1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 03:57:43.29 ID:FZ4JYBNp0
「がんばって!」
粗大ごみの隙間に圭一くんが懸命に手を伸ばして、私のためにかぁいい古看板を取ろうとしてくれる。
それなのに私はといえば必死に頑張る圭一くんかぁいいなぁなんて不埒なことを思ってしまう。
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 03:58:38.57 ID:FZ4JYBNp0
何だかんだ言いながらも優しい圭一くんはいつも私の宝探しに付き合ってくれる。
二人っきりだから、このときだけはレナが圭一くんを独り占め。
「取れたぁ!」
「やったぁぁ!」
ゴミ山の上でようやく取れた戦利品に私は飛びついて喜ぶ。
そんな私を見て圭一くんは苦笑しながら、どこが可愛いのかまったくわからんとかブツブツ言っている。
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 03:59:56.84 ID:FZ4JYBNp0
「だって!この傷とか、このへこみ具合とかかぁいいよぅ!」
「その妙なこだわり部分が渋いよな」
でも、本当は目の前でほっぺに汚れをつけてる君の方がもっとかぁいくてお持ち帰りしたいなんて思っていることは内緒だ。
言ったら男が可愛いなんて言われても嬉しくないって不貞腐れるんだろう。
そんな不貞腐れたとこもまたかぁいいんだけどね。
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:01:16.15 ID:FZ4JYBNp0
「まぁいいや、俺はレナのかぁいい笑顔が見れて満足だから」
「はぅっ!?か、かぁいいって!?」
どうせまたレナのことからかってるんだ。
そう、いつもの冗談なんだ。
…ど、動揺するな!レナ!
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:02:05.07 ID:FZ4JYBNp0
「俺にとっちゃ、かぁいいって言ってるレナが一番かぁいいぜー?」
にやっと笑い、明らかにからかっているのがわかる。
それでもドキドキしてしまう自分がとても悔しい。
だから、私も負けじと言い返してみる。
「…じゃあ、お持ち帰りする?」
「えっ…」
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:03:14.26 ID:FZ4JYBNp0
圭一くんの笑顔が固まった。
よし、勝った。いつも言われてばっかりじゃないんだから。
「えへへ、どうする〜?圭一くん?」
ちょっと顔が赤くなる圭一くん、かぁいいなぁ。
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:04:11.13 ID:FZ4JYBNp0
「…ぐっ、レナも言うようになったじゃねーか。いいのかぁ?そんなこと言って。
ほんとにお持ち帰りしちまうぞ!?暴走して何しちまうかわかんねーぞ?覚悟はあるんだろうな?」
圭一くんも負けず嫌いだから言い返してくるけど、ほんとはそんな度胸なんてないくせに。
「いいよ?別に…レナは…圭一くんなら」
そして、私も今回はこのままこの勝負に負けたくなくて、考えるより早くつい信じられないくらい大胆な発言をしてしまった。
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:04:54.03 ID:FZ4JYBNp0
「……」
今度こそ勝った。圭一くん照れてる、照れてる。
でも、そういう私だってきっと顔は真っ赤なんだ。
二人して意味のわからない勝負をして赤くなってるってなんだかすごく滑稽だ。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:07:50.20 ID:FZ4JYBNp0
「っ…だぁあああぁぁ!!!もう帰るぞ!」
この雰囲気に耐えられなくなった圭一くんが勝負から戦線離脱する。
「…うん、そうだね」
私もこれ以上は無理だったから、蒸し返さずに同意して後に続く。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:08:33.13 ID:FZ4JYBNp0
「あーあ、くそっ…」
勝負に負けたのが悔しいのか耳まで赤くした圭一くんはブツブツ言っている。
「圭一くん…かぁいいなぁ…」
ついぽつりと出てしまった本音に、圭一くんはぎょっとして振り向く。
「はっ?!!…なんで?!まさかのかぁいいモード?!」
「あはは、いっそレナが圭一くんをお持ち帰りしちゃおうかなぁ」
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:10:17.35 ID:FZ4JYBNp0
なんだろう…今日の私はちょっとおかしい。
さっきから何てことを口走っているんだろう。
きっと圭一くんは冗談じゃないっていって逃げ出すんだ。それを私が…
「いいぜ」
追いかけて…え?
「俺は別に…レナなら」
「えっ…あのっ…」
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:11:17.09 ID:FZ4JYBNp0
相変わらず顔を朱に染めながらじっと目を逸らさず見つめてくる圭一くんに、私はそれ以上に真っ赤になってしまう。
てっきり逃げるものとばかり思っていたため、想定外の事態に困惑する。
いや、お持ち帰りしたいのは事実だけど、こうもあっさり真顔でさぁどうぞと許可されてしまうと…
ど、どうすればいいのか…。
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:12:35.79 ID:FZ4JYBNp0
次の瞬間、
「ぶっ…」
圭一くんが吹き出した。
「ぶははははっ…今度こそ俺の勝ちだな!」
しまった!からかわれた!
「はぅ!ひどいんだよ!!」
「レナのセリフをそんまんま拝借しただけだぞ?俺に口で勝とうなんて甘いぜ!」
勝ち誇った表情で私の頭を乱暴に撫でる。
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:13:26.35 ID:FZ4JYBNp0
「…それに、どう考えてもレナの方が可愛いしな」
そう言いながらプイっと前を向いてしまう。
「……」
からかっているんだよね…どうせ。そうなんだよね?
でも、どうして顔を背けるのかな。
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:14:46.71 ID:FZ4JYBNp0
「…そんなことないんだよ!圭一くんの方がかぁいいよ!」
「だから!嬉しくねーよ!!…レナの方が可愛いって!」
「絶対圭一くんだよ!だよっ!」
何という会話をしているんだろう。
しばらくして二人して声をあげて笑い、じゃれながら帰り道を駆ける。
圭一くんに可愛いって言ってもらえるのはとっても嬉しい…
だけど……やっぱりレナにとっては君の方がずっと可愛いんだよ?
完
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:27:22.60 ID:FZ4JYBNp0
レナと圭一の出会い
超ショートショートショートです
「そうそう、昨日引っ越してきたらしいよ」
日曜日、魅ぃちゃんと興宮まで買い物に行った帰り道。
噂の前原屋敷に遂に住人がやって来たそうだ。
「そうなんだぁ。確かレナたちと同い年くらいの子がいるんだよね?」
「うん、レナと同学年じゃなかったかな」
「どんな子なんだろうね?もしかして魅ぃちゃん、もう会ったりしたのかな?かな?」
何といっても雛見沢を仕切る園崎家の次期頭首。大抵のことは知っている。
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:28:37.90 ID:FZ4JYBNp0
「いやぁ、見てないんだ。挨拶来なかったんだよねぇ。
婆っちゃがブツブツ文句言ってたよ」
「あはは。都会の人だからしょうがないよ。でも仲良くしてあげようね」
「そうだね。どうやっていじめてやろうかね。うっしっし」
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:32:13.20 ID:FZ4JYBNp0
わざとらしく漫画みたいな笑い方をする魅ぃちゃん。
そんなこと言ってるけれど、わかってるよ。
魅ぃちゃんはレナが引っ越してきたときも、一番に声を掛けてくれたもん。
今回もきっとそう。
「お手柔らかにね」
だから、わからないことだらけの転校生に今度はレナも手を差し伸べよう。
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:33:47.15 ID:FZ4JYBNp0
魅ぃちゃんと別れて一人帰路を急ぐ。
二股に分かれた道まで来て、ふと立ち止まる。
こっちに行ったら・・・噂の住人の家。
むくむくと沸いてくる好奇心に勝てず、気づけばいつもと違うもう一本の道に足を踏み出していた。
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:35:54.52 ID:FZ4JYBNp0
やっぱり大きい。お金持ちなんだろうか。
ほとんど正面まで来て家を見上げる。
でも、こんな田舎に越してくるなんて物好きな都会人もいたものだ。
住んでみればこんなに素適なところもないけれど。
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:36:44.08 ID:FZ4JYBNp0
―――と、そのとき中から声がした。
「・・・とりあえず外にまとめておいてー」
「おぉ」
やる気のない声と同時に玄関が開き、出てきた男の子とばっちり目が合ってしまった。
両手にゴミ袋を持っている。
・・・まずい。近寄りすぎてしまった。
単に通り掛かりというには無理がある距離だ。
その子の顔にはきょとんという文字が浮かんでいる。
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:38:44.81 ID:FZ4JYBNp0
「あの、うちに何か用ですか?」
ゴミ袋を玄関先に置きながら、不思議そうに尋ねてくる。
「あああ、あの、えっと、わ、私、このちょっと先に住んでいる者で・・・!」
何とか怪しくないことをアピールしようとして余計怪しまれる振る舞いをしてしまう。
「ちょ、ちょうど帰るところで、あの、昨日引っ越してきたって聞いて・・・」
言っていることが滅茶苦茶だ。うう、恥ずかしい。
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:39:33.48 ID:FZ4JYBNp0
「ぶっ」
・・・え?
チラッと男の子の方へ目線を移すと・・・あれ?笑ってる。
「ははっ、なんかよくわかんないけど、ご近所さん?」
「えっ、う、うん。あの、私、竜宮レナっていいますっ!」
脈略なく自己紹介をしてしまった。聞かれてないのに。
「そっか。俺は前原圭一」
不審がることなく、人懐っこい笑顔のまま前原君も名乗ってくれた。
「あ、分校なんだよね?私も分校通っているから、あの」
「分校?・・・ああ、あの一クラスしかない学校か、竜宮さんもあそこの生徒なのか」
「うん、だからクラスメート。よろしくね!」
ようやくいつものように笑えるようになった。
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:41:03.32 ID:FZ4JYBNp0
「圭一ー!ちょっと運ぶの手伝って!」
家の奥からお母さんらしき人の声がする。
「ああ!わかった!・・・ごめん。もう戻らないと」
「ううん!忙しそうだもんね!こっちこそごめんね!それじゃ!」
ちょっぴり名残惜しかったけれど、何となく気恥ずかさもあって駆け足でその場を立ち去る。
すると走る私の背に向かって前原君が声を掛ける。
「竜宮さん!」
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/23(水) 04:42:45.17 ID:FZ4JYBNp0
その呼び方に違和感を覚えた私は振り向きながら言う。
「レナでいいよ!」
「えっ、あ、じゃあ、レナ・・・さん」
戸惑いながら言う姿が何だかおかしくて、私はまた自然に言葉を発していた。
「『さん』はいらないかな、かな」
困ったような照れたような表情になる前原君。
ちょっと思案するように目線を泳がせた後、少しだけ顔を赤くしながら
「れ、レナ!・・・またあしたな!」
それだけ言ってすぐに踵を返し、家の中へと駆け戻った。
私はその場で立ち尽くし、そして一言呟いた。
「うん・・・またあしたね、圭一くん」
明日から始まる。
今日までとは違う日々が。今日までよりきっともっと楽しい日々が。
それは予感じゃなくて確信。
こんなにも明日がくることが待ち遠しいなんて。
家までの道のりを走りながら、私は頬が緩むのを抑えることができなかった。
レナと圭一の出会い 完