1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 22:55:44.75 ID:xixQTqmc0
1
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1261048895/l50
2
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1261134414/l50
3
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1261401183/l50
世界がこむらがえりを起こしたような事件から約一年。
未来人、宇宙人、超能力者などなどが集うこの妙な集団も何の代わりもなく行動力抜群の女団長に従って過ごす日々を送っていた。
まぁ、冬の雪山で新・宇宙人に監禁されたり、いけすかないキザな未来人と遭遇したり、
中学の時の同級生を神だと崇拝する超能力者に我が団のマスコットを誘拐されたりなど、イベントには事欠かない年だったがな。
そうこうしながらも、わりと気の緩みがちな二年目の高校生活はある圧倒的な存在によってハラハラの連続であっという間だった。
ようやく落ち着いたかと思えば、北風が勢いよく吹く、寒々しい季節になり、100Wの笑みで「今年もやるわよ!鍋パーティー」などと発言するやつがいるのだから事件が起きないはずもない。
しかしだ、今年起こった事件の原因は、団長でもなければ、未来人、宇宙人、超能力者のいずれでもない、これまでで最も悪質な事件であった。
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 22:56:45.51 ID:xixQTqmc0
12月17日(THU)
どんよりとした曇り空が冬の寒さをより強いものにしていた。
放射冷却なんていう言葉はおよそ1月の中頃までは縁のない話だろうし、そもそもこの中途半端な寒さで雨でも降れば誰かさんの機嫌がマイナスのメーターを振り切りそうだ。
どうせ降るなら雪が降ってくれ。
早朝の強制ハイキングコースを歩きながら俺はそんなことを思った。
「おっす、キョン。今年も涼宮たちと何かするんだろ?」
挨拶代りに、おそらくクリスマスの予定を聞いてきたのは谷口だった。
何かするのか?さぁな、ハルヒに直接聞いてくれ。
「とぼけんなって、あの一年中何かしら事件を起こす女がクリスマスに何もしないわけがないだろう」
やれやれ、全くその通りだろう。
「今年も鍋パーティーをやるとか言ってたな」
俺はそれをいかにしてごく普通の鍋物にするかで頭がいっぱいだ。今年もあの陽気な上級生を頼るべきだろうか。
「なぁ、それに参加させてくれよ。涼宮はどうでもいいんだがな」
「言っておくが、朝比奈さんに何かしたらすぐに追い出すからな」
俺がそう忠告すると、分かってないな、といった風に首を動かす。
「あの人には強力なボディーガードがついてるだろ、あの」
なるほど、鶴屋さんのことか。あの人はいよいよそういう役回りらしい。
「だが、長門、だったか?あいつはどうだ」
谷口は自慢げに人差し指を立てて説教を始めた。
「あんまりしゃべらねぇし、何考えてるかわかんねぇけど、顔は他の女子に比べていいからな・・・オぶッ」
「お前の気持ちはよく分かった。今年は出禁にしてやるからな」
カバンを顔面にクリーンヒットさせて俺はレッドカードを谷口に叩きつけた。
「くそ、お前だけであのハーレムを独占するつもりか」
残念ながら男は古泉もいるんだよ。
「さてはお前涼宮だけでは飽き足らず他の女も・・・おい、待てよ」
俺は谷口の言葉を無視して、慣れた坂道を登って行った。
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 22:58:22.25 ID:xixQTqmc0
「うーん、クリスマスに鍋パーティーか」
国木田と抱き合わせで潜りこもうという作戦か、谷口は国木田にそんな話をしていた。
「今年はもう予定があるんだけどな」
指をあごにあてて、考えるように空を見ていた国木田はのんびりとそんなことを言った。
「なんだ?彼女か」
「うん」
谷口の問いにあっさりと頷く国木田。谷口はわなわなと震え
「キョンに続いてお前まで俺を裏切ったのか!」
「あ、じゃあ今年は出来なかったのか」
国木田は少し驚いたようにそう言った。流石に少しイラッと来たぞ、俺も
「でも、キョンには涼宮さんがいるじゃないか」
だからハルヒはそんな関係じゃない。どちらかというと加害者と被害者だ。
「ふーん」
国木田は納得したように首を縦に動かすと
「でも、彼女クリスマスはバイトだって言ってたから良ければ参加したいな」
余裕たっぷりに笑顔で俺にそう言う国木田の横で恨めしそうに谷口が呟いた。
「もう死んじまえよ、お前ら」
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 22:59:17.01 ID:xixQTqmc0
その日の放課後、俺はいつものように部室へと向かい、鍋パーティーへの参加希望があったことをハルヒに告げた。
「ふーん、まぁいいわ。鍋運んだりとか、男手はあったほうがいいものね」
と少し不満そうに了承した。
メイド服でせっせと問題集を解く朝比奈さんもそれを聞いて顔を上げ
「あ、鶴屋さんも参加したいって言ってました」
と、愛らしい笑顔で友人の参加を希望する。今日も素敵です、朝比奈さん
「鶴屋さんは名誉団員だもの。でも、受験とか大丈夫なわけ?」
ハルヒの心配ももっともで、そもそも朝比奈さんがこんなところに今メイドルックでいることこそが不安でしょうがない。
「あ、それは大丈夫だって言ってました」
まぁ、あの先輩は受験がどうこうであわてるような人ではないだろう。どんな一流大学にもあっさりと受かってしまうに違いない。
「それなら今年もにぎやかになりそうね」
満足げに笑うハルヒに一抹の不安を覚える。
くれぐれも普通に、だ。頼むから
奥で古泉が「善処します」とアイコンタクトを送って来た。
やれやれ。やつにできるのはせいぜい今年は夜に部室で鍋パーティーを開く許可をあの生徒会長から持ってきてもらうくらいだろう。
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 22:59:58.65 ID:xixQTqmc0
12月18日(FRI)
目が覚めると雨は降り続いていた。
憂鬱な気分に目をこすりながら俺は顔を洗い、いつものように支度を済ませて出かける。
傘をさしていても、着ているコートに風で飛ばされた雨粒が斑点を作っていた。
「おっす、おはようさん」
嫌にさわやかな笑みを浮かべて、足元を濡らした谷口が話しかけてきた。
「どうだった?参加出来るのか?」
こいつはそんなことを楽しみに、そんなさわせそうな顔をしているのか。
「ちゃんと働くこと、だとさ」
ため息交じりにそう言ってやると谷口は鼻歌でも歌いだしそうな上機嫌だった。
「それで、教えろよ」
声をひそめて谷口が俺に囁く。一体何をだよ
「何を、って。きまってるだろ?」
一体なんだって言うんだ
「長門だよ。あの無口な美少女の好きなものを教えろって」
さあな、意外と奇妙な生命体に興味を持つかも知れんぞ
「なるほど、そんな趣味もあったのか」
俺はそんな話聞いたこともないがな
「じゃぁ、一体何がいいんだよ」
しつこいクラスメートの顔が近くなる。やめろ、俺にそっちの趣味はない。
「本じゃないのか?あいついつも何か読んでるからな」
顔を払いのけるようにして俺がそう教えるとあっさりと身を引いて
「よし、それなら後は買うだけだな。国木田にでも聞いてみるか」
と言って、クラスを見渡す。
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:00:48.64 ID:xixQTqmc0
「おい、国木田相談があるんだよ」
「ん?なんだい?」
カバンを置き荷物を整理する国木田に谷口が話しかけた。
「なぁ、お前面白い本とか知らないか?」
「へぇ、谷口が本に興味を持つなんて珍しいね」
国木田が少し驚いたような表情でそう言った。
「違う違う、俺じゃなくて人にやるんだよ、クリスマスだしな」
谷口が得意げに言うと、国木田が納得したように頷いて「なるほどね」と笑みを作っていた。
「なんかないのか?こう、渡しただけで『この人凄く知的、カッコイイかも』とか思わせるようなモンは」
あはは、と国木田があきれたように笑う。
「でも、それ内容聞かれた時どうするの?読まないんでしょ」
同感だな。そんな書物をコイツの頭で理解できるとは思えない。
「それは、その、あれだ」
谷口は続ける。
「適当に難しそうなこと言ってりゃ何とかなるだろ」
「なるほどね」
国木田は意味なく笑って「あ、そうだ」と何かを思い出したように
「昨日雨だったからか、車が歩道に突っ込んできてさ。危うくひかれるところだったよ」
と言った。笑い事じゃないな。俺も気をつけよう。
始業まであと二分か
俺は、今日何かあった気がするんだがなんだったかな、などと考えながら時間割を眺めて使う教科書以外を空のカバンに放り込んだ。
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:02:09.91 ID:xixQTqmc0
「それじゃ、各自にやりたい鍋物のアンケートを取るわ」
ハルヒはそう言って六等分されたA4サイズのコピー用紙を俺たちに渡す。
「ただし、これだ!っていうインパクトを必ず付けること」
ハルヒの無茶ぶりを無視して俺は素直に「すきやき」とだけ書いた。
まぁ、使うのは鉄鍋だし間違ってないよな。
ちなみに長門は「たこ鍋」
朝比奈さんは「甘味鍋」
古泉は白紙だった。
「全員書き終わったわね。それじゃ、この箱の中に入れて」
そう言ってハルヒは黒塗りの段ボール製『?』BOXをたたく。
どこかのクラスが文化祭のときに使ったものをがめてきたらしい。
それぞれが順番に箱の中に二つ折りにした紙を入れる。
「それじゃ、この六枚の中から一つを選んで今年の鍋物のメインとするわ」
「おい、ちょっと待て」
ハルヒが何か不正をしそうな気もするが、それ以前に
「SOS団は5人だろ」
「あたしが一枚多く入れたのよ。文句ある?」
さも当然と言わんばかりに鼻を鳴らしてハルヒが言った。
「文句言ってないで、それならあんたがくじを引きなさいよ」
乱暴に『?』BOXを押し付けるハルヒ。
俺はしぶしぶ箱の中に手を突っ込み引き当てたのは
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:04:16.12 ID:xixQTqmc0
白紙だった。
「何も書いてないんだが」
ハルヒに紙を見せる。ハルヒは不機嫌そうに頬を膨らませた。
「すみません、それは僕が出したものですね」
古泉が申し訳なさそうに手を挙げてハルヒに近づく。
「どうしても思いつかなかったもので仕方なく」
ハルヒは古泉の話を聞いた後、何故か俺をにらみつける。
俺は悪くないだろう。文句は古泉に言え。
「そこで、いかがでしょうか。鍋の材料を各自好きなものを一つずつ持ち寄って入れるというのは」
古泉の提案に、少し考えた後
「ま、いいわ、それで。ただし、SOS団の名に恥じないものを持ってきなさい」
と、ハルヒが言って興味を失くしたように団長席に座る。
「あと、買い出しは日曜日に行くから。集合時間も集合場所もいつもどうり。いいわね?」
団長は業務連絡的にそう告げた。
しかし、古泉その提案はまずいだろ。
俺はさじ加減一つで闇鍋と大差ないものが出来上がることが恐ろしくて仕方なかった。
やれやれ
俺は大きくため息をついた。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:06:31.11 ID:xixQTqmc0
12月19日(SAT)
「なぁ、キョン。いい加減教えてくれよ」
谷口がしつこく俺に長門の趣味を訊ねてくる。
よもやこいつも長門が神々しい女神に見えるなんて言い出すんじゃないだろうな、などといらぬ不安を抱いていた。
「しつこいぞ、俺もあいつのことはさっぱりなんだ」
せいぜい、他のやつには分からないだろう感情の機微を読み取れるとか、長門のトンデモ属性ぐらいにしかな。
「なぁ、国木田。もうお前だけが頼りなんだよ」
谷口はとなりで微笑んでいた国木田の肩をつかむ
「そうだなぁ、『人間失格』なんてどうだい?」
ナイスチョイスだが、国木田。お前は一体いつから毒舌キャラになったんだ?
「お前は俺のことをそんな風に思っていたのか」
谷口がうなだれる。
「違うよ、内容はなかなか知的でためになるよ」
国木田は手を振ってそう言った。
「それが嫌なら、夏目漱石なんてどう?『坊ちゃん』とか『こころ』とか」
「『こころ』?何かそれ、知的だな」
谷口が意外なところに食いついた。
知ってるか、それ、三角関係から主人公の親友が自殺する話だぞ。
「そういえば、昨日の帰り雨だったでしょ。それで危うく階段から落ちるところだったよ」
国木田が些細な不幸自慢をしているのを聞いて何か引っかかりを感じた。
そういえば、今日、何かなかったか?
いや、何かあるのは明日だろう。鍋の買い出しだ。
「人が多くてぶつかってよろけたのも原因なんだけどね」
俺の頭の中はすでに、どうやって普通の鍋物にするかでいっぱいだった。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:07:14.10 ID:xixQTqmc0
何事もなく授業は終わり、放課後部室に行くとハルヒは大層ご機嫌だった
「それじゃ、明日鍋の材料の買い出しに行くわ。
今回も鶴屋さんがスポンサーになってくれるらしいから大いに期待しなさい
あ、でもきちんと参加費は出すこと。おんぶだっこじゃSOS団の名が廃るわ」
こんなどうでもいい団体の名が廃ろうが俺にはどうでもいいことだが、確かにあの先輩だけに金を出させるというのも気が引ける。
その提案には賛成だ。
「あと、各自好きな材料を選んでいいけど、バランスを考えなさい。肉だけとか野菜ばっかりとかそんなんじゃだめよ」
お前に言われたくないね。
俺は上機嫌な団長が延々と明日の計画をくっちゃべっているのを聞きながら、野菜を買うか、肉を買うかで大いに悩んでいた。
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:08:49.06 ID:xixQTqmc0
12月20日(SUN)
朝九時にいつもの場所。俺はいつもより早く出かけた。
今日のメンバーはいつもの五人だけではなく、国木田、谷口、鶴屋さんを含めた八人と言う大所帯だ。
「おっそーい!罰金よ、罰金」
それでも、そこに着いたのはビリ直前で、谷口以外は全員その場に到着していた。
朝比奈さんといつも一緒にいる鶴屋さんはまぁ、いいとして、国木田、お前は何故俺よりも早くここにいる。
わざわざ集合時間20分前に出てきたってのにこのざまだ。
それから少しして、谷口も現れ、集合時間よりもかなり早いはずの全員集合に
「お前ら一体いつから待ってたんだよ」
と、さんざん文句を並べるハルヒへの苦情を俺に向かって愚痴って来た。
頼むからそういうことは直接本人に言ってくれ。
まぁ、それからの買い物はごくごく普通に、といった感じだ。
いつものように不思議探索、なんてこともなく、ハルヒは朝比奈さんや鶴屋さんと楽しそうに談笑し、
谷口は長門に積極的に話しかけてはいるがかわされ続けている。
俺と国木田、古泉の三人はのんびり会話しながらその様子を見ていた。
食品売り場では、それぞれが思い思いのところへ行き、買い物用のカートに乗せる。
そのカートの番は俺の仕事で、その隣でハルヒがえらそうに腕を組み、買うか否かの許可を出していた。
ハルヒ、俺は白菜の入っていない鍋なんて見たことはないし、白ネギじゃなく長ネギを使うやつなんて聞いたこともなければ、ホウレンソウなんてものを突っ込むのなんて見たくもない。
「いいのよ。普通の鍋じゃ意味がないの」
徐々に闇鍋の具材と大差ないようなものが放り込まれる買い物かごにせめてもと、こっそり豚のバラ肉を忍び込ませておいた。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:09:37.38 ID:xixQTqmc0
あらかた買い物が終わって、女性陣はさっさと洋服屋に入って行った。
残った男四人で休憩用の長椅子に腰かける。
「全く、買い物が好きだよ。女ってやつは」
谷口がぼやく。
「長門のやつも、何話してもウンでもスンでも言わないし。ありゃ脈なしだな、完全に」
少しでも脈があると思ったお前が凄いよ。
「やっぱり朝比奈さんかねぇ。かわいいし、優しいし」
谷口が深くため息をつく。
「あの先輩さえいなけりゃなぁ」
あの人がいてもいなくても結果はかわらんだろう。
俺はその事実をどうにかしてコイツに教えてやりたがったがやめた。勝手にしてくれ。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:10:38.72 ID:xixQTqmc0
女性陣が紙袋を持って現れ、この日の買い物は終了となった。
「よし、そんじゃ帰るか」
荷物は鶴屋さんが預かってくれることになり、間もなくやって来た黒塗りの高級車に材料やらを詰め込んで俺たちはお役御免となる。
谷口が大きく伸びをして、
「あー、疲れた」
と大げさに言った。
俺も疲れたよ、国木田や古泉もだろうな。
「それじゃ、国木田。帰ろうぜ」
「ゴメン、谷口。僕これから用事があるんだ」
帰りだそうと三歩歩いた谷口は、足を止めて明らかに嫌そうな顔をする。
「なんだ?用事って」
「うーん、ナイショ、かな?」
「ふーん」
目を細めて、けっ、と舌打ちして、
「どうせ彼女とデートだろ?せいぜい楽しんで来い」
と、国木田の肩をたたく。
「うーん、違うんだけどなぁ」
国木田は困ったように笑って、頭をかいた。
「そうかいそうかい、いいねぇ、幸せ者は。帰ろうぜ、キョン」
そう言って谷口は再び歩き出した。
「待たね、明日学校で」
国木田が小さく手を振っていた。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:11:22.05 ID:xixQTqmc0
「しっかし、国木田のやつ、誰と付き合ってんだか」
谷口はいまだに納得いかない、と言いたそうだ。
俺は去年お前に彼女ができたことのほうが信じられんが、まぁ結果的に別れたんだから何かの間違いだったんだろう。
「なぁ、お前は誰だと思う?」
知らん、皆目見当もつかんし、興味もない
「そうだよな、お前には涼宮がいるもんな」
はいはい、分かってますよ、と拗ねたように言ってため息をつく。
「んじゃ、また明日学校でな」
俺はそこで谷口と別れて帰宅する。
しかし、まぁ
谷口との会話で俺も少し気になった。
一体誰と付き合ってるんだ?そもそも相手は同じ高校なのか?
明日本人に聞いてみるか、とこの日の俺は思った。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:12:38.15 ID:xixQTqmc0
12月21日(MON)
「やっぱりあれだな、物静かなのは苦手だよ、俺は」
最近長門にやたらとお熱だった谷口は、朝現れるや否や、長門をあきらめる理由を延々と語っていた。
「ま、しばらくは俺も一人身のありがたさを味わうとするさ。彼女ができたらそれはそれでめんどくさいからな」
コイツが言うと負け惜しみにしか聞こえないんだが、まぁ、その通りなんだから仕方ないか。
俺は隣でやかましく徹夜で考えたらしい独自の恋愛論を展開していたが聞いてやる義理もない。
窓の外を見ながら思うのは、さっさと国木田が現れてくれないだろうか、だった。
横目で時計を見ると、その針はHR二分前を指している。
遅いな。
「なぁ、国木田、今日休むって聞いてたか?」
偉そうに喋りまくっていた谷口の話をさえぎって、俺は素直に疑問をぶつけた。
「いや、何も聞いてねぇけど?」
そう言って谷口は時計を見て、国木田がいない事に気づいたらしい。
「確かに遅いな。あいつ、遅刻するような奴だったか?」
国木田は誰が見ても優等生、という感じだ。遅刻したなんてことあった覚えがない。
「まさか、あの後何かの事件に巻き込まれたんじゃないか?」
へらへら笑って、冗談めかして谷口がそう言ったが、存外冗談で済まない話だったことを後で知った。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:14:10.34 ID:xixQTqmc0
「国木田が昨日出かけてから家に帰っていないそうだ」
クラスにどよめきが起こる。
今朝がた、笑えない冗談になったことを口走った谷口は青ざめている。
「先生、国木田が帰ってないってどういうことですか?」
手を挙げて発言したのはハルヒだ。
「いや、友人と出かけてから行方が分からないという話でな」
どうやら担任も詳しくは知らないらしい。
俺はハルヒのほうを向き、ハルヒの表情に責任感から来る真剣さが現れる。
それを見て俺は、同じく手を挙げて発言する決心をした。
「昨日、国木田と出かけてたのは、俺達です。」
担任が少し驚いたように俺たちを見る。
「お、俺も一緒にいました」
谷口も俺たちに続いて名乗りを上げる。
教室がさらに騒がしくなった。
「あとで職員室に。そこで詳しいことを教えてくれ」
担任はそう言って話を終わらせようとしたが、教室内の騒ぎがおさまることはなかった。
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:16:14.16 ID:xixQTqmc0
「変よ、事件の匂いがするわ」
担任による事情聴取が終わった後、ハルヒはいつぞやの『名探偵』腕章を腕に巻いて腕を組んでいた。
「まぁ、今回は確かにな」
あの国木田が黙って行方不明になるとは思えない。
国木田は誘拐されたのか、あるいは・・・。
一つの可能性として最近できた国木田の彼女のことを思い出し、まさか駆け落ちか?とも思ったが流石にそれは時代錯誤だろう。
もしかしたら、いつかの部長氏のように得体のしれない地球外生命体の作った亜空間に取り込まれたのかもしれない。
後で、長門と古泉あたりに聞いてみるか。朝比奈さんは例によって何も知らないだろ。
俺はハルヒの的外れな推理を聞きながら、一体国木田はどこへ行ってしまったのかと考える。
この時はあまり実感がわかなかったが、確かに事件は始まっていた。
「古泉、ちょっといいか?」
俺は、とりあえず古泉に話を聞くことにした。
「国木田氏のことですね」
古泉はいつもの張り付けたような笑顔で答える。
「“機関”でも全力を挙げて彼の行方を調べているところです。ご安心ください。
警察の中にも『機関』の協力者はいますから。何かあればすぐにお知らせできると思います」
彼は僕の大切な学友でもありますから、と、付け加える。
「ところで、昨夜、あの後、彼と会ったりなどは?」
古泉のそんな質問に俺はため息交じりに
「あるわけないだろう。用事があるって聞いてたからな」
古泉は満足そうに頷いて
「そうでした。それなら問題ないんですよ」
と、含みのあるセリフを残す。
「早く見つかると、いいですね」
あぁ、全くだ。
無事見つかったら根掘り葉掘り聞いてやる。失踪理由も、彼女ができた経緯も、その相手もだ。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:17:45.56 ID:xixQTqmc0
12月22日(TUE)
国木田の不在を除いては、日常と何ら変わりない一日だった。
クラス内では、『国木田駆け落ち説』が失踪原因の最も信憑性の高いうわさとなり、その相手の憶測が飛び交う。
俺はそこに積極的にかかわる気になれず、やれ、良家の子女だの、やれ、極道の娘などと、根拠のないことをやたら饒舌に語る谷口を眺めるだけにとどめた。
しかし、まぁ、あながち間違ってないんじゃないか?と思ってしまう。
とにかく、この日一日は国木田のその話題でクラスどころか校内も持ちきりだった。
一躍、時の人となった友人は今どこで何をやってるのかね?
俺は深くため息をついた。
放課後になり、半ドンのこの日は腹の虫がなくにはちょうどいい頃合いだった。
さて、今日の昼飯は学食に言って何かを食うか、購買でパンを買って部室で食うか?
ハルヒはどうするんだろうか
そう思った矢先だった
「っ、何、今の」
急にハルヒが俺の方を向いて、襟をつかみ乱暴に訊ねた。
「どうした、何かいたのか?」
ハルヒのただならぬ様子に俺はしどろもどろに答える。
「違う、何か聞こえたのよ、悲鳴みたいな」
そのやりとりの最中に、廊下が急に騒がしくなった。
「おい、救急車」
「先生呼べ!後担架だっ」
「三年生だ。先輩、大丈夫ですか」
「大丈夫だから、落ち着いて、ね」
俺とハルヒは顔を見合わせてすぐに廊下に出た。
「あ、キョン。あれお前の知り合いだろ」
「どこに行ってたんだよ、一人お前探しにいったぞ」
野次馬の中を突き進む間に見知った顔からそんな声をかけられた。
そして、ようやくその人だかりの先頭に辿りついて絶句する。
そこには、泣きじゃくり、パニックを起こす朝比奈さんと、
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:19:10.05 ID:xixQTqmc0
ぐったりとして動かない、上級生の、鶴屋さんの体が転がっていた。
「変、絶対変よ」
ハルヒは、興奮しているようだった。
あの後、すぐに鶴屋さんは救急隊に運ばれ、そばにいた朝比奈さんも、抱えられる様にして連れて行かれていた。
鶴屋さんは階段から落ちたらしく、朝比奈さんはそこに偶然居合わせ、動かない鶴屋さんを見てパニックを起こし、自身も気を失ったらしい。
俺も、知り合いがまさかこんなことになるとは思わず、ショックのあまり頭が真っ白になっていた。
血は流れていない。流れていないからこそ、逆にそれが恐ろしい。
鶴屋さん、一体なんであなたが階段から落ちるようなことに。
「何かの陰謀を感じるわ。鶴屋さんは突き落とされたのよ、でなきゃ」
「ハルヒ、落ち着け」
何でもかんでも得体のしれないもののせいにしたがるのはお前の悪い癖だ。本当に現れたらどうする。
ハルヒがこの様子で、古泉のバイトがないはずもなく、朝比奈さんは入院中。
長門は平然と何かの本を読んでいるだけで、顔色一つ変わっていない。
長門がこの様子なら心配はないと思いたいが。
とにかく、ハルヒを落ち着かせるのは俺の役目だ。
「あんた、鶴屋さんが階段から落ちて入院してるのよ!それがどうして」
「お前の騒ぎっぷりだと、あの人はもう死んじまったみたいじゃねぇか」
俺の一喝でハルヒはようやく我にかえり、深く深呼吸をしていつもの調子を取り戻す。
「そうよね、団長にあるまじき失態だったわ」
深くため息をついて自らの行動を反省するハルヒ。
階段から落ちたくらいで人が死んでたまるか。
俺は鶴屋さんの無事を信じることにした。
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:21:35.08 ID:xixQTqmc0
12月23日(WED)
翌日は祝日で、それでも俺は部室に来ていた。
鍋パーティーはやる。それがハルヒの決定だった。
目的は朝比奈さんを元気づけるためであり、もしかしたら、鶴屋さんの快気祝いになるかもしれないのだ。
俺はそれを祈って部室にやって来たのだが。
「お、丁度良かった、お前に話しておいたほうがいいだろうと思ってな」
途中で担任の岡部にあった。ジャージ姿ということは、おそらくハンドボール部の練習に付き合っているのだろう。
「なんです?」
もしかしたら、国木田が見つかったのかもしれない。という期待に胸を膨らませて俺は岡部の返事を待つ。
「その、なんだ」
伝えにくそうに、少し戸惑っている。悪いニュースなのかもしれない
俺は直感的にそう思い、それは当たっていた。
「鶴屋は相変わらず目を覚まさないそうだ。打ちどころが悪かったみたいでな。峠は越えたが障害は残るかもしれないらしい」
「そう、ですか」
全く、残念だ。
「そのことで、朝比奈がひどく落ち込んでるらしくてな。お前らで慰めてやってくれ」
最後に岡部は力強くこう言った。
「なに、死んだわけじゃないんだ。安心しろ」
全くその通りだ。死んじまうよりよっぽどましじゃないか
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:24:28.13 ID:xixQTqmc0
部室に行くと朝比奈さん以外のメンツが揃っていた。今日は谷口を呼んではいない。
俺は、すぐに、岡部から聞いたことをハルヒに伝えた。
「そっか、残念ね」
やはり落ち込んではいるが、自分が何をするかは分かっている顔だ。
「それじゃ、みくるちゃんを励ましに行くわよ。明日は団の激励会!特別に谷口の参加も認めるわ」
エラそうにそう指図して、
「出発!」
と景気よく声を上げた。
俺は、俺の日常にいつもの光景が戻りつつあることにほっとする。
しかし、その戻りつつあった日常はすでに音を立てて崩壊し始めていた。
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:25:39.36 ID:xixQTqmc0
朝比奈さんの家に行くのはこれが初めてかもしれない。
教師の話によれば、地方から親元を離れて一人暮らしをしている、というのが建前なのだそうだ。
未来はそんなに田舎なんですか?朝比奈さん
俺はそんなことを思いながら部屋のドアホンを押した。
ピンポーン
・・・
返事はない。
ピンポーン
・・・・・・
寝て、るのか?
「キョン、あたし管理人さん呼んでくる。嫌な予感がするのよ」
あぁ、俺もだハルヒ。なんだこの胸騒ぎは
「いや、待てハルヒ」
俺は走り出したハルヒを呼びとめる。
「長門、頼む」
俺は小さく長門にそう言ってドアノブを回した。
ガチャリ。
部屋のカギが開く音をきいてノブを引いた。
「開いてる」
実際には長門が開けたのだろうが。
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:27:03.88 ID:xixQTqmc0
「朝比奈さん、大丈夫ですか?」
「みくるちゃん、いるなら返事して」
あのおっちょこちょいの先輩のことだから、ドアホンの音をきいてあわてて着替えていたらとも思ったが、部屋の中は電気すらついていない。
「朝比奈さん、入りますよ」
俺は一気に部屋の奥に進み、朝比奈さんの姿を見つけた。見つけたのだが
「ハルヒ!すぐに救急車だ」
「涼宮さん、こちらに来ないで!」
部屋の隅に置かれたベットの上には変わり果てた朝比奈さんの姿があった。
枕元の元は愛らしかった口元には吐しゃ物が散り、こんな状況でなければ色っぽい胸元は開かれ、
その先に延びる手元には薬ビンの中身だろう白い錠剤が散乱していた。
ラベルにはおそらく、睡眠薬の文字
「長門!どうにかできないか?」
救急車を呼びにいったハルヒこんな光景はとても見せられない。
長門なら。そんな希望を長門に向けた
「……」
小さく首を振った、無表情で。
「完全に生命機能が停止している。蘇生しても再び同じ状態に陥る可能性が高い」
冗談だろう、いや、冗談であってくれ・・・
俺は悔しさのあまり思いきり白い部屋の壁を殴る。
そして、せめてハルヒには、と、朝比奈さんの上に白いシーツをかぶせて隠してしまうことにした。
その横で、古泉は黙って、ただ黙って真剣なまなざしを向けていた。
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:28:32.72 ID:xixQTqmc0
「少しお話が」
救急車で運ばれる朝比奈さんを見送った後、俺は古泉に呼ばれた。
「この事件、どう思います?」
古泉が、表情を笑顔で隠す。笑っていないのが俺にもわかるほどの殺気を感じる。
「俺は、朝比奈さんがドジでも睡眠薬を大量に飲みこむような真似をするとは思えん」
古泉はゆっくりと頷いた。
「もちろんです。僕もそれは十分に承知しています」
そして、続ける。
「しかし、客観的に見たこの状況としては、友人の転落事故を目の当たりにしたショックから精神的に不安定になり、
何も考えたくない一心から大量の睡眠薬を服用し、それが原因で死に至った、ということになります」
何が言いたい?
「落ち着いてください、僕たちの観点からみればこれは明らかに他殺です」
そうだ、俺もこの状況は朝比奈さんが誰かに殺されたとしか思えない。
「しかし、先ほども述べたとおり客観的にみればこれは事故、いえ、自殺と言えなくもない。警察がまともに取り合ってくれるとは思えません」
そういって、首をすくめ両手を肩まであげる。
「少なくとも、SOS団内から不審な死を遂げるものが現れるまでは」
ようやく、古泉の言いたいことが分かった。
「長門さんはまず心配ないでしょうが、僕やあなた、涼宮さんの身体機能はごく一般的な高校生と言えなくもないわけです。
念のため、機関のものがすぐに動けるように待機しているはずですので、大声で叫ぶなりして呼んでください」
まったく、その言葉が冗談ならどれだけよかったか。
とりあえず、身に危険が迫ってもなんとか助けてくれる人間がいるらしい。
俺はやたらと人の多い場所と、人気のないところを避けて過ごすことにしようと心に決めた。
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:30:15.95 ID:xixQTqmc0
12月24日(THU) X'mas eve
結局、朝比奈さんの一件のために、鍋パーティーは中止せざるを終えなくなった。
ハルヒには昨日のうちにあれこれ理由をつけて外出を固く禁じる旨を伝えている。
「まぁ、確かに物騒よね」
ハルヒも朝比奈さんの死を他殺だと信じている一人だろう。犯人なんて自分で捕まえてやると言いださんばかりの怒りようだった。
ただ、その怒りも、何か別のものが見え隠れして、それは朝比奈さんがいなくなったことへの悔しさや哀しさなんだろうなと思う。
意味もなく早くに目が覚めて、何気なく新聞を読むと『女子高校生薬物中毒で死亡 自殺か?』という見出しが本当に小さく載っていた。
これじゃ、書き方が悪い。まるで危ない薬にでも手を出していたかのようではないか。
妹がつけっぱなしにしていたのであろうテレビは、どこかの雑木林のボヤ騒ぎを報じていた。
『なお、この火事で男性の焼死体が見つかっており、警察では身元の特定を急ぐとともに…』
ありふれたニュースのようだが、朝比奈さんの事件や、その雑木林が俺の住む場所から思いのほか近くにあることを知ると物騒な世の中になったもんだと思う。
まったく、ハルヒのやってきたとんでもないことが、まるでかわいいものに見える。
どうしてこうなっちまったんだろうな。
可愛らしい上級生の笑顔を思い出そうとすると、どうしてもあの変わり果てた姿を思い出してしまう。
朝食をとる気になれず、俺はマグカップに入ったコーヒーをすすった。
『次のニュースです』
何故、俺はその日早起きをしたのかが分かった気がした。虫が知らせたのだ。
『被害にあったのは地元の高校に通う女生徒で、数か所にナイフで刺した跡と思われる刺し傷と暴行を受けた形跡があり…』
そして、被害者の写真が画面に大きく表れる。
俺は、手に持っていたマグカップを落とした。嘘だろ?
映し出された顔写真は、無表情で、下に刻まれた名前は『長門 有希』で間違いなかった。
あいつは情報なんたらなんて大層なものが作った宇宙人製アンドロイドだぞ。
いや、あいつはSOS団で最も頼りになる文芸部部長なんだ。
それがそんなに簡単に・・・
何で?一体何が…
俺は急いで部屋に戻り、すぐに古泉の携帯に電話をかけた。
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:31:41.23 ID:xixQTqmc0
「おい、ニュースを見ろ。こりゃ一体どういうことだ」
『落ち着いてください。長門さんのことでしたらすでに“機関”が調査を始めています』
「調査なんてどうでもいい!」
『確かに、彼女に限ってと油断していた僕たちにも落ち度があります。
しかし、彼女殺す、なんてこと普通の人間に出来るはずありません』
「だったら誰に…」
『あなたは、心当たりがあるのではありませんか?SOS団とひいては我々“機関”、長門有希の統括である情報統合思念体、そして朝比奈みくるのいる未来。
これらと常に敵対している組織を』
その古泉を聞いて俺はすぐに、佐々木を、そして超能力者・橘京子を、宇宙人・九曜を、未来人・藤原を
『僕の推理が正しければ、次に狙われるのは僕ではないでしょうか?あなたや涼宮さんには簡単に手だしは出来ないでしょう』
そして、電話の向こうの古泉は最後にこう言った。
『ご安心ください。僕は簡単に殺されませんし、あなたや涼宮さんにも護衛がついている。彼らの思い通りにはさせませんよ』
頼もしいが、何かが不安だ。電話が切れた後、俺はハルヒに『絶対に出かけるんじゃないぞ』とメールでくぎを刺した。
返信はない。あいつは本当に事態の深刻さを理解しているんだろうか。
『Eメール:涼宮ハルヒ』
すっかり日の暮れたころにハルヒからのメールが届いていた。
内容は『犯人の正体を突き止めたわ。今すぐ部室に来なさい』
読んでいて頭が痛くなる。あの馬鹿、勝手なことを。
俺は急いで出かける支度をする。
ハルヒがヤバイ。
どうしてあいつはいつも自分から危ない方向に突っ走ろうとするのか
風が冷たく、凍りつきそうなのを無視して俺は高校へと向かった。
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:33:44.84 ID:xixQTqmc0
閉ざされた校門によじ登り、校舎内への侵入に成功すると、俺はまっすぐに部室棟を目指した。
この学校の警備はずさんじゃないのか?
敷地内にある明りは俺の持つ懐中電灯だけのような気がする。
何の苦もなく部室にたどり着くと、弱々しい明りが外に漏れていた。
「ハルヒ、いるのか?」
俺は出来るだけ静かに中にいる人物に話しかける。
あまり大きな声を出して犯人に見つかってもことだ。
「やはり、来ましたか」
ハルヒはそこにいなかった。代わりに古泉が腕組をして立っている。
「非常に残念です。あなたは我々の仲間だと思っていたのですが」
そう言って、ハルヒの携帯を取り出した。
「お前、どうしてハルヒの携帯を」
どういうことだ?それじゃぁ、あのメールは
「そう、あのメールは僕が送ったものです。犯人をおびき出すために」
そう言って、古泉は俺に近づき、そして、告げた
「犯人は、あなたです」
全く、何かの冗談だと思った。
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:35:25.25 ID:xixQTqmc0
「まず、実はこの事件の始まりはおよそ一週間前にさかのぼります」
まるで探偵のように古泉が推理を語り始める。
「実は、国木田氏は17日に交通事故に遭遇しかけています」
そういえば、そんなことを言っていた記憶がある。
「あの現場には偶然、“機関”の関係者がいたのですよ。そしてこう証言しています
『車を運転していた人物はキョンくん、あなたにそっくりだった』と」
「その日俺はお前と一緒にいただろう。それに車の運転なんて俺は」
「やろうと思えば、車の運転なんて簡単ですし、彼が事故に遭遇しかけたのはその日の夜、コンビニからの帰りですよ」
俺の言葉をさえぎり、詰め寄る古泉の表情は真剣だ。
冗談にしちゃタチが悪いぞ。
「その日、あなたは何をしていましたか?」
古泉に聞かれ答えようとしたが、とっさには思い出せなかった。
夜?俺は何をしていた?
「まぁ、君の言葉を信じ、車の運転ができないのであればそれは見間違いであったとしましょう」
古泉は、コツ、コツ、と足音を立てて歩きながら推理を続けた。
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:37:10.92 ID:xixQTqmc0
「その翌日18日。この日も国木田氏は不幸な事件に巻き込まれかけています」
そう言って、足を止める。
「今度はバランスを崩して階段から転落しかけています」
そうそう、古泉は思い出したように言った。
「階段と言えば、鶴屋さん。彼女もそうでしたね」
そして俺は古泉から信じられない言葉を耳にする。
「居るんですよ、この時も君を見たという目撃者が。これは、偶然ですか?」
偶然に決まっている。俺はその日、その時・・・
アリバイがない。
俺は、具体的に何をしていたと古泉に伝えられない。
「そして、国木田氏が失踪する20日」
そこで、一呼吸置き、今までに見たことのないほどの殺気を帯びた目つきで
「君は、用事を済ませた国木田氏と再び会っている」
・・・なんだって?
「しかもその場で鶴屋さんと居合わせていますね」
俺はあまりの状況に言葉が出なかった。そんなことあるはずが
「これも、鶴屋さん本人ではなく“機関”の者の目撃情報なので、見間違いだった、ということもあるでしょう」
しかし、短くそう言って古泉は俺をにらむ
「彼の失踪と彼女の事故、それらが起きた後の朝比奈みくるの殺人事件、この現場にいたのは間違いなくあなただった」
「ま、待てそんなことあるはずが」
「君は気づいていなかったかもしれませんが、国木田、鶴屋、両氏の一件以降護衛を兼ねてSOS団員全員に“機関”もしくはそれにかかわる人間がついていたのですよ
そして、自宅に帰ったはずのあなたが、制服姿で朝比奈宅に現れた。お見舞いにきた、具合はいいか?と」
古泉は深くため息をつく。
「僕は、もしかしたらそれが君の犯行ではないと信じたかった。しかし、争った形跡もなく侵入し、彼女を手にかけることができるのは非常に限られてきます
宇宙人、もしくはそれに準ずる超常的な力を持った何か、あるいは、彼女と親しいものか・・・」
「そこで、あなたです」
古泉の推理が続く。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:39:26.98 ID:xixQTqmc0
「あなたは朝比奈みくるを殺害したのち、それを第一発見者として我々とともに現場に戻った。その後、長門有希を殺害」
そんなこと、できるわけないだろう。
「えぇ、そうなんです。通常であればそんなことできるはずがないんですよ」
古泉はお手上げです、と両手をあげて困ったようなしぐさをして見せる。
いや、仕草だけだ。本気で困っているはずがない。
「しかし、長門さんは本来の力を発揮できない状態にあった」
つまりどういうことだ?
「あなたが訪れたとき、長門さんは本来あるべき宇宙人的な力を失っていた」
俺は、一年前のあの事件、あの長門の姿を思い出す。まさか、そんなことあるはず
「えぇ、あるはずないんですよ、そんなこと」
本来なら、ですが。と古泉が小さく言った。
「しかし、もしも。もしもあなたが『やはりあの長門が好きだ』と言えばどうなるでしょうか」
俺は首を振る。そんなことをして何になる。
「まぁ、言葉に若干の違いがあっても、あなたが何かそう吹き込めば長門さんは宇宙人的な力を捨てる可能性は高い」
そんなはず
「あるでしょう。SOS団内であなただけは“特別”なんですよ。いろいろな面でね」
そして、古泉は静かに言葉を続ける。
「そして、今回のターゲットは涼宮さんだった。違いますか?」
再び古泉は俺にハルヒの携帯を見せた。
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:40:46.23 ID:xixQTqmc0
「そ、そうだ、そもそもなんでお前がハルヒの携帯を」
「簡単なことです。彼女、部室に置き忘れていたのですよ。この携帯電話を」
そういって、ハルヒの携帯を団長席のパソコンの脇の充電器に差し込み、「このように」と笑顔を向ける。
「ですから、罠を仕掛けさせていただきました。僕の推理ではあまりにも不十分ですから」
そして、肩をすくめる。
「残念です。あなたはここに来てしまいましたから」
「来るに決まってるだろう!ハルヒはここに来て殺されるかもしれないと思ったんだ」
俺は思わず声を荒げる。いや、もう俺は怒っていた。何でこいつは俺を疑ったんだ。俺は犯人じゃない!
「では」
古泉が冷たく言い放った。
「ではなぜ僕に連絡をしてもらえなかったのでしょう」
そうだ、なんで俺は古泉にも助けを求めなかったんだ。
そりゃ、焦ってたからだよ。
俺は俺に言い訳をした。
「それでは、観念してください。君の身柄は機関で預からせていただきます」
冗談じゃない。俺は犯人じゃないんだ
俺はそこから全力で逃げ出した。
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/22(火) 23:42:03.92 ID:xixQTqmc0
まさか俺が犯人扱いされるとは思わなかった。
潔白を証明するには真犯人を探し出すしかない。
でも一体誰だ、真犯人は。
俺は無我夢中で校舎の中をめぐり、一つの可能性が浮かんだ。
そうだ、一年前俺を刺したやつがいたじゃないか。
何らかの原因で、長門が古泉の言うようにあの時みたくなっちまって、朝倉が復活していたっておかしくないじゃないか。
ははは、だったらそれを古泉に言えばいい。あいつなら俺の姿を真似るくらい簡単だろう。
俺は、追ってきているはずの古泉を待って、今の推理を話すことにした。
が、
「みーつけた♪」
それが朝倉の声だと気付いたころには俺の視界は真っ暗になり
そして俺は最後に、何故かハルヒの姿を見た気がした。
―柊―