ハルヒ「やり残したこと、なんだかわかったの」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:05:47.44 ID:cxQXD5qS0

夏の終わりにもかかわらず、うだるような暑さの中。
俺とこの団長様は防波堤に座り、背中をくっつけて、風景画を描いていた。

キョン「あぢ…」

ハルヒ「…あたし……もうちょいでできるから……あんた、負けるわね……」

キョン「お前が描き終わるのが先か、ぶっ倒れるのが先か……」

ハルヒ「無駄口叩くな…暑い……」


なんでこんなことになったのかというと。
それは、昨晩のこと。



3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:06:59.70 ID:cxQXD5qS0

長門「ループを抜け出す方法が見つかった」

「「「!?」」」

みくる「ほんとですかぁ!?」

キョン「やれやれ、やっと夏が終わるのか…」

古泉「して、その方法は?」

長門「涼宮ハルヒのやり残していたこと、それは…」

み古キ「……」ゴクリ


長門「風景画の宿題」




4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:09:01.66 ID:cxQXD5qS0

み古キ「…………は?」

長門「涼宮ハルヒは8月31日の晩、風景画の課題が出ていたことに気付き、『夏休みが終わらなければ課題を出さずに済む』と思索した」

古泉「…………ちょっと待ってください」

長門「…何?」

古泉「ということはアレですか、涼宮さんはこれまでのループ中、何度も課題の存在忘れ続けていたと…?」

長門「…そう」

古泉「……なんという」



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:10:09.71 ID:cxQXD5qS0

みくる「でもよかったですぅ!あたしこれで未来に帰れるんですよね!?長門さん、ありがとうでしゅ!」ギュー

長門「……いい」

古泉「しかし、どうします?今日はもう8月30日…あと少しで日付が変わりますが…。僕はもう課題をすべて終えてしまいましたよ」

みくる「私もでしゅ」

長門「私も既に課題の処理を完了している…」

古泉「もう一度描くというのも……」

キョン「おい待て、風景画ってなんだ」




7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:11:01.37 ID:cxQXD5qS0

み古長「………」

長門「……馬鹿がいた……」

古泉「あなたがお馬鹿さんで助かります。今からでも涼宮さんと連絡を取って課題を一緒にやろうと誘ってください」

キョン「待て待て待て、さりげなく俺を馬鹿にしやがって。今から!?しかも明日一日で完成するのか!?」

古泉「あなたはどうかわかりませんが涼宮さんならなんとかなりますよ」

キョン「俺の課題…」

長門「あなたには他の課題も残っている…。明日一日急いだところで間に合うとは思えない…。風景画だけでも完成させるべき」

キョン「長門まで…」


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:13:27.11 ID:cxQXD5qS0

みくる「キョン君!あなただけが頼りなんでしゅ!がんばってください!!」ギュギュー

キョン「朝比奈さんのためなら風景画の100枚や200枚、なんてことはありません」キリッ

長門「……やっぱり…馬鹿……」ヒソヒソ

古泉「鼻血吹き出しながら言っても説得力ゼロですね」ヒソヒソ




11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:15:16.57 ID:cxQXD5qS0

prrr prrr

ガチャ

ハルヒ「ん〜……誰………?」

キョン「ハルヒ、お前に残念なお知らせがある」

ハルヒ「キョン……?なによ…こんな時間にかけてきて…しょーもないことだったら張り倒すわよ…」

キョン「いいか、よく聞け。お前は風景画の課題を忘れているはずだ」

ハルヒ「風景画〜…?そんなの………………あ」

キョン「やっぱりな」



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:16:27.55 ID:cxQXD5qS0

ハルヒ「なっ、なんであんたがそれを知ってんのよ!?」

キョン「俺はいつでもお前を見ているからさ…フヒヒヒ」

ハルヒ「キモいわねっ!!…あぁぁあどうしよう…」ガクブル

キョン「おい、聞いてるのか?わかったら北口駅公園に朝の9時集合な。画材を忘れずに持ってこいよ」

ハルヒ「ち、ちょっとキョン!?」

ガチャ




14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:17:17.63 ID:cxQXD5qS0

キョン「…まぁこんなもんか」

古泉「頼みましたよ、あなたにかかっているんですから。なんとしても彼女の課題を終わらせてください」

長門「…これ以上のループはこの世界の限界にも関わる…。がんばって…」

みくる「キョン君!がんばってくだしゃいね!!」

キョン「………やれやれ」


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:19:03.15 ID:cxQXD5qS0

北口駅。AM9:10。
改札を抜け、公園のベンチに目をやると、白いワンピースにつばの幅の狭い麦藁帽子を被った、膨れっ面の少女が座っていた。

キョン「よっ」

ハルヒ「……そっちが時間を指定しておいて遅れるとはいい度胸ね」

キョン「電車の乗り継ぎミスったんだよ。画材は持ってきたか?」

ハルヒ「ん。まさかあんた忘れたんじゃないでしょうね」

キョン「持ってきてるに決まってんだろ。で、どこで描く?いっそ『北口駅の風景』とかでもいいんじゃないか?近いし、なかなかユニークなテーマだろ』

膨れっ面のままのハルヒは、画材をかかえ、立ち上がった。
白いワンピースの裾がひらひら揺れる。


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:20:35.88 ID:cxQXD5qS0

ハルヒ「……海が描きたいわ」

キョン「海?…こっからだと…ポートタワーがあるあたりか?」

ハルヒ「そんな騒がしいところは嫌よ。どうせやるなら徹底的に描いてやるわ」

キョン「ならどこに行くってんだよ?」

改札口にずんずん歩いていくハルヒに向かって、少し大きめの声で問うた。

ワンピースのすそをふわりと翻し、ハルヒは振り返る。


ハルヒ「キョン、島に行くわよ」





17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:21:36.85 ID:cxQXD5qS0

携帯で調べたところ、北口駅からその島へは、私鉄とJRと船を乗り継いでも1時間程度で行けるようだった。

キョン「だからってなんで島なんか…」

ハルヒ「昨日テレビの特集で見て、ちょうどこんな場所で絵を描いてみたいと思ってたとこなのよ」

キョン「……昨日まで忘れてたくせに…」

ハルヒ「なんかいった!?」

キョン「なーんも言ってませんよー」

新快速に揺られながら、窓に頬を寄せた。




18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:23:55.71 ID:cxQXD5qS0

そんなこんなで、2つの電車にゆられて30分。船が出ている港のある駅に着いた。

キョン「…えーと、高速艇の乗り場は…」

ハルヒ「キョン!あたしあれに乗りたいわ!」

ハルヒが指差した方向に見えたのは、大きなフェリーだった。
側面にでかいタコの絵が描かれている…お、あっちのフェリーはイルカだ。

キョン「なになに……おいハルヒ、あのフェリーだと島まで25分もかかるみたいだぞ。あっちの高速艇のほうがよくないか?」

ハルヒ「値段をよく見なさいよ、馬鹿」

えーっと、なになに……ふむ。高速艇一人450円。フェリーは……380円か。



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:25:17.71 ID:cxQXD5qS0

キョン「…フェリーにしようか」

ハルヒ「あんたの財布の事情を考えてやったのよ、感謝しなさい!」

へいへい…。そしてやっぱり俺が払うんですね、わかります。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:26:04.78 ID:cxQXD5qS0

フェリーの甲板は潮風がすごかった。
その割には揺れをあまり感じない。
船酔いの心配はいらなさそうだな。安心安心。
そして、団長様は、だ。

ハルヒ「ひゃーーーー!」

甲板の一番後ろ、海に一番近い場所で奇声をあげていた。
まったく、場所をわきまえろ。子供がこっちをガン見してるじゃないか。

ハルヒ「キョン!海よ!海!!」

キョン「はいはい、海海」

ハルヒ「何よ、感動が薄いわね。せっかく連れて来てあげたのに」

キョン「交通アクセス調べたり交通費出してるのは俺なんですけどね!」


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:30:13.26 ID:cxQXD5qS0

ハルヒ「でも、あたしが行こうって言わなきゃこんなとこ行かなかったわけでしょ?」

屁理屈だ…とんちだ……一休さんもびっくりの…。
ため息は潮風に運ばれて、少し離れた本州へ飛ばされた。

ハルヒ「わー!!すごいわ!橋の下を通るのね!」

当たり前だろ、橋の下を通らずにどうやって向こう岸の島に…え?橋?

キョン「なるほど…。これはたいしたもんだな」

甲板から見上げると、そこには島と本州をつなぐ大きな橋がかかっていた。



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:31:20.83 ID:cxQXD5qS0

ハルヒ「これが世界最長の吊橋ね」

キョン「?世界最長?これで?」

ハルヒ「そうよ。夜にはライトアップもされるみたいだわ」

キョン「ふーん…瀬戸大橋のほうが長そうに見えるが……」

ハルヒ「バカキョン。あれは『吊橋』じゃないでしょ」

へー。
そうなのか。




25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:32:31.12 ID:cxQXD5qS0


橋の下を過ぎると、島はもう目と鼻の先だった。
タコの絵のフェリーを下りた俺達は、とりあえず絵を描く場所を探すことにした。

ハルヒ「この防波堤なんかいいんじゃない?橋もよく見えるし」

キョン「そうだな、そうするか」

橋と、その先の本州がきれいに見える防波堤によじ登り、俺とハルヒは画材を広げた。

ハルヒ「…ねぇ、ただ描くだけじゃつまんないわ。何か賭けましょうよ」



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:33:56.33 ID:cxQXD5qS0

キョン「『描く』に『賭け』?新手のシャレか?」

ハルヒ「うるさいわねっ。じゃあ早く描きあげたほうがジュース買ってくること!ただしそれまでは一切水分なしの我慢大会よっ!」

キョン「………楽しいか?それ…」

ハルヒ「えぇ!それじゃ、いくわよっ!絶対勝つんだから!」

やれやれ。
言わなくてもお前が勝つに決まってるだろうに。



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:36:03.33 ID:cxQXD5qS0

こうして、冒頭に戻るわけだ。


ハルヒ「………できたわ!」

キョン「なにッ」

ハルヒの画板を覗き込むと、そこには多少粗削りの感はあるものの、立派な橋と海、本州が描かれていた。

ハルヒ「これで私の勝ちね!ほら、とっととジュース買ってきなさい!」

キョン「へいへい…何がいいんだ?」

ハルヒ「ペプシNEX」

まったく…今日で何円散財することになるやら…。




29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:37:56.24 ID:cxQXD5qS0

キョン「買ってきたぞー」

ハルヒ「早く寄越しなさいよ」

汗だくのハルヒがこっちに右手を突き出す。
麦藁帽子の下で、汗が一筋流れた。

キョン「ん」

ハルヒ「…ぷはーっ!!生き返るわね!!」

キョン「オッサンかよ…」

ハルヒ「うるさいわね、水分ナシで炎天下で絵を描き続けたら喉も渇くわよ」

キョン「やろうって言ったのは誰だまったく…。……ぷはーっ」



30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:38:54.21 ID:cxQXD5qS0

ハルヒ「…あんたそれ好きよね」

ハルヒは少し冷めた目で、俺の持っているファンタゼロ(サイダー味)の缶を睨む。

キョン「あぁ、この科学的な甘さがなんとも」

ハルヒ「……変な奴」

キョン「お前に言われたかねぇよ。…というか」

ハルヒの右手に握られた、黒いペプシの缶を一瞥する。



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:40:11.09 ID:cxQXD5qS0

ハルヒ「?なによ?」

キョン「…いや、女子ってさ、わりといつもお茶とか水とか午後ティーとか飲んでるけど…お前いつもそれだよな」

ハルヒ「なんで他の子の真似してそんなの飲む必要があるのよ。あたしはこれが好きだから飲んでるの、悪い?」

キョン「……いや、いいと思うよ。お前らしくて、俺は好きだ」

そういうと、ハルヒは「ふんっ」と顔を背け、ペプシの缶を傾けた。
少し顔が赤い気がした。日差しのせいだろうか。



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:42:12.46 ID:cxQXD5qS0

ハルヒ「…それよりっ。あんたまだ下書きやってるの!?」

そういえば風景画なんか描いてたんだっけか。すっかり忘れてた。
ハルヒが両手で持ち上げた画板の上には、いびつな形の橋と、先で引いただけの海が浮かんでいた。

ハルヒ「しかもへったくそねぇ」

キョン「悪かったな、絵は苦手なんだよ」

ハルヒ「これじゃ今日中に完成しないじゃないの!あたしが手伝ってあげるからなんとしても仕上げるのよっ!」


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:43:32.41 ID:cxQXD5qS0

それから、ハルヒは小さな筆、俺は大きな筆で、色づけを始めた。
俺が大雑把に大筆で色づけたところに、ハルヒは小筆でこまかく調子をつける。
空の青、海の青、本州に見えるビルの灰、山の緑、橋のグリーングレー。
俺のざっくりした塗り方の上から、ハルヒの塗る繊細なタッチが縁取りをする。
そうして、30分後には、下書きからは想像もできないような立派な絵が仕上がった。

キョン「…ほぉ……なかなか…」

ハルヒ「ほとんどあたしのお陰じゃない」

確かに。

何はともあれ、手付かずの宿題の一部は、こうして完成した。





35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:44:29.51 ID:cxQXD5qS0

古ぼけたフェリーの待合所のベンチで、俺とハルヒはぼーっと座っていた。
あるのは、古ぼけた脱衣麻雀のアーケードゲームと、いくつかの自販機。
クーラーのきいた室内には、ひんやりとした空気。

キョン「さて、絵は仕上がったけど、これからどうするんだ?帰るか?」

ハルヒ「…んー…、今何時よ?」

キョン「……1時半だな。結構早く仕上がったみたいだ」

ハルヒ「船の最終は?」

えーっと…時刻表は…
なになに、終電ならぬ終船は…10時!?


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:45:21.60 ID:cxQXD5qS0

キョン「10時だって。ずいぶん早いな」

ハルヒ「……」

しばし沈黙した後、ハルヒはすくっと立ち上がって、券売機の隣の受付へずんずんと歩いていった。

キョン「…ハルヒー?」

ハルヒ「キョン、高速艇ならまだ最終の船あるかもって!行ってみましょ」

だだだっと戻ってきたハルヒは、画材と俺の首根っこを掴んであわただしく待合所を出た。
まったく、俺は荷物扱いか。



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:46:50.74 ID:cxQXD5qS0

キョン「高速艇って…ここと船着場は別だろ…」

ハルヒ「場所なら聞いてきたわ。この道をまっすぐ行けばすぐだって」

ハルヒの指差す方向には、小さめのビルのようなものが見えた。
…駅ビルならぬ…船ビル…?

フェリー乗り場を出て、俺達は国道沿いの道を歩く。
ハルヒの案で、商店街の中を通っていくことにした。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:47:37.06 ID:cxQXD5qS0

キョン「…しかし…なんというか」

ハルヒ「シャッター商店街って感じね」

キョン「こら、聞こえてたらどうする」

だが確かに…
軒並みシャッターを閉じた通りはそう名づけられてもしょうがないほどの閑散っぷりだった。
古ぼけた店。さびた看板。以前はおもちゃ屋だっただろう店のショーウィンドウは埃にまみれている。
老人特有のベビーカーのような車をついた老婆と、たまにすれ違った。



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:49:12.35 ID:cxQXD5qS0

キョン「過疎化のせいかな…。昔はにぎわってたっぽいけど」

ハルヒ「…なんか、いいにおいしない?」

キョン「……そういえば」

潮風にまぎれて、ふわりと油のにおいがした。
揚げ物をしているようだ。

ハルヒ「…おなかすいた」

キョン「そういえば昼飯も食ってないしな…」

ハルヒ「行ってみましょ!」



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:50:01.48 ID:cxQXD5qS0

俺に画材を預け、ハルヒはにおいの発信源へ突っ走った。
二人分の画材は結構重い。ケースが揺れて、中で筆や絵の具ががちゃがちゃ鳴った。

しばらく歩くと、通りに古ぼけたビニール屋根を出した肉屋が見つかった。
どうやらにおいの発信源はここのようだ。
店先ではおばちゃんが色々なものを揚げている。
そしてその前には…

…ハルヒ、あまりそんな今にもよだれをたらしそうな顔で揚げ物を見つめるのはやめてくれないかな。


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:50:47.71 ID:cxQXD5qS0

おばちゃん「いらっしゃい、安いわよー。ガブリ一本80円!」

ハ・キ「ガブリ?」

おばちゃん「あら、知らない?うちの看板商品よ。ほら」

おばちゃんが箸で持ち上げたのは、なにやら、串に刺さった長い棒のようなものだった。

キョン「なんですか、これ?」

おばちゃん「ソーセージに衣つけて揚げたやつだよ。おいしいよー」

あげたてのそれは、おいしそうなにおいで俺の鼻腔をくすぐった。



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:52:30.48 ID:cxQXD5qS0

ハルヒ「それくださいっ、2本で!!」

俺が言うより先にハルヒが叫んでいた。

おばちゃん「あいよ、合わせて160円ね」

ハルヒ「…」

…あ、俺が払うんですね、やっぱり。

新聞紙に包んで渡された2本分の「ガブリ」。
俺の手で湯気を立てるそれを勢いよく奪い、ハルヒは、文字通り「ガブリ」とかぶりついた。



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:54:00.03 ID:cxQXD5qS0

ハルヒ「…!!」

キョン「うまいか?」

ハルヒ「おいしー!!」

女ってのはどうしてうまいもん食うと暴れるのかな。
せっかく白いワンピースなんて清楚なもん着てるのに、それじゃ台無しだぞ、ハルヒ。
まぁ俺も食べるとするか。



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:55:54.40 ID:cxQXD5qS0

キョン「ん」

ハルヒの真似をして、「がぶり」。
衣がしゃくっと音を立てて崩れる。
口の中には肉汁を立てて、絶妙な揚げ加減のソーセージ。

キョン「…なかなか」

アメリカンドッグとも違った味わい…ふむ、絶妙だ。

ハルヒ「空腹は最高のスパイスとは言うけど、あのおばちゃんの揚げ加減ったら絶妙ね!!」

同じことを考えてやがったか…

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:57:50.76 ID:cxQXD5qS0

シャッター商店街を抜けると、少しにぎわった通りに出た。

ハルヒ「同じ商店街でもこのへんは結構にぎやかね」

キョン「そうだなー。スーパーがあるからかな」

スーパーの隣には魚屋、肉屋とが続く。
昼飯時を過ぎたその界隈は、シャッター商店街よりはにぎやかなものの、やはり見かけるのは老婆やおばちゃん、小さな子供たちのみで。

その界隈の果てには、商店街の終わりのゲートのようなものがあった。
そのゲートの横には古ぼけた看板。



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 10:59:59.94 ID:cxQXD5qS0

キョン「高速艇乗り場はあっちらしいな」

ハルヒ「とっとと行くわよー!」

まったく、なんでこの暑さでこいつはこんなに元気なんだ。
同い年とはとても思えないな。

コンクリートの立体駐車場の脇の歩道を抜けると、またさっきのフェリー乗り場より少し小さな港に出た。
フェリー乗り場から見えた港ビル。いくつもの漁船が停泊した漁港。
橋の下を通って、白波を上げて近づく客船が小さく見えた。あれが高速艇だろうか。



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:01:04.76 ID:cxQXD5qS0

ハルヒは早くも港ビルの入口にいる。

ハルヒ「キョーン!!はやくきなさいよ!!」

キョン「やれやれ…そんなに急がなくてもいいだろうが」

二人分の画材の重さが今頃身に染みてきたぜ。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:03:06.28 ID:cxQXD5qS0

港ビルは観光案内所の役割も果たしているらしい。
島の名産のタマネギや、まんじゅうなどを売っている土産物屋、アイスクリーム売りのカラフルなのぼり。
ほとんど八百屋と化しているようで、土産物屋にはトマトやキュウリなども並べられていた。

キョン「えーっと、終船の時刻…」

深夜便が22:20と23:20、か。

ハルヒ「結構遅くまで出てるのね」

キョン「あぁ、そうだな……ってお前何時までここにいる気だよ!?」

ハルヒ「決まってんじゃない、最終の船までいるわよ」



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:04:32.51 ID:cxQXD5qS0

キョン「…あのな、この世には終船と同じように終電というものがあってだな。それじゃ船には間に合っても電車には明らかに間に合わんだろうが」

ハルヒ「むー…。なら22:20の便で帰りましょ。それならまだ電車もあるでしょ」

キョン「かまわんが……なんだってそんな遅い時間まで」

ハルヒ「せっかく来たんだから目一杯楽しまなきゃ損じゃない!それにもう2時過ぎよ?あんたがちんたら描いてるから遅くなっちゃったじゃない!」

キョン「はいはいわかりましたよっと」

いつものごとく、のやりとりを続け、港ビルを出ようとしたとき。



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:08:08.58 ID:cxQXD5qS0

ハルヒ「……レンタサイクル?」

ハルヒが土産物屋にかかった看板を見つけた。

キョン「観光用レンタサイクルか…一台500円で貸出中らしいな」

ハルヒ「キョン!これ借りましょうよ」

キョン「……どうせ俺がこいでお前は後ろとかそんな感じだろ」

ハルヒ「わかってるじゃないの」

キョン「はぁ…なんでこんなとこに来てまで…」

ハルヒ「ぶつくさ言わないの!料金の半分は出してあげるわよ」

おぉ、珍しい。


55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:09:11.95 ID:cxQXD5qS0

いつも俺が乗ってるママチャリと似たようなタイプの自転車を選び、画材は前かごに放り込む。
潮風にあたるとすぐにこうなるのか、フレームはところどころ錆が目立った。

ハルヒ「おじさん、このあたりにオススメの観光スポットってない?」

おっさん「そうだなぁ…、そこに見える絵島とか、もうちょっと向こうには海岸もあるし…、サービスエリアにはほら、観覧車もできたんだ」

レンタサイクルのおっさんの指差す方向には、小高い丘の上にそびえる観覧車が見えた。



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:09:52.21 ID:cxQXD5qS0

キョン「うぉっ、気付かなかった」

ハルヒ「あそこまでどれくらいかかるのかしら?」

おっさん「だいたいここから20分くらいじゃないの。上り坂だからね。あとは…海岸のほうと逆方向になるけど、サンセットラインってのがあるんだ」

キョン「サンセットライン?」

おっさん「あぁ、まぁただの国道なんだけどね。今日みたいに晴れた日には夕陽が綺麗に見えると思うよ」

ハルヒ「ありがと、おじさん!」

おっさん「いやいや。自転車は最終の船までに返してくれたらいいからね。気をつけていっといで」


57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:11:32.65 ID:cxQXD5qS0

ハルヒに手を引かれ、俺は『いつも通り』、自転車にまたがる。
ペダルのきしみ具合がいいかんじだ。
ワンピースのハルヒは、後ろに腰掛けるように座った。

キョン「で、おっさんのオススメスポットはどれを選んだんだ?」

ハルヒ「きまってんじゃない」

振り返らなくても、ハルヒが不敵に笑うのがわかった。

ハルヒ「全部よ!!」

やっぱりね。



58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:12:57.75 ID:cxQXD5qS0

そこから、ハルヒと俺の自転車の旅が始まった。

ハルヒ「これが『絵島』ね」

キョン「島ってか岩のかたまりだな。烏帽子岩みたいな」

ハルヒ「きれいに模様が入ってるわねー。なんか岩もざらざらしてる」

キョン「砂岩っていうらしいぞ。あ、魚」

ハルヒ「どこどこ!?」

キョン「ほら、あれ」

ハルヒ「きゃー!!すっごーい!!!」ズル

キョン「走ると藻にすべるから気をつけろよ…って行ってるそばから」

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:14:40.22 ID:cxQXD5qS0

ハルヒ「船がいっぱいね。ここも港かしら」

キョン「あちこちに漁船の停泊所があるみたいだな」

ハルヒ「…なんだかまたいいにおいが…」

キョン「お前は犬かよ」

ハルヒ「あっ、あれ…」

キョン「漁師のおっさんかな?なんか網で焼いてるみたいだが…」

ハルヒ「すみませーん!!」

キョン「…アクティブ」



61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:16:36.84 ID:cxQXD5qS0

キョン「…お前の図太さに、今回ばかりは感謝する」

ハルヒ「でしょ!?っていうかあたしが今まで食べてきたウニはなんだったの!?ゴミだったの!?」

キョン「同じウニでここまで違うとはな…」

ハルヒ「ハマグリもなんで焼いて醤油入れるだけであんなにおいしいのかしら!?」

キョン「すぐそこで獲れたてを焼くからだろうな…。あぁ…サザエもうまかった…」



62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:17:36.04 ID:cxQXD5qS0

ハルヒ「次はサービスエリアの観覧車ね!急がないと日が暮れるわよ」

キョン「はいはい……。……おいハルヒ」

ハルヒ「なによ?」

キョン「この坂をお前を乗せて上れってか?」

ハルヒ「当たり前じゃない。学校前の坂で鍛えた実力をみせてやりなさい」

キョン「誰にだ」



64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:19:50.81 ID:cxQXD5qS0

ハルヒ「結構高いのね」

キョン「……あぁ」ガクブル

ハルヒ「あたしの家も見えるかしら」

キョン「…見えるわけないだろ……」ガクブルル

ハルヒ「…キョン…あんたまさか」

キョン「…なんだよ…揺らすなよ?絶対揺らすなよ?」

ハルヒ「そぉい!!」グラッ

キョン「くぁwせdrftgyふじこ」

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:21:11.45 ID:cxQXD5qS0

ハルヒ「大きいのねーこのサービスエリア」

キョン「日本最大級らしいな。橋も綺麗に見えるし」

ハルヒ「あっ、イカ焼」

キョン「まだ食う気か…」

ハルヒ「いいじゃない。せっかく来たんだし」

キョン「長門を連れてきたらこんなもんじゃないんだろうな…」


66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:22:26.10 ID:cxQXD5qS0


ハルヒ「あーあ、夏が終わらなきゃいいのに」

あたりを朱色に近いオレンジが染め上げる中、ハルヒはごく小さな声で呟いた。

俺は心底呆れた。
あれだけ終わらない夏を過ごしておいて、まだ足りないというのか。このワガママ娘。

キョン「お前なぁ…」

重い自転車を押しながら、防波堤を歩くハルヒを見上げた。
見慣れたつり目は、まぶしそうに細められ、頬はオレンジに染まっていた。

レンタサイクルのおっさんが言っていた通り、そこは「サンセットライン」などと大仰な名前を背負うわりには、どこまでも只の国道にしか見えず。
高めの防波堤の外側は浜辺になっていて、潮騒がすぐ近くに聞こえた。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:23:57.68 ID:cxQXD5qS0

ハルヒ「なによ。だって夏が終わっちゃうと…」

キョン「終わっちゃうと?」

この期に及んでまさかまだ「やり残したこと」とやらがあるというのか。
あと数時間で夏休みが終わっちまうってのに。

ハルヒ「…かき氷が食べらんないわ」

ごくりと息を飲んだのが無駄になった。
俺はさながら一昔前のマンガのワンシーンのごとく、ずっこけかけた。



68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:25:16.82 ID:cxQXD5qS0

キョン「…おまえな」

ハルヒ「だってそうじゃない?ほかにも…今日おっちゃんがくれた取れたてのウニだって夏じゃなきゃおいしくないし、そもそも夏休みじゃないとこんなとこ…」

キョン「ハルヒ」

少し早口にまくしたてたハルヒの言葉を遮る。
夕暮れのサンセットライン。
自転車を押しながら歩く俺に、防波堤に登って少し先を歩くハルヒ。
ワンピースをひるがえして、ゆっくり振り返る。



71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:27:58.44 ID:cxQXD5qS0

ハルヒ「…なによ」

キョン「今年の9月にゴールデンウィークがあるの、知ってるか?」

ハルヒ「へ?」

キョン「9月19日から23日。土日と祝日が重なってんだよ」

ハルヒ「それがどうかしたの?」

キョン「…また、来ようぜ。ここ」


73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:29:28.53 ID:cxQXD5qS0

強めの潮風にあおられ、ハルヒは麦藁帽子を押えた。

キョン「今度は、長門や朝比奈さんや、古泉も一緒に」

ハルヒ「…キョン……」

キョン「それにな、秋だってなかなか捨てたもんじゃないぞ?ぶどうに栗、サンマにマツタケ。そうだ、今度学校の中庭の落ち葉を集めて焼き芋やるってのはどうだ?」

ハルヒ「…ぷっ、なによそれ」


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:30:55.00 ID:cxQXD5qS0

キョン「なかなかいい案だろ?それに俺は…文化祭も楽しみだな」

ハルヒ「文化祭?」

キョン「あぁ、今年も何をやらかしてくれんのかなってさ」

先を歩いていたあいつが振り返る。
夕陽を背に負うその顔は、よく見えなかった。
でも、笑ってる。
そう思えた。


79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:32:37.22 ID:cxQXD5qS0

ハルヒ「…当たり前よ。今年も派手にやるわよ!あー、なんだかワクワクしてきたわ!!」

そう言ってまた、歩き出す。
潮風。浜風。
波の音。
光る海に、本州、橋。
いつもの街じゃ見ることの出来ない、景色。

海の向こうに、夕陽に染まった、8月最後の入道雲を見た。



82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:35:03.89 ID:cxQXD5qS0

そのまま俺とハルヒはサンセットラインを引き返し、昼間訪れた港ビルへ歩いた。

キョン「本当に22時台の船じゃなくていいのか?」

ハルヒ「いいの。また9月にも来るしね」

キョン「…そうだな」

麦わら帽子をかぶっていたとはいえ、ハルヒの横顔は来たときよりも少し日に焼けていた。



85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:36:41.89 ID:cxQXD5qS0

高速艇の切符を2枚買った。
450円×2…。今日で一番痛い出費かもしれん…。

ハルヒ「次来るときはもっといっぱいお金持ってくるのね」

…そうか、長門の分か。


夜の橋は、美しくライトアップされていた。
橋げたにかかるケーブルを彩る電飾は、まるでネックレスのようだった。

ハルヒ「…綺麗ね」

キョン「そうだな」

高速艇の窓に頬を寄せて、ハルヒは小さな声で呟いた。
はしゃぎすぎたのか、ハルヒのテンションは行きよりもあきらかに低い。


86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:38:39.24 ID:cxQXD5qS0

…はしゃぎすぎたせいだよな、そう思いたい。

もし、この期に及んでまだやり残したことがあるというのなら俺はどうすりゃいいんだ。

色々と思考を巡らせてみるが、一日中炎天下にさらされていた頭はどうもぼんやりとして、まともな考えなど浮かんでは来なかった。


87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:41:10.11 ID:cxQXD5qS0

交通機関を乗り継いでいる間、しばし思考を巡らせたが、やがて猛烈な眠気が襲ってきた。
あぁ…もうすぐ乗り換えの駅に着くってのに…ここで寝たら間違いなく置き去りにされる…

ハルヒ「…キョン、寝ちゃったの?」

ハルヒがなんか言ってる気がする…。

キョン「…んー…」

なんでか、曖昧な返事をした。



89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:43:01.24 ID:cxQXD5qS0

ハルヒ「…まぁいっか…。あのね、キョン」

ハルヒ「あたし、昨日までずっと、なんかやり残したことがある気がするって思ってたの」

ハルヒ「やりたいこと、せっかくみんなで考えて決めてたのに…ワガママってのはわかってたけどね」

ハルヒ「ずっともやもやしてて、なんだかこのまま夏休みが終わってほしくなくて…」

ハルヒ「でもね、あんたから電話がきて…風景画のことを忘れてたのかって思ったけど、違ったみたい」

ハルヒ「やり残したこと、やっとわかったの」



90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:46:08.01 ID:cxQXD5qS0

ハルヒ「やり残したこと、やっとわかったの」

ハルヒ「あたし…夏休み、キョンと二人で出かけてみたかったの」

ハルヒ「……キョン?」

ハルヒ「………ほんとに寝てるのよね?」

キョン「……」

ハルヒ「……」

ハルヒ「……もう、知らない…」


ぼんやりした意識の中、途切れ途切れにハルヒの声をきいた。



91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:47:37.52 ID:cxQXD5qS0

ハルヒ「…キョン!キョン!!起きなさい!!」

キョン「…んぁ?」

重い瞼を開けると、至近距離にハルヒの顔。

ハルヒ「夙川駅よっ!あんた乗り換えじゃないの?」

キョン「…んー…おわっ!!!」

ハルヒ「もう、ちっとも起きないんだから!」

荷物をかつぎ、座席から立ち上がる。

キョン「じゃあな、ハルヒ。また明日」

閉まりかけたドアに向かって、走り出す。



94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:51:13.92 ID:cxQXD5qS0

キョン「なんだよ?」

ホームに、アナウンスが響き渡る。
ハルヒは、両手に持った麦藁帽子をぎゅっと握り締めて、うつむいていた。

ハルヒ「…今日は、ありがと」

キョン「…あぁ、いつものことだろ」

日に焼けた顔は、いつもの不敵な笑みを浮かべ。

ハルヒ「また、明日ね」

ドアは目の前で閉まった。


さて、明日なんて本当に来るのだろうか?

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:54:05.78 ID:cxQXD5qS0

その晩、俺は潮でべたべたする体をシャワーで洗い流し、ベッドに直行した。

結局宿題は風景画以外は手付かずじまい。
これじゃ新学期が本当に始まったって俺にとってはなんの救いもないわけだが。

まぁそんなこと気にしてたって今更どうにもならん。

今はそれより眠気が勝っていた。

開け放った窓から少し涼しくなった風が吹く。


そろそろ、秋が始まろうとしていた。


100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:56:57.77 ID:cxQXD5qS0

キョン妹「キョンくーん!!おっはよーーっ!!!」ボフ

キョン「ぐおっ」

キョン妹「キョンくーん!!朝だよー!!遅刻だよー!!!」

キョン「遅刻って…まだ夏休みなんだからもうちょい寝かせてくれよ…」

キョン妹「今日は9月1日、新学期だよーっ!!」

うん??



103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 11:59:20.28 ID:cxQXD5qS0

ベッドから飛び起きる。
枕もとの携帯を確認。なるほど、9月だ。

キョン「…終わったか」

キョン妹「なにがー?」

キョン「なんでもない」



104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 12:02:20.37 ID:cxQXD5qS0

一瞬妹にドッキリかまされたのかと思ったが、学校前の坂を上ってるとこれが夢でもドッキリでもないことに気付く。
談笑しながら坂を上る生徒達の話題は、もっぱら夏休みどこに行ったか、宿題は全部済んだかなど。
なるほど、やはり今は9月1日の朝らしい。

古泉「おはようございます」

後ろから嫌味な笑みを浮かべた奴に声をかけられた。

古泉「あなたなら上手くやってくれると思ってましたよ」

キョン「別に…俺はなんもしてない」

古泉「またまた。どうせ耳元で「アイラーヴュ」とか言ったんでしょう?お見通しですよ」


107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 12:05:20.58 ID:cxQXD5qS0

こいつ俺をなんだと思ってやがるんだ。

キョン「そんなことは断じてしてない。ただ…」

古泉「?」

キョン「…うまいもん一杯食って、宿題のごく一部を仕上ただけだ」

古泉「だといいんですがね」

キョン「…お前な」

古泉「んっふ。早く歩かないと遅刻しますよ」



108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 12:07:07.30 ID:cxQXD5qS0

教室の様子もあわただしい。
いかにも夏休みのあとって感じの喧騒が耳に入る。

谷口「よっ、キョン。宿題済ませたか?」

キョン「いや、ほぼ手付かずだ」

谷口「やっぱりな、同士よ」

キョン「お前と一緒にすんなよ。一つだけ済ませたやつもあるしな」

谷口「ここまできたら一つやろうが二つやろうが一緒だっての!」

こいつの軽口も久々だ。



111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 12:09:25.85 ID:cxQXD5qS0

窓際に目をやる。
少し日焼けした腕で頬をつき、外を眺めるあいつ。

キョン「おはよう、ハルヒ」

ハルヒ「…遅いじゃないの」

キョン「つい、今日も夏休みみたいな気がしてな」

ハルヒ「あんたらしく、マヌケな理由ね」

キョン「うっせ」


114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 12:11:58.13 ID:cxQXD5qS0

カバンを机のわきに掛け、椅子に座る。
荷物は風景画の分だけかさばっていた。

ハルヒ「…ねぇ、キョン」

キョン「なんだよ」

ハルヒ「…昨日言ったこと…」

キョン「?なんか言ってたか?」

ハルヒ「…なんでもないわよっ、馬鹿キョン!」

こいつの不思議行動も相変わらずだ。



115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 12:18:30.16 ID:cxQXD5qS0

それから、案の定俺は谷口と一緒に岡部にどやされた。
だが、一つだけ褒められたのは、風景画の出来について。

谷口「そういえばお前、涼宮と風景画描いてたのか?」

キョン「…なんでお前が知ってんだよ」

谷口「そんなもんお前、あんなまったく同じ構図の絵、どうやって描けるんだよ」

ニヤニヤしながら聞いてくる谷口から目を背けた。



116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 12:20:15.13 ID:cxQXD5qS0

谷口「あーあこれだからリア充は困るぜっ!!『一緒に宿題やらない?』ってか!!羨ましいんだよこの野郎!」

キョン「うるせぇ。…おっとそろそろ行かないと」

谷口「また『団活』か?」

キョン「あぁ。また明日な」


117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 12:21:43.01 ID:cxQXD5qS0

谷口と別れ、『文芸部室』へ向かう。
今日は文化祭でのSOS団の活動について話し合うそうだ。

その前に、9月のゴールデンウィークのことも話し合わないとだな。

中庭に目をやると、夏の青々した木立が、少しずつ色を変え始めているように見えた。
完全な枯れ葉になるまでどれくらいかかるだろう。
まぁ気長に待つのもいいか。
秋はこれからだ。



こうして、長い夏は終わった。


118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/18(火) 12:22:24.37 ID:cxQXD5qS0

おわた。
お前ら8月中に淡路島行ってウニ食っとけウニ



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