1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/06/23(木) 16:59:06.72 ID:WcBat1gQ0
しんしんと雪が降っている。
硝子の向こうに見えるそれは、ひどく美しく眩しい。
「ねえ、キョン」
懐かしい響き。
何時ぶりだろうか。
「久しぶりだな、そう呼ばれるのも……。どうした?ハルヒ」
負けずに懐かしい呼び名を震わせると、彼女は頬を赤らめる。
「ふふっ。ううん、呼んでみたくなっただけ」
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/06/23(木) 17:00:01.21 ID:WcBat1gQ0
柔らかな声と、その台詞。
胸を擽られている様だ。
「……ハルヒ」
「あら、なあに?呼んでみたくなっただけ。とかだったら許さないわよ?」
「愛してる」
「……もう」
「世界中の誰よりも、愛してる。ハルヒ以上の女なんて、この世にもあの世にも居やしないさ」
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/06/23(木) 17:01:01.62 ID:WcBat1gQ0
「……」
ふい。と顔を背けてしまったが、朱に染まった耳が隠しきれていないぞ。
たまには良いだろう。こんな、歯の浮く様な台詞を言っても。
「私ね……大学生の頃、高校生のキョンに会ったのよ」
ああ……そうか。
「あら、信じてないの?酷いわ、ずっと連れ添った伴侶を疑うなんて」
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/06/23(木) 17:01:49.44 ID:WcBat1gQ0
紅茶を一口啜る。
立ち昇る穏やかな香りは、懐古的な気分を助長させる。
「まさか、一つも疑わないさ。事実、それは紛れもなく俺だからな」
パチパチと、暖炉が音を鳴らしている。
火はゆらゆらと揺れながら、極上のBGMを奏で続ける。
年老いた二人には、派手な音楽なんて必要ないさ。
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/06/23(木) 17:02:34.09 ID:WcBat1gQ0
「でしょうね……。ちょっと幼くて……それは制服を来て居たのもあるかもしれないけど、紛れもなく私が大好きなキョン、あなたそのものだったわ」
全く今日はらしく無いな。
一体何が、二人をこんな気分にさせるのだろう。
「本当に、キョンは不思議な人……。普通な様で、全然普通じゃないのよ」
ハルヒが一番普通じゃなかったさ。
今じゃ見る影もないけどな。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/06/23(木) 17:03:41.06 ID:WcBat1gQ0
「あの頃はまだまだ子供だったのよ……。でも、本当に楽しかった」
「懐かしいな……。あの頃」
思い出せば、いつかの景色が浮かぶ。
セピア色の風景を、あの日あの時の一言一言が鮮やかに色付ける。
「一瞬でここまで来ちゃったわ。光陰矢の如し……なんてよく言ったものね。
あんなに素晴らしい毎日が、日常だったなんて」
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/06/23(木) 17:04:15.67 ID:WcBat1gQ0
「本当だな……。付き合って、結婚して、子供が生まれて……。
あの頃は無我夢中で突っ走ったよ。俺がハルヒを……家族を守るんだってな」
胸を強く締め付けられたみたいだ。
もう、戻れないあの頃。
思い返せばいつも、どこか悲しい気持ちになる。
「キョン……」
「ん?どうした?」
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/06/23(木) 17:08:34.02 ID:WcBat1gQ0
「これからは、今日みたいに……ううん、昔みたいに、ハルヒ……って呼んでくれる?」
「ああ、勿論良いさ。もうあの子達も大人になって立派にやってる。
俺達は、また恋人同士。
あの頃みたいに、何処に行くにも手を繋いで、寄り添って歩いて行こう」
「ふふ、そうね……。キョン、大好きよ。愛してるわ」
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/06/23(木) 17:12:25.75 ID:WcBat1gQ0
口付け。
そういえば俺がハルヒと初めてしたキスは、ハルヒの心の中。灰色のあの場所でだったな。
_____眠り姫
正真正銘、ハルヒは俺のお姫様さ。
「やれやれ……」
「あ、照れてる」
照れてなんて居ない。
ただ何処か恥ずかしくて何と言って良いか解らないだけだ。
……それを照れると言うんだったな。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/06/23(木) 17:14:00.07 ID:WcBat1gQ0
「雪……綺麗ね」
落ちては、溶けて行く。
無数の記憶の欠片。
「……有希は元気にしてるかしら。古泉君も、みくるちゃんも、鶴ちゃんも」
「もうすぐ会えるさ。年に一度の、小さな同窓会で」
ハルヒの願望実現能力……高校を卒業したと同時に、その力は年に一度の七夕のみ発揮される様になった。
原因は不明。しかし、なんとなくその理由は解っている気がする。
自意識過剰みたいだから、言いたくは無いが。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/06/23(木) 17:14:57.72 ID:WcBat1gQ0
長門も、朝比奈さんも……会えるのはその日だけだ。
ああ、古泉は能力の消滅だけだった。
「楽しみね……。集まればいつも、高校の話。何度同じ話をしたって、飽きが来ないわ」
いつも、「皆に会いたい」と言うハルヒ。
決まって七夕の日に突然皆からの連絡が来る。
お陰で予定を合わせるのに苦労したのは最初の方だけだ。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/06/23(木) 17:15:46.05 ID:WcBat1gQ0
「私ね、高校に入るまでずっと詰まらなかった。
ずっと……不思議で、平凡じゃないものを見つけたかった」
「それから高校に行って、キョンと出会って、SOS団……ふふっ、今になるとなんだか恥ずかしいけど……皆と出会って」
「不思議な物なんてもう必要無かったわ。ただ皆と一分一秒を共有したくて堪らなかった」
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/06/23(木) 17:20:09.66 ID:WcBat1gQ0
泣きそうな顔。
もう取り戻せない時間に憂鬱を感じる。
不思議な事……。沢山有ったんだ、本当は。
「何より嬉しかったのは……。キョンが私に告白してくれた事かしら」
「覚えてる?あの日の事」
忘れやしないさ。
高校生活最後の日、夕暮れの部室。
古泉と長門には席を外して貰って……。
一度ゆっくりと深呼吸をしてから、ただ一言。
「好きだ」と言った。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/06/23(木) 17:22:04.42 ID:WcBat1gQ0
「……あたしも」
「その……付き合ってくれないか……?」
「……あたしと、ずっと一緒に居てくれる?」
「ああ、勿論だ」
「本当に?裏切ったりしたらギッタギタにして罰金も搾り取るわよ」
「約束する」
苦しくなる程の抱擁。
初めて、ハルヒからの。
俺もハルヒを強く、強く抱き締めた。
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/06/23(木) 17:27:15.71 ID:WcBat1gQ0
「あの時、私泣きそうだったから見られたくなくて、キョンの胸に飛び込んだのよ」
「ハルヒが離れた後の、ブレザーを見れば一目で解ったさ」
「キョンだってちょっと涙目だったじゃない」
「ははっ、バレてたか」
「私の目は誤魔化せないわよ」
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/06/23(木) 17:28:04.87 ID:WcBat1gQ0
あんなにも人を愛おしく思ったのは初めてだった。
勿論、
「今も」
「え?」
「恋に落ちたままさ」
「ふふ……私もよ」
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/06/23(木) 17:28:33.85 ID:WcBat1gQ0
見つめ合い、おもむろに手を繋ぐ。
二人は、あの日々を忘れない。
「幸せね」
「ああ」
皺の数よりもずっと沢山の、幸せを噛み締めながら。
____終わり
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/06/23(木) 17:36:39.43 ID:WcBat1gQ0
ちょっと短いかな…
一番好きなのは鶴屋さんですが、やっぱりキョンにはハルヒが一番だと思います
読んで頂きありがとうございました!
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/06/23(木) 17:38:57.53 ID:H902Ekugi
>>27
>一番好きなのは鶴屋さんですが
多分違うと思うけど・・・もみあげが異次元の人?
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/06/23(木) 17:41:33.12 ID:WcBat1gQ0
>>28
そうです