1 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 18:57:16.12 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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――僕は 独り
誰かに頼ったり
誰かに寄り掛かる
そんなコトはしたこともなかったしこれからもするつもりは
ない
――なのに
どうして こんなに 辛いのだろう
6 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 19:02:44.21 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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いつも通りの朝。
目が覚めて、朝食を作って、食べて、着替えて――
全く馬鹿らしい。パターン化した生活が厭になる。
――しかし、厭になったところで変わりはしない。
彼女が望んでいるのなら、この僕を、否。超能力者を望んでいる限り僕の
この日常に変化は在り得ない。
空を仰げば今日も快晴。
これも、彼女が望んだことなのだろうか。
「いってきます」
今日も、返事が返ってこない言葉を吐いて、学校へと出かけた。
監視するための、憂鬱な場所へ。
9 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 19:08:32.76 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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教室も、無機質。
元気に挨拶をしてくるクラスメートも、昨日のテレビの話題を振ってくる
クラスメートも皆、僕にとっては同じ無関係の者。そんな彼らに僕の本心を
語ることなんて出来る筈もなく危なげない会話で時間を過ごす。
「なあ古泉! SOS団って、実際なにやってるんだ?」
隣の席の、……名前は失念したが、その彼が僕に問うてきた内容は今まで
僕が機関の人間に何度も、否、何百もの回数問われた質問であった。
――ああ。本当に厭だ。
「なにと言われましても……凉宮さんたちと不思議を探す団ですよ」
……これで十分。
機関の人間でない彼ならば、この一言である程度は済む。会話が終わる。
それが目的の僕はすぐに鞄から教科書とノートを取り出し、一時間目の授業
に備えた。
10 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 19:12:59.44 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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――四時間目の授業終了のチャイム。
それは僕の憂鬱な時間を開始させるベルでもあった。
授業中ならば僕は普通の学生として勉学に励むことができる。どちらかと
いえば、僕はその時間が最も好きと呼べる時間だ。しかし、それもこのベル
と同時に終わり、携帯電話が右ポケットにあることを確認し一般生徒の立ち
入りが禁じられている屋上へと向かった。
「あー古泉君だー!!」
屋上への道中。どこの馬の骨か知らない女たちが声をかけてくる。
これも毎日の恒例行事。全く、クラスの演劇なんてやるべきではなかった
のに。
「――ふう」
一人になっても気が抜けない。
一息ついた後、僕はある人物へ電話をかけた。
12 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 19:20:01.98 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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「はい。ですから今のところ凉宮ハルヒは大きな動きをしていません。無
論彼も大きな刺激を与えていないようですから暫くは安全です」
毎日。
そう、毎日だ。
この無益ともいえる報告。
凉宮ハルヒが面倒事を起こす。彼が言うには「頻繁。いつものこと」だ。
しかし僕にとっては違う。
毎日の報告。それは同時に凉宮ハルヒに対する機関のマークの鋭さを表し
ている。つまるところ、彼女がなにかしらのアクションを起こすのは、機関
の人間ですら「毎日」だと思っているのだ。
――ああ。
まるで、阿呆だ。
彼女はああ見えて常識がある。
不思議を求めてはいるが、それに対してのアクションを毎日起こすわけで
はない。今日のような、というよりも今月のようなインターバルが存在する
のだ。
「ええ。わかっています。それでは、失礼します」
意味のない報告が終わったころには、昼休みも残り10分。持ってきた味
気ないサンドイッチをたいらげ、ゆっくりと教室へ戻った。
14 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 19:26:56.03 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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退屈は、美しい。
しかしその退屈を憂鬱と感じてしまう自分も、そこにはいた。
教室にいる生徒たちには、未来がある。
ある生徒はF1ドライバーを目指し、ある生徒はキャビンアテンダントを
目指すなど、それぞれの夢というものが存在する。そしてその夢に向かって
高めあう友がいる。
――僕には、その両方がない。
将来なんて、これから一生凉宮ハルヒに合わせて生きていくのだろうし、
それによって出来た友人なんて、きっと本物の友人とは呼べないだろう。彼
だって凉宮ハルヒが引き寄せた内の一人かもしれない。僕は間違いなく引き
寄せられた側。つまるところ、僕には友もいないのだ。
くるりとペンを回し、そんな自分を嘲笑った。
15 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 19:35:00.36 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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「古泉君! 今日もなんとか団?」
帰りのHRが終了し、生徒は各々が部活動などの自分の居場所へ向かう。
その中で、僕は数人の女子生徒に話しかけられた。先刻の生徒とは違う。
「もしよかったら、今日一緒にクレープ食べにいかない? 駅前に新しいお
店がオープンしてさ――」
――ああ。なんだ。
この子たちは僕と遊びに行きたいのか。
何人もの女子生徒に遊びに誘われる。彼のクラスの谷口ならば喜ぶところ
なのだろう。否、普通の男性ならば、これは喜ぶべきシチュエーションだ。
しかし、僕にとってしてみればこれはマイナスでしかない。団活に行かなけ
ればならばい僕にとって、断る文句を考えるもの疲れる。
「申し訳ありません。今日は少し席を外せないので……また今度誘っていた
だけますか?」
この文句も、あとに響く。
――同じこと。
僕の嫌いなこと。
無駄。無駄。
19 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 19:46:16.32 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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――文学部部室。
その扉の前で一度だけ深呼吸。
この扉を開けた瞬間。僕は凉宮ハルヒが望む『不思議な転校生』になる必
要がある。機関の超能力者ではないのだ。
「――みくるちゃん! 次はこれを着なさい! ほらキョン! いつまでも
鼻の下伸ばしてないで出て行きなさい!!」
と。僕が入るべき時ではないようだ。
扉の横の壁に寄りかかり、追い出される彼との会話を準備する。
「こんにちは。少しHRが遅れてしまいましてね。
どうですか? 凉宮さん」
「どうしたもこうしたもあるか。今日も変わらず独裁ですよ。あの団長様
は」
それはそれはと張り付いた笑顔を作る。
21 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 19:48:13.29 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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「その笑顔。辛そうだな」
溜息を一つついて、彼は言った。
辛そう? そんな筈がない。僕は凉宮ハルヒが望んだイエスマン。性格に
も補正がかかり、最早僕は古泉一樹という存在ではないのだ。その僕の笑顔
が辛そう? 全く。何もしらないアダムは気楽でいい。
「んふっ。しかし、貴方も疲れてるんじゃないですか?」
「当然だ。一度俺の立場になってあいつに振り回されてみろ」
――その言葉。
そっくりそのままお返ししますよ。
喉まで来た言葉。
それをごくりと飲み込み別の言葉を発する。
「それはまたの機会に。
おや。朝比奈さんの着替えも済んだようですし僕らも入りましょうか、ど
うです? 今日はバトルドームなどを凉宮さんと朝比奈さんも入れて」
慣れない軽口を叩きながら部室の扉を開け、神様のご機嫌取りを始めた。
22 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 19:59:57.61 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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この部室では基本的に退屈しない。
凉宮ハルヒが団長席でふんぞり返り、窓際で長門有希が読書をしている。
朝比奈みくるはメイドの、今日はクラスでオタクと呼ばれる連中が話をして
いた秋山澪仕様のメイド服でお茶汲みをしている。
「おい古泉。バトルドームをやるといっても、俺はルールを知らないぞ」
物置からバトルドームを取り出し、机に乗せた時彼はそんなことを言い出
した。
「馬鹿キョン! そんなコトも知らないの!? みくるちゃん! 説明して
あげなさい!」
「ふえぇぇ〜。でも私……こんな古いゲームやったことなくて……」
「確かに、古いと言えば古いゲームですからね。ルールは――」
「ボールを相手のゴールにシュート。超エキサイティン。3Dアクションゲ
ーム、『バトルドーム』ツクダオリジナル」
――と、僕が説明する前に長門有希が突然皆に説明する。しかも的確に。
「なるほど。
もしかして長門。お前もやりたいのか?」
「――」
彼の言葉に反応し、長門有希が立ち上がる。
「長門さんがやるのなら私が――」
「いいえ。僕が抜けましょう。貴方に負けないデッキを作ろうかと」
朝比奈みくるは他人に迷惑をかけないように、邪魔にならないように生き
る。それが、僕は虫唾が走る。無難な生き方ではなんにもならないのを、僕
は厭という程知っているから。
23 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 20:09:48.94 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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「うっひょー!! 腕がああああああああああ!!!!」
「これは……辛いわね……」
「ふええぇぇ〜」
「……」
飛び交うボール。
そのボールが各々のゴールへと無差別に入っていく。
――まるで、僕たちだ。
ぐるぐると神人の周りを回って、意味のない鬼退治を続ける。僕たちのよ
うだ。
「古泉ぃぃぃ! お前、なんてゲームを――!」
「おやおや。僕らの世代ならばこのゲームに一度は憧れたのでは?」
「ぐ……確かにドラえもんのCMに必ず入ってきてたわね……」
凉宮ハルヒが苦悶の表情を浮かべる。
24 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 20:11:41.53 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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――ああ。いいぞ。
その表情。辛いだろう。苦しいだろう。
僕は、僕たちはいつもそんな気持ちでお前の相手をしているのだ。
知れ。
識れ。
思い知れ――!
「でも――楽しいですよぉ」
「そう。これは皆で苦痛を共感することで連帯的楽しさを生むモノ。とても
高性能だと、私という個体は思っている」
「長門――お前も楽しいのか……? うがっく!!」
「ほらほら! ぼさっとしてるともっともっとシュゥゥゥするわよ!!」
……ああ。悟ったさ。思い知ったさ
僕は、最低(なんて)人間だ。
26 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 20:18:12.44 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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――バトルドームでひとしきり楽しみ、長門有希以外のメンバーが筋肉疲
労でダウンするまで僕はひとりでカードゲームのデッキを組んでいた。
一枚のカードでは何もできない。
しかし、力を合わせれば物凄い強さを誇る。
そんな組み合わせを、僕はずっと探していた。
「古泉。そのデッキが俺のデッキに勝てるかどうか。一勝負しないか?」
息切れしながら彼は僕に話しかける。
ずっと一人でデッキを組んでいた僕を惨めに思ったのか、それとも単純に
カードゲームがしたかったのか。僕には計り知れないが僕はその誘いを了承
した。
「じゃあ私たちは帰るわね。また明日〜」
凉宮ハルヒ、朝比奈みくる、長門有希の三人が部室を後にする。
残った僕たちはプレイシートを敷き、ゲームを始めた。
27 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 20:30:47.06 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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「どうしたんですか? 今まで残ってゲームなんてしたことなかったのに」
「……さあな。理由はわからんが俺はお前をこのデッキで粉砕したいのさ」
――全く。鈍感なのかそうでないのか。
彼は変か? とだけ付け加えてカードを場に伏せた。
「いえ別に。貴方が僕に気を使うなんてことは、想定していないものですか
ら。あ、ハネハネです」
「あ、俺のジャッジマンが。
気を使うというか、お前と二人で遊んだことはないだろう? だからかも
な」
取りとめのない会話の中にも嫌悪感をじわりと抱く。
彼が求めているものが分からない。僕と二人で遊ぶことで凉宮ハルヒにな
んの影響があるというのだ。
「そうですか。確かに不思議探索でも僕は決まって凉宮さん側ですからね。
奈落の落とし穴」
「今度はブラマジガール!?
まあアレだ! 俺達は……その……友達? だろ」
28 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 20:32:12.27 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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「――」
笑ってしまう。
いつもの笑顔が崩れるほどの破顔を我慢するのに必死になる程。彼の言葉
は可笑しかった。
「そう、ですか。しかし僕たちは生きる世界が違いますよ」
「関係ないだろう。ま、照れくさいからこの話はこれで終わりだ。ブルーア
イズアルティメットドラゴン。ダイレクトアタックでライフゼロな」
そう。
どんな組み合わせを考えても。
どんなに力を合わせても。
――神のような力には、逆らえない。
それは、僕の交友関係にも言えることだ。
37 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 21:31:32.83 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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機関が用意した部屋。
機関が用意した家具。
機関が用意した私服。
それら総てが、僕という個人を度外視したものだった。
慣れたことには慣れたのだが、時折寂しくなるのも事実だ。
「友達……か」
ベッドに横たわり、白い天井を見上げる。
北高に配属されてから、僕は誰かにそんな風に言われたことがなかったの
だ。クラスメートとも一歩距離を置き、最低限の、孤立しない程度の話しか
せず、SOS団でもイエスマンとして凉宮ハルヒの願いを叶えるためのポジ
ションにいたのだ。友達なんて、僕には不相応な言葉だ。
「――おなか、減ったな」
僕の個人的な感情なんて、言ってしまえばこの空腹感くらいだ。台所にあ
った食材も機関が用意したもの。僕は生卵を白米にかけただけの簡易的な食
事を採り、シャワーを浴びて床に着いた。
――明日になったら。
変わっていたらいいのに。
そう、願いながら。
39 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 21:40:54.87 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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朝、顔を洗って鏡を見るとこんなに辛いのに、笑っている自分が写って
いた。
「――畜生……」
僕は、古泉一樹だ。
僕は凉宮ハルヒのイエスマンなんかじゃない。
僕の心は僕のものだ。
その幻想。
辛くても、苦しくても、泣きたくても。
彼女の前では笑っていなくてはならなかった。
それが段々と広くなった。
クラスメート。
長門有希。
朝比奈みくる。
彼。
41 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 21:42:43.79 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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果てには事情を知っている筈の機関の人間にも、この張り付いた笑顔が現
れた。
凉宮ハルヒの力。
今はなによりも憎い。
「――!」
携帯電話から機械音。
要件『神人発生』。
――神様のご機嫌を損ねた誰かの後始末。
それが、僕たちなのだ。
43 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 21:49:42.31 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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――閉鎖空間。
赤い球体と巨大な人型。それがこの世界のすべて。
「遅いわよ古泉」
「申し訳ありません。状況は?」
「見ての通りよ。誰かが凉宮ハルヒにコーヒーでも零したんじゃないの?」
「……そんな理由ですか」
「そうでしょう。見たところ神人も強くはないわけだし」
「そうですか。では森さん、貴女はそんな瑣末なコトで命を――」
賭けられるのですか?
そう言おうとした刹那。森園生の拳が鳩尾を抉っていた。
……この痛みも、凉宮ハルヒのモノ?
「馬鹿なコトを考えるのはやめなさい。早く行くのよ」
僕は、何を信じればいいのだ。
赤い球体に変身し神人に突進する。
「――!」
神人の、なによりもスローモーションな動き。
なのに、それを避けられなかった。
――僕か。
それとも凉宮ハルヒが。
コイズミイツキを必要としなかったのだろう。
46 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 21:57:20.31 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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呆としていた。
白い病室。
僕の部屋と大して変わらない。
白い、風景。
誰かが傍らに座ってリンゴを剥いている。
朝比奈みくるがこんなに器用なはずがない。
長門有希がそんなことをするはずがない。
凉宮ハルヒ。そんなことはない。
「起きるのが遅い」
「――まあ、そうですよね。森さん」
47 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 22:11:33.87 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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リンゴを器用にもウサギ型に切って僕に差し出すのは僕の上司である森園
生その人だ。
この人は一般的には美人な上に家事も得意なので本来ならば世の男性も放
っておかない筈の人なのだがいかんせん男運に恵まれておらず、未だに男性
経験がない。
「良からぬことを考えてる?」
「……滅相もない。
僕、どうなったんですか?」
あの瞬間。
僕の世界は反転し、ブラックアウトした。
記憶が飛び、痛みだとかあの時の時間が吹き飛んだ感じ。
「見て分かる通り。貴方は神人の攻撃を受けて倒れたのよ。神人が弱かった
からよかったものの……凉宮ハルヒに感謝しなさい」
……皮肉にも取れる森園生の言葉。
僕は俯き、ククと喉を鳴らすように笑った。
「感謝……彼女の所為で僕は普通の高校生活を送れていないのに……何が感
謝ですか。
彼女がいなければ、凉宮ハルヒがこの世に存在していなければ貴女も、僕
も、普通の人間として日々を楽しめた筈――なのに……」
48 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 22:13:50.43 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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「そうね。凉宮ハルヒがいなければ、私も貴方も普通だった。
でも、考えてみなさい。凉宮ハルヒが存在していなければ、神の力を持っ
ていなかったら――私たちは出逢っていない」
その視線が、僕を見据える。
この人はいつも打算と効率を考えて動く人だ。
しかし、このときばかりは違う。
「――、――」
「貴方はもっと自由になりなさい。
いいのよ、凉宮ハルヒの呪縛に縛られなくても」
その言葉と姿は、機関の森園生ではなくて――
――女としての森園生だった。
62 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 22:45:12.10 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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友達を作る。
そんなこと、考えもしなかった。
今までの僕は朝比奈みくると同じで無難に生きているだけだった。
凉宮ハルヒの機嫌を損ねないように、イエスマンとしての自分を守って、
安全な道にいた。ただそれだけだった。
――それではだめなんだと。
それでは、誰とも分かり合えない。
『――友達? だろ』
彼の言葉が胸に響く。
彼だけではない。
SOS団のみんな。
今度学校に行ったら、踏み込んでみよう。
病院のベッドが、少し明るくなった気がした。
64 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 22:55:17.32 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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――怪我は大したこともなく、土日の二日の精密検査だけで退院できた。
しかし頭を打っていたため、機関の方から一か月の休養命令がでた。きっと
森さんが上にかけあってくれたのだろう。
「――あれ? 古泉く〜ん」
学校の下駄箱前で、朝から元気一杯。凉宮ハルヒに出くわした。
「どうしちゃったの? その頭の包帯……」
凉宮ハルヒは僕の頭に巻いてある包帯を見て心配そうな顔をする。
「大したことはありませんよ。ただ少し転んでしまって」
笑顔で返答する。
凉宮ハルヒの表情は変わらず、僕の怪我を心配してくれている。
「えと……私に出来ることとかある? ほら、副団長が頭に怪我なんて……
団長として手伝えることがあったら――」
「いえいえ。なにもありませんよ。お気持ちだけでとてもありがたいです」
――意外だった。
否、気がつかなかった。
彼女の、凉宮ハルヒの優しさに。
65 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 23:01:51.08 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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――昼休み。
いつもの行事であった機関への報告がなくなったため、些か時間を持て余
す。そんな時、なにをすればいいのかを四時間目の授業中考えていた。
「ふむ……」
ペンをくるりと一回転。
「じゃあ、古泉、これ答えてみろ」
数学の教師が僕になにかを言っている。
しかし、今の僕はそんなコトを気にする余裕がない。
『宛先・凉宮ハルヒ。
件名・お昼休み。
本文・今日のお昼ご飯はSOS団みんなで部室でとるわよ!!』
なんていう、団長からのメールが来ていたのだから。
69 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 23:11:37.54 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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「一体何の風の回しだハルヒ。今更昼飯をみんなでなんて」
「うるっさいわね馬鹿キョン! 今日は色々あるの!! 文句言わない」
部室に到着すると、すでに涼宮ハルヒと彼、それに長門有希が所定の位置
にいた。
「あ! 古泉君! よかったぁ、来てくれて」
「そりゃあ来るだろ、なあ古泉」
「彼、古泉一樹が来る可能性は限りなく100%。正確に言うと99.87
%」
「そうですか……。ところで、朝比奈さんは?」
部室を見回しても、いつものメイド姿がない。
それに、朝比奈みくるの間の抜けた声も聞こえない。
「朝比奈さんならまだだぞ。おいハルヒ、全員揃うまで食わないんだよな」
「当り前じゃない」
「だとさ、一丁バトルドームと行こうぜ」
「――」
一度だけ、深呼吸して――
「そうですね。朝比奈さんがいないのなら4人ぴったりですし」
バトルドームを取り出した。
71 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 23:18:19.37 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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「ふおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
「んぎいいいいいいいいいい!!!!!!」
「エキサイティン」
「これはこれは……」
ボールを相手のゴールにシュートするこのゲームの辛さ。
それを、僕も皆と一緒に味わうことができる。
至福にも似た感情。
「あの……遅くなってすいま――ふえええええ!!! どうしてみんなバト
ルドームしてるんですかぁぁ!」
朝比奈みくるの間の抜けた叫び声。
それに気がついたのか涼宮ハルヒは手を止め――
「みんな……来たっわね……ハァ……ハァ……じゃあ……食べ……ましょ」
「同感だ……おい古泉……怪我は大丈夫……かっ?」
「ええ……大丈夫です……これしき……」
「……きつい」
僕たち4人は皆汗をかいている。
あの長門有希ですら汗をかくほど、今日のバトルドームは白熱していた。
72 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 23:23:51.53 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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――始まりは白熱していたが、食事は至って普通だった。
僕はサンドイッチを食し、彼と朝比奈みくる、それに涼宮ハルヒは自分の
弁当を食していた。
「あの、長門さんは食べないんですか?」
「……もう食べた。平気」
いつ食べたのだろう。
そんな疑問はさておき、僕はメニューの関係上すぐに食べ終わってしまっ
た。
「あの、皆さんのお弁当は誰が作っているんですか?」
だから、そういったコトを聞いてみたのだ。
73 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 23:29:58.10 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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「私は自分で作ったりお母さんが作ったりするわね。今日は自分で作ったわ
よ」
「俺は完全にお袋に作ってもらってる。料理はガラじゃない」
「私は一人暮らしなので自分で作ってますね」
別に、これが何の意味を持つかなんて関係なかった。
ただ、僕は彼らと話がしたかったんだと思う。
機関もなにも関係ない高校生の会話を。
――そのあとも、僕たちは取り留めない話をして時間を過ごした。
そしてやがて昼休みも終わりにさしかかり、解散となった。
「じゃあ、また放課後に会いましょう」
「ああ。またな」
――また、放課後に。
本心で、そう言った。
74 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/22(金) 23:42:38.37 ID:CFSucOCV0 ?2BP(1000)
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放課後を待ち遠しく思った日はこれまでなかった。
まったく、心情の変化というものは恐ろしい。
「お昼振りですね。皆さん」
「古泉君! ちょうどよかった! 早く席に着きなさい」
「?」
どうしたのだろう。
涼宮ハルヒの表情は明るい、そのうえ、微笑んでいる。
「さて、みんな揃ったわね。
それじゃあ、今日のSOS団は古泉君! あなたが主役です!」
「……え?」
「そうだぞ古泉」
「わ〜い」
みんなが席を立ち、僕の手を引いてどこかに連行する。
――数十分後。
僕の目の前にある建物は、カラオケだった。
91 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/23(土) 00:30:23.08 ID:3TAJTNsy0 ?2BP(1000)
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「答えは〜いつも私の胸に〜」
カラオケ。
涼宮ハルヒが僕の人生に関わってからは一度も来なかった。というより、
来る相手も来る時間もなかったのだ。
歌は苦手ではない、しかし涼宮ハルヒとの接触から音楽を聴いていないた
め、最近の曲が分からない。
「上手ですね、涼宮さん」
「本当に、まるで本物平野綾みたいです〜」
「そう? ありがとう。
さあ! キョンも歌いなさい!」
「いいだろう。俺の歌を聞けぇ!」
――烏龍茶を口に運ぶ。
自分もこの中に入っているという安心感が、烏龍茶の味を高尚なものにし
た。
カラオケの機械も便利になったもので、すごく曲が探しやすい。
そして、その中に、ある曲を見つけた。
「――あの、僕も一曲いいですか?」
曲が始まる。
『希望峰』。僕がかつて好きだった曲だった。
92 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/23(土) 00:37:41.62 ID:3TAJTNsy0 ?2BP(1000)
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『Searchin' For New World 人は皆 あふれる夢を掴む為
水平線飛び越えた その先何があろうとも
僕達は走ってきた 希望に飛び込む勇気だけ忘れ
人波に流されて 大切な物なくした
僕はゆがんだ顔で笑う それが今の精一杯の笑顔だった
仮面の中涙であふれ ふやけた仮面のまた上に仮面かぶってかくした
平坦な戦場歩き続ける ワープ出来ずに もがいて
夢は今遠い岬に ずっと静かに佇んでいる
不器用な手探りでも きっとたどり着けるだろう... 』
93 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/23(土) 00:41:28.95 ID:3TAJTNsy0 ?2BP(1000)
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そう。
この曲が好きだった僕。
それは、憧れだった。
涼宮ハルヒに巻き込まれ、イエスマンとして過ごしてきた自分を美化する
のに丁度良かっただけ。
自分は可哀想な人間なんだと自分に言い聞かせるための道具だった。
――なんて、小さな人間。
僕は結局、自分の殻に閉じこもって笑っていることで、自分に酔っていた
だけ。
「そう、なんだな――」
そういうコト。
つまるところ――
「あのさ、みんな。
僕、みんなと友達、だよな」
仮面なんて、いらない。
僕は、古泉一樹なのだから。
98 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/23(土) 00:52:31.22 ID:3TAJTNsy0 ?2BP(1000)
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Epilogue
あれ以来。僕はふっきれた気がする。
毎日が本当に楽しい。SOS団の活動も苦ではなく、寧ろ楽しく感じる。
大きな力の前に、組み合わせのような小さな努力は無駄。
以前まで、そう思ってた。
でも今は違う。ハルヒさんの力によって巻き起こる出来事総てが楽しく
て、SOS団のみんなで協力すれば何とかなると思っている。
――そして、今日も。
「おい古泉! 長門! ハルヒのやつが裏山を海に変えやがった!」
「それは困った。じゃあそのうち映画でも撮るんじゃない? キョン」
仮面。
古泉一樹ではない何かの仮面を剥ぎ取った。
そうして、今の古泉一樹がここにいる。
古 泉 一 樹 が 真 の 友 達 を 見 つ け る そ う で す
FIN
99 名前:笑み社 ◆myeDGGRPNQ [] 投稿日:2009/05/23(土) 00:53:16.77 ID:3TAJTNsy0 ?2BP(1000)
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終わった。
終わった。