1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/01/03(日) 21:05:56.77 ID:E27sV8jMO
古泉くんから伝えられた言葉をわたしは思わず呟く。
古泉「見ての通りです。窓は全て施錠されており、入口の鍵は昨日の部活以降使われた記録が無い。これは立派な密室事件ですよ」
みくる「事件ということは部室内でなにかあったんですか?」
長門「見れば分かる。しかし推奨はしない」
その言葉に多少の躊躇はしたものの、それを上回る好奇心によって、わたしの体は部室内へ自然と向かっていた。
室内に入った瞬間その異様さにすぐ様気が付いた。鼻につく生ゴミの匂い、その匂いの先には…深紅に染まった長机と、そこに横たわる亡骸。
見た瞬間に理解する、これは人形なんかじゃない…本物だと
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/03(日) 21:18:34.86 ID:E27sV8jMO
その光景に思わず嗚咽しそうになる自分を抑え、部屋を飛び出す。
みくる「い、い…一体誰がこんな酷い事を」
古泉「それはまだ分かりません。昨日の夜、宿直の方が見回りに来られた時は異常はなかったらしいです」
長門「ならば、犯行時刻は点検後から、放課後に部室のドアを開くまでに絞られる」
わたしは廊下の壁に背を預けて地面に蹲る。
彼らも現場を見ているだろうにあの落ち着きようだ…、同じ末端とはいえ自分に少し劣等感を覚える。
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/03(日) 21:32:35.97 ID:E27sV8jMO
みくる「今はそんな事より、この部室をなんてかしないと駄目ですよ。もし彼に見られでもしたら…」
古泉「確かに彼がまだ来ていない今なら、この現場を隠蔽する事は可能でしょう。目撃者もまだここにいる三人ですしね」
表情を変えず、いつもの様な涼しい顔で、そして幸いな事に同じ目的を持った三人です…と付け加える。
長門「だからこそ迂闊な行動は危険。彼は毎日顔を合わせていた、存在が無くなればすぐさま気が付く」
古泉「そう、そして直ぐに彼の矛先は我々に向けられる。いくら弁解しようとも犯人扱いは免れないでしょう」
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/03(日) 21:42:26.30 ID:E27sV8jMO
みくる「だったら下手に動かずに現状維持…ということですか」
長門「それが古泉一樹と論議した結果。あなたも協力して欲しい」
古泉「残念ながら犯行、犯人像はまだ分かりません。ここは彼と共に探偵役に勤めるのが得策かと」
その案に特に異論は無い、余計な疑惑に巻き込まれたくは無い…。犯人でないならば当然の答えだろう。
みくる「でもあのままじゃ可哀相です…せめて毛布だけでも被せてあげませんか」
古泉「ふふっ、朝比奈さんは優しいですね。すみません気が付かなくて…お願いします」
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/03(日) 21:56:35.36 ID:E27sV8jMO
わたしは部室に仕舞ってあった毛布を取り出すと、ゆっくりと全身を覆う。直ぐに毛布の一部が赤く染まって行く、その様にまた吐き気を催しそうになる…直視は出来ない。
視線を逸し、急いで廊下の方に駆け寄る……が、ふと棚に並んでいた小説が目についた。
古泉「どうかしましたか朝比奈さん?」
古泉くんの呼び掛けに自分が本棚の前で立ち止まっていた事に気が付く。
気分転換になるだろうと適当に何冊か手に取り、彼らの元に駆け寄る。
みくる「すいません、本でも読んで気分を落ち着かせたくて…」
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/03(日) 22:06:08.93 ID:E27sV8jMO
自分でも予想外の行動だったのだが、取り敢えず取り繕ったわたしは数冊の本を片手に、また地面に腰をおとす。
長門「それは、わたしも気に入っている。後で感想を聞かせてくれると嬉しい」
みくる「そうだったんですか、ふふっ楽しみです」
とても先程の血なまぐさい出来事が嘘の様な会話だが、少しは落ち着く事が出来た。
みくる「古泉くんには悪いけど少し読書を……」
出来ればメルヘンティックでファンタジーな内容が良いな……、と思いつつページを捲る。
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/03(日) 22:15:21.67 ID:E27sV8jMO
煉獄詰所連続殺人事件
みくる「……なにこれ?なんか凄く血生臭いような…凄く残虐そうな…」
長門「犯行の手口も極めて残酷の一言につきる」
みくる「ちょっ!わたし気分転換がしたいって…」
古泉「おや、どうかしましたか大きな声を出して?」
みくる「いや、なんでもないですよ。ちょっと気管に何かしら詰まっちゃて…」
古泉「そうですか、少しビックリしましたよ」
あぁ、なんでこんな本選んじゃったんだろう…まぁいいか、取り敢えず読んでみようかな。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/03(日) 22:24:30.86 ID:E27sV8jMO
気分転換、気分転換…そう思いながらページを捲っていく。
みくる「へぇ、推理小説なんかあんまり読まなかったけど、色々と基本的なお約束があるんですねぇ」
古泉「そうですね、こう見えて僕は推理物、結構読んでるんですよ」
長門「何冊か彼にも貸した事がある」
初耳だなぁ、以外とあの二人交流あるのかな…と思いつつ顔を見比べる。
古泉「ちなみにそこには、どんな事が書いてあるんですか?」
みくる「……えっと、『まずは現場の保」
全てを言いそうになって慌ててわたしは口を噤む。
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/03(日) 22:39:30.33 ID:E27sV8jMO
『現場の保存』って書いてますよコレ!わたし、めちゃくちゃ触りまくってるじゃないですか!?
古泉「どうしました?言いかけて止めたようですが」
みくる「えっと…そう、『現場でPSPを遊ぶべからず』ですよ!」
って咄嗟とはいえ、なんていう嘘を…!バレるに決まってるじゃないですか
古泉「ぴーえす…?あぁもしかしてユーモア小説ですか、それ?」
みくる「そ、そうなんですよぉ。お陰で良い気分転換になります」
……こんな題名のユーモア小説無いと思うけど、なんとか誤魔化せたみたい。
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/03(日) 22:45:57.07 ID:E27sV8jMO
長門「それならわたしも知っている、派系作品に『現場でDSを遊ぶべからず』もある」
ってあるんかいぃ!?
どんだけゲームやりたいんですか、その作品の刑事は!?中二でも、もう少し自重しますよ!おじいさんのお葬式じゃゲームしてないですよ!
古泉「…本当に大丈夫ですか?なにか汗を掻いているようですが」
みくる「な…なんでも無いですよ…。それじゃわたしは続き読みますね」
全然気が休まらないよ…、よしもっと読書に集中しないと
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/03(日) 22:57:06.91 ID:E27sV8jMO
少しの間、色々と思考を巡らせながらページを捲る。しばらくすると私も感情移入し、まるで探偵にでもなったかのような感覚に陥る。
みくる「なるほど、細かい矛盾とかを探していくんですね」
古泉「各所にヒントがちりばめるられていますからね。よく吟味して読むといいですよ」
古泉くんの助言に頷きつつ、ページを捲ろうとした瞬間手が止まる。
そういえば、古泉くん推理小説は沢山読んでるって言ってたっけ…
なら、なんであんな簡単にわたしを部屋に入れる事を許したのだろうか
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/03(日) 23:05:47.69 ID:E27sV8jMO
現場保存の鉄則を知っておきながら、わたしの行動をわざと許した…そうとしか考えられない。
そのうえ、わたしが言い出したとはいえ、毛布を掛けるという行為も、わたしが行なうように自然と誘導していたかの様に思える…。
古泉「……どうかしましたか?僕の顔になにかついてますか」
みくる「い、いえ…、別になんでもないですよ」
慌てて視線を逸す。
こういう時は落ち着くに限る……落ち着くのよ。
そう、余計な心配をしなくてもわたしたちには今は共通の目的をもった仲間……。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/03(日) 23:17:06.82 ID:E27sV8jMO
そう、同じ目的……。自分が犯人で無いならば余計な事をして疑われたくはない。それが三人の共通認識だと思っていた。
だがもし、この三人の中に犯人が混ざっていたら……、何食わぬ顔をして、探偵役を引き受けるだろう。このポジションが一番疑われ難いはず。
そして、自分に疑いの目が向く前にありもしない証拠を捏造し、スケープゴートを作る。
みくる「それがもしかして犯人の目的…?」
古泉「もう犯人がわかったんですか?凄いですね、まだ序章のようですが」
尊敬の眼差しで古泉くんはわたしの顔を覗き込んでくる。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/03(日) 23:28:35.47 ID:E27sV8jMO
みくる「目的…だったらいいなぁ…と思って。さすがにまだ検討もつきませんよぉ」
そうですか、といつもの笑顔で元の位置に戻ろうとする古泉くん…。だがわたしは見逃さなかった、あの瞳の奥に潜む疑惑で満ちた視線……。
背中に悪寒が走るのを悟られまいと、必死にページを見入る。
だが小説の中の探偵の興味は、わたし達の事件の方に向いているようだった。
感情移入したままの思考でわたしは考える。
みくる「この違和感を気付かせてくれたのは、長門さんの本のお陰……なら長門さんは味方…?」
長門「…………………」
窓の外を眺める彼女の横顔を除き見るが、何も秤知ることは出来なかった。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/03(日) 23:38:35.30 ID:E27sV8jMO
ここは思い切って相談してみるべきか……再び本に視線を戻そうとしたとき、ふと気が付いた。
みくる「そうだ……この本は長門さんから借りたものじゃない、わたしが自分で選んだんだった」
あくまで気付かせてくれたのは長門さんの『本』であって本人では無い。
……危ないところだった、軽率な判断で取り返しのつかないことをする所だった。
もし長門さんが犯人だとすれば、相談したわたしをも利用し、古泉くんを犯人に仕立てあげてしまうだろう。
駄目だ絶対の確信をもつまでは動けない…。
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/03(日) 23:52:20.96 ID:E27sV8jMO
タイムリミットはキョンくんが来るまでの間…それまで、この中に犯人がいるのか否か。それをハッキリさせておかないと。
今一番怪しいのは、やはり古泉くんだろうか…。わたしの軽々しい行動を全て黙っていたのも気になる。
みくる「いや、黙っていたのではなく……これも彼の布石だったのでは…!」
わたしに関係ありそうな証拠品を部室内に予め忍ばせておき、犯行後に室内をわざと歩かせる……。
みくる「し、しまった…!まさかそういう算段だったの!?……不味いわ」
長門「なにが不味い?」
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 00:04:42.09 ID:N8dNCDbTO
みくる「いえ…この小説に出て来るシチューのことですよぉ」
長門「……そう」
一言呟くと彼女は、また窓に視線を向ける。
危ない、長門さんが他人に感心のない性格で助かった、ここで深く追求されると困る…。
何故ならわたしはほとんど小説の中身など頭に入ってはいない……。
この沈黙かつ緊迫感の中で、証拠になりうる発言、行動を構築していかなくてはならないのだから。
そう、ここにいる三人は仲間などでは無い、いつ陥れられるか分からない相手なのだ。仲間などと安心し隙を見せた人物がスケープゴートになることは必須。
そして、残念ながらそれに一番近い位置に居るのはわたしだろうか。
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 00:27:58.84 ID:N8dNCDbTO
ここは再び室内に入り、わたしを陥れる罠があるかを確認しなければ…。
みくる「あの、すいません。わたし実は部室に忘れ物しちゃって、取りにいってもいいですか?」
言うや否や、扉目掛けて歩き始めるわたしの前に素早く古泉くんが立ちはだかる。
古泉「おっと、いけませんよ朝比奈さん。現場保存は鉄則でしたっけ?ここは全員が揃うまで待ちましょう」
みくる「な、なんでですか。さっきは入ったんだからいいじゃないですか」
古泉「いえ、実は推理小説の話をしていたら探偵の真似事がしてみたくなりまして」
と、イタズラっぽい笑顔で微笑む。普段ならば気にはしないが、この状況では全く似つかわしくない表情だ。
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 00:40:37.80 ID:N8dNCDbTO
明らかに不自然な行為だが、食い下がればわたしも同じだろうか…、ここはひとまず愛想笑いで引き下がる。
みくる「でも、これ程のリスクを背負ってまで室内に入れたくないということは、彼にとっては相応に不利な物証があるということ?」
なんとかして入ることができないだろうか…、長門さんの協力を得ればもしくは…。
そこでまた、わたしは気が付いた。長門さんに協力を申込んだところで断られる可能性が高い。
にも関わず古泉くんは成功している。
正攻法では難しい……だが、もし協力しなければならない状況なら。もし二人がこの事件の犯人だったなら…。
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 02:16:23.19 ID:N8dNCDbTO
(駄目だ、この状況下では慎重になるのは大事……、でもその思考ばかりに囚われていればジリ貧なのも明らか。
ここは少し探りを入れてみるしかない)
みくる「古泉くん、さっき密室だって言ってましたけど、なら何故犯人は犯行を行なえたんですかねぇ?」
古泉「それは僕も考えていたのですが…。所詮は小説をかじった程度なので、それらの流用しか浮かんできませんね」
彼は苦笑いで、そう応えた。これは恐らくはフェイクだろうか…、古泉くんの思考の鋭さはわたしも何度か目にしている。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 02:28:27.37 ID:N8dNCDbTO
(現実的に考えて、いまの事件では小説にでてくるようなトリックを用いるという可能性は極めて低いだろう。
イタズラ程度で試してみるならいざ知らず、このような停学が免れない犯行を、小説の模範で行なうだろうか)
古泉「全く検討もつきませんねぇ。長門さんの能力を駆使すればいくらでも説明はつくんですが…ね」
古泉くんが長門さんに冗談めいたような口調で言う。
(確かに長門ならば亡骸を机の上に置き、扉を閉め遠隔操作でロックを掛けるなど容易いだろう)
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 02:42:38.37 ID:N8dNCDbTO
(だが、それ故に一番可能性が低いとも考えられなくない。事後処理など、彼女の手にかかればどうにでもなるだろう。
だがそう思わせる事が目的だとも考えられる。犯行現場に堂々と身分証が置いてあり、その人物を犯人だと思う物は少ない…)
みくる「そうだ、何故密室が出来たのじゃなくて、なんで密室にしなきゃいけなかったんでしょうね」
古泉「確かに…。閉鎖された館などではいざ知らず、こんな校内の一室を密室にしたところでなんのメリットがあるのでしょうか」
長門「誰かに見つけて欲しかった。正確にいえばわたし達の誰かに」
みくる「どういう事ですか?」
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 02:59:56.49 ID:N8dNCDbTO
長門「この部室は宿直の見回り以外はわたし達しか使用しない。だが何かの用事がある事で別の人物が入室するかもしれない」
古泉「なるほど、多少のイレギュラーはあるにせよ、鍵を掛けておけば必然的に第一発見者は僕達になると」
みくる「そういう事だったんですかぁ」
(しかし、それになんの意味があるというのだろうか…、分からない。逆にいえば、その行為によってわたし達は容疑者から外れる事になるのだろうか。
だが古泉くんの不審な行動もまだ全貌が掴めていない、今はまだ思考を止める段階てばないだろう)
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 11:05:30.07 ID:N8dNCDbTO
(しかし、この亡骸を見て一番大きい反応を示すのはキョンくんだろう。だからこそわたしは彼が部室に来る前に、この部屋を片付けようとした。
ならば目的は彼に対する怨恨なのか…)
みくる「キョンくんが見たら悲しむでしょうね…」
古泉「そうですね、僕たちも出会った期間は同じとはいえ、彼の方が付き合いは深かったですし」
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 11:20:20.93 ID:N8dNCDbTO
長門「ただの恨みでこのような事をするのは考え難い。何か別の意図を感じる」
長門さんが静かに呟く、古泉も頷いているようだった。
(わたしも異論はない、短絡的な考えだが、怨恨目的ならば目的の達成にばかりに気を取られ、過程が疎かになる事が多いだろう。この様に度が過ぎた状況ならば尚更だ)
みくる「あくまでもキョンくんに、この場を見せつける為という事ですか」
古泉「そうとしか考えられません。だが冷たい言い方かも知れませんが、彼ならば初めはショックを受けるかも知れない。しかし数ヶ月も経てば、この出来事も記憶の底へ追いやられでしょう。
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 11:38:09.89 ID:N8dNCDbTO
みくる「そ、そんな言い方って…。きっとキョンくんも忘れないですよ」
古泉「あくまでも客観的に考えてみた結果なのですが…、お気に触ったのなら謝ります」
みくる「いえ、すいません、わたしの方こそ感情的になっちゃって」
(確かに今は現場を見た興奮で気持ちが高ぶっているが、冷静に考えれば彼の言う通りだろうか?)
古泉「全く不可解ですね、犯人は何の目的で、何の利益があるのか」
(目的……?彼にショックを与えるのが目的?ならばそれによって何の利益があるというのだろうか。怨恨以外で発生する利益)
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 12:01:02.00 ID:N8dNCDbTO
(真っ先に思い付いたのは閉鎖空間などの類だ。だがキョンくんの感情を揺さぶった所で何も発生するわけがない。
なら、間接的に…?考えられなくもないが不確か過ぎでは無いだろうか。
しかし、今はそれしか思い浮かばない)
古泉「僕達の均衡を崩そうとしているんでしょうか」
みくる「均衡…ですか?」
長門「この部屋は末端とはいえ、三つの組織が混在し尚且つ安定した均衡を保っている」
古泉「そうです、それ故に崩れる時も容易いでしょうね」
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 12:13:40.61 ID:N8dNCDbTO
みくる「容易いって、い、一体どういう事なんですか?」
長門「彼はわたしたちの素性も能力も把握している。故に疑う、不信感を抱く」
(確かにその通りだ……だがそれを分かっていながらで尚、現場を維持しているというのか、彼らは)
古泉「ふふっ、すいません、驚かすつもりはなかったのですが。ご心配なく、この程度で疑われるような関係だとは思っていませんから僕は」
(僕は?僕たちじゃないんですか!?……しまったハメられたか。彼は端からこの事態を想定して現場の維持を)
長門さんの顔を横目で疑うが、古泉くんと同じく自信で満ちた瞳が伺えた。
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 12:31:17.58 ID:N8dNCDbTO
(わざわざ口に出したのは絶対の自信……余裕だとでもいうのか。
不味い、わたしも自信が無いわけではないが、だがそれは対等であればの話。
何か工作されていては、立場が危うくなる)
その時、廊下をけたたましく駆ける足音が聞こえてくる。
みくる「足音から察して人数は二人……?」
古泉「おや、どうしたんでしょうか。酷く慌てているようですが」
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 12:44:53.25 ID:N8dNCDbTO
キョン「しまった!遅かったか。だからもっと早く来いって言ってただろうが」
ハルヒ「鍵が掛かってるから大丈夫だと思ったのよ…。ゴメンね皆、ビックリさせちゃって」
(この場の研ぎ澄まされた空気を全て吹き飛ばす様な緊張感の欠片も無い、二人。だが会話を聞く限り全ての出来事を知っている?
ならばこの茶番はわたし達三人に用意されたものという事なのか)
その間抜け面を呆然と眺めながら、この事件は確実に終息に向かっている事をわたしは実感していた。
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 12:59:10.23 ID:N8dNCDbTO
古泉「どういう事ですか。あの机の上も含めて、詳しく話を伺っても宜しいですか」
古泉くんがいつもの笑顔で彼に微笑み駆ける。その表情は安堵の笑みにも感じられる。
キョン「いや、それがコイツが轢き逃げされた、アレを成仏させてやりたい、とか言い出して」
ハルヒ「アレとか言わないの、アンタも同じ種類の飼ってるじゃない」
古泉「…おや、僕たちはてっきりあなたの飼い猫だとばかり思っていたのですが」
キョン「全然違うだろうが、シャミセンはもっとこう目尻が憎らしいな」
長門「照合しても誤差はほぼ見当たらない、気持ちの持ちよう」
みくる「なぁんだ、そういう事だったんですかぁ」
55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 13:11:12.80 ID:N8dNCDbTO
(などという狂言に騙されるわたしでは無い、いくら彼らの仕業であったとしても、ここが密室であった事に変わりは無い。
映画などでよくあるパターンだ…気を抜いたところでラストカットの後ろに殺人鬼が立っている等)
ハルヒ「ちゃんとオカルト研にやり方聞いたから間違い無いわよ」
キョン「なんでオカルト研なんだよ……だからアイツらに誤解されちまうんだよ」
古泉「朝比奈さんなど、まるで本物の殺人事件に遭遇したかのような慌て振りでしたよ」
わたしは不審な動きが無いか小説に夢中になっているフリをし、神経を研ぎ澄ます。
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 13:27:24.65 ID:N8dNCDbTO
ページを捲る手をふと止めると、小説の方は佳境に差し掛かっていた。
小説の主人公は今も諦めず推理に勤んでいる、わたしも諦めるわけにはいかない。
ハルヒ「あら、みくるちゃんが読書なんて珍しいわね、どんな本読んでるの?」
どこかでわたしを呼ぶ声を聞いてような気がするが、今は頭を働かせるのが先だ。
長門「それは『煉獄詰所連続殺人事件』わたしのオススメの一冊」
キョン「れんごく……なんだそれ?聞いた事ないな」
ハルヒ「マンガしか読まないアンタなら当然でしょ。煉獄詰所連続殺人事件、あれはわたしも読んだ事あるわよ、主人公が滑稽なのよね」
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 13:41:08.64 ID:N8dNCDbTO
(考えるのよ、みくる。今ならば室内を自由に動き回れる空気だ。なんとしても今の内に証拠を掴んでおきたい…)
キョン「ほう、どんな内容なんだ、それは」
ハルヒ「主人公の岡っ引きが、ただの子供のイタズラを、革命家のテロだと信じ込んで右往左往するのよ」
キョン「なんだそりゃ。推理小説じゃねぇだろうが」
ハルヒ「推理小説じゃなくてユーモア小説よ、ユーモア小説」
(だがそれは他の者も同じ事、証拠を隠蔽されるかもしれない。これは先に動いた者が有利)
58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 13:58:12.64 ID:N8dNCDbTO
ハルヒ「なんにしても皆を驚かせちゃった事は謝るわ。あとはこの子を埋めてあげれば、お終いだから」
キョン「また俺をこき使うつもりか?勘弁してくれよ」
ハルヒ「ブツクサ言わないの全部終わったら………を奢ってあげるから」
(駄目よ、今ここで彼女たちを自由に室内に出入りさせちゃ。ここは無理矢理にでも足を止めさせないと)
みくる「わっ、わかりました!は、犯人は涼宮さんしかいませぇん!」
わたしは、勢いよく彼女を指差した。瞬間、場の空気が一瞬凍り付いたような気がする。
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 14:16:00.45 ID:N8dNCDbTO
ハルヒ「いきなり、なに言ってるの?その小説に感化されちゃたとか、みくるちゃんも可愛い所あるじゃない」
みくる「えっと、そうじゃなくて。密室なのにこんな儀式を執行うことが出来たのが一番の証拠です!もう絶対に言い逃れはできませ…」
ハルヒ「…………これ。予備の鍵」
わたしの目の前でブラブラと左右に揺れる可愛らしいキーホルダー。
みくる「………み、認めませんよそんな後付け設定!この小説にもタブーって書いてますよ!じゃあその黄色のカチューシャが怪しいです、それがこう変形して…」
ハルヒ「………………みくるちゃんも食べよう。焼肉」
優しく肩を叩かれる、その掌には憎しみも怒りも感じられない……これは、わたしを思考の迷宮から解放する鍵。そんな風に感じられた。
みくる「………………ふぁい、上カルビでお願いします」
わたしはその時気付いた、自分の頬を伝う一筋の涙に。
62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 14:34:06.69 ID:N8dNCDbTO
わたし達は、校庭裏の片隅に小さなお墓を立てる。粗末ながらも気持ちがこもっているのが感じられた。
ハルヒ「今度はドジ踏むんじゃないわよ……」
と小さく呟く涼宮さんの声がわたし耳に届いた。
頬に冷たい風が吹き付ける……グラウンドを眺めると汗を流し練習に勤んでいる生徒が目についた。
みくる「わたしも今日だけは皆さんに負けない程に汗を掻きましたよ……、もっとも冷や汗なんですけどね」
キョン「……ん?何か言いましたか朝比奈さん」
みくる「いえ、なんでもないですよ。さぁ、いきましょうか」
腰を上げ歩き始める、今日もわたし達SOS団は平和その物だったという。
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 14:44:49.27 ID:N8dNCDbTO
これで終わりです、なんかもうグダグダですいません。
最初はギャグ物にしようと思ってたんですが、引っ込みがつかなくなってしまいました。
最後まで付き合って頂いた方、なんかもうすいませんでした。
以上
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 17:48:34.79 ID:N8dNCDbTO
=蛇足=
―焼肉屋―
みくる「そして、キョンくんの瞳が訴え掛けるままに、わたしは彼の皿からカルビを拝借するのだった」モグモグ
キョン「なんですか、なんでさっきから地の文口調……気に入ったんですか?つか訴えてませんから。俺の肉取らないでくださいよ」
長門「長門さんもキョンくんの瞳に誘われるがままに彼の皿から肉をかっさらうのだった」モグモグ
キョン「なにお前も便乗してんだよ!肉なんかいくらでも焼いてやるから、ちょっとは我慢しろよ。どうせアイツの奢りなんだ」
ハルヒ「その時不意にキョンはここの支払いは全て俺に任せろという瞳で涼宮さんに訴えかけた……そう、彼は彼女のヒモだったのである」ムシャムシャ
キョン「コイツまで何言ってんの!?勝手な設定付け加えてんじゃねぇよ!朝比奈さんの辞書にヒモなんて単語ないから!」
古泉「だったら特上カルビ追加お願いしますだった」
キョン「テメェはもう何言ってるか分かんねぇよ!!」
=ほんとに終わり=