1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/22(金) 23:39:40.03 ID:GxH6TDNP0
規制いつのまにか解除してた。ハルヒ新作記念ということで。
午前6時。午前6時5分にセットしていた目覚まし時計が鳴る少し前に目を覚ます。
昔は誰かに起こされても1度では起きれなかった。
それが今では5時間ほどしか寝ていなくても、こうして6時には目が覚めてしまう。
習慣とは恐ろしいものだ。
どんなに辛いことでも日々繰り返していく中でそれは習慣となっていく。
朝起きれなかった俺が目覚まし時計より早く目が覚めるように。
あいつのいないこの生活にも少しずつ順応してきているように。
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/22(金) 23:40:48.60 ID:GxH6TDNP0
人はどんなに辛いことでも慣れてしまう。そしていつかその辛さすら忘れてしまう。
日々を生きていくために。俺もいつか習慣として忘れてしまうのだろうか。
あいつを亡くした時のあの悲しみも。それはとても寂しいこと様に思えた。
なぁハルヒ…おまえはどう思う?帰ってくる答えは無い。当たり前だ。
もうハルヒはいないのだから。
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/22(金) 23:41:33.25 ID:GxH6TDNP0
午前7時。二人分の弁当と朝御飯を作り終えた俺は我が家のお姫様の寝所へと向かう。
我が家の姫は誰に似たのか寝起きが悪い。
だから俺がこうして毎朝起こしにいかなければいけないのだ。
キョン「千春。朝だよ。起きなくちゃ幼稚園に遅れるしご飯も冷めちゃうぞ。」
千春「う〜ん…」
起きない。昨日も9時には寝ていたのにな。
幸せそうな寝顔を見ているとなんだか起こすことが悪いことのように思えてくる。
だが起こさねばならない。でなければ千春が幼稚園に遅刻してしまう。
なので俺は少し荒っぽい方法に出た。
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/22(金) 23:43:34.42 ID:GxH6TDNP0
キョン「千春〜!!起きろ〜〜〜〜!!」
千春の脇に手をいれくすぐる。
千春「お父さんwwwwやめてwwww起きるからwwww」
すると千春が声を出して笑いだす。ハルヒによく似たその顔が少し苦しそうに歪む。
キョン「はい。千春おはよう。」
千春「おはよう!お父さん。」
俺の挨拶に千春が笑顔で答える。笑った顔なんかは本当にハルヒそっくりだ。
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/22(金) 23:44:49.49 ID:GxH6TDNP0
午前7時10分。千春の朝の準備を終え二人でテーブルに向かい合いに座る。
キョン「はい。手を合わせて。」
キョン・千春「「いただきま〜す!!」」
今日の朝御飯は白米に卵焼きに味噌汁といった典型的な和風朝ごはんだ。
まぁ「今日の」と言ってもこのメニューは我が家の朝ごはんの鉄板であり変わることはほとんど無い。
二人分の朝ごはんと弁当を作るのも最初は苦戦していた。
卵焼きがスクランブルエッグになったり、味噌汁をだしもとらずに作ろうとしたりと
自分があまりにも家事が苦手であることに絶望したもんだ。
だがいくら苦手でも5年もやり続ければ随分と様になってきたと自負している。
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/22(金) 23:45:53.00 ID:GxH6TDNP0
千春「お父さん。今日幼稚園でねみんなでお絵かきするんだよ。」
キョン「そうか。千春はどんな絵を描きたい?」
千春「え?え〜とね…う〜んとね…」
千春が少し頭を傾げながら悩みだす。そんな真剣に考えなくてもいいのに。
千春のそんな姿を見ているとついつい笑顔になってしまう。
千春「千春お父さん描く!!」
キョン「え?」
千春が突然大きな声でそんなことを言うのでつい俺は素っ頓狂な返事をしてしまう。
千春「だ〜か〜ら〜。今日のお絵かきで千春お父さんの絵描きたい!!」
…なんて可愛らしいことをいうんだ。うちのお姫様は俺の心が読めているのだろうか?
そうでなければこんなにも俺の心を掴む発言ができるわけがない。
朝っぱらから少し泣きそうになってしまった。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/22(金) 23:46:48.50 ID:GxH6TDNP0
千春「それでね。千春が描いた絵お父さんに1番最初に見せてあげる。約束だよ!」
キョン「あぁ!父さんも絶対に千春の絵を最初に見るぞ!約束だ!」
千春「うん!約束!約束!」
いつまでもこうして千春と話していたいが俺にも千春にもそんな時間的余裕はない。
キョン「じゃあ早く朝ごはん食べちゃおう。でないと幼稚園に遅れちゃうぞ。」
千春「うん!」
そういう俺も急がなくちゃな。千春の幼稚園の準備もあるし、燃えるゴミの日だし、
それに何より今日は月曜日だからな…。親子二人で朝からご飯を少し急ぎながら食べる。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/22(金) 23:47:56.89 ID:GxH6TDNP0
午前7時45分。千春と俺は二人で和室に向かう。
だが和室に用があるわけではない。和室にいるあいつに用があるのだ。
千春「お母さん。今日もおはよう。千春とお父さんはね今日も元気だよ!」
キョン「おはよう。ハルヒ。」
仏壇の前に二人で座り、手を合わせる。週の初めである月曜の朝。
俺と千春は仏壇の前で黙祷する。
昔は毎日こうしていたのだが、俺が本採用になったり、千春が幼稚園に通いだすようになったり何かと忙しくなった。だから週1度、週の始まりの朝だけに黙祷することにした。
これだけはどんなに仕事が忙しくても欠かしたことはない。絶対にだ。
そうしなければ俺はいつか日々の忙しさの中でハルヒのことを忘れてしまうかもしれない。
そう思ってしまう自分が嫌で怖かった。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/22(金) 23:49:22.42 ID:GxH6TDNP0
キョン「今週も俺と千春が元気で笑って過ごせるように。お願いします。」
千春「おねがいします。」
いつものお願いをハルヒにする。お願いというよりも誓いだ。毎週俺はハルヒの前で誓う。
絶対に千春を悲しませない、お前がいなくても笑って生きていくよ、と。
そうすれば俺は頑張れる。俺がハルヒとの誓いを破れるわけがない。
なぜなら団長命令は絶対だからな。
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/22(金) 23:51:26.35 ID:GxH6TDNP0
午前8時15分。千春を幼稚園に送ってから俺は職場へと歩を進めた。
この馬鹿みたいに長い坂も高校3年間と働き出してから5年間。
大学4年間というブランクがあるものも、8年間ほぼ毎朝この坂を登っていることになる。高校時代にこの坂に対して抱いていた恨めしい気持ちも今ではなりを潜めている。
むしろ愛着が湧いているくらいだ。
この坂から見える俺と千春が暮らすこの街の景色を俺はとても気に入っている。
女生徒「先生。おはよう〜。」
キョン「あぁ。おはよう。」
今の俺は北高の教師をしている。教科担当は現代国語。現1−4の副担任をしている。
高校時代の俺が聞いたら唖然とするだろうな。
教師になって、よりにもよって北高で働いてるなんてな。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/22(金) 23:52:27.37 ID:GxH6TDNP0
それに国語の教師になった今でも古文はあまり好きになれない。
センター試験レベルの問題だと今でもたまに間違えてしまう。極めて稀なことにだ。
それにいくら教師になったからといって俺の元々の性格が変わったわけではない。
自分で教師になることを選び、北高で働くことに決めた。俺は俺だ。
その証拠に、「キョン先生!おはよう〜!」「おぉキョンじゃん。はよざーす!」
いまだにキョンと呼ばれ続け、しかも微妙な敬語で挨拶される。教師ではなく生徒に。
そう、これが俺だ。高校時代からたいして変わって無い俺なのだ。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/22(金) 23:53:21.90 ID:GxH6TDNP0
午前8時25分。学校につき俺は職員室へと向かう。
キョン「おはようございます。」
教師1「おはよう。毎朝あの坂をご苦労だね。」
キョン「いえ。もう慣れましたから。」
教師2「おぉ。おはよう。」
キョン「おはようございます。」
挨拶をしながら俺は自分の机へと着く。
机の上は「高校1年 現代国語」と書かれた教科書や、「古文 動詞の活用」と銘打たれたプリントなどものであふれている。といっても俺の机だけじゃない。
他の先生の机も似たようなもんだ。
俺の隣の机も資料やプリントがうずたかく積まれている。
その資料の山の脇から見知った顔がひょっこり出てくる。
国木田「キョン。おはよう。」
キョン「おはよう。お前今日は早くないか?」
国木田「ちょっとやることがあってね。」
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/22(金) 23:55:26.36 ID:GxH6TDNP0
腐れ縁もここまでくると運命と名前を変えるのかもしれない。
国木田も北高で教師をしている。教科担当は数学。2年理系コースの副担任だ。
俺と国木田は中学、高校、大学、さらに社会人となっても同じ場所で日々を過ごしていた。
高校3年の冬、俺は自分自身の努力とハルヒが作った俺専用センター対策プリントのおかげで、最後の模試で地元の国立大学の教育学部B判定が出るほど学力が向上していた。
国木田は俺の第一志望校なんかは余裕でA判定だった。
俺でも名前を知っている某有名大学がB判定という恐ろしいほどの成績だった。
ハルヒは志望校の欄に俺と同じ大学の法学部を第一志望に書いて、それ以外は何も書いていない。成績にあった大学に行く気なんかは更々なかったらしい。
そしてハルヒもA判定だった。しかも偏差値をみると国木田よりも上だったから驚きだ。
「涼宮さんはすごいな〜」と国木田が苦笑いしていたのはなかなか印象的だったな。
ちなみに谷口はというと、D判定だった。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/22(金) 23:56:15.89 ID:GxH6TDNP0
だが模試の判定通りにいかないのが大学受験というものだ。
国木田はセンター本番でブレーキしてしまい、俺は今までにないくらい好調だった。
結果として、いつも100点以上点数に差がある俺と国木田の成績はほとんど同じ点数に
なってしまった。
結局国木田は俺と同じ地元の国立大学の教育を受けることになった。
そんなこんながあって二人とも留年することなく大学を卒業し、国木田は本採、俺は仮採用で二人とも北高で働くことになった。
国木田「そういえばキョン。朝から4組の日直の子が日誌取りに来てたから渡しといたよ。」
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/22(金) 23:57:07.63 ID:GxH6TDNP0
いまだに俺がキョンというあだ名でよばれているのは多分にこいつの責任が大きい。
国木田は生徒の前だろうが他の先生の前だろうが構うことなく俺のことをキョンと呼び続けた。そのせいで一時期俺と国木田は女生徒の間で、あること無いこと噂されていた。
噂の内容は推して測るべしだ。さらに俺が北高に赴任した時、生徒として妹と美代吉がいた。
これが更に事態を悪化させることになる。
妹も学校だろうが構わず俺のことをキョンくんと呼び続けた。
俺のことをお兄さんと呼んでくれたのは美代吉だけだ。
キョンくん、キョンと二人から呼び続けられたことで生徒の間での俺のあだ名もキョンで定着した。先生をつけずに呼び捨てにする奴もいるくらいに。
妹のことを知らないはずの今年の新入生からも、すでに俺はキョンと呼ばれている。
これは親しみがあると喜ぶべきなのか、舐められていると怒るべきなのかは俺には分からない。それに生徒と良好な関係を築く上でこのあだ名が役に立っていることは否定できない事実だ。
まぁ、これも人徳の成せる技…だと思いたい。
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/22(金) 23:58:01.87 ID:GxH6TDNP0
午前8時55分。朝礼を終え俺は1−4の教室へと向かう。
本来副担任は朝のHRには出なくてもいい。
しかし、担任である体育教師がただいま入院中なのだ。
というわけで副担任である俺が一時的に1−4の担任をすることになった。
HR時間ギリギリだというのに、廊下にはまだまだ生徒がいる。
キョン「お〜いお前ら。ホームルーム始まるぞ。教室入れ。」
「キョンだ。おはよう。」「げ。来るのはえ〜よ。キョン。」
キョン「いいから早く教室入れ。プリント配んなきゃいけないんだから。」
文句を言いながらも教室に入っていく。
なんのかんの言ってもみんなまだまだ高校生なのだ。
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/22(金) 23:58:53.98 ID:GxH6TDNP0
俺は生徒に敬語を強制した事はない。
そういう社会のルールは高校を卒業した後でも十分に学べる。
高校を卒業したらそういったルールは絶対に学ばなくてはならない。
まだ子供でいられる最後の期間。俺はそれが高校時代だと思っている。
だからこそ俺は生徒に自分の思うままでいてほしいと思う。
将来を決める大事な3年間を他人の顔を窺いながら過ごし、自分を見失って欲しくない。
とはといっても「げ」はないだろ。「げ」は。あまりにあけすけ過ぎるのも少し問題だな。
教室に入るが俺が来てもお構いなしに生徒は騒いでいた。やはり少しへこむな。
ちょっとは注意すべきなのか?
本来の担任である体育教師が教室に入ると、この教室は水を打ったかのように静かになる。
静かでないと鉄拳が飛ぶからだけど。それも男子限定で。
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:00:15.50 ID:60Wl2Hdc0
キョン「全員席着け〜!朝のHR始めるぞ〜!」
こうやって呼びかければ、騒がしいながらもみんなちゃんと席に着いてくれる。
日直「起立。きょうつけ。礼。」
キョン「よし。みんなおはよう。全員来てるか?」
生徒「霧島がまだ来てませーん。」
教室を見渡すと、校庭に面した窓際の1番後ろ。その前の席は、高校時代に何回席替えしても1年間変わることがなかった俺の席。
そこが空席だった。そのことに生徒のだれも驚きはしない。もちろん俺もだ。
その席の主である霧島は遅刻の常習犯だからだ。
新入生が入ってきてまだ2か月だが、霧島はもう優に20回は遅刻している。
いくら担任が注意しても、3日後にはまた遅刻する。それに今はうるさい担任もいない。
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:01:36.40 ID:60Wl2Hdc0
キョン「霧島は今日も遅刻か…」
出席簿に△マークを書こうとしたその時、
ガララッ!!と大きな音を立て教室の後ろのドアが開く。
クラス全員の視線がそこに注目する。
霧島「はぁ…はぁ…セーフでしょ。キョン。」
肩で息をしながら霧島が俺に聞く。おそらくあの坂を走ってきたのだろう。
本当にきつそうだ。
キョン「セーフもなにもHRは始まってるんだけどな。」
その頑張りを認め、遅刻は撤回する気だが少し意地悪を言いたくなってしまう。
遅刻常習犯相手にこの程度の意地悪は許されるだろう。
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:03:42.41 ID:60Wl2Hdc0
午後1時30分。俺は今1−4組での授業中だ。昼休みの後の5時間目。
さらに月曜日の4時間目は体育。こんな最悪のコンディションの授業だ。
まともに授業を聞いているのは何人かしかいない。
他の連中は寝ているか、起きていてもボーっとしているかのどちらかだ。
単元のまとめなので中間テストに出すところをチラホラ混ぜながら授業しているのだが…。
高校時代に自分ができなかったことを生徒たちにやれというのも心苦しいものがある。
それにどうせテスト前には生徒間でノートの見せ合いが行われる。だからたいして心配はしていない。少し俺の心が痛いだけだ。
と、ここで霧島と目が合う。最近気づいたんだがあいつとは授業中やけに目が合う。授業はあんまり寝ないんだよな。寝ているところ見たことないし。
霧島「…(プイッ)」
あいつ目を逸らしやがった。朝のことまだ根に持ってんのか?
でも数少ない授業を聞いてくれている生徒の一人だ。それくらいの無礼全然気にしてない。
あぁ気にしていないともさ!!
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:04:52.72 ID:60Wl2Hdc0
午後4時45分。帰りのHRを終えた俺は部活棟に向かう。俺はある部活の顧問をしていた。
千春を迎えに行かなくてはいけない俺は本当なら部活の顧問なんて
ボランティア行為しないほうがいい。だがある生徒から頼まれた。
自分が所属する部活が顧問不在で廃部になろうとしていること。
だから俺に顧問をしてほしいということ。
俺は自らの家庭事情を話した。そして部活には毎日顔を出せない、来ても6時前には帰らなければいけない。それでもいいなら顧問をしてもいいと俺に都合のいい条件を提示した。
その生徒はそれでもいいと言ってくれたので俺は晴れてその部活の顧問になった。
それに俺はこの申し出に対して運命めいたものを感じていた。
その部活のことは北高に働き出したときから気になっていた。
でもその時は顧問もいたし部員も何人かいたから俺ができることはなかった。
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:05:55.06 ID:60Wl2Hdc0
だがこの部活が廃部の危機に瀕している。そして助けを求めているのだ。
それにもし廃部なんかになったらハルヒと某宇宙人からどんな目にあうかわかったもんじゃない。3年間で1番多くの時間を過ごした部室の前に着く。
その部屋のドアの上には「文芸部」の看板が下がっていた。
キョン「陸奥。いるか?」
陸奥「います。こんにちは。…今日は少し遅いですね。」
キョン「先週話しただろ?今臨時で担任してるって。だから俺がHRしなくちゃいけないんだ。」
陸奥「そうでした。お茶は何がいいですか?」
キョン「緑茶でいいよ。」
陸奥「わかりました。」
―陸奥ゆうき。文芸部部長兼お茶くみメイド…ではないが、
いつも俺が来るとお茶を出してくれる。
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:06:58.07 ID:60Wl2Hdc0
部室には文芸部なのに冷蔵庫、コンロ、パソコンまである。
我らの団長が高校生のころに持ち寄ったり奪ったりしたものだ。
陸奥「はい。先生お茶です。」
キュン「おう。ありがとう。そういや陸奥。」
陸奥「なんです?」
キョン「いつもどんなお茶がいいか聞いてくるけど緑茶以外もあるのか?」
そのとき陸奥の目が光った―ような気がした。
陸奥「あります。そもそも先生はいつもいつも緑茶といいますが緑茶にも色々種類がありまして」
キョン「ちょっと待て陸奥。その話長くなる?」
陸奥「話そうと思えば2時間は話せます。」
意外だ。陸奥にこんな趣味があったとは。
というか陸奥がこの趣味を持つことになる原因を俺は知っているかもしれない。
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:07:55.32 ID:60Wl2Hdc0
部室には文芸部なのに冷蔵庫、コンロ、パソコンまである。
我らの団長が高校生のころに持ち寄ったり奪ったりしたものだ。
陸奥「はい。先生お茶です。」
キュン「おう。ありがとう。そういや陸奥。」
陸奥「なんです?」
キョン「いつもどんなお茶がいいか聞いてくるけど緑茶以外もあるのか?」
そのとき陸奥の目が光った―ような気がした。
陸奥「あります。そもそも先生はいつもいつも緑茶といいますが緑茶にも色々種類がありまして」
キョン「ちょっと待て陸奥。その話長くなる?」
陸奥「話そうと思えば2時間は話せます。」
意外だ。陸奥にこんな趣味があったとは。
というか陸奥がこの趣味を持つことになる原因を俺は知っているかもしれない。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:08:50.47 ID:60Wl2Hdc0
キョン「お前どうしてそんなお茶に詳しいんだ?」
陸奥「それは…この部室にあったノートを読んだからです。」
やはり。朝比奈さんがせっせと書いていたお茶の入れ方ノート。まだ残ってたんだな。
陸奥「これです。でも凄いんですこのノート。多分個人で作ったんだろうけど。お茶の種類から入れ方までとても細かに書いてて。お茶の教科書みたいな感じです。」
辛口の陸奥にここまで言わせるなんて。流石は朝比奈さんだ。
陸奥「これを書いた人は本当にすごいと思います。日本茶に中国茶に紅茶。有名なお茶だけでなくて、マイナーなお茶まで網羅してるんです。」
…どうも陸奥は俺にお茶の講釈を受けて欲しいらしい。今まで俺が無知なせいで、
折角朝比奈さんノートで学んだ技術や知識を生かせなかった訳だからな。
ここは俺自身のため、それになにより陸奥のためにも、授業を受けるとしようか。
キョン「じゃあ陸奥。緑茶にはどんな種類があるんだ?」
陸奥の目が光る。今度は間違いなく光った。
陸奥「はい先生。まずは有名な玉露です。玉露は新芽を20日間干して作るもので」
教師である俺がたまには授業を受けるのもいいかもしれない。
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:10:17.83 ID:60Wl2Hdc0
午後5時50分。職員室で霧島を待たせ俺は電話をしている。
キョン「…というわけで悪いけど千春のお迎え頼めるか?」
???「あぁ。別にかまわないよ。それよりもキョン。」
キョン「なんだ?」
???「叱るだけが教育じゃない。何より相手は精神的に未熟な高校生だ。事情も聞かずに怒るような無知蒙昧なことだけはしないようにね。」
キョン「分かってるよ。それに俺もまだまだ精神的には未熟だからな。叱るなんてことできるかよ。」
???「それくらい謙虚なほうが教師として丁度いいと思うよ。それじゃ千春のお迎えは任せてくれ。」
キョン「いつもすまないな。」
???「さっきも言っただろう?別にかまわないと。じゃあ切るよ。千春を待たせても悪いから。」
キョン「分かった。じゃあ頼むな。」
???「あぁ。」
ふぅ…。これで千春のことはどうにかなった。問題はこれからだな。
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:11:34.57 ID:60Wl2Hdc0
キョン「霧島。なにがあったんだ?」
霧島「…」
だんまりか。こりゃ長くなりそうだな。
キョン「お前が話してくれないと俺もお前も帰れないわけだが。」
霧島「うるさいわね。キョンのくせに。」
キョン「話してくれないなら仕方ない。俺から一方的に話すぞ?」
霧島「…」
沈黙は肯定とみなそう。でなけりゃ話が進まん。
キョン「事情はわからないけど、先に手を出したのはお前みたいだな?」
霧島「…」
キョン「その男がおまえに何したかは知らん。女に殴られたくらいだ。相当くだらないことしたんだろうと思う。」
霧島「そうよ!あのば…」
キョン「けどな霧島」
俺は霧島の言葉をさえぎる。
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:12:26.22 ID:60Wl2Hdc0
キョン「俺はどんなことがあったとはいえ暴力は認めない。今まで何回も聞いてきたことかもしれないけど、先に暴力振るったほうが負けなんだよ。大人の世界ではな。」
霧島「でもっ!」
キョン「でもとかだってが通用するのは子供の間だけだ。大人なったらそれはただの言い訳になるんだよ。分かるか。」
霧島「分かる…わよ。」
キョン「じゃあ自分がどんなに馬鹿なことしたかも分かるよな?」
霧島「分かるわよ!分かるけど!」
キョン「けど?」
霧島「納得できるわけないじゃない!」
キョン「そうだろうな。でも今はそれでいいんだよ。」
霧島「え?」
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:14:12.83 ID:60Wl2Hdc0
キョン「正直俺もこの理論は今でも納得できない。事情も知らないのに先に殴ったら悪いとかあほらしいよ。
でもこんなあほらしい理論に大人なると縛られちまう。納得するしないに関わらずにな。でもお前は子供なんだ。
だからまだ大人のルールを守る必要はない。そのルールにもどうせ少しずつ慣れていくんだから。
今のお前くらいの年ごろは自分が正しいと思ったことをやってりゃいいんだ。もちろん人様に迷惑かけなければだけどな。」
霧島「…じゃない。」
キョン「なんか言ったか?」
霧島「子供じゃないっていったの!!この馬鹿キョン!!」
キョン「ぐおっ!いきなり叫ぶなよ!驚いたじゃないか!」
霧島「私が喋ろうとしたのを邪魔したからよ!」
キョン「あれはだ。お前がなんか色々愚痴を言いだそうとしていたから…」
霧島「ふんっ!そんなの言い訳にすぎないわよ。」
キョン「ぐっ…」
霧島「キョンのくせに私に説教なんて100年早いわよ!」
こんなこと言ってはいるが、こいつなら分かってくれたと信じている。
なぜなら今霧島が笑ってくれているからだ。
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:15:03.79 ID:60Wl2Hdc0
午後6時20分。家までの道を全力で駆ける。
今なら帰る途中の二人に合流できるかもしれない。
キョン「はぁ…はぁ…。流石にきついな。」
走るスピードを緩めようかと思っていたその時。手をつないだ二人の後ろ姿が目に入る。
どうやら追いついたみたいだ。
キョン「お〜い!!千春!佐々木!」
小さいほうの影が振り向く。そしてその影が俺に向かって全速力で走ってくる。
大きい影も俺の存在に気づいたようだ。
千春「お父〜〜〜〜〜〜〜さ〜〜〜〜〜〜〜ん!!!お帰り〜〜〜〜〜〜!!!」
ボスンッ!!!そのままの勢いで千春が俺の腹に突っ込んでくる。
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:15:52.83 ID:60Wl2Hdc0
キョン「ただいま!!千春!!」
俺は千春を抱きかかえる。
佐々木「お疲れさま。キョン。」
キョン「あぁ。お前もお疲れ様。お迎えありがとな。」
佐々木「何度言えば分ってくれる?礼なんていらないよ。」
ハルヒを亡くし、その代りに千春を得たあの日から5年間。
佐々木は育児の“い”の字も分からない俺を何の見返りも求めずに手伝ってくれた。
今でもこうして仕事が忙しい時には千春のお迎えを頼んでしまう。
晩御飯を作ってくれる時もある。だが俺がお金を渡そうとしても絶対に受け取らない。
お礼なんて100回言っても足りないくらいなのに。
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:16:38.42 ID:60Wl2Hdc0
佐々木「それより千春が君に見せたいものがあるそうだよ。ね?千春。」
千春「うん!そうだよ!見てお父さん!!」
幼稚園の黄色い鞄から丸まった紙を出す。
紙には「おとうさん」という文字とクレヨンで俺と千春の二人が描かれていた。
昔の俺はテレビドラマで今の状況に似たシーンを見ていた時「いくら娘が描いてくれ
た絵だからってこんな泣いたりしないだろ…」とか思っていた。だが今の俺はどうだ。
目に涙がたまる。言葉が出せない。千春の気持が嬉しくて。娘という存在が愛おしくて。
そして母親の絵を描かせてあげられないことが少しだけ哀しくて。
千春「どうしたの?お父さん?嬉しくない…?」
千春が悲しそうに顔を曇らせる。そんなことあるはずないのに。
キョン「何いってんだ千春!!嬉しいに決まってるよ!!千春は絵が上手だな!!」
俺は千春を力の限り高い高いする。少しでも多く俺の気持ちを伝えたい。
伝える方法なんて分からないけど。それでも伝えたいんだ。
君がいてくれるだけでどれだけ救われているか。生きていることを実感できるか。
言葉なんて安いものじゃきっと伝えきれない。だから精一杯高い高いする。
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:17:25.65 ID:60Wl2Hdc0
千春「嬉しい?本当に?やった〜〜〜!!」
佐々木「私が見せて欲しいと言っても見せてくれなくて。こういう訳だったんだね。」
千春「お姉ちゃんごめんね…。でもお父さんと約束したの。絶対1番に見せるって。」
佐々木「いいんだよ千春。約束は守らなくちゃいけないから。偉いよ千春。」
佐々木が千春の頭を撫でる。とても優しくまるで自分の娘のように。
千春「えへへへ〜。千春偉い?」
千春は佐々木のことを「お姉ちゃん」と呼ぶ。誰かが呼べと言ったことはない。
千春は自然と佐々木をお姉ちゃんと呼ぶ様になっていた。
生まれた時から俺と佐々木の二人で子育てをしてきたが佐々木のことを「お母さん」と呼
ぶことは1度も無い。
佐々木「うん。偉いよ。約束を守るのはとても大事なことだから。」
佐々木は千春の前で言葉遣いが変わる。
佐々木曰く「自分の話し方は千春の情操教育上良くない」のだそうだ。
今は男女平等の世の中だぞと言ったら「そうかもしれないけど千春には女の子らしくなっ
てほしいんだ。」と言われて俺はその教育方針に同意した。
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:18:38.04 ID:60Wl2Hdc0
キョン「よし。千春!佐々木!晩御飯の買い物して帰ろう!」
佐々木「そうだね。キョン、千春。晩御飯は何がいい?」
千春「え〜と…ね。」
千春がチラッと俺の顔を窺う。俺が何を食べたいのか気にしているみたいだ。
キョン「千春が食べたいものならなんでも。」
だから俺は先に食べたいものを言う。それに佐々木が俺たちのために作ってくれる料理だ。
どんなものだろうが俺は残さず完食する自信がある。
佐々木「だってよ。千春。」
千春「じゃあね!オムライスがいい!」
佐々木「オムライス…。作るの久しぶりだ。大丈夫かな?」
キョン「大丈夫に決まってる。お前が作るんだから。」
佐々木「…ありがとう。お世辞でも嬉しいよ。」
表情に出さないよう努めているようだが、少しだけ微笑んでくれている。
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:19:29.38 ID:60Wl2Hdc0
こんな臭いセリフも言える、俺と佐々木の関係。人が見たらなんと言うだろう。
変だ、おかしいと言う人もいると思う。俺が言えるのは俺と千春には佐々木が必要だ。
それだけだ。裏も打算も何もない。それだけなんだよ。
千春「お父さ〜ん!お姉ちゃ〜ん!早くお買い物行こうよ!」
千春が笑顔で俺と佐々木の手を引っ張る。
キョン「あぁ!俺も走ってお腹すいたし。急ごう!」
千春の手を持ち上げて俺が走り出す。佐々木も俺に合わせて千春を持ち上げ走る。
千春「キャ〜〜〜〜!!!!」
すると自然千春の体が俺たちの間で浮き上がる。千春の重さを手に感じる。
佐々木と二人で持ち上げた重さ。俺が守るべきものの重さ。ハルヒが生きた証の重さ。
その重さを感じつつ、俺達は笑いながらスーパーへの道を走った
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:20:33.85 ID:60Wl2Hdc0
午後7時30分。
佐々木「千春。お皿並べてくれる?」
千春「は〜い!オムオムライス♪オムライス♪」
佐々木は週に3回は我が家に来て晩御飯を一緒に食べる。多い時では週5回。
材料費は全額俺持ちと言いたいとこだが、佐々木は割り勘以外を許してくれない。
千春「おねえちゃ〜ん。どのくらいのお皿がいい?」
佐々木「えぇとね…。棚の真ん中の青のお皿を三枚とスープのお皿を三枚お願い。」
千春「は〜い!!」
我が家のことについて俺だけ知っていて、佐々木が知らないことなど多分存在しない。
食器の位置、冷蔵庫の中身、洗剤をどこにしまったか、電球が切れていた部屋、光熱費、俺のお気に入りのネクタイ、千春が嫌いな食べ物。
…いやもしかしたら俺より詳しいのかもしれない。
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:21:51.98 ID:60Wl2Hdc0
佐々木「千春、サラダの盛りつけもお願いしていい?」
千春「ツナいっぱいいれていい?」
佐々木「いいけど缶かん1個までね。」
千春「うん!!」
千春は父親がだらしなかったせいか、佐々木の教育がうまくいったかのどちらかは
わからないが5歳とは思えないほど家事が上手だ。
休みにはよくホットケーキやクッキーといったお菓子を佐々木と作っている。
千春が初めて作った少し歪な形のクッキーは俺の「DVD 永久保存版・千春ベストアルバム〜4歳編〜」に映像と写真で保存されている。
千春「おねえちゃん!サラダ出来たよ。」
佐々木「こっちも…出来上がりと。千春お父さん呼んで。」
呼ばれなくても、さっきから全部聞こえてるんだけど。
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:23:04.25 ID:60Wl2Hdc0
千春「お父さ〜〜ん!!ごは〜〜〜〜〜ん!!!」
キョン「はいは〜い。今行くよ。」
チキンライスの少し酸っぱい香りとスープの匂いが俺の腹の虫を騒がせる。
俺も我慢の限界だ。
「はやく〜〜〜。」「ごめんごめん。お腹減ったよな。」「二人ともスープどれくらい?」
「たくさん!!」「並で!!」「はいはい。」
少しだけ騒がしい我が家の晩ごはん。
「はい二人とも。じゃあ手を合わせて。」
「「「いただきま〜す!!!」」」
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:23:53.97 ID:60Wl2Hdc0
午後9時30分。晩御飯を食べ終わり、俺と千春は一緒にお風呂に入り、
佐々木が絵本を読んであげて千春を寝かしつけた。今日も1日の終わりが近づいている。
俺と佐々木はリビングのテーブルで向かい合ってコーヒーを飲んでいる。
俺はミルクだけ。佐々木はブラック。
キョン「こんな時間にブラック飲んで大丈夫か?」
佐々木「いいさ。いくら寝ても癒されない疲れもある。」
キョン「…そうか。」
佐々木の話し方も昔と比べると少しわかりやすくなって、そして何を考えているか
倍分からなくなった。
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:24:37.23 ID:60Wl2Hdc0
キョン「今日はどうする?泊まるか?」
こういう下世話な話はあまりしたくないが、俺と佐々木に肉体的関係は一切無い。
俺達二人の間の「泊まる」という言葉にそういった意味は含まれていない。
佐々木「いや今日は帰る。明日も仕事があるから。」
キョン「そうか。送ろうか?」
佐々木「何回言ったかわからないけど千春を一人にするのかい?」
キョン「そうだけど…やっぱり泊って行けよ。危ないし。」
佐々木「いや今日は帰らせてもらうよ。」
キョン「どうして?」
佐々木「…危なくないから。」
キョン「いやだから泊まって」
佐々木「帰るよ。仕事をおろそかにしてはいけない。社会人として当たり前のことだ。」
キョン「…分かった。」
こういう時の佐々木に何を言っても無駄だ。頑固なところは誰かさんにそっくりだから。
だから玄関先まで見送る。こんだけしかできない自分が虚しい。
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:25:23.87 ID:60Wl2Hdc0
佐々木「じゃあまた」
キョン「あぁ。また明日…かは分からないけどまたな。」
こいつとの別れはいつもこんな感じだ。さっきまで過ごしていた時間が嘘のように。
キョン「佐々木」
佐々木「なんだい?」
キョン「…いや…気をつけてな。」
佐々木「分かってるさ。」
俺は今何が言いたかったのか。それは言ってはいけない言葉だったかもしれない。
それを言えばすべてが終わってしまう破滅の言葉。
何かを犠牲にしなければ何も得られないという言葉がある。
だが犠牲にしてはいけないものもあると俺は信じている。
たとえそれを捨てて得るものがいかに素晴らしいものであっても。
51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:26:29.68 ID:60Wl2Hdc0
午後11時45分。
キョン「くぁ…」
明日の授業の準備も終わり、そろそろ眠くなってきた。今日も終わりだな。
いい1日だった。俺も千春も佐々木も霧島も陸奥もみんな笑顔だった。
なぁどう思う?俺は千春に寂しい思いをさせてないか?
千春はお前に似て強がりだからな。無理してないかな?
俺頑張るからな。見ててくれよハルヒ。
俺は天にいるだろうあいつに誓う。千春のため。俺のため。
帰ってくる言葉は無かった。
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:28:57.13 ID:60Wl2Hdc0
いや〜…過疎ってるな。少し寂しい。ここから新しいやつです。
1章 〜もうひとりの「ハルヒ」〜
学年主任「新入生も入って3カ月が経ち、最近服装の乱れが目立つ様になってきました。」
朝礼後に1年生担当の先生が集められ、学年主任の長話が始まった。
服装の乱れね…。まぁもう6月だしな。今年はまだ梅雨らしい長雨も降ってないし。
朝の天気予報では今日の最高温度は24℃ 湿度60% 服装も乱れるというもんだ。
学年主任「服装の乱れを放っておくと、それはそのまま風紀の乱れに繋がります。」
主任のよくわからない持論を聞き流しながら、俺は6月末の期末テストの問題作りに
ついて考えていた。難しくても簡単すぎてもいけない。テスト作りも意外と難しい。
54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:29:55.77 ID:60Wl2Hdc0
まぁ2~3個くらい授業をしっかり聞いている奴にしかわからない問題をいれて、
あとは教科書とノートを見直せば解ける問題を。授業を聞いているやつ…。
俺の頭の中には仏頂面の女生徒の顔が思い浮かんだ。
学年主任「あと家庭調査票が今週末まででしたね。遅れないようよろしくお願いします。」
家庭調査票。うちのクラス全員出してんのか?HRで確認しとこう。
学年主任「それではそういうことで。今日も1日頑張りましょう。」
話も終わりだな。今日も1日何事もなく笑って終われるよう頑張ろう。
55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:30:42.52 ID:60Wl2Hdc0
キョン「おーい。席着け〜。HR始めるぞ〜。」
毎度の如く騒がしい我が1−4組。ゆっくりではあるがみんな席に着く。
席はあの席を除いて全部埋まっている。遅刻まであと5分。今日は間に合うか?
キョン「家庭調査票金曜までだぞ。出してない奴いるか?」
誰も挙げないかな…と思っていたらそろ〜っと手を挙げる奴が一人。
???「は〜い…。ごめんねキョン!」
長い髪を後ろで束ね、暑いのか夏服のボタンを第2まで開けている。
ちらちら見える女性用下着が非常にけしからん。
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:32:10.60 ID:60Wl2Hdc0
キョン「吉川…出してないのお前だけみたいだぞ。あとボタン閉めろ。」
低身長にくりっとした目。女子高生らしい化粧とかはしてないけど
小動物的な可愛らしさがある。健康美という言葉が似つかわしい。
服の着方やタメ語はどうやら天然で周りを意識してというわけではないらしい。
1−4組 出席番号37番 吉川夏帆
問題児というわけではないけど注意が必要な生徒の一人だ。
58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:33:02.25 ID:60Wl2Hdc0
吉川「うそだ〜…。」
キョン「周り見てみ。」
吉川「………本当だ。いや忘れてたわけじゃないよ!!金曜までね!!
え〜っと何だったけ?調査票でしょ!?絶対出すからさ!!」
キョン「まだ言い訳しなくていいから。ちゃんと金曜にだせよ。あとボタン閉めろ。」
吉川「…いやん♪キョンのセクハラ教師♪」
教室に笑いが起こる。ったく。困ったやつではあるがなぜか憎めない。そんな不思議な
魅力が吉川にはある。その時ガララララッ!!とものすごい勢いで教室の後ろの
ドアが開かれる。教室がにわかに静かになる。
そこにはいつものように息を切らした霧島がいた。
霧島「はぁ…はぁ…」
キョン「今日もお疲れさま。霧島、大丈夫か?」
霧島「だい…じょぶよ…」
霧島は俺が朝のHRに出るようになってから1度も遅刻をしていない。
毎朝こうして時間ギリギリに教室の後ろのドアから入ってくる。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:34:02.46 ID:60Wl2Hdc0
そういえば霧島は調査票を出してんのか?念のために確認しておくか。
キョン「おい。霧島。」
霧島「なによ…。セクハラ教師。」
キョン「お前、聞こえてたのか。それはいいとして、お前調査票出したか?」
霧島「……まだだけど。」
霧島の顔が少し険しくなる。その表情は疲れのせいだけでは無いように思えた。
キョン「そっか。金曜までだからな。忘れるなよ。」
霧島「分かってるわよ…。」
俺はそれ以上何も言わなかった。疲れてるところに注意しても無駄だろうしな。
61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:35:22.97 ID:60Wl2Hdc0
吉川「えぇえええ!ちょっとぉ!ハルヒにも注意しなよ!なにこの格差!!私にはあんなに激しく攻めてきたじゃない!!!」
キョン「吉川…。年頃の女の子ならもう少し恥じらいというものをだな。」
霧島「変態。」
キョン「はぁぁぁ…もういいや。HR終わり。水曜の1限は古典だったな。ちゃんと準備しとけよ。」
なんか朝からどっと疲れたな。たまにあの若さについていけない時がある。
なんだかんだで俺も三十路一歩手前だからな。
そんなことを考えながらも俺には霧島のあの表情が少し心残りだった。
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:36:24.59 ID:60Wl2Hdc0
キーンコーンカーンコーン。
間延びしたチャイムの音が聞こえる。時計を見ると12時15分。起きたら4時間目が
終わっていた。いつ休み時間だったかも覚えてない。頭に靄がかかってるみたい。
吉川「ハルヒ!飯食うぞ〜〜〜!!起きろ〜〜〜!!」
靄を吹き飛ばしたのは夏帆の無駄にうるさい声だった。耳がキーンとする。
霧島「…夏帆」
吉川「何?どうした?まだ眠い?」
霧島「いや…眼は覚めたけど。耳元で叫ばないでよ…。っていうかこれ言うの何回目?」
吉川「さぁ?起きたんなら早く購買行こうよ!!でないと愛しのカツサンドがぁ〜!」
霧島「私コンビニで買ってきてんだけど…?」
吉川「じゃあ一緒に並ぼ♪」
霧島「…なんで?」
吉川「寂しいじゃんよ〜!!だからね早く行こ?売り切れちゃうからさ!!」
霧島「貸し一つだから。」
吉川「とか言っちゃってさ!!このツンデレキャラがよ!!」
霧島「うっさい!!急ぐんでしょ!!」
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:37:18.72 ID:60Wl2Hdc0
ほんとにうるさい。なんだかんだでまた夏帆に振り回されてる。でも嫌じゃない。
夏帆にはそんなところがある。あの笑顔を見てると我儘も許されるし、許してしまう。
始めて話した時もそうだった。学校入ってすぐの放課後。
私は教室に残って本を読んでいた。6時間目から読み始めて止まらなくなった。
ドアが開く音は聞こえたけど私は本から目を離さなかった。
だから誰が入ってきたかなんて分からなかった。
「…ねぇねぇ。霧島さん?で名前あってるよね。」
驚いて身構えてしまった。本が落ちてめくれる。いきなりなんなの?
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:38:08.12 ID:60Wl2Hdc0
吉川「ごめん!!驚いた?そんなつもりじゃ無かったんだよ?」
霧島「いや…いいけど。何か用?」
吉川「用事っていうかお願いなんだけどさ。いいかな?」
言っておくけどこのとき私たちは初めて会話をした。
そりゃ同じクラスだから顔くらいは知ってたけど。
二人ともまだ名前すらろくに覚えていなかったのに。
霧島「…内容によるけど。」
断ろうと思ってた。私が?何で?初対面なのに。本も読みたいし。
でもどうしてだろう?夏帆の笑顔を見ると無下に断れなかった。
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:38:55.82 ID:60Wl2Hdc0
吉川「マジ!?やったぁあ!!キョンからプリントの整理頼まれててさぁ〜」
霧島「ちょっと!?内容によるって言ったでしょ!っていうかその整理ってあんたが現国のときに寝てたからでしょ!?」
吉川「いいじゃんいいじゃん!帰りに何かおごるからさ!一人より二人がいいってとある三人組も言ってるじゃん♪」
霧島「誰よその三人組って!?腕引っ張らないでよ!手伝うからさ!」
吉川「ありがとうね♪霧島さん♪」
霧島「…ハルヒでいいから。」
吉川「じゃ私も夏帆でいいよ。ありがとねハルヒ!」
霧島「貸し一つだからね。…夏帆。」
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:39:48.29 ID:60Wl2Hdc0
この日から夏帆は私に話しかけてくれた。今ではお昼も二人で食べてる。
もう3か月になるのにまだクラスに馴染めてない私と。
どうして私に構うんだろう。夏帆は明るくて社交的で男子にも女子にも人気がある。
私から話しかけたことなんて、この3か月本当に両手で数えられる位しか無い。
でも夏帆は話しかけてくれる。どんな素っ気ない態度をしても。
好きなのに。感謝してるのに。どうしても言葉にできない。態度で表わせない。
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:40:36.36 ID:60Wl2Hdc0
吉川「風が気持ちいい〜…。無駄に山の上の学校じゃないね!!」
誰もいない屋上。太陽が照るけれど暑くない。夏帆の言うとおりね。
もしこれで風も吹かなかったら最悪の立地条件よ。なんのために山の上にあるの。
吉川「ハルヒ。何してんの?早く食べよ!」
夏帆は購買でカツサンドとメロンパン、それにチョココロネ、クロワッサンを買った。
間食用じゃない。夏帆はこれを全部昼やすみに食べ終わる。
あの細見のどこにこれだけのパンが入るんだろう。
霧島「いつも思うけどよく太らないわね…」
吉川「太ってるよ〜♪こ・こ・が」
夏帆が胸を寄せる。確かに夏帆の胸は大きくなってる。
70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:41:26.16 ID:60Wl2Hdc0
細いくせに。体重も私とあんまり変わんないのに。そのくせカップは……。
これ以上は辞めよう。私の名誉のためにも。夏帆との友情のためにも。
吉川「逆にハルヒ食べな過ぎ!いつもコンビニおにぎり2個じゃん。」
霧島「…いいのよ。お金もったいないし。」
お弁当作るのがいいんだろうけど。そうしたら確実に遅刻する。
コンビニ弁当は高いしおいしくない。あんなのが500円もするなんてぼったくりね。
吉川「そんなんじゃ育つところも育たないよ〜…ごめんハルヒ。私が100%悪かったから!もう胸のこと言わないから!!許して〜!!無言怖いからなんか喋って!!」
…夏帆。お前は私を怒らせた。夏帆が逃げ出す。
屋上なんて狭いスペースで!!逃がすわけない!!すぐに追いついて夏帆の腰を掴む。
71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:42:17.52 ID:60Wl2Hdc0
霧島「…夏帆?なんで逃げるの?」
吉川「ハルヒ顔近い!表情怖い!冗談だから!それにさ貧乳はステータスらしいよ!よくわかんないけど!」
霧島「ひっ、貧乳ってほどじゃない!!それなりにあるわよ!」
吉川「そだね〜…。今背中でハルヒの柔らかいブツを感じてるよ。BかCってとこ?」
霧島「(///)馬鹿!な、なに言ってんの!?」
顔が熱い。回りを見回す。もしこんな話誰かに聞かれてたら。誰かじゃない。
絶対に聞いてて欲しくない人がいる。
吉川「あ、あれってキョンかな?」
霧島「うそ!?え?どこ?」
どうしてタイミングよく居るのよ!あの馬鹿!っていうかどこ?
72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:43:17.42 ID:60Wl2Hdc0
吉川「ほら中庭のところ。弁当食ってる。」
中庭を見下ろすと木陰のベンチでキョンが弁当を食べていた。
とりあえず話は聞かれて無いみたい。少し安心したけど、私の中に新しい不安が生まれる。
キョンが食べてるお弁当は明らかに手作りだ。少しだけ胸が痛い。
霧島「キョンのお弁当ってさ誰かに作ってもらってるのかな?」
吉川「う〜ん…多分自作だと思うよ。キョンも色々大変だからね〜…。」
夏帆が含みのある言い方をする。夏帆がこういう話し方をするときはなにかある。
他人が聞いてはいけないことかもしれない。
でも聞きたい。知りたい欲求に私は勝てなかった。
霧島「それどういう意味?キョンなにかあるの?」
吉川「そっか。ハルヒ地元組じゃなかったね〜…。この辺じゃ結構有名な話なんだけどさ。」
夏帆が話し出す。キョンが結婚していたこと。子供がいること。
難産で奥さんが死んでしまったこと。今は男手一つで娘さんを育てていること。
73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:44:16.64 ID:60Wl2Hdc0
キョン「ここで権兵衛は自分の間違いに気付くけど、時すでに遅かった訳だ。」
6時間目の現国。言葉が頭に入ってこない。
興味本位で聞いていい話じゃなかったな。なんでこんなに気持ちが落ち込むんだろう。
キョン「彼にはそれを後悔する時間すら無かった。悲しいことにな。」
どうしてこんなに胸が熱いんだろう。自分は、喜んでいるんだ。
どんなに否定しようとしてもこの熱は消えない。
キョンが独身であること。それだけで心が焦がれる、
天使が叫ぶ。彼の不幸が、悲しみが、分からないのかと。
でも悪魔はそれを理解していながらも囁く。私にもチャンスがあるのだと。
74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:45:46.90 ID:60Wl2Hdc0
キョン「ではこのときの蝶姫の感情はどういうものか。どう思う?霧島。」
自分のことしか考えられない、こんな私にチャンスなんてあるはずないのに。
キョン「霧島?お〜い霧島。いるよな?聞こえてないか?霧島〜?」
やっぱり知らなければよかった。知らなければただ憧れているだけの私でいられた。
こんな自分も知らなくて済んだ。
コツっ。頭に何かがぶつかる。誰かの影が落ちる。
キョン「霧島。起きてるか?お前が寝るなんて珍しいな。」
霧島「キョン…」
教科書で頭を叩かれたんだ。みんなが笑ってる。状況に思考がついて行かない。
キョン「どうしたんだ?変な顔して。なんか付いてるか?」
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:46:53.05 ID:60Wl2Hdc0
キョンが笑う。楽しそうに。昔のことなんて微塵も感じさせない。
キョンが笑っているのを見るだけで心が満たされるのを感じてた。
でも今の自分は違う。知ってしまったから。この表情の裏にあるものを。
何を思っているんだろう?その笑顔の裏で。どうやって乗り越えたんだろう?
「他人」でありながら家族になりたいと願った。
それほどの想いを捧げた「他人」が世界から消える。
キョン「大丈夫か霧島?もしかして具合悪い?保健室行くか?」
霧島「いい」
キョン「…駄目だと思ったら遠慮せず言えよ。授業なんて無理してまで受けるもんじゃないからな。」
それでもキョンはこうして生徒の心配をしている。
男生徒「キョン…俺もやばいわ。やべぇ幻覚見えてきた。保健室行っていいすか?」
キョン「いや。お前にはまず、いい病院を紹介してやろう。授業の後にな。」
76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 00:47:48.81 ID:60Wl2Hdc0
キョン「なぁ…陸奥。」
陸奥「なんです先生?」
放課後、俺は文芸部の部室にいた。時刻は5時10分。
陸奥は読んでいた本を机に置き俺のほうに向きなおる。
キョン「いつも授業を真面目に聞いてくれてる生徒がさ、いるんだよ。」
陸奥「はい。」
キョン「その生徒が今日の授業全然聞いてくれてなかったんだよ。」
もちろんその生徒とは霧島のことだ。
陸奥「…寝ていたわけではないんですか?」
キョン「いや、寝てはなかったよ。なんか考え事してたみたいなんだ。」
94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 02:09:41.78 ID:60Wl2Hdc0
寝ていてくれたほうが俺としても救われる。それなら聞こえていない理由も明解だ。
でも霧島は起きていたにも関わらず、俺の声が聞こえてなかった。
俺の希望的観測に過ぎないのだが、聞いていないというよりも聞こえていない
という感じだった。
声が届かないほど考え込むなんて俺の奇妙な高校生活のなかでもそうそう無かった経験だ。
陸奥「色々あるんです。特に女の子には。」
キョン「…そういうもんなのかな。ってちょっと待て陸奥。」
陸奥「はい?」
キョン「俺いつその生徒が女子って言った?」
陸奥「先生の顔見てれば分かりますよ。」
キョン「…俺どんな顔してた?」
95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 02:12:36.85 ID:60Wl2Hdc0
さるさんに捕まってました。眠気が限界に来るまでやるよ。
ニヤニヤでもしてたのか?そうだったらマズい。どうマズいか言えないけど非常にマズい。
陸奥「とても真剣な顔になってました。」
キョン「じゃあ男子のこと話すときは?」
教師は全ての生徒に分け隔てなく平等であるべきだ。
教師である以上自分もそうあろうと努力してきたつもりなんだけど。
陸奥「男子のときは友達のこと話すみたいに話すんです。」
キョン「う〜む…。」
確かに男連中の話をするときは、あんまり気を遣わずに話していたかもしれない。
というか女生徒のことを考えるとどうしても、真剣になってしまう。
異性の思考というものは、どんなに年をとって、経験を積んでも一向に分からないからだ。
陸奥「深く考えないでください。それに…先生は今のままがいいです。」
そう言ってくれる生徒がいる。それだけでも俺は十二分に幸せなんだろうな。
96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 02:13:41.97 ID:60Wl2Hdc0
キョン「ありがとな。陸奥。少し荷が軽くなった気がする。」
陸奥「いえ…えっと…私は思ったことを言っただけですから。」
陸奥の顔が赤くなる。なんとも分かりやすいリアクションだ。
キョン「陸奥。お茶のお代わりもらえるか?」
陸奥「あっ…はい。温めなおしますから少し時間かかりますよ。」
キョン「今日の紅茶は何なんだ?アールグレイか?」
陸奥からのお茶講義のおかげで俺も中々にお茶に詳しくなった。
味で銘柄の検討がつく位にな。
俺がそう言った時、陸奥の少しギコチなかった動きが急に機敏になる。
物凄い勢いで俺のほうを振り向く。眼鏡の奥の目は真剣そのものだった。
97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 02:14:59.21 ID:60Wl2Hdc0
陸奥「先生…。」
キョン「はいっ!!」
間違えた!?やはりまだまだ甘かった。所詮付け焼刃の知識だからな。
陸奥「惜しいです!!今日のはレディグレイといって、アールグレイをベースにしたものなんです。」
キョン「そうか…。そうだよな!味が似てると思ったんだ!」
俺の舌もこの何か月間で相当に鍛えられているはずだ!少し自信に繋がる。
陸奥「私…少し感動してます。先生がお茶に詳しくなってくれて。こんな嬉しいことありません!」
今度は少し涙ぐんでいる。本当に情緒豊かな奴だ。こっちも見ていて楽しくなる。
キョン「ははははっwwwそんなにwwwww泣かなくてもwwwww」
陸奥「嬉しい涙だからいいんです!!!!!」
5人いたころに比べれば少し寂しく見えるかもしれないが、部室で過ごすこの時間は今も高
校の頃も変わらない。俺にとってかけがえのない大事な時間であることに。
98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 02:17:03.56 ID:60Wl2Hdc0
陸奥と二人で文芸部の部室を出る。今日は佐々木が千春のお迎えに行っている。
だから俺は時間まで部活にでることにしていた。
いつもとは違うことをしたせいだろうか。
それがどうかはともかく俺はこれから起こる一連の騒動に全く冷静な対応ができなかった。
その騒動のきっかけとなる出来事が今まさに起ころうとしていた。
キョン「霧島…?どうしたんだ?もう6時だぞ?」
霧島「キョン…」
霧島が職員室の前に立っていた。まるで「誰か」のことを待っているかのように。
その「誰か」が分からないほど、俺の勘は鈍って無いはずだ。
99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 02:18:49.64 ID:60Wl2Hdc0
キョン「陸奥。悪いけど部室の鍵返しててくれないか?用事が出来たみたいだ。」
陸奥「…分かりました。それではお先に失礼します。」
陸奥には珍しく少し棘のある口調だった。悪いな。でも今こいつを放っておけない。
キョン「どうした?」
霧島「……」
下を向いたまま何も言わない。やっぱりいつもと様子が違う。
黙るにしても、前みたいに睨むような視線がない。
それになにより元気がない。こいつのこんな姿は見たくない。鼓動が早まるのを感じる。
それは久し振りの感覚だった。こんな感情を生徒に対して抱くなんて。
いくら姿形が「ハルヒ」に似ているからとはいえ。
キョン「とにかく学校から出よう。正面玄関で待ってろ。準備してくるから。」
霧島「…うん。」
後姿を見送る。その背中まで「ハルヒ」にそっくりだった。
まるで自分が高校生に戻ったのではないかと錯覚してしまう程に。
100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 02:20:06.71 ID:60Wl2Hdc0
キョン「陸奥。悪いけど部室の鍵返しててくれないか?用事が出来たみたいだ。」
陸奥「…分かりました。それではお先に失礼します。」
陸奥には珍しく少し棘のある口調だった。悪いな。でも今こいつを放っておけない。
キョン「どうした?」
霧島「……」
下を向いたまま何も言わない。やっぱりいつもと様子が違う。
黙るにしても、前みたいに睨むような視線がない。
それになにより元気がない。こいつのこんな姿は見たくない。鼓動が早まるのを感じる。
それは久し振りの感覚だった。こんな感情を生徒に対して抱くなんて。
いくら姿形が「ハルヒ」に似ているからとはいえ。
キョン「とにかく学校から出よう。正面玄関で待ってろ。準備してくるから。」
霧島「…うん。」
後姿を見送る。その背中まで「ハルヒ」にそっくりだった。
まるで自分が高校生に戻ったのではないかと錯覚してしまう程に。
101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 02:21:41.91 ID:60Wl2Hdc0
6月ともなると、もう日の入りの時間も遅い。向かいの山に夕日が沈んでいく。
坂には二つの影が伸びている。時間が少し早かったせいか周りには誰もいない。
「ハルヒ」はまだ下を向いたままだ。
キョン「いい景色だよな。昔と全然変わらないよ。」
霧島「そう…なんだ。」
キョン「あぁ。本当に何も変わってない。」
脳裏に浮かぶ夕焼けに照らされた町。俺の横には笑顔の「ハルヒ」がいた。
いろんな時もあったけどそれでも思い出されるのは笑顔の「ハルヒ」だ。
俺の思い出の中の「ハルヒ」と今横にいる「ハルヒ」。
違いといえば表情と髪型くらいのものだ。
102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 02:22:41.71 ID:60Wl2Hdc0
6月ともなると、もう日の入りの時間も遅い。向かいの山に夕日が沈んでいく。
坂には二つの影が伸びている。時間が少し早かったせいか周りには誰もいない。
「ハルヒ」はまだ下を向いたままだ。
キョン「いい景色だよな。昔と全然変わらないよ。」
霧島「そう…なんだ。」
キョン「あぁ。本当に何も変わってない。」
脳裏に浮かぶ夕焼けに照らされた町。俺の横には笑顔の「ハルヒ」がいた。
いろんな時もあったけどそれでも思い出されるのは笑顔の「ハルヒ」だ。
俺の思い出の中の「ハルヒ」と今横にいる「ハルヒ」。
違いといえば表情と髪型くらいのものだ。
103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 02:23:43.75 ID:60Wl2Hdc0
キョン「…何かあったのか?」
感傷に浸るのはここまでにしよう。もう俺は変わったんだ。高校生のころの自分と。
今の俺は「キョン」ではない。担任の先生なんだ。
霧島「…何でもない。」
キョン「嘘だよな?」
霧島「……」
キョン「俺には言えないようなことか…?」
霧島はおそらく俺を待っていたはずだ。自分でも意地が悪い質問だとは思う。
霧島「違うわ…そういうんじゃない。」
キョン「じゃあどうしたんだ?遠慮せず言っちまえ。すっきりするぞ。」
少しやり方は卑怯だが、このままどうしたのかを聞き出せないよりはましだ。
143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 12:55:57.21 ID:60Wl2Hdc0
もう落ちてるだろな…と思ってたらまさかのご存命。さる食らったんでペース落としながら続きやります。
霧島「夏帆…から聞いたんだ。キョンの家のこと。夏帆が自分から話したんじゃなくて、私が聞きだしたの…。」
そういうことか。俺の家庭環境については、北高に就職するときにPTAの会議にかけられたおかげで、校区では結構有名な話だ。だから就職し始めの頃は今の霧島みたいに俺の家庭の事を気にする生徒も多くいた。それに霧島は地元出身じゃないからな。
知らなかったのは無理ない話だ。
キョン「そっか…」
霧島「怒らないの?」
霧島がおそるおそる俺を見上げてくる。
キョン「いずれ誰かから聞いてたよ。ここらじゃ俺は有名人だからな。それで?」
霧島「…その話聞いたらさ、何か色々考えちゃって…」
キョン「色々って?」
霧島「なんていうか…その…とにかく…色々なの。」
キョン「それで、今日の現国の時間みたいになってた訳だ。」
霧島「……(コク)」
人生で1番多感な時期である高校生だ。
俺の家庭状況を聞いて気にしないという方が難しいんだろう。
167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 17:34:36.27 ID:60Wl2Hdc0
キョン「…霧島。今から時間あるか?」
霧島「…え?」
キョン「時間だよ時間。少し遅くなっても親御さんとか大丈夫かってこと。」
霧島「多分…大丈夫よ。…なんで?」
手段は単純な方がいい。気になるのなら教えてやるのが1番てっとり早い。
今俺と千春がどうやって暮らしてるのかを。
何もやましいことはないんだ。今の暮らしを堂々と見せてやればいい。
俺は携帯を鞄から出す。着信履歴の1番上にある番号に電話する。
キョン「少し電話するから、その間にお前も親御さんに連絡いれといてくれ。もし必要なら俺代わるから。」
霧島「…どういうこと?」
キョン「よぉ。もう家着いたか?…タイミングバッチリだったな。いやこっちの話。いきなりで悪いけど今日の晩飯4人分頼めるか?
…俺の担当の生徒だよ…男か女か?別にどっちでもいいだろう?…。いや女子だから、飯の量はそんな気にしなくていいと思う
悪いな。じゃあ7時前には帰れると思うから…おぉじゃあな。」
佐々木には本当申し訳ない。電話の向こうでは俺をからかうように笑ってたから
頼まれた本人はあんまり気にしてないんだろうけど。
169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 17:54:54.95 ID:60Wl2Hdc0
キョン「霧島。親御さんに連絡したか?」
霧島「い、今メールしたわ!今日遅くなるねって…。」
キョン「じゃあ晩御飯、御馳走してやる。まぁ俺の家でだけど。」
霧島「…なんで?」
キョン「なんでってお前。男一人子一人でどう暮らしてるか気になるんだろう?だから見せてやろうと思って。」
霧島「でもいいの?」
キョン「なぁに遠慮してんだよwwwいつものふてぶしい態度はどこいったんだ?」
霧島「な、なによ!…分かったわ。行くわよ!行って確かめさせてもらおうじゃない!!」
キョン「そうそう。最初から素直にそう言えばいいんだよ。余計なこと考えずにさ。」
霧島に少し活気が戻ったような気がする。元気じゃない「ハルヒ」なんて俺は見たくない。
170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 17:56:04.31 ID:60Wl2Hdc0
キョン「ただいま〜。」
ここがキョンの家なんだ…。そう思いながら私が玄関に入ろうとしたその時、
千春「お父さん!おっ帰り〜〜〜〜〜!!!!!」
もの凄いスピードで玄関までの廊下を走ってくる女の子が私の視界に飛び込んできた。
キョン「千春!ただいま!」
この子が千春ちゃん。家までの道中、キョンが私に聞かせてくれた娘さんの話。
そのほとんどが娘自慢だったんだけど。
千春「…お姉ちゃんだぁれ?」
千春ちゃんが私のほうを覗きこみながら聞いてくる。
キョン「お父さんの学校の生徒でな。霧島ハルヒっていうんだ。」
霧島「こんばんは。千春ちゃん。」
千春「こんばんわ!…ねぇお姉ちゃん、お名前ハルヒっていうの?」
霧島「うん。霧島ハルヒって言うの。よろしくね。」
しゃがんで千春ちゃんと目線を合わせる。名前がどうかしたかな?
別に珍しい名前でもないと思うんだけど。千春ちゃんがじっと私の顔を見てる。
172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 18:01:48.92 ID:60Wl2Hdc0
キョン「ただいま〜。」
ここがキョンの家なんだ…。そう思いながら私が玄関に入ろうとしたその時、
千春「お父さん!おっ帰り〜〜〜〜〜!!!!!」
もの凄いスピードで玄関までの廊下を走ってくる女の子が私の視界に飛び込んできた。
キョン「千春!ただいま!」
この子が千春ちゃん。家までの道中、キョンが私に聞かせてくれた娘さんの話。
そのほとんどが娘自慢だったんだけど。
千春「…お姉ちゃんだぁれ?」
千春ちゃんが私のほうを覗きこみながら聞いてくる。
キョン「お父さんの学校の生徒でな。霧島ハルヒっていうんだ。」
霧島「こんばんは。千春ちゃん。」
千春「こんばんわ!…ねぇお姉ちゃん、お名前ハルヒっていうの?」
霧島「うん。霧島ハルヒって言うの。よろしくね。」
しゃがんで千春ちゃんと目線を合わせる。名前がどうかしたかな?
別に珍しい名前でもないと思うんだけど。千春ちゃんがじっと私の顔を見てる。
174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 18:05:14.92 ID:60Wl2Hdc0
来やがったぜ…婚約者がよ。姉ちゃんすげぇ美人なのに、婚約者が麒麟の田村にそっくり。釣り合ってない。
千春「千春のね、お母さんもハルヒっていうの!おんなじだね!」
霧島「!…そうだね、おんなじだね。」
千春「うん!おんなじおんなじ!!」
こんな偶然あるんだろうかと驚いていたその時、
佐々木「お帰り、キョン。それと…いらっしゃいませ、でいいのかな?」
霧島「…こんばんは。」
奥のドアからエプロンを付けた女の人が出てくる。優しそうで、すごく綺麗な人。
ここで出会わなければ私はこの人に間違いなく好印象を抱くと思う。
それくらい整った容姿をしていた。
この人のことも、キョンから聞いてる。中学時代からの友達で、奥さんが亡くなってか
ら家事や育児を手伝ってもらっている事。
176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 18:09:09.11 ID:60Wl2Hdc0
「勘違いされるのは仕方ないとは思うが、そういう関係ではない」ということも聞いた。
わかっているのに、どうして普通に挨拶できないんだろう。
この人はキョンの友達なの。キョンの口から聞いたじゃない。
キョン「とりあえず中に入れよ。」
霧島「あ…うん。おじゃまします。」
考えても仕方ないわね。こんな風にうじうじ疑っても無駄なんだから。
私はキョンを信じる。それだけしか理由はない。それだけで十分じゃない。
177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 18:13:38.51 ID:60Wl2Hdc0
キョン「…なぁ佐々木」
今俺は佐々木と二人で晩御飯の準備をしている。霧島には千春の相手をしてもらっている。
佐々木「なに?…気になることでもあるかい?」
じゃがいもの皮をむきながら佐々木が答える。どうやら晩御飯はカレーらしい。
佐々木「涼宮さんそっくりだね、あの子。それに名前まで一緒だなんて。…偶然という言葉では済まない何かを感じるよ。」
考えていることは同じらしい。それに佐々木は高校時代の「ハルヒ」を知っている。
「ハルヒ」の容姿だけではなく、あの力の存在も。
キョン「偶然だよ。可能性は限りなく低いかもしれんが、偶然だ。」
俺はあの力の介在を暗に否定する。あの力は消えたんだ。
持主である「ハルヒ」はもうこの世にはいない。佐々木からも、消えたはずだ。
178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 18:16:14.46 ID:60Wl2Hdc0
佐々木「…そう考えるのが賢明なのかな?非科学的だと分かってはいるが、彼女を見ていると黄泉返りというものを信じたくなってしまうね。」
キョン「死んだらそれで終わりだ。焼かれて、灰になって、いずれ土に帰る。残される奴の気持ちも、覚悟も考えずに訪れる。それが死なんだよ。」
死後の世界であいつにまた会えるのなら、なぜ俺は生きている。
あいつがこの世界に生まれ変わるのなら、なぜ俺はそれを探しに行かない。
天国の存在も、輪廻転生の考えも、死の別れに耐えられない弱い人間が作り出した
都合のいい言い訳だ。そうしなければ生きていけないから。自分が死ぬ勇気も無いから。
もし千春がいなかったら、俺も都合のいい何かにすがり過去という足枷をつけたままだったんだろう。だが俺に、何かにすがる余裕なんて無かった。
この世界で俺しか頼ることのできない存在がいたから。この子には俺しかいないんだ。
180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 18:21:00.66 ID:60Wl2Hdc0
佐々木「…ごめん。無神経だったね。」
キョン「いや、俺もこんなこと言うつもりじゃなかったんだ…。悪い。」
こんな弱い俺を佐々木には見せちゃ駄目だ。こいつは優しいから。
きっと俺達のために何かをしてくれるだろう。これ以上迷惑をかけてはいけない。
「迷惑だと思っていない」と佐々木は笑うだろう。
だからだ、その優しさに俺は甘えてばかりじゃ駄目なんだ。
「「……」」沈黙が流れる。でも決して居心地は悪くない。
親友というのは話しがあうかでなく、沈黙に耐えられるかだと俺は思う。
俺と佐々木は「耐える」なんて言葉は使わない。我慢する必要がないから。
181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 18:21:58.83 ID:60Wl2Hdc0
佐々木「キョン。お肉炒めてくれるかい?」
キョン「あぁ。…佐々木」
佐々木「なんだい?」
キョン「いつもありがとな。」
何度目か分からないけど俺は「ありがとう」を言う。
佐々木はきっと笑顔でこういうだろう。
佐々木「御礼を言われる理由がないよ。自分が好きでしてるんだから。」
―ほらな。こいつはこんなやつだから。
200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 22:32:03.59 ID:60Wl2Hdc0
田村帰った。姉ちゃんはよく広末とか国仲涼子に似てると言われる。
千春「ナーバス ナーバス 二人はナーバス♪」
霧島「なんなのこのアニメ…」
私は居間で千春ちゃんとアニメを見ている。
千春ちゃんは私の膝の上に座ってアニメの主題歌を歌っている。
千春「『二人はナーバス』だよ!マリッジブルーとマタニティブルーがね、悪い人と戦うの。
ハルちゃん知らないの〜?」
千春ちゃんは私のことを「ハルちゃん」と呼ぶことにした。
「千春のハルとハルヒのハルだから」というめちゃくちゃ可愛らしい理由で。
霧島「お姉ちゃんあんまりアニメ見ないの。でもこれ面白い?千春ちゃん。」
さっきからマリッジブルー?が結婚するかどうか悩んでるシーンばっかりなんだけど。
千春「うん!!マリッジブルーの旦那さんはね〜優しいけどカイショウが無いんだって。」
霧島「そ、そうなんだ。」
まだ千春ちゃんが見るには早すぎる内容だと思うけど。
202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 22:37:34.17 ID:60Wl2Hdc0
千春「ねぇねぇハルちゃん。カイショウってなに?」
霧島「え!?えっとね…男の人がどれだけ稼いでくるか…」
いやいや!!意味としては間違ってないと思うけど!!
こんなこと千春ちゃんに教えるには教育上まずい!!
霧島「じゃなくって!!頼りになるお父さんのことをね、甲斐性があるっていうの。」
千春「じゃあ千春のお父さんはカイショウがあるんだ!よかった〜!!」
霧島「ははwwwお父さん頼りになる?」
千春ちゃんがあんまり嬉しそうに言うからついつい笑ってしまう。
千春「うん!!とっても優しくてね、千春が泣いてたらね、どこにいても助けに行くよって約束してくれたの!!」
霧島「そうなの…お父さん優しいね。」
キョンも家ではお父さんしてるんだ。学校でのキョンからはあまり想像つかないんだけど
千春ちゃんの話を聞いたり、笑顔を見ていると本当に父親なんだと実感する。
でも不思議と嫌じゃない。もっと嫌な気分になると思ってた。
203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 22:43:14.62 ID:60Wl2Hdc0
千春ちゃんに実際に会うとそんな風に考えていたこと自体忘れてしまう。
千春「うん。でもお父さん優しいからね、千春泣かないようにしてるの。
お父さんいつも大変そうだから、あんまり迷惑かけたくないの。」
それはきっと千春ちゃんがこんなにもいい子だから。
霧島「そうだね。お父さん優しいもんね。」
千春「うん。学校のお父さんも優しいの?」
霧島「そうだよ。千春ちゃんのお父さん優しいから生徒に全然怒らないの。」
キョンと結婚して、千春ちゃんを生んだ「ハルヒ」さんってどんな人なんだろう?
キョン「お〜いご飯できたよ〜!!」
「は〜い!!カレー!?」「正解!人参も入ってるよ」「えっ…?本当?」「うん。」
でも聞いちゃいけない。自分がされて嫌だったことを千春ちゃんにしたくない。
キョン「どうした霧島?早く来いよ。」
霧島「うん。ねぇキョン。」
キョン「なんだ?」
霧島「私も人参苦手なんだけど。」
キョン「何言ってんだwwwwお前高校生だろ、我慢して食え!」
霧島「ちっ。まぁ千春ちゃんもいるしね。残さず食べるわ。」
キョン「いつでも残さず食べなさい。でないと大きくなれないぞ。」
霧島「…どうせ私は年の割に幼いわよ…」
キョン「なんか言ったか?」
霧島「何も言ってないわよ!!一粒残さず食べてやるわ!!」
キョン「おう。その意気その意気。」
205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 22:47:48.18 ID:60Wl2Hdc0
佐々木「霧島さんはこのくらいでいいかな。」
霧島「あっ…はい。ありがとうございます。」
佐々木「はい。千春の分。」
千春「む〜…。お姉ちゃん。」
佐々木「なに?」
千春「にんじん入ってる。」
佐々木「うん。おいしそうだね。」
キョン「あぁ。とてもおいしそうだ。なぁ霧島。」
千春「……」
千春ちゃんが私のほうに助けを求めるような視線を送ってくる。
霧島「う、うん。早く食べたいな。」
ごめんね千春ちゃん。でも私みたいになってほしくないから。
佐々木「じゃ、手を合わせて」
「「「「いただきま〜す」」」」
207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 22:55:33.48 ID:60Wl2Hdc0
キョン「うん。うまい。カレーってたまに食べたくなるよな。」
佐々木「どの食べ物でもそうだと思うけど。」
千春「おいし〜〜〜い!!!」
佐々木「でしょ。にんじんも食べれそう?」
千春「…がんばる!!!」
佐々木「偉いよ。全部残さず食べたら明日プリン買ってあげる。」
千春「ほんとに!?」
佐々木「いいよね、キョン?」
キョン「あぁいいよ。でもちゃんと残さず食べれるか〜?」
千春「食べるもん!!きっれ〜いに食べるもん!」
思えばどれくらいぶりだろう。こうやって誰かと食卓を囲むのなんて。
賑やかな晩ごはんなんて。遠い過去のことのように思えてしまう。
自分も家族と、こんな風に楽しくご飯を食べていたなんて嘘のようだ。
記憶には存在している。お父さんと、お母さんと、私の三人。
でもどうしてだろう。確かに私はそこにいたのに。
全然リアリティがない。5年前本当に私はそこにいたんだろうか?
208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 22:59:30.58 ID:60Wl2Hdc0
スプーンに写るもの。キョンと、佐々木さんと、千春ちゃんと、そして私。
あの日から、スプーンに写るのは私だけになった。
あたりまえだと思ってた。いつでもそこに在るものだと思ってた。
でもそれは違った。簡単に崩れるものだった。私が何も知らないだけで。
「霧島…?」「霧島さん…」「ハルちゃん」
霧島「え…?」
キョン「お前…泣いてるのか?」
霧島「あ…え…ごめん,キョン。どうしたんだろう…はは、ごめんね。」
大丈夫だ、お母さんがいなくても生きていける、そう思ってきた。
でも違った。思い込んでいただけだった。見て見ぬふりをしていただけだった。
キョン「霧島。カレー冷めちまうぞ。」
佐々木「そうだよ、霧島さん。あったかい内が1番おいしいんだから。」
千春「ハルちゃん。カレーおいしいよ。食べよ?」
千春ちゃんの手が私の手に触れる。こんなに小さい手なのに。
伝わってくる温もりはこんなにも暖かい。
霧島「…おいしい。」
千春「でしょ!お姉ちゃんの料理はね、なんでもおいしいんだよ!」
佐々木「お口にあったみたいでよかった。」
キョン「俺と佐々木が作ったんだからな。当然だ。」
私が欲しかったもの。きっとそれがここにはある。
でもここは私の居るべき場所じゃない。そう思うとカレーが少し酸っぱく感じた。
209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 23:08:18.21 ID:60Wl2Hdc0
霧島「お世話になりました」
佐々木「また来てね。とは言っても私の家ではないんだけど。」
千春「また遊ぼうね!ハルちゃん!」
晩飯を食い終わってから、俺たちは居間でトランプをしていた。
千春が最近幼稚園で覚えてきたババ抜き、7並べを2時間もだ。
今までの人生の中でこのトランプ2大ゲームを何度やってきたかは分からないが、
自分の子供とトランプをするのがあんなに楽しいものだとは思ってもいなかった。
キョン「じゃあ俺が家まで送っていくから。」
霧島「え!?いやいいって!!もう時間も遅いし!!」
キョン「時間が遅いから送るんだろうが。女の子一人で何かあったらどうすんだ。」
霧島「いや本当にいいから!電車降りたらすぐだから!」
ここまで頑なになる理由が分からない。だが心当たりはある。
朝、家庭調査票の確認をした時に見せた表情、それにさっきの涙。
悪い方にはあまり考えたくないが、霧島の家には何かしら問題がある。
211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 23:12:06.20 ID:60Wl2Hdc0
キョン「お前の住所って確か隣町だったよな。」
霧島「…うん。」
キョン「じゃあどうしてここに帰るんだ?」
今俺たちは駅前の小さなアパートの前にいた。
駅前といっても隣町ではない。というか電車自体乗っていない。
キョン「…わかった。じゃあ早く帰ろう。」
霧島「ここまでありがとう、もう大丈夫だから。」
こう言うだろうとはなんとなく予想はできていた。
キョン「いや、親御さんに挨拶したいから、玄関まで行くよ。」
霧島が歩きだす。俺がその後ろをついて行っても、もう何も言わない。
階段を上がり2階の1番右端の部屋の前に着く。
213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 23:18:41.92 ID:60Wl2Hdc0
霧島「…ただいま。」
ドアを開けてそこにあるのは、暗闇だった。返ってくる言葉も無い。
霧島の後ろに俺も続く。灯りがつき、部屋を見渡す。
ベッドがあり、鏡があり、テレビがある。
人が生活するのに必要な道具がそこにはあるのに。
それなのに、この部屋には「匂い」が無かった。
人が生活している匂いや、暖かさというものがこの部屋には欠落している。
霧島「ここがあたしの家だよ。」
キョン「親御さんは?家族は?」
霧島「ここに住んでるのは私一人だけ…。」
驚きはない。この部屋の前に来た時点で、もしかしたらとは思っていた。
霧島が一人暮らししているんじゃないかということ。
キョン「…話してくれるか?」
霧島「わたしね、5年前にお母さんが死んだの。」
215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 23:24:28.67 ID:60Wl2Hdc0
私はお父さんとお母さんの三人家族だった。裕福とは間違っても言えなかったが、
それでも幸せだった。三人いつも笑顔で、寂しいと感じることなんて無かった。
ある日お母さんに熱が出た。薬を飲んでも一向に治らない。
お母さんは入院した。お父さんは心配いらないと言っていたけど、嘘だと分かった。
私は毎日病院にお見舞いに行った。
日に日にお母さんが弱っていくのを見るのはとても辛かった。
それでもお母さんのそばにいたかった。
それからまた少し時間が経った。お母さんは無菌室というところに移った。
お母さんには窓越しでしか会えなくなった。私は毎日お見舞いに行った。
ある日、お父さんと二人でお医者さんに呼ばれた。
難しい言葉がたくさん出てきてよくわからなかったけど、
ある薬を使えばお母さんは治るかもしれないということ、
薬を用意するのにたくさんのお金がいること、それは私にもわかった。
お母さんが治るかもしれない。それだけで私は救われた気持ちになった。
それから2ヶ月後お母さんは死んだ。夜寝てそのまま意識が戻らなかったという。
薬が使われることは無かった。
そのあとのことを私自身よく覚えていない。最後のお別れのとき、
綺麗にお化粧したお母さんを見て、1度だけ泣いた。
216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 23:32:08.90 ID:60Wl2Hdc0
お父さんはあまり家に帰ってこなくなった。たまに帰ってきても、
私が寝ている時間に帰ってきて、朝起きる前に働きに行く。そんな生活だった。
夜が怖かった。独りで寝るのは、その時が初めてだった。
暗闇の中に私一人、頼る人は誰もいない。布団の中で震えていた。
お父さんに電話をしようかと何度も思った。でもそれはしなかった。
お父さんは忙しいんだから、お母さんはもういないんだから、
私だけ我儘言うわけにはいかない。
そして2年が経ち、私は中学生になった。
入学式の日に、お父さんが「話がある」といって女の人を連れてきた。
お父さんは言う。この人はお母さんの職場の同僚だったこと。
お母さんの葬式で知り合ったこと。
そして、この人と再婚したいということ。
理解できなかった。まだお母さんが死んでからたった2年しか経って無いのに。
お母さんのことはもういいの?死んでいないから、もう想うこともできないの?
218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 23:39:45.56 ID:60Wl2Hdc0
霧島「その時分かったの。結局お父さんにとってお母さんは『他人』なんだなって。」
霧島が言う。ぽつりぽつりと。
霧島「他人だから、あの時薬も使わなかった!もし使ってたらお母さんは助かったかもしれないのに!私にはたった一人のお母さんなのに!」
「ハルヒ」の目から涙が零れる。父親を責める度に、雫が頬を伝い落ちていく。
霧島「どうしてよ…?なんで…?お父さんにとってもたった一人の人じゃなかったの?
『家族』だと思ってたのは私だけだったの?」
口から出る言葉はそのまま霧島の胸に突き刺さる。
キョン「ハルヒ」
ハルヒの涙を拭う。できる限りの優しさで、「ハルヒ」を傷つけないように。
キョン「想い続けることは確かに難しいよ。誰かを想い続けて、それが報われなければ
想うことを辞めてしまうかもしれない。」
俺もいつか「ハルヒ」のことを想うのを辞めてしまうかもしれない。報われない思いを
抱き続けることがどれほど辛いかなんて、俺はもう身にしみて分かっている。
219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 23:45:25.77 ID:60Wl2Hdc0
キョン「でもな、想いっていうのは紡がれていくものなんだ。誰かを想うことを辞めたからといって、その人のことを全て忘れてしまうわけじゃない。
その人のことを考えて、嬉しかったり、悩んだり、悲しかったりしたことは、心の中に想い出としてあり続けるんだ。
そして、その想い出があるから、人はまた新しく人を想えるようになる。」
そして、また誰かのことを愛する日が俺にも来るかもしれない。
だからといって俺は心の中にいる「ハルヒ」を決して忘れることができない。
過去に行ったり、殺人事件まがいに巻き込まれたり、雪山で遭難したり、そして夢の中でカウントされないファーストキスをしてたりと、忘れろというのが無理な話だ。
キョン「だからな、想いは風化する物じゃない。ただ想い出に形を変えてしまっただけで、いつまでも心の中にあるんだ。」
俺の想いもいつかは形を変えてくれるのだろうか。
想い出として懐かしむ日がいずれくるだろうか。
220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 23:50:14.81 ID:60Wl2Hdc0
霧島「ふぁあ…うわぁあああああああああああん」
嗚咽が漏れる。目の前で「ハルヒ」が泣いている。
霧島「分かってるの…。でも私には、お母さんはお母さんだけなの!自分でもどうしようもない…くらいに。」
泣かないでくれ「ハルヒ」。お前の悲しむ顔なんて俺は見たくない。
お前を悲しませるために俺はいるんじゃない。お前の笑顔が見てたいんだ。
キョン「もういいよ『ハルヒ』。分かってるから…。」
俺は何をしているんだ?俺は教師で、霧島は生徒だぞ。
こんなことが誰かにバレたら俺の首が飛ぶかもしれない。
理性が俺に警告する。だがもう遅い。行動に移しちまったあとだ。
俺は「ハルヒ」を抱きしめていた。
霧島「…うううぅう、うぇえええええええええええ」
「ハルヒ」が俺の胸の中で泣く。泣き止んで欲しいのに、余計泣かせちまった。
それでもいい。今この時だけはこうしていたい。
腕に力を込める。俺の想いが少しでも伝わればいい。伝わって欲しい。
221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 23:53:22.61 ID:60Wl2Hdc0
どれくらいの時間そうしていただろう。10分だろうか、1時間だろうか。
霧島「ごめんね、キョン。こんなことさせちゃって。」
霧島が顔を上げる。目は少しだけ腫れている。
キョン「いいって。俺がしたくてしたんだから。」
霧島「っ!…(///)」
霧島の顔が赤くなる。今の発言はさすがに問題ありか?
でもそんなこと今はどうでもいい。「キョン」として俺はここにいるんだ。
キョン「あのさ、続き聞いてもいいか?」
霧島「…うん。」
霧島の顔に一瞬だけ影が落ちる。
霧島「結局ね、お父さんは再婚して三人で暮らしだしたの。私も最初はぎこちなかったけど、少しずつその生活に慣れていったわ。」
それを悟られないように明るい口調で霧島は話してくれる。
霧島「でもね、いつだったかな…。私の帰りが遅かった時、二人がリビングですごく楽しそうに話してたの。」
霧島の肩が少し震える。
222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/23(土) 23:57:40.52 ID:60Wl2Hdc0
キョン「無理はしなくていいからな。」
少しでも震えを抑えるために俺は霧島の肩を抱く
霧島「大丈夫…。それを見てたらね、私の居場所ってどこにあるんだろうとか
思っちゃってさ。自分でもびっくりするくらい怖かったの。お母さんが
死んだ日から、私の居場所なんてどこにもなくて、私が勘違いして
お父さんの居場所に居座り続けてるだけじゃないのかな…」
声が止まる。涙をこらえようとしているのか。
霧島「そう思うと…もう家に居るのも嫌になってきて、家出ることにしたの。」
キョン「反対されなかったのか?」
霧島「もの凄く反対されたわ。まだ早すぎるって。初めてお父さんと喧嘩した。
三人で毎日みたいに言い合いして、条件付きでOKもらったの。」
キョン「条件というと?」
霧島「ここの管理人がお父さんの知り合いだからここに住むこと、週末はなるべく帰ってくること、
毎日メールでもいいから連絡をとること、それと一人暮らしをしてることを周りにばらさないこと。それが条件なの。」
223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 00:01:27.61 ID:9y5OBlTW0
キョン「…それで平気なのか?」
霧島「なにが?」
キョン「一人暮らしのことだよ。」
霧島「うん。始めてみたら意外と楽しくてさ、それに一人だから気楽だしね。」
キョン「嘘つくなよ。」
そんな潤んだ目で、枯れた声で。何が楽しいだ、何が気楽だ。
霧島「嘘じゃない…。」
キョン「あぁ。そうだな。」
霧島「嘘じゃないって言ってるじゃん…!」
キョン「もういいって。分かってるから」
霧島「…嘘じゃないもん…。」
最後のほうはもう言葉になっていなかった。
泣いている霧島はまるで迷子のようだった。
自分がどこにいるかわからない。どうすればいいかもわからない。
いつも隣にいてくれる家族が今自分の隣にいない。
まるで異世界に自分だけが取り残されたような感覚に陥る。
225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 00:06:21.22 ID:9y5OBlTW0
キョン「自分の居場所が無いって、さっき言ってたよな。でもそれはお前が気づいてないだけなんだ。」
迷子になってる本人には分からないが、家族は見つけようと必死になって探してくれてる。
迷子が知らないだけで、親は何時も子供のことを考えてるんだ。
キョン「自分のことでいっぱいいっぱいだと、他人の想いとか優しさに気付けないときもあるよ。でもそれでいいんだ。前にも言ったけどお前はまだ子供なんだから。
親に迷惑掛けるのも、親孝行の一つだしな。そうやって何度も何度も親父と喧嘩して、迷惑掛けてたらいずれ気づくよ。自分の居場所はこんなに身近にあったんだってさ。
それでもどうしようもない位寂しいときはさ、俺が傍にいてやるから。そして一緒になってお前の居場所を探してやる。」
迷子を親が見つけてくれるまで、俺はこいつの隣にいて励まして、慰めて、
一緒に探してやろう。こいつの居場所を。そして、
キョン「お前が本当の居場所に気づくまで、俺がお前の居場所になるから。」
短い時間かもしれないが、迷子が泣かないように、不安にならないように
居場所でいてあげよう。それが今の俺にできるたった一つのことだ。
226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 00:10:54.19 ID:9y5OBlTW0
キョン「だから、もう泣くな。お前の居場所はここにあるんだ。」
霧島「ほんとに、傍にいてくれる?独りで、寂しくて、怖くて、眠れない夜も、あるの。」
キョン「俺ん家に電話してこい。迎えに行ってやるから。千春と三人川の字で寝よう。」
霧島「ほんとに…?迷惑じゃない…?」
キョン「だから子供がそんなこと考えんなって。今だけなんだぞ。
大人に迷惑かけれんのは。」
霧島「…じゃない。」
キョン「ん?」
霧島「子供じゃないって言ってんのよ…。この馬鹿キョン…。」
そう言う「ハルヒ」は笑顔だった。
ちなみにこの後俺は家に帰ったが、佐々木から「自分の子供を放っておいて、女子高生と
こんな遅い時間まで何してたんだい?」と尋問があったことは言うに及ばない。
227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 00:17:46.82 ID:9y5OBlTW0
その翌日の昼休み、俺と霧島は屋上にいた。
霧島と一緒に飯を食べていた吉川にはご退場願った。
「ごゆっくり〜♪」となにやら嫌な言葉を残していったのが少し気懸りだが。
キョン「すごい風だな。少し寒いくらいだ。」
霧島「そんなこと言いにきたんじゃないでしょ?」
キョン「…お前の実家に電話して、少し話させてもらった。で一人暮らししているのを
本人から聞いたって親父さんに話したよ。」
霧島「…何て言ってた?」
キョン「学校に伝えてなくて申し訳ない、なにか必要な手続きがあるならなんでも言ってくださいって。あと学校で娘はどうしてるのか、友達はいるのか、
クラスには馴染めてるだろうかとかも聞かれたよ。」
霧島「(///)!!…それだけ?」
キョン「あとは娘のことよろしくお願いします、母親がいなくなってからあの子には寂しい思いをさせてきたから、
これからは父親として少しずつでもあの子の傷を癒していきたいって言ってたよ。」
霧島「…そうなんだ。分かった。ありがと。」
228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 00:23:46.43 ID:9y5OBlTW0
今の言葉が霧島の胸にどれだけ響いたのか、確かめる方法はないけれど、
でもきっと大丈夫だ。こいつは人の想いが分からないような人間じゃない。
こうやって少しずつ親の想いに触れていければ、見失ったものもすぐに見つけ出すだろう。
そのときまで俺は教師として、そして「キョン」として隣にいてあげよう。
キーンコーンカーンコーン。予鈴が鳴る。
キョン「よし、帰るか。月曜の5限目は6組の授業だったな。」
俺が校舎に戻ろうとしたその時、
霧島「きょ、キョン!」
俺の腰が誰かに掴まれた。いや、こういう曖昧な表現は止そう。
俺は後ろから抱きつかれた。屋上にいるのは俺と「ハルヒ」だけだ。
だから俺に抱きつける人間は一人しか考えられない。
230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 00:28:00.24 ID:9y5OBlTW0
霧島「あ、あんた言ったわよね。想いはいつか想い出に変わるって。だ、だからキョン
の『ハルヒ』さんへの想いもいつかは想い出に変わる…。ううん、私が変えてみせ
るから!!わ、わわわ、私のこと絶対に好きにさせてやるから!そ、そしてキョン
の隣をず〜〜〜っと私の居場所にするんだから!!いい!?わかった!?」
それだけ言い終わると霧島は俺の横を全速力で走りぬけていった。
俺は今どんな顔をしてるんだろう。自分でもどういう表情をしていいのか分からない。
ただ、ただ一つだけ分かったことがある。それはどうやら俺の人生は「ハルヒ」という
存在から逃げられないという事。まぁ逃げる気なんて更々ない。真正面からぶつかって
そして嬉しいことも、楽しいことも、苦しいことも、悲しいことも、一緒に経験して
乗り越えていく。それが俺と「ハルヒ」の在り方なんだ。
雲一つない青空の下、俺は気付けば笑っていた。
第1章 Fin
236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 00:40:33.08 ID:9y5OBlTW0
第2章 とある文芸少女のコンプレックス
放課後の部室。俺と陸奥は二人で本を読んでいた。
いつもは騒がしい放課後も、今日は雨の降る音と吹奏楽部の練習の音しかしない。
先週の梅雨入り宣言からずっとこの調子だ。
アウトドア派の人間にはこの上なく迷惑な雨だろうが、俺や陸奥みたいな
インドア派の人間にはゆっくり読書できる時間を与えてくれる恵みの雨だ。
こういう静かな環境の中で読書をしていると本の世界に入り込んでいくような
感覚になるときがたまにある。その瞬間が俺はたまらない程好きだ。
その喜びを教えてくれたのは、無愛想で無口で、そのくせ人一倍負けず嫌いな宇宙人だ
ただその宇宙人から多分に影響を受けた俺は、ハードカバーばかり読むようになっていた。
237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 00:42:38.58 ID:9y5OBlTW0
陸奥「時々思うんですけど、そんな辞書みたいな本よく読めますよね。」
キョン「この重さが手に馴染んじゃってな。文庫本だと軽すぎてさ、
読書してる感じがしないんだよ。」
陸奥はライトノベルや恋愛小説、ドラマ化・映画化する作品といった
巷で話題の小説を読むことが多い
好きなジャンルがこれと言ってあるわけでもない。
良く言えば手広い、悪く言えばミーハーな読書家だ。
今も最近アニメ化したというライトノベルを読んでいる。
キョン「今回のラノベはどうだ?」
陸奥「まぁまぁですね。科学と宗教が超能力として同居するという世界観は面白いのですが、
キャラクター一人一人、特に主人公が暑苦しいというか、煩わしいというか。
そして重要な場面でベラベラ喋り過ぎですね。喋る前にまず行動に移せばいいのにと、
突っ込まざるをえません。小説だから仕方ないといえば仕方ないんですけど。」
今日も陸奥節絶好調だな。ぴりりと辛味が効いている。
238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 00:47:18.87 ID:9y5OBlTW0
キョン「そうか、点数にして何点くらいだ。」
陸奥「そうですね…。80点くらいでしょうか。」
そして、毎度のことの高評価。陸奥の辛口は愛あればこそなのだ。
つまらないと思った作品にはコメントすらしない。
10冊以上出ているこのシリーズも陸奥は全巻揃えている。もちろん番外編も含めてだ。
陸奥「それはそうと先生。今日のお茶はなんだか分かりますか?」
キョン「…アッサムティーか?」
これは最近俺達二人の間で、定番になりつつある「お茶の銘柄当てゲーム」だ。
外してしまうと陸奥がガッカリした顔になるから、俺も本気にならざるを得ない。
陸奥「……」
キョン「…どうだったかな?」
しかも答えをいうまでの間が妙に長いから、こっちとしてはたまったものじゃない。
242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 00:52:27.11 ID:9y5OBlTW0
陸奥「…先生。正解です!」
キョン「うしっ!ここんとこ調子いいな。今日で3連続だから…新記録まであと2問か。」
それに正解すると陸奥はとても嬉しそうな顔をしてくれる。
それも俺がこのゲームに真剣になる理由の一つだ
陸奥「でも今日のは簡単でしたからね。明日からこうはいきませんよ。」
キョン「ふふふっ。どんとこいだ。何出されても当ててやる。」
売り言葉に買い言葉というのはこういうことを言うんだろう。
こんなことをしながら文芸部での時間は今日もゆっくり、まったり、過ぎていく。
244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 01:01:39.96 ID:9y5OBlTW0
キョン「うし。じゃあ俺今日はお迎えがあるから先に帰るよ。戸締り頼んだぞ。」
陸奥「あの。待ってください!先生!」
キョン「どうした?なんかあったか?」
陸奥が今まで聞いたこともない大声で俺を呼びとめた。
陸奥「あの、もしよかったら明日の土曜日…図書館に行きませんか?その文芸部の行動の一環としてですね、駄目だったら駄目ってはっきり言ってくださって結構ですから。」
キョン「いいよ。行こうか。」
陸奥「え?あの…いいんですか?迷惑じゃないですか?」
キョン「うん、明日は大丈夫だよ。あのさ、千春も連れてきていいかな?
でも文芸部としていくなら迷惑だよな。」
陸奥「全然構いません!むしろ連れてきてください!人数は多い方が楽しいですし!」
キョン「そうか?悪いな。じゃあ時間とかどうする?」
陸奥「えっと…じゃあ駅前の広場に、1時でどうです?…どうかしました?」
キョン「いやいや…なんでもない。分かった。駅前の広場に1時な。」
駅前の広場で待ち合わせか。久しぶりに聞く響きだ。あまりいい思い出はないが。
お金は少し多めに持っていったほうがいいかもしれないな。
キョン「駅前に1時な。じゃあまた明日」
陸奥「は、はい!また明日…。」
たまには図書館で本を選びながら休日を過ごすのもいいかもしれない。
322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 21:47:23.18 ID:9y5OBlTW0
保守してくれた方本当にありがとうございます。10years afterは08小隊のパクリです。無学でごめんなさい。
ドアが閉まる。先生が歩く音が少しずつ小さくなる。
陸奥「ふわ〜…」
体から力が抜けていく。私は床に座り込んでしまった
疲れた。どっと疲れた。自分があんな行動に出てしまったこと自体が驚きなのに、
さらに先生もすんなりOKしてしまった。
休日に先生と図書館…。考えるだけで気が遠くなる。
二人きりなんてありえない。千春ちゃんが来てくれるのは私としても好都合だ。
陸奥「本当に言っちゃったんだ…私。」
普段の私なら絶対にありえない。「今」の先生との関係に不満があるわけでもない。
部室での二人だけの時間はとても楽しい。
こんな行動に出てしまったのには理由がある。先週の部活の帰り。
珍しく先生が下校時間ギリギリまで部活に出てくれた日のこと。
職員室の前で先生のことを待っている人がいた。
その人の顔を、目を見たとき、私は気づいてしまった。
この人も先生のことが好きなんだということに。
325 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 21:57:53.58 ID:9y5OBlTW0
その翌日、部活に来た先生に「昨日先生を待ってた子は誰なんですか?」と直接聞いた。
先生は「俺のクラスの女の子だよ。」と、あっけらかんとした態度で答えてくれた。
クラスの女の子。ということは、私よりも先生とコンタクトする時間は長い。
しかも1年生ということは、現国は先生が担当している。
なによりその女の子には放課後先生が来るまで職員室の前で待つという
大胆さと積極性が備わっている…!!
それにくらべて私と言えば現状に満足し、ぬるま湯のような関係に浸かっているだけ…。
勝てない…。今の私じゃ…とても…!!
その焦りが今回のような行動に私を駆り立てた
ってこんなこと考えてる暇は無い。
早く家に帰って明日の「部活動」を成功させるために行動せねば!!
…でももう少しだけ休んでからいこう。足に力が入らなくてまだ立てそうにない。
それに少しだけ余韻に浸っていたい。先生が私の誘いを承諾してくれた喜びに。
328 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 22:08:49.36 ID:9y5OBlTW0
千春「お父さん〜!はやく〜!」
キョン「千春!道路が濡れて危ないから走っちゃダメだ!」
千春「女の子とまちあわせする時は、男は約束の時間より早く来ないと駄目なんだよ〜。」
キョン「千春…それ誰から聞いた?」
千春「二人はナーバスでマリッジブルーがぼやいてた〜。時間ぴったしに来るとかありえないって。」
最近のアニメはどうなってるんだ?過激な表現が多いと言うのは聞いているが。
銀○とか。ぼ○らのとか。なぜだろう、自己嫌悪してきた。
キョン「時間はまだ大丈夫だから、ゆっくり行こう。危ないから。」
千春「は〜い。」
千春と手を繋ぐ。いつもは人通りが多い駅前の通りも今日は人がまばらだ。
千春「みっずた〜まり〜♪」
千春は道にある水たまりの上をあえて選んで歩いていく。
長靴におかっぱの千春にとっては、雨なんてどこ吹く風だ。むしろ楽しんでる。
330 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 22:17:29.53 ID:9y5OBlTW0
千春「あめ〜あめ〜ふれ〜ふれ〜♪」
雨の日と言えばこの童謡だよな。少し音程が違う気がするけど。
千春「もっ〜とふれ〜。あたしのいい人つれてこい〜♪」
キョン「そっちかよ!!www 千春それ誰に教えてもらった!?」
千春「え?う〜んとね…お姉ちゃんが料理しながら歌ってたの。」
佐々木…。中学から足かけ10年の付き合いだが、あいつにはまだまだ謎が多い。
そろそろ駅前だな。陸奥はもう来てるだろうか。まだ約束の時間まで20分はある。
俺の方が先に着くとは思うんだけど。
高校時代の経験からか、待たせている気がしてならない。
広場にあるモニュメントの前に傘をさした女の子が一人。
千春「ゆうきちゃ〜〜〜ん!!」
手を振りながら千春が呼びかける。その声に女の子が手を振り返す。
やっぱりか。お詫びに喫茶店に行くべきかな。代金は当然俺持ちだ。
334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 22:25:17.83 ID:9y5OBlTW0
キョン「ごめんな。雨の中待たせちゃって。」
陸奥「いえ、私が早く来ただけだから。気にしないでください。」
千春「だから言ったでしょ〜お父さん!ゆうきちゃんごめんね。」
陸奥「大丈夫だよ、千春ちゃん。そんなに待ってないから。」
陸奥と千春には面識がある。
たまに幼稚園のお迎えに陸奥が付き合ってくれることがあるからだ。
キョン「とりあえず、移動しようか。雨の中、立ち話もなんだからな。」
陸奥「は、はい!!」
休日に私服の生徒と待ち合わせというのも少しおかしな気分だ。
陸奥は白無地のロンTにタイトなジーンズ。今はスキニーっていうのか?
その上にロングカーディガンを羽織っている。
落ち着いた印象を与える、少し内気な陸奥らしい私服だ。
千春「じゃあ早く行こう!ねっ!ねっ!」
千春が俺と陸奥の間に入る。そして俺の右手を、陸奥の左手を握る。
図書館までの道のり、俺たち三人はずっと手を繋いでいた。
336 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 22:38:02.14 ID:9y5OBlTW0
千春「ゆうきちゃん。これ読んで。」
陸奥「はい。じゃあ本貸して。タイトルは…『ななついろの星と魔女の女の子』」
図書館に着いた俺達は千春の要望に応えて、子供向けの本が置いてある場所にいる。
千春は陸奥の膝の上に座り、陸奥が読む絵本をおとなしく聞いている。
陸奥「昔々、あるところに男の子がいました。ある日、男の子が外を歩いていると、ドカン!!人にぶつかってしまいました。
ぶつかった人はジュースをたくさん持っていてそれを全部落としてしまいました。」
陸奥は優しい声で、子守唄を歌うように、ゆっくりと読み上げていく。
ただ読むだけじゃなく強弱や緩急もあって、千春はすっかり引き込まれている。
陸奥「男の子は、ジュースを拾うのを手伝ってあげました。ぶつかった人はお礼に男の子にもっていたジュースを一本あげました。喉が渇いていた男の子は、すぐにジュースを飲みました。
そしてその日の夜男の子が寝ようとすると、『あれ、変だな?』体が思うように動きません。」
それに頑張って声色を使い分けている。学校の陸奥を見ているだけでは見れない場面だ。
陸奥「それもそのはずです。男の子はなんと羊のお人形になっていたのです。」
千春なんてもう真剣そのものだ。「おぉぉ…」とか言いながら絵本を凝視している。
339 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 22:45:59.06 ID:9y5OBlTW0
陸奥「男の子が『どうしよう』とあわてていると、窓の外が光って、そこに男の人があらわれました。その男の人が言うには男の子が飲んだジュースは魔法のジュースで、それを飲んだから羊の人形になってしまったこと。
もとに戻るには、なないろに光る流れ星を集めないといけないのです。」
キョン「…なぁ陸奥。読んでるところ悪いんだけど、それ子供向けの絵本だよな?」
この絵本なにか気になる。そして妙な親近感を覚えてしまう。
陸奥「そうだと思いますけど…。なにか気になりました?」
千春「ゆうきちゃ〜ん。早く続き〜。」
陸奥が俺と千春の板挟みになって困った顔をしている。
キョン「いや、多分気のせいだ。気にせず読んであげてくれ。」
陸奥「そうですか?ごめんね、千春ちゃん。え〜と…どこまで読んだっけ?」
千春「おほしさまを集めないと、戻れないところまで〜。」
微妙に気懸りだが、千春も楽しみにしてるようだし。
まぁ図書館にある本だから大丈夫だろう。俺の杞憂に過ぎない…で欲しい。
340 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 22:50:42.62 ID:9y5OBlTW0
書架の間をすり抜けて、私は文庫本が蔵書されている本棚に着く。
長雨で家から出ずに、読書する人が多いのだろうか。棚には空きが多く見られた。
特に借りたい本が無い私は、面白そうな本が無いか物色していく。
今日図書館に来たのは、本を借りるのが目的ではない。
本当なら、先生や千春ちゃんと一緒にいたかったが、
「俺と千春のことはいいから、本見て来いよ。」と先生に言われて、
部活動の一環という口実で来ていることを思い出した。
だからささっと本を借りて、先生のところに行こうと考えていたんだけど。
いざ棚の前に来ると、何を借りようか迷ってしまう。
せっかく借りるんだったら、なるべく面白い本を借りたい。
でも面白そうな本は、のきなみ借し出されているようだ。
あまり人気が無さそうな本ばかり残っている。
もう探すの諦めようかなと思い始めた時、「ゆうきちゃん。」後ろから話しかけられる。
陸奥「佐々木さん。こんにちは。」
佐々木「こんにちは。」
ここの司書として働いている佐々木さん。
綺麗で、本の知識も多くて、穏やかで、私は密かに憧れている。
341 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 22:55:41.45 ID:9y5OBlTW0
私が佐々木さんと出会ったのは、中学生の時だ。
借りたい本があったんだけど、タイトルが分からなくて
私は、本棚という本棚を探し歩いていた。
佐々木「さっきから本探しているみたいだけど、手伝いましょうか?」
そんな私を見かねたのか、佐々木さんが話しかけてくれた。
内容の断片的な情報だけしか伝えきれなかったのに、
佐々木「はい。これであってるかな?」
陸奥「は、はい!これです!ありがとうございます!」
佐々木さんはすぐに、私の目当ての本を見つけてきてくれた。
佐々木「どういたしまして。」
その時見せてくれた笑顔は、今まで見たどんな女優やアイドルよりも美しかった。
それから私は図書館に来たときは、佐々木さんを探すようになっていた。
佐々木「今日は一人で来てるの?」
陸奥「いえ…あの…学校の先生と一緒です…(///)」
佐々木「それは、もしかして例の先生?」
陸奥「はい…。」
佐々木さんと親しくなってから、二人で色んな話をした。
その中には恋愛の話も含まれていて、好きな先生がいることも話している。
342 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 22:59:47.82 ID:9y5OBlTW0
佐々木「ねぇ。その先生見に行ってもいいかな?」
陸奥「え…えええええええええええええ!!」
周りの人から冷たい視線が向けられる。つい大きい声が出てしまった。
佐々木「ごめんね。そんな驚くと思ってなくて。」
陸奥「いえ…こっちこそごめんなさい。でも…本気ですか?」
佐々木「ゆうきちゃんみたいな可愛い子の心を奪った人を、前から人目見たくてね。」
目が輝いている。興味津々でたまらないといった感じだ。
佐々木「駄目かな?」
「駄目です」と言いたい…。でも言えない雰囲気だ。
佐々木さんの後ろに「ワク ワク」という擬音が見える…。
陸奥「じゃあ、先生のところに行くのでついて来てください…。」
345 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 23:06:30.49 ID:9y5OBlTW0
陸奥「先生。今戻りました。」
先生は千春ちゃんを膝枕している。千春ちゃんはどうやら寝ているようだ。
キョン「おう。お帰り…。」
先生の視線が、後ろの佐々木さんに向いている。
いきなり司書さんを連れて来たから、驚かれるのも無理ない。
「キョン」「佐々木」
え…?どういうこと?
キョン「ここで会うのは初めてだな。」
どうして佐々木さんが先生のあだ名を知ってるの?
佐々木「そうだね。」
どうして先生が佐々木さんのことを知ってるの?
陸奥「あの…二人は知り合いなんですか?」
キョン「あぁ。中学の同級生でな。腐れ縁だよ。千春、起きろ。お姉ちゃん来てるぞ。」
千春「んん…お姉ちゃん…?お姉ちゃんだ。お早う。ここ…お家?」
キョン「ん?ここは図書館だよ。寝ぼけてるよこいつwww」
佐々木「おはよう千春。もう…よだれ垂らして。」
どうして寝ぼけた千春ちゃんが、佐々木さんを見て家に居ると勘違いしたんだろう?
佐々木さんが取り出したハンカチで、千春ちゃんのよだれを拭う。
それがとても自然な行為に見えた。
347 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 23:12:41.76 ID:9y5OBlTW0
千春「お姉ちゃん…。」
千春ちゃんが佐々木さんに抱きつく。
佐々木「どうしたの?千春?」
千春「……」
キョン「寝た?」
佐々木「寝た。まいったな…仕事中なのに。」
キョン「ひっぺがしていいから。ほら千春。お姉ちゃん困ってるから。」
千春「ん〜…。」
千春ちゃんが嫌がる。抱っこされている千春ちゃんの顔はとても穏やかだった。
まるで母親に抱っこされているみたいに。
佐々木「ほら千春、お父さんの所戻って。」
どうして三人を見ていると、まるで家族のように見えてしまうのだろう?
答えなんて一つしかない。
350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 23:20:24.09 ID:9y5OBlTW0
佐々木「ごめんね、待たせちゃって。」
俺達は、佐々木の仕事が終わる時間まで待っていた。
千春は俺に抱っこされて、熟睡している。
キョン「そんなに待ってないよ。」
陸奥「……」
待っている時間は短かったが、さっきから腕が結構だるい。
さすがに5歳ともなると、少し重く感じるようになってきた。
自分が衰え始めているという可能性は、考えたくない。
俺は体に鞭打ち、疲れを見せないように千春を抱えなおす。
佐々木「キョン。変わろうか?疲れてるんだろう?」
俺の見栄なんて一発で看破されてしまう。
佐々木に隠し事なんて、多分一生かかってもできないな。
キョン「いいって。大丈夫だから。」
だが一回見栄を張ったからには、張り続けるのが男というものだ。
佐々木「疲れたら言ってね。」
そんな俺の考えも多分佐々木には筒抜けなんだろうけどさ。
352 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 23:25:07.32 ID:9y5OBlTW0
キョン「そうだ。陸奥。今からだけどさ、俺ん家で飯でも食べないか?」
陸奥「……」。
キョン「陸奥?どうした?」
陸奥「は、はい。どうかしました!?」
キョン「今からみんなで、俺ん家でご飯にしないか?」
陸奥の顔が、一瞬笑顔になった。かと思ったら次の瞬間にはその笑顔が曇っていた。
陸奥「あの。お誘い嬉しんですけど。今日は用事があるので、これで失礼します。」
それだけ言うと、陸奥は踵を返し、歩き出した。
キョン「あ、おい!また学校でな。」
陸奥「はい。また学校で…。」
陸奥はぺこりと一礼して、またすぐ歩き出す。
そしてすぐに角を曲がってしまい、見えなくなった。
キョン「どうしたんだ、あいつ?お前、なんか心当たりある?」
佐々木「…いや、分からない。」
キョン「そうか、ならいいんだ。お前はどうする?」
佐々木「今日は私も帰るよ。ごめんね、待っててくれたのに」
キョン「分かった、じゃあまたな。」
佐々木「うん。またね。」
353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 23:31:46.40 ID:9y5OBlTW0
図書館に行った翌週の水曜日。梅雨明けして、空は晴れ渡っている。
だが俺の心は晴れない。あの日以来陸奥が部活に来なくなってしまった。
学校は来ているみたいなんだが、部活に顔を出さない。
様子を見に行こうと、休み時間に陸奥の教室に顔出したりもしたが、いない。
クラスメイトによると、ふらっと出て行って授業ギリギリに帰ってくるらしい。
どうやら…俺は陸奥に避けられているみたいだ。
理由が一切分からない。考えられるのは、やはり図書館で俺が何かしたんだろう。
だけど、一向に心当たりがない。そして問いただそうにも、
避けられているのを、無理矢理聞き出すのも気が引ける。
かといって、この状況を静観できるほど、俺は肝が据わっていない
そういや、帰り際になんかボーッとしてたよな、あいつ。
ということは、やっぱり図書館でなんかあったんだろう。
俺の推理力では、これが限界だ。
今日は佐々木が家に来るはずだ。俺一人ではどうしても見当がつかない。
それに佐々木と陸奥は前々から仲が良かったということだ。
なにかいいアドバイスが聞けるかもしれない。
354 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 23:35:11.39 ID:9y5OBlTW0
キョン「というわけなんだよ。」
佐々木「そうなんだ…」
千春が寝たあと、二人きりになった俺は今日までの事情を説明する。
佐々木は神妙な面持ちで俺の話を聞いていた。
キョン「なんでもいいんだ、あの日なんかなかったか?」
佐々木「……」
キョン「いや、何もないならいいんだ。悪かったな、変なこと聞いて。」
佐々木「…ごめん、キョン。」
キョン「何で謝るんだ?」
佐々木「あの日君に嘘をついた。多分知ってるよ、ゆうきちゃんが部活に来ない理由…。」
佐々木が嘘をついた理由は、分からない。
でも何か事情があったんだ。でなければこいつが嘘をつくはずがない。
佐々木「キョン。ゆうきちゃんのこと任せてくれないかな?」
キョン「あぁ、頼むよ。」
だから俺も余計な詮索はしない。それに佐々木が何とかすると言っているんだ。
ならば俺がすべきことは、それを信頼して待つことだ。
357 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 23:44:20.40 ID:9y5OBlTW0
今日で部活に行かなくなってから4日目になる。
いつもなら部室にいる時間なのに、私は家にいる。それがとても寂しい。
先生にはとても申し訳ないと思う。休み時間になるたびに顔を見せてるのも聞いてる。
でも、先生に会いたくない。
先生を想うと胸が痛くて、涙が出そうになる。
小説を読んで知っていた。恋とは、嬉しくも、辛いものなんだということ。
それが、こんなにも辛いなんて知らなかった。
私は失恋したんだ。認めたくはない、そんなこと。
直接振られたわけではない。でも、あんなに親しくしているのを見たんだ。
先生は腐れ縁だと言っていた。だから、まだ特別な関係ではないのかもしれない。
なら、私が先生を振り向かせればいいだけのことだ。
馬鹿馬鹿しい。なんてくだらないことを考えてるんだろう。
私と佐々木さんのどちらが女性として魅力的かなんて、明らかだ。
キョンと佐々木さんが並んでいるのを見て、私はお似合いだと思った。
どうして、佐々木さんなんだろう。
もし他の人だったら、先生のこと、諦めたりなんかしたくない。
私は、佐々木さんのことが好きだ。
あんな幸せそうな佐々木さんの笑顔を見たのは初めてだった。
それを奪いたくない。私が諦めればそれで、済む話。
それで終わりなのに。涙が止まらない。頭でそう思っても、心が否定する。
ある〜晴れた日のこと〜♪魔法以上の愉快な〜♪
…メールだ。携帯のサブウィンドウには「佐々木さん」という文字が出ていた。
359 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 23:49:10.08 ID:9y5OBlTW0
佐々木「呼び出したりして、ごめんね。」
陸奥「…いえ。」
駅前の喫茶店。窓に面した席に私たちは向き合って座っている。
佐々木「何か頼もうか。なにがいい?」
陸奥「そんな…結構です。」
佐々木「いいから、いいから。ね?」
そんな笑顔で言われたら、断るものも断れない。
陸奥「じゃあ、ホットのレモンティーを。」
佐々木「すいません。ホットのレモンティーと、ブレンドを一つ。」
362 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/24(日) 23:54:39.15 ID:9y5OBlTW0
佐々木「今日は、話があって来てもらったんだ。」
話なんて聞きたくない。何を言われるかなんて分かっている。
陸奥「ごめんなさい!私知らなかったんです。佐々木さんと先生があんなに仲が良かったなんて…。
それなのに私、一人で舞い上がっちゃって。」
もう諦めるって決めた。だからお願い。これ以上傷つけないで。
佐々木「違うんだゆうきちゃん。」
陸奥「じゃあ嫌いなんですか?先生のこと。」
佐々木「それは…。」
陸奥「私のことは気にしないでください。もう先生のことは諦めましたから。」
私は今自然な笑顔ができているだろうか。
佐々木「ゆうきちゃん。私ね、あの日あなたがキョンを紹介した時自分でも驚いたの。
自分の感情に。私はあの時あなたに嫉妬してた。ううん、今でも心の奥じゃ
きっと妬いてるんだろうと思う。」
私に嫉妬している。私なんかよりずっときれいな佐々木さんが。そんなことって
佐々木「だってゆうきちゃん可愛いから。私が見せつけるみたいにキョンと
仲良くしてたのも、そのせい。嫌なやつだよね、私。」
364 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 00:00:18.49 ID:RAZTRe0A0
佐々木「でもね、それで自覚したんだ。私はキョンのことが好きなんだって。
恥ずかしながら、渡したくないと思った。自分にこんな
女の部分が残っていたなんて本当に驚いたよ…。」
佐々木「私はゆうきちゃんのことも好き。だからそういう風に諦めて欲しくない。
それに諦めることもない。私とキョンは特別な関係じゃないんだから。」
それでも。そんなこと言われても。
陸奥「私が佐々木さんに勝てるわけない…。佐々木さんはいつも綺麗で、
優しくて、賢くて、私の憧れの人なんです。そんな人相手に…私が。」
佐々木「…ありがとう。私もゆうきちゃんに憧れているよ。」
陸奥「え…?」
佐々木「君がキョンのことを話してくれる時、いつも嬉しそうで、
可愛らしい笑顔だった。見ているこっちが幸せになる位に。
自分の気持ちを素直に表現できるゆうきちゃんがとても羨ましい。
私には自分の気持ちに向き合う勇気がないから。
おかげで、自覚するだけに10年以上かかったよ。」
私はただ憧れているだけで、全然佐々木さんのことを分かってなかった。
佐々木さんも私と同じように苦しんでいる。恋をしているから。
368 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 00:05:22.66 ID:RAZTRe0A0
佐々木「キョンは誰にでも優しいから、特に女性に。だから気が気じゃないんだ。
ついコロッと、誰かに恋してもおかしくないよ。周りに魅力的な女性がいるみたいだからね。
例えば、少し内気で自分に自信が持てないけど、とても一途で可愛らしい文芸少女とかね。」
何も私と変わらない。恋に悩む女の子なんだ。それなら遠慮することなんてない。
陸奥「本当、そうですよね。綺麗で、賢くて、優しいのに、鈍感で誰よりも先生のことが好きなのに、気付かない人とかですね。
だって私は先生が好きだから。佐々木さんに負けない位に
陸奥「私…諦めません、先生のこと。正々堂々頑張って、きっと先生のこと振り向かせてみせます。」
佐々木「うん。頑張るよ、私も。やっと自分の気持ちに気づけたから。」
陸奥「じゃあ私たち今日からライバルです。負けませんから!絶対に!」
佐々木「私も譲る気なんて無いよ。」
互いに自然と笑いが出る。
佐々木「とりあえず、頂こうか。もう冷めてるけど。」
気づいたら私の目の前には、レモンティーが置かれていた。
もうすっかり冷めてホットじゃなくなってたけど、
陸奥「はい、いただきます。」
とても暖かくて、最高においしい一杯だった。
370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 00:10:31.15 ID:RAZTRe0A0
佐々木さんと別れ家に帰ったあと、私は一人部屋で考えていた。
負けないとは言ったものの、今先生の1番近くにいるのはおそらく佐々木さんだ。
なにかしらアクションにでなければ。実際にはどうすればいい。
…前々から一つだけ計画していたことがある。もしもの時の最終兵器として。
文芸部の部室になぜかある、数々の衣装。
奇抜なものや、派手なものが多くてとても着れたものじゃないけど。
その中に一つだけ、私でも着られそうなものがあった。
胸のサイズが大きくて、落ち込みはしたものの、自分で縫いなおして
私にピッタリのサイズにあしらえた。
その衣装は今も部室の棚の中で眠り続けている…。
ついに封印を解くときがきたのかもしれない。
私は静かに覚悟を決め、明日どうするかを考えながら寝ることにした。
371 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 00:16:21.49 ID:RAZTRe0A0
金曜の放課後、昨日の夜に佐々木から「明日はゆうきちゃん部活来ると思うよ」
と言われたので俺達は意気揚揚と部室に向かっていた。そう、俺たちだ。
霧島「さぁ、早く部室まで案内しなさい!」
キョン「分かったから。そんな急ぐなよ。」
今日の昼休みにいきなり職員室乗り込んできた霧島は、
霧島「キョン、あんた文芸部の顧問してるらしいわね?」
俺の前にずいっと顔を乗り出して、そんなことを聞いてきた。
キョン「あ、あぁ。そうだけど。」
霧島「じゃあ私入部するわ!文芸部に!」
キョン「はぁ!?」
用意周到なことに、入部届けもしっかり用意していた。
理由は如何とはいえ、入部希望者をまさか断るわけにはいかない。
というわけで、俺は新入部員を引き連れ部室へと、歩みを進める。
キョン「ほら、ここが文芸部だ。」
霧島「へぇ…。」
372 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 00:21:16.25 ID:RAZTRe0A0
キョン「陸奥、いるか?入るぞ。」
確認をとり、部室のドアを開けた俺の目の前には、
陸奥「お、お帰りなさいませ!ご主人様!」
小柄な、とても可愛いメイドさんがいた。
高校時代にこの部屋に居たメイドにも劣らない位に愛らしかった。
俺はそんなメイドに見惚れていた。
陸奥「え…?あの…?先生後ろの人は?(///)」
霧島「キョン?どういうことなの…?」
二人の文芸部員が俺を一気に現実に引き戻す。
霧島「あんた!生徒になんてことさせてんのよ!」
キョン「ちょっと待て!誤解だ!霧島!陸奥お前からも説明してくれ!」
陸奥がいない。部室のドアが閉まっている。
霧島「なにがどう誤解だっていうのよ!?この変態教師!!」
キョン「誤解なんだ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
陸奥「どうして先生だけじゃないんですか〜〜!?(///)」
俺の魂の叫びも虚しく響くだけだった。
この後霧島の誤解を解くのに、俺と陸奥は部活のほとんど時間を費やすことになる。
2章〜fin~
375 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 00:26:41.81 ID:RAZTRe0A0
3章行くぞ〜!!
3章〜俺達の距離感〜
キョン「千春。用意できた?」
千春「お父さ〜ん、浮き輪ふくらまして〜。」
キョン「はいはい、浮き輪貸して。」
7月に入って最初の日曜日。休みだというのに今日は朝から騒がしかった。
その原因は一通の手紙が我が家に届いたことから始まる。
それは一昨日のこと。千春と一緒に帰って来てポストを開けると、
パチンコのチラシと見慣れない封筒が入っていた。
千春「お手紙?」
キョン「うん、そうみたい。」
封筒はその辺で売っている茶封筒ではなく、人目見て高値だとわかる
鶴の模様とかが描かれているものだ。後ろには達筆で「鶴屋」と書かれている。
家に入り、千春が「早く読んで」と急かすので読んであげる。
380 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 00:31:58.66 ID:RAZTRe0A0
キョン「拝啓、キョン君に千春。元気してるかな!?」
千春「うん!元気してます!」
キョン「こっちはいろいろ大変だけど楽しくやってるさ!千春はちゃんといい子でいるかな?キョン君に迷惑かけてない?」
千春「いい子にしてます!お父さんにも迷惑かけてません!」
こんな文章なのに、流れるような達筆で書かれているから、なんか可笑しい。
鶴屋さんらしいといえば、鶴屋さんらしい。
キョン「さて、今回手紙をだしたのは二人をあるところに招待しようと思ってるのさ!」
千春「しょうたい?」
キョン「遊びに来てくださいってことだよ。えと、最近近くにできた大型温泉施設知ってるかな?テレビでCMしてると思うけど。」
そういや、1ヶ月くらい前から結構騒がれてたな。
中にはプールやスポーツジムもある、かなりの規模のものらしい。
職員室でも女の先生たちが色々話していたっけ。
384 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 00:39:05.77 ID:RAZTRe0A0
キョン「それ作ったの、家の会社の系列なんさ。だからそこのプレオープンに二人を招待したいと思います!!」
マジかよ…。鶴屋さんが大学を卒業したあと家業を継いだということは知っていた。
けど、その家業がなにかを俺は全く知らない。
すごい人だとは思っていたが、まさかここまでとは。
キョン「封筒の中に招待券が入ってるから、来れたら来てね!プレオープンは今週の日曜日さ!」
封筒をひっくり返してみると、中から招待券が3枚落ちてきた。
キョン「1枚余計に入れといたから、友達も誘ってくればいいにょろ。あとそこプールもあるから水着持ってきといたほうがいいかも。」
389 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 00:45:13.14 ID:RAZTRe0A0
千春「プールだって!お父さん!」
千春のテンションが一気に上がる。今年はまだプール行ってないからな。
キョン「積る話もあるけど、それはまた会う時にね。じゃあ二人とも、めいっぱい楽しんできてね! 敬具」
千春「プール♪プール♪」
千春には読まないけど、この手紙には続きがあった。
「P.Sまだまだキョン君も若いんだからさ!人生を達観してないで、
誰か気になる人でも誘ってみれば?」
気になる人なんて決められないが、俺達のことを1番気にしている人ならわかる。
日頃お世話になっているあいつに、たまには恩返しをしたい。俺は佐々木に連絡を取った。
392 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 00:49:44.32 ID:RAZTRe0A0
というわけで、用意を終えた俺と千春は、今日の為に実家から借りてきた
自動車に乗り、まずは佐々木を迎えに行った。
千春「お姉ちゃん、おはよう!」
佐々木「おはよう。今日は楽しみだね。」
千春「うん!あのね、すっごい大きいプールがあるんだって!」
千春が窓から顔だけ出して、佐々木に挨拶する。
キョン「おはよう。」
佐々木「おはよう。今日は誘ってくれてありがとう。」
キョン「荷物貸してくれ。」
佐々木「いいよ、自分でのせるから」
俺は何も言わずに佐々木の肩に下がっているバッグをとる。
佐々木はやれやれという風で、もう何も言わなかった。
394 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 00:54:50.78 ID:RAZTRe0A0
佐々木が後部座席に乗り、千春のシートベルトを締める。
千春「一緒に泳ごうね!おねえちゃん!大きい滑り台もあるんだって♪」
千春は昨日の夜から浮かれっぱなしだ。
俺がネットで詳しい場所はどこなのか調べていると、俺の股の間にすわり
「プール見ようよ!ね!お父さん!」とおねだりしてくるので、
俺は、温泉施設のHPにアクセスした。
そのプールが俺の予想していたものより、数倍豪華だった。
波を再現したプールや、長いウォータースライダーまである。
いい年した俺でも少しテンション上がったんだ。
千春のテンションがうなぎ昇りになるのは仕方のないことだ。
「すごい!お父さん!プールなのに海みたいだよ!ザッブーンってなってる!」
と、俺の脚の上で大暴れしていたのが昨日のことだ。
397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 01:01:10.92 ID:RAZTRe0A0
佐々木の家を出発してから30分くらいの場所にその大型温泉施設はあった。
プレオープンには招待券を持っていない人も先着順で入れるらしく、
入口の前には長蛇の列ができていた。
俺たちも列に並ぶのかと思っていたら、「招待券をお持ちの方」という看板があり
別の入り口からすんなり入れた。
しかも、招待券を持っている人は館内の全設備を無料で使えるらしい。
佐々木「すごいね。その招待券。」
キョン「……」
あまりのVIP待遇に言葉が出ない。
招待券を持たずに来たら、財布から諭吉さんが一人いなくなっていただろう。
千春「ねぇ〜早くプール行こうよ〜!!」
キョン「あ、あぁ!そうだな!こうなりゃヤケだ!」
せっかくの鶴屋さんの好意なんだ。無料だというなら存分に利用させてもらおう!
398 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 01:06:17.25 ID:RAZTRe0A0
更衣室の前で二人と別れ、早々と着替えた俺はプールサイドに来ていた。
人は思っていたより、少ない。どうやら一般客とは入館時間も違うみたいだ。
俺みたいな小市民にこの招待券は荷が重すぎる。ますます気が引けてくる。
砂浜を模したプールサイドで俺が一人体育座りしていると、
千春「お父さ〜ん!おまたせ〜〜!」
水着に着替えた俺の女神(浮き輪付き)が降臨した。
赤い水玉の水着で、腰のところにフリルがついている。
家にある水着が入らなくなった千春のために、俺が選んで買った新品だ。
俺の目に狂いはなかった…!可愛いなんて言葉では形容できない。
だが、可愛いという言葉しか思いつかない俺のボキャブラリーの無さを悔やんだ。
千春「どう?かわいい〜?」
小悪魔のような笑みを見せながら千春が俺に感想を聞く。
キョン「あぁ!似合ってる。とっても可愛いよ。」
千春「えへへ〜。」
努めて平静を保ちながら、俺は千春が望む言葉を掛けてあげた。
399 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 01:12:22.08 ID:RAZTRe0A0
佐々木「もう、千春。一人で先に行かないでって言ったでしょ。」
少し駆け足で佐々木も更衣室から出てきた。
佐々木の水着は、白のビキニで花柄のパレオをつけていた。
陶磁器のように白い肌が、惜しげもなく露出されている。
佐々木は着痩せするタイプらしく、出るところはしっかり出ていて、
引っ込むところは、引っこんでいた。
分かりやすい表現をするなら「ボン キュッ キュッ」という感じだ。
はっきりいって綺麗だった。
佐々木「そこまで見られると、流石の私でも少し恥ずかしいかな。」
佐々木の言葉でトリップしていた脳が正気に戻る。
キョン「そんなに見てた?」
佐々木「そりゃ、もうまじまじと。獣のような目でね。」
佐々木が笑いながら言う。
気分を害してしまったんじゃないかと心配したが、どうも大丈夫のようだ。
千春「早く泳ごうよ〜。ねぇ〜」
千春はもう待ちきれないようだ。
俺の脚をぐいぐい引っ張りながら、プールのほうに行こうとする。
キョン「泳ぐ前に準備運動しないとな。」
千春の浮き輪を外してあげて、三人並んで準備運動をする。
砂浜でそうしていると、まるで本当に海に来たみたいだ。
400 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 01:15:21.76 ID:RAZTRe0A0
千春「きゃ〜〜www」
千春が波打ち際の浅いところで、浮かんでいる。
波に流されながら、漂っているのがどうやら気に入ったらしい。
キョン「千春。そっちは深いから、こっちで遊びなさい。」
少しでも深いところに行こうとすると、キョンが浮き輪を引っ張って
浅いところに千春を移動させる。
何も知らない人が見たら、過保護だと思うかもしれないが、それは仕方のないことだ。
彼は知っているから。かけがえのないものを失う悲しみを。
涼宮さんが亡くなった後のキョンを思い出すと、今でも背筋が寒い。
何かにとり憑かれたように「俺が千春を守らなくちゃ」とうわ言のように呟いていた。
最初は、同情だった。そんなキョンを見ているのが、あまりにも辛かった。
401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 01:19:30.69 ID:RAZTRe0A0
いつ頃からだろう。三人でいるのが当たり前のようになったのは。
千春の笑顔を見ると心が落ち着くようになったのは。
私が作った料理を二人が食べてくれることに喜びを感じるのは。
キョンと千春が横にいないと眠れなくなってしまったのは。
いつ頃からだったろう。自分でも気づかない内にキョンと千春は
私のかけがえのないものになった。
千春「お〜い!お姉ちゃん!」
キョン「佐々木〜。休んでないで、一緒に泳ごうぜ!」
二人が私を呼ぶ。失いたくない、私の大切な二人。
いつか自分も二人と家族になりたい。その願いが届く日は来るだろうか。
天国の涼宮さんに、少し嫉妬しながら私は二人のところに走る。
404 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 01:24:13.11 ID:RAZTRe0A0
キョン「ふわ〜…疲れた。」
2時間くらい遊んでいたのだろうか。
元気があり余っている千春に振り回されながら、休憩無しで遊び続けた。
ウォータースライダーは保護者同伴なら千春でも滑ることができた。
だから必然的に俺も一緒に滑ることになる。
そのウォータースライダーが想定外に長かった。
さらに千春が気にいってしまい、連続5回滑るはめになった。
途中佐々木に代わってもらおうと思ったが、「流れで、水着がとれちゃいそうだから」
という至極真っ当な理由で拒否された。残念だなんて思っていない。
佐々木「お疲れさま。大変だったねwww」
佐々木が持ってきた水筒から、お茶を注いでくれる。
キョン「サンキュ〜…もうくたくただよ。」
冷えた麦茶が喉に染みる。
千春「お姉ちゃん。千春も〜。」
佐々木「はいはい。ちょっと待っててね。」
プールで遊んでいる人も増えてきている。一般客の入場も始まったみたいだ。
時間は12時を少し過ぎたくらいだ。そう思うと急に腹が減ってきたな。
406 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 01:29:05.88 ID:RAZTRe0A0
キョン「そろそろ昼ごはんにしようか。招待券あるから、レストランも無料だし。」
佐々木「あ…。」
キョン「ん?どうかしたか?」
佐々木「いや、なんでもないよ。混んでくる前に移動しよう。」
何か変だな。なんか隠してないか?こいつ。
そういや佐々木が持っているバッグ、やけに膨らんでいるな。
水筒以外にもなんか持ってきてるんじゃないのか?
キョン「佐々木。ちょっとバッグ貸してみ。」
佐々木「…どうして?」
キョン「いいから。」
佐々木がバッグを差し出す。中には水筒と弁当箱が入っていた。
キョン「作ってきてるなら言えよ。無駄にするところだったじゃないか。」
佐々木「でも、お弁当よりレストランの料理のほうがいいだろう?」
キョン「そんなことあるかよ。な、千春!」
千春「うん!千春もお弁当の方がいい!」
佐々木が朝早くから、作ってくれた弁当。
どんなフルコースよりも俺には御馳走だ。そして、それは千春も同じだ。
佐々木「千春、本当にいいの?レストランだったら暖かいご飯食べられるよ。」
千春「千春は、お姉ちゃんの料理がいいの!」
キョン「だってさ。観念するんだな。」
千春「かんねんするんだな!」
千春が俺の言ったことを、ふんぞり返りながらマネする。
佐々木「全く…二人とも馬鹿だよ。」
そんな俺たちを見て、佐々木が笑ってくれた。
今みたいな、佐々木の笑顔が見れるなら一向に馬鹿でも構わない。
408 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 01:30:57.91 ID:RAZTRe0A0
昼ごはんを食べ終えた俺達は、ここのメインでもある温泉に入ることにした。
俺が千春の着替えやタオルを用意していると、
千春「お父さん。千春、あのお風呂入りたい。」
というので、千春の指さす先を見ると、そこには「かぞくぶろ」という文字があった。
キョン「いや、あのな千春。家族風呂っていうのはな…。」
微妙にアダルティーなニュアンスを含むこの言葉を、親として子供にどう説明すべきか。
佐々木「いいじゃないか、キョン。入ってあげれば?」
キョン「え!?お前、いいのかよ!?」
どっちかというとお前の方が、嫌がる立場なんじゃないか!?
佐々木「だってほら、水着着用可って書いてあるし。」
のれんの横にある看板を見ると、確かに「水着のお客様でもお入りいただけます」とある。
キョン「いや、でもほら今日はプレオープンだし。家族風呂には入れないんじゃないか?」
俺は俺なりに抵抗を試みる。
佐々木「すいません。家族風呂を使いたいんですけど、使えますか?」
受付「本日は招待券をお持ちの方のみ、ご利用いただけます。」
だが、必死の抵抗も無駄に終わった。
佐々木「千春、家族風呂入れるよ。」
千春「やった〜!お姉ちゃんありがと〜!」
キョン「マジかよ…。」
410 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 01:32:40.92 ID:RAZTRe0A0
キョン「ふぅ〜…。」
いったいどうしてこんなことになってしまったんだろう。
風呂につかりながら、俺は考える。
いくら水着とはいえ、未婚の男女が一緒の風呂に入るなんて。
こんなことが、もし学校側にばれたら…。
考えれば、考えるほどに鬱になる。
というか、どうして佐々木は反対しなかったんだろう。
もしかして、俺のことなんて置物程度にしか思ってないのだろうか。
それは、それで傷つくな…。俺だって腐っても男なわけだし。
佐々木「キョン、入るよ。」
キョン「あ、あぁ!」
気にすることはない。ただ水がお湯になっただけのことじゃないか。
引き戸を開けて入ってきた佐々木は。体にバスタオルを巻いていた。
キョン「……っおい!お、お前水着は!?」
411 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 01:34:42.04 ID:RAZTRe0A0
佐々木「タオルの下に着てるけど?ホラ。」
そう言って、タオルの前の部分をはだける。
確かに中には水着を着ている。湯気のせいで、まるで着てないように見えた。
千春「おふろひっろ〜い!プールみたい!」。
千春は水着を脱いで、裸になっていた。走りながら浴槽に入ろうとする。
佐々木「駄目だよ、千春。先に体洗わなくちゃ。」
キョン「俺が洗うよ。というか俺も、体洗わずに入ってたwww」
緊張のあまり、つい忘れていた。意識しすぎだ。高校生じゃあるまいに。
千春「お父さんも忘れてたの?千春とおんなじ!」
佐々木「本当に…似たもの親子なんだから。」
439 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 08:24:36.57 ID:RAZTRe0A0
キョン「はい、千春ばんざいして。ばんざ〜い。」
千春「ばんざ〜い!」
千春の体をまんべんなく洗っていく。
白くて柔らかい肌は、少し力をいれたら壊れてしまいそうだ。
俺と同じ人間だとは、とても思えない。
キョン「今度は後ろ向いて。」
お尻にまだ少しだけ蒙古斑が残っている。
いずれこの痣も消えるんだろうな。そしてその頃には小学校に入学して、
あれよあれよという間に卒業して、中学生になって、男を連れてきたりするんだろうな…。
千春「どうしたの?お父さん?」
キョン「いや、なんでもないよ。」
ちょっとだけ目頭が熱くなった。今の内からこんなこと考えるのは止そう。
佐々木「キョン背中流すよ。」
キョン「え?」
そう言うと、佐々木が俺の背中を洗い始めた。
キョン「ちょ!?佐々木?いいよ!自分で洗うからさ!」
佐々木「いいから、ね?」
お前みたいな美人に、上目使いでお願いされたら断る気も無くなる。
誰でもいいから、俺の意志の弱さを鍛えなおしてくれ。
441 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 08:28:27.75 ID:RAZTRe0A0
キョン「千春、お湯掛けるよ。目つぶって。」
千春「は〜い!」頭の上からお湯を掛ける。千春が顔を振ってお湯を払う。
そして千春が俺の後ろを覗きこむ。
千春「お父さんも洗ってもらってるの?」
キョン「うん。そうだよ。」
千春に後ろめたさを感じてしまう。何も悪いことはしていないのに。
千春「お父さん、ゴシゴシ貸して。」
ゴシゴシとは体を洗うのに使うタオルのことだ。
それを千春に渡すと、俺の後ろのほうに走っていく。
すると、「千春?お姉ちゃんは自分で洗うからいいよ。」という声がする。
振り返ると、千春が佐々木の背中を洗っていた。
444 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 08:31:42.42 ID:RAZTRe0A0
千春「いいの!千春をお父さんが洗ってくれたでしょ、それでお父さんをお姉ちゃんが
洗ってるでしょ、だから千春がお姉ちゃんを洗うの。」
佐々木「ふふっ。じゃあ千春、お願いしていい?」
千春「もっちろん!」
三人が縦に並んで背中を洗いあう。でも、これは、なんというか、
佐々木「なんだか猿の毛繕いみたいだ」
キョン「お前もそうおもう?wwww」
佐々木も同じことを考えていたらしい。
「「くくくっwwwww」」二人で声を潜めて笑う。
千春「なんで笑ってるの?ねぇ?どうしたの?」
キョン「はぁあ〜…おっかしいwww」
佐々木「何でもないよ、千春」
俺と佐々木は笑いを堪えながら、大人しく背中を洗ってもらうことにした。
445 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 08:34:59.71 ID:RAZTRe0A0
そのあとも招待券を存分に利用し、施設を遊びまわった。
今は帰りの車内だ。開け放した窓から入ってくる風が火照った体に気持ちいい。
千春の寝息が後部座席から聞こえてくる。
佐々木「よっぽど楽しかったんだろうね。寝ながら笑ってるよ。」
佐々木は千春に膝枕しながら、頭を撫でている。
キョン「前の日から楽しみにしてたからな。無理ないさ。」
佐々木「ねぇ、キョン。私たち三人、何も知らない人からみたらどう見えるのかな…?」
キョン「シングルファザーとその女友達…には見えないだろうな。」
俺は意識的に言葉を選んだ。どういう風に見えるかなんて聞くまでもないだろ。
佐々木「もしかしたら、家族に見えていたかな?」
キョン「かもな…。」
佐々木「そう…。だったら嬉しいかな。」
何が言いたいんだ。その先の言葉は聞きたくない。
佐々木「キョン、君は私に何を望む?もし君が望むのなら、私は…君と千春の家族に」
俺達はこのままでは居られなくなる。どちらかが今以上を望めば壊れてしまう。
キョン「俺は何も望まない…!ただ今のままがいい。それだけだ。それ以上はいらない。」
壊したくない、今の俺とお前の関係を。
佐々木「…ごめん、変なこと言って。」
そのあと俺達は家に着くまで一言も会話をしなかった。
こいつとの沈黙を気まずいとは思ったのは初めてだった。
447 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/25(月) 08:40:09.33 ID:RAZTRe0A0
ベランダに出た俺は煙草に火をつける。部屋では佐々木と千春が並んで寝ている。
千春が生まれてから禁煙していたが、今日はなんとなく吸いたい気分だ。
煙を肺まで入れ、吐き出す。
煙と一緒に、胸の中の嫌な気分も吐き出せないかと期待したが、無駄だった。
佐々木の気持ちに、俺は見て見ぬフリし続けてきた。
それを佐々木本人の口から聞いても、俺は今の関係を望んだ。
今の生活が壊れてしまうのが、怖い。
それに、まだ俺の心には「ハルヒ」がいる。
無駄だと分かっていても、それでも、「ハルヒ」がいるんだ。
佐々木だけじゃない。霧島も俺に自分の想いを伝えてくれた。
そんな彼女たちの真っ直ぐな想いに俺は応えられるのだろうか?
例えどんな結末が待っていたとしても受け入れる覚悟が俺にはあるのか?
俺はこれから、どうすればいいんだろう?なぁ、ハルヒ。…答えてくれよ。
その夜一人で考えたが、答えなんて出るわけもなかった。
3章〜fin〜
672 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 10:19:45.82 ID:B1PtLdi50
家に帰ってきたら、弟が土下座してた。何事かと思えばHDDウイルス漬けにされてました。
そんな身勝手な理由で昨日1日何もする気が起きませんでした。100G分のエロゲ・・・orz
書き溜めもぶっとんだので、手書きです。スピード落ちますが5時くらいまでなら余裕あるので書き続けます。
4章〜再度の邂逅〜
夏休みを目前に控え、期末の採点やら成績表作りで忙しい職員室。
俺もご他聞に漏れず、忙しい日々を送っていた。
そんな多忙な俺に、まためんどくさい懸案事項が増えた。
それは宛先不明のメールに端を発する。
「明日の午後6時、いつもの喫茶店でお待ちしています。」
いつもの俺なら、宛先不明のメールなんざ即座に消去しているが、
こんな意味深長なメールを送ってくるのは俺の知る限り一人しかいない。
ほとんどの先生が残っている職員室を俺は1人後にする。
外に出ると、夏らしい熱気が俺を襲う。汗が吹き出てくる。
こんな中歩いて駅まで行かねばならないのか。
憎たらしいニヤケ顔を思い浮かべながら、俺は歩き出した。
674 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 10:25:56.12 ID:B1PtLdi50
店員「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
キョン「いえ、待ち合わせです。」
店内を見回す。SOS団がいつも陣取っていた窓際の席にそいつはいた。
小泉「お久しぶりです。」
相変わらずのニヤケ顔だった。
キョン「5年ぶりだな。」
ハルヒが死んだあの日から、俺以外のSOS団の面子はこの町から姿を消した。
もちろん連絡も一切つかなかった。
小泉「もうそんなになりますか。」
昔を懐かしむように小泉が言う。その笑顔はどこか淋しかった。
キョン「お前…痩せたな。」
小泉が困ったように笑う。だが笑うと、一層頬がこけて痛々しかった。
678 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 10:38:49.69 ID:B1PtLdi50
会った瞬間ぶん殴ってやろうかとも考えていた。
5年間、何の連絡も寄越さずに今更何のようだと。
だけど今、小泉の顔を見て分かった。
やむを得ずに俺たちの前から去ったこと。
この5年間、俺たちのことを気にかけてくれていたこと。
小泉「僕は、あなたに謝罪しなくてはいけません。機関の命令であったとはいえ・・・」
小泉が頭を下げる。声も震えている。
キョン「事情があったんだろ?ならいいよ。」
もう謝るとかはどうでもいい。
キョン「また、こうしてお前と会う日が来るなんてな。」
少し皮肉めいた言い方だが、許せ。俺とお前の会話なんていつもこんな感じだったろ?
679 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 10:51:11.37 ID:B1PtLdi50
小泉「ありがとうございます…」
そういう俺の考えを汲んだか、小泉も余計なこと言わなかった。
謝られても正直困るしな。
キョン「それは一旦置いておくとして、何のようだ?」
旧友に会いたくなったとか、一般的な理由で呼び出される訳が無い。
こいつが今更俺を呼ぶ理由がそんな悠長であるはずがない。
小泉「先週の日曜日。あの日以来消えた能力が戻ってきました。僕だけでなく、機関にいた人間全員です。
それにある人物から情報が来まして、大規模な時空振動が確認されたそうです。」
時空振動。普通の人々なら、まず聞き慣れない単語だが、俺には懐かしい言葉だ。
680 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 11:02:58.49 ID:B1PtLdi50
小泉「時空振動が確認された日時、5年前の8月12日だそうです。」
キョン「ちょっと待てよ。それって・・・」
5年前の8月12日。それは忘れもしない、俺が全てを亡くし、全てを得た日。
小泉「はい。涼宮さんの命日です。」
そんなことがあるのかよ。ハルヒはもういないのに。
小泉「混乱されるのも分かりますが、事実です。」
キョン「あの力の持ち主が、まだいるのか?」
小泉「そう考えるのが、賢明です。」
申し訳なさそうに小泉が言う。
682 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 11:17:38.66 ID:B1PtLdi50
考えがまとまらない。それほどに衝撃だった。
小泉「前回、機関の人間が涼宮さんにより力を与えられたとき、
僕らはこの力が、涼宮ハルヒから与えられたものだと知っていました。
ですが今回は違うんです。誰から、何の目的で力を与えられたか、僕らは知らないんです。」
キョン「誰があの力をもっているか、分からないのか?」
小泉「残念ながら。ですが予想される人物はいます。」
その時、嫌な予感がした。こいつが今から何を言うのか、直感で分かったからだ。
小泉「力の持ち主は涼宮さんだけではありません。もう1人いました。」
ハルヒがいない以上、真っ先に疑われるのは仕方がないことかもしれない。
キョン「佐々木のことか。」
小泉「はい。」
だが、俺はあいつを信じたい。どんな理由があっても
キョン「佐々木にもう力はない。」
小泉「可能性は0ではありません。」
684 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 11:29:44.84 ID:B1PtLdi50
小泉「今から、話すのはあくまで可能性です。涼宮さんはもうこの世界にはいません。
ですが血を分けた子がいます。もし、子どもに力が受け継がれていたとしても
おかしいことではありません。」
可能性ならば、どうとでも言える。今窓の外を歩いているお姉さんも可能性は0ではない。
そう思う一方で、俺は千春や佐々木が持ち主であることを否定できなかった。
小泉「もう1人います。あの力を持ち得る人が。」
キョン「あの力に関係している人間なんて、もういないだろう?」
小泉「います。偶然とは言い難いほどに涼宮さんと類似点を持つ人が。」
685 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 11:39:03.74 ID:B1PtLdi50
確かにいる。俺のクラスにな。だが直接的な関係はあいつにはない。
キョン「顔が似ていて、名前が偶然同じなだけだ。」
小泉「5年前の8月12日。その日は彼女にとっても特別な日です。」
霧島の話を思い出す。あいつにとっての特別な日なんて「あの事」しかないだろう。
やはり何か関係があるのか?「ハルヒ」と「ハルヒ」には。
小泉「霧島ハルヒの母、その命日です。」
687 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 11:50:49.74 ID:B1PtLdi50
それだけ言い終えると、小泉は口をつぐんだ。
いきなりの急展開にすこし驚きはしたが、俺は自分でも意外なほど冷静だった。
やはり慣れというものは、恐ろしい。
小泉「今からお時間ありますか?」
キョン「大丈夫だ。」
小泉「一緒に来てほしいところがあります。」
窓の外を小泉が指差す。そこには黒塗りのハイアーがいつのまにか止まっていた。
そして、運転席では見覚えのある初老の男性がこちらに会釈していた。
690 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 12:03:27.12 ID:B1PtLdi50
小泉「ここです。」
そこは、いつかも来た繁華街の交差点だった。
あの時と変わりなく沢山の人が歩き、雑踏を作り出している。
小泉「目をつぶってもらえますか?」
やはり、あれか。
キョン「分かってるよ。」
手を握られる。そして1歩、2歩と歩き出す。一瞬のことだった。
小泉「目をあけて下さい。」
目を開けると、無人の街があった。音も何もない。あるのは俺と小泉の二人だけだ。
空もこの空間を構成する何かに覆われ、暗い。閉鎖空間だ。
小泉「こちらに来てください。」
小泉の後に続く。そして、いつかのようにビルの階段を上り、屋上に出る。
そこからは街全体を望むことができる。そして青白い塊を俺は見つけた。
キョン「神人…」
692 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 12:17:07.94 ID:B1PtLdi50
神人は高層ビルの合間に、うずくまるように座っていた。
時間がたっても、何をするでもなくただそこに居るだけだ。
キョン「どうして何もしないんだ?」
俺が見た神人は閉鎖空間を、狭しと暴れまわっていた。
小泉「先週から、何度か閉鎖空間が確認されましたがどの場合においても
神人はあのように、何もせず座ったままです。」
すると、神人の周りに赤い球体が現れる。1つ、2つとその数を増していく。
前のとき同様、あまりのスピードに数は分からない。
赤い球は神人を何度も貫き、攻撃する。それでも神人は何もしない。
小泉「あのように、我々の攻撃に対しても一切反応を示しません。
こちらとしては楽でいいのですが。」
そういう小泉の身体が赤く光り、みるみる間に赤い球体になる。
小泉「必要はないと思いますが、僕も加勢してきます。仕事ですので。」
球体が浮かび、もの凄いスピードで空を飛んでいく。
694 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 12:28:18.88 ID:B1PtLdi50
球体が何度も、何度も神人の身体を襲う。その光景を見ていると、俺はなぜか悲しくなった。
一つの球体が神人の胴体をくるくると何周も回る。そこから神人は裂けていき、上半身が地に落ちる。
残骸は光と共に消えていった。神人が消えたかと思うと、今度は空に異変が起きる。
黒かった空にヒビがはいり、光が漏れ出してくる。何度みても綺麗な光景だった。
それから、また一瞬のこと。俺と小泉は元いた交差点に戻ってきていた。
人の声や、車の走る音がする。戻ってきたことを実感する。
古泉「これで信じてもらえましたか?」
キョン「あぁ。」
697 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 12:38:16.29 ID:B1PtLdi50
喫茶店まででいいと言う俺の声を無視して、運転手は俺の家の前に車を止める。
古泉「お時間取らせて申し訳ありません。」
キョン「また会えるか?」
古泉「今は返事ができません。僕個人としては大きくなったお子さんを人目見たいですね」
その笑顔に、さっきみたいな痛々しい感じは無い。
キョン「いつでも来い。歓迎してやる。」
古泉「えぇ。・・・ではまた。」
キョン「あぁ。またな。」
窓が閉まり、車が走り出す。あいつとまたこんな風に話せてよかった。
色々衝撃的な事実が発覚したが、俺が今思うのは再会できた喜びだ。
紆余曲折はあったとはいえ、怒涛の高校生活を乗り越えた仲間だからな。
698 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 12:48:30.26 ID:B1PtLdi50
キョン「ただいま。」
千春「おかえり〜〜〜!」
キョン「1人だけ。お姉ちゃんは?」
千春「ご飯一緒に食べたら、用事があるから帰るって。」
佐々木にも会って話しておきたかったが仕方ない。
キョン「お留守番ご苦労様。」
千春「えへへ〜。」
この子が世界を崩壊させる力の持ち主かもしれない。それがどうしたっていうんだ。
俺とハルヒの子供ということには何ら変わりは無い。いや、むしろまさしくハルヒの子供だ。
爆弾を抱えているなら、爆発させなければいい。千春が世界の崩壊を望むなんて、まず有り得ない。
千春がダイナマイトなら、ハルヒなんてニトログリセリンだ。
そのハルヒを爆発させなかった実績を持つ俺には簡単なことだ。
700 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 12:55:02.31 ID:B1PtLdi50
キョン「千春、お風呂入ろうか?」
千春「は〜い。アヒル入れていい?」
キョン「3つまでね」
千春「え〜・・・」
キョン「え〜じゃない」
千春については大丈夫だ。もし、なにかあったとしても俺がすぐに対処することができる。
残る二人は・・・。心配なのはやはり霧島のほうだ。高校生という不安定な時期だし、
なにより家の事情がある。物騒なことを考えてもおかしくは無い。
とりあえず、二人と話をしなきゃな。そうしないと始まらない。
703 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 13:04:32.80 ID:B1PtLdi50
霧島「キョン。」
吉川「おぉ〜。どうしたの?」
キョン「お昼一緒していいか?」
翌日の昼休み。屋上に霧島はいた。
流石に暑いらしく、二人は日影でご飯を食べていた。
俺も影に入り、そこに座る。
吉川「どうする〜?ハルヒ〜?」
ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべながら、霧島を見る。
こいつあの件以来勘違いしてるよな。別に勘違いではないけれども。
霧島「べ、別にいいんじゃない?」
妙なイントネーションで霧島が答える。
霧島、それじゃあ吉川に何かあった教えるようなものじゃないか。
704 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 13:11:56.67 ID:B1PtLdi50
弁当箱を開けると、二人が中身を覗き込んでくる。
キョン「なんだ?」
吉川「いや〜ちゃんとしてるなって。茶色いおかずばっかりかと思ってた。」
キョン「5年も家事やってれば自然とこうなるんだよ。」
霧島「その卵焼きとか、凄いおいしそう。」
卵焼きは、俺の得意料理でもあり、千春も気に入っている。
褒められた俺は気を良くし、迂闊な行動に出た。
キョン「一ついるか?」
箸で持ち上げ、霧島の前に差し出す。
吉川「キョンってば〜。見せ付けてくれるね〜。」
何を吉川は騒いでいるんだ?そしてどうして霧島の顔が赤くなってるんだ?
706 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 13:23:25.94 ID:B1PtLdi50
吉川「あ〜んでしょ?あ〜んなんでしょ?」
何でそうなるんだよ・・・。俺はただ卵焼きをあげようしただけだ。
キョン「どうしてお前は話をややこしい方に持って行きたがるんだ?」
霧島「そんなことできるわけないじゃない!」
霧島が吉川に反論し、二人で騒ぎ始める。行き場を無くした卵焼きはどうしよう?
もう食べようかなと思い、箸を口に持っていく。
霧島「ちょっと、キョン!それ、あたしにくれるんでしょ?」
キョン「え、あぁ、はい。」
霧島「じゃあ、はい。ちょうだい。」
霧島が手を差し出すので、その上に卵焼きを乗せる。
それを、あっという間に霧島は口に入れる。
霧島「・・・おいしい。」
キョン「お世辞とかいいから正直な感想聞かせてくれ。」
霧島「お世辞じゃない。本当においしい。」
主夫冥利に尽きる一言だ。
吉川「これはこれで・・・中々。」
「吉川」「夏帆」
二人同時に吉川を睨む。
708 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 13:34:45.96 ID:B1PtLdi50
吉川「でさ、なんでいきなり屋上に来たわけ?」
キョン「なんとなくだよ。」
霧島の様子を見にきたとは言えない。
俺が抱える事情を洗いざらい話せば、俺は頭がおかしい人認定される。
霧島「そうなんだ。」
吉川「『お前と一緒にいたかったんだ』とか言って欲しかった?」
霧島「うるさい!!」
吉川の冗談に一々反応する。からかいがいのあるやつだ。
今のこの状態を見るに、霧島も大分安定しているな。
油断はできないが、現状を維持できれば特に問題なさそうだ。
現状維持が一番難しいのかもしれんが。
吉川「キョン。今日の放課後、相談あるけど時間いい?」
吉川がこちらを向く。今までの吉川からは想像も出来ないほどの真剣な表情だった。
だが声はいつもの調子と変わらない。俺は少し恐怖を感じた。
霧島「なにかあったの?夏帆」
吉川「いや、ちょっとね。心配してくれてるの?」
霧島にさっきの顔は見えていない。今の吉川は何も無かったように笑顔だ。
誰にも知られたくないということか。
キョン「わかった。放課後だな。」
吉川「うん。サンキュー。」
710 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 13:41:04.32 ID:B1PtLdi50
HRのあと、教室に誰も居なくなるまで俺は待つ。
そして誰も居なくなった後、吉川が前のドアから教室に入ってきた。
吉川「先生。待っててくれたんだ。」
キョン「当然だろ。それで、相談ってなんだ?なんかあったのか?」
吉川「聞いたんでしょ。閉鎖空間のこと。」
その単語がこいつも口からでてくることは正直予想外だった。
キョン「・・・お前は何者だ。宇宙人か?それとも未来人か?」
超能力者とはもう再会した。となれば残るは、二つしかない。
吉川「動じないね。宇宙人だよ、私。ヒューマノイドインターフェースだっけ?」
長門が部屋で説明してくれたことを思い出す。細部は覚えていないが、聞き覚えのある言葉だ。
キョン「俺の記憶ではそうだ。」
713 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 13:51:38.73 ID:B1PtLdi50
吉川「自己紹介は終わりにして、本題に入るわ。」
そのほうがこちらとしても有難い。あまりグダグダと話している時間もないしな。
吉川「私たちの上、情報統合思念体が一枚岩ではないことは前に聞いてるでしょ?」
キョン「聞いている。」
吉川「今、思念体は大きく二つの派閥に分かれているの。一つは霧島ハルヒこそが自律進化の可能性を秘めた存在だと唱えている。
そしてもう一つは、涼宮ハルヒの子孫こそがその存在だと主張している。」
古泉の話と少し違うな。機関は佐々木もその存在と考えているらしいが。
キョン「佐々木は違うのか?」
吉川「中にはいるよ。彼女だという者も。まぁ少数派ね。大多数が彼女は潰えた可能性という見解で一致してるわ。」
714 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 14:03:16.52 ID:B1PtLdi50
それを聞いて少し安心した。佐々木の可能性が消えた訳ではないが、そういう見解もあるということだ。
吉川「二つの派閥は、互いに干渉することなくそれぞれの対象を監視するという点で和解したの。
それで霧島ハルヒ、そして先生の監視を命じられたのが私。」
派閥は二つあるという。それならば千春を監視している宇宙人もいるはずだ。
キョン「もう1人は誰なんだ?」
吉川「教えてもいいけど〜・・・聞きたい?」
吉川が言いよどむ。今更隠すことなんてないだろう。
キョン「できればな。」
吉川「先生の近くにいるよ。かなり近くに。」
こうして吉川が正体を明かさなければ、俺はきっと気づかないままだったろう。
だから、そんな風に吉川に言われても見当もつかない。
715 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 14:12:08.41 ID:B1PtLdi50
吉川「分からない?分かろうとしてないだけなんじゃない?」
キョン「俺を買いかぶりすぎだよ。全然分からない。」
吉川「じゃあヒントあげる。思念体は私たちを作るとき、一から作りだすんじゃなくて人類と接触経験のある個体をベースにしたの。
人間らしい行動様式を学習するのって結構めんどくさいのよね。私のベースになった個体、名前は朝倉涼子。覚えてる?」
朝倉涼子。ちょうどこの教室で、10年前に俺はそいつに殺されかけたんだよ。
キョン「自分を殺そうとした人間を忘れるほど俺は寛大じゃない。」
吉川「もう1人のベースになった個体。名前は長門有希。当然私たちはベースになった個体に大きく影響を受けている
ここまで言えば流石にわかるでしょ?」
717 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 14:21:23.73 ID:B1PtLdi50
脳裏に1人の女生徒の顔が浮かぶ。俺の頭は一つの答えを出す。
キョン「陸奥ゆうきがそうだっていうのか。」
吉川「正解。私とむっつんは宇宙人。向こうはそんなこと知らないだろうけど。」
俺が知っている宇宙人たちは、みな自分が宇宙人だということを自覚していた。それを知らない?
キョン「どういうことだよ。」
吉川「互いに干渉しないっていうルール上の理由もあるけど。私の上は監視対象と積極的に接触することを望んだ。
でもね、むっつんの方は自然な接触を望んだの。だから彼女は自分の任務も、自分が何なのかも知らない。」
吉川が自分の唇を噛む。その目は鋭く、まるで見えない何かを睨んでいるようだった。
718 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 14:29:33.18 ID:B1PtLdi50
吉川「可愛そうだと思わない?彼女は知らないの。自分が道化ということも。
考えること、思うこと全て長門有希のものなのに。それを自分だと勘違いしている。」
口調は淡々としているが、抑えきれない激情が伝わってくる。
吉川「だから私が終わらせるの。何も知らないのなら、何も知らないまま消してあげたい。」
それは、思念体への憤怒か、それとも似たような存在への憐憫か。
吉川「だからさ、キョン」
どちらかは分からないが、怜悧で底冷えするような負の感情であることは確かだ。
ちょうど今、吉川が手に持つナイフのように。
「「死んで。」」
719 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 14:43:23.94 ID:B1PtLdi50
二つの声が重なったように聞こえた。
俺との間合いを詰めた吉川が俺の首元にナイフをかざす。
「「逃げないの?前みたいに」」
キョン「無駄なんだろう?」
生徒の話し声や、部活の練習する音が聞こえない。
原理は分からんが、どうせ前の時みたいに隔離されているんだろう。
「「男らしいね。好きだよ、そういうの。」」
今みたいな状況で言われても、ちっとも嬉しくないがな。
「「冗談よ。あなたを殺したら、私が長門さんに殺されちゃうもの。」」
キョン「今のお前は吉川なのか?」
「「私と朝倉涼子は情報を共有しているの。だから私は朝倉涼子でもあり、吉川夏帆でもある。」」
その時、急に静かだった音が戻る。いつのまにかナイフを隠した吉川が俺から離れる。
吉川「キョン、私は事態のいち早い終息を望んでいる。そのためなら今みたいな手段も辞さないよ。
それが私がむっつんのためにできることだって思うから。」
捲れたスカートも戻しながら吉川が言う。声も普通に戻っていた。
吉川「殺されたくなかったら頑張ってね。私もこんなことしたくないの。」
不穏な言葉を残して教室から去る吉川。
キョン「おう。娘残して死ねないからな。」
その背中に俺は精一杯強がりを言うしかなかった。
721 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 14:49:56.84 ID:B1PtLdi50
懸案事項がまた一つ増えた俺は、早く家に帰ろうと下駄箱へ急ぐ。
下駄箱を開くと、中からピンクの封筒が落ちてきた。
封筒をあけ、中身を読む。
「前に二人で座った公園のベンチで待っています。千春ちゃんのことは心配しないで下さい。」
と女の子らしい丸い文字で書かれていた。予想はしていたが、まさか今日とは。
時間が指定されていない以上急がなくては。ナンパなんてされていたら一大事だ。
うまく革靴はけずに、こけそうになりながらも、転がるように俺は坂道を駆け下りた。
723 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 15:04:05.95 ID:B1PtLdi50
公園のベンチが見えてきた。そこにはOL風の衣装を着た女性がいて、子供を抱っこしていた。
俺の存在に気づいたらしく、ベンチから立ち上がり軽く礼をする。
みくる「お久しぶりです。キョンくん。」
そこにいたのは、朝比奈さん(大)だった。
キョン「久しぶりです。えと、その子供は。」
まさかは考えたくはないが、朝比奈さんの…。
みくる「千春ちゃんですよ。ほら。」
見てみると、千春だった。朝比奈さんのふくよかな胸の中で気持ちよさそうに寝ている。
みくる「千春ちゃんには、少し眠ってもらっています。身体に悪い影響はありませんので心配しないでください。」
未来の医学技術は進歩しているんだなと、俺がどうでもいいことを考えていると、
みくる「キョンくん。あなたには非常に申し訳ないことをしたと思います。ですがあのまま過去に留まっておくことはできませんでした。」
凛とした態度で朝比奈さんが謝る。覚悟ができているんだ。俺からどんなに罵られようと受け入れる覚悟が。
724 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 15:12:52.27 ID:B1PtLdi50
キョン「事情があったんですよね。だからいいんです。」
みくる「キョンくん・・・ありがとうございます。」
二度目の感謝の言葉は、涙交じりだった。
キョン「とりあえず座りましょう。」
二人並んでベンチに座る。実に10年ぶりだ。
みくる「おおきくなりましたね。千春ちゃん」
キョン「もう5歳ですからね。来年には小学校ですよ。」
みくる「もうそんなになるんですね。」
729 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 15:28:14.51 ID:B1PtLdi50
みくる「実は今回あまり時間が無いんです。ですから手短に話しちゃいます。」
ついさっきまでは少しシュンとしていたが、お仕事モードに入ったようでキビキビ話し出す。
キョン「時空振動のことについてですよね?」
みくる「はい。今回の件について我々は静観することを決めています。」
何もしないということか?じゃあ機関に情報を与えたのは未来人じゃないのか?
キョン「超能力者に情報を与えたのは?」
みくる「…上の人は事態が動くことを望んでいます。そして自らの手を汚さずに終焉だけ見届けようとしている。」
でも前のときは、積極的に動いていたのに、どうして今回は?
キョン「それでいいんですか?前の時は」
俺が言い終わるより前に朝比奈さんが話し出す。
みくる「じゃあ、キョンくんに聞きますけど今回、力の候補者にあがっている方の中に世界の崩壊を望むような人が居ますか?」
例の三人を思い出す。0ではないが限りなく低い確率だろう。
キョン「俺が見た限りでは、いませんね。」
みくる「ですよね。元々私たちは過去が崩壊することで、連続する時間軸上にある私たちの世界が崩壊するのを
避けるために行動していたんです。だからどうでもいいと思っている人も大勢いるの。」
そりゃまぁなんとも無責任な話だ。自分に関係のないことに本気になれないのも無理はないか。
731 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 15:46:32.59 ID:B1PtLdi50
みくる「だから今回キョンくんに接触するのも最初は反対されたんです。事の中心にいる人物に余計な情報を与えないほうがいいって。
でも無理いってOKもらったんです。」
その優しさだけでも、嬉しいのに特上級の笑顔付きだ。感無量というものだ。
みくる「キョンくん。これからあなたには色々大変なことが起こります。でも迷わないで下さい。」
覚悟は出来ているつもりだが、こうも断言されると少し気が竦む。
キョン「はい。覚悟はしています。」
だから言葉にして、自分を奮い立たせる。そうでもしなければ、一気に気落ちしてしまいそうだ。
アラーム音が鳴る。俺の携帯かと思ったが違う。朝比奈さんの腕時計からだ。
みくる「どうやら時間みたいです。キョン君、最後に一つだけ。
誰か世にながらへて見む書きとめし跡は消えせぬ形見なれども」
朝比奈さんが歌うように和歌を詠む。俺が国語教師になったことを知ってのことだろう。
この歌には返歌がある。その歌は俺もよく覚えている。
キョン「亡き人を忍ぶることもいつまでぞ今日の哀は明日のわが身を、ですか。」
朝比奈「はい。それを忘れないで下さい。」
抱っこしていた千春を俺に渡し、ベンチ裏の草むらに入っていく。
みくる「ではキョンくん、また。」
キョン「えぇ、また。」
そのまま草むらの奥へといってしまい、朝比奈さんはまたも俺の前から去っていった。
732 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 16:00:33.72 ID:B1PtLdi50
千春をおんぶしながら、家路を急ぐ。千春はぐっすり寝ている。深夜に目を覚まさないか少し心配だ。
急転直下。俺の周りが高校時代並みに騒がしくなっている。しかも俺の親しい人たちを中心にして。
考えるべきことが多すぎて何から考えていいか分からない。これが実は夢でしたなんてオチだったらどれだけいいか。
念のために頬をつねる。俺の神経は正常に作動していて、痛みを脳に伝えている。どうも夢ではないようだ。
頭が痛い。考えれば考えるほど思考の迷路にはまっていくようだ。もしくは底なし沼か。どっちでも変わりはない。
悩んでいても仕方ない。何を考えていても、事は起きるんだ。どうせならもっと楽しいことを考えよう。
そのとき思い出されたのは・・・
1 霧島のことだった。
2 陸奥のことだった。
3 佐々木のことだった。
落ちます!!1番多かった人のED書きます!!多分また明日の朝になると思います。
申し訳ない気持ちで一杯です!!本当に遅筆でごめんなさい。
733 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 16:02:14.09 ID:fAr67b64O
3!!!
佐々木3!!
朝まで捕手します!
734 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 16:03:23.34 ID:FwZ52+zjO
おつかれさま、続き待ってるよ
3の佐々木でお願いします
735 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 16:06:44.98 ID:KLm59aCmO
3
佐々木だろjk…
736 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 16:07:03.59 ID:UEhixXCK0
佐々木endはいっぱい見たから1で
737 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 16:09:21.16 ID:0jkeGSXsO
3
738 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 16:10:07.68 ID:Q2LJNB+P0
ガキはいいから佐々木で
739 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 16:11:06.00 ID:vYR5V48aO
3
740 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 16:11:19.04 ID:9mm/NtQw0
佐々木だな
741 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 16:12:19.17 ID:VP9NKY08O
佐々木しかないだろどう考えても
742 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 16:15:03.33 ID:jqjiDNMjO
佐々木人気だな
佐々木以外で
746 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 16:40:29.08 ID:NY+eNLzTO
おう帰宅したらこんなことに
もちろん3
747 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 16:43:55.22 ID:+LljnhM5O
3だわな
748 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 16:44:24.88 ID:Df+cpDXN0
ちょっと佐々木さん最近調子に乗りすぎなので1
749 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 16:45:46.09 ID:EHZM1gIUO
全部見たい気もするけど、ここは佐々木で。
750 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 16:48:03.87 ID:5pFZdEZZO
3でもいいが
話の流れ的に1で
751 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 16:50:59.47 ID:52FuRElF0
3。でも他のも読みたい
752 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 16:54:15.29 ID:0kFl3wIYO
3って言うやつはどうせビアンカ選ぶやつだろ?
>>1
3で頼む
753 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 16:55:39.52 ID:sHv1kVYvO
1がいいな
754 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 16:56:13.71 ID:k4Z640bV0
霧島って巡洋艦だっけか?
でもあえて2とか言ってみる
756 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 17:01:47.20 ID:VxYjdQ1VO
1と3にしろ
758 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 17:19:12.04 ID:maXLSNjc0
3だな
759 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 17:32:00.26 ID:PSaVjogmO
1で
まぁ、>>1の思う通りに書けばいいよ
761 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 17:38:25.27 ID:gKo01B970
1も3も読みたいが1で
762 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 17:41:50.49 ID:k093hxY/O
2が読みたいけど人気ないみたいだから1お願いします
763 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 17:45:09.68 ID:rM2gSfk2O
まさかの妹ENDでお願いします
764 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 17:55:20.02 ID:H2AMKhIr0
1でお願いします
766 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 18:00:16.88 ID:MYgcjuTx0
1で
767 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 18:02:18.81 ID:7qbMlVBo0
あ、ちなみに3で
768 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 18:07:53.26 ID:dMh9vzs2O
1だな
769 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 18:10:02.82 ID:Ay6PPicZ0
千春で
770 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 18:22:35.25 ID:3sty80zoO
1じゃボケェ!!
771 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 18:23:34.03 ID:XTJvyMInO
佐々木だな
オリジナルキャラだといまいちよくわからないんでな
772 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 18:26:17.55 ID:qjG9J4l8O
佐々木しかあり得ません
773 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 18:27:16.90 ID:WykoUeneO
佐々木ちゃん!
774 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 18:29:35.71 ID:fAr67b64O
>>773までの結果
1霧島 12票
2陸奥 1票
3佐々木さん 18票
妹 1票
千春 1票
俺暇だなw
775 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 18:49:15.44 ID:OVtkGEOMO
1で
佐々木もいいけど、たまには違うのが
776 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 18:55:13.45 ID:HLrULwIBO
佐々木で
777 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 18:59:23.44 ID:0nZPOzimO
全部見てみたいが佐々木で
778 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 19:08:48.67 ID:omG8M4280
1だろjk
779 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 19:12:52.43 ID:BioWeFkJ0
陸奥がいい俺は少数派なのか?
物凄く健気でいいじゃないか
むしろ霧島は押しが強すぎて好かんのだが
佐々木は他ので幸せなものを見てるから陸奥が良いのだけどな
780 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 19:16:04.01 ID:j/FpbLVg0
俺だって佐s…
1番で
781 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 19:21:25.35 ID:NBHfJwrKP
1
783 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 19:27:20.46 ID:/ml2TsGeO
佐々木
784 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 19:27:24.51 ID:RXBlq3aNO
バイト先から3の佐々木で
785 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 19:45:01.16 ID:th5rdwBgO
佐々木
786 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 19:47:31.94 ID:dBtbcFCXO
佐々木
787 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 19:55:00.33 ID:ewiusod0O
せっかくオリキャラだして話進めてきてるんだから1か2でお願いしたい。
どちらかと言えば1で。
788 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 19:57:14.35 ID:VCLwgKiIO
佐々木でお願いします
789 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 20:00:08.94 ID:kEVR68HLO
1でお願いします
790 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 20:15:07.91 ID:qeAkQxPsO
1だろ女子高生
791 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 20:19:32.51 ID:rZT/l5EzO
1でお願いします
793 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 20:22:42.36 ID:isHPD2/m0
佐々木を希望
794 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 20:23:13.45 ID:Tij82+CgO
俺は佐々木エンドしか見たくないな
795 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 20:26:53.73 ID:6U2yHx+fO
え…なんでこのスレまだあるの…?
佐々木で
796 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 20:35:35.84 ID:J7LPNcsbO
まさかの長門
ながもぉぉおおおおん!
797 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 20:41:15.29 ID:ddXxWqS/O
3希望
800 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 20:59:30.50 ID:uU5BwGdXO
3で頼む
保守
803 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 21:19:47.18 ID:3sty80zoO
1だろJK
804 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 21:25:42.21 ID:+rni+yoMO
1でたのむ
807 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 21:52:25.71 ID:+rni+yoMO
1
807 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 21:52:25.71 ID:+rni+yoMO
1
817 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 22:20:02.17 ID:er0AG8ZX0
3だゴルァ
820 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 22:29:50.27 ID:b5HfyZ6r0
佐々木で
823 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 22:40:09.50 ID:WUEaPFvl0
3
824 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 22:42:44.07 ID:aQkaAIcq0
佐々木で
825 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 22:57:31.82 ID:Ut5SQWsmO
ここまで来たら佐々木だろ
826 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 23:14:52.89 ID:/o/GnZMk0
トゥルーエンドなら1だろここは
827 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 23:22:22.05 ID:nhuBkk51O
この調子でいけば佐々木Endになるな
828 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 23:24:28.76 ID:JqN22ZmY0
佐々木でお願いします
830 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 23:29:45.96 ID:fAr67b64O
埋まったら次スレ立てよっか
ちなみに3
832 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 23:49:17.46 ID:TFPGrBah0
3だろjk
jkとか乳くせぇのに興味はねぇ
834 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 23:53:38.40 ID:Y2aYJRVBO
>>1がベストと考えるもので良いと思うが…
やっぱり佐々木でお願いします。
838 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 00:07:44.18 ID:YQsIOJdG0
オリジナルキャラだろ
1で
840 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 00:13:41.87 ID:tqr7BFFuO
佐々木で
841 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 00:22:05.22 ID:WfZwu0s0O
1
842 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/28(木) 00:23:27.71 ID:rvqcfIqY0
4ハルヒエンドでお願いまじでこれは
843 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 00:31:28.01 ID:Si+NkmThO
じゃあ俺も4で
というか1と3と4かけ
844 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 00:36:58.64 ID:alKMbmuD0
3番佐々木
847 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 01:09:12.90 ID:dGpdG7cfO
全部みたいが、まぁ3かな。
848 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/28(木) 01:10:36.02 ID:rvqcfIqY0
ハルヒ復活とは言わない
でもキョンには何が何でもハルヒが一番だと思うんだよ
849 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 01:12:53.06 ID:IN+tM5/f0
この3人だったら佐々木だな
850 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 01:31:30.36 ID:hcTtQyaqO
やはり佐々木しかない
857 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/28(木) 02:49:37.13 ID:ibdZpk5UO
とりあえず今のうちに3とだけ
でも全部書いちゃえよ
858 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 03:05:44.53 ID:9tl9neHV0
保守
1で
867 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/28(木) 07:49:57.66 ID:SIPPhlvPO
勝手に使ってごめんね
佐々木で
868 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/28(木) 08:19:37.39 ID:as4Y1jCq0
1で
870 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/28(木) 08:28:15.19 ID:HQMiN9bt0
1de
871 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 08:33:07.13 ID:V1JDKU6FO
3で
872 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 09:24:02.64 ID:DDt5g9DJO
ほ
3で
873 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/28(木) 09:29:46.89 ID:7vEr3TyAO
読み終わって、清々しくなれるのはやっぱり…3だよな
でも1、2も見たい…
だから俺は4の千春を選び、現状維持を>>1に挑む
874 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 09:37:18.75 ID:1QgI8g0m0
3の佐々木で
875 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 10:08:39.84 ID:1u5bKNRHO
1で
876 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 10:11:43.99 ID:n+ig8BaRO
3
877 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 10:30:37.20 ID:ZuAQE2Md0
終章 T〜Dearest〜
「「いただきます」」
二人で手を合わせ、ご飯が食べれる有り難味を神様に感謝する。
今日の晩御飯は、俺特製のスパゲッティーだ。
巷では、パスタなんか呼ばれているらしいが、これはスパゲッティーだ。俺はそう教わった。
キョン「おいしいか?」
千春「うん。」
ここのところ千春にあまり元気が無い。原因は分かっている。
佐々木が家に来る頻度が目に見えて減ったからだ。
週に1度は必ず顔を見せてはくれるが、前に比べれば明らかに少ない。
こんなことは今まで、5年間一緒にいて1度も無かった。
そして佐々木が家に来なくなった原因も、明確だ。
俺の曖昧な態度のせいで、佐々木を傷つけている。
879 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 10:38:23.50 ID:ZuAQE2Md0
千春「お姉ちゃん、最近来ないね・・・。」
キョン「そうだね。」
千春の食べる手が止まる。
千春「もしかして、千春のこと嫌いになったのかな?」
涙声で千春がそんな事を言う。
キョン「そんなことないよ。お仕事が忙しいんだって。」
千春の不安をなくすために頭を撫でてあげる。千春のぐずつく声が聞こえる。
千春にとって、佐々木は母親同然の存在だ。
母が近くにいない子供がどれだけ不安なのか。
俺はそれを最近学んだ。俺の我儘のせいで千春まで不安な気持ちにさせている。
881 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 10:46:40.08 ID:ZuAQE2Md0
キョン「また、家に来てくれるさ。ね?」
千春「うん。」
だが原因が分かっているからといって、俺に何が出来る?
「どうすろのが1番いいのか」は俺だって分かっている。
千春も、佐々木も、幸せになれる方法は俺が望めば手に入るものだ。
かといって、それでいいのか?
自分の気持ちに嘘をついて、佐々木の気持ちを知りながら利用して、
そして都合よく幸せを手に入れるのか?そんな不実なことが許されるのか?
そんな聖人君子みたいなことは言い訳だ。結局のところ俺は「今」の生活が壊れるのを恐れているんだ。
弱くて、情けなくて、汚い小市民に過ぎない。それでも俺は今ある幸せを壊したくないんだ。
882 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 10:53:46.87 ID:ZuAQE2Md0
異変が起きたのは、翌日の朝だった。
いつものように俺が千春を起こしにいく。
キョン「千春。朝だよ。」
返事が無い。本当に寝つきがいい子だ。
キョン「千春〜。遅刻するぞ。」
いつもならこの辺で、ベッドから起き上がるのだが、まだ反応が無い。
キョン「千春?どうした?」
千春「はぁ・・・はぁ・・・お父さん。」
キョン「千春!?」
顔が赤く、息も荒い。おでこに手を当てる。かなりの熱だ。
884 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 11:01:59.56 ID:ZuAQE2Md0
千春「今、起きるから。」
キョン「いいから、寝てなさい。」
正確な熱を測るために、俺は救急箱から体温計を取り出す。
千春「幼稚園、行かなきゃ・・・」
キョン「今はいいから。はい、これ銜えて。」
千春の口に体温計を銜えさせる。少しだけ咳も出ているみたいだ。
アラームが鳴り、体温計を見る。38度5分。
千春「ケホッ!ケホッ!」
キョン「大丈夫か!?」
台所から冷えたお茶を持ってきて、千春に飲ませる。
886 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 11:15:47.10 ID:ZuAQE2Md0
千春「お父さん、ごめんね」
キョン「いいんだよ。今日は幼稚園お休みしよう。」
とりあえず、病院に連れて行かないと。おそらくただの夏風邪だと思うが。
最悪の事態も考えられる。これ以上俺は失くしたくない。
キョン「千春。病院に行くから。立てる?」
千春「うん。」
少しふらふらして、足元がおぼつかないが立ち上がる。
そんな千春を俺はおんぶする。
交通量が多い道路まで出た。俺はタクシーを拾った。
運転手「どこまで行きます?」
まだ朝も早いから、かかりつけの病院は開いてないだろう。
キョン「子供が風邪なんです。1番近い救急病院に行ってください。」
運転手「この辺だと、あの病院かな。」
タクシーが走り出す。通勤時間帯なので車の量は多かったが、幸い渋滞も無く15分程で病院についた。
890 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 11:26:29.57 ID:ZuAQE2Md0
その病院は、この辺で1番大きい病院で、ハルヒが亡くなった場所でもある。
今そんな縁起も無いことを考えてどうする。早く千春を医者に診せなければ。
「救急の方はこちら」という看板の下にある、インターフォンを鳴らす。
すると、看護婦らしき人が来て自動ドアを開ける。
看護婦「どうされました?」
キョン「朝起きたら、子供が急に熱出して、咳も少ししてるんです。」
看護婦「小児の患者さんですね。そこで座ってお待ちください。」
備え付けのソファーに俺は千春を寝かせる。
千春「はぁ・・・はぁ・・・」
息が荒く、さっきから何も喋らない。
キョン「千春。大丈夫か?病院着いたからな。」
千春「うん。大丈夫だよ。」
それでも俺を不安にさせまいと千春は笑顔で俺に答える。
893 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 11:41:56.44 ID:ZuAQE2Md0
看護婦「お待たせしました。こちらへどうぞ」
看護婦さんに案内され、診察室へと向かう。
その後の検査は簡単なものだった。
千春の症状について問診され、身体検査をいくつか行い、
医者「夏風邪ですね。最近この辺で流行ってるんですよ。」
とりあえずは安心した。最悪の事態だけは回避された。
医者「でも少し熱が高いからね。安心するのは早いですよ。」
それを指摘される。俺は今そんなにも安心した顔をしたのだろうか。
医者「抗生物質出しておくから。あと水分補給は小まめにしてあげてください。」
キョン「あの、解熱剤とかは?」
医者「子供に解熱剤はやめたほうがいいです。市販の保冷剤で十分ですよ。」
本職が言うならそうなんだろう。素人が口を出すべきではない。帰りに冷えピタを買わなければ。
医者「とりあえずは安静です。少しでも容態が悪くなったら、すぐ来てください。」
キョン「はい。ありがとうございました。」
医者「はい。お大事に。」
看護婦「お大事に。」
894 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 11:50:01.92 ID:ZuAQE2Md0
処方箋をもらい、受付の前で待つ。俺が来たときには誰もいなかったが
今は高齢者の方でごった返している。朝の病院ってこんななんだな。
テレビを見てみると、スッ○リが流れていた。ちょっと待て。今何時だ?
携帯を取り出し、時間を見る。8時10分。朝礼は8時30分から。まずい。
そのまま携帯から電話を掛けようとするが、
看護婦「院内での携帯電話のご利用はご遠慮ください。」
と注意されたので、俺は千春をおぶったまま公衆電話へ向かう。
国木田「はい、こちら東高です。」
キョン「国木田か。俺だ。」
国木田「キョン。今日は遅いなと思ったら、どうしたの?」
キョン「千春が夏風邪でな。今日は行けそうも無いみたいだ。」
896 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 12:00:40.93 ID:ZuAQE2Md0
国木田「また主任から嫌味言われるよ?」
キョン「仕方ないさ。子供の方が大事だ。」
前も千春関連で1度だけ休んだが、1週間くらいチクリチクリと嫌味を言われ続けた。
国木田「分かった。うまいこと言っておくから。お大事にね。」
キョン「悪い。今度何かで返すわ。」
国木田「いいよ。無理しなくて。家計厳しいんだろう?」
余計なお世話だと言いたいが、実際に厳しいので何も言えない。
国木田「お大事にね。」
キョン「ありがとうな。」
そこで、ブツッと公衆電話が切れ、ツーツーという電子音が流れる。
897 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 12:15:34.71 ID:ZuAQE2Md0
その後、千春の幼稚園にも連絡を入れる。
どうやら幼稚園でも夏風邪が流行っていたらしく、
こちらの体調管理が甘かったと恐縮してしまう位、謝られた。
薬を受け取り、もう1度タクシーを止め、一旦家に帰る。
実家に行こうかとも考えたが、止めにした。
ただでさえ苦労させてるのに、あまり心配かけたくなかったからだ。
家に着き、千春をベッドに寝かせる。
キョン「お父さん、今からお買い物してくる。すぐ戻るからね。」
千春「すぐ戻ってきてね。約束。」
いつもなら、「うん!お留守番してるね!」と元気に答える千春だが
心身ともに弱っているのだろう。
キョン「すぐ帰ってくるよ。約束だ。」
俺は千春との約束を全て守ってきたし、千春も俺との約束を破ることは無かった。
俺と千春にとって「約束」は儀式みたいなものなんだ。互いを信頼し合うための。
899 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 12:25:10.51 ID:ZuAQE2Md0
必要だと思うものは全て買い揃え、俺はスーパーを出る。
あれも、これも必要なんじゃないかと不安になり、5000円以上使ってしまった
備えあれば憂い無しという言葉もある。多いに越したことは無い。
家に帰ると千春は眠っていた。まだ少し息は荒いが、気持ちよさそうに寝ている。
その、小さいおでこに保冷剤を貼る。すると千春が目を覚ます。
千春「お父さん・・・お帰りなさい。」
キョン「ただいま。起こしちゃったかな?」
千春「ううん。大丈夫。」
キョン「何か欲しいものある?プリンも買ってきたよ。」
千春「お父さん。お父さんがいればいい。」
キョン「分かった。お父さんここにいるよ。」
千春「うん・・・。」
千春が笑顔になり、そしてまた目を閉じた。
902 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 12:31:10.20 ID:ZuAQE2Md0
その後も千春は寝たり起きたりを繰り返し、俺は水をあげたり、保冷剤を変えたりと看病していた。
そうやって色々していると、日頃の疲れのせいか、昼過ぎ急に眠気が襲ってきた。
寝たら駄目だと、眠気を振り払っていたが、自分でも気づかないうちに俺は寝てしまっていた。
903 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 12:41:03.90 ID:ZuAQE2Md0
はっと目が覚める。時計を見るともう5時過ぎだった。3時間くらい寝ていたことになる。
千春は大丈夫か?俺はベッドを見る。
千春「はぁ・・・はぁ・・・お父さん。」
すると、パジャマが汗でぐっしょり濡れている。前見たときよりも苦しそうだ。
キョン「千春!?大丈夫か!?」
千春「うん。ちょっと暑いだけ・・・。」
熱は少し引いたようだが、汗が凄い。それに、なにより息苦しそうだ。
キョン「どうして何も言わなかったんだ?」
千春「お父さん・・・気持ちよさそうに寝てたから。」
自分が苦しいのに、それでも俺の事を考えてくれる千春に涙が出そうになった。
まず、汗を拭かないと。俺はタオルを濡らし千春の顔を拭く。
それでも、まだ千春は苦しそうなままだ。どうしてだ?ただの風邪なんだろ?
905 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 12:53:45.79 ID:ZuAQE2Md0
キョン「千春?苦しい?」
千春「ううん、平気だよ。」
千春の声から生気が無くなる。嘘だろ。あの光景が思い出される。
俺の目の前で、命の灯火が消えたハルヒのことが。
キョン「千春!千春!」
俺の呼びかけにも答えてくれない。やめてくれ、神様。俺から千春を奪わないでくれ。
キョン「千春、返事をしてくれよ!!千春!!」
俺は何も望まない。俺には何があっても構わない。だから、お願いだ。
キョン「千春がいてくれればいいんだ・・・俺は何もいらない!だから千春!」
返事をしてくれ。もう俺はこれ以上悲しみに耐える自身が無い。
その時、俺は何かの音を聞いたが、確かめる余裕など無かった。
千春「おね・・・ちゃ・・・ごめ・・・なさい。」
千春が何かを言い、そして目を閉じる。
キョン「千春!千春!」
909 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 13:09:26.81 ID:ZuAQE2Md0
俺が千春を病院へと運ぼうとする。だが
千春「すぅー・・・すぅー・・・」
千春の呼吸音が聞こえる。さっきのような苦しそうな呼吸では無くなっている。
熱も引いていて、汗も止まっていた。どうやらまた眠ってしまっただけのようだ。
キョン「はぁああああ〜〜〜・・・」
ため息が漏れる。良かったという気持ちが心の底から湧いてくる。
よくよく考えてみれば、単に汗をたくさん掻いたから疲れていたんだろう。
それでも、生きた心地がしなかった。また俺は何もできないのかと自責で押しつぶされそうだった。
とにかく、千春は無事で俺の考えすぎだった。びしょ濡れのパジャマを着替えさせようと思い
脱衣所へ向かう。千春の部屋の前に中身が入ったスーパーの袋が落ちていた。
中身は、食材で俺と千春の好きなものばかり入っている。
俺と千春の好みをここまで詳しく知っている、あいつ。来ていたのか。
玄関を確認したが、それらしい靴は無い。家中探してみたが、あいつの姿は見当たらなかった。
912 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 13:19:03.29 ID:ZuAQE2Md0
>>906 凡ミスです。東中とごっちゃになりました。
それから千春は、夜まで目を覚まさずに穏やかに寝ていた。
熱も微熱程度にまで落ち着いた。一安心だが油断はできない。
またさっきみたいなことが起こるかもしれない。
だから今日は千春のベッドの横に布団を敷き眠ることにした。
これなら不測の事態にすぐ対応できるし、千春が夜に起きても不安にならない。
いつもより早いが、夜の10時に俺も布団に入る。
慣れない看病で疲れていたのか寝入るのに、そう時間は要らなかった。
913 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 13:34:17.18 ID:ZuAQE2Md0
目が覚める。俺は自分の書斎の床に寝ていた。どういうことだ?俺は千春の横で寝ていたのに。
寝ぼけて、そのまま寝てしまったのか?
時刻は深夜2時。寝つきのいい俺がこんな変な時間に目覚めることはまず無い。
誰にも起こされていないが、誰かに起こされたような感覚がした。自分でも言っててよくわからない。
何があったかは分からんが、千春の部屋に戻ろう。だが俺は異変に気付いた。
おかしい。こんなことは普通ならあり得ない。窓の外を見ると、街灯が全て消えている。
書斎の窓からは国道が見えるのだが、そこの街頭が全て消えている。
窓を開け、空を見る。今日はあんなに晴れていたのに星一つどころか、月も見えない。
まさか、ここは閉鎖空間なのか?
そのとき、書斎においてあるパソコンからブーンと音がする。ディスプレイの電源が入っている。
すると左端のカーソルが動き、文字が出てきた。
YUKI.N>みえてる?
916 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 13:48:08.28 ID:ZuAQE2Md0
デジャブに襲われ、しばし呆けていた俺は、すぐにキーボードに文字を打ち込んだ。
『あぁ』
YUKI.N>あなたは今閉鎖空間に居る。作り出したのは千春。
『千春は世界の崩壊を望んでいるのか?』
YUKI.N>違う。千春が望んでいるのは世界の崩壊ではない。
『ならば、なぜ閉鎖空間を作ったんだ?』
YUKI.N>千春が望むのはあなたの幸せ。
『答えになってないぞ。』
YUKI.N>順序立てて説明する。あなたは今幸せか?
『自分ではそう思っている。』
YUKI.N>なぜ?
『千春が元気でいてくれるからだ。』
917 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 13:57:03.39 ID:ZuAQE2Md0
YUKI.N>子供の幸せは親の幸せ
『その通りだよ。』
YUKI.N>だが親が幸せでなければ、その子供は幸せではない。
『俺は幸せだと言ってるだろうが。』
YUKI.N>あなたはそうかもしれない。だが親は1人でない。二人。
『ハルヒはもういないんだぞ?』
YUKI.N>涼宮ハルヒではない。千春にとって親同然の人物のこと。
『佐々木のことか?』
YUKI.N>彼女は今あなたへの想いで、絶望に暮れている。
『返す言葉が無いよ』
YUKI.N>それを千春は自分のせいだと思い込んでいる。自分がいるから幸せになれないのだと。
920 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 14:15:59.20 ID:ZuAQE2Md0
YUKI.N>閉鎖空間が出現するようになったのはおそらくそれが原因。
一緒に暮らしていながら、俺は全く気付けなかった。千春がそんなにも苦しんでいたなんて。
YUKI.N>そして千春は自ら、自分の存在を否定している。
『だから、閉鎖空間を作ったのか。』
YUKI.N>故人を想うあなたを誰も否定はできない。けれど今あなたのことを想う人がいる。
『分かってるよ。』
YUKI.N>あなたは決めければならない。受け入れるか拒否するか。でなければ千春はこの世界から消える。
いつまでも、このままではいられない。俺は覚悟を決めた。
921 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 14:25:58.89 ID:ZuAQE2Md0
『ありがとな、長門。背中押してくれて。』
YUKI.N>礼には及ばない。謝罪すべきは私。
『じゃあ今のでチャラだ。それでいいか?』
返事が書き込まれるのが遅くなる。
YUKI.N>了解した。
『今、お前はお前なのか?』
陸奥との関係性を聞きたいのだが、上手く言葉に変換できない。結果よく分からん質問になった。
YUKI.N>陸奥ゆうきがこれに気付くことはない。安心して。
長門は俺の質問を理解し、その先の俺が聞きたかった答えまで教えてくれた。
YUKI.N>私が私として、あなたに接触するのはおそらくこれが最後になる。
『どういうことだ?』
YUKI.N>陸奥ゆうきが確固たる自我を持てば、私は完全に陸奥ゆうきとひとつになる。
924 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 14:47:00.51 ID:ZuAQE2Md0
YUKI.N>だから、よろしく。
『こちらこそ。じゃあ明日、部室でな』
YUKI.N>また部室で。
それっきりディスプレイには何も現れなくなった。
音も無い暗闇が訪れる。だが一つだけ聞こえる。すぐ近くから。千春の泣く声が。
俺は書斎を出て千春の部屋に行く。そこには青白く光る、小さい神人がいた。
部屋の端っこでうずくまっている。千春の泣く声はそこから聞こえた。
キョン「千春…ごめんな。」
俺は神人を後ろから抱いて、抱っこする。
キョン「全部お父さんのせいだったんだ。千春は悪くないよ。」
背中を優しくさすってあげる。
キョン「お姉ちゃんは千春のこと嫌ったりしないさ。」
神人を作る青白いものが、光になって消えていく。中から千春が姿を表す。
千春「ぐずっ・・・ほんとに、お姉ちゃん千春のこと嫌いじゃない?」
キョン「うん。そんなことあるわけないだろう。」
千春「でも、お姉ちゃん、お家来てくれないもん・・・」
キョン「お父さんがなんとかする。約束だ。」
絶対になんとかしてみせる。だから俺は千春に約束する。
千春「約束?」
キョン「うん。約束。」
千春「約束だよ。」
千春に笑顔が戻ったその時、目を開けていられない程の光に包まれた。
その時、一瞬俺はハルヒの姿を見たような気がした。
927 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 15:00:01.08 ID:ZuAQE2Md0
目を覚ますと、俺は千春の部屋にいた。
ベッドを見てみると、そこに千春の姿が無い。
布団をどかしてみても、千春がいない。
そんな、あのまま消えてしまったというのか。
千春「お父さ〜ん!!お早う!!」
いきなり耳元で叫ばれたものだから、耳が痛い。
キョン「千春。身体はもういいのか?」
千春「うん!元気!」
1日ぐっすり寝て風邪も、治ったようだ。
千春「お父さん!ありがとうね!」
キョン「何が?」
千春「夢の中で千春が泣いてたら、お父さんが助けに来てくれたの。だからありがとう!」
キョン「前に約束しただろ。千春が泣いていたらどこにでも助けにいくって。」
千春「うん!」
100点満点なら、200点挙げたいくらいの笑顔だった。
俺は布団から這い出し、まずテレビをつける。そこには大塚さんではなく小倉さんがいた。
時間は8時20分だった。
キョン「千春急いでご飯食べなきゃ!遅刻するぞ!」
千春「ご飯できてないよ〜。」
最低でも千春に朝ごはんは食べさせないと。朝礼は確実に遅刻だな。俺は急いで朝ごはんと弁当作りにとりかかるのだった。
928 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 15:17:34.76 ID:ZuAQE2Md0
目覚ましが鳴る。仕事の準備をする時間だが、身体を起こす気が起きない。
昨日、国木田から連絡を受け、千春が風邪だと聞きキョンの家に行った。
そしてキョンは言った。千春以外は何もいらないと。私が来たことなんて気付かずに。
キョンの心の中に少しくらいは自分がいると思っていた。でも自惚れだった。
彼の中には、今でも涼宮さんがいて、私なんて存在していない。
彼や千春のことを想うと、こんなにも胸が苦しいのに。
それでも私は彼を憎むことはできない。彼を消すことができない。
愛しているから。この想いだけは変わらない。
忘れてしまえれば、どれだけ楽だろう。
だが、もし忘れることが出来たとしても、私は忘れないだろう。
彼と過ごした5年間は、紛れもなく私の人生の中で最も満ち足りていた時間だから。
931 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 15:37:18.19 ID:ZuAQE2Md0
学年主任から、1年分に相当する嫌味を言われた俺は、なんとかHRに遅刻することなく教室に着いた。
教室の前では吉川が待っていた。
吉川「お帰り。キョン。」
こいつは、夕べのことも全て知っているんだろうな。
吉川「大変だったんだよ、昨日。監視対象が消えちゃってさ、進化の可能性が消えたって大騒ぎだったんだから。」
キョン「それは、苦労かけたな。」
一切申し訳ないなんて想ってないがな。むしろざまみろだ。
吉川「帰ってきたときは、ほっとしたよ。」
キョン「お前はこれからどうするんだ?」
吉川「ん?監視対象がキョンに変わっただけ。だからまたよろしくね。」
もう帰るのかと考えていたがあてがはずれた。俺の腕を叩きながら、ゾッとしない言葉を口走る。
霧島「何の話してんのよ?」
霧島が教室から顔を出す。今の話全部聴かれてたのか?
吉川「ゲームの話。キョンも持ってるから色々聴いてたの。」
吉川が機転をきかせて嘘をつく。だが霧島はどうも信じていない。
霧島「ふ〜ん・・・まぁいいけど。」
疑いのまなざしを俺らに向け、教室に戻っていく。
吉川「とりあえず、お疲れ様。朝倉涼子もお疲れだってさ。」
吉川が手をヒョイと上に上げる。なので俺は、
キョン「あぁ、お疲れ様!!」
その手を思い切りハイタッチしてやった。
「「いたぁああああ!!!」」
932 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 15:48:09.03 ID:ZuAQE2Md0
放課後になって、俺は職員室にいる。朝から佐々木に何度も電話を掛けているが、出てくれない。
もしかしたら、掛かってきているかもと確認してみたが、無駄に終わった。
あまり時間も無い。早くに部室に行かなくては。部室では俺を待っている人がいる。
俺は今から、自分の想いを伝えに行く。俺のことを好きだといってくれたことに応えるために。
それで傷つけるかもしれないが、それを受け入れる覚悟はもう出来た。
部室の前に着く。大きく深呼吸をして俺は部室のドアを開けた。
陸奥「こんにちは、先生。」
霧島「遅かったじゃない。どうしたの?」
そこには二人の女の子がいた。どちらともタイプは違うが、とても魅力的な娘だ。
キョン「二人に少し話があるんだ。」
その二人に俺は今自分が想うことを全て言う。それが俺がだした答えだ。
934 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 16:00:47.85 ID:ZuAQE2Md0
俺が言うことを二人は黙って、聴いていてくれた。
俺が話し終えるまで、二人は一切口を挟まなかった。
自分が想うことをすべて話終えた俺は、二人の言葉を待っていた。
どんな罵詈雑言も受け入れるつもりだった。だが二人の口からでてきた言葉は意外なものだった。
霧島「・・・で、あんたは今何しているのよ?」
キョン「え?」
霧島「私たちに想う事言ってそれで終わりじゃないでしょ?佐々木さんに言いたいことがあるんでしょ?」
キョン「・・・・・・」
霧島「だったらこんなとこで、グダグダしてないで!早く佐々木さんのところに行ってあげなよ!この馬鹿キョン!」
陸奥「そうです、先生。千春ちゃんは私たちがお世話しますから早く行ってあげてください。」
二人は貶すどころか、俺を応援してくれた。こんな素敵な娘たちから想われていたなんて、身に余る幸福だ。
キョン「ありがとう、二人とも。」
霧島「いいから早く行く!馬鹿キョン!」
陸奥「頑張ってください!応援してます!」
二人の声援を背にうけて俺は、部室を後にした。
936 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 16:18:59.91 ID:ZuAQE2Md0
キョンの走っていく足音が聞こえる。それが段々聞こえなくなっていく。
「ぐすっ・・・うぅ〜・・・」
キョンの足音が小さくなるたびに、部室の中で大きくなっていく声。
霧島「何・・・泣いてるのよ。」
陸奥「霧島さんだって・・・泣いているじゃないですか。」
霧島「私が・・・泣くわけないじゃない。」
泣きたくなんてない。でも止まらない。
目から涙が零れる。でも悲しくはなかった。
これでいいという気持ちと、ちょっとだけの後悔。
陸奥「私は・・・駄目です。泣いちゃいます・・・。」
ゆうきの泣き声が部室に響く。
霧島「いつまで泣いてるのよ・・・顔グチャグチャじゃない。」
そんなゆうきを見てられなくて、顔をハンカチで拭いてあげる。
陸奥「霧島さんは、強いですね。」
霧島「強くないわ。いつまでも泣いているのが嫌なだけ。眼鏡とるわよ。」
陸奥「そういうのを強いっていうんですよ。」
ゆうきが笑う。眼鏡をとったゆうきの顔はとても綺麗だった。
陸奥「あの、霧島さん。私の顔、どうかしました。」
霧島「いや、可愛いなって思って。」
陸奥「か、からかわないでください。」
ゆうきの顔が真っ赤になる。それがまた可愛い。
霧島「こんな可愛い子を振るなんて、やっぱりキョンは馬鹿ね。」
陸奥「霧島さんも綺麗ですよ。」
霧島「ハルヒでいいよ。ゆうき。」
陸奥「あ・・・はい。ハルヒさん。」
938 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 16:31:28.31 ID:ZuAQE2Md0
佐々木が住むマンションの部屋の前に俺は着いた。
さっきからベルを何度も押しているが反応が無い。
あまり連続で押しても近所迷惑になるので、俺は手荒な手段に出ることにした
もう一回だけベルを鳴らし、ベルのマイクに話す。
キョン「佐々木。話したいことがあってきた。どうしても聴いて欲しいことがある。
顔も見たくない気持ちは分かるが開けてくれ。でないと少し乱暴なことするけど、許してくれ。」
そしてまた一分ほど待ってみたが、やはり反応は無い。仕方が無い。
俺が助走をつけて佐々木の部屋のドアへ突進するのと、佐々木がドアを開けたタイミングは
奇跡と言っていいほどバッチリだった。
キョン「うお!?」
そのままの勢いで靴も脱げないまま、佐々木の部屋の中に突入してしまう。
高校球児のような見事にヘッドスライディングを決める俺。
佐々木「何の用だい?」
そんな俺をみても、佐々木はピクリとも笑いはしなかった。
940 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 16:51:25.13 ID:ZuAQE2Md0
リビングに案内され、二人で向き合って座る。
カーテンは閉まったままで、部屋は暗い。
佐々木の服装も家着だ。今日は家から出ていないみたいだ。
キョン「今日仕事はどうしたんだ?」
佐々木「そんなことを言いにきたのかい?なら帰ってくれるか。気分が悪いんだ。」
言いたいことがあるのに。言い出すことが出来ない。
キョン「お前は今幸せか?」
佐々木「何のことだい?」
自分でもなんで言ったか分からん。でも言葉に出ちまったんだ。
キョン「幸せかって聴いてるんだ。答えてくれ。」
佐々木「そうだね。人並みに給料もらって、自由に食べて、自由に寝て、自由に遊べる。
これを幸せというなら、幸せだよ。」
キョン「俺は自分を幸せだと思う。ハルヒと出会って、結婚して、千春を授かった。」
佐々木「そうだね。」
キョン「そして俺とお前と千春の三人で一緒に暮らしてきた。俺は幸せにしてもらってばかりだ。」
俺は幸運だった。幸運すぎたと自分でも思う。
キョン「今度は俺が誰かを幸せにする番だ。」
だから俺はその幸運を少しずつ、返していきたい。
キョン「佐々木、俺はお前に幸せになってほしい。でも、俺の知らない誰かに幸せにしてもらうんじゃなくて。」
その、幸運を返す先はお前以外考えられない。
キョン「俺が幸せにしたいんだ。」
942 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 17:10:11.57 ID:ZuAQE2Md0
キョン「都合のいいこと言ってるのは分かっている。駄目かな?」
佐々木「今更遅いよ…そんなこと。」
やっぱりそうだよな・・・。俺は時機を逃してしまったんだ。
佐々木「5年、いや中学の頃から、10年以上だ。ずっと待ってた。
涼宮さんと結婚したと聞いた時、やっと諦められると思った。
でも出来なくて。キョンと千春と過ごす内に、二人の存在が大きくなっていくのを感じていた。
二人がいないと眠れない夜もあった。でも君の心には涼宮さんがいて、私はいなかった。
それを認めるのが怖くて、ずっと逃げてた。」
佐々木が胸のうちを話してくれる。その苦しみは涙になって佐々木の目から溢れていた。
佐々木「でも、やっと君の心の中にいる私を見つけた。こんな嬉しいことは無い。」
俺が椅子から立ち上がる。それにあわせて佐々木も立つ。俺たちは抱きしめあった。互いの思いを確認するために。
佐々木「私も君を幸せにしたい。君と千春と共に生きていきたい。」
始まりはどちらか分からない。だが触れるように優しいキスだった。互いの熱を交換するために。
944 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 17:13:35.61 ID:ZuAQE2Md0
セクロスシーンはskipしますか?
1、はい
2、いいえ
945 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/28(木) 17:14:17.12 ID:iUmNaiLi0
いいえ一択
946 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 17:14:22.44 ID:V1JDKU6FO
2
947 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/28(木) 17:14:29.13 ID:O3r0WWD80
1
948 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 17:14:51.89 ID:U9FInJAuO
1
949 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 17:15:55.90 ID:n+ig8BaRO
1
950 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 17:16:11.25 ID:CKJZ3Sjr0
1
951 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 17:17:42.11 ID:ibdZpk5UO
2いいえで
952 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 17:17:55.45 ID:dGpdG7cfO
2
953 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/28(木) 17:18:35.06 ID:n6wFeY8A0
てか間に合わないだろ
2で
954 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 17:18:45.87 ID:dGpdG7cfO
まぁ2
955 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 17:19:05.42 ID:IN+tM5/f0
スレ足りなくなんぞ?
1
957 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/28(木) 17:20:23.60 ID:Af7MPdsp0
1
958 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 17:20:24.09 ID:IgF7+1CiO
貴様らつまらんことでスレ消費すんな
と思ったら>>1自らでしたか……。別にエロされてもテンション下がるし1で
959 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 17:20:43.69 ID:V1JDKU6FO
>>954 2回書き込みすんな
960 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/28(木) 17:20:44.82 ID:FFtjE3SDO
2是非
961 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 17:30:41.20 ID:B442PPKs0
けしからん
2で
962 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 17:34:30.61 ID:ibdZpk5UO
何だ、スキップしますか?か
じゃあ1で
スレ残り少ないのにすまん…
963 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 17:40:09.96 ID:4AmDKvh4O
2
964 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 17:42:19.70 ID:OX8E62kVO
1
965 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 17:42:27.86 ID:EEdR3vtq0
2でよろしく
966 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 17:43:21.93 ID:Qgv5XLMd0
1
967 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 17:48:23.21 ID:ZzdcjMsKO
2
968 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/28(木) 17:56:56.37 ID:ijybfHXRO
1
969 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 17:59:27.89 ID:GCnliqCdO
1
家帰るまで残っていてくれェェェ!!
970 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 18:00:37.31 ID:x7PRiDTZO
2
頼む!
971 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 18:00:47.35 ID:8fhZea9MO
2
972 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 18:03:53.38 ID:zqq3++loO
もういいだろ1で
975 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/28(木) 18:19:19.37 ID:B5aRie7mO
1
977 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 18:29:34.63 ID:SIPPhlvPO
1だろ
978 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 18:35:31.90 ID:BQsbqgiA0
>>975
>>732の選択肢全部やれば・・・>>1が頑張ってくれるならお願いしたい
ちなみに自分も1で
979 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 18:46:44.45 ID:Si+NkmThO
2だろ
980 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 18:59:48.44 ID:kaigq7yBO
1で桶
981 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 19:20:09.59 ID:8Lm90lK2O
1で
支援
982 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 19:22:18.76 ID:KhEkFOQVO
愛ならやっぱりセクロスシーンはいると思うんだ支援
983 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 19:32:03.45 ID:kN/9uI0uO
1
984 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 19:34:41.75 ID:kN/9uI0uQ
1
987 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 19:52:29.52 ID:ZuAQE2Md0
スキップの方向で。
朝。目を覚ますと見慣れない風景だった。どこだっけここ。
そうか、あの後・・・。俺たちは繋がった。
最初は優しく出来ていたが、2回目からはどうだったかはわからない。
ゴムもつけずに、互いを貪るように愛し合った。
それ程に俺たちは互いに求めていながら、拒否し続けてきたのだ。
佐々木「起きた?」
キョン「あぁ。」
そして一度繋がってしまうと、佐々木を見る目が前とは全然違う。
俺は佐々木の身体を征服し、佐々木は守るべきものになった。
佐々木「ご飯できてるけど?」
佐々木にも前には無かった、艶っぽい空気が流れている。
男女の仲とはそういうものなのかもしれない。
1度繋がらなければ、見えてこないものが沢山あるんだ。
992 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/28(木) 20:02:20.74 ID:ZuAQE2Md0
リビングで朝飯を食べる。トースターにサラダといった簡素なものだが、おいしい。
「「・・・・・・」」
妙な沈黙が流れる。互いに話したいに、話せない。好きだからこその沈黙。
「「あのさ」」
なんというベタな展開。どこのトレンディードラマだ。
キョン「今更、こんな風に恥ずかしがるなんてな。」
佐々木「本当だよ。あれだけあられもない姿を見せておきながら」
でもそれがたまらなくおかしい。
佐々木「千春はどうしてるんだい?まさかほったらかしではないだろうね。」
キョン「いや、霧島と陸奥が面倒見てくれてる。」
佐々木「二人に話したの?」
キョン「あぁ。それが通すべき筋ってもんだ。」
あの子たちは生徒としてでなく、女性として俺を好きだといった。ならば男として答えなくてはいけない。
佐々木「そうか。」
92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/29(金) 11:01:55.85 ID:khUefZUh0
キョン「千春にも話さなくちゃな」
佐々木「そうだね・・・」
今まで千春が生まれてから俺たちは、ほとんどの時間を一緒に過ごした。
生活自体に大きく代わりがあるわけではない。
だが、俺たちはこれから「家族」になる。
佐々木「少し怖いな…。」
佐々木がそう思うのも無理はない。
佐々木と千春が、いくら仲睦まじいとはいえ、血の繋がりは無い。
血縁関係を重視するこの国では、奇異の目で見られることもあるだろう。
キョン「大丈夫さ。」
俺が守るよ。お前を不安にする全てのものから。
言葉には出さないけど、俺は佐々木の手を握り、思いを伝える。
佐々木「ありがとう。」
想いは伝わった。佐々木が笑ってくれる。
95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/29(金) 11:11:17.06 ID:khUefZUh0
霧島に連絡を取ったところ、千春は霧島のアパートに一泊したらしい。
電話の向こうで、「ゆうきちゃ〜ん。この本読んで」という千春の声と、
「これは、千春ちゃんには難しすぎるよ」という困った様子の陸奥の声がした。
どうやら三人楽しく、昨日は過ごしたみたいだ。
「今から家に送るから」という霧島の好意に甘えて、俺と佐々木は、先に俺の家に向かった。
ほどなくして、千春も家に帰ってきた。
千春「ただいま〜〜〜!!」
キョン「お帰り。二人は?」
千春「家の前で帰ったよ。用事があるって。」
変な気を利かせやがって。ここは感謝しておこう。
佐々木「千春、お帰り。」
佐々木が奥から顔を出す。
千春「お姉ちゃん!」
千春が駆け出し、佐々木に抱きつく。
97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/29(金) 11:21:34.77 ID:khUefZUh0
千春「お姉ちゃん。ただいま。」
千春が足に抱きついたまま、離さない。
佐々木は千春を持ち上げ、抱っこする。その髪を撫でる。
佐々木「はい。おかえりなさい。」
千春佐々木の胸に顔を埋めたままだ。
キョン「あのな、千春」
言わなくちゃ。佐々木や千春の為に。
キョン「今まで、お父さんとお姉ちゃんと千春は三人でずっと一緒にいた。」
俺を好きだと言ってくれたあの子たちの為にも。
キョン「でも家族じゃなかった。それを今日で終わりにしたいんだ。」
そして、何より俺は誓ったんだ。千春を悲しませたりしないと。
キョン「俺は、三人で家族になりたい。今日から、これから先ずっと。」
天国に居るハルヒにな。
101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/29(金) 11:33:07.81 ID:khUefZUh0
千春のぐずつく声が聞こえる。佐々木の胸からまだ顔を上げない。
千春「もうお姉ちゃんって呼ばなくていいの・・・?」
この子の小さい胸には、物心ついたときから一つの棘が刺さっていた。
千春「思いっきり甘えてもいいの・・・?」
母親がいるのに、母親がいない。そのことがこの子をどれだけ悩ませていたのだろう。
千春「ママって呼んでもいいの・・・?」
その痛みを取り除く時だ。この子に刺さる棘を抜いてあげよう。
キョン「あぁ。今日から俺たちは家族だ。」
千春「ママ〜!ふええええ〜〜〜〜〜〜!!!」
堰を切ったように千春が大声で泣き始める。
キョン「ごめんな、千春。ごめん。」
俺は千春を佐々木ごと抱きしめる。
千春「ママなんだよね?」
佐々木「うん。そうだよ。今日から千春のママだ。」
佐々木も泣きながら千春を抱きしめる。
千春「ママ・・・ママ・・・」
佐々木「うん・・・うん・・・」
俺たち三人は涙でボロボロになりながら、抱きしめあった。
二度と離したくない。俺たちは家族になった。
103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/29(金) 11:42:02.57 ID:khUefZUh0
せみの声がやかましい山道を、俺たち三人は歩いていた。
千春「お父さん。ママ。早く〜!」
キョン「危ないから走るなよ〜。」
佐々木「元気だね、千春は。」
俺は手にバケツと雑巾を持ち、佐々木は花と線香を持っている。
今日は8月19日。俺たちはお盆休みにお墓参りに来ていた。
俺ん家の墓が山奥にあるため、頻繁に出向けないのが残念だが、仕方ない。
1年でたまりにたまった汚れをを洗い流すのが今日の俺の仕事だ。
それに、今回は墓参りだけではない。報告するべきことがある。
106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/29(金) 11:50:29.76 ID:khUefZUh0
誰も人が住んでいなそうな、お寺があった。
その裏に、おまけみたいに何個かの墓がある。
千春「着いた〜!!」
墓は、苔やら落ち葉やらで酷い有様になっていた。
俺はバケツに水を汲んできて、すぐに掃除に取り掛かる。
佐々木と千春は、墓に花を挿して、蝋燭に火をつけていた。
掃除を終え、線香に火をつけ、三人で黙祷する。
ハルヒの遺骨の一部は、ここにも埋まっている。
元気でいるか?こちらは元気でやっているよ。
心の中でそう語りかける。
108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/29(金) 12:01:29.53 ID:khUefZUh0
千春「お母さん。千春と、お父さんと、ママは元気です。」
千春はハルヒのことをお母さん、千春のことをママと呼ぶ。
これが千春なりに考えた答えなのだろう。
千春「千春は今年小学生になりました。ランドセル持ってくればよかったね。」
俺たちが家族になって1年の月日が経っていた。千春も、もう小学生なのだ。
千春「でもね、今日はそれだけじゃないの。ビッグニュースがあるんだよ。」
そう、それは今年の夏の初め。俺たち三人を揺るがすようなことが起こった。
千春「千春にね、弟が出来るの!!来年の冬にね、千春、お姉ちゃんになるの!」
佐々木が妊娠したのだ。分かったときには、もう妊娠三ヶ月だった。それはもう大騒ぎだった。
佐々木のお腹を見る。妊娠五ヶ月ということで、少しずつお腹が目立つようになってきた。
その中に、俺と佐々木の子供がいるんだ。この感動をもう1度味わえるなんて思ってもいなかった
113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/29(金) 12:15:46.73 ID:khUefZUh0
佐々木「千春とキョンを幸せにしたいという気持ち、私が引き継ぎます。きっと二人を幸せにする。
だから見守っていてください。千春とキョンと、そしてこれから生まれてくるこの子を。」
そういや結婚前にハルヒが言っていたな。
「私はね、人に幸せにしてもらうなんて納得できないわ。自分の幸せは自分で掴むものだもの。
だからキョン、私があんたを幸せにしてあげる。あんたが幸せならきっと私も幸せだから。」
ハルヒのことを想いだしても、もう俺の胸は痛まなかった。
ハルヒと過ごした7年間。俺は間違いなく幸せだった。そして今も。
これから先、俺たち家族がどうなるかなんて誰にもわからない。また悲しい別れがあるかもしれない。
それは神のみぞ知るだ。でも、もう俺は迷わない。今ここにいる俺の家族を幸せにする。
俺は、今もどこで見守ってくれているだろうハルヒに誓った。
115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/29(金) 12:37:10.17 ID:khUefZUh0
キョン「そろそろ行こうか。」
佐々木「そうだね。」
俺たちが、墓から去ろうとした。
千春「きゃあ!?」
その時、突然風が吹き、千春が被っていた帽子が飛んでいく。
千春「ダメ!!」
千春がそれを追いかけていく。墓の裏にある茂みに帽子は飛んでいった。
キョン「千春!待ちなさい!」
佐々木「千春!」
俺と佐々木は千春を追いかける。だが茂みに入った千春は簡単に見つからない。
背の高い草を掻き分け、進んでいくと茂みを抜ける。
そこには、辺り一面に咲き誇る満開の向日葵があった。
佐々木「キョン。これは・・・」
キョン「あぁ。俺も知らなかった。」
もう何回もここに来ているが、こんな見事な向日葵の群草は始めてみた。
千春「帽子あった〜〜!!」
向日葵の中から、千春の声がする。俺と同じくらいの高さはある向日葵の中を進んでいくと千春はいた。
キョン「千春!1人で勝手に行くな!心配するだろ!」
千春「ごめんなさい・・・。」
佐々木「大丈夫?千春。」
後からきた佐々木が、千春に怪我がないか見る。大丈夫みたいだ。
佐々木「すごい、綺麗だね。」
キョン「ああ。」
満天の日の下に咲く向日葵。黄色く、力溢れるその花に俺はハルヒの笑顔を思い出した。
佐々木「涼宮さんが連れてきてくれたのかな・・・。」
キョン「そうかもな。」
千春が静かなので見てみると、手を合わせて黙祷していた。大人には分からない何かを感じたのかもしれない。
それにならい、俺と佐々木も黙祷をした。
雲ひとつ無い空の下、ある夏の日のことだった。
終章T〜Dearest〜 完
162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/29(金) 17:47:51.63 ID:khUefZUh0
終章U〜果てしなく遠い空に〜
ネオンが輝き、街は夜も眠らない。
今日も沢山の人が眠ることを忘れ、酔いしれる。酒や、女に。
その人ごみの中を歩く1人の少女がいた。
こんなところにいるには不釣合いだ。彼女は何をしているのか?
彼女をよく観察していると、ある異常に気付く。
こんなにも人がいるのに、誰1人彼女の存在に気付いていない。
彼女は普通に歩いているだけだ。なのに回りの人間は自然と彼女を避ける。
避けているのに、彼女の存在には誰も気付いていない。
???「任務を再度確認する。」
彼女が何事かを呟く。誰の耳にも入らないが。
???「陸奥ゆうきと長門有希の情報を連結させる。」
身にまとうドレスは黒、肌は病人のように白い。
???「了解。任務を実行する。」
漆黒のドレス、漆黒の瞳、漆黒の髪を持つ少女が雑踏に消えた。
166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/29(金) 18:03:21.52 ID:khUefZUh0
授業を終えた俺は、職員室に戻る。1時間目は4組の授業だったが、
1学期にやるべき範囲はテスト前に終えていたので、学校の図書館で本を読ませることにした。
真面目に小説を読む奴、手塚治虫の漫画を読む奴、1時間目から寝ている奴と、いろんな奴がいた。
ちなみに霧島はというと、恋愛小説をぶつぶつ言いながら読んでいた。
伸びをしながらグラウンドを見る。職員室での席は、窓際でグラウンドを一望できる。
そこには体操服姿の女子がいた。そういえば今日の2時間目、4組は体育か。
よく見てみると、霧島や吉川もいた。4組は確か2・3組と合同で体育していたはず。
ということはあの子もいるはずだ。我が文芸部が誇るお茶汲みメイドが。
いた。文芸部の部員、お茶が趣味で本をよく読む普通の少女だ。
だが正体は、宇宙人によって作られたインターフェースで、彼女もそのことを知らないのだ。
こんなことを俺以外の人間が真顔で話していたら、俺はいい病院を紹介してやる。
俺だって信じたくはない。だが事実なのだから、どうしようもない。