1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 22:09:35.94 ID:cSHh5PRH0
椅子を蹴っ飛ばして立ち上がったキョンは、あたしを睨んだ。
負けずに睨み返す。
「……俺はSOS団を辞める。いいな」
キョンの声は、僅かに震えていた。
いつもなら『団長の命令無しに辞めるなんて許さない』と言うところだけれど。
「勝手にしなさいよ」
これは本心。
「じゃあな。今まで世話になった」
キョンはドアを開け、足早に出て行った。
古泉君が言う。
「彼と話をしてきます」
あたしが何かを言う暇もなく、古泉君も出て行った。
団室には、あたし、みくるちゃん、有希の三人だけが残った。
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 22:11:28.51 ID:cSHh5PRH0
「涼宮さん」
みくるちゃんが、やっと口を開く。
「あれは……ないんじゃないでしょうか?」
あたしにお説教?
「いくら何でも、酷すぎます」
いつの間にか有希が立ち上がっていた。
団長机の前、つまりあたしの目の前に立っている。
「貴方は、謝るべき」
そう。
あんたもキョンの味方なのね。
「原因は貴方。だから……」
「うるさい!」
あたしは無性に腹が立って、この場にいたくなくなった。
何も言わずにドアから外へ出る。
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 22:12:59.53 ID:cSHh5PRH0
――
「長門さん……どうなるんでしょうか?」
「思念体は観察の姿勢を崩さない。けれど……」
「けれど?」
「私という個体は、彼らの仲直りを強く望んでいる」
「……わたしも同じです」
「なら」
「はい。SOS団の仲間、いえ友達として行動します」
「そう」
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 22:15:36.45 ID:cSHh5PRH0
――
壁を殴りながら俺は廊下を歩く。
通りがかった生徒の俺を見る目は、まるで猛獣でも目撃したかのようだ。
苛立ちは、収まらない。
肩を掴まれた。
振り返ると、古泉だった。
「何だよ」
分かってる。
閉鎖空間がどうのなんだろ?
「落ち着いて下さい。貴方らしくも無い」
「俺はもう、我慢の限界なんだよ」
「お気持ちは分かりますが……」
「どうせ閉鎖空間が発生してんだろ? 行けよ」
「……確かに発生しています。しかし僕は行きません」
そういうことか。
「俺に、ハルヒに謝れというんだな?」
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 22:18:17.47 ID:cSHh5PRH0
「……できればそうしてもらった方がありがたいのですが」
「僕はも、今回は涼宮さんが悪い。そう思います」
「なら、何をしたいんだ?」
「仲直り、ですよ」
「仲直り?」
「普通に、互いの非を認め合って、以前の関係に戻しましょう」
馬鹿が。
「俺は謝るつもりはない」
「SOS団にも、戻らない」
「……涼宮さんが、謝っても、ですか?」
ハルヒが謝る?
俺に?
「そんなことが有るわけが無い」
「謝ってこられたら、貴方はどうしますか?」
……俺は。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 22:23:28.03 ID:cSHh5PRH0
「……あいつを許すなんてできない」
「でしょうね」
「結局のところ、そこが問題なんです」
「何?」
「今までの貴方なら、彼女が謝れば許してきました。しかし今回は……」
「僕が貴方の立場でも、許しはしないでよう」
「しかし」
「どうか、その時が来るならば、許してあげてはもらえませんか?」
……つくづくこいつの頭はおめでたい。
あのハルヒが。
今の状況で謝ってくるわけがない。
「仮定の話をしても仕方がない」
「もう終わった事だ。お前や朝比奈さん、長門には迷惑をかけるだろうが」
「これでさよならだ」
目の前が真っ暗になり、火花が見えた。
古泉が俺の顔面を殴った。
「……何、すんだよ……」
俺は床に倒された身体を起き上がらせ、立ち上がる。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 22:30:06.33 ID:cSHh5PRH0
「……僕や、朝比奈さんの任務は関係ありません」
「SOS団の仲間として、友人として、仲直りしてほしいんです」
友人が顔面を殴るか、普通?
「大層な御託を言うんだな。どうせ機関からの命令だろうが」
もう一発。
「ぐっ……!」
「機関からの命令は、『閉鎖空間に直ちに向かえ』でしたよ」
「しかし僕は、それよりも貴方達の関係が大切だと思いました」
「命令に背いてまで、貴方と彼女を仲直りして欲しいのですよ」
仲間? 友人? 臭い事を言うじゃねえか。
キャラじゃないだろ?
「そんなに仲直りさせたかったら……俺をその気にさせてみろよっ!」
蹴りが古泉の鳩尾に入る。
くぐもったうめき声を出しながら、古泉は俺を睨む。
いつもの張り付いたような笑顔は、どこにもない。
「なら、そうさせてもらいますよ!」
俺の胸に、ドロップキックが決まった。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 22:36:43.36 ID:cSHh5PRH0
倒れはしなかったものの、アバラが何本かやられたようだ。
その代わり、古泉は廊下に寝ている状態だ。
俺は素早く回り込み、鳩尾に蹴りを連続で入れた。
こいつが、動かないように。
機関の訓練を受けている古泉は、俺よりは確かに強いだろう。
しかし、身動きができなければ俺の勝ちだ。
十回、二十回、三十回。
古泉はぐったりして動かなくなった。
俺はほっと息をつき、その場を離れようとした。
その時。
背後に殺気を感じて振り返ると、奴は立ち上がっていた。
「……神人との戦いは……こんなもんじゃないんですよ」
あれだけ蹴りまくったのにも関わらず、古泉は軽いステップで間を詰めた。
肘鉄が俺の顎に決まる。
続けて右頬にパンチ。
左頬に、体重の乗った正拳突き。
今度、廊下に倒れたのは、俺の方だった。
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 22:43:19.83 ID:cSHh5PRH0
「そんなところでオネンネですか? 僕はまだやれますよ?」
……こいつ。
追い討ちをかけてくるどころか、挑発してやがる。
「げほっ……終わりなわけ、ないだろうが」
俺はふらつきながら立ち上がり、そのままの勢いで古泉の頭を掴む。
俺自身、予想だにしてなかった動きに、古泉も反応が遅れる。
俺は古泉の頭を掴んだまま、窓ガラスに思いっきり叩きつけた。
景気良く割れるガラス。
古泉の顔面は血まみれになった。
「くっふ……今のは……効きましたよ……」
血を流しながら、いつもの笑顔……いや、好戦的な笑顔を浮かべた古泉に、俺は少し身震いする。
思わず手を放し、距離を取る。
「おやおや……流石に、喧嘩慣れはしてらっしゃらないようですね」
しまった!
あのままガラスの破片に打ち付けておけば!
そう思った瞬間、古泉の後ろ回し蹴りが俺の側頭部を強打した。
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 22:48:17.31 ID:cSHh5PRH0
額が切れ、血が流れる。
こいつ、やはり強い。
体勢を整えつつ、俺は周囲を見る。
消火器。
俺はそれを古泉に投げつけた。
奴は避ける。
その隙を見て、がむしゃらに突っ込んだ。
気がつくと、俺は古泉の上に馬乗りになっていた。
勝機だ。
思いのままに、古泉の顔面を殴る。
何十発、殴ったろうか。
いつの間にか俺は羽交い絞めにされていた。
岡部だった。
それでも暴れる俺。
なだめようと近寄ってきた谷口に偶然にも蹴りが入り、奴はガラスの割れた窓から落ちた。
三階だった。
古泉は病院へ。
俺は停学一週間を喰らった。
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 22:52:52.94 ID:cSHh5PRH0
――
屋上に出て風にあたる。
少しは気分が晴れるかと思ったけれど、そんなことは無かった。
苛々する。
あいつの、キョンの顔。
心底、あたしに怒った顔。
手すりを蹴る。
金属の震える音が、癇に障る。
「涼宮さん」
振り向くと、みくるちゃんがいた。
メイド服のまんまじゃないの。
「……何しにきたの」
分かってる。キョンに謝れっていうんでしょ。
「キョンくんと、仲直りしませんか」
無理よ。
今回ばかりは、あたしも許せない。
こっちから謝るなんて、死んでもできない。
「それで、いいんですか?」
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 22:57:12.88 ID:cSHh5PRH0
「いいって何よ!」
「キョンくんは、SOS団創設からの仲間です……」
「何より、友達じゃないですか」
「向こうが辞めるってんだから、仕方ないじゃない」
「じゃあ、キョンくんが謝ってきたら、許すんですか?」
キョンが謝る?
流石に無いわ。
今回ばかりはね。
命、かけてもいいわ。
「……もしも。謝ってきても……あたしは」
「許せませんか」
「そうよ。いけない?」
「わたしは嫌です。今まで通り、楽しくしたいです」
「楽しい日々って、案外、簡単に壊れるものよ」
「今なら、まだやりなおせます」
「しつこい!」
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 23:01:50.94 ID:cSHh5PRH0
かっとなったあたしは、みくるちゃんの頬を思いっきり、引っ叩いていた。
みくるちゃんの可愛い顔に、あたしの手の跡がはっきり残る。
「あ……」
「涼宮さんの分からず屋っ!」
みくるちゃんもビンタしてきた。
あたしは避けなかった。
ぺち。
避ける必要が無かった。
みくるちゃんは泣いていた。
「……なんで……あんな事を……だからって……」
みくるちゃん。
あたしの胸に、鈍い痛みが走る。
それを誤魔化すように、あたしはみくるちゃんにビンタした。
「あうっ! ひぃ! ぷぎっ! まにっ! どりあっ!」
往復ビンタ。
それは、いつまでも続くかのように思われた。
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 23:08:01.73 ID:cSHh5PRH0
不意に、腕を掴まれる。
「やめるさ、ハルにゃん」
「鶴屋さん……」
「みくるに、八つ当たりすることはないでしょ!」
みると、みくるちゃんの顔は普段の倍くらいに膨れていた。
まるで豚みたいだった。
でも、そうしたのはあたしだ。
「あ……あ……」
「……話はゆきんこから聞いたよ。あたしは何も言わない」
「本人同士の問題だから」
「だから……これ以上、みくるに手は出さないであげて、ね?」
鶴屋さんの目は真剣だった。
あたしは、自分のやったことを思い出し、どうすればいいのか分からなくなった。
そして屋上から飛び降りた。
運動神経がいいからか、怪我一つなく着地してしまった。
まあ、これで死んだらみくるちゃんに迷惑がかかるから良かったんだけど。
何故か、横で谷口が地面にめり込んでいた。
キョンは、一週間、学校を休んだ。
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 23:12:28.68 ID:cSHh5PRH0
――
一週間後。
キョンが登校してきた。
あたしとは口も聞かず、目も合わさない。
もう、終わったんだ。
クラスの雰囲気が暗い。
何故だろう?
キョンが窓ガラスをバンバン叩いてるから?
あたしが机をかじってる音がうるさいから?
最悪の空気。
お昼休み。
キョンは国木田……だっけか、とお弁当を食べるようだ。
そういえば谷口の姿をみない。
どうでもいい。
あたしは教室を飛び出し、団室に行く。
団室には、先客がいた。
有希だ。
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 23:15:39.28 ID:cSHh5PRH0
「……」
「……なんか言いたい事があるの?」
「仲直り」
「……」
「仲直り、してほしい」
有希もそういうのね。
でも……。
「無理よ。謝る気は無いし、あいつが謝ってきたとしても許さない」
「……」
「説得は無駄よ」
「……喧嘩するのは、仲の良い証拠」
「……!」
「本に、書いてあった」
あたしは弁当を掻き込み、外へ出た。
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 23:20:26.37 ID:cSHh5PRH0
――
何故だか怯えている国木田と一緒に食べた弁当は、味がしなかった。
そうだ、今のうちに団室から私物を取ってこよう。
俺は国木田にそう言うと、もう二度と来る事はないだろう、団室への道を歩いた。
中には先客がいた。
長門だ。
「……」
「迷惑かけてすまんな」
「いい。それよりも……」
「仲直りなら、できない」
「……」
「正直、あいつにはうんざりだ。例えあいつが謝ってくるような奇跡が起きても、許せない」
「……喧嘩するのは、仲のいい証拠」
何を言い出すのか、この宇宙人は。
「本に、書いてあった」
そうかい。
でもな、例外ってのはあるもんだぞ。
俺は僅かな私物を持って団室を後にした。
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 23:25:43.17 ID:cSHh5PRH0
――
放課後。
俺は一人で下駄箱に向かった。
国木田は用事があるそうだ。
自分の下駄箱を開ける。
紙切れが入っていた。
和風の紙で、巻いてあり、広げるとこう書いてあった。
【本日午後九時。河原まで来られたし。涼宮ハルヒ】
肉太の男らしい字で書かれているそれは、果たし状だった。
……。
分かったよ。
これで最後だ。
俺が勝って、終わらしてやる。
手紙を握りつぶすと、俺は全身の血が滾るように感じて、自然と笑っていた。
下校中の生徒が、蜘蛛の子を散らすように離れてゆく。
失敬な。
まるで俺が変人みたいじゃないか。
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 23:29:27.40 ID:cSHh5PRH0
――
夜九時少し前。河原。
あたしはキョンを待っていた。
最後に交わすのは言葉じゃない。
みくるちゃんで良く分かった。
右手に持つのは釘バット。
これで、メッタ打ちにしてやる。
あたしの勝ちよ、キョン。
……果たして、来るだろうか?
いや、あたしには確信があった。
あいつは必ず来る。
あたしをぶちのめしに。
憎くて憎くて憎くて、仕方がない。
素振りを始める。
と。
土手の上に人影が見えた。
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 23:34:32.77 ID:cSHh5PRH0
――
九時少し前に河原に着く。
右手に持つのは鉄パイプ。
土手の上から河原を見ると、なにやら剣呑そうな武器を持って素振りをする女がいた。
ハルヒ。
決着をつけようぜ。
勝つのは俺だ。
土手にある階段を一段一段、油断無く降りる。
罠は無し。
タイマンか。
そうまでして、俺と戦りたかったのか。
月明かりと街灯の光で、互いに顔が視認できる距離までくる。
「今日は遅刻しなかったのね」
「最後だからな」
「……その気のようね」
「……お前もな」
カチッ
腕時計が、九時きっかりになった。
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 23:38:10.40 ID:cSHh5PRH0
「あああああああああああああああああっ!」
あたしがキョンの顔面を狙った釘バットは避けられた。
キョンの鉄パイプがあたしの腹を狙う。
斜め右後ろに飛び、避ける。
キョンが距離を詰める。
上段からの振り下ろし。
それを釘バットで受け止める。
流石に、腕力では適わない。
蹴りを股間に打ち込む。
固い感触。
何か防具を仕込んできたのね。
やるじゃない。
それくらいじゃなきゃ、物足りないわっ!
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 23:42:51.15 ID:cSHh5PRH0
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
ハルヒが股間を攻撃してくるのは予想済みだ。
空き缶で作った金的ガードが役に立ったぜ。
しかし、流石にハルヒは強い。
運動神経抜群と言われる事はある。
しかし死合いに必要なのは運動神経でも腕力でもない。
殺す覚悟だ。
俺は鉄パイプを滅茶苦茶に振り回し、隙を作った。
ハルヒはそこに付け込み、俺の左腕に釘バットを当てる。
痛いが、計算どおりだ。
左腕に刺さった釘が、ハルヒを一時的に武器無しの状態にしてくれた。
俺は鉄パイプでハルヒの腹を突いた。
刺さった。
が、浅い!
54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 23:46:53.15 ID:cSHh5PRH0
キョンの策にしてやられた!
肉を切らせて骨を断つ……まさかそこまで覚悟を決めていたとはね。
でも、浅い!
まだまだいける!
あたしは飛べる!
キョンの頭上を飛び越え、背後に着地。
後ろのキョンめがけて釘バットを思いっきり振るう!
空振り!?
あたしは後ろの殺気を感じ、しゃがんで転がった。
キョンが鉄パイプを横殴りに振りかぶった後だった。
あたしと同じ手を使ったの!?
やるじゃないの、キョン。
燃えてきたわ。
58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 23:50:52.58 ID:cSHh5PRH0
――
もう、何十合を打ち合ったのだろうか。
数えるのも馬鹿馬鹿しい。
最初の頃は避けてこれた攻撃も、少しずつ喰らうようになっている。
それはハルヒも同じだが。
既にどちらも満身創痍。
怪我をしてない部分を見つけるのが困難なくらいだ。
視界が暗くなる。
足元がおぼつかない。
もはや限界は、近い。
ならば、これが最後の一撃になるだろう。
ハルヒもどうやらそうらしい。
最後に立っていた者が、生き残る。
ただそれだけだ。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 23:54:11.74 ID:cSHh5PRH0
キョンの鉄パイプがあたしの頭蓋骨を割る。
ハルヒの鉄パイプが俺の顔面を抉り取る。
身体中から力が抜ける。
地面が、とても近くなる。
駄目よ、まだ倒れちゃ。
駄目だ、まだ倒れちゃ。
負けるなんて嫌。
負けるなんて嫌だ。
誰に?
誰に?
キョンに。
ハルヒに。
そうだったのか……!
「ごめん」
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 23:59:12.15 ID:cSHh5PRH0
どっちが言った言葉なのか。
「ごめん」
誰が言ったのか、それはどうでも良かった。
誰かが言ったのだから。
「大丈夫ですか、お二人とも」
「キョンくん、涼宮さん!」
「酷い怪我」
SOS団員が集まってくる。
キョンとハルヒの手は、しっかりと握られていた。
「……閉鎖空間は消えました。涼宮さんは、納得したようです」
「こんな、ゴブリンみたいな顔になるまで戦い続けるなんて……」
「喧嘩するほど、仲が良い。本に書いてあった通り」
明日からは、またいつも通りになるだろう。
三人はそう確信していた。
だって、SOS団なのだから。
【漢】