1 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/10/20(火) 18:41:29.66 ID:c0sKthxt0
立てよクララ
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/10/20(火) 18:42:28.12 ID:c0sKthxt0
短いよ
推奨BGM(YouTube):君の知らない物語/supercell
http://www.youtube.com/watch?v=YI3lbtlmVkw
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:43:09.03 ID:c0sKthxt0
「やぁ、キョン」
「うわ」
……飛び跳ねるほど驚かなくても良いのに。今のは少し傷ついた。
それに、なんだいその表情は。まるで狐に化かされたみたいじゃないか。
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:44:20.65 ID:c0sKthxt0
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いつもどおりのある日の事
君は突然立ち上がり言った
「今夜星を見に行こう」
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7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:45:18.46 ID:c0sKthxt0
「今日もこんな時間になっちまったな」
「そうだね、何か問題でもあるのかい?」
ふーっと。彼はこれみよがしなため息をついてボヤいた。
「まったく、人生の全てを勉強に費やしてるような気分になっちまう」
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:46:02.48 ID:c0sKthxt0
彼、キョンはどうやら勉強が好きではないらしい。
と言っても一般的にはキョンはマジョリティーに属するのだろうけど。
「そう思うなら早く君のご母堂を安心させる事さ」
「それができてりゃ苦労しとらん」
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:47:25.16 ID:c0sKthxt0
キョンとは同じ学習塾に通っている。
私は以前からだったけど、キョンは今年度、私たちが3年生になってから。
「だが成績は少しずつ右肩上がりに良くなっているようじゃないか」
「おかげさまでな。良い学友がいるとこうも違うかね」
「くっくっ……おだてても何も出ないよ、キョン」
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:48:22.78 ID:c0sKthxt0
肩をすくめて苦笑するキョン。
キョンは少し変わっている。時々祖父や叔父のような反応をする。
とは言え自分の方がよほど変わり者だけど。
「そういやこないだウチのおふくろがな、『今度佐々木さんにお礼しなきゃ』とか言ってたぞ」
「へえ。それは恐縮だな。しかしなんで僕に礼など」
「まさに俺はそうおふくろに聞き返したよ。いや、お前に感謝する事はなきにしもあらずだが」
ふうん。何か私に感謝してる事があるんだ。そう思うと知らず頬が緩んでいた。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:49:05.61 ID:c0sKthxt0
「それで?ご母堂はなんて?」
「ああ、それがな。曰く『アンタが勉強にやる気を出してるのは佐々木さんのおかげでしょうが!』だそうだ」
「くっくっ、全く自覚がないんだが、そうなのかい?」
「いや」
即答で否定されるのも何か複雑な気分だよ、キョン。
「そもそも、勉強に対して積極的、あるいは前向き、意欲的になっていないからな」
「……キョン……さすがにそれはご母堂に言ってはさぞや悲しまれるよ」
はっはと乾いた笑い声があがる。
「そこまで俺も馬鹿じゃないさ」
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:49:48.45 ID:c0sKthxt0
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「たまには良いこと言うんだね」
なんてみんなして言って笑った
明かりもない道を
バカみたいにはしゃいで歩いた
抱え込んだ孤独や不安に
押しつぶされないように
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19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:50:28.49 ID:c0sKthxt0
「ん」
「なんだい、キョン」
唐突に彼が歩みを止めた。
私は半歩先で立ち止まって横目にキョンを返り見た。
「空」
「うん?」
「今夜は綺麗だな、星」
「―――っ!」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:51:08.20 ID:c0sKthxt0
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真っ暗な世界から見上げた
夜空は星が降るようで
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21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:52:04.39 ID:c0sKthxt0
「佐々木?」
「う、うん。ああ、そうだね。星が、本当に綺麗だ」
今のは、ちょっと不意打ちだ。いや、キョンはいつもこうなんだけど。
私とは違う目線、違う価値観、違う思考で。
「蒸し暑い熱帯夜でも、少しは気分が晴れるってもんだ」
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:52:45.80 ID:c0sKthxt0
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ソ}::/ l::::i! _/i //::::::`:/ , ヽ! | , - T´ヽ./ヘ / `7.、
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24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:53:32.67 ID:c0sKthxt0
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いつからだろう 君の事を 追いかける私がいた
どうかお願い 驚かないで聞いてよ 私のこの想いを
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25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:54:41.36 ID:c0sKthxt0
でもそれが―――無性に、こんなに心地よいと感じるなんて。
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:56:13.11 ID:c0sKthxt0
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「あれがデネブ、アルタイル、ベガ」
君は指さす夏の大三角 覚えて空を見る
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30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:57:35.86 ID:c0sKthxt0
市外の進学校。2年の秋に初めて出した進路希望調査票にはその名前を書いた。
特にこれといって理由はなかった。
親は自分の娘が定期テストにおいて常にそれなりに高い位置にいる事を
少なからず誇らしく思っているようだったし、また、それを好ましいとも思った。
担任の教師も、佐々木なら大丈夫だろう。と言っていた。
自分の現在の偏差値からして―――もちろん今後も今までと同等の努力は求められるけど―――
とりたてて問題もなく、合格を射程内に捉えられると考えていた。
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:58:40.43 ID:c0sKthxt0
ふと、教室の一角で談笑している男子グループに目を向けた。
キョンと、国木田くん。あの2人は仲が良いらしい。
しょっちゅう話しているし、休日に連れ立って遊んだりもしているらしい。
国木田くんは成績優秀だ。しかし彼は進学校には進まずに県立の北高に行くつもりらしい。
北高は何かとりたてて特色がある訳でもない、いわゆる普通の公立高校。
彼なら私よりもさらに上の進学校を狙えそうなものだけど。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:59:22.80 ID:c0sKthxt0
キョンも、確か北高志望だったはず。
彼はそれこそ現在の自分のレベルならそこが無難だからと言っていた。
国木田くんが北高を志望するのはまさかキョンと同じ学校へ進みたいと
思っているから、なんてことは全然ないんだろうけど。
仮に愛を語らう男女であろうと、高校を選ぶのにどちらかがランクを落としてまで
わざわざ同じ学校へ進む、などというのはナンセンスだ。
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:00:07.77 ID:c0sKthxt0
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やっと見つけた織姫様
だけどどこだろう彦星様
これじゃひとりぼっち
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34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:01:11.25 ID:c0sKthxt0
そんな風に、当たり前に思っていた。
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:01:57.41 ID:c0sKthxt0
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楽しげなひとつ隣の君
私は何も言えなくて
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37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:02:58.16 ID:c0sKthxt0
梅がその花びらを散らし、桃の花が新たな季節を迎えるようにほころんでいる。
中学生にとり、最後のイベントである卒業式。
恐らく袖を通すのは今日が最後になる中学の制服。
お世話になった学び舎や教師。そしてそれぞれの道を進む友人だち。
私は志望していた高校に無事合格した。
約1年。一緒に学習塾に通ったキョンもなんとか北高への進学を決定していた。
「やれやれだ。しばらくは参考書の参の字も見たくないね」
「とは言うけどまた3年、いや、2年後にはこの1年と同じかそれ以上の勉強が必要だよ」
「……それを言わんでくれ……」
肩が抜け落ちたのかと錯覚するほど、キョンは両肩を落として落胆していた。
そんなキョンがおかしくて、つい喉を鳴らして笑ってしまった。
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:03:38.60 ID:c0sKthxt0
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本当はずっと君の事を どこかでわかっていた
見つかったって 届きはしない
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39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:04:20.73 ID:c0sKthxt0
そんな日をはるか遠い昔のように懐かしく思う。まだ一月とたっていないのに。
在校生代表の送辞を頭の片隅で聞き流しながらいつしか私の振り返る記憶には
キョンと共に過ごした時間ばかりが浮かんでは流れた。
おかしいな。楽しい思い出ならキョン以外の、それこそ女友達とだってたくさん作ったはずなのに。
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:05:09.02 ID:c0sKthxt0
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だめだよ 泣かないで
そう言い聞かせた
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41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:05:58.43 ID:c0sKthxt0
なんでだろう。
他の子との思い出を探せば探そうとするほど
キョンのいろんな顔が鮮明に浮かび上がる。
なんで、だろう。
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:06:45.00 ID:c0sKthxt0
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強がる私は臆病で 興味がないようなふりをしてた
だけど 胸を刺す痛みは増してく
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44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:08:09.89 ID:c0sKthxt0
なんで、だろう?
まさか本気でそう思ってる訳じゃ、ないよね。私。
いつの間にか、私はキョンのことが―――
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:09:14.95 ID:c0sKthxt0
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ああそうか 好きになるって こういう事なんだね
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48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:10:01.55 ID:c0sKthxt0
すーっと頬を駆け下りた水が顔の輪郭をなぞってゆく。
51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:11:11.65 ID:c0sKthxt0
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どうしたい? 言ってごらん
心の声がする
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53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:12:35.49 ID:c0sKthxt0
明日も、キョンと挨拶を交わしたい。
明日も、キョンと他愛ない会話をしたい。
明日も、キョンの顔が見たい。
54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:13:26.87 ID:c0sKthxt0
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君の隣がいい
真実は残酷だ
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55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:14:23.56 ID:c0sKthxt0
でも、それはもう、かなわない。
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:15:28.20 ID:c0sKthxt0
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言わなかった
言えなかった
二度と戻れない
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57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:16:37.06 ID:c0sKthxt0
仮に愛を語らう男女であろうと、高校を選ぶのにどちらかがランクを落としてまで
わざわざ同じ学校へ進む、などというのはナンセンス。
そう思っていたのに。
自分がそのナンセンスを選べば良かったと思うなんて。
58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:17:39.75 ID:c0sKthxt0
あの夏の日
きらめく星
今でも思い出せるよ
__,,,、,, ,,、- 、
/´: : : : : `´: : : : :ヽ
/: : : : : : : : : : : : : : : : : :\
/: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :.ヽ
/: : : : : : :i: : : : :.∧: : :il: : i: : :ヾ: :',
,': : : : : : : l: : :/:./ ∨:ハ: :i!: :l: :::::::i
l: l: i: : l /!/∨ |/ ∨∨!: :::::::l
レ!: !: :l i´""'''ー- ,、-ー'''` l: :::::ヘ!
∨ヘ i | r==ァ , r≡=、/::∧|
!ヘ∨ゝ .i ∧ソ
レヽi l } ∧ノ
レヘ ______ /ノ
∨\ ヽ __ / / ′
/i{ \ ` /i
/:::::l ヘ ` ´ ∧\
_,,-''/::::::::l ` ー、 ,/ .i:::::\、,_
笑った顔も
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:18:38.28 ID:c0sKthxt0
_._.,,.、.-.ー.-..、_
ゝ<´:::::::::::::::::::::::::::::`ー:.、
/::::::::/::::::ヾ::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
//::::::/::::/\!\_\::::i:::::::::::::::::\
/´/:.:l::::レヘ! ヽ/__\::::l::::::::::::i:::::::::}
!l:l::l::へ ヾ `´ニfソゝ ∨::::::::l:::!::::::::l
|:::レヘ f_)) レヘソヘ::!::::::!
レヘハ く |/ )ソ!:::::::!
! ` 、//:::/リ
、 - - 、 ′|/:::/
ヽ _ ´ ノ:::/
`ー、 ´ ∨_
_,∧ __,,、、<´ 〉、_
//∨) /∧ /::::::i:::ヽ._
怒った顔も
大好きでした
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64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:19:39.79 ID:c0sKthxt0
4月。私は入学式を迎え、晴れて高校生となった。
初日こそ午後から式が開始されるというスケジュールから
比較的混雑していない時間に電車に乗れたけど、
その次の日からは大変だった。
話には聞いていたけど、満員電車は朝の清々しい気持ちを辟易とさせるのに十分だった。
進学校という事だけあって授業はかなりハード。
中学時代の遺産だけでは到底足りないと判断してまた塾通いを選んだ。
勉強に追われる毎日。
クラスでもそれなりに友人ができて、それなりに忙しい日々。
でも、何かが足りない。
ここには―――彼が、いない。
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:20:39.78 ID:c0sKthxt0
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おかしいよね
わかってたのに
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66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:21:37.98 ID:c0sKthxt0
それでも季節は過ぎていく。
そんなある日の事。
「佐々木さん、ですね?」
放課後、帰り道に女性から声をかけられた。
「例え女性であれ、見知らぬ方からそう聞かれても警戒してしまいますが」
「くすっ、それはそうですよね。失礼しました。うん、理知的な女性で安心しました」
何のことか話が見えない。どうして私のことを知っているんだろう。
「挨拶が遅れました。私は橘と言います。今日は佐々木さんにお話があって来ました」
「私に?」
「ええ。あなたに」
67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:22:26.87 ID:c0sKthxt0
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君の知らない 私だけの秘密
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68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:23:22.88 ID:c0sKthxt0
「……とてもじゃありませんが、信じられません」
「そうかもしれません。でも本当の事なんです。証拠を見せろと言われると困ってしまうんですが……」
橘さんが話したことは、SF映画の舞台設定のようなものだった。
曰く、神、超能力者、未来人に果ては宇宙人まで。
今時ハリウッドだって1つの映画にそこまで雑多に特異な設定を詰め込まないだろうと思う。
この人がふざけたり、寝言を言っているようには見えない。
だけど、その口から語られた事を頭から受け入れられるほど私の頭は柔軟じゃない。
「確かにこの世界や宇宙のどこかにそういった存在がいる、観測されていない、認知できていないだけ。
という可能性を頭ごなしに否定する気はありません。ですが―――」
橘さんが、その小さな頭を俯かせる。ちくりと胸の奥が痛む。罪悪感。
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:24:19.11 ID:c0sKthxt0
「―――わかりました」
「え?」
顔を上げた彼女の目には新たな光が宿っていた。
「証拠は出せませんが、証人なら用意できると思います」
「……証人?」
「はい。佐々木さんが信頼できて、かつ私たちのことを知っている方に1人だけ心当たりがあるんです」
そう言って橘さんは一枚の写真を取り出した。
「……この方です」
そこに写っていたのは―――たまらなく懐かしい、そして愛しいとさえ思った顔だった。
70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:25:09.07 ID:c0sKthxt0
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夜を越えて
遠い思い出の君が 指をさす
無邪気な声で
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71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 19:25:58.84 ID:c0sKthxt0
「なんだ、佐々木か」
「……なんだとは、とんだご挨拶だ。ずいぶん久しぶりなのに」
そう、本当に久しぶり。1年ぶりだって言うのに。
こっちはどんな反応が返ってくるか楽しみにしていたって言うのにな。
「ん?どうした佐々木、ニヤケ顔なんかして」
喉を鳴らして笑う。ホントに、変わっていないな。キョン。
「……君の知らない物語、だよ。キョン」
おわり。
73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/10/20(火) 19:28:26.05 ID:c0sKthxt0
批判と支援ありがとう。おかげで猿くらわなかったよ。
BGM云々はこの曲知らないと完全に意味不明になると思ったから。
実験に付き合ってくれてありがとう。