1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/27(月) 23:56:02.70 ID:5q40uvvU0
いつもの放課後だった。
穏やかな昼下がり、おいしい紅茶をいれる朝比奈さん、窓際で本を読む長門、そしてオセロの盤をはさんだ向こうにニヤける古泉。
ただ一つおかしな点といえば、わが団長様がこの室内にいないこと。
古泉「めずらしいですね、涼宮さんが遅れるなんて」
ほぼ一色に染められた盤の対岸のこいつは顔色一つ変えやしない。
古泉「何か聞いていませんか?」
キョン「さぁな。HRが終わったらさっさとどっかに行っちまいやがった」
ひくりと、古泉の頬が動く。
何かまずいことでも言ったか?
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/27(月) 23:58:45.68 ID:5q40uvvU0
古泉「………また閉鎖空間を広げることだけはごめん被りますよ」
古泉「……いやに冷静ですね。彼女がどこに行ったか気にならないのですか?」
キョン「あいつにだっていろいろあるだろうさ。俺のしったこっちゃねぇよ」
古泉の頬がひくひく動くのがわかる。
ふむ、なかなかおもしろい。
朝比奈さんはそんな古泉の微妙な変化に気付いたのか、「はぅぅ…」などと小さく声を上げている。今日も相変わらず可愛いぜ、マイエンジェル。
古泉「…何かあったのですか?」
キョン「別に?いつも通りだ。そういえば―」
キョン「なんか朝から元気がなかったような気もする」
ぴしりとした空気が室内に広がる。
キョン「わかってるよ」
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/27(月) 23:59:25.63 ID:5q40uvvU0
ぱちんと、盤に黒い一枚を置くと、残り少なかった白が裏返る。
それとほぼ同時に、長門が本を閉じた。
長門「涼宮ハルヒがこないのなら、今日はもう帰るべき」
キョン「そうだな。やることもないし」
古泉にオセロを片付けさせ、俺は椅子から立ち上がった。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:01:26.16 ID:m80yPrBg0
長門「…………」
キョン「どうした長門。帰らないのか?」
靴箱の前で、長門は立ち止まって、俺を見上げている。
長門「……気をつけて」
キョン「…?何が?」
長門「……なんでもない。それだけ」
いつもの小さな声でそうつぶやき、長門は俺の横を通り過ぎた。
キョン「…………」
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:02:32.47 ID:m80yPrBg0
いつもの放課後だ。
ハルヒがいないことと。
朝から、じくりじくりと痛む俺の首元と。
ブレザーのポケットに突っ込んだ、メモ書きを除けば。
『助けて、キョン。あたし、ななつの月に殺される』
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:04:32.16 ID:m80yPrBg0
やれやれ。何年ぶりだ、この展開。
中3のとき以来だから……そんなに経ってないか。
鈍く痛む首元を押さえ、溜息をこぼす。
キョン「ハルヒを探すか…」
誰に言うでもなく、つぶやいて、俺は靴箱を開く。
見慣れた革靴の上に、青い封筒が乗っていた。
このデジタル化の時代にこんなアナログな方法で情報の伝達をはかろうとする奴が二人もいるとは、少し感動するぞ。
本日何度目かわからない溜息をつき、封を切る。
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:07:51.07 ID:m80yPrBg0
『午後6時、2−5の教室で待ってます』
差出人は、不明か。
まったく差出人の名前も書かずに手紙を出すとはなんて非常識な。
これじゃ返事も書けないじゃないか。
時間……6時。
やれやれ、あと5分か。まったく。
靴箱を閉じて、俺は重い足取りで教室へ向かった。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:11:01.23 ID:m80yPrBg0
夕暮れの教室ってのもなかなか風情がある。
この室内で一つ悪趣味なものといえばそうだな。窓際の席に座ったハルヒくらいか。
座った、というよりは『座らされた』のほうがいいか。
どこが悪趣味って、椅子と体を縛り付けたロープと、口に張られたガムテープがもう気になってしかたない。
キョン「ハルヒ…」
足早に駆け寄り、ガムテープを剥がす。
失ったものを取り戻したかのように、ハルヒは荒く呼吸をした。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:13:14.75 ID:m80yPrBg0
ハルヒ「キョンっ!」
目に涙を溜めたハルヒなんぞそう見れるものじゃない。ちょっと得した気分だ。
なんて言ってる場合じゃなさそうだが。
「遅いよ」
後ろから声がした。
なんかいやーな予感がする。
痛みと熱を持った首元がうざったい。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:16:59.12 ID:m80yPrBg0
渋々振り返れば、懐かしい太い眉が目に入った。
キョン「朝倉じゃないか。久しぶりだな」
朝倉「そうだね。キョン君」
どうして自分がこんなに冷静でいられるのかわからない。
首元の痛みのせいかもしれない。
ハルヒ「朝倉さんっ!?あんた転校したはずじゃっ…」
朝倉「北高が懐かしくてねー、戻って来ちゃったかな♪」
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:17:55.14 ID:m80yPrBg0
二人が小粋な会話を続ける中、俺は状況を確認した。
情報操作は施されていないところを見ると…ふむ、やっぱりそうか。
キョン「……そういうことか」
朝倉「そう。なら話は早いわ」
ハルヒ「なっ、なんなのよあんた達!?」
やれやれ。
こんなのもううんざりだと思ってたのにな。
キョン「―――戦闘システム、展開」
首元の熱が、思い出させる。
俺は、
キョン「俺はBELOVED、佐々木の戦闘機。――今、これよりは、涼宮ハルヒ、LOVELESSのため、戦う」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:18:48.34 ID:m80yPrBg0
朝倉「戦闘システム展開、これは『言葉』による戦闘であることを宣言します。こちらは自動で」
キョン「応じます。俺も自動で」
ハルヒ「なんなのよキョンっ!ねぇっ、なんとか言いなさいよ!」
キョン「……ハルヒ」
キョン「『催眠。眠れ。死んだように。』」
俺の『言葉』と同時に、ハルヒはかくんと首をうなだれた。
朝倉「あら、せっかくこっちはサクリファイスなしっていうハンデをつけてあげたのに。眠らせちゃっていいの?」
キョン「ハンデなんか必要ない。お前なんか俺一人で十分だ」
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:19:35.14 ID:m80yPrBg0
朝倉「ふふ、どうかな。『裂。切り裂け』」
キョン「『防御、俺を通り過ぎる』」
強風が過ぎる。
後ろの窓ガラスが、耳障りな音を立てて砕けた。
防御が遅れたせいか、ブレザーの袖が少し裂けた。
朝倉「ふぅん。腕は落ちちゃいないみたいだね」
キョン「まぁな。しかしお前もなんでまた俺を襲う。長門に消された筈だろう」
朝倉「…長門さんが私をもう一度戻してくれたの。だって―」
朝倉「私のサクリファイスは彼女なんだから」
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:20:30.06 ID:m80yPrBg0
わーお。なんて展開だ。
これもハルヒが望んだことっていうなら俺の隣で眠りこけてるこいつを吹っ飛ばしてやりたい。
キョン「……ハルヒは無関係だ」
朝倉「これは情報統合思念体の意思よ。あなたと『言葉』で戦って、涼宮ハルヒの出方を見る」
なんだか昔聞いたような台詞だ。
これが所謂デジャブってヤツか?
なんて、終わらない夏休みじゃあるまいし。
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:21:34.10 ID:m80yPrBg0
朝倉「『裂破。切り裂け!風がお前を八つ裂きにする!』」
キョン「『無効。風は俺をよける。』朝倉、聞け」
朝倉「『無効。きこえない』」
キョン「『聞け。耳を塞いでもすりぬける。お前は俺の声をきく』」
朝倉「っ!!!」
朝倉の両手首に太めのベルトがはまり、そこから伸びた鎖がじゃらりと鳴った。
拘束フェチではないんだが、『仕組み』だから仕方がない。
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:23:16.77 ID:m80yPrBg0
キョン「『朝倉、お前はルールをやぶった』」
朝倉「きっ、『きこえない!!何も!!!』」
キョン「『聞け。サクリファイスを言葉以外で攻撃、拘束するのはルール違反だ。お前は罰を受けなければならない』」
朝倉「っ!!うぐっ!!」
朝倉の首にもベルトがはまる。
そろそろ限界のようだ。『言葉』も使ってこない。
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:24:29.02 ID:m80yPrBg0
朝倉「うるさいうるさいうるさいっ!!聞こえないってば!!!」
キョン「『お前は罰を受ける。』」
キョン「『消去。消えろ。霧のように』」
絶望したような朝倉の顔。
瞬間、はじけるように奴は消えた。
文字通り、雲散霧消。
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:25:45.58 ID:m80yPrBg0
キョン「……やれやれ」
この教室のありさまを見た明日の掃除当番は卒倒するだろうな。
窓ガラスはすべて割れ、椅子や机は裂けたように壊れている。
俺とハルヒのまわり以外の物という物が破壊されていた。
しかし、掃除当番以外にもこの惨状をなんとかできる者が知り合いにいる。
キョン「…長門ー。いるんだろー、出て来い」
しんとした教室内に間延びした声が響く。
程なくして、ドアが開いた。
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:26:38.70 ID:m80yPrBg0
長門「……」
キョン「やっぱりいたか。ちょっとこれなんとかしてくれ」
長門「了解した。教室の情報操作を行う」
何事か長門が呟く。
それにあわせて、教室が本来あるべき姿に戻っていく。
いつもいつも、こいつの芸当には惚れ惚れする。
長門「…終わった」
キョン「ご苦労さん」
長門「…どうして、わかったの」
キョン「……さぁ、勘かな」
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:27:18.02 ID:m80yPrBg0
きょとんとこちらを見つめる長門。
勘と言うかなんというか、だ。
朝倉は驚くほどあっけなく、消えた。
あれは俺が消したんじゃない。『言葉』の戦闘は相手を消すことなんてできない。
あいつを出したりしまったりできるのは長門くらいのもんだ。
長門「……そう」
キョン「俺もお前に聞きたいことが山ほどある。帰りにマンションに寄ってもいいか?」
長門「わかった。……彼女は」
やばい、すっかり忘れていた。
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:30:12.09 ID:m80yPrBg0
俺の隣にいるハルヒは、椅子にくくりつけられたまま、すやすや眠っていた。
キョン「とりあえずほどこう…」
長門「解く」
縄を解くと、重力に従い、ハルヒは崩れ落ちる。
俺の『言葉』のせいで、仮死状態レベルの睡眠についたこいつは、ちょっとやそっとの衝撃じゃ目を覚まさないはずだ。
キョン「…俺はこいつを家に送ってから行く。先に帰っててくれ」
長門「…わかった」
床に倒れこんだハルヒを担ぎ上げる。
なんだ、意外と軽いな。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:31:04.61 ID:m80yPrBg0
蒸し暑さと息苦しさに、首もとのネクタイをゆるめた。
濡れた感覚と、痛みが襲う。
喉もとが痛い。
キョン「…長門」
長門「?」
キョン「…俺の首もと、何て書いてある?」
長門「…」
長門「…『BELOVED』」
懐かしい名だ。
耳にするのは2年前のあの日以来。
どうやら俺にふりかかった因果な絆は、しばらくは消えてはくれないらしい。
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:32:20.14 ID:m80yPrBg0
ハルヒを家に送り届けてから、長門のマンションに直行した。
相変わらず殺風景な部屋だ。必要最低限のものしかない。
かといってぬいぐるみとかが置いてあっても違和感があるが。
長門「…涼宮ハルヒは」
キョン「家に送ってから催眠を解いた。適当に言い訳しといたからまぁ大丈夫だろう」
長門「…そう」
キョン「…さて、まず聞くが、お前は俺の正体を知ってるのか?」
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:33:28.51 ID:m80yPrBg0
長門「…パーソナルネーム○○○○。通称キョン」
キョン「ふざけてていい立場か?ここで戦闘システム展開したっていいんだぞ?」
長門「…あなたは、佐々木―『BELOVED』の戦闘機。戦闘機としては最高の『言葉使い』」
キョン「…ほー、それは光栄」
正確には最高の言葉使い『だった』だけど。
キョン「で、お前は朝倉のサクリファイスってわけか」
長門「…そう」
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:34:40.68 ID:m80yPrBg0
さて、ここらで置き去りにされてる読者諸君を迎えに行くとしよう。
まず、『言葉』による戦闘とは、武器を使わず、自分の話す言葉で相手に攻撃をしかけることをいう。
いわゆる催眠術や暗示みたいなもんだ。
戦闘に必要なものは、『戦闘機』と『サクリファイス』―訳して『犠牲者』。
文字通り、戦闘機は言葉で戦い、サクリファイスはそのダメージを引き受ける。
戦闘機が『言葉』を使えるのは戦闘システムを展開したときのみ。まぁバトルフィールドを作るって感じだ。
相手のサクリファイスを完全に『拘束』したらこっちの勝ち。
設定的には例の漫画と一緒だ。
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:35:49.93 ID:m80yPrBg0
キョン「俺と朝倉がさっき『自動』って言ってたのは、サクリファイスなしで戦うことなんだな」
長門「…声に出ている」
キョン「おっとすまん」
長門「…いい」
長門のいれたお茶をすする。
朝比奈さんに負けず劣らず、こいつのお茶もおいしい。
キョン「で、朝倉は例の情報なんとか体の命令で俺を襲ったらしいが?」
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:37:36.21 ID:m80yPrBg0
長門「そう」
キョン「しかし、なんでまた俺なんかを」
長門「情報統合思念体は涼宮ハルヒに自律進化の可能性を見出している。そして涼宮ハルヒと同等の力を持っていた佐々木の戦闘機であるあなたが彼女に近づくことで、その足がかりが得られるかと踏んだ」
キョン「…俺はもう戦えない」
長門「あなたは戦っていた。名に背くことで力は半分になっていることを考慮しても、朝倉涼子を拘束するのに要した時間は5分43秒。長いとはいえない」
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:38:37.03 ID:m80yPrBg0
キョン「俺の主人―サクリファイスはもういない。名に背くことや主人を変えることはルール違反だ」
長門「力ずくで朝倉涼子を止めることもできたはず。あなたは言葉で戦った」
おいおいおい、どうしたんだ長門さん。
今夜はやけに饒舌だな。
キョン「……で、お前はどうする。また朝倉を出して俺と戦うか?」
長門「そのつもりはない。私という個体はあなたと戦闘を行うことを望まない」
キョン「情報なんとか体にはどう言い訳をするんだ」
長門「私は『朝倉涼子とあなたを戦わせた』。これで命令は遂行したことになる」
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:39:46.68 ID:m80yPrBg0
キョン「ふーん。なるほど」
長門「…信じて。私はあなたと戦うつもりはない」
キョン「…わかった。信じるよ」
長門にここまで言われて信用しないわけにはいかなかった。
だがまだひっかかる。
キョン「…だがな、長門。なんでそこまで俺にこだわるんだ?」
長門「?」
キョン「確かに俺は戦闘機『だった』。あのときはとっさの思いで戦ったが、俺はもう戦えない」
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:41:06.60 ID:m80yPrBg0
長門「…」
キョン「名に背くことがどれだけ痛いかわかるか?俺の主人は一人だけ。そしてもういない」
長門「…あなたは宣言したはず」
キョン「?」
長門「『これよりは涼宮ハルヒ―LOVELESSのため、戦う』と」
キョン「…」
弱ったな。
俺そんなこと言ってたか?
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:42:19.50 ID:m80yPrBg0
長門「あなたは戦闘機であることを放棄したにもかかわらず、涼宮ハルヒのサクリファイスとしての名前を知っている。何故?」
キョン「…それは……」
なんでだっけ?
あのときは…俺は…?
長門「涼宮ハルヒの戦闘機として戦うことを宣言した以上、あなたはこれからも彼女の戦闘機であり続ける義務がある。あなたは戦う」
キョン「長門。お前一体どうしたんだ?今日はなんかおかしいぞ?」
長門「…『ななつの月』」
キョン「!?」
長門「…この名前に覚えがあるはず」
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:43:23.70 ID:m80yPrBg0
そうだ。
俺は今更になってポケットにつっこんだメモ書きの存在に気付く。
『ななつの月に、殺される』。
キョン「ハルヒに何をした?」
長門「涼宮ハルヒは無事…。今のところは」
キョン「どういうことだってんだよ、ハルヒは今どうなってるんだ?お前が『ななつの月』なのか!?」
長門「違う…。私の役目はあくまで『監察』。あなたにも、『ななつの月』にも関係はない。ただ『知っている』だけ」
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:44:37.79 ID:m80yPrBg0
キョン「長門…俺にだって怒りの沸点くらいあるんだよ。言え。一体何が起こってるんだ」
テーブルの上で握り締めた拳が震える。
人前でこんな感情をさらすのは久しぶりだ。
長門は相変わらず、思索の読めない目でこっちを見ている。
長門「私に言えることは一つ。『涼宮ハルヒはななつの月に殺される』」
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:45:34.92 ID:m80yPrBg0
沸点を超えた。
気付けば俺は、テーブルの向こう側の長門に掴みかかっていた。
こんなことをされてもなお冷静な表情の長門に苛立ちすら覚える。
長門「…落ち着いて」
キョン「これが落ち着いていられるか」
長門「今、涼宮ハルヒが『ななつの月』に誘拐されようとしている」
長門の胸倉を掴んだ右手がひくりと震えた。
頬を冷や汗が伝う。
熱された頭が強制冷却されたみたいに重い。
51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:47:20.55 ID:m80yPrBg0
キョン「な…」
長門「早く行ったほうがいい。戦えるのはあなただけ」
長門は
その小さな白い手で、俺の胸元を押した。
キョン「……お前と話すのはあとだ」
長門「そのほうがいい」
それだけの会話を交わし、俺は長門の部屋を飛び出した。
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:48:16.62 ID:m80yPrBg0
闇だ。
街灯の明かりさえも暗く感じる。
もつれそうになる足取りは、ハルヒの家へ。
さっきの長門の家でのやりとりのせいか、まだ寒気がする。
首もとの痛みは相変わらず消えない。
それどころか、だんだんひどくなっていっているようで。
刺青のように浮き出た主人の名前は、赤く膿んでいる。
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:49:44.29 ID:m80yPrBg0
と、
走り続けるうちに、街灯の下に黒光りする一台の車を見た。
そして、
その車に強引に引き入れられそうになっているハルヒも。
ハルヒ「ちょっと!離しなさいよっ!!!」
キョン「ハルヒ!!」
何も考えず、車に駆け寄る。
車内に引きいれようとした野郎からハルヒをひきはがそうと、その袖をつかんだ。
そのとき、
恐ろしいまでの暗がりに見えたのは、
嫌味な笑みだった。
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:51:38.36 ID:m80yPrBg0
キョン「ハルヒ、大丈夫か?」
ハルヒ「キョン…?なんで…」
キョン「話はあとだ。それより、」
キョン「古泉、お前何やってんだ」
暗がりで、野郎が笑ったのが聞こえた。
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:52:36.88 ID:m80yPrBg0
古泉「…あなたはいつも僕の邪魔をしてくれますね」
黒い車、暗い闇から、姿を現した奴は、確かに古泉だった。
邪魔はどっちだ、まったく。
キョン「…お前が『ななつの月』ってわけか」
古泉「ご名答。よくわかりましたね。長門さんのお陰でしょうが」
ハルヒ「一体なんなのよっ!キョン、古泉君!!悪ふざけもたいがいにしなさい!!」
やれやれ。
こんな事態、普通の女の子なら泣き叫ぶとこだろうが。
こいつなら多分誘拐されたって平然と犯人を誘導尋問なんかしてそうだな。
58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:53:23.72 ID:m80yPrBg0
キョン「…なんで、ハルヒなんだ」
古泉「あなたが一番よくご存知のはずですよ。そこにいるお嬢さんのお陰で機関が今までどれだけ苦しめられてきたことか」
俺の背後のハルヒがびくりと震えるのがわかった。
なんだっていうんだまったく。
キョン「機関の方針は神人の沈静化のみじゃなかったのか」
古泉「それがねぇ、僕も疲れちゃったんですよ」
大仰に両手を広げてみせる古泉は、今までにないくらい、きもちわるい。
こいつも長門も、一体どうしちまったんだ。
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:54:28.76 ID:m80yPrBg0
古泉「そこで、閉鎖空間をなくすには元を断つのが一番ということで、今回の計画にいたったわけです」
古泉は、微笑んでいる。
……あぁ、
俺は気付いちまった。
気付いちまったよ。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:55:15.46 ID:m80yPrBg0
キョン「……一つ聞きたい」
古泉「なんでしょう?」
キョン「…佐々木を、BELOVEDを殺したのは、お前か?」
この短絡的な、狂った手口。
俺の主人をこいつは、
古泉「えぇ、そうです」
62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:56:20.12 ID:m80yPrBg0
頭が痛い。
首元が痛い、痛い。
ハルヒ「…キョン…?あんた…」
キョン「…ハルヒ」
領域を開放させる。
古泉は―、耳鳴りを押さえ込むようにこめかみを押えている。
キョン「…お前は、俺が守る」
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:57:34.80 ID:m80yPrBg0
ハルヒ「はぁ?何言って…」
キョン「お前に仕える。お前を守る。お前のために」
ハルヒ「……わけわかんない。どういうことなのよ、説明しなさいよっ」
ハルヒは―、準備ができてないが、仕方ない。
キョン「俺はお前のものだ。お前のためならなんでもしてやる。だから、怖がらずに、ついてこい」
ハルヒ「……なんなのよ、なんで、そんなこと…いってるのっ…」
キョン「……俺は『言葉』を操る者だから」
やれやれ、
そんじゃ、いきますか。
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 00:58:53.74 ID:m80yPrBg0
キョン「―――戦闘システム、展開」
古泉「んっふ、きましたね。森さん、出番ですよ」
運転席から見覚えのあるメイドさんが現れた。
なるほど、森さんがサクリファイスか。これは手強いかも。
ハルヒ「キョンっ…」
ハルヒは小さく震えて、俺の服の裾を掴んでいる。
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:00:38.91 ID:m80yPrBg0
キョン「『これは言葉による戦闘であることを宣言する』」
古泉「『応じます』」
古泉「僕たちの名前は『スリープレス』。二人でひとつの名前―。終わりなき夜の、暗黒を」
古泉の言葉とともに、辺りの闇が一層色濃くなり、俺たちを包む。
ハルヒ「なに…これ…、催眠?暗示?」
キョン「どっちでも、似たようなもんだ。『光。闇を照らせ、反射しろ。太陽のように』」
反射は一足遅く。
闇を光が照らす前に、俺達を飲み込んだ。
絡み付く、黒いヘドロ。
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:03:08.27 ID:m80yPrBg0
ハルヒ「きゃっ!」
キョン「っ!!」
ヘドロが溶け、光が照らす。
ハルヒの両手首が『拘束』された。
キョン「ハルヒ!大丈夫か!?」
ハルヒ「…なにこれ……気持ち悪い…」
背後のハルヒは、苦しそうにうめき、俺の背中にしがみつく。
67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:04:13.56 ID:m80yPrBg0
古泉「おや、もう拘束されましたか。ずいぶんとあっけないですね」
森「油断しちゃだめよ、古泉。相手は『最高の戦闘機』。力が半分とはいえとてもじゃないけど太刀打ちできる代物じゃないわ」
古泉「わかってますよ。『黒雲。光を隠せ。お前は何もみることはできない』」
キョン「『雷。雲を貫け。千万の矢の如く』」
今回は外さない。
同じ失敗は二度は繰り返さない主義だ。
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:05:16.67 ID:m80yPrBg0
古泉の出した黒雲が小さく渦を巻く中、雷光がさす。
雷はやがて鋭い刃となり、古泉の肩口をかすめ、森さんへ。
黒い雲で守られているはずの森さんの手首には、太いベルトがはまった。
古泉「…」
森「ほら見なさい」
古泉「…あなたはいつも僕の邪魔をする。だから佐々木さんのときもあなたがいないときを狙ったのに」
古泉は、悲しそうな目でこっちを見ている。
佐々木は、こんな奴に。
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:06:08.49 ID:m80yPrBg0
怒りが込み上げるたび、拳に力がこもる。
古泉「『漆黒のカーテン。雷の稲光を隠せ』」
キョン「…『灼熱の炎。布など燃やせ。すべてを―』」
キョン「『焼き尽くす』!」
72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:09:28.40 ID:m80yPrBg0
怒りに任せて叫ぶ。
古泉や森さんを包んだ黒いベールは、紅蓮の炎に包まれた。
背後のハルヒの手首にはまったベルトは焼け落ち、俺達を包み込もうとしたヘドロのような闇も、すべてが燃える。
古泉「ぐあっ!!」
森「きゃあああっ!!!」
森さんは完璧に『拘束』された。
手首どころか体のあちこちにベルトがはまっている。
古泉は、炎の余波を受け、体のあちこちが燃えていた。
古泉「…あな…たは……」
77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:11:48.10 ID:m80yPrBg0
焼け落ちようとしている服の袖の炎を手で消す古泉。
その瞳は、もはや俺が知っているそれではなかった。
ハルヒ「…古泉くん……」
古泉「…この攻撃の仕方。以前見たときとまったく変わっていませんね」
そいつの形相から、何から何までが俺の知らない『誰か』のようだった。
古泉「相手の揚げ足を取るような」
古泉「…気に入らない、戦法」
80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:14:21.81 ID:m80yPrBg0
森「古泉!!いい加減になさい!!」
拘束ベルトにがんじがらめになった森さんが叫ぶ。
拘束されるメイド―ふむ、なかなかいいかも。
森「やっぱり…無茶だったのよ、こんなの…」
古泉「……い」
森「え?」
古泉「うるさいんだよこの雌豚」
82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:16:42.45 ID:m80yPrBg0
森「こいずm」
森さんがその名を呼ぶ前に、
彼女を、赤い光球がつらぬく。
キョン「!!森さんっ!!!」
古泉「あははははは!!!ほらみろ!!!僕に逆らうからだ!!!」
こいつはいつの間にこんなシロモノを使いこなせるようになったのか。
閉鎖空間だけでしか超能力は使えないはずだろうに。
85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:19:45.57 ID:m80yPrBg0
ハルヒ「古泉…くん…?」
キョン「ハルヒ、見るんじゃない」
古泉「きひ、きひひひひひひひひひひ」
『これ』は一体なんだ。
いつもの嫌味な笑いはどうした、古泉。
これじゃまるで、
まるでお前は。
古泉「お前さえいなければああああああああ!!!!!」
87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:20:47.92 ID:m80yPrBg0
瞬間。
俺のまわりの景色は、一切がスローモーションと化したかのように、ゆっくりと動いていた。
狂った古泉は、まっすぐにこっちへむかってくる。
背後のハルヒは震えながら、その様子を見ていた。
はずだったのに。
俺の背中を強く押すのは、その小さな手。
ゆっくりと、俺の前に出る。
見慣れた黄色いカチューシャのリボンが、翻る。
古泉の繰り出す光球が、すぐそこに迫って―。
あぁ、思い出した。
88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:22:14.07 ID:m80yPrBg0
『僕の本当の名前を教えるよ。』
『へぇ、なんていうんだ?』
『…BELOVED』
『……”BELOVED”。「愛される者」か。お前らしいよ』
『へぇ、どうしてそう思うんだい?』
『どうしてって、お前は愛されているからだよ』
90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:22:56.49 ID:m80yPrBg0
『…たとえば?』
『…ほら、橘とか、周防だっけ?とか…』
『…馬鹿だね、君は』
『なんだと。自分の持ち物に馬鹿とは、自分さえも貶めていることになるぞ』
『…くつくつ』
『笑うなよ』
94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:23:50.70 ID:m80yPrBg0
『……ねぇ』
『なんだよ?』
『僕はきっと、近いうちに始末されるだろう』
『…それはまた急な話だな』
『あぁ、突然のことだから、僕も少し困ってるんだよ』
『何に?』
『僕がいなくなったら、君は一体どうするのかってさ』
95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:24:37.17 ID:m80yPrBg0
『…お前が死んだら俺も死ぬだろうよ。…そういうもんだろう?』
『そういうと思ったよ。…だけど』
『だけど?』
『僕は、君には生きていて欲しいと思うんだ。…これは、ワガママだろうか?』
『……ワガママだな』
『…そうか…』
『うん』
98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:26:57.43 ID:m80yPrBg0
『……。よし、ならこうしよう』
『?』
『僕の形見を残していくよ。君に』
『?なんだそりゃ?』
『君が寂しくないようにさ、僕の忘れ形見を遺すよ。覚えていてくれ、この名前を―』
『”LOVELESS"を大事にしてやってくれ』
100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:28:48.08 ID:m80yPrBg0
『"LOVELESS"(愛無き)だって?なんともかわいそうな名前だな』
『そう、かわいそうな子なんだ。だから』
『君が守ってやるんだよ』
佐々木、BELOVED。
俺はまた、お前を『守れなかった』な。
101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:29:41.63 ID:m80yPrBg0
それからのことはよく覚えていない。
ただ、ただ、佐々木の言葉が頭をぐるぐる廻り。
気付けば俺は、闇夜の路地を血まみれにしていた。
生きている者は俺だけ。
胸に大きな風穴を開けたハルヒと、ほとんど原型をとどめていない古泉に、森さん。
初めて知った。
俺はこんなにもたやすく、『言葉』以外の行為を行うことができるのか。
街灯の光だけが差す路地で、俺は血の海に座り込んだ。
102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:30:45.16 ID:m80yPrBg0
キョン「……長門ー。いるのかー」
力尽きかけた喉を酷使し、俺はそう叫ぶ。
街灯の薄明かりの向こう、見慣れた制服が動くのが見えた。
長門「…」
キョン「…悪いな長門ー。ハルヒはやっぱり殺されちまったよ」
長門「……平気?」
キョン「…何がだ?」
長門「…いいえ、気にしないで」
キョン「へへへ」
103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:32:00.88 ID:m80yPrBg0
長門「……涼宮ハルヒが死亡したことで、この世界は改変を起こそうとしている。もうすぐ、この次元のあなたとのコンタクトも絶たれることになる」
キョン「そかー。なんかわけわかんねぇけどな」
長門「…そう」
キョン「…」
長門「……」
キョン「…一つ、きいていいか」
長門「…?」
キョン「……今回のケースを含めて、俺が『言葉使い』だったケースは何回あった?』
105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:34:22.39 ID:m80yPrBg0
長門「……53回」
キョン「…そして、53回ともハルヒは」
長門「…涼宮ハルヒはいずれのケースにおいても死亡している。これは確か」
キョン「…なるほど。だからお前は『ななつの月』に殺されるって知ってたのか」
長門「…そう」
キョン「…そうかー」
長門「…『ななつの月』と言う概念自体は多様に渡っていた。古泉一樹がその概念であったケースは今回を含めて17回目」
そして17回分ハルヒは古泉に殺され、俺は17回分古泉を殺したのか。
考えてみりゃなかなかシュールだな。
110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:35:41.31 ID:m80yPrBg0
キョン「もうすぐこの世界も消えちまうのか」
長門「…」
キョン「……なぁ長門」
長門「…何?」
キョン「次の次元ではさ、俺、『言葉使い』じゃないことを祈るよ」
長門「…」
キョン「…言葉なんて、そんなもので人を守れるなら、こんな気持ちにもならなかったはずだ」
佐々木も。ハルヒも。
俺のせいで。
112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:36:55.90 ID:m80yPrBg0
キョン「……そうだな、次は俺も、鈍感で、口下手でな人間でありたいよ」
長門「……」
キョン「……そろそろ、消えるな」
長門「…きっと」
キョン「?」
長門「…あなたならきっと、なれるはず」
気のせいだろうか、
白く薄く、消えゆく世界で
長門が笑った気がした。
113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:37:52.03 ID:m80yPrBg0
言葉で、
言葉で誰かを守れたら。
114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:39:03.25 ID:m80yPrBg0
キョン「…ハルヒ、"LOVELESS"ってどういう意味か知ってるか」
ハルヒ「?何よ突然」
キョン「"愛無き"って意味だけど、もう一つ、意味があるんだ」
ハルヒ「?」
キョン「"かわいくねぇな"ってことだよ、お前みたいに」
ハルヒ「!!何よ馬鹿!!知らないっ!!」
言葉使いよ、鈍感であれ。
116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/28(火) 01:42:18.55 ID:m80yPrBg0
終わりです。
お付き合いありがとう。
風呂逝ってくる