キョン「――――さあ、零崎を始めよう」


メニュー
トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:かがみ「こなた〜チョココロネ買ってきたわよ」

ツイート

127 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2010/03/23(火) 06:46:33.35 ID:HXHBiFE0

SOS団について考えてみようと思う。
世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団。
宇宙人未来人超能力者を探し出し、一緒に遊ぶことを目的とした集まり。
そして、涼宮ハルヒによって集められた、三人の異能者たち。
長門有希、――宇宙人。人間を知らない宇宙人。
朝比奈みくる、――未来人。未来を知らない未来人。
古泉一樹、――超能力者。平和を知らない超能力者。

無作為に、無秩序に、無遠慮に。
それらを集めて見せた、涼宮ハルヒ、
――他称『神様』。
彼女を中心として、不可思議は拡散していく。
俺たちは収縮させるため、意識し、意見し、意図的に意思を表すことで、意味を見出してきた。
それでも一つだけ、分からないことがある。
意識し、意見し、意図的に意思を表してさえ、意味を見出せない。納得ができない。

なぜ、俺なのか。

彼女は言った。俺は『鍵』なのだと。
彼女は言った。俺は『重要な存在』なのだと。
彼は言った。俺は『一番の謎』なのだと。
俺には、理解できない。
平淡で、平均で、平凡な俺が。あの集団の中にいてもいいのだろうか。いいわけがない。
劣等感。有事に際し何もできない自分。見ているだけの自分。唯の無能者。
居ても居なくてもかまわない。どちらでも同じ、そんな存在。
そして、俺は『兄』と出遭い――、
『俺』を見つけた。


このお話は空想です。宇宙人、未来人、超能力者の出番はなく、
実在しないはずの人物しか出て来ません。
得るものは皆無、失い尽くす物語。
それでもいい、と仰るのなら、

唯の零崎のはじまり、はじまり――。

131 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/03/27(土) 22:36:51.88 ID:uqxg3Gk0


      0

超能力だって?
いったい何を超えたつもりだ?

      1

そいつから会いたいという旨のメールが来たのは、昨日のことだった。
金曜日。一週間のうち、登校する必要のある最後の一日。なんておおげさに形容したが実際のところ土
曜日の前の日、程度の認識でしかない。普段なら、去年からSOS団が不法占拠している文芸部室に赴
き、可愛らしい先輩がその美しい御手をもって淹れてくださった御茶を飲みながら、無口な文学少女を
視界に入れて、ニヤケ面した同学年の男子生徒とボードゲームに興じつつ、倣岸不遜な団長様の登場を
待っている時間帯だ。
しかし、今日に限ってはその必要はなく。
北高の校門前で友人と談笑した後、俺は一人で帰宅の途に就いていた。
そんな折に届いたメール。差出人は、佐々木。
用件は短く、『明日会いたい 駅前の喫茶店で』とだけ書かれていた。
翌日にぽっかり空いた暇を持て余していた俺はすぐに了承の返事を送った。
丁度、こいつに聴きたい事柄も出来たしな。

そして次の日。わざわざ宣言するほどではないが、土曜日だ。
時間を指定していなかったが、確信があった。
朝九時。間違いない。どこぞのエスパー少年の言葉を借りるなら「分かってしまう」のだ。
そしていつも不思議探索を開始する前の溜まり場として利用している喫茶店に入ると。
果たして、中学時代には窺い知れなかったシニカルな微笑を浮かべた、佐々木がいた。


132 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/03/27(土) 22:37:31.08 ID:uqxg3Gk0


      2

「やあ、キョン。久しいね」
俺が席に座り、店員がお冷とお絞りを置き、再度テーブルに訪れ注文を聞き。
そして店員が去って初めて、佐々木は口を開いた。
「君に会うのは春の一件以来かな。本当はもう少し早く誘うつもりだったんだよ。一年ぶりに親友と再
会したんだ、旧交を温めたいと常々思っていた。しかし、生憎と多忙でね。今日も何とか時間を切り詰
めて、削り出して、ようやく実現させたんだ」
そこまで言い切ると佐々木は目の前のコーヒーカップを持ち上げ、口をつける。
唇を舐め上げるように、赤い舌が動くのが見えた。
「そこまで思ってもらえて光栄だな」
俺はそれだけ言うと、佐々木を視界から外し窓の外に目を向けた。まったくの茶番だ。
何かを逡巡するような少しの間。視線を固定したまま、俺は手持ち無沙汰にお冷を口に含んだ。
「なんだかそっけないね。もしかして先約でもあったかな? そういえば、今になって聞くのは遅すぎ
るだろうけど、今日はSOS団の皆さんとの不思議探索は無いのかな?」
「ああ」
一言、零すように相槌を打つ。佐々木は何を勘違いしたのか、心持ち柳眉を下げ如何にも心配していま
すとでも言いたげな声音で窺ってくる。
「キョン、気分でも悪いのかい。どうも普段の君とは状態が違うように感じるのだが」
「別に」
まともに受け答えする気になれない。一応の覚悟はしてきたが、これは想定外だ。
気分よりも機嫌が悪くなっていく。
「ふむ、そうだね。気分が悪くなるような話は先に済ませておこうか。キョンに愛想を尽かされないう
ちに僕の用件を済まそう」
そして彼女は聞いてきた。

「どうして涼宮さんを殺したんだい?」

134 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/02(金) 22:25:09.03 ID:4rZhtZg0


      0

知りたくない。
知りたくない。
未来なんて、知りたくない。


135 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/02(金) 22:26:59.92 ID:4rZhtZg0


      1

「どうして涼宮さんを殺したんだい?」
佐々木は確かにそう言った。
どうして。殺害の動機。理由。何故?
「……それは、」
それは。何故なら。
「何でなんだろうな」
俺が、零崎だから。
そんなことを言われたところで、佐々木には理解できないだろう。深く聴かれたりしても、俺には説明
できない。俺も未だに理解できていない。当事者だから、感覚で判断しているだけ。「分かってしまう」
だけ。
会話が途切れたのを見計らってか、店員が注文を聞きにきた。コーヒーを注文する。タイミングが良す
ぎた気もする。もしかして、聞かれたか。後で殺しておくことにする。
「キョン」
急に呼びかけられたので、反応してしまう。佐々木の顔が数分ぶりに視界に入る。得体の知れない感情
が口から溢れ出しそうになり、慌ててお冷を口に含む。ぬるい。何だこれはお冷のくせに冷たくないじ
ゃないかこれは詐欺だろうなんてクレームはつけない。ただの戯言だ。
「……キョン」
再び、呼ばれた。
「何だ」
今度は返答しておく。耳に余計な仕事を押し付けて、目は窓の外の観察に余念が無い。
「まじめに答えて欲しい。親友としてのお願いだ」
「……ふむ」
こんな茶番にシリアスを持ち込む気なぞ更々ない。のだが、話が進まないし、俺の聞きたいことも聞き
出せていない。……仕方ないか。
「どうして、ハルヒが死んだことを知っている」
質問に質問で返すのはマナー違反になるだろうが、殺人鬼にそんなもの期待しないでもらいたい。
気分を害した様子もなく、佐々木は教えてくれた。
「九曜さんが、ね。彼女も長門さんと同じ人智を超えた能力を有しているみたいだから。それと、涼宮
さんだけじゃなくて長門さん達も、その、……」
そうだ。朝比奈さんも、古泉も。長門も。
「殺したよ」
長門の場合、殺したと表現するより殺させてくれたと言ったほうがしっくりくるがな。
しかし、そうか。考えてみれば当たり前のことではあるか。むしろ今まで思い至らなかったほうがおか
しい。あの『涼宮ハルヒ』が殺されたのだ。しかも、宇宙的未来的超能力的な肩書きを持ち得ない、唯
の一般人である俺なんかにだ。そりゃ、一大事だよな。他人事にしか思えないが。
しかしそうなると疑問が出てくる。
何故、俺は生きていられるのか。
観察対象を殺した俺に対して三つの勢力、最低でも涼宮ハルヒを『神様』と妄信していた《機関》の連
中が何らかのアプローチを掛けてくるはず。
信仰していた神を殺した『殺神鬼』としてか、神の気まぐれから解放してくれた『救世主』としてか。
まあ、たとえどちらであろうとも。俺にとってソレは結局、
――おなじこと。
佐々木は沈思黙考を始めたようで、テーブルには静寂が漂う。そしてまた絶妙のタイミングで、先程と
同じ店員が注文したコーヒーを運んできた。なんだ、あの店員はもしかしなくてもプロなのか。空気を
読むプロ、エアマスター。なんか発想が中学生みたいだ。
とりあえず、あの店員は後で殺しておくことにする。


136 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/02(金) 22:28:08.81 ID:4rZhtZg0


      2

会話相手が意図的に口を閉じているので、することがない。運ばれてきたコーヒーはまだ熱い。仕方な
く俺も考えごとをしていよう。
思い出されるのは、最近のこと。
変革してしまった俺。変質してしまった日常。変容してしまった彼と彼女ら。そして。
『私の弟にならないかい?』
俺に投げ掛けられた『兄』の言葉。
正直、あの人は変態だと思う。容姿はそこまでおかしくはなかった。どこにでもあるような背広を着て、
どこにでもあるようなネクタイを締めて、どこにでもあるような眼鏡を掛けて。
細長い体躯は針金細工を連想させたが、それもおかしいとは思わなかった。
それでも第一印象は、変態だと思った。
身内に対して抱くイメージとしては間違っているだろうが、あの『兄』ならスキンシップの一環とし
て受け取ってくれるだろう。俺はあんな『兄』でも嫌いではない。
俺に『個』を与えてくれた人。居場所を明確化してくれた人。
あの時の安心感、安堵感、安定感は今後の人生でお目に掛かることはありえないだろう。
そう思うほどに俺は救われた。
平淡で平常な俺は掬われ、異端で異常な俺が救われた。
SOS団での活動が楽しくなかった訳ではない。彼女たちと過ごした日々は掛け替えのない大切な過去
だと断言できる。
でも、ソレとコレとでは文字通り、お話が違う。
本当に、傑作だ。

138 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/03(土) 22:29:37.63 ID:Gi6IRik0


      0

死ぬのっていや?
殺されたくない?


139 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/03(土) 22:30:15.38 ID:Gi6IRik0


      1

長門有希。
情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。
分かりやすく言えば、宇宙人。
そんな突出した肩書きを持つ彼女は、一般人たる俺に殺された。
しかしそれは。俺にとっては少し、特別な意味を持っていた。『兄』に教えてもらった零崎についての
あれこれが心に浮かび上がってくる。《零崎一賊》。理由無く人を[ピーーー]殺人鬼集団。その一員と成った
俺。そして俺に殺された、長門有希。
零崎が理由無く人を[ピーーー]のなら。俺が零崎に成ったのなら。俺に殺された長門は、人、だと言えないだ
ろうか。
そうではないか。そうだと、想う。観察を役割として造られた彼女は。感情をエラーだと認識していた
彼女は、やっぱり一人の人間だったのだ。稚拙で幼稚な考えであることは自覚しているがそれでも、そ
れだけは変わらずにそう想っていたい。想い続けたい。
俺が殺した彼女は、人間でした。

ふむ、それにしても。こうして思い返してみると、俺は長門に対して特別な感情を抱いていたのかもし
れない。変わってしまった今の俺が昔を振り返ると、傲岸不遜で唯我独尊な団長様ではなく、長門有希
とのやり取りのほうが多く思い出されるのだ。
恋愛感情ではない、はず。確信はないがそういうのではない。大体、長門はもう死んでしまっている。
俺は死体愛好者ではないし、そういえば長門の死体はどうなったのだろうか。
素朴な疑問なのだが、実に気になる。殺人事件の被害者として警察に回収されてしまったのか、それと
も生徒会に書記として所属しているあの方に引き取られたのか。
どちらにしろ、長門にはもう逢うことは無い。俺の感情が長門に向かったところで、長門からは何も返
ってこない。死んでしまったのだから。



140 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/03(土) 22:31:12.47 ID:Gi6IRik0


      2

ふと、奇妙な出来事を思い出した。
あれは、金曜日。俺が零崎に成って初めての朝。毎朝恒例となっている妹の目覚ましボディプレスを兄
の威厳で寛容に受け入れ、昨日と同じ手順で登校しているときに。そう、出遭った。
《縁が合って》しまった。
異様な威圧感を醸し出す、

――――《狐面》の男に。



141 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/03(土) 22:33:32.07 ID:Gi6IRik0


      3

「お前は、奇怪だ」
あんたに言われるほど、おかしいとは思わんがな。
「『おかしいと思わんがな』。ふん、当たり前だ。もし自身のおかしさを自覚しているなら、お前はそ
うも平然としていられないだろうさ」
おいおい、まるで精神病を患っているような言い方をしてくれるな。
「そちらの方がまだ見れたものだろう。投薬を持って治療するか、最悪何処かに閉じ込めてしまえばい
い。だが、お前は、違う。お前は零崎だ。しかも、とびきりおかしいと来ている」
……あんた、零崎を知ってるのか。
「『零崎を知ってるのか』。ふん、知らない奴は識らないが、知っている奴は識っている」
何故知っている?
「それを聴いてどうする? 零崎らしく俺を[ピーーー]か?」
いや、――いや。殺さない。
「それだ」
なんだ、突然。どれだ。
「日本人なんだから前後の会話文から推測してみたらどうだ。国語の成績は赤点か?」
煩いな。違う。
「なら分かるだろう。お前の奇怪が」
……お前を殺さないと言ったことか。
「それだけじゃない。お前、涼宮ハルヒを殺したんだろうが」
何故それを、
「同じことを二回も言わせる気か。くだらん。俺が此処に来た目的が、そいつだ」
あいつが? 目的ってなんだ?
「過程を飛ばし願望を実現させる能力。幼児の遊戯じみた代物だが、俺の役に立つなら使ってやろうと
視に来たが。肝心の涼宮ハルヒは零崎に殺されていて、そいつと《縁が合う》とはな。極め付けに、そ
の零崎が奇怪とくれば、物語に歪を感じざるを得ない。まったく、つまらなくなってきやがった」
おい、聴けよ。
「ああ? なんだ、自身の奇怪な部分を知りたいのか」
……もうそれでいい。俺のおかしさってなんだよ。
「今、此処に存在することだ」
俺は存在レベルでおかしいのか!?
「違う、そういうことじゃない。お前は涼宮ハルヒ、それと朝比奈みくる古泉一樹。さらに長門有希ま
でも殺した」
ああ、そうだな。間違いない。
「それでいて、お前は何故未だに此処に居る?」

142 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/03(土) 22:34:01.94 ID:Gi6IRik0

それは――、
「お前は零崎に成った。殺人鬼に成り果てた。そんなお前が、何故、日常に留まる。解っているのだろ
う。識っているのだろう。お前は動けない。止まれない。始められない。終われない」
……、……。
「ふん、沈黙は肯定とみなすぞ。つまりお前は。《零れ堕ちた》」
零れ、堕ちた? どういう意味だ。
「意味などどうだっていい。そんなもの、在っても無くても同じことだ。ただお前は演目から弾かれ、
照明も当たらず、舞台に立ち尽くすだけ。役割の無い役者。物語に取り残された主人公だ」
なんだ、それは。意味が――分からない。どうして。
「『どうして』。ふん、それこそまさしく《因果応報》だろう。涼宮ハルヒを殺したのは、誰でもない
お前なのだから」
俺が、あいつを殺したから。だから、俺は《零れ堕ちた》?
「どちらにせよ、結果は変わらない。起こるべきことは起こるし、それを避けることは出来ない。お前
が涼宮ハルヒを殺さずとも、零崎に成らずとも、お前は物語から《零れ堕ちる》」
――そうか。
「それだけか? 主人公らしく運命への対抗心を剥き出しにしないのか。俺の娘が好みそうな熱い展開
を持ってこないのか」
あんたに娘がいたことに突っ込みを入れたいが自重しておこう。とにかく、俺はあんたが言うような主
人公じゃない。それに、仮定の話にも興味が無い。俺は零崎に成ったし、そのおかげで居場所を見つけ
ることが出来た。不満なんてないし対抗心なんて論外だ。
「つまらん奴だ。まあいいだろう。お前は俺と出遭った。このまま動かないまま、止まったまま、始ま
らず、終わらないなんてことは無いだろう」
どうしてそんなことが言える。
「決まっている。俺が人類最悪だからだ」



143 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/03(土) 22:35:21.64 ID:Gi6IRik0


      4

結局、あの人類最悪は何が言いたくて、何をしたかったのだろうか。
時間を置いて考えてみても、まったく意味が分からない。
ただ、解っている。識っている。
認めよう。俺は《零れ堕ちた》のだと。
俺を主人公とした物語は止まってしまった。幕も下ろせず、照明も点かない。
故に、俺は動けない。触れず、離せず、進めず、退けず。
なればこそ、俺は、零崎に成ろう。
零崎として、人類最悪の舞台を演じよう。
故に、俺は流される。触れず、離さず、進まず、退かず。
今までも、これからも。
根本的に、根源の、根幹として。
流され、押され、転がされ続ける俺の名は。

『零崎曳識』

人に曳かれる殺人鬼。

146 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/09(金) 21:31:22.02 ID:jR/ULNI0


      0

私は、ここにいる。



147 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/09(金) 21:34:14.79 ID:jR/ULNI0


      1

何かおかしい。
違和感を拭うことが出来ない。
なんだ、何がおかしい。
思考を掻き乱す未視感に困惑していると、久方ぶりに佐々木が口を開いた。
「そうか、分かったよ。いや、まったくは解らないが、それでも多少は君のことを把握できた」
そう言うと、カップを持ち上げる。それを見て、俺もコーヒーを注文していたことを思い出した。すで
に冷め切っているコーヒーを口に運ぶ。黒い液体が苦味を伴って喉を通り抜けた。
「そういえば」
「うん? なんだい?」
これを佐々木に聞くのは分不相応、不謹慎極まりないのだろうが。
「あー、今ってどうなってるんだ?」
適当な言葉が見つからず、適当な問い掛けになってしまった。
しかしそこは聡明な佐々木のこと。意味を汲み取って俺の聞きたい内容を、明確化してくれた。
「今、とは。宇宙人や未来人や超能力者の動向のこと。で、合ってるかな」
「ああ、それだ」

148 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/09(金) 21:34:44.68 ID:jR/ULNI0

お恥ずかしい限りだが、本当に今更になる。
涼宮ハルヒを殺したとき。朝比奈みくるを殺したとき。古泉一樹を殺したとき。
長門有希を、殺させてもらったとき。
俺は何も考えてなかった。
世界の改変も、未来の改悟も、機関の介入も、朝倉の介在も。
その後どうなるかなんて、考えてなくて。
ただ状況に流されて。
ただ状態に曳かれて。
ただ零崎に寄った。
徹頭徹尾、他人事。まったく情けない限りである。
「ふむ、僕も正確に状況を把握している訳ではないのだが」
そう前置きをして、佐々木は教えてくれた。
「端的に言って、混沌の様相を呈しているね」
「混沌か」
「そう、まさしく混沌だね。天蓋領域は情報統合思念体を。未来人や超能力者の各組織は、ここぞとば
かりに敵対組織を。灰すら残さず、塵すら余さず。互いに互いを叩き潰そうとしているね」
まさか裏ではそんなことが起こっていたのか。ここは法治国家日本なのでまったく信じられない、三日
ほど前の俺だったら。
「今は自分たちのことで手一杯。だから君に出す手がない。妙な力が働いてるのでは、と勘繰ってしま
うほど、拮抗しているのだよ」
思い通りにならない。なるように、ならない。
それは――、それは。
あの《狐面の男》を思い起こさせる。
思い過ごし、なのだろう。まさかあの変人にそこまで、…………ないよな。
「ただ、何時までもこのままな筈が無い。一体、君はこれからどうする気なんだい?」
これから。これから、か。
どうしようもないだろう。俺は動けないから。
流されないと、曳かれないと、ここから動けない。
だから、
「なあ、俺の質問に答えてくれないか?」
「……何かな? 答えられる質問であれば何だって答えるよ」
「そうか、じゃあ訊くけど」
だから、これから、俺がしなくてはいけないのは、
「お前、誰だよ」
幕を下ろすこと。
物語を、[ピーーー]こと。



149 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/09(金) 21:35:50.07 ID:jR/ULNI0


      2

「……何だって?」
目の前の『佐々木の振りをした誰か』が不可解だ、とでも言いたげな表情を作る。
「聞こえなかったか? 本物の佐々木は聴覚に異常無いんだがな。まあいい、もう一度訊くぞ」
一拍置いて、
「お前は誰だ」
それは質問ではなく詰問。
確定で、確実で、確信でしかない。今までの遣り取りを戯言に貶める愚問。
それでも。問いかけなくては終われない。
下ろせない、殺せない。
まだ俺の物語は終わってないから。
動けなくても蠢ける。手詰まりでも足掻いてみせる。
零崎らしく、殺してみせる。
「……、……」
『佐々木の振りをした誰か』は、
「ふふ、ふふふ――。ふ、ふふ」
哂った。シニカルに、恣意に、軽く。
誰でもない微笑を浮かべた。
「さすがだね。否、当然なのかな」
雰囲気が変わった。佐々木じゃない別の誰か、《誰でもない誰か》に戻った。
その《誰かさん》を見据える。彼女はにやにやと楽しそうに哂っている。
「どうして分かったんだい? 成り代わりは完璧で完全だと自負していたんだけどね」
完璧でも、完全でも、分かった。解っていた。
特別なスキルなど必要ない。
単純明快にして、簡単明瞭。
「どうしてだって? そんなの、」
そんなの、決まっている。

「佐々木は俺が殺したからだ」



150 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/09(金) 21:37:27.62 ID:jR/ULNI0


      3

――佐々木を殺した。
昨日、金曜日のこと。佐々木は、俺の友人は北高の校門の傍で待ち伏せしていた。そこで涼宮ハルヒや
零崎や俺について談笑(俺視点で)して、その後に殺した。
だからこそ、俺は五体満足で生きている。
二人の他称『神様』を殺したから宇宙人は地球を見放し、未来人は過去から消え去り、超能力者は自己
を正当化するため聖戦を続けている。
俺にちょっかい掛けてる暇なんて在る筈が無い。
《誰かさん》は俺の答えを聴いて、満足したかのように頷いた。
「やはり、君か。まったく散々だよ。まさかここまで思い通りにならないとはね。さっさと本来の道筋
に戻ったほうが良さそうだ。寄り道をすると碌なことが無いな」
「本来の道筋だと?」
俺が彼女の呼び出しに応じたのは、探る為だ。
佐々木の振りをして何をしようしているのか。俺のことをどこまで知っているのか。そもそも、一体全
体こいつは誰なのか。
それを知るという大いなる目的があったからこそ、俺はこの喫茶店まで赴いたのである。
……単に流されただけ、とも言える。
まあ、結果オーライ。だっぜ。
「なんだよ、本来の道筋って」
「ああ、心配せずとも、少年にはまったく関係ない。と、言いたいところだが、万が一を考慮して一応
尋ねさせて貰おう。少年は《園山赤音》という名の学者を知っているか?」
寡聞にして知らない。そもそも学者の名前なんて詳しく知るはずが無い。一般的な(接頭語として《元》
と付くが)高校生ならそこまで異常なことではないだろう。
「ふむ、その顔を見るに知らないな。ならいい、か。なに、目的といってもそう大したことじゃないよ。
ただいつも通り、《園山赤音》に成り代わるだけだよ」

151 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/09(金) 21:37:59.11 ID:jR/ULNI0

「はあ、」
いつも通りって、この人も変質者か。最近おかしな人と知り合いになることが多いな。これが零崎に成
ったからだとしたら、少し後悔の念に囚われてしまう。だーあーあー。
だけど、後悔に意味は無く、零崎に意図は無い。
起こってしまったのだから、もうどうしようもないよな。
気を取り直して、対話を続けよう。
「あー。そんな目的があるなら、なんでこんな所まで来たんだ?」
《園山赤音》なる学者に成り代わろうとしているのなら、この町に滞在しているのは明らかに間違いで
しかない。それに、この人はさっき寄り道と言った。
この《誰でもない誰か》が、本来の道筋を辿らず、寄り道をするに至った理由。
それは、
「なんでだって? それを尋ねている時点で、君には到底理解できないだろう。私と君はまったく違う
他人なのだからね――」
「…………」
《誰かさん》はせせら笑いながら、こう続けた。
「――二人の『神様』を、ちょっと喰べてやろうとしただけだよ」

155 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/22(木) 09:26:54.96 ID:9LquJBo0


      0

めでたしめでたし。
一度でもいいから、そう言って物語を終わりたい。



156 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/22(木) 09:27:51.11 ID:9LquJBo0


      1

「しかし、今となってはそんなことどうでもいい」
目の前の《誰かさん》は心底からどうでもよさげに、そう吐き捨てた。
「どうでもいいのか」
「当たり前だろう。そも、つっこみ役の少年のためにわざわざボケたというのに。流してしまうとは思
わなかったぞ」
「分かりにくいんだよ」
もしかしたら、なんて思っちゃっただろうが。
にやにやと口の端を歪める《誰かさん》。何がそんなに可笑しいんだ。
「ふふ、いや、ね。少年は本当に異常なんだな。と、思ってね。いやいや実に興味深い」
この人もそんなことを言うのか。奇人変人の度合いなら目の前の《誰でもない誰か》や、自称《人類最
悪》のほうがよっぽどだと確信している。
確かに俺は殺人鬼だがそれでも、断言できる。
「あんたよりはマシだ」
「ふふ、くふふふ」
笑い出した。なんだ失礼な。俺はボケたつもりはさらさら無いぞ。
「ふ、ふふ。ああ失礼。なかなか面白い冗句だ。少年が何故そこまで『普通』に固執するかは私の知る
ところではないが、違うよ。そういうことじゃない」
シニカルに哂いながら、《誰かさん》。
「性格に普遍的な性質を持っていないという意味ではなく、精確に不変的な性質を持っていると言いた
いのだよ」
「さっぱり解らん」
だいたい同音異義語は小説上での表記でなくてはまったく理解できない。『せいかく』に『ふへんてき』
な『せいしつ』。鼓膜を振動させるのに大した違いはない。
「つまりだね」
――っん。……来た、きたきた。
《誰かさん》が何か言ってるが、まったく耳に入らない。
来た。違和感。さっきも感じた違和感だ。
未視感。
おかしい。そうだ、おかしいぞ……。どうして、
「少年は、流されすぎだ」

どうして、――人が居ないんだ!!



157 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/22(木) 09:28:27.55 ID:9LquJBo0

居ない。人が居ない。客も、店員も、誰一人居ない。
この喫茶店内に、人の気配がまったくしない。
居るのは、俺と、《誰かさん》。それと、さっきの店員が一人だけだ。
その店員が、《誰かさん》の元へと歩み寄ってくる。
そして、――そして。
「ああ、もう終わりそうだよ。深夜」
「そうか。それじゃ?」
「お役御免、だろう。やっとだよ」
何を、言っている。
状況についていけない。目まぐるしく回る思考。回るだけでそれは纏まらず、動けない。
「私との会話に《流され》過ぎて気付かなかったのかい。つくづく、異常だな。いっそ異能か」
言葉が出ない。今、何が起きている?
「はあ、解らないのか? 未だに私がこの町に留まっている理由だよ。一つは、少年に対する意趣返し
として。そしてもう一つが、依頼されてね」
「……依頼?」
「理性の消失、もしくは本能の暴走。そう言ってもいいかもしれないね。古今東西、殺人鬼なんて怨み
だけは上手に買うじゃないか」
まさか、そうなのか。あの人が。
そうだ、十分有り得ることじゃないか。友人を殺されて、たとえ殺したのが知人だとしても。
あの人が、何もしない訳がない。
「鶴屋財閥の御令嬢とは顔見知りでね。親友の仇を討ちたい、なんて人情味溢れる意気込みをぶつけら
れて協力しないなんて、非人道の極みだと思わないかい」
その言葉を合図にしたかのように、喫茶店の入り口、さらには駅前に面した窓をぶち破って漫画から抜
け出してきたみたいな黒服さんがぞろぞろと、ぞろぞろと、ぞろぞろと、店内に侵入してきた。
……、…………うわぁ。
「ふふ、まあ、死なない程度に頑張ってくれたまえ」
振り返ると、……《誰かさん》が、いな、かっ、た。あの店員も、いない。
何だよ畜生!! 嵌められた!!
いくら流されるからといっても、これはない。これはダメだ。どう考えてもデッドエンド一直線。
たとえ殺人鬼でも、たとえ零崎でも。数の暴力には屈するほかないだろう。《兄さん》ならまだ何とか
できるのだろうが、残念なことに俺は成り立てだ。どうしようもない。
目の前の黒服たちが自らの得物を懐から取り出す。うわ、拳銃とか本物初めて見た。
あー、今なら。なんとなく、肯いてしまうのかもしれない。
確かに、これは異常。まるで、この展開に至るように、決められていたかのように。
「まあ、でも」
異常でも、異能でも。殺人鬼が言っていいことじゃないんだと思うけれども。
「ここで死ぬわけには行かないよな」
居場所を見つけた。家族が出来た。
なら、生きるために足掻いてみるのも、悪くない。


「やれやれ――――それじゃあ、零崎を始めるとしますか」



158 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/22(木) 09:29:06.97 ID:9LquJBo0


      2

零崎に成る前。俺は正真正銘、唯の一般人だった。
それは、あのニヤケ面のエスパー少年が断言してくれた。
クラス委員長に殺されかけたり、時を遡ったり、変な空間に取り込まれたりもした。
それでも、そのいずれも俺は巻き込まれただけ。あくまで受動態だった。
平凡にして平淡に、平常にして平和に高校生をやっていた俺が。そんな俺が、どうして。
「――やれば、できるもんだな」
喫茶店内は真っ赤になっていた。
生きているのは俺だけ。黒服の皆さんは揃って今日を命日としていた。
「うわぁ」
店内を見渡して、ドン引きした。
そこには、割れたガラス片で首を切り裂かれた人が。ネクタイで首を絞められた人が。テーブルに押し
潰されている人が。内臓が零れている人が。右胸に空洞がある人が。目玉がない人が。舌がない人が。
腕がない人脚がない人が耳が鼻が口が潰れてぐちゃぐちゃで何もなくてない人が。人ひとがヒトヒト人
ヒトガ人ガ人がひとが。
みんなしんでる。しんでる。
だれもかれもみんな、いきをしていません。
それを、見て、視て、観て。俺は――。
「………………………………」
なにもおもいませんでした。
なにも、おもいませんでした。


159 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/22(木) 09:29:49.65 ID:9LquJBo0


この結果。
何十人と押し寄せてきた黒服たちを俺が皆殺しにしたことは、有り得ない。
俺は殺人鬼で、でも成り立てで、その前は高校生で、だから。
この惨状を創り上げるほどの殺人技術を、俺は有していない。
予想外の結果。生き残った。それも、余裕を持って。
自分が着ている服を見下ろす。血が、一滴も、付いていない。自分の血も、黒服たちの血も。
鮮血に染まったこの空間で、俺だけが浮いている。
認識している。自分のできることを。
多分、今の俺なら。たとえコップ一杯の水でも、それを遣って溺死させられる。蜘蛛の糸でも、絞殺で
きるだろう。
ナイフも拳銃も必要ない。武器である必要など何処にもない。
人に曳かれて、状況に流されて。そこにあるものならば、何だって遣える。
それは、そんなのは。まるで、現象みたいだ。
そうなるから、そうする。殺せるから[ピーーー]。
……考えても仕方ないな。零崎だから、ということで納得しておこう。
俺が突っ立っている環境は今までの人生の中で最悪に劣悪だ。故に、新鮮な空気を肺に入れるため、取
りあえず外に出ることとする。
入り口に向かっている途中、ふと下を向くと、そこには血塗れの床と、人間の右手だと推測できる肉塊
と、それと。軍隊に採用されてそうな恐ろしげなナイフ。
俺はそれを拾い上げるとそこら辺の布でこびり付いた血を拭い、別の布を引っ張ってきて刃に巻きつけ
てポケットに突っ込んだ。
そのナイフは、何故かしっくりと馴染んだ。


160 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/22(木) 09:30:38.32 ID:9LquJBo0


      3

喫茶店を出たところで、声を掛けられた。
「やあやあ、よかった。ちゃんと再開できて何よりだよキョン君。どうもこの町はきな臭くてね、せっ
かく見つけた可愛い弟に何かあったらと心配していたのだけれど。無事で何よりだ」
「兄さん」
「うふふ、《兄さん》、か。いい響きだね。あの可愛いさだけが取り得の愚弟にも見習って欲しいもの
だよ」
「……はあ」
何はともあれ。
《自殺志願》の二つ名を持つ、《零崎一賊》の長兄。
零崎双識の登場だった。

兄さんは俺を見て、喫茶店を見て。そしてまた俺を見ると、
「これはキョン君が?」
と訊いてきた。
特に隠すようなことでもないので、素直に頷いておく。
「ほう、キョン君が。これは全くの予想外だ。いや想定内、なのかな。まあ、なんにしろ、丁度良かっ
た」
喜色満面といった体で、兄さんは下ろしていた左手を少し上げた。
視線を兄さんの左手に移すとそこには……えっ? あれ?
そこで何してるんですか、鶴屋さん。
「うふ、うふふ。彼女がキョン君のことを話していてね。不躾だとは思ったけど大事な大事な弟が話題
に上っていたから、聞き耳を立てたんだ。そしたら、なんと、キョン君のことを[ピーーー]計画を立てていた
んだよ」
元気溌剌だった先輩だったモノを眺めながら、兄さんの話を聞く。休日の駅前だというのに、今日はや
けに静かだな。支障はないので気にしないことにした。
「キョン君は成り立てだし、兄としては心配でね。それに彼女は《不合格》だったから、だから」
だから、殺した。
「はあ、そうですか」
口からでたのは、それだけだった。
思い出はある。それも楽しい物ばかりだ。それでも、なにもおもわない。
「うん、そうなんだよ」
そして兄さんは八重歯が素敵だった先輩だった物を引き摺ると、喫茶店の中に放り込んだ。
どちゃ、べちゃ、という音がした。そして、気付いた。
これで、お終い。
幕は下りた。
物語は死んだ。
――俺の物語は。



161 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/22(木) 09:32:18.80 ID:9LquJBo0

「ところでキョン君はこれからどうするんだい?」
喫茶店のトイレで手を洗ってきた兄さんが、唐突に聞いてきた。
「これから、ですか?」
「うん。できれば、『アス』とか『トキ』とかにも紹介をしておきたいんだけど。人識君の方も気にな
るからね。きみ次第でこれからどうするか決めようかと思うんだ。キョン君はまだ成り立てだからね」
どうにも心配してもらっているようだ。
これから、か。どうするべきか。全く何も考えてない。
流されて、曳かれて。《零れ堕ちた》俺はまだ何をするべきか解らないけど。
「あの、京都に行こうかと思います」
「京都に?」
「ええ」
なんとなく、予感がある。
京都に行かなくてはいけない。
そこで、遭わなくてはいけない。
誰のことなのか、何のことなのか、それさえも解らないけれどそれでも。
「京都に行きます」
そこから、始まるんだろう。
何かが。
そんな、気がする。
だから――、俺は《零崎曳識》として。

別の物語に《流される》。


《The melancholy of suzumiya haruhi》is BAD END.......

162 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/22(木) 09:33:16.54 ID:9LquJBo0



      観客席から、下りた緞帳を観て


「成る程。これも一つの《物語の終わり》と言えるのかも知れん。物足りんがな」
《物語の終わり》……ですか?
「ああ。それが俺の目指す先。俺は、物語の終わりが見たい」
そうですか。それにしても今回の《彼》を中心とした物語。私にはいくつか解らないところがあったの
ですけど。
「『解らないところがあった』。ふん、当然だ。一つの視点から得られる情報量など高が知れている。
お前は《スピンオフ》に聞き覚えはないのか」
……外伝的な意味合いを持つ物語のこと、でしょうか。
「そうだ。この物語では識り得なかった事柄。涼宮ハルヒ・朝比奈みくる・古泉一樹・長門有希、それ
から、あの佐々木とかいう女の殺害方法やそれらを隠ぺい工作をした存在。《あいつ》の異常な殺人技
術の理由。鶴屋という女と《誰でもない誰か》の接点。零崎双識と鶴屋の出会い。人気のない駅前。そ
して、《あいつ》の、これから」
はい。
「それらは全て、《スピンオフ》で語られるのかもしれない。或いは、誰も識ることもなく埋もれて行
くのかもしれない。だが結局のところ、そんなことはどちらでも同じことだ」
そうですか。……そうなのでしょうね。
「ふん、ところで。何時まで俺についてくる気だ」
《彼》に逢えるまで、です。貴方についていけば、いずれ出逢う事になるのでしょう。
「何故そう思う」
勘です。
「……そうか」
ええ、そうです。
「まあ、いいだろう。だが俺についてくる以上、俺の役には立ってもらうぞ」
《物語の終わり》を見るためですか。いいでしょう。ただし、《彼》と逢えるまでです。
「それでいい。あと、そのメイド服は良いとして、俺の傍にいるのなら伊達でも眼鏡を掛けてもらうぞ」
……眼鏡属性なんですね。
「『眼鏡属性なんですね』。ふん、眼鏡属性がない奴は人間失格だ」
……、……そうですね。
「ん? おい、なにを露骨に離れてる。ちょ、おい、聞こえない振りをするな他人の振りをするな!」
ワカリマシター。
「片言じゃねえかっ! もういい、行くぞ!」
はい。
「――ふん」


163 名前: ◆GrEv49dPaw[] 投稿日:2010/04/22(木) 09:35:26.77 ID:9LquJBo0

以上で終わりです。
目を留めてくださった方。
書き込みをくださった方。
本当にありがとうございました。



ツイート

メニュー
トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:キョン「…ふぅ」