1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 00:54:51.56 ID:r2AGqOHt0
ずりずりと足を引き摺り、歩く。
しとしとと頬を打つ感覚。雨が降ってきた。
なんだちくしょう。
ただでさえ体が重いのに、そこに濡れた服が張り付いちゃ、さらに歩くのが億劫になる。
もういい、もう疲れた。
通学路から少し外れた、人通りのないコンクリートの道。冷たい石の壁に体を横たえた。
白いカッターシャツは既に半分以上が赤黒い。
ずっと腹部の傷を押さえてはいるのだが、血の流れを止めるにはいかんせん指の隙間が大きすぎる。
こうやって、僕は今まで色んなものを取りこぼしてきたのだろうか。
ふふ、何を詩的に言っているんだか。まったくもってくだらない。
くつくつと自嘲の笑みが浮かんだ。
もう、抗いようもない結末。
今日、僕―――古泉一樹はここで死ぬ。
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 00:57:15.94 ID:r2AGqOHt0
死ぬ、と頭のどこかで確信したときに脳裏を過ぎったのは森さんと新川さんのことだった。
まさか家族の顔よりも先にこの二人の顔が浮かぶというのはいささか意外ではある。
だが、納得した。これはきっと僕の罪悪感が見せたもの。
ああ僕は。折角二人に命を賭して助けていただいたにもかかわらず、この体たらく。
すいません、森さん、新川さん。せめて、あなたたちは無事でいることを祈ります。
家族のことが浮かんだのはその次だった。
優しい父。気丈な母。
おそらく理想的だったといっても過言ではなかった両親。
ごめんなさい。
小さく呟いた謝罪の言葉。
きっと、どれほど謝っても謝りきれることではないと思うけど。
脳裏を過ぎった両親の姿が薄れていく。
そして代わりに現れたのは、いつだって気だるそうだった彼の顔。
いつだって僕らを和ませてくれた彼女の顔。
いつだって無言で僕らを導いてくれた彼女の顔。
そして―――いつだって太陽のようだった、彼女の笑顔だった。
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 00:59:25.50 ID:r2AGqOHt0
じくりと腹の傷が痛んだ。
はあ、はあ。
苦しい。呼吸が荒くなる。
ああ、痛い。
いや、それよりも―――ひどく寒い。
ぶるぶると震える己の体をかき抱いた。
或いは、この行動は寒さから身を庇うためのものではなく。
間近に迫った死の恐怖にあてられてのものなのかもしれない。
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 01:02:13.24 ID:r2AGqOHt0
ああ、怖い。
ちくしょう、死にたくない。
ちくしょう? ちくしょうだって
僕は彼女を恨んでいるのだろうか?
僕が今、こうやって傷を負っているのは間接的には彼女に起因する。
彼女さえいなければ――などと、僕は心の奥で吐き捨てているのだろうか?
愚問だな。
そんなわけはない。
でなきゃ、僕の中にある彼女の笑顔がこんなに眩しいものであるものか。
僕は彼女に出会ってよかったと思っている。
ああ、心からそう思っているとも。
断言しよう。
僕はSOS団に参加できてよかった。
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 01:04:45.35 ID:r2AGqOHt0
次々とSOS団の思い出が溢れてくる。
カマドウマ退治の大冒険。
長門さんと共闘するなんて貴重な体験をしたんだ。
忘れようたって、忘れられるものではない。
僕が招待した孤島や鶴屋家でのミステリードッキリ。
その成功に、皆が慌てふためく様に、内心ほくそ笑んでいたものだ。
しかし因果応報とはよく言ったもので。
それらの件でキャラクターが決定されてしまったのか、その後の文芸誌作成の際にはミステリーというジャンルが僕に回された。
正直あれにはまいった。もちろん、それを表に出すことはしなかったけれど。
バレンタインデーでチョコを渡されたときには頬の緩みを抑えるのに必死だった。
正直、今までバレンタインのイベントには事欠かなかったけれど、あれほどの衝撃と、喜びを感じたことは無かった。
ああ、文化祭では映画の上映をしたっけ。あの時は少し調子に乗ってしまった。
まさか、基本的には温厚な彼をあそこまで怒らせてしまうとは。
責任の一端は間違いなく僕にあったろう。
もう一度彼に会えたなら、謝っておいたほうがいいかもしれない。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 01:07:23.57 ID:r2AGqOHt0
もちろん、思い出はそんな突飛な事件ばかりではない。
むしろ僕にとってはあの部室で過ごした毎日の平穏こそが何よりの宝だった。
朝比奈さんの淹れてくれたお茶はおいしかった。
本を読む長門さんの姿は何故だか僕を安心させた。
彼とゲームをするのは楽しかった。
涼宮さんの思いつきに振り回されるのは楽しかった。
涼宮さんの我侭を何だかんだ言って彼が受け入れる、そんな二人を見るのが好きだった。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 01:09:08.74 ID:r2AGqOHt0
死の間際に人は走馬灯を見るという。
なるほどこれがそういうことかと、次々と頭の中に浮かんでは消える思い出に一人納得した。
そういえばこんな話を聞いたことがある。
走馬灯を見るのは過去の記憶の中から助かる術を探っているのだと。
真偽の程は定かではないが、今、妙に頭が冴えていることを鑑みるとまるきりの嘘でもないらしい。
集中力が高まっているのか、僕の脳はこの死の際に来ても考えることをやめやしないのだ。
ただ、それがどうにも余計な方向にばかり向かってしまうのが救えない。
ほら、また余計なことを考えた。
もし彼女が何の力も持たない一人の平凡な少女であったなら。
SOS団はどうなっていただろう?
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 01:10:43.98 ID:r2AGqOHt0
朝比奈さんは未来人なんかではなくて、ただのちょっとドジな愛らしい上級生。
長門さんは本が大好きな寡黙な少女。でもきっと運動神経は抜群で。
もちろん僕にも超能力はなく、彼と同じ極平凡な男子高校生で。
彼と一緒に、涼宮さんの思いつきに振り回されるのだ。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 01:13:09.35 ID:r2AGqOHt0
何の後ろ盾も持たない僕は、涼宮さんの要望を叶えるために四苦八苦するのだろう。
旅行に行こうという話になれば僕は汗を流して旅行会社に電話をかけ、彼にプランを相談したりして。
これで大丈夫ですかね?
どうだろうな、ちょっと普通すぎるんじゃないか?
やっぱりそうですよね、どうしましょう?
さあね、俺には何とも。期待してるぜ副団長。
そんな殺生な。あなたも協力してくださいよ。
ハルヒの精神分析はお前の専門だろう?
そんなもの、ただの趣味の範囲ですよ! 当てにされては困ります!
こんなやり取りをかわすのだ。
ああ、これは楽しそうじゃないか。
しかしどうだろう?
この場合、涼宮さんは当然『神』などではなく、ちょっと、いや、かなり変わっているけれど、それでも普通の女の子だ。
そんな彼女と一緒にいて、僕は彼とそこまで親しげに話す仲になれただろうか?
僕は、涼宮さんを諦めることが出来ただろうか?
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 01:15:47.27 ID:r2AGqOHt0
どうだろうな。
僕は自分と、それを取り巻く状況を客観的に捉えることには秀でていると自負しているけれど、こればっかりはわからない。
はっきり言って僕は涼宮さんに出会った時、一目で彼女に惹かれた。
でも、芽生えたその思いを早々に押さえ込んだのだ。
何故か? 簡単だ。
涼宮さんが彼に好意を抱いていることなんてわかりきったことだったから。
もっとも、涼宮さんは色々な感情が邪魔をして素直にそれを表すことが出来ないみたいだけれど、周りから見ればバレバレだ。
しかし僕は彼女のそんな所を魅力的に感じている。可愛いと思っている。
はて、どうやら僕は自分で思っていた以上に涼宮さんにまいっているらしい。
では何故こんなにあっさり僕は彼女への思いを断ち切ることが出来たのか。
ああ、そうだ。
あの時だ。
大規模な閉鎖空間が発生したあの時。世界改変の危機。
白雪姫。
Sleeping beauty。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 01:18:23.00 ID:r2AGqOHt0
王子様のキスで目覚めたお姫様。
認めざるを得なかった。
彼女にとっての王子様は、自分ではないと。
『アダムとイヴですよ。産めや増やせでいいじゃないですか』
余りにも不謹慎だったあのジョーク。
実際あれは本当に場を和ますためのジョークに過ぎなかったのか。
あの言葉には、僕の嫉妬と羨望が満ちていたのではなかったか。
くすりと、思わず笑みが浮かぶ。
何と醜い―――嘲笑。
そう、僕の本質はこれなのだ。
妬み、嫉みでどろどろな自分の内面を、柔和な外面で取り繕っている。
ちょうどよかったじゃないか。
本当の自分を知られる前に消えることが出来て。
客観性に長けた自分が、そんな僕を冷ややかに侮蔑していた。
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 01:21:00.03 ID:r2AGqOHt0
頬に当たる雨の感触が無くなった。
雨が止んだかと目を開ければ、変わらず雨は僕の体を叩いている。
ああ、遂に皮膚の感覚が無くなったか。
これはいよいよ最後のときが近づいてきたようだ。
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 01:23:45.49 ID:r2AGqOHt0
申し訳ないのは、涼宮さんにはさらに精神的に負担をかけてしまうこと。
ただでさえ、彼女の精神は今ギリギリのところで均衡を保っているというのに。
いや、これは僕の自惚れか?
案外、彼女は僕がいなくなってもケロッとしているかもしれない。
それならそれでありがたい。
やっぱり彼女には泣き顔より笑顔が似合うから。
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 01:26:19.76 ID:r2AGqOHt0
申し訳ないのは彼との約束を守れなくなること。
『悪いな。ハルヒのこと……よろしく頼む』
彼が『最後』に僕に残した言葉。
すいません、僕では涼宮さんを守ることが出来ませんでした。
―――ごめん。ほんとに。
最期だって言うのに―――謝ってばっかりだな、僕は。
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 01:28:19.82 ID:r2AGqOHt0
目を閉じる。
雨の音が遠くなる。
意識が段々と闇の中に沈んでいく。
深い闇の底で、再び彼女の笑顔を見た気がした。
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 01:30:36.03 ID:r2AGqOHt0
「……!!」
何か聞こえる。
「……くん!!」
誰かが僕を呼んでいる。
誰だ?
いや、馬鹿げた疑問だった。
僕が彼女の声を聞き違えるわけがない。
目を開ける。
「古泉くん!!」
雨に濡れた黒髪。目に眩しい黄色のカチューシャ。
涼宮ハルヒが僕の目の前にいた。
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 01:34:49.01 ID:r2AGqOHt0
「やあ…これはとんだところを見られましたね」
咄嗟に口からでたのはそんな言葉だった。
こんな時まで仮面を外すことが出来ない自分にひどく苛立つ。
それにしてもこの雨の中涼宮さんは何故傘を差していないのか。
ふとそんなくだらない疑問が浮かんだが、それはすぐに氷解した。
かがみこんで僕の顔を覗きこむ涼宮さんの後ろに、顔面を蒼白にして朝比奈さんが立っている。
その手には一本の傘。
成程、相々傘で仲良く下校していたらしい。
ありがたい。どうやら朝比奈さんは僕のお願いを忠実に実行してくれていたようだ。
「一体どうしたの!? すごい血じゃない!!」
顔を蒼白にした涼宮さんが声を荒げている。
凄い剣幕だ。さて、どうしたものか。
もちろん、真実をそのまま告げるわけにはいかない。
だが、大量に血液を失い、いよいよ朦朧とした頭はろくに回転してくれず、
「交通事故にあってしまいまして」
なんて、信じることのほうが難しい戯言を口にするのが精一杯だった。
くだらない妄想をしている暇なんてなかったな、ほんとに。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 01:38:34.78 ID:r2AGqOHt0
「傷を見せて」
涼宮さんは僕の了解を待たず、僕のシャツに手をかけた。
鞄から取り出したのか、その手にはいつの間にか絆創膏を握っている。
いつでも絆創膏を持ち歩いているというのが実に彼女らしくて、つい笑みが浮かんだ。
やはり、普段の私生活でも生傷は絶えなかったのだろうか。
そんなことを考えていたら涼宮さんが僕のシャツを捲った。じわじわと血を流し続ける傷が露わになる。
「うっ…!」
涼宮さんの動きが止まった。
無理も無い。目を逸らさなかっただけでも賞賛に値する。
涼宮さんよりも遠目にそれを見たはずの朝比奈さんが、ふらりと意識を失いそうになるほど凄惨な傷だったのだから。
ぽっかりと腹に空いた穴。それはまぎれもない、銃創。
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 01:42:22.43 ID:r2AGqOHt0
「何なのこの傷……何をされたらこんな……」
涼宮さんは気付かない。無理も無い。普通に生きていて、高校生が銃創を目にする機会なんてそうそうありはしない。
涼宮さんは決して普通などではないが、それでもだ。
ひょっとしたら朝比奈さんは見る機会があったかもしれないな。
いや、今の彼女の反応を見れば、それはないか。
凄惨な傷を目の当たりにした涼宮さんは、唇を震わせながらもその傷から目を逸らさなかった。
こぽこぽと赤黒い血を噴き出すそこを、意外にも実に女の子らしいハンカチで押さえる。
「…駄目。もっとしっかり固定しなきゃ」
下唇を噛んで涼宮さんは小さく呟く。
そして地面に落としていた鞄を引き寄せると、中からガムテープを取り出した。
「痛むだろうけど、我慢して」
ガムテープを僕の体にぐるぐると巻きつけて、傷口を押さえつけたハンカチを強く固定する。
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 01:46:21.89 ID:r2AGqOHt0
顔を蒼白にしながらも冷静な処置を施してくれた涼宮さん。
頭の片隅で、矮小な自分が喚いている。
もしここに倒れていたのが僕ではなく彼だったなら。
彼女はここまで的確に動くことが出来ただろうか?
いいや、きっと出来はしない。
思い出せ。
彼が階段から落ちて後頭部を強打したあの日、涼宮さんはただ顔を蒼白にしてへたり込むだけだった。
明らかな茫然自失、簡単に言えばパニックを起こしていたじゃないか。
この冷静な処置、もし僕が彼だったら無理だった。僕だったから出来たのだ。
つまりは、彼女にとって僕の存在というものは……
気付けば、雨に濡れた唇から乾いた笑いが漏れていた。
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 01:50:26.07 ID:r2AGqOHt0
「みくるちゃん! ぼうっとしてないで救急車!!」
「は、はいぃ!」
涼宮さんの鋭い叱咤で我に返った朝比奈さんが携帯電話を取り出す。
だが、僕はゆっくりと首を振ってそれを制止した。
朝比奈さんはどうやらそれだけで察してくれたようだ。
ボタンをプッシュしようとしていた指が止まる。
朝比奈さんの目からは今にも零れ落ちそうなくらい涙が溜まっていた。
「古泉くん! どうして!?」
当然、涼宮さんは声を荒げる。
「駄目なんですよ。病院にかかれば……『奴ら』に僕の居場所を教えてしまうことになる」
「奴ら…? 古泉くん、何を言ってるの?」
僕の言葉に、涼宮さんは大きく混乱している様子だった。
そんな彼女の後ろで小さく首を振っている朝比奈さんに微笑みかける。
わかっていますよ。
これ以上は禁則事項、でしょう?
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 01:54:37.80 ID:r2AGqOHt0
「何よ…こんな時に冗談なんて言わないで!」
涼宮さんはポケットから自分の携帯電話を取り出した。
ごめんなさい。
一言心の中で詫びて、彼女の手から携帯電話を奪い、そのまま水溜りに沈めた。
「…! どうして、そこまで!!」
「病院、嫌いなんですよ」
「ふざけないで!! 死んじゃうのよ!? このままじゃ、病院にいかなきゃ!!」
どの道、病院に行っても僕は死ぬ。
ならば、このまま生死不明となって『あいつら』をかく乱した方がまだいい。
朝比奈さんが来てくれた事でそれが可能になったのだから。
恐らく、許可が下りるはずだ。
僕の死体をどこか、過去か未来に飛ばすこと。
「駄目よ…そんなの……駄目……!!」
涼宮さんは僕の体を背負い、歩き出した。
この細い体のどこにそんな力が隠されているのだろう。
朝比奈さんが慌てて駆け寄ってきて傘を僕達の上に掲げた。
「駄目…これ以上SOS団のメンバーが欠けるなんてこと…私は絶対に許さない。許すもんですかってのよ…!」
涼宮さんは自分に言い聞かせるように呟いて、力強く歩を進めていく。
「そうよ…きっとキョンだってすぐに帰って来るわ! だから古泉くんも頑張って!!」
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 01:59:20.03 ID:r2AGqOHt0
見ていて心が引き裂かれそうになるほどの彼女の虚勢。
そう、SOS団に、北高に、この町に――――もう彼はいない。
彼は『あいつら』に連れ去られてしまった。
『あいつら』の、僕達の敵の名は――――『機関』。
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 02:00:24.90 ID:r2AGqOHt0
きっかけは彼の中学時代の同級生。
もう一人の神たる少女。
佐々木さんの登場だった。
55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 02:05:05.49 ID:r2AGqOHt0
世界を改変する力を持つ可能性のある第2の神たる少女−ゴッド・ガール−。
佐々木さんの存在を知るや、機関はがらりとこれまでのスタンスを変えた。
下された命令は『鍵となる少年を確保せよ』。
確保――ものは言いようだ。それは、結局のところただの拉致監禁に過ぎない。
そんな乱暴な手段を、機関上層部はあっさりと選択した。
もちろん、その方針に反発するものがいなかったわけではない。
新川さんや森さんも反対の姿勢を示していた一人だ。
涼宮ハルヒから彼の存在を奪うことは大きなリスクを伴う。
そんな強引な真似をしては何がどうなるかわからない、と。
だが、機関上層部はいかなる確信の下かその凶行を強行した。
そしてそれを知った僕は彼に全てを打ち明け―――逃亡を図った。
しかし、機関の組織力は余りにも巨大で強大だった。
加えて、僕と彼にとって余りにも絶望的だったことがひとつあった。
長門有希の、この件に対する完全な不干渉。
長門さんは、僕らを助けてはくれなかった。
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 02:08:11.64 ID:r2AGqOHt0
余りにも短かった逃亡生活。
僕らはあっさりと捕まり、彼はいずこかへと連れ去られ、僕は独房に入れられた。
捕らえられた僕は『再教育』を施され、わずか数日で解放された。
『再教育』を施された僕は、今回の件に関する記憶を失っていた。
久しぶりの登校。久しぶりのSOS団。
もちろん、そこに彼はいない。いたのは涼宮さんと朝比奈さんの二人だけ。長門さんの姿も消えていた。
扉を開けた僕に向かって涼宮さんは明るい声でこう言った。
「キョンのやつ、どっかで行方不明ですって。まったく何やってるのかしらあの間抜けは!」
―――その涼宮さんの表情を見た時に、頭の中で何かが弾けた。
思い出す。彼と最期に交わした会話を。
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 02:11:09.49 ID:r2AGqOHt0
「なあ古泉。お前がこうやって俺を助けてくれるのは、いつかの雪山での約束があるからか?」
彼がそんなことを言い出した時、多少カチンときたことを覚えている。
今の僕にはそんな打算的な思いなど、欠片もありはしないのに。
「助けたいから、助けてます。悪いですか?」
「ははは。いや、悪かった。失言だったな。忘れてくれ」
そして、無言。
わずかな時を経て、彼が再び口を開く。
ぼそりと呟くように。
「なら、あの時の約束はまだ有効ってわけだな」
約束。僕が一度だけ機関を裏切り、SOS団に味方するというもの。
「古泉、あの時の約束をここで果たしてくれ。おっと、嫌とはいうなよ。男に二言はないよな?」
彼はそう言って笑った後、
「ハルヒのこと、よろしく頼む」
照れたようにはにかんで、そう続けた。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 02:15:13.17 ID:r2AGqOHt0
全てを思い出した僕は彼の救出を決心した。
涼宮さんのあんな顔を見ているのは辛かったから。
彼女には太陽のような笑顔こそが似合うのだから。
そして彼の救出を決行する前日、僕は朝比奈さんを呼び出した。
あるひとつのお願いをするために。
内容は、これから決して涼宮さんを一人にすることがないようにしてほしい。
登下校の間など、出切るだけ傍にいるようにして欲しいということ。
機関の連中が直接涼宮さんに何かを仕掛けてくる可能性は0ではない。
だが、常に未来人である朝比奈さんが傍にいれば奴らも手を出しにくいはずだ。
下手に手を出して朝比奈さんを巻き込めば、未来人組織と直接敵対することになりかねない。
もっとも、こんな真似をしでかした機関を、未来人はとっくに敵視しているかもしれないが。
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 02:17:24.08 ID:r2AGqOHt0
そして僕は彼の救出計画を実行した。
考えうる最良の手段を選択したつもりだった。
だが、笑ってしまうほどに計画はあっさりと破綻し―――僕は再び捕らわれの身となる。
機関上層部は決定を下した。古泉一樹を『処分』せよ。
僕はあまりに無力だった。僕はあまりに無様だった。
死にたくないと叫んだ。
助けてくれと口から泡を飛ばした。
涙を流していたのは悔しかったからだ。
―――僕はまだ、約束を果たしていない。
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 02:19:39.18 ID:r2AGqOHt0
僕は死ななかった。
ギリギリで僕を救ってくれた人達がいた。
森さんと新川さん。
機関銃を片手に牢をへし折り、二人は僕の前に現れた。
二人の手引きで、僕は機関の『廃棄場』を脱出した。
機関は手段を選ばず僕達を追撃し―――森さんと新川さんは僕を逃がすために囮を買って出てくれた。
二人がその後どうなったのかはわからない。
ただ、僕は走ることしか出来なかった。
走って、走って、走って―――――
そして一人満身創痍で機関の手から逃れた僕は今、あろうことか涼宮さんの背に揺られている。
涼宮さんの背中が僕の血で汚れてしまっている。
心が体に引っ張られるように急速に冷えていく。
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 02:23:32.53 ID:r2AGqOHt0
ああ、僕は。
本当に何なんだ。
友との約束も果たせず。
仲間の期待にも応えられず。
守るべき対象に守られ。
何を為すわけでもなく死んでいく。
最悪だ。僕は最悪だ。
あいつらをかく乱するために病院に行く事は避けたい、などと立派なことを嘯いておいて。
本当は喜んでる。
冷たいコンクリートの上ではなく、彼女の背で最期を迎えることが出来ることに。
なんて卑怯で。なんて卑小な。
何とも―――救い難い。
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 02:25:39.29 ID:r2AGqOHt0
「古泉くん、病院に着いたら洗いざらい吐いてもらうわよ。覚悟しなさい!」
涼宮さんがそんな風に声をかけてくる。
さて、どうしようか。
どうやってごまかそうか。
ごまかす? 何故? 何のために?
冷えた心にぽつりと黒い染みがにじむ。
今さら世界を守って何になる。守られた世界にどうせ僕はもういない。
いいですよ涼宮さん。洗いざらい吐きましょう。
「涼宮さん……僕はね、実は超能力者だったんです」
何もかも、どうとでもなってしまえ。
70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 02:28:44.14 ID:r2AGqOHt0
涼宮さんの歩みが止まる。
背中越しに涼宮さんの動揺が感じ取れた。
「古泉くん…? こんな時に何の冗談……」
「そこにいる朝比奈さんは未来人で、長門さんはなんと宇宙人なんですよ」
涼宮さんの言葉を遮り、僕は真実を口にする。
「こ、古泉くん!!」
朝比奈さんが慌てて僕を止めようとする。
だが、動き出した口は止まらない。
「朝比奈さんは未来人らしくないって? ふふ、本人を前に失礼かもしれませんが、同感です。
でもね、長門さんはすごいんですよ。何しろ、不可能なことを探すほうが難しいくらいです。
そうだ、どうせなら病院じゃなく長門さんの所に連れて行ってくださいよ。彼女ならきっとこんな傷ちょちょいのちょいです」
「……私、似たような話をキョンから聞いたことがあるわ」
涼宮さんが僕の顔を覗きこんでくる。
肩越しに涼宮さんの大きな瞳と目が合った。
沈黙。涼宮さんの前髪を伝い、水滴が落ちる。
僕が嘘をついていないか探っているのだろうか。
或いは、こんな時にこんなことを言い出す僕の正気を疑っているのかもしれない。
「おや、残念。既にご存知でしたか。ではこちらはどうでしょう。涼宮さん、あなたには世界を思い通りに改変する力があります」
今度こそ、朝比奈さんは絶句した。
絶対に開けてはならないパンドラの箱を、僕は今開けようとしている。
73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 02:31:52.23 ID:r2AGqOHt0
「嘘ね」
だが、涼宮さんは短くそう呟くと前を向き直り、再び歩を進め始めた。
「もし私にそんな力があるんなら」
短く、途切れ途切れに。
涼宮さんは震える唇で言葉を紡ぐ。
「こんな…こんな風にSOS団がバラバラになったりなんて、するわけないじゃない」
悔しさをかみ締めるような声だった。
それきりの沈黙。まるでこれ以上くだらないことを言うなと示すように。
しかし僕は止まらない。口を開き続ける。
毒を食らわば皿までだ。ああ、さてはこれが悟りの境地というものか?
「それはあなたが常識に囚われているからです。もっと心の底から信じ、願えばあなたに不可能なことなんて何一つ無い」
「まるで神様ね、私」
涼宮さんはそう言って笑った。
僕も笑う。
「その表現が一番妥当かもしれません」
74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 02:34:11.27 ID:r2AGqOHt0
意識が薄れてきた。
涼宮さんの顔は見えない。
「おもしろい話よ古泉くん。あなたが超能力者で、有希が宇宙人で、みくるちゃんが未来人、そして私が神様。すごい集団だったのねSOS団って」
「ええ、おそらくはこの世に唯一のものだったでしょう」
「ならキョンは? キョンも何か特別な存在だったの?」
「ええ、彼は……」
薄れゆく意識の中で、僕はそれを口にした。
「彼は……ジョン・スミスです」
視界が黒く塗りつぶされる。
今度こそ、タイムリミットだ。
涼宮さんがどんな顔をしたのか、見届けることは出来なかった。
そして僕は死んだ。
86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 02:48:26.36 ID:r2AGqOHt0
目を覚ました僕の目に飛び込んできたのは、無機質な蛍光灯の明かりだった。
おぼろげな意識のまま、しばらくその白色の灯りを見つめる。
―――意識が急速に覚醒した。
何故生きている?
仰向けになっていた姿勢から慌てて身を起こした。
周りを見渡す。
朝比奈さんが僕の傍らに座っていた。ほっとしたような表情で僕を見つめている。
涼宮さんがいた。こちらに背を向けて、仁王立ちでベランダ側の窓の外を見つめている。
そして―――――
長門さんが立っていた。透き通った宝石を思わせる瞳でじっとこちらを見下ろしている。
89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 02:50:43.12 ID:r2AGqOHt0
僕は自らの腹部に手を当てた。
ぽっかり空いていたはずの穴が消えている。
まさか、治療したというのか。
涼宮さんの目の前で。
「そう」
僕の心を読んだように、長門さんが相槌を入れてきた。
何故? あなたはあくまで涼宮さんの観測者という立場であったはず。
涼宮さんの目の前で『力』を使うなんて、そんなことを情報統合思念体が許可するとは思えない。
「もちろん、許可などうけていない。無断。独断専行」
実にあっさりと言ってのける。
驚きを隠すことが出来ない。
何故そこまでして僕を救う必要がある。大体、あなたはこの一件に関しては一切干渉してこなかったはず。
それを何故今になって……
「勘違いしないで欲しい。私は今回の件に関して干渉しなかったのではなく、出来なかった」
92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 02:53:48.93 ID:r2AGqOHt0
―――腑に落ちる、とはこういう感覚のことを言うのだろう。
ああ、そうか。『そういうこと』だったのか。
長門さんのその一言で多くのことに合点がいった。
彼女達ヒューマノイドインターフェースに、ひいては全宇宙を統括する情報統合思念体に敵対しうる存在などそう多くは無い。
だが僕達は彼女達と同等の力を持ち、情報統合思念体と明確に敵対するその存在をひとつ知っている。
「天蓋……領域」
呟いた僕の言葉に長門さんは僅かに、だがしっかりと頷いた。
そう、だから機関はここまで強引な手段を取り得たのだ。
情報統合思念体に唯一並びうる存在である天蓋領域の全面的なバックアップがあったから。
「この数日間、『彼女』の汚染ウイルスに侵された私は行動を相当に限定、束縛されていた。具体的には生命を維持するのがやっと、といったレベルまで。
そのウイルスの駆逐が完了し、行動の自由を取り戻したのはつい先ほど。
そこに負傷したあなたを連れて彼女達がやってきた。私は即座に事情を把握、後に治療を施した」
「何故?」
「何故、とは?」
思わず口をついた僕の言葉に、長門さんはほんの2ミリほど首をかしげた。
どうしても納得がいかない。情報統合思念体から派遣された『観察者』に過ぎぬ彼女が何故ここまで危ない橋を渡る必要があったのか。
下手をすれば情報統合思念体に消されてしまうかもしれないのに。
「簡単」
長門さんが口を開く。それは今まで聞いた長門さんのどの声よりも、強い声だった。
「私は、SOS団の団員その2だから」
93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 02:56:53.92 ID:r2AGqOHt0
ぺちん。
びっくりした。
朝比奈さんに頬を張られたのだ。
もっとも、それは痛みよりも心地よさを感じるような柔らかなタッチであったが。
「突然あんなことを言い出すなんて、私、びっくりしたんですから…!」
朝比奈さんが頬を膨らましている。
可愛いな、なんて何とも場違いなことを思った。
「もう…ホントに……もう……!」
ぽろぽろと朝比奈さんの目から涙が零れだす。
思えば、僕は彼女にどれだけの迷惑をかけてしまったのか。
事情の説明もろくに受けず、ただ涼宮さんの傍にいて欲しいと言われて、彼女はどれだけ不安を覚えただろう。
血まみれの僕を見て、彼女はどれだけ衝撃を受けただろう。
挙句の果てに、暴走して口を滑らす僕に、彼女はどれだけ―――――
「すみません」
考えるより先に口が動いた。
心の底からの、嘘偽りない謝罪だった。
「いいです、もう。私も覚悟を決めました」
涙を拭いて朝比奈さんは笑う。
彼が彼女を天使と称する気持ちがわかった気がした。
99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 03:00:03.08 ID:r2AGqOHt0
ゴゴゴゴゴゴ……!
はっ、と異様な空気に気付く。
大気を震わすようなそのプレッシャーの発生源は、未だこちらに背を向け続けていた涼宮さんだった。
「は、はは……」
思わず乾いた笑いが口から漏れた。
これは、もしかしなくても……涼宮さんは、随分ご機嫌斜めでいらっしゃる?
「古泉くん?」
「は、はい!」
反射的にピンと背筋が伸びた。
「話は有希から全部聞いたわ。ぜーんぶね」
涼宮さんがくるりとこちらを振り返る。
「ひっ」
振り向いた涼宮さんのその顔に、朝比奈さんが小さく悲鳴を漏らした。
ええ、わかりますよ朝比奈さん。僕も正直逃げ出したぁい。
100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 03:03:08.98 ID:r2AGqOHt0
「私だけをハブにして、ずーいぶん4人で楽しんでたみたいじゃない。団長であるこの私を差し! 置い! て!!
これは許しがたい罪悪よ! 死刑に換算したら何回分かしら!?」
涼宮さんが笑顔でにじり寄ってくる。
背中をだらだらと流れる汗が止まらない。
「この私への、ひいてはSOS団自体に対しての重要な背信行為、あなたが首謀者なんですってね?」
「な、何ですと!?」
長門さんを見る。頷かれた。いやいや。
確かに立場上僕が率先して事件を隠蔽していたかもしれませんが、それにしたって全ての罪を被せるなんてあまりに無体ではありませんか。
「な、長門さん!」
「がんば」
そう言って長門さんは親指をぐっと立てて見せた。
ええい、この人実はまだウイルスが抜け切っていないんじゃなかろうか。
「あ、朝比奈さん」
「……」
目を逸らされた。
くそう、前言撤回だ。あなたは天使なんかじゃないやい。
104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 03:06:51.47 ID:r2AGqOHt0
「古泉くん、あなたには罰を与えるわ! 今後二度とこんな下らない真似をしないようにとんでもな〜く重い罰をね!!」
……仕方がない。こうなっては覚悟を決めるしかないだろう。
事実、僕が涼宮さんに対してついてきた嘘の多さ、大きさを鑑みれば罰を受けるのは当然のことだから。
とはいえ、恐ろしい。
力を自覚した涼宮さんはおよそ神に等しい存在だ。
どんな無理難題、不可能だって可能にしてしまえる。
考えられる罰ゲームの幅は、文字通り無限大だ。
ごくりと唾を飲みこんで、涼宮さんの言葉を待つ。
目をギラギラと輝かせた涼宮さんは口の端を吊り上げ、青く染まった僕の顔にビシィ、と指を突きつけた。
判決。
「古泉くん! あなたの今までの女性遍歴を赤裸々に語りなさい!! 今ここで!! 私達の目の前で!!!!」
「なッ!?」
107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 03:10:04.95 ID:r2AGqOHt0
なんという精神的陵辱。これならばまだなにかしら苦痛を伴う刑罰を受けたほうがマシというものだ。
「わあぁ」
朝比奈さんは歓声を上げて手を叩いているし、
「……」
長門さんは我関せずと沈黙を貫いているし、
「さあハリーハリー!! 時間は待っちゃくれないわよぉ!」
何より、普段彼女を止めるべき彼がいない。
ああ、これはもう観念するしかあるまい。
さて、僕は今日だけで何回悟りの境地に至ったのだろうか。
「ちなみに嘘をついても無駄よ。こっちには大宇宙製嘘発見マシーン有希がいるんだから」
「真実はいつもひとつ」
もう長門さんは本当に自分の力を隠すつもりはないらしい。
長門さんのとどめの一言にがっくりと肩を落としながら、僕はぽつぽつと口を開き始めた。
109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 03:14:19.11 ID:r2AGqOHt0
―――終わった。
「あっはははは!!!! こ、古泉くんが、まさか、そんなことぉーーー!!!!」
「てらわろす」
「こ、古泉くんって意外とそうだったんですねぇ〜〜」
し、死にたい……!
朝比奈さんも顔を赤くしているが、僕はその倍は赤くなっているだろう。
これで今まで積み上げてきたSOS団内での僕のイメージはあっさりと崩壊だ。
彼なら間違いなくこう言っていたに違いない。
やれやれ―――――と。
「いやー笑わせてもらったわ古泉くん。これで今までの件は不問にしてあげる」
涼宮さんは笑いすぎて目尻に溜まった涙を人差し指で拭う。
そうして真っ直ぐに僕達の顔を見据えた涼宮さんは、一転して真剣な顔になっていた。
112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 03:18:06.39 ID:r2AGqOHt0
「私の作ったSOS団の目的は宇宙人、未来人、超能力者を見つけて一緒に遊ぶことでした。
そしたらなんとびっくり!! 今この場に既に超能力者、未来人、宇宙人が揃っています!
そう! つまりこれで私達SOS団はようやくその本来の活動を行うことが出来るのです!!
にも関わらず!! 私達は即座にその活動を行うわけにはいきません!! 何故か!!」
涼宮さんは大きく手を振り、演説を思わせるような口調で僕らに問いかける。
答えたのは長門さんだった。
「彼がいないから」
「そう! あのアホがここにいないからです!! みくるちゃん、確かにアイツは馬鹿でアホでその上無能などうしようも無いやつよ。
でも、例えそんなヤツだとしても、アイツがいない私達はSOS団を名乗ることが出来るかしら?」
「出来ません!」
朝比奈さんは強く言い切った。
涼宮さんは頷く。
「私はね、そいつがどんなに使えないやつだからって切り捨てちゃうような馬鹿なリーダーじゃないの。
大体ね、それ以前にこの私が率いるSOS団に横からちょっかいだすような奴らがいるってことがそもそも許せないわ!
だから新生SOS団本来の活動を開始する前にやることがあるってわけ!! ……そうよね、古泉くん」
114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 03:21:10.39 ID:r2AGqOHt0
最期に涼宮さんは僕に問いかけた。
そうか。彼女は全て知っている。
敵が、元々僕が所属していた組織『機関』だということも。
だとすればこれは試しなのだろうか。
『僕は一体どちら側なのか』といった類の。
だとしたら馬鹿げてる。
僕は―――SOS団の副団長だ。
「ええ、まったくその通りかと。団長」
自然と口の端が持ち上がる。
先ほどまでの絶望が嘘のよう。
きっと僕達に出来ないことは何も無い。
115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 03:25:56.27 ID:r2AGqOHt0
「頼りにしてるわよ有希、みくるちゃん、古泉くん!!」
「了解」
「が、頑張りますぅ!」
「承知しました」
いつの間にか僕らは全員立ち上がっていた。
僕達の中心で、涼宮さんは高々とその手を掲げる。
「新生SOS団の初めての活動が文字通りあの馬鹿のSOSっていうのが情けないけど、まあいいわ。
この不始末はキョンにもきっつい罰ゲームを与えることで帳消しにしてあげることにしましょう」
それはそれは、本当に楽しみだ。
これは、今度こそ、彼にはここに戻っていただかなくては。
もう失敗はしない。
不安など無い。絶望など欠片もない。
そんなもの、彼女が全て吹き飛ばしてしまった。
「さて、それじゃ新生SOS団――――」
ああ、涼宮さん。
あなたは―――――
「開始します!!!!」
―――――本当に、太陽のような人だ。
121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 03:30:01.51 ID:r2AGqOHt0
次回予告―――――
新川「古泉は無事でしょうか」
森「そんなやわな鍛え方はしていません。あの子ならきっとこの暴走する機関を何とかしてくれますよ」
機関A「森園生、出ろ。尋問の時間だ」
新川「……」
森「大丈夫ですよ新川さん。私は耐えきれます。だから、短気を起こしては駄目ですよ?」
新川「…わかった。君も短気を起こさぬようにな」
森「くすくす。善処致します」
124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 03:33:36.56 ID:r2AGqOHt0
キョンを救出するため、機関本拠地を目指すSOS団―――
ハルヒ「んもーーー!! 何よこのジャングル! ホントにここ日本なの!?」
ハルヒ「何かアナコンダでも出てきそうな雰囲気じゃない!!」
朝比奈「す、涼宮さぁーん!! そんなこと言うと……!!」
大蛇「キシャーーー!!!!」
朝比奈「ひゃあぁあああーーーー!!!」
古泉「あ、朝比奈さぁーーーん!!」
しかし、その道のりは険しいものだった―――
127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 03:38:57.73 ID:r2AGqOHt0
ハルヒ「皆気をつけるのよ! こういう悪の組織の秘密基地ってのは卑劣な罠が満載って相場が決まってるんだから!!」
古泉「わーー!! だからそういう事をいうと!!」
朝比奈「ひゃあぁああぁあぁああ!!!!」
長門「朝比奈みくるが落とし穴に落ちた。あ」
ハルヒ「ゆ、有希までーーー!!」
待ち受ける機関の卑劣な罠にバラバラにされてしまう一行――――
散り散りになったSOS団の前に立ち塞がったのは――――
129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 03:42:02.32 ID:r2AGqOHt0
橘「佐々木さんは泣いていました。私は『機関』を絶対に許しません」
古泉「まったくもって同感です。ですから、そこをどいてくれませんか?」
橘「それは出来ません」
古泉「何故? 何故あなたは大嫌いな機関の味方をするような真似を?」
橘「―――それが、佐々木さんの願いですから」
132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 03:43:28.47 ID:r2AGqOHt0
藤原「規定事項? 笑わせる。無限に分岐する時の流れにそんなものが存在するものか」
朝比奈「ど、どういうことです?」
藤原「自分の任務の意味も知らんのか。本当に貴様はただの操り人形(マリオネット)にすぎんのだな。
時間とはたゆたう水の流れのようなもの。そこに決まった流れなど存在せず、ただ流れるに過ぎん。
結局貴様らは好き勝手に水路を築き、自らの都合のいいように水を引いているに過ぎんのさ。
クク……いや、悪かった。よく考えれば責められることなど何もない。ああ、実に人間らしいことだ」
朝比奈「ち、違う! 私は! 私達は!!」
133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 03:44:53.18 ID:r2AGqOHt0
長門「あなたの目的は何?」
周防「目的―――同質――相似―――」
長門「違う。私達の目的は観測だけ。あなたは違う。あなたは自ら積極的に世界を滅亡に導いている」
周防「――――散り際の――――――火花は――――鮮烈で―――儚くて――――――――
とても―――――――――綺麗――――――――――」
長門「させない」
134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 03:46:21.45 ID:r2AGqOHt0
そして――――――
佐々木「私はね、こんな力なんていらなかったんだ」
佐々木「ただ、普通に恋をして、好きな人と穏やかに過ごせればそれでよかった―――」
ハルヒ「ふん、私は普通なんてまっぴらごめんよ! たった一度の人生だもの、大波津波ウェルカムってなもんよ!!」
ハルヒ「―――キョンはどこ?」
――――――――邂逅する二人の神たる少女<ゴッド・ガール>
135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 03:48:03.13 ID:r2AGqOHt0
様々な困難を乗り越え、『彼』の元へたどり着くSOS団。
だが――――
「お前ら―――誰だ?」
『彼』は、既に彼女達が知る『彼』では無くなっていた。
『真説・涼宮ハルヒの驚愕』
―――――――Coming soon.
137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 03:50:38.10 ID:r2AGqOHt0
* *
* + うそです
n ∧_∧ n
+ (ヨ(* ´∀`)E)
Y Y *
143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 03:52:54.75 ID:r2AGqOHt0
というわけでおしまいwwwwwwww
うん、続きなんて欠片も考えちゃいないんだwwwwwww
ハルヒの『SOS団開始します!!』でこのSSは終了だwwwwwwwすまないwwwwww
154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 03:59:02.62 ID:r2AGqOHt0
いやーwwwwあそこで終わった方が綺麗だと思うんだけどもねwwwwwwwwwww
じゃあ次回予告なんかすんなってねwwwwwww悪ふざけが過ぎたねwwwwwwごめんねwwwwwwww
157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/26(日) 04:03:00.49 ID:r2AGqOHt0
んじゃ寝ますwwwwwww
読んでくれた人たちありがとねwwwww
最期に正直に言うとねwwww皆がwwwwwこの結末にwwwふざけんなオラ!ってなったらwwwwwwww
俺メシウマwwwww気持ちよく寝れるwwwwwwwそんじゃバイビーwwwwwwww