1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 01:38:30.65 ID:/NeNoBaQ0
第一章 涼しい木陰
高校2年の夏
俺たちは去年のように古泉が所属する「機関」という胡散臭い組織の計らいにより、
とあるペンションでSOS団合宿という名目のお泊り会をすることになった。
ペンションまでのアクセスはなんと徒歩で、なんちゅう立地の悪い場所に建てたんだとうだうだ文句を言いながらも、
その憤りをどこへぶつけていいものやらわからずに、何も考えずにひたすら歩くことに専念した。
一番前を行く我らが団長様はとてもご機嫌がよいらしく、えらいニコニコ顔でこの山道を楽しそうに歩いてゆく。
その後ろには古泉がいつもの笑顔を顔に貼り付けているものの、その額にはうっすらと汗が光っている。
無理して笑顔作るなよ古泉。
長門はいつもの無表情で一切汗もかかずに古泉の後をテクテク歩いていく。まるで重力を感じてないかのような軽やかさだ。
長門のことだ、実際重力を遮断〜とか平気でやってしまいそうだな。
俺の後ろには、朝比奈さんが辛そうに歩いている。やはり朝比奈さんのその華奢なおみ足にはきつい道であろう。
その横で鶴屋さんが朝比奈さんを、もう少しだよ、と励ましている。
ほほえましい光景だな。眼福眼福。
今回鶴屋さんも参加しているのは、そのペンションとやらが二人部屋らしく、
5人じゃ誰かが一人部屋になってしまうということで、朝比奈さんが鶴屋さんを誘ったのだ。
俺としては野郎二人部屋をどうにかしていただきたかったのだが、まあ鶴屋さんには色々お世話になっているのでそんな要望は当然言えない。
キョン「おい、古泉。あとどれくらいでそのペンションに着くんだ?」
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 01:39:17.95 ID:/NeNoBaQ0
キョン「おい、古泉。あとどれくらいでそのペンションに着くんだ?」
古泉「もう30分近く歩きましたからね。あと数分で着くと思いますよ。」
キョン「しかしなんでまた、こんな車も通れないような場所にペンションなんか建てたんだか。」
古泉「景色や星空がとても綺麗なんだそうですよ。そのペンションの売りはこのあたりの雄大な自然ですからね。
交通機関がきちんとしていないのもあまり人の手を加えたくなかったからなのでしょう。
天体望遠鏡もあるみたいで、僕も今から楽しみです。」
キョン「星空ねえ。まあたまにはこうやってゆっくり自然を満喫するのもいいかもな。
前回の雪山やら孤島やらはおちおちゆっくりもしていられなかったしな。」
古泉「ええ、いい休養になると思いますよ。他の客もいるでしょうし、大騒ぎとは行きませんからね。」
そんな会話をしつつ、帰りもこの山道を歩くのかと思うと暗澹たる思いだ。
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 01:40:00.58 ID:/NeNoBaQ0
ハルヒ「あ、あのペンションね!」
どうやら目的のペンションに着いたらしい。
二階建てで壁一面が丸太のように見える。俺の思い描くペンション、という名前の建物想像通りの形。
ペンションというとどうしてもアレ思い出してしまうな。透のような目には遭いたくないものだ。
いや、こんな不吉な想像をしては駄目だな。
そんな俺のくだらない思考を後々悔やむことになるとは、この時誰が想像していようか。
ペンションに着くと他の客がちらほら見える。
よくもまあこんな辺鄙な場所にこぞって泊まりにくるなと考えたが、それは自分も同じであったので口に出すのはやめた。
部屋は、俺と古泉、ハルヒと長門、朝比奈さんと鶴屋さんだ
荷物を自分の部屋に置いたら食堂に集合よ、とハルヒがのたまっていたので、とりあえずは自分部屋に行き荷物を置くことにする。
階段を上ると廊下が左右に伸びており、客室は全て二階で、8ある部屋のうち5つは他の客がいるようだ。
階段の正面はリネン室になっているようで客室ではないらしい。
その廊下を一番右奥、階段側がハルヒたちの部屋、その正面が俺たち、ハルヒの隣の部屋が朝比奈さんたちの部屋。
部屋に着き荷物を置きとりあえずベッドに座る。疲れた。
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 01:41:54.74 ID:/NeNoBaQ0
キョン「いい部屋だな。去年の孤島ほどとはいかないが、落ち着く部屋だ。」
古泉「ええ、やはり木造はいいですね。」
キョン「他にも人が泊まっているみたいだが、古泉のところのやつなのか?」
古泉「いえ、他の方たちは機関とは無縁ですよ。何人かが客として側にいた方が良いという意見もありましたがね。
結局は僕一人ということで落ち着きました。何かあれば僕が責任を問われますから少々荷が重いですよ。」
キョン「それにしても腹減ったな。」
時計を見るともう12時30分近い。どおりで腹もすくはずだ。
古泉「涼宮さんたちはおそらく食堂にいるでしょうし、僕たちもそろそろ向かいましょうか。
僕もお腹がすきましたよ。」
キョン「そうだな、団長様に怒られちまう。」
俺と古泉は部屋を出て、食堂へ向かうことにした。
おっと、鍵はちゃんと閉めていかないとな。
急ぎ足で食堂に向かうとそこには既に俺たち以外の全員がそろっていた。
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 01:42:56.84 ID:/NeNoBaQ0
ハルヒ「キョン、古泉君おそいわよ!」
古泉「申し訳ありません、少々話し込んでしまいまして。」
キョン「朝比奈さん、お疲れのようですが大丈夫ですか?」
みくる「ちょっと疲れてしまいましたけど、もう大丈夫ですよ。ありがとうキョンくん。」
キョン「いえいえ、他の奴らが元気すぎるんですよ。」
食堂には6人掛けの四角いテーブルが4つ。
他の客がすでに食事を済ませて談笑しているようだった。
どうやら、客は俺たちとその5人だけらしい。
若い集団だ。恐らく大学生だろう。男が3人、女が2人。なにかサークルの集まりだろか。
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 01:44:06.85 ID:/NeNoBaQ0
ハルヒ「キョン、遅くなったんだから私たちの分もとってきなさいっ!」
キョン「へいへい。」
古泉「僕も手伝いますよ。」
みくる「あ、あたしもー・・・」
ハルヒ「いいのよみくるちゃん、キョンと古泉君に任せときなさい!」
ハルヒがニコニコしながら朝比奈さんを制止する。
食堂とキッチンの間にカウンターがあり、食堂側のテーブルの上に今日の昼ごはんがならんでいる。
どうやらセルフサービスのようだ。
俺と古泉は人数分のカレーライスをお盆に載せてテーブルの上に並べてやる。
ハルヒ「それじゃあ、たべましょ!」
みくる「いただきまぁす」
昼食のカレーライスは美味しくいただいた。
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 01:45:12.87 ID:/NeNoBaQ0
ハルヒ「さぁて、これからの予定を決めるわよ!」
その日俺たちは、森で虫取り、夜には花火、天体観測など夏らしい行事を満喫した。
長門がでかいクワガタを捕まえてきたり、朝比奈さんが虫に悲鳴を上げたり、
まあなんとも学生というより、児童的な遊びに熱中していた俺たちだったが、これはこれでいいもんだな。
古泉もいつもの営業スマイルではなく自然と出る笑顔のようにも見えたし、
ハルヒは鶴屋さんと組めば敵はいないってくらい元気溌剌コンビで、誰にも止めることは出来ないだろう。
もちろん、俺も楽しませてもらった。こういう健全な合宿は素晴しいな。
とんでも現象の起こらない普通の日常でも、こいつらと一緒なら、やはり、それは楽しいひと時だった。
殺されそうになるわけでも、誰かが行方不明になるわけでも、遭難するわけでもない。
ありきたりな日常が続けばいいと思った。
しかし、そうは問屋が卸さないようだ。
事件は次の日に起こった。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 01:47:20.59 ID:/NeNoBaQ0
第二章 暗澹の朝
古泉「おきてください、何か隣の部屋が騒がしい。」
キョン「ん?なんだ?」
寝ぼけ眼を必死にこすり、起き抜けの脳がその音を捉えるまでに数秒。
ドンドンという何かを叩く音と、誰かの声が聞こえる。
キョン「なんの騒ぎだ?」
古泉「わかりません、とりあえず様子を見てきます。貴方も準備が終わったらきてください。」
俺は大急ぎで顔を洗い部屋を出る。
すでに部屋の前にはSOS団のメンバー、そして他の客が数人が集まっていた。
ハルヒ「キョン!あんた起きるのが遅いわよ!」
そんなこといったってまだ8時前だぜ?
昨日は夜中まで罰ゲームありのUNO対決で疲れてんだ。
確か寝たのは2時前だったか。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 01:49:27.47 ID:/NeNoBaQ0
ハルヒ「そんなことより、この部屋に泊まっている人がいくら呼んでも返事をしないのよ。そうなんでしょ?蜷川さん。」
蜷川(にながわ)と呼ばれたのは20代前半と思しき小柄な眼鏡をかけた女性だった。
ハルヒは何時知り合いになったんだ?
ハルヒ「さっきそこで事情を聞いたのよ。」
キョン「それで、蜷川さん、ここの人は?」
蜷川「今日は私たち、あ、大学のサークルメンバーなんですが、8時から外を散策する予定だったんです。
でも、今外がすごい大雨と強風で出来そうにないからそれを伝えに筧くんに、あ、ここの部屋の友達です。
でもどれだけ呼んでも筧くん出てこないから様子がおかしいと思って。携帯電話で呼ぼうとしたけれど圏外みたいで。」
どうやら、大学のサークルメンバーである筧という人物が、いくら呼んでも部屋から出てこず、
その上部屋には鍵がかかっていて中の状況もわからないらしい。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 01:52:32.47 ID:/NeNoBaQ0
蜷川「筧くんが寝坊なんかするわけないし、きっと中でなにかあったのかも・・・」
キョン「もしかしたら倒れているのかもしれません。金山さんが予備の鍵を持っているはずじゃないんですか?」
古泉「それなんですが・・・」
古泉が深刻そうな目をしている
金山「この部屋の予備の鍵がなくなっていたんだよ。」
この恰幅のよい初老の男性はここのペンションの主人だ。
機関の人間とか、鶴屋さんの知り合い、というわけでもなく、古泉がたまたま読んだ雑誌に載っていたのがここのペンションだった、
というだけのメンバーには特に縁のない人物ではあるが、昨日望遠鏡やら、私物の虫かご虫網などを貸してくれた気前の良い方だ。
ハルヒもとても気に入っていた。
キョン「盗まれたんですか?」
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 01:55:29.15 ID:/NeNoBaQ0
金山「昨日の夜、毎日寝る前に確認するんだがその時には確かにあったんだけどね。鍵はいつもカウンターにある棚に入れてあるんだが、
その棚の鍵が壊れされてたんだ。さっきこの子たちに呼ばれたときに気が付いたんだよ。
木の引き出しに金具と南京錠で鍵をかけているだけだから、金具を壊せばすぐに開いてしまうんだ。
妻も気が付かなかったようだ。」
金山さんの奥さんが横で首を振っている。
どうやら鍵が壊されていることを先ほど知ったようだ。
わざわざ、鍵を壊してだって?こうなるともうただごとじゃない気がしてくる。
そういや去年もこんなことがあったな。嫌な予感がする。
キョン「とりあえず、この戸をどうにかしましょう。」
古泉「なにか戸や鍵を壊せる工具は無いでしょうか?体当たりなどで壊せるほどもろい扉ではなさそうなので。」
戸は木製なのだが普通の家の戸のような一枚板で出来ているものではなく、重量感のあるしっかりとした造りになっている。
実際この扉は開けるとその重さが伝わる。もし体当たりでもすればこちらが怪我をしてしまいそうだ。
金山「たしか、部屋に修理の時に使う工具があったはずだ。とってくるから待っていてくれ。」
14 名前:>>12ありがとう[] 投稿日:2010/04/29(木) 01:58:15.05 ID:/NeNoBaQ0
ハルヒ「大丈夫なのかしら?もしかしたら心筋梗塞とか?」
古泉「ええ、とにかく急いで開ける必要がありそうですね。」
手持ち無沙汰になり俺はノブを回し確認をする。ガチャガチャと音がなり開く気配がない。
内側からしっかり鍵がかかっているようだ。
3分ほどで金山さんが戻ってきた。
金山「とりあえず、ノブの周りに穴を開けて鍵をずらそう。」
僕らがやります、と一緒にいた大学生の男2人が名乗り出て作業を始めた。
一人は体格の良い体育系と言った感じの見た目ではあるが、なにか知的な感じもする。新堂というらしい。
もう一方は香西という眼鏡をかけた髪が長めの男。こちらはおとなしそうな雰囲気がある。
蜷川さんは、もう一人の青海という女子大生と不安げに作業を見つめていた。
俺たちSOS団の面々もその作業を見つめている。
一体中で何が起こったんだろうか。最悪の結果だけはやめて欲しい。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:00:20.15 ID:/NeNoBaQ0
十数分の作業の末、やっとのことで扉は開いた。
作業をしていた新堂と香西がすぐに中へ入る。朝比奈さん、鶴屋さんを除く全員が後に続く。
新堂「筧!どこにいる?!」
部屋を見回すが姿はどこにも無い。
荷物などもきっちりまとまっておりとても片付けられている。
香西「見当たらないぞ?」
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:03:12.94 ID:/NeNoBaQ0
その時だった。
青海「筧くん!」
風呂場で青海の叫び声がした。慌てて全員が風呂場の方へ駆け寄る。
蜷川が風呂場へ入っていった。後を追う。
そこには、服を着たままずぶぬれでぐったりしている筧の姿があった。
首にはロープが巻かれている。
そして、鏡の前には2つの鍵。
なんてこった。
めまいがする。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:05:38.91 ID:/NeNoBaQ0
大学サークルメンバー
新堂正樹(しんどうまさき) 男子学生二年
香西由宇(こうさいゆう) 男子学生二年
蜷川レミ(にながわれみ) 女子大生二年
青海凛子(おうみりんこ) 女子大生二年
筧誠一(かけいせいいち) 男子大生二年 被害者
ペンションの経営者
金山雄大(かなやまゆうた) ペンションのオーナー
金山恵子(かなやまけいこ) 金山の妻
SOS団
涼宮ハルヒ SOS団団長
古泉一樹 SOS団副団長 超能力者
朝比奈みくる SOS団団員 未来人
長門有希 SOS団団員 宇宙人
キョン SOS団平団員
鶴屋さん SOS団名誉顧問
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:07:23.80 ID:/NeNoBaQ0
古泉「大変なことになりましね。」
キョン「おい、本当に機関の人間はいないんだろうな?」
古泉「ええ、本当に僕以外の機関の人間はいませんよ。こちらとしてもとても驚いています。
ドッキリなんかじゃあないです。本当の殺人現場に出くわすとはね。」
どうやら、機関が一枚噛んでいるという一縷の望みにかけてみたが、そのわずかな希望も叶わなかったようだ。
あの後、筧という男が死んでいることを確認した。
確認したのは同じ大学の新堂。どうやら彼らは医学部の人間らしい。
死因は絞殺。なぜ絞殺した後に風呂に入れたのかはまわかっていない。
おそらく自殺ではないはずだ。首にはロープが巻かれていた。
風呂場で首吊り、ということは無いだろう。確認する必要があるが。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:09:29.61 ID:/NeNoBaQ0
オーナーが憔悴した顔で、とりあえず警察を呼ぼうと下に行ったのだが、
どうやら受付にたった一つある電話の電話線が切られ繋がらないらしい。
携帯も圏外。その上外は大雨強風だ。完全なクローズドサークル。二度と聞きたくなかった言葉だ。
一度部屋に戻った俺と古泉は、この状況を整理することにした。
女性陣は全員ハルヒの部屋に集まっている。殺人犯がいる場所ではなるべく人数の多いほうがいいからな。
クローズドサークルといえば、もう一つの密室があった。
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:11:15.51 ID:/NeNoBaQ0
キョン「筧さんとやらは鍵を二つ手に持っていたんだよな。」
古泉「ええ、筧さんに手渡された鍵と、主人が持っていたはずの予備の鍵ですね。つまり、完全な密室ですよ。」
ああ、頭が痛い。
一体なんでこんなことになったんだ。
キョン「まさか、これもハルヒの望んだことなのか?」
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:13:14.47 ID:/NeNoBaQ0
古泉「いえ、その可能性は低いでしょう。ないと言ってもいい。涼宮さんは純粋にこの合宿を楽しんでいましたし、
ましてや殺人事件を望むことなどないでしょう。
ただ、ひとつ気になることが。」
キョン「気になること?」
古泉「ええ、このペンションを取り囲むように閉鎖空間が発生しています。」
古泉「つまり、今、二重にクローズドサークルなんですよ、ここ。」
古泉は困ったような笑顔を俺に向ける。
なんつーことだ。
完全に逃げ場は無いじゃないか。
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:15:35.99 ID:/NeNoBaQ0
古泉「閉鎖空間の発生ですが、涼宮さんが発生させたことに間違いないでしょうね。
原因ですが、恐らくストレスではない、別のなにか。」
キョン「犯人を逃がしたくないんじゃないか?」
元々強風大雨で逃げ場のないペンションなのに、その上閉鎖空間とは。
用心深いですね、ハルヒさん。
キョン「多分ハルヒはこの事件を解決したいんだろう。」
古泉「そうですね。僕もそう思います。とりあえず、涼宮さんたちの部屋に行きましょう」
俺たちはハルヒの部屋に向かった。
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:17:38.39 ID:/NeNoBaQ0
ハルヒ「キョン、なんでこんなことになっちゃったのかしら?」
ハルヒが珍しく憔悴している。いつもと違うハルヒの表情を見て、こいつは美少女なんだなと再確認する。
本当に大人しければな、うらむぜ神様。あ、こいつも神様みたいなもんだったっけ。
うなだれてベッドに座っている朝比奈さんの横で鶴屋さんが介抱している。
前回のように卒倒こそしなかったが、やはり同じ空間で殺人事件が起きたというショックは大きいのだろう。
しかし昨日の朝も見たな、この光景。
長門はいつもどおりだが、本は読んではいない。おそらく今は読むべき時ではないと悟ったのだろう。成長したな、長門。
キョン「わからない。たまたま居合わせちまっただけだが、外に出られないともなるとどう行動していいのやら。」
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:19:36.53 ID:/NeNoBaQ0
古泉「そうですね。まだこのペンションに殺人犯がいる可能性のほうが高いですし、
なるべく単独での行動は慎んだほうが良いでしょう。」
ハルヒ「そうね、鶴屋さん、みくるちゃんをたのむわね。」
鶴屋さん「うん、任せといて!ハルにゃん、これからどうすんだい?」
ハルヒ「そうね、もしこの中に殺人犯がいるとしたら危険だわ。警察もまだ来れないみたいだし。あたしたちで犯人を捜すのよ!」
まったく、こいつは。
そんな簡単に見つかるもんでもないだろ。
密室、なんてものどうやって看破するつもりなんだ。
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:21:33.86 ID:/NeNoBaQ0
古泉「涼宮さんの言うことに僕も賛成です。
またいつなにが起きるとも限らないですし、犯人を見つけて拘束するのが一番安全な策ではないでしょうか。」
古泉まで犯人探しをしようとしてやがる。しかし一理あるな。
長門は別として朝比奈さんや鶴屋さんは特別な力を持つわけじゃない。
犯人を探し出して安全を確保しなければならないな。
犯人が目的の人間を殺すためにその場にいた全員を殺すというミステリを読んだことがある。
他にも犯行がばれて火をつけて自分もろとも全員を殺そうとした、だとかもあったな。
もし犯人がそんなことを考えているなら一刻も早く阻止しなければならないだろう。
それよりも、まず確認しないとならないことがあるな。
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:23:18.75 ID:/NeNoBaQ0
古泉「まずは聞き込みからでしょうか。ちょうど12時ですし食堂に人がいるかもしれません。
朝食も食べていませんからね。とりあえず食堂に行くというのはどうでしょうか。」
ハルヒ「そうね、まずは腹ごしらえね。それが終わったら聞き込みと現場検証かしら。」
そういうとハルヒは食堂へ向かった。それに古泉、朝比奈さん、鶴屋さんと続く。
部屋には長門が残っている。長門ならすでに事の真相をわかっているんじゃないか。
キョン「なあ、長門、お前には犯人がわかっているんじゃないのか?」
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:25:26.53 ID:/NeNoBaQ0
長門は小さく首を横に振る。
どうやらNOらしい。
キョン「長門でもわからないのか。」
長門「情報統合思念体との連結が遮断されている。恐らく閉鎖空間が原因。」
なんてっこたい。頼みの長門もとんでもパワーを使えないとはね。
長門には大きな負担をかけたくないとはいえ、こんな状況じゃあ頼らざるを得ないと思ったんだが。
キョン「そうか。まあ仕方ないな。」
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:27:22.91 ID:/NeNoBaQ0
長門「情報が集まれば推測は可能。ただ、」
長門がこちらに顔を向ける。
無感情な瞳がこちらを見つめてくる。
長門「私がこの事件の真相を解明することを涼宮ハルヒは望んでいない。鍵は、貴方。」
つまり俺が解決しろってか?
古泉の方がよっぽど適役だとおもうんだがな。
やれやれ、また面倒ごとを押し付けられちまった。
とりあえず食堂に向かうことにするか。
長門、ちゃんと部屋の鍵閉めるんだぞ。
31 名前:>>30わかってはいたけど破綻してしまうので引っ込んでもらいました[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:31:21.30 ID:/NeNoBaQ0
食堂でちゃっちゃと食事を済ませる。
こんな気分で味わう料理は、普段よりも幾分かまずく感じる。
昨日の晩御飯は絶品だったんだがな。出先の料理くらい気分良く食べたいものだ。
大学生はまだ食堂にいないようだった。
食事を作っているのはオーナーの奥さんだ。近くにオーナーもいる。
とりあえずこの人たちから話を聞いたほうがよさそうだな。
金山「ああ、君たちか。折角の合宿にこんなことになってしまって申し訳ないね。」
オーナーはとても落ち込んでいる。
そりゃあそうだ、殺人事件のあったペンションとなれば評判もガタ落ちだ。
心中察します。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:33:39.22 ID:/NeNoBaQ0
ハルヒ「ねえ、オーナー。あの大学生たちは何者なの?オーナー夫婦の知り合いとか?」
金山「いや、私たちの知り合いではないよ。医学部の子達らしいね。
サークルの合宿で来たらしい。たしか天体観測サークルだったかな。
静かだし、星を見るのにとても適した場所だといって喜んでくれてたよ。」
そういうや昨日俺たちが天体観測をしている近くで声が聞こえたが、あっちも天体観測をしていたのか。
古泉「あの部屋には他に侵入できるような場所はあるのですか?」
金山「いや、入れるような場所は出入り口と窓くらいだけど、窓からは無理なんじゃないかな。
脚立はあるが2階に届くようなものではないし、窓には鍵がかかっていたからね。」
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:35:42.28 ID:/NeNoBaQ0
ハルヒ「他に部屋の鍵は無いの?」
金山「ああ、お客さん用に一つと、予備に一つだけだよ。
本当、予備の鍵をきっちり保管できていればと思うと悔やんでも悔やみきれないよ。」
つまり完全な密室か。一体どうやって進入したのだろう?
ますます謎が深まる。
古泉「ありがとうございます。」
ハルヒ「おじさん、私たちが必ず解決してやるからね!」
金山「ああ、ありがとう。」
いつもは破天荒だが、こんな時はハルヒの明るさは心の支えになるかもな。
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:38:34.51 ID:/NeNoBaQ0
第三章 不ぞろいの樹々
食堂を離れ、長門、朝比奈さん、鶴屋さんは部屋で待機し、俺、ハルヒ、古泉で情報収集することにした。
いささか不謹慎だなとは思いつつも、この状況を打破するにはそれしかないだろう。
というかただ傍観していることをハルヒが許してはくれまい。
ハルヒ「とりあえず事情聴取よ。」
先ほどオーナーから部屋の見取り図と、誰がどこにとまっているかを教えてもらった。
まずは階段を上ってすぐ左にある部屋。青海さんの部屋だ。
コンコンと部屋をノックするとか細い声が聞こえてきた。
青海「あ、涼宮さんですか・・・」
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:40:35.07 ID:/NeNoBaQ0
青海「あ、涼宮さんですか・・・」
古泉「サークルのお仲間が亡くなられて大変な状況ですが、そのことについてお話を聞かせていただけないでしょうか?」
青海「お話、ですか?」
ハルヒ「ええ、どうにかして犯人を見つけないとね。
筧さんも浮かばれないわ。」
青海「何をお話すればよいでしょうか?」
ハルヒ「そうね、とりあえず、昨日の夜何をしていたのかを教えてもらえるかしら。」
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:42:35.61 ID:/NeNoBaQ0
青海「昨日の夜は大体3時ごろまでレミちゃんの部屋で二人でおしゃべりをしていました。」
レミちゃんとは、蜷川さんのことだろう。
青海「昨日の天体観測についてのお話です。とても綺麗な夜空でしたから。
レミちゃんの部屋を出て行てからはまっすぐ部屋に戻ってすぐに寝てしまいました。
まさか、そのときにあんなことになっているなんて・・・」
どうやらアリバイはないようだ。
これ以上特に聞けることもなく、部屋を後にした。
隣の蜷川にも話を聞きに言ったが、彼女もまあ、予想通りというか青海さんと同じような行動だった。
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:43:17.47 ID:/NeNoBaQ0
蜷川さんの正面の部屋、新堂にも話を聞きに行く。
新堂「ああ、君たちか。」
キョン「昨日なにをなされていたかを聞きたいのですが・・・」
新堂「昨日かい?昨日は2時過ぎまでこの部屋で筧と香西と一緒に飲んでいたんだ。
まさかあんなことになるなんてね・・・
君たちは僕らのうちの誰かが犯人だと疑っているんだろう?」
ハルヒ「もちろんよ。」
キョン「おい、ハルヒ!」
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:45:28.77 ID:/NeNoBaQ0
新堂「いや、良いんだ。実際君たちやこのペンションの主人が彼を殺すなんて考え付かないからね。
きっと、僕たちの中に犯人がいるんだろうね・・・」
新堂は半ばあきらめたような表情をしている。
自分たちの中にいることを既に確信しているのか?
その後、大学やサークルの話を聞いたがこれといって重要な情報は無かった。
あとはこの隣の部屋の香西さんだけだ。
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:47:50.26 ID:/NeNoBaQ0
キョン「すいません」
ノックをすると、香西がひょっこり顔を出した。
香西「なにかよう?」
ハルヒ「昨日の晩、貴方が何をしていたか聞かせてくれる?」
香西「ん、探偵ごっこか。まあいいよ。僕も暇を持て余していた所だし。
会話をしていた方が建設的かもしれないね。立ち話もなんだし入りなよ。」
といっても、香西は昨日新堂、筧と行動を共にしていたのであまり収穫はないように思えた。
途中までは先ほども聞いた話と同じだ。
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:50:54.49 ID:/NeNoBaQ0
しかし、どうやら成果はありそうだった。
香西「で、本当は色々突っ込んだことを聞きたいんだろう?きっと今僕がした話を新堂から聞いているだろうしね。
他の奴らのように気を使わなくていいよ。俺はあいつらのごたごたとは無縁だからね。」
そういって香西はニヤリと笑った。下品な笑い方ではなく、なんというか、多少挑発的な、そんな笑い方だった。
ハルヒ「では、率直に聞くわ。貴方たちどんな関係なの?」
なんとまあハルヒらしい。まあしかし、彼らの背景を知ることでわかってくることも有るだろう。
香西「さっきも言ったけど僕は全く干渉していない。ただの傍観者だ。
だから残り4人がどんな関係だったかだね。
まず、蜷川と筧は付き合っていたよ。」
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:52:57.71 ID:/NeNoBaQ0
意外だな。しかし蜷川さんは筧のことを苗字で呼んでいた。
なにかすこし距離を感じるような。
香西「まあ周りの奴らから見れば上手くいっていたようにも見えたかもね。」
ハルヒ「違ったの?」
香西「まあ、ね。 蜷川の奴はよりによって筧の親友である新堂と浮気していたんだよ。」
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:54:50.57 ID:/NeNoBaQ0
キョン「浮気、ですか・・・?」
香西「ああ。たまたま僕がその現場に居合わせてしまってね。
数日前のことだよ。
口止めをされたから、筧には話さなかった。
あまり興味なかったしね。あ、君たちに話しちゃったけど、一応口外禁止だよ。」
香西はいたずらっぽく笑う。
ハルヒ「あの青海って人は?」
香西「ああ、あいつか。蜷川とよくつるんではいるけどね、なんだか僕には青海が蜷川を少し避けているようにも見えたかな。
まあ、青海は筧に好意を寄せていたみたいだしね。
恋敵というとあれかもしれないけど、引け目見たいのがあったんじゃないかな。」
一通り話を聞き、お礼を述べて部屋をあとにする。
犯人がわかったら教えておくれよ、と香西はおどけて言った。
45 名前:>>44森博嗣のパロディです。内容はオリジナルですが[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:57:05.21 ID:/NeNoBaQ0
ハルヒ「えらいこと聞いちゃったわね。」
キョン「ああ。なんというかドロッドロだな。」
古泉「蜷川さんと筧さんは恋人同士、しかし蜷川さんは浮気をしていて、その相手は筧さんの親友である新堂さん。
しかも、実は青海さんが影で筧さんに好意を抱いており、でもその彼の恋人は親友である蜷川さん、と。」
ハルヒ「四角関係ってやつかしら、何一つ上手くいっていないじゃないの!」
キョン「青海さんは蜷川さんが浮気をしているのを知っていたのか?」
ハルヒ「もしかするとうすうす感づいてたのかもしれないわね、香西って人の話を聞く限り。」
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 02:58:43.21 ID:/NeNoBaQ0
まるで昼ドラのような関係だな。
アリバイに関しては、筧は新堂、香西とともに2時頃まで飲んでおり、それから各部屋に戻った。
両名に2時を過ぎてからのアリバイはない。
蜷川と青海は3時ほどまで同じ部屋におり、この二人も3時を過ぎてからのアリバイはない。
筧が殺されたのは少なくとも2時過ぎだから、誰にでも犯行が可能だな。
ハルヒ「うーん、話を聞く限り怪しいのは新堂か蜷川ね。」
古泉「まあ、そう考えるのが一般的でしょうね。そのほうが動機は明確ですし。
ただ全員にアリバイは無いので誰でも犯行は可能ですね。」
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:00:28.85 ID:/NeNoBaQ0
キョン「しかしなにかひっかかるな。香西という男もあまり周りの人間のことを快く思ってないような。
普通こんな軽く引くような友人の話を見知らぬ学生に話すか?」
古泉「確かにそうですね。どうやらあまり芳しくない状態だったのでしょう。
彼らの関係はボロボロだった。
そして、それを修復するために誰かが企画した旅行、だったのかもしれませんね。」
ハルヒ「そうね、こんなときに全員が集まっていないってのもちょっと変だし。」
まあいいわ、次は現場検証ね」
現場検証か。まだ死体があるはずだ。本当ならば行きたくない。
ハルヒ「私もよ。でも見ないことには進展しないもの。」
古泉「そうですね、鍵はかけられないでしょうから出入りは自由でしょうし。とにかく行って見ましょうか。」
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:02:35.46 ID:/NeNoBaQ0
俺たちは殺人が起こった部屋の前へと着いた。
ドアノブは壊され半壊している。
誰に咎められるわけでもなしに、なんとなくドアを開ける手がすくむ。
キョン「ハルヒ、死体は俺たちが見るから、お前は部屋の中でなにか証拠になりそうなものを探してくれないか?」
ハルヒといえども本物の死体を見せるのは流石に気が引ける。
ハルヒ「わ、わかったわ。
ハルヒ「あ、ありがと、キョン。」
そういうとハルヒは部屋の奥へ向かう。
古泉が後ろでニヤニヤしている。こんなときにまで笑うんじゃない。
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:04:41.53 ID:/NeNoBaQ0
風呂場は入り口を入ってすぐ右側にドアがあり、ドアを開けて左側にトイレ、そのドアの手前には洗面台があり、入ってすぐ正面に風呂だ。
現在風呂場の戸は閉められている。
意を決して戸を開ける。そこには筧の死体が横たわっていた。
浴槽の横に寝かせられており、全体に白いシーツがかぶせられている。おそらくリネン室から持ってきたものだ。
風呂に入れておけば腐敗が進むから当然の処置だろう。
おそるおそる顔側の白いシーツをめくる。本物の死体だ。背筋が凍る。
真っ青な顔。確かに、目の前には、昨日まで生きていたはずの人間が、息をせずにじっとしている。
とても整った顔立ちをしている。古泉に引けを取らない。生前はとてももてただろうな。
首にはまだ彼を殺したと思われるロープが残されたままになっている。
51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:06:02.90 ID:/NeNoBaQ0
古泉「確かに首に索痕がありますね」
キョン「さくこん?」
古泉「首を絞めた痕のことですよ。凶器はこのロープですかね。」
キョン「もともとこの部屋にあったものかな?」
古泉「このロープ確か各部屋にあるはずですよ。トイレにある棚の中に。荷造り用でしょうか。」
キョン「なんでそんなもんがあんだ。
そういや、この人が持っていたっていう鍵は?」
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:07:38.64 ID:/NeNoBaQ0
古泉「えーと、ああ、これですね。」
古泉が鏡の前に置かれていた鍵を拾う。
ドアを壊してしまったのでこの鍵は必要がないと判断されたのだろう。
2つの鍵にはこの部屋の番号がかかれたタグが付いていた。
タグは太めの金属の輪で鍵の穴に通されており、キーホルダーのようになっている。
タグ自体はとても簡素なもので、プラスチックの薄いケースに紙を差し込むだけのものだ。
この部屋に入るための鍵は鍵の閉められた部屋に確かにあった。
完全な密室か・・・
キョン「一体犯人はどうやって鍵を閉めたんだ?」
古泉「わかりませんね。自殺でない以上、彼が閉めた、ということはないでしょう。」
キョン「一体どうやったらこんな状況になるんだ。」
54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:09:24.02 ID:/NeNoBaQ0
古泉「他に不審な点はないようですね。涼宮さんのところへ行きましょう。」
風呂場を出て、ふと洗面台に目をやる。
洗面台の上に何かのケースがある。
プラスチックの容器で、中が少し粉っぽい。
古泉は恐らく風邪薬か何かを入れていたケースだろうと言っていた。
とりあえず部屋の中に入ろう。
部屋に入るとハルヒが机の前で立ち尽くしていた。
何かを持っているようだ。
55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:11:09.62 ID:/NeNoBaQ0
キョン「ハルヒ、なんかあったのか?」
ハルヒ「キョン、これ・・・鞄からはみ出ていたの・・・」
ハルヒが持っていたのは一枚のメモだ。
ノートを一枚ちぎったものだろう。
そこにはこう書かれていた。
「生きるのが辛い。ここで自らの命を絶ち、全て終わらせよう。」
キョン「これって、遺書、だよな・・・?」
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:13:24.69 ID:/NeNoBaQ0
全く意味が解らない。
殺された人間が遺書?自分が殺される事を予測していた?
いや、でも自殺をほのめかすようなことをかいてあるぞ。
ハルヒ「どういうことよ、キョン。あの人殺されたんじゃないの・・・?」
キョン「わからん。」
古泉「何故殺人現場に遺書があるのでしょうか・・・?」
殺人現場にある遺書。
このなんとも奇妙な組み合わせに異質なものを感じた。
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:15:30.70 ID:/NeNoBaQ0
何気なく紙を裏返してみる。
どうも紙を裏返す癖が付いちまっているみたいだ。きっと俺だけじゃないだろうな。
テスト時間が半分過ぎた後に、何気なーく用紙を裏返したら、そこにはまだ問題が。
なんてことがないように習慣付けられた学生の性というやつだろうか。
そこには、何かが書かれていた。
キョン「ん、なんだこの記号?」
古泉「これは、デルタですね。ギリシア文字の。」
キョン「『δは見ている』?」
ますます訳がわからなくなった。
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:17:27.45 ID:/NeNoBaQ0
第四章 長い憂鬱
他に手がかりのようなものはなく、携帯電話などもロックされており中を見れなかった。
鞄の中も無礼とは思いつつも確認したが、特に関わりのありそうなものはなく、収穫はあの遺書くらいだった。
俺たちは事件現場を後にして一旦ハルヒの部屋へ戻った。
みくる「あ、みなさん。おかえりなさい。」
朝比奈さんの具合は大分よくなったようだ。
先ほどよりも幾分顔色がいい。
ハルヒ「みくるちゃん大丈夫?」
みくる「はい、鶴屋さんが介抱してくれたので大分よくなりました。」
鶴屋さん「それで、キョンくん。なにかわかったかい?」
俺はわかったことを一通り説明した。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:18:39.28 ID:/NeNoBaQ0
鶴屋さん「遺書?それはもうよくわからないことになってきたねー・・・」
みくる「その大学生たちの関係もなにかしら動機に繋がりそうなものだったんですね・・・」
ハルヒ「とりあえず、SOS団会議よ!議題は色々あるけど、まず何から考えましょうか?」
うーん。密室の謎。殺人のはずなのに残っていた遺書。殺人の犯人。
そして、『δは見ている』という謎のメモ。
古泉「そうですね、まずは密室について話し合いましょうか。」
ハルヒ「そうね。まず密室の方法についてね。」
ハルヒ「なにか意見はあるかしら?」
密室の方法か・・・
61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:20:15.74 ID:/NeNoBaQ0
古泉「まず考えられるのは、ドアに鍵などかかっていなかった。
つまりドアが開かないと言った人間が嘘をついているという可能性ですね。」
キョン「それはまずないな、俺が確認した。他に確認した人が何人かいるんじゃないか?」
ハルヒ「わたしも確認したわよ。ガチャガチャ音がなるだけでぜんっぜん開かなかったわ。
あとは蜷川さん、新堂さん、オーナーもあけようとしていていたわね。」
古泉「まあこの可能性はほぼ0と言って良いでしょう。
次に、鍵ではなく他のもので閉じられていた、という可能性ですね。
例えばつっかえ棒の様な物が内側かにあったなどです。」
ハルヒ「うーん、その可能性も低いんじゃないかしら?ノブを壊して鍵自体を外したところで、実際に開いたんだし。」
鶴屋さん「もしつっかえ棒とかで固定されてたとしたら、鍵の部分を壊してもあかないねー。」
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:21:43.09 ID:/NeNoBaQ0
古泉「そのとおりですね。この可能性も0ではないでしょうが、鍵を壊して開いたとすれば他に細工することは難しいでしょう。
次は、他に鍵がある、という可能性ですね。」
ハルヒ「合鍵が元からあるか、もしくは作った、という可能性ね。」
キョン「合鍵がもし初めから有ったのなら犯人はオーナーかその奥さんってことになるだろ?
あの大学生が来たのは初めてで面識がないらしいから動機なんてないだろうし、
なにより自分の経営するペンションで殺人事件なんてたまったもんじゃないだろ。
わざわざ客が来なくなるようなことをするとは思えないな。」
古泉「はい、オーナー夫婦が犯人の可能性は限りなく低いでしょう。メリットが一つも無い。
なので他に鍵があるとすればこの場で作ったということになりますね。」
みくる「鍵をここで作るなんて不可能じゃないですか?
大学生の方たちも来たのは初めてらしいので、鍵がどういったものかわからないでしょうし。」
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:23:29.92 ID:/NeNoBaQ0
ハルヒ「確かにほぼ不可能のように思えるわね。でも現状を考えると、一番疑わしいのは合鍵の存在ね。」
古泉「これは今からでは探しようがないでしょうね。あったとしてもすでに処分されている可能性が高い。」
ハルヒ「密室についてはこれくらいかしら。今のところ合鍵説くらいしかまともなのがないわね。
次にあの遺書よ。殺人現場に遺書なんてきいたことないわ。」
キョン「考えられるのはあの遺書が本人以外が書いた、つまりあれを書いたのは犯人ということか。」
古泉「確かに、書いたのは犯人が一見一番筋が通ってそうですが、大きな問題があります。」
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:25:14.41 ID:/NeNoBaQ0
鶴屋さん「遺体の状況を見ても明らかに殺人だもんねー。遺書を残すなら普通は自殺にみせかけるもんだよね。」
古泉「はい、遺書が及ぼす効果として一番に考えられるのは、自殺と誤った判断させることが出来ることです。
しかしながら、遺体は一目瞭然絞殺です。遺書を残すよりもまず先に殺人の痕跡を消すことが普通でしょう。」
ハルヒ「それに他にスケジュール帳があったから筆跡を見てみたけど、被害者が書いたものとほぼ同じに見えたわよ。
まあ、真似して書いたってこともありえるでしょうけど、殺人と人目でわかるのに遺書をおいていく意味がないわ。」
キョン「遺書をあらかじめ作っておいて、自殺に見せかけようと筧さんの部屋に入ったものの、
上手くいかず結果的に絞殺してしまったというのはどうだ?」
ハルヒ「犯人が遺書を作る理由にはなるけど、それでもわざわざ部屋に遺書なんか残してこないでしょ。」
キョン「確かに失敗はしたんだが、遺書を残すことでこうやって混乱させることが狙いだったとかさ。」
67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:26:59.30 ID:/NeNoBaQ0
みくる「もしかして、たまたま被害者の方が自殺を決意しようとした日に、偶然殺されちゃった、とか?」
古泉「僕も朝比奈さんと同じ考えでした。それが一番可能性が大だと考えています。」
ハルヒ「わたしも同意見だわ。偶然にしちゃ出来すぎかもしれないけどね。
後は、『δは見ていた』とか言うわけの解らないメッセージね。」
キョン「δか・・・長門、δってどんな意味があるんだ?」
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:29:14.67 ID:/NeNoBaQ0
長門「デルタは、ギリシア文字の第4字母。ラテンアルファベットのDの起源。
小文字のデルタは、変分法における変分作用素、δ関数、熱力学では非保存量の微小変化、デルタ線等に用いられる。」
頭が痛い。つまり数学に多く使われるってことか。
医学部だし数学に精通しているというわけでもないんだろうが、こういうのは大学でどの程度習うのだろう。
キョン「一番可能性があるのはDの代わりに使ったって事か?」
ハルヒ「イニシャルにDねえ。少なくとも苗字がDはいないわよ。」
古泉「先ほど名簿を確認しましたが、下の名前に頭文字がDの方はいませんね。」
つまり、犯人は峠を攻めるのが趣味なのか・・・?
いや、こんなあほなこと考えてる場合ではないな。
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:31:14.62 ID:/NeNoBaQ0
古泉「彼らが天体観測サークルなので、大文字のデルタから、ベガ、デネブ、アルタイルに関連しているのかとも思いましたが、
そこから何かが導き出されるわけでもないですからね。今のところ意味は良くわからないまま、ですね。」
夏の大三角形だっけか。
確かにそうだとしても、何を表したのかわからないな。
ハルヒ「『δは見ている』、か。一体デルタは何を見ているのかしら。」
何をみている、か。
まずその記号が何を表しているかすらちょっと理解できないな。
三角か。
70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:33:17.43 ID:/NeNoBaQ0
キョン「そういうや、どうして犯人は密室を作ったんだ?」
古泉「確かにその通りですね・・・
密室を作る上での利点は、やはり自殺を装える、ということですからね。
この場合殺人とほぼ断定できる状況で密室を作り出す利点があまりないように思えます。」
ハルヒ「アリバイがなくとも、密室で犯行が不可能である、となれば犯人と疑われる可能性を減らせるのかもしれないわね。
他には捜査のかく乱、もしくは侵入を遅らせるため、ってとこかしら。」
キョン「まあそうなるな。でも侵入を遅らせるような利点が今のところ見つからないな。
それにそんなことをせずともあの人たちは全員アリバイがない。」
全員があの場にいたのだ。
いくら侵入を遅らせたところで、なにか小細工をする時間などほとんどないはずである。
72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:35:22.57 ID:/NeNoBaQ0
ハルヒ「あー、もう!わっかんないわねえ!」
団長様がイライラしている。
その気持ちわかるぞ。こんな小説でしか出会えないような複雑怪奇な状況だ。
しかし、なにかが引っ掛かるんだよな。
長門はどれくらいまでわかっているのだろうか。
キョン「長門、お前はなにかわかったか?」
こちらをじっと見つめている。
なにかを掴んでいるようだ。
73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 03:37:58.11 ID:/NeNoBaQ0
長門「今回の事件は偶然が重なった結果だと推測される。
しかし、別の要素が同時に発生することだけが偶然ではない。
様々な要素が順に起こり、重なり、符合しても、それは偶然。」
頼む、もっと解りやすい言葉で言ってくれ。
長門「もう一つ、事件の鍵は、『偽者』。」
ありがたいことに、長門はもう一つヒントを教えてくれたようだ。
偽者?なにが偽者?事件の鍵?鍵って俺の事じゃなかったか?
そういやあの時あの人おかしな事言ってなかったか?
キョン「まてよ・・・?」
81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 04:01:10.78 ID:/NeNoBaQ0
もう一度確認してこなくては、アレを。
俺は部屋のドアを開け駆け足で事件現場へと向かった。
ハルヒ「ちょっと、キョン!どこへ行くのよ!?」
古泉がハルヒを制止して俺の後に着いて来る。
おそらく俺が事件現場へ行く事を察知して、ハルヒを止めてくれたのだろう。
風呂場に入るのは多少のためらいはあるが、躊躇もしていられない。
俺は風呂場に入るとすぐに鍵を確認した。
83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 04:02:28.38 ID:/NeNoBaQ0
古泉「もしかして、なにかわかったのでしょうか?」
キョン「ああ、密室の謎がな。」
犯人の目星もついている。
というより、あのときのあの人の不自然な言葉から推察しただけという、証拠も何もないものだった。
しかし、これ以上何かを探しても見つかる気がしない。
俺は、今ある手札で勝負することに決めた。
キョン「警察を呼べるようになる前に、閉鎖空間を何とかしないとな。」
85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 04:06:05.45 ID:/NeNoBaQ0
ここで4章終わりです
次で解決編
あとは、エピローグです
さっき規制されて30分ほど書き込めなかったので、もしかしたらまた規制されてしまうかもしれないです
携帯で書き込もうとしましたが、規制されてました
私のauはいつも規制されてます
規制されたら、また明日の朝投下します
落ちても間をおいてまたスレ立てると思います
支援してくださってる方ありがとうございます
88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 04:10:24.72 ID:/NeNoBaQ0
第五章 動き出す今日
キョン「みなさん、お集まりいただいてありがとうございます。」
ハルヒ「前置きはいいからさっさと始めなさいよ!」
キョン「うるさい!少し黙ってなさい!」
ハルヒはムッとしたがどうやら話を聞く態勢のようだ
ゴホン、と咳払いをして話を続ける。
キョン「皆さんに集まってもらったのは他でもありません。この事件の真相についてです。
ただし、僕が把握しているのは実際に起きたことだけであり、動機などはわかりかねますし、
事件の真相と言っても僕が頭の中で考えた推察であり、こうである可能性が一番高いと判断したものです。
それでも良いなら、僕は自分の考えを皆さんに聞いてもらおうと思いますが、
天体観測サークルの皆さん、いかがでしょうか。」
彼らはしんと静まりかえっている。
89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 04:12:42.31 ID:/NeNoBaQ0
香西「いいだろう、僕は興味があるよ。聞こうじゃないか。」
他のメンバーも皆、俺の方を向いている。香西に同調したということだろう。
キョン「わかりました、ではお話します。」
一息つき、自分の頭の中で整理する。
キョン「まず、この事件において不審な点がいくつかあります。まずは密室。
そして、皆さんは、知らないでしょうが、実は殺された筧さんの遺書が見つかっています。」
青海「い、遺書、ですか・・・?」
キョン「ええ、そこには筧さんが自ら命を絶つことを決意したと取れる文が残されていました。」
90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 04:15:06.67 ID:/NeNoBaQ0
新堂「犯人が書いたものでは?」
キョン「我々もそう考えました。しかし、実際に筧さんは首を絞めて殺されている。
遺書を残し殺人に見せかけるにしたってあまりにも杜撰です。
つまり、この遺書は、筧さん本人が書いたのです。」
ハルヒ「それって、つまり筧さんが死のうと決意した日にたまたま殺されてしまった、って事よね?」
キョン「いや、違うんだよハルヒ。確かに偶然が重なって、筧さんの絞殺体と遺書という奇妙な組み合わせが出来てしまったことは事実だ。
でも、同時に何かが起こって偶然を引き起こしたわけじゃなく、偶然が続いてしまったんだ。」
長門の言葉を思い出し、あたかも自分の言葉であるかのように口に出した。
キョン「筧さんは、自殺したんだよ。」
91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 04:17:29.20 ID:/NeNoBaQ0
ハルヒ「なんですって?!」
他のメンバーも動揺を隠せないようだ。
蜷川「本当に、筧くんは自殺なの?」
キョン「はい、推測の域を出ないかもしれませんが、筧さんは自殺した。洗面所には薬が入っていたと思われるケースがありました。
おそらく、睡眠薬が入っていたのでしょう。
しかし、彼は今の睡眠薬が多量に摂取しても死ぬことはない、ということを知っていた。
そこで、彼は睡眠薬を含み、浴槽で溺死を計ったのです。もしかすると痛みのある方法を嫌ったのかもしれません。
眠っている間に死ぬことが出来れば苦しみはあまり無いはずです。
実際、風呂で眠ってしまって溺死というのは珍しい話ではありません。」
この風呂で溺死する事故があるということはさっき此処に来る前に長門や古泉に確認した。
これを聞いた時点で古泉は話の全容がわかったようだ。
92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 04:20:51.61 ID:/NeNoBaQ0
香西「じゃあ、密室は?というよりも、なぜ筧は首をしめられていたのか、これを説明する必要があるね。」
キョン「これが偶然なんですよ。実は、その現場をたまたま目撃してしまった人物がいるんです。
そして、その人物が殺人に見せかけるために工作をした。」
ハルヒ「一体誰?というより何故他殺に見せかけたの?」
キョン「まあ、まて、まず密室の説明をする。
俺たちはあの密室で一番重要視していたのは、いかに鍵をかけたかだった。
しかし、とても単純なことだったんだ。
犯人は、普通にあの部屋の鍵で、鍵をかけたんだ。」
新堂「どういうことだい?」
キョン「つまり、筧さんを発見したあの時、『風呂にあった鍵の内、どちらかは別の部屋の鍵』だったんですよ。」
93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 04:24:29.54 ID:/NeNoBaQ0
ハルヒ「あ、まさか、タグが付け替えられてたの!?」
長門の言っていた鍵は偽者、とはもうそのままの意味だった。
キョン「そう、タグを入れ替えたんだ。
あの時俺たちは軽いパニック状態で、鍵の細かいところで判断せずに、
一番判断のしやすいタグを確認するだけで、同一の鍵と思い込んでしまった。
しかし、実際にはあの時あった鍵は別の鍵だったんだ。
タグの金具に変形は見られなかったから、実際はタグの紙をすり替えたんだろうな。
このタグの紙、ちょっと取り難くて紙を軽くつまんだり引掻いたりしないととれないんだ。
証拠に、こっちの予備の鍵の紙だけ、爪で引掻いたように淵がはげてる。
風呂場の鍵をきちんと確認したが、今はどちらとも鍵の形が全く同じだ。
つまり、鍵はまた元に戻されている。
まあ、元に戻す時間なんて沢山有ったでしょうしね。
そして、先ほど我々SOS団全員の鍵とオーナーが持っていた全ての予備の鍵のタグの紙を確認しました。
どれも、綺麗な状態だった。少なくとも取り出した形跡はない。
さて、大学生の皆さん、部屋の鍵は掛けて来ているはずです。
テーブルの上に鍵を出してみてください。」
94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 04:26:33.96 ID:/NeNoBaQ0
蜷川、青海、新堂、香西、一人一人順に部屋の鍵を出していく。
たた、一つだけ、タグの紙の淵がはげている鍵があった。
キョン「犯人は、あなたです、青海さん。」
青海がじっと俺を見つめる。
98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 05:04:31.13 ID:/NeNoBaQ0
青海「でも、偶然かもしれませんよね。」
キョン「はい。でも実は、俺はタグを見る前から貴女が犯人だと予想していました。」
青海「何故ですか?」
キョン「青海さん、俺たちが話を聞きに行った時、言いましたよね。
3時に部屋に戻った時に、 『そのときにあんなことになっているなんて』 と思ったと。
この言い方はまるで、3時には既に筧さんが亡くなっていると解っている言い方ではないですか?
誰も筧さんがいつ死んでいたのかなんて知りません。わかっているのは2時過ぎから発見するまでの間、ということだけ。
なんで、真っ直ぐに部屋に戻っただけの貴女が、3時にはすでに筧さんが浴槽で亡くなっていたとわかっていたのですか?
これを、知りえたのはたった一人、つまり筧さんが死んでいるように見せかけた人間だけですよ。」
青海「その通りね。でも、言い間違えということもありうるわ。」
キョン「そうかもしれませんね。でも、貴女はとても頭がいい。そんなくだらない言い間違えするでしょうか?
それに、俺が話したのはあくまで、推察ですから。真相は、犯人にしか知りえないです。」
100 名前:>>99正解[] 投稿日:2010/04/29(木) 05:07:30.07 ID:/NeNoBaQ0
ふう、と大きく息をついて、青海さんは話し出した。
青海「遺書なんて残してたのね、筧くん。折角他殺に見せかけようとしたのに。
残念。結局私の思いは伝わらなかったのね。」
新堂「なんで、そんなことしたんだ?わざわざ自殺を他殺に見せかけるなんて。」
青海「貴方たちのせいよ?
新堂くん、レミちゃん。」
その目は憎悪に満ちていた。
しかし、攻撃的なものではなく、悲しみが強いように見える。
101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 05:10:30.73 ID:/NeNoBaQ0
青海「貴方たちが筧くんを殺したの。貴方たちが浮気なんかするから。筧くんは絶望していた。
なんせ、最愛の人を奪いとったのが、自分の親友よ。
筧くんはうすうす気がついていたわ。でも、はっきりとわかってしまったみたい。
筧くんに色々相談されたわ。でも、私じゃなんの助けにもならなかったの。
レミちゃんと話した後に、筧くんとその話をしようと思って部屋にいったら、鍵が開いてたの。
お風呂場の電気がついてるのに、なんの音もしない。様子がおかしいと思って、お風呂場を覗いたら、筧くんは死んでいたわ。
ああ、あの二人のせいで筧くんが死んでしまった。
そう思ったとき、私に魔がさしたのよ。もし、筧くんが殺された、ってなったら疑われるのはまず新堂くんとレミちゃん。
きっと、二人はどちらが殺したかで疑心暗鬼になるんじゃないかしら、ってね。
近くにあったロープで筧くんの首を絞めたわ。筧くんが自殺に見えないように。
でも、失敗だったみたい。
考えもせずにとっさにとってしまった行動。
いい結果にはやっぱりならないみたいね。」
102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 05:15:14.72 ID:/NeNoBaQ0
キョン「ただ、ひとつ、俺も良くわからないことがあります。
何故、密室を作ったか、教えていただけますか?」
青海「私はただ、鍵を掛けたかったの。
怖かった。もしかしたら、筧くんが目を覚まして私のところへ来るんじゃないかって。
綺麗な首を傷つけてしまった私を恨んでいるんじゃないかって。
鍵を掛けたって内側から開けられるのにね。
でもそのときの私はパニックで、ただ鍵を掛けるという行動を取れればそれで安心してしまったの。
わざわざ下にもう一つの鍵を取りに行ったのも、あの扉を開けられるのが今更怖くなってしまったからよ。
彼のいる部屋の扉を開けて欲しくなかったの。
二人を苦しめるために思いついた行動だったけど、結局私が苦しんだだけだったわね。」
恐怖から逃れるための、行動だったのだろうか。
キョン「でも、青海さんが、そんなことをしなくとも、実は筧さんはある言葉を遺していたんですよ。
自分を裏切った人間に対する最後の皮肉が。」
青海「皮肉?」
104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 05:18:12.45 ID:/NeNoBaQ0
キョン「ええ、実は遺書の裏には『δは見ている』という言葉が遺されていました。」
新堂と蜷川さんが苦虫を噛み潰したような表情をしている。
青海「筧くんらしいわね。私がしたことになんの意味も無かったのかしら。」
ハルヒ「キョン、ちっとも解らないわ。どういう意味か説明しなさいよ!」
キョン「『は』の意味を取り違えてたんだ、俺たちは。デルタ『が』見ているという意味に取っていたけど、実際は違ったんじゃないか?
きっと、デルタ『を』見ているという受身の意味で、『は』を使ったんだ。
『は』は既に見ているとかって意味の時にも使うだろ。」
古泉「では、デルタとはなんだったんでしょうか?」
105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 05:22:42.47 ID:/NeNoBaQ0
キョン「俺たちはずっと、この4人が色々問題を抱えている、と思っていただろ。
四角い関係だと思ってた。でも、違った。
筧さんは青海さんが自分に好意を寄せているとは知らなかったんじゃないか?
周りから見れば、それは四角に見える。
でも、筧さんからみれば、それは三角だったんだ。」
僕が死んだのは、君たち二人のせいなんだよ、と伝える暗号。
外に目をやると、すっかり雨も止み、窓から夕日が差し込んでいる。
こんな凄惨な状況でも、夕日を綺麗と思えるのはなんの皮肉だろう。
周りが汚れているからこそ、余計に綺麗に映るのかもしれない。
こんな時はSOS団も静かなようだ。金山夫妻は硬直している。
香西は窓の外を眺め、青海は微笑んでいる。
新堂はうなだれ、蜷川は涙を流していた。
キョン「僕らの関係のこと、知ってたんだよ、ってな。」
106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 05:25:32.53 ID:/NeNoBaQ0
第六章 数奇、終わり、それから Stay Over Summer
その後、雨も止み、大急ぎで金山さんが警察を呼びにいった。
一時間ほどして警察が来てからはトントン拍子に事は進んだ。
事情聴取をされたが、俺の前に大学生メンバー、そしてハルヒ古泉が先に受けていたので、俺が詳しく話すようなことも無かった。
閉鎖空間もいつの間にか消えていた。
俺が事件の真相を解いたことで消えたのだろうと古泉は言っていた。
朝比奈さん、鶴屋さんからはかっこよかったと褒められ天にも昇る気持ちだ。
ハルヒにも、キョンのくせにやるじゃない!と最大級の賛辞をいただいた。
まあ、褒められるのもわるかないな。少し照れくさいが。
しかしながら、俺は頭が冴えすぎていた気がする。
そのことを古泉にうっかり話してしまった。
古泉曰く、涼宮さんが貴方に解決してほしい、と願ったからでしょうね、との事だ。
キョン「何でもありだな、ハルヒのやつ。」
107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 05:28:06.59 ID:/NeNoBaQ0
その後、暗くなる前に俺たち学生は警察の方と共に下山し、事情聴取は警察署の方ですることになった。
一番の被害者は金山さん夫妻であろう。
長門に、どうにかならないか?とたずねてみたところ、どうにかしてみる、との事らしい。
悪い噂が広まることは防いでくれそうかな。
とても長い二日間だったように思う。
まさか本物の殺人事件に出くわすとはね。
宇宙人、未来人、超能力者の存在を知ってしまった後でも、十分すぎるほどエキセントリックだった。
数日もすればその事件に関わることもなく、いつもの日常が待っていた。
俺たちが体験したあの事件の出来事はまるで夢のようだった。
白昼夢といったほうが良いのか。
できれば、あんなことは二度とない方がいい。
108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 05:30:55.39 ID:/NeNoBaQ0
さて、今日は恒例の市内不思議探索の日だ。
あの事件以来、久々の集合だ
あまり、奇天烈の不思議は起こっては欲しくないな、と思いつつも駅までの足取りは軽い。
ハルヒ「キョン!遅刻よ!」
まだ5分あるじゃねえか。
みくる「おはよう、キョンくん。」
おはようございます。朝比奈さん。
今日もまぶしいです。
古泉「おはようございます。この間はお疲れ様です。」
ああ、お疲れ様だな。お前も色々走り回ってくれてたしな。
邪険には扱えん。
長門「・・・・」
なんか喋れよ。まあ、この間の事件は長門のヒントのおかげで助かったからな。
感謝してるぜ、長門。
109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 05:33:17.08 ID:/NeNoBaQ0
お約束の会話を交わしつつ、いつもと違うところがある。
今日は団長様のおごりの様だ。
たまには団員を労わってくれるらしい。
まあ、あれだけ働いたんだ。たまには労わってくれないとな。
ハルヒ「ほら、キョン!さっさと行くわよ!」
キョン「へいへい。」
どうやら俺は、常識はずれなことを経験しすぎたせいで、
段々とこのくだらない日常が愛しくなってきているようだ。
もちろん、こいつらと過ごす、だけどな。
終わり
115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 06:00:49.26 ID:/NeNoBaQ0
最後の最後、あとがきでまた規制にかかりました
こんな三文小説にお付き合いいただきありがとうございます
支援してくださった皆様もありがとうございます
書き溜めてはいましたが、行き当たりばったりで書いたので、誤字脱字、矛盾など色々あると思います
タイトルの元ネタは森博嗣のGシリーズから
せっかくなので章ごとのサブタイトルも森博嗣風にしました
「δは見ていた」の意味は完全に後付けですw
「δは見ていた」というタイトルだけ決めて、後はもう勢いで書きました
トリックも書いてる途中に思いついたので穴だらけだと思います
このSSのキョンの脳内再生率の低さには見返して愕然としました
みくる、鶴屋さんが空気なのは仕様です
読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました