ハルヒ「キョン!!絵を描くわよ!!」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 21:50:20.23 ID:H+fbubO+0

キョン「また、唐突だな」
ハルヒ「この間、知り合いに誘われてとある高校の文化祭に行ったのよ」
キョン(聞いてねえ、と突っ込むのも飽きてきたな……)
ハルヒ「ああ、安心して。SOS団の発展のために視察に行ったのであって、あなたたちを仲間外れにしたわけじゃないから」
キョン「で、その文化祭は楽しかったのか?」
ハルヒ「ええ、それはもう。北高と違って、生徒全員がやる気に満ち満ちていたわ!」
ハルヒ「うちのクラスにあの学校の全生徒分の爪の垢を飲ませてやりたい気分よ!」
キョン「量的に言えば、丁度腹がいっぱいになるかもな」




    ttp://www.youtube.com/watch?v=NntYkyMn6mw
個人的OP        or
     ttp://www.youtube.com/watch?v=xyqz_liuo-Q&feature=related
このSSは、稚拙遅筆のスレ主でお送りします。

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 21:52:56.25 ID:H+fbubO+0

朝比奈「涼宮さん、どんなものがあったんですか〜?」
ハルヒ「いいわね、みくるちゃん。期待通りの質問をありがとう。えっと……」

ハルヒ「じゃじゃじゃーん!」

キョン「……お」

古泉「これは……」

朝比奈「わあ……」

長門「……」

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 21:56:06.34 ID:H+fbubO+0

ハルヒ「この絵のタイトルは『文化祭の準備』よ!」

朝比奈「素敵ですね〜」
古泉「ええ。特に一部分を敢えて書きかけで残している辺りが、作者の素晴らしい才覚を感じさせますね」
長門「……(作者は途中で睡眠を始めたと推測する)」
キョン「確かに良い絵ではあるな」
ハルヒ「でしょ?でしょ?」

キョン「で、その絵はどっから拉致してきたんだ?」
ハルヒ「やーね。そんなことするわけないでしょ。この絵の作者に許可は貰ったわよ」
キョン(恐らく、向こうは奪われたと思っていることだろう。完成した力作を見知らぬ女に強奪されて、
    毎晩枕を濡らしているに違いない)

キョン「ところで、長門。今何か言ったか?」
長門「別に」

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 22:01:08.58 ID:H+fbubO+0

ゆの「ひっく……ひっく……」
宮子「ゆのっち〜、元気だしなってば」
沙英「それにしても、ゆのの絵を誘拐するなんてね」
ヒロ「酷い話ね」
沙英「それも他校の生徒なんでしょ?こりゃ、戻ってくるのは絶望的かもね」
ゆの「……!!」
ヒロ「沙英!」
沙英「あ、ああ。ごめん」
宮子「なんか嵐のような人だったみたいで、あっという間だったみたい。ギュルギュルって渦が出来ていたとの噂ですぜ」
沙英「それは言い過ぎでしょ」
ヒロ「ゆのさん、相手の名前とか学校名とか聞いてないの?」

ゆの「ひっく……ひっく……。……あ、それは聞いてます」


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 22:09:14.09 ID:H+fbubO+0

沙英「き、聞いてるの?! じゃあ、早くその学校に問い合わせしないと!」
ゆの「あ、いえ。あの人、「必ず、冬休みには返すから!」って言ってましたから、それは別に」
宮子「へー、律義な人だなー」
沙英「なんで、突然絵を掻っ攫う奴が律義なのよ!?」
宮子「あ、それもそうか。悪い奴だなー」

ヒロ「もう宮ちゃんはこれでも食べて黙っていて」
宮子「ふわーい。いただきまーふ」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 22:14:34.66 ID:H+fbubO+0

沙英「で、その子はなんていう名前で、どこの高校なの?」
ゆの「はい。このメモ用紙をもらいました」
沙英「どれどれ……。『SOS団団長 涼宮ハルヒ』?」
ヒロ「涼宮……ハルヒ?」
沙英「これだけなの、ゆの?」
ゆの「あ、いえ。裏に学校名と電話番号もありますよ」
沙英「裏って……。確かに、県立北高等学校ってある」

ヒロ「……ごめん、沙英。私、ちょっと部屋に戻る」
沙英「え? どうかした?」
宮子「モグモグ……。ヒロさん、もう張り手稽古の時間はとっくに過ぎてぶへぇ!」


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 22:19:08.29 ID:H+fbubO+0

ハルヒ「私は、この絵を見てこれだ!って思ったのよ」
キョン「また、ロクでもないことだろ」

ハルヒ「キョン! あなたはSOS団をどう思っているの!?」

キョン「はあ? 頼むから、文脈を繋げてくれないか?」
ハルヒ「はあ……。古泉くん、あなたはどう思っているの?」
古泉「そうですね。我々の絆が強く結ばれていることを『SOS団』と比喩してもいいぐらいですね」
キョン(分かりにくいぞ)
ハルヒ「うんうん。なるほど。……みくるちゃんは?」

朝比奈「ふえ!?」


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 22:26:34.51 ID:H+fbubO+0

朝比奈「そ、そうですね……。とってもいいところだな〜って思います」
キョン(うんうん。流石は朝比奈さん。答えが分かりやすく、可愛い)
ハルヒ「ふーん。……有希は?」
長門「部室の広さは、五人が行動を共にするには適した広さ。
   しかし、建物の築年数による耐久度の劣化を鑑みれば、早急な補強を提案する」
キョン(長門よ、部室の感想を言ってどうする……)
ハルヒ「なるほどね」
キョン(絶対、分かってないだろ!)

ハルヒ「で、キョンはどうなの? 考える時間はいっぱいあったでしょ?」
キョン「うぐ……」
ハルヒ「まさか、これだけ時間を挙げても、文章化できないわけ?! アンタどれだけ日本語不自由なのよ?」
キョン「うう……」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 22:32:00.63 ID:H+fbubO+0

キョン「……楽しい場所ではあると思うぞ」
ハルヒ「はあ? 時間を挙げたのにたったそれだけなの?」
キョン「仕方無いだろうが! そういうお前はどうなんだ!?」

ハルヒ「ま、何が言いたいかと言うとね」
キョン(こいつ……)
ハルヒ「今から冬休みの間までに、SOS団をテーマに絵を描こうと思うのよ!」
キョン「なんでだ?」
ハルヒ「あなたね、何でもかんでも答えだけを訊いていたら、探究心や好奇心を失くしてしまうわよ!
    人間にだけ与えられた欲求を放棄して楽しい人生なんて送れないんだから」

キョン(人間、憎悪だけでも生きていけるから大丈夫だろう)

ハルヒ「頭の退化が著しいキョンのために言うけど、私としては年が明ける前にみんなの素直な感想が観たいのよ!」

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 22:36:25.36 ID:H+fbubO+0

古泉「つまり、絵でそれを表現しろ、というわけですね?」
ハルヒ「そういうことよ。流石ね、古泉くん」
古泉「お褒め頂き、光栄です」
キョン「なんで、絵なんだ? 作文でも良いんじゃないか?」

ハルヒ「甘いわよ、キョン。絵というのは、描き手の心情を愚直なまでに表現してくれるインターフェースなのよ」
長門「……」
ハルヒ「文章ではまだ嘘がつけてしまうけど、絵だと逃げ場がないの」
ハルヒ「絵のタッチ、色、線、全てにおいて誤魔化しなど効かないわけ。
    もし、政治家が絵で外交なんかしたらこの世は世紀末になるわね」
キョン「(おい、古泉。大丈夫なのか?)」
古泉「(問題はないと思いますが?)」
キョン「(コンピ研部長氏の一件があるのにか?)」
古泉「(確かに懸念する余地はありますが、ここで意義を唱えたところで涼宮さんは止まりませんし、絵を描くだけですから)」
キョン「(いいのか……?)」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 22:41:56.96 ID:H+fbubO+0

ゆの「駄目です!!」

沙英「でも、立派な泥棒なんだよ? 犯罪だよ?」
ゆの「それでも……。警察だけは……! お願いします!」
宮子「モゴモグ……」
沙英「……どうして?」
ゆの「あの、その……。実は絵を貸してほしいって言われたとき……」
宮子「もぐもぐもぐい……」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 22:45:01.54 ID:H+fbubO+0

〜やまぶき高校 文化祭当日〜

ゆの「え? え?!」
ハルヒ「だから、この絵、貸してほしいのよ」
ゆの「ど、どうしてですか?!(まだ、未完成だから見られたくもないのに!)」
ハルヒ「どうしてって、そうね……」

ハルヒ「この絵を見ていると、素直な自分が出てきそうだから、かしら」

ゆの「え?」
ハルヒ「なんかさ、この絵からは「私はこんな絵を描きたかった!」って想いがすごく伝わってくるの」
ゆの「そ、そんなこと……」
ハルヒ「きっと、あなたがすごく真っ直ぐなんでしょうね」

ハルヒ「だから、私も絵を描いてみたいって素直に思ったの!」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 22:48:39.71 ID:H+fbubO+0

ゆの「絵を、ですか?」
ハルヒ「うん! だから、この絵を貸してほしいのよ。私の団員にも見せてやりたいし、何より手本にさせてもらうから!」
ゆの「え? えぇぇぇぇ〜!!」
ハルヒ「あなた、さっきから感嘆が多いわよ」
ゆの「だって、だって、私の絵をお手本なんか……。へ、下手糞だし、その、絵はまだ……」
ハルヒ「何を言ってるのよ! この私が手本にしてあげるっていってるんだから自信持ちなさい」
ゆの「で、でも……」
ハルヒ「でもも、へちまもないの! とにかく、この絵は借りていくわよ。必ず、冬休みまでには返すから! いいわね?!」
ゆの「え、あの……」

ハルヒ「はいこれ、私の連絡先ね。あと、あなたはどこに住んでるの?」
ゆの「え、と、学校の前にある『ひだまり荘』ですけど……」
ハルヒ「なるほど。分かりやすいわね。それじゃ」


ゆの「あ、あの〜……。いっちゃった……」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 22:53:26.76 ID:H+fbubO+0

〜ひだまり荘〜

沙英「つまり、嬉しかったんだね?」
ゆの「……」
沙英「自分の絵をお手本にして、絵を描くと決心した人を見て、嬉しくなったんだ?」
ゆの「……はい」
沙英「お人よしというか、なんというか。まあ、ゆのらしいけどさ」

宮子「モグモグ……。そふぉが、ゆおっひのひひとほろ」
沙英「宮子、食べながら話さない」
宮子「ふぁーい」
ゆの「あはは……。……あの沙英さん……」
沙英「うん。ゆのが良いなら、もう何も言わない。向こうの連絡先も分かってるし、いざとなれば乗り込めばいいしね」
ゆの「……ありがとうございます!」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:00:53.14 ID:H+fbubO+0

〜数日後 SOS団部室〜

キョン「とりあえず、これだけ画材道具があればキュビスムだろうがダダイスムだろうが怖くないだろ」
ハルヒ「そうね。ルネサンスの出鼻を挫くこともできるわね」
キョン(実際に出鼻を挫かれたのは、泣きながら画材一式を譲ってくれた美術部のほうだがな。もうすぐコンクールがあると言ってたのに)

ハルヒ「さて、諸君。これから『SOS団』を絵にしてもらうわけだけど、何か不安や要望はあるかしら?」
キョン(俺は、お前の未来が不安だね)
朝比奈「あの〜、涼宮さん」
ハルヒ「なに、みくるちゃん?」
朝比奈「何を使ってもいいんですか?」
ハルヒ「それは勿論よ。クレヨンでも色鉛筆でもクレパスでも良いわよ」
朝比奈「そうなんですか〜。どれが良いのか迷いますね〜」

古泉「涼宮さん。完成した絵はどうするのですか?」
ハルヒ「ああ、それは秘密。ま、悪いようにはしないから」
キョン(とりあえず悪いことにはなりそうだな……)

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:06:34.49 ID:H+fbubO+0

古泉「……」
長門「……」
朝比奈「……」
ハルヒ「……」
キョン(みんな黙々と描き始めたな……。俺はなにを描こうか……)
キョン(SOS団かぁ……)

ハルヒ「……(チラッ」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:07:51.03 ID:H+fbubO+0

〜海を望む坂〜

キョン「結局、なーんにも描けなかったなあ」
古泉「恥ずかしながら、僕もです。中々、難しいものですね」
キョン「大体、いきなり『SOS団について絵にしろ』なんてなぁ」
古泉「……気になっているのでしょう」
キョン「何がだ?」
古泉「勿論、我々のことです。彼女もああ見えて、人の気持ちが気になっているのですよ」
キョン「バカな。アイツは男の目の前でいきなり服を脱ぎだすような奴だぞ?」
古泉「んふ。最近、そんなことがありましたか?」
キョン「……そういえば」
古泉「彼女は、変わっているのです。そして、今回はあの絵を見て、また変わろうとしています」

ハルヒ「そしたらさ、その化石がツチノコっていう奴で……」
朝比奈「……つ、ちのこ?」

キョン「そうなのか……?」


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:10:24.57 ID:H+fbubO+0

〜ひだまり荘101号室〜

ヒロ「涼宮、ハルヒさん……」

ヒロ「今更……だけど……」

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:16:57.67 ID:H+fbubO+0

〜一ヶ月後 ひだまり荘201号室〜

ゆの「沙英さん、最近ヒロさんの様子がおかしくないですか?」
沙英「うん……。なんか暗いんだよね……」
ゆの「どうしたんでしょうか?」
沙英「さあ、あの涼宮ハルヒって人の名前を聞いたときから変な感じではあったけど……」
ゆの「涼宮さんのことを知っているんでしょうか?」
沙英「まさか。でも、ありえるのかな?」
ゆの「聞いてみましょう」

宮子「ぐがー」
沙英「宮子は……置いていこう」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:20:23.49 ID:H+fbubO+0

沙英「ヒロー! 居るんでしょ? 出てきてくれない?」

ヒロ「……なに?」
ゆの「お休み中、ごめんなさい。最近、様子がおかしいみたいなので、どうしたのかなって」
ヒロ「ごめんなさい、ゆのさん。別に大したことじゃないから……」
沙英「……」
ヒロ「じゃあ、私、やることがあるから」

ゆの「あ! ヒロさん!」
沙英「……ヒロ」
ゆの「どうしたんでしょうか、明らかに変です、よね?」
沙英「うん……」

宮子「おおーい、ゆのっち! どこだー!」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:21:13.92 ID:H+fbubO+0

ゆの「宮ちゃん? どうしたの?」
宮子「ああ、良かった。見つかった。で、ヒロさんは?」
ゆの「それがよくわからなくて」
沙英「じゃあ私、仕事があるから……」
ゆの「あ、沙英さん!」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:26:12.84 ID:H+fbubO+0

宮子「ありゃりゃ、喧嘩かね?」
ゆの「うーん、そういうわけでもないみたいだけど。……それより宮ちゃん、何か用事があったんじゃ?」
宮子「おおー、そうだった。今さ、吉野家先生から電話があったんだよ」
ゆの「吉野家先生から?」
宮子「うん。なんでも涼宮ハルヒって人からゆのっちに伝言があるとかなんとか」
ゆの「え?!」
宮子「ゆのっちから学校へ電話してほしいってさ」
ゆの「う、うん、わかった! すぐに電話してみる! ありがとう宮ちゃん!」
宮子「いえいえ〜」

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:29:08.59 ID:H+fbubO+0

〜ひだまり荘201号室〜

吉野家『は〜い、ゆのさん?』
ゆの「もしもし、吉野家先生、こんばんわ」
吉野家『あら〜、電話から聞こえてくるゆのさんの声はセクシーね。ふふふ』
ゆの「あ、はい。ありがとうございます。それで、あの……」
吉野家『伝言のことですね。涼宮ハルヒって子からなんだけど、お知り合い?』
ゆの「あ、はい。そうです」
吉野家『そうなの。意外と交友関係が広いのね』
ゆの「それで、あの、なんて言っていましたか?」
吉野家『あのね、一ヶ月後に遊びにいくから伝えておいて下さいって言っていたけど』
ゆの「一ヶ月後……ですか」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:30:32.72 ID:H+fbubO+0

吉野家『ええ。ただ他校の生徒さんを無闇に校内へいれちゃ駄目ですよ? 校内で何かをするときはちゃんと事前に言ってくださいね』
ゆの「あ、はい。分かりました」
吉野家『でも、他校の生徒さんを招いて、一夜限りのアバンチュールを楽しむなんて……キャー』
ゆの「あ、あばんちゅーる?」
吉野家『そう。それは禁断の……あぁ、校長……。これは違うんです。ただ、その、生徒に恋愛のイロハを……(ブツ!」
ゆの「あれ? 切れちゃった……」

ゆの「一ヶ月後に来るんだ……。絵は出来上がったのかなぁ」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:32:48.51 ID:H+fbubO+0

〜放課後 SOS団部室〜

ハルヒ「できたー!!」

キョン「いきなりデカイ声を出すな。心臓と鼓膜に悪いだろうが」
ハルヒ「何よキョン、心臓も鼓膜もそんなに弱くないから安心しなさい。あなたが心配するのは足りない脳みそだけで十分よ」
キョン「そういう問題じゃねえだろ。それとさりげなく貶すな」
古泉「ところで、涼宮さん。絵のほうを拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」
ハルヒ「ええ、構わないわよ」

古泉「では、失礼して……」

キョン(なんだ? 古泉の奴、固まったぞ)
朝比奈「私も見たいです〜」
長門「……」

朝比奈「……」
長門「……」
キョン(おいおい、朝比奈さんも時間を止めたように微動だにしなくなったぞ。長門も若干瞳孔が広がったように見えなくもない)

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:35:51.41 ID:H+fbubO+0

ハルヒ「私の絵を見たら、誰でも言葉を失うに決まっているじゃない」
キョン「そんなものか……? どれどれ」

キョン「こ、これは……」
キョン(俺はてっきり、フォーヴィスムも裸足で逃げだし、向こう100年は誰にも理解されないであろう抽象絵画とばかり思っていた)
キョン(だが、ただ白かった平面に描き足されていたそれは、普通の鉛筆画だった)
キョン(白と黒のみで描かれていたのは、ここ。SOS団の部室だ)
キョン(俺達がいつも暇を余している部屋、長門がいつも座っている椅子、朝比奈さんの衣装、古泉が持って来ては詰んでいくボードゲームの山……)
キョン(そして、団長がいつも険しい顔で鎮座している場所。それら全てが正確に、柔らかく、そして穏やかにもう一つの世界として確かに存在していた)

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:37:30.54 ID:H+fbubO+0

朝比奈「す、すごいです」
古泉「本当に芸術と呼べる絵といえますね」
長門「……」
ハルヒ「それぐらいは当然よ。中学生のとき少しの間だけど、美術教室にも通っていたし、コンクールで金賞を貰ったこともあるわ」
キョン(相も変わらず多才な奴だ)
キョン「それにしても、お前がこんな絵を描けるなんて思いもしなかった」
ハルヒ「失礼ね。どういう絵を想像してたの?」
キョン「てっきり、ホームページに載せた幾何学模様みたいな奴か、ピカソも真っ青な感じかと」
ハルヒ「初めはそうしようかとも思ったけど、今回はそういう絵のタッチじゃ表現できそうになかったのよ」
古泉「何を、でしょうか?」

ハルヒ「……素直な気持ち、よ」

キョン「お前、熱でもあるのか?」
ハルヒ「な、なによ! 別に可笑しくないでしょ! 私は今、これを描きたかったんだから!!」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:39:25.65 ID:H+fbubO+0

ハルヒ「わ、私はもう帰るわ! みんなは居残りでがんばりなさいよ! 戸締りもよろしく!」

キョン「どう思う、古泉?」
古泉「流石に驚きましたね。僕もあなたが先程述べた通りの絵を描いているものだとばかり思っていましたから」
キョン「どうしてこんな絵を描いたんだろうな? ハルヒっぽくないからすごく気持ち悪いぜ」
古泉「これは僕の推測ではありますが、やはりあの絵が大いに影響しているのではないでしょうか?」
キョン「あの『文化祭の準備』か」
朝比奈「とても優しい絵ですもんね」
古泉「彼女が外的要因に影響を受けるということ自体が、にわかに信じられないことではありますが、それぐらいしか考えられませんしね」
キョン「うーん……」

長門「涼宮ハルヒはあの絵に影響されたわけではない」

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:41:22.72 ID:H+fbubO+0

キョン「どういうことだ?」
長門「涼宮ハルヒはあの絵の作者に感化されている」
古泉「作者、ですか?」
長門「そう」
古泉「どうしてそれが分かるのですか?」
長門「涼宮ハルヒが自分で発言していた。『絵というのは、描き手の心情を愚直なまでに表現してくれるインターフェース』であると」
古泉「なるほど。正確には、あの絵から感じ取った作者の心情や想いに感銘を受けて、涼宮さんは同じような絵を描きたくなっただけであり、
   絵自体にはあまり惹かれていない?」
長門「そう」
キョン(珍しいな。いや、初めてかもしれない。長門が人の心について説明するなんて)

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:43:31.82 ID:H+fbubO+0

キョン「長門」
長門「何?」
キョン「ハルヒの描いた絵は、不思議空間に人を紛れ込ませたりするものじゃないんだろうな?」
長門「その心配はない」
キョン「そうか。胸を撫で下ろせるな」
長門「ただし、涼宮ハルヒは無意識下に描いた絵の中へ同位形状異空間を形成させた。
   架空の同位空間を描いてしまったことが原因。涼宮ハルヒは平面上に新たな世界を構築したともいえる」

キョン「……はあ、胸焼けしそうだ」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:44:55.35 ID:H+fbubO+0

〜ひだまり荘101号室〜

ヒロ「ゆのさんの話だと、近いうちに涼宮さんが来る頃みたい」

ヒロ「早く……! 早くしないと……!」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:46:59.71 ID:H+fbubO+0

〜一か月後 ひだまり荘〜

ゆの「最近、ヒロさんと殆ど喋ってない気がする……」
宮子「そうだねえ。わたしもお腹がよく空くようになったよ」
ゆの「はあ」
宮子「そう言えば、あの涼宮ハルヒって人はもうすぐ来るんじゃないの?」
ゆの「う、うん。実は昨日電話があって、日曜日にここへ来るみたい」
宮子「そうなんだー。あ、準備しなきゃなー」
ゆの「準備って?」
宮子「ベリマで買い物するんだけど、ゆのっちも行く?」
ゆの「あ、うん」

ゆの「沙英さんも部屋に引き籠ってばかりだし、みんなの心がバラバラになっていくみたい」
ゆの「なんだか、怖い……」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:49:13.66 ID:H+fbubO+0

〜放課後 SOS団部室〜

ハルヒ「みんな、描けた? 今日が絵の提出期限よ」
キョン(無論、初耳だ)
ハルヒ「さーて、まずはみくるちゃんから見てみようかな?」
朝比奈「少し恥ずかしいですぅ」
ハルヒ「いーから、いーから。見せてみなさい、ひっひっひ」
キョン「お前はどこぞの悪代官かよ」

ハルヒ「結構、良い感じじゃない。絵本みたいね」
朝比奈「あ、はい。涼宮さんが一番前にいるんですよ」
キョン(朝比奈さんのSOS団イメージ図は、実にメルヘンチックだった。木々に囲まれた場所に旧館と思しきものが小さく描かれ、
    三頭身ほどの団員五人がそれを取り囲むように微笑んでいる。ハルヒにだけ天使の翼が生えているのは、恐らく朝比奈さんなりに気遣いなのだろう)
キョン(とはいえ、いつまでの朝比奈さんの愛らしい空気に浸っている場合ではない)

キョン「(長門、なんとか異空間ってやつはどうなったんだ?)」
長門「(同位形状異空間はあの絵の中に存在し続けている。二次元空間内で凝固してしまっているため、原因分子の排除は実質不可能)」
キョン「(何故だ?)」
長門「(あの絵を消去するしかないから。涼宮ハルヒはそれを決して許さない)」
キョン「(それは、無理だな)」
長門「(無理)」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:50:42.55 ID:H+fbubO+0

〜夕方 ベリマート〜

ゆの「宮ちゃん、涼宮さんのためにお菓子でも買うの?」
宮子「え? 違うよ〜?」
ゆの「え?」
宮子「え?」

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:51:27.31 ID:H+fbubO+0

ゆの「じゃあ、なんのために?」
宮子「ヒロさんから頼まれてさ、沙英さんのご飯を買っておいてくれって」
ゆの「え、どうしてヒロさんが行かないんだろう。いつも買い出しはヒロさんがしてたのに」
宮子「さあ? 獅子は我が子を崖から突き落とすと言いますしな」
ゆの「それ、なんか違うよ、宮ちゃん」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/02(火) 23:52:55.44 ID:H+fbubO+0

ゆの「宮ちゃんはヒロさんが何をしているか知ってるの?」
宮子「うんや。でも、涼宮ハルヒって人にどうしても見せたいものがあるとかなんとか言ってたけど」
ゆの「見せたいもの……?」
宮子「シコでも踏んで見せるのかな?」
ゆの「宮ちゃん、また怒られるよ」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 00:02:25.46 ID:uTebWJQc0

〜SOS団部室〜

ハルヒ「じゃあ、次は古泉君ね。どれどれ」
古泉「自分の作品を人に見られるというのは、恥ずかしいものですね」
ハルヒ「うん。古泉君もよく描けてるわよ」
キョン(古泉は、普通に部室の風景を絵の具で描いていたのだが、絵の中ではありもしない赤い糸が机に並べられていた。絆をイメージしたらしい)

キョン「(長門。同位なんとか異空間って奴は、どんなことが起こるんだ?)
長門「(何かを引き金にして、絵の中の空間とこちら側の空間が入れ替わる可能性が高い)」
キョン「(入れ替わるとどうなるんだ?)」
長門「(世界に『色』が存在しなくなる。ただし、『色』という概念も同時に消失するため、疑念を持つ者は我々以外にいないと推測する)」
キョン「(鉛筆で描いただけだからか?)」
長門「(そう)」
キョン「(それは未然に防げないんだよな?)」
長門「(不可能ではない。しかし、それには二次元空間内の情報をデリートしなければならない。先ほども言ったように涼宮ハルヒはそれを許可しない。
    一度、世界を入れ替えたあと、瞬間的に空間を修繕する方が合理的で確実)」
キョン「厄介、だな」

ハルヒ「何が厄介なのよ。キョン、早くアンタの絵を見せなさい」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 00:03:57.56 ID:uTebWJQc0

ハルヒ「これが、キョンの気持ちなのね……」
キョン「なんだ、不満か?」
ハルヒ「いいえ。次は有希よ」
長門「……」

ハルヒ「……あら。有希も良い絵を描いてるじゃない」
キョン(予想通りであるが、長門の絵は写真と言っても過言ではない出来である)
キョン(ただ、俺には長門の絵がどこか食い違っているように思えた。理由はわからんが)

キョン「ところでハルヒ、いい加減この絵をどうするか教えてくれないか?」
ハルヒ「そういえば、まだ言って無かったわね。そうね、もう明日だし発表しましょうか」

ハルヒ「みんなの絵で美術科の鼻をあかしてやるのよ!!」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 00:07:24.12 ID:uTebWJQc0

〜夕方 ひだまり荘〜

宮子「ヒロさーん、ご飯買ってきたよ〜」

ヒロ「宮ちゃん、ありがとう。じゃあ、沙英のところまで持って行ってくれる?」
ゆの「ヒロさん、どうして自分で持って行かないんですか?」
ヒロ「ごめんなさい。今は優先したいことがあるから……」

ゆの「そ、そんなの変です!」
宮子「ゆのっち……」
ゆの「ヒロさんにもやりたいことがあるのは分かります! でも、でも、それは沙英さんを避けてまでやらないといけないのでしょうか?」
ヒロ「そ、そんなつもりじゃ……」

沙英「ゆの、もういいよ」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 00:08:36.99 ID:uTebWJQc0

ゆの「沙英さん……」
ヒロ「沙英……」
沙英「ヒロの邪魔をするつもりはない。でも、何をやっているのかぐらいは教えてくれてもいいんじゃない?」
ゆの「そうです。何をしているかぐらい教えてください!」
宮子「そうだぞー。一人でちゃんこ鍋でもしてるんですかー?」

ヒロ「そうね。ごめんなさい。少し夢中になり過ぎてて、みんなの気持ちを考えてなかったかも」
沙英「ヒロ……」
ヒロ「みんな、入って。お願いがあるの……」



休憩します。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 00:23:27.44 ID:uTebWJQc0

〜海を望む坂〜

古泉「どうやら涼宮さんは、あの絵の作者に対抗意識を持っていたのですね」
キョン「だろうな。考えてみれば、地域の美術コンクールが間近に控えているのに、そんな話が一切なかったからな」
古泉「いつもの彼女なら間違いなく、そのコンクールに絵を出展し、金賞を狙うでしょうしね」
キョン「全くだ」

古泉「それにしても、涼宮さんもライバル意識というのを持つのですね。彼女はそんな感情とは無縁だと思っていました」
キョン「そりゃ、偶には持つだろ」
古泉「彼女は、幼少時代からなんでも卒なくこなし、どれも優秀な結果を残しています」
キョン「腹立たしい経歴だな」
古泉「そういうタイプの人間は、劣等感と妬心が皆無であるということですよ」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 00:24:45.89 ID:uTebWJQc0

古泉「自身の能力が高いわけですから、他人に対して劣等感を感じることはまずありえません。
   更に周囲から追われることも抜かれることもないため、誰かを嫉妬することも、背後からの影に怯えることもない。
   ただ、涼宮さんの場合は努力家で負けず嫌いでもありますから、常に誰よりも一歩先を歩いていたという貪欲なまでの向上心はありますが」
キョン「未来人や宇宙人、超能力者には劣等感を感じてるだろ」
古泉「んふ。確かにそうかもしれませんが、それとこれとは別ですよ。そもそも彼女はそんな存在を否定しているのですから」

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 00:26:00.91 ID:uTebWJQc0

キョン「にしてもお前の言うとおりなら、あの絵の作者に嫉妬したってことか?」
古泉「それは測りかねますが、少なくとも羨望の目を向けていたようには思います」
キョン「あ? 何が羨ましいって思ったんだ?」
古泉「素直な気持ち、ではないですか?」
キョン「まさか。ハルヒほど直情径行な人間もいないだろ」
古泉「ふふ、人間は一番素直にならなければいけないときに、何故か素直になれない生き物ですから」

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 00:28:16.64 ID:uTebWJQc0

ハルヒ「明日は絵を持って八時に駅前集合ね。遅刻したら、死刑だから。いいわね?」
キョン「俺だけを見て言うな」
ハルヒ「じゃあね、みんな」
朝比奈「はーい。また明日」
古泉「それでは」

長門「……」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 00:29:46.24 ID:uTebWJQc0

〜翌日 やまぶき高校前〜

ゆの「あ、来たよ、宮ちゃん!」
宮子「あの五人組み?」
ゆの「多分。真ん中にいるカチューシャつけた女の子が涼宮さんだから」
宮子「おー、遠くから見ても美人ってわかるなー」

ハルヒ「やっほー、久し振りね」
ゆの「あ、はい。お久しぶりです」
キョン「なんだハルヒ、絵の作者って小学生だったのか? 高校の文化祭っていうから俺はてっきり……」
朝比奈「わぁ、かわいいです」
ゆの「うう……みやちゃーん……」
宮子「あー、これでもゆのっちは高校一年生なんだよねー。あまり苛めないでくれたまえー」

ハルヒ「あれ? そうだったの? 私も中学生ぐらいかと思ってたわ」
ゆの「ガーン!」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 00:31:31.52 ID:uTebWJQc0

ハルヒ「そういえば、まだちゃんと自己紹介してなかったわね。私は涼宮ハルヒ、あなたは?」
キョン(なんでこいつは、人としての礼儀をいつも一段飛ばしにしているんだろうか)
ゆの「わたしは、ゆのっていいます」
宮子「私は宮子っていいまーす。宮でいいからね。もしくは清美」
キョン(誰だよ)

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 00:37:40.14 ID:uTebWJQc0

朝比奈「こんにちは。私は朝比奈みくるといいます」
ハルヒ「ロリ顔で巨乳だけど、高校二年生なのよ」
ゆの「そうなんですか。じゃあ、朝比奈先輩ですね」
朝比奈「いえいえ、気軽にみくるちゃん、とお呼びください」
宮子「おや。ゆのっち、ゆのっち。みくるちゃんってヒロさんに似てない?」
ゆの「え、そうか、な? 声は似てるかも……」

ハルヒ「(ヒロ……?)」

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:17:51.23 ID:uTebWJQc0

古泉「はじめまして。古泉一樹です」
長門「長門有希」
ゆの「あ、はい。どうも、はじめまして。長門さん、古泉さん」
古泉「あの『文化祭の準備』を見させていただきました。とても良い作品ですね」
ゆの「え、あ、はい。あ、ありがとうございます」

宮子「うーん。古泉くんはゆのっちが苦手なタイプかもね」
キョン「あいつが同世代の女子に敬遠されるとこなんて初めてみたな」
宮子「まあ、ゆのっちは元々男子が苦手だからねぇ。で、あんたは誰だ?」
キョン「え? そうか、俺は……」

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:19:03.34 ID:uTebWJQc0

ハルヒ「そいつはキョンって呼ばれることにこの上ない快感を得ているから、そう呼んであげて」
キョン「誰がだ!」
ゆの「キョンさん、はじめまして」
宮子「キョンくん、よろしくねー」
キョン(この宮子って人は、鶴屋さんと気が合いそうだな)


ごめん。風呂入ってた


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:20:45.63 ID:uTebWJQc0

ハルヒ「まずは借りていた物を返すわね。どうもありがとう」
ゆの「いえ。こちらこそ、こんな絵をお手本にして本当に良かったのですか?」
ハルヒ「前にも言ったけど、私が手本にするってことは、それだけの作品ってことなのよ?」
ゆの「で、でも……」
キョン「ハルヒ、一流の画家っていうのは常に完ぺきを求めているものなんだよ。
    出来上がった作品に満足することはないって聞くぜ?」
ハルヒ「まあ、それも一理あるかもね」

ゆの「い、一流だなんて……」

宮子「うお! またゆのっちの鼻が伸びた!」
朝比奈「……?」

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:21:54.94 ID:uTebWJQc0

ヒロ「涼宮さん」

ハルヒ「え?」
キョン「ん?」

ゆの「あ、ヒロさん。紹介します。私たちの一年上の先輩で、ヒロさんです」
朝比奈「どうも、はじめまして。朝比奈みくるです」
古泉「……どうも」
長門「……」
宮子「おや?」

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:23:12.35 ID:uTebWJQc0

ヒロ「……」
ハルヒ「……?」
キョン「おい、ハルヒ。知り合いか?」
ハルヒ「どこかで、見たことあるような……」

ゆの「あ、あの涼宮さん!」
ハルヒ「な、なによ?」
ゆの「みなさんも一緒にこちらへ来てもらえますか?」
キョン「学校の方か」

宮子「私、沙英さん呼んでくるねー」

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:24:25.69 ID:uTebWJQc0

〜やまぶき高校 廊下〜

朝比奈「なるほど。あのひだまり荘に男の子は入れないのですか」
ゆの「そうなんです。ごめんなさい」
古泉「いえいえ、お気遣いなく。我々が無理を言ったのですから。それに校内へご招待して頂いただけでも満足です」
ゆの「そ、そういって頂けると、た、助かります……」

キョン「(おい、ゆのはお前のことが苦手なんだから、あまり話しかけてやるな)」
古泉「(んふ。そうですか。残念です。とても魅力的な人なので、色々とお話をしたかったのですが)」
キョン「(このロリコンめ)」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:25:38.59 ID:uTebWJQc0

ハルヒ「あー!!」
キョン「なんだ! 空襲警報か!?」
ハルヒ「何バカなこと言ってるのよ! 思い出したわ! ヒロってあのときの……!?」
ヒロ「……そうです。あの時の、ヒロです」

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:26:35.26 ID:uTebWJQc0

キョン「あのときって、なんだ?」
ハルヒ「私が美術教室に通っているとき、いつも私の隣で絵を描いていた人なの」
朝比奈「そうなんですか?! すごい偶然ですね!」

古泉「……」

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:28:29.61 ID:uTebWJQc0

ハルヒ「もう何年前かしら。たしか二、三年前ぐらい?」
ヒロ「それぐらい経つかもね。涼宮さん、あのね、あなたにずっと見てもらいものがあったの」
ハルヒ「え、なにを?」

キョン「(まさか……!)」
古泉「(いえ、彼女は普通の人ですよ)」
キョン「(調査済みか)」
古泉「(ちなみにゆの、宮子、あと沙英という方も一般人でした)」
キョン「(ちなみにどこまで調べた?)」
古泉「(んふ。想像にお任せします)」


ヒロ「こっちです」

長門「……」

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:30:07.73 ID:uTebWJQc0

〜やまぶき高校 美術室〜

ヒロ「ずっと、あなたが羨ましかった」
ハルヒ「な、何よ。急に」

ヒロ「小学校3年生ぐらいから私はあの美術教室に通っていた。それなりに技術も身につけていたつもりだった」
ヒロ「でも、中学生に上がったとき、あなたが現れた。そして、たった一カ月ほどでとあるコンクールで金賞を取った」
ヒロ「それは、私がずっと憧れていたコンクールの金賞だった……」

ハルヒ「ちょっと、あなた……」

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:31:28.92 ID:uTebWJQc0

キョン「そうなのか?」
ゆの「私も、つい先日ヒロさんと涼宮さんの関係を聞いたんです」

朝比奈「あの、止めなくていいのでしょうか?」
ゆの「大丈夫です、みくるさん。ヒロさんはずっと……」

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:32:23.14 ID:uTebWJQc0

ヒロ「そんなあなたが、羨ましかった。だから、ずっとあなたを目指していた」
ヒロ「隣に居続けたのも、技術を盗むため。話しかけたのも、あなたの感性が知りたかったから」
ヒロ「でも、どれも理解できなかった……」

キョン(まあ、あいつの感性を解読できるなら、その時点でそいつの感性はぶっ壊れてるからな)

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:33:05.70 ID:uTebWJQc0

ハルヒ「なんか誉められているのか貶されているのか、よくわかんないわね」
ヒロ「誉めてますよ。心から」
ハルヒ「……そう。ならいいけど」

ヒロ「……これをあなたに」
ハルヒ「これは?」
ヒロ「布をとってみてください」

長門「……」

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:34:02.48 ID:uTebWJQc0

キョン(ハルヒが布をとると、そこには三年前のハルヒが映し出されていた。
    可愛げのないしかめっ面で、黙々とデッサンをしている髪の長いハルヒが、そこにいた)

ハルヒ「これは……。私……?」
ヒロ「ずっと、あなたに観てもらいたかったの。そして、あなたに評価してもらいたかった」
ヒロ「でも、あの頃はあなたの才能に気圧されて、そんな勇気がなかった。それに年下だし」
ハルヒ「……」

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:35:14.12 ID:uTebWJQc0

ヒロ「本当は下書きばかりを繰り返していただけで、完成には程遠いものだったのだけど。あなたが来るって聞いて、必死になって仕上げたの」
ヒロ「何度も何度も書き直したけど、全然上手くできなくて。ゆのさんたちに心配をかけてしまったぐらいなの」

ゆの「……」

ヒロ「どうかしら、私の絵は……?」


73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:35:54.78 ID:uTebWJQc0

ハルヒ「……全然、駄目ね!!」

ゆの「えぇぇぇ!?」

キョン(おいおい……。言うと思ったが)

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:38:30.36 ID:uTebWJQc0

ハルヒ「確かに技術的には評価できるわ。美術教諭が諸手を挙げて推薦をくれるほどにね」
ハルヒ「でも、私から言わせれば、こんな妬みと猜疑心だけで描かれた絵なんて不快なだけよ」

ハルヒ「はい。やり直し。私から良い評価をもらいたかったら、もっと素直になることね」

ヒロ「……」

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:39:43.15 ID:uTebWJQc0

キョン「おい、ハルヒ! ちょっと言い過ぎだぞ!」
朝比奈「あわわわ」
ゆの「ヒロさん……」

ハルヒ「かわりに私の作品を見せてあげる。ゆのの作品からヒントを受けて描いたものよ」



長門「……深層空間、展開。排斥プログラム起動。あなたと朝比奈みくるの安全を最優先……」
キョン「え?」

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:41:50.09 ID:uTebWJQc0

〜やまぶき高校 廊下〜

宮子「沙英さん、はやーくー。ゆのっちとヒロさんも待ってるよ」
沙英「うう……。だって、締め切りだったんだから仕方ないでしょ……。眠い」
宮子「ヒロさんがハルっちに袋叩きにあっているのかもしれないぞー」
沙英「ハルっちって誰?」
宮子「涼宮ハルヒだから、ハルっち」
沙英「あ、そう。でも、袋叩きってことはないんじゃない? あの絵は私たちの技術の粋を……」

キョン「ぐわぁ!!」
朝比奈「きゃあ!」

宮子「お、キョンくんとみくるちゃんが美術室から飛び出した。なんの遊びかな?」
沙英「遊びって……。投げ出されたように見えたけど」

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:42:55.03 ID:uTebWJQc0

キョン「おい! 長門! 一体どうしたんだ!?」
長門『今は危険。空間歪曲が発生している』
キョン「どういうことだ!?」
長門『涼宮ハルヒの深層意識が具現化した』

キョン「意味が分からない」


78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:44:15.01 ID:uTebWJQc0

古泉『分かりやすくいうと、涼宮さんの『絵』が閉鎖空間となって、表に飛び出したのです』
キョン「閉鎖空間? こんなときにか?」
古泉『ええ。かなり強いストレスを感じたようです。仲間との連絡も取れません』

長門『具現化の拡大は辛うじて防いでいるが、防御壁が瓦解するのも時間の問題』
キョン「ストレスって、なにが原因だ?」
古泉『それは、……で……』

キョン「おい! 古泉! 長門!」

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:45:07.20 ID:uTebWJQc0

キョン「くそ! 扉があかない!」
朝比奈「キョ、キョキョ、キョンくん、どどどどうしましょう……!」

宮子「ねえねえ、なにしてんの?」

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:46:12.55 ID:uTebWJQc0

キョン「あ、えと、宮子さん!」
宮子「宮でいいってば。または美奈子。……で、なにかあったの?」
キョン「そ、それは……」

朝比奈「うーん、うーん! あ、かな、い!」
宮子「え? 扉が開かないの? よーし、この宮子にまかせろー」

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:47:29.89 ID:uTebWJQc0

キョン「くそ! どうしたら……! 長門に任せるしかないのか……?」

沙英「ねえ、この絵がどうしてここにあるの?」
キョン「え?」
キョン(ヒロさんの絵か。……ってなんで外にあるんだ?)

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:48:14.41 ID:uTebWJQc0

沙英「あなたが持ち出したの?」
キョン「いえ、これは確かにヒロさんが……」
キョン(……ストレス……。絵……。ハルヒ……)

キョン「そ、そうか! す、すいません、えーと……」
沙英「沙英」
キョン「沙英さん! 付き合ってください!」
沙英「……え?」

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:49:27.55 ID:uTebWJQc0

〜ひだまり荘〜

沙英「下書き?」
キョン「そうです。あの絵の下書きは無いんですか?」
沙英「多分、探せば見つかると思うけど……」
キョン「必要なんです! お願いします!」
沙英「わ、わかった……。ちょっと待ってて」

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:50:19.84 ID:uTebWJQc0

沙英「これスケッチブックなんだけど、いいの?」

キョン「もちろんです! 行きましょう!」
沙英「は、はい」

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:51:39.79 ID:uTebWJQc0

〜やまぶき高校 廊下〜

宮子「だめだー。全然開かないー。というか、この扉が絵みたいな感じだ」
朝比奈「絵?」
宮子「うん。それも冷たい絵。誰にも触れてほしくないって言ってる気がする」
朝比奈「そうなんですか?」
宮子「この扉を描いた人は、『扉』を開けてほしくないのかも」

朝比奈「……すいません、よくわかりません」

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:52:47.37 ID:uTebWJQc0

キョン「朝比奈さん! どうですか?」
朝比奈「キョンくん! いえ、まだ変化はありません」
キョン「それは良かった。……沙英さん!」
沙英「は、はい」
キョン「そのスケッチブックに開いた扉の絵を描いてもらえませんか? できるだけ穏やかな気持ちで」
沙英「え、どうして?」
キョン「いいから、お願いします!」
沙英「で、でも」

宮子「沙英さん、借りるよ!」

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:53:45.00 ID:uTebWJQc0

宮子「はい、どうぞ」
キョン「う、うまい!」
宮子「もうちょっと凝りたかったけどねー」
キョン「助かった! ありがとう!」
宮子「いやいや、お安い御用だよ。……ゆのっちとヒロさんを頼んだぞ、キョンくん」
キョン「……ああ」

キョン「よし、いくぞ!」


沙英「き、消えた……!?」
朝比奈「キョンくん……」

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:55:14.21 ID:uTebWJQc0

〜????〜

キョン「ぐ……! なんだここは……?」
キョン(黒と白のみで彩られたSOS団の部室……。そして鼻孔を刺激する強烈な木炭の臭い……)
キョン(長門が言っていた、ハルヒの絵の世界か)

キョン「長門! 古泉! ゆの! ヒロさん!」

キョン(いや、ここで呼び出せるのは、このスケッチブックに描かれたハルヒだけか……?)
キョン「……ハルヒ! 出てこい!」

ハルヒ「あら? キョンじゃないの?」
キョン「ハルヒ……」


89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:56:24.99 ID:uTebWJQc0

ハルヒ「有希も古泉くんも消えちゃったんだけど、知らない? ゆのもヒロもいなくなったし」

キョン「お前、あの絵は素直に描いたんじゃなかったのか?」

ハルヒ「なんのこと?」

キョン「ゆのの絵を見て、素直になるって決めたんじゃなかったのか?」

ハルヒ「は? 何を言ってるのよ……」

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:57:21.88 ID:uTebWJQc0

キョン「これを見ろ」

ハルヒ「これって、ヒロが描いた私の絵……?」

キョン「下書きだ。何ページ下書きしているか、分かるか?」

ハルヒ「……」

キョン「お前はヒロさんの想いを聞いて、先入観を持ったな?『この人は、私を妬んでいる』と」

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 01:58:37.42 ID:uTebWJQc0

キョン「ハルヒ、お前はきっと色んな奴から嫉妬されてきたんだろうな。器用だし、頭もいいし、運動神経も抜群ときてる。
    実際、俺もお前の才能を1ピコグラムぐらいは分けて欲しいと常に思っている」

キョン「期末テスト中、誰よりも早く寝息を立てるお前に殺意が湧くこともある」

キョン「でも、お前はそんなの気にしないだろ? 俺たちの前では馬鹿みたいに前だけを見て、上だけを向いていたじゃねえか」

キョン「それとも、ハルヒ。嫌だったのか? 敬われることが、妬まれることが」

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 02:00:55.67 ID:uTebWJQc0

ハルヒ「そんなの、当たり前じゃない! あなたには分からないわ!
    陰で何かを言われたり、身に覚えのない噂が独り歩きしたりする怖さなんて」

ハルヒ「ただ、自分ができることだけをしているのに、友達が勝手に憎み、勝手に離れていく怖さなんて……」

ハルヒ「だから、私から突き放してきた。私は、私を妬む人を嫌いになった。そうしたら、私は無傷でいれるから。自分の好きなことができるから」

キョン「俺たちに絵を描かせたのも、怖かったからか。信頼されてないんだな、俺たち」

ハルヒ「そういうわけじゃ……!」

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 02:02:01.13 ID:uTebWJQc0

キョン「……別にそういう生き方は否定しないが、どうしてヒロさんも突き放した?」
ハルヒ「……」
キョン「少なくとも俺は、あの絵から猜疑心とか、そんなの感じなかったぜ?」
キョン「分かってるんだろ、ハルヒ? あの人が、お前をどう想い続けてきたか?」
キョン「だって、自分で言ってたもんな。『絵というのは、描き手の心情を愚直なまでに表現してくれるインターフェース』だと」

キョン「ハルヒ、ヒロさんを呼べ。言わなきゃいけないことがあるだろ? 素直になるんだろ。ゆのの絵みたいにな」




ハルヒ「……ヒロ……」

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 02:03:08.24 ID:uTebWJQc0

ヒロ「……あれ? 私は……?」

ハルヒ「ヒロ……」

ヒロ「涼宮、さん……」

ハルヒ「……あなたの絵……その、とてもす、すて、きだったわ……」
ヒロ「……ほ、ほんと、に?」

ハルヒ「……(コク」

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 02:03:49.90 ID:uTebWJQc0

ヒロ「嬉しい!」
ハルヒ「ちょっと! 抱きつかないでよ!」
ヒロ「ずっと、あなたに誉めてもらいたかった。あなたは私の目標だったから。
   涼宮さんがあのコンクールで金賞を取ったときから、私の目標はあなたに誉めてもらうことに変わっていたの」
ハルヒ「そ、そう」

ヒロ「だから、すごく、嬉しい……!」

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 02:04:29.35 ID:uTebWJQc0

長門「空間歪曲修正。ただちに現空間との同期を開始する」
キョン「長門!」
長門「空間の凝固濃度が弱化し行動が可能になった」

古泉「いやー、また助けられてしまいましたね。どうやら涼宮さんの精神が安定しつつあるようです」
キョン「古泉!」
古泉「ゆのさんも無事です」

ゆの「スー……スー……」

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 02:07:04.98 ID:uTebWJQc0

キョン「なぜ、お姫様だっこをしている?」
古泉「んふ。ご想像にお任せします」

長門「同期、開始」

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 02:09:10.31 ID:uTebWJQc0

〜五分後 美術室〜

ハルヒ「じゃじゃじゃじゃーん!!」

ゆの「わあ!」
宮子「おおー」
ヒロ「すごい……」
沙英「こ、これは……!」

ハルヒ「この絵のタイトルは『これがSOS団』よ!」

キョン「(長門。あの五人は、何も覚えてないのか?)」
長門「(情報操作は既に完了している)」
キョン「(そうか)」

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 02:11:12.93 ID:uTebWJQc0

ゆの「こんなに優しい絵みたことないです」

宮子「これは、やまぶき美術科組の負けを認めねばなりませんなー」

ハルヒ「あら、絵に勝ち負けなんてないわよ。素晴らしいと思えばそれで勝ちなんだから」

キョン(鼻をあかしてやるとか言ってたくせに)

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 02:12:27.32 ID:uTebWJQc0

ヒロ「涼宮さん。この絵、私たち四人で描いたの。貰ってくれる?」
ハルヒ「勿論! こんなにも素敵な絵、タダで貰うのが申し訳ないぐらいよ。まあ、昔の私っていうのが少し恥ずかしいけど」
キョン(どうやら、素直な部分は残ったらしいな)

ゆの「宮ちゃん! 宮ちゃん!」
宮子「どうしたー! ゆのっちー!」
ゆの「長門さんの絵もすごいよー!」
宮子「どれどれ……。おお! すごい! 写真じゃないの?!」
長門「それは紛れもなく絵と呼ばれるもの。ポールペンと絵具で描いた」

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 03:12:43.35 ID:uTebWJQc0

ゆの「でも、すごく寂しい絵……」
長門「寂しい?」
ゆの「なんだか、長門さんがみんなと仲良くすることを必死に我慢している、みたいな……」
長門「……」
宮子「あー、私もそう思う」
長門「そう」

ゆの「あ、ごめんなさい! 変な感想を言ってしまって! こんなに上手なのに……」
長門「謝らなくていい。参考になった」

104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 03:22:14.09 ID:uTebWJQc0

〜夕方 ひだまり荘前〜

ハルヒ「じゃあね、ゆの。楽しかったわ」
ゆの「はい! 私もです! それに絵を五枚も頂いてしまって……」
ハルヒ「それはお互い様よ。私もこんなに良い絵を貰ったんだし」

ゆの「それは、殆どヒロさんが……」
ヒロ「いいえ。あれはひだまり荘の作品よ、ゆのさん」
沙英「そうだね。みんなで描いたんだし」
宮子「おおー、それいいねえ」

ハルヒ「また来るから。次はもっとすごい絵を見せてあげるわ!」
朝比奈「ありがとうございましたー」
古泉「来年の文化祭には、必ず」
長門「……」
キョン「色々、迷惑かけたな」

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 03:27:58.58 ID:uTebWJQc0

ヒロ「さて、この五枚の絵だけど。みんなは、どれが欲しい?」
ゆの「私は朝比奈さんの絵がいいです。とってもかわいいですから」
宮子「うーん、どれもいいけど、やっぱり有希っちのかなあ。この物悲しくも見事な写真絵画は是非とも飾っておきたい」
ヒロ「沙英は?」
沙英「やっぱり、これかなあ」
ヒロ「キョンくんのね?」
沙英「お世辞にも上手いとはいえないけど、机の上に座っている涼宮さんの背中がなんか好きだね」
ヒロ「そうね。涼宮さんのことをすごく信頼しているって感じがすごく伝わってくるわ」

ゆの「ヒロさんは涼宮さんのですね?」
ヒロ「うん。やっぱり、彼女にはまだまだ届かないけど、これを見ながら精進する!」
宮子「古泉くんのはどうするの?」

吉野家「ふえーん。校長のばかぁ〜」

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 03:35:04.27 ID:uTebWJQc0

ゆの「吉野家先生!」
吉野家「あら、みなさん。そういえば他校の生徒さんと交流会を開いていたんでしたよね?」
ヒロ「はい。この絵をもらいました」
吉野家「あらあら。中々、レベルが高いですね。どれも素敵ですぅ」
宮子「吉野家先生、これあげる」
吉野家「いいんですか?」
沙英「はい。飾ってあげてください」
吉野家「うれしいです。ありがとう」

吉野家「この赤い糸は何を表現しているのかしら……ブツブツ……」

宮子「よし。しゅーりょー」
ヒロ「さてと、今日はみんなでご飯を食べましょうか?」
ゆの「いいですね!」
宮子「ごちになりまーす!」
沙英「じゃあ、絵を置いたら、ベリマにいこっか」
宮子「こういうときに自転車があればいいのになー」
ゆの「あはは、そうだね」

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 03:43:40.04 ID:uTebWJQc0

ハルヒ「ふんふーん」

古泉「(しかし、どうやってあの閉鎖空間内に入ってこれたのですか?)」
キョン「(長門から事前に聞いてたからな。絵がこっちの世界と入れ替わるって)」
キョン「(絵が現実になったってことは、こっちが望むことを絵にしたら、それも現実になるんじゃねーかと思ったんだよ)」
古泉「(では、涼宮さんのストレスの原因については?)
キョン「(まあ、ヒロさんの絵が廊下にあったのが決定的だったな。あれはハルヒが拒絶したって証だ。何が原因かはすぐに分かった)」
古泉「(感服致します)」
キョン「(お前からの敬いは嘘くさいんだよ)」

長門「……」


ハルヒ「そうだ、キョン!」
キョン「うお、なんだよ。急に止まるな」

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 03:47:46.52 ID:uTebWJQc0

ハルヒ「これ、あなたの家に置いておきなさい」
キョン「あ? ヒロさんの絵をか?」
ハルヒ「そうよ。部屋に飾ることを許可するから、飾りなさい。神棚に飾ってもいいわよ」
キョン「こんなの神様が迷惑するだろ」
ハルヒ「じゃあ、枕元にでも置いておくのね」
キョン「おいおい。毎晩、悪夢にうなされる俺の身にもなれ」
ハルヒ「なによ! 文句あるわけ?」
キョン「文句というか、せっかくお前のために描いてくれたんだから、お前が持って帰るべきじゃないか?」

ハルヒ「あなたは団員の中で、一番ダメな子なのよ?」

キョン「はあ?」

ハルヒ「だから、この絵を毎日拝んで、一日でも早く私に近づくように心がけるのよ!」
キョン「お前に近づくなんて、南極と北極が地殻変動で結合するぐらい難しいことだな」
ハルヒ「なら、丁度いいじゃない。この絵を地層プレートだと思いなさい。揺れ続ければ時間はかかっても、必ず辿りつけるわ」
キョン「はいはい……。分かったよ、預かる。地球を滅ぼしたくはないけどな」

キョン(妹が欲しがることに期待しておくか)

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 03:56:48.14 ID:uTebWJQc0

〜夜 駅前〜

ハルヒ「それじゃあ、みんな。また明日ね!」
朝比奈「はーい、お休みなさい」
古泉「失礼いたします」

長門「……」
キョン「じゃあな、長門。気をつけてな」

長門「待って」
キョン「え?」
長門「私はあなたに謝罪しなければいけない」
キョン「なんだ?」
長門「涼宮ハルヒの深層意識の具現化は事前回避が可能だった。しかし、私が判断を誤り、あなたを危険な目にあわせてしまった」
キョン「回避、できたのか?」
長門「涼宮ハルヒがあの絵を手にする前に、私が手にするべきだった。そうすれば、被害は最小限に抑えられた」
キョン「……」

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 03:59:21.75 ID:uTebWJQc0

長門「全て、私の責任」
キョン「長門」
長門「……」
キョン「お前はいつも頼りになる。そして、俺もついつい頼っちまう」

キョン「だから、辛かったら遠慮なく言えよ。毎度毎度、俺たちの望むことばかりをしなくていいからな」
長門「……了解した」
キョン「じゃあな」

長門「さよなら」



長門「……やはり、回避は不可能……」

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 04:03:19.86 ID:uTebWJQc0

〜夜 ひだまり荘201号室 浴室〜

ゆの「は〜。今日はちょっと疲れたな〜。でも、楽しかったぁ」

ゆの「それにしても涼宮さんって本当にすごかったなあ」
ゆの「私もあれぐらい描けるように頑張らないと……!」



ゆの「やる気があれば、大丈夫だよ、ね?」



12月某日 消失前夜 クロスオーバーな日 おわり



個人的ED ttp://www.youtube.com/watch?v=1qlFD3AklT0
このSSは、稚拙遅筆のスレ主でお送りいたしました。

保守していただき、ありがとうございました。
なんか長くなりすぎたんで、アニソン風に要約してみます。

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/03(水) 04:08:19.63 ID:uTebWJQc0

できたー
歌詞なんて書いた事ねえから、テキトー

ひだまりな非現実

宮子&ハルヒ 出会いなんてトツゼンで みんなが目をまわしてる
沙英&長門  バツ印の髪留め 非 SO 感
ヒロ&朝比奈 絵なんかへたへたなのに あの子だけはうれしそう
ゆの&ハルヒ きれいなカチューシャ YOU 越 感

ハルヒ&長門 これから起こることなんて 考えるだけ無駄じゃない?
沙英&ヒロ  いつも予想は垂直ぎみに裏切られるね
ゆの&宮子  またも嵐が来そうだね 泣き寝入りしかありえないの?
全員     それなら備えなんて退屈はもうすてちゃおー

ハルヒ 白いキャンバスには
朝比奈 あの子のコントラストが効いている
長門  もうすぐ バクハツ
長門  しそうなゲイジュツがそこにある

沙英  暗い部屋にいないで
宮子  あっ晴れな想いを音速にして
ヒロ  とびでて ぶつけて
ゆの  いっしょにハジけちゃえばいいから

全員  いきあたりばったりな日常は そんなことまで おーるぐりーん

長門&ヒロ  そんな日々に神さまも苦笑いしているだろうね

ゆの&ハルヒ ひだまりな非現実は神さまではつくれないから



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