キョン「SOS団のなく頃に」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 00:10:39.27 ID:iscUWgNv0



狂気は狂気の連鎖を生むんだってな。

そんなことを考えて俺は目を瞑った。



2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 00:12:24.06 ID:iscUWgNv0

教室に入ると、もうあの噂で持ちきりだった。

俺に気づいた谷口が慌てた様子で駆け寄ってくる。

「なぁ、キョン!マジか!?」

顔が青ざめているのがわかる。当然だ。
きっと俺も同じような顔をしてるんだろう。

「俺、信じらんねぇよ!」

谷口が俺の肩を掴む。

「朝比奈さんが死んじまったって、マジなのか!?」

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 00:14:12.86 ID:iscUWgNv0

外は雨が降っていた。今日は1日止まないらしい。
ただ呆然と外を眺めていると、担任の岡部が教室にやって来た。

「ほら、もう席に着け」

後ろを振り返る。
…なんだ、ハルヒは休みなのか。
きっと相当ショックだったんだろうな。

「知ってる人間も多いと思うが」

HRが始まり、岡部の口から昨日の出来事が伝えられた。

「この学校の生徒が昨日、事故にあった。皆、気をつけるように」

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 00:16:35.59 ID:iscUWgNv0

その日1日は何も頭に入ってこなかった。
俺を慰めるつもりか、それとも情報が欲しいのか。
しきりに話しかけてくる谷口と国木田の言葉も右から左だ。

なんでこんなことになっちまったのか。
…それはもちろん、俺が1番良く知ってる。

思い出したくない。
でも忘れるなんてできやしない。


すでに何度反復したのかわからないが、また昨日の記憶が蘇ってきた。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 00:18:30.15 ID:iscUWgNv0

「今日の班分けをするわよ!みんな、このくじを引きなさい!」

我らが団長様が元気よくそう告げる。

今日は休日。SOS団では恒例となった不思議探索の日である。

「おや、どうやらこれは無印のようですね」
古泉、どうやらこれでお前と二人きりという最悪のパターンは間逃れたようだな。

「私、色つきです!」
朝比奈さん。今日もお美しい。

「…」
長門だ。引いたのは無印。

「あとはあたしとキョンだけね。キョン、一斉に引くわよ!」

「へいへい」

こうなると色つきを引きたいところだな。
朝比奈さんと二人きりで町を探索、素晴らしいじゃあないか。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 00:22:49.49 ID:iscUWgNv0

不思議探索といっても、ハルヒと一緒にならない限りそんなことはしない。
不思議が町にごろごろと転がっているハズがないからな。


「キョン君、班分けが二人きりになるのは久しぶりですね」

「そうですね。お昼まで、どこか行きたい所はありますか?」

今日はどうやらツいてるらしい。
俺は運良く色つきの爪楊枝を引き当てた。

なんだが今日はいい日になりそうな気がしてきたな。

「キョン君に任せます。私はどこでも大丈夫ですから」

任されましょう。
それが朝比奈さんの頼みとあらば。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 00:26:10.27 ID:iscUWgNv0

その日は映画館に行った。
なんというか、これは普通のデートじゃないか。

だがしかし、回を増すごとにやることがなくなってきてるこの不思議探索、
隣にいる朝比奈さんが満足しているならそれでいいとしよう。
今ごろハルヒに振り回されてるであろう古泉と長門には申し訳ない気はするが。


「面白かったですね〜」

「確かに、前評判がいいだけのことはありましたね」

映画の余韻に浸りながらそんなことを話す。

「あともうちょっとだけ時間がありますけど、どうしましょうか?」

「あの、今、買いたい物を思い出したんですけど…」

なんと奇遇。俺もです。妹に買い物を頼まれていたんでした。
朝比奈さんが何を買いたがっているのかは知らないが、時計を見る限り両方買いに行く時間はなさそうだ…。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 00:29:55.10 ID:iscUWgNv0

雨の降る放課後、俺はSOS団の部室、旧文芸部室に向かっていた。
今日は誰も集まっちゃいないだろうとは思ったが、家に1人でいるのは気持ち的にキツイものがある。


「おや、あなたもいらっしゃるとは」

古泉が驚いた顔をする。お前もいたのか。

「…」

長門もいた。いつも通り、本を読んでいる。

「涼宮さんは?」

「今日は休みだ」

「…そうですか。無理もありませんね」

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 00:33:21.29 ID:iscUWgNv0

「涼宮さんの力があればあるいは、とは思ったんですが。…やはり失われた命は戻らないということですね」

「そうだな」

そう答えて、一つ疑問が浮かんだ。
閉鎖空間はどうなってるんだ?

「昨日から何度も発生しています。実は今日、僕が学校に到着したのも午後になってからなんですよ」

やっぱりか。お前も大変だな古泉。
それじゃあ悲しみに浸る暇もないだろう。
だが、もしやそれは一晩中神人と戦ってたってことになるのか?

「ええ。ですから、今日は目の隈が目立たないようにメイクをしてるんです。まぁ、涼宮さん以外に勘繰る方もいないでしょうが」

「そうか」

「おっと、まるで自らの苦労を誇示するような言い方をしてしまいましたね。申し訳ありません」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 00:37:31.67 ID:iscUWgNv0

prrrrrrr!!

携帯が鳴る。

「噂をすれば閉鎖空間が発生したようです。…失礼しますね」

そう言うと、古泉は足早に部室を後にした。
こんな時でも笑顔を崩さないのは流石なのか、不謹慎なのか。
だが俺には何も言えない。何を言う資格もない。

「長門は…まだここで本を読んでいくのか?」

無言でうなずく長門。

「なぁ長門。一ついいか?」

「なに」

「いや、朝比奈さんのことなんだが…」

俺にはまだひっかかっていることがあった。

「朝比奈さんには更に未来の朝比奈さんがいるだろ?異時間…なんだったっけか」

「同位体」

「それだ、異時間同位体。それはつまり、朝比奈さんは死ぬはずがないって事なんじゃないのか?」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 00:40:35.47 ID:iscUWgNv0

そう、大人の朝比奈さんの存在だ。大人の朝比奈さんがいるって事は、今の朝比奈さんが大人になることが約束されてるってことじゃないのか?

「未来は絶対のものではない」

「なんだって?」

「極稀であるが、こういうことも起こりうる。言葉は悪くなるが、運がなかった」

叩きのめされたような気分だ。

「じゃあ、大人の朝比奈さんはどうなるんだ!?」

「…存在しなかったことになる」

「…そうか」

なんてこった。唯一の希望だと思ってたのに。
まだ可能性はあると思ってたのに。

また涙がこみ上げてきた。
いかん、長門の前で泣くのは…。

「悪いな長門、俺も帰るよ」

「…そう」

違和感を感じたが、それが何なのかはわからなかった。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 00:44:29.96 ID:iscUWgNv0

夜。通達どおり朝比奈みくるの通夜が行われた。
開いたのは未来人の方々なんだろうか。

誰とも待ち合わせする事もなく一人でやってきたわけだが、やはり気持ちが沈む。

「キョン君」

後ろから呼びかけられて振り返る。鶴屋さんだ。

「キョン君だけかい?ハルにゃんたちは?」

「いえ、一人で来たんです。…なんとなく一人で来たくて」

「そうかい。…そうだよね」

鶴屋さんの目は真っ赤だった。さっきまで泣いていたんだろうか。

「キョン君が来てくれて、みくるも嬉しいと思うよ。私はお線香をあげ終わったから、これで」

それじゃあ、といって鶴屋さんは去っていった。
きっと彼女も辛いんだろう。胸が痛くなった。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 00:48:51.25 ID:iscUWgNv0

中に入ると、見知った顔が線香をあげているのが見えた。

…ハルヒだ。

ハルヒも一人で来たんだな。どおりで連絡がないわけだ。

俺はかけるべき言葉が見つからず、その場に立ち尽くしてしまった。
ハルヒがわざわざ一人で別れを告げに来たのなら、声をかけるのは野暮ってもんだろう。

始終沈んだ表情のハルヒが帰るのを確認して俺は線香をあげた。

罪悪感で胸が一杯になる。

部屋中で聞こえるすすり泣きの声。朝比奈さん、やっぱりあなたは色々な人に愛されていたみたいですよ

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 00:52:37.75 ID:iscUWgNv0

「どうも」

線香をあげて会場を出た俺に古泉が声をかけてきた。
手に包帯を巻いている。

「…どうしたんだ、その手」

「先ほどの召集時に油断をしてしまいまして…。大した傷ではありません」

「大したことないって…、お前…」

「ご心配なく。…むしろ、あなたはご自分の心配をなさって下さい」

何を言ってるんだこいつは。生傷を負ってるお前の方が遥かに危ないだろう。
そんなことを言おうとしたが、それは遮られた。

「朝比奈さんの件、あなた、ご自分を責めてらっしゃいませんか?」

「!」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 00:56:51.52 ID:iscUWgNv0

胸がズンと重くなる。眩暈がする。
たぶん、気のせいなんかじゃないだろう。

「…」

「図星、ですね」

言葉が出なかった。あの時俺は…

「ご心配なさらずとも大丈夫です」

古泉が続ける。

「あの時あなた方は別行動をしていたんでしょう?
それならば、あなたに非は一切ありませんよ」

そう言って古泉が微笑みかける。

「…そうだよな」

一体何を考えてるんだ、俺は。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 00:59:40.74 ID:iscUWgNv0

「そうだ、ハルヒのことなんだが…」

気になっていた事を聞いてみた。
結局さっきも話をすることが出来なかったからな。

言いたかないがコイツはハルヒの精神の専門家だ。
こんなことがあって、アイツは世界の改変なんか起こさないんだろうか?

「今のところは閉鎖空間を発生させるに留まっています。数に関しては今までの比ではありませんが…」

いっそのこと、世界をやり直してくれて構わないんだけどな。

「心配なのは涼宮さんだけではありませんよ」

「…?どういうことだ?」

「長門さんです。一緒に部室にいて気づきませんでしたか?」

そう言われてみて思った。確かに何か違和感を感じたような。

「これは僕の予想ですが、仲間の死によって彼女にも何らかのエラーが蓄積し始めているのかもしれませんね」

仲間の死によるエラーか。あいつも人間らしくなったもんだ。
もっと別の機会にそれを感じたかったが。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 01:03:36.20 ID:iscUWgNv0

結局ほとんど睡眠時間を取れないまま、俺はまた学校に向かっていた。
朝目が覚めたら全てが夢だった、なんてオチを期待したが、ダメだったようだ。

教室に入る。まだハルヒは来てないみたいだな。

その時俺は異変に気づいた。
クラスの人間が皆、俺を見つめている。
それに、さっきまで騒がしかった教室が水を打ったように静まり返っている。

何だこれは?

「お、おはようキョン」

国木田の様子も何かおかしい。

まぁいい。元より誰かと楽しくお喋りしようなんて気はない。
だが、谷口はそんなのお構いなしだと言わんばかりに俺に詰め寄って来た。

「キョン、聞きたいことがある」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 01:06:19.03 ID:iscUWgNv0

「どうした」

ぶっきらぼうに答えた。この受け答えで俺の気持ちを察してくれ。

「俺はお前を信じてる。だからこそ、聞きたい事があるんだ」

「なんの話だ?」

「朝比奈さんの話だよ」

心臓が早まった。

「今朝から噂になってんだ」

「何がだ?」


「お前が事故った朝比奈さんを置いて逃げたって噂は本当か?」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 01:10:24.77 ID:iscUWgNv0

「…は?」

「だから、本当なのか?」

「誰がそんなことを!?」

「知らん、噂だ」

噂?何でそんな噂が流れてる?

「どうなんだよ!キョン!?」

「そんなわけないだろう!!」

気が付けば俺は叫んでいた。
視線が一斉に俺に集まる。

「だ、だよな。もちろん、俺はそんな噂信じてなかったんだぜ!?」

そう言って笑う谷口。
こんなことじゃあしょうがない。話してやろう。

あの日、朝比奈さんと買い物の内容が噛み合わず別行動をしたこと。
その時、悲劇が起こっちまったってこと。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 01:13:50.89 ID:iscUWgNv0

結局、その日もハルヒは来なかった。

俺はというと、一日中校内の生徒の冷ややかな視線を浴び続けた。

…噂が広まっているらしいな。

谷口も国木田もどこかよそよそしく感じる。

だがその時俺の頭は1つの疑問で一杯だった。


誰が噂を広めた?

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 01:17:59.42 ID:iscUWgNv0

放課後、いつものように部室に向かう。

そこに、笑顔のメイドの姿はない。
…あのお茶を味わうことはもう出来ないのか。

「こんにちは。おや、あなただけですか」

遅れて古泉がやって来た。

「どうやらそうみたいだな」

「遅れてきて早々申し訳ないんですが、1つ伺ってもよろしいでしょうか?」

鞄を机の上に降ろしながら古泉が聞いてきた。

「何だ?」

「いえ、実は妙な噂を耳にしまして」

お前もか、古泉。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 01:21:29.35 ID:iscUWgNv0

「あなたが否定するのならそれでいいんです。僕はそれを信じますから」

「否定するに決まってるだろう」

「ですよね。申し訳ありません」

本当に校内中に広まっているのか。
鶴屋さんは今どんな顔をしているのか。
頭が痛くなる。

「こんな噂が流れていては、あなたも不快でしょう」

ああ、不快でしょうがないね。
あの人を軽蔑するような目、お前も一度味わってみたらどうだ?

自分の心が荒んでいくのがわかるぞ。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 01:26:39.12 ID:iscUWgNv0

「そういえば、朝比奈さんを轢いた犯人、どうなるんだろうな」パチッ

古泉と将棋を指しながらそんなことを聞いてみた。

「どう、とは?」パチッ

「捕まった時の話さ。ひき逃げの罪はやっぱり重くなるのか」パチッ

「そうですね…」

俺の一手に行き詰まりを感じたのか、古泉が腕を組みながら答える。

「それはこの国の司法機関が然るべき罰を与えてくれるんじゃないでしょうか」

「大丈夫ですよ。ご心配なさらずとも…」

止まっていた古泉の手が動く。

「この国の警察は優秀です。逃げ切れなどしませんよ」パチッ

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 01:29:27.54 ID:iscUWgNv0

「…ずいぶんと変わった手を打つな」

「勝つための賭け、というのも面白いものです」

勝つための賭け、か。
そんなことをしてるから毎回俺に負けるんじゃないのか?

prrrrrrr!

「おっと」

古泉の携帯が鳴る。ハルヒの作った閉鎖空間からお呼び出しがかかったようだ。

「失礼。勝負の最中でしたのに…」

「いいさ、また今度決着をつけよう。俺は逃げやしないよ」

「そうですね。それでは行ってまいります」

今さらになってあの日常が恋しくなった。
このまま壊れていくなんて嫌だ。

そうだ。SOS団は無くならない。
無くならないよな?ハルヒ。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 01:33:54.46 ID:iscUWgNv0

さて、古泉もいなくなったことだし俺も帰るとするか。
荷物をまとめていると長門が入ってきた。

「よう長門、遅かったんだな」

「掃除当番」

そう言って本棚から本を抜き出す長門。
いつも通りの光景だ。
こうやって俺も、古泉も、長門も、必死に日常を過ごすフリをしてるんだな。

「悪いな長門。俺、もう帰るよ」

「そう」

鞄を担ぐ。授業用の教科書類はロッカーに入れてあるから軽いもんだ。

「大丈夫」

背後から長門の声がした。今、俺に言ったのか?

「大丈夫。私はあなたの味方」

ありがとよ、とだけ言って俺は部室を後にした。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 01:38:19.72 ID:iscUWgNv0

あたり前のように次の日はやってきた。
朝比奈さんが亡くなってから3日。
まだぐっすり眠るなんてのは出来ないみたいだ。

あの日の朝比奈さんが浮かんでは消えてゆく。

俺は…。

通い慣れてきた筈の早朝ハイキングコース。

気付けば、今まで以上に登るのがきつくなっていた。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 01:40:16.99 ID:iscUWgNv0

教室に入ろうとすると、久々に見る顔があった。

ハルヒだ。
つかれきった顔。あまり眠れちゃいないんだろうな。

ハルヒは俺を見つけると、ツカツカと歩み寄ってきた。

「キョン」

「ようハルヒ。…大丈夫か?」

ハルヒは答えなかった。かわりに俺のネクタイを掴んで言う。

「部室に来なさい。今すぐによ」

その迫力には逆らえなかった。
もうすぐHRが始まるなんて言っても無駄だろう。

部室まで、俺たちが会話を交わすことはなかった。

「入りなさい」

おいハルヒ、お前、今まで見たこともないような目をしてるぞ?

「話があるの」

おいハルヒ、今まで、お前のそんな声は聞いたことないぞ?

なぁ、ハルヒ。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 01:44:59.56 ID:iscUWgNv0

「くっ!」

部室に入るや否や、ハルヒは俺を壁に押し付けた。

「な、なんだよハルヒ!?」

わかるのはハルヒが痛く御立腹なことだ。
いや、そんな言葉で茶化すことができないくらい真剣に怒っている。

「しらばっくれてんじゃないわよ!!」

俺のネクタイを掴むハルヒの手に一層力がこもった。

「何でいなくなったの!?何で嘘なんかついたの!?」

その言葉が俺の体温を奪い始める。

「な、なんのことだ!?」

ハルヒの目には涙が浮かんでいる。

「信じてたのに…」


「何でみくるちゃんを置いて逃げたの!?あたし見てたんだから!!!」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 01:48:29.68 ID:iscUWgNv0

「あの時あたしたち、3人バラバラに活動してたの」

おいハルヒ

「みくるちゃんにぶつかった車ね、その前から大暴走してたのよ」

何で

「1度あたしもぶつかりそうになったわ。それで運転手に文句を言ってやろうと思って」

お前は

「追いかけようとしたらキョンとみくるちゃんが見えて」

それを

「危ないって叫ぼうと思ったけどもう…」

見てるんだ…?

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 01:51:29.74 ID:iscUWgNv0

「あの、今、買いたい物を思い出したんですけど…」

なんと奇遇。俺もです。妹に買い物を頼まれていたんでした。

朝比奈さんが何を買いたがっているのかはわからなかったが、時計を見る限り両方買いに行く時間はなさそうだ…。

「あの、それなら朝比奈さんが買いたいものを買いに行きましょうか」

「えぇっ、悪いですよ!キョン君も買わなきゃダメなものなんですよね?」

買わなきゃダメというより、買わなきゃ怒られる。

「ですから、今だけ別々に行動しませんか?買い物が終わったら、ここに集合しましょう」

それも考えたが、せっかく同じ班になった意味がなくなるから口に出さなかったんだ。
だが、朝比奈さんから提案されたのではしょうがあるまい。

「わかりました。そうしましょう」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 01:55:20.32 ID:iscUWgNv0

お互い買い物を終えて、もう一度集まる。
朝比奈さんは随分と大きな物を買ってきたみたいだ。

「えへへ、新しい急須とお茶のセットです」

なんとありがたい。是非、一番にそれを飲みたいね。
そんなことを考えながらチラリと時計を見る。

「あ、あれ!?」

「どうかしました?」

気が付けば集合時間まであと5分位しかない!
しまった。朝比奈さんと過ごす時間はこんなにも早く過ぎ去って行ってしまうものなのか。

「本当ですか!?どうしましょう、また涼宮さんに怒られちゃいます〜!!」

またどやされるのか。それは面白くない。

「急いで戻りましょう!朝比奈さん、走れますか?」

「ふぇ!が、頑張ります!」

朝比奈さんを急がせるのは不本意だが仕方がない。
ハルヒを不機嫌にして迷惑を被るのは俺だけじゃあないからな。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 01:59:13.55 ID:iscUWgNv0

なんてこった。こんなところで赤信号とは。
朝比奈さんと二人きりで遅刻なんてしたら、ハルヒが何を言い出すかわからん。

「はぁ、はぁ、キョン君足速いです」

幸い、車が来る気配はない。

「朝比奈さん、今のうちです。渡っちゃいましょう!」

「え!赤信号ですよ!?危ないです」

いや、今なら大丈夫だ。

「心配いりませんよ!行きましょう!」

先に横断歩道へと踏み込む。

「ふえぇ〜、待ってくださ〜い!!」

後ろから朝比奈さんがついて来る。

ブオオオオ!!
「ひえっ!」

朝比奈さんの声が聞こえた気がして振り返る。だが、もう遅かった。

キィィッ!!

ドシャアアアアッッッ!!!

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 02:03:26.12 ID:iscUWgNv0

「え?」

ボコボコのまま逃げるように去っていく車。

「あ、朝比奈さん…?」

なんだこれは。

何が起こった?

朝比奈さん、その足の向きはおかしいでしょう。
体も、普通はそんなふうに捻じれませんよ。

わかってる。
明らかに死んでる。

俺が…。
俺が悪いのか…?

「うわあああああああ!!!」

気が付くと俺はその場を走り去っていた。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 02:06:17.69 ID:iscUWgNv0

鳴り響く古泉からの電話。

急いで現場に向かう。

ハルヒも、長門も、古泉もそこにいた。

ハルヒは泣き叫んでいる。

古泉が俺に言う。なぜ一緒にいないのかと。

必死で事情を説明する。嘘話だ。

だって怖いじゃないか。
本当のこと、お前らなら言えるか?

「生命活動の停止を確認。蘇生は不能」

長門の言葉が更なる絶望を生む。

ハルヒは泣き叫んでいる。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 02:10:30.21 ID:iscUWgNv0

その後のことはハッキリ覚えていない。
俺も、きっと必死だったんだろう。

そうかハルヒ。
全部見てたのか。

「裏切り者!!」

ハルヒが叫ぶ。

「あんたなんか…あんたなんかねぇ…!!」

ハルヒはSOS団を誰よりも愛してたんだ。
だからこそ、逃げた俺が許せないんだろう。

でもこれでわかったよ。

あのことを知ってる。
噂を流したのはお前だな?ハルヒ。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 02:13:53.88 ID:iscUWgNv0

そうだ、初めから直接俺に言えばよかったじゃねぇか。
回りくどい真似しやがって。
大体、お前が俺と同じ立場ならどうしてた?

俺は本当に平凡で、弱い、普通の人間なんだ。

「あんたが代わりに轢かれちゃえばよかったのよ!!」

はっ、言ってくれるぜ。ハルヒさんよ。
俺だって、黙りっぱなしじゃないんだぜ。

「うるさい!お前に俺の気持ちがわかるのか!?」

「わからないわよ!わかりたくもない!!」

「それで、あんな手を使って俺を貶めようとしたのか!?」

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 02:16:39.58 ID:iscUWgNv0

「はぁ?」

「今度はお前がしらばっくれるか!?お前しかいないだろうが!!」

頭に血が昇っていく。冷静な判断?知るか、そんなもん。

「俺だって、いや、俺が一番辛いんだよ!押しつぶされそうなんだ!!」

そう言ってハルヒに掴みかかる。

「ちょ、離してよ!!」

「うるさい!だいたいお前は…」

「離してって言ってるでしょ!!」

暴れるハルヒ。なんだ、まるで俺が襲おうとしてるみたいじゃないか。
押さえつけようとするが、余計にハルヒが暴れだすだけだった。
バタバタと乱闘のような音が響く。

「あんたなんか、あんたなんか…!!」

ガタッ

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 02:20:13.84 ID:iscUWgNv0

スローモーションのようだった。
部室にある本棚が傾く。
避ける事しか頭に浮かばなかった。

ドサアァァッッ!!!

激しい音が鳴り響いた。


「…ハルヒ?」

さっきまで目前にいたはずのハルヒがいない。

「どこにいった?」

本棚の下に人の手をみつけた。

「おい、ハルヒ」

嘘だよな?

「な、おい、返事してくれよ」

ハルヒは本棚の下敷きになり、動かなくなっていた。

「ハルヒ!!!」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 02:24:41.16 ID:iscUWgNv0

逃げ出した。

また俺は逃げ出した。

何がなんだかわからない。

俺が殺した?ハルヒを?

そんなつもりじゃなかったんだ。

そうだろ?俺は殺すつもりなんてなかった。

殺すつもりなんてなかったんだよハルヒ!!

でもそんな話誰が信じる?

誰が俺の味方でいてくれる?

いや、わかってる。

終わりだ。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 02:28:20.88 ID:iscUWgNv0

一人、部屋で布団にうずくまる。
寒気が止まらない。

俺は…。俺は…。

「キョン君帰ってきてるの〜?」

妹の声に返事なんて出来なかった。

どうすりゃいい?
自首すればいいのか?

俺が悪いのか?
本当に悪いのは朝比奈さんを轢いたヤツだろう。

そいつより先に俺が罪を償う?
そんなの、絶対におかしい。

いや、わかってるさ。本当におかしいのは俺の頭だ。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 02:34:17.82 ID:iscUWgNv0

次の日。
学校に行くことなんて出来なかった。

『部室、来なきゃ死刑だから!』

『昨日悪夢を見たの。おかげで全然寝れやしなかったわ』

『あたしも行くからね!』

『そう思うでしょ?キョン!』

今さらなんでこんなにアイツに会いたくなるんだ?
あんなやつ、うっとおしかっただけじゃないのか?

「ハルヒ…」

なんでこんなに涙が出て来るんだよ…!?

いつ俺の家に警察が踏み込んで来るのだろうか。
いや、早く来てくれた方が俺は楽になるのかもしれないな。

prrrrrr!

放課後の時間になり、携帯が鳴る。

『着信:古泉』

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 02:38:37.03 ID:iscUWgNv0

古泉か。
一体何のようだ。
部室でハルヒの死体を見つけたか?

メッセージが入る。

俺は恐る恐るそれを再生した。

『どうも、古泉です。今部室にいるのですが、本日はお休みでしょうか?
将棋の決着をつけようと思ったのですが仕方ありませんね。失礼します』

予想と違った。なんだ、間の抜けたメッセージだな。

だが、なにかおかしいぞ?
古泉はなんて言った。部室にいる?


部室にはハルヒの死体があった筈だ。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 02:42:17.82 ID:iscUWgNv0

そうか、これは罠なのかもな。
だが、罠ならそれでいい気もしてきたよ。

苦しいんだ。
誰かに罵倒されたかったのかもしれない。
このおかしくなった頭を、叩いて欲しかったのかもしれない。

『どうも、古泉です』

「おう、俺だ。メッセージを聞いた」

『そうですか。学校にいらしてないのは体調不良か何かですか?』

「そんなところかな、はは」

『やはりそうですか。体は大事にしなくてはいけませんよ』

おかしい。

「なぁ、古泉。今部室にいるんだよな?」

『ええ』

「何か変わった事はないか?」

『いいえ、特には』

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 02:46:56.96 ID:iscUWgNv0

どうなってる!?
ハルヒの死体が消えてるのか!?
本棚だって盛大に倒れてたはずだぞ!?

『そういえば、涼宮さんも今日はお休みみたいですね』

心臓が跳ね上がる。

「そ、そうなのか?」

『ええ。昨日せっかく復帰されたのにどうしたんでしょう』

「さぁ、どうしたんだろうな」

『そうそう、涼宮さん関連のお話なんですが、昨日から閉鎖空間が起こらなくなっているんです。我々も不思議に感じていて』

鼓動が煩い。

『何かあったのでしょうかね?』

汗が止まらない。

気が付けばわからないといって電話を切っていた。
やっぱりハルヒは死んでるんだ。
でも、それならどうして?

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 02:49:35.02 ID:iscUWgNv0

頭が上手く働かない。
何が起こったって言うんだ。

死体がそんな簡単に消えるか?
消えたんだとしたら、一体どうやって?

そんな時、あの言葉が俺の中に蘇ってきた。


『大丈夫。私はあなたの味方』


夜、電話で連絡を取った。
これからアイツの家に向かう。

もはや確信に近い物があった。
こんなことが出来るのはただ一人。

長門しかいない。

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 02:53:44.73 ID:iscUWgNv0

「長門、俺だ」

「入って」

マンションの自動ドアが開く。
相変わらず綺麗な場所だ。少々羨ましい。

部屋に入ると、長門はお茶を用意してくれてていた。
ありがたいが、ゆっくりお茶を飲んでる気分じゃないんだ。


「確認したいことがある」

「なに」

相変わらずの無表情。
考えてることが読めない。

「今日、部室を片付けたのはお前か?」

「いや、ハッキリ言うべきだな。ハルヒの死体。お前が片付けたのか?」

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 02:59:02.91 ID:iscUWgNv0

「そう」

長門はただそれだけ答えた。

「な、なんでだ!?」

「あなたのため」

やっぱり長門は知っているらしい。俺が犯人なのを。

「情報統合思念体には観察対対象の死亡を伝達済み。死亡理由は私が捏造した」

「涼宮ハルヒの件も、朝比奈みくるの件もあなたは悪くない」

「あなたは何の心配もしなくていい」

そう言って微笑む長門。
これでいいのだろうか。

だが今また、長門に違和感を感じたぞ。
前回より、ハッキリと。

長門が笑った?

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 03:03:00.98 ID:iscUWgNv0

突然、動悸が止まらなくなった。

「あなたは私が守る」

何かが引っかかってる。

「だから、もっと私を頼って」

それも昨日からずっとだ。

「あなたを守れるのは私だけ」

長門はなんて言った?
涼宮ハルヒの件も、"朝比奈みくるの件"も?

「なぁ、長門」

「なに」

「お前まさか、朝比奈さんが死んだときのことを知ってるのか?」

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 03:06:55.26 ID:iscUWgNv0

空気が張り詰めたように感じた。

「…見ていた」

やっぱりか。

「あの時三人は1度バラバラになり、私は偶然あの場に居合わせていた」

そうだ、おかしいと思ったんだよ。

あの日休んでたハルヒが噂の根源なわけがない。
そもそもあいつなら、わざわざ噂を流す前に俺を部室に引っ張って行くだろう。
それに、朝の時点であの噂の広がり方。口伝いにしては早すぎる。

「あの噂を流したのは、お前だったんだな」

「そう」

「何でそんなことをした…?」

長門がまた微笑む。

「あれであなたの味方はいなくなる」

「頼れるのは私だけ」

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 03:11:54.21 ID:iscUWgNv0

「ふざけるな!!」

思わず叫んでいた。
だってそうだろう?その勘違いで俺はハルヒを殺しちまった。
俺が悪くないなんて今さら言う気はない。

でも長門、これは許せない。

「あなたが欲しかった」

「ふざけるなっていってるだろ!!!」

体が勝手に動く。
俺は長門の細い首に手をかけていた。

「お前は…お前は…」

手の力が抜けない。俺は何をしてるんだ。

「殺すの?」

かすれた声。当然だ。俺がクビを絞めてる。

「あなたになら、かまわない」

ありったけの力を込めた。
もう訳がわからなかった。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 03:15:18.30 ID:iscUWgNv0

やがて長門は動かなくなった。
声をかけてももう反応することはない。

俺が長門を殺してしまったんだ。


どれだけの時間そこに立ち尽くしていたんだろう。

「はは…ははは」

笑うしかない。
よし、死のう。
このマンションの高さならちょうどよさそうだ。
一瞬でこの狂った頭をミンチに出来る。
今の俺に生きている資格なんてない。そうだろ?

その時、扉の開く音がした。

「長門さん!!」

古泉、お前って奴は本当に空気が読めないのな。

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 03:19:08.59 ID:iscUWgNv0

部屋に現れると一目散に長門に駆け寄る。
脈を取っているらしい。

「死んでる…」

その通りだ。もう死んでる。

「よぉ、古泉」

「あなたは!?どうして!?」

古泉の顔が驚きに変わる。
いいんだよ、こうなりゃヤケだ。

そうだな、古泉も殺しちまおうか?

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 03:23:57.57 ID:iscUWgNv0

古泉が明らかに警戒の色を示す。
当然の反応だ。

「古泉、お前こそどうしてここに?」

「…突然部室に涼宮さんの遺体が現れたのです」

「大変驚きましたよ。何が起こったのかわかりませんでした」
「冷静になってわかりましたよ。涼宮さんの死の原因は別にして、これには長門さんが一枚噛んでいると」

殺人犯を目の前にしてよく喋るヤツだ。

「しかし、隠していた筈の涼宮さんの遺体が突然現れた」
「そこで僕は長門さんの身に何かがあり、その力が及ばなくなったと考えた訳です」

「話が長い。もういい」

そう言って俺はゆっくりと古泉に歩み寄った。

「まさか、長門さんを殺したのはあなたですか?」

今さら隠すことも、その意味もない。

「そうだよ」

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 03:27:12.51 ID:iscUWgNv0

古泉が目を細めて後ずさる。

「おや、僕のことも殺すおつもりでしょうか?」

SOS団はここまで壊れちまったんだ。
違うな、俺が壊した。
こうなれば、もう何も残らないくらい粉々にしてやるよ。

朝比奈さんの死から何かが狂い始めた。
俺が狂いだし、そして長門も狂った。

そうさ、俺は今この狂気の中心にいる。

「お前を殺して、俺も死ぬ」

「できますか?あなたに」

余裕だな。冷静を装ってるのか?気に食わない。

「そうだ古泉、最期にいい事を教えてやる」

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 03:31:23.02 ID:iscUWgNv0

もう終わるんだ、さらけ出してしまえ。

「ハルヒが死んじまったのは俺が原因だよ」

「涼宮さんもあなたが!?」

いい顔だ、古泉。

「それだけじゃない、朝比奈さんが死んだのもだ」

もっと顔を歪ませろよ。今の俺の心みたいにさ。

「…ははは、困ったものです」



「あそこでちゃんと涼宮さんが死んでいれば、朝比奈さんは死なずに済んだのですけれどねぇ」


は?

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 03:35:57.03 ID:iscUWgNv0

歪んだのは俺の顔の方だった。
古泉は不気味な笑みを浮かべている。

「ハルヒが…?何を言ってる?」

「車ですよ。まさか轢き損じるとは、ね」

なんだ?コイツは何の話をしてる?

「朝比奈さんを誤って轢いたと聞いたときは我々も終わりを覚悟したんですよ。実際、閉鎖空間の処理で手一杯になりましたし」

意味がわからない。

「ですがあの時のあなたの反応と、その場に涼宮さんが居合わせた事実。まだ可能性はあるんじゃないかと」

だれかおしえてくれ。

「ここまで読み通りとは。あなたにはお礼を言うべきですね」

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 03:39:52.03 ID:iscUWgNv0

古泉は今まで見たことのないような笑顔をしていた。
閉鎖空間の処理に追われているときの作り笑顔じゃない。

「不安だったんですよ。長門さんもいますしね」

長門はエラーを起こした。
朝比奈さんの死によって。

「それでも僕が選んだのは勝つための賭け、です」

背後から俺の首にナイフが当てられたのがわかった。
身動きが取れない。

「賭けには勝ちました。我々は解放されたんです」

そういうことか。
後ろにいるのは誰だ?荒川さんか?それとも森さんか?

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 03:43:28.99 ID:iscUWgNv0

「あはははははははははは!!!」

高らかに笑う古泉。


そういえばこんな話を聞いたことある。

狂気は狂気の連鎖を生むんだってな。

そんなことを考えて俺は目を瞑った。


この狂気の始まりにいたのは古泉だったんだ。



いや、それともハルヒ。お前か?



おしまい

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 03:52:59.38 ID:iscUWgNv0

・元凶は古泉
・キョン殺されてEND

のつもりだったんだけど…あれ?

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 05:42:03.45 ID:iscUWgNv0

寝オチしてしまうまで…。



部室はいつもの調子だった。

メイド姿で笑顔を振りまく朝比奈さん。

本を熟読する長門。

パソコンでなにやら調べているハルヒ。

ボードゲームを俺とする古泉。

何の変哲もない1日だ。
少々退屈ではあるが俺はこれで良いと思った。

だがそれに賛同しない人間もいる。
もちろんハルヒだ。
ここのところは不機嫌な顔をしていることが多い。

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 05:44:27.02 ID:iscUWgNv0

不機嫌なハルヒといって思い浮かぶのは閉鎖空間だが、最近は発生しているんだろうか?

「たまに、ですね。やはり涼宮さんは退屈がお嫌いなようです」

小声で古泉が教えてくれた。

何だ、退屈なだけで本当に迷惑なやつだな。
もっと楽しめよ、この退屈を。

こんな時間が永遠に続く保障は何処にもないんだぜ?
そうだろ?ハルヒ。

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 05:46:40.37 ID:iscUWgNv0

長門が本を閉じる。
本日のSOS団の活動はこれにて終了だ。

そそくさとハルヒが扉に向かう。
一体何がそんなに不満なんだ。

「あ、そうそう」

ハルヒが思いついたように振りかえる。

「明後日も不思議探索をするから、駅前に9時集合ね」

「キョン!あんた、これ以上皆を待たせるようなことしないでよ!遅れたら罰金だから!」

へいへい。わかってるよハルヒさん。
だがそんなに待つのが嫌なら、お前も集合時間よりも前に来るのをやめたらどうだ?

「それじゃあ、鍵よろしくね」

131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 05:48:35.33 ID:iscUWgNv0

ハルヒが帰った部室に携帯の音が響いた。

「おっと、失礼」

そういって古泉が携帯を開く。

「おやおや、また閉鎖空間が発生してしまったようですね」

またか?一体何が不満だって言うんだハルヒ。
最近はお前も少々成長したなと、まぁ認めてやらんでもなかったような気もするが、
その考えは改めなければなるまいな。

「お前も大変だな」

「これも世界のためですから。それでは言ってまいります」

「ふえぇ、気をつけてくださいね」

部室を出て行く古泉。
その後姿を見ながら、何故か俺はいつかの長門の一言を思い出していた。

『古泉一樹の語ることが全て真実であるとは限らない』

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 05:50:31.18 ID:iscUWgNv0

空は快晴。清清しい天気だ。
こんな日はこの太陽の暖かさを感じながら1日中部屋でごろごろとしていたいものだが、残念ながらそうはいかない。

不思議なことに、今日は自然に早起きすることができた。
どうやら8時半には駅前に着けそうだな。

残念だなハルヒ、いつまでも奢らされてばかりの俺じゃない。
だが、なんだかソワソワするのは何故だろう。

いや違うな。この不思議探索、いつも以上に気合を入れなきゃいけないような気がする。

「キョン君!ぜったい買うの忘れちゃだめだからね!」

そんな妹の声を背中に浴びつつ、俺は家を出た。

気合、ね。
そんなものはハルヒが一人出していれば十分だろう。
むしろそれで有り余るくらいだ。

さて、今日の飲食代を払わされる憐れなターゲットは誰なんだろうか。
出来るなら古泉あたりになって欲しいもんだな。

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 05:52:37.16 ID:iscUWgNv0

駅前に到着して俺は愕然とした。
SOS団のメンバーは既に揃いきっていたのである。

「キョン!なにやってたの!?」

何やってたって、時計を見たか?まだ8時半じゃないか。

「あんたが他の皆を待たせたことに変わりはないわ!罰金!」

やれやれ、一体お前らはいつこの駅に到着したんだ?
抗議など無駄なのはわかってるが。

少しは誰か、俺を哀れんでわざと遅刻をしてくれはしないもんかね。
そんな念を込めて古泉を睨みつけてみたが、笑顔を返されるだけだった。


なんだか今日はあまりいい1日にはならなそうだな。

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 05:55:40.95 ID:iscUWgNv0

喫茶店で各々が飲みたいものを頼む中、ハルヒが喋り始める。
というかハルヒ、なんでアイスフロートなんだ?もっと他に安いメニューがあっただろう。

「細かいことにいちいちと突っ込むんじゃないわよ。そんなんじゃ男として成長できないわよ?」

お前に男の何がわかるというのか。

「さて、今日の班分けをするわよ!みんな、このくじを引きなさい!」

お馴染みの台詞である。

今日は誰と組むことになるのかな。
できる事なら朝比奈さん、あなたと二人きりになりたいものです。

「それでは僕から引かせて頂きましょうか」

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 05:57:26.68 ID:iscUWgNv0

そう言って手を伸ばす古泉。
お前と二人きりという最悪のパターンは避けたいもん…

「ちょ、ちょっと待て!」

「?どうしました?」

「あ、いや」

どうした、と聞かれても一番わかってないのはこの俺だ。
何故か口から出てきた言葉。おかしいな。

「もしかして先に引きたかったんですか?どうぞ」

そう言って微笑む古泉。
いや、そんなつもりは全くなかったんだが…。
まぁいい。くじなんて、引く順番は特に関係ないだろう。

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 05:59:23.56 ID:iscUWgNv0

引いたくじを確認してみる。
…赤色だ。
つまり俺は、この中のメンバーの誰かと二人で不思議探索をすることになるわけだな。

「キョンは赤ね。次、どんどん引いちゃいなさい」

「それでは失礼」スッ

「ふえぇ、これにします!」スッ

「…」スッ

ハルヒが手元に残った1本を握り締め、全員がくじを引き終える。

「さて、みんな何色を引いたの!?ちなみにあたしは無印よ!」

ハルヒが無印の爪楊枝を掲げる。

「…無印」

「わ、私も無印です」

「僕は赤です。どうやら今回の不思議探索はあなたと二人で、ということになりそうですね」

138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 06:04:30.36 ID:iscUWgNv0

なんてことだ。これを最悪と言わずなんと言う。
男、しかも古泉と二人での不思議探索だって?何の楽しみもない。
流石にこれは苦情を言うべきか。だがハルヒがそんなのを聞き入れる筈が…。

「涼宮さん」

「どうしたの?古泉君」

「いえ、流石に男二人で市内散歩というのは少々味気ないかと思いまして」

珍しく古泉がハルヒに抗議をしている。
いいぞ古泉。俺もお前と二人きりはゴメンだ。

「いいじゃない、たまには男同士の友情を深め合うなんていうのも」

「ええ…。まぁ、そうですね」

おい古泉、引き下がるのが早すぎるだろう。
だが仕方ないな。ハルヒに意見してあいつの意思を捻じ曲げることの難しさは、俺が1番良く知っている。

「それじゃあ、お昼にもう1度ここに集合だから。絶対に不思議を発見するのよ!」

「解散!!」

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 06:09:16.17 ID:iscUWgNv0

「古泉、お前はどこか行きたい所でもあるのか?」

念のため聞いてみる。残念ながら俺にはお前と二人で行きたい場所が浮かびそうもない。

「そうですねぇ。あ、ちょっと待っていただいてもよろしいですか?」

「ああ、どうかしたか?」

「いえ、電話を入れなければならない用事があったのを忘れておりまして」

電話と言うと機関への連絡か?
お前もいろいろと大変なんだな。同情くらいはしてやろう。

「それはどうも、では少々お待ちください」

そう言って離れる古泉。
何やら神妙な顔つきだな。

「お待たせしました。さて、お昼までどうしましょうか」

142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 06:19:47.60 ID:iscUWgNv0

「大丈夫だったのか?」

「ええ、大した用事ではなかったので」

やはりハルヒと何かをするときは事前連絡が必要なのかもな。
なんせ、こいつはハルヒを神だと考えているからな。

「かのような力を持つ存在をカテゴライズする上で最も適当な場所が『神』であるというだけであって、
僕自身が彼女を崇拝し、奉っていると言うわけではありません」

俺からしてみれば同じことだ。
ハルヒが神だなんて馬鹿げてる。

「そうだ、忘れるところだった。古泉、実は妹に買い物を頼まれていたんだ。行っても大丈夫か?」

危ない、忘れでもしたら3日はあの妹に睨まれ続けること請け合いだ。

「構いませんよ。ご一緒しましょう」

古泉は相変わらずの笑顔だ。
コイツが大声を出して笑うことなんてあるのだろうか。

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 06:25:35.98 ID:iscUWgNv0

すいません。少々寝かせて頂きます。
スレが残っていれば続きを書かせて頂きます。
お昼には再開出来ると思います。

172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 15:02:00.50 ID:iscUWgNv0

おはようございます。遅くなりました。
夜から仕事があるのであまり時間がないのですが、更新を再開させていただきます。
保守ありがとうございました。

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 15:07:24.78 ID:iscUWgNv0

さて、買い物を済ました俺たちは何かすることがあるわけでもなく、結局最初の喫茶店に戻って3人の帰りを待つこととなった。

「妹さん、どうしてそんなものを欲しがったりしているんです?」

「あいつの部屋の整理整頓があまりにも出来てないんで、俺が怒ったことがあってな」

「ほう、あなたもお兄さんらしいことをしているんですね」

何だと。俺のような人間を捕まえてお兄さんらしいとは。
俺以上に面倒見のいい人間、探して見つける方が大変だと思うがね。

「で、それならこれを買って来いと言われたわけだ」

「いいですねぇ。僕も兄弟などが欲しかったですよ」

古泉、それは兄弟がいないからこそ言える台詞だぞ。
実際の兄弟というのはそこまでいいもんじゃないからな。

175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 15:13:42.73 ID:iscUWgNv0

喫茶店で俺たちは他愛もない会話をしていた。

こんなことは部室でだって十分出来る。
団長様に奢りをさせられた事を考えれば、来ない方がマシだったかもな。

「涼宮さんたち、遅いですね」

そう言って古泉が時計に目をやる。

そういえば遅い。
集合時間はもう過ぎた。

「ハルヒめ。俺が遅れれば鬼の首を取ったように攻め立てるくせに…」

つい不満が口に出る。
何をしてるんだあいつは。

「大方、買い物に夢中になってるんじゃないでしょうか?女性は買い物を始めると長いですから」

「僕たちはもう少し、こちらで待たせて頂きましょう」

そんなことを話しながら、古泉が笑った。

176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 15:16:37.59 ID:iscUWgNv0

ふと、何かが頭に浮かぶ。

「っつ…」

「どうしました?」

頭痛がする。

「ぅあ…」

「だ、大丈夫ですか!?」

慌てて俺に近付く古泉。
顔が近いと追い払う気力も湧かない。

「う…う…」

フラッシュのようにコマ送りで点滅する光景。
車が人間を撥ねる瞬間だ。

まるで人形のように宙に舞う髪の長い女性がいた。
何だこれは?

177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 15:21:35.96 ID:iscUWgNv0

「仕方ありません。只今救急車を!」

「いや、待て古泉」

携帯を取り出そうとした古泉を慌てて止める。

「もう大丈夫だ」

自分でも汗だらけなのがわかる。

「本当ですか?頭を押さえていたようですし、念のため…」

「大丈夫だと言ってるだろ!」

古泉が目を丸くして俺を見つめる。
いや、そんなことはどうでも良いんだ。

俺は慌てて携帯を取り出した。
ハルヒに連絡を取らなきゃいけない気がした。

179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 15:26:44.27 ID:iscUWgNv0

「どうされたのです?」

俺は答えなかった。電話の向こうに全神経を集中する。

ハルヒが出たとして何を喋る?
いや、何を喋るでも構わない。
とにかく電話をかけるんだ!

prrrrrrr

prrrrrrr

『只今おかけになった電話番号は電源が入っていないか…』

繋がらない。もう1度だ。

prrrrrrr

prrrrrrr

『只今おかけになった電話番号は電源が入っていないか…』

やっぱりか。
なんで繋がらない!?

181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 15:31:20.93 ID:iscUWgNv0

「くそっ!」

携帯をテーブルに叩きつける。

「そんなに目くじらを立てなくても、直に帰ってきますよ」

違うんだよ古泉。
俺が考えてるのは全く違うことなんだ。

「何をそんなに慌てているんです?」

「嫌な予感がしたんだよ」

「嫌な予感とは?」

口に出したら本当にそうなってしまいそうで恐かった。
だが言わない訳にも行くまい。

「ハルヒたちが事故に遭ってるんじゃないかって、そんな気がしたんだ」

182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 15:37:03.26 ID:iscUWgNv0

驚いた顔をする古泉。
当然だ。突然こんなことを言われたら俺も驚く。

「事故、ですか」

「そうだ、車に撥ねられるような大きな事故だ」

すぐに古泉の顔から驚きの色は消えた。
そしていつも通りの笑みを浮かべて言う。

「ご心配なさらずとも大丈夫ですよ」

そうか。そうだよな。
そんな簡単に人が死ぬわけない。

「ごっめーん!遅くなっちゃった!」

「す、すいません!」

「…」

心配は不要だった。
ハルヒたちはその後すぐに帰ってきた。

「ね?言ったとおりでしょう?」

183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 15:41:43.27 ID:iscUWgNv0

俺は一体何を心配してたんだ。

「何で遅れたんだ?」

「買い物してたらつい時間が過ぎちゃって」

「電話もしたんだぞ」

「昨日充電をし忘れて、電池が切れそうだから節電してたのよ!」

なるほど、電源を切ってたわけだ。
怒ってやろうかとも思ったが、それ以上に安堵感の方が大きく何も言えなかった。
ん?朝比奈さんは随分と大きな物を買ってきたみたいだな。

「えへへ、新しい急須とお茶のセットです」

なんとありがたい。是非1番にそのお茶を飲みたいものだ。





さて、昼食も終わり、これから午後の班分けを行う。

「さぁ、このくじを引くのよ!」

そう言ってハルヒが爪楊枝の束を取り出す。
今回は残った物で良いだろう。

184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 15:46:30.88 ID:iscUWgNv0

「今回の班はこれで決定ね。ここで解散して、4時に駅前に集合。必ず不思議を見つけること!」

そう言って喫茶店を出て行くハルヒ。
おいおい、ここの会計は誰がするんだ?

「あんたよ、朝遅れて来たんだから」

何を言う。お前だってさっき遅れて来たじゃないか。
流石に不公平すぎる。

「落ち着いて下さい。今回は僕も代金をお支払いしますから」

結局、俺たちは二人でこの店の昼食代を支払う事となった。
なんだ古泉、お前にもいいところがあるじゃないか。

186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 16:01:44.45 ID:iscUWgNv0

「準備は良いわね!解散!」

午後の不思議探索が始まった。
長門、朝比奈さんの二人に別れを告げ、俺は自分の運の無さを呪った。

午後の班は長門、朝比奈さんの2人と、俺、古泉、ハルヒの3人。
この時点で相当疲れることになるのはわかりきってる。

「さぁ〜て。キョン、古泉君!行くわよ」

鼻歌を歌いだすハルヒ。
その後を追うように歩き出す俺と古泉。

「さっきまで電話で何か話してたみたいだが何かあったのか?」

喫茶店での出来事が気になり尋ねてみた。
いや、実際そこまで気になっちゃいないんだがな。

「大した用事ではありません。ご心配なく」

何だろう。このときの古泉の笑顔はいつもと何かが違う気がした。
気のせいだろうが。

187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 16:07:55.60 ID:iscUWgNv0

「涼宮さん、不思議なことかどうかはわからないのですが、面白い話を聞いたことがあるんです」

暫く歩いていると、古泉が何やら話し出した。

「なになに!?」

ハルヒの目が輝く。
なんだか面倒な事が起こる気がするぜ。

「3地蔵、とはご存知でしょうか?」

「知らないわ。それがどうかしたの?」

「ええ、実はこの駅から北、南、東から少々歩いた3箇所に3体の地蔵が祭られているらしいのです」

3地蔵?そんなものあったか?

「その3地蔵、3体の頭を同じタイミングで撫でる事で何かおかしな現象が起きるらしいのですよ」

「それ、本当!?」

出た。ハルヒの極上スマイルだ。
こうなればもうハルヒは止まらない。
胡散臭い話だとは思うが、付き合わなきゃダメなんだろうな。

190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 16:12:21.87 ID:iscUWgNv0

そうと決まればハルヒの行動は早い。
俺たちは3人はバラバラに別れて、その地蔵を見つけ出すことになった。

「地蔵を見つけたら連絡を入れること!3人とも見つけたら一斉に頭を撫でるわよ!
キョン、あんたもまじめに探しなさいよ!?わかった!?」

「へいへい」

なんで古泉はこんなおかしな話を持ってきたんだ。
まぁ、あんなに退屈で不満そうだったハルヒが嬉しそうに笑ってるのは良い事なのかもしれんが。

おっと、もちろんこれは世界の平和が保たれる、と言う意味での発言だ。
他に意味はない。決して勘繰らないように頼むぜ。

191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 16:16:25.29 ID:iscUWgNv0

俺は南方向の担当となり、一人地蔵を探して歩き出した。

このまま長門と朝比奈さんに合流してしまおうか。
いやしかし、長門と朝比奈さんは二人で何をやっているんだろう?
考えて見ると想像がつかない。

それにしても荷物がうっとおしいな。
妹に頼まれた買い物。
午前中に買ったのは失敗だった。

『本の仕切り板でも使って、この漫画を綺麗に整頓しなさい!』

『じゃあキョン君がその仕切り板を買ってきてよ!』

そう言って買わされるハメになったこの仕切り板。
でもまぁ、これで妹の本棚も少しは片付くだろう。


…ん?本棚?

192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 16:20:41.84 ID:iscUWgNv0

『裏切り者!!』

何だ?また頭痛がしてきた。

『あんたが代わりに轢かれちゃえば良かったのよ!!』

あまりの痛みに俺はその場で蹲ってしまった。

部室で取っ組み合いの喧嘩を始める俺とハルヒ。
知らない記憶だ。

「う…」

割れそうな痛みを放つ頭を抱えてよれよれと立ち上がる。
なんだこれは。

突然本棚が倒れ、ハルヒがその下敷きになる。

『うわああああああああ!!!』

俺が逃げ出す。
何をやってるんだよ?
よく見ろ、ハルヒはまだ動いてる!

『こんな世界、間違ってる』

確かにそう呟いてハルヒは動かなくなった。

193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 16:24:29.86 ID:iscUWgNv0

頭の中のフラッシュが止まない。

今度はどこだ?長門の家か?

そこには俺、倒れた長門、そして不気味に微笑む古泉の姿があった。

何があったんだ?
古泉、その顔はどうしたんだ?

『それでも僕が選んだのは勝つための賭け、です』

俺の背後には荒川さん。ナイフを突きつけている。

『賭けには勝ちました。我々は解放されたんです』

暗転。
どっと汗が噴出す。
動悸が止まらない。

俺の中で何かが弾けた様な気がした。
古泉だ。古泉を見つけないと…!!

197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 16:27:27.92 ID:iscUWgNv0

「どうも、僕です。古泉一樹です」

僕は電話を握り締める。

『古泉か。どうだった?』

電話の向こうには荒川さん。今回の作戦の成功は、僕と彼に掛かっているといって過言ではない。

「成功ですよ。涼宮さんは単独行動を始めました」

『そうか、良くやった』

この作戦には涼宮さんが単独行動。いや、長門さんと行動を共にしないことが必要不可欠だった。

「予定通り彼女は駅の北側に向かいました。あちらは人通りも少ないのでチャンスは直ぐやってくるでしょう」

『了解。任せておけ』

電話を切る。もう直ぐだ。もう直ぐ僕はこの地獄から解放される。

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/12(土) 16:31:11.54 ID:iscUWgNv0

荒川さんの乗るワゴンが涼宮さんを発見するのは時間の問題だろう。

そして見つけてしまえば最期。涼宮さんは命を落とすことになる。

それで終わり。閉鎖空間は起こらなくなり、僕らの力も消失する。

目標を失った彼女たちの慌てふためく姿を見るのもさぞかし愉快だろう。

もちろん、彼の顔もチェックしておきたい。

ダメだ。笑いが止まらない。

「あは、あはは」

「あははははははははは!!!!」

「…古泉?」

262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 01:31:37.17 ID:4MC+Uqbp0

俺には信じられなかった。
目の前で電話をしていた古泉が大声で笑い出したからだ。

さっきから頭に浮かぶ光景とダブる。
どうなってる?

「おや、あなたは…」

古泉が振り返る。

「どうしてここに?」

寒気がする。それほどに不気味な笑顔だった。

「何となくだ。お前…」

「変な所を見られてしまいましたね…」

古泉の表情が普段通りに戻る。
でも古泉、今さら消えやしない。

「ハルヒを殺すつもりなのか?古泉」

263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 01:35:46.25 ID:4MC+Uqbp0

古泉の顔が歪む。

「な、何をおっしゃっているんでしょうか?」

外れていて欲しい。
そう考えながら俺は、さっきまで頭に浮かんでいた記憶を元に話を続けた。

古泉がハルヒを殺す。
ありえない話だと思ってた。

だが、話を進めるごとに歪みを増す古泉の顔が、それを真実だと告げる。

何でだよ?

「ふ…ふふふ」

「あはははは、流石、ですねぇ」

嘘だと言ってくれ、古泉。

266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 01:40:01.74 ID:4MC+Uqbp0

「どこでばれてしまったのでしょうか?不思議なものです」

そう言って古泉がゆっくりと歩み寄ってくる。
その迫力に圧されて、俺は後ずさった。

「なぁ古泉、今からでも止める事は出来ないのか?」

頼むよ、古泉。

「俺たち、SOS団のメンバーだろ!?」

頼む、止めてくれ。

「あなたにそこまで言われては仕方ありませんね」

良かった、わかってくれたか。

「…なんて、言うと思いました?」

「無駄ですよ。こうしている間にも、涼宮さんの死期は刻一刻と迫っています」

268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 01:44:46.53 ID:4MC+Uqbp0

そうだ、ハルヒだ。
この事実を知ってるのは俺だけ。つまり、ハルヒを助けられるのは俺だけなんだ。

「ぐっ!!」

近付く古泉を殴り飛ばすと、慌てて俺は電話を取った。

prrrrrrr

prrrrrrr

『只今おかけになった電話番号は電源が入っていないか…』

何でだよハルヒ。
何で電源が入ってない?

「っふ、やってくれますねぇ…」

古泉が起き上がる。
今はコイツに構ってる暇なんてない。

269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 01:49:28.70 ID:4MC+Uqbp0

俺は駅の北側に向かって走り出した。

「無駄ですよ」

古泉の声が聞こえた気がしたが、知ったことか。
お前には後でもっとキツイ1発をお見舞いしてやるからな。


「はぁ、はぁ、はぁ」

必死で駆け回る。
こんなに走ったのはいつ振りだろうか。

「ハルヒ!!どこだ!!」

頼む、無事でいてくれ。
俺はもうお前が死ぬところなんて見たくないんだ。

「ハルヒ、いたら返事をしろ!!」

272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 01:54:01.77 ID:4MC+Uqbp0

何処にいるんだよハルヒ。
こんなにお前に会いたいと思う日が来るなんて、想像もしなかったぞ。

「ハルヒ!!」

ダメだ。どうすりゃいい。
その時、俺に一つの案が浮かんだ。

困ったときはどうすればいいか?

長門だ。こんな時に頼れるのはアイツしかいない。

「頼むぞ、出てくれよ…!?」

俺は長門に電話をかけた。

274 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 02:00:04.27 ID:4MC+Uqbp0

長門はすぐに駆けつけてくれた。

「朝比奈さんは?」

「図書館で寝ている」

なるほどな。その方が都合がいいのかもしれん。
急いで俺は長門に事情を説明する。

「なぁ長門、俺に流れてきたこの記憶はなんだったんだ!?」

「おそらく別世界での記憶」

長門が答える。

「涼宮ハルヒの願いにより別の世界が新しく構築された。あなたが見たのは前回のあなたが見た世界」

難しい話はよくわからんが、つまりは1度死んじまったハルヒが望んで作ったのがこの世界ってことらしい。
それならなお更、ハルヒを死なせるわけにはいかない。

278 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 02:05:27.07 ID:4MC+Uqbp0

「長門、前に未来と記憶を共有した時みたいに、別世界と記憶を共有することは出来ないのか?」

「どうして」

長門が尋ねる。

「そうすればもっとスムーズにハルヒを助けられるかもしれないじゃないか!」

そうだ、俺が古泉の陰謀に気づけたのも別世界の記憶が俺に流れ込んで来たからに他ならない。

「やってみる」

長門が呪文のような言葉を呟き始めた。
暫しの静寂が訪れる。

「…失敗した」

そうか、それなら仕方が無い。

「涼宮ハルヒの居場所を見つけ出すことは可能。情報統合思念体にアクセスして居場所を特定できる」

その言葉に俺の心は躍った。流石は長門だ。
見てろよ古泉。お前の思い通りにはさせない。

280 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 02:10:01.49 ID:4MC+Uqbp0

「こっち」

俺は長門の指示に従って走り続けた。
大丈夫、まだ間に合う。あのハルヒが簡単にくたばっちまうわけが無い。

「あそこ」

ついに見つけた。通りの反対側。
ハルヒだ。
でかしたぞ長門。俺たちは間に合ったんだ。

「ハルヒ!!」

ハルヒもこっちに気づく。

「キョン!?あんた何やってるのよ!?地蔵は見つけたの!?」

まだそんな話をしていたのかハルヒ。
そいつは古泉の作った架空の不思議なんだよ。

俺は安堵したが、それは一瞬だった。
ハルヒの背後にスピードを上げて走って来るワゴンが見えたからだ。

282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 02:14:51.42 ID:4MC+Uqbp0

「いいからさっさと地蔵を探しなさいよ!」

ハルヒは気づいてない。
馬鹿野郎、そんな場合じゃないんだよ!

「危ない!!」

気つけば俺は駆け出していた。
ハルヒを失うなんて絶対に嫌だ。

スピードを上げるワゴン。

その音に振り返るハルヒ。

必死に駆け寄る俺。

「ハルヒ!!!!」

284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 02:18:09.59 ID:4MC+Uqbp0

ワゴンは走り去っていた。

全身に痛みが走る。
どうやら地面に体を強打したらしい。

「いたた…」

俺の腕の中で頭を抱えるハルヒ。

…助かった。

「あの車何考えてるの!?危ないったりゃありゃしないわ!!」

ハルヒは痛くご立腹だ。
それでもいい。不機嫌でも構わない。
ハルヒは死ななかったんだ。

「良かった…」

「ち、ちょっとキョン、あんた何泣いてるのよ!?」

涙が溢れ出した。
理由なんてどうでもいい。ただ嬉しかったんだ。

286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 02:22:09.33 ID:4MC+Uqbp0

「古泉です。どうやら失敗したようですね」

荒川さんから告げられたその一言を機関に伝える。
物事は何でも上手くいくようには出来てないらしい。

『そうか。荒川め、自分から名乗りを上げたというのに何と言うザマだ』

「…非常に残念です」

『まぁいい。もともと我々は君たちのやり方を確実な物だとは考えていなかった』

頭にくるものがあったが確かにそうだったのかもしれない。
僕たちが殺めようとしている相手は神なんだ。

『プランBに移行する。古泉、本部に帰還しなさい』

「…わかりました」

電話を切る。面白くない。
荒川さん。あなたの口から失敗などと言う言葉は聞きたくなかった。

289 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 02:26:34.43 ID:4MC+Uqbp0

「あんた、足を擦り剥いてるじゃない」

指摘されるまで気づかなかった。
今の俺の頭はアドレナリンで満たされているらしい。

「あたしの事、助けてくれたとき…?」

心配そうな顔で俺を見るハルヒ。
この顔を拝めただけでも、助けた甲斐はあったのかもしれないな。

「長門、古泉はどこにいる?」

あとはアイツだ。
今の俺にはハルヒも長門もいる。
絶対に目を覚まさせてやるよ。

「アクセス完了。こっち」

290 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 02:31:29.82 ID:4MC+Uqbp0

長門の指示によって俺たちは歩き出す。

「ねぇキョン、さっき有希が言ってたアクセスって何?」

そうか、お前は知らないんだよな。
これが終わったら教えてやろう。お前には知る必要があると思うんだ。

「そういえば、言いそびれてたわ」

思いついたようにハルヒが言う。

「何をだ?」

「…お、お礼よ!」

なんだハルヒ、そんなことを考えていたのか。
ハルヒが俺に向かって礼を言う日が来るなんて思いもしなかった。

「い、一回しか言わないからね?」

ハルヒの頬が染まる。

「あ、ありが…」

ドシャアアッッッ!!!


一瞬だった。
ハルヒの立っていた筈の場所を1台のワゴンが通過した。

293 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 02:35:17.16 ID:4MC+Uqbp0

「…は?」

ワゴンは向かいの電柱に激突して止まった。

「ハルヒ…?」

何が起こったんだ?
一瞬過ぎてよくわからなかったぜ。

「な、なぁハルヒ。良く聞こえなかったんだ。もう一回言ってくれ」

ハルヒは地面に倒れたまま動かない。

「なんて言おうとしたんだ?」

動かない。

「なぁ…」

動かない。

「ハルヒ!!!!」

295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 02:40:11.45 ID:4MC+Uqbp0

前を歩いていた長門が戻ってきた。

「な、長門!!ハルヒが、ハルヒが!!!」

パニックになるっていうのはこういう事なんだろう。
俺は何度もハルヒの名前を叫び続けていた。

「落ち着いて。蘇生を試みる」

長門が呪文を唱えだす。
頼む。助かってくれ。
この後どんな罵声を浴びせてきたって構わない。
なんなら一生お前の雑用係をやってやるから。

ガチャ…

ハルヒを轢いて電柱にぶつかった車の扉が開く。

「く…う…」

その人物の名前を俺は知っていた。
新川さんだ。

297 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 02:45:02.13 ID:4MC+Uqbp0

「新川さん!?」

体が勝手に新川さんの方に向かう。

「なんで、なんでハルヒを!?」

傷だらけの新川さんの胸倉を掴んで叫んだ。
新川さんは不気味な笑みを浮かべている。

「…今度こそ。今度こそ成功したんだ…」

成功だと?ハルヒを轢いたことがか?

「自由…私たちは自由に…」

拳に力が入る。
だが、その時だった。

298 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 02:51:56.50 ID:4MC+Uqbp0

「ぐ…うう…」

新川さんの表情が崩れる。
笑みを浮かべていた筈の顔が見る見る苦悶の表情に変わってゆく。

「あ…あ…」

掴んでいる胸倉越しに新川さんが震えているのがわかる。
顔も、どんどん紫色に変色していく。

「あ、荒川さん…?」

「ぶはぁっ!!」

吐血だ。俺の顔面にもろにぶちまけられた。

何だこれは…?

「新川さん、一体何を…」

声をかけてわかった。
もう死んでる。

300 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 02:56:56.00 ID:4MC+Uqbp0

「う…うわっ…」

掴んでいた手を離すと、そのまま新川さんは地面に倒れこんだ。

「な、なんだよこれ…?」

全身に寒気が走る。その時だった。

事故の音に集まってきていた野次馬たちも、皆一斉に口から血を吹いて倒れだしたのだ。
皆顔を紫に染め、ガクガクと痙攣をしている。

何が起こったんだ…?

「な…長門!」

ハルヒの前にしゃがみこんでいる長門に声をかける。
良かった、無事だ。

「なぁ長門、これは何なんだ!?」

長門が首を横に振る。
地獄絵図、という言葉がふさわしい。辺りが血で染まってゆく。

まさか古泉、お前か?

302 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 03:02:25.98 ID:4MC+Uqbp0

「長門!ハルヒは!?」

「時間がかかる」

時間がかかるってことは、かければ大丈夫ってことなのか?
頼む、助けてくれよ。

「そうだ。古泉は?あいつは何処にいるんだ!?」

この元凶が古泉だって言うなら止めなくちゃならない。
俺はアイツと同じ、SOS団のメンバーだからな。

「場所を説明する」

ありがとな、長門。
古泉の馬鹿は俺が必ず止めてやる。

304 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 03:06:24.99 ID:4MC+Uqbp0

走っている最中もあちこちで悲鳴が聞こえて来た。
さっきまで賑わっていた筈の町には、死体が散乱している。

何が起こったんだ?

なんで皆次々と死んでいく?

俺や長門はなぜ無事なんだ?

疑問は山ほどあるがこれは後回しだな。
最優先でやらなきゃいけないことがある。

「ここだな!」

俺は市内の小さな公園に到着した。
長門が言うとおり、そこに古泉がいた。

306 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 03:11:46.90 ID:4MC+Uqbp0

ブランコにもたれかかる古泉。

「おい、古泉」

全身に力が入る。
そうだ、まず最初にぶん殴ってやろう。
話はその後でいい。

「聞いてるのか、古泉」

古泉の胸倉に掴みかかる。
ヌルッとした感触がした。

「!?」

それは血だった。古泉は紫色の顔をして、大量の血を吐いて動かなくなっていた。

死んでる。

308 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 03:16:48.47 ID:4MC+Uqbp0

「ど、どうなってる…?」

古泉が死んでいる。
その事実が俺の気を動転させた。

「古泉…?」

古泉は何も答えない。
お前がやったんじゃないのか?
何もわからないまま、これでお終いなのか?
次は誰だ。俺も死んじまうんだろうな。

「大丈夫」

背後から声がする。

「あなたは死なない」

長門だった。

309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 03:19:46.99 ID:4MC+Uqbp0

「な、長門!古泉が死んじまった!!」

「そう」

長門は冷たく答える。

「そうだ、ハルヒは!?アイツはどうなったんだ!?」

「蘇生は失敗」

世界が灰色になった気がした。

「嘘…だろ?」

俺はまたハルヒを助けることが出来なかったんだ。
涙が頬を伝う。

「今この町に起こっている突然死の原因は伝染性の微小生命体」

何を言ってるかさっぱりだ。
いや、どんな話であっても、もう興味が無い。

「私が作った」

313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 03:22:04.89 ID:4MC+Uqbp0

「…え?」

「空気を媒介に人体間を移動。対象を死に至らしめる」

待てよ長門、この地獄絵図を描いたのがお前だって?

「すぐに世界中の人間が感染する」

「ふ、ふざけるな!」

長門に掴みかかる。
何を考えてる!?お前は世界を滅ぼすつもりか!?

「殺すの?」

そう言って長門が笑う。

「でも今回、私は涼宮ハルヒの死には関わっていない」

どこかで見た笑顔だった。

「最後に残るのは私とあなただけ」

「だから、私を頼って」

315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 03:25:27.32 ID:4MC+Uqbp0

全身の力が抜けていく。
気づいちまった。


『長門、前に未来と記憶を共有した時みたいに、別世界と記憶を共有することは出来ないのか?』

『…失敗した』


嘘だ。失敗なんてしてなかった。
あの時長門は、別世界の長門とリンクしてしまったんだ。

「ずっと、一緒」

長門が優しく俺に抱きつく。

317 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 03:29:20.88 ID:4MC+Uqbp0

体が動かない。
今さら何をしたって、もうどうしようもない。
今わかるのは1つだけだ。


『世界滅亡の引き金を引いたのは他でもない俺』


それだけ考えて俺は目を瞑った。



おしまい

329 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 03:57:14.86 ID:4MC+Uqbp0

見て頂けた方々、こんな遅い時間までありがとうございました。
続編なんですが、まだほとんど書き溜めが出来ていない状況なので
明日の夕方〜夜ごろになってしまうと思います。

383 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 17:17:07.83 ID:4MC+Uqbp0

電話が鳴る。
招集だ。

「こんな時間に…」

時計を確認する。
深夜三時。

家の外に車の止まる音がした。

「古泉、早く仕度をなさい。閉鎖空間よ」

森さんの声がする。
急いで僕は外に出た。

385 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 17:21:10.82 ID:4MC+Uqbp0

「場所は?」

ジャケットを羽織ながら、森さんに尋ねる。

「ここから30分、といったところね」

森さんは僕に強壮ドリンクを差し出して言う。

「さっさと眠気を覚ますのよ」

それを受け取り、礼を言う。

「いいのよ。さぁ新川、飛ばして」

車は夜の街を走り出した。

387 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 17:23:35.49 ID:4MC+Uqbp0

車内で森さんから貰った強壮ドリンクを飲みながら考える。
何故閉鎖空間が生まれたのか。

「夢、だろうな」

答えてくれたのは新川さんだった。

「あらかた、恐い夢でも見ているんだろう」

夢、か。
一体涼宮さんはどんな夢を見ているのだろう。
少し、興味が湧くな。

「古泉、女の子が見る夢に興味を持っちゃダメよ」

森さんに怒られた。

388 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 17:26:32.66 ID:4MC+Uqbp0

現場に到着した僕たちは急いで閉鎖空間に入り込んだ。
灰色の世界が広がる。

すでに神人が登場し、破壊活動を行っている所だった。
それを狩ろうとするべく、幾つもの赤い閃光が宙を舞う。

「私たちも参加しよう」

「古泉、眠気が覚めてないのならムリはしないことね」

「森さん、それはあなたもですよ」

「…生意気」

おでこを小突かれた。

早くあの神人を倒そう。
早く眠りに就くために。

389 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 17:30:15.21 ID:4MC+Uqbp0

空が割れ、閉鎖空間が消滅する。
いつ見てもこの瞬間は凄まじい。

「古泉君、お疲れ」

多丸さんに声をかけられた。

「お疲れ様です。弟さんは?」

「今もまだ意識が戻らなくてね。今日は自宅で待機だ」

多丸さんの弟は先日発生した閉鎖空間で神人の攻撃を受けて意識を失った。
必死に弟の名を呼ぶ多丸さんの姿は未だに脳裏に焼きついたままだ。

「君も気をつけるんだよ。それじゃあ」

時計を確認する。なんだ、もう6時じゃないか。

390 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 17:33:36.68 ID:4MC+Uqbp0

「眠ってしまって構わないのよ古泉」

帰りの車の中で森さんが言う。

「明日も1日学校があるんでしょう?」

「そうですね。放課後のSOS団の活動も休むわけにはいきませんし、少々休ませてい頂きます」

直後からの記憶はない。
すぐに眠ってしまったんだろう。

「古泉、起きて」

森さんに起こされた。
時刻は7時。もう学校へ向かう仕度をしなくては…。

「ありがとうございました。お二人とも、道中お気をつけて」

そう二人に告げて、僕は家に入った。

392 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 17:36:50.84 ID:4MC+Uqbp0

それは突然だった。

血まみれの床。

倒れたまま動かない涼宮さん。

僕の手に握られたナイフ。

訳がわからなかった。

いや、ここから推察できるのは1つ。
僕が涼宮さんを刺し殺してしまったらしい。

「うわあああああああああ!!!」

跳ね起きる。

汗をぐっしょりとかいていた。

…夢?

どうやら僕は学校に行こうとしていた筈なのに寝てしまったようだ。
慌てて時計を見る。

あれ、7時?

おかしいと思ったがその疑問はすぐに解決した。
空が暗くなっていたからだ。

393 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 17:41:07.20 ID:4MC+Uqbp0

同時に携帯が鳴る。

「古泉、閉鎖空間よ!仕度なさい!!」

外から森さんの声。
急いで出発の準備をする。

「場所はここから20分、行くわよ!」

僕を乗せ、新川さんの車が目的地に向かって走り出した。
閉鎖空間か。今度は一体何が原因だったのだろう。

395 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 17:46:11.41 ID:4MC+Uqbp0

車内で何気なく携帯を見る。
そういえばメールが来ていたな。

to古泉
fromキョン
本文:なんで今日は団活を無断欠席したんだ?ハルヒが怒ってたぞ。

しまった。そういうことか。

「古泉、どうかした?」

青ざめた僕に気づいた森さんが聞いてきた。
何も答えられず、森さんに携帯を渡す。

無言でメールを確認する森さん。

「…古泉。あなたも疲れていたのよ。気にする必要はないからね」

救われた気がした。

397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 18:00:24.98 ID:4MC+Uqbp0

その後僕たちは閉鎖空間に侵入、神人と戦った。
今回も神人を倒し、世界の終焉を防いだ。

だが無事に、とはいかなかった。

「痛えええええ!!痛えええよおぉぉぉ!!!」

負傷者が出たからだ。
彼の足はおかしな方向に捻じ曲がっている。

「ちくしょう!今回は何故閉鎖空間が起こったって言うんだ!?」

心臓が早まる。
言葉が出ない。

その時、新川さんや森さんと目が合った。
「気にするな」そう言ってくれているようだった。

398 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 18:03:31.66 ID:4MC+Uqbp0

「…疲れてるのか?」

僕とオセロで勝負をする彼が尋ねてきた。
局面は終盤、陣地は五分といった所。

「いえ、大丈夫ですよ」

昨日の無断欠勤は風邪ということで説明した。
それはそうと連絡は入れること、と涼宮さんには怒られてしまった。

朝比奈さんはお茶を汲み、長門さんは本を読んでいるいつも通りの光景。
涼宮さんは退屈そうに外を眺めていた。

「涼宮さん、退屈そうですね」

そんな話題を彼に振ってみる。

「そうだな」

興味なさ気に彼が答えた。

399 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 18:07:28.17 ID:4MC+Uqbp0

「古泉、疑問があったんだが…」

「なんでしょう?」

「ハルヒはあんなに不思議を熱望しているのに、どうしてそこまで不思議が起こらないんだ?」

「それは彼女がああ見えて実は理性的な人間だからです」

いつかも話したことのある内容。しかし、彼はまだ府に落ちなそうな顔をしている。

「それでは、あなたは不思議がたくさん起こる世界をお望みなんでしょうか?」

そう言って微笑みかけてみた。
そんな訳ないだろう、と彼が慌てた反応をする。
この反応はいつ見ても面白い。

だが、気がつくと盤面は真っ白になっていた。
得意げに彼が笑う。

「俺の勝ちだな」

401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 18:11:54.34 ID:4MC+Uqbp0

その後も何事もない、平和な毎日が続いた。
だが、それは涼宮さんたちの周りだけの事であり、
僕ら機関の人間は連日、退屈に不満をもった涼宮さんの作る閉鎖空間の処理に追われていた。

皆、目に見えて疲弊していた。

「古泉、行くわよ」

この日も閉鎖空間が発生。
いつもと同じだ。神人を狩って、それで終わり。

その筈だったが、今日は違った。

402 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 18:15:15.76 ID:4MC+Uqbp0

いつものように僕が神人の腕を落としにいく。
彼らの攻撃手段となり得るその腕、これをまず奪うのが神人狩りのセオリーだ。

隙を見つけて突撃する。
貰った。

だが、それを予期していたかのように神人はその身をひらりとかわした。

「な…!?」

神人の拳が僕に襲いいかかる。

「古泉、危ない!!!」

森さんだ。彼女が僕を突き飛ばし、僕はその攻撃を受けずに済んだ。


しかし、変わりに森さんにその巨大な拳が振り下ろされた。

ズズーゥゥ・・・ン!!!

404 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 18:18:39.43 ID:4MC+Uqbp0

「も…森さん!!!」

森さんは神人の足元に横たわっていた。
危険な場所だが関係ない。僕が助けなければ。

「私がヤツを引き付けよう!」

新川さんだ。
彼が神人の目を引いてくれている間に、何とか僕は森さんを拾い上げることが出来た。

「森さん!しっかりしてください!!」

やがて神人は倒され、この閉鎖空間も終わりを迎えた。

「森さん、返事を!!森さん!!」

406 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 18:22:43.70 ID:4MC+Uqbp0

返事はなかった。
だんだんと温度を失っていく体。

「森さん…?」

どうしたんですか。
あなたのような人が死ぬはずがない。

「古泉!」

新川さんが駆けつけてきた。
森さんの脈を取る。

「死んでいる」

そんな…

「うわあああああ!!!」

僕は人目もはばからず泣いた。

408 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 18:26:26.83 ID:4MC+Uqbp0

涙が止まらなかった。

何で森さんが死ななければならない?

おかしい。

おかしすぎる。

森さんは何も悪い事なんてしてない。

悪くないんだ。

湧き上がる怒り。

何処にぶつければいい。


「古泉君、新川」

後ろから声がした。多丸さんだ。

「緊急招集だよ。本部に集まってくれ」

410 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 18:31:08.72 ID:4MC+Uqbp0

鶴屋家所有のビルのとある階。
僕たちはそこに集合した。

「よく集まってくれた」

司会進行を務める男が話を始める。

「まず初めに…悪いお知らせがある」

「本日、先の神人戦で森君が命を落とした。非常に優秀で聡明な女性だった。皆、黙祷しよう」

その場が静まり返る。

「もう1つ。先日負傷した多丸君の弟が意識を取り戻した」

おお、という歓声が上がった。

「…が、彼は記憶を失っていた。戦線復帰は望めない」

多丸さんは俯いていた。
涙を流しているのがここからでもわかった。

411 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 18:35:00.45 ID:4MC+Uqbp0

「このところ連発している閉鎖空間。この原因を皆さんご存知かな?」

皆がざわめき出す。

「退屈。涼宮ハルヒの退屈だ」

その時だった。
僕の中が、何か真っ黒なもので満たされていくのを感じた。

「わかるな諸君。我々は一人の少女の退屈で大切な仲間を失った」

そう、その通りだ。

「彼女は暇つぶしに我々の仲間の命を奪ったのだよ」

そうだ。
そうなんだ。
もうこの感情を否定するなんてできやしない。

許せない。

許せない。

許せない。
許せない。
許せない。

417 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 19:00:15.25 ID:4MC+Uqbp0

「神の気まぐれで閉鎖空間の処理に追われる毎日。うんざりだとは思わないか?」

「我々にも権利がある。自由を勝ち取る、な」


「…そこで提案したい」




「神、涼宮ハルヒを抹殺する」

意義を唱えるものなどいなかった。

418 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 19:03:36.90 ID:4MC+Uqbp0

「殺すのはわかった。だがどうやって?」

機関の人間の一人が尋ねた。

「涼宮ハルヒを警戒させることなく最も合理的に殺害するならば、彼女に最も近しい人間を使うべきだろう」

そう言ったのは多丸さんだ。
近しい人間?誰だ?
だがその目は僕を見つめているようだった。

…僕が?

「失礼」

新川さんが手を挙げる。

「私に案がある。私にやらせてはくれないか?」

420 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 19:07:34.38 ID:4MC+Uqbp0

「案だと?」

「そう。これには古泉の協力が不可欠だが、必ず少女を抹殺できるだろう」

そう言って。僕に目配せをする。

「説明してみろ、新川」

新川さんがその内容を説明する。
涼宮さんを一人にして、その隙に車で轢き殺す。
世界改変の機会を与えぬよう、一瞬でだ。

理解した。あなたは僕を庇おうとしてくれているんですね。
僕の手を汚さないために。

「よかろう。失敗しても我々のリスクは少ないと見える」

決まった。

421 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 19:10:35.57 ID:4MC+Uqbp0

後日。再び本部への召集がなされた。

作戦の実行は明後日。
僕らが行う不思議探索だ。

決行か否かの判断をするのは僕。
重要な任務だ。

迷いなどない。
僕の心は既に真っ黒だ。

涼宮ハルヒは死ぬ。
彼女たちはどんな顔をするだろう。
彼はどんな顔をするだろう。

楽しみに感じている時点で、僕の頭は既に狂っているんだろうな。

422 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 19:11:22.07 ID:4MC+Uqbp0

その日が来た。

どうやら早く起きすぎてしまったらしい。
集合時間の大分前に駅前に到着しそうだ。

今日、僕らは自由を得る。

見ていて下さいよ、森さん。

そう呟いて、僕は家を出た。




つづく

427 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 19:29:42.62 ID:4MC+Uqbp0

始まりの話なので『おしまい』にするのもなんか変かと思い『つづく』にしました。
次の話が解決編で、それが最後です。
日付が変わるまでには再開しますので、よろしければ保守をお願いします。

448 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 22:29:49.38 ID:4MC+Uqbp0

保守ありがとうございました。再開したいと思います。

451 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 22:32:59.81 ID:4MC+Uqbp0

「ふぐっ!!!」

激痛で目が覚める。
ボディを持っていかれた。

「キョン君おっはよ〜!」

俺の布団の上でピョンピョン飛び跳ねる妹の姿がそこにはあった。

「今日はおでかけするんでしょ?」

そうだ、忘れてた。
不思議探索をするから、駅前に9時に集合。
一昨日のハルヒの台詞だ。

だが俺は時計を見て驚いた。時計が短針が9を指していたからだ。

「嘘だろ…?」

空を見上げる。清清しい快晴だった。

453 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 22:36:11.04 ID:4MC+Uqbp0

携帯が鳴る。
取らなくてもわかるぞ。ハルヒだ。

『あんた何やってるの!?』

「す、スマン、今起きた所なんだ」

『はぁ!?いいからさっさと来なさい!10秒以内!!』

10秒?何を言っているんだハルヒ。無理に決まってる。

だがこれ以上待たせるのは流石にマズイだろう。
俺はろくに朝食も取らず、慌てて家を出た。

「キョン君ちゃんと買ってきてね〜!」

後ろで妹が何か叫んでいたが、聞いている暇はなかった。

455 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 22:40:03.44 ID:4MC+Uqbp0

全速力で駅に向かう。
自転車が火を噴きそうだ。

駅に到着すると、そこには既にSOS団の面々が揃っていた。

不機嫌な顔のハルヒ。

困り顔の朝比奈さん。

無表情の長門。

微笑む古泉。

「遅すぎる!!罰金!!!」

予想通りの言葉。
否定できるはずもない。
わかった、わかったから朝からそんなに怒鳴らないでくれ。
耳が痛いんだ。

456 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 22:45:34.39 ID:4MC+Uqbp0

「今日の班分けをするわよ!みんな、このくじを引きなさい!」

喫茶店に入ると、我らが団長様が元気よくそう告げる。

皆が、次々とくじを引いて行く。

「おや、どうやらこれは無印のようですね」
古泉、どうやらこれでお前と二人きりという最悪のパターンは間逃れたようだな。

「私も無印です!」
朝比奈さん。今日もお美しい。

「…」
長門だ。引いたのは色つき。

「あとはあたしとキョンだけね。キョン、一斉に引くわよ!」

「へいへい」

こうなると色つきを引きたいところだな。
長門と一緒なら行く場所は1つ。楽なもんだ。

457 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 22:49:29.50 ID:4MC+Uqbp0

不思議探索といっても、ハルヒと一緒にならない限りそんなことはしない。
不思議が町にごろごろと転がっているハズがないからな。


「それじゃあ長門、今回もあそこでいいか?」

「構わない」

俺は無事色つきの爪楊枝を引き当て、長門と一緒に行動をすることとなった。
長門と二人で行く場所。それはもう、図書館しかないだろう。

「俺はここにいるから後でな」

「そう」

一言呟くと、長門はまるで本に釣られているかのように移動していった。
今回は図書カードもある。いつかのようにハルヒを待たせて怒らせる心配もないだろう。

…たぶん。

459 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 22:56:39.30 ID:4MC+Uqbp0

俺は何気なく手に取った本を読みながら考えていた。

…つまらん。

どうやら俺と活字との相性は最悪らしい。
長門はよくもまぁこんなものに熱中できるよな。

しばらくは内容を理解する努力に勤しんでみたりもしたが、結局断念。

よし、寝よう。

集合時間までの暇の潰し方。
結局これが一番効率がいいのかもな。

460 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 23:00:44.66 ID:4MC+Uqbp0

そこにハルヒがいた。

一人で町をブラブラしている。

いや、ブラブラは違うな。きょろきょろとして何かを探しているようだ。

何をやってるんだ?

その瞬間だった。

大きなワゴンがハルヒに激突した。

まるで人形の様に跳ね上がるハルヒ。

走り去って行くワゴン。

「うわああああああああああ!!!??」

夢だった。

461 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 23:03:30.96 ID:4MC+Uqbp0

静まり返る図書館。
やっちまったぜ…。

時計を見るとまだ集合には時間があった。
だが、嫌な予感がする。

「おい長門、ちょっと早いがもう戻らないか?」

長門は同意してくれた。
無論、その時手に持っていた本を借りてやる必要はあったが。

しかし、リアルな夢だったな。
あの時かいた汗がまだ引いてない。

465 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 23:09:33.80 ID:4MC+Uqbp0

長門と二人、朝の喫茶店に向かって歩いて行く。
なんだろう、ソワソワするな。

その時、通りの反対側に見知った顔を見つけた。
ハルヒだ。

ハルヒもこっちに気づく。

「キョン!?あんた何やってるのよ!?担当こっちじゃなかったでしょうが!」

ハルヒが怒鳴る。
そうだ、俺たちはハルヒに指定された管轄を無視して図書館に来ていたんだった。

「さっさと戻って不思議を探しなさい!!団長命令よ!!」

だがその言葉は俺の耳には届いて来なかった。
ハルヒの背後にスピードを上げて走って来るワゴンが見えたからだ。

466 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 23:15:19.76 ID:4MC+Uqbp0

「いいからさっさと戻りなさい!」

ハルヒは気づいてない。
さっき見た夢とダブる。

「危ない!!」

気つけば俺は駆け出していた。

スピードを上げるワゴン。

その音に振り返るハルヒ。

必死に駆け寄る俺。

「ハルヒ!!!!」

470 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 23:20:06.13 ID:4MC+Uqbp0

ワゴンは走り去っていた。

全身に痛みが走る。
どうやら地面に体を強打したらしい。

「…」

俺の腕の中にいるハルヒ
しかし、動かない。

「おいハルヒ、大丈夫か?」

返事がない。

「ハルヒ?」

返事がない。

「心配はいらない。気を失っているだけ」

長門が言う。
良かった。心配させやがって。

471 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 23:26:54.35 ID:4MC+Uqbp0

「くそっ、さっきの車は何だったんだ!?」

間違いなくアイツはハルヒを殺す気だった。
その証拠に、道路にはブレーキの跡がない。

「乗車していた人物について、既に解析を済ませた」

「本当か!?」

流石は長門だぜ。仕事が早い。
それは逆に、敵に回してしまった時の恐ろしさも物語っているんだがな。

「パーソナルネーム『新川』。フルネームは不明」

新川?その名前、どっかで…?

「機関の人間」

「古泉一樹の仲間」

473 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 23:32:48.59 ID:4MC+Uqbp0

その後、俺たちはすぐに朝比奈さんに連絡をし、この場に来てもらった。

「ふえぇ、私が知らない間にそんなことがあったんですか!?」

驚く朝比奈さん。
無理もない。

「ところで朝比奈さん、あなたたちはどうして別行動をしていたんですか?」

「こ、古泉君に言われて…。そう、地蔵を探してたんです!」

地蔵?なんだそれは?
いや、注目すべき点はそこじゃないな。
古泉に言われた?
それじゃあまるで、ハルヒを一人にしようとしたみたいじゃないか!

「な、長門。どう思う?」

「決定的だと思われる」

「古泉一樹は涼宮ハルヒを殺害しようとしている」

嘘だろ?

474 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 23:37:04.16 ID:4MC+Uqbp0

「古泉です。どうやら失敗したようですね」

荒川さんから告げられたその一言を機関に伝える。
物事は何でも上手くいくようには出来てないらしい。

『そうか。荒川め、自分から名乗りを上げたというのに何と言うザマだ』

「…非常に残念です」

『まぁいい。もともと我々は君たちのやり方を確実な物だとは考えていなかった』

頭にくるものがあったが確かにそうだったのかもしれない。
僕たちが殺めようとしている相手は神なんだ。

『プランBに移行する。古泉、本部に帰還しなさい』

「…わかりました」

電話を切る。面白くない。
荒川さん。あなたの口から失敗などと言う言葉は聞きたくなかった。

477 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 23:44:03.30 ID:4MC+Uqbp0

>>454
>>475
時間はどうなるかわかりませんが、さるが来ない限りこのまま終わりまで止めずに行けるかと。



訳がわからない。
なんで古泉がハルヒを殺そうとする?

「理由は不明」

万能宇宙人の長門もこれだ。
朝比奈さんにいたってはあわあわと慌てた様子を見せるだけ。
朝比奈さん、あなた本当に未来から来たエージェントなんですか?

「そうだ、長門。そういえばもう一つ疑問があるんだ」

図書館で俺が見た夢。
驚くほどにリアルだった。
いや、あと少しで現実になってしまう所だったんだがな。

「…」

暫しの沈黙の後、長門が答えた。

「最近、情報統合思念体がイレギュラーな分子を観測した」

イレギュラーな分子?なんだそれは?

「別世界の存在」

478 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 23:47:54.24 ID:4MC+Uqbp0

「別世界?どういうことだ?」

聞き慣れない単語だ。
少なくとも俺の辞書には載っちゃいない。

「現在、この世界以外にも平行した状態で幾つもの世界が存在している」

「それらは互いに干渉はほぼ無いが、非常に似通った内容を持っている」

「情報統合思念体が発見しただけでその数は9672個にのぼる」

なんだって?9672?
つまり今、この世界には9672個の地球が存在してるって事か?

「位相はずれているが、簡単に言えばそう」

「なんでそんなことが!?」

「理由は不明。しかし、原因は涼宮ハルヒ」

なんてこった…。
ハルヒ、またお前か。

481 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 23:57:44.34 ID:4MC+Uqbp0

「あなたが見た夢は、別世界で起こった記憶が突発的にあなたの中に流れ込んで来た為であると考えられる」

難しいことはわからんが、つまりあれだ。
別世界からのメッセージ。そういう解釈でいいだろう。

ん、待てよ?
その記憶の中ではハルヒは死んじまってる。
つまり、その別世界の情報さえ手に入れば古泉がトチ狂っちまった原因、
更にはハルヒが世界を大量に作った理由もわかるんじゃないのか?

「私も同意権」

長門も考えていることは一緒だった。

「別世界の私とのアクセスを試みる」

483 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 00:00:29.96 ID:BNmDLDo90

「ま、待ってくれ」

「?」

何で長門を止めたのかは、俺自身にもわからなかった。

「俺に…できるか?」

俺よ、なんでそんな事を言う。

いや、もしかしたら知りたかったのかもしれない。

「別世界とやらの記憶の共有、俺にやらせてくれないか?」

484 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 00:03:54.51 ID:BNmDLDo90

「きょ、キョン君、危ないですよ!」

朝比奈さんが戸惑った顔をする。

「私も推奨しない」

「9672個の記憶によりあなたの脳がパンクしてしまう恐れがある」

パンク…それは弾けると言う意味か?
確かに恐いがそれでも俺は長門に頼み込んだ。
見たい。見てみたいんだ。

「わかった」

長門が呪文を唱えだす。

俺の頭の中を幾つもの記憶が駆け巡った。

487 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 00:08:33.24 ID:BNmDLDo90

この世界を作ったのはやっぱりハルヒだった。

元になっているのは古泉の暴走。

その中で俺は時に立ち向かい、時に狂い、そして諦める。

本当にいろいろな結末があった。

俺の中に憎しみが、不安が、悲しみが、戸惑いが流れ込んでくる。
この感情に流されてしまいそうだ。

そうだ、殺せばいい。

古泉を殺す。それで一件落着だ。
この9672個の世界であいつがやってきたことを思えば当然だろう。

だが感情の激流の終着点にたどり着いたとき、そんな考えは吹き飛んでしまった。


そこにはハルヒの笑顔があった。

488 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 00:14:07.80 ID:BNmDLDo90

今わかった。

俺が最後に求めていたのはこれだったんだ。

そのためにはどうしたらいい?

そう、どの世界でもバラバラになってしまっている、このSOS団を守るんだ。

でもどうやって?

答えは1つ。

古泉を止めるんだ。

今ならまだ何も起こっちゃいない。

まだ間に合う。

そう、間に合うんだ!!

489 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 00:19:10.23 ID:BNmDLDo90

「大丈夫ですか!?」

朝比奈さんが俺の顔を覗き込んでいる。
大丈夫、全ての記憶が俺に馴染んだのがわかる。

「長門、古泉を止めなきゃならない!」

俺はすぐに古泉に電話をした。しかし、繋がらなかった。
携帯には『用事が出来たので帰ります』という1通のメールだけが残っていた。

「機関が動き出した」

長門が言う。

「このままでは涼宮ハルヒが危ない。まずはこちらを止めるべき」

機関を?一体どうやって!?

「無理ですよ!?相手が大きすぎます!!」

朝比奈さん、その反応は正しいですよ。
個人で太刀打ちできるほど小さな組織じゃない!

「可能。朝比奈みくるの協力があれば」

496 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 00:23:42.06 ID:BNmDLDo90

「ふえぇ!?わ、私ですか!?」

「そう、あなた」

驚き戸惑う朝比奈さん。
朝比奈さんにそんな力があったとはこっちが驚きです。

「あ、ありませんよそんな力!」

「大丈夫。信じて」

真剣な眼差し。疑うべきじゃないな。

「な、何をすればいいんですか!?」

そうだ長門、それが重要だ。

「電話をする。それだけ」

498 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 00:27:30.56 ID:BNmDLDo90

朝比奈さんが電話を掛け始める。

「もしもし、朝比奈です」

『あ、みくる!?どうしたの!?』

受話器越しに聞こえてくる声を俺は知っている。

「あ、鶴屋さん。伝えて欲しいことがあるの!」

そう、鶴屋さんだ。

『伝言かい?いったい何だい?』

「鶴屋さんのおうち、いろいろなところに資金援助しているんだよね!?」

『え?なんでみくるがそんなこと…』

「その中に、契約の違反を行っている人たちがいるはずなの」

朝比奈さんが息を吸い込む。

「彼らへの資金援助、至急凍結するように伝えてください!!!」

502 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 00:31:09.40 ID:BNmDLDo90

「これで時間を稼げる」

朝比奈さんが電話を切るのを確認して長門が言った。
朝比奈さん、グッジョブだ!!

「長門、古泉はどこにいる!?」

急げ。まだ間に合うんだ。

「情報統合思念体にアクセスすれば発見可能」

長門がまた呪文を唱える。
でかしたぞ長門。
やっぱりお前は頼りになる。

「アクセス完了。こっち」

次は、俺の番だ。

506 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 00:36:14.34 ID:BNmDLDo90

本部に戻ると、そこは大騒ぎになっていた。

「何が起こったんです?」

「古泉か。実は、鶴屋家をはじめとするスポンサーたちが一斉に援助の凍結を始めたんだ。このままではプランBの実行ができんぞ!」

そんな事が起こっていたとは。
新川さんの案を馬鹿にしていた割に大したことがないんだな。
さてどうしよう。そんなことを考えていると、多丸さんが話しかけてきた。

「古泉君、待っていたよ。」

「どうも」

多丸さんは、少しやつれた様に見える。

「組織も意外と脆いものだね。いや、元手がなくてはどんな組織もこうなってしまうだろうが…」

「そうですね」

「だが、そんなことで諦める訳にはいかない。君もそう思うだろう?」

そう言って多丸さんが僕に小瓶を差し出した。

508 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 00:45:04.63 ID:BNmDLDo90

「これは…?」

「毒薬、だ」

多丸さんが笑う。

「毒薬?」

「そう、君はこの中で涼宮さんに1番近しい人間。君なら可能だ」

「彼女の飲み物の中に1滴、コイツを垂らせばいい。一瞬さ。後の処理は我々に任せたまえ」

僕が直接涼宮さんを殺害する…?

「期待しているよ。古泉君。それじゃあ、私にはまだ仕事があるから」

多丸さんは去っていった。

…いいでしょう多丸さん。
問題は長門さんだが、負ける気はない。
僕の手でこの地獄を終わらせる。
そう意気込んで本部を後にした。

509 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 00:51:05.06 ID:BNmDLDo90

外に出て僕は驚いた。

そこには彼らが立っていたからだ。

「古泉…」

ここまで走ってきたのだろうか。
彼らの息は皆乱れている。

「どうしたんです?いったいどうしてここへ…」

平静を装う。
だがそれが揺ぐのは時間の問題だと思った。

彼の目が真っ直ぐ僕を見据えていたからだ。

今までにないほど、真剣に。

510 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 00:55:19.23 ID:BNmDLDo90

長門の言葉に従って向かった先。
そこに古泉はいた。

俺たちを見て驚いた表情を見せる。

「もう止めろ、古泉」

「な、何の話でしょうか?」

動揺が見て取れる。

「と、とぼけても無駄ですぅ!」

「あなたは涼宮ハルヒの殺害を目論んでいる」

「ネタはもう上がってる。止めてくれ、古泉」

「…」

頼む。届いてくれ。

512 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 00:57:50.33 ID:BNmDLDo90

「ふふ…」

「あはははははははは!!!」

笑い声を上げる古泉。

「止めろ?よく言いますね。何も知らないくせに!!」

「知ってるよ」

俺はそう答えた。

「…なんですって?」

「知ってる」

「お前の苦労も、森さんのことも」

これは俺の中にある9672個の記憶の中の1つ。
古泉の全てを暴き、それでも死んじまった俺の記憶が教えてくれた。

「だから、もう止めてくれ。俺たちならきっとお前を助けられる」

516 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 01:03:13.38 ID:BNmDLDo90

「適当なことを言いますね。森さんはもう戻らないんですよ?」

古泉が歪んだ顔で言う。

「戻るさ。ハルヒがいる」

そうだ。ハルヒの力がある。
絶滅しちまった筈の鳩ですら蘇らせたアイツならきっと、森さんも助けられるさ。

「できますかね、本当に」

「ハルヒに言う。力のことも、お前らのことも」

生き返らないとしたらそれはハルヒの持ってる「死んだ人間は蘇らない」っていう中途半端な常識のせいだ。
大丈夫。俺にはそいつを取っ払う秘密兵器がある。

『ジョン・スミス』

あとの事だって心配いらない。ここには情報操作の達人、長門がいる。
そこまで都合よく行かなかったとしても、まぁなんとかなるさ。

517 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 01:04:41.03 ID:BNmDLDo90

「それでもこの地獄は続くんですよ。いつ誰が死んでしまうかもわからない」

「それを防ぐのが俺の役目だ」

そうだ俺がアイツを退屈になんてさせないでやる。
閉鎖空間なんて発生させてたまるか。

「心配いらないよ、古泉」

古泉の顔が曇る。
俺の言葉は届いているんだろうか。

「大丈夫さ。もうやめよう。俺たちはSOS団の仲間だろう?」

その時、何かが俺の中で騒ぎ出した。
違うな。何かじゃない。9672個の記憶たちだ。

「…どうしました?」

「…いや」

浮かび上がろうとしている1つの可能性。

「古泉…頼みがある」

519 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 01:10:05.80 ID:BNmDLDo90

違和感だった。
何かがおかしいと思った。

「こんにちは」

古泉に呼んできてもらった人物。
彼には今記憶がないらしい。

「やあ、こんにちは。兄からいろいろ話を聞いてはいるんだが君の事は知らない。申し訳ないね」

「いいんですよ」

彼の名は多丸裕。
おそらく全ての鍵を握っている人物だ。

「ちょっとお話があるので、一緒に来ていただいていいですか?」

そう言って彼の手を引く。

「な、なんだか恐いな。君の目つき」

「すいませんね。ここら辺でいいでしょう」

足を止める。
決着を付けなきゃな。今度こそ。

521 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 01:14:04.31 ID:BNmDLDo90

「まず初めに俺が感じた違和感は長門の事です」

「長門?誰だい、それは」

多丸さんの言葉を無視して俺は話を続ける。

「どの世界でもほぼ確実に長門はエラーを起こしてる。流石に起こりすぎだと思いませんか?
そこで考えたんです。真正面から挑んでも長門に勝てないと知る人物が、長門にエラーを促す因子を仕込んだんじゃないかと。
事実今回の長門も、自らエラーを起こしそうな行動をしかけました」

多丸さんは黙っている。

「次の違和感はハルヒの退屈です。ハルヒは望んだことを何でも叶える力がある。それなのに最近は退屈をしてばかりだ。
挙句、本人がイライラのあまり閉鎖空間を乱発するレベルになった。これはちょっとおかしい。
俺はこんな結論に至りました。誰かが何も起こらないよう、操作を行っているんじゃないかってね」

「こういうの何て言いましたっけ?」

多丸さんの表情が引きつる。

「そう、情報操作だ」

「違いますか?多丸さん」

「いや…」

「朝倉涼子」

527 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 01:20:28.87 ID:BNmDLDo90

一瞬の沈黙。

「…ふふ、あはは」

空気が変わって行くのがわかる。

「あっはっはっはっはっは!!」

多丸さんの姿が見る見る変わっていく。
蒼く、長い髪がなびいた。

「良く気づいたわね、キョン君。褒めてあげるわ」

1年5組の元学級委員長にして、長門と同じTFEI端末。

朝倉涼子がそこにいた。

535 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 01:27:22.56 ID:BNmDLDo90

「死んだ筈じゃなかったのか?」

「私は情報さえ仕込んでおけば細胞1つからでも再生できるの」

朝倉は万遍の笑みを浮かべている。

「実はあの時、あなたに会う前に準備しておいたってわけ。『予め仕込んだ』のは長門さんだけじゃないってことよ」

長い髪をさらりと撫で上げた。

「なんでこんな事を…」

「私が死んでも何も起こらなかったから、かな。急進派も息を潜めちゃったし。だから私、全部ぶっ壊してやろうと思ったのよ」

その笑顔には恐怖すら覚える。

「さて、お喋りはここまで。キョン君、今度こそ死んでね」

朝倉が呪文を唱えだした。

537 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 01:32:23.33 ID:BNmDLDo90

何も起こらない。

「あら…?」

朝倉はもう1度呪文を唱えるが、やはり何も起こらない。

「まだ気づいていらっしゃらないとは…」

朝倉が驚いた顔をする。
情報操作が上手くいかないからか、目の前の人物の喋り方が急に変わったからか。

「長門さん。もう結構です」

自分の姿が変わっていくのがわかる。いや、戻っていくと言うべきか。

「あなたは…キョン君じゃなかったの?」

「古泉一樹です。いやはや、長門さんの施した変装がここまでの物だったとは」

同時に長門さんのかけていた視界のフィルターが外れる。

「景色が灰色…なにこれ」

気が動転しているようだ。
それなら教えて差し上げましょう。

「ようこそ。ここは僕たちの世界、、閉鎖空間です」

541 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 01:39:30.41 ID:BNmDLDo90

「まさかここまで彼の言った通りだとはね」

「閉鎖空間…これが?」

「仲間たちに真実を伝えるのなら、ここが1番だと考えましてね。彼に頼んで発生させて頂きました」

空には幾つもの赤い閃光が舞っていた。
無論、あの中には新川さんや多丸さんもいる。

「これで仲間たちの説得も少しは楽になるでしょう」

「…い、いつのまに…」

「僕が手を引いていた時ですよ。まさか気づかなかったとは」

僕も人が悪いと思った。ばれなかったのは長門さんが行った情報操作のおかげだ。

「あはは…また私の負け、か。」

朝倉がうな垂れる。

「残念でしたね。聞こえますか長門さん、お願いします」

情報連結の解除が始まる。
朝倉涼子の体は光となって消えていった。

544 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 01:48:07.33 ID:BNmDLDo90

「さっきからあたしに文句ばっかり言い出して、一体なんのつもりなの!?」

ご立腹のハルヒ。仕方が無いだろう。
ええい、古泉!長門!まだなのか!?

「そこまで言うのならあたしにも考えがあるわ!」

ポケットの中、ワンコールで切れる携帯。
来た、成功の合図だ。

「ちょっと、どこ見てるわけ!?いい?あたしは団長であんたはヒラなわけ!!
この社会は縦社会よ!上司に逆らった人間がどうなるか…」

「うるさい!!」

突然叫んだ俺に驚くハルヒ。

「なんだ、さっきから俺をヒラだヒラだと!!同じ学年で同じクラスのお前が上司だと!?
笑わせる!!お前、ジョン・スミスって知ってるか!?」

「えっ?」

545 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 01:53:36.77 ID:BNmDLDo90




その後、ハルヒの力によって森さんも、多丸さんの弟も無事生き返ることが出来た。

俺がジョン・スミスだと名乗ったときのあの顔、皆にも見せてあげたかったぜ。

機関とは和解、と言うほど穏やかな感じではなかったが、黒幕が別にいたことを理由に閉鎖空間の処理をまた受け持ってくれるそうだ。

このままハルヒを放っておいたらありえないことがたくさん起こっちまいそうだが、ハルヒの記憶に関しては長門がどうにかすると言ってた。

こうして俺たちSOS団はバラバラになることなく、存続できることになった。

俺は無事ハルヒの笑顔を勝ち取ることが出来たわけだ。

これぞハッピーエンド!…なんだが。

何か忘れてる気がするんだよな…。

546 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 01:54:40.43 ID:BNmDLDo90

「ただいま」

家に帰る。
今日は色々なことがあったから、さっさと風呂に入って寝たいもんだ。

「おかえり〜」

妹が出迎えてくれる。

「キョン君、ちゃんと買ってきた?」


…ん?

「本の仕切り板だよ!買って来たよね?」

550 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 01:57:04.34 ID:BNmDLDo90

ま…まずい。

「ちょうだい!」

忘れてた…。

「キョン君?」

「す、すまん!!お前にあれだけ片付けろと怒っておきながら、買ってくるの忘れちまった!」

「え〜!?」

頬を膨らます妹。

「もういいよ、キョン君なんて知らない!」

そう言って去っていった。


頼む、ハルヒ、もう1度別世界とやらを作ってくれ!
今度は忘れずに買ってくる!兄の威厳を失わないために!!




おしまい

567 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/14(月) 02:10:47.36 ID:BNmDLDo90

以上です。遅くまでお付き合い頂き、ありがとうございました!
保守してくれた人たちもありがとう!!
矛盾なんかもあると思いますが、脳内保管をお願いします。



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