1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 08:11:15.58 ID:WmDrE1NxO
あるマンションの一室。
ベッドの上。全裸で動かない佐々木を前に、二人の男が無言で立ち尽くしていた。
キョン「…………」
古泉「……何があったんですか?説明して下さい」
キョン「最近、俺がハルヒと上手く行ってないのは知っているな?」
古泉「それは薄々気が付いていましたが……」
キョン「それで佐々木とこういう関係になってな……」
古泉「やれやれ……で、何故佐々木さんが全裸で死ぬ事になるんですか」
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 08:12:16.87 ID:WmDrE1NxO
キョン「……これを使って楽しんでいたら……多分これのせいだと思う」
古泉「これは……麻薬ですか?」
キョン「あぁ、MDMAだ」
古泉「……過剰接種でしょうかねぇ」
キョン「……古泉、俺達は親友だろう?」
古泉「なんですか唐突に」
キョン「頼む!俺を助けてくれ!?機関とやらの力で……」
古泉「…………」
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 08:15:36.77 ID:WmDrE1NxO
古泉「はぁ……それで僕をこんな時間に呼び出したんですね」
キョン「……お前にしか頼めない」
古泉「確かに長門さんや朝比奈さんだと、貴方の力になってくれそうにありませんからね……せっかく身を引いて、涼宮さんと貴方を泣きながら祝福したと言うのに。
そんな貴方が佐々木さんと浮気。薬物を使ってセックス。そして過剰接種で死亡……」
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 08:22:50.60 ID:WmDrE1NxO
キョン「……なんとか揉み消せないか?」
古泉「何とかやってみますが……よりによって佐々木さんですか……かなり難しいですよ」
キョン「そこを何とか!」
古泉「とりあえずやってみますが……あまり期待はしないで下さい」
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 08:55:01.47 ID:WmDrE1NxO
………
……
…
古泉に隠蔽工作を任せた俺は、一旦マンションから離れた。
くそっ、何故こんな事になったんだ。
ハルヒと結婚し、子供が出来るまでは順風満帆だった。
しかしそこからは何をやっても上手くいかなかった。
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 09:00:12.05 ID:WmDrE1NxO
仕事も無く、収入は激減。
バンド活動をするも、全く売れない。
事務所を変えてもそれは一緒だった。いや、むしろ酷くなった。
気を紛らわす為に、酒と女、麻薬に溺れた。
それが原因で、ハルヒと子供とは半年前から別居中。
キョン「俺は悪くない……俺は悪くない……」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 09:12:47.02 ID:WmDrE1NxO
一人、酒を煽りながら俺は呟いた。
そうだ。悪いのは俺じゃない。
この狂った社会が悪い。世界が悪いんだ。
俺は高校時代、世界に安定をもたらす為に頑張った。
宇宙人や未来人や超能力と共にな。
その延長でハルヒとも結婚した。
別にハルヒが好きだった訳では無い。
世界に安定をもたらす為だ。
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 09:18:22.01 ID:WmDrE1NxO
だから俺は佐々木と……
Prrrr
俺の作った曲の着信音が店内に鳴り響く。
古泉からだ。
キョン「もしもし」
古泉「……結論から言います。やはり、隠蔽は無理でした」
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 09:25:06.13 ID:WmDrE1NxO
キョン「……そうか」
古泉「しかし、まだ望みはあります」
キョン「……ハルヒか?」
古泉「そうです。貴方と結婚して、神たる力はほぼ失ってしまいましたが、もしかしたら……」
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 09:32:21.28 ID:WmDrE1NxO
キョン「無理だ」
古泉「え?」
キョン「ハルヒはもう、俺の事を何とも思ってはいない」
古泉「……しかし」
キョン「もう素直に出頭するさ。考えれば、俺が佐々木を殺した訳では無いしな。古泉、警察に連絡して置いてくれ。今からマンションに戻るから」
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 11:09:59.53 ID:y0WprxBj0
キョン 「・・・いや、警察に電話するのは待ってくれ」
古泉 「どうなさるおつもりですか?」
キョン 「単純だ、隠すんだよ」
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 11:37:56.72 ID:y0WprxBj0
古泉 「何を言ってるんですか」
キョン「聞いたままの事だ」
古泉 「・・・僕はどうすればいいですか?」
キョン「レンタカー借りて来い。ステーションワゴンくらいだ」
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 11:42:46.19 ID:y0WprxBj0
古泉 「わかりました」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
古泉が出て行き、物言わぬ佐々木と再び2人きりになった
佐々木を担ぎ上げるとバスルームに運び込み
シャワーで全身を洗い流すとバスタオルと毛布に包んだ
その間に部屋にあった避難経路図をチェックし、非常階段の位置を調べておく
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 11:46:45.56 ID:y0WprxBj0
古泉は意外に早く戻ってきた
古泉 「借りて来ましたよ」
キョン 「随分早かったな」
古泉 「機関パワーは未だ健在ですから。これで運び出すんですか?」
キョン 「ああ。もちろん人の入る物なんてそうそう見当たらん。このまま手で運び出すぞ。」
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 11:49:16.30 ID:y0WprxBj0
古泉 「しかし、監視カメラに映るのでは?」
キョン 「カメラはエレベーターホールを撮るものしか設置されてない」
古泉 「そこまでチェック済みとは流石ですね」
苦笑する古泉と共に佐々木を持ち上げる。
(さて、どこまで順調に行くのか・・・)
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 11:56:14.09 ID:y0WprxBj0
意外な事になんの目撃者も無く、非常階段経由で車に積み込むことが出来た
キョン「古泉。すまないな」
古泉 「なんですか?突然」
キョン「お前にこれ以上迷惑をかけてられない。今すぐ帰れ」
古泉 「こんな事には人手が必要ではないかと。少なくとも僕はそう思いますが」
結局古泉を助手席に、俺はレンタカーを発進させた
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 12:06:19.37 ID:y0WprxBj0
Nシステムという忌々しい代物をご存知だろう
ナンバープレートを自動で読み取って撮影するというありがた迷惑な
犯罪抑止、早期解決システムだ
こいつは同乗者と運転手も撮影してくれる。賢明な方ならわかると思うが
後々発覚した際、撮影されているとアシが付くという事だ
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 12:27:37.92 ID:y0WprxBj0
・・・・・・・・・・
佐々木を自殺の名所に捨てるか迷った末、埠頭から投擲する作戦を選んだ俺だった
古泉に携帯電話でNシステムの場所を調べさせNシステムの撮影を避けつつ
なんとか明け方には無事に外国船が多く発着するある埠頭に到着した。
拾ったコンクリブロックを拾った針金で縛り付けた佐々木を
敢えて埠頭に流れ込むヘドロが溜まったドブ川のほうに投げ捨て
俺達は帰途に着いた
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 12:33:02.23 ID:y0WprxBj0
朝日が眩しくなって来た。しかし車中の俺達は無言だった。
徐々に混雑してくる道。しかし帰りもNシステムに引っかかるわけには行かない。
行きとは別のルートでNシステムを外して走る。
小さなところから綻びが出てくるものだ。油断は禁物だ。
古泉 「・・・あなたは悪夢を見てたんですよ」
キョン「・・・ああ」目線を逸らし、前を向いたまま応えた
道路は混雑している。不自然なほどに。
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 12:40:52.06 ID:y0WprxBj0
混雑は徐々に徐々に進んでいく。
キョン 「・・・なぁ古泉」
古泉 「なんですか?」
キョン 「お前はどうして俺を助けたんだ?」
古泉 「」
古泉が何かを言いかけた時、前の大型トラックが進みだした
ふと開けた視界の先には『 検 問 』を表示した警察車両
車線を塞ぐように停車するパトカーの赤い回転灯の光が朝日の中煌いている。
そして一台一台の車内を点検する警察官達
キョン 「な、なんだってー!」
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 12:55:26.18 ID:y0WprxBj0
警笛が響き渡る中、俺達の順番がやってくる。
カリメロみたいなヘルメットを被った警察官が声をかけてきた。
恐る恐る窓を開ける
P「おはようございます。すみませんね〜免許証の提示お願いします」
警察官は俺の免許証を一瞥すると返却し、あっさり解放してくれた。
意外な事に俺の車の車内検索は無く、俺は胸をなでおろした
古泉のほうを向くと、いつもと変わらない優男の笑顔を浮かべている
なんと肝っ玉の据わった奴だ。
古泉「いやぁ、驚きましたね」
キョン「今ので俺の寿命が5年は縮んだ」
62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 13:04:42.90 ID:y0WprxBj0
古泉がラジオのスイッチを入れた
『・・・朝倉容疑者は依然逃走しており、警視庁では一斉検問を行い・・・』
ずっとカーナビ画面のみを表示させていたために、全く情報を得ていないことに気づいた。
どうやら検問は全く関係なさそうな殺人事件が発生し、それで実施されていたようだ。
古泉「全く物騒な世の中ですね」
キョン「はは・・・」
午前7時。俺は無事に自宅のあるマンションへ戻ってこれた。
レンタカーを返却するという古泉と別れ、俺は部屋に戻った。
朝日が差し込む中、ソファーに座ると急に眠気に襲われる。
そのまま俺は目を閉じた。
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 13:06:05.34 ID:y0WprxBj0
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
俺の前に佐々木が立っている
『僕は・・・君の為になんでもするよ』
『キョン・・・君がそれでいいのなら』
『僕は君を・・・』
急に佐々木が崩れ落ちた
「佐々木!」声にならない声を張り上げる
佐々木を抱き起こすが、
どんどん佐々木は砂のように崩れ落ちて行き、俺の手の上に僅かに残るだけとなった
佐々木を握り締めて俺は叫んだ
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 13:11:36.49 ID:y0WprxBj0
後頭部に激痛が走る。
視界が開けてくる。見慣れた天井。
気づくと俺は床に散らかした発泡酒の空き缶を枕に寝ていた。そばに転がっていた携帯を見ると午後1時。
随分と長い間寝ていたようだったが、意外にたいした時間ではなかった。
携帯に着信はなく、古泉は無事に帰ったのだろうと勝手に納得するし、シャワーに向かう。
熱いシャワーを浴びながら冷静に考える。
夕べは佐々木から誘いを受けて、佐々木のマンションに行った。
佐々木はいつものように俺を暖かく迎えてくれて・・・
・・・俺は佐々木を死なせてしまった訳か。
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 13:21:37.13 ID:y0WprxBj0
鏡に映る俺は血色悪く、艶のない髪。
だが、俺を迎える佐々木はいつも小ぎれいで、昔から変わらず純粋な・・・。
俺に対する好意も変わらず、そして透き通るように純粋なものだったに違いない。
俺がヤク漬けでも、借金まみれでも・・・
それに比べて俺はなんてクズなんだ・・・。佐々木はこんな俺に尽くしてくれたのか。
頬を何かがつたった気がした
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 13:23:29.55 ID:y0WprxBj0
リビングに戻ると、俺は散らかった空き缶やゴミを片付けた。
勢いで台所も自室も全て片付けると、綺麗になった床に寝転ぶ。
ふと枯れかけたスパティフィルムが目に入る。水をやって、ベランダに出した。
そのまま開け放った窓から涼しい風が入ってくる。まどろむと気持ちがいい。
夏の惰眠をむさぼろうと思った途端、インターホンの呼び鈴が鳴った。
70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 13:32:24.03 ID:y0WprxBj0
俺は飛び上がった。口から心臓が飛び出すとはこの事だ。
恐る恐るインターホンの画面を見ると、古泉が立っていた。
「驚かすなよ・・・」
「すみません。そろそろお茶の時間かと思ったもので」片手の老舗和菓子店の袋を持ち上げて見せた
・・・・・・・・・
83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 16:15:18.55 ID:y0WprxBj0
古泉の持って来た水羊羹と1階のコンビニで買ったペット緑茶でお茶タイムと相成った。
しかし、お茶タイムとはいえ、とてもじゃないが水羊羹を楽しむ余裕は俺になかった
「古泉。俺は佐々木にどうやっても取り返しの付かないことをしてしまった」
「そうですね。しかしあなたの生活はいつかこうなってもおかしくはなかったでしょう」
「警察に・・・」
「ですが、あなたは死体遺棄という罪を背負いました。警察に行けば、結果は見えているでしょう?」
急に真顔になった古泉は続ける
「ならば、一切をなかったことにしてこのまま過ごすほかありません。幸い今の所足が付く行動を僕たちは取っていない」
84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 16:19:39.56 ID:y0WprxBj0
「今日、あなたは部屋を片付け、無精ひげを剃って白いワイシャツまで着ている。とても大きな心境の変化があった。違いますか?」
古泉のいう事は的中している。俺は思わず視線を床にそらした。
「お前の言うとおりだ」
「なら、その心境の変化をプラスの方向に変えてはいかがでしょうか?」古泉の顔にスマイルが戻る。
「ああ」俺は古泉の言う事に従ってみる事にした。
85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 16:27:22.34 ID:y0WprxBj0
古泉が帰ったのは午後5時を回っていた。西日が部屋に射し込み始めるなか、俺は冷蔵庫を漁った。
しかし俺の自堕落な生活が反映された冷蔵庫には干からびた調味料と賞味期限の切れたビールだけだった。
やむなく俺は近所の牛丼屋に夕食を求めることにした。
牛丼屋までの道中、俺は何気なく携帯を開いた。
着信履歴「8/7 21:22 佐々木」
そのまま受信メールボックスを開いてみる。
86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 16:31:13.82 ID:y0WprxBj0
<8/7 18:45 本文「今日は会ってくれないのかい?」>
<8/7 18:57 本文「じゃあ待っているよ」>
普段と変わらない文のやりとり。アイツの話し方そのままな本文。
たった24時間前には佐々木が生きていた。
温かくて、俺を愛してくれて・・・佐々木が生きてたんだ!
視界がぼやけている。こみ上げて来る何か。
気づいたら道路の真ん中で泣き崩れていた。
87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 16:38:10.28 ID:y0WprxBj0
・・・・・・・・・
「大丈夫ですか?」
顔を上げると心配そうに立っている女性。
ああ・・・俺は何をやってるんだ。顔がほてるのを感じながら立ち上がった。
メガネをかけた女性。涙でまだぼやけているが結構綺麗な部類なんだろう
「大丈夫です。すみませんでした」
ハンカチを差し出していたのに気づき、それを固辞するととっととその場から逃げ去った。
恥ずかしい。ああ、恥ずかしい。見えなくなった辺りから牛丼屋まで全力でダッシュした。
89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 16:53:53.48 ID:y0WprxBj0
――12時間前
―う―本部から各局
――西―PS管内199発生に伴い、緊急配備を発令。
マル被にあっては年齢25歳前後、身長1m60cm位、細型、女1名
着衣にあっては黒系ののパンツスーツ、靴にあっては不明。
頭髪は長め、めがねとマスクを着用、状況にあっては申告人 これが女性の悲鳴を聞き、駆けつけたところ
マル被がマル害の胸部に刃渡り約15cmのナイフ様な刃物を突き刺し
現場から東方向へ走って逃走したもの。なお、マル害にあっては即死状態
よって東方向を重点とした徹底マル索の実施、マル被に酷似した者に対しては職質を実施し、
マル被の発見、検挙活動に努めよ!また、マル被はマル凶を所持したまま逃走していることから資機材を活用し
受傷事故防止に十分留意されたし――
91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 17:16:15.14 ID:y0WprxBj0
午後10時。公衆の面前で恥を晒した夕食から4時間。
『全国で男性8人が殺害された連続刺殺事件で、警視庁は指名手配中の犯人と見られる女の監視カメラ映像と似顔絵を公開しました。
この似顔絵、及び映像の心当たりのある方は警視庁連続・・・』
ニュースは全国を暴れまわる連続殺人犯のニュースで持ちきりで、佐々木のことに全く触れられる気配はなかった。
このまま、無かった事になってしまうのだろうか・・・
佐々木の友人や家族が異変に気づくのはいつのことなのか・・・
いや、朝になったら俺の元に警察が来るのだろうか・・・
1人になり、夜が来ると急に不安が押し寄せてくる。
買ってきたチューハイを飲み、早々と布団に潜り込んだ
92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 17:23:46.19 ID:y0WprxBj0
寝る前に自らが明日の朝、何事もなく起きられるのか。
そのまま死を迎えることがないかと不安を感じることはないだろうか。
しかし今の俺はできることならばそのまま死を迎えたい。佐々木を死なせた今、俺に何がある?
俺はどう償えばいい。なぜ俺が。どうしてこんなことに。
思えば高校に入って間もないあの日、俺は後ろの席に座っていたあの女・・・ハルヒに・・・
ハルヒさえ・・・ハルヒさえいなければ・・・
・・・違う!俺だ。俺が悪いんだ
結局俺は苦悶するうちに朝を迎えた
93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 17:32:03.41 ID:y0WprxBj0
6時ごろようやく眠れたものの、9時には暑さで目が覚めた。
まだ萎びかけているスパティフィルムに水をやり、トーストを焼く。
今までの昼夜逆転の荒んだ生活から脱したものの、いざこうなってはやることも特に見当たらない。
新聞も取っていないのでトーストを齧りながらテレビを点ける。
『――プールはすでに平日の午前10時前にしてこの混雑です!』画面ではレポーターがはしゃいでいる。
プールか・・・。子供にはしばらく会っていない。
ハルヒは結構忙しいらしく、子供の相手をできていないという話だったはずだ。
俺はハルヒに電話することにしたした。
95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 17:48:51.95 ID:y0WprxBj0
『お客様のおかけになった電話番号は現在使われておりません。もう一度・・・』
よくあるシチューエションだった。とうとう俺はハルヒに見切られたらしい。
世界で1人だけになった気分というのはこんな感じなのだろうか。
俺はフラフラと外に出た。夏の空は裏腹に透き通るように青く晴れている。
俺をこども達が追い抜いていく。蝉の音はうるさく響き渡り
汗でワイシャツが湿って来る。涼しいところを探しながら
しばらく歩くと「区立図書館」の案内標識。
図書館・・・図書館と言えば長門有希だ。あの無口宇宙人も今は一体どうなったのか・・・
ふと気になった疑念をスルーし、俺は図書館に続く緩い坂を登った
96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 17:54:50.94 ID:y0WprxBj0
図書館は外に比べれば天国のような静けさと涼しさに満ちている。
長門が昔読んでいた本の一冊も探して読んでみようと思ったものの、
ハードカバーにも文庫にも分け隔てなく拒否反応を示していた俺は
あの長門謹製栞が挟まっていたハイペリオン位しかタイトルが記憶に残っていなかった。
検索機でハイペリオンを調べてみるが、貸し出し中だったので新聞コーナーに向かう。
はて、俺はどうして新聞コーナーに来る気になったのだろうか。
そしてまた、どす黒い記憶と現実が俺に圧し掛かってきた
97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 17:59:00.36 ID:y0WprxBj0
全国紙、ブロック紙、地域紙と閲覧棚にある新聞全ての社会面と掲載されそうな面をチェックした俺は、
それらしい記事が載っていない事に安堵した。
一方で、まだ油断は出来ないということを再確認する。
新聞を戻したとき、思わず自分の手を見つめた。
この手で俺は佐々木を殺したという事実。
それがここにあるということ。
その死体を捨てたということ。
俺は図書館を出た。
100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 18:16:17.27 ID:y0WprxBj0
暑い中駅前広場まで辿りついた。駅前の銀行ATMで口座から困らない程度に3万下ろす。
数々の浪費で残高が少なくなってきたとはいえ、まだ蓄えがあるだけマシだろう。
ぼんやり駅前を歩く。楽しそうな笑顔。佐々木も・・・佐々木も生きていれば・・・
「――さん!」
ん?
「――お兄さん!」
振り向くと30代くらいの女性が立っていた
101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 18:23:20.03 ID:y0WprxBj0
「なんですか?」
「ちょっと!お兄さん執事喫茶に興味ない!?」
「・・・はぁ?」
話を聞くにこのうるさいオバハンはどうやら駅前にある執事喫茶の経営者で
死んだような顔をして歩いていた俺が執事喫茶で執事をやるにふさわしいと判断したらしい。
人を見る目のない人だ。
104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 18:36:42.64 ID:y0WprxBj0
あれよあれよという間に執事喫茶への就職が決まった俺は、2ヵ月田中角栄みたいな
元ホテルマンにボカスカしごかれた末、なんとかデビューできた。
人は死ぬ気があれば何でも出来ると言うがそんなことはない。と思っていた
だが、そんなことはあるのかも知れない。
全く興味のなかった紅茶の品種までズラズラ諳んじるようになった俺は
いつのまにやらこの執事喫茶の中でも売れっ子になっていた。
105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 18:43:05.33 ID:y0WprxBj0
しかし佐々木の影は俺から消えることがなく、やってくる客の中に佐々木と似たような雰囲気を持つ女性が
いれば動揺は走るし、一人称が「ボク」の女性が来た時には危うく料理をひっくり返しかけた。
結局佐々木の死体が発見されることはこの半年間なく、俺は執事喫茶の仕事が板についてきた。
―警察は佐々木を失踪事件として扱ったものの、どういう訳か事件性はなしと判断したため捜査も行われていないらしい
古泉からはあれ以来特段この事件に関しては言ってくることがなく、
部屋に俺が拵えた小さな祭壇に月命日にお供えしにくるだけだ
108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 18:56:31.23 ID:y0WprxBj0
『――連続刺殺犯の犯行と思われる男性の刺殺体が発見されました。連続刺殺犯の犯行であればこれで12人目となり・・・』
テレビのニュースは淡々と続け、そのままスポーツに移行した。
そういえばこいつもあれ以来ずっと逮捕されていない。
佐々木が死んでから1年。再び夏が巡ってきた。明日は佐々木の命日だ。
機関の暗躍の結果かわからないがハルヒ達の行方は全くわからず、俺は相変わらず執事をする毎日だ。
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「お帰りなさいませ。お嬢様」
出迎えた女性は黒いスーツでメタルフレームのメガネ
一見キャリアウーマンという感じでとても地味ながら綺麗な印象だ
111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 19:05:35.54 ID:y0WprxBj0
昔なつかし、谷口基準で言えばAA+という所だろうな
彼女は礼儀正しい部類だったのが、何故かポイントカードを断って帰っていった
19時で俺は仕事を上がらせて貰い、俺は佐々木の住んでいたマンションへ向かう。
あの悪夢のような一夜の幕開けとなった時間を、俺はもう一度この場で迎えて生まれ変わってやる。
マンション前の公園のベンチに腰掛けマンションを見上げる。
佐々木が住んでいた部屋は未だ空き部屋のようでカーテンも掛かっていない。
113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 19:16:59.09 ID:y0WprxBj0
あの日。俺は佐々木にMDMAを渡した。
それを渡された佐々木はちょっと困った顔をした後アレを飲んでいた。
鮮明に覚えているのはそこまでだ。
次に思い出せるのは横たわる佐々木。
なんで俺はあんな事をしたのか・・・俺はバカだ・・・。
涙が溢れて来る。
俺は・・・俺はなんて事を・・・佐々木ぃ・・・
125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 19:51:39.28 ID:Q1MUkiSx0
・・・・・・・・・
「大丈夫ですか?」
驚きのあまり全身の毛が逆立った気がした
振り向くと心配そうに立っている女性。
どこかで見たことがある・・・。ついさっき。
スーツでメガネをかけた女性。綺麗な部類だ。谷口式によればAA+
「あ、いえ、ちょっと・・・」
女性はハンカチをポケットから出した。
126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 19:58:13.67 ID:Q1MUkiSx0
デジャヴ。既視感。
どこかで俺はこの人を見た。スーツで、メガネ。
さっきうちの店に来た女性客の1人、それは間違いない。
だがその前にも
「泣いてましたよね?」差し出されるハンカチ。
これを貰っていいのか。顔は涙でひりひりする。
そして微笑みを浮かべる女性。
頭は回らない。次に何が起きるか予想が付く気がする。
130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 20:29:54.44 ID:Q1MUkiSx0
またルーター落ちた。申し訳ない
・・・・・・・・・・・・・・・
「いえ、ご心配かけてすみません」
一礼すると背を向けて立ち去ろうとする。何かがよくない
「なぜ泣いていたんですか?」強い口調。思わず振り返った
「・・・個人的な話ですよ」
「あなたは私と同じ匂いがする」
「はい?」何を言いやがるんだ。貴様電波か
「あなたは人を殺したことがある」
133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 20:35:46.31 ID:Q1MUkiSx0
「は?」
何かが刺さったような気がした
「あなたの殺した相手はこのマンションに住んでいた」
顔面をいきなり殴られたような心境だ。何が、何が起きてるんだ
「もっと細かく言ってあげようか?708号室に住んでいた人」・・・やめろ
やめろ。やめてくれ!
「708号室は半年前、家賃滞納を理由に空き部屋になった」
「住んでいたのは佐々
「やめろっ!」
136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 20:41:09.40 ID:Q1MUkiSx0
「誰だ!お前は誰なんだ!」
「私を覚えていないの?残念」急に寂しそうな顔をしてみせる
「じゃあ誰なんだよ!」
「あなたと会うのは3回目」
「高校時代、1年前、そして今日。あ、テレビでならもっと会ってるかもね」
138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 20:48:14.76 ID:Q1MUkiSx0
「12人殺害の連続殺人犯って言えばわかるかな?」
「は?」
「だけどすぐに私だってわかってくれなかったなんて寂しいなぁ」
メガネを外して胸ポケットへ入れた。
高校時代。会った。誰だ。どこかで・・・
「・・・あ・・・さ・・・く・・・ら?」
「大正解」これは多分文字で表すなら語尾にハートが付く
いや、そんな御託を喋ってる暇はな・・・
「うーん。ショートカットだと、やっぱりわからないのかな?
昔のままの格好で会えばよかったのかな?」
142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 20:55:25.37 ID:Q1MUkiSx0
「お前は長門に・・・」
バカな。長門に結晶だか粉末だかにされたコイツがなぜここにいる?
「なんでここにいるのって顔?必要とされたから私はもう一度ここにいるの」
いつの間にやら新生朝倉の手元にはあの時と同じくナイフが握られている
しかも今回のは暗殺あたりに使いそうな黒塗りの奴が
「有機生命体は死ぬのって嫌みたいね。有機生命体を12柱処分して来たけど
みんなそんな感じだったよ。長門さんはもういない。あなたも終わりね」
「私の仕事はこれで最後なの」
146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 21:05:17.45 ID:Q1MUkiSx0
「ぬぅおっ!」
朝倉の第一撃はなんとか回避できた。
確か今までの被害者はみんな胸部を刺されて死亡だったはずだ
「黙って死んでくれないの?」再び俺のほうへ向かってやってくる
脅威レベルはマキシマム。警察か。警察を呼べばいいのか?
「あなたの存在は今涼宮ハルヒにとっての害。涼宮ハルヒにとっての害は排除しなければならない。
腕に止まった蚊は潰すでしょ?それと同じ」
そんなことを笑顔でつらつら言われても困るぜ
147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 21:09:16.06 ID:Q1MUkiSx0
「さよなら。最初からこうすればよかったわ」
俺には朝倉の腕が5倍くらいに伸びたように見えた
そのまま胸には形容できない痛みが走った気がする
なんだかわからないが熱い物が上がってきて口から溢れる。
そのまま伸びた腕は俺から抜かれて、その反動で俺は仰向けに倒れた
水銀灯に照らされた佐々木のマンション
708号室は・・・・・・佐々木
150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 21:15:26.30 ID:Q1MUkiSx0
正面オートロックのドアの暗証番号は*5070
エレベーターを上がってホール左側のほうに進んでいくと708号室
「佐々木」と綺麗な字で書かれた手書きの表札
俺はチャイムを押す
パタパタという足音がして、ドアの鍵が開く音。そして佐々木が顔を覗かせる
「やぁ、キョン。待ってたよ」
純粋な笑顔。部屋の中からはおいしそうな匂いが漏れてくる。
「俺もだ。佐々木」
「まぁ、早く入ってくれたまえ」
152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 21:22:01.22 ID:Q1MUkiSx0
――本部から各局 本部から各局
――PS管内199発生に伴い、現在、――全運用区緊急警戒が発令された
――発生にあっては場所南区――町――、――-公園
胸部を――刺されたものと思われる――
マル害は男性 25歳〜30歳
――人着は、白いワイシャツに黒いズボン、黒の革靴
――所持品は皮製の二つ折り黒色財布
これに現金3万円
ゆうちょ、みずほのキャッシュカード
いずれも男性名義
免許証――その他――氏名送る――
154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 21:27:59.64 ID:Q1MUkiSx0
「涼宮さん。彼が亡くなったそうです。昨夜、通り魔に刺されたという事です」
「そう・・・古泉君。わざわざ知らせてくれてありがとう。ところで佐々木さんの件はどうなったの?」
「そちらも無事に完了していますよ。彼が亡くなった今、表ざたになることは完全に無くなりました。ご安心を」
「ところで、今夜は?」
「もちろん空いてるわよ!」
「では、楽しみにしてますよ。20時で大丈夫ですか?」
「私がダメって言うと思ってるの!?遅刻したら死刑だからねっ!」
158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 21:36:18.64 ID:Q1MUkiSx0
『全国を震撼させた広域重要指定185号事件こと13人連続刺殺事件で、
警視庁は今日、重要参考人として手配していた25歳の女が死亡していたことを明らかにしました
先月24日、この女が潜伏していた施設に捜査員が踏み込んだ際、女が発砲、警察官と撃ち合いになり・・・』
「ずいぶんエキセントリックな事件ねぇ」
「そうですね。ところで涼宮さん。口に物を入れたまま喋るのはどうかと」
-おわり-
159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/04(火) 21:39:34.83 ID:Q1MUkiSx0
いや、すいませんでしたホント
深く反省しております