涼宮ハルヒの憂鬱……か 再


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3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 03:12:52.69 ID:rbWJsv97O

俺はとある県立の北高に通う高校生である。

「涼宮ハルヒの憂鬱」という売れないライトノベルを読んだ事が原因かどうかは不明だが、
程なくして同じくコアな読者である鈴木はるこという少女に出会い、そして様々な事件、人物に巡り会う事となった。

俺は人から「キュン」と呼ばれていた。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 03:14:08.49 ID:rbWJsv97O

ワープする夏休み、七夕777事件、短門の世界不思議改変、裏山での遭難……などなど数えればきりがないほどの「涼宮ハルヒの憂鬱」っぽい事象に巻き込まれていた。
言うまでもなく、半端な感じでそれは起きていた。

そのいくつかを紹介したいと思う。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 03:15:20.61 ID:rbWJsv97O

夏真っ盛り、猫まっしぐら。
俺たちは、港のフェリー乗り場に集合していた。はるこの強引な提案により
BBQ団は合宿を行う事になっていた。大泉の親戚だか知人だかが所有する島とそこに鎮座する別荘。

今回の舞台である。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 03:17:44.62 ID:rbWJsv97O

目的地までは約6時間かかるらしい。
時間潰しにぶらぶらと船内を歩いてみる。どうでもいいが先ほどから全身タイツのような黒ずくめの連中に遭遇するのは何かの予兆だろうか?

「なんなんだありゃ」
と呟いたところで妙な3人組が視界に入った。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 03:19:17.60 ID:rbWJsv97O

左からいかにも仕事の出来そうなヒゲ、鼻水を垂らした色黒出っ歯の眼鏡小学生、頭の悪そうなギャル女子高生。
何の集まりだか分かったもんじゃない。

小学生に至ってはシミのついたランニングに蝶ネクタイといった有り様だ。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 03:20:22.80 ID:rbWJsv97O

その後、船内に戻り俺たちBBQ団は特にする事もないという理由でババ抜きをひとしきり楽しみ、
全敗した大泉が買ってきた人数分のジュースを黙々と飲んでいた。

「気持ち悪い……」
明朝比奈さんが顔を真っ青にして呟いた。
そりゃ、美味しかったからといって自腹で148本のジュースを買って一気飲みすれば具合も悪くなろう。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 03:21:37.83 ID:rbWJsv97O

「それはよくないわね。外に出て潮風を浴びてればすぐ直るかも」
そういってはるこが明朝比奈さんをデッキに連れて行った。
「心配しなくていいわ、海に突き落としたりしないから。
んん……それもいいかしら船上から忽然と消え失せる女……」
と言っている中、明朝比奈さんが寄りかかっていた冊がその重みに耐えきれず決壊し
動く肉塊は海の藻屑なった。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 03:23:02.72 ID:rbWJsv97O

合宿に先駆け大泉がこんな事を言っていた。
「今回の合宿は鈴木さんにささやかな娯楽を提供しているだけです。そうでもしないと彼女が退屈を紛らわせるために
どれだけの店が被害を被ることか計り知れません……」

鈴木はるこは涼宮ハルヒの小説とは一線を画し、一定量のストレスを溜めると
閉鎖空間を作り出し神人と化して万引きをを行うのだ。

ちなみに今回の件に関して『機関』は無関係と言う。

どうだかな。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 03:27:06.40 ID:rbWJsv97O

やがて目的の港に到着しフェリーを降りた俺たちを、執事とメイドが待ち受けていた。

「お待ちしておりました。執事の古川と申します」
無髪剃眉青髭のイカレた老紳士が挨拶して再びの一例。
相変わらず涼宮ハルヒの憂鬱シリーズの微妙な焼き増しだ。やっぱりはるこの力だろうか。

「鈴木はるこは恐らく普通の人間ではない」
長門が消えそうな声でそっと呟いた。
「情報統合思念対体の見解は鈴木はるこは涼宮ハルヒと類似した力を持つ有機生命体」
そう言ってまた押し黙ってしまった。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 04:13:08.10 ID:rbWJsv97O

BBQ団準団員として合宿参加の長門有希は、小説の中だけの空想の人物であったはずが、実際に俺たちの前に現れ、さらには俺を漁原凉好の魔の手から救い出してくれた。
彼女曰わく、この世界担当の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースとして派遣されてきた……との事だ。
涼宮ハルヒの世界は終焉を迎えたとも言っていた。
結末は?と尋ねると
長門は困惑した顔つきを見せた。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 06:17:36.62 ID:rbWJsv97O

ちなみにBBQ団正団員の短門逝希は長門によるところ別の情報統合思念体に作られた対有機生命体なんちゃららしい。
情報統合なんちゃらにも序列があるらしく短門の親玉は所謂窓際族だそうだ。

口癖は「呪うよ」だ。勝手にすればいいと思う。
どうでもいいがあまりくっつかないでほしい。

短門は不自然に俺に寄り添い「ククク」と笑いを零した。

寄るな、触れるな、気持ち悪い。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 08:40:39.49 ID:rbWJsv97O

続いてメイドさんが挨拶。どうせ林だのとかいう名字だろ?






と見せかけてだ。

俺にはこの何ヶ月で得たどうでもいい不可解現象に対する耐性ができたからな。

ここはそんなありきたりの裏のかきかたはないだろう。本命は『木』だ。

さて。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 08:43:59.24 ID:rbWJsv97O

「……森園生です。どーぞよろしく」
気だるさ満点、投げやりにそのメイドは言った。
はい、目が笑ってません。

……ところで、長門に続いて本物が現れた。ただ整合しない点は、明らかに職務を全うしようとしていない姿勢だ。
どういう事ですか?森さん?
どこかやらされてる感のある態度、見るもの全てを見下した目をしている。

……あ、今見えないように唾吐いた。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 08:46:23.77 ID:rbWJsv97O

イカレた老紳士が操縦する船に乗り別荘へと向かう。30分ばかりの時間であったが
その間も森さんはアメリカ人が聞いたら激怒しそうな言葉を延々呟いたり唾を海に吐き捨てていた。

ちなみに大泉は無言で震えており、明らかに森さんに畏怖を覚えてる。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 08:51:19.84 ID:rbWJsv97O

島に着くと館の主人が俺たちを出迎えた。
「やあ、大泉。久しぶりだねぇ、髪切った?」

「こちらが館のご主人のタモリです」
大泉が言った。

「ちょっと痩せた?」

時計を見ると針たちは12を差して重なっていた。

いいのか?

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 09:30:50.99 ID:rbWJsv97O

「こちらの皆さんは学校でとてもお世話になってる方々です」
大泉は一人一人を指差し確認しながら
「この割と可憐な方が鈴木はるこさん。」

「鈴木です。よろしこ」
生まれ持っての中途半端だ。しょうがない。

こちらが「長門有希さんです。学業にすぐれ、僕の知らないような知識の宝庫と言えるでしょう。
無口ですが、そこがまた彼女の魅力であるとも言えます」

「こっちが短い方です」

短門が呪いの文字を体で表現していた。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 09:32:20.75 ID:rbWJsv97O

俺の紹介は割愛させて頂く。

その後、タモリの弟も合流し崖の上の別荘へと向かった。崖から海岸を見下ろすとフェリー内で見た妙な3人組が波打ち際でテントを張っていた。

「なにしてんだアイツら」
見たままお伝えするとギャル女子高生に蹴りを入れられたアホ面小学生が
スケボーに乗りながらヒゲ紳士に時計を構えながら針治療をしているようだった。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 09:36:04.03 ID:rbWJsv97O

一日目は何事もなく過ぎていった。なにかあったとすれば森さんが古川さんの背中に向けて
こっそり中指を立てていたのを目撃してしまったくらいか。

ちなみに森さん、話しかけると9割舌打ちが返ってくる。

長門に訊いてはみたが彼女は間違いなく涼宮ハルヒの世界の住人だったらしい。
彼女もまた特別な存在なのだ。長門曰わくこちらの世界の中途半端さに嫌気がさしているらしい。

向こうの世界では森さんがいなくなった事をどう考えているのだろうかと思ったが
「あちらの世界は終焉を迎えた」と いう長門の言葉を思い出し思考を止めた。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 09:39:16.34 ID:rbWJsv97O

二日目の朝。天気はいきなり嵐になった。


はるこは俺たちを振り返り、
「本当に嵐の孤島になったわ。一生もんの状況よ。起きるかも、事件」
はるこが望んでいた怪しい事件、不思議な現象が起きてもおかしくない状況が出来上がっていた。
違う。はるこは涼宮ハルヒじゃない。事件なんか起こってたまるか。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 09:42:56.09 ID:rbWJsv97O

台風は明後日までには何とかなるらしく、外出のできない俺たちBBQ団は遊戯室で時間を潰した。

はるこが提案をする。
「じゃあピンポン大会!リーグ戦でBBQ団初代チャンピオンを決めるわよ!」

「サー!!」

既に短門はジャパンのユニフォームに袖を通して素振りをしていた。

ちなみにタモリが優勝した。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 09:45:49.63 ID:rbWJsv97O

ピンポン大会の後は、麻雀大会が開催の運びとなった。大泉以外のBBQ団メンバーはやり方を知らなかったので
教わりながらのプレイである。
ざわ…

       ざわ…

「倍プッシュだ」

短門がクククと漏らし、破滅がどうのとのたまったのち
短門はトんだ。合わせて貧血で運ばれた。

半荘は四回行われ、俺はリンシャンでのみ上がりつつ四連続±0だった。

はることいえば、

「ロン!多分一万点くらい!」
「鈴木さん、それチョンボですよ」

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 09:55:22.82 ID:rbWJsv97O

事件は三日目に起こった。


タモリとタモリの弟がいつまで経っても食堂に姿を見せない。
昼の12時を過ぎたというのに。

「皆様」
イカレた老人が不機嫌全開の森さんを伴って俺たちの前に進み出た。
……あ、今膝でこっそり小突いた。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 10:04:51.05 ID:rbWJsv97O

話を訊くとどうやらタモリの弟が部屋から姿を消し行方不明。タモリに至っては電話に出ないらしい。

電話に出ないタモリは最早タモリではないじゃないか。

いいのか?

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 10:07:05.72 ID:rbWJsv97O

タモリの部屋の鍵だけはスペアキーも含めタモリしか持っていないらしい。

「これからタモリの部屋に赴こうと思います。皆様もご同行願えないでしょうか」
イカレた老人がこちらに向けてそう言った。

この言葉は約束を交わすために用いる使い古された常套句であるが、
しかしながらそれでいてまるで魔法のようでもある。
なぜならばこの文句を口にすれば俺たちは明日の昼に元気なタモリに再び会える、そういった確信が持てるのだ。

願いと希望を込め俺たちは口を揃える。




「いいとも」
と。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 10:29:07.95 ID:rbWJsv97O

手短に話そう。
タモリの寝室のドアを叩くが返答はない。
「内側に鍵がかかっているという事は中に誰か人がいるのです」
大泉がそう言うと、
「最終手段です。ドアを体当たりで破りま……」

瞬間、短門が親の仇の如く壁にぶち当たる。

「目標をセンターに合わせて呪い!目標をセンターに合わせて呪い!
目標をセンターに合わせて呪い!目標をセンターに合わせて呪い!」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 10:31:09.49 ID:rbWJsv97O

程なく、扉が破られ短門がそのままの勢いで室内に倒れ込み、そして――。

扉近くの絨毯の上。そこにグラサンが一人。胸にはナイフ。
昼になっても食堂に降りてこなかった館の主人である。

イカレた老人……イカ老が指先を首筋に当て、
「亡くなられております」
青髭をさする。

「お昼の顔も形無しだ」
森さんが呟いた。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 10:32:21.57 ID:rbWJsv97O

「死体に触れないで!」

唐突に聞こえたその声の方角に首を向けると、

「四万十川ロマンジーニョ。探偵さ」

聞いてもいなければ聞きたくもない。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 10:34:06.51 ID:rbWJsv97O

ロマンジーニョはタモリに近づきグラサンを一舐めし、
「あれれ〜死んでるよ〜」

見ればわかる。

と、おもむろに腕時計を取り出し四方八方に針を連射し始めた。

「ギャー!!」

当然の反応である。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 10:37:57.66 ID:rbWJsv97O

その時である、
「てめぇ!ロマンジーニョ!勝手に出歩くなって言っておいただろうが!!」

どうしようもないギャル女子高生がロマンジーニョにハイキック一閃。

「ヘボン!」

ロマンジーニョが地に伏した。
ヒゲ我関せず。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 10:40:25.35 ID:rbWJsv97O

「ご……ごめんよ……ら、乱ねぇ……ちゃん」

部屋の中は無惨にも俺と長門以外が倒れていた。

刹那。またしてもロマンジーニョが虫の息で針を打つ。方向はヒゲ!

「てめぇは何回言えば!」

ジャンピングニー。

「ガベラ!」

ロマンジーニョの顔が歪む。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 10:44:40.12 ID:rbWJsv97O

かくしてロマンジーニョは無差別傷害でお縄にかかる事なった。

また、タモリの事件はもともと大泉による機関の壮大なドッキリであったはずが
短門の破ったドアの重みにより胸の前で止まっていたはずのナイフを押し込む事により
トドメをさしてしまったのである。

これにより短門は少年院送致となりとなった。

そして、俺は見逃さなかった。森さんがタモリのグラサンに唾を吐き捨て含み笑いをしていた事を。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 10:47:09.00 ID:rbWJsv97O

――時は流れてある日の事。

俺と長門はある住宅街を肩を並べて歩いていた。

「こっちで合ってるのか?」

「座標位置を確認。目標は北西2キロ」

「そうか」

俺は地図と前方に注意を注ぎながらさらに歩を進める。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 10:56:58.58 ID:rbWJsv97O

遡ること一週間前。

「涼宮ハルヒの憂鬱の著者との接触を試みる」
「著者って……谷川流か?」
「そう」
「何かあったのか」
「私がこの世界に派遣された時からタイミングを図っていた。
確認すべき事象はなぜ涼宮ハルヒの世界と歴史を認知しているか。
鈴木はるこの力を解明する手立てになる可能性は高い。
でも私は現在まで当該する人物の座標を捕捉する事が出来なかった」
「今は出来たのか」
「そう」

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 11:01:13.00 ID:rbWJsv97O

てな訳で、まあ俺自身も興味がなかったわけでもないし、
長門と放課後に肩を並べて街を散策ってのも十二分に魅力的だったわけで
同行させてもらったってこった。
しっかし売れないラノベ作家っていうのはどんな風貌なのかと
頭の中で昭和のベレー帽を被ったような漫画家辺りを想像した。

「この建物の708号室」
「行くか」

小さく頷いて、長門は大人しく俺の背後霊のように後に続いた。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 11:04:01.17 ID:rbWJsv97O

インターフォンを鳴らす。一回……二回……三回。
返事がない。ただの留守のようだ。

「留守ではない」

長門が言った。長門が高速で何かを呟く。入り口を閉ざしていた鍵の開く音がした。
そっと扉を15センチほど開け声を掛ける、

「すみませーん、谷川さーんいらっしゃいますかー」

やっぱり留守なんではなかろうか、そう頭の中で独り言を呟いたとき、

「……はい」

四十代……いや三十そこらだろうか男性がのらりくらりと玄関へ近づいてきた。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 11:08:40.97 ID:rbWJsv97O

長門は開いた扉の裏側に廻り様子を窺っている。

――「私は直接接触しない方が望ましい」
ま、本人が作り出したキャラクターって事になってるし、
位置を捕捉出来なかった経緯もあるから迂闊には近づけないだろうしな。
……しかしながら俺がそんな相手と接触して何事もなく事が進むのか?
漁原涼好のような目は勘弁してほしい。
まあ、いざとなれば長門が手の届く距離にいる事が
俺の安心材料であったから臆する事なく行動できたわけだ。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 11:11:05.53 ID:rbWJsv97O

「……あの新しい編集の方ですか?あれ……おかしいな鍵は掛けたはずだったが……」
続けざまに、
「すみませんね……いや頭の中では纏まってはいるんですが
……どうにもいざ書くとなると」

なんか言い訳じみた事をボソボソと呟いている。間違いない。
この人は谷川流であり、目の前で繰り出されている苦しい言い訳は
驚愕の事だろう。

「俺は編集者じゃないです」
「え……?あれ本当だ、その格好学生さん?」

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 11:13:05.65 ID:rbWJsv97O

「はい。近くの北高に通っています」

「そっか、ごめんよ学生。勘違いしちまった」

「いえこちらこそ突然押しかけてしまって」

「ああ、いいんだいいんだ。どうせ暇だったから。ところで何の用かな?」

「あ、すみません実は俺、涼宮ハルヒシリーズのファンでして」

「へぇ、珍しい人もいたもんだ。」

売れていない、という自覚はあるらしかったが当の本人は気にも留めない様子だ。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 11:15:36.35 ID:rbWJsv97O

「お話する時間は……」

「ああ、構わない。何でも聞いてくれ」
余程暇だったらしい。俺が思うより先に自らそう言ってたからな。

「驚愕は出さないんですか?」
「ハハハ、いきなり痛いとこつくなあ少年。う〜ん……
出さないというよりは……出せないがが正解かな」

出せない?どういう事だ。まさかどこぞの悪の結社が子供を
人質に出版差し止めでも唱えているなんて事はないだろう。
「そりゃ傑作だ。今度の言い訳はその線でいこう」

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 11:21:19.67 ID:rbWJsv97O

「立ち話もなんだし中に入らないかい――」

谷川氏が促す。長門はどうするか……
「おや、そこのお嬢さんも君の連れかい?なんだ言ってくれたら良かったのに。
二人とも入った入った」
「!」

一瞬、長門が驚いた表情を見せた。珍しい。気づかれないてでも思ったのかね。
まあ、玄関から一歩前に出てしまえば確かにバレバレではある。
まさか部屋の中へ促されるとも考えてなかったしな

「……わかった」
緊張した面持ちから解けない長門とともに部屋へと続く廊下を歩く。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 11:24:37.46 ID:rbWJsv97O

「あら、お客さんかしら」
えらく張りのある素っ頓狂な声を上げた女性が谷川氏に声を掛けた。
「ああ、俺の小説のファンなんだと」
「珍しい人もいるもんね」

こういわれたら小説家なんて肩書きも形無しだろう。
しかし谷川氏は意に介さず、
「全くだ」
と同調する始末である。どうやらこの女性は氏の奥さんであるらしい。
テレビの上の純白な二人の写真が物語っていた。
妻であろう女性は谷川氏と同じ三十代半ばらしかったがあると思うが、
かなりの美貌を擁しており、そのせいもあり二十代といっても差し支えはないほどだった

「それで驚愕が出さないのではなく、出せないというのは……」

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 11:30:23.80 ID:rbWJsv97O

谷川氏の奥さんが湯のみに注いだお茶を運ぶ。

旨い。

「あ〜……んん、なんと言ったらいいかなあ……んー」
谷川氏は固く腕を組み目を床に伏せ唸っている、
と玄関の方角からガチャガチャと扉を開ける音が響いた。

「ただいま〜」

「お、娘が帰ってきたようだ」

その時の俺の顔はまるで宇宙人と未来人と超能力者が一遍に目の前に現れたような顔だったに違いなかっただろう。


俺は驚愕した。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 11:35:02.30 ID:rbWJsv97O

「あんたなんでいるの!」
眼前にいるはまさしく我がBBQ団団長鈴木はるこであった。

「……」
「なんだはるこ知り合いか」
「ちょっとどういう事か説明しなさいよ!」
はるこが怒鳴る。説明していただきたいのはこちらである。
「そうかあなたがキュン君ね」
奥さんが言った。なんだなんだ、何がなんだか五里霧中。
あと、はるこお前夕食の話題に俺を持ち出して何を家族で話したんだ。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 11:45:26.75 ID:rbWJsv97O

「……涼宮ハルヒ」
長門が不意に呟いた。

「えっ」
「えっ」
「えっ」
「えっ」

「有希!」
「長門!」
二人が叫ぶ。

長門の方を向く。頬に一筋の道が出来ている。そして確かに長門は微笑んだ、ように見えた。
「やっと……今まで……グスッ、さび……しかった」
あの長門が感情を表すその言葉をごくごく自然に口にした。
三人は強力な磁力に引かれるように吸い付き、暫しの間その磁力が落ちる事はなかった。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 11:51:26.99 ID:rbWJsv97O

10分程して落ち着きを取り戻した三人。

――そして語られた過去

「世界規模の戦争が起きたんだ」
と超能力谷川氏改めキョン(さんをつけるべきか?)が口を開いた。
「勿論ハルヒはそんな世界は望むはずはなかった、でもそれは止まる事なく現実として突きつけられたんだ。
俺らの街も戦火にまみれるまでそれ程時間は要さなかったよ」
キョンはゆっくりと記憶を掘り返しながら言った。(さん付けはやめだ)

ちなみにはるこは顔を真っ赤にして自室に閉じこもってしまった。
その方が都合がいいとキョン。はるこには聞かせられないそうだ。

「そして一件の喫茶店が燃え落ちたんだ」

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 11:59:56.19 ID:rbWJsv97O

「もしかして……」
「ああ。市内探索に使ってた店だ。ハルヒはショックだったんだ。宝物を壊され子供のようなもんだったんだろう。
それが切欠だったんだ。ハルヒは情報爆発を起こした。そして世界を移動した」

涼宮ハルヒは眉間に深い皺をつくり複雑な面持ちを保っていた。
「それがこの世界……ですか」

「違うわ」
涼宮ハルヒが小さく呟いた。
「え?」
予想外の返答。

「実は異世界移動は二回あったんだ」
「この世界の前にですか」
「そう。そして最初の異世界移動で辿り着いた先でハルヒは気づいたんだ自分の力に」

長門はこの際に二人との接触が不可能になったそうだ。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 12:15:14.30 ID:rbWJsv97O

「最初はハルヒも俺も苦しんだんだ。現実と事実、過去とこれからの未来。
受け止めなきゃいけないもの全てが重かった
でも前の世界に残された人たちの事を考えたらね」
「はい」
「でもくよくよしてもしょうがない。だからこそ死ぬ気で生きなきゃって。
でもね、身寄りもいない世界で生きていくのは想像以上に大変だったんだ。
なんせ17才の子供だ。仕事一つ就くにもままならない、金がなきゃ生きていけない」
キョンは続ける、
「そこで考えたんだ。ハルヒが自分の力を自覚して、今までの事を理解できているんだったら
そのまま本にして出版したらどうかってね。淡い期待程度だったがね」

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 12:25:08.41 ID:rbWJsv97O

「そりゃあ凄かったよ。本はバカ売れ、そこから派生したアニメ、ゲーム、漫画、フィギュア……
一躍時の人だ。作者としても登場キャラクターとしても」
キョンが懐かしそうに笑ってるようにみえた。

「その世界はどんな世界だったんです?」
単純に興味からの質問だ。だってそうだろう?同じ作品を出版して
こう売り上げに差があるなんてどんな世界だったんだ。
「んー……そうだなあこちらの世界と違うといえば、中国産の食べ物が危ないとか」

なんと。

こちらの世界の中国産の食品は徹底した生産管理による賜物で今や世界一の優良食品だ。
「あと……あ、西暦っていう紀年法を使っていて俺たち二人がその世界にいたのが
ちょうど……西暦2009年7月までだったよ」

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 12:28:37.41 ID:rbWJsv97O

「2009年……ですか、こっちの世界とは全然違いますね。あ、その7月までっていうのは……」
「ああ……その世界は滅亡の一途を辿った。新型インフルエンザってのが蔓延したんだ」
「インフルエンザですか」
「そう。正直みんななめていた。でも大間違いだったんだ。
5月に東京の町田市、山形の天童市、岐阜の大垣、
愛知の名東、広島の呉、大分の日田市、北海道の岩見沢、
大阪の東淀川……だったかな、で発見されたウィルスがあっという間に全国に広がった。
ワクチンは全く効果を示さなかった」
「それで……」
「二度目の異世界移動だ」

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 12:33:21.01 ID:rbWJsv97O

「そして今の世界に着いた。そこでハルヒの力が消えたんだ」
涼宮ハルヒが徐に
「あんな力なくなってせいせいしたわ。あんなのインチキよ」
と鼻息荒く言い放った。

「それから俺たちは結婚して新しい命を授かった」

「それがはるこですか」

「ああ。はるこは俺の本を読んで色々影響されてるみたいだなそうだろうキュン君?
まあ、はるこはフィクションだと思っているが……って当たり前か」
キョンが笑いかけながら尋ねてきた。
「ええ、まあ……」
「あれはあれで可愛いとこもあるよろしく頼んだよ」

何を頼まれたかイマイチ理解に苦しむがわざわざ
否定することもないので首肯した。

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 12:35:58.26 ID:rbWJsv97O

「でもこんな事俺なんかに話しちゃっていいんですか」

「構わないさ。というよりもずっと誰かに聞いて欲しかったんだ俺もハルヒも」

「なんか肩の荷がスッキリまるっと降りた気分よ!ありがとねキュン君」
涼宮ハルヒが鼻先10センチの距離でそう言った。
ちくしょう、マジで恋する10センチ。

そりゃこんな話、誰にも言える訳もなくずっと長らくの間
二人で胸に抱えていたんだろう。
二人の顔はどこかハレ晴レとしていた。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 12:41:52.17 ID:rbWJsv97O

――その後二人と宇宙人は昔話に花を咲かせ、俺はというと……

「おい、はるこ」

「何よ!全く!」

「悪かったよ、知らなかったんだ。
というか谷川流が親父って教えてくれよ!」

「だってパパが誰にも言っちゃ駄目だって言うからよ」

なるほど、微量且つ不安定なはるこの力が働いたお陰で谷川氏は
長門の捕捉から防御されていた……というのは後日、長門から知らされた。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 12:44:23.17 ID:rbWJsv97O

「驚愕、難航してるらしいな」

『涼宮ハルヒの驚愕』はこの世に出る事はない。
なぜなら分裂以降の彼らの世界に未来はなかったから。
本人もそう言っている


「パパはきっと書き上げるわ!超大作よ!」

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 12:46:13.85 ID:rbWJsv97O

ああそうだ、いざとなったら今起きてることを全て書いちまえばいいんだ。
結構『驚愕』な出来事だと思うぞ。そうなりゃ俺とはるこも正式に涼宮ハルヒの登場人物だ。
これ以上なことがあるか?自分の好きな本に自分が出てくるなんて。
不思議が不思議じゃなくなる、そんな不思議。

――フィクションの注意書きは忘れずに。













「深海魚っておいし〜い」



100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/10(日) 13:10:10.83 ID:rbWJsv97O

ありがとうございました

森さんの回収忘れてた、まあいいか



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