かがみ「私達は知能実験第七番プログラムに参加させられた」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 15:17:54.21 ID:yfFvgdKk0

柊かがみは困惑していた。

漠然とした恐怖と現状を理解できないことに。
周囲は圧迫感のあるコンクリートで固められている。
私達はこの部屋に閉じ込められている。
どの位の時間が経過しただろうか。
一時間は経っているように思える、それだけ変化のない状況。
不快感を覚える。
代わり映えのない無機質な壁はその姿勢を変えず。
私達に受け入れろと諭しているようだ。
不条理な状況、やり場のない怒り。
鬱憤から思い切り蹴飛ばしてみたがその厚さを身にしみて感じただけだった。
足が痺れる。
感じる痛さを自分のせいにしても、感情まで抑えることはできない。

「なんだっていうのよ」

答えてくれる者はいなかった。
正解を知らないのだから無理もない。
機転の利いた言い返しを考え付くほどの余裕もない。
私達の精神は溶けるアイスのように形を崩し始めていた。

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 15:23:11.15 ID:yfFvgdKk0

理由と目的が分からない。
考えるより先に問いが少な過ぎるから答えが出せないのだ。
ならば何らかの変化があってしかるべきではないか。
来るなら早く、いやその内容が絶望的であるなら聞きたくなんて。
そんなジレンマが精神を食う。

「かがみん、顔が般若みたいになってるよ」

泉こなたが覗き込んできた。
見上げると電球の光が目に入り、少し眩しい。
目が覚めてから皆を元気付ける役割を背負ってくれていたが、そろそろ疲れてきた頃合だ。
ぎこちない笑顔は以前まで見ていたそれと程遠い。

「もしかしたら、私達は正義のヒーローに選ばれたのかもしれないのだよ」
「あんたの頭は相変わらずお気楽ね」
「これから巨大ロボットに乗るとか変身アイテムが貰えるとか……」
「早々に軟禁されるヒーローなんて聞いたことないって」

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 15:28:33.29 ID:yfFvgdKk0

そう、軟禁だ。
この状況を端的に現してしまえばそうなる。
理解はしていたが言葉にするのは憚られていた。
先の見えない不安は皆にある、それを煽るのは自らの首を絞めることでもある。
今は彼女のように明るく振舞うことが重要なのかもしれない。
力なく腰を下ろす姿に罪悪感を覚えた。

「ごめん。私だってヒーローになってみたいと思うこと位あるわよ」
「おぉ、流石のツンデレだねぇ」
「ツンデレ言うな」

こなたと肩を並べての他愛もない会話は学校の昼休みを思い出させる。
彼女がおどけて私が飽きれる、そんないつものやり取り。

「きっとこれは脱出ゲームなのだよ。どこかに鍵やスイッチがあって最後の扉を抜けるとクリアー」
「はいはい。そのゲーム脳に期待してる」

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 15:33:51.78 ID:yfFvgdKk0

ヒントがない訳ではなかった。
前方の画面、壁に貼り付けられたそれは何もない部屋にひたすら存在感を示していた。
しかし本来の機能は発揮されないまま、壁と同化している。

「もう一度、よく調べてみるわよ」

細い腕を取り引っ張り上げる。
特出した明るさばかりが本質ではない。
ひたすら私に引かれる彼女は驚くほど軽い。

「画面に何か変化はあった?」

黒一色の画面を真剣に見つめる背中に言った。
驚いて振り返ると困惑の表情、収穫はなさそうだ。

「映像が映らないなら仕掛けの一つくらいあると思うんだけど」
「私機械オンチだもん。全然分からないよぉ」

柊つかさは困ったようにわたわたしている。
気が付くと部屋の様子を隅々まで観察していた姿に姉ながら頭が下がる。
パニックも起こさず、いつの間に肝が据わったのだろう。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 15:39:54.75 ID:yfFvgdKk0

「ほら、ずっと見てたら何か浮かび上がってくるかなって」
「ステレオグラムじゃあるまいし。真っ黒じゃない」

えへへと笑う顔に変わらない妹を見る。
自立したのは結構だけれどそこまで頼りになりそうではない。

「この丸いのは、お姉ちゃん分かる?」

画面内に円状に枠が取られている。
大きくはなく、上に映像が映るにしても邪魔にならない位置だ。

「数が四つだから私達一人一人を現している可能性が高いわね。
 発光ダイオードもここだけ別の種類みたい。画面全体とは独立しているのかも」
「お姉ちゃんすごーい」
「流石かがみ様」

この程度なら二人共分かっていそうなものだ。
しかし誰かが口にしなければ共通の認識として捉えることは出来ない。
私はこの状況でもスポークスマンとしての立場を維持している。

「これ以上はお手上げ」

情報は手に入ったが直接ヒントになりそうなものではない。
画面から得られるのはこの程度だろう。
目線を次のターゲットに向けると大変な光景を目にした。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 15:45:49.52 ID:yfFvgdKk0

「ちょ、ちょっとみゆきパンツ見えてる」
「えっ」

同級生三人の前で公然と下着を晒した高良みゆきは頬を染めた。
ぺたんと座り込んで視線を迷わせている。

「何て格好してるのよ、全く」
「……これはお恥ずかしいものを。扉の隙間から何か見えないかと思いまして」

それで地面に頬ずりしていたのか。
体の向きを反対にしていれば見られなくて済んだだろうに。

「それで、何か見えたの?」
「地面が続いていることくらいなら。それ以外は残念ですが」

扉があればその延長線上に道や部屋があるだろう。
でなければ私達がここにいるはずがない。

「もう一つの扉も同じだった?」
「はい、奥まで確認することは出来ませんでした」

扉の外を確認したかったが硬く閉ざされている。
鍵穴がないということは外から鍵がかけられているのだろう。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 15:52:05.30 ID:yfFvgdKk0

「あ、あのう」
「どうしたの、みゆき」
「扉が二つあるということはただ閉じ込められた可能性は低いと思います。
 逃げられないように出入り口は最小限に抑えるほうが賢いですから。
 ですが、都合のいい場所がなかっただけということも考えられます」
「チェス盤をひっくり返したってことね」

逃げ道は少ないほうがいい、か。
まさか本当に脱出ゲームの類なのだろうか。
この画面も実はカモフラージュで割れば奥に続く道が現れるとか。
一風変わった作りをしているのはそれを隠す為で。

「まさかボクを壊そうとか考えてないよね?」
「ちょっ」

画面にアニメ調の可愛らしい女の子が浮かんだ。
目一杯に涙を溜め胸の前で手を合わせる姿は見覚えがある。

「画面は大事なものだから大切にね。壊れちゃったらマンモスかなぴー。
 ……あ?台本通りにやれって?わあってるっつーの。チッ」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 15:57:35.59 ID:yfFvgdKk0

私達を無視して一方的に話は続く。

「ハイハイ、よーく聞いて下さいね、楽しい楽しいゲームせつめーい。
 後五分くらいで片方の扉が開きます。
 扉の向こうの部屋には二つのボタンが設置されてるよ。
 赤いボタンと白いボタン、一時間につき一人一回押す権利を与えられていますヤッタネ。
 ボタンの組み合わせで点数が増えたり減ったりするよ。
 全部でラッキー☆七回せーん。
 七回終わって四人共同じ点数なら無事に帰ることができまぁす。
 しかーし、そうじゃない場合点数の一番低い人がチョメチョメされちゃうので張り切っていきましょう。
 以上、小神あきらでした、バイニー」
「……ちょっと待ちなさいよ」

引き止めるのはいいが、そこから先の言葉が出てこない。
意味が分からない。彼女の言葉の全てが。
こんな時、何を言うべきなのだろう。

「あぁん?こちとらギャラ積まれて喋ってんだよ。
 チンケな小娘にリップサービスしてる余裕はないっての。シッシッ」

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 16:03:07.29 ID:yfFvgdKk0

そこで映像はプツリと途切れた。
唖然とする私達に構わず画面は変化を始める。
円状の枠の隣に数字、その横にカッコが浮かんだのだ。

“10”という数字が四つ現れた。
与えられた持ち点ということだろうか。
この数字で競い合い最も点数の低い者がゲームオーバー。

「ふざけんな」
「かがみん落ち着いて」
「お、お姉ちゃん……」

先の見えない閉塞感からストレスはかなりのものになっていた。
そして今の映像。
明らかな悪意にも関わらず、軽い対応。

「みなさん冷静になって下さい。
 最悪の状況ではないことを喜びましょう。
 とりあえず言われたことをまとめてみるのはどうでしょうか?」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 16:08:11.79 ID:yfFvgdKk0

その点みゆきは現実的だ。
そうするべきだと分かっていても頭がすぐに追いつかない。
今は与えられた情報を議題にかけるべきなのだ。

私達は4人で寄り添った。
お互いルールを確認しゲームに臨む意識を高める。
イニシアチブを一方的に握られている以上、相手を刺激することは避けなければならない。
これもみゆきの提案だ。
方向性は決まった。

――――ガチャン

鈍い音が響く。
部屋を見回すと扉が目に入った。
鍵が外れたのかもしれない。

「時間になりました。五分間、扉が開きます。時間になりました。五分間、扉が開きます」

再び画面に現れた小神あきらはそれだけ言うとすぐに消えてしまった。
問題が発生する。
私達はどのボタンを押すか決めていない。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 16:13:34.20 ID:yfFvgdKk0

「どどどどうしよう、どれを押せばいいの?」
「つかささん落ち着いて下さい。
私に一ついい案があるのですが」
「早く言って、時間がない」

内容はこうだった。
ボタンの組み合わせ要素は大きく二つに分けられる。
一つは順番、もう一つは色だ。
時間と押している長さも含まれるが、この場所に時間を計るものがない為にその可能性は低い。
何よりその四つ全てを解明させるには七回という上限は少なすぎる。
それではゲームとして成り立たない。
これらの理由から白を統一し、要素を見つけようということだった。

他の二人からの意見はない。
時間は迫っている、迷っていては機会を失ってしまう。

「決まりね」

それだけ告げて重い扉を開く、こちらで正解のようだ。
もう一方はみゆきが引いているがビクとも動いていない。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 16:18:48.04 ID:yfFvgdKk0

ボタンのある部屋はこじんまりとしていた。
四人で入るには厳しいだろう、トイレの個室ほどの空間。
正面にはコンクリートから生えるように赤と白の押しボタンが並んでいた。
少し見上げると不自然な穴が開いていている。
背伸びして手を伸ばしてみると柔らかい風が当たった。

「空調はこれくらいね。通りで空気がこもるわけだ」
「おおぅ。届かない触れられないぃ」

こなたが後ろからじゃれついてくる。
まだ元気が残っているようで安心した。

「お姉ちゃん、早く押そう」

そうだった、時間は限られているのだ。
息を呑んで白いボタンに手を伸ばす。

――――スコッ

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 16:23:58.91 ID:yfFvgdKk0

ボタンはあっさりと動きその役割を果たした。
あまりにも軽かったのできちんと押せたのか不安になる。
もう一度手をあててみたがピクリとも動かなかった。
よく出来ている、本当に一人一回しか押せないのだ。

「次は私の番かね。さぁどいたどいたー」

こなたもすぐに白いボタンを押したが特に不具合はないようだ。
狭いのでつかさと入れ違うように元の部屋に戻る。
ここで変化が生まれていることに気づいた。

「ちょっと見て。画面にランプが点いた」

画面を目にした時、丁度二つ目に差し掛かるところだった。
残りの二人が白いボタンを押す。
それに伴ってランプが順に点灯する。
やはり四つのランプは私達それぞれを現していたのだ。

――――ガチャン

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 16:29:57.57 ID:yfFvgdKk0

再び鈍い音が響いて扉が閉まったのを確認する。
次に起こるのは、数字の変化だ。

四つの数字はいたずらに値を変えながら結果を模索し始めた。
形を変えるデジタルの数字の中に二桁目の九を見つけることができた。
それほど数に開きが生じるということなのか。

一回戦の結果が表示された。


○ 9(−1)○ 7(−3)○ 9(−1)○11(+1)


予想を反して大きな差が開くことはなかった。
しかし差が生まれてしまったことは事実だ。
私達は話し合う必要がある。

「左から私、こなた、つかさ、みゆきね」
「一人だけ大きく離れちゃったよ、とほほ」
「こなちゃん、まだ1回目だから大丈夫だよ」
「今は少ない数字で変動したことを喜んでよいのではないでしょうか」

ゲームは攻略範囲内だ。
難解な問題でこちらを煽っているわけではない。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 16:35:51.71 ID:yfFvgdKk0

「一つよろしいでしょうか。
 点数の変化を合計するとマイナス四になります。
 一回のゲームで必ずマイナス四されるなら七回終わった後の合計が十二となります。
 そうすると一人一人が三、という数字に落ち着きますね」
「でもみゆきちゃん、それだと途中でゼロになる人が出てくるんじゃないかな」

つかさの言うことは最もだ。
一番大きかった変動はマイナス三。
今は元となる値が大きいので平気だが、終盤は些細な間違いで底に到達してしまう。
ゼロという数字がゲームオーバーを連想させる。

皆、口をつぐむ。
この中から敗者が出る可能性の提示。
未だ明かされていない罰の内容を悪い方向へ転換させる。

長い沈黙は毒だ、話の方向性を変えなくてはいけない。

「それでもやるしかない。
 今は数値が変化する要素を見つけるのが先決だと思う。
 結果が出てから次の回まで余裕はある、一時間あればきっといい案が浮かぶ」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 16:42:22.08 ID:yfFvgdKk0

柊かがみは思う。
これは裏切が求められるゲームではないのかと。
誰よりも早く法則を見つけだし、それを悟られないように意見を誘導する。
そして誰か一人をゼロに蹴落とすことが出来ればクリアー。

「かがみの言う通りだよ。
 ゼロがすぐにゲームオーバーになるとは言われて無い。
 まだまだ希望を捨てちゃあいけないよ」

この状況でもこなたは明るかった。
豆電球ほどでも私達の中で確かに光っている。
この子は四人で最も点数が低い、心の中は不安で一杯なはずだ。

話し合いに意見の相違は見られず、協調できた。
現状維持、そしてみゆきの提案を実行する運びである。

肩を寄せて体を預けてくるこなたは目を閉じている。
疲れて寝てしまったのだろうか。
身をすり減らして私達の光になろうとしてくれている彼女。
いつか壊れてしまう不安より、今は素直に甘えたい気持ちの方が強かった。

対して、背にした冷たいコンクリートは私達の熱を確実に奪っていく。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 16:48:27.97 ID:yfFvgdKk0

――――ガチャン

再び鈍い音が響き扉の鍵が開いた。
画面のアナウンスも同じように繰り返される。

「時間になりました。五分間、扉が開きます。時間になりました。五分間、扉が開きます」

変わらない映像と声、録画しておいたのだろうか。
画面の中の笑顔をひと睨みしてから扉の前に立ち、確認する。

「いい、今回もみんなで白を押す。
 順番はさっきと逆だからみゆきからね。
 これできっと数値の変わる要素が分かる」

それからつかさ、こなたへと続く。
ボタンを押すことで画面への変化は見られない。
ランプは単純にどの色を押したかというシンプルな機能でしかないのだ。

最後に白いボタンを押してから元の部屋に戻る。
ふと扉を開け放したままにしておけるのか気になった。
可能なら鍵がかかった後でも部屋を出入りできるはずだ。

手を伸ばすと扉は勢いよく動き出す。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 16:56:50.81 ID:yfFvgdKk0

――――バタンッ

「あいっっだぃ」

左手を胸に当て、うずくまる。
焼けるような痛みと熱さでまともに動かせない。
歯を食い縛り、震える体が痛みを忘れるのを待つしかない。
これがルールに背こうとした代償なのだろうか。

「かがみ、かがみ大丈夫?」
「……平気、なんとか、それより画面は」

心配する三人を余所に横目で確認する。
二回戦の結果は既に表示されていた。


○ 8(−1)○ 4(−3)○ 8(−1)○12(+1)


変わっていない。
数字の増減が一回目と同じだ。
つまり要素に順番は関係ない、ならば。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 17:05:11.05 ID:yfFvgdKk0

はっとしてこなたを見る。
画面を凝視する表情には恐怖が現れている。
マズい、端的にそう思った。

「泉さん、落ち着いて下さい。
 これで押す順番が影響されないことが分かりました。
 頑張って残りを解明しましょう」
「……そうだね」

叫びたかった。
そうじゃない、と声を荒げたかった。
上と下の点数が開きすぎている、その差は三倍だ。
そんな圧倒的に有利な立場からの直線的な言葉。

こなたは笑っているが掠れている。
早く何か、何か言うべきだが左手がそれを拒み意識を持っていかれる。

「お姉ちゃん、これ。
 血出てるから」

目にしたのはつかさが愛用しているリボンだった。
ゆっくりと伸ばされた手の甲にそれが巻きつけられる。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 17:13:06.26 ID:yfFvgdKk0

「痛い」
「ちょっとだから我慢して」

姉を労わるその目はとても力強かった。
難なくリボンを包帯代わりにしたつかさは笑ってみせる。

「ありがとう、凄い助かる」
「いいっていいって。
 皮は剥けちゃってたけど抉れてはいなかったから、多分大丈夫」

家事と炊事以外にも得意なものがあったのかと驚かされた。
痛みは次第に引いていく。
やはり出血も一時的なもののようだ。

これなら、と顔を上げる目線に冷たいものが映った。
画面の前で難しい顔をしているみゆきを後ろから見つめる視線。
目線は細く、それでいて鋭い。
伝わる冷たさに息を呑んで少し戸惑い、声をかける。
左手から伝わる熱さと暖かさが私を後押ししている気がした。

「待たせてごめん、一回集まろう」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 17:21:13.20 ID:yfFvgdKk0

円を描くように丸くなる。
何度かこうした変わらない集まり方。
しかしどこかズレていた、円は正確さを保てずに窪んで見える。

「成果は出たけど難しい結果ね」

現状を確認するのにも言葉が選ばれる。
重く、息苦しい空気。

「泉さんには酷なことをしてしまいましたが、これで次に進めると思います」
「そだよねー、痛みなくしてなんとやらって偉い政治家も言ってたもんね」

遠回りな批判と皮肉。
彼女の気持ちは汲まれるべきだがそれだけにかまけていては先に進めない。

「ねえ、こなた。
 みゆきに悪意がないのは分かってるでしょ。
 それに賛同した私にも勿論責任はある、ごめん」

私の言葉で何かを探すように目線を迷わせている。
決めるべき立ち位置を悩んでいるように見える。
こもる空気を裂くように、口をつぐんでいたつかさが前に出た。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 17:29:00.33 ID:yfFvgdKk0

「こなちゃんの気持ちは正しいよ、あの数字が証明してる」
「つかさ」
「謝ってとは言ってない、ただ認識して欲しいだけ」

言い放ち、画面にまっすぐ向けられていた指を降ろす。

「つかさってば」
「私が言いたいのはそれだけ、ルールには従うよ」

再び口をつぐんだつかさはしばらく私の問いかけに答えなかった。

それでも話し合いは継続される。
現状を打破する為に個々が考える最善の結果が協調。
そんな危うい位置で私達の行動は一致していた。

みゆきが提案し皆で考え時に改定して私がまとめる。
やり取りを繰り返すことで仲間としての繋がりを強めたかった。

「次は全員で赤を出すのがよろしいかと。
 白には点数を引くという要因が多く含まれているのかもしれません。
 また赤を選ぶことによる増減値を早めに確認するのも必要ではないかと」

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 17:37:32.95 ID:yfFvgdKk0

みゆきは隠している。
必要な説明を欠かせてはいないが言葉選びに迷いがあった。
点数の現状について、そして個人から全体への話題展開。
白という色に対する嫌悪感が伝わってくる。
頭の回転が速くても周りに合わせられない人間は、こんな風に浮いて見えるのだろうか。

ともあれ他に良案がある訳ではなかった。
皆心の何処かで赤が点数を増やしてくれると信じている。
逆の行為を示すことでみゆきの贖罪を望んでいる。
難なく決定し、全体の総意となった。

話し合いが終わると皆が散り散りになった。
電球が切れかかっているのか、空間が薄暗くなった感じがする。
私はこなたの隣に腰を降ろした。

大丈夫、ともごめん、とも言えなかった。
それは数字が現しているシンプルな弱者と強者の図。
どんな言葉を選んでも一方的に聞こえてしまうのではないか。
嫌われることを恐れるあまりするべきことが失われていく。

黙って乱暴に肩を寄せ、頭を抱いた。
言葉にしなくてもこの気持ちを分かって貰いたかった。
こなたは何も言わず、されるがまま体重を預けてくる。
私の伝えたいことを理解してくれていると信じていた。

そのまま目を閉じ、次の合図を待った。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 17:45:58.62 ID:yfFvgdKk0

――――ガチャン

鍵の開く音が頭を覚醒させる。
誰もが気だるそうに、ゆっくりと体を伸ばしていく。

全員が赤を押すことは冒険するということでもある。
大きく手を変えるわけだ、予想外の結果に傾くかもしれない。
そんな不安が肥大して行動を鈍らせていく。

扉と対峙する。
きっといい結果になる、そう思うしかなかった。
リボンの巻かれた左手でノブを勢いよく回す。
痛さにばかりかまけてはいられない。

「赤、赤、赤」

白から赤へ、押されたボタンはランプに変わって色を写していく。
数字が変化を始める。

「きっと大丈夫」

独り言のように、言い聞かせるように呟く。
私達の願いを受け止めて、数字は決定された。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 17:54:22.10 ID:yfFvgdKk0


● 9(+1)● 5(+1)●11(+3)●11(−1)


状況の好転、率直にそう思った。
全体的な増加と均衡へ向けた動き。

最悪の展開を回避したのだ。
一つの達成感のような妙な高揚感が支配していた。
このペースなら頭一つ下がっているこなたの点数も均衡へ近づく。

すぐに顔に出たのはつかさだ。
三ポイントの増加、これが大きかった。
増減の最大値が一致するということは、一方的な点数減少に繋がらないからだ。

何だかんだやっていても私達なら、そう信じた時だった。

「あー……友情ごっこしてるとこ悪いんだけどさぁ」

突如として小神あきらが画面に登場する。

「なんつーか補足っていうの?
 罰ゲームの内容言ってなかったんだけど。
 やっと丁度いいの捕まったーっていうんで発表すんだって」

彼女は面倒臭そうにどこかに合図を送ると、画面の端にある人物が映り込んだ。
その光景を目にした私達は愕然する。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 18:03:05.41 ID:yfFvgdKk0

「うわ、きんもっ。
 こーいうのは見えないとこでやってくんないかなぁ」

その人物は大柄な男に抱えられ、テーブルの上に乱暴に放られた。
血反吐を垂らし鮮やかなそれを猟奇的に染め上げるさまに目を覆いたくなった。
痙攣を起こしビクビクとのた打ち回るうちに真っ赤な目がこちらを捉える。

「黒井、先生……?」

明るくて生徒思いな私達の先生だった。
その記憶とは程遠い今の彼女を目にしている。
何かの間違いだと信じたかった。

先生の姿をしたそれは何を語るでも何を示すでもなく、ただ命の尽きるさまを見せつけている。
膝の力が抜け、腰から崩れ落ちた。

「ってことで、みんなやる気がアップしたかな?
 それじゃあまた2回くらい後に来るからね。
 バイニー」

唐突に映像が途切れる。
しばらくは真っ黒の画面を見続けるしか出来なかった。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 18:12:42.54 ID:yfFvgdKk0

「ぅ……うぅ、ぉ、ぁ」

ビチャビチャと汚らしい音と異臭に意識を戻された。
隣のこなたが手のひら一杯に汚物を溜め、溢れ出したそれがコンクリートに跳ねている。
私の体は硬直した。

手を差し伸べるとも声をかけることも出来なかった。
それは人間としてとても純粋なことだと受け止めてしまったからだ。

そんなこなたを見つめるまっすぐな視線。
一切の表情を変えずに瞬きを忘れている。
有りのままを観察する瞳がそこにはあった。
私の意識は少し遠退いた。

「ねぇ……、あのさ」

しばらくの時間が経って声を出してみる。
あれから誰も言葉を発していない、沈黙が続いていた。
声は誰にも届かずコンクリートに吸収される。

対策が必要だった。
皆で集まって考えて話し合って、そういった時間が私達に求められている。
頼りになるみゆきはあれ以来耳と目を閉じ口をつぐんで孤独になってしまった。

柊かがみは再思考する。
これはチャンスではないのか。
強者で結託して残りを生贄にすれば自分の命が助かる。
どれだけ早くその強者の枠に入れるかが問われているのだ。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 18:21:17.71 ID:yfFvgdKk0

だからこそ動けない。
重要な決断に大義が求められるのならば。
いの一番に仲間を見捨てようとした者が枠から外されるのだ。
今の私は三番目、うかつに行動することは難しい。

「ぅう……、ぁあ」

こなたは時々だらしない息を漏らしていた。
部屋に充満しているすっぱい臭いが容赦なく鼻を刺す。
最後まで床に垂らされたものが以前として残っているのだ。
それでも体は何かを吐き出し続けなければ気が済まないらしい。

こちらまで貰ってしまいそうになる。
劣悪な環境に削られた精神は更に磨耗する。
何か万策は、そう考えることすら放棄してしまいたい。

もう何度目かの画面を見ようと顔を上げた時、唐突に目が合った。
驚くでも視線を逸らすでもなくただ真っ直ぐに見つめ合う。

私達は双子だ。
どこか似てないと言われてもその事実は変わらない。
一緒に生まれてから十八年間同じ時間を過ごしてきた。
お互いが何を考えているかなんて大抵分かっているつもりだ。
しかし今は何かを伝えようとする意思が感じられない。

リボンを外したつかさは既に私の知っている妹ではないような気がした。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 18:29:06.87 ID:yfFvgdKk0

――――ガチャン

会話のない時間はとてつもなく長く感じた。
決断をしなくてはいけない、そう画面が教えている。

「ねぇ、みんな。
 五分しかないから簡潔にいこう。
 私はプラスが多かった赤を基準にしたほうがいいと思う。
 意見や他にいい案はある?」

控えめに、しかし即座にみゆきが手を上げる。

「でしたら私が白でみなさんが赤でどうでしょうか」

現実的ではないが妥協案としては相応しいだろう。
個々で見てよい結果が出たほうを繰り返す、パブロフ戦略だ。
反対意見は出ない、決定だろう。

「点数の高い人は何とでも言えるよね」

不意にこなたが呟く。
短い言葉だが彼女なりの憎悪が詰まっていた。
誰も反論することはできない。

細い腕を固く掴んでボタンの部屋へ引っ張り込む。
かけるべき言葉は見つからなかった。
彼女の言葉は正論だと心の何処かで認めていたからだ。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 18:39:15.75 ID:yfFvgdKk0

ボタンを押した。
三つの赤と一つの白が並ぶ。
私達はバラバラに散りながらも同じ画面を見つめていた。
数字は変化する。


●10(+1)● 6(+1)● 8(−3)○14(+3)


しばらく静寂が続いた。
誰もが考えている、この色と数字の意味が指すところを。
思考が完結する前に一つの影が動いた。

肩を揺らして前のめりに闊歩する。
迫られてみゆきは後ずさりながら短い言葉をこぼしている、表情が重い。
壁に追いやられ二人は正面に対峙していた。

――――バチンッ

小気味のいい音が耳に飛びこんできた。
みゆきは背を丸くし頬に手を当てて呆然としている。
そんな頭を見下ろす高圧的な視線。

「ちょ、ちょっと……」

私は止めるべきなのだろうか。
こなたには大義がある。
点数の低い者から強者への応酬。
自らの進言で差が広まったことによる責任を求めているのだ。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 18:44:15.83 ID:yfFvgdKk0

しかし暴力で示してもいいのか。
いいはずがない。
今まで保ってきた私達の関係を一気に崩すことになる。
しかし、でも。

「止めちゃ駄目だよ」

視線につかさが割り込んできた。
目を重く据わらせて私の瞳を捉えている。

「でも……」
「お姉ちゃんだって分かってるはず」

嫌だ、分かりたくなんてない。
認めてしまえば楽になれるはずだ、しかし。
楽しかった時間が偽物だったと思ってしまえるのか。
そんな簡単に心を変えられる訳がない。

顔を上げたみゆきは目一杯に涙を溜めて相手を睨んでいた。
そして覚悟を決めたようにいきり立つと目標に向かって手を伸ばす。

こなたは乱暴に目前を振り払った。
鈍い音が交錯し、再び高い音が飛び込んでくる。
もう片方の手がメガネを吹っ飛ばしたのだ。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 18:50:07.81 ID:yfFvgdKk0

「こなたお願い……」
「行かせないから」

一歩踏み出すとつかさが正面から抱きつくように覆いかぶさった。
手を回して体重を乗せてくる。
私は自然と抗うように前に重心を傾ける。

一発、もう一発、右から、左から、思い切り。
みゆきが顔面を守ろうと腕をかざしたがお構いなかった。
耐え切れなくなり腰から床に崩れ落ちる。
そこで攻撃の手は止んだ。

結局止めることができなかった。
いや元からそのつもりなどなかったのだろう。
肩に回されていたつかさの手が添えられているだけだと気づいたからだ。

話し合いが再開される。
新しい輪は以前より小さかったが正確さを取り戻していた。

発見されたバグの排除、みゆきの立場はそう示された。
そして負の感情の捌け口としての機能を始める。

「さっきのやり方は点数よりプラスマイナスにだけ固執していた感じだよねぇ」
「そだよね、点数が高ければちょっと冒険して悪い結果になっても自分は痛くないもんね」
「そうね」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 18:57:52.48 ID:yfFvgdKk0

私の立場は突如として下落した。
ただ相槌を打つだけしか許されていないような気がする。
それは三人の中で最もバグ寄りの解釈だったからだ。

二人の言い分はあくまで結果論に過ぎない。
数字が変わる前は全員に配慮された方法だと認められていたはずだ。
明らかな不条理に突っ込みを入れてしまいたいけれど。
この輪から外されてしまうことがとても怖い。

柊かがみは気が付いた。
点数は低ければ低いほど危険が高まる。
しかしそれだけ十字架を背負って影響力が増していくのだ。
有利な立場にいる者の発言は所詮善がりなのだと簡単に切り捨てられてしまう。

ランプを見た。
一つだけ点っている白は協調性を失い完全に孤立している。
みゆきの現状と明らかに一致しているのが可笑しく思えた。
そして少しだけ私の赤が濃くなったように見えた。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 19:03:53.67 ID:yfFvgdKk0

「大体ちょっと物知りだからってイチイチ偉そうに言うの気に入らなかったんだよね。
 こなちゃんもそう思わない」
「そだねー、前日に明日は何自慢しようかって調べてたり?」
「あはは、そうかも」

言葉の暴力は一方的に続く。
サンドバックと化した彼女は部屋の隅から抜け出ようとしない。
時々すすり泣きが聞こえるとこなたが声をあげてまた静かになる。
その繰り返し。

最悪のポジションから自分は外れている、大きな輪に入れている。
そんな安心感が満ちていたが支配されているわけではなかった。
次にどのボタンを押すかが一切話題にならないのだ。
まさかもう二人の中で決まっているのでは。
早く聞いておかないと仲間外れにされる。

「あのさ。
 次に何色押すのか決まって、なかったりして?」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 19:09:54.21 ID:yfFvgdKk0

一瞬の気まずい沈黙、しかし答えは返ってきた。

「赤がいい、白はやだ」

こなたの口調はひどく幼かった。
白で二度大きく点数が引かれているのだ。
ゲームオーバーの恐怖から単純に導き出された答え。

「あのね、私はできるだけ個人の意思を尊重したほうがいいと思う。
 だから個人的にどっちを押したいか聞かせて。
 そうしたら私も決まるから」

言葉には威圧感があった。
押したいボタンを発表するなら後のほうが断然有利だ。
少なくとも私にその権利はないのだと、つかさの言葉が教えている。

「赤にする」
「そっか、なら私は白でアレが赤にするね」

指差された先には未だ固まっているみゆきがいた。
既に彼女は尊重される個人の枠にいない。
そう言って笑顔になるつかさの表情は冷たかった。

そして気が付いた。
これで四人共無事に帰るという選択肢が失われたということを。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 19:15:53.53 ID:yfFvgdKk0

――――ガチャン

談笑を遮るように鍵の開く音が響いた。
つかさに先導されて扉の前に集まる。
立場は完全に逆転していた。

もう一度心の中で赤を押す確認する。
こなたの言い分を真似するわけではないが白が怖い。
自分も必ず白で点数をマイナスされているのだ
そして何より白を押すことでみゆきと同じ目に合うことを恐れている。

赤、白ときて私は赤いボタンを押した。
狭い部屋にはつかさも一緒に入っている。

「赤を押して。でないと分かるよね」

入り口で立ち尽くすみゆきに容赦ない言葉が浴びせられる。
既に彼女には自分で選択する権利がなかった。
しかし予想外のことが起こる。

――――!!

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 19:21:48.44 ID:yfFvgdKk0

罰の悪そうに下を向いていたかと思うと、突如として手を伸ばし白いボタンを押したのだ。

沈黙、そして怒号。

「この野郎」

つかさはにこやかな表情を一変させ修羅を見せた。
胸倉を掴んで勢いよく正面に回る。
向かいにいた私は無防備に彼女の体重を受け止めた。

「……っつ」

目の前が暗転し意識が飛びそうになる。
膝の力が抜け四つん這いになりながら床に手をついた。

扉の向こうを確認すると強引に突き飛ばされるみゆきがいた。
足を絡められて派手に背中からコンクリートに打ち付けられる。
それまでとは違う明らかな苦痛の叫び。

痛みを与えているのは紛れもなく自分の妹だ。
それに便乗するように圧し掛かりにいくこなた。
応酬ではなくなっている、もはやリンチだ。
二人は正気を失っているとしか思えなかった。

体は殴られる度に震え、蹴られる度に縮まっていく。
ついに血しぶきが舞ったところで視界が遮られた。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 19:27:46.24 ID:yfFvgdKk0

それでも耳に入ってくるみっともない嗚咽、泣き叫ぶ声。
容赦ない怒りに満ちた罵声。
これ以上聞きたくなかった、扉の向こうを想像したくなかった。

不意に声が絞られて荒い息遣いに変わる。
私の願いを聞き入れたのではない、数字の選定が始まったのだ。
しかし扉があっては結果を見ることができない。

狂気。
そう呼べるだろう叫びが飛び込んできた。
結果を想像するより先に体が拒否する。
潰れるほど耳を押さえつけ、痛いほど瞼を閉じる。
私は外部からの情報を遮断して孤立した。


 ―――――――――――――

 ――――――――――

 ―――――――




59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 19:33:54.78 ID:yfFvgdKk0




「…………」

いつまでこうしていただろう。
不安定な状態が支えてくれたように思える。

今までの出来事が全て夢で目を開けたら元の高校生活が始まる。
妄想の域を出ないがどれだけそうであって欲しいと願っただろう。
シュレディンガーじゃあるまいし、と少し笑う。

心をまっさらにしていく。
そうでもしないと簡単に折れてしまいそうだから。
現実から逃避していると言えるだろう。
それでも目指す先で何かを見出せれば構わないと思った。

ひたすら深く、軽くなっていく感覚。
心地よい眠りに落ちそうになったその時。
誰かが私を呼んだ気がした。

そこで意識は再び覚醒する。

頭の中が異様にすっきりしている。
体中の熱は食われたようになりを潜めていた。
入ってくた情報がリセットされた気分。
空っぽになった器にはどんなものでも入る気がした。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 19:40:04.08 ID:yfFvgdKk0

ゆっくりと意識を外に向けていく。
静寂、そして見えるのは扉とボタンと空気穴。
ひたすらシンプルに頭の中に並べていく。
全てを受け止めるのではない、必要な部分にだけ目が向けるのだ。

そして数字とランプの関係。
心の中で唱えるように式を組み立てていく。

「確認できなかった五戦目の結果。
 それに対しての反応、つかさ怒りこなた怒りみゆき恐怖。
 均衡に近づいたのではない、とすればその逆」

感情は形を変えることなく代入された。

「自数字の変化は予測できない。
 しかし下位の二人が下がっているならば余裕がある」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 19:45:51.26 ID:yfFvgdKk0

続いて色の関連性を導き出す。

「基準は赤。
 三戦目から四戦目への色の変化はみゆきが白へ。
 結果つかさとみゆきの数字が変化。
 とすれば残りの二人の間にも関連があると考えるべき」

思考は加速していく。

「四戦目から五戦目への色の変化はつかさが白へ。
 五戦目の推測からプラスマイナスでの変化はこなたが逆転。
 つかさの変化がこなたに影響する」

自信が確信に変わっていく。

「ならば私の変化は誰に影響される。
 みゆきが白の時は変わらなかった、つかさは既に二人に関わっている。
 残ったのはこなた」

推測を真実として捉える。

「五回のシークエンスの中で私とこなたは必ず同じ色を提示している。
 残りは二戦、点数に余裕のある六戦目でテストをして七戦目に勝負」

現段階での式の完成。
絡まっていた蔓がするすると解けていくのを感じた。
心が躍るように気持ちいい。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 19:51:29.47 ID:yfFvgdKk0

静かに燃えているようだ。
それは負の感情に晒されていた時のものではない。
緩やかにけれど確かに躍動している。
青い炎に包まれているような感覚だった。

――――コンコン

「お姉ちゃん、声聞こえるでしょ」

扉を叩く音、声。

「先にボタン押したりしてないよね」

問いかけ、威圧。

「つかさに答えても意味はない」
「……」

――――ガツンッ

扉が激しい音を立てて振動した。
激しい感情が隙間から漏れているようだ。

私の世界を限定している扉。
その先には目を背けたくなるものが待っている。
覚悟を決めるでも、受け入れるでもなく。
ただそこに行くという明確な意思だけが生まれた。

巻かれたリボンを解いてポケットへ入れる。
ひたすら心を深くして、時を待つ。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 19:57:16.32 ID:yfFvgdKk0

――――ガチャン

鍵が開くとすぐに扉は開かれた。
目前には足元を赤に染めたつかさが立っている。

異臭、憎悪、鮮血。
おびただしい数の情報が散乱している。
少し後ずさると息が漏れた。

「もう逃げちゃ駄目だよ」
「分かってる」

かかとで踏ん張ると奥歯を少し噛んだ。
扉をくぐって部屋の様子を目の当たりにする。

つかさ、こなた、みゆき、画面、ランプ、扉、嘔吐物、血、汗、割れたメガネ。
できるだけシンプルに抽出していく。

五回戦の結果を確認した。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 20:02:23.98 ID:yfFvgdKk0


●11(+1)● 5(−1)○ 7(−1)○17(+3)


予想通り。
つかさとこなたの減少にみゆきの増加。
自分の点数に大きな変動はない、これならいける。

続いて前回との比較。
色を変えたのはつかさのみ。
そして増減の変化はこなたとつかさ。
つかさの決定が影響するのはこなたで間違いなかった。

みゆきがつかさに干渉、つかさがこなたに干渉。
とくれば私に干渉するのはこなたしか有り得ない。
導き出された結果がそう教えている。

「ちょっとどきたまへー」

その人物が飛び込んでくる。
気にも止めずボタンの前へ滑り込み、迷うことなく押した。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 20:07:32.74 ID:yfFvgdKk0

色は白。
こなたの行動は完全にパブロフ戦略を模倣している。
分かりやすいほど単純な思考だ。

再び私の横を滑通過する時、彼女はこちらを見て笑っていた。
目がチカチカして眉間の奥が熱くなる。
余計な情報を、他人の感情を直に浴びて眩暈がした。

笑って跳ねて走って、殴ってまた笑って。
そんな行動を繰り返し己を汚していく姿があった。
思わず目線を逸らす。

これは全てノイズだ。
完成された式を無理に複雑にしているに過ぎない。
真実はそんなところにない、と言い聞かせた。

「そろそろ押してくれないかな」

威圧的な言葉に意識を戻す。
つかさの色は私の決定に影響されない。
ならば押す順番など問題ではない。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 20:12:51.81 ID:yfFvgdKk0

パターンを思い出していく。
赤赤ならばプラス一、白白ならばマイナス一。
残りの2つがプラスマイナス三となる。

白を提示すれば点は下がるが大きく差が開くことはない。
しかし最後の提示までにパターンを全て解明することは出来ない。
六回戦で差が縮まった場合は賭けに出る必要があるだろう。

赤を提示するのは冒険でもある。
半分の確率で大きく点を下げるがもう一方で勝利が確定する。
パターンは解明されるが大きく下がる危険が伴う。

息を呑んで、思考を完結させた。

「赤を押す」
「……そう」

赤にリスクと見返りが多いことは分かっている。
それでも選択をした。
白が怖いとか、パブロフだとか、感情が沸いてきたからだとか。
そういったものではないと心に強く言い聞かせた。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 20:17:37.70 ID:yfFvgdKk0

三人がボタンを押し終わる。
残る一人は床に倒れたまま静止していた。
つかさがそれを乱暴に蹴り起こす。

「まだ死んでないのは分かってるんだよ。
 ボタン押して貰わなきゃならないからね」

みゆきが動かないと分かり、ずるずると引きずり出した。
その跡が血と汗と涙で形成される。

扉の中では強引に腕を掴み上げてボタンを押させていた。
再び目を背ける。

これはノイズ、ただのノイズだと言い聞かせる。
他人の感情に関わっていては正確な判断力が失われる。
必要なものだけ、そう言い聞かせる。

二人が戻るとすぐに扉は閉まった。
数字が答えを模索して、結果が表示される。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 20:18:53.65 ID:yfFvgdKk0

間空きますが21時から再開です
残りは3割ほど
保守貰えると凄い嬉しい

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 20:56:14.70 ID:yfFvgdKk0


● 8(−3)○ 8(+3)●10(+3)●16(−1)


舌を噛んだ。
ふつふつと焦る気持ちが湧き上がってくる。
選択に失敗したのだ。
それも最悪の形で。

燃えていたはずの炎が薄れるのを感じた。
必死に心を取り戻そうとする。
次のシミュレートに神経を注がなくてはいけない。

判明した私とこなたの関係図。
赤赤ならプラス1、白白ならマイナス1。
そして赤白がマイナス3であるから残る白赤はプラス3。

次に彼女が選ぶ色は、そう考えたところで気づいてしまった。
額を汗がだくだくと流れている。

はっとして画面を見るとつかさが脇に立っていた。
目を丸くしている私に向かって裂けそうなほどの笑いを見せている。

「しくじった……」

思わず息が漏れた。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 21:01:15.64 ID:yfFvgdKk0

答えを求めて必死に思考を続けていく。

選択に関係なく、こなたに白を提示されればマイナスになってしまうのだ。
最後の七回戦で彼女は白を選ぶだろう。
大きくプラスされた選択を繰り返そうとする。

ならばつかさの点数を超えることは出来ないか。
無理に決まっている。
彼女は自身とみゆきの色の決定権を持っている。
最後に冒険しようと思うはずがない。

だとしたらみゆきの点数を。
それはない、一戦で八ポイントの差は埋まらないからだ。

はっとして気づかされた。
目に見える数字と色にだけ頼りすぎていたことを。
感情を簡素にしたばかりにその重要さを忘れたのだ。

目前の情報に頼りすぎた故の失敗。
もっと先を見て、周囲の状況から判断していたなら。
後悔は後から執拗についてまわる。

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 21:06:26.90 ID:yfFvgdKk0

「あぁ、あぁ」

愕然とした。

容赦ない悪臭が鼻をつんざいて集中力を持っていかれる。
つかさの勝ち誇った視線がこちらを捕らえて離さない。
物で遊ぶように殴るこなた、サンドバックと化したみゆき。
本当は誰のことも理解できていなかったのだ。

気を緩めると情報は嫌というほど頭に詰め込まれていった。
空間の劣悪さが感覚から容赦なく入り込んでくる。
負けてしまう、そう思って恐怖した時だった。

「ねぇねぇかがみん」

色褪せ始めた視界に情報の塊が飛び込んでくる。
それはこなたの真っ赤な手だった。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 21:12:08.79 ID:yfFvgdKk0

「遊ぼ?」

大した感慨もなくその手を掴む。
凄い勢いで引っ張り上げられて体がよろめいた。
見上げる体制に変わった彼女は私に笑いかけている。

その笑顔が作り笑いなのか、含み笑いなのか、煽り笑いなのか。
それとも純粋な笑いなのか。
感情を絞った私には分からなかった。
人というデータの波が膨大過ぎて感知できない。

「こっちにおもちゃがあるんだよ」

そう告げると転がっているみゆきの前に連れて行かれた。
繋いでいた手を離すと容赦なく相手に打ち付けていく。
しばらくその光景を見つめていた。

試合に勝ったが勝負に負けたみゆき。
既に反応はなく、宙を仰いでいる。
選択を誤った末路は見るに無残だ。
三人の安定の為に犠牲となった彼女。

思えば彼女の提示する色が確定した時点でおのずと結果は決まっていたのかもしれない。
みゆきの色を受けてつかさが、それに影響されてこなたが、その先に私が。
そして元に戻って一つの輪が形成される。
もっと早く気づくべきだったのだ。

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 21:16:49.89 ID:yfFvgdKk0

「なんか飽きてきちゃった。かがみんもやる?」

つまり暴力だ。
その言葉に触発されて一瞬だけ思考が巡った。
みゆきがそうなったように、こなたに無理矢理赤いボタンを押させる。
勝利への簡易方式だ。

しかし私にそれが出来るのか。
この子を傷つけることが可能なのか。

「どったの?やらないの?」

さっきまで人を殴りつけていた表情ではない。
十分に彼女はちぐはぐな状態だ。
これ以上どうにかなってしまう姿を見たくない。

「私はいいわ、それより何かお話しましょう」
「うん、あ、じゃあつかさも一緒にお話しない?」
「……ッチ」


89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 21:21:50.64 ID:yfFvgdKk0

黒い視線が此方を捕らえて、すぐに反れる。
つかさの言動には酷くノイズがかかっていた。
もう姉妹として分かり合うことなどできないだろう。

「つかささっきからすっと怖いんだよ」
「そっか、なら二人でいいわ」

しばらく二人で他愛の無い話をした。
こなたの感情は誰よりもクリアだったが、それすら曇って見える。
壊れていても彼女は私を好いてくれているのだろうか。
そう考える度に不安が膨らんでいく。

「そいでねー、黒井先生がいじわるするの」
「ふふっ、言葉は幼くても高校の記憶はちゃんとあるんだ」
「きおく?」

こなたが好き勝手喋り散らかして私が突っ込む。
ここに来るまでは当たり前だった、いつもの私達の姿だった。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 21:27:00.67 ID:yfFvgdKk0

――――ガチャン

扉の開く音で私達の会話は停止する。
決断の時が来た。

確認をする。
こなたに赤を押させなくてはゲームオーバー。
逆ならば彼女が犠牲になる。

問題は止め処なく頭を流れていった。
保守、倫理、友情、勝機。
それらが無造作に天秤にのしかかる。

「あ、時間だ」

短く呟いてこなたは立ち上がった。
感慨がある様子を見せず扉へ走っていく。

「ちょっと待って」

姿が半分ほど隠れたところで口を開いた。
ゆっくりと扉へ近づいていく。
この短い時間で何をするべきなのだろう。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 21:32:12.15 ID:yfFvgdKk0

こなたは白を押す。
それを覆す方法は。
暴力に訴えてはいけない。
ならば心を動かすには何をすればいいのか。
分からない、今の私は彼女を理解できていない。

仮に助かるのだとすれば、それは友達を見殺しにするということだ。
誰かの犠牲の上に立って生きる。
そんな重荷を背負えるのだろうか。

二人で並ぶように立っている。
視線は二つのボタンに注がれていた。

選択の後にどちらかが必ず死ぬ。
最後まで策は出なかった。
ならば友達として最後まで付き合ってくれた彼女に確認したい。
自己満足だとしても言葉という確かなもので示して欲しかった。

「私達は友達だよね」

それだけ言って赤いボタンを押した。

「うん、友達だよ」

そう返してこなたは続けて赤いボタンに手を伸ばす。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 21:36:00.96 ID:yfFvgdKk0

茫然としていた。
思考は留まりを知らず同じ問いを繰り返している。
ひたすら疑問符が頭に浮かんで消えていた。

「そだ。みゆきさんも押さないと駄目だよ」

立ち尽くす私の横にみゆきが引きずられてきた。
こなたはその手を取って、ボタンを押させようとしている。
はっとして振り返った。

笑っている。
みゆきの色はつかさに影響を及ぼす。
そんな大事な選択を他人任せにして。
微動だにせずただただ唇を釣らせている姿があった。
私の困惑する表情を見て楽しんでいるかのように。

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 21:39:49.82 ID:yfFvgdKk0

二人の視線に挟まれてランプが反応する。
赤から白に色を変えていた。

意味が分からない。
ここまできて勝気を失くしたのか。
まさか本当に諦めてしまったのでは。

「お姉ちゃん、その顔凄い滑稽笑えるよ。
 私は生き残る、負けなければいいんだよ」

言ったきり再び訪れる沈黙。
それ以上の変化は訪れぬまま後ろ手の扉が閉まった。

ランプは一箇所だけ始めの状態に戻っていた。
数字が決定される。

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 21:44:55.94 ID:yfFvgdKk0


● 9(+1)● 8(±0) 10(±0)○19(+3)


「勝った……」

ゲームに成功したのだ。
しかし喜びや安心感が訪れることはない。
それはすぐ隣にいる敗者の存在。

「やっと終わったね」

つかさも勝利していた。
想像もできなかった形で。

「見て分かると思うけど、ボタンを押さなければ点数に変化はない。
 ゼロに何を掛けてもゼロみたいな理屈かな」

その通りだった、つかさの色に影響される二つの数字には変化がない。
しかし押さないという選択肢へのペナルティーを想定しなかったのか。
ならば賢いのではなく無謀だと言える。

「五回戦の数字が決定した後、画面が点いたんだよ。
 いくつかの質問に答えてくれるボーナスタイムだった。
 お姉ちゃん、聞いてなかったんだね」

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 22:00:34.71 ID:yfFvgdKk0

そうだった。
確かに三回戦の終わりにもう一度画面が機能する可能性が示されていた。
時間が来たとき、隣の部屋で耳を塞いでいた私には気づけなかったのだ。

六回戦が終了した時点でつかさの勝利は確定していた。
誰がどのボタンを押していたとしても。

「かがみん、顔が般若みたいになってるよ」

こなたが見上げてきた。
状況にそぐわない浮いた発言。
彼女は事の深刻さを理解していないようだった。

「ごめん」
「どったの、痛いよ」

思わず細い体を抱きしめていた。
服が擦れる感触、髪がくすぐる感覚。
伝わる肌から感じ取れることは、ただ彼女が暖かいということだけだ。

何故この子は最後に赤いボタンを押したのか。
友達だと言ったから、だから同じボタンを押してくれた。
そうだと思う一方でそうであって欲しくないという願望。

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 22:05:35.63 ID:yfFvgdKk0

泣いてしまいそうで、離したくなかった。
それに応じるように身を任せるこなた。

既につかさの姿は消えていた。
閉ざされていた扉は開け放たれている。

部屋に黒い影が進入してきた。

こなたの顔を見ることができない。
見れば彼女を少しでも理解できてしまえそうな気がしたからだ。
ならばいっそ曖昧なまま。
彼女という膨大なデータの波に揺られていたかった。

私達は並んで点る赤いランプのように、影に引き裂かれるまでそうしていた。


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103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 22:09:35.80 ID:yfFvgdKk0


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――――トン

鞄を上げて机の中が空なのを確認する。
右手に慣れ親しんだ学生鞄、隙間から卒業証書がはみ出している。
一息ついてから立ち上がり振り返らずに教室を出る。

まっすぐに三年B組の教室を目指した。
少し遅れていたのか、丁度ホームルームが終わる。
生徒達が流れてきた。
その波に逆らって教室の中を見渡す。

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 22:12:36.31 ID:yfFvgdKk0

教卓を見る。
若い男性教諭が生徒達に囲まれて涙していた。
特に感慨にふけるわけでもなく対象を変える。

こなたの机を見る。
小さな花瓶にしおれた花が活けられていた。
周囲の誰もが寄り付こうとしない。
私が帰宅してから一ヶ月ほど後に遺体で発見されたそうだ。

みゆきの机を見る。
未だ教室に残っている女生徒達が溜まっていた。
学校に来なくなってからは別の生徒が使用していたらしい。
当人は今でも病院で治療を続けながら重い障害と闘っている。

最後の目標に視線を向けると目が合った。

「ちょっと来て」
「いいよ」

私達は屋上を目指した。

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 22:17:52.57 ID:yfFvgdKk0

どこまでも青い空は私達の門出を祝しているようだった。
少し仰いで、目を戻す。

「あの日のこと、覚えてる?」
「当たり前でしょ」
「もう半年も経ったんだね」
「……」

芳しい返事は返ってこない。

「この校舎を、四人の思い出が詰まったこの学校を。
 卒業する前に言っておきたいことがあるんだ」
「あれからほとんど口も聞いてなかったのに、今更なんなの」

以前として罰が悪そうにしている。

「私達はあの二人の人生を背負って生きていく。
 それを確認したかった」
「……馬鹿じゃないの」
「どうして?」
「二人は負けたんだよ、あのゲームに。
 敗者に同情する必要なんてない」

奥歯がきりきりと音を立て始めた。
ゆっくりと息を吸い込むと強く喉を鳴らす。

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 22:23:26.10 ID:yfFvgdKk0

「それは違う。
 ゲームは方法であっただけで殺したのは私達自身よ」
「なら自分が犠牲になってもよかったって言うの」
「私はそれでもいいと思ったわ」

二人分の罵声が遠くまで響き渡った。
肩が激しく上下して目頭が熱くなる。

少し間を置くと、姿勢を正して向き直った。

「私は弁護士になる。
 理不尽に人生を狂わされた人達の助けになりたい」
「……それは償いのつもり?」
「何とでも捉えてもらっていいわ。
 それが私のやるべきことだと信じてるから」
「勝手にすれば」

それ以上、会話が続きそうになかった。
ポケットから赤く染まったリボンを取り出す。

「あの時、あんたに巻いてもらったんだよ。
 忘れないようにずっと持ってた」
「…………」
「家に帰ってからもずっとリボンつけてなかったでしょ。
 それは自分が変わらなくちゃいけない、って思ったからだよね。
 お姉ちゃん、気が付くまでに随分と時間かかっちゃった」

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 22:26:46.37 ID:yfFvgdKk0

言葉を受けて俯いたまま口を閉ざしている。

「私はすぐ京都に行くからここでお別れ。
 リボンありがとう、沢山励まされた。
 あんたも早く向き合いなさいよね」

手のひらにリボンを握らせると、振り返らずに階段を下りていった。


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110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 22:29:46.32 ID:yfFvgdKk0

柊つかさは見つめていた。
昔は大好きで今は大嫌いなそれを。

風がぴたりと止んでいた。
決断を迫られているように感じる。

力を込めて一歩踏み出す。
握った左手を空高く上げていた。
唾を飲み込んで地面を睨みつける。

その手を振り下ろすことができなかった。
ゆっくり戻すと元の位置に落ち着かせる。
背を伸ばし、そのまま空を仰ぐと風が頬を伝った。

よし、と息をはくと階段へ足を向ける。
左手のリボンをポケットに突っ込んだ。

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 22:33:19.94 ID:yfFvgdKk0

以上になります。
支援、保守、まとめてくれた人に感謝。
途中でおさるさんが出てちょっと焦った。

数字の変化デタラメでなくてきちんとルールを作っています。
囚人のジレンマで用いられるやつを少しいじくった感じの。
ちょっと時間を空けたらそれを載せます。

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 22:45:59.19 ID:yfFvgdKk0

かがみはこなたの影響を受ける

赤 赤 +1
白 赤 +3
赤 白 −3
白 白 −1

こなたはつかさの影響を受ける

赤 赤 +1
白 赤 +3
赤 白 −1
白 白 −3

つかさはみゆきの影響を受ける

赤 赤 +3
白 赤 +1
赤 白 −3
白 白 −1

みゆきはかがみの影響を受ける

D A
赤 赤 −1
白 赤 +3
赤 白 −3
白 白 +1

相互ではありません、一方通行で4人が繋がってます。

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 22:58:43.61 ID:yfFvgdKk0

タイトルはバトル・ロワイアルから
内容は>>13の通り「扉の外」をかなり参考にしています
土橋真二郎先生大好き愛してる
なのでとっとと続編を出しやがって下さい

始めはけいおんでやろうと思ったけど
みwikiのポジションがムギになるのを考えると
執事の一人としていたたまれない気持ちに襲われ変更
今度はけいおんでSS載せにくるかも

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/29(火) 23:23:27.70 ID:yfFvgdKk0

まだいるおwww名残惜しくてごみんwwwww
初スレだからってやたら敬語使ってる自分きめぇ
最後に1つ忘れてた


らきすた1番くじ発売中コンビニでも売ってるとこあるよ!!!!!






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