古泉「長門さん、それは卑怯じゃないですか?」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 21:05:08.03 ID:pGI6Nd700

その日はなんてことはないただの、そう、いつも通りのただの放課後だった。

部員全員がいつも通りに過ごす。ただそれだけの静かな放課後。

一つ違うとすれば、それは僕と彼の状況だろう。

今日の種目は将棋。初期のころは涼宮さんの機嫌を窺うためにわざと負けるように駒を進めていた。

しかし、彼は実際にこういった遊戯が強かった。今ではいくら本気でかかってもたまにしか勝てない。

一つ違う状況。

それは今僕が、詰みとまではいかないにしても、かなり有利な位置で彼に王手をかけている事だ。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 21:13:38.19 ID:pGI6Nd700

口元に手をあて、真剣な目で盤と僕の顔をチラチラ見比べてくる。

どうやら勝負あったかもしれない。将棋では実に二ヶ月ぶりの勝利が目前へと迫ってきた。

パチリ、と大きめな音をたてながら彼は香車を前に進めた。

まだそんな手があったとは。彼の盤面での観察眼には驚くものがある。

しかしこの優位を手放す理由にはならない。僕は頭をフル回転させて次の一手を考えた。

ああでもない、こうでもないと考えていると、彼が不意に言葉を発した。

「……古泉って好きな人いるのか?」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 21:20:54.52 ID:pGI6Nd700

こちらの思考を中断させるために言ったとしか思えない台詞。全くえげつない。たまにしかない勝利も許してくれないのだろうか。

僕が彼の言葉を煙に巻くような言葉を選んでいると、思わぬところから援護射撃が放たれてきた。ただ問題は、

「興味あるわね。古泉君ってモテそうだし、よりどりみどりって感じよね」

その援護が僕へのものではなかったことだ。

「はは、涼宮さん、そんなことはありませんよ」

そう言いながら笑ってごまかす。

「そうかしら?みくるちゃんはどう思う?」

さきほどから僕たちの将棋を横から見学していた朝比奈さんに話をふる。

「えっと、わたしのクラスの女の子もカッコイイって言ってましたよぉ」


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 21:28:52.88 ID:pGI6Nd700

朝比奈さん、頼みますから話を大きくしないで下さいよ。

「さすが古泉君ね!あたしも鼻が高いわ!」

僕が彼ならその発言に突っ込むことが出来るが、あいにくと僕には苦笑いしか出来ない。

そしてここから質疑応答が始まった。

「古泉のことだ。実は俺たちに隠して実はもう彼女がいたりするんじゃないのか?」

「聞き捨てなりませんね」

「古泉君はどんな人がタイプなんですかぁ?」

「……それは答えないとダメですか?」

「古泉君はしっかりしてるから、きっと逆に年上のお姉さんタイプが好みのはずよ」

「普段甘えられない分甘えたくなるってやつか」

「別にそんなことは……」

「でも、意外に年下かもしれませんよぉ?」

「意外ってなんですか」


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 21:34:24.76 ID:pGI6Nd700

「埒が明かないわね。……古泉君!」

大きな声を上げた涼宮さんが僕を指差した。

「なんでしょう?」

何を言われるかは分かる。だからせめて精一杯に余裕を持ったふりをして返事をした。

「ずばり!好きな人って誰!?」

これは答えなくてはいけない展開だ。いるの?、ではなく、誰?、だ。いることが前提の質問。

涼宮さんが知らない人の名前を言っても許してくれない気もする。

あくまで知っている人で、あとで弁解しても許してくれそうで、それでいて涼宮さんが納得してくれそうな人物。

苦笑いをしながら視界を少し泳がしていると、本から顔を上げた長門さんと偶然目が合った。

どういうわけか以前から長門さんには無視されることがある。だからかもしれない。ちょっとしたイタズラをしたくなった。


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 21:40:20.56 ID:pGI6Nd700

普段涼宮さんにいじられるのは彼か朝比奈さんだ。そして今回は何故か矛先が僕に。

「さぁ!白状しちゃいなさい!」

満面の笑みで歩み寄って来る。僕は涼宮さんの問いにこう答えた。

「分かりました。本来ならこのような形で言いたくはなかったんですが……」

三人がごくりと喉を鳴らすのが分かる。そして僕は爆弾を投下した。

「僕は長門さんのことが好きです」

標的にしてしまった長門さんは分からないが、おそらく三人はずいぶんと驚くことだろう。

だから僕はこれ以上話が大きくなる前に嘘だと言わなくてはならない。

もちろん嘘ですよ?見事に引っかかりましたね?と、こんな感じだろうか?

一度興を削いでしまえば、あとはあしらうだけ。そして長門さんには後でキチンと謝ればいい。

僕はなるべく意地の悪そうな笑顔を作って、台詞を言おうとした。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 21:46:47.77 ID:pGI6Nd700

しかし僕が喋るより先に、涼宮さんがあろうことに長門さんに話をふってしまった。

「ゆ、有希!衝撃の展開よ!有希はどうなの!?」

やはり涼宮さんも一人の女の子だということだろう。でもそんなに大きく反応されると冗談だと言いにくくなる。

今三人の視線は長門さんと僕を行ったり来たりと忙しく動いている。

涼宮さんと朝比奈さんは何かを期待しているのだろうか、実にキラキラとした目をしている。

しかし彼はというと、どうやら僕の虚言に気付いているようで、ニヤニヤと口元を歪めていた。

そしてとうの長門さんは、涼宮さんの質問を受けた後、ジッと僕を見ていた。

もしかしたら怒っているのだろうか?だとすればこれは睨まれているのかもしれない。怒られるようなことをしたのだからそれも仕方ない。

少し続いたこの気まずい沈黙は長門さんの放った一言で、思わぬ形に飛躍した。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 21:53:03.99 ID:pGI6Nd700

「構わない」

僕だけではない。その場にいた長門さん以外は全員耳を疑っただろう。

「……へ?」

涼宮さんが素っ頓狂な声を出す。

それに反応して長門さんは視線をそちらに向けた。

「今、なんて?」

「構わない」


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 21:59:28.08 ID:pGI6Nd700

構わない。確かに長門さんはそう言った。

僕が冗談のつもりで言った好きという言葉に、長門さんは答えてしまったのだ。僕が弁解するより先に。

それも回答内容はYES。なんということだろう。これでは嘘から出た実になってしまう。

もし今から嘘だと言えば、涼宮さんからかなりの不評をくらうことになるだろう。

僕自身のせいで閉鎖空間が出来上がってしまうかもしれない。

どうしようかと頭の中で悩んでいると、朝比奈さんがとどめに繋がる言葉を言った。

「あの、これって、カップル成立ってことですよね?」

今日のあなたは余計な事しか言いませんね。



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 22:05:39.79 ID:pGI6Nd700

「そ、そうよね。これは……これは意外な組み合わせだったわ」

涼宮さんに認められてしまうと、それが現実になる。今回はいつもの願望とは違うが、涼宮さんの人間としての力で無理矢理にでも公認カップルさせられてしまうだろう。

僕は二人にばれないように彼にSOSという念を込めた視線を送る。しかしこの状況では何も出来ないようで、やれやれと肩をすくめるだけだった。つくづく思うが、実に使えない人だ



ふと刺さるような視線に気付き顔を向けると、長門さんが僕のことを見ていた。いつもの感情の分からない表情で。

ほんの少し互いの視線が絡む。長門さんは途端に目を逸らし、膝の上の本を閉じた。

気のせいか、いつもより少し音が大きかった気がした。


53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 22:12:02.24 ID:pGI6Nd700

長門さんが本を閉じる音は一種の暗示なのかもしれない。

さっきまで楽しそうに騒いでいた女子二人は、これでお開きか、といわんばかりに残念そうな顔をしている。

長門さんが椅子から立ち上がり扉へと向かった。

僕としてはまだ真意を聞いていないのだからまだ帰したくはなかった。だから呼び止めた。

「長門さん」

しかしこれがいけなかった。

告白をした男とそれを承知した女。

結果、僕と長門さんは部室を締め出されるように笑顔の女性陣に見送られた。

自分が招いたこととはいえ、いらぬ誤解を与えてしまった。でも、これは長門さんに弁解をするいいチャンスかもしれない。なんとかそうやってプラスに考えるようにした。


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 22:18:14.81 ID:pGI6Nd700

「……さて」

視線を下に向けると、僕を見上げる小さな瞳と目が合った。

ただ無言で見上げてくる。そのなんともいえないプレッシャーから逃れるように、僕はこう言った。

「それじゃあ帰りましょうか?」

そして長門さんはそれに頷いてくれた。

下駄箱から靴を出し校門へ。そして坂を降りだした。

何を話そう?いや話すことは決まっている。

僕が先ほどの過ちをどう弁解しようか悩んでいると、ふいに長門さんが立ち止まった。

「どうしました?」

そう聞いた僕に、長門さんはゆっくりと右手を伸ばしてこう言った。

「手を」


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 22:24:36.44 ID:pGI6Nd700

……繋げということだろうか?何故こんなに積極的なんだ?

まさか長門さんは本当に僕に恋心を抱いていたのか?

ならもしここでさっきのが嘘だったと言えば、それは長門さんを傷つけることになる。

彼の話通りなら、長門さんは以前より人間らしくなってきたのだと言う。

「……だめ?」

感情が含まれないいつもの口調でそう聞いてくる。いや、もしかしたら感情は込められている?

だとしたら、今の僕じゃそれに気付けないだけかもしれない。


74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 22:30:52.83 ID:pGI6Nd700

「いえ、ダメというわけではないのですが」

けして手を下げようとしない。おもわず僕はこう聞いた。

「本当に僕でいいんですか?涼宮さんたちの前だからって無理をすることはなかったんですよ?」

そもそも自分の咄嗟の嘘のせいでこうなっているのに。僕が言うべき台詞ではなかったかもしれない。

「構わない」

結局僕はその無垢な瞳に逆らえず、差し出されたその手を取ってゆっくりと歩き出した。

長門さんの手は小さく、とても冷えていた。

空は綺麗に赤く染まり、空気が少しだけ冷たい夕方。丁度秋も終わりを迎えようとしている季節の節目。それが僕と長門さんが初めて一緒になって歩いた日となった。



77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 22:37:21.50 ID:pGI6Nd700

今日は少しだけ会話をして別れた。

分かってはいたが、会話のキャッチボールは全く出来なかった。

僕が投げる球は全て彼女のミットに納まるが、まるで返球がない。

それにまだ、何故僕の告白にOKをしてくれたかも分からない。

そしてメインだったはずの僕がついた嘘の釈明と謝罪も出来ていない。

前途多難だ。

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 22:43:46.98 ID:pGI6Nd700

僕は自分の部屋に戻ると同時に彼に電話をかけた。言いたいことが山のようにある。

『もしもし』

いつもの口調で彼が電話に出た。

「どうしてくれるんですか?」

怒鳴ってはいないが、それに準ずるくらいの凄みをきかせて言った。

『どうするもこうするもそれが結果だろ?』

「あなたがあそこで変なことを聞きさえしなければこうはならなかったんですよ!」

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 22:50:08.51 ID:pGI6Nd700

そうだ。彼が将棋で負けそうだからとった小癪な手段だ。

『別に俺は、長門のことが好きか、なんて聞いてないだろうに』

「ぐっ、それでもやはりあなたのせいですよ!」

単純に長門さんをからかいたかっただけで、真面目な告白ならもっと場所や周囲に気をつかう。

『わかったわかった、じゃあ俺のせいだ。悪かったよ。しかし古泉。もう賽は投げられてるぞ?』

この言い分は酷い。少しこの人に対する態度を改めねば。

「なんであなたはそんな人事なんですか!?僕はいつもあなたのカバーをしているじゃないですか!」



94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 22:56:25.77 ID:pGI6Nd700

『そうはいってもハルヒのやつが、二人のことは二人に任せよう、ってな。あいつはあまり人の恋路をつついたりしたくないそうなんだ』

完全に涼宮さん公認ということか。これでもう、あれは冗談でした、などと言えなくなった。

『それにな。お前は長門じゃ不満なのか?自分で告白しといて?』

「ふ、不満というわけじゃ」

『だったらいいだろ』

「しかし……」

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 23:02:22.45 ID:pGI6Nd700

歯切れの悪い僕の言葉に彼が溜息混じりにこう言った

『最近長門が読んでる本を知ってるか?』

知らないと彼に告げた。

『……ならいいんだがな』

そんな言い方をされると気になる。

『クラスの女子から借りた本だって言ってたよ』

このとき僕は、長門さんにも一般の友達がいるんだ、と失礼なことを考えていた。

『売れ筋の作品とは違ってマイナーな作品らしいが、長門はそれをやけに熱心に読んでたんだ』

「それがいったい何だっていうんですか?」

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 23:08:29.68 ID:pGI6Nd700

『まぁ、なにはともあれ頑張れよ、色男。俺と違ってさぞモテるんだろうしな』

彼はそう言って話をはぐらかした。

「そうですね、あなたに比べればそうでしょう。しかしあなたは他人のことにやたらと敏感なんですね?」

僕は少し笑いながらそう言ってやった。実際はそんなにモテるわけじゃない。彼に比べれば、その程度だ。

『なんのことだ?あの状況なら猿だって気付くだろ?』

と、返されたので電話を切った。……もう僕は彼の手助けをしない。そう心に強く誓った。

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 23:14:46.13 ID:pGI6Nd700

次の日。今日は不思議探しの日だ。

待ち合わせの場所に行くとすでに長門さんが待っていた。

めずらしく今日は制服ではない。

「おはようございます」

昨日の今日だ。少しの緊張と罪悪感がある。まともに言えただろうか?

長門さんはいつも通りに無言で僕を見上げると、静かに首を縦にふった。

特に会話もなく腰を下ろしていると、長門さんが僕のすぐ隣に腰を下ろした。

少し甘い香りがする。

くっついているわけじゃない。でも手を伸ばせば肩すら容易に抱ける距離だ。


113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 23:21:10.12 ID:pGI6Nd700

僕は少し緊張をしながら声をかけた。

「き、今日も寒いですね」

どもっている。情けない。

「大丈夫」

そう言って僕を見上げる。それもこの距離だ。これは効いた。

正直長門さんを女性として見たことはなかった。それは彼女が作られた存在だからだ。たまたま情報統合思念体が女性型に作っただけの話。

だからその形に作られただけの長門さんは、僕のなかでは男や女という概念に当てはまらなかった。

しかし今はどうだろう?無意識ながらも完全に意識してしまっている。

そしてまた会話が発展しないまま時間だけが過ぎていった。


118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 23:27:40.52 ID:pGI6Nd700

少しすると朝比奈さんと涼宮さんが連れだって現れた。人のことを言えた義理ではないが、集合時間よりずっと早い。もはや彼に奢らせるために集まっていると言っても過言ではないか

もしれない。

現れた二人は不満そうな顔をしている。そして朝の挨拶をする前にこう言われた。

「古泉君!ちょっと面貸しなさい!」

謎の怒りをぶつけられた僕はそのまま物陰へと引きずられていった。

「いったいどうしたんですか?」

乱れた服を整えながらそう言った。僕の言葉はどうやら二人の導火線に着火したようだった。



128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 23:34:05.89 ID:pGI6Nd700

「それはあたしの台詞よ!何で有希に何も言ってやらないの!?」

「へ?」

「そうですよ!?今日の長門さんあんなに可愛らしい服装なのに!」

「いや」

「副団長ともあろう人がそれはいただけないわよ?」

「そうじゃなくて」

「きっと長門さんは寂しいと思いますよぉ?」

僕の喋る間もなく続く連続口撃。僕はふと思った疑問をその僅かな合間に告げた。

「いやだから、お二人は全部覗いてたんですか?」

『あっ……』

そう言って二人は、今にも口笛を吹きそうなぐらいに白々しく目を逸らした。


137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 23:40:30.85 ID:pGI6Nd700

「そ、そんなことより有希の話よ!」

「そ、そうですよ!」

二人の言葉に溜息をつきながらながら長門さんを見る。

けして派手ではないが可愛らしいパーカー。そして女性ならではのホットパンツのようなジーンズ。そしてそこから先に伸びている縞模様のタイツ。

僕の目から見てもとても似合っている。

確かにこの二人が怒る理由も分かる。女性を褒めるのは男の重要な仕事の一つだ。

「とりあえずあたしたちがふってあげるから、古泉君は気の利いたことを言うのよ?」

彼の話どおりなら朝比奈さんはともかく、涼宮さんは人の恋路にちゃちゃを入れるのは嫌じゃなかったのでは?

僕は自分の長門さんに対する態度を反省しつつ、これから先もこの二人のお節介は続くのだろうな、と思った。

彼が協力してくれない今、孤立無援、四面楚歌、といった状況だ。

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 23:47:18.20 ID:pGI6Nd700

そして、二人に連れられ待ち合わせ場所へ。

「有希おはよう」

「おはようございます、長門さん」

そう言って二人は長門さんの両隣に腰を下ろした。

「キョンのやつまた最後みたいね。懲りないやつだわ」

「でもいつも時間には間に合ってますよぉ?」

「過半数が揃った時点で行動可能なんだから、その輪を乱すあいつはやっぱり遅刻なのよ」

「ところで長門さんは今日は制服じゃないんですね?」

「そうよね、いつもと雰囲気がガラッと変わって見えるわ。自分で選んだの?」

「そう」

「どこで買ったの?」

「しま○ら」

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 23:53:39.02 ID:pGI6Nd700

「……へ、へぇあそこも意外と可愛いの売ってるのね」

「そ、そうですよね。着こなしが重要ですからね」

服には無頓着な僕でも二人のうろたえの意味は少し分かる。

長門さんらしい実に微笑ましい回答だ。

少しリラックスした僕はこの流れに便乗した。

「よく似合ってますよ。長門さん」

なるべく優しく笑いながらそう言った。

もちろん馬鹿にしているわけじゃない。




152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 23:59:47.95 ID:pGI6Nd700

長門さんは僕の言葉に反応して、一瞬こちらを見上げた後に俯いて、

「そう」

とだけ言った。

もしかしたら照れているのだろうか?だとしたら貴重な瞬間だし、僕の心も面白いくらいに揺らいでしまう。

そんなやり取りを見ていたお節介焼きの二人は、満面の笑みで僕に向かって親指を立ててみせた。

僕は、どうも、といった風に肩を竦め、それに応えた。

「なんだ、もう揃ってるのか?まだ集合三十分前だぞ?」

そんなときに彼は現れた。

158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 00:06:09.74 ID:f375UJxw0

これで彼はまた驕りだろう。昨日のお返しとばかりに今日はこう思った。ざまぁみろ、と。

遅れてきた彼と合流し、とは言っても実際には遅れていないのだが、いつもの喫茶店に入った、

僕が腰を下ろす隣には、当たり前のように長門さんが腰を下ろす。あまりにも積極的で少々焦ってしまう。

ニヤニヤとしている三人の顔をなるべく見ないようにして一番高い料理を注文した。

彼の小さな悲鳴は僕の気持ちを紛らわしてくれた。

食事を終えるといつも通りにくじ引きでメンバーを決めるべく、涼宮さんが手を前に出した。


166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 00:12:39.07 ID:f375UJxw0

……分かっていた。そう、分かってはいた。

「じゃあ最初はこの組み合わせで決まりね、またあとで連絡を入れるからそしたらここに集合よ」

そう言って三人は僕たちと逆の方向へと歩いて行った。

僕は横からの視線に気付き質問をした。

「くじに細工を?」

「違う。偶然。もしくは涼宮ハルヒがそう願った」

僕たち機関は涼宮さんを神だと思っている。願ったことを叶える全知全能の神。だがその見解は間違いかもしれない。

これではただのお節介焼きの恋のキューピッドだ。

「それでは行きましょうか」

僕の言葉に小さく頷き手を差し出してくる。正直まだ恥ずかしい。でも昨日よりは躊躇なく手を握れた。

今僕が手を繋ぎ一緒に歩いているのは情報統合思念体ではない。一人の女の子だ。そう意識しだしたのはこの辺りからかもしれない。

171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 00:19:11.04 ID:f375UJxw0

先に言っておくが、これはデートではない。あくまで涼宮さん提案の不思議探しの真っ最中。

そう思っていた。しかし、SOS団の面々とは考えが違ったらしい。

僕と長門さんが歩いている後方には、最初から尾行を続ける影が三つ。

三人ともそういったことは素人のようで、実にバレバレだった。

「後ろからつけてるのって」

「そう、涼宮ハルヒたち」

案の定気付いていた。それもそうだ、僕が気付いて長門さんが気付かないわけがない。

177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 00:25:26.81 ID:f375UJxw0

「どうしたものですかね」

「どうとは?」

「ご存知の通りこれは涼宮さんが何かを期待して尾行しています。そして僕はそれにたいして色々と行動起こさなくてはいけないんです」

平たく言えばご機嫌とりだ。望みどおりのサプライズを提供するのが、僕や僕の所属する機関の仕事の一つでもある。

とはいえまだ付き合って二日目だ。

期待されるようなサプライズなどあるはずもない。そもそも今長門さんと手を繋いで歩いている状況こそがビッグサプライズなくらいだ。

色々と考えを巡らせて一つの策を思いつく。

そして僕の隣を歩く長門さんに一つのお願いをした。

183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 00:32:00.77 ID:f375UJxw0

お昼過ぎ。涼宮さんの連絡に従い、僕たちは喫茶店の前へと集まった。昼食をはさんで午後の部へ。

近くのファミレスに移動する。女性陣が先立って歩いていると、彼が僕に声をかけてきた。

「さっきはどこに消えたんだ?」

「消えたとは?」

どうやら気付かれてはいないようだった。

「とぼけるなよ。突然消えたじゃないか」

彼の口から出た言葉に僕はこう返した。

「その口ぶりだと、僕たちを見張っていたということでしょうか?」

答えが分かっていることを質問するのはいつだって楽しい。

「どうせ初めっから気付いてたんだろう?正確には見物だがな。あぁなったハルヒは俺でも止められんからな」

「そこですよ」

「ん?」

186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 00:39:03.16 ID:f375UJxw0

「涼宮さんはちょっかいを出さないんじゃなかったんですか?」

「あぁ、確かにそう言ってたよ。こればっかりは嘘じゃないぞ」

なら何故?

「どうせいつもの気まぐれだろ。そのうち飽きて辞めるさ」

今回は涼宮さんを中心とした出来事とは違う。主演となってしまったのは僕と長門さん。いつもの僕らが演じている役を涼宮さんが。

なんとも複雑な気分だ。そしていつも主演男優になるはずの彼さえも助演男優に納まっている。

前を見ると長門さんが二人に挟まれて質問攻めにあっている。横顔が見える二人は実に楽しそうに話しかけている。

長門さんの表情はここからは見えない。いったいどんな質問に、どんな返答をしているのだろう。



191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 00:45:55.49 ID:f375UJxw0

で、これからどうするんだ?」

「後で長門さんにはきちんと謝ろうと思っています。原因は違うとはいえ、全面的に僕が悪いですから」

悪いことをしたら謝る。そんなこと小さな子供でも当たり前のことだ。

「まぁ最悪俺も手を貸すし、頭も下げるよ」

「んふ、そんなことは当たり前ですよ」

「そりゃそうだな」

そう言って僕たちは少しだけ笑った。

「それでさっきはどうやって逃げ切ったんだ?ハルヒをなだめるの大変だったんだぞ?」

種明かしは実に簡単なものだ。

こっちにはSOS団きってに万能な人がいる。少しの間三人から僕たちを視覚的に消してもらったというわけだ。


192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 00:52:13.34 ID:f375UJxw0

くじ引きの結果、午後の探索は男女で別れて回ることになった。

さしずめ、涼宮さんが長門さんに聞きたいことがまだあるというところだろう。

ちなみにさっき入ったファミレスでも長門さんは僕の隣だった。なんとまぁ。

午後はたいした動きがなかった。少しプレッシャーから解放されて心地よかったくらいだ。

そのプレッシャーは自分の中のもの。嘘をついたこと、周りを騙していること。

僕だって嘘はつく。でもやはり今回のはいらない嘘だった。

196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 00:58:42.73 ID:f375UJxw0

僕たちは、こんな言い方も失礼かもしれないが、対策を練りながら午後の時間を終えた。

結論から言うと、正直に言う以外ないということだ。

出来るだけ早く。鉄は熱いうち叩く必要がある。今日の帰り道にでもしっかりと謝るつもりだった。

そう、つもりだった。

間というのはいつもいいものではない。そろそろ集合場所に戻ろうかという時間、彼の携帯に涼宮さんからの連絡がきた。

「残念だったな古泉」

携帯を見た彼が溜息混じりにそう言う。


199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 01:03:53.36 ID:f375UJxw0

「何がですか?」

僕の問いに彼は自らの携帯の画面を見せてきた。

メールだ。その内容は実にシンプルなものだった。


三人でこれからちょっと行くとこが出来た、だから現地解散、以上。


「だとさ」

一度固まった覚悟が解けた時、次の覚悟はそれより強く固まることはない。

また次のチャンスに、と、子供のような言い訳を頭でしながら僕は重たい足取りで家路へとついた。

201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 01:08:46.80 ID:f375UJxw0

季節は完全に冬になった。雪こそ降っていないものの、肌を刺すような寒さが続き、布団から出ることを苦行にする。

長門さんに告白してから二週間。あの日からずっと一緒に帰っている。

そして、相も変わらず僕はまだ懺悔を終えていない。

とくに隠していたわけではないが、いつの間にか僕ら二人は周囲の人達にも恋人同士と認識されていた。

放課後はいつものように部室へ。

室内には掃除で遅れている彼と長門さん以外の二人が揃っていた。

そう、今の僕にとっての天敵、涼宮さんと朝比奈さんだ。

あの日からというもの、二人は執拗までに長門さんを援護している。

恋愛を精神病と言っていた人はいったい何処に。

獲物である僕は捕食者のいる檻の中へと足を踏み入れた。


203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 01:13:24.23 ID:f375UJxw0

「どうも」

待っていましたと言わんばかりに二人の目が輝く。

涼宮さんはPCの前から離れると、僕の席の正面、つまり彼の席に腰を下ろした。そしてその隣には朝比奈さんが。

「……」

「……」

「……」

三者共に笑顔の沈黙。

耐え切れずに僕が切り出した。

206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 01:18:28.98 ID:f375UJxw0

ど、どうかしましたか?」

返ってくる答えは決まっている。

「進展しましたかぁ?」

楽しそうにそう聞いてくる。いつも二人して長門さんと色々話しているのだからそれも聞いているのでは?

「まだ二週間ですからね。何もありませんよ。以前に比べて話す機会が増えたくら」

「古泉君?」

言葉の途中で涼宮さんが僕を呼ぶ。その声は少し怖かった。

226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 01:47:18.00 ID:f375UJxw0


「知っていると思うけど、有希はあの通り感情表現が苦手な上に無口なの。つまり奥手なのよ?」

奥手?僕の知る長門さんはそれとは逆だ。初日から僕が驚くくらいに積極的だった。

しかしけして大胆ではなく、一歩、また一歩とゆっくりと恋人らしい振る舞いを迫ってくる。

「だから古泉君が引っ張ってあげなきゃダメなのよ!」

椅子から立ち上がり前のめりにになってそうまくしたてる。

最近は涼宮さんに怒られてばかりだ。

「す、すいません。僕としては事を急ぐのはあまり好きじゃないんで」

「でも!」

「古泉君は紳士なんですねぇ」


232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 01:52:37.38 ID:f375UJxw0

朝比奈さんの流れを読まない一言。

「男の人ってもっと積極的だと思ってましたぁ」

そう言って、羨望にも近い眼差し僕を見てくる。

今回ばかりは助かりましたよ。本当に。

そして、まるで助け舟のように部室の扉が開いた。

長門さんと彼が一緒に部室に入ってきた。

このとき僕は、涼宮さんの追及から逃れた喜びのほかに、少し、ほんの少しだが彼に嫉妬をしていた。

234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 01:57:06.19 ID:f375UJxw0

十二月に入りすっかり寒くなった帰り道。僕は今更ながらも長門さんに懺悔することにした。

長門さんのことを考えていることが、最近多くなっていた。人を好きになるのに時間はいらない。


いつしか僕は……長門さんのことが好きになっていた。


最初の頃の僕の意志とは関係無しに長門さんは僕へのアプローチをしてくる。

やはり無表情だが、そのぎこちない全てが愛らしく見え、帰り道で手を繋ぐことも当たり前になり、僕がその日の出来事を話し、長門さんにも同じ事を聞く。

はたから見れば、仲が良いように映るかは分からない。

それでも僕はこの時間が一日のうちに一番楽しみな時間へと変わっていた。

そして長門さんが彼といる時には、なんとも言えない不快感が付いてまわった。

その嫉妬の気持ちに気付いた時、僕は長門さんに対しての気持ちにしっかりと気付いた。


237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 02:02:04.92 ID:f375UJxw0

いつも通りに連れ立って帰る。最近はただ帰るだけでなく、少しだけ歩き回っている。

そして誰もいない静かな公園に着いた。空は暗くなり、電灯が足元を照らしてくれる。

僕は意をけしてきりだした。

「僕はあなたに謝らないといけません」

唐突だったかもしれない。長門さんは無垢な瞳で見上げてくる。

その視線をしっかりと受け止めながら僕は言葉を続けた。

「僕が最初にあなたに告白をしました時のことを覚えてますか?」

長門さんは小さく頷いた。

忘れるはずもないだろう。彼女はそういう存在だ。

「あの時の告白は……咄嗟でついた嘘でした」

241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 02:06:02.33 ID:f375UJxw0

いつかは言わねばと思っていた。長門さんのことを好きになればなるほどにあの時のことが後ろめたくなっていた。

もしこれで長門さんに嫌われるならそれでも構わない。でももう嘘をついたままでいられる関係ではなくなっている。

ここらが潮時というやつだろう。僕は全てを懺悔したうえで、今度は本当の気持ちを言おうと思っていた。

「スイマセンでした」

そう言って頭を下げた。こんなに真剣に頭を下げて謝罪の言葉を言ったのは初めてかもしれない。

「……知っている、あれはあの場を逃れるための嘘」

少しの間を置いて、長門さんがそう言った

全て気付かれていた。いや、相手は長門さんなんだ。気付かれてないわけがない。

「私も謝罪しなければならない」

「え?」

「私もあなたを利用した」


246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 02:09:26.97 ID:f375UJxw0


利用とはなんだろう?僕が尋ねるより先に長門さんが答えてくれた。

「以前クラスメイトから本を借りた。内容はいわゆる『恋愛』とされるジャンル」

クラスメイト?本?以前誰かから聞いた。

「今まで読んでいたSF小説にもそれに近い内容はあった。しかし、詳しい精神状況を書かれたものはそれが初めてだった」

恋愛小説ということだろうか?これであの積極的な態度が説明できる。

実践した、ということだろう。毎度毎度の僕のリアクションはきっと長門さんを満足させたに違いない。

「私という個体はその内容に興味を覚えていた。人が人を好きになる瞬間。愛しい人と一緒にいたい感情。誰かを思うと他の事が手につかない状況。どれも私にはないもの」

自律進化の可能性を探って涼宮さんについた結果がこういうことになったんだろう。

長門さんは人間ではない。それでも確実に人間へと歩み寄っていた。


248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 02:14:25.61 ID:f375UJxw0

「『恋愛』という行動や感情に興味を抱いていた時、古泉一樹、あなたが私を好きだと言った」

思い出した。彼だ。あの時の電話の内容がおぼろげによみがえる。

彼は長門さんが恋愛小説を読んでいたこと、そして『恋愛』に興味を抱き始めていたことを知っていたんだ。

「脳波の揺れですぐに嘘だと分かった。しかしそれは一つの機会だった。だから申し出を受けた」

「もしそれが僕じゃなくても申し出は受けた、ということですか?」

少しだけ寂しい気持ちになって聞いた。そもそも原因は僕自身だ。それでも今となってはどうしても聞きたくなってしまった。

「それは違う。選択肢は彼かあなた。しかし私からはこのことを上手く説明できなかった。だからあなたを利用した。申し訳ないと思っている」

その言葉を聞き、喜んでいる自分と悔しがっている自分がいた。

長門さんが前から彼を特別視していたことは知っていた。もし長門さんに真っ当な感情があれば、それこそがすなわち『恋』だったのだろう。



251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 02:18:51.84 ID:f375UJxw0

「構いませんよ。ようはお互い様ということですね」

ここからが本番。今の僕の気持ちを伝える。

「ここで一旦僕たちの関係を解消しましょう」

「……そう」

「はい、恋愛ごっこじゃこの先続きなんてありません」

長門さんの表情が少しだけ曇った気がする。僕は構わずに言葉を続けた。

「だからですね、改めて長門さんに話したいことがあります」

そう言って長門さんの両肩に手を置いた。

ちょうど正面に立つ位置だ。僕より背の低い長門さんはどうしても僕を見上げる形になる。

253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 02:23:10.69 ID:f375UJxw0

空からまるで雰囲気を出すように雪を降ってきた。

背中を後押しされるどころか、急かされてるようにも感じる。

「最初こそ嘘でした。でも、でも今は違う」

息が出来ない。心臓の音が大きすぎて周りの音が聞こえない。

身体が熱くなりすぎて湯気が上がっている気分だ。

「僕はあなたと接しているうちに、徐々にあなたに惹かれていきました」

言葉は出るが呼吸を本当にしているか分からない。

まさかこんなに緊張するなんて。

……それもそうだ、今度は嘘じゃない。本当だから。

「僕は長門さんが好きです。だからまたもう一度、最初からやり直しましょう」


255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 02:27:54.58 ID:f375UJxw0

思えば、最初に嘘で好きと言った時から一度も長門さんに好きだと言っていなかった。

二度目に言ったこの言葉は紛れも無い真実の言葉。

しばらく沈黙が続いた。僕は長門さんの答えをゆっくりと待った。急かす必要はない。

それから少しして長門さんの口が動いた。

「好き、私はそれがどういった感情なのか理解出来ていない」

このひと月あまり、僕はまだ何もしていない。嘘の関係。恋愛の学習。互いに近くにはいても、心はまるで歩み寄ってはいない。

長門さんが本で得た恋愛の知識がどういったものかは分からない。しかし恋愛には教科書や正しい知識はない。

「それでも構いません。僕が気付かせます」

僕は長門さんを真っ直ぐに見ながらそう言った。


261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 02:32:11.21 ID:f375UJxw0

「しかし情報統合思念体からも恋愛に関しては何も返答が無かった。あなたにそれが出来るとは思えない」

「そうですね。僕に情報統合思念体が満足する答えを出せるとは思っていません。でも、でも長門さんを満足させることはきっと出来ます」

外野は関係ない。機関だろうが情報統合思念体だろうが関係ない。これは僕たち二人の問題だ。

「本には、愛している、と、好き、という表現があった」

「僕はまだ大人になれない半人前です。愛という表現を使えるほど立派ではありません」

互いの息遣いが見てとれる距離。互いが喋るたびに白くなった息が視界を横切っていく。

「だから僕はあなたを好きだと言いました。確かに愛してるという言葉に比べれば稚拙な言葉かもしれません。それでも僕があなたを想う気持ちに偽りはありません」

自分でも驚くくらいに自然とそう言った。僕に愛は語れない。語れるのは今の僕の気持ちだけだ。

「その感情を理解できたとして、私があなたを好きになるとは限らない」

それでも構わない。今の僕には自信がある。

それは自惚れかもしれない。それでもだ。

262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 02:36:26.42 ID:f375UJxw0

出来ることなら雰囲気のままで唇を重ねてしまいたかった。でもそれは自重した。

まだ長門さんの気持ちが決まっていない。

もし僕がそれをすれば長門さんは抵抗しなかっただろう。それは本で見た知識があっただろうから。

始まったばかり、先は長い。

だから待つんだ。いつか長門さんが僕のことを好きと想ってくれるときを信じて。

その瞬間は来るかもしれないし、来ないかもしれない。

受け入れてくれたその時、僕らはやっと恋人になれる。

その時まで、僕たちのプラトニックな付き合いは続けていく。


264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 02:41:24.43 ID:f375UJxw0

さっきも触れたとおり、まだ長門さんの答えはもらっていない。

それでも僕の隣で一緒に歩いてくれている。

ただ繋いでいただけの手も、それは次第に指を絡めるような繋ぎ方へと変わっていった。

互いに今まで隠していたことを話した分、少しだけ距離が近くなったのかもしれない。

「寒くないですか?」

長門さんは僕の手を軽く握り、こちらを見る。

「あなたの手はとても暖かい」

僕を見上げるように言ったその長門さんの表情には僅かな笑顔が見てとれた。

長門さん、それは卑怯じゃないですか?あなたに心奪われているこの状況での初めて見た表情。

普通の人は気付かないかもしれない。でもSOS団ならそれに気付くことが出来るだろう。

自分の耳が真っ赤になっているのが分かるほどに体が熱くなる。

「?体温が上昇した」

僕は軽く頭を振って冷静を取り戻した。照れてしまって真っ直ぐに長門さんを見れない。

「大丈夫ですよ。僕も長門さんに触れて暖かくなっただけですから」


〜Fin〜

275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/19(水) 02:51:41.76 ID:f375UJxw0

>>1です

ありがとうございました。
所々カットしすぎて少し意味不明でした。
それが今の技量ってことですね。精進します。

今回のスレは、ハルヒSSまとめサイト+αの掲示板からネタをもらいました。
◆qm7h95m5usさん、ネタを上手く料理出来なくてスイマセンでした。
厳しく批評お願いします。

今度何か書くときはもう少し面白く出来るようにします。



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