キョンがバグに見舞われたようです


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 14:45:31.42 ID:Nu4HNKKr0

その日、俺はいつものように教室に向かっていた。

今日もまたハルヒに振り回される一日になるだろうと思うとため息が出た。

しかしそれは決してつらいことではないのではないかと思う。

これまでしばらく、あまりにも非日常的な出来事に追われていたせいか客観視することができていなかったが、今の状況というのは滅多にないすばらしい状況だ。

わがままだけどまあ顔はかわいいハルヒ。

無口でクールだけど、時々かわいいところが出る長門。

笑顔がすてきな朝比奈さん。

むかつくがどこか憎めない小泉。

それに鶴屋さんや森さんや、佐々木。

まるで恋愛シュミレーションゲームのような日常だ。

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 14:46:38.15 ID:Nu4HNKKr0

恋愛シュミレーションゲーム。

一時期俺はこの虚構世界にはまりそうになっていた。

あれは中学生の頃だ。

その頃の俺はいわゆる中二病というやつを煩っていて、現実に辟易としていた。

そのとき、現実逃避のために始めたのがこれだ。

ゲームの世界は終わることがない。

バッドエンドになってもセーブポイントからやり直すことができる。

同じ日を全く別の過ごし方をできる。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 14:47:30.45 ID:Nu4HNKKr0

終わらない日常に辟易としていた俺にとって、一定期間で終わりを告げるシュミレーションゲームはうってつけだった。

終わりたくはない、でも終わりがなければ生きていくのがつらい。

終末論がはやった世紀末の気分が、その当時の俺にはよくわかったもんだ。

繰り返しを自覚しながらも、しかし画面の中ではまったく新しい一日を過ごすことができる。

正直女の子の攻略なんてどうでもよかった。

ただ緩い日常を、のんびりと過ごすには現実はあまりにも短く長かった。

そしてゲームはあまりにも適切だった。

気がつけば俺は、朝早く起きてゲームをしてから登校し、学校が終わるとすぐに家に帰って部屋にこもった。

そして夜遅くまで画面の中の日常を消費した。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 14:49:08.23 ID:Nu4HNKKr0

俺はあまり多くの本数をこなしはしなかった。

買う金もなかったし、それに世界観が違うゲームを立て続けにやると、俺が味わいたい日常性を十分に味わえないからだ。

同じゲームを繰り返し、すべてのイベント、すべてのページ、すべての音楽を聴いた。

誰にも言わず、ただ一人で。

ゲームをやめたのは高校受験のためだった。

勉強なんてしなくてもいい高校に行こうと思ったのだが、親が納得しなかった。

パソコンは取り上げられ、俺は勉強することを余儀なくされた。

それに、俺ももうそろそろやばいということに気がついていた。

いつまでもゲームの中にいるわけにはいかない。

現実と虚構の区別をつけなければ、このままいけばゲーム廃人になってしまうと思った。

そしてそれから1年以上、恋愛シュミレーションゲームには手を出していない。


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 14:51:23.44 ID:Nu4HNKKr0

「おはよう」

「ああ、なんだキョン。おはよう」

ハルヒは外を眺めたまま答えた。

今日は機嫌が悪いらしい。

こういう時コマンドが出てくれるとありがたいんだがな。

久々にゲームのことを思い出したせいか、そんなことを思った。

「なんだ機嫌悪いのか?」

結局直接聞く。

「あんたには関係ないでしょ」

関係なくはないのだが……。

しかしそれ以上話しかけるのもめんどくさいので、黙って1時限目の準備をする。


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 14:52:46.27 ID:Nu4HNKKr0

昼休みになった。

俺は何の気なしに部室に向かった。

「長門、じゃまするぞ」

そういって入ったが、部室には誰もいなかった。

机の上には本が置いてあり、しおりが挟まっている。

長門は少しの間はずしているらしい。

本を手にとってぺらぺらとページをめくった俺は、一瞬息が止まった。

その本には何も書かれていなかった。

真っ白なページが延々と続いている。

これは長門にしかよめない文字で書かれているのか?

なんとなく長門が戻ってくる前に部室をでて教室に戻る。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 14:54:45.75 ID:Nu4HNKKr0

「おう、どこ行ってたんだよ」

教室に入ると谷口が声をかけてきた。

「いや、部室に行ったんだけど誰もいなかったんだ」

「そうか」

教室には谷口のほかに、数人の女子がテーブルを固めて弁当を食べているだけだった。

「そういえば今日はずいぶん静かだな」

部室から教室にもどるときに、ほとんど物音も話し声も聞こえてこなかった。

いつもなら昼休みになればにぎやかなはずなのに。

「いや、普通だろ。それより早く飯食えよ。もうすぐ昼休み終わるぞ」

釈然としなかったが、俺はかっておいたパンをビニル袋から取り出した。

いつも食べているパンのはずなのに、今日は味がしなかった。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 14:56:41.60 ID:Nu4HNKKr0

放課後になり、俺は部室に向かった。

「お、古泉、お疲れ」

部室の前で古泉と鉢合わせした。

「お疲れ様です。どうしました? すこし顔色が優れないようですが」

「少し、な」

いつも通りではなかった。

明らかに何かがおかしい。

俺の体調もだが、周りの様子が変だ。

昼休みの静寂だけではない。

午後の授業では、教師が黒板に書いた文字が全く読めなかった。

国語の授業だというのに、黒板に綴られていくのはアルファベットと数字と記号の組み合わせ。

まるで文字化けのような様相を呈していたのだ。

俺はそのことを古泉に話した。

どうせハルヒがなにか企んでいるのだろうと思ったのだ。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 14:59:03.99 ID:Nu4HNKKr0

「涼宮さんにはなんの動きもないと思いますが」

「いや、でも明らかにおかしぞ。おまえだって昼休みの時間に違和感とかなかったか?」

「はて? なにも感じませんでしたが。特に何の連絡もありませんし」

古泉は本当になにも知らないようだった。

まあいい、長門に聞いてみればわかるだろうと思い、部室に入る。

が、部室には誰もいなかった。

昼休みと違うのは、読みかけの本が片付けられていることと、窓が開いていることくらいだろうか。

「長門ってどんな本読んでるんだろうな」

古泉の目を気にしながら、俺は本を手にとってページをめくった。

「んな馬鹿な!」

「どうしました?」

ページにはぎっしりと、なにやら小難しい単語がならんだ文章が書かれていた。

「いや、何でもない。難しすぎてな」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 15:02:17.34 ID:Nu4HNKKr0

昼のことは目の錯覚だったのだろうか。

それとも寝ぼけていたのだろうか。

そう思っているうちに朝比奈さんと長門がやってきた。

「遅くなってすみません。いまお茶を煎れますね」

長門は本を手に取ると、定位置で本をめくり始めた。

俺はハルヒがくる前にと、長門に昼からの出来事についてたずねた。

「涼宮ハルヒはおそらく関係していない」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 15:04:27.76 ID:Nu4HNKKr0

ハルヒがくると、俺はいつも通りに古泉とオセロに興じた。
「俺の勝ちだな」
「また負けてしまいました」
いつものように俺が勝つ。
古泉はなぜ強くならないのかと思いながら、朝比奈さんが煎れてくれた茶をすすった。
「え?」
おれは思わず吹き出しそうになった。
「あの、おいしくなかったですか?」
「いえ、そんなことは……。ただ少し薄くないですか?」
「そうですか?」
朝比奈さんは俺の持っていた湯飲みの茶を飲んだ。
「いつも通りだと思うんですけど。もう一度いれなおしますね」
「すいません」
お茶は全く味がしなかった。
いや、そもそも液体を口に入れたような感覚がなかった。
「ちょっと、いつも通りのみくるちゃんのお茶じゃない。なにいちゃもんつけてるのよ」
ハルヒが言う。
やはりおかしいのは俺の方らしい。
朝比奈さんがいれなおしてくれたお茶を黙って飲んだ。
やっぱり何の感覚もなく、味もしなかった。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 15:05:50.02 ID:Nu4HNKKr0

ハルヒが帰った後、俺は残ってもらった3人に事情を説明した。

しかし3人はそれぞれ理由はわからないと言った。

俺が病気か何かにかかってるんじゃないかと思ったが、長門はそれを否定した。

「あなたは身体的な病気にはかかっていない」

「じゃあなんで味がしなかったり、本の文字が見えなくなったり、黒板が文字化けしたりしたんだ?」

「理由は不明」

結局なにもわからないまま、俺は家に帰った。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 15:06:35.82 ID:Nu4HNKKr0

出迎えてくれた妹をあしらって部屋に入ると、取り上げられたはずのパソコンが置かれていた。

ゲーム類は没収される前に消してしまっている。

ソフトも売り払ってしまったのでもうゲームはできない。

ネットはできるはずだが、設定をするのがめんどくさくなり、俺はベッドに寝っ転がった。

今日は何だったのだろうかと考える。

普段だったら、ハルヒのせいで、それはそれで面倒だがわかりやすくてよかった。

それが違うと言われてしまうと気味が悪い。

俺がおかしくない以上、なにかが起こっていることは事実なのだろうが、理由が何にしろ長門にも確認できていないというのはどういうことなのだろうか。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 15:07:18.17 ID:Nu4HNKKr0

いつの間にか眠ってしまっていた。
メールの着信音で目が覚める。
ディスプレイには『古泉』の文字が浮かんでいる。
俺はすぐに電話をかけた。
「なにかわかったのか?」
『いえ、そういうわけではないんですが……」
「はっきり言ってくれ。なにが起こってる? 急に怪物に襲われたりするのはごめんだぞ。せめて心の準備がしたい」
『まず今回の件に涼宮さんは関係ありません」
「断言できるのか」
『100パーセント、とはいきませんが。それから長門さんも関係ありません』
「つまりハルヒの暇つぶしじゃないってことだな」
『その通りです』
「じゃあなんなんだ」
『調査中なのですが、これだけは言えます。』
古泉はしばらく黙った。
俺はいらいらしながらも次の言葉を待つ。
どうした古泉。
言いにくいことなのか?

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 15:08:04.45 ID:Nu4HNKKr0

『あなたはたぶんわかっているのではないかと』
予想外の言葉に俺は口が開いてしまった。
俺が事情をわかっているってどういうことだ?
わかっているのなら俺はこんなに落ち着かない気分には張っていないはずだ。
しかし古泉が冗談で言っているわけではないことはわかる。
「どういうことだ?」
『僕にはこれしか言えないんです』
「わかってることを全部教えてくれ」
『いいですか、僕にわっていることは、あなたがたぶんわかっている、ということだけです」
「なあ、古泉。そこに至るまでになにか理由があるだろう。些細なことでもいい。そういう理由を教えてくれ」
『すいません。私にもわからないんです』
電話が切れる。
慌ててかけ直すが、もうつながらなかった。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 15:08:54.54 ID:Nu4HNKKr0

翌日、いつもよりも早く登校すると、古泉の暮らすに向かった。

もしかしていないんじゃないかと思ったが、古泉はもう登校していた。

「古泉、昨日言ってたのはなんだったんだ?」

「おはようございます」

古泉は困った顔で挨拶をする。

「昨日お伝えしたのがすべてなんです」

「どうして電話を切ったんだ?」

「切れたんです。僕も何度もかけ直したんですが」

適当に話を切り上げて教室に戻る。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 15:09:46.51 ID:Nu4HNKKr0

「朝からぼさっとしてるわね」

いすに腰掛けたとたんに、後ろからハルヒにはたかれる。

「いて。なんだよハルヒ」

「なんか悩み事でもあるの? 団員の悩みを解決するのも団長の仕事よ。私にどーんと相談しなさい」

ハルヒと関係がないのならば、ハルヒに相談してもいいのかもしれない。

しかし俺はハルヒに相談することはしなかった。

いまの状況にハルヒが介入することで、さらにおかしなことになるのは避けたかったからだ。

「いや、寝不足なんだ」

そのとき、ハルヒが一瞬フリーズしたように見えた。

動揺して動きが止まったのとは違う。

明らかにフリーズだった。

でもそれは一瞬で、俺の目の錯覚かもしれない。

昨日からの一連の流れで、少しでもおかしなことを、なんでも不思議だと思ってしまっているだけかもしれない。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 15:11:07.88 ID:Nu4HNKKr0

昼休み、俺は久しぶりに谷口と国木田と昼食を食べた。
「それにしてもキョン、おまえうらやましいよな」
「谷口、またそのはなしか」
「そんなにうらやましいならキョンに言って部活に参加させてもらったら?」
午前中はなにも起こらなかった。
適度に賑やかに時間は過ぎた。
もちろん黒板の文字が文字化けすることもない。
もしかすると昨日の出来事は錯覚だったのかもしれないと思う。
朝のハルヒのフリーズも含めて。
「キョン、その弁当は朝比奈さんあたりが作ってくれたのか?」
谷口が俺の弁当をのぞき込みながら言う。
「違う。妹が作ってくれたんだ。こんどピクニックに行くからその練習だとさ」
弁当箱は、半分がご飯、もう半分におかずが詰まっている。
おかずは卵焼きとハンバーグ。
ハンバーグは昨日の夕方に焼いたものを詰めたと言っていた。
少し焦げてはいるがうまそうだ。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 15:12:00.28 ID:Nu4HNKKr0

「ハーレムの上に弁当作ってくれる妹かよ」
谷口が勝手に卵焼きの一つをつまんだ。
「ん、うまい」
「うまいじゃないだろ! 何勝手に食ってるんだ」
俺は谷口の弁当から、たぶん最後の楽しみにとっておくであろうウズラの卵をつまみとった。
「キョン、箸使いがうまいね」
国木田がほめるように、確かに切てもいないつるつるの卵を俺は塗り箸で器用につまんでいた。
「そういやそうだな。いつもならかならず落とすのに……」
動揺を見せないように平静を装う。
卵は明らかに不自然に、箸に吸い付くようにくっついていた。
まるで磁石同士のように。
「あ、最後の楽しみを!」
谷口の文句を華麗にスルーして、今度は自分の弁当箱から卵焼きをつまむ。
「……、谷口。卵焼きどんな味だった」
「どんなって今食べてるじゃないか。甘くてうまいよ」
「そうか。いや、そうだな」
俺は味のしない卵焼きを噛み砕いた。
まるで何かのデータの固まりを噛み砕いているような感覚に陥る。
これはいったい何なのだろうか。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 15:12:55.60 ID:Nu4HNKKr0

放課後、部室には朝比奈さんがいた。
お茶を入れてもらったが、やはり味も感触もない。
「どうしたんでしょうね」
本当に心配そうに言う朝比奈さん。
「たぶん結局はハルヒのせいだと思いますよ」
気休めだとわかりながらもそういう。
どう考えても俺が一番不安なのだが、朝比奈さんによけない心配をかけられない。
しばらくすると長門が来た。
「長門、相変わらずなにもわからないか?」
「ひとつだけ言えることがある」
「言えること? 言えないこともあるのか?」
「言えないことはあるが、今回の件に関してはすべての情報をあなたに伝えることができる。つまり今から言うことが私の把握しているすべて」
「わかった。教えてくれ」
「あなたはもうわかってもいいはず」
古泉と同じようなことをいう。
「どういうことだ?」
「言葉通り。あなたはわってもいいはず。わかるかわからないかはあなたの選択。私はこの結論に至るまでの情報を持ち合わせていないし、これ以上の説明をすることもできない」
意味がわからなかった。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 15:14:06.00 ID:Nu4HNKKr0

「お疲れ様です」

古泉が入ってくる。

「おう、古泉。長門がおまえと同じようなことを言ってるんだが、なにか新しい情報はないか?」

「残念ながら」

「そうか……」

ハルヒが入ってくるまでの間、俺たちは無言だった。

3人でぐるになって何かを隠しているのか?

それはありえなくはない。

俺のような一般人が知らなくていいような事情があるのかもしれない。

でもそんなことってあるか?

これまでだってヒントくらいはくれていたはずだ。

おれがもうわかってもいいはず、というのがヒントなのか?

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 15:15:30.54 ID:Nu4HNKKr0

「みんなそろってる?」

ハルヒが来て団活がはじまる。

とは言ってもやることはいつもと変わらない。

俺は古泉と将棋をして、長門は本を読んでいる。

朝比奈さんはメイド服でお茶を入れたり掃除をしたりしている。

ハルヒはパソコンをいじったり、朝比奈さんをいじめたり。

珍しく俺は古泉に負けた。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 15:16:40.70 ID:Nu4HNKKr0

家に帰りパソコンの電源を入れる。

デスクトップにはゴミ箱とテキストファイルが一つ。

俺はすることもなくソリティアを始めた。

1時間ほど時間をつぶした。

見なくてはいけないことはわかっていた。

たぶんテキストファイルにはなにかヒントが入っているだろう。

自分で作成した記憶はないが、ログインパスワードを設定してあるから家族が作った訳ではないだろう。

ほかのフォルダにもいくつか文書ファイルが入っているが、どれも記憶がある。

デスクトップのこれだけが違和感だ。

しかし俺は開くことなくパソコンを閉じた。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 15:21:46.50 ID:Nu4HNKKr0

夜中、俺は誰かに揺り起こされた。
「長門!?」
「そう」
「いや、そうじゃなくてだな。なんでここにいる? もしかして閉鎖空間か?」
「違う」
「じゃあどうして」
「話をしに来た」
冗談には聞こえなかったし、長門がする冗談ではない。
「何を聞きたい」
「しゃべりたいのはあなた」
「俺が? なにをしゃべりたいって?」
俺は少しいらだちながら言った。
「それはあなたが知っていること」
「……。わかるように話してくれ」
「あなたには選択肢がある。一昨日からの出来事を忘れるか、あるいは意味を知るか」
「知りたいね」
「本当に?」
「ああ、もううんざりだ。わかっているなら話してくれ」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 15:27:17.35 ID:Nu4HNKKr0

俺はしばらく長門と見つめ合った。

「あなたは気がつけるはずだった。いえ、気がついている」

「だからなにをだ」

「少し、聞いて」

俺はベッドから起き上がり、机のいすを引いた。

「まあ座れよ」

長門がいすに座ると、俺はベッドに腰を下ろす。

「ここ数日の出来事は、あなた自身が気がつくためにあなた自身が起こしたこと。あなたの無意識がさせたこと」

「無意識が?」

「私は対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイスであり、同時になにものでもない。同じように朝比奈みくるは未来人であり未来人ではない。古泉一樹も超能力者であり、超能力者ではない。そして涼宮ハルヒ」

「神であり神ではない」

「そう」

「なにが言いたい?」

「あなたはあなたであり、あなたではないということはない。あなただけが違う。でも同じ」

長門は淡々としゃべる。俺は言葉の半分も聞き取れていないのに、意味だけははっきりとわかっている。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 15:34:52.20 ID:Nu4HNKKr0

「私がすべて説明をしても」
「いい、話してくれ」
「あなたはこの世界で、実在がある唯一の存在。現実に存在している唯一の存在。現実をも虚構というのであれば、あなたもまた虚構の中のキャラクターにすぎないけど。
ここは虚構の世界。ただし涼宮ハルヒが生み出したものではない。あなた自身が生み出した世界。
涼宮ハルヒはあなたが体験したいと思うことを実現するための説明のためのキャラクター。古泉一樹や朝比奈みくる、そして私はその説明のための存在。
あなたは自分が作り出した虚構の世界に存在するためのキャラクターであり、故に実在しているがキャラクターでもある。
つまり……」
「つまりこの世界は俺の妄想であって、現実ではないと」
「妄想というのとは違う。ある意味では現実世界とパラレルな存在。あらゆる現実は虚構であり、想像の世界もまた虚構。どこを現実にするかはその人次第。

ただし、人が思う現実と虚構との違いは、人がそこに戻ろうとすること。今回の一連のバグは、あなたが現実と思う現実に戻ろうとする働き」
「無意識がそうさせた」
「そう。あなたは基本的にこの虚構世界に存在することを望んだ。けれど一部で現実に戻ることを希望した。そのせめぎ合いの結果がこれ。
あなたは説明役に私をえらび、今説明させている。
わからないと思っていても、あなたはすべてわかっている。私が話せる内容は、すべてあなたがすでに知っていること」

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 15:43:54.68 ID:Nu4HNKKr0

「どうすればいいんだ」

「ここまで聞いた以上、あなたはもうこの虚構世界にとどまることはできない。似た世界を脳内で再構築して、よりつよい自己暗示でその世界の住人になるか、現実にもどるか。

もうあなたは選んでいて、結局この説明はエンドロールのようなもの。結末はわかっている」

「戻りたくないと思っても無駄なのか」

「無駄ではない。似た世界を作れば、そこに最初からいたと思い込んで活動できる」

「これまでの記憶は?」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 15:50:19.16 ID:Nu4HNKKr0

「引き継がれるはず。あなたが望むなら。すべてはあなた次第。でもあなたは一度疑問を持ってしまって、今のような状態になっている。たぶんもうどうあがいても虚構世界に完全に入ることはできない。

今のようなことを繰り返し、無数の虚構世界を生み出し捨てていくだけ」

「……」

「この世界は、現実であなたが好きだったゲームに似せて作られている。次の世界もたぶんそう。現実に戻る場合は、画面外のプレーヤーとしてゲームをすることはできても、それ以上の関与はできない」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 15:57:58.93 ID:Nu4HNKKr0


「戻りたくないな」

「そう、ならば次の世界に必要な記憶だけをもっていくだけ。でもよく考えて。私が今説明をしている理由を」

「おまえは、俺が作り出したキャラクターなんだな」

「そう、あなた自身だってキャラクター」

「そうか」

「そろそろ時間。永遠にここにいて2人で話をすることもできるけど、それをあなたは選ばない」

「じゃあ行くか」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 16:04:43.32 ID:Nu4HNKKr0

「そう……。最後に一つだけ」

「なんだ」

「あなたが作り出したキャラクターとは言え、勝手に動き出すこともある。……、私もあなたの枠から離れた動き方をしていたかもしれない」

「そうか」

「さようなら」

「じゃあな」

俺は真っ暗な闇に吸い込まれた。

 終わり

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 17:09:03.01 ID:Nu4HNKKr0

一応終わりです。

呼んでくださった方ありがとうございました。

初めてだったので書き込みのペースとかよくわかりませんでしたが、次書くときはちゃんとやろうと思います。

続きは一応書いたのですが、ぐだぐだなのでここまでにします。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 20:55:17.00 ID:Nu4HNKKr0

目が覚めた。
いつもと様子の違う景色に戸惑いながら、なにか長い夢を見ていたような気分の原因を探る。
たしか長門が……。
!?
記憶が残ってる。
記憶が残っているということは、俺は現実に戻ってきたのだろうか。
そうであれば、俺はキョンではない。
では誰なのだろうか。
枕元にある鏡をのぞいてみる。
そこにいたのは見覚えのある顔だった。


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 21:00:31.17 ID:Nu4HNKKr0

俺が谷口!?
なぜ谷口の顔が鏡に映る?
いや、原因はわかっている。
鏡に映っているのは俺だ。
つまり俺は谷口なのだ。
最前の記憶からすると、谷口というのもまた、俺が作り出した虚構世界のキャラクターの一人に過ぎない。
記憶が残ってなおかつこの世界に残るというルートは長門の説明にはなかったはずだ。
ここはいったいどこなのだろうか。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 21:05:15.82 ID:Nu4HNKKr0

ぼんやりとしていると、母親らしき女性が起こしに来た。
「いつまで寝てるの!? さっさと起きなさい」
釈然としないが、ひとまず俺はベッドから起き出して着替えをした。
それから朝食を食べて学校に向かう。
学校で長門に聞くしかない。
長門が記憶を継いでいるのかは不安だが、ひとまずそれ以外の方法はない。
学校までの道順はなぜかはっきりとわかっていた。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 21:10:11.65 ID:Nu4HNKKr0

教室に入る。
俺は迷わずに谷口の席に座った。
いつもとは違う景色に少しだけわくわくする。
後ろにハルヒがいないのも新鮮だ。
と、国木田が声をかけてきた。
「キョン、なんで谷口のせきにすわってるんだい」
「え?」
俺は一瞬何を言われているのかわからなかった。
「いや、俺は谷口だし」
「なにいってるんだよ。キョンの席は涼宮さんの前だろ」
いつも座っていた席に目を向けると、ハルヒがこちらをにらんでいた。
訳もわからず席を移動するとハルヒが後ろからこづいてきた。
「何よ。私の前の席がいやになったの」
「いや、そう言う訳じゃ……」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 21:15:56.26 ID:Nu4HNKKr0

しばらくして俺が教室に入ってきた。
正確には俺の外見をした谷口だ。
いや、俺はそもそもキョンではない。
単純に考えれば、キョンと谷口の外見が入れ替わっているだけなのだが、俺はこの虚構世界の想像主だ。
俺は昼休みにしようと思っていた長門への相談をすぐにすることにした。
ハルヒに腹が痛くなったといいわけをして教室を飛び出した。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 21:19:33.30 ID:Nu4HNKKr0

「長門、ちょっと来てくれないか」
もうすぐ授業が始まるところだが、そんなことは気にしてはいられない。
長門はすぐにこちらに来てくれた。
そのまま部室に向かう。
「なに?」
「俺はだれだ? あなたはあなた」
「いや、俺はこの虚構世界の想像主だ」
「意味が理解できない」
「そうか、記憶が引き継がれてないのか」
手短にこれまでの経緯を長門に説明した。
「つまりあなたは現実に戻ろうとしたが、結果として谷口と外見が入れ替わっただけで、しかも記憶を引き継いでしまったままだということ」
「そうなんだ。前の世界の長門の説明、というか俺自身の説明ではこんな現象は選択肢になかった」

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 21:26:03.44 ID:Nu4HNKKr0

「今の話だと、あなたが私に相談することは無意味」
「ああ、それはわかってる」
たしかにその通りだった。
もし俺がこの世界の想像主であれば、一キャラクターに過ぎない長門に相談することは自問自答でしかない。
しかし頼れるのは長門だけという矛盾した心境だ。
「こう考えられるかもしれない。あなたは私に相談するという行為を通して、考えを整理していると。
そして一度失敗した現実への帰還の方法を探ろうとしている」
「なんでそんなややこしいことを?」
「おそらくあなたが考えている人間というのは、単純なものではない。わかった上であえてしなくてはいけないことも多分にある。思考を思考のまま操るよりも、絵にした方がわかりやすいのかもしれない」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 21:32:54.93 ID:Nu4HNKKr0

なるほど。
確かに考えていることを書き出したり図にした方がわかりやすいのは確かだ。
「もう一つ可能性がある」
「なんだ?」
「あなたは前世界における説明を信用していない。つまり本当に自分はキョンであり、そもそも現実世界の存在を信じていない。
 あるいは、そもそもあなたは想像主ではない」
まるで少年漫画のような展開だ。
ラスボスだと思っていたやつが、本当のボスの手下だったってやつだ。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 21:37:02.82 ID:Nu4HNKKr0

「だとすると俺はどうすればいい」
「どうにもならない。成り行きを見守るか、何らかの方法で現実に戻るか。もしくはこの世界に埋没するか」
ひとまず様子を見ることにした。
俺と長門は二時間目が始まるのを待って教室に戻った。
ハルヒにはいろいろと聞かれたが、トイレにずっといたと答えた。
休み時間に話しかけた外見キョンは、中身は谷口でほぼ間違いがなかった。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 21:42:38.89 ID:Nu4HNKKr0

昼休みに部室に行くと、古泉と朝比奈さんと長門がいた。
「話は長門さんからききました」
「キョン君本当は谷口君みたいなかおだったんですね」
朝比奈さんは何とも言えない顔をしていた。
重要なのはそこじゃないんですが……。
「今はとにかく成り行きを見守るしかない。二人には協力を仰いだ。今のところ私たちは今まで通りの活動をする。あなたが嘘をついているとは思わないが、信用して涼宮ハルヒの観察を怠ることはできない」
「そうか、悪いな。朝比奈さん、古泉、よろしくお願いします」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 21:46:36.89 ID:Nu4HNKKr0

団活はいつも通りに行われた。
俺は古泉とチェスをしながら朝比奈さんの煎れてくれたお茶を飲んだ。
しっかりと味がしておいしい。
それがうれしくてやたらとほめたらハルヒがむくれていた。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 21:53:35.70 ID:Nu4HNKKr0

家に帰るときに少し迷った。
谷口の家に遊びに行ったのはだいぶ前だったからだ。
よく迷わずに登校できたなと思いながら、玄関の戸を開けた。
いつもならば迎えてくれていた妹は当然いない。
「おかえり」と谷口の母親が声をかけてくれた。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 21:57:08.05 ID:Nu4HNKKr0

混乱していた朝とは違い、冷静に谷口の部屋を観察する。
机とベッド、そして小さなテーブルがある。
ひとまずベッドの下を確認し、エロ本がない意外性に驚かされる。
どうせ単純なやつだからここだと思ったのに。
そのあと、あちこちの棚を開けてみたり、ノート類を開いてみたりしたが、大しておもしろいものはなかった。
他人の部屋をあさっているという罪悪感は多少会ったが、しかし他人の部屋ではないという思いもある。
この世界では、俺ははじめから谷口の外見を持った俺なのだろう。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 22:01:10.14 ID:Nu4HNKKr0

夕食後、俺はベッドの上で今後の対策を考えていた。
とは言っても、何ができるわけでもない。
問題は俺がいったいどうなっているのかということだ。
俺は前の世界ではキョンであり、しかし世界の想像主だった。
この世界ではどうだ?
俺が前世界の想像主であったなら、ここもやはり俺が作り出した虚構世界だろう。
しかし記憶を引き継いでまで移動して、変化は俺の外見が変わったことと、長門の記憶が修正されたことだけだ。
むしろなにも変化させずに、俺の記憶だけ消しておいた方がよかったんじゃないのか。
自分のことながら全く訳がわからない。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 22:05:44.86 ID:Nu4HNKKr0

整合性がないのも不思議だ。
キョンと谷口の外見が入れ替わっているのに、役割は入れ替わっていない。
家や携帯が入れ替えに伴って変わっているが、席は替わっていない。
この中途半端さはなんだ。
俺は別に谷口になりたいと思ったことはない。
外見が変わるなら古泉の方がよかった。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 22:10:47.85 ID:Nu4HNKKr0

電話が鳴る。
「古泉か?」
『いま電話しても大丈夫でしょうか?」
「もちろんだ。なにかわかったか」
『いえ、ただあなたの説明を聞いて一つ思ったことがあったので』
「それはなんだ?」
『長門さんとも確認したのですが、あなたの外見が入れ替わった以外にもう一つ変化があることに気がつきませんか?』
「回りくどい言い方はしないでくれ。ただでさえ混乱してるんだ」
『これは失礼。端的に言えば、バグが修正されてると言うことになります』
「バグ?」
『つまり、あなたが話していた文字化けや涼宮さんのフリーズといった現象が起こっていないでしょう』

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 22:17:21.74 ID:Nu4HNKKr0

そう言われてみればそうだった。
まだ一日しか経っていないが、異変を感じたことはなかった。
「でもなんでおまえがそれを知ってるんだ?前の世界だと、おまえたちは俺の感じた異変を確認できてなかったはずだぞ」
『禁則事項です。……と言いたいところですが、ご説明しましょう。今から出てこられますか?』
「ああ、問題はない」
『では校門の前でお待ちしてます』
電話が切れた。
俺は急いで服をなんとか選んで外に出る。
谷口、おまえ服のセンス悪いぞ。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 22:20:14.68 ID:Nu4HNKKr0

校門の前には3つの陰が立っていた。
長門、朝比奈さん、そしてハルヒだった。
「古泉は?」
「古泉君はこないわよ」
ハルヒが言う。
俺は一瞬、秘密を知った古泉が消されたのかと思った。
が、長門がそれを否定する。
「あなたが思っているようなことは行われていない」
「じゃあ古泉はどこに?」
「古泉君は閉鎖空間にいます」
ハルヒの前にもかかわらず、朝比奈さんはその言葉を口にした。
「朝比奈さん、ハルヒの前で」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 22:25:06.79 ID:Nu4HNKKr0

「私は知ってるの」
「え?」
「涼宮ハルヒは世界の仕組みを理解した」
「どういうことだ?」
「説明は後。ひとまず着いてきて」
俺は三人に連れられて、住宅街の一角にある家にたどり着いた。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 22:29:34.91 ID:Nu4HNKKr0

「ここは?」
俺の質問には答えず、三人は戸を開けて中に入る。
「おい、勝手に入っていいのかよ」
「いい。ここはあなたの家」
しかしキョンの家でも谷口の家でもない。
「本当のあなたの家」
「どういうことだ?」
おれは何回この台詞を言えばいい?

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 22:34:16.21 ID:Nu4HNKKr0

「基本的に、あなたが前世界で得た知識には間違いがない。つまりあなたは虚構世界を作り上げ、その中でキョンというキャラクターになって生活していた。
 でも、現実に戻らなくてはいけないという思いがあってバグが発生し、虚構世界の仕組みを知ることになった。
 そして私という説明役のキャラクターの説明を経て、別世界に飛んだ。つまりこの世界に」
「ここは別の虚構世界ってわけ。驚いたわよ、私があんたの作り出したキャラクターに過ぎないなんて。しかも普通の人間じゃなくて神なんて」
「あなたは前世界で、最終的に現実に戻ろうとした。でもそれができなかったのでここにいる」
「どうして?」
「戻るためのプログラムが完璧じゃなかったんです」
朝比奈さんが下を向きながら言った。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 22:38:13.00 ID:Nu4HNKKr0

「現実から虚構世界に入り込んでしまえば、簡単には元に戻れないんです。だから時間が必要で、そのプログラムを構築する間に準備された意識の置き場所がこの世界です」
「だから前世界に似た世界が構築され、その世界のキャラクターである私たちが再構築された。今回ももちろん説明役。
 ただしあくまで現実に戻るための世界だから、あなたにははじめからこの世界が現実ではないということの知識が残されていた」
「じゃあ俺は」
「もうすぐ現実世界に戻る」
「古泉くんはプログラム構築のために閉鎖空間に行ってるわ。感謝しなさいよ」

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 22:42:42.83 ID:Nu4HNKKr0

……。
なあ、長門。
俺はどのくらいの間虚構世界にいたんだ?
どこからどこまでが初期設定で、どこからどこまでが体験したことだったんだ?
おまえたちは俺が現実に戻ったら消えてしまうのか?
俺はどうしたらいい?
「どうもできない。あなたはすでに現実に戻ることを選んだ。
 ここでの体験を現実世界の時間に換算することは適当ではない。
 一瞬でもあるし、永遠であるとも言える」
「そろそろ時間みたいです」
朝比奈さんが言うと同時に、ハルヒと朝比奈さんが足下から消え始めた。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 22:46:03.44 ID:Nu4HNKKr0

「私たちは所詮あんたの作り出したキャラクターよ、そんな悲しそうな顔しないで。辛気くさいわ」
「さようなら、キョン君」
俺は謝ることしかできなかった。
二人が消えた後、長門が同じように消え始める。
「古泉一樹は二人とともに消えた。プログラムは完璧」
そっか、古泉にはもう会えないのか。
最後に礼が言いたかったな。
長門、最後に聞いてもいいか。
なんで俺今谷口の外見なんだ?
「たぶん最後に笑えるように」
そう言って長門は鏡を構成して俺に向けた。
谷口がいた。
思わず笑ってしまう。
「WAWAWA忘れ物じゃねーよ」
その間に長門は消えてしまった。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 22:50:49.09 ID:Nu4HNKKr0

目が覚める。
見慣れているのに、懐かしい天井。
おれはどうやら現実に戻ってきてしまったみたいだ。
外はまだ朝焼けが見えるほどの時間帯だ。
顔を洗って散歩に行こう。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 22:56:09.88 ID:Nu4HNKKr0

支援ありがとうございます。
あとはエピローグです。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 23:04:13.56 ID:Nu4HNKKr0

もう俺はキョンではなかった。
ハルヒも朝比奈さんも長門も古泉もいない。
いや、はじめからいなかった。
すべては俺の作り出した妄想で、俺は現実でこうやって朝の街を散歩している。
あの街とは似ても似つかない街を。
でも、ふとした景色にあの街を重ねてしまう。
あれは本当に虚構の世界だったのか?
今は現実なのか?
夢だった、妄想だった、虚構だったと片付ければ簡単だ。
でもそんな割り切ることってできるだろうか。
現実だって虚構であふれてる。
全部を厳密に区切る必要はない。
現実が虚構なら、あの虚構世界もまた現実だ。
そうだろ?

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 23:06:10.00 ID:Nu4HNKKr0

誰も答えてはくれない。
学校に行けばそれなりに親しい友達が待っている。
ハルヒでも朝比奈さんでも長門でも古泉でもない、普通の人間が。
それは少し寂しいけれど、それはそれでうれしい。
家に帰って学校に行く準備をしよう。
今日も変わらない一日が、何もない一日が始まる。
じゃあな、キョン。



64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/03(木) 23:10:56.49 ID:Nu4HNKKr0

読んでくれた方、支援してくれた方ありがとうございました。



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