キョン「お前まさか……ハルヒの事が好きなのか?」


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1 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga] 投稿日:2010/06/14(月) 01:06:01.52 ID:2H41nCoo

思わず『お前』呼ばわりしてしまった事に対して、特に関心は無さそうにこの人は話し始めた。

「観察……そして古泉からの報告。実際に言葉を交わした事こそほとんどありませんが」

俺の目をまっすぐ見据える。

「私は、涼宮ハルヒさんを愛しております」

新川さんは、はっきりと言い切った。

「彼女の写真は、機関が撮影したものの焼き増しやデータのコピーはもちろん、個人的に撮影したものも多数所持しております」
「写真だけではなく、彼女が使用したもの……ストローや割り箸、生理用品は当然ですが、一度でも座ったベンチなどは自費で買い取り、入手しています」
「自宅に黙ってお邪魔させていただき、ブラシから毛髪を丹念に舐め取り、ベッドにある陰毛も残さず胃の中に収めます」

この白髪白髭の男性は、なんら悪びれる様子もなく、むしろ堂々と語った。

「この世の中に、私以上に彼女……涼宮ハルヒ、いや、ハルたんを愛している者はいない!」
「だから、私は君を許せない! 彼女の吐いた息を、その価値を知らずに吸っている君を許すことは!」

新川さんは懐から拳銃を取り出すと、俺の額に照準を合わせた。
俺の背中に、朝倉の時を思い出させる、嫌な汗が流れた。
口の中はカラカラで、わずかな唾液は苦い。

俺の前で殺意を剥き出しにして拳銃を突きつけている、北高の女子用制服を着た新川さんの目は、本気だった。

2 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/14(月) 01:07:06.32 ID:2H41nCoo

「やめて下さい……新川さん……!」

目の端で古泉が床に這いつくばりながら声を上げるのが見える。
別に怪我をしているわけではないが、古泉は俺の妹のスクール水着を着ている。
あんなに小さな水着を着て、まともに動けるわけがない。

その点は俺も同じだ。
といっても、立って動くくらいは問題はない。
いつだったか、森さんが着ていたメイド服を着用しているからだ。

しかし。

このメイド服は、スカートの丈が長い。
北高の制服のスカートの、普段ならありがたい短さが、今は逆に俺を窮地に陥れている。

短いスカートの新川さんと、長いスカートの俺。

おまけに、俺はスカートには慣れていない。
新川さんのように、ひらひらと揺らしながらも下着は極力見せることはない、熟達した戦士のような動きはできない。

そしてこっちは、戦闘訓練なんて受けていない、ただの男子高校生だ。
拳銃を持ったセーラー服白髭男に、逆立ちしても勝てるわけがない。

そもそも、この長いスカートの中では、今もなお、俺の愚息がギンギンな臨戦状態だ。
せめて少しでも動きやすくしようと、頭のカチューシャを取ろうと思ったが、銃口がきらりと光る。

やれやれ、八方ふさがりってやつか。

3 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/14(月) 01:08:15.39 ID:2H41nCoo

新川さんはスカートのポケットからタバコを取り出し、口にくわえた。

いや、タバコじゃない。
あれは、ハルヒが使ったストローだ。

「このストローは先週の不思議探索の時、喫茶店でハルたんが飲んだクリームソーダのストローです」
「不思議なものでね。一週間経った今でも、ハルたんの唾液の味が、まだ残っているんですよ」

馬鹿な。
そんなもの、残ってるはずがない。
一週間ということは、その間に新川さんは、ストローをしゃぶりつくしているはずだ。
だから、味がするというのならそれは、新川さん自身の唾液の味でしかない。

そう叫ぼうにも、声を出すことは出来なかった。
拳銃は、依然として俺にその銃口を向けていたのだから。

「間違ってる! 新川さん、貴方は!」

叫んだのは古泉だ。
妹のスクール水着を、必死に脱ごうとしている。
破かないのは、当然だ。
その行為は、後の楽しみ……引き裂きオナニーを実行不可能にしてしまうのだから。

「君たちは、自分がどれだけ恵まれているのか、それを知らない」
「知らない事は、それ自体が罪なのです」

新川さんはストローをくわえながら、器用に喋る。

4 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/14(月) 01:11:19.01 ID:2H41nCoo

「ハルたんと直接会う。ハルたんと普通に会話する。ハルたんと……」

新川さんの目は、どんどん細くなっていき、やがてほとんど閉じているようになった。
しかし、この状況で自分の視界を閉ざすなんて真似はしないだろう。
もし閉じていたとしても、拳銃を向けられている俺が動けるはずがない。

「君たちは、『賢者の石』というものをご存知でしょうか」

新川さんは言う。

「中世ヨーロッパの錬金術師たちが、こぞって精製しようとした完全な物質」
「卑金属を黄金に変え、不老不死を可能にする……」
「それは自然界にも存在しますが、普通の人々にはただの小石でしかない」
「子供は蹴りとばして遊び、大人は邪魔だと避けて通る」
「その、価値も分からずに」

古泉は今、この時もスクール水着を脱ごうと悪戦苦闘している。
しかし悲しいかな、勃起した陰茎が邪魔をしている。
あいつの助けは得られそうにない。

「現代の『賢者の石』。それが涼宮ハルヒなのです」
「といっても、願望実現能力などはどうでもいい事なのです」
「むしろそれは不必要と言ってしまってもいいでしょう」
「彼女の価値、それは一人の女子高校生という、ただそれのみで充分なのですから」

ハルヒの制服を――ああ、恐らくハルヒの知らぬ間に、新品と交換して入手したんだろう――、
それを着た新川さんは、一息で喋り終わると目を開いた。

「私は現代の錬金術師なのでしょう。創る事はできなくとも、『賢者の石』は見つけてしまった」
「その『賢者の石』を、その価値を理解できず、しようともしない君たちを……」
「許すことなどできない」

銃声。

8 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga sage] 投稿日:2010/06/14(月) 01:23:37.73 ID:2H41nCoo

撃たれた。
俺は反射的に目を閉じ、衝撃に備える。
しかし、痛みは襲ってこない。
恐る恐る、目を開けると、そこには拳銃を向けた新川さんが立っていた。
銃口からは、薄く煙が上っていて、トリガーが引かれた事は間違いない。
しかし、俺は怪我をしていなかった。

「……頭、ですよ」

俺は気づく。
自分の頭につけていたカチュ−シャが、外れていた事に。
いや……外されたんだ。

肩越しに後ろを見ると、白い布切れが見えた。
それは一部、黒焦げており、すでにカチューシャである事をやめていた。

「外したかったのでしょう?」

新川さんは、今までの調子を崩さずに言う。

俺は。
俺の、来ているメイド服は、森さんの着ていたものだ。
カチューシャだって、森さんの頭に装着されていたものだ。
それを。
新川さんは。

目の前が真っ赤に染まった。

9 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/14(月) 01:33:54.66 ID:2H41nCoo

奴を! 奴を! 奴を!
俺の頭の中は、カチューシャを破壊した奴を殴り倒す、その事でいっぱいになった。

激しい衝撃。

俺は床に倒れていた。
その俺に重なるように、スクール水着を着た古泉が、いた。

「ぐ……貴方らしくありませんね。幾らなんでも無謀すぎます」

俺が新川さんに向かっていった瞬間、古泉は結果を予想したのだろう。
殴る前に、脳みそをぶちまける、その結果を。

それを、こいつは自分が体当たりして止めてくれた訳だ。

「……すまん」

「いえ……お気持ちは分かりますから」

元々、スクール水着のおかげで動く事ができなかった古泉だが、
俺に体当たりをするという無茶をしたせいで、右手と両足が不自然な方向に曲がっていた。

「お前……!」

「少々、無理をしました。あばらも何本かいってしまったようです」

古泉の顔は、いつものにやけ顔だったが、びっしりと脂汗が浮いていた。
スクール水着に、その汗の染みが広がってゆく。

12 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga sage] 投稿日:2010/06/14(月) 01:47:15.10 ID:2H41nCoo

「おやおや、美しい友情ですね」

新川さんの声。
カチュ−シャの無残な姿が脳裏に浮かび、頭に血が昇る。

古泉が、左手で俺を掴む。
分かってる。
勝ち目は無いんだ、このままじゃ。

新川さんはハルヒのストローを、大事にポケットにしまい込んだ。
今の俺に分かっている事、それは新川さんが、おかしくなってしまった、それだけだ。
いや、おかしくなったのは今じゃない。
ずいぶんと前からなんだろう。
だってそうだろう? 俺を殺して、何になるっていうんだ?

少し冷静になり、新川さんを見る。
ハレ晴レユカイを踊っていた。

さすがに、組織のメンバーだけあってたいした動きだ。
ハルヒが見れば、大喜びしたかもしれん。
だが、新川さんはハルヒに会う事はできない。
なのに、完璧な振り付け。たった一人で練習していたのだとすると、あまりにも哀れだ。

短いスカートがひるがえる。
床に倒れている俺には、その中身も見えた。

パステルブルーの縞パン。
そうだったんですか新川さん。
この人の気持ちが、少しだけ分かったような気がした。

13 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga sage] 投稿日:2010/06/14(月) 02:02:03.50 ID:2H41nCoo

「聞いてください」

古泉が、俺の耳元で小さくささやく。

「僕が、足止めします。貴方はその隙に逃げてください」

馬鹿野郎!
お前を置いて逃げられるか!
それに、今のお前は左手しか動かないんだぞ!?
サイズの合わないスクール水着を脱ごうとしていて、おかしな具合に絡まって。
俺を助ける為に無理して動いて、骨折して!
もう一度言うぞ。馬鹿野郎、お前を置いて逃げられるかよ。

「ふふ……貴方なら、そう言うと思ってましたよ」
「しかし、心配しないでください。僕には奥の手があります」

なんだ、奥の手って?

「……」
「スクール水着を、引き裂きます」


お前、何を!
せっかく、俺から三十万もの金と引き換えで手に入れた、妹のスクール水着だぞ!?

「……命には、代えられないでしょう。僕と、貴方の二人分の命には、ね」
「このスクール水着が無ければ、僕はまだマシに動けます。神人との戦いでは、もっと酷い怪我で戦う事もありますから」
「だから……せめて、貴方が。貴方が、このスクール水着を引き裂いてはくれませんかっ……」

古泉は泣いていた。
そうだよな。自分で、なんて無理だよな。
分かったよ、古泉。
うまくこの地獄から抜け出せたら。
新しい、妹のスクール水着を二十八万で売ってやる。約束だ。

15 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga sage] 投稿日:2010/06/14(月) 02:27:49.09 ID:2H41nCoo

一心不乱に新川さんはハレ晴レユカイを踊っている。
もうラストスパートだ。
今しか、チャンスは無い。
やるぞ、古泉!

俺はスクール水着に手をかけた。
どこをどうすれば破れやすいのか、それは分かっている。
俺も何度もやってきたからだ。
しかし、このスクール水着は古泉のものだ。
カチューシャを駄目にされた俺には分かる。
古泉の辛さが。

「大丈夫ですよ。お気になさらず、一気に。さあ!」

俺は頷き、一気にスクール水着を引き裂いた。
布が破かれる音は、それを楽しむ時なら心地よいものだ。
しかし、今の俺にはその音は古泉の心の悲鳴に聞こえた。

全裸になった古泉は、一瞬だけ辛そうな横顔を見せた。
骨折の痛みではなく、心の痛みだ。
ああ、古泉よ。次のスクール水着は、二十七万八千円にまけておいてやるからな!

器用にも、唯一動く左手だけで、古泉は新川さんの足元に滑り込んだ。
そのまま折れた両足を、反動をつけてスカートの中に叩き込んだ。

新川さんは言葉にならない悲鳴を上げて、身体をくの字に折れ曲げる。

古泉が、新川さんが落とした拳銃を俺の近くまで滑らせる。

「それを持って、早く! 逃げて下さい!」

俺は、泣きながら拳銃を拾い、走った。
森さんのメイド服は走りにくく、またこの姿で外に出るのはどうかとも思えたが、事態が事態だ。

階段を駆け上がり、扉を開き、街中に出る。
早く、知らせなくてはならない。

17 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/14(月) 18:46:34.27 ID:2H41nCoo

外の日の光は、眩しかった。
とは言っても既に夕暮れが近く、あたりはオレンジ色に染まりかけていたのだが。

ふと見ると、買い物帰りなのかスーパーの袋を片手に持ち、開いた片手には娘だろう幼女と手をつないだ若い主婦が俺を見ていた。

しまった、メイド服は目立ちすぎる。
そう思った俺は、言い訳の内容を考えるのに、今まであまり役に立った事の無い自慢の脳をフル回転させる。

と、その時気づく。

主婦が目を大きく見開いて凝視しているのは、俺の服装ではなく、右手の拳銃である事に。
まずい。何とか言いくるめなくては。

俺は言った。
驚かせてすみません。実は演劇の練習をしてましてね?
ちょっと、仲間と喧嘩して、そのままの格好で出てきてしまったんですよ。
決して、怪しい者ではありません。

完璧な言い訳だ。とっさにしては上出来だろう。

しかし、主婦は俺の話など全く聞いてはいなかった。
息を大きく吸い込み、叫び声を上げようとしている。

俺は拳銃の照準を、主婦の額に合わせた。

銃声。

主婦の額に、黒い小さな穴が開き、彼女は何を叫ぶ事も無く、地面に崩れ落ちた。

18 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/14(月) 19:00:04.91 ID:2H41nCoo

初めて人を、それも銃で殺してしまった。
しかし以外にも俺の心は静寂だった。
罪悪感は少なく、しかし特別な高揚感も感じられない。
やるべき事をやっただけだ。

見ると、主婦の娘……五、六才だろうか。突然崩れ落ちた自分の母親に呼びかけながら、手でその死体を揺らしている。

叫ばれるとまずい。
しかし、この子まで殺す必要はあるのか?

俺は数秒、思案し、拳銃のグリップの部分で幼女の後頭部をぶん殴った。
大して力を込めていなかったのにも関わらず、その子もまた、地面に突っ伏す。

俺は周囲を見渡し、この一連の処理を誰にも見られていない事を祈った。
早く、早く。
知らせなければならない。
誰に?
何を?

ああ、古泉はまだ生きているだろうか?
新川さんの下着――縞パンが脳裏をよぎる。
そう、縞パンだった。
ならば古泉はまだ生きていてもおかしくはない。

俺は意識を失った幼女を左肩に抱え上げ、右手に拳銃を構え、走り出した。
スカートが邪魔で走りにくい。
しかし走らなければならない。

待ってろ、古泉。
俺が助けを連れて戻ってくるまで、せめて呼吸はしていてくれ。

20 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/14(月) 19:16:08.06 ID:2H41nCoo

メイド服を着た男子高校生が、幼女を担いで、片手に拳銃を持ち、全力疾走。
全く、気がふれているとしか言いようがない。
しかし俺は今だ正気を保っており、これからするべき事を忘れてはいない。
せめて狂えてしまえればいいのに。
そういう思いが脳裏をかすめたものの、理性はそれを打ち消しにかかる。
俺が駄目になってどうする。
既に、犠牲は出ているんだぞ?

俺が三十四万六千円でセット購入した森さんのメイド服のカチュ−シャ!
古泉が三十一万五千円(税込み)で俺から買った、妹のスクール水着!

それから、ただ俺を見かけてしまっただけで、命を失うハメになっちまった主婦!
俺の肩に、荷物のように担がれている幼女!

ははは!

これまで色んな不思議体験をしてきた俺だが、こうも狂った経験は初めてだ!

おぉおおおおおううううううううぅぅおおおおお!

大きく声を上げた俺は、いつの間にか、北口駅前まで来ていた。
SOS団がいつも利用する集合場所だ。
無意識のうちに、ここを選ぶとは俺はもうすっかりSOS団思考に染まってしまっているようだ。

俺の周りに人はいない。
いや、いないのではなく、集まってこないだけだ。
遠巻きに俺を見て、何やら声を上げている。携帯のカメラで写真を撮ってる奴もいるようだ。

ははは、団長さんよ。
不思議はこんなところにあったみたいだぜ?

21 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/14(月) 19:59:26.16 ID:2H41nCoo

だんだんと野次馬が増えてきた。
この分じゃ警察もくるだろう。そうなったら厄介な事になる。
しかし俺は焦ってはいなかった。
きっと助けは来る。今までの経験が、そう教えてくれる。

銃声。

俺は空に向かって一発ぶっ放した。

野次馬どもの距離が、ほんの少し遠ざかる。
俺の口からは出鱈目な、言葉とは言えない叫びが出ているようだが、知った事か。
唇の端に泡がつき、口腔に溜まった涎が垂れて、地面にぽたぽた落ちる。
気持ちが悪い。

スカートの中の俺の愚息は、今だいきり立ったままだった。
知覚が広がり、全世界が俺には理解できる。
世界は俺を認めている。
しかし、拒絶もしている。
相反する、この世界の俺に対する感情を知った俺は、本当に気が狂いそうだった。

もう、狂ってしまおうか?

そう考えたその時、
近くのモニュメント(駅前にあるこういう構造物は、何故こうも理解しがたい形状をしているのだろう?)の影から、
俺の良く知っている人物が現われた。

「キョンくん! ああ、キョンくん! キョンくん!」

朝比奈さん(大)じゃありませんか。
奇遇ですね、お散歩ですか?
何故、そんなに泣いてるんですか?
貴女に泣き顔は似合いませんよ、笑ってください朝比奈さん?

「……今から、時間移動を行い、それに伴う空間移動で、キョンくんを長門さんのマンション前まで送ります」
「ただ……それは一分前までの過去への移動。わたしの権限では、キョンくんのした行為を修正することはできません」
「後は、長門さんと相談してください。……ごめんね、キョンくん。こんな事しかできなくて」

いいえ、朝比奈さん。充分ですよ。
この野次馬どもから開放されて、長門に会わせてもらえるんですから。

俺は朝比奈さん(大)の胸の谷間を凝視しながら、心からのお礼を述べた。
胸元の星型のほくろを十六連打したい。そんな思いが、頭をよぎる。

22 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/14(月) 22:39:12.14 ID:2H41nCoo

今だに慣れることのできない時間移動の感覚は、俺に自身の正気を確認させてくれた。
俺はまだ、大丈夫だ。

目を開けるとそこは長門のマンションだった。

「わたしのできる事はここまでです。頑張ってくださいね……」

朝比奈さん(大)は申しわけなさそうに言った。

朝比奈さん、貴女は充分に俺を助けてくれました。
本当にありがとうございます。

そう言うと朝比奈さん(大)は、ようやく涙ぐみながらではあるが、花のような笑顔を見せてくれたようだ。
俺は笑顔の下の胸の谷間に夢中だったので、よく分からない。

彼女が去った後、長門の部屋の番号を押す。

『……』

長門。俺だ、悪いがまた厄介事が起きちまった。

『……入って』

マンションの扉が開く。
俺は肩に担いだ幼女がずり落ちかけているのを感じ、その意外な重みに苛々していた。
ともあれこんな所に捨てておいたら騒ぎになるのは目に見えているだろうし、
これも長門に相談すればなんとかなるだろうと自分を戒めた。

管理人室から、視線を感じて見てみると、何度か話した事のある耳の遠い管理人が、俺をおかしな目で見ていた。
そんなに俺の格好が珍しいのか?
メイド服か? 担いだ幼女か? それとも拳銃か?
こいつもあの、駅前の野次馬どもと同じだ。俺はそう思うと反射的に行動していた。

銃声。

見事に管理人の額のど真ん中を撃ち抜いた俺は満足し、急に軽く感じられるようになった幼女を担ぎなおしてエレベーターに乗った。

26 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/14(月) 23:29:42.55 ID:2H41nCoo

相変わらず殺風景な長門の部屋に上がりこんだ俺は、違和感を感じた。
目の前に座っている、北高の制服を着た長門。
これはいつもの光景だ。
というか変わらなさ過ぎて安心したぐらいだ。

問題は長門の横に座っている奴らだ。
俺より先に、この部屋に人がいた。
それも二人。

一人は男、俺と同じくらいで多分高校生だろう。白いシャツに黒いズボンの制服を着ている。
間の抜けた顔つきだと思ったが、俺だって同じようなものなので、そこについては触れないでおこう。
ウニみたいにつんつんした髪型にツッコミを入れたかったが、そこもモミアゲという点で引き分けなので触れなかった。

もう一人は女の子で、外国人だ。長い銀髪と碧眼で、美少女と言って差し支えないだろう。
背は低く中学生くらいに見えるが、それよりは服装だ。
いわゆる修道女みたいな服を着ている。実際に見たことはないが、確かにそんな感じだ。
俺は後で適切な値段で売ってもらえないかと思い、銀行残高を思い出す。
うん、古泉に売るスクール水着は値段を二倍にしよう、そうしよう。

長門は俺から幼女を受け取ると、別室に寝かせてから俺たちにお茶を出した。

とりあえず飲む。
男子高校生と修道女?も飲む。

視線が痛い。まるでヤバイ奴を見るような目だ。
俺だって好きでメイド服で来たわけじゃないんだ。
愚息はまだいきり立ったままだ。ちくしょう。

「貴方は銃を手放すべき」

ああ、そうか。
長門に言われてやっと気づく。
こんな剣呑なものを、俺はまだ構えていたのか。
それじゃ変人を見る目つきで見られても文句は言えないな。
とりあえず、この二人が何者かは分からないが、長門がいれば問題はないだろう。
俺は拳銃をメイド服のベルトに差した。

で、長門。
この二人はどこのどなたなんだ?

29 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/14(月) 23:56:48.09 ID:2H41nCoo

長門は二人に視線を向け、言った。

「知らない人たち。窓から不法侵入してきた」

そうか。俺は再び拳銃を抜き、引き金を引いた。
が、いつの間に近くに寄ったのか、長門が拳銃のシリンダーを押さえていた。
おいおい、長門。これじゃ弾が出ないぞ?

「さっきのは冗談。彼らは客人」

オーケイ、長門。お前の冗談は俺にとっては難しすぎる。
ちゃんとした説明をしてくれるか?

「了解。その前に自己紹介をすべき」

まあ、お互いの名前も知らずに細かい話をするのもおかしいよな。
俺の名は『禁則事項』。皆からはキョン、って呼ばれている。
見てもらったら分かるだろうが、ごく普通の高校生だ。

せっかく俺が自己紹介をしたというのに、二人はまるで怪物を見るような目で俺を見つめる。
何なんだ? そんなに人を信用できないのか? 俺は至って平凡かつ人畜無害な男だというのに。

長門が言う。

「心配ない。彼は良い人。貴方達に危害を加えるような真似はしない。というか私がさせない」

長門の援護が効いたのか、まず修道服を着た美少女が言葉を発した。

「わたしの名前はインデックス。シスターなんだよ」

へえ、本物のシスターさんか。日本語上手だな、おい。
それよりその修道服はいくらで取り引きできるんだろうか?
その辺の細部を決めていきたい。

「俺は……上条、当麻。本当の意味での、平凡な高校生だ」

インデックスさん、その服の値段はいくらでしょう?
ひとまず十万円から始めたいと思うのだが。
何日着ているのか、汗をかいているのかで付加価値が付き、価格を上げる事は可能です。

「え? 俺は無視ですか? というか何だこの人? 変態さんか?」

うるさいウニだ。叩き割って中身喰うぞコラ。

32 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/15(火) 01:21:12.72 ID:jAZ5mHMo

銃声。

俺は拳銃を引き抜くとウニの額に照準を合わせ、引き金を引いた。
この間、実に0.02秒。
次元大介も真っ青の早撃ちだ。
にも関わらず、ウニは倒れず、俺から見てだいぶ斜め前の部屋の壁に弾痕ができた。

長門がぶつかってきたせいだ。
この宇宙人め、俺の射撃の邪魔をするとは!

見ると長門は、左足と両の腕をおかしな方向に曲げていた。
俺に体当たりを食らわせたせいで骨折したらしい。

「落ち着いて。今、彼を殺せば修道服は手に入らなくなる」

何だと?
おい、どういうことだ長門!

「上条当麻とインデックスは非常に仲が良い。同棲までしている」
「大切な人を殺されて、その犯人に自分の衣服を売却する女性は少ないと思われる」

なるほど、そういう事か。
ならば仕方がない。

見ると、反れた銃弾がかすめたらしく、インデックスさんの顔色が真っ青だった。
そして妙な水音が聞こえ、彼女の修道服の下半身の部分に大きな染みが出来上がった。

そう、失禁したんだ。

長門、結果オーライとは言え、体当たりを責めて悪かったな。
これであの修道服の価値が、より高まった。値段も跳ね上がっちまったがな。

「構わない。それより、貴方の状況を聞かせて」

そうだ。こうしちゃいられないんだ。
古泉の命が危ない。

長門、お茶のお替りを頼む。

33 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/15(火) 01:42:27.45 ID:jAZ5mHMo

長門が出してくれたお茶と、お菓子を食べつつ俺は語った。

機関の一部の人間が集い、各々が自分の所持している、女性の衣服を着込み、楽しむ集会――通称『機関限定コスプレ集会』。
その参加を、古泉から勧められた俺は、大金を払って入手した森さんのメイド服を着込み、出席した。
今日のメンバーは、新川さん、古泉、俺の三人だけだった。
他にも機関には、多くの愛好者がいるそうだが、任務の関係で参加できなかったそうだ。

最初のうちは、そこは天国のような場所だった。
古泉は俺の妹のスクール水着を無理やり着込み、くねくねのたうちまわり。
新川さんはハルヒの制服を見事に着こなし、至福の笑みを浮かべていた。
俺だって、家では着る事の出来ない森さんのメイド服を、堂々と着て姿見を眺め、恍惚の中で永遠に思える快楽を楽しんでいた。

しかし。

新川さんの乱心で、極楽は地獄に成り代わった。
古泉のスクール水着は無残にもただの細かい布切れに。俺のカチュ−シャは焦げてカチューシャであることをやめた。

俺の命を狙った新川さんは、古泉の自己犠牲精神により武器を失い。
俺自身は朝比奈さん(大)の力を借りて、かろうじてここ、長門の部屋まで辿り着いた。

俺は悔しくてたまらず、テーブルを叩いた。

カチュ−シャよ!
スクール水着よ!
二度とはもう、戻らない、あの唯一無二の、至高の宝よ!

ウニとインデックスさんの、俺を見る目は、何故か冷ややかなものだった。

「……やはり」

長門が言い、二人に視線を向ける。

「貴方たちの追っている存在が、彼らに影響を及ぼした、と考えるのが妥当」

その言葉に、ウニは表情を引き締め、頷く。
インデックスさんも、同じだ。

可愛いよインデックスさんインデックスさん可愛いよ。
失禁してるのも忘れているようだ。

35 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/15(火) 02:37:38.00 ID:jAZ5mHMo

「彼らは学園都市から来た」

学園都市? 確か、超能力の開発をしているってところだろ?
それに、だいぶ遠いはずだ。わざわざ何でこんな地域に?

「それは俺が説明する」

ウニがしゃしゃり出る。

「俺たちは、ある人物を追っている」
「そいつは変わった能力の持ち主で……その力を使った『実験』を行っているんだ」
「その能力ってのは『対象の理性を極端に抑え、本能や欲望を優先し、行動させる』というものらしい」
「学園都市で暴れた後、一度はアンチスキルに捕まったんだが……」
「どうやったのかは分からねえけど、拘束から抜け出して、学園都市外へ逃げ出した」
「それだけならまだしも……そいつは人質を取ってる」
「俺たちは、そいつの『実験』を止めると共に、その人質も助けたい」
「だから、ここまでやってきたんだ」

ふーん。そーなんだ、すごいね!

インデックスさんが語り出す。

「その悪い人の行きそうな場所が、この地域だったの」
「なんで分かったのかっていうと、わたしが魔術で突き止めたんだよ」
「でも、大まかな場所しか分からなくって……」
「一緒に学園都市から出発した、短髪とくろこともはぐれちゃったし……」

魔術が使えるなんて凄いじゃないですか、インデックスさん!
気に病むことはありませんよ。大まかでも、その犯罪者の潜伏してる場所が分かるんですから!

「……あんた、いきなり魔術なんて言われて、信じるのか?」

うるせえウニ。俺の周りは宇宙人・未来人・超能力者に神様が揃ってるんだ。
今更、魔法使いが出てきても驚きはしないさ。

「問題は」

と長門。

「既にその能力者の『実験』に貴方が巻き込まれてしまった事」

どういう事だ、長門?

「……今の貴方は、普通ではない。いつもの貴方では、ありえない行動をしている」

何をおっしゃる長門さん。
普通人代表である、この俺が普通でないなんて笑ってしまうぜ?
その証拠に、ほうら見てみろ。股間の愚息もいきり立ったままだ! いやっほぉい!

37 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/15(火) 10:14:16.57 ID:jAZ5mHMo

長いスカートをたくし上げ、その愚息を見せつけながら(ああ、もちろん森さんのスキャンティは穿いているのだが)、俺は踊った。

ホットッペッパ ピップペッパッピ♪
ペッパッペッパ ピップペッポッピ♪
ホットペッパ ピップペッパッピ♪
ペッパッペッパ ピップペッポ♪
ヘイ!
ホットッペッパ ピップペッパッピ♪
ペッパッペッパ ピップペッポッピ♪
ホットペッパ ピップペッパッピ♪
ペッパッペッパ ピップペッポ♪
ホゥ!

あろう事か、ウニはインデックスさんの目を塞ごうとし、長門は傍目にも分かるくらいに大きく目を見開いていた。
殺風景な部屋の空気が、一瞬にして凍りつく。
何故だ?
木村カエラを知らないとでもいうのか?
それとも……。

まさか?

そうだ! 俺は重大な事に気がついた。

リングディンドン。
今はそちらが話題じゃないか。
ああ、リングディンドン、リングディンドン。

しかし、今更止める事など出来るわけがない。
そんな勇気は俺には、無かった。

一時間。そう、一時間もの間、俺は踊りぬいてみせた。

――古泉、俺はやってのけたぜ?

39 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/15(火) 10:51:34.94 ID:jAZ5mHMo

長い静寂の後、俺は口を開いた。

そもそも何故、ウニとインデックスさんは長門と知り合った?
どうして長門に、そんな超能力犯罪者の話をしたんだ?
長門が、いわゆる宇宙人だって知っていたのか?
そして学園都市では、木村カエラは有名ではないのか?

長門が答える。

「……彼らは、この地域にくるまでに、幾度かの戦闘を潜り抜けていた」
「その戦闘の一つに偶然、私は遭遇し、彼らに助勢を行い、その後この部屋に保護した」
「これは二日前の事」
「これらの判断は、私という個体のみではなく、思念体の意思も介在している」

ウニがほざく。

「……で、ここに厄介になってる間、長門さんが、えーと、宇宙人?で強力な力を持っていると教えてもらった」
「まあ、力のほうは戦いで助けてくれた時に見せてもらってたしな。すげえもんだったぜ」

インデックスさんは、

「ホットッペッパ ピップペッパッピ……ペッパッペッパ ピップペッポッピ……」

と目を空ろにして呟いている。
俺の渾身のダンシングが心に刻まれたようで何よりだ。
何故か俺は、彼女がこれを生涯、忘れないだろうと確信していた。

説明を聞いて、またもや疑問も湧いてくる。

長門の力なら、その超能力犯罪者の居場所もすぐに分かるんじゃないのか?
致命的な被害が出ないうちに、終わらせちまったほうがいい。

「それが、できない」

残念そうな調子で言う長門。ウニには長門の感情の、僅かな変化は分かるまい。

「思念体は今回の出来事を、人類の自律進化に関わると判断した」
「私に許された権限は観察と制限された情報操作のみ」
「現状では、貴方に及んでいる『対象の理性を極端に抑え、本能や欲望を優先し、行動させる』効果を消し去る事もできない」
「出来るのは、肉体的な怪我を修復する程度まで」
「……本当に、ごめんなさい」

何を謝る事がある、長門。
俺たちで、そのふざけた犯罪者を倒せばいいんだ。
大丈夫、たまには俺を頼ってくれよ。

長門はガラスの様な目で俺を見つめた。

44 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/15(火) 16:22:34.64 ID:jAZ5mHMo

「懸念事項はもう一つある」

長門はいつもの無表情に戻り言う。

「この地域に、『対象の理性を極端に抑え、本能や欲望を優先し、行動させる』事が出来る能力を持った者が存在し」
「意図は不明であるけれど、能力を使用して多くの人間――新川や貴方のような――を、どうしようもないボンクラにしている事は事実」

俺はともかく、新川さんの変貌は……恐らくその超能力者の仕業だろうな。

「問題は、涼宮ハルヒの存在」
「もし、その能力者が、涼宮ハルヒに力を行使したら」

そういえば、古泉が以前、言っていたな。

『涼宮さんは、ああ見えて常識人です。意外に思われるかもしれませんが、とても理性的な方なのですよ』

……言ってたっけ? 多分、そんな感じの事だったはず。あれ? やっぱり言ってなかったか?
というか……古泉って誰だっけ? 古畑なら知ってるんだが。任三郎。今度DVDレンタルして通して観てみよう。
昔のドラマだから安いだろう。

思考の深みにはまりかけた俺の意識を、長門の言葉が現実へと引き戻した。

「涼宮ハルヒから理性が失われた場合。彼女の深層意識によって暴走した『力』が引き起こす現象により、この世界は終わる」

そうか。またしても、世界の危機ってやつか。
超能力犯罪者にしろハルヒにしろ、どっちも厄介な相手だなこりゃ。

「なあ。この二日間で長門さんから聞いたんだが、その涼宮ハルヒってのは、本当にそんな『力』を持ってるのか?」

まあ、ウニが信じられんのも無理は無い。俺でさえ、今だ半信半疑なところはあるからな。
だけど、その『力』のおかげで毎度毎度、とんでもない事が起きて、それに俺は巻き込まれているんだよ。

「どんな非常識なことでも思ったことを実現させる『力』……。本当だとしたら、まるで神様そのものなんだよ?」

そうですね、インデックスさん。
あいつはとても厄介で、最強最悪な神様だと言えます。本人が自覚してないだけに、更に始末に負えない。

だけど。
どんな大きな力を持っていようが、性格が歪んでようが。
ハルヒは、泣いたり笑ったり、怒ったり悲しんだりする一人の女の子なんだ。
世界がどうのなんて正直、俺の知った事じゃない。
一人の人間として、守ってやりたい。ただそれだけだ。

お、今の俺、格好良くね? 長門、携帯で動画撮っといてくれた?

「ばっちり撮れた。安心して」

俺はメイド服の裾を持ち上げて、にっこりと微笑んだ。
何故か二人は汚物を見るような目で俺を見ていた。

47 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/15(火) 21:25:00.48 ID:jAZ5mHMo

俺の脳裏に、古泉の笑顔が浮かんだ。
こうしちゃいられない!
早くあいつを助けに行かなくては!

この時の俺の中では、古泉は古畑任三郎の顔でしか思い出せなかったが、それはさしたる問題ではない。

あそこから逃げてきてから、既に一時間以上が過ぎている。
こんなことならホットペッパーなんて踊るんじゃなかった、と形だけ激しく後悔してみた。

俺の演技に胸を打たれたのか、ウニとインデックスさんは一緒に来てくれると言ってくれた。
長門は、今日は観たいTV番組があるだの何だのとごねていたが、
俺が白目をむいて宇宙語で頼み込むと、舌打ちしながらも同行してくれる事を約束してくれた。

真の意味での仲間となった俺たち四人は、雄叫びを上げながら部屋を飛び出し、非常階段を駆け下りた。

急げ! 急げ!

管理人室の前を通り過ぎた時、ウニが「人が死んでる!」などと叫んだが、俺は一喝した。

死んでる人間より、生きている人間を助けるほうが先だ!と。

ウニは納得したらしく、俺に続いてマンションの玄関から外に飛び出した。

と、そこに人影が現われた。
いや、俺たちが来る前にそこにいたようだ。

俺は反射的に、メイド服のベルトから拳銃を取り出した。

銃声。

朝比奈さんが、地面に崩れ落ちた。

49 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/16(水) 00:44:23.77 ID:9QATajwo

今回は対象を完全に目視できず、抜き撃ちだった為、額ではなく心臓付近に弾はめり込んだようだ。
倒れた朝比奈さんは、完全に白目をむいていて、口からは血の泡をこぼしている。
胸からは噴水のように血が吹き出していて、その小さな身体はがくがくと痙攣を起こしている。

「うわああああああああああああっ!」

インデックスさんの叫び声だ。うるせえ。苛々する。
銃口を向けたくなったが、万が一、修道服が血で汚れては適わんので我慢する。

ウニが叫ぶ。

「お前ぇ! なにやってんだよ! いきなり銃を撃つなんて……いくら知らない人でも、こんな女の子が敵なわけないだろうが!」

当たり前だ! この人は朝比奈さんという名でな! 長門から聞いてるかも知れんが、俺たちSOS団の仲間だよ!

「み、未来人だという……? いや、お前……自分の友達を撃っちまったんだぞ? 何も感じないのかよ!」

そんなわけあるか! 今まで一撃で殺せなかった事は無かったんだぞ! 畜生が! 今から止めを刺してやる!

「……敵の能力のせいで、理性が抑えられ、本能と欲望を抑えきれなくなっているとしても!」
「今のお前には、友情や愛情は欠片も残って無いっていうのかよ!」
「もし、お前の本能が、殺戮にしか興味が無いなんて言うのなら!」

ウニが左手で俺の襟首を掴む。

「まずはその幻想をぶっ」

拳銃のグリップで、ウニの顔面を殴打。
ウニは続きを言う事無く、膝を落とす。

言わせねえよ?

「と、とうま……!」

インデックスさんが怖がっている。
俺は安心させる為に笑顔を向けると、ウニの鳩尾に遠慮の無い蹴りを数回、入れた。

それよりも朝比奈さんだ。
まだこの人から、衣装を購入していない。何とかせねばならない。
長門が俺の腕を軽く叩き、言った。

「私は今晩、シーフードカレーにするかハンバーグカレーにするか迷っている。助言を」

おいおい、何を言ってるんだこの食欲宇宙人は。俺はしばらく考え、答えた。

シーフードカレーにハンバーグを乗っければいいんじゃないか?

「グッドアイデア。どちらも楽しめる」

ふと見ると、インデックスさんがまた、失禁していた。

50 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/16(水) 01:01:13.90 ID:9QATajwo

それより長門。朝比奈さんの怪我を治してくれるか?
確か、情報操作は制限されているけど、負傷の治療くらいはできるはずだったよな。
すると長門は、ぽつりと呟いた。

「面倒くさい」

俺は左手で長門の髪を掴み、マンションの塀に顔面を叩きつけた。

お前、仲間の朝比奈さんが死にかけてるって時に、面倒くさいはないだろうが!
嫌な手ごたえがしたので、こちらに顔を向けさせてみると、長門の前歯が折れていた。

「ごめんなさい。治療する」

一瞬、長門は舌打ちしたように思えたが、それは多分俺の勘違いだろう。
折れた歯を吐き出しただけだ。

長門に朝比奈さんの治療を任せ、俺はウニを起こしにかかる。
インデックスさんが、ウニに寄り添っている。

「ち、近づかないで!」

どうしたんですか、インデックスさん?
早くウニを起こして古泉を助けに行かないと。

「貴方は……こんな酷い事をして、なんで笑っていられるの!?」

全く意味が分からない。
何なんだ、このシスターさんは。苛々する。古泉が危ないんだぞ? お前の前歯も折ってやろうか?
それを実行する前に、ウニが起き上がった。

「……大丈夫だ、インデックス」

「とうま!」

「こいつは……あの能力者のせいでこんな風になっちまったんだ。悪いのはキョンじゃない」

「でも!」

「この事件を解決して、ちゃんと元通りになった後……謝ってもらうさ」

「……うん。そう、だね」

何、この三文芝居。阿呆らしかったが、勝手に話がまとまったみたいなので良しとするか。

51 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/16(水) 09:15:31.04 ID:9QATajwo

「ぎゃああああああああっ!」

回復した朝比奈さんの叫び声だ。
まあ、大体見当はついている。
恐らく長門の外見が異常だからだろう。
口からはぼたぼたと血の混じった涎を垂らしているし、左足と両手は骨折していて、ありえない方向に曲がっている。
流石に朝比奈さんには刺激が強すぎるか。

俺は長門に労いの言葉をかけ、朝比奈さんに話しかけた。

「あ、あのっ……長門さんが……それとわたし、キョンくんに撃たれて……」

だいぶ混乱しているようだ。
まずは長門の事ですが、心配いりませんよ。

「で、でも!」

……心配いりませんよ?

「は、はいぃ!」

そして、すみません。貴女を拳銃で撃ってしまったのは俺です。
まさか朝比奈さんだとは思わなかったものですから。
怪我は長門が治してくれたはずです。どこか痛むところは? そうですか、大丈夫ですか。
本当に申しわけありません。謝って済む事ではありませんが……。

「いえ……わたしも、未来から指令が来て、何か大変な事が起こっているのは知っています」
「詳しい情報は、わたしに権限が無いので教えてもらえなかったんですけど」

そうですか。実はかなり厄介な事になっているんです。
ですが今は、詳しく説明している時間がありません。
古泉の命が危ないんです。

「えっ! て、敵ですか!?」

はい。俺たちは――そこの二人の協力者と一緒に、あいつを助けに行くところだったんです。
朝比奈さん。貴女を傷つけた俺が言うのもおこがましいですが、どうか協力して頂けないでしょうか?

朝比奈さんは一瞬の躊躇いもなく頷いた。

「もちろんです! わたしがどこまで役に立てるか分かりませんけど。SOS団の仲間を助けるのを躊躇ったりはしません!」

ああ、この人はなんと純粋なんだろう。
ついさっき、俺に殺されかけたのも忘れてるみたいだ。
天使の様な、という例えはこの人の為にあるようなものだ。
本当の天使にしてしまいたくなって、つい拳銃に手が伸びる。おいおい俺よ、自重しろ。

今はまだ、その時ではない。

52 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/16(水) 10:42:13.10 ID:9QATajwo

「なあ、俺は思ったんだが」

なんだウニ?

「このメンバーって、目立ちすぎやしないか?」
「インデックスは外国人で修道服、長門さんは腕や足が変な風に曲がってて前歯が折れてる」
「朝比奈さんの服は血まみれだ。それに一番異常なのはキョ」

確かにな。このまま街を歩くには、ちとまずいかも知れん。
まあ、長門は自分で怪我を治してくれたら済むだろう。
朝比奈さんは……。

「それも私が何とかする」
「情報操作に制限をかけられてはいるが、衣服を変換させるくらいは何とかなる」

長門が例の高速詠唱を唱え終わると、長門自身の怪我は綺麗サッパリ治っていた。
そして朝比奈さんの服は、何故か団室で着ているいつものメイド服になっていた。

「すごいよ! まるで魔法使いみたいなんだよ!」

「ふぇえ、あのう長門さん、なんでメイド服なんですか?」

「……適当な衣服を思い出せなかった。一番、見覚えのあるその服にしただけ」

「いやいや、とても似合ってますよ朝比奈さん。上条さんとしては可愛らしい格好が見られて満足です」

「うぅー、とうま! でれでれしてる場合じゃないんだよ!」

「べ、別にでれでれなんかしてないぞ? ……というかキョン。お前のその服が一番目立つと思うんだが」

そんなに俺が羨ましいか?
しかし俺はこのメイド服を脱ぐ気は、一切無いぞ!
もしもお前が俺を別の服に着替えさせたい、あわよくば自分が着てみたいなんて思っているのなら!
まずは、その幻想をぶち殺す!

「……だから、それは俺の決めセリフでな? それに別に着たいなんて思っちゃいないしな?」

「とうま。心が折れたら負けなんだよ? 必ずとうまがそげぶを言えるチャンスはあるはずなんだよ!」

まあ、俺のこだわり以外にも理由はあるぞ。
街を歩くのに、変わった格好の奴が一人いれば変に思われるだろう。
しかし、メイド服が二人、修道服が一人、ウニが一匹なんて集団なら、どこかのコスプレ好きの集まりにしか見えん。
木を隠すには森の中って言うだろう?

53 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/16(水) 11:14:20.26 ID:9QATajwo

俺の完璧な作戦に皆が納得した。
朝比奈さんは、理解しているのかどうか良く分からなかったが、この人に頭脳労働を求めるのも酷だろう。
俺たちは、古泉救出の為に『機関限定コスプレ集会』の開かれた場所であるビルへと出発した。

道中、色んな事を話した。
『ハルヒ』の新刊はいつ出るのか。『とある』の登場キャラの多さはやりすぎじゃないのか。
話題は尽きず、途中で喫茶店によって三時間ほどダベったりもした。
インデックスさんが、長門レベルの食欲を発揮し、二人が店の全メニューを制覇したり。
ウニが自分の不幸自慢を始めたので、俺も負けずに張り合い、形ばかりの友情が生まれたりもした。

そして、ついに。
俺が四時間前に逃げ出した、あのビルの近くまでやってきたのだ。

しかし、その周囲にはロープが張られ、警官が大勢、何やら作業をしていた。
俺は近くにいた、スーツ姿で、冴えない風貌の、髪の毛の薄い男に声をかけた。

何かあったんですか?

「え? うん、実はね、ここで殺人事件があったんだよ」

まさか! じゃあ古泉は、もう?

「被害者は若い主婦でね? 銃で眉間を撃ち抜かれていて、即死だったんだ。酷いよね?」

良かった。古泉じゃなかった。
俺は安堵すると、男に訪ねた。

詳しく知っているところをみると、貴方は警察の人ですか?

「うん! 僕は刑事なんだ。まあ、いけ好かない上司も来てるんだけどね」

「んー、いけ好かない上司というのは私の事かな、今泉君?」

「あ痛! お、おでこを叩かないで下さいよぅ! 古畑さん」

おいおい、本物の古畑任三郎の御登場だ。
DVDを借りる手間が省けたな。

57 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/16(水) 22:05:48.31 ID:9QATajwo

「どうも。部下が失礼をしたようで」

いえいえ。まだ失礼な事はされてませんよ、古畑さん。

「おや? 私を知ってる?」

そりゃあ有名ですから。あのSMAPの事件を解決された刑事さんですよね?
俺、スペシャル観てました。

「そうなの! いや、何だか恥ずかしいねぇ、ふふふ」
「……で、今泉君。彼らは何の御用なの?」

「えっ? 何だろう? 通りすがりの野次馬?みたいですよ」

「ふぅん。しかし変わった服装だねぇー。若い人の間では、こんなのが流行ってるの。へぇ」

「メイド服ってやつですね! うわー、可愛いなあ!」

「そっちの外国人の子は修道女ってやつかな?」

「アレですね、古畑さん。いわゆる、コスプレってやつですよ! いいなあ! 僕も着てみたいなあ!」

「止めときなさい、気持ち悪いから」

「ぼ、僕は似合うと思いますよ! 自信あります!」

「私の方が似合うよ。着ないけどね」

すげえ。
生で古畑が見れるなんて思わなかった。
それにしても今泉のおっさんのメイド姿は見たくない。
なんでそんなに自信あるんだよ?
馬鹿か? ああ、そうか、馬鹿なんだった。

58 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/16(水) 22:11:44.87 ID:9QATajwo

古畑さんが俺に声をかけてきた。

「ねえ。君は男性なのに、何でメイドさんの格好してるの? 正直に言わせてもらうと、気持ち悪いよ」

え? 俺の美しさが分からないとは、古畑さん、センス無いんじゃありませんか?

俺はその場でくるりと一回転し、スカートをひるがえした。

「だよねぇ! 古畑さんは、こういうの分かんないから、すぐ否定したがるんだ。悪い癖だと思いますよ! ほんと!」

馬鹿の癖に見る目はあるようだ。
だけどお前は絶対着るなよ?

「そうかなぁ? ま、趣味は人それぞれだから、文句をつける気はないけどね」
「たださ……ちょっと気になる事があるんだよねぇ」
「ほら、数時間前にさ。警察に通報があったじゃない?」
「北口駅前で、メイド服を着た若い男が、小さな女の子を抱えて拳銃を発砲してたって、アレ」

……。

「あっ、それ聞きましたよ! 何でも、すごい美人が突然現われて、そのメイド服の男と一緒に、煙のように消えてしまったって!」

「うん。ここで殺害されていた若い主婦さんね。銃で撃たれてたんだよね」
「そして身元確認の結果、小さな娘さんがいるそうなんだけど、その子、行方不明なんだって」

古畑さんは俺に向かって言う。

「ねえ、君。どう思う? 駅前にいたメイド服の男。主婦を殺害した犯人と、何か関連があるのかも知れない」
「似たような格好をしている君なら、もしかして何か知ってるんじゃないかな?」

まさか……古畑さん、俺の事を疑ってるんですか?
メイド服を着た男だってだけで?
ちょっと軽率過ぎやしませんか?
その理屈で言うと、この辺でメイド服を着ている男は、みんな殺人犯だって事になっちまう。

60 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/17(木) 00:14:25.68 ID:YVQW4b6o

古畑さんは俺を、じっと見つめながら言った。

「えー、申し訳ないんですが、身体検査をさせて頂いても宜しいでしょうか?」

……あくまで俺が犯人だと言うんですね?

「いえいえ! 本当に形式的な事です」
「しかしぃ、『駅前で発砲したメイド服の男』と『主婦殺人の犯人』。この二人が同一人物であるかもしれない」
「ならば、メイド服を着た方を、見逃すわけにはいきません」
「別に貴方を疑っているという訳ではありません」
「が、念のためということで、ご協力頂けないでしょうか? んふっ」

……口調が、犯人を追い詰める時のような感じになってきましたね。
いいでしょう。
そんなに調べたければ、ご自由にどうぞ。

俺が言うと、ウニとインデックスさんに緊張が走る。
それを目で抑え、俺は促す。

さあ、どうぞ?

「どうもすみません。……今泉君、お願いね」

「は、はい古畑さん」

今泉のハゲは、俺の身体を丹念に調べ始めた。
森さんのメイド服を、こんなおっさんに触られるのは業腹だが我慢する。

「古畑さん! 何か、固い物があります!」

「! ちょっと見せて」

「これは! 古畑さん!」

そう。
それは俺の、いきり立った愚息ですよ!
確かに固く、太く、立派なモノである事は認めるとしましょう!
しかし!
これで殺人ができますか!?
『女殺し』と言われる事があるかもしれませんが、意味が違います!
それに俺は童貞ですよ!
あは、あは、あははははははははははははははははははははははははっ!


61 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/17(木) 00:30:20.25 ID:YVQW4b6o

銃声。

古畑さんの額に、黒い穴が開いた。
敏腕刑事であった警部補、古畑任三郎は、何が起こったのかも知る事無く地面に転がり、息絶えた。

「……え? 古畑、さん……?」

今泉が、こいつも何が起こったのか分からない様子で呟く。

俺の両手には、何も握られていない。
そう。
今回、拳銃の引き金を引いたのは、無言で成り行きを見守っていた、長門有希だった。

この場所にくるまでの三時間の間。
俺は、主婦の死体が警察に発見されている事を予測していた。
その時、思った。
このまま俺が拳銃を所持していたら、逮捕は免れない。
だから、喫茶店に入った時に、長門に拳銃を渡しておいたのだ。

そして、さっき。
古畑さんと今泉が、俺の身体検査に夢中になり、愚息の発見に驚き、
他の人間の動向を観察する余裕が無くなったところを、長門は狙った。

俺の勝ちだ、古畑さん。
ははっ! もう聞こえてないか!

「ふっ古畑さぁぁぁぁん!」

今泉が叫ぶ。
五月蝿い奴だ。
長門、こいつも始末しちまえ!

「了解」

長門は拳銃を今泉に向けて引き金を引く。

しかし、弾丸は発射されなかった。

しまった! 弾切れだ!

新川さんから奪った、この拳銃は、標準的なリボルバーだ。
弾数は六発。
まず、新川さんが、俺のカチューシャに一発。
そして俺が主婦に一発。
駅前で、空に一発。
長門の部屋で、ウニに一発。
マンションの前で、朝比奈さんに一発。

そして、長門が古畑さんに一発。

弾の無くなった拳銃は、今やただの鉄くずに過ぎない。

62 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/17(木) 00:34:28.55 ID:LY72bqI0

おい
管理人撃っただろ
合わないぞ

64 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2010/06/17(木) 01:00:34.90 ID:YVQW4b6o

 >>62 ほんとだ! 不思議!
 すみません、うっかり管理人の事を忘れてました。
 これはアホみたいに撃ちまくったキョンの責任です。
 キョンに代わってお詫び申し上げます。
 とりあえず、拳銃は機関特製の七連発だったと改変しておきます。

63 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/17(木) 00:50:31.59 ID:YVQW4b6o

「ひいいいいいいいいぃぃぃぃっ!」

涙だか鼻水だかを撒き散らしながら、今泉がわめく。
騒ぐな、馬鹿め。
こうなったら素手ででも黙らせないとならないが、現在の俺は愚息がいきり立っていた。
腰が抜け、立ち上がれなくなっているというのに、器用に動き回る今泉を仕留めるのは、難しい。

おい、ウニ。お前の出番だ!

「え? お、俺?」

そうだ! よく考えろ!
今、ここで俺たちが警察に捕まったら、誰が古泉を助ける?
学園都市からやってきた、糞ったれの超能力犯罪者を、誰が止める?
大局を見ろ! 大事の前の小事だ!

「お、れは……」

やるんだ! お前の必殺の、アレをぶちかましてやれ!

俺の言葉に、ウニの身体に精気が戻った。

「そう……か。そうだよな」

ウニは今泉に歩み寄る。

「今泉さん。あんた、目の前で上司が、古畑さんが殺されたんだろ?」
「自分も殺されるかもしれない。その事実に恐怖するのは仕方が無い」
「だけどな」
「あんたは刑事だろ! 同僚が目の前で殺されたんだぞ!」
「悔しくないのかよ! それでも法を守る警察なのかよ!」
「あんたがそうやって、自分の任務から目を背け、古畑さんの仇も討てない、その勇気もない」
「そんな寝言を言うのなら!」
「まずは、その幻想をぶっ殺す!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

ウニは地面を蹴り、今泉に渾身のストレートパンチをぶち当てた。
今泉の身体は、優に二十メートルは吹っ飛んで、奴の意識を断ち切った。

「……やった、やったんだ俺は」

ウニは涙を流していた。

「インデックス……見ていてくれたか? 俺は、そげぶをやってのけたぜ?」

インデックスさんも泣いていた。

「……かっこよかったよ、とうま」

俺たちは泣いた。ウニの、上条当麻の、アイデンティティが復活した事に対する、歓喜の涙だった。

65 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/17(木) 01:38:28.55 ID:YVQW4b6o

よし! 踊ろう!

俺は提案した。
皆、異存は無かった。

ホットッペッパ ピップペッパッピ♪
ペッパッペッパ ピップペッポッピ♪
ホットペッパ ピップペッパッピ♪
ペッパッペッパ ピップペッポ♪
ヘイ!
ホットッペッパ ピップペッパッピ♪
ペッパッペッパ ピップペッポッピ♪
ホットペッパ ピップペッパッピ♪
ペッパッペッパ ピップペッポ♪
ホゥ!

前回と違い、今度はウニも、インデックスも、長門も踊った。
多分、心が通じ合ったっていうのは、こういう事なんだろう。
楽しいな。楽しいな。あは、あは、あはは!

ただ一人、朝比奈さんだけは、まるで異常なモノを見る目をして微動だにしなかった。
寂しい事だけど、未来人の朝比奈さんには、今はまだ理解できないのかも知れない。

その思いを、いつかは分かってくれると信じて、俺たちは朝比奈さんを中心に輪になり、踊り狂った。

ホットッペッパ ピップペッパッピ♪
ペッパッペッパ ピップペッポッピ♪
ホットペッパ ピップペッパッピ♪
ペッパッペッパ ピップペッポ♪
ヘイ!
ホットッペッパ ピップペッパッピ♪
ペッパッペッパ ピップペッポッピ♪
ホットペッパ ピップペッパッピ♪
ペッパッペッパ ピップペッポ♪
ホゥ!

ほんの少しは伝わったのか、朝比奈さんはまるで子供のように泣き喚いた。
俺たちは、それで充分だった。

しかし、幸せな時間は突然、無残にも終わる事になった。

俺たちの周囲を、古畑さんの部下であろう警官たち、総勢二十名ほどか、取り囲んでいたのだ。
まずい事になった。こちらにはもう、武器は無い。

69 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/18(金) 00:51:18.46 ID:AvXG6TQo

警官たちは俺たちに銃を向けながら投降を呼びかけてくる。
この税金泥棒め! 善良な一般市民を相手に、なんて態度だ!
正論を吐いてみても、この状況を何とか打開しないとならない事は変わらない。

おい。ウニ条、お前こいつら全員殴り倒して来いよ。

「無茶言うな! チンピラ相手じゃあるまいし、警官無双なんて出来るわけないだろ!」

ちっ、役立たずめ。
インデックスさん、確か魔術が使えるんですよね? 何とかなりませんか。

「……ごめんなさい。わたしにはそんな魔術は無理なんだよ」

まあ、修道服に免じて許しましょう。
長門よ。お得意の情報操作で、警官どもの頭を破裂させたりできないか?

「無理。今の私の力は思念体によって制限されている。攻撃的な情報操作は、できない」

肝心な時に役に立たないなお前。まあ後で俺に思念体の恥骨を砕かせろよ。
しかし……この状況、もうどうすることも出来ないのか!

「あ、あのキョンくん」

ん? 何ですか朝比奈さん?

「わたしには何も言わないんですか?」

はっはっはっ。朝比奈さんがどうしようもない役立たずなのは常識ですよ。
大人しく泣いたり騒いだり慌てたりしていてください。

何故か朝比奈さんはとても落ち込んだ様子で、地面にのの字を書き始めた。
何だこの人?

銃声が数発。

警官が威嚇射撃をしたらしい。
こいつはヘビーだぜ。

「重力は関係ない」

ウニ条、お前バック・トゥ・ザ・フューチャー好きなのか?
俺もだよ。気が合うな。あれは名作だよな、うん。

また銃声。
心なしか、さっきより警官たちが殺気だってきている。

固唾を呑みながら、バック・トゥ・ザ・フューチャーについて語り合おうとしたその時。

轟音と共に、視界が閃光に包まれた。
とりあえず、「目が〜! 目が〜!」と言ってみる。

70 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/18(金) 01:12:14.27 ID:AvXG6TQo

ようやく視力が元に戻り、辺りを見ると、何と警官たちが全員真っ黒こげになっていた。
と、一人だけ、見慣れない人物が近寄ってくる。

「ようやく見つけたと思ったら……何で警察に囲まれてんのよ、アンタは」

ウニ条の知り合い?

「御坂……! 助かった。サンキューな!」

「短髪にしてはすごいんだよ!」

ねえ、誰? この目つきの悪い女の子。

「……彼女は学園都市に七人しかいないレベル5の能力者。その第三位、御坂美琴。通称『超電磁砲』の異名で呼ばれている」

知っているのか雷電! じゃなくて長門!
というかそんな奴がなんでここに?

「上条当麻とインデックスは、御坂美琴と白井黒子という仲間と共に学園都市からやってきた」
「これは私の部屋で、彼らから説明されたはず」

覚えてねえよ、そんなの。
しかし、今の超能力か? すげえ威力だな。古泉、意味ねえな!

「で、御坂。白井は?」

「アンタたちとはぐれた後、あの子ともはぐれちゃったのよ。そっちに合流してるかと思ったんだけど」

「心配だな」

「うん。でもあの子だってジャッジメントだし」
「……ところで、そっちは人数が増えてるみたいだけど?」

「ああ。ここに来てから、事情を知って、協力してくれている人たちだ」
「こいつがキョン。学生服が長門さん。メイド服が朝比奈さんだ」

「そう、アタシは御坂美琴。宜しく」
「……というか、キョンっていったっけ? 何でメイド服着てるの? 変態なの?」

俺は御坂に飛び膝蹴りを喰らわせた。
顔面にクリーンヒットし、もんどりうって大地に転がる。

気丈にも、御坂は大量の鼻血を流しながら立ち上がり、叫んだ。

「いっ、いきなりなにすんのよ!」

御坂の身体から、音を立てて電撃がほとばしる。
俺に向かってきたその電撃を、ウニ条がとっさに間に入り止めた。
もしかして、俺を守ったのか? 何こいつ。俺に気があるんじゃないだろな? 気持ち悪いよ、馬鹿か?

79 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/23(水) 00:56:11.90 ID:vwvFWF.o

ウニ条は俺に背を向け、御坂に向かって叫ぶ。

「おい御坂! 大体、初対面で変態呼ばわりするお前が悪い!」

「なっ……! でも、それくらいで女の子に飛び膝蹴りする!?」

他の奴はどうか知らんが、俺はするんだよ、お嬢さん。

「こいつは……キョンは、『奴』の能力にやられちまってるんだ!」

「え……アタシたちが追ってる、あの『能力者』に……?」

「ああ、そうだ! しかしな!」
「このキョンって男は……理性を極端に押さえつけられ、欲望に身体を支配されながらも!」
「窮地に陥っている友達を助けに行く為に、今ここに立っている!」
「それがどんなに難しい事なのか、学園都市での『実験』を見たお前には分かるだろう!?」

「そんな……あの『能力』の影響下にいながら、誰かを助ける為に……?」
「……ごめんなさい。事情を知らなかったとはいえ、アタシが悪かったわ」

……まあ、いいさ。
というか飛び膝蹴りは、別に怒ったわけじゃないんだがな。
変態と罵ってくれたお礼だよ。
俺の中のM気質と、股間の愚息に、ずーんときたんでな。

「……やっぱり変態じゃない」

いいねえ! もっと! もっと言ってくれ!
可愛い女の子に罵られるのは、俺にとって御褒美なんだよ!
ほぅら……股間の愚息を見てくれ! こんなにいきり立ってる! 先走り汁で森さんのスキャンティに染みが出来てるだろ?
いーやっほぉい! そぉーれ、やっちゃうぞー! それーぃ!
腰をぐるんぐるん回転させる俺の姿を見て、御坂は呟いた。

「……こんな被害者、学園都市にもいなかったわ」
「気持ち悪いのを通り越して、哀れすぎる……!」

何か泣き出したが、その泣き顔さえ俺のリピドーには極上の御馳走だ。
気がつくと俺は、射精していた。
ウニ条の背中に、俺の放出した粘液がヒットする。
お前、邪魔だよ! 御坂の顔面にぶっかけさせろよ! 空気の読めない海産物め!

80 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/23(水) 01:16:05.12 ID:vwvFWF.o

かなりの間、踊り狂った俺は、当初の目的を思い出した。
そう、古泉を助けなくてはならない。
あいつに、命を助けられた事もあるが、それ以上に大切な事……。
そう。妹のスクール水着を売ってやらなければならない。
同じ趣味を持つものとして、一度は手に入れたスクール水着を駄目にしてまで俺を逃がしてくれた古泉。
そいつに代わりの、新しいスクール水着を手に入れさせてやりたい。
値段は七十万円。インデックスさんの修道服は是非、手に入れたいからな。
悪く思うな、古泉よ。

さて、あたりは気絶(もしくは息絶えた)警官だらけで、俺たちを遮るものは、何も無い。
近くには、俺が逃げてきたコスプレ会場のあるビルがある。
突入すべきだ。
既にかなりの時間が過ぎている。
手足の骨が折れていた古泉が、生き残っていてくれていればいいのだが。
通帳と暗証番号を聞きだすまで、死なせるわけにはいかない。

と、俺が思案していると、御坂が言い出した。

「ねえ。キョンって『能力』のせいで、こんなになっちゃってるんでしょう?」

「ああ。長門さんから聞いた限りでは、普段のキョンは至って普通の高校生だそうだ」

「ならさ。アンタの右手で、その影響を打ち消せるんじゃないの?」

「あ!」

「そういえばそうなんだよ!」

「何の話をしてるんですかー?」

一体どういうことだ。
朝比奈さんと同じ立場で状況が分からないのは、とてもムカつく。
説明しろ、ウニ条。

「いや、俺の右手は『幻想殺し』(イマジンブレイカー)って能力を持っててな」
「それが異能の力であれば、右手で触れば、超能力・魔術問わず打ち消すことができるんだ」

ほほう。
俺はウニ条に音も無く近寄る。

81 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/23(水) 01:35:25.81 ID:vwvFWF.o

鳩尾に蹴りを入れる。
くの字に折れ曲がったウニ条の身体を、更に続けて蹴り上げる。
五メートルほどの高さまで上に吹き飛んだ奴を追い、俺は飛んだ。
空中で追い抜き、両手を組んで力の限り、ぶん殴る。

地面に叩きつけられたウニ条の身体は、恐らく至る所が骨折し、内臓も痛めたはずだ。
着地した俺は、ウニ条に近寄り、森さんのハイヒールで更に蹴りを入れ続ける。

「……んな、何してんのよっ!?」

御坂が叫ぶ。遅えよ。

こいつはなあ、俺を裏切ったんだ。
何が『自分も普通の高校生』だよ? 『幻想殺し』って何だよ? そんなチート能力持ってて、普通を名乗るたあ、おこがましいぜ!

「っ……でも! そこまでする事ないじゃない!」

おうおう、必死なこった。
さてはこのウニ条にホの字ですか?
愛する人をボコボコにされて、怒っちゃいましたかぁ?

「……ざけんじゃないわよ……」

御坂から音を立てて、電撃が立ち昇る。
インデックスさんがウニ条に駆け寄り、身体を揺する。

御坂がポケットから、何かを取り出す。
……コイン? 何だそりゃ?
俺は攻撃に備え、スカートをたくし上げた。

「……や……めろ……みさ……か」

ウニ条が声を出す。
気を失っていないとは、たいした奴だ。ああ、お前は普通じゃないんだったよな。

「……おれが……わるかっ……たんだ……自分……の、能力を話し……ていなかった」

ウニ条が立ち上がる。

「わ……りいな……キョ……ン」
「別に……騙す、つもりはっ……なかったん……だ」

82 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/23(水) 01:52:30.45 ID:vwvFWF.o

ウニ条は続ける。

「俺だって……こんな力を持って……なけりゃ、普通……に外の世界で……暮らせていた、はずなんだ……」
「だから……キョンが……とてつもなく羨ましくて……」
「すま……ない……」

「とうま! とうま!」

……『力』を持った者の、普通への憧れか?
馬鹿馬鹿しい。本当に、馬鹿馬鹿しい。この糞ったれの、寿司の具野郎が。

「気持ちは分かる。けど、彼の気持ちも分かってあげて」

……長門。
ウニ条の怪我、治してやってくれ。
分かりきった事だったんだ。
俺の役割は、普通の人間。
まわりに集まるのは、色んな力を持つ奴らなんだ。
その溝を埋める事はできないんだろうさ。

長門に治療されたウニ条は、申し訳なさそうな表情をしていた。
もう、いいさ。気にはしてない。
……それじゃ、俺に影響を及ぼしている『敵の能力』、打ち消してもらえるか?

「ああ。任せてくれ」

ウニ条の右手が、俺の身体に迫る。お前が美少女だったら良かったのに。

「待って」

長門が止める。
どうした? ウンコでもしたいのか? ここでしろよ? 見ていてやるから。

「残念ながら、排泄ではない」
「貴方から『能力』の影響を取り除くのは、止めておいた方が良いと提案する」

83 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/23(水) 02:14:50.74 ID:vwvFWF.o

「……どういう事よ」

御坂が問う。
長門が答える。

「……彼は、本来は普通の感性を持った、普通の人間」
「今ここで、『力』の影響が消え、理性が元に戻ってしまえば」
「彼の心は、今まで自分がしてきた行為に対して、拒否反応を起こす」
「本来の彼は、とても優しい人。精神の崩壊も有り得る」

「しかし、長門さん。それは『能力者』を倒しても、同じ事だぞ?」

「……もう一つ。彼は、理性が極端に抑えられたせいで、本来よりも攻撃的な性格を獲得している」
「それは、身体能力にも及んでおり、貴方がさっき経験したような、見事な打撃はそのお陰と言える」
「私が言いたいのは、ここで彼を再起不能(リタイア)させるより、このままの状態で戦力としたほうが良い、という事」

朝比奈さんがしゃしゃり出る。

「確かに、今のキョンくんは鶴屋さんレベルの動きをしてます。わたしも、これを有効利用しない手はないかと思います」

ウニ条と御坂は、顔を見合わせ、暫くして頷いた。

「分かった。俺としても、キョンの心が壊れてしまうのは避けたい」
「全てが終わった後、ゆっくり心の整理をつけた方がいいんだろうな」
「それに……さっきの攻撃にはたまげたぜ?」

褒めるな。どうせなら罵ってくれ。

「……まあ、それはそれでいいとして。これからどうするの?」

決まってるだろ、電撃のお嬢ちゃん。
このビルの中にいる、俺の友達……知り合い……顔見知り……を、助けに行くんだ。
最悪でも財布くらいは回収したい。
みんな。ついて来てくれるか?

何だか微妙な顔つきをしたこいつらは、とりあえず頷いた。
さあ! 突入だ!

「あ、あのー……わたし、何がどうなってるのか、さっぱりなんですけど……」

とりあえず足払いをかけて転ばせた。
朝比奈さんは見事に顔面を地面に強打した。

87 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/25(金) 23:38:55.40 ID:WiW.niUo

高い足音が、階段に響き渡る。
俺の履いているハイヒールの音だ。
朝比奈さんは、そうでなくともよく転ぶので、ハイヒールは脱ぎ、今は裸足(ソックスは履いてるが)だ。

階段を下る。
ここは、数時間前、俺が不様にも逃げてきた階段だ。
あの、恐ろしい魔空間へと続く、下り階段。
正直、来たくはなかった。
しかし、古泉の財布が、俺を待ってる。

階段は狭く、二人並ぶのがやっとだ。
最前列は御坂と朝比奈さん。
女の子同士で気があったのか、何やら楽しげにお喋りしている。
緊張感の無い奴らだ。声を潜めているぶんだけマシだが。
それよりも、二人とも鼻血をどうにかしろよ。
後続の俺たちが歩きにくくて適わん。

二番目に歩いているのは、ウニ条とインデックスさんだ。
インデックスさんの後姿を見ていると、ムラムラしてくる。
ぶっかけたい想いを意志の力を総動員して我慢する。修道服を無駄に汚す訳にはいかないからな。
ウニ条の背中には、さっき俺がぶっかけた精液が半ば固まりかけている。
全くもって、気持ちの悪い奴だ。

そして最後尾に、俺と長門。
この配置は俺が提唱したものだ。
敵が中にだけ潜んでるとは限らない、後ろの警戒も必要だと。
まあ、それは別に正しいのかも知れないが、俺が思っていたのは前方にいるほど危険性が増す、ということであり、
一番後ろに居れば、ヤバくなったらすぐに逃げ出せるからに過ぎない。

ウニ条や御坂、インデックスさんは今日知り合ったばかりだ。
死んでも別にいい。
朝比奈さんは、朝比奈さん(大)の存在がある以上、死ぬ目には合わないだろう。多分。
どうせ要らん怪我をするのなら、誰かの盾になったほうが朝比奈さんの為にもなる。

88 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/25(金) 23:49:37.59 ID:WiW.niUo

歩みが止まる。

「ねえ。ここ?」

御坂が確認するかのように尋ねる。
見れば分かるだろうに。
『機関主催 第三十一回 秘密コスプレ会場』と書かれた看板が見えんのか?

「さて……どうする? 一気に突入するか?」

ウニ条よ。先陣切るなら構わんぞ?

「全員で突入すべき」

長門……それじゃ、俺が逃げられんではないか。

全員が何故か白い目で見る。
何だか責められている気がしたので言い直す。

俺だけじゃない。全員が逃げられない状況になっちまったらどうするんだ?
全滅したら、意味は無いんだぞ?

「……俺が突入する」

ウニ条、よく言った。お前は男の中の男だな。家に来て妹をファックしていいぞ。

「じゃ、じゃあアタシも!」

御坂が名乗り出る。こいつはウニ条と一緒に居たいだけなんだろうな。
まあ電撃があるし、いいだろう。

ではお前ら二人で突入、危険を排除。もしヤバそうだったら『逃げろ』と叫べ。逃げるから。
十分以上音沙汰が無い場合も同様だ。

作戦が決まり、二人はドアを開き、部屋の中に入った。
それにしても腹が減った。焼肉食いてえ。

89 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/25(金) 23:57:41.31 ID:WiW.niUo

『え……何よこれ』

『何なんだよ、これは!』

ヤバそうだ。長門、朝比奈さん、インデックスさん。逃げるぞ。

「ちょっと! とうまたちはまだ逃げろなんて言ってないんだよ!」

「確かに。もうしばらく待つべき」

「……おしっこ漏れましたぁ……」

三人からの意外なバッシングを受け、仕方なく俺は声をかける。

おい! 何があった!?

『……えーと。なんなんでせうか……』

『説明するの、難しいわよね、これ』

『キョン、とにかく入って来いよ。特に危険は無さそうだ』

本当だな? もし危険が待ち受けていたら、お前のご自慢の右手で俺の愚息をシゴいてもらうからな?

俺たちはドアから室内に入った。
俺はもちろん、一番最後だ。

中は薄暗く、何があるのかよく分からなかった。
明かりをつけなければ。
俺は入り口付近の壁にスイッチがあるのを覚えており、手探りでそれをオンにした。

90 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/26(土) 00:11:54.69 ID:W8/AI7Mo

明るくなった室内は、おおかたは俺の記憶通りの光景だった。
無機質なコンクリートの壁、机や椅子の類はコスプレダンスの邪魔になるので隅の方に片付けられている。

ウニ条と御坂を見ると、地下室にしては高い天井を仰ぎ見ていた。
視線をそちらに向ける。

そこには、人間がぶら下がっていた。

いわゆる亀甲縛りというやつだ。
背骨を逆にしならせる形で、たった一本のロープで吊るされている。
そいつは全裸で、目隠しをされ、ボールギャグで口を塞がれている。
乳首には穴が開けられており、そこからは鎖で『十kg』と書かれた重りが垂らされている。計二十sか。
死んではいないらしく、その証拠にそいつの股間のモノが、腹に付くほど反り返っていて、時々、ぴくぴく動いている。
よく見ると、そのモノには『変態』と書かれてあった。

「……いや、本当になんなんだよこれ」

「……明るい中で見ると、更にシュールよね……」

いや、少しは恥ずかしがらないか御坂よ。

「ユニーク」

「ご、ごうもんなんだよ! こわいんだよ!」

「またおしっこ漏れましたぁ……」

いや、みんな落ち着け。
これで一応は目的達成だ。

全員の目が俺に向けられる。そうだ、俺をもっと見ろ。そして蔑め。

あれが、俺たちが助けようとしていた……古泉一樹だ。

91 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/26(土) 00:39:28.88 ID:W8/AI7Mo

床に、染みができている。
朝比奈さんの尿ではない。
古泉の真下にあるのだから、これは古泉の体液だろう。
染みを構成しているのは、汗、涎、精液といったところか。
俺は言った。

とにかく、古泉を降ろしてやりたい。

これにはみんな、反対する意見もなく賛成した。
御坂が電撃を放ち、ロープを切断する。
およそ五メートルの高さを落下した古泉は、床に叩きつけられた時に陰茎が折れたらしく、海老みたいに見苦しく暴れた。

「……下で受け止めてやればよかったな」

ウニ条が呟く。
その必要はなかったろうぜ。
これは古泉にとっては御褒美だ。
無論、俺にとってもそうなんだがな。

俺はのた打ち回る古泉の頭を、サッカーボールのように蹴飛ばした。

おい、古泉。俺だ。分かるか?

「んー! んふー、んんんふ! んっふんっふ! んっふ、んー!」

何を言ってるのか分かんねえよ!

とりあえず数回、遠慮の無い蹴りを入れた後、古泉のボールギャグを蹴り外してやった。
古泉の前歯が、五、六本飛んでいった。

インデックスさん、朝比奈さんがこちらを何か恐ろしいものを見るような目で見ている。
誤解されたら少しばかり困るので、俺は弁解する事にした。

サッカー、日本強いですね。俺が選手だったら、ボールが破裂しちゃいますよ、はは。

何故だか、更に距離を置かれた。
二人はサッカーに興味は無さそうだ。

93 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/26(土) 01:41:15.37 ID:W8/AI7Mo

いつの間にか、長門が古泉のロープを解きにかかってた。
まあ、全裸の男に近づける奴なんてこの中には……ウニ条と俺しかいないだろうからな。
俺は古泉の糞野郎なんぞに触りたくはないし、ウニ条は何か御坂と話し込んでる。

そう言えば古泉は右手と両足が折れているはずだ。
長門、そこんとこ考慮してやれよ。

「了解。適度に痛みを与える」

やれやれ、羨ましい奴だ。
古泉は艶かしい喘ぎ声を上げながら、長門の思うままにされている。
朝比奈さんはまたもや失禁していて、インデックスさんは何やらお祈りの言葉らしきものを呟いている。

「……いやあ、助かりましたよ」

立ち上がることはできず、床に横たわったままでの、いつものスマイル。
というか長門よ。目隠しも外してやれ。

「断固、拒否する」

じゃ仕方がない。とりあえず怪我だけでも治してやってくれ。
あ、朝比奈さんと御坂の鼻血もな。

骨折が治り、立ち上がった古泉は恭しく一礼をした。まったく、こんな時にも気障な野郎だ。

「助けて頂いてありがとうございます。……気配からすると、彼、長門さんと朝比奈さん以外にも誰かいるようですが?」

とっとと目隠しを取れ、馬鹿か?
俺は古泉の左乳首からぶら下がっている重りを掴んで思いっきり引っ張った。

「あふん! もっとぉ! 右もお願いしますぅ!」

そんなに良いのか、この変態め。ほらほら、どうだ?

引っ張りすぎて古泉の両乳首が千切れた。断じて俺のせいじゃない。

94 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/26(土) 02:00:21.10 ID:W8/AI7Mo

「……では、貴方を無事、逃がした後の話をしましょう」

両胸から血を垂らしながら古泉が語りだす。
長門に目を向けたが、その顔には治療する意思は全然見えなかった。

「新川さんは……僕を縛り上げ、ボールギャグを咥えさせ、乳首に重りを付け、天井から吊るしました」
「恐らく、すぐに逃げられないようにでしょう」
「実際に快感が次から次へと襲ってきて、僕は逃げるどころか悪魔の享楽に酔い痴れる事で精一杯でしたから」

おいおい、みんな引いてるぞ。
全裸でそのスマイルはヤバいって。

「その後……新川さんの携帯に電話が入ったようで」
「僕はそのまま放置された……ここまでですね、僕の知ってる事は」

この役立たずが。

「……ねえ。この人だけでも、『能力』の影響を除去しない? 見てて吐き気がするんだけど」

「御坂もか。俺もそう思うが……」

いいんじゃねえか? こいつは機関ってとこで訓練を受けてるから、戦力ダウンにはならんだろ。
というか、今の状態では、ただの変質者だ。勃起を隠せ。

「じゃ、触るぞ」

「んっふ、どうぞ」

「股間を突き出すんじゃねえよ!」

ウニ条が触ると、古泉の身体が一瞬、震えた。

「……これは……何ともお恥ずかしい姿をっ、いやあのっ服! 誰か服を!」

いきなり股間を隠して狼狽し始めやがった。悦んでいたくせに。
長門、服を出してやってくれ。

「……やー」

何でいきなり可愛く拒否るんだよ。話が進まないから頼む。
次の瞬間、古泉が着ていたのはピッチピチのマイクロビキニだった。

96 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/06/26(土) 02:19:10.40 ID:W8/AI7Mo

「……あれ、黒子が前に着てたのとそっくり……」

「白井ってあんなの着てたの!?」

「ユニーク」

「ほとんどヒモなんだよ!」

「生理がきちゃいましたぁ……」

俺はなかなか良いと思うぞ、古泉。

「なっ長門さん!? これじゃあまりにも……!」

「じゃあ、消す。全裸でいればいい」

「何ですかその二択……ええいっ、局部が隠れるだけマシです!」

服の問題が片付いた後、古泉に、ウニ条、インデックスさん、御坂の事を説明した。長門が。

「そういう事でしたか……なら、新川さんの奇行、並びに僕と彼の異常な行動も説明がつきますね」
「恐らく、一週間前。その頃から、新川さんの様子がおかしくなりました」
「そして僕、次に彼……。涼宮さんのまわりの人間を巻き込んでいるのは確実ですね」

そのマイクロビキニ姿で分析するな。写真撮っておくからな。

「……まあ、貴方も事が終われば通常に戻るんでしょうが。何だか痛ましいですね」

もっと哀れんでくれ。蔑んでくれ。
まあ、それはともかく、新川さんの行方……ひいては『能力犯罪者』の行方がここで途絶えたわけだが。

「ねえ! ここに何かあるよ!」

インデックスさんの指差す方を見ると、そこには俺のカチューシャだったものの残骸で、文字が記されていた。
……『北高』……?

「恐らく、罠でしょうが……行ってみる価値はあります」

その意見には同意して、俺は古泉に馬乗りになってその顔面を殴りまくった。
俺のカチューシャ(残骸だが)を、伝言板代わりにするな!

109 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/04(日) 23:11:09.23 ID:S465CAAo

俺は殴っている。
何を?
分からない。だけど。
殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。
どす黒くそれでいて赤い液体が水溜りを作っている。
殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。
何で?
俺は何を殴っている?
理由は?
そんなものは最早どうでもいいことだ。
とにかく、殴る。殴れ。
そう。目の前のコレを、ぐっちゃぐちゃにしなければならない。

親父。
お袋。
妹。
シャミ。

俺は今、殴ってる。
それが何かは分からんが、どこかでみんなが俺の姿を見ていてくれているんだ。
宇宙と俺は同一であり、俺が宇宙で宇宙が俺だ。
世界は俺に微笑んでくれている。
殴る。
殴れ。
たとえ、この拳が駄目になっても。

俺の肩に、誰かの手が置かれた。

「……もう、そのくらいで許してあげて」

長門?
何を許すって?
俺はただ、殴っているだけなんだ。
邪魔をしないでくれ。

「古泉一樹が、死んでしまう」

110 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/04(日) 23:22:51.38 ID:S465CAAo

古泉……?
俺は殴るのを止める。

俺が馬乗りになっていたのは、あろうことか古泉だった。
信じられるか? 俺はSOS団の仲間を、殴りまくっていたんだぜ。

古泉はぴくりとも動かない。
死んだのか。

長門が呟く。

古泉の身体が震え、上体を起こす。

「ど、どうぼ。いぎなじ、にゃぐられるとはおぼいばせんでしゅた」

何を言っているのか分からない。
長門よ、意識を回復させただけか? 怪我を治してはやらんのか?

「……このほうが、ユニーク」

確かに、今の古泉の顔面は凄い事になっている。
まず目がどこなのかさえ分からないし、歯はほぼ全て折れ、何本かは口から垂れ下がっている。
顔自体の大きさは普段の二倍半、といったところか。
血と、痣と、何か白いものが見える。あれは骨なのだろうな。

その顔面でマイクロビキニだ。
全く、笑えねえ姿だな。

俺は写真を撮ると、古泉に言った。

痛むか?

「いだいのぼ、とぼりこじて、かゆいでしゅね」

うん。何を言ってるのか分からん。

111 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/04(日) 23:36:35.98 ID:S465CAAo

朝比奈さん、古泉に鏡を。

「ひゃ、ひゃい!」

古泉の顔面を恐れて、朝比奈さんも震えている。
俺だって気持ち悪くて吐きそうなところを我慢しているくらいだからな。

鏡を見た古泉は、しげしげと自分の、潰れた柘榴のような顔面を見つめる。

「なんど、ばあ……。ごれはびどいぼんでしゅ」

流石の俺も、こいつが哀れに思えてきた。
なんでこいつが、こんな目にあわなくちゃならないんだ?
なあ、長門。
古泉の顔面を、元のイケメンに戻してやってくれないか?

「やー」

なんで子リスみたいにほっぺたを膨らます。
可愛いじゃねえかこんちくしょう。
でもな。
考えてみてくれ。
今から俺たちは北校に行かなければならない。
その途中、誰かには必ず見られるだろう。
しかし、今の古泉は、化け物の顔をした男がマイクロビキニを着ているだけだ。
古泉だと気づく奴はいないだろうぜ。

「……それは……面白くない」

だろ? だから治してやってくれ。

「了解。古泉一樹の顔面を修復する」

「おや。ありがとうございます、長門さん。すっかり元通りですよ」

そう言って鏡を見返す古泉の背中には、でかでかと『 古 泉 一 樹 』という刺青が入っていた。
長門、グッジョブだ。

112 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/04(日) 23:49:29.21 ID:S465CAAo

さて、これから北校に向かわなければならんのだが……。
誰が行く?

「全員で行けばいいんじゃないか?」

ウニ条。お前はもっと脳味噌を使うべきだ。
ここに俺のカチューシャ(残骸)でメッセージを残した以上、罠である確率は高い。
俺の目的である、古泉の救出は既に果たした。
『能力犯罪者』だかなんだか知らんが、一般人の俺や、それ以下の朝比奈さんに、何かする義務は無い。

「そうともいえないんだよ! 知ってしまった以上は、あなたたちも既にまきこまれてるんだよ!」

「そうね。このまま、『奴』がアンタたちから手を引くって考えるのは、楽観的過ぎると思う」

「わ、わたしは何とか頑張ります!」

「僕も、涼宮さんに被害が及ばないように動きたいと思います」

……長門。お前は?

「私の任務は観察。情報操作を制限させられているとはいえ、観察命令は最優先」

やれやれ。皆さん御立派な事で。
悪いが俺は帰らせてもらうぞ。

「キョンくん!」

「今の貴方は常人以上の身体能力を引き出せている。貴重な戦力。お願い、一緒に来て」

……そう言われてもな。ぶっちゃけ、帰ってオナニーして寝たいんだ。

「……インデックスの修道服を、二十二万で売却する。これでどう?」

なん……だと……。長門……。
破格の値段じゃないか! いいのか、インデックスさん!

「こ、この歩く教会がほしいの? 別にいいけど?」

いやっほぉぉぉぉぉい! さあ! みんなグズグズすんな! 北高まで競争だ! ひゃっはーっ!

113 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/05(月) 00:03:09.03 ID:2/U6Yego

階段を駆け上がり、警官の死体を掻き分け、俺たちは進んだ。

叫び声を上げる女子高生。キチガイを見るような目で見る商店の店員。
しかし、誰にも俺たちは止められない!

あの長い長い、坂道を一気に走りぬけ、北高正門まで辿り着くのに十二分かかった。
いつもなら、どんなに急いでも三十分以上はかかるのに。
これが修道服パワーってやつか。

後ろを振り返ると、ウニ条とそれに背負われたインデックスさん、御坂と長門に古泉が息を切らしていた。
全く、だらしない奴らだ。
ん? 朝比奈さんは?

「ハアハア……最初のビルの階段で思いっきりこけてから、ついてきてませんよ」

……使えねえ。可愛い巨乳じゃなかったら銃で撃ち殺しているところだ。
まあいい。
ここが北高……俺たちの通う高校だ。
ウニ条とインデックスさん、御坂は外部の人間だからな。
忘れ物を取りに来たって言い訳が通じ無い。どうする?

「ええと……俺はキョンの従兄弟って事で」

「アタシも長門さんの従姉妹って事にする」

「わ、わたしはどうしよう?」

インデックスさんは迷子のシスターさんで通じるだろう。

「あの、何故、誰も僕の親戚にならないのでしょうか?」

古泉。お前は鏡を良く見てから発言しろ。

114 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/05(月) 00:07:49.31 ID:2/U6Yego

俺たち北高メンバーは、下駄箱に向かい、上履きへと履き替える。
ウニ条たちは来客用のスリッパだ。
幸い、既に人はいない。
もう夜の九時半だからな。都合がいい。
俺は自分の下駄箱を開ける。

中に、紙切れが入っていた。
ノートの切れ端。そこには、『誰もいなくなったら、教室に来て』と、明らかな女の字で書いてあった。
背中を嫌な汗がつたう。
このメッセージ……奴か?
朝比奈さん(大)ならちゃんとした封筒に入れるはずだ。

俺は黙っていて自分の危険度が増すのを考慮して、全員を集め作戦会議をすることにした。

「朝倉涼子は、今現在は存在しないはず」

本当か? 間違いだったら鼻フックだぞ長門?

「でも、これも手がかりよね。アンタの教室に行けば、誰かいるんでしょ?」

「高確率で罠だろうが……行くしかないな」

「ですね。これだけ人数がいれば……まあ、朝倉さんでは誰も太刀打ちできませんが」

「とうまー。自動販売機あったよ! ジュース買って! ねえとうま!」

行くしかない、か。
まあ、俺もこういう事には慣れてる。
二度目のお誘い、大いに結構じゃないか。
みんな。頼りにしてるぜ。
いざとなったら、俺一人だけでも逃げるからな。

もはや、突っ込みも入らなくなった。

俺たちは、教室へ向かった。

124 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/11(日) 23:19:09.63 ID:3mchKDso

俺の教室。
つまりは俺とハルヒの教室ということになる。
中は明かりが消えており、誰かがいるのかも分からない。

俺はとりあえず、扉を少し開き、古泉を中へ叩き込んだ。
そしてすぐさま閉める。

一分。二分。三分。……十分が過ぎてから声をかける。

古泉、危険は無いか?

「……あ、貴方に蹴られて首の骨が折れたようで……動けません」

使えねえ! どんだけ使えないんだお前は!

俺は他の四人に目を向け、言った。

全員で突入するぞ。

皆、頷く。

ウニ条に扉を開かせる。
最後に入るのは無論、俺だ。

中は暗く、恐らくすぐ近くでぴくぴく蠢いているのが古泉だろう。

長門。

「……了解」

長門の呟きで、古泉がこちらに寄ってきた。

「酷くないですか? 死にかけたんですよ、僕?」

うるさいので股間を容赦なく蹴り飛ばす。
静かになった。

暗闇にだいぶん目が慣れてくる。
教壇に、誰か座っている。

126 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/11(日) 23:27:50.38 ID:3mchKDso

「遅いよ」

そいつは俺に笑いかけていた。
教壇から降り、教室の中程に進んで歩みを止め、微笑む。

お前か……。

「そ。意外でしょ」

くったくなく笑う、その少女は、俺の妹だった。

何でお前がここにいる?
何の用だ?

「ちょっとキョンくんに聞きたいことがあるんだよ」

俺とウニ条を挟んだ位置に、妹の顔があった。

「キョンくんさあ、高校に入ってからあんまりわたしと遊んでくれなくなったよね?」

そうだな。SOS団で何かと忙しいからな。
しかし、何度かイベントには連れて行ったはずだろ?

「じゃあさあ、例え話なんだけど、どうしても兄が遊んでくれなくて寂しい妹は、どうすると思う?」

何だそりゃ、俺には分からん。

「だろうね。キョンくんはお兄ちゃんの立場だからね」

だから何なんだ?

「大好きなキョンくんが、離れていくのならわたしの手で殺す」

後ろ手に隠されていた妹の右手が一閃、さっきまで俺がいた空間を鈍い金属光が薙いだ。
シャミセンを膝に抱いて尻尾を引っ張っているかのような笑顔で、妹は右手でハサミを投げつけてきた。
小学生の使う物じゃない、業者さんが工事に採用してそうな大きなハサミだ。
俺が最初の一撃をかわせたのは、俺が強いせいでもあるが、中間地点にいたウニ条のおかげとも言える。
こいつの身体が邪魔で、狙いが僅かにそれたのだろう。

妹は、スクール水着を着用していた。

127 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/11(日) 23:38:12.06 ID:3mchKDso

ウニ条が叫ぶ。

「おい! あの子は知り合いかよ!?」

妹だ。ただ……。

「彼の妹も、恐らく『能力』の支配を受けている。ハサミ投げの動作が小学生の域を遥かに超えている」

「しかし、小学生なら俺が押さえ込んで右手で触れば!」

ウニ条が言った刹那、妹の両手にはそれぞれハサミが握られていた。
いや、ハサミは二つじゃない。
ジャグリングのようにハサミを玩ぶ妹。
その手の中のハサミは、どんどんと増えていく。

「いくよ……『キョンクンハサミカシテェー』!」

おかしな技名と共に、無数のでかいハサミが俺たちに襲いかかる!
俺はとっさに古泉を盾にする!
間に合ったか?

電光。

ハサミは空中で溶け、床にべちゃりと落ちた。
御坂が電撃を使用したのだろう。

「……悪いけど、ちょっと気絶してもらうわよ」

「お、おい御坂!」

「軽く電撃を当てるだけよ。離れた場所からスタンガンを使うみたいなもんよ」

「怪我をさせるなよ。キョンの妹さんだ」

「分かってる!」

電光。

128 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/11(日) 23:47:50.53 ID:3mchKDso

しかし。
妹は電撃に合わせ、数本のハサミを投げた。
それに吸い寄せられるように、電撃はハサミに向かい、それを溶かす。

「何ですって!?」

「……理科で習ったよ。金属は、電気をよく通すってね」

妹の手元には、既に無数のハサミがあった。

「御坂! 電撃をコントロールして当てる事はできないのか!?」

「できるけど……! 威力の調整を考えると、気絶させるだけじゃすまない!」

「怪我させちまうってことか!?」

「小さな子供に浴びせたら、後遺症が残るくらいにね!」

「ちくしょう!」

「お腹すいたんだよ、とうま!」

妹は無数のハサミを空中に投げて遊んでいる。
そしてこちらを見て笑い、一斉に投げてきた!

電光。

また御坂が止めた。
しかし。

「これじゃ、どうしようもないわよ」

「手加減した電撃では止められる。しかし威力を上げると妹さんが危ない、か……!」

「八方ふさがり、というやつですね」

お、古泉。復活したのか。よし! 突撃してスクール水着を奪って来い。

「あの……今は理性を取り戻してますから」

お前の今の姿は、狂人か変質者にしか見えん。

129 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/11(日) 23:57:53.31 ID:3mchKDso

「どうすることもできないのか……!?」

「何か、方法はあるはずよ!」

「無数のハサミ……アレをどうにかできればいいのですが」

「とうま! お腹すいたんだって言ってるんだよ!」

「……私の力が制限されていなければ」

意見がまとまらない。
仕方がない、俺がやる。

「キョン! お前……!?」

俺の妹だからな。
俺が一番、適任だろうさ。

俺は前に出て言う。

おい。いい加減にしろ。怒るぞ。

「怒ってるのはこっちだよ! キョンくんなんか死んじゃえ!」

……キレた。俺の中で、何かがキレた。

銃声が四回。

妹の、両の手足の付け根が、血に染まった。
俺の持ってる銃から撃ち出された弾丸が、クリーンヒットした。
ミッションコンプリート。

「いやいや待て待て! キョン、お前、銃なんかもう持って無かったはずだろ!?」

それは新川さんから奪った銃の事だろ?
これは別ルートで入手したんだ。
あのビルの周囲に警官がたくさん倒れてたろ?
そいつ等から、四、五丁ほど借りて、弾丸もたっぷり頂いてきてたのさ。
古泉。森さんのメイド服は、ポケットがいっぱい付いてて便利だな。

130 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/12(月) 00:08:29.39 ID:Y0kDbbko

「……まあ、機関の特製メイド服ですから」

さて、ウニ条。気を失ってる妹を、右手で触ってくれ。

「『能力』の影響を取り除くのか? しかし、普通に戻って、怪我に対応できなくなったら……」

長門。銃の怪我だけ治して、意識を覚まさせないようにできるか?
あと、服を普段着に替えてくれ。

「できる。始める」

「そっか。怪我を治してから触ればいいんだ」

「意識を戻さないのは、夢を見ていた事にでもするのでしょうか?」

ああ。いくら心神喪失状態だったとは言え、
自分の兄貴にハサミ投げたりした事を覚えているのは辛いだろうからな。

「というか実の兄に撃たれる経験の方が辛いと思うが」

ウニ条? 頭から中身ぶちまけて、喰われたいか? ん?

「すいませんごめんなさい」

くだらねえ事をぐだぐだ抜かしやがって。

「……終わった。明日の朝には目が覚めるようにしておいた」
「服も再構成完了」

長門はできる子だよな。頭ナデナデしてやろう。

「……ご褒美?」

ああ、ご褒美だ。お前にはいつも世話になりっぱなしだ。

「お腹すいたー!」

131 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/12(月) 00:18:02.08 ID:Y0kDbbko

確かに腹は減ってきた。
しかし食う物なんてここにはないな。

そうだ! 団室に行こう!

「……それは、少しばかり考え物ですね」

何だ古泉?

「新川さんのメッセージ……『北高』。これが妹さんがいるだけとは限りません」
「むしろ、団室に罠があるのではないかと」

「確かにな。この教室には、ハサミが無数にあるだけで、他に変わったところはないみたいだ」

「……恐らく、新川は団室で待ち構えている。そう私は考える」

「ていうかキョンが銃を妹さんに撃った事はもういいの? アタシがおかしいの?」

済んだ事をうじうじと。だから第三位止まりなんだよ、短パン中学生が。お前、ハサミ溶かしただけだろが。

「御坂……泣いてるのか?」

「泣いてないもん! 悔しくないもん! ぐしゅっ」

「短髪、なにか食べれば元気出るんだよ?」

確かに団室には罠が……新川さんの罠が仕掛けられているだろう。
長門の言うように、当人が待ち構えているかもしれない。
……。

もう帰ろうか?

全員が無言で俺を見る。

だって妹を家に連れて帰りたいし……新川さん、強そうだし。

「でも、ここで新川ってのを止めないと、被害者はまた出るぜ?」

「ですね。恐らく妹さんも、新川さんからの情報でここに連れて来られたのでしょうし」

すげえ。みんなやる気だ。俺は帰ってオナニーして寝たいのに。

132 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/12(月) 00:26:51.91 ID:Y0kDbbko

まあ、分かったよ。

俺たちは妹に猿ぐつわを噛ませ、縛り上げ、ロッカーに放り込んだ。
これなら敵に見つからないだろう。
妹を縛る時に、古泉が鼻血を出したので左耳を銃で吹っ飛ばした。
長門は治さない。

しかし、団室に行く前に、インデックスさんが言い出した。

「もう、お腹ぺこぺこで動けないんだよー!」

確かに、みんな疲労が溜まっている。
まずは食事をし、休息をとらなくては、戦いなど出来ないだろう。

俺と古泉、ウニ条は、各自、細心の注意を払って食料調達に行く事にした。

ウニ条は別棟の教室。古泉は保健室と調理室。俺は少し外に出かけてみる事になった。

全く、なんで俺が一番遠いの? 馬鹿なの? 死ぬの?
腹が減って、もうこのまま家に帰ろうかと思った矢先、誰かが校門に走ってくるのが見えた。

「はあ……はあ……」
「あ、キョン君! お待たせしました……。御免なさい、遅くなっちゃって」

いえいえ、構いませんよ朝比奈さん。
貴方は本当に女神のような人だ。
今から食事なんですけど……協力してくれますよね?

「え? あ、はい……」

銃声。

133 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/12(月) 00:31:31.85 ID:Y0kDbbko

肉の焼ける香ばしい匂いが調理室を包み込む。

「キョン。よく肉なんて見つけたな」

「そうですね。しかもこんなに大量に」

「おいしんだよぶかぶかぶ」

「こら。インデックス、がっつかないの」

「ユニークな味」

いやあ、美味いなあ。本当に美味いなあ。
朝比奈さんに感謝しなきゃなあ?

俺は脂身の部分に齧り付くと、そのまま引き千切った。
肉汁が溢れ、たまらない。

流石の大量の肉も、大勢で食べるとすぐに無くなってしまった。

「もっと食べたいんだよー!」

「流石に遠慮しろ、インデックス」

「はは。事件が解決したら、また焼肉パーティでもしましょうか」

……本当に朝比奈さんには感謝しなくちゃな。
あの人のお陰で焼肉が腹いっぱい、食べられたんだから。

「ひ、酷いです、キョンくん」
「銃で脅して、お肉を買いに行かせるなんて……」

だって俺が行ったらメイド服で目立つじゃないですか。
朝比奈さんなら似合いすぎてて大丈夫だと思ったんですよ。はは。

「むー」

下ごしらえや、タレも作ってくれてありがとうございます。とても美味しかったですよ。

「……なら、良かったですけど」

150 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/27(火) 16:20:17.84 ID:WBE1Utwo

――

焼肉の匂いは血の匂いに変わった。

我がSOS団団室は、殺人現場に成り果てた。

俺の前には、頭を割られたスイカのようにされた古泉の死体。
御坂は足を撃ち砕かれ、動けない。
動けたとしても、小型キャパシティダウンとやらで、電撃は使えない。
インデックスさんは、真っ青な顔で御坂の横に座り込んでいる。
その二人の前に、ウニ条が庇うように膝立ちで前を見ている。

長門は喉を銃弾がかすめ、現在は自分の修復に集中している。
朝比奈さんは、とっくに白目をむいて気絶だ。

俺だけが、無傷で二丁拳銃を構えている。
しかし、勝てる気がしない。

俺たちの目の前にいる、あの男には。

そう。

ハルヒのバニースーツを着た、新川さんだ。

機関特製の拳銃を、十数丁もベルトにつなぎ、ソレを身体中にに巻いている。

糞ったれが!

何でこんな事になっちまったんだ!

151 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/27(火) 16:21:55.50 ID:WBE1Utwo

――

調理室から出た俺たちは、SOS団団室へと向かった。
腹が満たされ、眠くなってきたが、ここまできたんだ。
もう帰りたいとは、なかなか言い出せなかった。

いや、言ったけど猛反発を喰らった。

古泉を先頭に、俺たちは団室への道を進んだ。

扉を開け(古泉が)、中に入る。
真っ暗だったが、確かに誰かいる気配を感じた。
天井の明かりのスイッチをオンにする。

そこで俺たちが見たのは。

団長机の上に、バニースーツを着込み、武装している新川さんの姿だった。
新川さんが言う。

「ずいぶんと遅かったですね」

……生憎と、ディナーを満喫していましたんでね。

俺の言葉に、新川さんは頷いた。

「いいでしょう。最後の晩餐を楽しんでこられたのです」
「思い残す事もないでしょう」

そう言って、新川さんは拳銃をこちらに向けた。

やばい。

すると古泉が俺の前に立った。

152 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/27(火) 16:25:12.37 ID:WBE1Utwo

「もう、止めてください、新川さん!」

説得しようとしている、マイクロビキニの男子高校生と、バニースーツの初老の男。
なかなかシュールな場面だ。

「貴方は、通常の状態ではない! 『能力者』によって、おかしくなっているんです!」

「それがどうしたのですかな」

「どうした……ですって?」

「正に古泉。君が言った通りに、私は『能力』によって理性を抑えられました」
「しかし、それは正しいことなのですよ」
「……こうして、ハルたんのバニースーツを、堂々と着ることができるのですから」

「貴方は!」

「君とはもう、話をする気はありません」

銃声。

古泉の頭部が吹っ飛び、貫通した弾丸が俺に襲いかかる。
俺はぎりぎりでその弾丸を避けたのだが、
真後ろにいた長門が避け損なって、首から血を吹いた。

長門!

「だ……いじょ……うぶ……すぐ、治……すか……ら」

新川さんめ! よくも長門を!

153 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/27(火) 16:28:24.79 ID:WBE1Utwo

「本当は三人まとめて始末するつもりでしたのですが」

残念そうに新川さんは、バニースーツの食い込みを直す。

「……何なのよ! こいつが、新川……!?」

「らしいな。問答無用で古泉を殺しやがった……!」

新川さんは、御坂とウニ条を見て言う。

「ふむ。学園都市第三位『超電磁砲』と『幻想殺し』、ですか」

御坂とウニ条に戦慄が走る。

「何で俺たちの事を……!」

「アタシはともかく、コイツのことまで!?」

「……情報提供者は、どこにでもいるものですよ」
「まあ、『幻想殺し』は、あの御方に教えられたのですが」

「あの御方……?」

「ふんっ……アタシたちの能力が分かったって、どうしようもないじゃない!」

御坂が電撃を放ち始める。
しかし、新川さんは、バニースーツの胸元から、小さな機械を取り出し、言う。

「これを使えば、どうなるでしょうかね」

機械のスイッチが押される。

154 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/27(火) 16:31:06.54 ID:WBE1Utwo

奇妙な音が、団室を包む。

「うっ……これ、は……!」

「御坂!?」

「超小型のキャパシティダウン。……どうやら『幻想殺し』には効かないようですな」

ジーザス。
御坂の電撃が使えないとなると、かなりまずい。
俺はそっと逃げ出そうと後ずさりした。

銃声。

しかし、それは俺に向けられたのではなく、御坂だった。
ウニ条がとっさに御坂を引っ張るが、御坂の足を銃弾が掠める。

「ぐっ……!」

「御坂!」

「短髪ぅっ!」

インデックスさんが駆け寄る。
やばいって、逃げろよ。

この時には、朝比奈さんは立ったまま気絶していた。
貴方は弁慶ですか?
まあ、弁慶は漏らしませんが。

足元には水溜りができていた。

155 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/27(火) 16:35:35.82 ID:WBE1Utwo

俺たちは睨みあう。

新川さんは、楽しそうに微笑んでいる。
バニースーツの食い込みを時々直しながら。

二発の銃声。

俺は黙って発砲した。
両手の拳銃を、一発ずつだ。

しかし、同時に更に二発の銃声。

新川さんが、拳銃で俺の撃った弾丸を空で弾いた。
人間業じゃない。

「キョンさん……いきなりは無粋でしょう」

何を言いやがりますか。
古泉、俺、長門を一撃で殺そうとした人の言葉とは思えませんよ?

「ふふ……貴方には、もう少し苦痛を味わって頂きたい」
「貫通した銃弾を避けるのは、予想済みでしたよ」
「……そしてこれも」

銃声。

俺はとっさに、拳銃の引き金を引く。

新川さんの撃った弾丸は、俺の弾丸に弾き飛ばされた。

156 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/27(火) 16:37:26.38 ID:WBE1Utwo

「思った通りだ。貴方の潜在能力は、目を見張るものがある」
「ハルたんが、何故貴方に執着するのか、分かった気がしますよ」

新川さんと同じ事をやれたとはいえ、いつまでもそれができるとは思えない。
逃げようにも、隙は無い。
このまま、俺は死ぬのか?

ウニ条は、御坂とインデックスさんを庇って動かない。
御坂は、キャパシティダウンで能力が使えない。
長門は自分の怪我の治療中。
朝比奈さんは気絶中。
特攻役の古泉は死んだ。

はは。
チェックメイトか。
古泉。
あの世で、またチェスをやろうぜ。

思えば、ハルヒのお陰で無茶苦茶だったが、
概ね平和な団活が懐かしい。

新川さんが、朝比奈さんに拳銃を向ける。

俺はその弾丸を弾き返す用意をする。
しかし、一時しのぎだ。
いつまでも続くわけが無い。

その時。

157 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/27(火) 16:40:19.34 ID:WBE1Utwo

カシャリ、と音がした。

見ると、新川さんの胸元の機械 ―キャパシティダウン― が、針のようなものに貫かれている。

音が消える。

団室の、扉の向こうから声が聞こえる。

「小型のキャパシティダウンとは、恐れ入りましたわ」

その人物は、ゆっくりと近づいてくる。

「けれど。影響範囲が小さいのが難点ですわね」
「お陰で、わたくしは針を飛ばす事ができましたの」

ツインテールの小柄な女の子だった。

「白井っ!」

「黒子ぉ!」

「ガチレズなんだよ!」

どうやら、味方らしい。

御坂が、電撃を新川さんに向けて放つ。

新川さんは紙一重で避ける。

「これはこれは……学園都市の『空間移動能力者』、といったところですかな?」

ツインテールの少女は、左腕の腕章を見せつける。

「白井黒子。ジャッジメントですの」

158 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/27(火) 16:42:58.10 ID:WBE1Utwo

白井黒子の登場で、戦況は一変した。
御坂も立てないながらも力を使う。

電撃が、針が、銃弾が飛び交う。

しかし、新川さんはそれを避け、逸らし、弾く。

「何て……強さですの!」

「黒子! 手加減せずに、体内に針をテレポートさせなさい!」

「それは……!」

新川さんが遮る。

「遅かったですね。私は既に準備が整いました」

何のことですか新川さん。

「キャパシティダウン……二つ持っていると言いませんでしたかね?」

いつの間にか、新川さんの片手には、壊れていない、さっきと同じ機械が握られていた。

「しまった!」

ウニ条が走る。

「さぁせるかよぉぉぉぉぉぉっ!」

しかし、スイッチが入るほうが早かった。

耳障りな音が、また響く。

更に新川さんは、機械を団室入り口近くの棚の上に投げる。

「うっ……また……!」

「ふ、不覚……ですのっ!」

159 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/27(火) 16:44:39.57 ID:WBE1Utwo

逆転された?
もう、無理なのか?
死ぬの、俺?
俺だけでも見逃してください、新川さん!

しかし、新川さんは息をつき、言った。

「……流石に、疲れました」
「銃も、これだけ用意したというのに弾切れですし」
「ここは、一旦引くとしましょう」

そういうと、新川さんは、窓ガラスをぶち破り、外へと脱出した。

俺は急いで割れた窓の下を見る。

そこには、タクシーが止まっていて、エンジンがかかった。
運転席には新川さん。
タクシーは、猛スピードで学校の外へと、消えていった。

……。

助かった、のか?

団室を見渡すと、ほぼ全員が満身創痍だった。

しかし。

俺たちは生き残った。
生きてる事は、勝ちなんだ。

160 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/07/27(火) 16:47:18.94 ID:WBE1Utwo

俺は、棚の機械を握りつぶした。

音が止む。

「お姉さま! おみ足を怪我しておられるではありませんか!」

「大丈夫よ、このくらい」

「……インターフェイスの修復完了」
「御坂美琴。貴方の負傷を治療する」

「すまん、長門さん」

「ありがとう、ね……」

「……治療能力者ですの?」

「ゆきは、うちゅうじんなんだよ、くろこ!」

「……ふわぁ、おはようございますぅ〜」

全く。
今まで命がけの戦闘をしていたと言うのに、平和な奴らだ。

状況は、何も変わっていない。
新川さんは、ハルヒのバニースーツを持って逃げた。
大変なのは寧ろこれからだろう。

お前はいいよな、脱落できたんだから。

俺は頭部がぐしゃぐしゃの古泉の死体に話しかけた。
もちろん、返事は無かった。
死体は、返事をしない。
分かっていた事だった。

それは、蒸し暑い夜の事だった。

174 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/08/08(日) 00:09:01.54 ID:EiLG8D2o

全員があらかたの治療を終え(全て長門がしたのだが)、まずは現状を把握する事にした。
これも長門の提案だ。

ツインテールの貧乳お嬢様少女は、白井黒子と名乗った。
本人が言うには、御坂とただならぬ関係のようだ。
御坂は顔を真っ赤にして否定してたが、そういうの、嫌いじゃないぜ?

そして。
唯一の被害者である、古泉のまわりに、全員が集まった。

朝比奈さんが、嗚咽を漏らす。
そりゃあ、死体の状態は酷いもんだ。

顔が潰れ、マイクロビキニを着ていて、背中には『 古 泉 一 樹 』の刺青。

あまりにも不憫すぎる。
俺は長門に、駄目もとで生き返らせないか聞いてみた。

答えはノー。
能力を制限されていなくとも、思念体の許可が下りる事はありえないそうだ。

だよな。

人の死は、無かった事にはできない。

……なあ。せめて、滅茶苦茶になった顔だけでも、戻せないか?

「それは、可能」

長門の呟きによって、古泉の潰れたスイカのような顔面が、生前の頃の整ったものへと修復される。

「古泉……くんっ……」

「……古泉。……短い間しか一緒にいられなかったけど……俺は……」

「アタシが、もっと強ければっ……!」

175 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/08/08(日) 00:10:05.32 ID:EiLG8D2o

何か音がした。

内臓がうねりを上げるような音。

見ると、インデックスさんがお腹を押さえていた。

「えへへ。いっきを見てたら、おなかがすいたんだよ……」

この場合、修復される前の古泉の顔面の事を言っているのだろう。
確かに、さっき食べた焼肉と見た目が似てたからな。

……喰うか?

しかし、流石にそれはできなかった。
仲間を食うなんて、人間のすることじゃない。

悪いな、インデックスさん。

御坂と白井が喋る。

「この方……わたくしが来た時には既に……」

「そうだけど……アンタに責任があるわけじゃないわ」
「責任があるとすれば、アタシたちみんな、だから」

そう。
責任があるとすれば、古泉が殺されるのを止められなかった俺たち全てに当てはまる。

ま、俺は責任なんて持たないんだがな。

ともあれ。

古泉の死体の処分をどうするか、だ。

みんな。何かアイディアはあるか?

176 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/08/08(日) 00:12:10.32 ID:EiLG8D2o

「アイディアと申されましても……ご本人の身内などに知らせるべきかと」

「……そうよね。それが一番だと思う」

「俺もだ」

「あっ、でも……」

朝比奈さんが言う。

「……わたしたちは、古泉君の家族がどこにいるのかさえ分かりません」
「そして『機関』と呼ばれる組織に属していた古泉君の事は、その『機関』に問い合わせるしかないと思います」
「でも……」

長門が続ける。

「新川が敵の『能力』にかかっている以上、『機関』に気軽に連絡を入れるのは得策とは言えない」

……最悪、機関そのものが乗っ取られている可能性もあるからな。

「……そう」

「なんなんですの……『機関』とか、一体……?」

「まあ、学園都市も、他のこと言えねえけどな」

「まあ、ねぇ」

「や、焼肉!?」

……みんな、俺に考えがあるんだ。

俺は、その考えを話し始めた。

177 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/08/08(日) 00:14:04.43 ID:EiLG8D2o

まず、古泉の顔を生前よくしていた、気持ち悪いにやけ顔に固定した。

そして……この死体を、学校の旗を揚げるポールのてっぺん、に括り付けてみようと思うんだ。
無論、古泉だと分かるように、こいつの名前を書いた大きな旗をひるがえしておく。

「……キョン。意味が分からない」

「死者への冒涜ですわよ!」

「ないわー。流石にないわー」

「イギリス清教の弔い方が一番だよ! それか焼肉だよ!」

「で、でも! キョンくんには、何か考えがあってのことですよね?」

朝比奈さん……。
モチロンデスヨ?
なあ、長門。

「……彼の言いたい事、それは」
「『敵』に対する意思表明だと思われる」
「このまま古泉一樹の死体を埋めるなりしても、我々の『敵』からの評価は変わらない」

「というと?」

「ある程度、ショッキングな安置方法を取る事で、幾らかの対抗策になるかもしれない」
「一つ。我々が正常な判断力ができないと『敵』が判断する」
「一つ。この行為をすることで、何かしらの罠を匂わせる事が可能」
「一つ。こちらの意図がばれていても、先の二つの可能性がある限り『敵』は少しは判断に時間をかける」

長門……。

「……確かに。理には適ってますわね」

「事件が片付いてから、埋葬すればいいんだしな」

「でも……深読みしすぎじゃない?」

御坂。
やらないで後悔するより、やって後悔するほうがいい。
俺にその言葉を教えた奴は、その信念は貫いたんだぜ?

178 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/08/08(日) 00:15:13.81 ID:EiLG8D2o

俺たちは、古泉の死体を学校のポールの頂上に縛り付けた。

俺自身のの身体能力と、白井のテレポートで簡単にできた。

長門が、『 古 泉 一 樹 、 こ こ に 散 る 』と馬鹿でかい旗を出現させる。
風が無くとも、はためいて見えるように、所々に芯が入った、しっかりしたやつだ。
全長二十メートル程の、その旗を、古泉の死体の横に立てる。

ふと見ると、古泉の腹の部分に『 古 泉 一 樹 』の刺青が増えていた。
流石は長門、抜かりないぜ。

俺がポールの上で親指を立てると、長門が下で親指を立てた。

長門は凄い奴だ。
俺が、単に面白そうだから提案した、
この『古泉ポール案』に、それらしい理由を付け加えてくれたのだから。

ま、結果オーライだ。

死んだ古泉だって、俺たちが戦う為のサポートになると思えば、喜んで頷いてくれるだろう。

下に降りた俺は、懐中電灯で古泉と旗をライトアップしてみる。

「……くすっくすっ、し、失礼しますのっ」

「これは……ちょっと……不謹慎だが……ぶははっ」

「んっんっんっ……あは、あははっ」

「バカみたいなんだよ、あはははは!」

「古泉くん……今までで一番面白いですぅ……」

「……」

長門はデジカメで一心不乱に写真を撮っていた。

それ、あとでデータくれよ?

長門は、満足そうに頷いた。

179 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/08/08(日) 00:16:43.43 ID:EiLG8D2o

さて、夜もふけた。
そろそろ、解散するか。

「いやいや! キョン、まだ事件は解決してないって!」

ウニ条め、余計な事を。

「……わたしの部屋に泊まると良い」
「事件が解決するまで、貴方も朝比奈みくるも、自宅には帰らず、固まっていたほうが安全」

……確かにな。
世話になるぜ。

「それに、学園都市からきたみんなも、拠点となる場所は必要」

「長門さんがいいんなら、俺は頼みたいが。もう金が無いし」

「カレーをたくさん食べれるならいいんだよ!」

「アっ、アタシもその……合理的な面から全員、一箇所にいたほうがいいと思うわっ!」

「……お姉さま。声が上ずってますの」

ま、とりあえず長門の家にお邪魔しますか。
しかし、古泉が抜けたとはいえ、大所帯になっちまったな。

俺、長門、朝比奈さん。
ウニ条、インデックスさん、御坂、白井。

七人か……。

インデックスさんの修道服の価格交渉と、御坂と白井が着ている制服もチェック入れとかないとな。

こうして、俺たちは北校から続く長い坂道を下っていった

「いや、ちょっと待て」

180 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/08/08(日) 00:17:47.31 ID:EiLG8D2o

何だウニ条。
俺のモノローグに割り込んでくるとは何事だ?
額に風穴開けたろか? あ?

「い、いや……何か、忘れてはいませんでせうかキョンさん?」

何か忘れて?

俺は頭の中を検索してみる。

なあ、長門。
俺、何か忘れてたっけ?

「分からない」

だよなぁ。
おい、ウニ条、手足を何発か撃たせろ。

「いやいやいや! お前の妹! ほら、ロッカーに入れた!」

「あ、そうだ! ハサミ投げてきた子!」

「何ですの?」

「カレー♪ カレー♪」

「い、妹ちゃんの事、忘れてました!」

……ああ。
ま、大丈夫だろ。

「って帰るのかよ!」

うるせえ。殺すぞ。

「あの、わたし、連れてきますね」

「いや、俺が行くよ。みんなは先に長門さんの部屋に向かってくれ」

お前、妹にいやらしい事する気か?

181 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/08/08(日) 00:19:24.92 ID:EiLG8D2o

「しねえっての! この蒸し暑い中、ロッカーの中に手足縛られて一晩いたら死んじまうぞ!」

翌日の新聞が楽しみだな。

「お前っ……くそっ」

「お姉さま、この方、おかしいんじゃありません事?」

「いや、その……『能力』の影響を受けてるから」

「何故、上条さんの右手で打ち消さないのですか!?」

「だから色々と事情があってね……」

御坂と白井がわいわい言ってるうちに、ウニ条は学校へと走っていった。
ま、頑張れ。
俺はもう、疲れた。
ハイヒールはふくらはぎにくるんだよ。

長門が言う。

「貴方、分かってた?」

ああ。

「何故、妹をスルーしようとしたの?」

疲れてるってのもあるんだがな。
ウニ条の性格を見極めたかった。

「上条当麻の?」

ああ。
いざって時に使えるか、今だ分からねえからな。
新川さんとの戦いだって、ほとんど役に立ってなかったし。

「で、評価は?」

六十九点、ってとこか。
俺の妹……他人なのに気を使う所は、役に立ちそうだ。

182 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/08/08(日) 00:20:31.35 ID:EiLG8D2o

「……そう」

なんだ?
長門、笑ってないか?

「そう、見える?」

いや、表情では分からんがな。
なんとなく、な。

「上条当麻は、貴方に似ている」

はあ?
あのウニと俺が?

何? 主人公だってとこがか?

「そういうメタのところもあるのだけれど……」
「貴方にも、他人を思いやるところがある、と言いたかった」

どうだかね。
俺は俺のしたいようにする。
そうできるように『能力』の影響を受けてるんだろ?

「そう……」
「しかし、貴方は……」

その時、ウニ条が、妹を背負って駆け込んできた。

「はっはっはっ……連れてきたぞ……」

「ありがとうございますぅ、あの、背負うの代わりましょうか?」

「いや、もうこのまま長門さん家までいきますよ」

「とうまは女の子には甘いんだよ!」

「ま、小学生の女の子には手は出さないでしょ」

「どこぞの第一位とは違いますものね」

183 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/08/08(日) 00:21:40.72 ID:EiLG8D2o

よし! 長門のマンションまで競争だ!

俺が空に撃った一発の銃声を合図に、全員が走り出す。

「わたくし、長門さんのお宅を知りませんの!」

「テレポーターのアンタには、ちょうど良いハンデよ……ってアタシも知らないわよ!」

「……私が先頭を走る。貴方たちは着いてくるだけで良い」

「って、ゆき、ものすごくはやいんだよ! まつんだよ、カレー!」

「……ちょっ、待っ……俺、さっきまで走ってたし、女の子背負ってんのにぃ!?」

ははは! ビリのやつは夕食抜きだぁ!

「ふ、不幸だーっ!」



古泉よ。
お前がいなくなって、俺の心に、ほんの少し隙間ができた。
でも。
それはすぐに埋められそうだ。

俺は振り返り、学校の上を見る。
視力も向上しているのか、古泉の顔がはっきり見えた。

舌が、だらしなく出ている。

この事件を終わらせたら。
ちゃんと面白く埋葬してやるからな。

俺は、走りながら長門からデジカメのデータのコピーを受け取った。

194 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/08/13(金) 01:09:35.75 ID:5U5UxvAo

―――

長門のマンションに着き、人心地ついた俺たちは大きな疲労感に包まれていた。

特に、朝比奈さんの顔色は悪く、少し気になって尋ねたところ、
単に生理がきついとの事だった。
しかし、油断は禁物だ。

俺は長門に生理用品を準備してもらい、朝比奈さんにそれを使用する事を薦める。

「あの……もう使ってますけど」

いえ、今日のゴタゴタで既に汚れも酷いはずです。
さ、替えましょうよ、さあ。

「……アンタ、それセクハラよ?」

御坂が口を挟む。

分かってないな。
俺は純粋に、朝比奈さんの身体を心配してるんだ!
使用済みの生理用品が欲しいなんて、そんなのは二の次でしかない!
だから、さあ! 早く使用済みの生理用品を俺に!

横からの衝撃で俺はぶっ倒れた。

白井が蹴りをかましてくれたようだ。

「そろそろお止めになりませんと、針を体内にテレポートさせますわよ?」

ふっ……。
場を和ませる為のジョークだとも分からない小娘どもが。

俺は次の機会を待つことにした。

悔しいが、こいつらを撃ち殺すのは、まだ早い。

195 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/08/13(金) 01:11:32.19 ID:5U5UxvAo

そういえば、妹をどうしようか。

長門が言う。

「……貴方が連れてきた、幼女と同じく固める方法もある」

俺が連れてきた?
ああ、親子連れの母親の方を撃っちまって、気絶させて持ってきたアレか。

「固めるって、あの三年前の七夕の時みたいな時間凍結、ですか?」

朝比奈さんが問う。

「今の私にはそれはできない」
「よって、コンクリートで固めてある」

……長門よ。
流石にそれはまずいのではないかと俺でも思うぞ。

「何故?」

ほら、色々と世間的にな?
分かるだろ?

「理解したとは言えないが、コンクリートは止める。それで良い?」

まあ、いいか。
で、その子はこの部屋か?

「そう」

俺は、ふすまを開けた。

「くそー! 敵か? ここから出せー!」

5、6才の女の子が、両手両足をドラム缶にコンクリ詰めにされていた。

えーっと。とりあえず敵ではないぞ? ちゃんとメイド服を着ているだろう?

「わけわかんないことゆーな! うー……。よつば、おなかすいた! とーちゃんがいえでまってる!」

さて、どうしようか。

196 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/08/13(金) 01:13:03.67 ID:5U5UxvAo

ウニ条が幼女に語りかける。

「ええと、お嬢ちゃんはどこの子かな? お名前は?」

そういえば俺、この子の母親らしき女性を撃ち殺したんだっけ。

「こいわいよつば! ろくさいです!」

出した指の数は五本。
うん、フェイントだな、一本取られた。

「……あー、よつばちゃんのお母さんは、その、な」

ウニ条が言いよどむ。
このミスターキョン様が撃ち殺したとは言えまいて。

「よつばは、かーちゃんいないぞ?」

へ?
でも確か、ママーとか言ってた気がするが?

「あのなー! しらないおばちゃんと、おやこごっこしてたんだー!」
「そしておきたら、ここでうごけなくなってた! あはははは!」

ウニ条、好都合だ。
俺の殺した女性はこの子の母親ではないらしい。
事件が終結するまで、ここにいて貰おう。

「……それしかないのか?」

大事の前の小事だ。
……まあ、長門よ。
コンクリからは出してやれ。

「了解」

長門はバールのようなものでコンクリを壊し始めた。
何だか手馴れてるのが少し怖い。

197 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/08/13(金) 01:14:46.61 ID:5U5UxvAo

「よつば、じゆうになった! 手が動く! おまえいいやつかー?」

「そう」

「なまえはなんだ?」

「長門有希」

「ゆきかー。よつばはよつばだ! よろしくな!」

「……ユニーク」

何だかよく見ると、よつばは外国人のようだ。不正入国者か?
というか、どこかで見た気がしないでもないのだが。

「アンタも? アタシも、この子の事、知ってるような気がするのよね……」

「おっ、お姉さまのこどもですのぉぉぉぉぉっ!?」

「んなわけないでしょうがっ!」

御坂の電撃が白井に襲いかかる。ほどほどにしておけよ。

「おー! はなびだな! すげー!」

「……んー。キョンくん? ここどこー?」

妹まで目を覚ましてしまった。長門、眠らせておいたんじゃなかったのか?

「……弘法も筆のあやまり」

猿も木から落ちる、つまり失敗か。よっぽどお前の能力の制限はキツイみたいだな。

「面目ない」

仕方ないさ。とりあえずは……飯でも食おうぜ。

「了解。カレーなら大量にある」

よし、みんな! カレーパーティだ!

198 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/08/13(金) 01:16:15.80 ID:5U5UxvAo

総勢九名でのカレーパーティは壮絶だった。
古泉が生きてれば十人だったが、死んだものは仕方がない。

インデックスさんと長門の健啖ぶりは異常なほどで、
まるでスーパーのバックヤードかと思われた山ほどのインスタントカレーは、そのほぼ全てが二人の胃の中に吸い込まれた。

まあ、俺たちも普通に食う分は食ったので文句はないが、俺としてはインデックスさんの修道服がカレーで汚れないか、その一点だけ気がかりだった。
しかし彼女は、暴食には慣れているのか、衣服に染み一つつけずに食事を終えた。
本当に、良かった。

そして妹とよつばが眠くなったと言い出したので、全員交代で風呂に入る事になった。

長門に、俺の着ている森さんのメイド服や、インデックスさんの修道服、更には御坂や白井の学生服を、くれぐれも洗濯などしないように言い含めた。
長門は親指を立て頷いてくれた。

俺はウニ条と風呂に入った。だって男は俺たち二人だけだしな。

風呂の中でウニ条は言った。

「……古泉の事は、残念だったな」

古泉? 何が?

「いや、その……まあ、今のお前には分からないか」

いや、言いたい事は分かる。
古泉の死に、俺が苦しんでるんじゃないかって事だろ。

「まあ、そうなんだが」

ウニ条、今、ここで古泉の事を考えても意味は無い。
まだ、この事件は終わっちゃいないんだからな。
俺たちは、まだやるべき事がある。
後ろを向いてちゃ、前には進めないぜ。

「……強いな、キョンは」

何だか勝手に好感度が上がったようだ。
古泉の死は、俺にとってなんの痛痒も感じる事のない出来事だというのが、分かっていないらしい。
俺は、あいつをどう面白く弔ってやるかに夢中なだけだ。

199 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/08/13(金) 01:17:55.87 ID:5U5UxvAo

カレーパーティ中に俺たちは、あらかたの情報交換はしておいた。
白井というレズっ娘は、長門の事を理解するのに難儀していたようだったが、
まあ、大まかにでも分かれば良い。

今日はとりあえず休むか、という所で、インデックスさんがウニ条は風呂場で眠るのが好きだとの意見を出した。

俺はそれに対し、女性陣が入浴した風呂の床や洗面器を舐めるつもりだろう、と問いただしたところ、ウニ条はそれを否定。
今日はちゃんと別室で俺と寝ると言い出した。
全く、男らしくない奴だ。

俺はきちんと、風呂場で寝たいと意見したが、御坂たちには却下され、朝比奈さんは泣く始末。
一体、俺が何をした?

そんなこんなで男部屋、女部屋と分けて就寝しようとした時。
白井の携帯電話に着信が入った。

『くろこぉ〜あいしてる〜』

御坂の声の着信ボイス。いかしてるぜ。
怒鳴りつける御坂に、白井はシスターズに協力がどうのこうのと言っていたが、
着信名を見ると、急にシリアスになりやがった。

「もしもし、初春ですの?」

「貴女、もう身体のほうは……そうですか」

「……それは、本当ですの? いえ、疑うわけではありませんが」

「分かりました。こちらでお姉さまと協力者とで何とか致しますわ」

「初春は身体を休めてくださいな。……わたくしたちが帰って来た時、元気に出迎えてくださいませ」

白井は携帯を切ると(こいつの携帯ってカッコいいよな)、御坂に言った。

「初春が『敵』の情報を教えてくれました」

「初春さん……大丈夫なの?」

「病院を抜け出して情報収集をしてくれたそうですわ……それより」
「皆さんに、『敵』の情報を、お話しなくてはなりません」

200 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/08/13(金) 01:19:27.96 ID:5U5UxvAo

おいおい、何だか急にシリアスになられても困るぜ?
踊るか? おい? ホットペッパ……

俺のお茶目も通じず、全員が白井の言葉を待つ。

何となく居心地が悪くなり、俺も座って聞きの体勢に入る。

「『敵』の『能力者』。今までは詳しい事が分かっていませんでした」
「……実を言えば、わたくしやお姉さまには、心当たりがあったのですが」
「それが、的中しない事を祈ってましたの」

「……黒子。それじゃあ、やっぱり」

「はいですの。『敵』は……彼女」
「佐天さ……佐天 涙子に間違いありません」

「御坂と白井の友達だっていう、その子なのか?」

とウニ条。

「残念ですが……。そうなりますわね」

うな垂れる学園都市勢。

おい、俺たちにも分かるように話せ。

「情報は、貴重。話して」

「喋りにくい事かもしれませんけど……わたしたちにもお願いします」

長門、朝比奈さんも口々に言う。

妹と、よつばの寝息が、やけに大きく聞こえる。

御坂が喋り出す。

「『敵』の正体は……アタシたちの友達だったってわけよ」

「……お姉さま。詳しくは、わたくしが」

「う……ん」

201 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/08/13(金) 01:21:57.80 ID:5U5UxvAo

白井の言った事をまとめるとこういう事だった。

『犯罪能力者』の名は、佐天 涙子。
御坂や白井の友人で、元々は超能力とやらを持たない、いわゆる無能力者と呼ばれた人間だったらしい。
それが、ある事件に巻き込まれ、一時的に超能力を得て、それをきっかけに能力開発とやらに励んだらしい。

そして、そいつ ―佐天涙子― は能力の発動に成功。

そのレベルとやらは驚くべき速度で上昇し、御坂と白井が最後に会った時はトップから一つ下の、レベル4だったそうだ。

しかし。

佐天涙子は行方不明となった。
その時、一番親しかったという初春飾利という、さっきの電話の相手が、大怪我を負ったそうだ。
何でも頭の花を全て毟られたらしい。
……よく意味が分からんが。

しかし、まあ、その佐天涙子とやらの『能力』の詳細はこういう事らしい。

能力は風力使い(エアロシューター)の一種であるが、ある特別な特徴があった。
その『風』にあてられた人物は、『理性を極端に押さえ込まれ、欲望のままに行動する』ようになる。

そして学園都市内で、その『能力』使用したとされる大きな事件を起き、
その後、佐天涙子は学園都市から完全に行方をくらませた。

学園都市での緊急手配で、その能力レベルは暫定5と認定された。

レベル5、というのは軍隊を相手にできるほどの力だそうだ。
ってか御坂もそうなんだよな。物騒な奴らだ。

現在、学園都市からも捕縛グループが進出しているそうだが、
御坂と白井、そしてウニ条とインデックスさんは、友達として止めようとここまで来ていたらしい。

「……できれば、間違いであってほしかったわね」

「けれど、判明した以上は、わたくしたちの手で止めるべきですの」
「能力名『精神破壊(マインドクラッシャー)』」
「……佐天、さんが何を考えているのか分かりませんが、暫定とはいえレベル5」
「このまま外の世界で暴れると、彼女の立場は……!」

202 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/08/13(金) 01:24:21.07 ID:5U5UxvAo

うん、何だか大変そうな印象を受けた。
しかしな、とりあえず眠ろうぜ?

「……アンタ、気軽に言ってくれるじゃない」

放電しながら睨むな。怖い。

「いや。俺もキョンに賛成だ」

おお、ウニ条。お前も俺の感性に近づいてきたか!

何だか生暖かい空気を振り払うようにして、ウニ条は続ける。

「学園都市を出るときから、この状況は予想していたんだろ」
「なら、やるべき事はかわらねぇよ」
「しっかり、休息をとり、佐天って子に伝えるんだ」
「御坂と白井の友達なんだろ? なら、救えるのはお前らじゃねぇか」
「……俺たちも力になる。だから、今は考え込むんじゃない。行動するんだ」
「その為にも、眠って、力を蓄えとけ」

「……分かったわよ」

「その通りですわね……」

俺は、見逃さなかった。
ウニ条が、何だか格好良い事を言えて、鼻の穴がピクピクしている事を。

俺は、その夜。
ずっとその事をウニ条の耳元でからかい続けた。

何度も、何度も、何度も。

気がつけば、朝になっていた。

ウニ条の目の下には、大きくクマが出来ていた。

203 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/08/13(金) 01:26:32.20 ID:5U5UxvAo

―――

朝。

十分ほどぐっすり眠り、すっきりと目が覚めた俺は、メイド服のしわを伸ばしつつリビングへ向かった。

長門が、TVを見ながら新聞を読んでいた。

TVのニュースでは、我が北高で、変死体が発見されたと報道されていた。

普通ならモザイクがかかる所だろうに、何故かモロで放送されていた。

そう、古泉だった。

ニヤケ顔で舌が飛び出ていて、マイクロビキニで腹と背中に『 古 泉 一 樹 』の刺青。
長門の作った旗も、朝日を浴びて良く見える。ポールの上で、奴は輝いて見えた。

おい、録画してあるのか?

「もちろん」

そうか、抜かりないな。
ところで、新聞には出てるのか?

「そう。大きく出ている。スクラップしておく」

そういうと長門は丁寧に該当記事をカッターナイフで切り、スクラップブックに貼っていった。

「……よく、できた。満足」

その長門の顔は、今までにも増して人間味が加わった気がした。
俺はこいつの頭を撫でてやった。

「どうしたの?」

……何でもないさ。嫌だったか?

「寧ろ、心地よい」

それは良かった。

223 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/09/06(月) 04:39:29.29 ID:xSu7TQko

―― とあるビルの一室 ――

「……報告書にある通り、『敵』の殲滅には失敗いたしました。誠に申し訳ございません」

「別に謝る必要なんてないですよぉ。新川さんがやりたくてやった事なんですから」

「はっ。しかし、小型キャパシティダウンを二つ失ってしまったのは……」

「いいんですよぉ。学園都市から脱出する時に、何かに使えるかな〜って持ってきたものなんですから」

「……はっ」

「でも、新川さん。帰って来た時はバニースーツだったのに、今は学生服(女子)に着替えてるんですね」
「もしかして……アレ。期待してません?」

「そ、それは……」

「いいんですよぉ。……そぉれぃ! パンツはいてるかぁい?」

「ぬっふぇ! ……スカートめくられ! たまりませんなぁ!」

「いつでも言ってくれていいんですよぉ? しかし水玉とはねぇ」

「ははは。しかし、これはご褒美とすることにしましょう」
「彼……『幻想殺し』だけは、我々の現在の状態を台無しにする存在……排除せねばなりません」
「その為には、どのような犠牲を払っても……。その暁には、ぜひスカートを……」

「あ、これ最後のキャパシティダウン。持ってってください」

「……良いのですか? ありがとうございます。では……」

「報告書……『御坂さん』に『白井さん』も、来ちゃってたかぁ」
「あんまり友達と戦うハメにはなりたくないなぁ」
「でも、しょうがないよね。『敵』になっちゃったら、ねぇ」

(初春……)
(……のスカート、久しぶりにめくりたいなぁ)
(友達……だと思ってたのに。あたしの言う事、聞かないから)
(だから、花飾り毟っちゃうハメになっちゃったんだよ?)
(あたしは……悪くないよね……?)

224 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/09/06(月) 04:40:46.77 ID:xSu7TQko

―― 長門家 ――

朝比奈さんとインデックスさんとよつばがいない?
どういう事だ、長門?

「分からない。しかし、朝比奈みくるは昨日遅く、インデックスと話していた」

『わたしたち、役に立ててないような気がするんです』

『ハンバーグカレーが食べたいな』

『戦闘でも、漏らしたり気絶したりで……』

『焼肉、また食べたいな』

『でも! 情報収集くらいはできると思うんです!』

『うん。やっぱりお肉だよねえ』

『インデックスさん! 力を合わせて頑張りましょう!』

『シェイクは三つなんだよ!』

「……と」

まさか。
朝比奈さんとインデックスさんは二人で外に出たというのか?

「多分、よつばって子も一緒みたい。靴が無かったわ」

御坂が確認してくる。

「……まずいな」

ああ、ウニ条。
戦力にならない、お荷物だった二人が、単独行動に出た事で足手まといになっちまいやがった。

白井が言う。

「すぐに探しに行きませんと!」

225 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/09/06(月) 04:42:06.43 ID:xSu7TQko

白井の言葉を無視し、俺たちは朝飯(カレー)を食べた。
そしてプリキュアを見て時間を潰した。
何故かは分からないが、そういう気分だった。
ウニ条とは、つぼみ派かえりか派で意見が分かれ、ついには殺し合いにまで発展。
御坂に何故か怒られる。

そろそろ昼飯(カレー)の時間だという時に、チャイムが鳴った。

「誰か出て」

長門はプリキュアの録画を観直している。
やれやれ、俺が出るか。
決して親切心からではなく、このメイド服姿を他人に見せびらかせたい、その一身での思いだった。

ドアを開ける。

そこには血まみれで、ボロボロになったよつばが倒れていた。

俺は関わりたくないので、そっとドアを閉じた。

「誰だったの?」

御坂が聞いてくる。

ピンポンダッシュだ、気にするな。

俺がそう答えたのにも関わらず、御坂は確認しようとドアを開けた。

「きゃあ! よつばちゃん!」

うるせえ。ウニ条、つぼみこそプリキュアだぞ? えりかは確かに可愛いが……。

「そんな事、言ってる場合か! 長門さん、よつばを早く!」

俺はウニ条の後頭部を銃のグリップで思いっきり殴って昏倒させた。

長門は二人、治療するはめになった。
全く手間をかけさせる奴らだ。

226 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/09/06(月) 04:44:38.97 ID:xSu7TQko

怪我が癒えたよつばは、涙目で興奮状態だった。

「たいへん! たいへんなの! もーすごく! なー?」

分からん。さっぱり分からん。
またしても銃のグリップで殴ろうとしたところを、白井が止める。
お前も殴ったろか。

「よつばさん。落ち着いて、始めから話してくださいまし」

すると、よつばは泣きながら、ぽつりぽつり話し始めた。

朝比奈さんとインデックスさんが夜明けに出かけるのを見て、よつばはついて行ったという。
恐らく二人は、よつばを残して出かけて俺たちが制止するのを恐れたのだろう、連れて行ったと推測。
そして、ある公園に辿り着いた時。

「てきがなー、おそってきた」

敵?

「おっちゃんだった。てっぽうをもっててな、みくるも、いんでっくすも、うたれたんだ……」
「よつばはたたかおうとしたけど、みくるたちはにげろ、ってなー」
「ころんでけがしたけど、なかなかった」

「……よく、貴方だけでも帰ってきました事。偉いですわ」

「でも……みくるといんでっくすはてきにつかまった」
「よつばがよわかったから……」

俺はよつばに言ってやった。

よつば。貴様は地球上で最下等の生命体だ 。貴様は人間ではない。両生動物のクソをかき集めた値打ちしかない!

「くそかぁ……」

「ちょっとキョン! 小さい子に何を言ってんのよ!」

うるせえよ。
俺はまだ続ける。

227 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/09/06(月) 04:45:41.19 ID:xSu7TQko

朝比奈さんとインデックスさんを助けたいか?

「うん……」

なら、俺が鍛えてやる。話しかけられたとき以外は口を開くな。口でクソたれる前と後に“サー”と言え。
分かったか、ウジ虫!

「さー! わかりました、さー!」

よし。

ウニ条が言う

「キョン。何を考えてるんだ?」

分からんか?
現在、俺たちは戦力が不足している。
たとえ子供でも、全ての力を持って当たるべきだ。
妹も連れて行く。
……総力戦というやつだ。

「そんな……!?」

御坂よ。子供を危険に遭わせたくないのは分からんでもない。
しかし、この長門の部屋に置いていっても、俺たちがいない時を狙われたら終わりだ。
人質が増えるだけだ。
いや、捕まるだけならいいが、殺される可能性もある。

全員、無言だった。

俺は、やはり、昼飯(カレー)を提案した。
腹が減っては戦ができぬ、しっかり休息は摂るべきだ。

いいともでは二ヶ月連続でAKB48がテレフォンショッキングに出演している。
俺はTVを蹴り壊した。
もはや、誰も意見するものはなかった。

「私の、TV……」

小さい事に拘るな、長門。

228 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/09/06(月) 04:47:41.83 ID:xSu7TQko

その後、食休みをしてから、俺は銃を検めた。
警官から大量に奪ったものだ。
数十丁はある。

妹、よつば、長門、ウニ条に、それぞれ一丁ずつ貸し与える。

「銃、か……。俺はこういうのは好きじゃないんだが」

甘ったれるなウニめ。
銃でも持たない限り、お前に戦闘力は無い。カス条だ。
それは他の三人も同じ事だ。

妹、よつばは勿論だが、今の長門は回復要員でしかない。

「その通り。貴方の判断は正しい」

「はー、これがほんもののてっぽうかー」

「キョンくん、なんか怖いよ……」

うじ虫ども、よく聞け。
貴様らはミジンコ以下の虫けらだ。俺が貴様らを人殺しにしてやる。
死にたくなかったら殺せ。
返事は!

「さー!」

「サー?」

「おい、こんな子供にまで……」

ウニ条の側頭部に銃口を当てる。

うだうだ言ってても状況は変わらない。
子供だからとぼんやりしてると、そのうちに死体に変わる。
それともお前……、自分が誰かを守りきれると本気で信じているんじゃないだろうな?
もしそうなら、そんな幻想はぶち殺す。

「それ……は……」

229 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/09/06(月) 04:49:19.95 ID:xSu7TQko

ウニ条はうな垂れていた。

現状把握と、自分の希望。
俺だって妹を参戦させたくはない ―本気だぜ?― が、戦力が足りない。圧倒的に。
新川さんがいる以上、駒は必要だ。

「キョン。俺に、銃を教えてくれ」

良く言った、ウニ条。
気に入った。
家に来て、妹をファックしていいぞ。

「キョンくん、ファックってなあに?」

それはな……。

「そ、そこから先は説明無用ですわ!」

話のこしを折るのは白井だ。
意味を理解しているらしい。

御坂が白井に耳打ちして聞いている。
真っ赤な顔で怒鳴り出す。

「ア、ア、アンタ! なんて事を言うのよ!」

うるさい電気ウナギだ。
全員の心を戦闘ムードに高めようとしているのが分からんのか。

「……確かに。乱暴な軍隊式ですけど今はキョンさんに賭けるしかないかもしれません」

よく言った、白井。
家に来て、妹をファックしていいぞ。

「それはもう、いいですの。それより、わたくしたちは銃は……」

必要ないだろうな。
超能力とやらが使えれば、銃より戦力になるし、あのキャパシティダウンとやらを使われたら……

「銃を使う余裕も無くなる、ってわけね」

230 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/09/06(月) 04:50:51.09 ID:xSu7TQko

午後の時間は、四人の銃訓練に充てた。

長門は流石に飲み込みが早く、すぐに他のやつらへ指導するレベルに達した。

妹も、ハサミを投げる感覚が応用が利いたようで、小学生にしちゃ上出来だった。
よし、家に来て、妹をファックしていいぞ。
……この場合、オナニーになるのだろうか?

ウニ条は、まあまあ、と言ったところか。
しかし、こいつが人間相手に発砲できるか、そこがネックだ。

そしてよつば。
最初は肩を脱臼したり、反動でひっくり返ったりしたものの、最終的にはまともに撃てるようになった。

「よつばは、みくるといんでっくすのかたきをとる!」

立派だ。
家に来て、妹をファックしていいぞ。

「……いい加減、それやめないか?」

ウニ条。これ、俺のお気に入りなんだ。

俺が爽やかに言うと、奴も諦めた。

少し、早い晩飯(カレー)を食べる。
ちびまるちゃんと、サザエさんを予約録画したかったが、TVが壊れていた。
思わず長門に平手打ちをする。

「……いい。ゾクゾクする」

長門が新たな性癖に目覚めそうだったので、今回はここまでにしておく。
また、時間的な余裕があるときに開発すべきだ。

さあ、準備は整った。
全員、戦闘の顔をしろ!
殺せ! 殺せ! 殺せ!

俺たちは、長門の部屋から出た。

231 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/09/06(月) 04:52:54.41 ID:xSu7TQko

一階に降り、腐臭を嗅ぐ。

管理人の死体が、早くも腐っている。
しかし、どうでもいい。

公園を目指し、歩く。
まだ外は明るいが、すぐに日は落ちるだろう。

しかし、おかしな集団だ。

メイド服の俺はともかく、学生服の男子高校生一人、女子高生が一人、女子中学生が二人。
小学生の女児に、幼稚園くらいの外国人の女児。

警察に職質されればなんて言い訳をしようか。
そう考えて、苦笑いする。
警官なんて殺せばいい。

役に立たない法律をかざして大事件を解決しようとする勇士に、いちゃもんをつける輩は処刑だ。

俺は銃を撃ちたくて、警官の姿を探したが、どこにも見当たらなかった。
買い物帰りの主婦や、定時帰りのサラリーマンを撃っても、面白くない。

戦場は、公園だ。

高鳴る鼓動を抑えきれずに、俺は走り出した。

「キョン!」

ウニ条が叫んだ。
知るか。
俺は走る。
可憐に、美的に。
そう、メイド服を着ているからだ。
その走りは、まるでバレリーノのようだったと、俺は思う。
行き交う人々が、俺を見たからだ。
サービスでスカートをめくったりもした。
ああ! 俺って、なんて素晴らしいんだ!

気がつくと、公園の入り口に俺は立っていた。
ここが、俺の戦場だ。

240 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/09/07(火) 23:41:15.79 ID:kdo6ZgEo

んっちゃ んっちゃ んっちゃ んっちゃ ん
ぽっぽっぽっぽー ぽろろっぽ
ぽっぽっぽっぽっぽー ぽろろっぽ
ぽっぽっぽっぽっぽ〜ちゃ・ちゃらららら

ひとしきり白鳥の湖を踊り続けて十分ほど。

白井が現れた。

「はぁはぁ……テレポートでも追いつけない脚力ってどういうことですの……」

俺は黙って足を高く上げ、にっこりと微笑んだ。

更に数分して、全員がやってくる。
ウニ条はよつばを、長門は妹を負ぶさっている。
全員、息を切らせている。

情けない奴らだ。
金玉ついてんのか?

「わ、悪いが俺とキョン以外はついてないと思うぞ……」

揚げ足取りめ。
俺はウニを軽蔑の目で見つめながら、言う。

ここからが本番だ。
見事、朝比奈さんとインデックスさんを助け出し、
あわよくば新川さんをぶち殺す。
いいな! みんな!

全員、ふらふらだが士気は高まっている。
いける。
俺は確信を持った。

そして、日も暮れはじめ、辺りが橙色になっている公園へと、足を踏み入れた。

俺は自分の確信が、間違っている事に気づいていなかった。
あんな事になるなんて、思いもしなかったんだ。

俺は、悪くない。

241 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/09/07(火) 23:42:26.61 ID:kdo6ZgEo

公園には人気は無く、無人のように見えた。

しかし。

強い殺気を感じる。

公園にある時計塔の、あの細い棒の上だ。

そこには、朝比奈さんとインデックスさんの二人が、縛られていた。
そこそこ高い時計塔の先端部分。
古泉の死体を思い出す。

「キョンくん! た、助けて……」

「とうま! おなかへったんだよ!」

その声に、ほっとする暇も無く、俺たちは構える。
殺気は、あの二人の方から流れてくる。
彼女らがこんな殺気を放てるわけがない。
と、すると……?

みんな! 感覚、心の目をよく凝らせ!
奴は『あそこ』にいるはずだ!

長門がいち早く気づく。

「……見えた」

俺たちにも確認できた。

「……やあ、お久しぶりです」

……新川さん。

今の新川さんは、ハルヒの制服を着ていた。
恐らく戦闘に向いているからだろう。
バニースーツは、武器を隠す場所が少ないからな。

拘束されている二人の、更に上に立つセーラー服の新川さん。
敵ながら、美しささえあった。

242 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/09/07(火) 23:44:16.98 ID:kdo6ZgEo

「しかし、遅かったですね。そこの子を逃がしてから、ほぼ半日以上、経っていますよ」

巌流島での、宮本武蔵と佐々木小次郎の話を知ってますか、新川さん?

「ははっ。待たせて冷静な判断力を失わせる……そんな小細工が私に通用するとでも?」

いや、別に待たせる気はなかったんですがね。
こちらも色々と準備してきたんですよ?

「ほほう……。しかし! 私の勝ちは決定しています」

新川さんが小さな機械のスイッチを入れる。
キャパシティダウンというやつだ。

御坂と白井が、地に膝を着く。

ウニ条! 長門! 妹! よつば! 新川さんを狙え!

五発の銃声。

俺を入れて、五人が発砲した。
ウニ条とよつばの弾はあさっての方角へ。
俺と長門、妹の弾は、新川さんが、拳銃のグリップで叩き落した。

……なんて反射神経だ、糞っ!

俺は諦めず、引き金を何度も引く。

その全てを、銃のグリップ部分で叩き落す新川さん。
銃弾で弾く必要もないってことか?

「……キャパシティダウンを!」

御坂が呻く。
ああ、俺もそいつを狙ってるんだけどな。
全く、隙が無いんだ。

新川さん。
あんた、本当に人間なのかよ?

243 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/09/07(火) 23:45:42.29 ID:kdo6ZgEo

「さ……てと」

新川さんが呟く。

「このお二人のお嬢さん……何の為に生け捕ったと思いますか?」

どういう事だ?
人質、なんだろう?

「人質……そんなものは必要ないのですよ」
「私は、貴方たち全員を相手にしても、勝つ自信があるのですから」
「スカートめくられ、というご褒美を前に、私は限界を更に超えているのです」

何を言ってる?
スカートめくられ?

人質ではない。
なら、何が目的で……?

「貴方たちに絶望を与える為ですよ」
「彼女たちを、助けに来たのでしょう?」

新川さんの手に持っている物が、拳銃からナイフに変わっていた。

まさか。

やめろーーーっ!

新川さんが軽く腕を動かす。
朝比奈さんの、インデックスさんの。

首が、胴体から離れた。

地面に、熟れた柘榴が落ちる、そんな音がした。

時計塔の上の、二人の身体には、首が無かった。

ただ、血飛沫だけが、新川さんと首の無い胴体を染め上げていた。

朝比奈さんとインデックスさんは、殺された。

244 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/09/07(火) 23:46:54.33 ID:kdo6ZgEo

目の前が赤く染まる。
走る。

「いけない。彼は二人が殺された事よりも、血でメイド服や修道服を汚されたのを怒るタイプ」

長門が何か言う。

走る。
新川さんを、殺す!

突如、足が熱くなる。
俺は転んだ。
見ると、銃創が足に出来ている。
血が、噴出している。

「キョン……くん。ダメだよぉ……行っちゃ、殺されちゃうよぉ……」

妹が涙目で拳銃を構えている。
撃ったのは妹。

暴走しかけた俺を止めるために、足を撃ったんだ。

「良い判断。直ぐに治療を行う」

長門が高速詠唱に入る。

妹よ。
ありがとな。
頭に血が昇った状態で、新川さんに特攻なんざ無謀にもほどがある。
家に来て妹をファツクしていいぞ。

……よし、頭は冷えた。
後は、足の回復を待って……。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

ウニ条!?

奴の形相は普段とは比べ物にならないほどに歪んでいた。
そして、新川さんに向かって走っている!

245 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/09/07(火) 23:47:40.04 ID:kdo6ZgEo

インデックスさんを殺された怒りだろう。
俺たちの声も届くまい。

俺はウニ条の足を狙って撃った。

外れた。

馬鹿な!
俺が外すだと!?

妹! よつば! ウニ条の足を止めろ!

四発の銃声。

しかし。

全て外れた。

否。

避わされたんだ。

「上条当麻の脳のリミッターが解除されたと思われる……」

長門が、一瞬呟く。

だとしても!

無謀にもほどがある!

「やれやれ。やっと本命が近くに来ましたね」

新川さんの持っているのは、軽機関銃だった。

「『幻想殺し』! 貴方が一番殺されねばならない存在なのです!」

銃弾の雨がウニ条を襲った。
馬鹿野朗!

「な……なんと!?」

246 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/09/07(火) 23:48:45.02 ID:kdo6ZgEo

ウニ条は、軽機関銃の全ての弾丸を避わしていた。

なんだよ、それ……化け物か、あいつは?

「そんなはずは!」

新川さんが軽機関銃のマガジンを入れ替え、再度引き金を引く。

ウニ条には当たらない。

「あがああああああああああああああああああああああっ!」

ウニ条は、一度の跳躍で時計塔の新川さんの懐へ飛び込んだ。

「そげぶらああああああああああああああああああああっ!」

右手で、一撃。

新川さんは、軽機関銃を取り落とす。

「ぐっ……! しかし、何度もあの『お方』の風に当てられた私に、一撃入れただけで……」

新川さんの言葉の最中に、更にもう一発、渾身の一撃。

「ぷげらぷげらあああああああああああああああああっ!」

最後に、大きく身を沈め、右手のアッパーカット!

「俺の最弱はああああああああああああああああああっ!」
「かなり効くぜえええええええええええええええええっ!」

言葉の意味は不明だが、新川さんが宙に浮いている、今が勝機だ!

長門! 妹! よつば!
新川さんの頭部を狙え!

四発の銃声。

四つの鉛弾は、見事に新川さんの頭にめり込んだ。

247 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/09/07(火) 23:49:23.04 ID:kdo6ZgEo

新川さんと、ウニ条が地面に降り立つ。
いや、立ったのはウニ条だけだ。

新川さんは、地面に叩きつけられた。

「そげぶ! そげぶ! そげぶ! そげぶ! そげぶ!」

ウニ条が、新川さんを殴り続ける。

俺は、足の怪我が治っているのを確認し、ウニ条に近づく。

「そげぶ! そげぶ! そげぶ! そげぶ! そげぶ!」

ウニ条。

「そげぶ! そげぶ! そげぶ! そげぶ! そげぶ!」

ウニ条、やめろ!
……もう、終わったんだ。

「そげ……ぶ?」

……ああ。
お前は、インデックスさんの仇を討った。

「そげ……そげ……ぶぶ……」

泣けよ。
……言っただろ?
お前が、守りきれるとは、限らないって。

「イン……デックス……」
「うわああああああああああああああああああああっ!」

俺は、新川さんの近くに落ちていた機械を踏み壊す。
御坂と白井が、こちらにくる。

「そんな……」

「殺されて、しまったのですか……」

248 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/09/07(火) 23:50:51.54 ID:kdo6ZgEo

沈黙。

いや、ウニ条の泣き声と、御坂、白井のすすり泣きがBGMだ。

俺は長門と共に、朝比奈さんとインデックスさんの身体を塔から下ろした。
首の所に、首を置く。

「……俺は……助けられなかった」
「インデックスを……助けられなかった……」

ウニ条の胸倉を掴み、顔面を殴る。

誰だって、失敗することはある。
それが取り返しのつかない失敗であっても、だ。
けど、それで終わるのか?
ウニ条。
お前は、ここで泣く事しかできないのか?
なら、いいさ。
ここで、好きなだけ後悔してろ。
泣いていろ。
『佐天涙子』とやらは、俺が倒す。
……お前は、休め。

俺は長門に頼んで、朝比奈さんとインデックスさんの首だけでもつなげてもらった。
女の子が、首無しじゃあ、可哀相だからな。

「あ……」

どうした、長門?

「二人の身体と首を間違えた」

……ということは、メイド服の巨乳がインデックスさんで、
修道服の貧乳が朝比奈さんになっちまったわけか?

「そう。……もう一度、切断して付け直す?」

……流石に死体にそれはまずいだろう、と思う。古泉じゃないんだから。

「残念だけどその通り……」

249 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/09/07(火) 23:52:00.93 ID:kdo6ZgEo

……ウニ条がやってきた。

どうした。泣くのは終わりか?

「泣いてても、インデックスが生き返るわけじゃ……ない」

……その通りだ、ウニ条。
俺は朝比奈さんのメイド服を着る事にした。
彼女の分まで戦う証にな。
お前は……どうする?

「……俺も、インデックスの修道服を着るよ」
「あいつの分まで、……俺が戦う」

……良く言った。

着替えの間、皆、無言だった。
白井辺りが、死者の、それも女性の服を着るのは如何かと思いますの! とか言うかと思ってたが、
彼女も分かったらしい。

俺と、ウニ条の、覚悟が。

そう。ふざけてるんじゃないんだ。
大真面目なんだ。
だから、俺はメイド服を着るし、ウニ条は修道服を着る。
これは儀式であり、誠意であり、追悼でもある。

着替え終わった俺たちは、互いの姿を見た。

「……キョンは、あまり変わってないのな」

ウニ条め。よく見ろ、ここのステッチとか違うだろ? それより……似合ってるぜ、修道服。

「へへ……」

ウニ条は気色の悪い笑みを浮かべると、こう言った。

「もう、後悔はしたくない。少なくとも過ぎた事に囚われない」

オーケィ。貴様は立派な戦士だ。

266 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/10/02(土) 13:46:52.65 ID:OrjrgQYo

「……ともあれ、お二方をこのままにしておくのは忍びないですの」

白井が言い出す。

そうだな……遺体を野晒しにするなんてもっての他だ。
ウニ条、埋葬しよう。
お前がやれば、きっとインデックスさんも、喜ぶ。

「ああ……しかし、どこに?」

ここだよ。
この公園に埋葬だ。
真ん中の、誰でも参拝できるような、立派な墓を作るんだ。

「あの……公園は公共のモノでして……」

白井が口を挟む。

土地を分けたり、区切ったりしたのは人間の勝手な行動だ。
本来、土地とは誰のものでもない、生きとし生けるもののもの。
死ねば土に還り、新たな生命につなげる。
それとも、お前は二人の魂をさ迷わせたいのか?

俺の説得により、白井も納得した。

「お姉さま。あの方、会話はできるのに話が通じませんの……」

「……うん、知ってる。逆らうと、ある意味怖いからそのままにしておきましょう」

「……はいですの」

そして、俺とウニ条は公園のど真ん中に穴を掘った。
深く、深く、もっと深く。深ければ深いほうがいいに決まってる。
手間ひまかけてこその埋葬だ。
額に汗が浮かび、腕がだるい。
しかし、俺たちは掘り続ける。

そして。
一メートルほどの縦穴が、二つ、完成した。

267 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/10/02(土) 13:48:12.69 ID:OrjrgQYo

朝比奈さん、インデックスさんの遺体を、穴へ足から入れてゆく。
頭部だけ残し、ぴったり収まる。
隙間に土を入れ固める。

まるで、スイカ割りの時に埋められてスイカと間違われてぶん殴られそうな状態だな。

ウニ条を見ると、インデックスさんの顔を見ながらまた泣いていた。
まあ、泣ける時に泣いておけ。
これからはそんな暇は無くなるのかも知れんのだからな。

俺は朝比奈さんの顔を何とかしようと悪戦苦闘していた。
彼女の舌は、でろんと飛び出し、目は中途半端に開いて薄気味悪い。
あの、愛らしかった朝比奈さんを、何とか再現しようと、舌を口の中に押し込む。
目を閉じさせる。

結局、セロハンテープを駆使して、一応の笑顔らしきものを作り終えた。

ん? ウニ条はどこに行った?

公園の出入り口から走る音がする。
修道服姿のウニ条が、スーパーのビニール袋を両手に抱えてやってくる。

……それは?

俺が聞くと、ウニ条はポツリと言う。

「アンパンだ。生きてるうちに、思いっきり食べさせてやりたかった」

ウニ条は、インデックスさんの口に、アンパンを詰め込み始めた。
それがウニ条なりの供養なのだろう。
見ていると三百個はアンパンがある。
どんどん、ウニ条はインデックスさんの口に詰め込んで行く。
彼女の頬は膨らみ続け、元の形状を保ってはいなかった。
それでも。
ウニ条はアンパンを押し込め続ける。

「美味いか、インデックス。そうかぁ、美味いか」

ぶつぶつと呟きながら。
最終的に、インデックスさんの頭部は、まるでアンパンマンのようになっていた。

268 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/10/02(土) 13:49:48.60 ID:OrjrgQYo

愛と勇気だけが友達。
インデックスさんの顔は、その言葉がよく似合う死に顔だ。

長門が、何やら担いできた。

「墓標の代わりに。ゴミ捨て場に捨ててあった」

ありがたく頂戴し、立て札を地面に突き刺す。

『 ご 自 由 に お 引 き く だ さ い 』

立て札にはそう書かれてあった。
何の為の立て札なのだろう。
とりあえず、文字の下に『朝比奈みくる・インデックス』と書き添える。

長門が、二本の棒のようなものを二人の首の横に置く。

何だ、それ?

「分からない。一緒に捨ててあった」

それは竹でできたノコギリだった。
こんなもの、一体何の役に立つのか。

全員で黙祷する。
もはや、泣き声は聞こえない。
ウニ条も、御坂も、白井も、乗り越えたんだ。
よつばは神妙に手を合わせている。
なかなかいい子だ。
家に来て妹をファックしてもいいが、返り討ちにあいそうなので言葉にはしなかった。

供養が済んだ。

俺たちは次に進まなければならない。

いつまでもそこに居たい気持ちを振り切る。
朝比奈さん、インデックスさんの首ノコギリの刑場を後にし、新川さんの死体へと向かう。
奴……全ての元凶である『佐天涙子』とやらの情報を少しでも得られればいいのだが。
僅かな望みをかけるしかない。

269 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/10/02(土) 13:51:19.19 ID:OrjrgQYo

新川さんの死体。
ハルヒの制服を着た、壮年男性の死体。

「……呆気ないものだな、こんなに簡単に決着が着くなんて」

ウニ条が呟く。

俺も同意見だ。
しかし、勝った以上は、勝者である俺たちが前に進まないといけない。

俺は新川さんの死体に手をやった。

……?

「どうかした?」

長門、こいつを見てくれないか?

「これは……死体ではない」

ああ。

「抜け殻、と言う方が正しい」

御坂が叫ぶ。

「どういう事よ……! この人、死んだんじゃないの!?」

しかし、新川さんの背中は真っ二つに割れており、中身は空っぽだ。
要するに……脱皮したということか?

「そうとしか考えられない」

長門の言に、白井が答える。

「ちょっと待ってくださいまし。……頭がついていけませんの」

安心しろ、白井。
俺もついていけてない。
これは一体、どういうことだ?

270 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/10/02(土) 13:53:35.85 ID:OrjrgQYo

ウニ条が、新川さんの背中の裂け目に手を入れる。
奴の手には、粘液が付着していた。

「中身は……抜け出て、間もないぞ!」

そうか。
まあ、それよりその手はよく洗うまで他に触るなよ。
修道服で拭ったりもするな。
価値が落ちる。

と。

上空から羽ばたく音が聞こえた。
見上げると、そこに居たのは……怪物だった。

キメラ、或いは鵺、といったところだろうか?

色々な動物のパーツを組み合わせた、不気味な生物。
飛んでいるのは、蝙蝠のような翼を羽ばたかせているからだ。
そして。
二メートルほどの長い首の先についている、その顔は。
新川さんのものだった。

「ちょっと、もう、なんなのよこれ!」

「黒子は別世界に迷い込んでしまったのでしょうか……」

流石の俺も自分の正気を疑った。
ウニ条の頭を銃のグリップで殴る。
痛いらしいから夢ではない。
本当に、一体どうなってるんだ?

長門が、ぽつりぽつりと喋り出した。

「これは憶測に過ぎない」
「もしかすると、新川は頭部に銃弾を浴びた時、致命傷に陥らなかったのかもしれない」
「そして、『能力』による理性の制限がもたらした生存本能が、彼をあの形に変態させた……」
「私は、そう推測する」

……と言われても。まあ、長門の言う事だから確かなんだろうが。

271 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/10/02(土) 13:55:01.86 ID:OrjrgQYo

「おおー! かいじゅうだ! おーい!」

やばい。よつばが無邪気に新川さん?を呼んでいる。
俺たちはすぐにでも攻撃できるよう構えをとった。
しかし。

「ハルタン! ハルタン!」

新川さん?は奇妙な鳴き声を上げてこちらを見ているだけだ。

「今の彼は、獣同然」

長門の分析。

「大脳が銃弾によって破壊され、あのような姿になり生き延びたものの、知性はほぼ、残っていないと推測される」

じゃあ、あの新川さん?は無害な珍獣ってことか?

「そうなる」

だとすれば……。

おい、よつば。
あいつを手懐けてみろ。

「てなずける?」

ああ、……そうだな、仲良くなってみろって事だ。

「わかっぱー! あはははは!」
「こーいこいこい、かいじゅう!」

「ハル、タン! ハルタン!」

「こいこい」

「ハル、ハル、タン?」

「よーし、いいこだなー」


272 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/10/02(土) 13:57:43.46 ID:OrjrgQYo

「ハルタン! ハルタン!」

「うわっ! かおをなめるなー!」

よつばが新川さん?をぶん殴る。
しかし、それでも新川さん?は怒らないようだ。

「ハル、ハル、ハルタン!」

「うー、こいつなめてくるぞ?」

おう、よくやった。このアンパンでも食わせてやれ。

俺はウニ条からくすねておいたアンパンを渡した。

「くうかな? おー、たべたたべた」

「……あの。ソレを慣らしてどうされるおつもりですの?」

なんだ白井、分からないのか?
紹介しよう、こいつは新しい俺たちの仲間、『アラカワサン』だ。

「な……」

「何言ってんの、あんたは……」

「さ、流石に冗談だろ?」

俺は冗談は言わない。
朝比奈さんとインデックスさんの穴を埋められるのは、この『アラカワサン』しかいない。
今は少しでも戦力が欲しい。違うか?

「そりゃ、まあ……確かに……」

ウニ条の納得と共に、御坂も白井も現状を考えているようだ。

「危険がなければ、仕方ないと思う、けど……」

オーケィ。

こんな珍獣、事件が終わってから、売り飛ばせばいくらになるやら……ふふふ。

273 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/10/02(土) 14:00:05.47 ID:OrjrgQYo

改めて、新川さんの抜け殻を調べる。

ハルヒの制服は、ズタズタになっていた。
俺は、悲しくなった。
新川さんは、決して悪人ではなかった。
ただ、愛情の表現の仕方を間違えた、女子高生に恋焦がれる一人の壮年男性に過ぎなかったのだ。

服の懐から出てきたのは、ハルヒの使用済みであろう、ストロー、割り箸、etc、etc……。
ただただ、涙があふれるのみ、だ。

「お姉さま、これって!」

白井が声を上げる。
どうでもいいが百合って興奮するよな、おい。

「これ……初春さんの携帯!?」

その携帯が、突如、鳴りはじめた。

 サテンサーン サテンサーン サテンサーン サテンサーン

『着信:佐天さん』

みんなの目が、俺に集まる。

何だ? 踊ればいいのか?

いや、分かってるんだ、出ればいいのだろう。
何故、俺が電話に出なければならないか、その理由は明白だ。
まず、友人であったという御坂、白井ではまともな交渉は期待できない。
その連れであるウニ条も、インデックスさんの死で、今はまともに頭が働かない状態だろう。
長門は無口で、こういう初対面の人物との話し合いには向いていない。
よつばに任せるのは論外だ。
という俺の人徳の高さから、俺が電話に出る事になった。
スピーカーモード、オン。

もしもし?

『あ、もしもし? 新川さん……じゃないですよね』

274 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/10/02(土) 14:02:07.04 ID:OrjrgQYo

ああ。

『違う人が出るって事はー。新川さん、やられちゃったりします?』

やられちゃったりしましたよ?

『あちゃ−! 残念だなぁ、帰りにお菓子、買って来てもらおうと思ったのに』

それは、もう無理だな。……お前が『佐天涙子』、か。

『あ、自己紹介してませんよね! どーもー、佐天涙子でーす。レベルは5、でーす』

……俺はキョンと呼ばれているナイスガイだ。

『ああ! 新川さんから聞いてますよー! 色々とやってくれますねー』

お前こそ、好き勝手やってくれるじゃねえか?

『別にあたしは、何もしてないんですけどねー』

お前の『能力』とやらのお陰で、何人の犠牲者が出てると思ってるんだ?

『いや、本当に何もしてませんってば。ちょーっと理性無くしてもらっただけで』
『それ以外の行動は、全部その人の責任ですよ』
『……キョンさんが、あたしに敵対するように、ねー?』

……目的は何だ? 何がしたい?

『それ、聞いちゃいます? そうだなー……』
『レベル5の力、試してみたい! なんてどうでしょうかー! あはは!』

「……佐天さん!」

御坂が叫ぶ。

『お、御坂さんもいますかー? お久しぶりでーす』

「何で……何で……こんな事……!」

御坂は泣いていた。

275 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/10/02(土) 14:06:22.06 ID:OrjrgQYo

『ま、細かい話は直接あった時にしましょうよ、御坂さん、それに白井さん』

「佐天さん……!」

白井が息を呑む。

『こっちも新川さんがいなくなったんで、ちょっときついんですよー』
『だから、そう……一週間後の夜12時。キョンさんの通ってる北高に来て下さい』
『そこで、お話しましょうよ。……ゆっくりと』

……望むところだ。

『あ、そういえばいいとも見ました? AKB48が……』

俺はボタンを押し、通話を切った。

みんな、一週間後の、夜12時。学校で決着をつけるぞ。

ウニ条、御坂、白井、長門が頷く。
よつばは、というと……。

「すげーな、アラカワサン! よつばのせてとんでる!」

「ハルタン! ハルタン!」

『アラカワサン』をすっかり手懐けちまったようだな。
街明かりの空を、奇怪な生物が幼女を乗せて飛んでいる。
何ともシュールな光景だ。
古泉に見せたら、どう言っただろうか?
朝比奈さんに見せたら、どんな反応をしたのだろうか?
もはや意味の無い事を考えつつ、俺はみんなに帰る事を促した。

三々五々、俺たちは長門の部屋を目指して歩く。
とても疲れた。
被害も大きい。
しかし、弱音を吐く時は今では無い。

俺は大声でキテレツ大百科の歌を歌いながら、踊り歩いた。
みんなの乾いた笑みが見える。
それでいい。
笑えるうちは、まだ大丈夫だ。

282 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/10/09(土) 17:39:26.11 ID:2UiJC8wo

長門の部屋に戻った俺たちは、泥のように眠った。

「ハルタン! ハルタン!」

『アラカワサン』の鳴き声で目が覚める。外はいい天気だ。
全員でカレーを食べる。
みんな、無言だ。

よつばと妹が、『アラカワサン』と戯れてはいるが。

飯を食い終わり、俺はみんなに言った。

対策を練ろう。

その場の全員が唖然としていた。
何故だ?

「……いや、キョンの事だから、まずは踊ろう! とか言うんじゃないかと思っててな」

「アタシも……」

「右に同じですの」

「……以下同文」

長門までか。お前まで俺をそんな目で!
……まあ、それならいいだろう。
踊ろう!

「いや、その……悪かった。対策を練ろう」

俺が足を高く上げ、ダンスの最初の動きに入った時、ウニ条が止めた。
止めるくらいなら踊るなんて言うな、と俺は上げた足をウニ条の脳天に叩き落す。

長門が呟き、それを癒す。

「大変、危険な状態だった。あと二秒遅ければ死んでいた」

知るか、馬鹿。

283 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/10/09(土) 17:42:28.20 ID:2UiJC8wo

ウニ条が治ったところで、俺は部屋の襖を外し、そこに文字を書いた。

  【 俺 ・ 長門 ・ ウニ条 ・ 御坂 ・ 白井 ・ 妹 ・ よつば ・ 『アラカワサン』? 】

「私のマンションの襖……」

細かい事を言うな、長門よ。

「キョン、それは?」

俺たちの戦力だ。
役に立つ順に並べてある。

「納得いかないわよ! レベル5のアタシが、何で四番目なのよ!」

「そうですわ! お姉さまは常盤台が誇る……」

銃声。

白井のツインテールの片方が弾け、無くなった。

いいから黙れ、な?

白井と御坂はカクカクと首を縦に振り、これで俺は説明をする事ができるようになった。

つまり、お前ら超能力者を下に置いているのは、だ。
あのキャパシティダウンとやらのせいだ。
アレを使われると、お前らは単なる役立たずの屑に成り下がる。

「くっ……それは確かにそうですけれど」

そういう事を考慮しての順番だというのにお前らときたら、自分の感情を丸出しにして、恥ずかしいと思わんのか?

「アンタにだけは言われたくなかったセリフ……!」

「ま、まあまあ、お姉さま。……キョンさんも、なかなか考えておられるようですし」

まあな。
これ以上、被害を出すわけにはいかんのだ。
俺の生存確率に関わってくるからな。

284 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/10/09(土) 17:43:53.64 ID:2UiJC8wo

俺の言葉に納得したのか、ウニ条たちは本腰を入れて考え始める。

「確かに、キョンの身体能力は抜き出てるからな……」

「長門さんも、傷をほぼ一瞬で癒せるのはすごいですの」

「でも、なんでコイツが三番目にくるわけ?」

御坂がジト目で聞いてくる。

ウニ条の事か……。
新川さん戦で、確信したんだが、こいつはキレると身体能力が向上するんだ。
今の俺レベルにな。
そう考えると、『佐天涙子』の能力を受けた方がいいような気がするが。

「あー、ダメダメ! こいつは理性無くしたら無差別に、女の子にちょっかい出して歩く変態になるわ!」

「ちょっと待て、ビリビリ。どういう事だ?」

「まあ、やりかねませんわね」

「白井まで!?」

……まあ、どうなるにしても、敵の戦力に取り込まれそうになるのだけは避けたい。
俺自身が何故にこうも『佐天涙子』と戦う気になっているかというと。
それは多分、毎度毎度ハルヒの無茶振りに振り回されていたからだと思う。
自分の意思で動きたい。
枷をはめられて、何が何やら分からないままに動きたくないんだ。

……何だ? みんなその目は?

「お前って、本当に理性を抑えられてるのか?」

「何だかんだ言って、言う事は結構まともなのよね」

「まあ、だいぶ奇抜な感性と反射的に暴力を振るう癖が目に余りますが」

……。

長門が、喋り出す。

285 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/10/09(土) 17:49:03.33 ID:2UiJC8wo

「彼は、一般人でありながら、様々な経験をしてきた」
「異様と思える経験を受け止める精神力はその度に鍛えられてきただろうし、無論、耐える下地もあったと思われる」
「『能力』で理性が極端に押さえ込まれても、相手を思いやる事や、自分がしなければならない事を忘れたりはしない」
「……ある意味、本来の彼は大きすぎる理性に囚われる可哀想な存在、とも言える」

沈黙。

結局のところ、俺って、凄いのか哀れなのかどっちなんだ?

ともあれ。
これからの時間……『佐天涙子』との対決の間までの一週間は、全員の修行にあてたいと思う。
情報収集して先に叩く、という手段も考えたんだが……。

「私が傷の治療しかできない以上、他の人間が外部をふらつくのは得策ではない」
「先に言われたように、敵の攻撃を受け、命を落とすか、傘下に下るか、の危険性がある」

と、長門の言うとおりだ。
それならば、自分たちの戦闘能力の向上を一番にしたほうがいいだろう。
白井よ。

「はい?」

お前はどうやら、正規の格闘訓練を受けてるみたいだな。

「ジャッジメントですので」

ならば、お前はウニ条と御坂にそれを教えろ。
敵は殺す。殺すための機械になれ。……とな。

「そこまで殺伐としたものではないのですけれど……分かりましたわ」

「え? で、でもアタシ能力があるし……キャパシティダウンを使われたら、そもそも動けないし!」

御坂。自分の電撃にのみ頼ってお前が一人、死ぬのは構わん。
しかし、足手まといになるのは許さん。
例え身体が動かなくなろうとも、気合で何とか動かせ。
そしてその時には格闘訓練は役に立つだろう。
……能力が使える場合でも、動き方を学んでるのとそうでないのとは大きな違いが出る。
その僅かな差が、勝負の結果を左右するかも知れんのだ。

286 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/10/09(土) 17:50:52.03 ID:2UiJC8wo

「……分かった。黒子、お願い」

「お、お姉さまと寝技の訓練なんて! 何と素晴らしい……じゅるり」

「寝技だけかよ! というか上条さんにも訓練忘れないでください?」

……こうして地道に駒の強さを上げておけば、最後に立っているのは俺だ。
そう考えると、俺は笑いが止まらなくなった。

あははははははははははははははははははははははははははははははははははは!

長門が俺の鳩尾に一撃入れ、俺はもんどりうってへたり込んだ。

ありがとな、長門。
あのまま笑い死にするかと思ったぜ。

「感謝は要らない。……壊れたTV、新しいのをアマゾンで買ってくれればそれでいい」

……この根暗人形め。
俺は長門がどこからか持ち出してきたPCでTVを購入した。
クレジットカードは古泉のものだから俺にはどうという事も無い。

「それで、キョン。よつばと妹さんはどうするんだ? これ以上、戦いに連れて行くのは……」

ウニ条。
俺だって鬼では無い、年端も行かない子供たちを危険に晒したくはない。
ないのだが。
如何せん、戦力が足らんのだ。
俺の構想を話そう。
それは、新戦力『アラカワサン』との連携行動だ。
『アラカワサン』に乗った妹とよつばが、高機動力をもってして敵を翻弄する。
その為には二人には『アラカワサン』とコミュニケーションをふんだんにとってもらう。
よって、妹とよつばは、銃の命中精度の向上、並びに『アラカワサン』の騎乗訓練、ということになるな。

「……仕方が無い、か」

ウニ条が納得する。
まあ、納得しなければ俺が銃の引き金を引いてた、というのもあるんだろうがな。

それにしても、こいつ修道服がよく似合いやがるなぁ。

287 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/10/09(土) 17:51:52.61 ID:2UiJC8wo

「『アラカワサン』、おてー! あははははー!」

「ちゃんと、お手するねー、よつばちゃん!」

まあ、あっちは大丈夫そうだ。
長門。俺たちは……。

「分かってる」

長門は、そう言って頷く。

御坂が聞いてくる。

「キョンと長門さんはどうするの?」

言わずもがなの事を。
仕方が無い、説明してやるか、長門よ。

「……彼は、これから一週間、踊り狂う」

「はあ!?」

「寝食も最低限、ひたすら踊る事になる」

「あの……それはどういった訓練なのでしょう?」

白井が再度問いかける。
まだ、分からんのか。

「理由……それは彼が踊りたいから」

そうだ。
俺は踊りたい。
一心不乱に、何があっても、例え世界が滅ぼうとも!
踊りに踊って、踊り狂って見せる!

「い、いや、キョン。あのな」

俺が踊りを止めた時、――それが戦いのゴングだ。

288 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/10/09(土) 17:53:19.34 ID:2UiJC8wo

「意味がわかりませんの!」

「流石にわけが分からないわ!」

「キョン、踊ってる場合じゃないだろう!」

言っても分からぬ馬鹿ばかり。
長門、説明を頼む。

「……彼が踊るのは、意味が無いわけでは無い」
「踊る事によって全身の筋肉を酷使し、神経を研ぎ澄ませる」
「戦闘に向かない、メイド服での動きを完璧にする為」
「又、ハイヒールによる足首への負担への慣れ……。これは彼なりの特訓方法」
「ちなみに、私はここにいる全員の、訓練による負傷を癒す事に重点を置く」
「妹やよつばに射撃を教えるのも私」

ウニ条たちは顔を見合わせる。

「ま、まあそれが特訓になるんだったら、なあ?」

「た、確かに、激しい踊りだものね?」

「バレリーノとは喧嘩するな、との格言もありますし?」

後、三秒だけ待ってやる。
納得できない奴は、射殺する。

「頑張れよ、キョン!」

「応援してるわ!」

「素敵なダンスを踊ってくださいまし!」

分かってもらえて俺は嬉しい。

まあ、本当はただ単に踊りたいだけなのだがな。
長門が言った要素もないわけではない。
それに、俺が踊るのは、散っていった仲間たちの弔いのため。
それを言ったら、ウニ条なんかはまた、落ち込むだろう。
この一週間で全てが決まる。落ち込んでる暇なんかないんだから。

289 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/10/09(土) 17:54:43.79 ID:2UiJC8wo

そして―― 地獄の一週間が始まった。

「く、黒子……ギブ! ギブ!」

「あぁん! お姉さまったらこのくらいでギブだなんてぇ」

「が……ま……」

「な、長門さーん! 御坂の治療お願いしまーす!」

「……首の骨が折れてる。危険」

「なー! 『アラカワサン』ってオスだな! ちんちんついてる!」

「ほんとだー! ひくひくしてるー!」

「ハル……タン! ハルタン! ハ、ハ、ハルタ……ン!」

「なんかでた!」

「白いおしっこ? 『アラカワサン』病気!?」

「……それはおしっこではない。精液といって……」

ウゥーーッ、ヤッホ−イ!
いぃざす・す・めや・キッチィン〜!
めぇざすは・ジャ・ガ・イモォ〜!
ゆでたらぁ、かわをむいぃて、ぐにぐにと・つぶせぇ〜!

さあゆ・う・きをぉだぁしぃ〜!
みじん・ぎ・りだ・ほうちょぉ〜!
ためねぇぎ・めにしみてぇも・なみぃだ・こらえてぇ〜!

いぃためよう・みぃんちぃ・しぃお・コショウでぇ〜!
まぁぜたなぁら・ポォテト・まるぅく・に・ぎ・れ〜!
こぉむぎぃこ・たぁまご・にぃ〜!
パンこぉを・ま・ぶ・しぃて〜!
あげれぇば・コロォッケだぁよ・キャベツゥは・ど・う・し・たぁ〜? イーヤッホゥイ!

「……貴方も、無理は、しないで」

290 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/10/09(土) 17:57:22.52 ID:2UiJC8wo

―― 七日後。

「し、白井……あうあ……」

「お姉さま、これが関節の外し方ですの。全身の全ての関節を外しましたわ」

「……ね、ねえこれ、大丈夫なの? やばくない? 涎が出てるし目の焦点も合ってないし!」

「大変危険。すぐ治療しないと、廃人になる」

「ほーらほら! 『アラカワサン』、きもちいいかー?」

「よつばちゃん、おしっこ絞るの上手だね!」

「よつば、うしのおっぱいしぼったことあるからなー! あはは!」

「教育的にいけない。……が、『アラカワサン』が二人に懐いてるので良しとする」


ホッ……トッペッパ ピップ……ペッパッピ……♪
ペッパッペ……ッパ ピップペッ……ポッピ♪
ホットペッパ…… ピッ……プペッパッピ♪
ペッパッペッ……パ ピップ……ペッポ♪
……ヘイ!
ホットッペッ……パ ピップ……ペッパッ……ピ♪
ペッ……パッペッパ ピップ……ペッポッピ♪
ホット……ペッパ…… ピップ……ペッ……パッ……ピ……♪
ペッ……パッ……ペッ……パ…… ピッ……プ……ペッ……ポ……♪
……ホゥ!

ぐっ……、きつい……。
不眠不休での一週間踊りっぱなしが、こんなにもきついとはな。

「……膝から脛の骨が突き出ている。足首は捻じ曲がっている」
「もう、限界。……やめたほうが良い」

そう言われてもな。
お前だって俺の踊りを録画してるんだろ? 楽しんでいるんだろ!
これが俺のやるべき事だ! 最後までやり抜くさ!
蝋燭が燃え尽きる、最後の炎のようにな!

291 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2010/10/09(土) 18:00:44.46 ID:2UiJC8wo

――
目が覚めると、昼頃だった。
どうやら俺は、七日間、踊りぬいて気を失っていたらしい。
負傷は長門が癒したようだ。
疲労も、癒えている。

「目が覚めたか、キョン」

ウニ条か。……みんなの仕上がりはどうだ?

「まあ、いけると思う。……みんな、頑張ったからな」

どうした? 浮かない顔をして?

「あのさ……言いにくいんだけど。約束の、一週間後の12時って……もう過ぎちゃってるんだが」

「その……少々、訓練に夢中になり過ぎてしまいましたわね、わたくしたち」

「佐天さんに、待ちぼうけ喰わせちゃったわね……」

それは……完璧に想定外だな。今……昼の3時過ぎ、か。
完全な遅刻だ。どうしよう?

「まあ、御坂や白井とも話してたんだが……」

「前にも予定が合わなかったりして、遊ぶ約束ドタキャンしたりはあったのよ」

「ですから、まあ、大丈夫だと思うのですが」

お前ら……友達だったんだろ? 何気に酷いな。

「と言うか、お姉さまはレベル5で色々と実験などがおありですし」

「黒子はジャッジメントの仕事で初春さんと急に抜ける事、多かったもんねー」

……何だか『佐天涙子』が哀れに思えてきた。
今回は、うっかり一日間違えたって言い訳する事にしよう。
今日の12時! 行こうじゃないか、決戦の場……北高へ!
なあに、笑って許してくれるさ!
……多分、な。

292 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2010/10/09(土) 18:03:28.52 ID:2UiJC8wo

 決戦とくればその前に特訓です。
 一週間の時間を与えた事が、敵の命取りになるのです。(某サイヤ人王子のお言葉)
 と、考えていたらこうなりました。
 では、また来ます。

321 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/11(火) 22:38:10.56 ID:2AW6mwiOo

さて、夜中11時までは、各自、自由な方法で待機する事となった。

白井は御坂を視姦していて、御坂はウニ条にあれやこれや世話を焼いている。
何なの? 馬鹿なの? 死ぬの?
こいつら決戦を前にラブってんじゃねえよ、阿呆ンダラがっ!

と、叫んで拳銃を乱射するべき場面だったのだが、
妹とよつばが『アラカワサン』の陰茎を弄んでいるのを見て、奇妙な背徳感が俺を支配していた。

即興のメイドダンスを長門に録画してもらいながら俺は考える。

果たしてこのメンツで『佐天涙子』に勝てるのか?
いつも長門や古泉に頼りっぱなしだったが、今はもう、そうはいかない。

長門は能力を著しく制限されているし、古泉の阿呆に至っては殺されてる有様だ。
朝比奈さんは、まあいてもいなくても同じようなモノだから勘定には入れてなかった。

ともあれ。

幾ら俺がスーパー格好良い、リミッター解除状態だとしても。
負ければ、それで全てが終わる。

俺の両肩に、世界の運命がかかっている、と言っても過言ではない。

ヒーローなんて柄じゃないし、何より平凡代表の俺が、まさか戦いの核になるとはな。
どっかの誰かさんに教えてやったら、びっくりして座り小便を漏らすだろう。

しかし、上手く勝った場合。

俺は一躍、救世主となる。

『笑っていいとも』から出演依頼が来るかもしれない。
テレフォンショッキングに俺を呼ぶのは、誰なのだろうか?
タモさんと、ちゃんと喋れるだろうか?
ストラップは貰えるだろうか?
質問は何にする?
次のお友達は?

肩を叩かれた。

322 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/11(火) 22:39:36.66 ID:2AW6mwiOo

「もう時間。そろそろ出発すべき」
長門の声で現実に戻る。
ウニ条の顔がムカついたので五、六発ほどぶん殴った。
改めて見るに、こいつは修道服が良く似合う。
更に二、三発ほどぶん殴る。

「ちょっと! それくらいにしてよ!」

「そうですの! 戦いの前に怪我をしてしまっては元も子もありませんの!」

おいおい、長門の能力を忘れたのか?
なあ、長門!

「死んでなければ治せる」

「……いやあの長門さん? 死ぬ直前まで殴られて、完治させられてまた殴られるって、俺はどこの戦闘民族ですか!?」

知らんがな。

……とにかく、今から北校へ向かう。
『佐天涙子』と決着をつける為に。

覚悟はいいか?
死ぬ覚悟と、殺す覚悟だ。
俺たちは死人……死人は最早、死ぬ事は無い。
敵は殺す……肉の一片たりとも残さずに、この世から消し去るんだ。

殺せ! 殺せ! 殺せ!

御坂が叫ぶ。

「殺せ! 殺せ! 殺せ!」

白井が、長門が、妹が、よつばが、叫ぶ。

「「「「殺せ! 殺せ! 殺せ!」」」」

ウニ条が吼える。

「殺るしかない! 殺るしかない! うおおおおおおおおおおおおおおっ!」

323 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/11(火) 22:43:12.39 ID:2AW6mwiOo

――そして、俺たちは長門の部屋を後にした。

「しかしキョン、お前の足……凄い事になってるな」

ウニ条が言う。
確かに俺の足は変わった。
この一週間、踊りに踊り狂い、肉が裂け、骨が砕けたその足を、長門が治し、更に踊る。
超回復、というやつか。
それを繰り返したお陰で、俺の両足は、それぞれが胴体より太くなり、メイド服のスカートからはみ出していた。

「……正直、気持ち悪いですの」

白井が冗談を言う。
自分が、細く痩せた足をしているものだから、この俺の取り返しのつかない見事な足に、嫉妬しているのだ。

「素晴らしい。私はそう思う」

長門は分かっている。
この、ムッキムキの筋肉と骨格の芸術を。
平凡な一般人の俺でも、こんな風になれたんだ。
こんなに嬉しい事は無い。

夜道を歩きながら、出くわした通行人が俺の足を見る。
メイド服に、ムッキムキの足。
みんなの目が、俺に釘付けだ

いつの間にか、ウニ条や御坂は、俺から距離をとっていた。
比較されるのを恥じているのだろう。
可哀想に。
しかし、俺でさえ手に入れることが出来たのだから、ウニや御坂にも可能なはずだ。

想像してみてほしい。
両足だけ、ムッキムキマッチョの御坂を、白井を、ウニ条を、妹を、よつばを!

嗚呼、素晴らしき哉、筋肉!

この筋肉さえあれば!
『佐天涙子』を打ち負かせる!
そう思うと、やはり全員に踊りの訓練をさせるべきだったか、と後悔した。
しかし時間は戻らない。

324 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/11(火) 22:45:02.54 ID:2AW6mwiOo

二度目の、夜の北校。

俺たちは校門をくぐった。
そこは一度目の北校とは違っていた。
グラウンドはライトアップされ、ポールの上に括り付けられた古泉の死体も、光に照らされていた。

何だ、何なんだよ、これは!
古泉! お前は何で、額に『馬鹿の末路』なんて書かれてるんだ!
マイクロビキニが素敵に似合っている分だけ、尚更に酷い有様じゃないか!

「お姉さま……屋上に……」

「ええ……いるわね」

何? 何がいるの? 古泉をこんな目に合わせた奴がいるっていうのか?

「キョン。気配を感じるだろう? ……『佐天涙子』だ」

俺の視線が、屋上のフェンスへ移る。
そこにいたのは、黒髪ロングの、御坂や白井よりは大きく、朝比奈さんよりは小さな胸の持ち主の少女だった。

「……私と比べて、どう?」

長門……。お前は、残念だが、あの娘よりは小さいな。

「そう」

酷く落胆した声色と表情(俺にしか分からないだろうが)で、長門は呟く。
ゴメンな、正直に言っちまって。
でも、俺は貧乳もいける口だから安心していいぞ!

『なーに話してるんですか、全く』

拡声器を使っているのだろうか、『佐天涙子』の声が聞こえる。

「佐天、さん……どうしてっ!」

「何故……っ、初春をっ! 一番の親友だったのでしょう!?」

御坂と白井が『佐天涙子』に話しかける。

325 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/11(火) 22:48:06.56 ID:2AW6mwiOo

『んー……どう言えばいいのかなぁ』

声は、続ける。

『能力が発現して……レベルが上がって……効果が強くなっていって……』

はっきりと聞こえる、『佐天涙子』の声。

『……気づいちゃったんですよね』

白井が、問う。

「何に、ですの?」

『私って、レベル0って……ゴミみたいに見えるんですよね、御坂さん?』

「そんなっ! そんな事、アタシは思ったりしていないっ!」

『……本当にそうですかぁ? スキルアウトの連中を、自慢の電撃でなぎ倒しておいて……』

「それは……それは……っ!」

『結局のところ、私もあいつ等の同類だって、思ってたんですよねぇ?』

御坂が、震え始める。

「違う、違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う」

「お、お姉さま……?」

「ア、アタシが嫌っていたのは、努力しない人間で、佐天さんは、違う……」

『佐天涙子』の声が、とても良く聞こえる。

『私、努力なんてしてなかったですよ?』
『レベル0っていう現実を前に腐ってて』
『初春と仲が良かったのは、あの子もたったのレベル1だったから』
『弱者の傷の舐めあい、だったんですよぉ』
『でも。こうして力を手に入れてようやく分かりましたよ』
『御坂さん、こんな感じに私たちを見下していたんだなぁ、……って』

326 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/11(火) 22:52:18.58 ID:2AW6mwiOo

「……違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う」

御坂が膝を折る。

「お姉さま、しっかりなさって!」

白井が、御坂の肩を揺さぶる。

修道服姿のウニ条が言った。

「認めるんだ、御坂」

「……え」

「お前は、確かにレベル0を見下していた時があったはずだ」

「それ……、はぁっ!」

「無能力者の扱いは心得てる。ああいう連中は見ていて腹が立つ」
「お前が言った言葉じゃないか? ちゃんと責任持てよ!」

「上条さん! お姉さまは……」

「白井は黙ってろ!」
「御坂、お前は、見下していた、蔑んでいた、笑っていた、軽蔑していた!」
「今は違う? そうかも知れない。けどお前がそう言っていた事を、俺は知っている!」
「学園都市で七人しかいない、レベル5の第三位?」
「その身分が、どれ程の努力で手に入ったのか、俺には想像する事しかできない!」
「耐えたんだろう、堪えたんだろう、歯を食いしばったんだろう、血が滲んだんだろう!」
「そんな努力をした自分に誇りを持つのは悪い事じゃない。でもな!」
「努力しても結果が出なかった奴の事を考えた事があるか!?」
「上を見上げるばかりで、システムスキャンの結果も駄目!」
「簡単に諦めるな? 自分が努力した結果に手に入れたモノを、他の人間が手に入れられると思っているのか!?」
「ふざけるんじゃねぇよ! お前の物差しで勝手に他人をはかるんじゃねえ!」
「例えそんな気は無かったとしても、いや、そんな気が無いからこそ、お前の本音が出てたんだよ!」
「対等に振舞っていたつもりでも、相手はそんな風には感じてなかった!」
「それでもお前が、自分は他人を見下した事が無かった、清廉潔白で道徳的だったと言うのなら!」
「……まずは、その幻想をぶち殺す!」

ウニ条と出会ってから、今まで見た中で、奴は一番、輝いて見えた。

327 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/11(火) 22:55:21.09 ID:2AW6mwiOo

「あっあっ、あああああああああああああああああああああああっ!」

ウニ条が左手で、虚ろな叫び声を上げる御坂の胸倉を掴み、右手を固く握り締める。

「お、お姉、さま……」

白井は茫然自失としていて、それを止める事も出来ない。

『あはははははははははははははははははははっ!』
『やっと分かったんですね御坂さん!』
『あなたは今の私と同じなんですよ!』
『いつも上からじゃないと人を見る事ができない!』
『レベル5って、そういうモノなんですよねぇ!』

好き放題、言いやがる……。

「おかしい」

ん? 長門、何がおかしいんだ?

「何故、『佐天涙子』の声は、こんなにもはっきり聞こえるの?」

何故って、そりゃあ拡声器でも使ってないと無理だろ。

「あの声には、そういう機械特有のノイズ音が全く無い」

じゃあ、どうやって……。
……!

「そう。『佐天涙子』の攻撃は、もう始まっていた」

そうか、そういうことか!
『佐天涙子』は『風』を操り、その『風』に触れた人物の理性を低下させる!
あのフェンスから、俺たちの場所まで、穏やかな『風』を吹かせている!
自分の声を俺たちに届け、俺たちの声を自分の場所まで『風』に運ばせると同時に、
その『特殊能力』の影響を俺たちに与えている!

「そう。あなたは元から影響下にあるし、わたしはそもそもインターフェイス。『能力』の影響は出にくい」
「貴方の妹や小岩井よつばは、幼すぎて『能力』の影響は目立たない」
「『アラカワサン』に至っては、理性そのものが無い」

328 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/11(火) 22:58:25.92 ID:2AW6mwiOo

こん畜生! 先手を取られた!

ウニ条っ! 待てえっ!

「な、何だキョン! 俺はこれから御坂の幻想を……!」

その前にてめえの幻想をぶち殺せ! 自分の頭を右手で殴りつけろぉっ!

「こうかっ!?」

馬鹿なウニ条は、固めた拳を思いっきり自分のこめかみに叩きつけた。
御坂が開放され、地面に崩れ落ちる。

自身を殴ったせいで、海老みたいに反り返った面白い格好で固まっていたウニ条が俺を見る。

「お、俺は……御坂に、何て酷い事を言っちまったんだ……!」

そんな些細な事はどうでも良い! 御坂と白井の頭もぶん殴れ!
俺たちは、今、『佐天涙子』の能力の中にいるんだ!

「……そうだったのか! 畜生!」

ウニ条は、手加減する事無く、御坂と白井の顔面をぶん殴った。

「ぐぼぇ! ……は!? わ、わたくしは何をぼんやりとお姉さまの窮地を見過ごしていたのでしょう!?」

それはお前が実はマゾでありながら、サド的要素を持っていたからだと思うよ。

「んがふっ! ぐぁ……、ア、アタシは、アタシは……!」

「しっかりしろ、御坂! 俺も本音を言って悪かった! けど今はそんな状況じゃないだろう!」

「……でも、本当だった。アタシは、佐天さんを、レベルの低い奴らを、見下していた!」
「そんなアタシに、佐天さんを止める権利なんて……!」

『佐天涙子』の声。

『ですよねー。本当の事ですもん』
『私が御坂さんに、どうこう言われる筋合いはないですよねぇ?』
『何なら私と組みませんか? レベル5が二人、組んだら凄いと思いますよー? くふふっ』

329 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/11(火) 23:00:19.63 ID:2AW6mwiOo

俺は叫んだ。

いい加減にしろ! 他人の心を弄びやがって!
遠目で見ても、結構可愛いから素直に勃起していたらこれだ!
調子に乗るな、この淫乱中学生が!

「キョンくん、ぼっきってなーに?」

「ぼっきってなんだー? あははははは!」

「……『アラカワサン』がいつもなっている状態の事」

長門が妹とよつばに説明をしている間に、俺はウニ条たちを庇う様に前に出た。
本当は危険な事はしたくはないのだが、手駒であるこいつらが操られると厄介だからだ。

『……「幻想殺し」かぁ。噂には聞いてたけど、本当に能力を消しちゃうんだぁ』
『それに「キョン」さん、でしたっけ。新川さんから聞いてましたよぉ』
『何でも、この世界の鍵とか何とか。ごく普通の一般人って話でしたけど……』

ああ、その通りだよ!

『……いや、あの、一般人には見えません』

どういう意味だ、この援交中学生!

『え、援交とかした事、無いですし!』
『それに、男の人がメイド服を着てるのって普通じゃないですよね?』
『何より何なんですか、そのキモい下半身は! ムッキムキじゃないですか!』
『うわっ、吐き気してきた! マジでキモい……!』

「……反論できませんわね」

「キョンくん、キモーい!」

「ジャンボ、いみねーな! あははは!」

「……その。何だ、気にするなよ、キョン」

みんな何を言ってるんだ? 俺はこんなに素敵な姿だというのに。
萎えかけた陰茎を奮い立たせて、俺は更に叫ぶ。

330 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/11(火) 23:01:53.30 ID:2AW6mwiOo


……『佐天涙子』ぉっ!
俺の事が万が一、キモいと思うのなら、それはお前のせいだ! お前の『能力』で、こんな感じになれたんだっ!
それが例え、俺の中に眠っていたものでも、引き出すきっかけはお前が作った!
……それをキモがり、笑うなんて許せない!

『……あー、そうですね』
『確かに、私は新川さんに教えられて、「キョン」さんに「能力」を使いました』
『でも、全部、私が悪いんですか? 私に責任があるんですか?』
『あなたが殺した、女性も? 警察の人たちも? 管理人さんも?』
『違いますよね。実際に行動したのは、あなたなんですから』

お前が悪いに決まってるっっっっ!

「キョン……」

人間は誰しも隠したい部分があるもんだ!
それを勝手に引きずり出すように、理性という根源的な法則を無くしちまうなんて、人間として最低の行為だ!
お前の『能力』は、そう、俺のメイド服や素敵にムッキムキな足のキモさより、よっぽどキモい産物だ!
やーいやーい! お前の『能力』、キーモーいー!

「……こ、子供かって……ぇの」

御坂が、立ち上がりながら何やら呟く。

「やれるか? 御坂」

ウニ条が問う。

「アタシも、キョンを見習って……心に、棚を、作るわよ。……それはそれ、これはこれ、……ってね……!」

「お姉さま……黒子も、内なるサディズムを、佐天さんにぶつけますわ!」

……どうやら、士気は上々のようだな。
キャパシティダウンとやらも、『佐天涙子』が能力を使う以上、自分を巻き込むはずだから使わないだろう。
俺たちの、圧倒的有利……!

『……それはどうかなぁ? 私、こんな事もあろうかと、これを持ってたんですよぉ』

『佐天涙子』が、胸の谷間から取り出したそれは――。

340 名前:南部十四朗 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/16(日) 00:25:34.41 ID:TeP2vN3no

  16日分、出来上がったー!
 では続きを投下します。


341 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/16(日) 00:28:44.43 ID:TeP2vN3no

 ……コテ出しちゃった。……何かすいません。
 気を取り直して、続き、いきます……。

342 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/16(日) 00:29:53.84 ID:TeP2vN3no

「……パンツ?」

ウニ条が呟いた。

お前、この距離で良く見えるなと突っ込みを入れたかったが、この俺にもばっちり確認できたので止めておいた。
だって女子中学生の胸の谷間からパンツが出てきたんだぜ?
地球の裏側からでも認識できる。
確信を持って、そう言える。
異議は認めん。

しかし……何故、パンツなんだ?

「貴方や上条当麻の、クンカクンカしたい病の発作を起させる為かもしれない」

おいおい、長門さんよ。
ウニ条はともかく、俺はクンカクンカ『したい』病なんて患ってやしないぜ?
クンカクンカ『する』病なら罹患中だ。
その証拠に、この距離からでも、既にクンカクンカしている。

「あれは……初春のパンツですの!」

「そうなの黒子!?」

「ええ、間違いありませんわ。あの、股間の部分が微妙に黄ばんでるストライプのパンツ……」
「初春が、ジャッジメントに入る以前から、愛用していたものですの!」

「……それを知ってる白井は何なんだとかはさて置いても、一体、何のつもりだ!?」

俺にはたかがパンツで大騒ぎするお前らが哀れに思えるよ。

「いや、だってあんなに思わせぶりに出してきたんだ! 絶対に何かある!」

「そうよ! こんな場面で出すからには、何かとんでもないパンツに違いないわ!」

「寧ろ、初春のパンツ自体がとんでもないものですのよ!」

「キョンくん、パンツー!」

「パンツパンツ! パンツマンが出たかー?」


343 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/16(日) 00:31:40.45 ID:TeP2vN3no

ふと見れば、『アラカワサン』までもが鼻息が荒くなっている。

俺を除く全員が、『佐天涙子』の出した初春とやらのパンツに注目している。
ならば、俺も考えを改めなくてはなるまい。
オーケィ、あのパンツには何かある。
俺はクンカクンカしながら『佐天涙子』に呼びかけた。

そのパンツで、何をするつもりだ!?

『……いや、あの。別にパンツ自体には何も無いですよ?』

……。

沈黙がその場を支配する。

ちょっと盛り上がっちゃった俺たちの気持ちをどうするつもりだ。
さてはこういう風に俺たちの士気を挫く事が狙いだったのか?
みんな! 罠にはまるな! これは奴の作戦だ!

「そ、そうよね! 佐天さん、意外にやるじゃない!」

「お、恐るべき心理戦……まさか彼女がここまで考えてるとは。黒子、一生の不覚ですの!」

「危うく場の空気に飲み込まれるところだったぜ! よく見破ったな、キョン!」

『あ、あの、皆さーん? 別に私は、そういうつもりでは……』

「黙れパンツ……じゃなくて『佐天涙子』! 卑怯な手を次々と使いやがって!」

「見損ないましたわ、佐天さん!」

「レベル5の風上にも置けないわ!」

『……あの、そういうんじゃないんです! 違うんです!』

『佐天涙子』は、黄ばんだ染み付き縞パンツを握り締めながら叫んだ。
しかし、誰も聞く耳を持たなかった。
みんな、自分の早とちりを認めたくないのだ。
今、この場で一番、哀れなのは、『佐天涙子』だった。
親友のパンツを握り締め、涙目になる女子中学生の姿を見て、俺はギンギンに勃起していた。

344 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/16(日) 00:32:47.11 ID:TeP2vN3no

『……学園都市から離れても馬鹿にされるんですね、私は』

『佐天涙子』の声色が変わる。
それは覚悟を決めた者の声。

『本当に出したかったものは、このパンツの中にあるんです!』
『御坂さんや白井さんに使いたくは無かった! だけどっ!』
『もう、本気で潰します……! ここにいるみんなを! この世界を!』
『私に優しくない世界なんて、無くなってしまえばいいんだーーーっ!』

ぶわっ、と風が舞い上がる。
『佐天涙子』のスカートか捲れあがる。
ピンクだった。

なあ、ウニ条見たか? 女子中学生のピンクの生パン!

「言ってる場合じゃねえよ、キョン! 何かやばい!」

「初春のパンツの中身!? 何か蠢いてますの!」

「何よ!? 何が入ってるっていうの!?」

確かに、『佐天涙子』の持つパンツは、先程とは違う、臭気を放っていた。
俺はクンカクンカしつつ、その匂いが何なのかを確かめる。
尿の匂い。糞の匂い。汗、オリモノ、その他、色々混じっているが……!

「この匂い……植物か!?」

ウニ条が叫ぶ。

流石はクンカクンカしたくなる病の患者、俺より先に気がつくとは恐れ入る。
しかし、植物とは?

「そ、そんな……まさか、アレを使うつもりですの!?」

白井が叫ぶ。

「お止めなさい、佐天さん! ソレは、制御できる代物ではありませんの!」

『佐天涙子』が、静かに微笑んだ。

345 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/16(日) 00:37:13.78 ID:TeP2vN3no

『制御しようなんて考えてませんよ、白井さん』
『私の能力は、「精神破壊(マインドクラッシャー)」……』
『理性という枷を外してあげるんですよ! 好きなように暴れられるように!』

その汚いパンツからは、触手……いや、植物の蔓がウネウネとはみ出し始めていた。

『そう! 学園都市で、初めて私が手にかけたのは、初春!』
『私はその時、初春の頭の花を毟った……いいえ! 違う!』
『手に入れたんですよ! 寄生される側の馬鹿女じゃなく、本当の親友のほうを!』
『下の人なんて飾りです! 偉い人にはそれが分からないんですよ!』
『あはっ、あはっ、あははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!』
『「本体」さん! 私が力を上げる! だから、この世界を、一緒に壊そう!』

既に屋上からはウネウネと植物の蔓が地面にまで届いていた。

あれは一体何なんだ!?

白井が、答えた。

「……あれは、あれは禁断の技術の産物ですの」
「学園都市で開発された、知性と意思を持つ植物……」
「開発目的は、人間以外の知性による能力の発現。そしてそのプロトタイプが完成しました」
「けれど、その植物は本能的に、その知性と意思を己を拡大する事のみに使用するだけの化け物となり……」
「研究所は壊滅。巨大に育つ、その植物のせいで、学園都市そのものが危ういところだったのですが」
「ちょうどその時。学園都市に、偶然来ていた、自我と知性の薄い少女が、化け物植物と接触しました」
「両者の間で、どんなやりとりがあったのかは分かりません。しかし……」
「植物は少女の頭部に寄生し、少女はまがりなりにもジャッジメントが務まるほどに自我と知性を持ちました」

御坂が言う。

「その少女が……初春さんなの?」

「そうですの」
「互いに足りないモノを補い、両者のバランスは完全に釣り合いました」
「植物は自分に名前をつけました。……『初春』、と」
「そして少女はこう名乗りました。……『飾利』、と」
「二つが一つになることで、初めて『初春飾利』という、わたくしのパートナーとなりましたの」
「しかし、佐天さんによって、無理やり宿主と切り離された『初春』は、今、あの屋上で本来の姿を取り戻しつつあります」
「恐らくは、佐天さんの『能力』で知性を抑えられ、本能のみの生物となっているでしょう……!」


346 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/16(日) 00:38:37.37 ID:TeP2vN3no

俺は思った。
それ、何てビオランテ?

そんなふざけた事を考えている間に、植物の化け物はどんどんと成長を続けていた。

屋上が、校舎が、崩れた。
古泉が括り付けられているポールが真っ二つに折れた。

激しい地響きと共に、我が北高校舎は、瓦礫と化した。

その、跡にいたのは。

恐らくは、身長五十七メートル、体重五百五十トンはあろう、巨大な人型の化け物植物。
いや。
古泉が見たならば、きっとこう言うだろう。

『緑の神人』。

その、顔の部分には『佐天涙子』が埋まっていた。

『さあ、始めよう! この世界を、ぶち壊そう!』

既に『佐天涙子』は俺たちを見てはいなかった。
ピンクのパンツの女子中学生は、何も見ていなかった。

そこには何も無かったのだ。

「おい、キョン! のん気にモノローグを続けている場合じゃないぞ! あいつを止めないと!」

うん、それ無理。
だってあんな化け物、幾ら何でも倒せるわけが無いだろう?
長門は力を使えない。
古泉は死んだ。
とっとと逃げたほうが良いぜ。

「随分と弱気じゃないの、キョン」

御坂か。
そうは言うが、あんなもんどうやって倒すって言うんだ?
お前の電撃でも、多分無理だろう?

347 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/16(日) 00:39:46.19 ID:TeP2vN3no

「無理? 言ってくれるじゃないの、この学園都市に七人しかいないレベル5」
「その第三位『超電磁砲』(レールガン)の御坂美琴が、そんなに簡単に諦めたんじゃあ……」
「名前が泣きわめいて大洪水が起こるっての!」

そう言いつつ、御坂は俺が見たことも無い程の、凄まじい放電を起した。
そして創られた電撃が、『緑の神人』にまともにぶち当たる!

しかし。

「……そんな! お姉さまの電撃が効かないなんて!」

「まだまだ、まだよっ!」

続けて放電する御坂。
更に電撃が、『緑の神人』に直撃する!

だが。

「効いて、ない……!?」

……いや。
効いてないわけじゃないらしいぞ。
御坂、上を見ろ!

「えっ……あの子たち、いつの間に!」

上空には『アラカワサン』に跨った、妹とよつばが『緑の神人』目がけて、拳銃を乱射していた。
おまけにその『アラカワサン』も、口から炎の玉を吐き出して攻撃している。

「でもっ! 全然、効いてない……」

「いいえ、お姉さま。よくご覧下さいませ!」

白井は気がついたようだな。

「ええ。お姉さまの電撃の時には、発する閃光でよく見えませんでしたが……」
「あの化け物、恐らく佐天さんの『能力』の『風』で防御されていますの」
「攻撃が、その身に届く前に『風』で防ぎ、それでも受けた攻撃は、その都度、高速回復している……といったところですの?」

良い答えだ。

348 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/16(日) 00:42:16.73 ID:TeP2vN3no

「じゃあ、諦めずに攻撃を続ければ、いつかは!」

「……化け物の前に、お姉さまのほうが力尽きてしまいますわね」

「と、言う事は、一撃で倒せなくてはならない。そういう事だな、白井?」

「ええ、その通り。しかし、生半可な攻撃では意味がありませんでしょう」
「お姉さまの『超電磁砲』。その最大出力でも難しいところですわね」

長門、レールガンってのは何だ?

「フレミングの法則に従って、音速の三倍以上で物体を加速させ……」

悪いが良く分からん。

「……もの凄い勢いで、物をぶつける事ができる。もの凄い威力の攻撃が出来るという事」
「御坂美琴の異名『超電磁砲』(レールガン)は、そこから付けられた」

そうか、よく分からんが分かった様な気がするぜ!
毎度、説明ありがとよ、長門!

しかし、こうして話している間にも、『緑の神人』は校舎の残骸を踏み潰していた。
いつの間にか、辺りが騒がしくなっており、遠巻きに人の悲鳴や怒声が聞こえる。

……化け物『緑の神人』を倒した英雄として、ヒーローインタビューを受ける為にも。
早く決着をつけたほうが良さそうだ。

よし、みんな俺の作戦を話すから、その通りに実行してくれ!

「あなたの作戦、ですの?」

ああ、これが通じなかったら、もう諦めるべきだ。
まず、ウニ条よ。

「……俺か」

お前は、あの『緑の神人』の顔の部分に埋まってる、『佐天涙子』を、その右手でぶん殴れ!

「そうか! あいつの能力を俺の『幻想殺し』で、一時的にでも無効化できれば、化け物に御坂の攻撃が効く……っておい!」
「あんな高層ビルの屋上みたいな高さまで、どうやって右手を届かせるっていうんだよ!?」

349 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/16(日) 00:44:17.61 ID:TeP2vN3no

それは心配するな! この俺の、鍛え抜かれた足で!
お前をあそこまで、 蹴 り 飛 ば す !

「無茶言うな! 蹴られた時点で死ぬぞ、俺! それに上手く顔まで届いても、着地はどうするんだよ!?」

そして白井!

「次はわたくしの出番ですのね!」

お前は、御坂が『超電磁砲』で飛ばせる限界ギリギリまでのサイズと質量の瓦礫を確保、瞬間移動で御坂に届けろ!

「成るほど! お姉さまの事を知り尽くしたわたくしが、お姉さまの為に弾丸を用意する! ナイスですわ!」

「ちょっ、上条さんは無視ですか? 無視なんですかー!?」

そして御坂!

「真打ち登場……ってわけね!」

お前は自分のエネルギーを、俺の股間の様にギンギンに溜め込んでおけ!
そして、白井が弾丸を用意したら……あの糞ったれの化け物に、最高の一撃をぶちかましてやれ!

「……そうするわ。佐天さんの為にも、必ず、一撃で倒して見せる!」

「あの……だから、上条さんの安全の確保とか……」

長門、お前は妹たちと一緒に『緑の神人』の注意を引き付けておいてくれ。
御坂が攻撃する直前には、安全な場所まで後退させろ。

「了解」

じゃあ、やるぞ!
一人はみんなの為に! みんなは一人の為に!
殺せ! 殺せ! 殺せ!

「「「殺せ! 殺せ! 殺せ!」」」

俺たちは最高のチームだぜ! オーケィ?

「……わたくし上条当麻は、今日この日に死ぬんだな、と、あの世でインデックスに会えるのを楽しみにしています、はい」

350 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/16(日) 00:45:43.55 ID:TeP2vN3no

俺の指示通り、白井は御坂の限界ギリギリの瓦礫を探しに消えた。

さぁて……覚悟はいいか! ウニ条!

「ああ、もうっ! 分かった分かった分かりました! こうなりゃ腹ぁくくるしかないだろ!」

よし! そこに尻を突き出しておけ!

「遠慮せず、思いっきり来い、キョン!」

元より遠慮なんて欠片もねえ! ウニ条、お前は、星になれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!

まるでダンプカーを蹴り飛ばしたかのような手応えを、俺は足に感じた。

「……アイツ、一直線に化け物の顔に飛んで行ったわ!」

よし……いいぞ。
後は、『風』の防御が解ければ!

「見て! あの子たちの攻撃が、通じてる!」

『アラカワサン』の炎の玉が、『緑の神人』の表面を焦がす。
ウニ条、よくやった! 骨はなるべく拾ってやるから安心しろ!

白井が御坂の隣に現れる。

「お、お姉さま! 条件に合う物体が『これ』しかありませんでしたの!」

「って、よりによって『これ』!? 黒子、アンタ何、考えてんのよっ!」

……確かに、『それ』は意外なものではあるが。
今がチャンスなんだ、御坂! やれ! 最高の『超電磁砲』とやらを、見せてみろぉっ!

「くっ! ……今から探しなおす余裕は無いしっ!」
「分かったわ。見せてあげる! アタシの『超電磁砲』をね!」

「お姉さま、素敵ですわ! それでこそ常盤台のエース! 黒子は、黒子はもう、股間がぐっしょりと……!」

「気が散るから黙りなさいっ!」


351 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/16(日) 00:47:44.00 ID:TeP2vN3no

『緑の神人』と御坂を結ぶ、直線の間に『それ』は置かれた。

精神を集中し、放電を始める御坂。

『それ』に手を触れ、狙いを定める。

的は大きいが、失敗は絶対に許されない。

俺は思う。

この状況で、この役目を任されて、こんなに自信溢れた表情ができる御坂は、本当に凄い奴だ。

超能力がどうのこうのではなく、一人の人間としての高潔な魂がそうさせるのだろう。

無能力者だ何だと、コンプレックスに悩まされていたであろう『佐天涙子』は、この姿を見ているだろうか。

放電が規則性を持ち、『それ』を撃ち出す。

大気中に、どんっ、と衝撃が走り、その後から轟音が聞こえた。

破壊すべきものに向かって。

一直線に。

ほんの僅かも、ぶれる事無く。

音を置き去りにして。

最高、最強の威力を持った『超電磁砲』。

その弾丸が、目の前から消えた。

俺は、その瞬間に思った。

なあ古泉。お前は死んでも俺たちの役に立ってくれるんだな。


『超電磁砲』の弾丸として。

マイクロビキニ姿の、古泉の死体は、『緑の神人』に、吸い込まれるように消えた。

361 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/19(水) 20:36:35.99 ID:vWAPmpdmo

光り輝く古泉の死体は、気をつけの姿勢を保ちつつ、音速の三倍のスピードで弾道を移動する。
にやけた顔面が崩れ、頭蓋骨が見え、手足はボロボロと崩壊し、それでも古泉だった『それ』は『緑の神人』に着弾した。

凄まじい、轟音。

爆発、閃光、土煙が目の前を曇らせる。

この分じゃ、古泉の死体は、跡形も残ってないだろう。

「やったの……?」

御坂が、呟く。

いや。

『風』が、吹いた。

『緑の神人』のいた場所に。
体中に、蔓を巻きつけた、全裸の『佐天涙子』がいた。

グラウンド中、いや世界中の空気が『佐天涙子』を中心に集まるかの様に。

『佐天涙子』を中心とした、竜巻が出来ていた。

『あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっっっ!』
『みんなが、私を拒絶するっっっ!』
『世界は私に優しく無ぁいっっっ!』
『なら、こんな世界なんて――っ』
『壊しちゃえばいいのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!』

真っ赤に充血した目。
大きく開いてはいるが、何も映さない瞳。
それは悲しき人間の末路。

俺の身体は、ムッキムキの両足は、自然に駆け出していた。
あいつに、『佐天涙子』に、安らぎを与えてやる為に。

ただ、それだけの為に。
走る。
走る。

362 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/19(水) 20:39:40.98 ID:vWAPmpdmo

同時に、遙か上空から声が降ってきた。

「……誰だってそうなんだ」

……ああ。

「必死に努力して、それでも報われない事がある」

そういう事だ。

「でも、それを他の誰かのせいにしちゃあ駄目なんだ」

責任は、自分が取らなきゃならない。

「それは、今までの自分までもを否定してしまう事になる」

少しくらいの努力は、したはずだ。

「憎んで、泣いて、叫んで」

そうやって足掻いてきたのも、努力なんだよ。

「それでも自分の力で前に進むしか無いんだ」

誰も助けてくれなくとも、誰かを助けてやれなくても。

「それができない、したくない、自分が何もしないのに、優しくされたいって言うのなら」

自分の足で、歩いていくしか道はないんだよ。

「――その幻想を、打ち殺す!」

――ゆっくり眠れ、永遠に!

トマトが破裂する様な音がした。
上空から落下してきた、ウニ条の右拳が、頭を砕いた。
ゴボウが折れる様な音がした。
俺の、ムッキムキの右足が、胴体をへし折った。

――『佐天涙子』は、肉の塊となった。

363 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/19(水) 20:40:37.34 ID:vWAPmpdmo

静かだった。
今までの戦いの全てが無かったかのように。

グラウンドを照らしていたライトも、いつの間にか、消えていた。
風も、吹いてはいなかった。
あたりの人の声も聞こえなかった。

誰も、何も言わなかった。
言えなかった。

『佐天涙子』だった肉の塊のまわりに、みんなが集まった。

俺。
ウニ条。
御坂。
白井。
長門。
妹。
よつば。
『アラカワサン』。

……。

沈黙を破ったのは、泣き声だった。

白井が、嗚咽を洩らした。

御坂も、静かに涙を流していた

ウニ条は、足元を見つめていた。

長門は、寂しそうな表情をしていた。

妹は、空を見ていた。

よつばは、電池が切れかけの顔をしていた。

『アラカワサン』は、モリモリと糞をしていた。

そして俺は、――肉の塊を、ただ見つめていた。

364 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/19(水) 20:43:00.79 ID:vWAPmpdmo

そして、どれくらいの時間が経ったのか。

ウニ条が、口を開いた。

「御坂、白井。……終わったんだ」

「……佐天さん、をっ、助けられなかっ、たっ」

「……お友達、でした、のにっ」

二人の言葉に、ウニ条は言う。

「俺だって助けたかった。助けてやりたかった」
「けど、現実はこうなんだ。こんな結末になっちまった」
「せめて、あの子が、これ以上」
「罪を重ねないようにしたんだ、……って、思うしかないだろうっ!」

御坂が、ウニ条にすがりつき、すすり泣く。
白井が出遅れて、それでも御坂の近くに寄って、涙を流す。

『アラカワサン』が、妹とよつばの顔を交互に舐めていた。

長門が、言った。

「これで、事件は終わった」

ウニ条が、頷く。

「そう……そうだな」

長門が俺を見る。

「彼を……元に戻してあげて欲しい」

御坂と白井が、ハッとこちらに視線を送る。

そう。
俺はまだ、『佐天涙子』の『能力』の影響下にあるのだ。
それは今でも、勃起が治まらない事が証明してくれている。
腰を振り、ひらひらと、メイド服のスカートを揺らす、俺。

365 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/19(水) 20:44:11.84 ID:vWAPmpdmo

「本当に……大丈夫なのか、キョン?」

修道服姿のウニ条が、問う。

俺自身は、実はと言えばこの状態でいたいという思いが強い。
それは何故なら、普段の俺とは全く違い、『やりたい事をやれる』状態であるからだ。
何を怖がり、何にも縛られない感覚。
ハルヒによって溜め込まされたストレスを発散するには、とても良い精神状態だ。

しかし。

俺は長門の言う事を信じる。
こいつが元に戻ったほうがいい、と言うのなら、それは本当の事なのだろう。
俺の為を思って、そう言ってくれているのだ。
ならば、俺は。

ウニ条よ。
その『幻想殺し』で、俺の『幻想』をぶち殺してくれるか?

「……ああ、分かった」

ウニ条が、近づいてくる。

ウニ条が、右手を握り締める。

ウニ条が、その拳を、俺の顔面に叩きつけた。

その、瞬間。

俺は、俺の中の俺が、自分自身を取り戻した事を感じた!

俺の今までしてきた事が、とてつもなく重い重い罪となって押し寄せてくる。
自然に涙が溢れ、俺は俺の手を見る。
血だ。
真っ赤に染まった、この両手。
いや、両手だけじゃない、この両足も、胴体も、身体全てが真っ赤に染まっている。
俺は人殺しだ。

 ヒ ト ゴ ロ シ ダ 。


366 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/19(水) 20:46:32.62 ID:vWAPmpdmo

俺は俺は俺は殺した殺した殺した殺した俺が俺が殺した殺した殺した殺した
 何の罪も無い人を殺して殺す殺した殺す拳銃でこの拳銃で軽く引き金を引き
ただ歩いてた女性を殺し長門のマンションの管理人を殺し頭を撃って殺した
 警察官を殺した古畑仁三郎を殺した有名人を殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し
俺の手に良く馴染んだ拳銃の感職は俺が人を殺した事を忘れてはならないと
 朝比奈さんを撃ったのは俺で妹を撃ったのは俺で長門が治してくれなかった
ら俺は二人を俺のこの手で殺していた事になりしかし二人を撃った事は最早
 変える事が出来ない事実であり俺はその罪を一生背負っていかねばならない
のだしかし俺は生きていて良いのだろうか良くは無い無い人殺しは犯罪者だ
 罪を償わなければならない俺は死ななければならない俺は死ぬ死にたくない
そんな俺のせいじゃないそうだ俺はおかしな能力の影響で俺が俺でなかった
 そうだよ俺が悪いんじゃなく俺に能力をかけたやつが悪いのであり俺の殺す
人間は殺されるべき人間であったのかいや違う俺が悪いんだ俺の本性はこれ
 そう俺は人殺しなのだ何だよこのメイド服は何でこんな服を着ているんだ俺
馬鹿じゃないか森さんのメイド服いやこれは朝比奈さんのメイド服だどちら
 でも構わないじゃないかこんなものを着て踊っていた俺は変態かつ殺人者で
もうどうしようもないほどの愚かで馬鹿で阿呆な俺はこの手で手で人を殺し
 この手だけでは無いこの気持ちの悪い異様な両足足足はムッキムキでごつく
その蹴りで女子中学生を殺した胴体を真っ二つにへし折って殺した俺殺した
 ダンスダンス愉快なダンスをそれはほぅいほぅいと俺が踊って愉快に素敵に
踊るさんま大御殿は今関係無いのだしかしだけれど俺は踊りながら人を殺す
 殺しただけではなく何の理由も無しに他人を殴った怪我を負わせたウニ条を
ぶん殴ったこの拳で拳銃のグリップで血が出る血が大量の血が沢山沢山流れ
 俺のせいで誰もが傷つき死んでいったそう古泉も死んだ俺の盾になり死んだ
頭を打ち砕かれて死んだ新川さんが殺した違う俺が殺されない為に盾にした
 俺は卑怯者だ卑劣で卑怯でテレビで藤木君キミは本当に卑怯だなと言う言葉
を聞いて卑怯な奴はお前もだろうと突っ込みを入れた事があるが卑怯なのは
 実は俺だけだったのだウニ条はそんな俺に友情を感じてくれていたそれは俺
も同じくそうだったのかも知れないが例えウニ条が死のうが生きようが俺に
 とっては別に何の痛痒も感じさせない事だったそれは俺の本性が殺人者だと
言う事で多分に古泉を盾にした時も同じ様に思っていたはずでその通り俺は
 古泉が朝比奈さんが死んだというのにそれを悲しみもせずに戦う事を考えて
踊りに踊り狂って狂っていたのは俺だけなのかお前たちは狂っていないのか
 そうか俺だけなんだな俺が全ての元凶であり俺が死ねば全て許されるのとは
思えない何故なら死んだ人間は生き返ない俺がしてきた事は無かった事には
 できないし一生消えない罪の重さをその重さを背負って生きていかなければ
ならないのならいっそ殺してくれと俺が頼んでるんだぜウニ条お前が俺の事
 を友達だと思っていてくれるのならば殺してくれいやお前は殺しては駄目だ
人殺しは俺だけで充分だいやお前も殺したからやっぱり殺してくれよ頼むよ
 こんなのは嫌だ愛と勇気も友達でない俺にあるのは人殺しという事実だけ!

367 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/19(水) 20:47:25.93 ID:vWAPmpdmo

俺には何も聞こえない。何も見えない。何も感じない。

地面がとても近く見える。
見える?
見えない。
あははははははははははははははははははははははははははははははははは!

俺は涙を流し、涎を垂らし、小便を洩らし、糞便をぶちまけている。
それを頭の片隅で理解しつつも、どうする事もできない。

その時、俺以外の声が聞こえた。

「……キョ……おい……聞……!」

何だろう?
何でもいい。
俺はもう。
もう。
いいんだ。

…………。


不意に、胸倉を掴まれた。

目の前に、誰かの顔。

ウニ条だった。

「キョン! しっかりしろよ!」

しっかり? 何を? 俺が何を?

「……このままでは彼の自我が崩壊する」
「それは私にとっても悲しい事」

長門の声?
長門?
そこにいるのか?


368 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/19(水) 20:50:39.59 ID:vWAPmpdmo

ウニ条が、顔を近づける。

「いいか、キョン! よく聞けっ!」
「確かにお前は何人もの人間に怪我をさせたり殺したりした!」
「それは覆す事の出来ない事実だ!」
「でも、それでもお前は俺たちを救ってくれたんだ!」
「思い出せ! 新川との戦いを! 『佐天涙子』との戦いを!」
「お前がいなければ、俺たちは死んでいた!」
「お前は俺たちの命を守ってくれた!」
「それだけじゃない、『佐天涙子』の暴走を止めたんだ!」
「それは、これから出たかも知れない、多くの被害者を救った事になるんだ!」
「お前は多くの日常を失ったのかもしれない……」
「けど、その代わりにより多くの人たちの日常を守ったんだ!」
「もしも、世界中の全ての奴らが、お前の事を責めたとしても!」
「ここにいる、俺や御坂、白井に長門さん、妹さんやよつば、『アラカワサン』は、お前の事を認めてる!」
「キョン、お前は、胸を張って生きるんだ!」
「いや、生きなければならない!」
「お前が殺した人たち、そしてこの戦いで死んでいった仲間たちの為にも!」
「これからの人生を、必死に生きていかなければならないんだ!」
「そして出来るなら、その人生を楽しもう!」
「希望を持って、青春を謳歌しろ!」
「少なくとも、その努力はしないといけない!」
「それは命を奪った者の、義務であり、責任だ!」
「どうしても、それはできない、責任なんて取れない……」
「このまま狂ってしまったほうがいいなんて言うのなら!」

「――お前の、そんな幻想なんか、俺たちがぶち殺してやるぅっっっっっ!」


右手を、誰かが握る。
長門だった。
俺を、心配そうな瞳で見ていた。

左手を、誰かが握る。
妹だった。
泣きながら、妹が言う。

「キョンくん、おねがい……いつものキョンくんにもどって?」

暖かい、手。

369 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/19(水) 20:51:37.32 ID:vWAPmpdmo

右腕に、誰かが触る。
御坂だった。

「誰もアンタを責めたりしない……いいえ、アタシたちが、責めさせない」
「アタシたちが、アンタを守る。守ってあげるから……!」

左腕に、誰かが触る。
白井だった。

「貴方がいたから、わたくしたちはここまで来れましたの」
「今度は、わたくしたちが、貴方を支える番ですわ。……しっかりなさいまし!」

背中に、生暖かい感触がした。

「ハルタン! ハルタン!」

『アラカワサン』だ。

「キョン! ハルタン! ハルタン! カナシム!」

俺の胸倉を掴んでいた、ウニ条が、言った。

「……お前には、こんなに想ってくれる仲間がいるじゃないか」
「俺たちを、悲しませるな……」
「お前は、強い。強いはずだ!」
「さあ! しっかりと、自分の足で立ってみろぉぉぉっっっ!」


ゆっくりと、手が、離される。

両手、両腕、背中の、暖かい感触が消える。

しかし、それは無くなったわけじゃない。

見渡すと、そこには俺の、仲間がいた。

これまで、共に戦ってきた、仲間。

俺を支えてくれる、大事な存在。


370 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/19(水) 20:55:04.13 ID:vWAPmpdmo

……。

……ああ。

そう、そうだよな。
ここで、壊れちゃ、いけないよな。
俺は、古泉や、朝比奈さん……インデックスさんたちの為にも、生きなければならない。
そうだよ。
死んでいったあいつらが、浮かばれないじゃないか。

目を閉じる。

脳裏に思い浮かぶ、これまでの戦いの様子。
俺が犯した、許されざる罪の数々。
俺が引っ張ってきた、仲間たち。
俺たちが成しえた、この平和。

ウニ条、そしてみんな。
ありがとう。
もう、俺は大丈夫だ。
以前の俺に戻れるのか、もしかしたら戻れないかも知れない。
でも。
俺は、もう壊れたりなんかしない。
こんな俺を、心配してくれる、馬鹿な奴らがいるんだから。

「……キョン!」

「良かった……耐えたのね、アンタは」

「そうでなくては……まがりなりにも、わたくしたちを引っ張ってこられた殿方なのですから」

「キョンくん…… 臭いよ」

「うんこくさい……。 きょん、うんこくせー!」

「ハルハル、ハルタン! ハルハルタン!」

まあ、糞と小便垂れ流したからな。
父さん、母さん。
俺は、人間として、一回り成長したようだ。
……主に、両足だけが、取り返しのつかない程にムッキムキマッチョになっちまったのだが。

371 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/19(水) 20:55:49.86 ID:vWAPmpdmo

 最初からクライマックスだったような気もしますが、
 話的にも本当にそろそろ終わりそうです。

 あと、どうでもいい事ですが、古泉ってクジラみたいですよね。
 全ての部分が無駄にならないってところが。
 余す所なく利用できます。
 次は恐らく、22日頃になりそうです。
 では。

378 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/22(土) 00:12:01.93 ID:jBMDiQ+do

みんな。
ありがとう。
俺は、何とか、生きてみようと思う。
それが、俺の唯一出来る、贖罪だろうから。

俺が告げ、みんなが頷いた時。

「ピーッ、ガガガッ……新しいデータのダウンロードを開始。ガガガッ、ピッピッーッ」

長門の様子がおかしくなった。

「おい、長門さん!?」

「どうしたの、もの凄く震えてるわよ!?」

「震えていると言うより、振動してますのよ!?」

「ゆきちゃん、機械みたーい!」

「ぱそこん、いみねーな!」

長門! 俺が壊れなかったのに、お前が壊れてどうするんだ!
しっかりしろ!

「なう、ろーでぃんぐ……なう、ろーでぃんぐ……」

長門ぉ!

「ダウンロード、完了。……心配しないで。別におかしくなった訳ではない」

いや、あからさまにおかしかったぞ、今の!?

「……思念体から、新たな情報を受け取った」
「是非、聞いて欲しい」

スルー? スルーなの?
俺がやっと突っ込みポジションに戻ったのに、スルーなの?

「これから話す事は、真実。……信じて」


379 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/22(土) 00:15:04.20 ID:jBMDiQ+do

「この事件。思念体が観察を行うと言った事を覚えていると思う」

……ああ。確か、観察のみに徹するから、お前の能力も制限されていたんだよな。

「実は、もう一つ、重大な事実が隠されていた」
「これに関しては、私も情報を与えられていなかった」
「だから、責めないでほしい」

いや、まあ、お前を責める奴はいないと思うぞ。

「……助かる」
「今現在、この世界はとても不安定なものとなっている」
「その理由は、実は平行世界との交差によるもの」
「『佐天涙子』は、我々とは別の平行世界の人間であり、彼女が起した事件を、貴方たちがどう解決するのか」
「そして、平行世界と交わったこの世界に、どのような影響が出るか、を観察していた」

……それって、つまり。

「俺たちは、別の世界の人間、って事なのか……?」

「その通り」
「上条当麻、御坂美琴、白井黒子、……そして『佐天涙子』は、『学園都市』という場所が存在する世界の人間」
「小岩井よつば、古畑仁三郎、……それらも、別の世界の人々」
「幾つかの平行世界が重なり合う。それは思念体にとって、とても興味深い出来事だった」
「……この世界の、『鍵』となる貴方が、どういう行動を取るのか、それも観察されていた」
「知らなかったとはいえ、思念体に属する存在として、貴方に謝りたい」
「……ごめんなさい」

……お前に、怒る理由なんて無いさ。
しかし、何で、平行世界とやらが重なったりしたんだ?

「それは、涼宮ハルヒの力」

……やっぱり、ハルヒか。

「彼女は無意識に力を使った」
「そして、もうすぐ、その影響も失われつつある」
「つまり、重なり交じり合っていた平行世界が、本来の姿に戻る」

待てよ、……ウニ条たちと、もう会えなくなるって言うのか!?

380 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/22(土) 00:19:38.89 ID:jBMDiQ+do


「……そう」

「な、長門さん! どうにかならないの? アタシたち、キョンを支えるって約束したのよ!」

御坂……。

「そうですの! 会えなくなっては、キョンさんの御力にはなれませんの!」

白井……。

「何か、方法は無いのか? 俺の『幻想殺し』も、通じないってのか!?」

ウニ条……。

「よつばちゃん、おわかれみたいだよー?」

妹……。

「ことわる! よつば、まだまだあそぶ! みんなであそぶ!」

よつば……。

「ハルタン! ハ、ハ、ハルタン! ハルタン! ハルタン! ハルタンタン!」

『アラカワサン』……。

長門が告げる。

「残念ながら、それぞれの世界が分離してゆくのは、止める事はできない。……それが本来の形だから」
「仮に、強引に今の状態を維持しようとしても、各世界にどんな悪影響が出るか予測不能」
「そして、それは許されない事。思念体は、通常の世界に戻ることを望んでいる」

そう……か。
……いいよ、ウニ条、御坂、白井。
俺は俺で、何とかやっていく。
長門もいるし……。
大丈夫だよ、心配ない。
ほら、メイド服だって、この通りの着こなしだ。
なかなか、イケてるもんだろう?

381 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/22(土) 00:24:42.16 ID:jBMDiQ+do

「キョン!」

「キョン!」

「キョンさん!」

……俺の本心は、違っていた。
古泉や朝比奈さんのいない、この世界で。
本当に壊れずに生きていけるのか、どうか。
でも、こいつらに心配はかけたくない。


「……一つだけ。彼を救う、方法がある」


長門が、ぽつりと呟いた。

「ど、どういう事だ、長門さん!?」

「……思念体は、平行世界が交じり合う直前に、復元ポイントを作成しておいた」

復元……ポイント?

「その時点……上条当麻たちが、この地域に訪れた時点……から、今現在までの時間を、無かった事に出来る」
「要するに、この平行世界と交わった不安定な世界で起こった、全ての出来事が、起こらなかったことになる」
「記憶も消え、私たちは出会わなかった事になり、本来の時間が流れる」

「……つまり、キョンさんが殺めた人たちも、無かった事になるんですのね?」

「そう。死んだ人間も、死んだ事実が無くなるから、生きていた事になる」

「なら、それで! それが出来るのなら、いいんじゃないか!? なあキョン!」

「そうよね! キョンが、苦しまなくても済むんだから!」

……。
……いや。
いいよ。
俺はこのままで。
このままの世界で、罪を償い生きていく。

382 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/22(土) 00:26:34.88 ID:jBMDiQ+do

「キョン……!」

ウニ条が、修道服の裾を握り締める。

だって、そうだろ?
俺たちの世界と、お前たちの世界が、交じり合う前に戻って、次はお互いに会わずに時間が進むって事は。
お前たちだけで、あの『佐天涙子』と戦わなくちゃならないって事だ。
あいつが、どんなに恐ろしい奴だったか、それは俺やお前たちが、一番良く分かってるだろう?
古泉や、長門の協力、そして何とも意外だけれど、俺がお前たちのリーダー的存在となって戦って。
ようやく勝てた相手なんだ。
その化け物を。
今度は、お前たちだけで、相手にするっていうのか?
怪我をしても、治せる長門がいない。
盾になる、古泉がいない。
そして、俺も、いない。
もしも、勝てるとしても。
白井が死ぬかもしれない。
御坂が死ぬかもしれない。
ウニ条、お前が死ぬかもしれない。
……そんなのは、俺は、嫌だ!

「キョンさん……」

「キョン……」

ウニ条は、何も言わずに、俺を見つめる。
修道服の帽子の下から、鋭い目つきで、俺を見つめる。

そして。

「俺たちを見くびってるんじゃねえよ、キョン」

ウニ条は、右手を握り締める。

「例え、この戦いの記憶が無くなっても」

固めた右拳を構える。

「例え、お前や、長門さん、古泉や朝比奈さんがいなくても」


383 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/22(土) 00:28:27.14 ID:jBMDiQ+do


勢い良く、俺の顔面目がけて、拳を突き出す。

「……こんな事件、解決してみせるさ」

ウニ条は、拳を、俺の顔に当たる、スレスレで止めていた。

「俺の言葉が信用できないって言うのなら」
「……その幻想をぶち殺してやるよ」

ウニ条……。
ウニ条、ウニ条、ウニ条!
お前って奴は!

御坂が叫んだ。

「そう、よね……やり直せるんだったら!」

白井が、叫んだ。

「例え記憶が、無くなるとしても!」

ウニ条が叫ぶ。

「『佐天涙子』を、殺さずに勝ってみせるさ!」

「だって、友達だもん!」

「佐天さんを、本当の意味で、助けて見せますわ!」

……凄いな。
お前たち、本当に凄いよ。
俺なんて、もうあんな戦いはしたくないってのに。
次は自分が死ぬかもしれないのに。
よくも、そう言えるもんだ。
俺は、誇りに思うよ。
お前たちと出会えた事を。
本当なら会うはずではなかった、違う世界の友人の事を。
お前たちなら、きっとやれる。
俺は、そう信じることにするさ。

384 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/22(土) 00:30:17.57 ID:jBMDiQ+do

その時。

『くろこぉ〜あいしてる〜』

白井の携帯が鳴った。

「……失礼。もしもし……。っ、そうですか。はい……はい……では」

「どうしたの、黒子?」

「初春……宿主のほうの少女ですけれど……亡くなったそうですの」

「あ……『本体』さんを殺しちゃったから」

「長く寄生されていた身体ですの。突然、ショック状態に陥り、そのまま……だそうですわ」

「……繋がっていたのね、離れていても」

「そうですわね」
「……さあ、もう一人、というか一人と一体、救わなくてはいけない事になりましたの!」

長門が言う。

「では……復元ポイントの時点に戻す、という事で構わない?」

「頼む、長門さん」

「お願いね」

「……貴方は、本当にいいの?」

長門は、俺に聞く。

ああ。
何だか俺だけ得をするようで気が引けるが。
時間を戻してくれ、長門。

「了解」

長門の、高速詠唱が始まった。

385 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/22(土) 00:34:17.56 ID:jBMDiQ+do

今までに無い、長い詠唱。長門なら一瞬で終わらせる事も出来るはずだろうに。

「キョン。色々あったが、お前に会えて良かった」

俺もだ。
しかし、ウニ条、お前は修道服が良く似合うな。
でも、インデックスさんから剥いで着るなよ?

「着るか! ……お前も、メイド服、似合ってるぜ」

ふふ……。
お前の説教が聞けなくなると思うと、少し寂しいな。

「キョンが邪魔しなきゃ、もっと聞かせてやれたんだがな」
「ま、気が済むくらいは説教したし、良しとするか」

インデックスさんによろしくな!

「覚えてねえっての!」

ははっ、そうだったな。

「……キョン。忘れないでね、って言っても無理なのよね」

ああ、御坂。
長門の言う事に、間違いはないんだ。
綺麗さっぱり、忘れちまうんだ。

「キョンにとっては、そのほうがいいんだもんね」

楽しかった記憶だけを残す、なんて都合のいい事は出来ないだろうしな。

「辻褄が合わなくなるもんね、ふふっ」

「お姉さまの美しさ、素晴らしさを、覚えてもらえないのは残念ですわね」

白井。
お前が来てくれて、俺たちは助かったんだ。
古泉と入れ違いになっちまったが、あいつにも会わせてやりたかったな。
きっと気が合うはずだぜ?

386 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/22(土) 00:36:29.98 ID:jBMDiQ+do

「……確かに、あのマイクロビキニのお姿は、わたくしと同類の香りを感じましたわ」
「遺体としてしか出会えず、残念だったとお伝え頂きたいのですが」

忘れちまうからな。

「……残念ですの」

あたりは、もはや校舎の残骸なのか別の何かなのか、分からなくなっていた。
昼なのか夜なのか、ここが学校のグラウンドなのかさえ、怪しいもんだ。

「うわー、凄いね、よつばちゃん!」

「な、なんだ? これなんだ? すげーな! とうちゃんにみせたらよろこぶ!」

よつば。
小さい子供のお前が、よく戦ってくれた。
お前が、妹たちと牽制してくれなかったら、俺たちは負けていたかもしれない。

「ハル、タン……ハルタン? ハルタン、ドコ? ハルタン!」

『アラカワサン』。
貴方は、どうしてそんなに奇妙な生き物になっちゃったんですか?
真面目に生きてきたからですか?
貴方の存在が、今の俺にとって一番の不思議です。
願わくば、その姿を一生見る事がないように。


空間がねじれ、三半規管が狂う。

立っているのか、座っているのかも分からない。

「……お別れは、済んだ?」

長門の声。

やっぱり別れの時間を作ってくれてたんだな。
忘れる事を知ってても、いや、だからこそ、さよならの挨拶はするべきだ。
お前は、覚えているんだろうよ。いつぞやの万を超える回数をループした夏休みを覚えていた時の様に。
もしも、お前がウニ条たちの事を俺に話してくれても。
無かった事になるんなら、思い出せないんだろうな……。

387 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/22(土) 00:37:57.97 ID:jBMDiQ+do

――

色取り取りの風景。
――

それは、どこか懐かしくも思える景色。
――

知ってる顔が、浮かんでは消える。
――

まるで、シャボン玉のように。
――

俺の立つその場所も。
――

その存在を止め、空となり。
――

いつしか、視界には誰も見えず。
――

感覚が、一つづつ消えてゆく。
――

ああ、何もかもが、無くなる。
――

何も分からなくなってゆく。
――

それは……。
――



――覚えていたい、大切な事。
それを忘れてしまうのは、とても悲しい。
だけど、それでも俺たちは――。

388 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/22(土) 00:40:23.64 ID:jBMDiQ+do

 次でようやく?最終回です。
 半年以上もかかってこんだけとは情けないです。
 まわりのスレの1さんは凄く凄いですよね。
 なぜあんなに書けるのか。
 では、多分24日くらいに。

396 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/24(月) 00:28:58.45 ID:rX7kPYkKo

――

「いやぁ〜、ご苦労さん。どう? 現場の様子は?」

「あっ、古畑さん! こっちですこっち!」

「うるさいねぇキミは。今、そっち行くところでしょうが」

「もう、機嫌悪いなぁ、古畑さん!」

「機嫌も悪くなるよ〜、何だか変な夢、見ちゃってさぁ」

「夢、ですか? 僕も、嫌な夢を見たんですよ〜」

「聞いてないよ、君の事なんて。全く、今泉君、キミはね、もうちょっと……」

「古畑さん、どんな夢を見たんですか? 教えて下さいよ、ねえっ、ねえっ!」

「鬱陶しいねぇ。……あのね、メイド服を着た男に、眉間を拳銃で撃たれる夢だよ」
「全く馬鹿馬鹿しいったらありゃしない」

「あっ、似たような夢ですよ、僕の見たのはですねぇ」
「男子高校生に、殴り殺される夢です!」

「どこが似てるんだか……。今泉君、キミのそれ、多分ね、正夢だよ」

「ちょっ、何でですか! そんなわけ、ないじゃないですか!」
「もしそうなら、古畑さんだって正夢かもしれませんよっ!」

「あ〜、もう。いい? メイド服を着た男が拳銃を撃ってくるなんて、ありえないでしょ」
「でも、男子高校生が、キミを殴り殺すのは、充分にありえるんだよ、現実的に考えて」

「ひっ、酷いっ! 僕だけ死んじゃうんですかぁっ」

「犯人は捕まえてあげるから安心しなさい」

――
『古畑任三郎』より
 ・古畑任三郎
 ・今泉慎太郎

397 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/24(月) 00:32:54.66 ID:rX7kPYkKo

――

「とーちゃん!」

「んー?」

「あのなー、よつば、『アラカワサン』とあそんできた!」

「あらかわさん? 何だ、新しい友達か?」

「うん! 『アラカワサン』な、ぼっきしたのこすってやるとな、きもちいいんだって!」
「んで、しろいおしっこをな、どびゅー、ってだすんだ! すげーな!」

「……おい、よつば。その「あらかわさん」とやらはどこの人だ?」

「どこの? ……ずーっとみぎ。みぎにいったところ……さいご、ちょっとひだり?」

「他に何かしたり、されたりしなかったか?」

「かためられた。なぐられた。たたかった。よつば、がんばった?」

「……どこのどいつか知らんが、うちのよつばに性的な悪戯をしやがったな!」

「オイーッス。……って何、深刻な顔をしてるんだ」

「ああっ、ジャンボ! おい、事件だ!」

「んー、なんだー? 事件ごっこかー?」

「よつばが性的な悪戯をされた」

「って本物の事件じゃねえか! 犯人は誰だよ! おい、よつば! どんな奴にいやらしい事された!?」

「え? ……かみのけまっしろな、おじいさんだが?」

「何ていう世の中だ! 孫みたいな子供相手に何をしやがる!」
「こい! 警察に電話だ、電話!」

「もちろんするが、お隣りが何か知らないかも聞いたほうがいいな」
「恵那ちゃんが何かされる可能性もあるし……警告はしておかねば」

398 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/24(月) 00:35:28.21 ID:rX7kPYkKo

「えなはかんけいない。いもうとがいた」

「妹? 誰の妹だ?」

「キョンの」

「キョンって何だ!? それ人の名前か!?」

「落ち着けジャンボ。とにかく警察に連絡して、恵那ちゃんたちにも注意を呼びかけるんだ」

「ああ。俺はお隣に行って、あさぎさんに注意してくる」

「……恵那ちゃんだからな? 俺は警察に通報しておく」
「よつば、お前の仇は、とーちゃんが必ずとってやるからな」

プルルルルルルルルルル

「もしもし。実は幼女を狙った変質者が――」
「――はい。私の娘が被害に遭いまして、それで――」

「ふたりとも、こわいかおしてるな?」
「とーちゃん、なんで、あたまをなでる?」

「――宜しくお願いします。はい。ではまた」
「よつば。知らない人について行ったら駄目だって、とーちゃんが言わなかったか?」

「よつば、ついていかなかった。きがついたら、しらないへやにいた」

「気を失わせて拉致かよ! 畜生、卑劣な性犯罪者め!」

「ひれつなせーはんざいしゃ……やんだみたいなやつか?」
「とーちゃんも、ジャンボも、なにかいそがしそうだ」
「……きんきゅうじたいか?」

――
『よつばと!』より
 ・小岩井よつば
 ・とーちゃん
 ・ジャンボ

399 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/24(月) 00:37:17.44 ID:rX7kPYkKo

――

「ったく、てめェらとこんなところで出くわすなンざ、思いもしなかったぜェ」

「まさか、お前も『佐天涙子』を追って、関西地方に来ていたとはな」

「あのふざけた三下のせいで、学園都市に居づらくなっちまったんだ、この借りは返さねェとな」

「それはともかく、おなかがへったんだよ、とうま!」

「……でも、佐天さん。何であんな事を」

「能力が発現した、って喜んでいらしたのに……」

「ケッ! 能力に振り回されてンだよォ!
「だァから中途半端な三下が、でかい力なんざ持つとろくな事にはならねェってンだ!」

「……お前。俺が右手で触ってなかったら、ずっとあのままだったんだぞ?」

「学園都市、第一位が、いくら不意をつかれたとは言え佐天さんの能力に影響されるなんて、ねえ」

「『一方通行』の名が泣きますの」

「っせえ! 今はずーっと反射してるわけじゃねェし、ホントに油断してたンだってンだ!」
「誰だって、保育園の前を通れば、心が緩むのくれェ分かるだろうがよォ!」

「それで、園児に猥褻な事をしようとしてアンチスキルを呼ばれちゃ、世話無いな」

「猥褻な事なんてしようとしてねェ! ただ、愛でようとしただけだ!」
「大体、幼女に性的な行為をしようというのはロリコンの風上にも置けねェ奴らで本来ロリってェのは紳士的且つ……」

「……熱くロリコンを語り始めましたの」

「アンタがレズを語る時とおんなじね……」

「そんなっ! お姉さまっ! 黒子の想いは、そんじょそこらの同性愛とは一線を引くもので決して邪な想いでは……」

「……御坂も、苦労してるんだな」

「……まあね」

400 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/24(月) 00:40:19.18 ID:rX7kPYkKo

「とにかく、第一位が一緒にいるんだ、頼りにしてるぜ? 『キョン』!」

「はァ!? 誰が八丈島の植物園に僅かに飼育されてる変わった生き物だ、こら三下ァ!」

「ね、ねえ、アタシ、その『キョン』って……何か聞いた事があるような」

「お姉さまもですの? わたくしも、何故か気持ち悪さと懐かしさがこみ上げてくる感じですわ!」

「俺も、つい口に出ちゃったけど……なんとなく、懐かしいな、『キョン』、か……」
「一方通行、これからお前の事、『キョン』って呼んでもいいか?」

「名案だわ!」

「ナイスアイディアですの!」

「何なんですかァ、てめェらはァ! 人に変なあだ名つけようとしてンじゃねェぞ!?」

「いいじゃないか、『キョン』!」

「そうよ『キョン』!」

「『キョン』さん!」

「俺の名前は『一方通行』だァッ! 『キョン』なんてふさけた名で呼ぶんじゃねェーッ!」

「『一方通行』も本名じゃないから別にいいと思うよ!」
「それよりとうま! やっぱりおなかすいたんだよ!」

「……全く、お前は。この事件が片付いたら水を腹いっぱい飲ませてやるから」

「水はいくら飲んでもカロリー0なんだよ!」

「じゃあ、そこのパン工場に廃棄されたアンパンがあるみたいだから、それを大量に食わせてやるよ!」

「ア、アンパンはもういいかも! アンパン怖いんだよ!」

「おォ? 『饅頭怖い』のノリかァ? 流石に暴食シスターだな、おィ」

「違うんだよ! ほんとに怖いんだよ! 何でか分かんないんだけど!」


401 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/24(月) 00:42:17.13 ID:rX7kPYkKo

「はいはい。とにかく、水もアンパンも、『佐天涙子』を保護してからだな」

「佐天さん……きっと自分で自分に能力を使ったのかもしれないわね」

「……もし、そうだとしたら。上条さんの右手で触っていただければ、説得できるかと」

「任しとけ! 俺の右手で、異能を打ち消し! 説教で改心させてみせる!」

「説得はアタシたちもするつもりだけどね」

「……今回は、必ず成功させたいですわね」

「……そうだな」

「……うん」

「あァン? 今回は……って、前にも『佐天涙子』は、何かやらかしたのか?」

「ん……いや、何でだろうな?」

「何だろ……このデジャブ?」

「不思議な感覚ですの……」

「おなかすいたんだよ! アンパンじゃなくって焼肉なんだよ!」

「……分かった、分かりました。事件が終わったら、『佐天涙子』も交えて、焼肉パーティを開いてやるよ」

「わあい! とうま、はなせるぅ!」

「『キョン』……じゃなくて、『一方通行』の奢りでな!」

「何で俺の奢りですかァ!? あだ名を言い直したのは奢らせる為ですかァ!? てめェら、ふざけ倒すのも大概にしろよォ!」

『とある魔術の禁書目録』&『とある科学の超電磁砲』より
 ・上条当魔
 ・インデックス
 ・御坂美琴
 ・白井黒子
 ・一方通行

402 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/24(月) 00:43:54.09 ID:rX7kPYkKo

――

「……情報確認。古泉一樹、朝比奈みくる。両者の生命反応あり」
「時刻……復元ポイント時点。確認」
「……」
「全てが、戻った」
「……思念体に情報操作申請開始」
「『あの』時間内に私が作成したメディアデータの情報結合の許可を」
「……」
「了解。誰にも見せない」
「私、個人の鑑賞用とする」
「……」
「バックアップを作成しておく」

「パソコン……」
「データ、保存……」
「……」
「……あ」
「ウイルス……」
「全データが、ネットに流れた……」
「……」
「どうしよう」
「……大丈夫、情報操作でなんとかできる」
「申請中……」
「……」
「……怒られた。私の凡ミスだから」
「……」
「まあ、良い」
「彼が、メイド服でダンスを踊っている動画や写真が、仮に彼や彼の知人に発見されたとしても」
「良く似た他人だと思うはず」
「……思うはず」
「……」
「やっぱり自分でネット中のデータを削除する」
「今夜は徹夜」
「……カレーを準備しておく」
「……」
「……うっかり、大量に作ってしまった」
「……もう、彼らはいないのに」
「……」
「……まあ、私、一人で食べられる範囲。大丈夫。無駄には、ならない」

403 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/24(月) 00:46:07.48 ID:rX7kPYkKo

――

「ふあぁあぁあぁ……」
「……おかしな夢を見ましたぁ」
「キョンくんが、メイド服を着て踊ってて……」
「拳銃で私を撃って……」
「……」
「本当、おかしな夢……」

カチッ シュボッ すぅ ふぁぁぁぁ

「……寝起きのタバコは、美味しいなぁ」
「学校じゃ、吸えないからストレス溜まりますよね」
「ふー……」
「あ、ビールの缶、捨てないと」
「……面倒臭いなぁ」
「この時代だと、自分でしなくちゃいけないんですもんね」

「……今日は、買い物にでも行こうかな」
「鶴屋さんにメールして、っと」
「『もしお暇ならユニクロにショッピング行きませんか?』」
「送信、っと」

「……メール、返ってこない」
「い、忙しいんですよね!、きっと!」
「……」
「最近は、SOS団の休日活動も無いし」
「暇だなぁ……」

「……ん、んん」
「もう、夕方……?」
「コンビニに晩ご飯、買いに行かなきゃ……」
「ジャージ、ジャージ……あった」
「……ふぁあああ」
「んげっぷっごあっ、ぷあ」
「……ビール、飲みすぎかなぁ……少しお腹出てきてるかも」
「少しは運動しないと涼宮さんに怒られちゃいそうですね」
「明日から頑張ろう」
「いってきまーす……っと、タスポ忘れるところでした。これ見せないと私には売ってくれないんですよね」
「そんなに童顔かなぁ? ……実年齢は3×才なのに」

404 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/24(月) 00:48:55.96 ID:rX7kPYkKo

――

「おかーさーん」

「なぁに、ハルヒ?」

「誰も、来てない?」

「うん」

「そう……」

「ちゃんと寝ないと、風邪、治らないわよ」

「はーい」

「……」
「何で誰もお見舞いに来ないのよ……」
「団長が、病気だってのに」
「全く、たるんでるわ!」
「SOS団員足るもの、例え、『異世界』からでもお見舞いに来るのが筋ってもんじゃないの!?」
「……」
「キョン」
「有希」
「みくるちゃん」
「古泉君」
「……」
「寂しいよう……」
「会いたいよう……」
「ふぐっ、ぐすっ……ううええぇ」


『涼宮ハルヒ』シリーズより
 ・涼宮ハルヒ
 ・キョン
 ・古泉一樹
 ・長門有希
 ・朝比奈みくる
 ・妹
 ・新川

405 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/24(月) 00:50:33.61 ID:rX7kPYkKo

――

「どうですか、その衣装は?」

古泉に薦められるまま、俺はとあるビルの地下室に来ていた。
『機関主催 第三十一回 秘密コスプレ会場』
入り口に張られた張り紙にはそんな文字が書かれていた。

古泉が言うには、機関では前々からこの様な催しが頻繁に行われていたらしい。
ストレスの溜まる激務の中、少しでも発散させようという狙いだそうだ。

しかし、何故、コスプレ? そして、おれは何故、メイド服を着ているのだ?

「とっても良くお似合いですよ、んっふ」

そう言う古泉は、ピッチピチの女児用スクール水着を着用していた。

おい、何でゼッケンの名前が俺の苗字なんだ?
学年とクラス番号にも見覚えがあるぞ!

「ははは、まあお気になさらずに。ちゃんと新品と取り替えてきましたので」

お前、俺の妹のスクール水着を盗んだな?
この変態野朗が! 今すぐ警察に突き出してやる!

「そう言えば、そのメイド服は森さんのものなんですよ。洗ってないので、匂いがしたらすみません」

……今回だけ、特別に三十万、支払えば許してやる。

秘密コスプレ大会とやらも、観念して身を任せてみると、案外、楽しいものだった。
森さんのコスプレ姿も見たかったのだが、彼女は待機要員という事で、今回は不参加だそうだ。
古泉が待機していれば良かったのに。
俺はメイド服姿で、踊ることを決めた。

何故だか知らないが、初めて着るはずのメイド服は、とても俺の身体に良く馴染んだ。
まるで身体の一部のように、スカートのひるがえし方、悩殺的な下着の見せ方も、俺には分かっていた。

そうそう、下着も実は森さんのものだそうだ。
着用する時に、なんて破廉恥な代物だろうと思ってはいたのだが、森さんの下着であるならそれは至極合理的なものだった。
俺は森さんのメイド服を着ているのだから、森さんの下着を身に着けるのは、当然の事なのだ。

406 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/24(月) 00:52:20.01 ID:rX7kPYkKo

ホットッペッパ ピップペッパッピ♪
ペッパッペッパ ピップペッポッピ♪
ホットペッパ ピップペッパッピ♪
ペッパッペッパ ピップペッポ♪
ヘイ!
ホットッペッパ ピップペッパッピ♪
ペッパッペッパ ピップペッポッピ♪
ホットペッパ ピップペッパッピ♪
ペッパッペッパ ピップペッポ♪
ホゥ!

俺は、華麗なタップで踊り狂う。

古泉は、着用しているスクール水着が身体を拘束し、にやにや笑いながら床で芋虫のようにくねくねしていた。

あっははははは! 楽しいな! 楽しいな!

「んっふふ……喜んで頂けて、何よりです」
「ああ、そうそう。もうすぐ、スペシャルイベントが始まりますよ」

もう、何が何だか分からないくらいに骨格を歪ませた古泉が、言った。

スペシャルイベント?

「ええ……あ、始まるようです」

会場の照明が消され、ステージに、ライトが当たった。
そこから出てきたのは、北校女子制服を着用し、黄色いカチューシャを頭につけた、新川さんだった。

「皆さん、楽しんでますかー!」

「「「イェーイ!」」」

「では、ご覧下さい! 新川による、『ハレ晴れユカイ』!」

その軽快な歌と踊りは、とてもじゃないが、片手間に出来るものではなかった。
俺はいつの間にか、新川さんのステージに魅せられていた。

ウインクを決める、新川さん。
俺の心に、ハルヒの面影が通り過ぎる。まるで、本物のハルヒがそこにいるかのようだった。

407 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/24(月) 00:56:48.12 ID:rX7kPYkKo

「ナゾナゾみたいに地球儀を解き明かしたら〜」
「みんなでどこまでも行けるね〜」
「ワクワクしたいと願いながら過ごしてたよ〜」
「かなえてくれたのは誰なの?」
「時間の果てまでBoooon!!」

ハルヒが踊っている。スネ毛がもっさりと生えた、白髪で壮年と言える年齢の男性の、ハルヒが。

「ワープでループなこの想いは〜」
「何もかもを巻き込んだ想像で遊ぼう」
「アル晴レタ日ノ事」
「魔法以上のユカイが」
「限りなく降りそそぐ 不可能じゃないわ〜」
「明日また会うとき 笑いながらハミング〜」
「嬉しさを集めよう」
「カンタンなんだよ こ・ん・な・の」
「追いかけてね つかまえてみて」
「おおきな夢&夢 スキでしょう?」

俺はいつしか、涙を流していた。新川さんの、ハルヒに対する、純粋な想い。それが分かったからだ。
新川さんは荒川さんで無く、ハルヒはハルヒでは無い。何故、そんな事が今まで分からなかったのか。

ステージが終了し、新川さんと話すことができた。

その、何と言うか……凄かったです。

俺が陳腐な表現の褒め方をすると、新川さんは照れたように笑った。

「私の様な老体が、涼宮さんのコスプレをして、踊る……馬鹿らしいかもしれませんが」
「……このコスプレ大会には、感謝しております」
「こうして、涼宮さんの衣装を着ている私を、他人に見て頂けるのですから」
「涼宮さんの制服や、その他の私物を入手するには、苦労しました」
「しかし、それでも私は、涼宮さんに包まれていたいのです」

俺は、感極まってしまい、相手が年上な事も忘れてこう言った。

――お前まさか……ハルヒの事が好きなのか?

俺が「お前」と呼んでしまった事に対して、特に関心は無さそうに、新川さんが制服の胸元から取り出したのは――。

 【End】

408 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[saga ] 投稿日:2011/01/24(月) 01:01:05.50 ID:rX7kPYkKo

色々とグダグダ感あり、時間もかかりましたが、何とか終わる事ができました。
いつもは多くて40レスほどの即興短編しか書かなかったのですか、
何を血迷ったかこちら(というか製速)で書くのなら長めのだろうと書き始め。
最初は去年の6月(!)からでした。
こんなにも時間がかかってしまい、他の書き手さんはすごいなあ、と改めて思いました。
一応の書き溜めとラストまでのあらすじを決めて書き出したは良いものの、
どんどんカオスになってくるは(主にキョン)、
当初は考えていなかった人物が出現するわ(よつば・本当は古畑サイドはもっと関わってくるはずでした)。
「とある」とのクロスは当初の構想通りでしたので、上条さんの説教が書けて良かったです。
その上条さんも途中であっさり死んでキョンの魂の一部になる感じの予定だったのですが。

他の作品のクオリティや長さとは、比べ物にならないものでしたが、
このようなSSにお付き合いくださり、支援等をして下さった方々、本当にありがとうございました。

とりあえず明日か明後日にはHTML化依頼をしようと思います。
もう一度、ありがとうございました。

409 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/01/24(月) 01:02:41.01 ID:G9nrqVgj0

南部の長編もいいもんだなぁと思ったよ

乙!!

410 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/01/24(月) 01:12:08.14 ID:U0igygrAO

激しく乙ッ!
最初から楽しませて頂きました
次回作も期待してますよ

あと、俺のみくるが中の人化してる…


411 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/01/24(月) 01:24:13.15 ID:MODXPQ3DO

終わり方も上手くまとめてたしすっごい面白かった
>>1

412 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/24(月) 01:38:14.00 ID:rX7kPYkKo

 ありがとうございます。

 >>409
 このスレではコテつけないつもりでしたが、移転の時に間違えて1レスだけ表示しちゃって……
 とかいう前にトリが同じなら知ってる人は分かっちゃうんですよね。
 vipで長編できる人は尊敬します、本当に。

 >>410
 さ、最初からとは、長らくお待たせ致しました。
 みくるは実生活ではあんな感じじゃないかと思ってます。
 良い子なんだけど自分の家ではだらけきっちゃう、禁書の小萌先生みたいな部屋に住んでそうな。
 未来では三十代はまだ未成年ですってみくる(大)が言ってませんでしたっけ……?

 >>411
 どうもです。
 キョンが積極的に行動し始めたらどうなるかと書き始めたのですが。
 積極的過ぎてゾンビゲームのプレイヤーキャラクターみたいになりました。
 もっと爆発物が欲しかったところです。

 五月くらいにやっとハルヒ新作が発売されるそうで何よりです。
 何年も走りっぱなしだからみんな足がムッキムキになってそうで楽しみですね!

422 名前:1 ◆pTqMLhEhmY[sagesaga ] 投稿日:2011/01/25(火) 00:20:45.98 ID:X9Uj8WnCo

 読んで下さった方々、ありがとうございました。
 ループの件ですが、多分そんな感じです。
 >>1の場面とつながるようにしました。
 ただ、「歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」との言葉があるように、色んな変化があると思います。
 ラストの新川さんが出したモノのが剣呑なものとは限りませんし、
 キョンもアグレッシブに動いたりは(ラスト部分を読み返すと疑わしいですが)多分、しないでしょう。
 「とある」の世界では一方通行さんが参戦し、クケラカコケコと笑うのでしょうし、
 「ハルヒ」の世界にはもう、御坂も黒子も存在しません。

 個人的には、キョンと新川さんはハルヒのストーカー談義で仲良くなって欲しいと思います。
 では。



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