長門有希の酩酊 2


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 17:02:44.38 ID:N0Ezol1K0

<前回のあらすじと背景>

・長門は本来絶対に酔わない(情報操作)
・「消失」長門はあくまで蓄積されたバグが暴発した「願望」世界、
 ゆえに元の長門はキョンに好意は持ち続けるが内面に秘めたまま
・そして一度経験した「感情」のゆらぎを、不思議な感覚と共に
 学びたいと思い、読書や映画で学習を続けている
・キョンはそんな長門を観察しているうち、酔って発散しないかと誘う。結果…

―――――――――
長門有希の酩酊 2

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 17:04:59.63 ID:N0Ezol1K0

「やっちまえ」

…俺がそう言った後、長門は焼酎をロックでグイグイ飲み始めた。

キョン「ははっ、おまえはよく飲むなあ…」

長門「うんっ、楽しい…から…えへへっ」

長門はうっすらと笑みを浮かべたまま、コタツテーブルの上に視線を移し、前後にゆらゆらと揺れている。

時々グラスに口をつけ、それから真っ赤な顔で俺の方をチラと見て、俺と目が合うとにっこり笑う。

長門「…なに、わたしの顔ばっかり見てるの、きょんくん…」

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 17:11:20.93 ID:N0Ezol1K0

キョン「んー…? 見ていたいからだ」

長門「…そ、そう…なんだ。ふふっ」
そしてまた赤い顔をテーブルに向け、にやにやしながら揺れている。

長門はじっと自分を見る俺の視線が恥ずかしいのか、笑顔のまま時おりチラチラこちらを伺うように視線を向けては戻す。か、可愛い。

長門「そんなに…じっと…見てたら。恥ずかしいよきょんくん」

キョン「ああ、でもそういうお前を見てるのが一番楽しいんだよ」

長門「う、嬉しい、けど…」

キョン「あっ、俺が楽しんでもしょうがないのか、すまん長門」
普段の長門からは想像もつかない、この…酔って顔を真っ赤にして見せる笑顔は、「保護者」である朝倉を除けば、この俺にしか見せないのだ…。
そう思うと、この時間がとてつもなく贅沢な時間に思える。

7 名前:前回もここに投下したので・・・[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 17:15:53.87 ID:N0Ezol1K0

それにしても長門の酩酊具合は、普段のこいつからは想像もつかない表情を引き出す。そんな様子に心配がないかと言えば嘘だが、「許可」した以上やめろとは何も言わなかった。

――なにしろ、長門は「悪い酒」ではないようだからな。

長門「きょんくん…」

キョン「なんだい」

長門「…読んでみた、だけ、えへへ」

そう言いながら今度はテーブルにこちらを向いて頭を寝かせ、微笑みながら俺をじっと見る。
ああ、何と言えばいいんだろう、この感覚。にやにやが止まらない。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 17:23:19.62 ID:N0Ezol1K0

これが「素の長門」なのであろう、まるで童謡のような汚れのない声で缶やコップを割り箸でカンカンと叩きながら上機嫌で歌を歌ったり、真っ赤な顔でにやにやしながら俺にちょっと拗ねてみせたり。

酔ってるのは間違いないのに、つつましいというか、ささやかな「心の解放」。
普通に笑ったり、はにかんだり、歌ったりしたいという気持ちを、どれほど抑圧してきたのか。

放課後の部室で、こいつが黙ってクール・ビューティよろしく無表情で本を読んでいるのを、ただただじぃっと眺めているのも充分に安らぎの光景だ。

しかし長門がその「仮面」を脱ぎ捨てて、普通の少女の姿を見せてくれるのは、この上なく嬉しいことだったのさ。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 17:28:28.31 ID:N0Ezol1K0

あの「事件」で、あいつが願ったような、ごく普通のシャイな文学少女を演ずるのではない。今は情報操作をせずに飲酒をして、普通に酩酊している。

長門「きょんくん、きょんくん…」
にこにこ笑いながら、俺を見るでもなくつぶやく長門は、ああそうか、普段もそう俺のことを呼びたかったのを我慢してた、ってことかな。

キョン「ははっ、長門、これから普段もそう呼んでもいいんだぜ」

長門「…いやっ。……ていうっか、そんなことしたら…。出来ない」

長門は一瞬嬉しそうな顔をこちらへ向けたものの、すぐにまた視線を手元に戻してしまった。


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 17:34:59.40 ID:N0Ezol1K0

キョン「…あ、そ、そうだよな。そりゃあ無理だったな、すまん」

長門「いいの…。今こうやってるだけで…わたしは…楽しいから」

キョン「そっか。そうだな。俺もお前が楽しければ、嬉しい」

長門「うん……しあわせ…だよ」

長門はそう言いながら、俺の顔を見てにっこりと笑った。

幸せ、長門、そうだ、これも最高の「幸福感」だな――。

何だか俺はいつも助けてもらってばかりのあいつへ、ちょっとだけでも何かを返すことが出来たような気がした。

結局、長門は6時過ぎに朝倉が夕飯だと声をかけてくる少し前に、潰れた。

といってもテーブルに顔を載せ、こちらを向いたまま目を閉じて微笑んでいたと思ったら、くうくうと安らかな寝息を立ててしまったわけで。

俺としてはそんな長門の寝顔を肴に、ちびりちびりとゆっくり飲んだのさ。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 17:40:39.46 ID:N0Ezol1K0

――
それから間を置かず、エプロン姿で「夕飯よ」と報せに来た朝倉は、コタツテーブルに顔を横に落として寝息を立てている長門を見て、一瞬驚いたような顔をしたものの、すぐに俺の方を見て微笑みながらこう言った。

朝倉「…何もしてないでしょうね、キョン君?」

キョン「むうっ、何を言う。状況を見ればわかるだろう」

朝倉「うふふ、冗談よ。あなたはそんな人…じゃないもの」

朝倉はそう言うとコタツの左側…、俺の左手・長門の向かいに腰を下ろした。
それからテーブルの上で両手を組むと、そこへ顎を載せながら、にっこり笑う。

朝倉「…有希ちゃん、キョン君には無防備ね」

朝倉の口調は静かで、その表情は本当に母親が娘の寝顔を見るような、慈愛に満ちたものだった。


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 17:46:53.80 ID:N0Ezol1K0

キョン「ていうか酔っぱらってるわけだからな」

朝倉「だから、情報操作も無しにあなたと一緒にお酒を飲みたい、ってこの子が思ったこと、自体がよ」

キョン「んん、こいつが望んだことだとはいえ、元々酒でも飲んで解放しろって言ったのは俺…だからなあ」

朝倉は長門に向けていた視線を俺の方に向け直すと、こう言った。

朝倉「これからも、有希ちゃんをよろしくねっ」

真顔で唐突に発せられたその言葉に、俺は一瞬ポカンとマヌケな顔をした…と思う。

キョン「え? ……ん、ああ、…ていうか俺は…」

朝倉「もちろん私は有希のことを全力で守るわ。ううん、その…「この前」みたいな偏執的な意味じゃなくって。有希が…この時代、この場所に居ることが幸せであると思えるように、サポートするの」

朝倉の顔からはいつの間にか微笑みが消えていた。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 17:52:02.70 ID:N0Ezol1K0

決意のようなものを浮かべた表情で俺を見つめていた視線を、すやすやと寝ている長門に戻すと、朝倉は再び微笑を浮かべる。

朝倉「この子が私を…またこの時空に戻してくれた。望んで、ね。それに応えたいの。応えるべきだし、それが私が戻された理由なんだし…」

キョン「あ…! おまえが長門を思うその気持ちだがな、長門にはちゃんと伝わっていたぞ!」

俺が長門が寝る前に話していたことを思い出してそう言うと、朝倉は少しの間驚いたような顔で俺を見つめ、それから満面の笑みを浮かべて言った。

朝倉「…うん…ありがとう、キョン君」

朝倉の目尻に、少しだけ光るものが見えたのは気のせいだろうか。

キョン「…朝倉?」
そう言って長門が空にしたグラスを差し出すと、朝倉は一瞬俺の顔を真顔で見た。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 17:59:07.25 ID:N0Ezol1K0

朝倉「…ううん、今日はいいわ」

キョン「まあでも…じゃあ朝倉…お前自身のストレスとか…ウップンはどう解放するんだ? たまにはハメを外したくなったりしないのか?」

朝倉「……私はそんな贅沢を言えるような立場じゃないもの。今度こそ、私は全てを投げ打って有希を守る…そう決めたの。有希を守るということは、有希の愛するものを守ること。もう、私はそれを知ってるから」

朝倉は物憂げに視線を長門へ向け、それから俺が手に持っているグラスへと視線をさまよわせ、最終的に俺の目を見てこう言った。

朝倉「ありがとう。お気持ちだけ、いただくね」
朝倉は顔を上げ、いつか教室で見せた時のように、両の指を組み合わせて俺にウインクした。

…ああ、朝倉。
お前には、その見る者誰もを幸福にするような、明るい笑顔がよく似合うよ。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 18:05:59.63 ID:N0Ezol1K0

…その後、すぐに目を覚ました長門の口からほんの少し垂れていたヨダレを拭いてやり、再び真っ赤になった長門が顔を洗うのを待って、二人で505号室へ向かった。

長門は少し足元がおぼつかなく、俺が腕を出すと、遠慮がちに両腕でつかまるように腕をからめてきた。

長門「えへへ…きょんくんと腕組んじゃった…」

キョン「こんなことぐらい、いつでもいい…んだけどな、いやダメか…はは」

長門「いいんだ、たまぁにこうやってくれるだけで…」

俺も少し酔っているとはいえ、酔った長門の体重を支えるくらい造作もないことで、しっかりと長門を支えながらエレベータのボタンを押した。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 18:11:06.85 ID:N0Ezol1K0

――――
その後、俺たちは朝倉の部屋で食卓を囲み、お手製のハンバーグをご馳走になった。

夕飯のあとでしばらく雑談をしてると、長門が眠いと言い出したので、俺は8時過ぎにはおいとますることにした。

キョン「じゃあ、俺そろそろ。今日はご馳走さま。いやほんと、うまかったよ」

朝倉「嬉しいわね、いつもそう言ってくれるから作り甲斐があるわよ」

帰り際、玄関まで送りに出て来た朝倉の後ろから、長門がそっとつぶやいた。

長門「また…よかったら」
酔いが残っているせいか、赤い顔で微笑んでいた。

帰り道は、少し残る酒の酔いに加えて、とても暖かく、満ち足りた気分で自転車を漕いだものだ。ああ、腹が一杯だという感覚だけじゃなくてな。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 18:17:56.35 ID:N0Ezol1K0

――月曜日

キョン「ういーっす」
朝の教室に入って真っ先に目があったのはもちろん、我らが団長様である。

ハルヒ「遅いわね…もうちょっと早く起きなさい!」

キョン「おまえは週明け朝イチだっつーのに、何でそんな元気なんだい?」

ハルヒ「これが普通よ。週の始まりが肝心なんだから気合い入れなさいねっ」

キョン「…へいへい」

ハルヒ「あんたは土日しっかり休んだんでしょ」

キョン「んああ…、まあな。お陰様で」

ハルヒ「あたしの方は、土曜にハカセ君ちで集中講義をやったのよ。話したわよね」

キョン「ああ、その…英才教育ってのな」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 18:23:55.50 ID:N0Ezol1K0

ハルヒ「そっ。凄いのよあの子! こないだも言ったけど、理数系はもう高一レベルなんだからね」
ハルヒはそう言って目をキラキラとプレアデス星団のように輝かせた。

ハルヒ「はっきり言って半年ね、そんだけで数学ならあんたを追い抜くと思うわ!」

キョン「へーえ、まあ俺の場合元々がだな…ははっ」

ハルヒ「とにかくあれだけ教え甲斐があると、こっちも俄然やる気が出たってわけよ…」

キョン「へえ…そりゃまあけっこうな事で」

ハルヒ「でねっ、今週末もまた行くの。…あたし、あの子を東大へ入れるわ!」
キョン「はあ?」

ハルヒ「とにかくっ、あの子は将来とてつもない大発明をするような気がするの。人類がひっくり返るような、ね!」

キョン「そ、そうかい」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 18:29:51.02 ID:N0Ezol1K0

俺が席に座ると、ハルヒは続けてこう言った。

ハルヒ「――タイムマシンとか」

キョン「…そ…はいっ?!」

ハルヒ「何変な声出してんのよ。例えば、の話。まああたしもバカじゃないからね、生きてる間に出来るかどうかなんて考えてないわ。でもね、それくらい賢い子だ、っていうこと」
ハルヒは右手の人差し指を俺の目の前でぶんぶん振り回しながらまくし立てる。

キョン「あ、ああ。そうなんだ、へえ」

ハルヒ「だから今週の不思議探索も悪いけど休止よ。あ、でも集中講義だから、来週からはまた探索は再開するし、続けて休んだ分みっちり探すわよ!」

キョン「了解しましたよ…」

…勉強、ねえ。そういやこいつの成績はこの学校にゃもったいないレベルときてる。
元々賢いんだもんな。
つくづく、勉強ってのは「面白い」と思ってやる奴にゃ、敵わねえ。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 18:38:44.68 ID:N0Ezol1K0

何にせよ、だ。ハルヒが満足してくれていて、俺たちがしばし安寧に過ごせるってことが一番だ、それに超したこたぁない。

そう思いながら何気なく視線を黒板の方へ移すと、教壇の前で数人の女子生徒と立ち話をしていた朝倉と目が合った。
朝倉は笑顔で会話を続けながら、ほんの一瞬ウインクをした。

俺もほんの少しだけ、口角を上げる。ハンバーグ、うまかったです。

そういやあいつはもう情報操作…? 出来ないんだっけ。いや長門の保護のためにしか使えないんだから、制限されてるって言ってたな。

そう考えりゃほとんど普通の女子高生…それも谷口的にはAA…

谷口「おいおいおいおいキョン! 見たぜ今!」
いつの間にかアホ面が机や椅子をかきわけるように視界に入ってきた

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 18:45:45.47 ID:N0Ezol1K0

キョン「何だよガタガタ椅子を鳴らすな、顔を寄せるな」

谷口「今、おまえ朝倉と目で会話してなかったか? まさかキサマら…」

キョン「やれやれ、おまえは月曜の朝から何を言ってるんだ」

谷口「くそぅ、何でお前ばっかり…俺なんかこれだけ努力に努力を重ねてるってのによう!」

キョン「まったくなあ、お前の場合はその努力ってやつと、女子の観察に向けてる注意力を勉強に向けたら、学年トップレベルになるぜ」

谷口「うっせえよ!」
泣くことはないだろう谷口。

さて朝のバカバカしい級友とのおしゃべりも岡部教諭の到着で終わり、こうして新しい週がスタートした。

非常に眠く気怠いまま午前中の授業をやり過ごし、ようやく昼休みと相成った途端、ハルヒは例によって気が付いたら後ろの席から姿を消していた。

28 名前:こんばんはNOEZです(ID的に)[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 18:52:22.13 ID:N0Ezol1K0

俺は谷口・国木田といういつものメンツで弁当箱をつつきながら、適当に会話を受け流しつつ、また土曜日が空いちまったな…と考えていた。

正直、アルコールで鬱憤を解放するなんてのは、確かにまっとうな高校生のやることじゃないと思う。

俺だって長門のために、どうしたらいいのか色々考えたさ。

飲酒は法的にどうとか、そういうことじゃない。いやそれも重要なことなのだが、酒抜きで普通に友達とワイワイ騒いだり、放課後にゲームをしたり遊びに行ったり、スポーツで昇華させたり、家族や親友にグチを言ったり…その、趣味に耽溺する…とか、いろいろ…。

なんて乏しい選択肢をずらずら並べてはみたものの、結局読書が唯一の趣味といっていい「普段の長門」にはどれも負担にはなっても、解放にはならないか、不可能なことかも知れないと思った。

他愛のない谷口の妄想90%の「もうちょっとで付き合う寸前まで行ったが惜しいことをした」的な話を聞き流しているうちに、弁当を食べ終え、そのまま部室へ向かうことにした。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 18:59:55.94 ID:N0Ezol1K0

…最近の長門は、たまにコンピ研へ行っているようだ。

そういうSOS団以外の「活動」が、長門にも刺激というか、いい影響を及ぼしているといいんだがな。

何しろ読書以外は黙ってハルヒの言いなりになっていたのでは「感情の抑制」は続いても間違っては解放にはつながらない。「感情」が生まれたり気持ちが揺らいだりするには、「刺激」も必要だ。

部室棟まで来ると、見覚えのある小柄な少年が階段を降りてきた。
ああ、コンピ研の部員だったな。ちょうどいい、長門の様子でも聞いてみるか。

まあ元々がハルヒの暴虐とも言える脅迫によってパソコンを強奪したことが出会いだったわけで、こいつらとはたまにすれ違ってもせいぜい黙礼くらいなものだ。

キョン「よう、部長さん元気かい」

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 19:07:43.69 ID:N0Ezol1K0

俺が階段を上がりながら声をかけると、部員は驚いたように少し目を見開いてこう言った。
部員「ひっ! SOS団…」

キョン「ああ…ご存知の通り。――でちょっとだけいいか?」

部員「なん…でしょう?」
部員氏は明らかに怯えた表情になり、ひきつった愛想笑いを浮かべて階段の手すりにつかまった。少し震えているように見えるのは気のせいか。

キョン「いや、何でもないんだが…長門の様子を聞きたくてさ」
俺は極めてフレンドリーな表情を作って聞いてみた。

部員「あ、何だ…ふう、長門さんのことなら――」

部員氏は長門の話になると、堰を切ったように最近の様子を話してくれた。

何と長門は彼らの想像を遥かに超えた超人的な能力を持っているということで、もはや神のように扱われているのだそうだ。

へえ、神であるハルヒの「観測」が目的の宇宙人が、コンピ研では神扱いなんておかしなことになったものだ…。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 19:14:58.76 ID:N0Ezol1K0

部員「とにかく君たちには一回御礼を言いたかったほどなんだ、長門さんが来るのを許可してくれたことを」
そう言うとペコリと律儀に頭を下げて、部員氏は階段を降りていった。

俺はそのまま階段の中腹で立ち止まり、しばし彼の後頭部が消えるのを目で追っていた。

長門のアッという間に習得したパソコンの能力が、いったい今どこまで進化しているのか、俺の凡庸な頭ではもはや想像すら出来ないというもんだ。

もはやコンピ研など、今の長門からすれば恐らくNASAレベルと石器時代ほどの開きがあるのかも、などと思ってしまう。

コンピ研の連中は今、たま〜に長門に部室へ来てもらっては、口々に自分のプログラミングについて意見を求めたり、教え乞うたりしているという。

つまり、コンピ研への「出張」など、もはや長門にとって負担になりこそすれ、何の「息抜き」にもならない状況…なのか?

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 19:22:27.54 ID:N0Ezol1K0

…あのとき、俺が良かれと思って言ったことも結局…。
俺は階段の真ん中で大きく溜息をついた。

そんなことを考え始めると、フと古泉のニヤケ顔が浮かんだ。

朝比奈さんの、困ったような笑顔も。

――二人を、今週末の「飲み会」に誘ってみようか…。

階段を登り切って部室のドアを開ける。
昼休みにここに居るのは長門か、たまに購買で買ったパンをパクつきながらパソコンをいじるハルヒくらいなものだ。

部室にいたのは長門だけだった。定位置で本を読んでいる。
俺と目が合うと、例によって1ミクロンだけ顎を引いた。

これが普段の長門だ。

キョン「なあ、長門」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 19:29:58.26 ID:N0Ezol1K0

長門「……なに」
長門は視線を俺へ向ける。

キョン「今度の土曜、また行っていいかな?」

古泉や朝比奈さんを誘う前に、長門に了解を取っておきたかった。

長門「……わたしは構わない…、むしろ歓迎」
長門は無言でじっと俺の顔を数秒見つめたあと、そう言うと本に視線を戻した。
長門表情読み取りモードをフル回転させる。

キョン「で、だな。古泉や朝比奈さんにも声をかけようと思うんだが…」

長門「……そう…。……あなたが望むなら」
長門はそのままの体制でつぶやいたが…、んん、そこに微細に浮かんだ表情は…。

キョン「また二人の方がいいか? でもあいつらもたまにはみんなで」

長門「あなたがそれを希望するならそれに従う」
長門は俺の言葉に被せるようにそう言ってきた。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 19:38:12.22 ID:N0Ezol1K0

キョン「ん、じゃあ…古泉たちには俺から聞いてみるな」

長門「……」
無言の了解か…。

――――

…その後、週末までハルヒは例によって放課後の部室で小さな…そう、これまでに比べれば些細なイベントをいくつか提案したりした。

その間、土曜日の「飲み会」の件を古泉と朝比奈さんそれぞれに打診した。
結論から言おう。二人ともNG…であった。

朝比奈さんは、ここだけの話、何と単位を落としかけている教科がありその追試の準備。なるほど、ここしばらくの疲れた様子は…。

古泉の方は先週の「実家帰り」は嘘で、何でも年度末が近いため、「機関」の会議だかに向けて膨大な資料を書かされているらしい。

結果的にまた、俺と長門ってことになっちまった…んだなコレが。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 19:47:25.64 ID:N0Ezol1K0

――――
土曜日

昼下がり、俺は三たび、長門のマンションでくつろいでいた。

先週のように俺が酒をまた適当に、長門は家でつまみを用意するという段取りは、もう何の相談も要らず、二言三言確認するだけだった。

長門「……買って来てくれたお酒は冷やした。楽にしていて」
長門はオフホワイトのワンピースを着ていて、俺が入るとすぐ支度を始める。

キョン「しかし…結局また二人で、になっちまったな」

俺が台所とテーブルを行き来する長門を目で追いながらそう言うと、長門は
「別にいい。わたしはむしろ……いい」
と何やら珍しく口ごもり、テーブルの上にオードブルらしきものを整えている。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 19:56:22.65 ID:N0Ezol1K0

キョン「なあ、こういうのってさ、どうしたんだ?」

長門「これらはスーパーで総菜として売られているもの」

キョン「ふうん。こっちは菓子類しか持って来なかったからなあ」

長門「それと、あなたが先日美味しいと言っていたスモークチーズ」

キョン「ああ、そうそう! NYORON印。うまいんだこれが」

長門「これは…朝倉涼子が作り置きしてくれたもの」

キョン「ん、切り干し大根に…きんぴらですか。さすが!」

長門「ちなみに涼子は美容室へ出かけ買い物すると言っていた」

キョン「ふうん、届けてくれたのかあ。悪いな」

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 20:04:10.82 ID:N0Ezol1K0

長門「これも朝倉涼子の差し入れ」

キョン「このタッパーは…ん? 何これ…?」

長門「ラタトゥイユ。…というもの」

キョン「へえ。何かうまそうだなあ。朝倉って本当に何でも作れるし…」

長門「……。あとこれを」

キョン「お、こりゃ凄い、牛のたたきか」

長門「それはわたしが作った」

キョン「ええ〜っ!? おまえが? 本当か? マジでか?」

長門「……買って来たものにたれをかけた」

キョン「……そ、そうか。ええと、おいしそうだな、はははっ」

39 名前:支援感謝します 長門と乾杯[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 20:13:56.39 ID:N0Ezol1K0

長門「ではいつものようにビールから」
プシッと音を立てて栓を抜き、俺のグラスに注ぐ、手つきも慣れてきたな。

キョン「あ、サンキュ。じゃあ」

注ぎ返して。
キョン「かんぱーい!」
長門「…かんぱい」

キョン「くはーっ! 真っ昼間からって何か罪悪感あっていいなあ」

長門「ぷはっ。昼夜を問わず未成年の飲酒はある意味罪悪そのもの」

キョン「ははは、そりゃそうだなあ」
俺は長門の無表情を肴に、スモークチーズのスライスをかじる。

キョン「で、どうだい最近」

長門「どう、とは」

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 20:21:44.59 ID:N0Ezol1K0

長門は大きめのタッパーから、ええと…らたとぅいゆ? とかいうのを小皿に取り分けて俺の方へ勧める。

トマト色になって、くたぁ、と柔らかく煮込まれた茄子の塊と、ピーマンやパプリカに…これはズッキーニってやつか?

キョン「ん、その。コンピ研の方とか」
俺は長門に勧められた皿から茄子を割り箸でつまんで口に入れる。

う、うまい、柔らかい…。さすがは朝倉…トマトソース、オリーブオイル、にんにくの味と香りが絡み合って…たまりません。ビールが進む。

長門「……正直を言えば」コクンコクン
長門は小さく喉を鳴らしながらビールを飲んだあと、自分の皿の上のものを箸で軽く整えてそう言った。

長門「あまり刺激は感じていない」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 20:29:45.00 ID:N0Ezol1K0

キョン「ああ、やっぱりな…そうだよなあ。お前ほどのスキルがありゃあ、アイツらとは付き合ってられんわなあ」

長門「確かに、わたしと彼らのコンピュータやネットワークに関する知識、能力の乖離はもはや」
長門はぱくりとズッキーニの輪切りを口に放り込み、俺の方を見る。

長門「文字通り、月とスッポン」

キョン「…プッ…そっか。はははっ」
真顔でそのセリフはないだろう、長門。

長門「彼らはわたしの訪問を待っており、たまに呼び出されて行けば矢継ぎ早にプログラムの解析と評価を依頼されたり、順番待ちで質問責めに合う」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 20:37:23.48 ID:N0Ezol1K0

長門はビールをコクコクと飲み干した。
長門「少し困惑する…こともある…けふぅ」

ああ、また「天使のゲップ」をこうして聴けたことを、神に感謝します。
そんなアホなことを考えながら、俺は長門のグラスにビールを注ぐ。

キョン「まあ、飲めよ…。何か…俺も悪かったかな」

長門「…別にあなたのせいではない」
長門はオードブルのピクルスをこりこりかじる。

長門「…最初はああいった端末の操作とネットワークの原始的な接続などに興味があったから」

キョン「ん、そう見えたんでな、息抜きになるかと思ってさ」

長門「知っている。でも」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 20:45:27.85 ID:N0Ezol1K0

長門はこちらを向いて言った。

長門「本当は…涼宮ハルヒが言ったように」

キョン「……?」

長門「引き留めて欲しかった――という気持ちがあった」

長門はそう言うと視線をテーブルへ移し、またピクルスを爪楊枝でプスリと刺しては、こりこりと小刻みに咀嚼している。

キョン「ん、そう…か。そうだったかも知れないな、結果的にはお前の負担が増えただけだもんな。すまない」

長門「いい。あなたはこのような状況を予測出来ていたわけではなく」
こくりとビールを飲み、続ける。

長門「わたしのためだと説明した上でのことだった」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 20:52:26.01 ID:N0Ezol1K0

キョン「ああ。そうだった。でも、もう嫌だったら断っていいんだぞ。そうだ。俺が今『上書き』する」

長門「…そう…」

長門はほんのわずかだが微笑んだ。

やはり酒が入ると、表情が解りやすくなる。
今なら長門検定4段くらいでも読み取れたかな…といってもそんな検定は俺と朝倉の冗談の中にしか存在しないのだが。

長門はほんの少し顔を赤らめて、立ち上がると冷蔵庫から缶ビールと日本酒の小さな瓶を持って戻ってきた。
ぺたりと席に戻ると、缶ビールをあけて、俺のグラスに注いでくれる。

キョン「そういう普段言いたくても言えないこととか、言えばいいんだ。そのために今、こうしてるんだしな」

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 20:59:47.99 ID:N0Ezol1K0

長門「…う、…そう」
長門は頷くと日本酒のボトルのキャップをキリキリ廻して開けると、小さなガラスのぐい飲みにトクトクといい音をたてて注ぐ。

キョン「普段は、朝倉と晩飯食ってるんだろ?」
俺はラタトゥイユとやらを味わいながら長門に水を向ける。

キョン「その、グチを言い合ったり…とか、しないのか」

長門「もっぱら朝倉涼子からわたしに色々聞いてくる…」

キョン「学校のことか」

長門「そ、…うん」
…相づちが変化したな、少し酔ったみたいだ。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 21:10:43.06 ID:N0Ezol1K0

長門は自分に取り分けたラタトゥイユをつまみながら日本酒をクイとあおる。

嚥下のたびに白くてか細い喉が、ほんの少しだけ動くのが愛らしい。

キョン「クラスが違うから心配なんだろう? 朝倉は」

長門「質問責めに逢う…」

キョン「そりゃ大変だな」
朝倉がエプロン姿で長門にあれこれ聞いている食卓を想像すると、自分でも笑いが抑えきれない。

長門「彼女は…わたしが暮らすで孤立したり、イジメに遭わないか…とても心配してくれる…」
そう言いながらフウ、と軽く息を吐いて少し膝を斜めに崩す。
珍しい動作である。もっとも今この場面そのものが、極めてレアな状況なのではあるが。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 21:18:52.03 ID:N0Ezol1K0

長門「だからその日の朝からのこととか、ずっと聞かれて…」

キョン「ふうん。面倒くさくないのか?」

長門「そういうのは…平気。むしろ…『嬉しい』…『ありがたい』と思う」
また表情読み取り検定の難度が下がった微笑で、そう言った。

キョン「本当に朝倉はお母さんみたいだな、お前の」

長門「う、うん。こないだも言ったけど…大好き。とても、大切な存在」

キョン「そうだな。これだけ『愛して』もらって『幸せ』だな」

長門「うん。愛情を理解した…幸福…も」
長門はそう言うと何かを思い出したように突然耳たぶまで赤くなった。
そうして俯いて…にやにやしている。

あ、酔ってきましたね長門さん。解りやすいな、本当…。

49 名前:支援感謝[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 21:26:30.73 ID:N0Ezol1K0

キョン「あ、あははは。うん。愛情って…いいよな、幸せな気持ちになるよな」
俺も思い出しちまった。

長門に一生懸命「愛とは何か」を説くなんて、酔った勢いとは恐ろしいものだぜ。シラフだったらたとえ「超監督」のメガホンで何度殴られても、NG連発間違いないという行為だ…。

キョン「で、その、ええと、実際6組じゃどんな感じなんだ?」

長門「別に…普通…」
俺の脳内には教室に無表情で入った長門が無言のまま自分の席につき、学習用具を整え後は無言で姿勢良く教師の到着を待っている…映像が鮮明に再生された。

キョン「えっと。周りの子とか…その――」

長門は俺が何を聞きたいのかもう解っているようだ。
恐らくそれは何度となく朝倉にも話してきたことなのだろう。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 21:33:12.88 ID:N0Ezol1K0

長門「最初のうちは、周りの女子が話しかけてくれたりしたんだけど…ね。こんな感じだったから…そのうち」

キョン「無視とかされんのか!?」
思わず気色ばんでしまった。

長門「ううん、そういうことはない。大丈夫。何か…遠巻きにそっとしておいてくれる感じ…」
長門は微笑みを浮かべて、グラスを口に運んでいる。

――この様子なら深刻なことはなさそう、だな…。

キョン「そっか。何かコソコソ意地悪されたりな、無視とかイジメに逢ったらすぐ言うんだぞ?」

長門「…ふふ…涼子と同じことを言う…ねっ」
長門はそう言ってくすくすと楽しそうに笑った。ああ、もう真っ赤だぞ長門。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 21:41:44.02 ID:N0Ezol1K0

キョン「いずれにせよ、その様子じゃ何もないみたいだし安心したよ。普段聞けないし…こうやって飲むのは楽しいな」

長門「うん、わたしも…」

キョン「情報操作とやらで酔えないなんてつまらんだけだしな、あん時みたく」

長門「うん…みんながどんどん酔っぱらってくのが…正直しんどかった」

キョン「だよなあ。お前が爆食に走ったのも解るような気がするよ」

長門「爆食なんか…!」
長門が顔を上げて俺を軽く睨む。

キョン「別荘で出されたもの、無言でバクバク食ってたしなあ」

長門「あっ、あの時はちがっ…うもん」
長門は何やら新しい瓶から透明な酒を注ぐとクイクイと飲んでいる。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 21:50:36.79 ID:N0Ezol1K0

キョン「ハルヒは普通に大食いな感じだったけどさ、長門の場合は黙々と小刻みに延々と食ってたのがおかしかったぜ」

長門「変なこと…憶えてるんだからぁ…きょ…」
長門は一旦うつむいてから、すぐに顔を上げて俺をちょっと睨んだあと、微笑んで言った。

長門「ねえ…二人のときは…きょんくんって呼ぶよ?」

キョン「ああ、いいさ。もういちいち許可なんか取るなよ」

長門「えへへ、だって…。きょんくん…の、許可がないとわたしはね…」
そう言いながら長門はにやけ顔のまま、ぱくぱくとスモークチーズを食べ始めた。

キョン「いいんだぞ、俺はむしろ嬉しいし…。ただハルヒの前ではまずいかもな」

長門「…きょーんくん。へへっ…。なぁんて目の前で言ったらどうなっちゃうだろうね」

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 21:58:17.27 ID:N0Ezol1K0

長門は赤い顔で微笑んだまま、俺を見上げた。

キョン「そりゃあ、エラいことになるぞ。アイツのことだから」

長門「『何よ、あんたたちどいういう関係』みたいな…ふふっ」

キョン「今のモノマネかよ。全然似てねえな、ははっ」

長門「なによう。きょんくんの意地悪…」
長門は左手で俺の右肩をツイと押す。

キョン「『ちょっと有希ぃ! あんた何突然キョン君なんて言うわけ? ひょっとしてアンタたち、付き合ってんじゃないでしょうねっ!!』――どうだ、俺の方が似てないか?」

長門「ふふっ…裏声なんか出して…でも口調はそっくり」

キョン「あはは。声質は無理だぞっ。俺は男だ」
そう言って俺はビールを飲み干した。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 22:07:59.40 ID:N0Ezol1K0

長門「きょんくんは、男…」
長門が笑いながら、小さな声でつぶやいた。

キョン「…ん、ああ? そうさ俺は男だぞ」

長門「うん、わかってるよぅ…。いざという時は…わたしを守るって言ってくれたし…」

長門はフローリングに敷かれたこたつ置きのカーペットの模様を指でなぞっている。

長門「でも、きょんくんは…みんなにそう、言うんだよね…」

キョン「そりゃあ、俺たちは仲間だからな」

長門「…そう、だよね…。じゃ、じゃあ『愛情』も?」

長門はうつむいてカーペットを撫でながらそう言った。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 22:15:58.79 ID:N0Ezol1K0

キョン「えっと。ああ、そうだな。感じてるかも…な。でもどっちかって言うと『友情』の強いモノ、みたいな…」

長門「わたしのことを『愛してる』って言ってくれた…じゃない」

キョン「ああ。それは本当だ。じゃあ古泉にそれを言えるかというと…無理だがな絶対」

長門「フザケないでよう。そういう話じゃないもの…」
長門は頬を膨らませて顔を上げた。

だから…真っ赤な顔で上目使いは…反則だ。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 22:25:36.71 ID:N0Ezol1K0

長門「きょんくんは、男として、わたしをどう思ってるのか…って…こと…」

長門さん、最後ほとんど聞き取れませんでしたが…。

キョン「んああ、そういう事…か。ええと、実は自分でも良く解らないんだ。前に、朝倉のことを喩えに出したりしたんだが」

俺はじっと俺の顔をふくれっ面で睨んでいる長門の目線から逃れるようにして、続ける。

キョン「その、だな。ハルヒや朝比奈さんや古泉を『好きだ』とは言える。もちろん、長門のこともな。でも…今んとこ『安らぎを憶える』というか…『ずっと同じところに居たい』って思えるのは…お前だけ…かも知れない」

長門「……ほんとう?」
長門の真っ赤なふくれっ面。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 22:32:52.90 ID:N0Ezol1K0

キョン「ああ、本当だとも。ははは何度も言わせんな」

長門のふくれっ面が笑顔に変わった。

長門「じゃあ今んとこわたしが一番っていうことでいいのねっ?」
長門は再びにやにや笑いを浮かべると、テーブルに向き直ってズッキーニを一片口に放り込んだ。

キョン「…うんまあ…」

長門「……今のところはこれくらいにしておいてあげるよ、きょんくん」

キョン「えっ? 何か言ったか?」

長門「な・ん・で・も・な・い!」

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 22:39:47.34 ID:N0Ezol1K0

長門はそう言うと笑顔のまま、「べえ」と言ってチロリと舌を出し、またコップに何やら注いで、クイとあおった。

あれ? おまえ…それウオッカじゃ…いつの間に…。

ああ、しかし酔ってこんなに表情をくるくる変える長門、こないだも思ったがビデオでも仕掛けておくべきだったな…。

もっともそんなビデオ、シラフの長門にバレたらたちまち情報操作でサラサラと消し去られてしまうに違いないし、同時にヘタをすると俺まで情報連結解除されちまいそうだ。

長門はニヤニヤしながら目を閉じ、前回のように体を前後にゆっくり揺らしている。

ああ、この光景こそまさしく、「眼福」であることよなあ…。
俺はそう思いながら、グラスを持ち上げた――。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 22:47:51.93 ID:N0Ezol1K0

―――――――――

ビシ――――ッ

キョン「……ん? 今何か…」

変な音がしなかったか。冷蔵庫に貼り付いた氷を引きはがしたような。
長門の方を見ると、真っ赤な顔をしたまま、うつむいている。

俺はそのまま台所に立ち、冷蔵庫の製氷室を引き出す。
5ドアの最新型の冷蔵庫で、製氷室は上に水タンクを差し込めば引き出しに氷が落ちているというものだ。

キョン「…ていうか…こっちからの音じゃなかったかな」
俺は部屋を振り返る。

コタツ机には長門がうつむいて座っていて、テーブルの上にも変化はない。
もちろん、部屋の他の部分にも。

怪奇…現象?

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 22:55:28.21 ID:N0Ezol1K0

キョン「…こっちか?…」

長門が買ったばかりという、壁面のAVボードの方へ廻る。
大画面の液晶テレビ、ブルーレイレコーダー、ゲーム機が3種類ほど…。増えて…るな。
図書館のシールがついたDVDのディスクも数枚ある。

キョン「なあ、長門ぉ。おかしな音がしたような気がするんだが」

そう言って立ち上がった時、突然液晶テレビの画面がフワァッと画像を表示した。

キョン「何だ? た、タイマー予約?」
俺が間の抜けた声を出して画面に目をやると、そこに現れたのは…。

「……相変わらずの油断っぷりだな」

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 23:06:04.01 ID:N0Ezol1K0

薄ら笑いと、人を高台から見下ろすかのような態度――。
そう、数週間前に見たばかりの、あのいけ好かない未来人の顔だった。

キョン「てめえは!!」

こいつはあの愛らしい朝比奈さんを誘拐しようとした極悪非道の大馬鹿誘拐犯だ。

…名前は知らんが、いけすかないこいつの顔は忘れるはずもない。

キョン「何だ、何の用だ!? お前…まさか、また朝比奈さんをっ!?

「おいおい、何だってまたそんな愚行を繰り返さなきゃならないんだ。それよりあんたは自分たちのことを心配したらどうだ? 諾々と与えられた役割に従い、SOS団存亡に関する危機管理もせずに、酒でも飲んで憂さ晴らし…そんなところか?」

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 23:12:14.63 ID:N0Ezol1K0

なんだそりゃ…? 何もかも知っている、とでも言いたげな、得意そうな顔。心底腹がムカムカする。

キョン「存亡の危機って…何だ、部室が無くなるとでも言うのかよ」
この場の緊張を押し隠すように、俺は冗談を飛ばす。

「…おいおい、あんたも未来のことが解るような言いぐさだな」

え? こいつは何を言ってるんだ?

キョン「…とにかく。何の用、だ。早く言え」

俺は極力、感情を押し殺したつもりで画面を睨み付ける。ああ、酔いなんかとうに引いちまったさ、一瞬でな。

「用件って言われてもな。…もしあんたと紳士的に交渉なり、取引をしてそれが受け入れられると言うのなら、最初からアポでも取って菓子折持参で行ってたさ」

何だその人を小バカにしたような顔は。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/10(水) 23:18:03.03 ID:N0Ezol1K0

「それが無理そうだと判断したから、ああいう強硬手段を取った…ことぐらい、あんたにも斟酌できるだろうに」

フッと小鼻を膨らませて、口の端を挙げて笑う。ああ、人を不快にさせることに関しちゃ、コイツはかなりの凄腕だということは解った。

さっきまでの長門の笑顔に比べたら何て不愉……


――――長門?


俺は長門を振り返る。

長門はコタツテーブルに向かい、少し正座を崩したかたちで頭をうなだれて…いるままだ。

おかしい――

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 23:24:25.37 ID:N0Ezol1K0

窓が…ねえ!?
いや、窓どころか…この部屋全体が…全て、おかしな色の壁で被われたようになっている――。

キョン「長門っ! ながと、大丈夫か、何かされたのか!?」

俺は長門の元に駆け寄り、顔を覗き込む。

長門は真っ赤な顔で、笑顔のまますうすうと寝息を立てていた。

キョン「……寝てる…のか?」

ホッとしたような、しかし一抹どころか山盛りの不安を抱えつつ、俺は長門の肩を抱きながらテレビ画面に呼びかける。

キョン「お前…は、何を企んでるんだ?」

俺はそう言いながら、携帯をそっとポケットから取りだした。
果たして意味があるのかどうか解らぬが、液晶画面の未来人から見えないようにそっと開いて…。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 23:31:09.95 ID:N0Ezol1K0

「おいおい、携帯電話なんかつながるわけないじゃないか」

そいつは愉快そうに笑うと、またあの人を見下すような表情に戻り、無言で俺を見ている。

俺はその瞬間、結果はわかっていたが…リダイヤルで古泉に電話をかけた。

この前、朝比奈さんが誘拐されたとき、カーチェイスの挙げ句無事に助けることが出来たのは、そう、アイツの所属している「機関」のお陰だった。

今回もまた――頼む!

『…………』

無音だった。
無駄だと思ったがハルヒにも…つながらない。

キョン「クソッ! 何だってんだてめえ!」

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 23:38:30.18 ID:N0Ezol1K0

「今あんたらの居る部屋は、分子構造を操作させて…我々の情報制御下に掌握した、と言えば解るかな」

キョン「……何だと……」

「簡単に言えば、密室ということになる」
画面上で酷薄そうな薄い唇を歪めた、嫌な笑顔――。

キョン「……長門…起きてくれ」

俺は長門の肩をゆする。
キョン「長門! 長門よう!」

頼む、目を覚ましてくれ!

長門「……ん。…あれっ、どうしたのきょんくん…」

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 23:44:56.88 ID:N0Ezol1K0

キョン「良かった! 無事か、無事なんだな!?」

長門は目を閉じたまま、薄ら笑いを浮かべている。

キョン「おい、寝てる場合じゃないぞ。今この部屋は『大変なこと』になってるんだ!」

長門「ふふっ、二人っきりだもんね…」
ダメだ…まだ酔ってる…。

キョン「お前の力がないと、この空間から…脱出できないんだよ長門」
俺は長門の小さな肩を、最大限の配慮をしながら、しかし覚醒せしめんと何度も揺さぶる。

長門「ぁう、ぅあ…あたま…揺らさないでぇ…きょんくん…すう…」

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 23:51:21.77 ID:N0Ezol1K0

キョン「寝ちまった――ああ…もう…どうすれば…」

俺はキョロキョロと辺りを見回すが、為す術もない。

何度見ても、ベランダに面した大きな窓は一面の壁になっている。

あの時と同じ…そう、朝倉の時のことを思い出せば、所詮一介の凡人でしかない俺には、この空間を脱出することなど不可能であることは…経験済みだ…。

完全に…危険度はレッド…。

時間を、せめて時間を稼がないと――

キョン「ご、ご覧の通り長門は…酩酊している。俺は何も出来ないただの人間だ。何が目的か、話してくれないか…」

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 23:56:52.19 ID:N0Ezol1K0

「ほう、心根を入れ換えたのかな? ふん、ダテに涼宮ハルヒたちと一年間過ごしてきたわけじゃない、ってところか」

そいつはまたニヤリと口の端を歪めて笑い、そう言った。
端正な顔貌だけに、余計に腹立たしい。

「そちらで可愛らしく酔っている、対有機生命体コンタクト用インターフェース…の、長門さん。彼女がシラフでいられるとちょっと厄介なんで助かるよ、『きょんくん』、ふっ」

てめえ…ブッ殺してえ…

キョン「全部…見てやがったのか」

「そんな悪趣味な窃視癖など持ち合わせていないね。つい数分前、長門さんとは種類の違う…まあこちら側における『長門さん』みたいな存在がだな、そちらの長門さんが重度の酩酊状態にあると報告してくれた――」

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 00:04:15.44 ID:rhYBy7Si0

キョン「『そっちの長門』?」

「まあ喩えの話だよ。いずれ、あんたの前に出てくことになるかも知れないが。要するに、長門さんが本来の能力を発揮できなくなったことで、交渉が可能になったわけなのだが」

キョン「長門の酩酊…による無力化を察知して、その隙にこの空間を封鎖したのか――」

向こう側の『長門さん』て何だ? 長門のような万能宇宙人の端末が、あいつの側にも居るってことなのか…? だとしたらこちらに勝ち目は…。

長門を抱きかかえたまま、背中に嫌な汗が流れた。

「邪魔者はご酩酊中。時間稼ぎもいいが…ふっ、あとはじっくり、おまえさんたちの『絶対神』が持つ力の委譲に関して、紳士的な交渉を…」

73 名前:ID変わりましたね 1  ◆8JJfvTJa6A [] 投稿日:2010/03/11(木) 00:09:52.51 ID:rhYBy7Si0

その時だった。

――ドガアアアアン!!

轟音と共に、ベランダに通じる窓だった壁面がフッ飛んで、瓦礫が爆風を伴って俺の頬をかすめた。

反射的に寝ている長門に覆い被さる。

キョン「何だ何だ何だってんだ今度はっ!!」


視界が戻ると、煙の中に人影が見えた。



キョン「あ、あさくらっ……!?」


朝倉「ごめんねキョン君。遅くなっちゃって」

朝倉はそう言うと、俺の方を向いてペロリと舌を出して微笑んだ。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 00:15:49.47 ID:rhYBy7Si0

キョン「来て、くれたんだな!!」

緊迫したこの場面にふさわしくないセーターにエプロン姿に、気のせいか後光が射して見えるぜ…。

俺は長門を守る姿勢を取ったまま、首だけを朝倉に向けている。

液晶テレビには、相変わらずあのいけ好かない野郎が写っている。

「な…何故この空間に入ることが…?」
「――迂闊―読まれ―た――」

朝倉「あなたたちは誰? 私の有希ちゃんを、有希ちゃんの愛する人を傷つけるような真似は絶対に…許さない」

朝倉はそう言うと、微笑を浮かべたまましずしずと液晶テレビに向かって歩いて行く。
いつの間にか、その右手には…あの、忘れもしない鋭利なものが握られていた。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 00:21:51.23 ID:rhYBy7Si0

朝倉「許さないから」

次の瞬間、朝倉は目にも止まらぬ速さでサバイバルナイフを液晶画面に叩き込んだ。

バキ――――ン!!

高周波数の嫌な音と共にすさまじい閃光を放ち、液晶テレビは粉々に砕け散った。

同時に、長門の部屋全体がゆらゆらと陽炎のようにゆらぎ出した。

いつかの情報連結解除とやらの、キラキラと輝きながら消えて行くのではなく、空間自体が、まるで液体の表面のように揺らぎながら消えて行く…不思議な光景。

それと同時に、朝倉が粉砕した壁面はいつものベランダの窓ガラスに、粉々に吹き飛んだ液晶テレビや瓦礫の山も、まっさらなテレビと何もない床に置き換わっていく。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 00:27:48.82 ID:rhYBy7Si0

朝倉「…ふう。どうやら間に合ったわね」

キョン「何だったんだ…。しかし――おまえのお陰で助かった…のは確かだな、ありがとう」

朝倉はにっこり微笑むと、こちらにゆっくり歩み寄り、俺の脇へ座った。

朝倉「キョン君、有希を守ってくれてありがとう」

俺の両腕は、長門をしっかりと抱きかかえたままだった。
そう、壁が吹き飛んだ方を背にして。

キョン「…あ、こいつ…酔っぱらって寝ちまってたし…その」

朝倉はちょっとだけ微笑むと、真顔になって長門を見たまま、話し始めた。

朝倉「――この部屋が別な者の情報制御下に置かれた瞬間、私はすぐにそれを検知していたの。同時に解析を開始したわ」

81 名前:書き込みありがとう[] 投稿日:2010/03/11(木) 00:34:32.18 ID:rhYBy7Si0

朝倉「でも、どうしても空間構成情報をハッキングすることが出来なかった。どうしてかというと…」
朝倉は俺に説明する言葉を選んでいるようだった。

朝倉「私たちのデータベースにはない種類の情報封鎖だったから」

キョン「それは…どういう意味だ?」

朝倉「私たちの使う種類の情報操作とは違う手段だった、と言えば解る?」

キョン「さっきの奴が言っていたあっち側の『長門さん』とかいう奴の仕業…か?」

朝倉「そうらしいわね。情報統合思念体は宇宙に数ある生命体の一つ。他にも私たちと極めて似て…非なるものもあるのよ」

キョン「あいつはその別な端末と手を組んだ…ってわけか?」

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 00:40:51.42 ID:rhYBy7Si0

朝倉「それはまだどうか解らないけれど…」

キョン「しかし…よく突破できたな」

朝倉「おそらく、有希ちゃんの酩酊がピークになった時を狙ったのだろうけど、あせったんだと思うわ。今だ、と思ったのね。完全に堅牢な封鎖が完成する前にフライングしたみたい」

キョン「あの…未来人がか」

そういえば、車で朝比奈さんを拉致しようなんて手荒なことをした連中だ。気が短いということも考えられる…かもな。

朝倉「とにかく急いでいくつかの解析方法を連続して試す方法で突破できたこと、その突破情報から導いた方法を使って唯一接続されていたモニタ画面…のように構成された連結箇所から、崩壊因子を送り込むことが出来たけど…。おそらく…トドメは刺せてないと思う」

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/11(木) 00:46:48.00 ID:rhYBy7Si0

朝倉は少し俯いて残念そうな表情を浮かべた。

キョン「すまん、よく…解らないが…とにかく今の状況は」

朝倉「ブルー、よ。安心して」

朝倉はそう言ってにっこり微笑んだ。

その表情を見て、俺は心底安心し、思わず力が抜けそうになった。
おっと、長門を支えていたんだった。

朝倉「…有希ちゃん。そろそろ寝たふりはやめなさい」
朝倉は長門を見てそう声をかけた。

長門「…ごめんなさい…」

キョン「え? っておいっ、長門っ、起きてたのか?」

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/11(木) 00:53:26.78 ID:rhYBy7Si0

長門「…う、うん、でも気が付いたのは…少し前」

キョン「…心配させんなよ…」

長門「……ご…めんなさい」

キョン「酔っぱらって寝てたのは本当なんだろ?」

長門「それは……面目ない」
長門は真っ赤な顔のまま、蚊の泣くような声で言う。

長門「情報操作せずに酩酊した場合…わたしの能力…は著しく…ていかヒック」
まだ顔が赤いぞ長門。

朝倉「もうっ。しばらく『飲み会』は禁止ね!」
朝倉はおいたをした子を叱る母のように、長門の頭をこつりと拳でうった。

長門「…ええっ? そんな…わか…りました…」
長門はちょっと不満げだったが、自分の失態ゆえか大人しく頷いた。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/11(木) 00:59:48.52 ID:rhYBy7Si0

キョン「長門が酔っぱらうところを狙ってくるとは…油断できねえな…」
俺はホッとしつつも、これからのことを考えるとちょっとだけ憂鬱になる。

朝倉「まあお灸の意味でしばらくは…ね。でも言ったでしょ? 私は有希を守るためなら最大限の能力を発揮する…この身を賭けてでもこの子を守るわよ」

朝倉はじっと長門を見て、それから俺の方を向いて微笑んだ。

――――――

その後、俺たちはとりあえずテーブルの酒やらを片付けたのだが、長門の酔いはなかなか醒めなかった。

結局朝倉が仕方なく「有希の保護のため」だといって情報操作の許可を貰い、長門をシラフに戻したのだった。

そうして7時頃には元の…そう、無表情の長門に戻っていたが、明らかに自分の犯した失態・つまり酩酊によって何者かの情報封鎖による干渉を防げなかったこと、朝倉に救助してもらったことなどを気にしているのは、俺と朝倉には隠せない。

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/11(木) 01:06:10.78 ID:rhYBy7Si0

長門「しばらく…飲み会はやめるようにする」

朝倉「情報操作をまるでしないでお酒飲むのも、どうかと思うわよ…。はいお茶」

長門「…感謝する」

キョン「まあ…俺にも責任はあるんだし。許してやってくれ」
俺は朝倉に頭を下げた。

朝倉は両の手指を組み合わせ、俺にウインクをした。

朝倉「しょうがないわね。…じゃあ、次からは私も一緒にねっ」

キョン「ああ、ぜひお願いするよ」

俺は朝倉が淹れてくれた熱いお茶をすすりながら、小さくなっている長門の無表情…に残る、ホンの1ミクロンの「酩酊」を読み取っていた。

――――おわり

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/11(木) 01:08:05.89 ID:rhYBy7Si0

最後まで読んでいただきありがとうございます。
「作家気取り」など毛頭ありません。
朝倉さんスレで晒されたので嬉しくなって
続編を書いたのでつい「2」にしてしまいました。

長い時間お付き合いいただいて感謝、です!

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/11(木) 01:16:31.68 ID:rhYBy7Si0

乙ありがとうございます。
「2」はイタかったですね・・・ショボーン

あと酩酊1はここに置いてくれたみたいです

ttp://www.vipss.net/haruhi/1267883802.html

97 名前:[sage] 投稿日:2010/03/11(木) 01:21:24.58 ID:rhYBy7Si0

皆さんありがとうございました。

おやすみなさいノシ



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