13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 04:20:54.02 ID:XeBDDqUXO
俺は、ごく平凡な一般人の筈だ。
古泉の機関とやらが、頼んでもいないのにわざわざ調査してくださりやがったらしいが、その結果も同上だった。
そして、その「平凡な一般人」というのは、もちろん性癖や性的嗜好に関しても平凡であり、一般的である筈だ。
外見や年齢がどうであれ、性的嗜好が世間一般から突き抜けてしまっている人間を形容する言葉は「異常性癖」しかなく、異常性癖者は「平凡な一般人」と呼ぶ対象にはなりえない。
異常である時点で、平凡からはかけ離れた存在なのだから。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 04:22:20.23 ID:XeBDDqUXO
部屋のベッドの下のエロ本……そろそろ妹に見つかりそうな気がするから代わりの置き場所を考案中だ……も、所持者である俺が言うのも何だが、思春期の一般的な高校生に相応しいジャンル及び冊数である、と自認している。
ハルヒ、朝比奈さん、長門、朝倉、鶴屋さん、佐々木、橘、九曜、喜緑さん、森さんと色々な女性が俺の身の回りにいる。
そして、その彼女達を「可愛らしい」なり「美しい」なりと形容詞も色々だが、俺は素直にそう思える。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 04:25:13.98 ID:XeBDDqUXO
そこまで考えて自身の性癖を確認した後、俺は目の前にいる数少ない俺の親友に視線を移す。
俺の視線に全く気付かずに谷口と談笑するその親友――国木田に。
俺は、いつからか知らんが、「女々しい」だとか「ナヨナヨしてる」だとか、そういった侮蔑的意味ではなく、ハルヒ達女性陣に対してそう思う時と同じ感情でもって、国木田の事を「可愛い」と思うようになってしまったのだ。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 04:36:36.72 ID:XeBDDqUXO
しかしまた、なぜ今頃になって、そのような感情を国木田に抱くようになったのかは分からない。
国木田とは中学からの付き合いであり、そして中学で出会ってからつい最近まで、国木田に対してそんな感情を抱いた事はなかった。
すなわち、俺は生来の異常性癖者ではない。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 04:41:21.74 ID:XeBDDqUXO
しかし、俺の席の後ろにいるハルヒや、SOS団及びそれに関連するメンツを考えるに、俺が異常性癖者に「なった」のか、「させられた」のかが判断出来ない。
俺を異常性癖者に……ホモでもゲイでもバイでもショタコンでも何でもいいが……する事によって、誰が得をするのか、それは皆目見当がつかないが。
そして、国木田に対するこの感情が「誰かが作り出した偽の感情」である可能性が捨てきれない以上、俺は国木田に対してアプローチをかける事が出来ないでいる。
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 04:51:39.38 ID:XeBDDqUXO
「さっきからボーッとしちゃって、どうしたのキョン?」
「っ、いや、何でもない ただの……そう、考え事だ」
「何かあったなら、相談ぐらい乗るよ?」
「……ありがとな でも、大丈夫だから」
ちくしょう、言える訳ないじゃないか。
考え事の対象は国木田なんだ、なんて。
お前の事が好きなんだ、なんて。
誰が異性だったら、もしくは同姓だったら。
そんな事をいちいち考えるほど、俺は暇人ではない。
いや、なかった。
もし国木田が異性だったらこの思いを打ち明けられるのに――そう考える日々が続いている。
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 05:01:39.23 ID:XeBDDqUXO
さて、そんな風に、どこかの団長さんにも負けず劣らず憂鬱な日々が続いていたある日の事。
「今日、SOS団にお邪魔してもいいかな?」
ふいに、国木田がそう言った。
込み上げてくる嬉しさとニヤケを必死に隠しながら、言葉のキャッチボールを開始する。
「どうしたんだ、急に」
「今日は谷口と遊ぶ予定だったんだけど、強制補習があるみたいでさ」
「……あぁ、テスト全滅だったからな、谷口」
「それで、涼宮さんに聞かれたら怒られちゃいそうだけど、今日暇なんだ」
「……あぁ、来いよ 歓迎するぜ」
「ありがとう、キョン」
……谷口も、たまには役に立つんだな。
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 05:09:35.18 ID:XeBDDqUXO
放課後、普段より一人多くなったSOS団部室。
長門はいつも通り読書に励み、ハルヒはいつも通りパソコンで……何を見てるんだか。
そしてその他四人はというと、二人ずつに別れてボードゲームを開始する。
この部室の中では、それか雑談ぐらいしか暇潰しになるコンテンツはない。
もし雑談を始めていたら、俺が普段とは違うのを悟られるであろうしな。
国木田と全く話せなくなるか、逆に国木田とばかり話してしまうか。
どちらにしろ、いつも通りに過ごせなくなるのに変わりはない。
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 05:26:55.30 ID:XeBDDqUXO
ハルヒがいじくるパソコンの音。
長門の指がページをめくる音。
校庭で汗を流す部活の連中の掛け声。
そして、俺や国木田達が使っているボードゲームの音。
それらしか聞こえない静かな空間で、俺の対戦相手の国木田が口を開く。
「……ねぇ、キョン」
「どうした、国木田」
「このゲームの勝者は、敗者に何か一つ命令出来る……なんてのはどうかな」
その言葉に、国木田に向けていた視線を盤上に戻す。
多少押され気味ではあるが、逆転は十分可能そうだ。
「OK、後で恨むなよ?」
「そうこなくっちゃ」
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 05:43:20.49 ID:XeBDDqUXO
ただの暇潰しのゲームが、真剣勝負に一変する。
国木田にとってそれに何の意図があるのかは知らないが、俺にとっては「賭け事」以上の魅力がある事に違いはない。
朝比奈さんが時おり注いでくれる冷茶と、毎日古泉をいじめぬいた経験を糧に、不利だった戦況を少しずつ挽回していく。
本来なら勉学なりスポーツなり、はたまた恋愛なりに費やすべき集中力を、ボードゲームに惜しみなく投入する。
国木田は古泉と違い、それなりに強い。
最も、何十人もの人間と対戦してきた訳でもない俺が評するべきではないかもしれないが、一般的な学生のレベルとしては十分に強いと言える。
だが、それでも――負ける訳にはいかなかった。
おそらく、今までの俺の人生でもトップ3には入るほど集中した。
そして――。
パチッ
「俺の勝ち、だな。 国木田」
「……そうみたいだね」
俺は、勝利と権利を手にした。
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 05:56:13.12 ID:XeBDDqUXO
「参ったなぁ。 正直、勝てそうだったから持ちかけた賭けだったのに」
「すまんな。……俺だって、たまには誰かに命令したくなるもんさ」
「ふふ、本気だったのかい?」
「古泉には悪いが、普段は本気なんて出せなかったからな」
「……それはそれは、申し訳ないです」
話を振り、古泉を会話に参加させる事で、早くなり過ぎている心臓の鼓動と逸る心を静める。
「そっか。 ……それで、キョンは、僕にどんな命令をするのかな?」
部室という場所と周りのメンツを度外視すれば、やや卑猥な意味にも受け取れるセリフ、そして上目遣い。
古泉に話を振った意味は、一瞬で消滅した。
「頭の中が真っ白」って状況に陥りそうになるのを必死で堪える。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 06:05:48.63 ID:XeBDDqUXO
国木田に恋心を抱き、「異常性癖」の域に足を踏み入れてしまった俺でも、常識は一応理解している。
敗者の表情、そして、ゲームをする手を止めてこちらを見る古泉と朝比奈さん。
彼らにとって、この「勝者は敗者に何か一つ命令出来る」というルールは、ただのゲームに緊張感を持たせる為のお楽しみでしかない。
合コンの王様ゲームですら多少なりとも場の空気次第で制限がある……らしい。
たかだか暇潰しのボードゲームなら尚更だ。
「どうするの、キョン?」
「そうだな……」
「今日、俺と一緒に下校しろ……って命令でどうだ」
「そんなの、あまり命令になってないじゃないか」
理性と欲望の勝負は、僅かに欲望が上回ったカタチで第一ラウンド終了となった。
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 06:13:48.74 ID:XeBDDqUXO
それからは、俺の緊張感が抜けた為か、勝ったり負けたりの伯仲した勝負になった。
命令は様々で、「飲み物を買ってこい」、「一発芸をしろ」、「テストの点数をこの場で公表しろ」……。
そして、残された時間的に、最後の勝負。
それを僅差で逃げきった国木田は、俺にこう命令した。
「そうだなぁ……この後、僕はキョンと一緒に帰らなきゃならないんだよね?」
「命令だからな、嫌なのか?」
「そういう意味じゃないよ。 じゃあ……」
「僕を一晩キョンの部屋に泊めろ、でどうかな?」
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 06:25:37.08 ID:XeBDDqUXO
少々、いや、かなり予想外な命令を受け、思わず俺の表情と声が固くなる。
「まぁ、別にいいぞ。『命令』だしな」
「そうそう。『命令』だから」
「……すると、一緒に帰ってそのまま泊まっていくのか?」
「んー……少し僕の家に寄っていってもいいかな?」
「あぁ、分かった」
パタン
俺達の会話が途切れるのを待っていたかのように、長門が読書を終える音が部室に響く。
いつも通り帰宅する連中を見送り、少しばかり部室で雑談した後で、二人揃って部室を出る。
誰かに邪魔はされたくなかったから。
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 06:35:17.53 ID:XeBDDqUXO
風邪ひかせるのは嫌だから先に行っておこう
俺はエロシーンは書けない
言われた通りに途中で国木田の家に寄り、部屋へお邪魔させてもらう。
友人として国木田の部屋に来た事はあるが、恋心を抱く者として部屋を見渡せば、また違った感慨である。
「どうしたのさ、模様替えなんてしてないのに見渡しちゃって」
「あー、いや、国木田の部屋に来るのも久々だから それでな」
「……キョンと二人でいるのも、久々だね」
「……そうだな」
「SOS団で忙しそうだから、なかなか遊びにも誘えなかったんだ」
「……すまんな」
「あー、だから、その……今日は目一杯楽しみたいなって事だよ」
「あぁ、楽しもうな」
「……うん」
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 06:46:35.65 ID:XeBDDqUXO
制服から私服に着替えて、携帯や財布をポケットに詰め込んだ国木田と共に、国木田宅を出る。
改めて、私服姿の国木田を眺める。
中性的な容姿、痩せ気味の体躯、色白な肌。
ここ最近はSOS団の忙しない活動のおかげで国木田と遊べる暇は無く、よって、久々に見る私服すら刺激的に映る。
「……? どうしたのさ、キョン」
「どうもしない」
「さっきから僕の事、ジーッと見てたじゃないか」
「見てない」
「もう、キョンったら何を意地貼ってるんだよ」
「……その、私服見るの久々だから、つい、な」
「……最初っからそう言えばいいじゃないか、バカキョン」
「すまんな」
「んー、別にいいよ。 怒ってないから」
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 06:57:34.78 ID:XeBDDqUXO
キスシーンか……頑張ってみるよ
俺の家に向かう途中、ジュースや菓子を買う為にコンビニに寄っていく。
「ねぇ、キョン。 このジュース新発売だってさ、買ってみない?」
「あー、なかなか美味そうだな」
「でしょ。 飲み物は、それとコーラがあればいいかな?」
「家に麦茶ぐらいあったし、それで足りると思う」
「わかったー。 キョンって、お菓子どんなのが好き?」
「国木田の好きなの選んでいいぞ、俺は特に好き嫌いはないから」
「……ありがと、キョン」
「いえいえ、どういたしまして」
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 07:07:13.04 ID:XeBDDqUXO
「買った物全部一人で持っちゃって、重くないの?」
「重くない、と言ったら嘘になるがな。 まぁ、一緒に下校しろって『命令』したのは俺だから……荷物持ちぐらいさせてくれよ」
「……優しいね、キョンは」
「そりゃどーも」
自宅に到着して、国木田を俺の部屋に向かわせ、俺はコップや皿を準備しにリビングへ向かう。
買ってきたジュースを冷蔵庫に入れようとして、それに付いているホワイトボードの書き置きを見る。
うちの親の字で「妹ちゃんも私も明日まで帰れません、ご飯はこれで買うように」とのシンプルな書き置きと千円ばかりの金。
……明日まで、か。
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 07:20:14.25 ID:XeBDDqUXO
「キョン、なにやってるの?」
「……いや、今日は親と妹が帰ってこないらしくてな」
「……そっか」
「……あぁ」
「んーと、ご飯はどうするのかな?」
「コンビニ弁当か、どっか食いに行くか……だな」
「じゃあ、よかったら僕が作ろうか?」
「料理出来るなんて、初耳だな」
「簡単なのしか作れないよ?」
「いやいや、十分さ……国木田の料理食ってみたいしな」
「わかった、しばらく待っててね」
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 07:29:51.17 ID:XeBDDqUXO
「駄目だな、どうも落ち着かない」
ベッドに転がって、国木田の料理を待ちわびる俺の感想。
学校の調理実習での役割がもっぱら「材料を買ってくる係」か「食器を洗う係」であった俺が手伝ったところで、うちの広くないキッチンではかえって邪魔になってしまうだろう……。
そう思って自分の部屋で待っているが。
同じ屋根の下に国木田と二人きり、なんて、夢にも見た事のないシチュエーションに脳がテンパっているのが現状である。
ゲームも漫画も、気晴らしにも暇潰しになんてなりやしない。
一緒にいてもいなくても同様に、国木田の事を考える事に俺の脳ミソは特化してしまっている。
これは、ちょっとしたスペクタクルだな。
61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 07:41:05.37 ID:XeBDDqUXO
いったい、どれだけの時間が経ったのだろうか。
そう思って携帯で時間を確認するも、まだ15分も経っていなかった。
国木田を待ち焦がれる俺を嘲笑うかのように、時の流れは遅い。
ベッドの下の18禁書籍を片付けて、部屋を掃除し、音楽を流し……って、初めて国木田を部屋に招いたわけでもあるまいに、どうにも落ち着かない。
もういっそ、キッチンの様子を覗きにいこうか。
そこまで考えが至った頃になって、ようやっと国木田が料理を持って部屋にやってきた。
「ごめんね、待たせちゃって」
「いやいや、まだそんなに時間経ってないのに……よくこれだけ作れたな」
「ふふ、柄にもなく頑張っちゃったよ」
「そんじゃ、食おうか」
「うん、たくさん食べてね」
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 07:56:04.02 ID:XeBDDqUXO
「ど、どうかな」
「……うん、美味いよ」
「良かったぁ、キョンの口に合わなかったらどうしようって、気が気じゃなかったんだ」
「こんな美味い料理が作れるなんて、凄いよ国木田は」
「そんなことないよ」
「ほら、国木田も食べようぜ」
「あぁ、そうだね。 いただきます」
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 08:01:30.98 ID:XeBDDqUXO
「すまん国木田、そこの卵焼き取ってくれ」
「卵焼きね、はい」
「……なんで、俺が差し出した取り皿じゃなく俺の口元に卵焼きを持ってくるんだ」
「いいじゃんか、そんな事。 はい、あーん」
「……あの、国木田?」
「早くしてよ、箸で食べ物を掴んだまま腕を伸ばすのってけっこう辛いんだから」
「……あーん」
「ふふ、美味しい?」
「……あぁ、美味しい」
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 08:15:17.79 ID:XeBDDqUXO
「食べ終わったし、片付けとかないとね」
「あー、いや、皿洗うぐらいは俺にやらせてくれ。 作ってもらった上に皿洗いもやってもらうのは気が引ける」
「じゃあ、頼んだよ。 待ってるから」
「……あぁ」
人間ってのは、頭で何かを考えながら、体は全く別のやれるようだ。
キッチンで機械的に皿を洗いながら、そんな事を考える。
一緒に下校して、一緒に買い物して、料理作ってもらって、あーんしてもらって、しかもこれから泊まっていくんだ。
これじゃまるで、俺と国木田が付き合っているみたいじゃないか。
……国木田は俺の事が好きなのか?
いやいや、そんな事、あるわけないじゃないか。
なんでそう言いきれるんだ。
普通に考えて、男の友人同士がお互い好きになる確率なんて、いったいどれほど低いものか想像つくだろう。
ならば、先程の「あーん」はどう解釈……。
頭の中で否定派と肯定派を議論させながら、皿を洗う手は止まる事はなかった。
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 08:29:42.37 ID:XeBDDqUXO
皿洗いも終わり、自室へと普段の三倍の速さで歩く。
未だに、脳内で否定派と肯定派の議論は終わっていない。
いや、俺自身、終わってほしくないのだろう。
だが、扉を開けると、料理を待っている間に片付けた筈の物が部屋一面に広げられているのが目に飛び込んできて……議論は強制的に中止となった。
「キョン、もう少し分かりにくい所に隠さないと。 こういう物は特にさ」
「……なんで、俺のエロ本を読んでいるんだ国木田」
「机の引き出しの中、なんて分かりやすすぎるよ」
「国木田、とりあえず片付けてくれ」
「やだ」
120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 17:56:59.36 ID:XeBDDqUXO
国木田もエロ本読むんだなぁ……って違う違う。
問題点はそこではない。
俺の18禁書籍が、よりによって意中の人である国木田に見つかってしまったのが問題なのだ。
これがただ単なる同性の友人なら、「一冊分けてやろうか?」とでも言ってやる所だが、あいにく国木田は俺にとってただの友人ではない。
恋に恋焦がれ恋に泣き、もはや見つめ合うと俺は素直におしゃべり出来なくなる。
同性だとか親友だとか、そんなモン知った事じゃない。
俺は、国木田に恋をしている。
……そして、俺がこう語っている間にも、ページをめくる国木田の細く白い指は止まらない。
しかし、また、国木田が18禁書籍を読んでいるなんて、俺からしたらかなり扇情的な場面であって……止めるべきか、脳裏に焼き付けておくべきか悩んでしまう。
やれやれ、どうしたもんかね。
122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 18:02:55.73 ID:XeBDDqUXO
「へー、キョンってこういうのが好きなんだ?」ペラッ
「そろそろやめてくれ国木田……恥ずかしすぎる」
「やだ」ペラッ
「そうか」
「そう」ペラッ
「……ならば、こっちにも考えがあるぞ」ゴソゴソ
「……なにするのさ」
「……被写体をセンターに入れて、スイッチ」ピロリーン
「っ! キョン、写メは反則だよ!」
「反則など誰が決めたのかね」
「うー……消してくださいお願いします」
「……ホラ、写メは消しといたから、エロ本片付けるぞ」
「……わかったよ」
消したくないけどな、本当は。
やや涙目になりながらの上目遣いはやめてくれ、お前がそれをやるのは……それこそ反則じゃないか。
128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 18:17:28.00 ID:XeBDDqUXO
side国木田
つい最近、キョンが僕を見る目、そして僕に対する態度が少しだけ変わっているのに気付いた。
さりとて、こうして自宅に泊まらせてくれているように、僕を嫌いになった……なんて事でもなさそうだ。
ならば、何が、彼の目を、態度を変えてしまったのだろうか。
とある少女曰く「一種の精神病」らしい……アレだったなら、僕にとってそれは待ち望んでいた事だ。
だが、僕は知っている。
今、僕目の前で、やや顔を赤くしながら18禁書籍を机の引き出しに押し込んでいるキョンが、人並み外れて鈍感だという事を。
その多大なハンデを考えるに、彼が僕の思いに気付く日がいつになるのかは想像がつかない。
……今日1日、やれる所までやらせてもらうよ、キョン。
134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 18:28:28.78 ID:XeBDDqUXO
「ねぇ、キョン」
机の引き出しの中を満杯にし終わった後、一緒にテレビゲームをしながら菓子を頬張っていた俺に、国木田はふいに問い掛けた。
「お風呂入ってきてもいいかな?」
脳内で「実は国木田も俺の事が好きなんじゃないか説」について再び否定派と肯定派が議論を始めるのを感じながら、俺は会話に応じる。
「あぁ、風呂なら……」
「そ、それでさ」
「?」
「キョンも一緒に入らないかい?」
脳内で、肯定派が圧倒的優位に立った瞬間だった。
138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 18:42:21.99 ID:XeBDDqUXO
銭湯、旅館。
そういった、複数人で入浴が可能な場所ならともかくとして、平凡な我が家の風呂に高校生が二人仲良く入浴、なんて。
特に差し迫って入浴する必要がある訳でもない今、そんな誘いを国木田がする理由。
そんなもの、ピュアな俺には一つしか思い浮かばない。
いや、むしろ、ある意味ではピュアでない俺だからこそ、一つしか思い浮かばない。
国木田も、俺の事が好きだったら。
ただの妄想だったモノが仮説になり、そして仮説が現実へと移り変わってゆく。
「……だめかな、キョン」
「いや……一緒に入ろう、国木田」
体温の上昇を感じながら、脳が興奮するのを感じながら、俺は快諾した。
139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 18:44:06.15 ID:XeBDDqUXO
すまん、飯食ってくる
20分ばかし待っててくれ
149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 19:20:20.16 ID:XeBDDqUXO
場所は、一般家庭の風呂場の浴槽。
俺と国木田はお互い腰にタオルを巻き、向かい合わせに入浴していた。
まぁ、それこそ所謂、座位の体勢で入浴するよりは、俺の精神衛生上よろしいだろう……。
そう思って、浴槽の対角線上にお互い腰を落ち着けたものの、対角線に国木田がいるということは、首や視線を90度以上傾けない限りは、国木田の白い肌が必ず視界に入ってくる。
この時ほど、我が家に入浴剤が備蓄されていないのを恨んだ事はない。
風呂場特有の反響により、国木田の声が普段より少しだけ高く感じられる。
「そういえば、キョンの家のお風呂に入るのって初めてだよね」
「ついでに、国木田が俺の家に泊まっていくのも初めてだな」
「そうだねー。 ……キョンは、さ」
「なんだよ?」
「彼女とか出来たら、SOS団の活動はどうするの?」
「……考えてもいなかったな、それは」
「そっか。 少しだけ、気になってたんだ」
「……そうか」
151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 19:30:23.77 ID:XeBDDqUXO
完全に、盲点だったな。
俺に彼女……この場合では国木田は彼氏と言うのか?……が出来たとして。
そりゃもちろん、一緒に登校したり、昼休みには二人で弁当食ったり、一緒に帰ったり、休日には二人で遊んだり、たまにこんな風に互いの家に泊まったり。
そんな、普通の恋愛関係を、俺だって満喫したい。
だが、普通に過ごす為には、まず俺の周りにいる普通じゃない連中をどうにかしなければならないのだ。
SOS団、国木田。
どちらかに心を傾ければ、どちらかはおろそかになる。
俺は、どちらを選ぶべきなのか。
154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 19:42:57.48 ID:XeBDDqUXO
……いや、今は余計な事を考えるのはやめよう。
まだ付き合ってもいないのに付き合った後の事をアレコレ考えるなんて、獲らぬ狸をなんとやらだ。
「……まぁ、ハルヒも少しは常識わきまえてきたしな。 話せば、分かってくれるだろうさ」
「……うん」
「話変わるが、国木田」
乾坤一擲の、全力ストレート。
ヘタレるよりは百倍マシだ。
「もう少し、こっちに寄らないか?」
「そっちに?」
「あぁ、こう……隣り合わせぐらい、まで」
159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 19:55:49.89 ID:XeBDDqUXO
狭い浴槽で、男二人が隣り合わせなんて、窮屈以外の何物でもない。
だが、その窮屈さを感じさせないほどの充足感があった。
俺の右肩の少し下に、国木田の左肩がそっと触れる。
最初は、くっ付いたり、離れたり。
そのうち、完全にくっついて。
最後には、国木田から俺に完全に寄っ掛かってきた。
お互いの鼓動が、お互いの肌を通して聞こえる。
俺もかなりのものだが、国木田も負けず劣らず心臓の鼓動は早い。
俺は、右腕を国木田の右肩に回して……二人で、そのまましばらくそうしていた。
163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 20:07:43.47 ID:XeBDDqUXO
俺はエロは書けないと(ry
風呂を出て、ジュースを冷蔵庫から持ち出して部屋へ向かう。
その間、どちらも何も喋らない。
だが、不思議と、心地良い静寂だった。
「……ほら、ジュース」
「ありがと」
「風呂から出た後の冷えたジュースは、やっぱ格別だな」
「オジサン臭いね、キョンは」
「……そんなにか?」
「ふふ、冗談だよ」
166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 20:16:42.98 ID:XeBDDqUXO
「それでさ、キョン」
「あー、隣、座るか?」
「……うん、よく分かったね」
「……なんとなくだよ」
「それじゃ、隣お邪魔するよ」
先程と同じように俺の右に座る国木田に、俺も先程と同じように右腕を回す。
「ねぇ、キョン」
「どうした、国木田」
「キョンに言ってほしい言葉があるんだけど、なんとなく、わからないかな?」
「……あぁ、なんとなく分かる」
171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 20:34:46.62 ID:XeBDDqUXO
国木田が首を傾げながら、少しだけ不安そうな目で俺を見上げる。
……そんなに鈍感だと思われてたのか、けっこうショックだな。
谷口がAだのSだのと勝手に同級生を評価していたが、今の国木田は俺的評価において未来永劫最高位に鎮座する事になるのは間違いあるまい。
国木田の両肩を掴み、視線を交えて――俺は、生涯で初めて、その言葉を言い放った。
「……好きだ、国木田。 愛してる」
「僕もだよ、キョン。 ……気付いてくれて、ありがとう」
そのまま、俺と国木田の唇と唇が触れあい――俺達は、ベッドへ倒れ込んだ。
182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 20:43:37.92 ID:XeBDDqUXO
翌朝…いや、もはや昼近い時刻。
昨夜の勢いの反動により、未だまどろむ俺と国木田を叩き起こしたのは、俺の携帯の着信音だった。
「んー……キョン、携帯鳴ってるよ。 ほら、起きて」
「携帯なんてそんなもん……携帯?」
一気に眠気が覚める。
俺の携帯の着信履歴には、予想通りのカタカナ三文字が表示されていた。
185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 20:49:30.57 ID:XeBDDqUXO
ハルヒ「遅すぎるわよアホキョン! アンタどこで何やってんのよ!」
あーあー、予想通りにご立腹でいらっしゃる。
すまん古泉、バイト頑張ってくれ。
「そっか、今日は不思議探索だっけ」
「すっかり忘れてたな」
「んー、それじゃ僕は帰ろうか? 邪魔しちゃ、悪いし」
「いや……国木田も来いよ」
「……行っていいの?」
「俺達が付き合う事になったのを、ハルヒに説明せにゃならんからな……来てくれると助かる」
「……うん。 一緒に、行こうか」
187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 20:55:55.82 ID:XeBDDqUXO
後日、SOS団部室。
読者に精を出す長門を横目に見ながら、古泉と将棋をしつつ他のメンバーを待つ。
「しかし、あなたと国木田君がお付き合いとは……驚きましたね」
「いや、張本人である俺の方が驚いていると思うぞ」
「涼宮さんも閉鎖空間を発生させませんでした……機関としても、総力で調査中です」
「……おい、俺の恋人に手を出すなよ」
「しませんよ、他人の恋愛の邪魔なんて」
「なら、いいんだがな」
192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 21:09:15.64 ID:XeBDDqUXO
「ハルヒが閉鎖空間を発生させなかった仮説は、一応俺も考えてみたんだがな」
「……興味深いですね、お聞きしても大丈夫ですか?」
「ハルヒが、入学して最初の自己紹介で言った言葉、覚えてるか?」
「宇宙人、未来人、超能力者、異世界人ですか」
「そうだ。 そこで、俺達は、残る一つの異世界人について、読んで字のごとく『違う次元世界の人間』と思い込んでしまってたんじゃないか?」
「……その意味ではない、と?」
「おそらく、『同じ次元にいながら違う世界に生きる人間』も異世界人の範疇なんじゃないかと思う」
「……あなたに、『鍵』だけでなく『異世界人』という属性が加わった、と」
「そんなところだと――お、来たみたいだな」
195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 21:20:46.00 ID:XeBDDqUXO
「あーもう、なんでバニーのコスプレしてビラ配りしちゃ駄目なのよ!」
「どうした、ハルヒ」
「新入生にビラ配る許可貰ってこようと思ったら拒否られたの! これは由々しき事態よ!」
「……私、またコスプレしなきゃいけないんですかぁ」
「頑張って。応援する」
「僕たち男性陣にとっては、いい目の保養です。頑張ってください朝比奈さん」
「……ねぇ、涼宮さん。 なんで僕までバニーのコスプレしなくちゃいけないのかな?」
「当たり前じゃない! 腐女子とショタコンからの支持を倍増させたいんだから!」
「ちょっとキョン、頼むから涼宮さんを止めてよ!」
「……すまん国木田。俺も正直、お前のバニー姿見たいんだ」
「「この、エロキョン!!」」
人数が一人増えたSOS団は、今日も騒がしい。
……やれやれ。
ただ、一つだけ、最後に言わせてくれ。
196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 21:21:28.70 ID:XeBDDqUXO
それはな……。
ぶっちゃけ国木田が世界で一番かわいい。
終わり
203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 21:28:22.81 ID:XeBDDqUXO
あー……国木田とキョンが付き合ってんのをハルヒが認めてくれて、そんでSOS団正式入団的な感じだ
全く描写忘れてたスマソ
210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/05(月) 21:59:37.60 ID:XeBDDqUXO
久々に最後まで書ききることが出来てすげーうれしい
ここ最近は駄作ばっかだったもんなぁ……。
皆が国木田に目覚めてくれたならうれしい