をする自分を、頭の中で何回もリフレインし、着ているコートを椅子の背もたれに掛け、ゆっくりと腰を下ろした。
そして俺は腹を決め、計画実行に移った。
振り向くとハルヒは頬杖をつき、眉間にシワを寄せてグラウンドを見下ろしている。

「おい、ハルヒ」

「…」

「昨日は悪かったな」

「…」

「俺が昨日言ったことは本気だ。冗談なんかじゃない」

ここから自分の正当性を語ろうとしたが、ハルヒが顔をチラッとこっちに向けてきたため、一旦俺は口を閉じた。


92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:25:11.76 ID:aGFqeO+U0

「…一日考えてそれ?」

表情も機嫌も変えずにハルヒは吐き捨てるように言う。

「だから、俺の本心を伝えただけだ。本当に悪気など一切ない」

「もういい。前向けバカキョン」

そしてハルヒはまたグラウンドを見下ろし憂鬱な表情になった。
これ以上言っても何も変わらない。
そう判断した俺はハルヒにしたがって、岡部教諭の教卓ポジションに目を向けることにした。

一夜で練った計画は残念ながら失敗に終わったようだ。
素っ気ない態度で会話が終了したことから考えると、ハルヒの求めていたものと根本的に間違っているらしい。
俺が自分の非を認めれば収まるものだと思っていたが、実際はもっと別なところに答えが隠されている、と考えるのが妥当か。
ゴッドハンドを使って隠された答えを掘り起こしたいが、探す場所に検討をつけなければゴットハンドを活用する事は出来ない。
何だ?
ハルヒが求めているのは何だ?
俺はアイツに何を…?


93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:26:44.62 ID:aGFqeO+U0

……こうしてみるとなんか、俺っていつもハルヒに振り回されてばかりだな。
生活の中心がハルヒであるからなんだろうが、せめて自分のためになる時間も欲しい。
あぁ、俺が我侭であるのは分かっている。
ハルヒよりも子供じみているのかもしれない。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:29:13.32 ID:aGFqeO+U0

今まで過ごした俺の高校生の半年とちょっとは、他人の人生よりも起伏が激しく、その分メリットとデメリットが多数存在した。
それは人生において一番戻ってみたい時代と言える幼少期とほぼ同等な質であると自負している。
その子供時代に感じた無限の可能性、これが包括された時間を現時点の俺たちが確保するためには他の予定を変更、埋め合わせをしなければならない。
ずっと楽しいままでは天秤がプラスの方に傾き、平衡状態が保たれない。
それなりに辛く、厳しいことで埋め合わせなければならないんだ。
いつまでも子供を気取っていても、いつかは大人に成長しなければ、その後の人生で遅れを取ることになる。
しかし、俺も一介の高校生であるからにして一人で過ごす時間も欲しいのだ。
子供と大人の中間にあたる存在であるから、一人で考えに耽りたい。


95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:30:06.83 ID:aGFqeO+U0

まぁ要するに、スケジュールという概念があるかないかで、子供と大人の境界線が形成される…と言いたいだけなんだがな。
とにかく、ハルヒは人のことを思いやるという概念がないから子供であり、俺も自分の事しか考えていないから子供なんだ。

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:32:34.54 ID:aGFqeO+U0

***************

放課後。帰りのHRが終わるとハルヒはさっさとどこかに行ってしまった。
俺は休憩時間に何度もキズの付いたCDのように「なぁ」とアイツに話しかけたが、まるで無意味だった。
無視されることは慣れたもんだが、ハルヒの場合は洒落にならん。
気に食わなかったらすぐにでも世界改変をしてしまうだろうし、ひょっとすると俺の存在さえも消してしまうのかもしれない。
例えるとするならば、ある人が吊り橋を渡っているときに前後から猛獣が襲ってくるような感覚か…。
その猛獣に挟まれた人にタケコプターといったチート道具が存在すれば難なく窮地を抜け出せるのだろうが、利用すればいずれあのいつも黄色い服を着たメガネ小学生のように罰当たりなことがあるはずだ。
奥の手は最後までとっておかなければならない。

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:36:54.58 ID:aGFqeO+U0

今後の対策をたてるためにあの三人の内の誰かに相談するだけなら、さすがに罰当たりはないだろうと考えた俺は文芸室へ向かう。
はっきりとした答えを見いだせないわだかまり状態でいると、部室棟の階段を上っている途中で足元から冷たい風が吹き上がり、俺はたまらず身震いした。
上半身が無理なら下半身から攻めようと北風共が妙な知恵を働かせやがった事で、身の危険を察知した俺は歩を早めることに。
ハルヒが居るのではないかと若干心配したが、ここまできたら当たって砕けろ、だ。
意を決して部室のドアを3回ノックすると、予想外に舌足らずな甘い返事が聞こえてきた。

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:40:10.85 ID:aGFqeO+U0


「はぁ〜い」

なんとなんと。
閻魔大王が俺を裁くのかと思いきや、分け隔てなく接してくれる現代のナースの天使様が出迎えてくれたではないか。
朝比奈さん、貴方のおかげで俺の表情筋の緊張が少し解れましたよ。

「あれ、朝比奈さんだけですか」

「はい。古泉君は生徒会室で長門さんは掃除当番ですよ」

「古泉が生徒会室?」

「うん。なんか用事があると言って…」

生徒会か…。まさかアイツ、この期に及んで生徒会長に立候補するんじゃなかろうな。
そんでもってSOS団の知名度を上げてハルヒの機嫌を良くしようとする算段、といったところか。
まぁアイツは何でも上手くこなすから心配することはないな。


100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:42:26.16 ID:aGFqeO+U0


「涼宮さんは…えーっと…その、わかりません」

「…そうですか」

やはりサボったか…。
大方予想はしていたが、こうも顔を会わせてくれないと如何せん関係修正が進まん。
俺の答えは言ったはずなのに何が問題なんだよ。
女性経験が乏しいという恥ずかしい黒歴史も明かしてやったというのに。

「あのぉ、キョン君?」

「あぁすいません、ボーっとしてて…・。どうかしましたか?」

「えと、聞いちゃいけないのかもしれないですけど…」

「朝比奈さんなら何を聞いても答えますよ?」

もじもじしながら上目使いでお願いしていらっしゃる朝比奈さんは破壊力抜群です!
ずーっと見てると石化してしまいそうだ。
いや、変な意味はない。
緊張しすぎて体が強ばるだけだ。


101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:48:03.63 ID:aGFqeO+U0


「あ、ありがとう。じゃあ聞くけど…」

「涼宮さんと、その…仲良くしてくださいね?」

「…」

状態異常で攻めて来たと思いきや、朝比奈さんはいきなりアルテマを放ってきました。
くそ、朝比奈さんから来るとは予想外だ。
俺から話を切り出せばいくらでも誤魔化しようがあるが、朝比奈さんが俺に聞いてきたっていうことは、ハルヒが昨日の時点で話したということになる。
ここでの下手な嘘は禁物だ。
朝比奈さんにだけは、絶対に嫌われたくない。

「あっ、やっ、ごめんなさい…。いきなり変なこと言っちゃって…」

別に変なことではないのですが…。
貴方に語弊がないようにどう伝えればいいか、俺の錆び付いた脳を今もの凄く働かせています。



102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:50:57.14 ID:aGFqeO+U0


「…でも、こういうのはあまり長く引きずるのはいけないかなぁって、私思うの」

「はぁ…」

「…キョン君も色々あって大変だと思うけど、アドバイスくらいなら私もしてあげられるから、その…元気出してください…」

「…」

「…」

辛い。
ここで『すみません』とか『ごめんなさい』を重複して返事するのもいいが、余計に勘ぐられて心配をかけてしまう事になりかねない。
とくに朝比奈さんは…。
俺を必死に慰めようとしている健気な朝比奈さんをそこまで気を遣わせるわけにはいかん。
フル回転した俺の脳がなんとか導き出した搾りカスのような返答を口から出そうとすると、ドアから木の引っ掛かるギィという音がした。


103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:52:42.78 ID:aGFqeO+U0


「ど、どうぞぉ」

いきなりのことで驚いたであろう朝比奈さんが、外にいる誰かに声をかける。

「遅れてすみません」

「…」

ニヤけスマイル少年とクール文学少女が部室においでなすった。
二人が入ってくるのと同時に部屋の中に冷気が伝わり、俺は古泉に早くドアを閉めるよう促した。
お前らはコート着て暖かいのだろうが、俺は制服で朝比奈さんに至ってはナース服だ。
…今後のためにこれからもっと寒さが厳しくなるし、追加の暖房器具を部費で今度買うことにしよう。
女性陣、とくに朝比奈さんが風邪を引いて仕舞われたら可哀想だ。


104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:55:16.95 ID:aGFqeO+U0


朝比奈印の暖いお茶を全員に行き届き、各々が定位置につく。
俺がスーパー朝比奈緑茶を2,3口含むと、やがて古泉が口火を切った。

「生徒会のボランティアに参加してたので遅れてしまいました。申し訳ありません。ところで、先ほど朝比奈さんと話されていたようですが…何かあったのですか?」

「えーっと、ねぇ…、キョン君?」

「…ただハルヒの事で相談してただけだ」

「そうですか…」

そんなに人の話が気になるのならお得意の盗聴をすればいいのに、と言いかけたが、これは朝比奈さんにはちょっとばかしキツい。
そう判断した俺は古泉に対して冷めた視線を向けるだけに留めた。



105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:56:41.08 ID:aGFqeO+U0

***************


「…オセロでも?」

「する気にならん」

「んっふ。そうでしょうね」

断られたのに何故笑うんだ。胸糞悪いな。
古泉は次にボードゲームの誘いをしたが、俺が丁重に断ることでヤツの機嫌取り計画は失敗に終わったようだ。
その時、本の閉じる音が部室の空気を変えるかの如く響いた。

「…あなたはなぜ否定した?」

「ん?」

俺は長門の方に目を向ける。
閉じられた分厚い本を太腿の上に乗せており、顔は真っ直ぐ俺を見ている。
私に嘘ついても無意味、とでも言いたいのだろうか。


106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 01:59:13.12 ID:aGFqeO+U0


「古泉一樹の提案をなぜ否定した?」

「いや、やる気がないからであってだな…」

「今のあなたには精神的、身体的な負荷が通常よりそれぞれ、13%と7%分増えている。
血圧、神経伝達、代謝、これらのことを考えると明らかに今のあなたは正常とは言い難い。
そのような状況になるほど、地球上の生命体は否定的な考えに陥りやすくなると本にあった。…なぜ?」

ちゃんと勉強して俺の事を心配してくれることは非常に喜ばしい事だが、残念ながらその本は日本人にしか当てはまらんと思うぞ。
外国の連中は些細な事を魔法の言葉の『HAHAHA!』で片付けられるからな。

「いまいち言っている事がわからんのだが…」

「長門さんはあなたのストレスの原因を聞きたいのですよ」

返答に困っていると古泉が横槍を入れてきた。
今のお前にフォローされても何も嬉しくない。


107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 02:01:26.35 ID:aGFqeO+U0


「お前には聞いとらん」

「おやおや、失礼しました」

困った顔をしながら古泉は笑顔を振りまく。
そこまで器用に表情を作れるのなら、コロッケ師匠に弟子入りすればいい。
お前なら一瞬で五木さんのモノマネを会得できるぞ。

俺の脳内でツッコミを入れている時にも、長門はその液体ヘリウムのような目を始終向けてくる。
相談するだけなら…エラーは大丈夫だろう。

「…おれもよくわかんねぇ。ハルヒが怒った理由、未だによくわからん。
本当にどうもわからん。いざ謝ろうとしても向こうは怒るだけの、暖簾に腕押しのような感じだ。
全く、どうすればいいのかわからん。その事が今も引っかかっている」


108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 02:03:57.30 ID:aGFqeO+U0


わからん、を連呼して話す内容が滅茶苦茶になってしまった。
本来ならそう連呼すべきではないことは分かっている。
頭で分かってはいるが、口に出てしまう。
頭の中で代わりとなる言い回しを検索かけてもヒットしない。
こんな悪循環のせいで今の俺の脳は試験勉強の一夜漬けが終了した時のオーバーヒートした感覚に酷似している。

「ほう…」

「ふぇぇ」

「…」

三人の個性的な返事を聞く限りでは、正しく理解してくれたか分からない。
しかし、どう伝えればよいのだろうか。
こんな時、ドラえもんのツーカー錠があれば何とでもなるのに…。
だからといって、長門に作るように頼むつもりは毛頭ないがな。


109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 02:06:32.22 ID:aGFqeO+U0


「なんかすまない。こんな空気にして」

「んふっ、別に構いませんよ」

「そうですよぉ。困ったときは助け合うものですぅ」

「…」

苦楽を共にした仲間たちが俺を励まし、ここで生まれた友情パワーはうんたらかんたら、といった少年漫画のようにはならないが、実際に言葉で表現してくれると素直に安心できる。
自分が持っている、または伝えたい思いを体の中で溜め込むだけでは相手にはもちろん伝わらない。
よく聞く、『男は黙って』という言葉はこれに反故する。
だから人と人が円滑な関係になるには、面倒でも口に出す必要があるのかもしれない。
表現するのは難しいが、つまり、言葉を大切にする…という事なのだと思う。

「みんな、ありがとう。――だが、古泉。お前は許さん」

「…これは手厳しいですね」


110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 02:08:11.36 ID:aGFqeO+U0


***************


「さて、どうすれば涼宮さんの機嫌が直りますでしょうか?」

ハルヒの話になると俄然やる気モードになる古泉。
雰囲気がまるで一部上場会社のお偉いさんが命を賭けて新プロジェクトを立ち上げるかのようだ。
お前、本当に高校生なのか?

「俺が考えたのは正面で謝ることだ」

「それが一番シンプルでいいかと思いますぅ…」

「ですね。しかし、涼宮さんが聞く耳を持ってくれないと」

「ああ」

朝比奈さんと古泉には理解してもらえたようだが、長門はどうなのか?


111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 02:09:37.47 ID:aGFqeO+U0


「長門はどうだ?何か解決策はあるか?」

すこし顔を下に向けてから5秒ほどで再び顔を上げ、長門は答えた。

「プレゼントをする…」

「……はい?」

「雑誌にはそうあった」

どんな雑誌を読んだのか非常に興味を駆り立てられるが…ハルヒにプレゼントだと?
団長への単なる賄賂になってしまわないか不安だ。
いやまて、そもそも長門がこんなアドバイスをするなんて、正直驚きを隠せない。
…相談したことで早くもバグが発生してしまったか?


112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 02:11:17.78 ID:aGFqeO+U0


「なるほど、プレゼントですか。しかし、今の涼宮さんは果たして、あなたのプレゼントを受け取ってくれるでしょうか?」

「わからねぇな」

「うーん、キョン君の心がこもっていれば大丈夫だと思うけど…」

「心がこもれば大丈夫なのは確かです。しかし、いきなりプレゼントだ、と言われても涼宮さんは困惑してしまうでしょうね…」

他人の気持ちは他人しかわからない。
百人がある一人の考えを予想しても外れることが多々ある。
一般人であればミスを冒しても関係を修復できる可能性があるが、ハルヒの場合はそう上手くはいかない。
特にこの状況下では百発百中で解決せねばならん。
早めに相談して一人で考え込まなくて良かった、と心底俺はホッとした。


113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 02:12:49.47 ID:aGFqeO+U0


あーでもない、こーでもないとしばらく議論を重ねるうちに、また長門が吃驚仰天な発言をした。

「あなた」

「うん?」

「あなたがプレゼントになる」

「…」

おいおい、今日の長門さんはどうしちまったんだ。
他人の感情を理解するのも大切だが、少々オーバーじゃないか。

「んっふ、そうですね、いいかもしれませんね」

「おい、勝手に話を進めるな」

古泉が乗り気になっているので俺は諌めようとする。


115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 02:14:49.06 ID:aGFqeO+U0


「長門さんはこの前の返事を返すようにと言ったのですよ」

「だったらなんで俺の体が生贄になる必要になるんだ?」

「そういえば、涼宮さんはこの前B級映画を鑑賞したらしいですね」

「それがどうした」

「例えば…そうですね、主人公とヒロインが海辺で云十年越しの再会を喜び合うシーンを想像し
てみてください。そして互いの間には10m程の距離がある」

「描写がいちいち細かいぞ」

「そこではなにが起こりましたか?」

「知らん」


116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 02:18:31.28 ID:aGFqeO+U0


「そうおっしゃらずに」

「…名前を呼び合ってる」

「その後は?」

「走って近づいて、抱きしめて…そのまま男が女を抱いたままクルクル回って…」

「ストップ」

「ん?」

「今の中にヒントがありましたよ」

「クルクルか?」

「残念ながらそうではありません。その一つ前の行動です」

「抱きしめて…?」


117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 02:20:25.66 ID:aGFqeO+U0


「ご名答です。少なくとも涼宮さんはその映画のヒロインと自分を重ね合わせるでしょうから、効果はそれなりにあると思います」

「ひぇ〜」

朝比奈さんの両手がマシュマロみたいに柔らかそうなご自身の頬を支えている。
あぁ、触ってみたい…という妄想は止めにして、俺は古泉の提案に含まれている疑問点を並べてみた。

「ちょっと待て古泉、俺の体プレゼントと映画の共通点がはっきりとわからんぞ。それに、映画みたいに簡単にうまくいくか?すごく恥ずかしいぞ、これは」

「言いましたよね?この世界は涼宮さんによって映画の世界になってしまっていると。
あなたが涼宮さんに対して突然のアクション、例えば後ろからいきなりお姫様抱っこをしても支障を来すことは何らありません」


118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 02:25:23.66 ID:aGFqeO+U0


「普通、そんな暴挙にでればハルヒといえども驚いて反射的に殴りつけるんじゃないのか?」

「問題ありません。そもそも、今の世界では少し気恥ずかしい、まさに映画のようなことをしても世間はどうとも思いません」

「なぜそう言い切れるんだ」

「涼宮さんの力によって世界改変が行われたのであれば、その効力は絶対的です」

「…まじかよ」

だが待てよ、さっきから世界改変と連呼しているが、いつ起きたんだ?

「ちなみに…世界改変はいつ起きたんだ」

「今朝ですね。映画に出てきたヒーロー達の暴れっぷりといったらそれはもう、ハリウッド級でしたね」


119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 02:27:16.59 ID:aGFqeO+U0

「ハリウッドだと?」

「今朝のニュースはご覧になられましたか?」

「バカなテレビ局がお正月にやるような内容をやってたのを少し記憶しているぐらいだが…」

「スパイダーマンやMIBが実在した…でしょうか?」

「そう、そんな感じ…って、あれはマジだったのか?」

「残念ながらその通りです。あの後、我々機関が情報操作をして、なんとか食い止めることに成功しましたが…正直冷や汗ものでした」

「それはご苦労だったな…」


120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 02:31:13.45 ID:aGFqeO+U0


「僕の事はともかく、話を戻しましょう。先ほど申した通り、この世界は映画の世界と一体化しています。
ですので、彼女にとって大事なシーン、ここでは貴方が涼宮さんと一緒になる時と仮定しましょうか。
その時、涼宮さんの中に誰にも邪魔されたくないという心理が働き、それが原因で必然的に彼女の力が働き、
誰にもそこの空間には介入できなくなります。
だから貴方が恥ずかしく思うこともないと思いますよ。言ってみれば、ほぼ出来レースです」

「そうはいってもだな…」


121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 02:42:37.49 ID:aGFqeO+U0


理論は出来ても、いざ本番となると全く違っていました、なんて事は日常茶飯事だ。
ハルヒの力は分かるが、今のこの世界がいつもと変わらない景観だけあって、映画世界と同等だとどうしても考えづらい。
そんな時に自分の体をプレゼントだなんて……ヘタな少年漫画でも今時やらんぞ。
いや、一つはあるか…。

「不安はキョン君だけじゃなくてみんなも感じることですよぉ…?あとはキョン君の勇気があれば大丈夫だと思いますぅ」

「…あなたなら大丈夫」

…うん。朝比奈さん、長門、嬉しいよ?
でもさ、それをやると俺が俺でなくなるというか、色々と危ない気がしてならないんだよ。
ハルヒに向かって素人がハリウッド俳優並みの演技力を見せつけなければならないこの緊迫感がわかるか?
見た目は子供、頭脳も子供で迷宮入り難事件をものの見事に解決しなければならないぐらい大変なことなんだぞ。


122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 02:47:07.42 ID:aGFqeO+U0


「…ではどうです?今日実行するというのは?思い立った日が吉日と言いますしね」

「は?」

「…」

「いっ、いきなりで大丈夫なんですかぁ?」

「彼の力を信じましょう…」

おいなんだよ。まるで主人公がみんなの希望を背負って隕石から地球を守る、それこそ映画みたいじゃないか。

「おい、ふざけんな古泉」

「とんでもない。僕はこの現状を打開したいがために、貴方に賛同しただけですよ?」

「…お前、少し楽しんでないか?」

「んっふ、さぁどうでしょうか」


123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 02:50:17.36 ID:aGFqeO+U0

***************

アイツらに急かされて一先ず下駄箱に来てみた。
ハルヒの靴箱を確認するとまだ革靴が入っている。
内に秘めた怒りをプリプリ撒き散らしながらさっさと帰ったと思ったのだが、まだ校内に残っているようだ。
しかし、SOS団以外にハルヒが行く場所があるのか…いや、もしかしたら鬱憤を晴らすために他の部活に手出しをしてるのかもしれん。
ハルヒも驚きだが、まさかあの三人が俺に教唆してくるとは思わなかった。
何気に朝比奈さんも加わっていたような気もするし、長門も雑誌なんかで知識をつけてくるとはな。
文学物しか読まないと思っていたが、普通に女子高校生が買うような雑誌を買って読む長門、か。
人並みの感情を手に入れられるのもそう遠い話ではないな。
だがしかし、このままでは長門の自立進化とやらの方向性がどことなく間違っているようにも…。


「そこでなにやってんのよ」


124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 02:59:45.40 ID:aGFqeO+U0

脳内会議でディベートに次ぐディベートを敢行し、思慮を巡らせていたその時、後ろから女が声をかけてきた。久しぶりに聞いたような耳に残る、明瞭な声だった。

「…ん?」

振り向くとそこには、腕を腰にあて、まとわりつくような眼で俺を睨んでいるハルヒがいた。まるで俺が変態で或かのように…。

「…」

「いや、これはその…」

「…」

「…なんだよ、靴箱漁ったりなんて事はしてないぜ」

「私はストーカー、変質者、嘘つきが大っ嫌いなの。分かったらそこどいて」

「ちょっちょとまってくれ!」

俺は本能的に腕を強く掴む。
一瞬ハルヒが手を引っ込めようとしたが、俺は離さない。
ここで逃したらチャンスは無い。


125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 03:04:48.18 ID:aGFqeO+U0


「…何よ靴箱漁り」

「…あー見てた…のか?」

なんという失態。
ちょっと俺なりに積極的に腕を掴んだはいいが、先の変態行動を見られたとなると俺はただの変質者。
このままでは勘違いされたまま、ハルヒの嫌いな部類に属してしまう。

「もう、さっさと帰らせてよこの変質者」

そう言うとハルヒは俺の腕を払い、校舎から出ようとした。

「おい!待ってくれ!」

「変質者に『おい』って言われて立ち止まる私じゃないわよ、じゃあね」

無難に声をかけても無駄なら、仕方ない。
こんなときにこそ奥の手だ!


126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 03:14:22.96 ID:aGFqeO+U0


「なっなんでも奢るぞ!」

「…」

「特大パフェでもなんでもいいぞ!」

「…そんなんで引き止めることが出来ると思ってんの?」

ジョンだとバラすかと思ったか?
バカ言え、こんなたわいもない喧嘩にモノホンの奥の手を使ってどうするんだ。
今、この状況下で最もハルヒの気を引く言葉は何だと考えると、俺はスイーツと解く。
女子高校生なら放課後友人たちと喫茶店周りをしたり、お買い物ツアーを決行するはず。
常識外れな才能の持ち主であり、多角的に監視されている超重要人物であるハルヒも、ただの女子だ。
こういった事に興味が無いわけではないだろう。
そういった考えを見事に1秒たらずで弾き出した俺も中々捨てたもんじゃないな。
だがしかし、この寒い中でパフェを売ってる店はあるのだろうか。


127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 03:19:08.85 ID:aGFqeO+U0


「…しょうがないわね。もしつまんないものだったらこれから一生罰金二倍の刑だからね」

「…!」

よしっ、かかった。
あとは――

あとはどうすればいいんだ?
よく考えると間抜けであるが、俺はハルヒを引き留めるだけしか考えていなかった。
その後の関係修復法についてはさっぱり皆無である。
さすがに古泉たちのは勇み足を通り越してると思うし、やりたくもない。
自画自賛しといてそれはねーよチキンが、と何処からか非難が聞こえてきそうだが致し方があるまい。
だが、ここでみすみす逃がすわけにもいかん。

「あっああ、望むところさ!」

焦りを感じさせないように今はとりあえずクールに振舞うように心がけるしかない。
ええい、なるようになれ!


128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 03:26:27.34 ID:aGFqeO+U0


クールに振る舞いすぎたせいか、そのまま無言で駅周辺にある公園まで来ちまった……。
気まずいことこの上ない。
今日の授業の事、谷口のアホゲーム、長門が凄い、妹がシャミセンにした事とか色々話すネタはある。
だが、俺のすぐ左を歩いているコイツの『話しかけるな』オーラが俺を萎縮させ、無言を纏うこととなった。
つまり、口が開かないのだ。
口を開こうとしたときに、存外にも上唇と下唇がくっついてしまい開けにくくなる現象、あれのような感じだ。
その100倍の力と考えればいいだろう。

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 03:28:39.23 ID:aGFqeO+U0


このくっつき異常事態はハルヒによるものだと考えて間違いない。
無言空間によってハルヒにトークのリード権を取られるのは非常に穏やかでないし、これからの展開を考えると今のこの空間はいずれぶち壊さなければならない。
しかしどうやって?

「ねぇ」

先程の俺の心配はどうやら俺の杞憂に終わったらしく、向こうから無言空間をぶち壊してくれた。
そして、いきなりこちらを向いてきたハルヒは何故だかいつもの刺々しさが20%offになっているようだ。

「どうした?」

思い通りに話せることが実は素晴らしいことなんだと、この齢になって理解することができた。



130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 03:32:35.05 ID:aGFqeO+U0


「ここにつれてきた理由よ」

「あぁ、そうだな…」

「…」

「…」

さあどうする、俺。
古泉たちが言っていたように俺の体をプレゼントするのか?
だが相手は女子高校生。
そんなことをして喜ぶのだろうか。
もし実行したとしても、今までのほぼ無に等しい俺の異性交遊経験を生かして、本当に彼女の機嫌を戻せるのか?
それならまだ言葉の方が俺の性に合っているし、まだ安全牌な気がする。
アイツらには悪いが、日常に戻すためにしっかりと自分の言葉で、相手に正しく伝えよう。



131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 03:37:16.75 ID:aGFqeO+U0


「…ねぇ早くし『なぁハルヒ』」

「…なによ」

「この前の女性経験の話の事で、だ」

「…それがなに?」

「俺は今まで、正直言って恋愛なんかしたことがなかった、って言ったこと覚えているか?
女を異性として認識しないで生きてきたというより、…なんとも言いがたいが、男女分け隔てなく、同じように人と接してきたんだ。
だからあの時の俺にはあんな返答しか出来なかった」

「…」

「今考えるとものすごく恥ずかしい事だが、あの後俺なりに考えた。『恋愛とは何か?』とな」

「……ふーん」


132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 03:42:51.20 ID:aGFqeO+U0

「気の合う二人が楽しく過ごすためか?はたまた谷口みたいに憧れの人を捕まえるためなのか?
いろいろ考えたが、今の二つが恋愛経験皆無の俺にとっての精一杯の答えだった」

「そんな時にふと、親の顔が浮かんできたんだ。そこで親たちが以心伝心のような息ぴったりの行動が目に浮かんだ」

「そこでピーンときた。確かに恋愛は『好き好き』言うのもあると思うが、それは恋愛という範囲の中でのほんの一部に過ぎないことだと思う。
最終的には何も言わなくても相手の心の内が自然と伝わる。そんな関係になろうと互いを確かめ、少しずつだが着実に理想の関係になるように無意識的に進んでいく。
互いを罵り合ったり、笑いあったり、一緒に悲しんだりもその関係にとって重要な行動の一つだと思う」


134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 03:48:17.35 ID:aGFqeO+U0


「さすがに『夫婦』という関係が絡むと別次元の話になるが、とどのつまり、それと似たような真似、
言い方が悪いかもしれないが『ままごと』みたいなそういう結婚生活に慣れるために、恋愛というものがあるんじゃないかと思ったのさ」

「…そう」

「分かってくれたか?」

「長すぎて結局なにが言いたいのかわかんない」

一生懸命に話しすぎて我を忘れたか…。

「ようするにさ」

「もういいって、だいたいフィーリングでわかったから」

「…そうか。サンキューな」

「…」

「…」


135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 03:52:42.66 ID:aGFqeO+U0

「…ほら、何かしなさいよ」

「え?」

「さっきの話の延長で、団長に言うことがあるでしょ?」

「……すまなかったな」

「わかればよろしい!まあバカキョンが反省してくれたようだし、今回は許してあげる」

ハルヒの表情がいつもの元気なものへと変化していく。
それに比例して俺も徐々に顔の強ばりが解かれる。

「…あぁ、そうかい」

「じゃあ今日から隠し事はなし!そうすれば互いにいがみ合う事なんてないでしょ?」

「あぁ、そうだな」

「じゃあ、私帰るから」


136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 03:58:55.22 ID:aGFqeO+U0


なんか…いろいろ気構えてた割には呆気ないな。

「あ〜」

「まだ何かあるの?」

「…いや、特にない」

「じゃあ明日はいつもの場所いつもの時間に集合で遅刻禁止!特大パフェも忘れるんじゃないわよ!」

そう言った後、ハルヒが元気よく小走りに去っていった。
ハルヒが元気になったと言うことは、俺たちの関係は元通りになったということだし恐らく大丈夫だ…多分。
俺はやれるだけのことはやったんだから、あとはアイツらに任せよう。

早速明日からまた活動を再開するし、もし何らかのズレが俺とハルヒの間に生じたとしても、その部分の穴埋めをこれから徐々に行えばハルヒも満足だろうに。
…とりあえずこれで一件落着というやつかな。
しかしパフェのことはちゃっかり覚えてやがったな。


137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 04:02:05.36 ID:aGFqeO+U0





…てな感じでなんとか映画世界を元の世界に戻した訳だが、今回の事で自分の思いをそのまま相手に伝えることの難しさをひしひしと感じたよ。
一生懸命に説明しても『良くわからない』と言われたり、逆に簡潔にしすぎると相手との間に語弊を生じてしまう可能性がある。
思ったことはシンプルかつ適度に纏める。
これが結構大事だ。
あと、情報はいつでもアップデートしなければならないように、自ら言葉を周囲に発信することも薦める。
そうすることで相手との信頼を得て、人間関係がより強固なものになりえるからな。


138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 04:03:41.02 ID:aGFqeO+U0

偉そうなことをダラダラと並べたが、これはSOS団と接することで学習した内容だ。
相変わらずハルヒとの意思疎通に苦労してはいるが、何事も自分の言葉で真剣に語ればきっと伝わることは分かった。
行動することも時に重要だが、言葉でしか伝わらないこともある。

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 04:07:21.70 ID:aGFqeO+U0


今でも世界中で言葉の研究は続いている。
俺の分かったことなど専門家たちにとっては当たり前すぎて反吐が出ることだろう。
しかしその研究領域における最先端をゆく専門家たちでさえも、効率的にヒトとヒト間の情報を伝えるために頭を悩ましているのだ。
さらに言語は人間が生まれてから発生したと仮定すると、数百万年も人類は言語について考え続けていることなる。
言語は終わりのない研究課題なのかもしれないが、このことに気づいた時に俺は少し、ほんの少しだがロマンを感じずにはいられなかった。


いやはや、やはり言葉は難しいな…。



140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/03(金) 04:12:01.09 ID:aGFqeO+U0


全部投稿できました。

投稿するのに必死で皆さんのレスをリアルタイムで見れなかったけど、ご指摘の通りさすがに最初の地の文は酷い…

〜た。〜た。の連続なんて今時小学生でもしないというのに、恥ずかしい限りです。

初めて書いた駄文ですが、言葉の魅力というものを感じて頂けたら幸いです。

支援してくれた皆さん、ありがとうございます。



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