1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 14:17:37.05 ID:0DOvML/zO
初SS投稿
小説は一年前に捨てちまったし、最後はだれて文体に違和感あるだろうが脳内補完で
よろしく
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 14:21:04.51 ID:yXqlOBvH0
梅雨もあけ、そろそろ本格的に夏に入ろうとする蒸し暑い日のことだった。
事の発端は一本の電話からだった。
「もしもし? 古泉です。お久しぶりです。調子はどうですか?」
受話器の向こうからは嫌に演技がかった声が聞こえる。
とても懐かしい声だった。
俺は懐かしさに浸りながら冗談の一つでも言ってやろうと思った。
「俺の調子はあいつと結婚してから狂いっぱなしだよ」
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 14:22:26.64 ID:yXqlOBvH0
・・・そう。俺は事もあろうに結婚しちまったのだ。
え?相手は誰だって?わざわざ言わなければならないのか?
・・・そうだよ。ご察しの通り、涼宮ハルヒだ。
ああ・・・もし過去に戻ることがが出来たなら当時の俺に言ってやりたい。
考え直せ、今お前はとんでもない過ちを犯そうとしているんだぞ、ってな。
しかしもう過去と今を行ったりきたりすることは出来ないし、勝手に世界が改変されることはないのだ。
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 14:23:46.91 ID:yXqlOBvH0
「フフフ。幸せそうで何よりです。」
受話器越しでも古泉のうさんくさい笑顔が目に浮かんできやがる。
「ええい忌々しい!」
全く変わらないな、お前も。
「さて、積もる話はありますがそう悠長にしているわけにも行きません。これから会えますか?」
少し真面目な口調になって古泉が言う。
俺は高校時代、毎日のように感じていた嫌な予感を久々に感じた。
「な・・・なんだ?まさか・・・」
俺はそう呟いてかぶりをふった。
まさかそんな筈は無い。そんな筈は無いのだ・・・
「そのまさかですよ。困ったものです」
受話器越しに古泉の溜息が聞こえた。
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 14:26:05.38 ID:yXqlOBvH0
今までのことを少し語ろう。
高校を卒業するとハルヒの能力は全て消えうせてしまった。
原因はわからない。
とにかく高校を卒業した途端に俺を困らしていたハルヒの能力はパッタリなくなってしまったのである。
そしてそれは同時にSOS団をバラバラにさせることを意味していた。
能力を失ったハルヒは全くの一般人となり、未来のお偉方にとっても、情報統合思念体にとっても、機関にとってもハルヒを観察することの意味は無くなってしまったらしい。
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 14:28:05.88 ID:yXqlOBvH0
だから長門はその存在を消し、朝比奈さんは元いた未来に戻り、古泉は超能力を失った。
俺は幸いにも大学に進学し、ハルヒと古泉もそれぞれ奴らに相応しい大学に進学する為にこの町を去って行ってしまった。
卒業して数年の間は3人でたまに集まったりしたが、大学を卒業し、それぞれ就職するとその集まりさえもぱったりと無くなってしまったのだった。
あんなにうるさかった毎日はとても輝かしい思い出となり、時々は懐かしんでまたSOS団の皆と会いたいなどと願ったこともあったが、新しい毎日もそれはそれで悪くないもので、俺はあの頃切に願った平穏な毎日を過ごしていた。
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 14:29:16.82 ID:yXqlOBvH0
そして高校を卒業して13年経った、つまり俺が31才の頃、そろそろ腰を落ち着かせねば、と俺は当時交際していた女性に結婚を申し込もうと思っていた。
それは実家に帰るたびに親が「早く孫の顔を見たい」などと、かなりありきたりなセリフを呟いて俺を焦らせたからでは決してない。
それにその問題はあの妹が、所謂出来ちゃった婚をしてしまったことにより解決してしまったのだ。
あの世間知らずで純粋無垢だった妹に赤ん坊が出来たと聞いたときには深く絶望したし、その後その相手の男の名前を聞いたときには温厚な俺も流石に切れてしまったものだった。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 14:30:27.44 ID:yXqlOBvH0
いや、そんなことはどうでもいい。話を続けよう。
兎にも角にも、俺は職場で知り合った聖母のような優しい心を持ち、とことん俺に尽くしてくれる、誰かさんとは真反対の女性にプロポーズしようとした。
俺は当然のごとく良い返事を貰えるものだと思っていた。ああ、思っていたさ。
だってデートで、小さな子供連れの夫婦を見るたびに「子供って良いよね」とわざと俺に聞こえるように独り言を言ったり、俺の部屋にこれ見よがしにゼクシィを置いて帰ったりするんだぜ?
誰がどう考えたってそれは俺のプロポーズ待ちだろう?異論は認めん。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 14:31:43.51 ID:yXqlOBvH0
そんな傲慢な考えを抱いていた俺はロマンチックなシチュエーションを演出しようとしてプロポーズの日を七夕に決めたのだった。
七夕当日、俺は星空がよく見える丘の上に立ち「俺とお前はさながら彦星と織姫のようだ」と言って彼女を苦笑いさせた。
そしてプロポーズした。「結婚してください」と。
しかし彼女の返事はNOだった。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 14:33:03.28 ID:yXqlOBvH0
俺は唖然とした。断られるなどとは一ミリも考えていなかったのだ。
俺は情けなくも取り乱し必死に彼女に迫って理由を問いただした。
彼女はただ「ごめんなさい」としか言わなかった。そして彼女は足早にその場を去っていってしまった。
残された俺は呆然として空を見上げた。
俺を嘲笑うかのように天の川が夜空を爛々と輝いていたのを今でもハッキリ覚えている。
それからだ、俺と、涼宮ハルヒが十数年ぶりに再会したのは。
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 14:34:55.18 ID:yXqlOBvH0
彼女に振られ、傷心した俺はその日のうちに高速をぶっ飛ばして実家に帰った。
何故だか無性に車を飛ばして、実家に行きたくなったのだ。
「キョンくんお帰りー!」
玄関のドアを開けると懐かしい声が聞こえてきた。
それはすっかり大人になった妹だった。
「その名前で呼ぶな」
そんな俺の忠告は華麗にスルーされ、代わりに妹は満面の笑みを俺に向けていた。
「やれやれ・・・」
呆れた振りをしながらも少し喜んでいたのは秘密である。
しかし俺のそんなささやかな幸せはすぐに崩れ去ってしまう。
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 14:36:10.58 ID:yXqlOBvH0
「あ、キョンwwwwチーッスwwww」
声がする方を見るとリビングの方から出てきたのは若い男だった。
男は長い髪を茶色に染めて、髭をだらしなく生やして、両耳にはピアスを何個も空けていた。
そしてよく見るとそいつは谷口だった。
「・・・うぐぅ・・・」
何度見ても、俺は言葉に詰まってしまう。
こいつは、つまり、俺の義理の弟になってしまったのだ。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 14:37:56.35 ID:yXqlOBvH0
谷口は俺に近づいてくる。その腕には玉のように可愛らしい赤ん坊を抱いていた。
俺は弟を見て、また赤ん坊を見て首を振った。
そうだ、赤ん坊には罪はないのだ。
「キョンwwww抱いてやってよwwww」
差し出された赤ん坊を俺は受け取る。
赤ん坊は俺に抱かれた瞬間に大声を上げて泣き出した。
「ちょwwwwキョンwww乃亜(のあ)泣かせんなよwwww」
そう言って男は俺の腕から乃亜(のあ)をひったくる。
「・・・うぐぅ・・・」
「アレー?キョン君どこ行くのー?」
「散歩だ!」
俺はそう怒鳴ると息を荒げながら再び家を出た。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 14:40:25.02 ID:yXqlOBvH0
「ええい忌々しい忌々しい・・・」
当ても無く俺は歩き続ける。
それはイライラしていたからじゃない。
理不尽に彼女に振られたこと、妹が土方の谷口と出来婚をしたこと、姪がドキュンネームをつけられたこと。
そんなことは最早どうでもいい。
その時俺は何故か歩かなければならないような気がしていたのだ。
そして気付くと俺はある場所に辿り着いていた。
そしてある人物を見つける。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 14:44:06.76 ID:yXqlOBvH0
強烈なデジャブに襲われる。
全く同じ光景を俺は丁度16年前の今日に見た。
しかしそれは、本当は19年前の今日の出来事なんだけどな。
「ハ・・・ハハ・・・かわんねえな・・・お前も・・・」
溜息がこぼれる。
俺は少し涙ぐんでいた。
かわらねえな。全然変わってねえよ。
良かった・・・。変わってなくて、良かった・・・。
なぁ、ハルヒよ・・・。
そこには東中の校門によじ登るハルヒの姿があった。
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:10:22.35 ID:yXqlOBvH0
「何よ、バカキョン。アホ面下げて突っ立ってないで手伝いなさいよ。じゃないと通報するわよ」
校門によじ登りながら顔をこっちに向けてハルヒは言った。
薄暗くて良く見えなかったがハルヒ30才を過ぎてるのに全然若々しかった。
20才前半と言っても通用するぐらいだった。
しかしその顔は丁度ここで出会った幼いハルヒの、つまりSOS団を作る前の時のような不機嫌な顔をしていた。
ショートパンツにTシャツとあの時と同じような服装で、変わっていたのは背が伸びたことぐらいだった。
「通報されるのはお前の方だ」
溜息混じりに言うこんな突っ込みもとても懐かしい。
俺は自然に笑みがこぼれてしまったのを必死に隠した。
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:12:19.02 ID:yXqlOBvH0
なんとか不法侵入を成功すると俺とハルヒは校庭の脇にある階段に並んで座った。
「全く・・・16年前と全く同じことやるなんて何がしたいんだお前は・・・」
ハルヒは訝しげに俺を見た。
「なんであんた知っているのよ? それに私がここに忍び込んだのは19年前よ」
「・・・!」
心臓が一瞬飛び出そうになった。
とっさに言い訳を考える。
だが一方で考える。
もうハルヒに変な力が無いのだからネタバレしてもいいのではないだろうか?
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:13:34.43 ID:yXqlOBvH0
俺はせっせと思考を張り巡らせたがそれは意味が無かった。
ハルヒは俺の顔をジーっと見るのを止め「まさかね」と溜息をついてそれ以上詮索することはしなかった。
俺がジョン・スミスだってことを言う必要はもうないようだった。
俺は安心する一方少し寂しさを感じていた。
少しの沈黙を置いて俺は口を開く。
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:15:02.32 ID:yXqlOBvH0
「今日は書かないのか?」
「・・・」
ハルヒは何も答えなかった。
「ライン引き、持ってきてやろうか?」
「・・・いい」
「何でだよ」
「・・・もうそんな年じゃないわ。今あんなことやったら本当に捕まっちゃうわよ」
「不法侵入してる時点で捕まるがな」
「・・・」
またハルヒは押し黙った。
空気がとても重かった。
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:16:23.52 ID:yXqlOBvH0
「本当はそんなこと気にしてないんだろ?さぁ俺が書いてやるから指示してくれよ。」
俺はそう言って体育倉庫の方へ向かおうとしたが腕を捕まれて止まる。
「いいってば!」
「ハルヒ・・・」
「いいのよ・・・もう・・・。そんなことしても意味無いわ・・・」
「意味無い?」
「願いなんて・・・願いなんてどこにも届かないのよ!」
ハルヒは俺に向かって叫んだ。
その目はとても悲しそうな目だった。
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:17:49.10 ID:yXqlOBvH0
俺は思った。
やっぱりお前、何にも変わってねえな・・・。
不思議とか特別なことを望んでいるけど、でも心の中でそんなのありっこないって思っている。
そんなジレンマにまだ悩んでいるんだろ・・・?
俺はやはりジョン・スミスの名を告げてやろうかと思ったが、やっぱりやめた。
例え告げたとしてもそれは過去のことだ。
「今」の特別なことを求めているハルヒを救うことにはならないと思ったからだ。
「本当にそう思っているのか?」
俺は勤めて冷静に話す。
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:19:24.62 ID:yXqlOBvH0
「・・・ええ!思ってるわ!」
「じゃあ・・・じゃあ、あの時俺たちが短冊に吊るした願いはどうなるんだよ?」
俺は自分で言って気付いた。
そうだ!そうじゃないか!
「おいハルヒ!俺たちが高校1年の七夕から今日で何年目だ!?」
俺は興奮してハルヒの肩を掴む。
「な・・・何?今まで気付いてなかったの・・・?」
そう言うとハルヒは何だか寂しそうな顔をした。
俺は興奮してハルヒの肩をゆする。
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:22:15.08 ID:yXqlOBvH0
「ちょっと・・・やめなさいよ」
ハルヒが弱弱しい声で抵抗するのも構わず俺は言う。
「なぁ!答えてくれよ!あの時ベガとアルタイルに2つの願い事を願ってから何年経ったんだよ!?」
「・・・16年よ・・・」
ハルヒは顔をそらして呟いた。
「そうだ!16年経ったんだよ!お前があの時憂鬱そうに呟いてたけど、その長い年月がもう経ったんだよ!」
俺は狂喜乱舞して叫んだ。
しかしハルヒが「だから何よ」と冷めたように呟くのを聞いて俺は何も言えなくなった。
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:24:14.40 ID:yXqlOBvH0
・・・そうだ、何で俺こんなにテンション上げてんだ・・・。
ただ偶然に、あの時から16年後の七夕の日に、ハルヒと出会っただけだ。
何をそんなにはしゃぐ必要があるだろうか・・・。
俺は力なくうなだれた。
「・・・それでも俺は思うんだ。」
「何がよ・・・?」
それでも俺は、ハルヒが、あのハルヒがこんな悲しい目をしているのは耐えられなかった・・・。
もう一度、あのSOS団団長だったハルヒのように輝いていて欲しかった・・・!
何もそれは難しいことじゃない。
(本当は俺の身の回りには掃いて捨てるほどあったが)別に不思議や秘密が無くたってハルヒはあんなにも楽しそうだったのだから!
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:25:21.62 ID:yXqlOBvH0
俺は再び元気を取り戻して言う。
「だから何だと?言いだしっぺのお前がなんてことを言いやがるんだ!願いが叶うんだよ!半額サマーバーゲンだろう!?16年てことは・・・ベガか!ベガがお前の願いをかなえてくれるんだよ!お前の願いは―」
そこで言葉が詰まる。
ハルヒの願いを俺は思い出せなかった。
もとより自分の願いすら思い出せなかった。
あんなもん適当に書いただけだったから。
「なぁ、お前の願いなんだっけ?」
「・・・何でもいいでしょ・・・」
「まぁいいけど・・・――とにかく!その願いが今日叶うんだよ!ワクワクするだろ!?」
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:27:04.84 ID:yXqlOBvH0
再び俺は空元気を振り絞る。
「叶わないわ」
「叶うさ!」
「叶わないわ!」
「叶うさ!!」
俺達は互いに譲らなかった。
そして沈黙が流れたあとハルヒは呟いた。
「じゃぁあんたが私のそばにいてくれるの・・・?」
俺は思い出した。
そうだ、こいつの願いの一つは『世界があたしを中心に回るようにせよ』だ。
やれやれ全く・・・
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:27:51.81 ID:yXqlOBvH0
とまぁこんな感じでハルヒと再会を果たした俺はなんだかよくわからない間にハルヒと付き合い、プロポーズをした。
ハルヒの返事は「遅いのよ!どれだけ私が待ってたと思ってんのよ!」といつも通りの口調だった。やれやれだぜ・・・。
俺とハルヒの夫婦生活はハルヒの願いどおりにハルヒ中心に回っていき、俺は四六時中ハルヒに振り回されていた。
ま、それも悪くは無いんだけどな。
そしてハルヒと俺が再会してから九年後の七夕の日に古泉から電話がかかってきたのだった。
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:28:44.45 ID:yXqlOBvH0
カランコロン
俺は高校時代お馴染みだった喫茶店に入ってキョロキョロと辺りを見回す。
すると二十数年前と全く変わらないスマイルをこちらに向ける古泉がいた。
もうお互いに40才なのに、古泉は全く老けていなかった。高校の頃に比べところどころ少しシワが入った程度に老いたぐらいだった。
くそっ、俺は既に禿げてきてるってのに!
俺はそんなルサンチマンを押さえ込んで席に着く。
「待たせたな」
「いえいえ、僕も今来たところですよ。本当に久しぶりですね」
「ああ、俺の結婚式以来か。」
とりあえず俺はアイスコーヒーを頼む。
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:29:58.72 ID:yXqlOBvH0
「今日もあなたの驕りでよろしいんでしょうか?」
「そんなことより早く話を聞かせろ。何でまた、今更」
俺は冷静を装っていたが内心とても動揺していた。
またハルヒの力が復活したのか?そんな不安が頭をよぎる。
「そうですね。少し考えればすぐに納得するはずです。今日は何日かわかりますか?」
古泉はいつも通り穏やかに話しだす。
「・・・7月7日だ」
「そうです。つまり七夕ですね。今日は雲ひとつない良い天気です。きっと天の川が良く見えますよ。」
「いいから続けろ。」
そう言うと古泉はわざとらしく肩をすくめる。
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:31:00.57 ID:yXqlOBvH0
「では、私たちが高校1年の七夕から今日は何年経ったかわかりますか?」
「・・・高校一年の時が15才で、今が40才だから――・・・!25年・・・!」
「ご名答!そしてご察しのとおり、あの時私たちが願った二つの願いの二つ目をアルタイルが叶えてくれるのが今日、というわけですね。」
「成る程な。それでその御伽噺の何が問題なんだ?」
あくまでのらりくらりと話す古泉に俺はイライラしながら聞いた。
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:32:48.01 ID:yXqlOBvH0
「おやおや、お忘れですか?涼宮さんの力を?彼女がそう願ったことは本当に起こるんですよ・・・」
「でも今のアイツにはもう何の能力も無いはずだ!」
「ええその通りです。今の涼宮さんは全くの無害ですよ。ただ考えてみてください。涼宮さんが願ったのは25年前。その時はもちろん涼宮さんの力は健在ですよ。その25年前の願いが今叶う、そういうわけです」
「そんな馬鹿な!」
「ええ私も誤算でしたよ。こんな時間差であの力が効力を発揮するなんて。でも思い出してみてください、9年前を。あなたは不自然に惹きつけられるようにして涼宮さんと再会したのではないですか?」
古泉は話し終えるとフーと溜息を吐いた。
「そんなことは・・・!」
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:33:52.00 ID:yXqlOBvH0
俺は思わず立ち上がる。
しかし九年前のことがふと思い出された。あの時俺は不自然に彼女に振られ、不自然にこの町に帰ってきて、不自然にハルヒの元へ歩いていた。
「つまり彼女にとって自分を中心に世界が回るということは好きだったあなたのそばにいたいということだったのですよ」
「そんな・・・」
「そして問題なのは願い事なんですよ。二つ目の願い事が取るに足らないものなら良かったんですけどね・・・」
声のトーンを落として古泉は言う。
「・・・あいつの二つ目の願い事は何なんだ・・・?」
俺はうなだれながら聞いた。
「『地球の自転を逆回転にして欲しい』ですよ。実に涼宮さんらしい願いです。」
古泉は困ったような表情を浮かべつつも愉快そうに笑った。
俺は呆れかえってもう何も言えなかった。
あの馬鹿野郎・・・。
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:35:09.15 ID:yXqlOBvH0
「地球の自転が逆回転になっても単に太陽が西から昇るだけなら何にも困ることは無いんですが・・・」
古泉はテーブルに備え付けられているペーパーにボールペンで何かを書きながら言った。
「現在地球は超高速で自転しています。時速1700kmなんてどんなスピードか想像できますか?」
「・・・」
「その自転がいきなり逆回転になるってことは・・・」
ペーパーを見ると車のフロントガラスを突き破って人が車の前方に吹っ飛んでいく絵だった。
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:37:05.43 ID:yXqlOBvH0
「成る程な・・・」
頭が痛くなった。
まさかこんな年になってもハルヒのことで頭を悩ますことになるとは。
「さてそろそろですね」
古泉は腕時計をチラリと見て言った。
「何がだ」
「僕たちが短冊に願いを書いた時間はわかりますか?」
「覚えてねーよ」
「それはですね、放課後です。今丁度ホームルームが終わった時間です。つまりあと数分で私たちが願いを短冊に吊るしてから丸二十五年になるということですよ。」
古泉はいたって冷静に喋っている。それにつられて俺も反応が遅れてしまう。
「そうか・・・てええええ!?」
俺は思わずノリツッコミをしてしまう。
51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:37:55.44 ID:yXqlOBvH0
「待てよ!つうことはあと数分で地球は逆回転に自転をし始め全ての人類は宇宙空間に放り出されるってことか!?」
俺はテーブルを思いっきり叩いて叫ぶ。周りの客が白い目で俺を見つめているがそんなことはどうでもいい。
「物理的には結果がどうなるのかは想像も付きませんが・・・」
「何でお前そんな悠長にしてるんだよ!どうすんだよ!」
俺はひどく混乱していた。狂ったように叫ぶ。
何よりこの古泉の落ち着き払った態度が理解不能だった。
「まぁまぁ、落ち着いてください。私の願い事は覚えていますか?」
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:38:54.81 ID:yXqlOBvH0
古泉は立ち上がって俺の肩を叩き座らせようとする。
「覚えてねえよ!」
しかし俺はいきり立って立ったまま叫び続ける。
古泉は困ったように肩をすくめ、仕方ないといった風に話しを続けた。
「家内安全と・・・『世界平和』です」
我ながら小市民的ですがと付け加えた。
「その願いが叶えられるとでも!?」
俺は呆れて椅子に腰を下ろした。
なおも古泉は続けた。
54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:41:06.76 ID:yXqlOBvH0
「そして『変革』を願った人がいました。」
古泉はキザに人差し指で俺の後方を指差した。
「情報統合思念体は地球よりも少しアルタイルに近いところに存在しているのでしょうか? ホラ、もう来てますよ」
「ハァ・・・?」
俺はわけがわからずアホ面のまま振り返る。
そしてその光景を見た瞬間に俺の思考は吹っ飛んでしまったようだった。
開いた口が閉まらなかった。
しばらく呆然として「ああ・・・」と呻いた。
そして徐々に思考が戻ってくると涙がポロポロとこぼれた。
「ああ・・・・」
ダメだな・・・やっぱ年取ると涙もろくなるんだな・・・。
それにしても・・・お前・・・変わって無さ過ぎだ・・・
制服姿で・・・あの時のまんまじゃないか・・・
「長門・・・」
喫茶店の入り口には高校時代の日のままの長門が立っていた。
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:42:19.98 ID:yXqlOBvH0
長門は俺の思い出のまま、全くの無表情でそこに立っている。
俺は全身が鳥肌が立つのを感じた。
「私が望む変革。それは情報統合思念体の意思に依るところ無く私が地球に存在すること。それが叶えられた。」
長門は淡々と、平坦な口調で言葉を述べる。
でもな、長門、俺にはわかるぜ。
お前、すごく嬉しそうだぞ。
俺も、めちゃくちゃ嬉しいぞ・・・。
長門・・・長門・・・!!
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:43:41.86 ID:yXqlOBvH0
「感動の再会はそこまでです」
俺は長門に駆け寄ろうとしたが古泉の真剣な声に制止させられた。
「そろそろ手を打たないと・・・長門さん、よろしくお願いします。」
「了解した。」
古泉は真顔で長門に目配せをすると長門は頷いた。
「どういうことだ・・・?」
俺は状況が全くわからずにいた。
「とりあえず外に出ましょう・・・。これは長門さんに頼るしかありませんが・・・。」
58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:45:04.12 ID:yXqlOBvH0
俺は二人分の会計を済まして外に出る。先に店を出た二人は懐かしい駅前の広場にいた。
多くの人が行き交う中、長門は物々しい雰囲気で何やら呪文のようなものを口走っている。
それは恐らく何かのプログラムを起動させているのだろう。
「長門は何をしているんだ・・・?」
俺は古泉に聞く。古泉はまだ真剣な表情のままだ。
「ブラックホールを作っているんですよ。」
「ブラックホール!?」
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:46:02.33 ID:yXqlOBvH0
「ええ。涼宮さんは光年と言いましたね?つまり我々の願いは短冊という光信号として地球からアルタイルに送信され、その願いを叶える情報がまたアルタイルから光として今地球に向かっているんですよ」
「・・・ああ・・・」
「つまり、願いが叶えられるのを防ぐにはその光を地球に届かなくしてしまうしかないんですよ。その手段が・・・」
「ブラックホールというわけか・・・!」
「ええ。ブラックホールは光すらもその重力で吸い込んでしまいますから」
そうこう言っているうちに長門は両手を胸の前に上げ、二つの掌を向かい合わせる。するとその掌の間にとても小さなBB弾にも及ばないほど小さな球状の黒い物体が現れた。
「うお!!!!!」
その瞬間辺りが大地震のように激しく揺れた。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:47:00.84 ID:yXqlOBvH0
「ブラックホールは極めて強い重力を持つ天体なのです・・・!だからあんな小さなブラックホールでも・・・長門さん・・・!!」
激しい揺れの中、古泉が叫ぶと長門はこっちを見て小さく呟いた。
「作成完了」
そして右手を空に差し出す。
すると豆粒大のブラックホールはものすごいスピードで空を上昇していった。
上空にところどころ浮かんでいた雲は一切無くなった。
「・・・」
俺達はしばらく空をぼーっと見上げていた。
61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:48:23.88 ID:yXqlOBvH0
そしてしばらくして長門が口を開いた。
「もう大丈夫。涼宮ハルヒの願いを叶える情報を含んだ光はブラックホールに吸収されてブラックホールごと消滅した・・・」
そう話し終えると長門は貧血でも起こしたかのようにふらついた。
「長門!」
俺は駆け寄って抱き支える。
いつか教室で抱いた時の感触と全く変わらない。
「問題ない。ブラックホールを作成するには膨大なエネルギーが必要。回復はじき完了する。」
「長門・・・またお前に助けられたな・・・」
俺はまた涙ぐんでいた。
その顔を長門は表情のない目で見つめる。
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:49:30.84 ID:yXqlOBvH0
「問題ない。それにこれは私が望んだこと・・・あ・・・」
長門は何かに気付いたように顔をペタペタと触った。
「エネルギーを消費しすぎた。老化現象が起こる。」
そう言うと長門の顔に徐々に皺が入っていった。
「すぐに修復する。」
「いや、そのままが良い。」
俺は長門が修復しようとするのを止める。
「長門も俺たちと一緒だ。その方が自然だ。」
「そう」
俺は長門が微笑んだような気がした。
それは多分俺の思い込みなんかじゃないような気がする。
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:55:01.35 ID:yXqlOBvH0
ともかくこの騒動もまた高校時代のように何事も無かったものとして落ち着いたようだった。
俺は安堵の溜息を吐くと同時にこんな不思議にまた巻き込まれてしまったことを嬉しく感じた。
「ハハ・・・それにしても懐かしいな・・・!」
落ち着いた俺は改めて長門と古泉を交互に見る。
二人とも少し老けたけど何にも変わってない。
自然に笑みがこぼれる。
そして俺は思いつく。
「そうだきっとそこら辺に・・・」
俺は近くの木の茂みの裏を覗いてみる。
「ほらやっぱり」
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:55:47.95 ID:yXqlOBvH0
「おやおや朝比奈さん、お久しぶりです」
「朝比奈みくる・・・」
白いワイシャツに黒のタイトスカートというこれまた懐かしい格好をした朝比奈さんがそこにはいた。
もう朝比奈さんも41才のはずなのに、かなり若々しくて、それでいて大人の艶かしさも備えていて恐ろしく美しかった。
本当に色気がムンムンと放たれている。俺はこんな美しい熟女をはじめてみた。
いやそんなことはどうでもいい!俺は何を考えているんだ!
俺はブンブンと首を振って冷静を取り戻す。
それにしても、もう朝比奈さん(大)と呼ぶのは正しくないだろう。
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:57:41.52 ID:yXqlOBvH0
朝比奈さんはなんだか申し訳なさそうに茂みから出てきた。
「皆さんお久しぶりです!ごめんなさい・・・今日のことは全部知っていたんですけど・・・私にはどうすることも出来なくて・・・」
朝比奈さんはペコペコと頭を下げた。
俺は笑顔で言った。
「いや、いいんですよ朝比奈さん。久しぶりに会えただけでも本当に嬉しいですよ」
「キョン君・・・」
「さぁこれでSOS団が全員集まったわけだ!よし、今からハルヒを呼ぼう!」
俺はポケットから携帯電話を取り出した。
「わあ涼宮さんと会えるんですね!」
「本当に奇跡ですよ。誰かが願ったのでしょうか。またSOS団が集まれるように、と」
「・・・ユニーク」
皆あの時と全く変わっていない。
俺は改めてそう思った。
67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 16:58:59.54 ID:yXqlOBvH0
奇しくもあの駅前で俺達団員ははSOS団団長を待つ。
なぁ、最後に来たやつはどうなるか覚えているよなハルヒ?
だけど俺一つだけ気に食わないことがあるんだ。
9年前の今日、俺とハルヒが出会ったのは全部お前の願いで俺の意思はゼロだったのかってことがさ。
俺は意地でも否定するぜ。多分、俺もお前に会いたいと思ってたから会えたんだと思うんだ。
だって16年たっても25年たっても俺は金も持ってないし犬が洗えるぐらいの庭付きの一戸建てなんか持ってないぜ。
つまりベガもアルタイルも結構いい加減ってことだ。
「さてと、今年は何を願おうかね」
俺は空を見上げた。青空の向こうで光っているであろうベガとアルタイルに思いを馳せ、俺の願いを一つだけ叶えてくれたベガに感謝しながら。
完
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/15(月) 17:01:08.87 ID:yXqlOBvH0
誰か見てるのかしらねーけど見てたらありがとう。