キョン「やっぱり恋人にするなら、おしとやかな女性の方がいい」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/14(木) 22:56:06.80 ID:F2zHCFQq0

 斜陽が射していた。部室に格子状の影を落とす中、俺の目の前でパイプ椅子に座る長門の身体が茜色に染まっている。
 時刻は放課後、部活を終えた連中が帰るような時間だ。団の活動も終わったその時間になってようやく長門と二人きりになれた俺はその日に起きた疑問をぶつけたのだ。
 アレは一体どういうことだ。何が起こってるんだ?
 俺の疑問に、滑らかなお茶汲み人形のような動きで端整に本を閉じるとこう云った。

「やっぱり恋人にするなら、おしとやかな女性の方がいい」

 ただそれだけ長門の口が云うと、再生を終えたリスニングCDのような無感動な間が周囲を満たす。
「と、昨日アナタは云った」
 付け足すように長門が云ってくれて俺は首を縦に振った。
「ああ」
 覚えはある。云った、確かにさっきのは俺が云った言葉だ。
 ちょうど昨日の放課後の部室。暇を持て余したハルヒが朝比奈さんに過去どれだけ告白されたことがあるのかと訊き出したのが事の発端だ。気が付けば話題は広がり紆余曲折を経て俺の好みの女性のタイプの話になっていた。
 だから俺はハルヒにあてつける様に云ってやったのだ“恋人にするなら、おしとやかな女性の方がいい”とな。
「だからと云ってだ――」
 俺の言葉を遮るように部室のドアが開いて、ひとりの女生徒が控えめに顔を出した。
「あの、もう放課後だからキョンちゃん一緒に帰らない?」
 その美少女と云っていいだろう彼女の口から出る華奢な口調の言葉が俺の背筋を凍らせた。
 何がキョンちゃんだ。“ちゃん”付けなんて冗談じゃない。そもそもいつも呼び捨てにしている口が云うのだから尚更だ。
 額に手をやりため息を一つ。冷静な思考を取り戻した俺はできる限りやわらかい口調で返事を返してやることにした。
「ああ、悪い。もう少しだけ待ってくれないか“ハルヒ”」
「うん。じゃあ廊下で待ってるから」
 不満のかけらも無いような顔で笑顔をみせるとハルヒは廊下へと戻っていった。
 ああ、むず痒い。見送りに使った作り笑いを元に戻して俺は長門に向き直る。

「だからと云ってだ……なんで俺がアイツの恋人役をしなきゃいけないんだ」


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/14(木) 22:58:58.15 ID:F2zHCFQq0

「それは涼宮ハルヒがアナタに求めた役割だから。そして涼宮ハルヒ自身も自身に求めた役割となった」
 それはまた随分と明瞭かつ迷惑な役割を求めてくれたもんだ。
「ひとつ気になってるんだが、朝比奈さんが今日学校を休んでいたのは何か関係があるのか?」
「ある」
 あるのか。個人的にはないと云って欲しかったよ。
「彼女も性格を改変された、現在は暴走族「後藤座」(ゴトゥーザ)のヘッドという役割を与えられている」
 正直どういう反応を示していいのか困った。暴走族と朝比奈さん、この二つの単語が同じ文章の中に存在することすら俺にとっては違和感だ。
「ちょっとまて長門。俺は確かに“恋人にするならおしとやか”とは云ったが朝比奈さんが暴走族だなんて一言も云ってない」
「キャラが被った」
「は?」
 短絡的な説明に素っ頓狂に聞き返すと長門は瞬きをしなおして言葉を続けた。
「朝比奈みくるの性格が涼宮ハルヒの想定したキャラクターと酷似していたため、涼宮ハルヒは彼女の性格を改変することで無意識に差別化を図った」
 今度は難解な言い回しだが長門らしい説明だ。
「つまり……ハルヒがおしとやかになったら朝比奈さんのキャラと被るから彼女を暴走族にしたってのか」
「そう」
「なら、朝比奈さんが休みなのは病気じゃなくて――」
「今頃はバイクで爆走してる」
 俺の脳裏にバイクに乗って走り行く朝比奈さんを想像しようとしたが、せいぜいスクーターに危なっかしく乗る程度の姿しか想像できない。
 そんな彼女が暴走族の頭でバイクで爆走というじゃないか。朝比奈さん。アナタは今どこで何をしていますか、この空の続く場所にいるんでしょうか。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/14(木) 23:12:06.33 ID:F2zHCFQq0

「いいのか長門。こんな状況で」
 長門の首が目で見て分かるか分からないかの瀬戸際を傾げた。
「ハルヒのご都合で性格の改変なんて石を投げて外れるほうが奇跡なくらいにあるこのご時勢だ、今時こんなイモ展開で誰がついてくるっていうんだ」
「その問いに対する回答は禁則事項に該当する」
「そうかい」
 言葉短く、俺が諦めると同時に再び部室のドアが開いた。
「ああ、やっぱりここに居ましたか」
「古泉? 帰ったんじゃなかったのか」
 取ってつけたような笑みを持って顔を出したのは、先ほど帰ると云った古泉だった。
「戻ってきたんですよ。いやぁ状況の把握に追われてまして、長門さんから事情はお訊きになりましたか」
「大体な」
 まぁ、一目瞭然の事態だ。今日の活動中にオセロをする俺達におしとやかなハルヒがお茶を淹れてくれて毒でも入ってるんじゃないかと疑っちまったくらいだ。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/14(木) 23:16:57.86 ID:F2zHCFQq0

「しかし追われてたという割には、バイトで忙しい様子じゃないな」
「ええ、見ても分かるとおり今の彼女の精神は安定しています。いえ、これまでを波の弱い夜の海に例えれば波も立たない湖のような状態ですよ」
 分かりやすいようで微妙に分かりづらい説明だ。
「それで、僕が戻ったのにはわけがありまして。こちらは何と云っていいのか僕も対処に困っているんです」
 まだなにかあるのか。もったいぶらずにパンドラの箱でもなんでも開ければいい、いまさら何が出てきても俺は驚けるか逆に不安なくらいだよ。
「アナタにお客さんです」
 古泉がドアの前から身体をどかすと、ひとりの女生徒が姿を現して、俺の顔を認めるといつか見た笑顔を振りまいて笑った。
「お久しぶり。キョン君って……呼んでもいいのかな?」
「な……っ!?」
 俺は脊椎反射も同然、跳ね飛ぶように長門の後ろに逃げた。
「何でお前がここに居るんだ……」

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/14(木) 23:22:07.28 ID:F2zHCFQq0

「忘れちゃったのかな。せっかくカナダから戻ってきたのに覚えてない? 朝倉涼子よ」
 忘れるものか。二度も俺の前に刃物をもって現れてそのうち一度はマジで刺されたんだ、記憶喪失にでもならない限り忘れられるわけが無い。
 俺が戦々恐々と朝倉を警戒していると続くようにハルヒが顔を出した。
「あの、キョンちゃん。今、朝倉さんが入っていったような」
「お久しぶり、涼宮さん」
「あ……やっぱり朝倉さん。どうしたんですか? カナダに転校って先生が云ってたのに」
 ハルヒにとって朝倉はカナダに転校した同級生なのだろう、俺のようにびびる事もなく至極まっとうに驚いていた。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/14(木) 23:26:32.74 ID:F2zHCFQq0

「帰ってきちゃったの」
 云いながら朝倉が俺の目の前まで歩み寄ると、俺のネクタイを掴んで俺の顔を引き寄せた。
「アナタと……思い出作りをしようと思って」
 顔が近いんだよ。それと、その笑顔を止めてくれ俺に対しては恐怖以外のなにものでもない。
「お、思い出?」
「そう、今日はその挨拶に来たの。明日から覚悟しておいてね」
 それだけ云うと朝倉はとっとと帰っていった。それにしても覚悟って何だ、またナイフでも持ち出すのか? 首を洗って待っていろってことなのか?
 考えながら引っ張られたネクタイを直していると、今度はハルヒが俺の目の前に立っていた。
「ね、帰ろう?」
 心配そうに見つめてくるハルヒの顔にああと頷く。朝倉の企みはなんだか知らないがとりあえず家に帰ろう、コイツが朝倉の復活を望んだとしても人殺しをするような奴には仕立てないはずだからな。


序盤の書き溜めが尽きたんでこっから遅くなる

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/14(木) 23:46:22.01 ID:F2zHCFQq0

 電灯が薄明るい道を照らしている。帰り道を歩く俺の横をハルヒが大人しく歩いている、コイツにとって二人きりで帰ることが当然のようだ。
 そして、たわいもない会話をしていると性格が変わったせいなのか赤道直下ではない春のような笑顔を向けてくるハルヒを無闇に意識してしまっていたたまれない。
「朝倉さん。急に帰ってきてびっくりしたね」
 ハルヒが顔を向けて来る、視線が交差する瞬前になぜか視線を逸らしてしまう。ちくしょう、なんだって俺ばっかりこんな目に遭わなきゃいけないんだ。
「そうだな、死ぬかと思うくらい驚いたさ」
「私も驚いちゃった。カナダに行くって云ってたのにね」
 本当はカナダどころじゃない、アイツは塵から戻ってきたんだがな。
「そういえば、思い出……って云ってたね。キョンちゃん、転校する前に朝倉さんとなにかあったの?」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/15(金) 00:01:02.21 ID:6ELCyTxq0

「いいや、何もないさ」
 何かあった。と云われれば何かあっただろう、だからと“ナイフで刺したり刺されたりするような仲だ”と云っても意味は無いし意味も分からないだろう。
「ねぇキョンちゃん。隠し事してない?」
「いや、するわけが無いだろ」
 嘘を付いている後ろめたさよりも、気恥ずかしさで云いながら目を逸らしてしまう。
「ねぇ、目を見て云って」
 上目づかいに見るな……卑怯だぞ。
「え……っとだな」
 どうせお前は俺が“俺はハルヒに嘘も隠し事もしていない”とか云っても“嘘だ!!”と怒号で一蹴するに違いない。おそろしや。
 とにかくと、逃げるようにして俺は分かれ道の一方を指差した。
「な、なぁハルヒ。お前の家、こっちじゃないのか?」
 気が付くとハルヒの家との分かれ道に来ていた。渡りに船と逃げ口実を作ると急にハルヒの顔が泣きそうな顔に早変わりしていく。
「あの……その、私。何か悪いことしたかな?」
「?」
「だって、おかしいよキョンちゃん。私達、隣同士の家だし……幼馴染だよ?」
「……は?」
 お前は一体何を言っているんだ? ハルヒよ。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/15(金) 00:31:05.58 ID:6ELCyTxq0

 家に帰って驚いた。俺の隣の家の表札が“涼宮”に変わっていたのだ。どこまで周到なエロゲ設定だ。
 とりあえず、家の前でハルヒと別れてそれからのその日は事もなく終えた。

 翌日

 ハルヒと並んで登校をして、クラスメイトにそのことを茶化されるとハルヒが赤面。幼馴染で仲のよさはクラス公認、都合のいい状況だ。
 いつもの変人一味の一人としての扱いもどうかと思うが、こっちは正直しょうに合わない。
 俺が違和感を感じるだけで精一杯のまま、朝のホームルームが始まると担任の口から予想通りの言葉が出てきた。
「転校生を紹介する。皆、覚えているか朝倉涼子さんだ」
 長い青髪をなびかせて猟奇的な彼女が教壇の脇に立った。同時にクラス中から困惑と歓声が巻き起こった。
 谷口が喜ぶだろうと視線をやると空席になっていた。なんだ、谷口の奴は休みなのか?



 こっそり続ける。ハルヒか朝倉にやらせたいネタがあれば適当に拾うわ安価はするほど需要ないし

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/15(金) 01:00:07.56 ID:6ELCyTxq0

「朝倉は、あそこの席に座ってくれ」
「はい」
 担任の指した席は狙い済ましたかのように俺の横の席だった。何で空いているんだ? 昨日までそこの席にはクラスメイトが座っていたはずだ。
 朝倉が笑顔のままで俺の横の席に座るとこちらに向かって微笑みかけてくる。
「よろしくねキョン君」
 何であだ名で呼ぶんだ。前のお前は“アナタ”で呼んでたじゃないか。
「そのほうが、距離が近づくような気がするでしょ」
「何の距離だ」
 俺の問いに朝倉が笑うといきなり机を俺の横に近づけてきやがった。
「ねぇ、一時間目の授業の教科書見せてくれないかな?」
 机にならうように椅子を引いて俺の眼前にまで朝倉が寄ってくる。ので俺は窓際まで椅子を寄せて身を遠ざける。
「俺じゃなくてもいいだろ」
「んもう、逃げること無いじゃない」
 俺の態度に朝倉は不満そうに頬を膨らます。




まだ寝ないが、書くのが遅いから不意に落ちたらご愁傷様。
とりあえず要望は把握、国木田はどうしていいのかわからん

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/15(金) 01:16:06.80 ID:6ELCyTxq0

「えい」
「っ!?」
 不意を付いていきなり朝倉が指で俺の腹を突いてきやがった、過去に刺された恐怖も相まって俺の身体がアナフィラキシーショックを起こしたように跳ねて盛大な音と共に椅子からこけ落ちてしまった。
「な、なにしやがんだ!」
「キョンちゃん。大丈夫、怪我してない?」
 俺の訴えと無駄に心配してくるハルヒの横で朝倉は無邪気に笑っていた。
「だって、キョン君こんな女の子が怖いんだもん。ほら、私はカナダ帰りの普通の転校生よ」
 云いながら朝倉が差し出してくれた手を取って立ち上がる。確かに朝倉に敵意は無いように見える。不安は残るが、不審な態度をしてもしかたがないか。むしろ朝倉の不機嫌をかったら刺されてもおかしくない気がする。
「ほら、授業始まるよ」
 見ると先生が教壇に立って始業のベルが鳴り出した。
「分かった。好きなだけ見ればいいだろ」
 諦めた俺が教科書を朝倉の机との境に開くと朝倉の見たことも無いような満面の笑みが返ってきた。
「ありがとう」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/15(金) 01:51:57.27 ID:5t2jR1vq0

 昼休み開始のベルが鳴ると後ろの席からハルヒの心配そうな声が聞こえてきた。
「キョンちゃん。大丈夫、顔色悪いよ?」
「やっと昼休みか……」
 昼休みまでの授業がこうまで長く感じたのは久しぶりだった。
 原因は授業中の朝倉の奇行だ。胸を押し付けてくるのは当然のように。無意味に俺の顔を眺めだすわ、吐息をこめて耳打ちをして極めつけは耳打ちのフリをして隠れて耳たぶを甘噛みしてくるわ。
 さんざんおもちゃにされてしまった、何度椅子から転げ落ちそうになったことか数える気も無い。ちなみに当の朝倉は弁当を持ってどこかに行ってしまった。
「大変そうだったね。はい、今日もお弁当作ってきたから一緒に食べよう?」
 見るとハルヒが机に二つ分の弁当を取り出していた。
「まさか一緒に食べるのか?」
「いつもそうだよ。キョンちゃんもしかしてお弁当用意しちゃった?」
「いや、そんなことは無いんだが」
 ハルヒの手作り弁当……これを仲良くクラスメイトの前で食べろというのか? 一体どんな罰ゲームだ。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/15(金) 02:00:39.48 ID:5t2jR1vq0

「それでね。あ、あの……今日、どこか変わったところで食事てみたりしないかな?」
「変わったところ?」
「屋上とか部室とか……どうかな」
 捨て猫のような目で訴えないでくれ、いつからお前はそんなに上目遣いが巧くなったんだ。ああ、昨日からか。
 それにしてもその提案はナイスだハルヒ。俺としても女子の手作り弁当を食べるなら目立たないほうがいい。
「ああ、分かったよ。俺もそうしようと思ってたところだ、出来るだけ人目につかない所にいこう」
「え、人目のつかないところ?」
 何を狼狽しているのやら、場所を変えようと云ったのはハルヒのほうだろう。
「やっぱり嫌なのか?」
「……ううん。そうじゃないけど。でも、そういうのって体育倉庫とか……」
「埃まみれになるぞ」
 人目に付かないほうがいいからって、俺は倉庫の埃の入った飯なんか食いたくないぞ。
「うん。じゃあ、キョンちゃんが決めていいよ」
 云ってハルヒの指が俺のブレザーの裾を摘んだ。
 とりあえず部室でいいだろう。そうと決まれば俺は林檎のように赤面したハルヒを連れて部室へと向かうことにした。

41 名前: ◆kyon.7x3Tc [] 投稿日:2009/05/15(金) 02:31:35.80 ID:askGfhWr0

「あれ? どうしたの二人とも」
 部室に到着した俺達を出迎えてくれたのは、朝倉の笑顔だった。
 何でお前がここにいるんだと云いたかったが、見るとパイプ椅子に長門が鎮座している、そしてその手には弁当箱が持たれており同様の弁当箱を朝倉が手に持っていた。
「ああ、これ? 長門さんって食生活が雑だからお弁当作ってあげたの。それよりも、キョン君と涼宮さんはどうしたの? おそろいのお弁当なんか持って」
「これか? ハルヒが作ってくれたんだ」
「手作り弁当だなんてキョン君幸せ者じゃない。じゃあ四人で一緒に食べない? きっとおいしいわよ」
「俺は別に構わないけど」
 見ると俺の後ろのハルヒがほんの僅かにうつむいていた。摘んだ袖を僅かに引いて俺にはコイツが何かを訴えているようにも見えたのは気のせいか。
「ハルヒ?」
「うううん……なんでもないよ。さ、皆で食べようキョンちゃん」
「……ああ」

63 名前: ◆kyon.7x3Tc [] 投稿日:2009/05/15(金) 10:52:02.44 ID:y8h48N440

 実にアンバランスな光景だ、部室の机に座った俺の両脇にはハルヒと朝倉が座っているんだもんな、ちなみに長門は対面で独り孤独に優雅な三角食べをしている。
 弁当を広げると朝倉が興味津々といった様子で俺の弁当のおかずをつついてはハルヒに味付けなどの質問をしていた、対するハルヒは心なしか元気が無いのかおしとやかに大人しく朝倉の質問に答える一方だった。
「なぁ朝倉、人の弁当つつく前に自分の弁当があるだろう」
 朝倉が遠慮も無く俺の弁当、もといハルヒの作った弁当から取っていくんだ。弁当箱ごと交換したほうが早いんじゃないかと思うくらいだ。
「人の作ったお弁当ってね。自分が作るよりもおいしいんだから。ほら、この卵焼きちょうだい」
 朝倉の箸が弁当箱から卵焼きを掠め取ると躊躇無く口に運んだ。
「俺のおかずが無くなるだろ」
「あ、ごめんごめん。じゃあね、このタコさんウィンナーをあげる」
 朝倉の箸がウィンナーを摘み上げるとそれをそのまま俺の眼前へと持ってくる。
「はい、あーん」
「なっ……!?」
 朝倉の箸で食えというのか。いやいやそれ以前にこんな小恥ずかしい真似を……。
「あ〜〜ん」
 俺の目の前にあったウィンナーはUターンをして朝倉の口の中へ入っていった。
「冗談よ。はい、好きなの食べていいわよ」
 朝倉は弁当箱を俺の前に差し出して云う。冗談で良かったのか悪かったのか、狼狽した俺が馬鹿みたいじゃないか。

64 名前: ◆kyon.7x3Tc [] 投稿日:2009/05/15(金) 10:54:35.81 ID:y8h48N440

「お前の冗談は性質が悪いんだよ」
 云いながら俺は朝倉の弁当箱からタコさんウィンナーを貰って口に放り込んだ。
 美味い。ハルヒの弁当もそうだが朝倉の弁当も芸が細かくて美味いのが釈然としない。こんなに美味かったら皮肉一つも云えないじゃないか。
「じゃあ……冗談じゃないって云ったらどうする?」
「っ……」
 朝倉の不意打ちにむせ返りそうになるのをこらえると。朝倉が笑みではなく僅かに悲壮な顔をして見つめてくる。
 濡れた様な瞳と云っていいだろう、そんな美少女の顔がゆっくりと俺の顔に接近してきたところで湯飲みが間に割り入ってきた。
「キ、キョンちゃん。朝倉さん。お茶淹れたから良かったらどうぞ。長門さんも」
「あ、ああ。ありがとうハルヒ」
 こればかりは渡りに船、本当にハルヒに感謝だった。



 お前等なんでそんなに眉毛好きなんだよ。俺も好きだけどさ

73 名前: ◆kyon.7x3Tc [] 投稿日:2009/05/15(金) 12:02:07.65 ID:y8h48N440

 つつがなく、とは云うまい。なんとか昼食を食べ終わると朝倉がこんな提案をだしてきた。
「ねぇ、しばらくでいいからお昼ご飯は皆で食べない?」
「何でまた、俺は構わないけど」
 この異常事態が解決するまではハルヒの弁当が俺の昼飯になるんだ。部室で食べるのが無難としてもだ他の連中はいいのか。
「長門……」
 ……は何の不満もなさそうだな。
「ハルヒはいいのか」
「うん。いいと思う、みんなで食べたほうが楽しいって私も思うから」
「じゃあ決まりね」
 全員が納得したところで昼休みも終わり際、朝倉とハルヒが教室へ戻ろうとするのに俺は部室から動かずに居た。
「どうしたのキョン君?」
「キョンちゃん?」
「先に戻っておいてくれ。俺はちょっと長門と話があるんだ」
「……じゃあ先に戻ってるから。キョンちゃん遅れないようにね」
「長門さんをおそっちゃダメよ」
 そうして扉を閉じる音と共に俺は部室で長門と二人きりになる。時間も無いんだ俺は早速切り出すことにした。

75 名前: ◆kyon.7x3Tc [] 投稿日:2009/05/15(金) 12:08:07.58 ID:y8h48N440

「長門、俺はどうすりゃいい。どうすれば、ハルヒは元に戻って朝倉は……消えてくれる?」
 少しだけ言葉が詰まった、俺が刺された身とは云え今のアイツに消えるだの云うのはあんまりな気がしていた。
 そんな俺の気を知ってか知らずか長門は淡々と言葉を返してくれた。
「貴方が涼宮ハルヒを納得させることが最もな近道。朝倉涼子に関しては心配要らない」
「心配要らないってどういうことだ?」
「彼女の肉体は不完全。時が来れば自然に情報連結が解除される」
「……そうかい。それはどれくらいだ、明日か来月か、それとも一年後か?」
「約336時間。つまり2週間後に朝倉涼子は消滅する」
 にべもなく長門は朝倉の余命宣告をした。余命二週間の亡霊とは皮肉なもんだ。
「ハルヒは、アイツを納得させるってのはどういうことだ」
「それは……」
 珍しく長門が言葉を止めると俺の目を見つめ返してこう云った。

「あなたが決めること」

「俺が決めること……?」
 随分と長門らしくもない曖昧な言云い方だった。

77 名前: ◆kyon.7x3Tc [] 投稿日:2009/05/15(金) 12:09:53.73 ID:y8h48N440

「……よくは分からんが。ハルヒを納得させるってのは分かったよ。さんきゅう、長門」
 予鈴が鳴ったのを確認して俺も部室を後にしようとしたところで、背中から長門の声がこう云った。

「あなたが望むのなら……朝倉涼子の命を長らえさせることも可能」

 一瞬足を止めてから、ドアノブを回して扉を開く。
「よしてくれ」
 短く返すと俺は教室へと戻っていった。

84 名前: ◆kyon.7x3Tc [] 投稿日:2009/05/15(金) 13:17:44.92 ID:y8h48N440

 授業も終わり、時刻は夕方。団の活動を終えた俺は当然のようにハルヒと一緒に帰路を歩いていた。
「なぁ、ハルヒ」
 切り出すとハルヒはらしくない優しい顔で俺に振り返る。
「何、キョンちゃん」
 こいつを納得させなきゃいけないと長門は云っていた。だが、どうすればいいんだ。おしとやかになったことを納得させればいいのか?
「今日の弁当とかすごく美味かっただろ。いやぁ流石ハルヒだなと思ったんだ。お前は立派におしとやかな女の子をやってると俺は思うよ」
 ああ、何を云っているんだろうね俺は。
「本当?」
「ああ、本当だ。お前みたいなのが嫁なら旦那は幸せだろうよ」
 それだけ褒めてやると、ハルヒの顔がいきなり泣きそうになっていく目じりに涙を浮かべていた。
「ど、どうした、ハルヒ」
 俺が何かまずいことでも云ったのか、となだめようとする前にハルヒが俺の腰に抱きついてそのまま顔をうずめてわんわん泣き出してしまった。
「朝倉さんが帰ってきて……なんだか不安で不安で」
 一日分、溜めた何かを吐き出すようにハルヒが泣きながらまくし立てる。
「私なんかキョンちゃんの傍にいちゃいけない気がして、それで、それで……」
「まぁ……そのなんだ」
 言葉がでるわけがない。こんな繊細なハルヒに掛けてやれるような巧い言葉が浮かぶわけが無い。
「大丈夫だ。心配するな」
 それだけいって頭を撫でてやるとハルヒは安心したように泣き止んでくれた。そして、しばらくコイツは俺に抱きついて動かなかった。

86 名前: ◆kyon.7x3Tc [] 投稿日:2009/05/15(金) 13:21:04.87 ID:y8h48N440

こっから適当にイベント置く予定なんだが浮かばないんで
>>88なんか具体的にイベント指定してもらえるとたすかる


92 名前: ◆kyon.7x3Tc [] 投稿日:2009/05/15(金) 13:33:38.10 ID:y8h48N440

安価>>100
何かあれば周辺から適当にチョイスする

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/15(金) 14:03:38.14 ID:8GOq9DiJ0

古泉とキョンの濃厚なホモセックス

104 名前: ◆kyon.7x3Tc [] 投稿日:2009/05/15(金) 14:11:51.97 ID:xet4U/1t0

昼の分はここまでで、夜までに読み直して佐々木の把握しておくわ
あと相合傘くらいはやってみる

128 名前: ◆kyon.7x3Tc [] 投稿日:2009/05/15(金) 19:36:42.61 ID:xet4U/1t0

 翌日。休日の朝だ、俺は駅前にあるいつもの待ち合わせ場所に立っていた。
「キョン、久しぶりだね」
 突っ立っていて掛けられた声に振り返るとそこには意外な顔があった。
「佐々木? 何でお前がこんなところにいるんだ」
「随分な言い方だ。ここは駅前、公共の場所だろう。僕が居たっていいじゃないか。理由は、そうだね君を待ち伏せしたいた、なんて云っては可笑しいかな」
 俺を待ち伏せしていたところで何の特にもならんぞ。
「早く来たつもりだったがキョンは予想外に早いんだね。まぁ、早いのは僕も同じだけれど、僕も準備に手間が掛かった。こういう身振りをしていても僕は生物学的には女性だということだね」
「なんだか……いつもの佐々木らしくないぞ」
「それはそうだね。めかし込んできたんだ、もちろん気持ちも高ぶってる。今日はデートだからね」
「それはまったく羨ましい限りだ」
 佐々木にも恋人ができたのか。しかしコイツのデート相手はよっぽどの変わり者だろうね、決して悪い奴ではないんだがその話に付いていくのは俺でも無理だ。
 そして俺がここに立っている理由は、昨日泣き出したハルヒに励ますついでに買い物をする約束をしたからだ。
 俺としては長門の云うハルヒの納得もかねての買い物だ。デートなんてお茶らけていられる状態であるはずがない。
「キョン。君は鈍いなんてものじゃないな、デートをするのは君だ」
「俺? 馬鹿を云うな、俺は連れと買い物の用事があるんだ。予約も無いデートがあるか」

129 名前: ◆kyon.7x3Tc [] 投稿日:2009/05/15(金) 19:37:54.61 ID:xet4U/1t0

「なんだい、その反応からするに涼宮からは聞いていないのかい」
「ハルヒから?」
 明日一緒に買い物に行こうというだけだ。それ以外は聞いてない、そもそもお前はいつからハルヒを親しく呼ぶようになったんだ。
「中学以来だけれどもたまに話をする仲だよ、彼女はどうにも捨て置けない性質の人間だろう。ああ、キョンと話す機会が持てなかったのは申し訳ないと思っているよ」
 ハルヒと俺が昔からの幼馴染ということは、つまり俺の中学時代の友人である佐々木とハルヒが知り合いでもおかしくない……か。
「ご都合主義め……」
 聞こえないようにつぶやくと丁度ハルヒが遅れて登場した。
「ごめんなさい。準備に手間取って……」
「いや、五分前だ」
 俺の方がいつもの習慣で早く来すぎただけだ。
「涼宮。君はキョンに僕が来ることを話していなかっただろう」
「え、あ。ごめんねキョンちゃん。その私一人だと不安だから佐々木さんに声かけちゃって、それでそのあと服選んでたら電話するの忘れちゃって……」
「迷惑なら僕は退散するけども」
「……ここまで来たお前を帰すほど俺も野暮じゃないぞ」
 俺の任務はお前を“おしとやか”だと認めさせることだ。佐々木がいようといまいと問題は無い。

131 名前: ◆kyon.7x3Tc [] 投稿日:2009/05/15(金) 19:41:35.74 ID:xet4U/1t0

「それはよかった。僕も準備に手間を掛けたんだ、無駄にならなくてなによりだよ」
 さて、何を買いに行こうか。おしとやか、というならまずは見立てからいってみるのが無難だろうか。
「じゃあ服でも買いに行かないか。ハルヒにぴったりの“おしとやか”な奴を」
「でもキョンちゃん、女の子の服って高いよ。お小遣い大丈夫?」
 俺だって男だ、服を買うくらいの甲斐性くらいある。
「甲斐性なんて言葉は自分で稼いでから云うべきだね。けれど提案には賛成だよ、僕としても内向的な涼宮には良い格好をして自信をもってほしい」
 行き先も決まったことだ、とりあえず俺達はハルヒと佐々木の案内で服を見に行くことにした。

140 名前: ◆kyon.7x3Tc [sage] 投稿日:2009/05/15(金) 21:26:29.17 ID:uqhkYfs+0

 その後、俺達は三軒ほど店を回って四着もの服を買わされて駅前の喫茶店へと戻ってきた。
「こんなに買う羽目になるとは……」
「それはキョン、君が悪い。何を着ても“似合うんじゃないか”と云ったから悩んでいたものを皆買ったまでだよ」
 本当に似合うんだから仕方ないだろう。
「ありがとうキョンちゃん」
 ありがとうよハルヒ。今のお前ならその言葉で俺も報われる。
「まずいね」
 なにがまずいんだ佐々木。コーヒーは実に美味いぞ。
「外を見るといい。雨だよ」
 佐々木の言葉の前に雨音で半分気付いていたさ。店の外では先ほどの天気を覆すような雨が降り出し、空は薄暗く徐々に雲がかっていっている。
「ご両人は天気予報はみなかったのかい?」
「いや、見ていない」
「今日の準備で……気にしてなかったから」
「傘は持っていないみたいだね。降水確率30%と云っていたから振らないだろうと思って僕も云わなかったんだ、文字通り水を差してはまずいと思ったからね。代わりと云っては何だが傘を差すといい」
 佐々木はバッグの中から折り畳み傘を取り出すとソレを俺に突き出した。
「佐々木はどうするんだよ」
「折りたたみの傘は二つしかないんだ。僕のはある、君達二人で差して帰るといい」
 佐々木の言葉に押されるように俺は折り畳み傘を受け取ると佐々木は一言“名残惜しいけれどあくまで僕はゲストなんだよ”と付け加えた。



書く速度が遅いから自然落ちに間違いなく間に合わないわ、落ちること前提で落ちるまでは書くけど期待はしないで欲しい

145 名前: ◆kyon.7x3Tc [sage] 投稿日:2009/05/15(金) 22:11:46.93 ID:uqhkYfs+0

 その後、佐々木と分かれた俺は狭い折り畳み傘の中でハルヒと寄り添いながら歩いていた。まったく、小恥ずかしい事にも慣れていくのが分かるものだ。
「ねぇキョンちゃん。今日、私思ったの」
「ん?」
「私も、佐々木さんとか鶴屋さんみたいにハキハキしゃべれる子だったらよかったのになって……そしたら今の私よりももっといい私になれていたのかなって」
 ハルヒよ。それはどういう意味だ、ハキハキどころか破天荒なお前が望んでそうなったんだろう。
 “おしとやか”を認めさせるつもりが真逆だ。だが、まさかとは思うが“元気な女の子”にあこがれて、明日にはコイツが赤道直下の笑顔を見せてくれたりするのだろうか、
 隣の芝は青いと云うがそのおかげで明日元に戻ってくれるのなら万々歳だ。




 結果から云おう。ダメだったと。




 休みを明けたその日も俺達は隣の家同士、仲良く登校をしていた、ハルヒは何も変わらないおしとやかなままだった。

146 名前: ◆kyon.7x3Tc [sage] 投稿日:2009/05/15(金) 22:13:03.73 ID:uqhkYfs+0

 その日、俺は混乱していた。どうすればいい。いやまて、そもそも認めさせるって具体的な手段を長門から訊いていないんだ。闇雲にやっても時間の無駄だ。
 そうと決まれば早い、俺は昼休みに再び長門と二人きりになり事のいきさつを説明して俺は問うた。
 どうすればいい? と。
「貴方の判断は誤りだった。納得とは涼宮ハルヒの自己の改変された性格を納得させることではない」
「違うのかよ!」
「涼宮ハルヒが求めたものは性格ではない、貴方の気を引きたかっただけ。認めるとは貴方が焦がれたことを涼宮ハルヒに認めさせることだった」
 難しい注文だ。だが、それでもまだハッキリすればやりようがある。
「できれば早い段階でそれを説明して欲しかったよ」
「それは演出。だが時間が無い、朝倉涼子の消滅も巻いていく」
 そう云うと長門の口が謎の呪文を高速で詠唱した。そして数秒、校舎のどこかで絹を裂くような朝倉の悲鳴が聞こえた気がする。
「おい、長門!?」
「朝倉涼子の余命を縮めた。正確には明日には消滅」
「おいおい……いいのかよ」
「心配要らない。要点は抑える」

155 名前: ◆kyon.7x3Tc [sage] 投稿日:2009/05/15(金) 23:00:02.90 ID:uqhkYfs+0

 その日、俺の下駄箱に一枚のメモが入っていた。
 “放課後、教室で待っています”
 端的なことだけが書かれている。前にもこんな覚えがあったな、朝比奈さんじゃない。こんな走り書きのメモはアイツだ。
 馬鹿かと思われるが俺はメモの内容に素直に従うことにした。
 放課後、誰も居ないであろう教室の扉を開く、そこに居た人物を目にして、俺は素直に“またか”と思った。
「入ったら?」
「またお前か」
 教室の中に居たのはいつか同様、朝倉涼子だった。
「意外だった?」
「全然、想定の範囲内どころかど真ん中だ。何のようだ」
「話は長門さんから聞いたよね?」
「巻いていくそうだな」
「そう、思い出作りどころの問題じゃないの。私ね、明日カナダに戻ることになっちゃったの……」
「ああ、そうだろうな」
「ねぇ、キョン君。もう少し悲しんでくれてもいいんじゃない?」
「いや、しかし巻いてけと云われたからな」

156 名前: ◆kyon.7x3Tc [sage] 投稿日:2009/05/15(金) 23:00:42.48 ID:uqhkYfs+0

「んもう、分かったわよ……」
 コホンと咳払いを一つすると朝倉は端正に切り出した。
「人間はさ。よく、やらないで後悔するより、やって後悔したほうがいいって云うよね……これどう思う?」
「殺らないほうがいい。やったら長門が飛んできて即カナダ行きだろう」
「もう、そうじゃなくて……!」
 痺れを切らすように朝倉が歩み寄ってくると俺の鼻が付くかというほどの距離まで顔を寄せてきた。
「これは私の告白。私か涼宮さんか選んで欲しいの」
「お、お前を選んだらどうなるっていうんだ」
「私の情報連結の崩壊が止まるわ。そしたら……」
 ゆっくりと朝倉の顔が近づいてきて俺は反射的に朝倉の身体を離した。
「そしたら、どうなるって?」
「命を助けてくれた男の子に女の子は誠心誠意を込めて尽くすの。ハッピーエンドってやつね」
「……」
「迷ってくれてるんだ。でも、出来るだけ早くね。私、明日の正午には空港で時間切れだから……」
「云われても、行かないかも知れんぞ」
「大丈夫、来なくても恨んだりはしないわよ」
 そう云い残して、朝倉は教室を後にした。

159 名前: ◆kyon.7x3Tc [sage] 投稿日:2009/05/15(金) 23:37:00.17 ID:uqhkYfs+0

 翌日。朝のホームルームで朝倉の転校が告げられた。
 担任の言葉と空白の席、クラスメイトは驚きに包まれていた。また突然に転校するのだからな、朝倉の帰還を喜んでいた生徒は実に残念がっていた。
「キョンちゃん……」
「どうしたハルヒ」
「もしかして、朝倉さんのこと知ってたの?」
 ハルヒは俺の平静な態度を察したのだろう。
「ああ、正午にはここを発つんだって云っていた」
 俺は朝倉を見送るつもりはなかった。
 仕方ないだろう。元から朝倉は長門に消滅させられていたんだ。それがたまたま復活しただけだ。これが道理ってやつなんだ。
「お見送り……いかなくていいの?」
「いいんだよ」
 もしも、俺が朝倉を選んだらハルヒの性格は二度と戻らないかもしれないんだ。
「だめだよ、空港に行かなきゃ……っ」
「?」
 様子がおかしいと思ったときには既に遅かった。
「朝倉さん。キョンちゃんのことが好きだったんだよ! 大好きだからカナダから帰ってきたんだって云ってたよ」
 おしとやかだったはずのハルヒがまるで癇癪のように声を荒げていた。
「何にも云わないまま、このままカナダに帰っちゃったら……朝倉さん」
 そこまで云って言葉にならないまま嗚咽を漏らすハルヒ。
 違うんだハルヒ。 お前には分からなかったのかもしれないな。いや、分からないからこそこうなっちまったんだ。
「分かった」
 意を決した俺はハルヒの手を取って廊下へと歩き出した。
「キョンちゃん……」
「ハルヒ。お前も来てくれ」
「え……でも、私は」
「お前が必要なんだ」
 有無を云わさず、そのまま俺達は空港へと向かった。

161 名前: ◆kyon.7x3Tc [sage] 投稿日:2009/05/15(金) 23:56:29.02 ID:uqhkYfs+0

 息を切らした俺達が坂の下の道路でタクシーを捜していたとき、そいつはやってきた。
 腹に響くような重厚なエンジン音を唸らせて二台のバイクが走ってきたのだ。
「待ってたわ……!」
「このときをよぉ!」
 声から察するに男女一組の暴走族がキメ台詞と共に俺達の眼前に停車した。
「お二人さん、乗りな。空港に行くんだろう?」
「そ、そうだが。見ず知らずなのに、いいのか」
「そのために私達は待っていたんだよ!」
「それじゃあ失礼して……ハルヒ」
「う、うん。失礼します」
 俺が女性の後ろに、ハルヒが男性の後ろに座る。
 しかしこの二人、どこかで見たような……格好のいい声の女性だ、白の特攻服を着ているが栗色のロングヘアー……この人は。
「まさか朝比奈さん……?」
「ふっ、懐かしい名前だねぇ。さぁようやく出番が来たんだ。いくよミノル!」
「合点承知ぃ!」
 男性の方も見覚えがあった、あの冴えない面構え。
「お前谷口か!?」
「キョンよ、こいつに乗った俺は谷口じゃあない。今の俺はホワイトストーン・ミノルだ」
 どんなあだ名だ。
「時間はまっちゃくれないんだ、全快でいくよぉ……ぱらりらぱらりら〜♪」
「おうおうおう! 邪魔する車はヘッドの身狂火異夢をくらいてぇのかー!?」
 こんな具合で俺達は空港へと向かったのであった。



 ちゃんと終わるはず。

164 名前: ◆kyon.7x3Tc [sage] 投稿日:2009/05/16(土) 00:19:34.59 ID:8pKvFz2g0

 空港の自動ドアをくぐり搭乗口の待合に駆けると朝倉はすぐに見つかった。
「朝倉!」
 俺の叫びに気付いた朝倉が振り返る。
「キョン……君?」
 俺が駆け寄ると期待と不安を濃厚に混ぜたような顔で朝倉は迎えてくれた。
「来たんだ……てっきりこないかと思ってた」
「お前に伝えなきゃいけないことがあったんでな」
「じゃあ、聴かせて欲しいな、伝えなきゃいけないこと」
「……俺はダメな奴だった。どっちかを選べなんていわれて、時間が解決するからってあやふやなままで逃げようとしていた」
 俺の言葉を朝倉は押し黙って聴いている。後ろに付いてきたハルヒも聴いていることだろう。
「こんな調子じゃあ俺は伝説の“誠死ね”の再来だ。君望の孝之でもいい、あっちも涼宮だ。とにかく、ヘタレのレッテル寸前だった」
「私がポニーテルだったらよかったの?」
「そうじゃない。ポニテにしてもお前の苗字は速瀬じゃあない朝倉だ」
 だがポニーテールの朝倉……か。ごくりと音を立てて生唾を飲み込んでしまう。
 いやまて、冷静になれ。これ以上は混乱を招くだけだ、本題に入らねば。
「だから答えを出しに、答えを伝えに来た」
「うん」

165 名前: ◆kyon.7x3Tc [] 投稿日:2009/05/16(土) 00:20:31.80 ID:8pKvFz2g0

「朝倉。俺は再会の約束をしにきたんじゃない、お別れを云いにきたんだ……」
 朝倉がほんの僅かに深い瞬きをするとその瞳が潤んでいた。
「うん、分かってた。最初から分かってた。それでも少しくらい悪あがきしたかったの」
「……お前があがきたかったのなら、誰も責めやしないさ」
「ありがと。でも、キョン君の答えはまだ云ってない」
「ああ」
 俺は振り返ってハルヒの目を見据える。それは赤道直下のような燃える瞳ではない春の花のような瞳だった。
「ハルヒ、俺はお前のことが好きだった。でも今のお前はきっと無理をしていると思う」
「え?」
「気を使わなくてよかったんだ。俺は“いつも”のハルヒが好きだったんだ」
「いつもの……?」
「ああ、いつものハルヒが一番だ」
 そうだ。これが俺の答えだ。
「よくできました。じゃあキョン君?」
 云うといきなり朝倉が頬をつねってきやがった。
「痛ててて……ひゃにすんら」
「フラれたお返し、悔しいから私もっと良い女の子になってやるの。だから、“いつまでも”涼宮さんと仲良くね」
「ああ“じゃあな”朝倉」
「じゃあね」
 踵を返した朝倉は振り返ることなく搭乗口の先の人ごみへと消えていった。




もうちょい続く

166 名前: ◆kyon.7x3Tc [] 投稿日:2009/05/16(土) 00:31:51.70 ID:8pKvFz2g0






「と、云うお話でした。めでたしめでたし……」
「お疲れですね」
「当たり前だ」
 朝倉のカナダ行きから翌日、世界は元に戻っていた。ハルヒはいつもの燃え盛るようなやる気と元気を持って学校にきたのだ。
 だからこうして肩肘を張ることも無く、古泉とくだらないオセロを楽しめる。
「ですが、貴重な体験だったんじゃないですか、男性なら夢のようなシチュエーションですよ」
 まったく、他人事だからって好き放題云いやがって。
「慣れない神経すり減らしただけだ」
「そういえば貴方は気付きましたか?」
「何にだ?」
「朝倉さんは涼宮さんの用意したキャラクターではない、ということに」
 ちょっとまて、そりゃいったいどういうことだ。俺はてっきり朝倉はハルヒが用意したんだと思っていたぞ。
「そもそも、明朗快活な彼女がおしとやかになったのならライバルは元の涼宮さん同様、明朗快活な女性が適任だったはずです。でなければせっかく変えた性格を比べることが難しい、なのにライバルとなった彼女は適任だとは云いがたい、破天荒というよりは堅実なタイプです」
「確かに朝倉は元のハルヒみたいに破天荒じゃないが、どうせなら鶴屋さんとかの方が適任だったってことか……?」
「そうです。つまり、彼女は涼宮さんの作り直したキャラクターではない可能性があるんです。いえ違うと断言してもいいでしょう」
「なんで断言できる」
「お忘れですか? 僕はこう見えて超能力者なんです。それくらいのことを断言はできますよ」
 確かに古泉はハルヒの精神衛生のスペシャリストだ。だが、問題はそこじゃない。
「じゃあ、どこの生まれとも知れない朝倉をお前ら野放しにしてたってのか、そもそも分かってたなら何で当事者の俺に教えなかったんだ」
「その件については謝罪します。ですが、貴方に変な警戒を持たれるとせっかく取れていた調和が乱れてしまうと判断したんです」

167 名前: ◆kyon.7x3Tc [] 投稿日:2009/05/16(土) 00:34:16.19 ID:8pKvFz2g0

「他人事みたいに云うな。もしも俺がナイフで刺されたらどうするつもりだったんだ」
「長門さんは“安全だ”と保障をしてくれましたし、僕自身が彼女は危険ではないと判断できました。もちろん、それだけではありません組織からの監視もありました」
 しかし、朝倉を復活させた奴か……ソイツはなんで朝倉を選んだんだ? 朝倉と何か関係が……?
「まてよ……」
 俺は首をひねってパイプ椅子で読書を続ける少女に目を向けた。
「長門。お前まさか……?」
「……」
「いや、何でもない」
 やきもち焼いた長門が対抗して、おしとやかな朝倉を用意した?
 まさかそんなことは無いさと俺の長門への信頼が否定した。
「皆そろってるわね!」
 ドアを叩き空ける様にして団長様がやってきた。ああ、こいつの破天荒ぶりに内心で安心するとは。
「ねぇ、キョン。前から気になってたんだけど。アンタって妹からも“キョン君”なんて呼ばれてたわよね」
 “団長”と札の立った席にどかりと座り、すっかり元に戻ってくれた朝比奈さんのお茶を受け取るハルヒ。
「それがどうした」
「アンタいい年して恥ずかしくないの?」
「俺のアダ名はアイツが最初に云い出したようなもんだからな。まぁ、小生意気だ。って云いたい所だが妹なんてあれくらいが可愛い盛りなんだよ」
「ふーん。そっかそういうものよね」
 何にしても元に戻ってくれてよかった、俺は安堵のため息を吐いて朝比奈さんの淹れてくれたお茶を頂いた。





あと1シーン

170 名前: ◆kyon.7x3Tc [] 投稿日:2009/05/16(土) 00:46:53.00 ID:8pKvFz2g0

 問題はその翌日だった。

 時刻は昼休み。俺はパイプ椅子に座る長門の前に息を荒げて立っていた。俺はたった今起きた疑問をぶつけたのだ。
 アレは一体どういうことだ。何が起こってるんだ?
 俺の疑問に、いつもどおり滑らかなお茶汲み人形のような動きで端整に本を閉じるとこう云った。

「妹なんてあれくらいが可愛い盛りなんだよ」

 無感動に再現された俺の台詞。その間が絶望を呼んでいた。
「と、昨日アナタは云った」
「なんてこったい……」
 半ば放心状態の俺の服の裾がコレでもかと引っ張られた。
「お兄ちゃん。お弁当届けに来たのにどーしたの? ねーねー」
 それは少女だった。小学生程度の美少女、紛れもない、それは小さなハルヒだった。
「え、っとだな。俺はちょっと食欲が無いから弁当はあとにしてくれるか……?」
「もしかして……はるひが本当の妹じゃないから遠慮してるんだ。嫌いなんだ……」
「な、長門……!」
「そういう設定」
「どういう設定だ!」
「義妹だから遠慮しなくていいのに、うあぁぁぁん」
「何を遠慮しないんだよ!」
 俺のツッコミを無視して小さなハルヒは泣き出した。
 そして俺はもう一つ重要なことに気付く。
「まさか俺の妹は……」
「爆走中」
「……なんてこった」
「問題ない。乗っているのは自転車」
「そこも問題だが重要なのはそこじゃないだろ」
 もうつっこみどころしかない。額に手をあててため息を吐き出す。ノイローゼになりそうだ。
 気を取り直したその瞬間、目の端で長門の口が僅かに動きた気がした。

171 名前: ◆kyon.7x3Tc [] 投稿日:2009/05/16(土) 00:47:45.18 ID:8pKvFz2g0



 直後。部室のドアが開かれた。


「キョンー? ほらぁ、お姉ちゃんと一緒にお弁当食べる約束したじゃない」
 聞き覚えのある声が響き渡った。一昨日に分かれたばかりの女の子の声だ。
「朝倉!?」
 確かに一昨日別れたはずの朝倉。だが僅かに大人びた朝倉が弁当を二つ持って現れたのだ。
「何よ。古い苗字で呼んでお姉ちゃんを他所者扱いするんだ……」
「お姉ちゃん?」
「そうよ、でもちゃんと呼んで。じゃないとお姉ちゃん寂しくて死んじゃうよ」
「ちゃんと……?」
「ほ〜ら、涼子お姉ちゃんでしょ?」
 りょ……りょ……りょう。
「き、気分が悪くなったから俺早退するよ……悪いな二人とも」
 それだけ云って俺は脱兎の如く部室から逃げ出したのであった。

172 名前: ◆kyon.7x3Tc [] 投稿日:2009/05/16(土) 00:48:25.57 ID:8pKvFz2g0








「やはり貴女でしたか」
「今回の涼宮ハルヒの世界の改変は危険なモノではない。それなら、朝倉涼子を送り込み状況を長期化させることで情報を多く収集することができる」
「それがアナタ方の判断というわけですか」
「そう」
「それともアナタの判断?」
「勘繰りが過ぎました。さて、僕は彼にアドバイスをしてくることにします、では」


「今度は負けない……」





 終

178 名前: ◆kyon.7x3Tc [] 投稿日:2009/05/16(土) 01:18:41.15 ID:8pKvFz2g0

淡々と投下してたけどかなりきつかったです……
巻いたのは自分の力不足でした、すんません
ハルヒは出番多いけど台詞少ないし、朝倉は買い物の後にイベント置きたかったけど巻いたせいでかなり不憫な目にあわせたし。
佐々木は無計画に出した割にはマシだったかなと。みくる派の人にはひたすらごめんなさい

支援してくれた方みなさんどうもありがとうございました。

ちなみに、あんな扱いでしたが眉毛は俺の嫁。



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