3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/26(火) 23:09:09.99 ID:vGoWtUetO
代理サンクス
この話は過去に別所に投下した物のリメイク及びその続編です
間違いなく書いた人なのでコピペ乙とか言わないで
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:11:04.45 ID:vGoWtUetO
「なんて雨なのよ!外に出られないじゃない!」
涼宮はそう怒鳴り散らした。
窓からは細かな水滴が一定のリズムで地面にぶつかり
延々とノイズのような音を部屋に響かせている。
「まぁ仕方ないだろ、ただでさえ多い上に今は雨季だ」
俺は涼宮を宥めるようにそういって窓の外を見つめた。
確かにここ一週間引っ切り無しに雨は降り、
洗濯物は溜まる一方だった、乾燥機があるからいいものの
やはり天日干しにかなうものは無い。
俺はため息を吐きつつ、半分は自分のための提案をした。
「俺が車を出すから、ちょっと商店の辺りに買い物でも行くか?気晴らしにさ」
食器棚につけたフックからキーを取り、人差し指でフラフープの要領で回す。
涼宮は一瞬悩んだものの、ほぼ即答と言っていい速さで俺の提案に乗った。
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:12:09.35 ID:vGoWtUetO
俺が住む家は一つのとある島の中心に存在している。
島自体は対して大きくは無いのだが、
四方八方の島の中心に存在するため交流の場であることから
それなりに発展はしていて、生活水準は比較的高いと言えた。
俺は涼宮を助手席に座らせて、紺のセドリックにキーを挿して
エンジンを動かした。多少古臭い角ばったデザインが俺は気に入っている
本当は泥がつくためあまり雨の中を走らせたくは無いのだが
涼宮の愚痴に延々つきあわされるよりはいくらかましである。
俺は賃貸のガレージから車を発進させて、舗装されていない道を
予想以上の泥を散らかしながら商店に向かった。
「ちょっといじらせて貰うわよ」
涼宮は車のダッシュボードを漁って、MDを取り出して勝手に流し始めた。
それは日本という国がまだ存在していた頃に流行った曲、
当然だ、辛うじて残った陸地はまだ発展途上の島ばかりである
今は新しい歌を作る暇なんて無い、作っても聞かせる場が無い。
…そもそも、当時のアーティストなんてものが生き残ってるのかすら怪しい
だからどんな新しい曲でもそれは数年前のものという形になるのだった。
「これ、いい曲ね」
涼宮は自分の勘による選曲があたっていた事を誇らしげにしつつ
目を閉じて歌に浸っていた。
俺は少しだけアクセルを踏む力を弱め、道路の凹凸を出来るだけ静かに通ることにした。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:17:07.07 ID:vGoWtUetO
しばらくゆっくりとしたスピードで走っていると、少しだけ賑やかな通りにでる。
俺は車を止めるべく、デパートの駐車場に入った。
このデパートは代々続く鶴屋財閥が経営していて、
その一人娘は俺達の共通の知り合いだった、
明朗快活で才色兼備、天は二物を与えずなんて言ってられない人なのだ。
しかも当然ながらお金持ちで、鶴屋財閥の次期当主
いやはや俺や涼宮がなんで知り合いなのか理解に苦しむな。
俺は車から降りてため息を吐きつつ、鍵を閉めた。
すると付近から甲高いブレーキ音が聞こえてきた、
外と違って階層式の駐車場のここは雨に濡れてないはずだが、一体なにかあったのだろうか?
そう思って横の大きなワゴン車から顔を出してみてみると
なにやら見覚えのある車、その車はガクンガクンと揺れたかと思ったら
次の瞬間俺のいる方向へ猛スピードでやってきた。
俺が咄嗟に動けず、硬直して突っ込んでくる車を待ち受けていると、
一メートル程手前でまたブレーキ音をさせて急停止した。
「ごっめーん、大丈夫?」
急停止した車からはかがみが心配そうな顔をして降りてきた、
助手席から見たところを見ると運転席に誰が座っているのかは考えるまでも無い。
「つかさ、姉に言わせる前にお前が言うべきじゃないのか?」
多少つっけんどんになってしまったが仕方あるまい。
危うく俺は神に仕える巫女に轢き殺されるところだったのだ、
神様に直接あっても俺は願い事なんてありゃしないぞ。
あって長生きしたいといったことぐらいだが、その時既に死んでるんじゃ意味が無い。
「ごめ〜ん、まだ取り立てなもんで…」
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:25:10.11 ID:vGoWtUetO
つかさはかがみに促されて、謝りながら降りてきた。
しかしとりたてにしてもひどいだろ、かがみの最初の頃もかなり乱暴ではあったが、
つかさはそれに二つ三つ余計に輪をかけて酷い。
大体かがみもコレの隣によく座ってたな、神経が細い俺には無理だぜ。
「うっさいわね、私が太いと言いたいわけ?」
「いんや別に」
「…まぁ、確かに降りたかったけどさ。でも私が降りたら本当に何も無い
あの道で横転してるわよ? この子は」
俺は納得して、かがみの肩に手を置いて心のそこから同情しようとして、やめた。
「そこまでわかっているなら、なんでお前が運転しないんだよ?」
そういうとかがみは少しぎこちなく笑っていたが。
「お姉ちゃん昨日飲み過ぎて二日酔いになっちゃってるんだよ。またダイエット失敗した〜って」
横からつかさがそう答えを教えてくれた。
かがみは即座につかさにヘッドロックをかましたものの
時既に遅しだ、タイムイズマネーだ、…いや後者は違うな。
「まぁ、なんだ、その頑張れ」
俺は今度こそかがみの両肩に手を置いて同情した。
ダイエットに失敗したことでなく、不出来な妹をもった姉にだ、
人は轢こうとするし、空気は読めずに言いたくないことを暴露するしな。
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:29:42.33 ID:vGoWtUetO
「つかさ、もう少し空気は読もうな?」
俺は漫画のように目の幅と同じ幅の涙を流すかがみに代わってそういったが、
つかさはよく理解できていないようだった。合掌。
ついでに涼宮はその間ずっとボンネットに寄りかかって
エンブレムを弄り回していた、頼むからもがないでくれよ。
――
結局、俺を轢きかけた柊姉妹もどうやら俺達と同じ目的、
つまりは退屈しのぎの気分転換をかねたドライブだったらしく
どうせなら友人同士仲良く買い物でもいかが?
と言うかがみに従い俺達は四人で商店街を回っている。
この柊姉妹は鶴屋さんと同じく俺や涼宮の共通の友人で、
この二人も鶴屋さんとは面識がある。
実家は神社で前述の通りこの二人は巫女をやっているのだが
現在はかがみの上の二人の姉で手が足りているらしく、
俺や涼宮の住んでいるアパートの近くに部屋を借りているらしい。
また二人暮しの上、実家からの仕送りがあるためか
その部屋が俺や涼宮より多少いい部屋だという情報も耳に入っている。
情報の出所は、やはり共通の友人で双方の家に上がったことのある奴だ
性格からして多少の誇張はあるのだろうが、実際問題バイト+仕送りの生活は
バイトオンリーの俺や涼宮よりは多少余裕のあるものであるのは確かだろう。
過去に一度涼宮が家賃を半分ずつの負担にしてルームシェアをしないかと言ってきた事があるが
結局俺が8:2ぐらいの負担になるのは目に見えてるため、そのときは断った。
…あれ?この割合でも俺の負担が軽くなるのに変わりは無いんじゃないか?
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:38:04.19 ID:vGoWtUetO
「あんた、少しは気を利かせなさいよ、そこまで鈍感?」
考え事をしていると、他人の声が聞こえなくなるのが俺の欠点だ、
俺は涼宮にそう声をかけられて回りを見渡すと、
女性のファッション系の店舗の前に俺は立っているらしく
なるほど今かけられた言葉の意味が理解できた。
「すまん、ボーっとしていた」
俺は素直にそういって、反対側にあるちいさなアンティークショップに、雨にぬれないように走って向かった。
カラン、と涼しげな来客を知らせるベルが鳴った。
実はこの店は前からきてみたかったんだ、なかなか寄る機会が
なかったため素通りしてたんだが。ふむ、なかなかいい雰囲気の店だ、
高級感溢れるものが置いてあるものの
人を寄せ付けない、なんか嫌みったらしい成金貴族のような感じではなく
ただただ純粋に頭が下がってしまうような、高貴な純粋の空間だった。
俺はしばらくの間、へぇとかほぉとか言いながら棚に並べられたティーセットだとか
皿とかなんだとかを見ていた、実際はどうだか知らないが
皿がのっている机もずいぶん高そうなものに見える。
しばらく大して普段使わない脳の引き出しから数少ない知識を拾い上げつつ眺めていると
非常に心惹かれる、小さなカップがあった。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/26(火) 23:41:11.07 ID:vGoWtUetO
「…それが好きなんですか?」
いきなり声をかけられ、驚いて声のした方に顔を向ける、
すると静かな穏やかな顔をした知り合いの顔があった。
「みなみか、お前最近バイト始めたとは言ってたがこんな所で働いていたんだな。
通りで全然見かけない訳だ。…にしても今日はよく知り合いに会うな」
俺は今日何度目かになるため息を吐きつつ、先ほどの質問に答えることにする。
「で、このカップだが。……好きってのとは違うんだと思う、ただ惹かれた」
答えになってるのかなってないのか、
俺は誰もいない店内で、カップに目を向けてそう呟いた。
「…5000円」
するとみなみは独り言のようにそういった。
「なに?」
「5000円です、そのカップお買い得です」
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:42:21.30 ID:vGoWtUetO
聞き返す俺に、みなみは朴訥とした表情で、そういってきた。
俺は「そうか」と自然に財布を取り出していた。
中に入っているのは2枚の諭吉と数枚の野口。
今月の生活費だ、ただでさえ雨季で電気代がかさんでるんだ、そう無駄には出来ない。
だが思い立ったが吉日とも言う、俺は意を決して諭吉をみなみに渡していた。
彼女はそれを受け取って、カップをつかんでトテトテと奥に向かっていった。
レジから5000円札にして俺に手渡してきた、一緒に包装された小さな箱とともに、
俺は礼を言おうとしたのだが、何か違う気がしたため言うのを止めた。
だから代わりに、なんとなく髪の毛をくしゃっとやってやり
「また来るよ」といって店を出ることにした。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:44:27.67 ID:vGoWtUetO
―――――――――――――
女性の買い物は長い。
先の店で時間をつぶしてから更にそろそろ20分は経とうかとしている。
「流石に遅いな…」
目の前の小さな店舗。
ファンシーな装飾、看板は明らかに女性客に向けてのデザイン。
しかしウィンドウ越しによく見ると中にはカップルなのか男の影もちらほら見えた、
「…仕方ないか」
その様子と時間に押されて俺は隠れるように店内に入った。
だがあまり一人でいるところを店員に発見されたくはないな…。
「あんたなにやってんの?」
しばらく捜索を続けていると、
いつのまにか後ろにいた涼宮が俺にあきれたように声をかけてきた。
「お前達が遅いから迎えにきたんだよ、どこにいたんだよ探しちまったよ」
俺はいつの間にか低くしていた体勢を戻して、
仁王立ちしてる涼宮に向かってそういった。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:46:20.99 ID:vGoWtUetO
「あにいってんのよ、それはこっちの台詞よ私達とっくに店出てたのよ?」
みるとガラス張りの扉の向こうにはかがみとつかさがこっちに手を振っていた。
涼宮の言ってることに耳を傾けていると、
実は俺がアンティークショップでみなみと話しているときには店を出ていたらしい
つまり謝るべきは俺のほうらしい、ちくしょう。
「じゃあそろそろ行きましょうか」
そういってたったか行ってしまう涼宮にさっきの店のことを言うべきか否かまよったが
結局言わないで置いた、他意はない。
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:49:47.64 ID:vGoWtUetO
「たっだいま〜」
涼宮はアパートに着くなり俺の家の扉を空けて叫びながら中に入っていった。
俺はいつものこととそれを無視して、向かいの涼宮と書かれた表札がかかっている扉を
車のキーと一緒にくっついている合鍵であけ、玄関のところに涼宮の荷物を放置した。
柊姉妹はあの後適当にぶらぶらしてつかさの運転で帰って行った。
ちゃんと帰れればいいのだが…。
思考しながら大きな荷物の中から少しだけある自分の荷物を引き上げる。
もちろん小さく包装されたカップを忘れない、
ビニール袋にまとめて、涼宮の部屋の鍵を閉める。
そしてやっと向かい側の自分の家の中に入る、出かけたときの通例だった。
部屋に入ると涼宮は俺の部屋のテレビをつけて
自分で入れたらしいコーヒーを飲んでいた。
色々といいたいことがあるものの、涼宮の家にはテレビは無いし
コーヒーに関しては、横に俺の分も作られてることで帳消しにしとこう。
…だが。
「……マグカップは他にもあっただろう?」
コーヒーはなぜか俺の魚の名前の書かれた湯飲みに注がれていた
「別に味は変わりはしないでしょ?」
涼宮は俺の抗議にしれっと答えて、テレビから視線を動かさなかった。
俺もテレビに目を向けると、強張った表情のアナウンサーが原稿を読んでいる
どうやら十数個残ってた日本の島の中でもっとも小さかった例の島がとうとう沈んだらしい。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:55:01.60 ID:vGoWtUetO
あそこには行ったことがない、
というか島民が他の島の行き来をすることなんてめったに無く。
貿易関係を抜きにすれば月に数回の定期船がお互いの島を行き来してるだけだ。
だからどんな島だったのか知らないが、聞いた話だと台風がよく通るらしく、
四方八方海だらけの小さな島でのその環境。仕方ないといえば仕方ないのかも知れんな。
俺は湯飲みのコーヒーを口に運びつつなんともいえない気分に浸っていた、
だがそれは騒がしい電子音でかき消された、湯飲みを置いて電話にでる。
『やふー!キョ…』プッ、ツーツー
俺は何事も無かったかのように部屋に戻り座り直した。
ジリリリ、すぐにかかって来る電話
もう一度立ち上がり電話に出ると。
『こんにちは、キョンさんお久しぶりです』
電話の主が変わっていた。
流石というべきかあいつはこういうときの対処法をよくわかっている。
俺がこの子に先ほどのような行動を取れないのを知っての行動だ。
俺はこの義姉妹の姉が向こう側で笑っているのが手に取るように想像できた、
というより含み笑いのようなクスクス声が電話越しに聞こえていた。
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 00:02:03.05 ID:2mJApIIQO
「二ヶ月ぶりぐらいかな?二人ともどうせならもっと近くに住めばよかったのに」
俺がそういうと、
『キョンキョンだって私達がお金ないの知ってるくせに〜』
予定と違う声が恨みがましい調子で聞こえてきた。
俺は少し受話器を耳から離して、受話器を見つめてから
嘆息をついて耳に当てなおす。
「いつの間に入れ替わったんだよ」
『スピーカーホンですよーだ』
「あぁそうかい」
妹のほうはいいのだが姉のほうは少し話してるだけで疲れる。
俺はこの二人、特に姉のほうが涼宮と仲がいいのをいいことに
テレビに夢中になってる涼宮を呼び、涼宮に相手をさせることにした。
「おい、こなたとゆたかちゃんが電話してきたけど話すか?」
涼宮は俺の台詞は聞くと手元のコーヒー(マグカップだ)を飲み干して
テレビの電源を切ってこっちにやってきた。
俺はあっちの義姉妹やってるようにスピーカーに変更して受話器を置いた。
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:03:57.49 ID:2mJApIIQO
「やっほーこなた、ゆたかちゃんも」
『やふーハルにゃん、またキョンキョンのお家にお邪魔してるのかい?』
「なにいってんのよ、私がきて邪魔に思うわけ無いじゃない」
女三人寄れば姦しい、ゆたかちゃんはあまり会話に参加してるわけじゃないが
旗から見ている俺からすればまさにその諺通りだった。
この状況で会話に入ることは不可能と早々に判断した俺は
とっとと部屋に入ってコーヒーを飲むことにした。
あの調子ならしばらく話しているだろう、俺はテレビを付け直してニュースに耳を傾けた。
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:05:36.35 ID:2mJApIIQO
「電話もういいわよ」
涼宮がそういって部屋に戻ってきたのは意外と早く20分程度だった。
一時間以上話してるだろうと思ってた俺としては結構驚いたが、
理由はすぐに涼宮の口から発せられた。
「こなた達、今からこっちに来るって言ってたわ」
俺は咄嗟に頭を抱えて窓をぶち破って雨の中をはだしで駆け出したくなったが、
大怪我をするだけで何の解決にもなってないことに気がついて止めた。
「あのな涼宮、こっちって言うのはもちろんお前の…」
俺が希望的観測を述べようとなんとか言葉を発したのだが。
「この部屋よ」
見事に打ち砕かれた、今日はどうやら静かに寝ることも邪魔されるらしい。
この部屋は宴会場でも溜まり場でもないはずなんだがな…。
だが、この雨の中北の村からやってくるってことは、車を買ったのだろうか?
免許を取ったのに車がないと嘆いていたのはついこの間のように記憶しているのだが、
俺は外から流れてくるテレビの砂嵐のような音にどこか落ち着きつつ
もうすぐ消えるはずの短い平穏を味わっていた。
「コーヒー飲み終わったみたいだからもう一杯入れといたわよ」
撤回、こいつがいる限り平穏は無いのだった。
俺は湯気を立てて香りをここまで放っているコーヒーが入っている湯飲みをしばらく眺めていた。
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:11:44.34 ID:2mJApIIQO
―――
どっどどどうど、どどうどどどう。
てな感じで風が吹き始め、窓に当たる雨がいっそう強くなった。
よりいっそう視界が悪くなり、こんな状況で来るといっていたこなたたちは大丈夫かと
多少心配しかけていたが、そんな心配なんて関係ないとばかりに
すぐにエンジン音がし、クラクションを軽く二回鳴らしてきた。
窓から見ると、雨で見にくくはあるが確かに下に車が止まっていた。
車は大き目のワゴンである。
金がないと口癖のように言ってるくせに
よくこんなもんをこのご時世で買ったといってやりたい。
俺は涼宮に一言声をかけて、かさを持って外に出て
カンカンと音のなる古びた金属製の階段を下りていった。
途中の踊り場が濡れて転びかけたが、そこはなんとか持ち直し、
足元に気をつけて外に出てみれば、
先ほどの車が俺をスポットライトのようにヘッドライトで視覚的攻撃を仕掛けてきた。
ってかハイビームのままにしてんじゃねぇよ、眩しいだろ。
俺は雨の一斉射撃を受けて本来の倍近くの重量になってる傘を握りなおし、
もう片方の手で目を守りながら、車に近づいていった。
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:18:44.06 ID:2mJApIIQO
するとこなたが車の窓からひょいと顔をだす。
「車どこに止めればいい〜?」
「別に使う人間も少ないしその辺に止めとけばいいだろ」
ぞんざいに俺が返答をするとこなたは「了解」と言って顔を引っ込める。
そして車は動きだし、本当に"その辺"にとめる。
いや、確かに間違ってはいないんだけどさ…。
ややあって、バタンとこなたが向かって右側から降りてくる、
…右側から、つまり車視点で言うと左側。
当然普遍的な車のハンドルは右側についていて、
ゆたかちゃんは免許を持っていない。
このことから導き出される結論は一つ、
こなたの奴、誰かを足に使いやがった。
しかし当のこなた自身は俺の心中を察すことなく
飄々と笑ってこっちにやってくる。
「やほー、キョンキョンひさびー」
「ちょっとまて、お前とゆたかちゃんだけじゃなかったのか?」
「だって私車持ってないよ? 知ってるくせに〜」
「買ったのかと思ったんだよ!」
雨の中傘を差してハイテンションのこいつについてくつもりは毛頭無く、
俺は早々に会話を切り上げて、車のハンドル側から降りてきた
比較的話しやすい人物に声をかけることにした。
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:28:40.14 ID:2mJApIIQO
みゆきはにこにこと微笑みながらのんびりとこちらに歩いてくる。
毎度彼女のマイナスイオン満載の笑顔に俺は骨抜きだが、
しかしそんなのはおくびにもださずに話しかける。
「よぉみゆき、わざわざこんな雨の中をこなたの所為ですまんな」
「いえいえ、私も久しぶりにみなさんに会えるので嬉しいですよ」
うふふと笑うみゆきはやっぱりその育ちのよさを感じさせて
俺的好感度ゲージの上昇がとまらない。
しかしみゆきを足代わりに使うなんてこなたの傍若無人さは涼宮さながらだな、
流石に鶴屋さんにはかなわんが、みゆきだって
俺らのような一般人とは比べられんお嬢様だというのに。
「そういえば、みなみさんが今日キョンさんがお店に来たっていってましたよ」
あぁ、そういえばみなみもそっちの方面住みでしたね。
どっかで働いてると聞いてたんですけどあんなところだったなんて驚きましたよ。
「あそこみなみさんのおじい様が趣味で始めたらしいんですけど
小さな頃からおじいさんのそういうのを見てたから興味を持って、って事らしいですよ」
…あぁ、そういえばみなみもそっちの方面の人間でしたね。
このちょっとした交友関係の中の経済格差に多少の不条理を感じつつ
とりあえず三人を連れて家に戻ることにする。
涼宮が部屋で何か良からぬことをしているかも知れんからな。
あいつを一人で家に置いているのは結構不安だ。
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:31:10.77 ID:2mJApIIQO
―――
「鍵が閉まってる」
俺の部屋の扉を開けようとするとガチャンと無機質な音がし、
その後うんともすんとも言わなかった。
俺はたかがしたに知り合いを迎えにいくのに
自宅の鍵など持ってきていないのであける術などない。
仕方なく反対側の涼宮の扉に手をかけると
タイミングよく内側から扉が開いた。
「あらちょっと早かったのね、今色々宴会の用意をしてたんだけど」
宴会?ちょっとまて俺の家を惨状にするつもりか?
ってかゆたかちゃんはまだ18だし、お前も20になるのは来月じゃなかったか?
「あにいってんのよ、昔の法律なんかほっときゃいいのよ」
そうかい、まぁいいから俺の部屋の鍵を閉めていくなよ、
入れないじゃないか、廊下で凍えてるのはごめんだぞ?
何が悲しくて自宅の前で凍死しなくちゃならん。
俺がそういうと涼宮は鍵を開け、俺に手に持っていた酒やらなんやらを渡して
また部屋に戻っていった。ってかこんなに溜め込んでいやがったのか
たまにしか買い物いかんくせに凄い量だな。
俺はとりあえず三人を家に上げて部屋に連れて行くことにする
来て早々、先が思いやられるといったところか。
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:33:03.43 ID:2mJApIIQO
「おじゃまー」
「お邪魔します」
「どうもお邪魔します」
こなた、ゆたかちゃん、みゆきさんと順に上がっていくが
このあたりに若干性格が出ている。こなたは適当に靴を脱ぎ、
来たことある勝手さからか俺の部屋に俺よりも先に行ってしまった。
その反面ゆたかちゃんと、みゆきさんはキチンと靴を揃えていた、
こなたの分までキチンと揃えているあたりがまたなんとも。
しかし、今は無いがここに涼宮の靴も入るとなると
ぼろアパートの一人暮らしの玄関には少々多すぎる量の靴が並ぶことになるな。
足の踏み場も無いというのはこのことか。
…いやこの言葉はまだ取っておこう、
この後惨状になって祭りが過ぎ去ったあとの俺の部屋のためにな。
俺はネガティブな思考を繰り広げつつ部屋に向かった。
今更だが俺の部屋は2Kのアパートだ、ぼろいし隙間風があるが
家賃を考えればなかなかにいい物件だと思っている。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:36:36.70 ID:2mJApIIQO
二つの部屋。
そのうち一つが涼宮がきたり、いまこなたが向かった部屋。
もう一方がベットとか本棚とかあまり見られたくないものが置いてある部屋だ。
別に本棚が見られるのが嫌なのはプライベートなものであまり人に触られたくないだけだ、
まったくもって他の意図が無いことをここに明記しておく。
部屋につくとこなたはさっそくテレビをつけて、ずいぶんとくつろいでいる、
俺は中央の机に渡された品々を適当置いて、ゆたかちゃんとみゆきさんに座るように促した。
さて、我が家の人口密度が著しく上昇している現状、
ただでさえ激しい雨が降って湿度が高い上に俺の部屋にこの人数、
少々息苦しさを覚えるのは俺だけだろうか? 俺だけなんだろうな。
聞くまでも無い、俺以外の輩は楽しげに談笑しつつコップに入ったアルコールを飲んでいる。
桃色に染まった女性人はたしかにそそるものがあったが、
流れてくるアルコールのにおいが単純にそれを楽しむことを阻害する。
窓をあけて換気したいものの外は相変わらずの雨で、雷も鳴り始めている始末だ。
…そういえばみゆきさんあなたも飲んでますけど車じゃなかったですか?
「私が運転するよ〜」
黙れ酔っ払い。
涼宮に続いて二番目に飲んでるお前に運転なんかさせたら
確実にお前達三人の明日はないぞ。
さらに言っておくと俺の家に泊めるスペースはないし、
あっても男友達じゃないんだから遠慮願いたいんだがな。
どうしてもってなら涼宮に言ってくれよ?
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:41:18.25 ID:2mJApIIQO
「なにいってんのよ、あんたんところと同じつくりの私の家にスペースあると思う?」
このやろう、酔っ払ってるくせに正論を言ってきやがるから性質が悪い。
いったいどうしたものか、俺が送ってくという手もあるが、
それをやった場合、みゆきさんの車がここに置き去りになる。
もしくは俺が夜中に一人隣の村から歩いて帰宅する羽目になるか、どちらかだ。
雨の降りしきる夜を一人で歩く、しかも距離的に着くのは朝になるかも知れない、
そんなのは絶対に、誰がなんて言おうと御免だ。
だがしかし同じ距離をみゆきさんに歩かせて車を取りにこさせる訳にも……。
こんなときに一人素面だと痛い目見る、それは前からわかっている事なのにな、
止める人間がいなくなれば際限なく俺の部屋が地獄絵図に近づいていくのもわかっている。
はぁ、とため息をついていると
玄関から来訪者を知らせるチャイムが鳴った。
すでに時計の短針は真上を見上げつつある時間、
見知らぬ人間が尋ねる時間じゃないだろう。俺は救いの女神かはたまた笑みを浮かべた悪魔か
多少の希望と多大な諦観を持ちつつ、
どうせと心に予防線を張って酔っ払いを尻目に玄関に向かった。
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:43:59.02 ID:2mJApIIQO
―――――――――――――
ガチャ、と音を立てて開いてくのは我が家の最終防衛ライン。
その向こうにいたのは、数時間前に別れたはずの二人。
「こなたに宴会があるから来いと言われたんだけど…」
「またあったねー」
あぁ、何だろう。一体どういう反応を取るべきかなのだろうか?
俺はとりあえずこなたを呼んで現状説明を行わせようと思い、
やかましい我が部屋の方を振り返るとすでにこなたは後ろにいた。
「やふー、遅かったじゃんかよーもうみんなかなり飲んじゃってるよ」
しかも当然のように二人に声をかけている。
まぁ二人を呼んだ張本人ならチャイムが鳴った時点で気付いてるだろうからな。
しかしそれはともかく、先刻と比べて幾分意識がハッキリしているようなので
俺としてはしっかり説明をしてもらいたいんだがな。
「なにいってんだよ〜、答えがわかってるのに質問するのは意地が悪いぞ」
「弁解する余地を与えてるんだ馬鹿たれが」
俺がのらりくらりとした態度に少々苛立っていると
そんな状況を見ていたかがみがやや困ったように呟く。
「ちょっと、私達来ないほうが良かった?」
横を見ればつかさが落ちつかない様子で視線をキョロキョロさせているし、
仕様が無い、靴を一旦棚に片付けてこなたを追っ払ってから
あらためて二人に入るよう促した。
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 00:47:35.75 ID:2mJApIIQO
「あんたなにこなたいじめてんのよ!」
新たな訪問者を従えて部屋に入るなり、
俺は涼宮にそう大声で怒鳴られた。
こなたに先程の件であること無いこと言われたんだろうが
とりあえずは時間を考えろ時間を。
この家の壁の薄さはさっきも言ってたがお前も知っての通りだろうに。
俺はぶつくさつぶやきながら、後ろの二人に適当に座るように言い
こっちこいとジェスチャーする涼宮に渋々近づいていった。
瞬間、涼宮のそのすらりとした長い足が俺の太ももに勢いよくヒットした。
腿かん言ううのだろうか?
じんじんと筋肉の束が疼痛を俺に訴えている。素直に痛い。
この狭い、しかも現在俺を含めて7人の人間がいるような場所で
よくもこのような鋭い蹴りを入れられるもんだ。
被害を食らった俺でさえ感心するね。
痛みに耐えつつ涼宮のほうを見ると、
その向こうでこなたがしてやったりといった含み笑いを俺に向けていた。
「あら、大丈夫ですか?」
そういって俺に声を書けてきてくれたのはみゆきだった。
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:48:23.88 ID:2mJApIIQO
彼女は琥珀色の液体の入ったグラスを片手に微笑みながら俺に近づいて。
「ファイトです!」
肩をポンと叩いて、そう愉快に言ってまたゆたかちゃんの元にふらふらと戻っていった。
「ゆたかさんも、もっと飲みましょう!」
みゆきさんはいつの間にかグラスの代わりに持っていた
ウイスキーの瓶の中身をゆたかちゃんが持ってるグラスに注ぎ始めた。
「ちょっと!みゆき、なにやってんの」
「あわわ、こんなに飲めませんよぅ」
「大丈夫です大丈夫です」
あの、ちょっと待ってください。あなたはそんなキャラだったっけ?
アルコールが入るとボケのほうに回んのか…。
俺の仕事が増えていく…、かがみという常識人が来た事を差し引いてもマイナスだ。
俺は痛みの和らいできた足を擦って、なんとか立ち上がると
せめて一矢報いんとこなたと雑談モードに入ってる涼宮のつむじをギュッと押しこんでやった。
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:53:02.03 ID:2mJApIIQO
「次はそこを右です」
俺は助手席のみゆきに言われたとおりにハンドルを切る。
今俺はみゆきの車を運転して、みゆきさんとこなた
そしてゆたかちゃんの三人をを送ってる最中だ。
かがみが来てくれたおかげで、二台の車を使って三人を送り、
みゆきの車をおいて、もう一台で帰るという画期的な手段が取れることになった。
これで狭い家に人を泊めたり、俺が数時間雨の中歩かなくてもよくなった。
いまではかがみを呼んでくれたこなたに感謝すら覚えるね。
ただ普段使っている自分の車とは違い、大きめの車のため多少気を使ってしまうな。
バックミラーにはかがみが運転している車が映っており、
俺が運転しているこの車と同じように曲がってきた。
「運転上手なんですね」
雨の勢いが和らいだものの、いまだぬかるんだ道をゆっくりとした速度で走っていると
後部座席からゆたかちゃんが身を乗り出して俺に声をかけてきた。
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:53:50.32 ID:2mJApIIQO
「そうでもないよ、確かにかがみよりはずっと走ってるけど
つかさは問題外だしなこなたはペーパーだし、比較出来るのが少ないからじゃないか?」
俺は振り向くわけにはいかないので、そのままの状態で答えた。
と、信号が黄色になったのでブレーキを踏んで速度を下げた。
「ほら、安全運転だし」
ゆたかちゃんは俺のその行動をみてそう感心したようにいった。
俺は別にそんなつもりはなく、ただ黄色の時点で行ってしまえば、
後方のかがみが通るときには赤になってるだろうと思っただけだ。
ただそのことを言うのはなんとなく気恥ずかしいので、俺は曖昧に誤魔化してしまった。
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:56:29.20 ID:2mJApIIQO
「オーライオーライ」
先に車から降りたみゆきが先導し、俺はそれに従って車をバックさせて車庫に入れた。
そして可愛らしいストラップがついたキーをみゆきに返す。
「ではおやすみなさい」
「あぁ、また今度」
別れの挨拶を適度に交わして、かがみが停めているに向かう。
「じゃあねみゆき!」
「はい、かがみさんもありtがとうございました」
ウィンドウを空けて手を振るかがみとそれに答えるみゆき、
俺はそんな二人を横目にかがみの車の助手席に乗り込む。
ちなみにゆたかちゃんとかがみの車に乗ってたこなたは
少し遠回りして二人のアパート付近で降ろした。
しかし自分が助手席に座るのは久しぶりだ。少しむず痒い。
などと思っているとかがみが車を発進させ、自宅に戻るみゆきの背中を少し眺めてから
車の内蔵スピーカーから流れるラジオ番組に耳を傾けていた。
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:57:37.81 ID:2mJApIIQO
「そういえばさ」
「どうした?」
「さっきの信号、気を使ってくれたんでしょ」
「…なんのことだ」
多分気付いてるとは思ったが、わざわざ言ってくるとは思わなかった。
俺はまたも知らんふりを決め込んで曖昧な返事をした。
「あんたは昔からそうよね。気配り、ってかまぁとにかく気を使うのにさ
それを指摘されても知らぬ存ぜぬを通すのよね」
「…さてね」
「あんたがそんなだから、たまになんかしてあげようかなって気になっても
なかなかチャンスが来ないんじゃない」
困ったことになった、俺は自分の事になるとてんでダメなんだ、
俺はふてくされたように窓の外を見つめる作業に移った。
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 01:00:35.54 ID:2mJApIIQO
「…そういや、こなたと何話してたんだ?」
コレは話を逸らそうとかそういうのじゃなく、単純な興味からの発言だ。
いや、本音は話を逸らす意図もあるが。こなたは送るとき、
かがみと一対一で話したいからとかがみの車に乗り込んだのだった。
「別に何も」
かがみはさきほどの俺のように急にトーンダウンして一言そういって黙る。
そして家に着くまで会話がなくなってしまった。
「起きなさいよつかさ、ほら行くわよ」
家に着くと残っていたつかさと涼宮は俺の部屋で豪快に寝ていた。
どれくらい豪快かというと、某暴力ガキ大将の歌のようだ。
…ダメだこのたとえは訳がわからない、
酔っ払い空間にいて俺も空気中のアルコールにやられたのかも知れん。
「お前もだ涼宮、お前は家がすぐそこなんだからすぐ起きろ早く起きろ今起きろとっとと起きろ」
そういってぺちぺちと顔を叩くものの、涼宮は寝言を言いつつ
俺の手から逃れるように寝返りを打って丸くなってしまった。
お手上げとばかりにかがみを見ると、やはりと言うべきかつかさのほうも起きる気配は無さそうで、
かがみも両手の手の平を上に向けて肩を竦めた。
どうしたものか、さっきと違って二人ぐらいならこのまま寝かせとけばいいんだから
べつに問題ないと言っていえないこともないが…。
俺が真剣にどうしたものかと考えていると、
かがみが空いてるグラスを持ってきて、ウイスキーを注ぎ始めた。
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 01:09:37.52 ID:2mJApIIQO
「なにやってんだ?」
俺がそう聞くと、かがみはもう一つのグラスにも注いで俺に渡してきた。
「どうせこの二人は起きないだろうし、もうこんな時間じゃない。
さっきまでは車運転しなくちゃいけなかったから飲んでなかったし、
そこの二人が起きるまで飲みしましょ。ほら乾杯」
「何に乾杯するんだ?」
聞くとかがみは幾許か逡巡して悪戯を思いついた子供のような顔をして。
「苦労する友人を持ったあんたに乾杯」
俺は苦笑いをしてグラスを受け取り。
「不器用な妹を持ったかがみに乾杯」
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 01:11:29.18 ID:2mJApIIQO
そうやってかがみに続いて、グラスの中身を煽った。
雨と、急に人の居なくなった部屋で冷えた体が内側から熱せられる感覚に
俺は久しぶりに浮かれ始めた。
湿気りはじめたつまみを食べながら、
最近あった事の愚痴をお互いに言い合いそして酒を飲む。
気がつけば雨がやんで少し流れた雲から
久しぶりの朝日が部屋を照らす時間になっていた。
いまだに起きない涼宮とつかさ、ずいぶんと酩酊してきた俺とかがみ
他にも数名いて宴会をしていた部屋が朝日に照らされた。
俺はずいぶんと靄のかかった頭で自分の部屋の感想を呟いた。
「足の踏み場も無いな」
45 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2009/05/27(水) 01:13:30.72 ID:2mJApIIQO
一区切り
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 09:41:37.63 ID:2mJApIIQO
さて、どうしたものか。
俺は結局昼近くまでかがみと二人で飲んでいた。
お互い破天荒で少々常識に欠けた友人関係を持っているもの同士、
色々と弾む話といか積もった愚痴もあったからな。
しかし、普段そういう抑制させる立場に立っている俺達、
かがみと二人になり、久しぶりにそれから開放されたためか
酔いによる睡眠欲に敗北を喫し、次に目が覚めたときにはばっちりきっかりと
俺もかがみも二日酔いになっていた。
「痛い〜、頭がガンガンする、視界が歪む〜」
ほぼ同時に起きた俺達は起きて早々、似たような呻きを発した。
惨状の部屋でぶっ倒れてた俺達は、何とか立ち上がり顔でも洗おうとして
涼宮とつかさが居ないことに気がついた
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 09:44:06.12 ID:2mJApIIQO
「あんた達やっと起きたわね!」
俺が虚ろな目であたりを見渡していると、
部屋の入り口から涼宮がエプロン姿で顔を出して威勢のいい声で俺達に声をかけた。
あまり大きな声をだすな…、頭の中でノートルダムの鐘が鳴り響くだろうが。
と力無く抗議してみたのはいいが、当然涼宮は俺の懇願にも似た発言になど耳を傾けることなどなく。
平然と大声をこれみよがしに発して来る。
「あにいってんのよ、情けないわねそれでも男!?」
しまいにはこんな一喝をもうけてしまった。
いっそ殺してくれ、そんな情けない思考に惑わされながらも
よろよろと涼宮の横を通って台所に向かった。
61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 09:50:53.57 ID:2mJApIIQO
「おはよー」
こめかみを押さえ、のそのそと前進する俺達につかさは元気に挨拶をしてきた。
なぜこの二人はこんなに元気なのか、それに答えるのは簡単だ。
なぜなら既にこの交友関係ができ、
こいつらと親しい付き合いを始めてから10年近く経つからな。
つかさは前から子供体質で少量の酒で時間的に寝ちまったんだろうし。
涼宮が二日酔いをしたところなんて見たことが無いし、想像もつかない。
「あらつかさ、美味しそうなの食べてるじゃない。どうしたの?」
かがみが、昨日二人で飲んだときの話題の四分の一を占めた人物に声をかける。
見れば確かにつかさはテーブルに座って、スクランブルエッグやら狐色のトーストやらを食べている。
「私が作ったのよ」
そういって涼宮が後ろからずんずんと俺達を押しのけて台所に舞い戻ってきた。
足元のふらつく俺はそれだけで吹っ飛びそうになったがなんとか持ちこたえる。
涼宮はそんな俺の様子に目をくれずに食器棚から二つのコップを取り出し、
冷えたお茶を入れて俺とかがみによこす。
「飲みなさい酔っ払い」
「お前にそれを言われるとはな…」
俺は悪態をつきながらそれを素直に飲み干した。
77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 18:49:32.16 ID:2mJApIIQO
「あ゛ー…」
若干生き返った気がする。
確か二日酔いってのは血中アルコールが水分と共に無くなって
脱水症状のようなことになるため起きる現象と聞いたことがある。
涼宮に頼んでもう一杯水を飲み、軽く頭を振るとずいぶん頭がすっきりした。
かがみの方も幾分顔色がよくなったように見える。
多少すっきりしたところでとりあえずテーブルについて一息つく俺、
嘆息をついて盛大に肺に入っている空気を外に押し出すと
カチャ、と食器の触れ合う音がして俺の前につかさが食べてるものと同じものが置かれた。
「それはあんたの分、かがみの分もあるわよ」
涼宮はそういって空いてる席にもう一つ皿を置いた。
材料は考えるまでも無く我が家にあったものだろうが、俺は何も言わずに
ただ一言だけ礼を口にして食べ始めた。
78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 18:50:42.21 ID:2mJApIIQO
突然だが、料理ってのは単純なものほど難しいと聞く。
単純ゆえにごまかしが聞かないのが理由だそうだ。
複雑なものはそれぞれの味が混ざるため、
多少のミスならはごまかせる。だから和食なら玉子焼きを焼ければ一人前。
そして、俺の目の前に並ぶのはトーストとスクランブルエッグというやはり単純なものだ、
コレは和食ではないが、どんな種類のどこの国の料理であれ
やはり卵料理というのは難しいらしい、
俺は滅多に見ない涼宮の料理の腕前を存分に、文字通り味わっていた。
「ご馳走様」
そういって俺は食器を持って流しに置きに行き、
なにもないシンクにそれを置いて思う。
「涼宮は朝食をもうとったのか?」
すると俺の言葉を聞いた涼宮は眉をひそめ、無言で時計を指差した。
「…昼食はとったのか?」
涼宮の行動の意味を理解した俺は、訂正しつつ聞きなおす。
「あんた達の分だけ作ると思う? むしろあんた達の分がついでよ」
実を言うとなんとなくいつもと違う涼宮の行動に
やや対応に困っていた感のある俺だがこの台詞で俺は一気に脱力した。
79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 19:01:02.30 ID:2mJApIIQO
「ご馳走様、ハルヒあんたこんなに料理上手だっけ?」
「あんたねえ…、一人暮らしして何年だと思うのよ?」
少し遅れてかがみがそんなことを言い出した。
それに対して涼宮は呆れたように返して
二人で料理談義に華を咲かせはじめた。
ついでにつかさは俺達より早く食べ始めていたのにも関わらず
まだチマチマとトーストを食べている。
両手で一枚のトーストを持って端から齧ってくその姿は愛玩用の小動物などを連想させた、
生憎俺は実物をお目にかかったことがないのだけどな。
いまや野生の動物というと=昔で言う絶滅危惧種となるからな、
そういや、みなみのところは犬を飼ってるとか言ってたな。
ふむ、こんなことを考えていると実家のシャミセンに会いたくなってきたな、
あいつもそろそろ年だからな、いきなり居なくなったりしたら寂しいもんがあるし。
それに妹にも最近連絡とって無いしな、
今度の短期バイトが終わったら顔でも出しに行くことにしよう…っと話が脱線しまくってるな、
俺が動物思考をめぐらせてる間にかがみと涼宮の間でもなにやらやり取りがあったらしく、
こんど涼宮が洋食を教える代わりにかがみに和食を教えて貰う、ということらしい話しを聞いた限りではな。
同じ方向で違うジャンルが得意なもの同士で教えあいという訳か、
俺にはそんなに夢中になる趣味なんて無いに等しいからな。
そういったなにか好きな物に対して誰かと共有すると言う感覚がわからないんだが、
……多少羨ましいかもしれないな。鈍さも抜けて頭が上手く回り始めた俺はコーヒーを入れて
壁にもたれながら二人の様子を眺めていた。
81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 19:11:21.01 ID:2mJApIIQO
ギュッと水を絞った雑巾で車を拭く。
先日の土砂降りの中の走行で受けた雨が乾いて、
なにやら水垢が残ってしまっている、それを俺は丁寧に時間をかけて雑巾で磨いていく。
「こんなもんか」
久方ぶりに天気もよく、もうすぐ夕暮れ時だというのに辺りは結構明るかった、
俺はバケツの中の汚れた水をその辺に撒き、
ピカピカになった我が愛車をしばらく愛でてからガレージを閉め、自室に戻ることにした。
相変わらずいつ抜けるか不安でならない階段をきしきしと上っていくと、
踊り場から水平線の向こうにゆっくり沈んでいく大きく燃える太陽が見えた。
「うおっ、茜色の空か…。綺麗だなこりゃ」
ここで俺がカメラを持っていたなら問答無用でそのレンズを輝く太陽に向けていただろうが、
いかんせん俺にはそんな記録媒体など持ってない。
それにもし持っていたとしても、一旦部屋に戻ってカメラを取りこの場に走ってきたところで、
もはやその光景は今俺が目にしているそれは別の何かだ。
撮ろうと、撮りたいと思ったその瞬間を逃した俺は、ただこの情景を眺めるのみ。
切なさと言うかなんというか、哀愁にも似たなにかに駆られながらも俺はしばらく日没と呼ばれるその現象を眺めて。
そして一段飛ばしで階段を駆け上がり自宅の扉を力強く開いた。
ガチャンッ、と扉が開けば、
そこには先ほどまでの喧騒が嘘のような静寂が
ただ、ぽつねんと存在しているだけだった。
82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 19:44:38.13 ID:2mJApIIQO
柊姉妹はしばらくあのまま料理談義をしていたのだが、
流石に一泊した後だしと言うことで半刻程前に帰宅した。
涼宮の奴は多分俺の向かい側にある自宅に戻ったのだろうと思う。
まぁ家に友人が居ると言うのに、
それを放置してまで洗車を敢行するような輩でもないんでね、俺は。
風呂場に使用したバケツを置いて、腕時計で時間を見る、
…そろそろ数少ない娯楽形の番組が放送する時間帯になるな。
いや、普段はそういうのを見る性質じゃないんだが、いま俺の身体を包んでいる
なんと表現すればいいのだろうか? 虚無感、が一番近いだろうか?
長い間読んでいた本が終わったりしたときとかに胸に残るわだかまりのような靄、を
誤魔化すには、まぁいいBGMぐらいにはなるだろう。
いまだにアルコール臭残る部屋でコーヒーをすすりながら、
身を乗り出してテレビのスイッチを入れる。
人によってはこのご時世に不謹慎だとか思う奴もいるのだろうけど、
戦時に宝塚歌劇団が重宝されて、あちらこちらに遠征したように
こんな時でも、こんな時だからこそ、人には気の休まるときが必要なのだと思っている。
あれだ、何の本だったか東北からの遠征軍の兵士に
雪国の芝居を見せたら、偽物の雪に感動して泣き出したという戦中の話もあったじゃないか?
俺はいつのまにかよくわからない方向へ飛んでいった思考に
訳もわからぬまま頷いて、コーヒーをまた少し口に含む。
ほろ苦い味に甘み、鼻を通る薫り、微かに残るその後味、
…たまには豆を挽いた、インスタントじゃないコーヒーでも飲んでみたいもんだ。
若干そこに固まってた砂糖の所為で中身が減るにつれて甘みがじわじわ増してくコーヒーを飲みつつ
俺は実にもならない番組をしばらくの間眺めていた。
90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 22:09:57.76 ID:2mJApIIQO
―――
朝、二日続けて今日も晴天らしく、
昨日情緒ありげに沈んでいった太陽は元気に融合と分裂を繰り返して
カーテン越しに俺の顔を心地よく照らしてくれる。
いつもの甲高い目覚ましの音でなく、その柔らかな日光で目覚めた俺。
丸一日たってアルコールの匂いも綺麗さっぱりと消えてくれたし、
清々しいという形容は正しく現状を指す言葉なのだろう。
と、寝ている間に固まった関節を一本一本鳴らし、ほぐしていきながら
俺はつらつらとそんな風に考えていた。
やっぱり寝起きは背骨や首が良くなるものだ、
上体を後ろに反らせるとポキポキと軽快な音を立てて間接が鳴る。
この身体の関節がなる現象をキャビテーションというらしい、
なんでも間接の部分に存在する液体の中に気圧の差で気泡ができ
それが潰れる際にポキッと音がするらしい。
まぁ、どうでもいいんだけどな、そんな原理なんかはさ、
曲げたり伸ばせば鳴る、鳴れば気持ちがいい。それで十分だろ。
俺はベットから降りて、ぐしゃぐしゃになったシーツを適当に伸ばしてから
机の上に乗っている携帯と財布をポケットに突っ込んでバイトに向かう。
といっても車じゃないしましては徒歩なんて馬鹿げた行動はとらない、
バイクだ。俺は基本的にバイトには400のバイクを使って向っている。
朝の張り詰めた空気の中を誰もいない道を一人で走る。
風を感じるには自転車が一番の乗り物というが、バイクだって中々のもんだと思う。
こうやってフルフェイスのシールドを開けっ放しにして、
泥臭い湿った空気を肺にいっぱいに入れると最高の気分だ。