1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/05(金) 00:34:48.02 ID:rOeb8MXo0
仕事を終え淡々と呟く長門の一言がやけに耳に残った。
完了、という事はすなわち成功したという事。
「おつかれさまです、長門さん」
こういう時でも古泉は笑っていた。
だが古泉も薄情な奴じゃない、ちゃんと目には涙を浮かべていた。
「朝比奈さん、大丈夫ですか?」
4人で決めた事とはいえ、やはりショックは大きいのだろう。
俺だってにわかには信じられないさ。
「ええ、大丈夫です・・・・・・ これで明日からSOS団は無くなっちゃうんですよねぇ・・・・・・」
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/05(金) 00:37:29.52 ID:rOeb8MXo0
確かに俺達4人以外から見ればSOS団は無くなるだろう。
そりゃ団長であるハルヒが転校したって事になってるんだからな。
だが実際の所、ハルヒは転校した訳じゃない。
世界のためにたった今永い眠りについてもらった。
「ところで古泉、機関にはどう説明するつもりなんだ?」
俺の質問に一瞬だけ困った顔を見せたが、直ぐにいつもの笑顔に戻った。
「上手く説明してみます、もしも無理なら僕は甘んじて罰を受けるつもりです」
古泉の表情を見ながら朝比奈さんはコクリと頷いた。
恐らく彼女も同じ事を考えているのだろう。
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/05(金) 00:41:00.07 ID:rOeb8MXo0
「いつまでもここにいても仕方が無い、そろそろ帰ろう」
無表情で眠るハルヒをこれ以上見ていたくない。
間接的だか直接的だなんてどうでもいい、俺も1人の女子高生の人生を滅茶苦茶にしたんだ。
だからこそ早くこの場所を離れたい。
「そうですね、それでは帰るとしましょう」
古泉が先に扉を出て、その後に長門、朝比奈さんと続く。
俺が最後にハルヒを見送って扉を出ようとした、その時だった。
カタン、と背後から音が聞こえた。
無論この部屋には俺と眠っているハルヒしかいない。
振り返って、ジーッとハルヒの顔を見てみるが特に変わった様子は無い。
「どうしました?」
――多分気のせいだろう。
「いや、なんでもない」
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/05(金) 00:45:19.10 ID:rOeb8MXo0
長門の家を出て、暫くは3人で歩いた。
だが家への道というのは必ずしも真っ直ぐじゃない。
途中で朝比奈さんと別れ、古泉と別れた。
「明日、学校でな」
「ええ、お元気で」
"お元気で"というほど長い別れという訳でもないだろう。
また明日会えるのだから。
夜風の涼しさが少しだけ興奮している俺の頭を冷やしてくれる。
――仕方が無かったんだよな。
冷えた頭で色々と考えながら少し時間を掛けて帰宅した。
だが、結局のところ冷静になれた訳じゃないと自分でも重々理解していた。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/05(金) 00:48:59.90 ID:rOeb8MXo0
「キョン君遅いー!」
トテトテと笑顔で妹が出迎えてくれた。
普段は鬱陶しいだけなのだが、"この笑顔を守った"と考えれば少しだけ嬉しい。
まぁ、結局のところは自己暗示レベルに過ぎない。
「ああ、今日は飯を食ってきたから」
実際は夕食なんて食べていない、そんな気分なんかじゃない。
妹の制止を振り切って自分の部屋へと逃げた。
「・・・・・・」
布団に入った所で眠れる訳がない。
ここ数日は睡眠不足と罪悪感でイライラしそうだな。
布団を顔まで被ってみたものの、やはり眠れなかった。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/05(金) 00:54:00.87 ID:rOeb8MXo0
俺って意外と息が荒いなぁ、等とくだらない事を考えながら時間が過ぎるのを待った。
1人でいたいけど1人でいるのが怖い、なんていってもよく分からないが。
だが、そのくだらない思考も自室のドアが開く音で止まってしまった。
「・・・・・・妹よ、ノックくらいして入れ」
布団で顔こそ見えないが、どうせ妹に決まっている。
今日は構わないが高校生の男はプライベートな時間も必要なんだ、なんて言っても分かる年齢じゃないからな。
「・・・・・・」
返事は無く、俺よりも荒い息遣いが聞こえてくる。
「おい、返事くらいしろ――」
ズゥン、と胸の辺りに重圧を感じた。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/05(金) 00:57:55.86 ID:rOeb8MXo0
お、おい妹よ・・・・・・。
お前はこんなに静かなキャラじゃないよな?
「キョン君、一体今日は遅くまで何をしていたの?」
「お前・・・・・・誰だよ」
生憎だが布団から顔を出したくても物凄い力で押さえつけられている。
妹にこんな力があるのか・・・・・・?
「あははっはははははは! 私はキョン君の妹だよー?」
ゾクッと寒気が走った。
そりゃそうだ、あんなに不気味な感覚はSOS団に入って正気の沙汰じゃない経験を積んだ俺ですら初めて。
「ねえキョン君、今度の土曜日は私も不思議探検に行きたいなぁ! ねえ行っていいよね? 約束だよッ!」
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/05(金) 01:02:51.80 ID:rOeb8MXo0
「いい加減にしろッ!」
力が弱まったのを感じ、一気に布団を突き飛ばした。
だが、何の抵抗もなく布団はベッドの上から落ちてしまった。
カーテンの隙間からは朝の光が射していた。
ついさっきまでは夜だったのに・・・・・・あの状況で眠ってしまったのか?
「まさか・・・・・・な」
1人でポツリと呟くも何の反応も無い。
そりゃそうか、俺しかいないもんな。
やはり昨日の一件がショックだったのだろう。
だからこんな悪夢を見たんだ。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/05(金) 01:07:08.41 ID:rOeb8MXo0
「あ、キョン君おはよーう!」
頭をポリポリと掻きながらリビングに起きると、既に妹は起きていた。
まぁ普段から俺より早く起きているし何の違和感も感じない。
「キョン君今日は珍しく起きるの早いねー!」
朝からうるさい奴だ。
高い声が睡眠不足の頭に響く。
まぁ、さっきのアレが夢だったというには丁度いい証拠かもしれないが。
「まぁな」
今日は金曜日、この1日を耐え切れば土日とゆっくり休める。
まぁ、どちらにしても今日の授業は睡眠学習は確定だろうがな。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/05(金) 01:13:40.80 ID:rOeb8MXo0
1人黙々と嫌になるほど長い坂道を登った。
ハルヒもこの坂道が無くなる事を願ってくれればよかったのに。
「はぁ・・・・・・」
自然にため息がこぼれた。
眠気なのか罪悪感からなのか、あるいはただ単に気分が悪いだけなのかもしれない。
「よぉキョン、ため息ついているとこをみるとお前も知ってるんだな?」
「何の事だよ」
「おおっと、今日のキョンは何か機嫌わりーな」
そりゃそうだ、こんな坂道を谷口なんぞと歩けて嬉しい奴がいるか。
「あれだよ、涼宮が転校したんだよ」
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/05(金) 01:18:19.78 ID:rOeb8MXo0
谷口のくだらない話を延々と聞かされながらようやく教室へついた。
どうやら本当にハルヒは転校した事になっているらしい。
「キョンも残念だよなぁ、結構イイ感じだと思ってたんだぜ? 俺は」
谷口の話を無視して自分の席へと座った。
そして机に顔を伏せる。
「なぁキョン、寝ながらでいいから聞いてくれ」
普段俺がこの体勢を取ったときは必ずといっていいほど国木田に絡みに行く谷口が珍しい。
まぁ、内容によるが返事くらいはしてやろう。
「キョン、昨日遅くまで何をしてた?」
頭が動かない、何かに押さえつけられているみたいだ。
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/05(金) 01:24:20.76 ID:rOeb8MXo0
「お、おい谷口 変な真似はよせ」
気が付けば教室のざわめきが無くなっている。
俺と谷口しかいない・・・・・・のか?
それとも全員が俺の答えを待っているのか?
「聞いてるのか? 昨日夜遅くまで何してたんだよ」
「な、何の話だよ・・・・・・」
「おいおい、俺は知っているんだぜ お前が長門や朝比奈さんと一緒に残っていた事をな」
どうして・・・・・・、どうしてこいつがそんな事まで知っている?
「ああ、それに古泉もいたなぁ」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/05(金) 01:28:01.53 ID:rOeb8MXo0
思い切り力を込めてガバっと起き上がった。
無論、そのまま谷口の野郎をぶっ飛ばしてやるつもりだ。
「おいッ!」
だが、俺の威勢のいい声は誰もいない教室に虚しく響いただけだった。
外を見ると既に日は落ちて月が顔を覗かせていた。
何がなんだか分からない、普通あんな状況では寝ないだろう。
普通じゃない状況・・・・・・。
思い当たる節が1つだけある。
もちろん、ハルヒ。
長門にも相談がしたいし、1度行ってみるか。
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/05(金) 01:34:24.28 ID:rOeb8MXo0
「夜分遅くにすまん、ちょっと相談がある」
何の疑いもなく長門は俺を部屋に入れてくれた。
まぁ俺は長門にどうこうするつもりはない。
長門が俺について来るように合図を送り歩き出した。
無論、俺は黙ってついていった。
たどり着いた部屋は俺と朝比奈さんが3年間眠った部屋。
そして、現在ハルヒが眠っている部屋。
「・・・・・・よく俺の相談したい事がわかったな」
「統計的に見てここが1番確率が高かった」
そうかい、俺は数学が苦手だからよく分からないが。
まぁ、とりあえず中に入ってみよう。
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/05(金) 01:40:57.78 ID:rOeb8MXo0
ズゥン、と胸に重さを感じて目が覚めた。
気が付けば自分のベッドの上だった。
「キョン君、今日は一緒に遊ぶ約束をしている日だよー!」
純粋無垢な妹の声が寝起きの俺の耳に突き刺さった。
・・・・・・ちょっと待て、今こいつ何ていった?
「ねえ起きているんでしょー、今日は私も不思議探検に連れていってくれるんでしょー?」
どうして俺の夢の内容を知っている?
夢じゃなかったのか?
「あははははははは! 寝たフリはよくないよー!」
どういう事だ・・・・・・、どういう事なんだ・・・・・・?
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/05(金) 01:46:34.08 ID:rOeb8MXo0
「あ、ハルにゃんと一緒にいた人だー!」
「・・・・・・長門有希、勝手に上がらせて貰った」
長門・・・・・・長門が来ているのか!?
この状況に気付いてくれたんだよな!?
「――――」
長門の何かを呟く声と共にバタっと音が聞こえた。
おそらく長門が妹を何とかしてくれたのだろう。
「た、助かったよ・・・・・・」
「――――」
「お、おい・・・・・・」
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/05(金) 01:48:54.37 ID:rOeb8MXo0
「――――」
「な、何を呟いてッ――」
バタン、と倒れてしまった。
まさか・・・・・・また長門にエラーでも溜まっているのか?
「情報操作完了、これで世界は救われた」
長門の呟くような声が子守唄に聞こえ、俺はそのまま瞳を閉じた。
fin
思いついたネタを出題編的なのりで作った
今は反省している