ハルヒ「キョン、キョン恐いよキョン!」


メニュー
トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:博士「新一、ようやく歩美型お手伝いロボットが完成したぞ」

ツイート

1 名前:名前なし[sage] 投稿日:2009/05/06(水) 00:09:24.42 ID:L16jdEMsO


「あれ、ここは・・・・」

そこは見慣れたいつもの教室だった。俺はどうやら居眠りをしてしまったらしい。
冬の空気は冷たいが窓から差し込んでくる西日が暖かく、心地よい眠気を誘っている。

立ち上がり教室の隅にある時計に目をやると、短針は午後六時を回った位置にあった。
こりゃ大分寝てしまったようだな。確か掃除が終わって机に突っ伏しているうちにうとうとと・・・

いや違う、委員会の仕事が終わって教室に戻ってきてからだったかな、寝たのは。

はっきりと思い出せない。勉強疲れだろうか。先日の期末テストはなかなかの出来だったと思うが
まぁ自分にしては珍しくテスト勉強を頑張ったからな。

とりあえず早く家に帰らねばなるまい。妹や母に無駄に心配をかけると後々うるさいからな。


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/06(水) 00:15:12.31 ID:L16jdEMsO

「ただいま〜」

「おかえりキョンくん〜、今日は遅かったねぇー」

小学五年生の妹が相も変わらず元気な声で出迎える。こいつは本当に元気だねぇ。俺も小学生の時は
こんなに元気だったかなと記憶を辿ってみるも、今とあまり変わらなかったような気もする。
しかし、実の兄のことをキョンくんと呼ぶのはいい加減やめてもらえないものか。

「キョンくん、昨日はシャミしゃべった〜?」

妹は一体何を言っているのかね。ちなみにシャミとは先月からうちで飼っている猫のシャミセン
のことだ。俺の妹だけに頭の出来はあまりよろしくないとは思っているし、サンタクロースの存
在をいまだに信じている我が妹だが、さすがに「ネコしゃべった〜?」はないだろう。

言葉を話すのはなぁ、理性を手に入れた人間だけに許された特権であり・・・と我が妹を諭していると、

「なに言ってるのキョンくん、このまえキョンくんがシャミとおしゃべりするって言ったんだよ」

んなばかな。そんなこと言った記憶は全く無いね。



8 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 00:21:44.05 ID:L16jdEMsO

「ただいま〜」

「おかえりキョンくん〜、今日は遅かったねぇー」

小学五年生の妹が相も変わらず元気な声で出迎える。こいつは本当に元気だねぇ。俺も小学生の時は
こんなに元気だったかなと記憶を辿ってみるも、今とあまり変わらなかったような気もする。
しかし、実の兄のことをキョンくんと呼ぶのはいい加減やめてもらえないものか。


10 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 00:24:30.50 ID:L16jdEMsO


「ぶー、キョンくんのいじわる。昨日はおしえてくれなかったんだから今日おしえてよ〜。」

昨日も何も知らないものは知らないのだが・・・。
怒った顔で頬をふくらませていた妹だったが次の瞬間には

「あ、キョンくんご飯できてるよ。はやくはやく〜」

はしゃぎながらトテトテと食卓へと駆けていくのであった。全く元気なものだ。

しかし、俺がシャミセンとおしゃべりをすると言った、か。
妹に特に嘘を言ってからかう様子は見られなかったのが気にかかるが、
残念ながら俺にはその記憶が無い。本当だ。


11 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 00:26:25.59 ID:L16jdEMsO


「・・・昨日か」

何となく引っかかる。昨日、俺は何をしたか。普通に学校に通い、
普通に下校するという特に執筆するほどのものでもないどこにでもいる高校生の
ごく一般的なスクールライフを送った・・・はずだが、

なぜだろう。昨日のことなのに自分の記憶に自信がもてない。さらに記憶を辿ろうとしたが、特
に具体的な部分となると全く分からなくなる。弁当の具や谷口や国木田とした会話の内容、学校
帰りに寄った店などについては全くもって覚えていない。

やはり勉強疲れかね。一応これでも国立大学を目指している身だ。つい最近担任の岡部に進路指
導で呼び出され諭されたこともあり、まぁそれでなんとなくスイッチが入ったとも言えなくも無
い。

どーでもいい昨日の記憶を留めている脳細胞に英単語を記憶させた方がよっぽど有意義に決まっている。俺の脳みそも少しは分かってきたのかね、と超ポジティブ思考でごまかすことにして、今日は記憶についてはこれ以上考えないことにして食卓に向かった。が、

この時は、翌日に思いも寄らぬ出来事が我が身にふりかかろうとは思ってもいなかった。

14 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 00:29:04.51 ID:L16jdEMsO

携帯超やりずれ(笑

最後まで書きためてあるんで、付き合ってくれ!

17 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 00:30:50.24 ID:L16jdEMsO


翌日。十二月二十一日

昨日の夜は何となく寝つきが悪かったためにイマイチ熟睡できず、
その影響で朝に2度寝してしまったために予鈴ギリギリの到着かと思いきや、
焦ったために逆に少しだけ余裕を持って我が学び舎に到着することができた、そんな俺に、

「ようキョン」

話しかけてきたのは悪友の谷口だった。成績は俺とどっこいどっこい、試験では毎回赤点スレスレを
低空飛行する仲だ。こいつのせいで、まぁ自分と同じ程度の成績の奴がのんびりしているのだから
自分もまだ大丈夫だろうとどこかで思ってしまうために、何か勉強に身が入らなかったのかもしれな
いが、いかんせん今回の試験では俺のほうが上だろう。こいつの驚く顔を見るのが楽しみだぜ。

「おす谷口」

適当に挨拶を返す。

「でキョン、そろそろ頭は冷えたか?」

「頭が冷えた?何の話だ。確かに一週間前から風邪ははやっていたようだが、俺はひいてない。
よって熱も出ていない。36度代だ、多分。むしろ風邪をひいて熱を出していたのはお前のほうだろう。」



19 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 00:32:35.68 ID:L16jdEMsO

「何言ってんだキョン、昨日はあれだけおかしい振る舞いをしといて今更誤魔化そうったってそうは
いかねぇぞ。涼宮には会えたのか?え?あいつは昔からツラはいいからなぁ、黙って突っ立ってりゃ
俺様的美的ランクAAを与えてやっても良かったものを、あの訳分からねぇ性格のせいでよぉ・・・
まぁお前がヒトメボレするのもなんとなく分かるが、あいつはやめといた方がいい・・・」

「待て待て谷口、お前は何を言っている。おかしな振る舞いってなんだ。
というか涼宮というのが誰なのかが分からん。
そんな一発で漢字に変換できそうもない苗字の知り合いなんぞ俺にはいないぞ。」

「そうかぁ・・。キョン、お前の気持ちは分かる。授業を途中でボイコットしてしまうほどのヒトメボ
レをして涼宮に告白したはいいが、ものの見事に玉砕したわけだ。
涼宮はそういう所は容赦ないからなぁ。あまりの玉砕っぷりにもうお前の中では思い出したくない記
憶となっているんだろ。
分かるぜキョン、まぁこのことは男と男の秘密にしといてやるよ・・・」


22 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 00:34:37.68 ID:L16jdEMsO

「授業をボイコットしたのか?俺が?」

谷口はさらに怪訝そうな顔をして、そこまで誤魔化そうとするならば昨日のお前のおかしな振る舞い
を逐一教えてやるぜと言い、頼んでもないのに語り始めた。

谷口の話によると、昨日、いや一昨日から俺の調子はおかしかったらしい。我がクラス委員長である
朝倉涼子に向かってお前はなぜここにいる、とか、お前は俺を殺したくなったことはあるか、とか、
訳のわからないことを話し、谷口から涼宮とかいう奴の所在を聞いた途端、仮病を使い学校を抜け出
したりしたらしい。

全く持って信じられん。というか覚えていない。記憶に無い。

「はぁ・・・。まだとぼけるかねぇ。まぁ相当なショックだったってのは分かるぜ。しかしなぁキョン、
男はフられてフられt・・・」


23 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 00:36:25.97 ID:L16jdEMsO


谷口の話は途中から聞いていなかった。そういえば昨日は妹も変なことを言っていた。
谷口も、まぁ嘘をついているようには見えない。昨日、いや、一昨日もか。
俺の記憶があやふやなのは事実だ。

これはどういうことだろうか。若年性アルツハイマーか?
いやさすがに十代での発症は早すぎるだろ。しっかりしてくれよ俺。

予鈴直前に俺の後ろの席の住人である委員長・朝倉が教室に入ってきた。
朝倉も何か言ってくるのかと思いきや何も言わず、代わりに何か意味ありげな目線を俺に投げかけて
きたところで担任の岡部が入ってきて俺は前を向いた。


29 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 00:47:10.81 ID:L16jdEMsO

ちなみに今は期末試験終了後の午前授業の日程だ。ああすばらしきかな午前授業。脳を休めるには最適な期間だ。

授業中や休憩時間までも、何人かのクラスメイトが怪訝そうな目で俺を見てきたが気にしないことに
する。うららかな日差しのせいで窓際後方二番目というなかなかの席にいた俺は睡眠不足もたたり半
分夢の世界のままに午前中は終り、午前中で学校が終わるというのにわざわざ弁当を作ってくれた母
のためにもそれを残すのは心苦しいので、食べてから下校することにした。

しかしながらゆで卵が半熟ってのはどうなのかね。目玉焼きなら分かるが。後で文句でもつけて
やろうかと考えていると、

「おっ、おいキョン!!」

谷口だった。焦った様子で近づいてくる。谷口よ、いくらアホなハイテンションだけがとりえの
お前だからといって、他人が弁当を食っている時くらいは落ち着いて欲しいね。午前授業だとい
うのに我が母がつくってくれた弁当がまずくなるじゃないか。


30 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 00:48:51.13 ID:L16jdEMsO


「うるせぇ、それどころじゃねぇよ!」

「何が起こったってんだ。AAA+の美少女でも見つけたのか。」

「涼宮が来ているぞ。お前に用があるらしい、職員室だ。」

なんと。

しかし涼宮ねぇ。そういや下の名前聞いてねぇな。全く、なんで一度も会ったことの無い奴に呼
び出されにゃならんのだ、しかも他校の生徒に。他校に乗り込んでまでの用事なんだから相当重
要なんだろうな。一応急いでおくか。

なぜかは分からないが、少しだけ楽しみだったな。最低でも職員室の扉を開けるまではそう思っ
ていた。

職員室のドアを開く。そこには4つの人影があった。そのうちの2人は我が北高の制服、残りの
2人は坂の下の進学校、光陽園の制服だった。




32 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 00:49:56.89 ID:L16jdEMsO

光陽園の制服を着た女子がこちらに進んでくる。腰まで伸びた長い黒髪に大きな目、整った顔立
ちからは気の強そうなオーラが放たれている。

直感で分かったね。こいつが涼宮だって。

「お前が涼みッ・・・!!!」

言い終わらないうちに胸元に強い力が加えられた。反射的に振りほどこうとするが、なんという
バカ力か、女子高生とは思えないね。

「ゲホッ、ゲホ、なにしやが」

「あんた、昨日はどんなトリックを使ったのよ!」

また言い終わらないうちに発言を中断された。とりあえずこの手を離しやがれ。

十秒程度にらめっこした後、涼宮らしき女は手を離した。それにしても妹や谷口や朝倉に続いて
こいつらもまた昨日か。一体何があったんだろうねぇ。どーせ例によって俺にはお前らが話すことの
記憶は残ってないだろうがな。



33 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 00:51:23.00 ID:L16jdEMsO

「ったく、いきなり何しやがる。トリックも何も俺はお前らとは初対面だ。きちんと自己紹介し
て事情を説明してもらわにゃ困るね!」

「何言ってんの、昨日会ったでしょ。光陽園の前であたしたちを待ち伏せしてたじゃない。それ
から喫茶店に行ってあんたの話をきいてそれから・・・」

「涼宮さん」

もう一人の光陽園からのお客さんが口をひらいた。身長は俺よりも高く、顔にフヌケた微笑を浮か
べている。それなりにイケメンだと評価してやってもいいのだが、なぜかこいつを見ているとなんとなくムカついてくる。それからやはりこの女が涼宮で合っているようだな。

「どうやら、昨日の彼が言っていたことは本当のようです。そして今の彼と昨日の彼は別人なの
でしょう。こちらの彼が覚えていないことが何よりの証拠です。」


35 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 00:53:22.50 ID:L16jdEMsO


「本当に私達のことを覚えていないのですか?私達だけではなく、こちらの北高のお二人とも面
識は無いのでしょうか?」

光陽園の2人のインパクトが強すぎてほとんど視界に入ってこなかったが、あらためて俺は北高
の制服を着た二人を見た。

一人は、

覚えている。ボブカットを更に短くしたような髪型が、眼鏡をかけ大人しそうな雰囲気を放つ顔
を覆っている。半年ほど前図書館でこいつと会った。図書館の職員がみんな忙しそうにしている
中、カウンターの前をうろちょろしていたこいつに声をかけ、図書カードを作ってやった、名前
は確か・・・

「長門、長門だよな・・・確か、長門有希。前に図書館で会った・・・。」

「・・・そう」

長門は、そのそれなりに整った顔に微笑を浮かべた。いやいや、なんか俺も嬉しいね。最近は俺
の記憶と周囲の記憶が食い違ってばかりだったからか、記憶が事実とが一致すると安心する。当
たり前のことのはずなのだが。長門もそんな笑みを浮かべていたような気がする。



38 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 00:54:58.29 ID:L16jdEMsO

長門から右に約1mほど視線をずらして目に入ってきたのは、小柄な少女だった。しかしこれが
またすんげー美少女だった。俺と目が合った瞬間に目線をそらされてしまったのが何となくショ
ックだったが、谷口に見せれば間違いなくAAAの評価を下すであろうぶっちぎりの美少女がそこに
いた。

この人と直接会話をしたことは無いが、校内で何度か見かけたことがあるような気がする。たしか2
年の・・・

「あ、朝比奈さん・・・ですよね?二年の・・・」

「は、はい」

なぜか怯えた様子で返答する朝比奈さんだったが、怯えている様子もまた可愛い。しかし今は
そんなことを考えている場合ではない。

「朝比奈さんとは会話をするのは今が初めてなはずですが、そうですよね?」

「えっ・・・いえ、あのっ・・・その・・・」

「あんた、本当に何も覚えてないの?昨日のことなのよ?」

涼宮が割り込んできた。覚えてないものは覚えてない。なぜかは分からんが昨日と一昨日の記憶
がはっきりしない病に感染してしまったのだ俺は。というかそんなに昨日が好きか、え?過去に
囚われてばかりじゃ人は前に進めないぞ。



41 名前:名前[] 投稿日:2009/05/06(水) 00:56:23.93 ID:L16jdEMsO


気が付くと俺たちは職員室中の視線を独占していた。ニヤケ野郎もそれに気が付いたのか、

「分かりました、ではあなたの昨日以前の行動について私達の知っている限りをお話しましょう。
できれば5人きりで話ができる場所に移動したいのですが。」

42 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:00:20.35 ID:L16jdEMsO

俺を見られても困る。第一俺は部活にも応援団にも生徒会にも属していない。部室かプライベートルームを提供しろったって無理だね。そう思っていると、

「長門さん、いいわよね?」

「・・・かまわない」

えっ。

ということで俺たちは五人揃って移動中だ。先頭に光陽園の二人、続いて長門と朝比奈さん、最
後尾に俺だ。向かっているのは通称「部室棟」の二階にあるらしい文芸部室。部室棟には入学直
後の部活動見学の時に一回入ったきりだ。結局俺はどの部活動にも所属することなく帰宅部部員
としての部活動を全うするべく毎日をすごしているのだが、まぁそんなことはどうでもいい。

というかなぜ光陽園の二人が先頭を歩いているのだろうか。周囲の目線をこれでもかと浴びまく
っているが二人に気にする様子は無いし、他校に来たというのに全く迷う様子が無いのはなんで
だ。忍び込みでもしたのだろうか。

文芸部室は思っていたより質素な部屋だった。本棚とパイプ椅子数個、折りたたみ式長テーブル
とその上に置いてある旧式のデスクトップパソコン、目に付くのはこれくらいかな。しかしこの
パソコンは大分古いな。アンティーク物だ。



44 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:01:41.55 ID:L16jdEMsO


俺はとりあえず本棚の近くのパイプ椅子に腰をかけた。向かいに朝比奈さんが座り、涼宮は朝比
奈さんの隣、長門は窓際のイスに座る。ニヤケ野郎の分のイスは無かった。

「さて、どこからお話しましょうか。」

「まず自己紹介から頼む。最低でもお前にはしてもらわないと困る。苗字も名前もイニシャルも知
らんからな。」

「おっと、これは失礼しました。僕は古泉一樹と申します。見ての通り光陽園の一年生です。よ
ろしくお願いしますね。」

ニヤケた笑みと同時に手が差し出され、とりあえずは握り返しておいた。

「あたしは涼宮ハルヒ」

そんだけかよ。ハルヒってのか下の名前は。


46 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:02:50.89 ID:L16jdEMsO

「俺は・・」

「あんたはいいわ。もう知ってるもの。ジョン。ジョンでいいわよね。」

「お前は俺の話を中断させるのが趣味なのか?しかもなんだジョンて。俺にはいとこの叔
母が勝手につけたマヌケなニックネームはあるがそんな欧米人的なあだ名で呼ばれたことは無い
ぞ。」

「なによあんた、キョンとかいうマヌケなあだ名がそんなに気に入ってるわけ?変な趣味してる
わねぇ。気が知れないわ。」

「気に入ってはいない。どちらかといえばやめて欲しくはあるが、というかマヌケって言うな。自
分でも自覚してはいるが他人に突っ込まれるとなぜかむかつく。」


47 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:04:53.09 ID:L16jdEMsO


「てゆーかなんでお前は俺のあだ名を知っているんだ。谷口にでも聞いたのか?」

「それも込みで、昨日以前のあなたの行動についてお話しましょう。」

古泉が言った。

「確認しておきますが、あなたの記憶がはっきりしているのはいつまでですか?昨日と一昨日の
記憶が無いとおっしゃられておりましたが、では三日前はどうです?」

いちおう考えてみる。今日は十二月二十一日、三日前は十八日。何をした。俺は何をした。

「思い出せない・・・」

とりあえず形だけでもそれっぽくすれば浮かんでくるものもあるかと思い、考える人並みに考え
るポーズを取った俺だったが、脳から有益なアウトプットがなされることは無かった。

「そうですか。十二月十八日といえば、あなたが朝比奈さんと長門さんに接触した日ですね。朝
比奈さん、彼がどんな様子だったかをお話してくださいませんか?

52 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:10:01.69 ID:L16jdEMsO

俺は朝比奈さんの方を見る。この小柄な上級生はなぜか俺のことを恐がっているようだった。極度の人見知りなのだろうか。

「は、はい、えっと・・・」

朝比奈さんの話によると、あろうことか俺は廊下を歩いていた朝比奈さんにかけよりいきなり両肩を
鷲づかみにし、涼宮がどうとか古泉がどうとか訳分からないことを連呼したらしい。この時点での朝
比奈さんは涼宮とも古泉ともまだ会ってなかったらしいから、彼女も混乱するばかりだったという。

「わ、私のことを未来から来たとも言っていました。」

未来から来た?一体何のことだ。そういうオカルトチックな話には正直ついていけそうにないの
だが。俺に記憶が無いことはもう書き飽きたが、しかし朝比奈さんの言っていることが本当なら
ば俺はこんな美少女に暴挙を働く所だったのか。なんということだ。


53 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:11:12.43 ID:L16jdEMsO


「それから、わ、わわ、」

なぜか顔を赤くしながら、

「わたしの、その、む、胸のここらへんに、ほ、星型のほくろがあるはずだから、見せてくれっ
て・・・」

なんと。

「本当に俺がそんなことを言ったんですか?」

「は・・・はい」

なんたることだ。我が家系の末代までの恥だこれは。記憶が無いとはいえとりあえず謝っておか
ねばなるまい。

「朝比奈さん、すみませんでした。本当に申し訳ない。」

「いえっ、わ、私のほうこそグーで、その、殴ったりしてごめんなさい、痛かったですか?」

どうやら俺は手痛い反撃を食らっていたようだな。全然大丈夫ですよ朝比奈さん、どうやら殴ら
れて当然のことを俺はしたみたいっすから。気にしないでください、覚えてないですし。なるほ
ど、だから朝比奈さんは俺を恐がっていたのか。



54 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:12:22.61 ID:L16jdEMsO


しかしどうなってんだ。未来人?全く意味が分からない。未来人で思い浮かぶのはスーパーサイ
ヤ人のトランクスくらいだが、朝比奈さんとトランクスに共通点があるとは微塵も思えない。

三日前の俺はこんな漫画の世界と現実とを混同してしまうほどに混乱していたとでも言うのかね。

「次にあなたが接触したのは長門さんですね」

とニヤケハンサム顔の古泉が言い、俺は長門を見る。

「・・わたしがいつものように部室で読書をしている時にあなたが突然あらわれた。そして私が宇
宙人だとか、魔法のような力をいっぱい持っているとか、ホームラン専用バットを作ってくれた
という話をしてくれた。でも、わたしには全くわからない話だった。」

未来人の次は宇宙人か。


57 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:14:03.46 ID:L16jdEMsO


「あなたはこうも言っていた。昨日と今日で世界が変わっている。ハルヒの変わりに朝倉がいる
。朝倉はわたしの同類。それから情報統合思念体・・・」

長門は話しを続けるが、ますます意味が分からなくなってきた。こいつら全員で俺を篭絡しようとし
ているんじゃないかと思えるほどだ。記憶が無いとはいえ、未来人だとか宇宙人だとか世界が変わっ
ただとか、こんな話をされたら何言ってんだこいつら?ってなるだろう普通なら。

「その日あなたはパソコンをいじって、帰った。」

「このパソコンに何かしらのカギになっていることは間違いないのよ!」

涼宮が口を挟んできた。

「どうです、記憶が戻ってきたりはしませんか?」

「全く無い。これはもう思い出すとかより元々その記憶自体が無いと表現した方がいいかもしれん
な。俺の脳は見事に何も無いと言っている。」

58 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:17:03.92 ID:L16jdEMsO


「次の日もあなたはここに来てくれた。あなたは本棚にある本を手にとってある栞を見つけた。
その栞には私の字でこう書いてあった」

『プログラム起動条件・鍵をそろえよ。最終期限・二日後』

その栞に書いてある文字は長門が書く文字と似ているが、長門自身は書いた覚えは無いのだとい
う。じゃあ誰が書いたんだよ。

「向こうの世界の長門さんが書いたものだと思われます。どうやらその栞が、昨日以前のあなた
にとって大事な手がかりとなるものだったのでしょう」

向こうの世界?なんじゃそりゃ。もうね、話が飛びすぎててわからん。お前、頭がおかしいんじゃ
ねーのか。宇宙人とか未来人とかばっかだが、お前らはオカルトマニア研究会なのか?俺を勧誘しよ
うってのなら他を当たってくれ。そんなもんに興味なんぞ無いからな。


60 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:18:20.70 ID:L16jdEMsO


「僕の頭がおかしくなったという可能性も十分にあります。僕自身も昨日の出来事については、
その出来事を目の前で見ていたにもかかわらずまだ信じられない部分もあるのですよ。それにつ
いても追って説明しますので、とりあえず今は僕達の話を聞いていただけないでしょうか」

その後俺は本棚の本を端から端まで調べたらいが、その俺にとって必要な物はその栞以外には見
つけられなかったらしい。

しかもその日の俺はなんと、長門の家に単身乗り込んだのだという。先ほど朝比奈さんに乱暴を働い
た話を聞いたばかりなので、長門に対しても何かしてしまったのかと心配になり反射的に謝ろう
としたのだが、特にそのようなことはしなかったらしい。ほっと長門の胸を撫で下ろす。途中朝
倉がおでんを持って来て三人で食事をしたらしいが、今朝の朝倉の妙な目線はこのせいだったの
だろうか。


61 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:20:00.07 ID:L16jdEMsO

さて、どうやら一番重要らしいのは昨日、十二月二十日だ。昨日は途中から記憶がある。

冒頭の通りだが、いねむりから目を覚ましたのが午後6時付近、それ以降の記憶は執筆した通りだ。
それから谷口の話によれば俺は学校を途中でぬけだし、涼宮に会いに行ったそうだが・・・。

「そこまで話を聞いているのでしたら説明は早いですね。僕と涼宮さんがあなたと出合ったのは
まさに昨日です。光陽園も午前中で授業が終わる日程でしたから、掃除が終わった後、僕と涼
宮さんは校門を出ました。」

「あんたに会ったのは校門を出てすぐ。いきなり「おい!」って声かけられて最初は何こいつ?
って思ったんだけど、あんたはあたししか知らないはずのことを言った」

何を言ったんだ俺は。ハルヒは少し間を置いてからこう話した。

「あたしはね、まぁ自分でこんなこと言うのもなんか恥ずかしいから嫌なんだけど・・・いいわ、特
別に説明してあげるから感謝しなさい」



63 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:21:29.29 ID:L16jdEMsO

「何に感謝しろって。行為の前にお礼を言うやつがどこにいる。」

「うるさいわね、とりあえず聞きなさいよ」

俺は塩をかけられたナメクジのように黙って涼宮の話を聞くことにした。

66 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:24:34.64 ID:L16jdEMsO


「中学一年生の時よ。ある夜にあたしは思うことがあって東中に忍び込もうとしたの。鍵は事前
にくすねておいたんだけどね。さて忍び込もうと思った時にあたしに声をかけてくる奴がいたわ。
「おい」ってね。そいつは北高の制服を着ていた。やけに協力的だったからあたしはそいつと
一緒に、白線を引く道具あるでしょ?名前忘れたけど。それで校庭にメッセージを描いた。
織姫と彦星宛のね。メッセージの内容は『わたしはここにいる』 描き終った後そいつに名前を聞い
たわ。その時のそいつはこう答えた。『ジョン・スミス』ってね。 まぁその時は大して気にもしな
かったんだけどね。校庭のメッセージは翌日には新聞に載るほどの大騒ぎになってたけど、あたしは
自分から犯人を名乗り出たわ。別に悪いことをしたつもりなんかなかったもん。だけど、犯人に私以
外に北高の生徒がいたこと、そいつがジョン・スミスだと名乗ったこと、それからメッセージの内
容については誰にも言ってない。だから私以外に分かる人がいるはずなかったの」


67 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:25:39.01 ID:L16jdEMsO


なるほどな。この際夜中に忍び込んで織姫と彦星宛のメッセージを描いたなんてアホなことにつ
いては突っ込まないでおこう。そして、昨日の俺がお前にいったことってのは・・・

「そう、あんたがあたしに言ったのは、自分がジョン・スミスだってことと描いたメッセージの
内容の『わたしはここにいる』について」

なるほどな、いやしかし待て、ええと、飛びすぎた話ばかりで大分頭が混乱しているがそれだと
おかしい話になるのは俺だって分かる。

「おかしいだろ、お前とジョン・スミスが出会ったのが三年前だから、仮にそいつが北高の一年
だったとしても昨日の時点ではもう卒業しているだろう。出会えるはずがない。昨日の俺が本当
にそんなことを言ったとしても時間的にありえないだろう」

「あたしもそう思っていたわ。でもね、三年前のあの日にジョンに会った後、あたしは北高の生
徒を全員調べたわ。張り込みだってした。でもジョンらしき人を見つけることはできなかった。
なぜならジョンはもう北高にはいなかったから。」



68 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:26:41.15 ID:L16jdEMsO


もう反論する気すら起きない。話が破綻しているだろう。こいつらは話が読めているみたいだが
俺にはもう大分前から話がかみ合っていない。帰っていいかな、俺。

「この後、あなたと私達は駅前の喫茶店に場所を移し、さらに興味深いお話を聞かせてくれまし
た。そうですね、昨日の彼と今の彼を分けて説明するために、昨日の彼をジョンさん、こちらの
彼をキョンさんとして分けて考えましょう。涼宮さん、いいですよね?」

俺のニックネームなのに古泉は涼宮に許可を求める。俺に求めろ、俺に。
まぁいいわとの涼宮の一言で俺はジョンからキョンに戻った。全然嬉しくないがな。

ジョン、まぁつまり昨日までの俺が古泉達に話して聞かせた内容を一部紹介すると、ジョンの世
界では涼宮は北高に入学し、古泉も北高に転校してきたらしい。涼宮には自分の思い描いた通り
に周囲を変える得体の知れないスーパーパワーが宿っているが本人はぞれに気付いておらず、そ
の力のせいでジョンやSOS団の面々が大分苦労した話、あ、SOS団ってのはジョンの世界でこの五
人が結成した謎の団のことらしい。


69 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:28:13.24 ID:L16jdEMsO


北高では同好会って位置づけになってるらしいが生徒会には認められてないとかなんとか。これがま
たマヌケな正式名称で、世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団、略してSOS団らしいが、
ジョンの方の俺はなぜこんな団の結成を止めなかったのかね。止めようとしたがハルヒの勢いに押さ
れて仕方なくって感じなのだろうか。そんな気がする。

そんなジョンの世界だったが、十二月十八日を境におかしくなってしまった。つまり、俺たちの世界
に迷い込んでしまった、あるいは世界そのものがジョンを残して全て変わってしまったと言うのだ。
ジョンは世界を元に戻したいらしく行動していたらしいが。


72 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:29:58.33 ID:L16jdEMsO


「特にジョンは三年前のあの七夕の日の時間遡行については詳しく語ってくれたわ」

ジョンの世界では未来人である朝比奈さんの力でジョンと朝比奈さんは三年前の七夕、ハルヒと
共にメッセージを描いた日に時間遡行し、メッセージを描いた後、ジョンの世界では神がかった
宇宙人的力を持つ長門に三年間の間時間を止めてもらい元の時間軸に復帰した、という話だった。

「つまり私がジョンと会った日にしか、ジョンは私達と同じ場所に存在していなかったというこ
とよ。さっきは北高の生徒を全員調べたり張り込みしたと言ったけどその時にはジョンはもうい
なかったの。いくら探しても見つからなかったわけ。」

ハルヒはでかい目をきらきら輝かせながら説明する。まるで昔から願っていた夢がかなったとでもい
うように。反対に俺の顔は台風直前の空模様並に曇っていたことだろう。

確かに、タイムトラベルができるとなれば先ほどの話もつじつまが合う。タイムトラベルを信じ
るとすればだが。

ここまで来ると俺は半ばヤケになっていた。



73 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:30:52.23 ID:L16jdEMsO

「とても今すぐに信じろといわれても無理な話だ。しかしまぁ、今は信じるとか信じないとかは
脇に置いておいて、とりあえずそうであると仮定するってことでいいだろうか。まぁそうしない
と話が先にすすまなそうだしな。」

「なによ!あたしの言ったことが信じられないって言うの?失礼しちゃうわね」

「仕方ないだろう。信じられる奴がそうそういるわけながい。いるとすればよっぽど頭のいい奴か
悪い奴だね。まぁ俺の妹なら信じそうではあるが。」

「まぁまぁ涼宮さん、それで良いではないですか。先ほど言いましたとおり、説明している僕で
さえ半信半疑な所があります。あなたの言うとおり、仮定しないと話が先に進まないのですよ」

「ちなみにあなたは、失礼、ジョンさんは僕のことについても語ってくれました」



74 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:32:32.60 ID:L16jdEMsO


この古泉は超能力者だったらしい。涼宮の機嫌が悪いと閉鎖空間なるアホ空間が出現し、ついでにそ
こではビルの高さほどもある巨人も出現するらしい。この巨人を倒すのが古泉の役割であり、倒
さないと閉鎖空間が広がり続け、終いには閉鎖空間が現実世界と取って代わるとかなんとか。さっ
き言ったとおり、こいつの言っていることも正しいと仮定したさ。仮定だけどな。

宇宙人に未来人に超能力者に得体の知れないマヌケパワーを持つ奴の集まるSOS団か。さぞ楽しか
ろうなぁジョンは。ん、待て、ほかの四人には特別な属性があるが俺にはどうなんだ、何か聞い
てないのか?

「あんたには何も無いわ」

マジかよ。

「彼は、自分には何の属性も無い唯の一高校生なのになぜ自分がSOS団にいるのかが一番不思議だ
とも言っていました。なぜなんでしょうねぇ」

「ふん、何のとりえも無いのに団に入れてあげたんだから、あたしに感謝の一つでもしなさいよ」


76 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:33:53.40 ID:L16jdEMsO


何故にお前に感謝しなければならん。するならばあっちのお前だろう。まあ多分ジョンはしてな
いだろうがな。

フン、と涼宮は顔をそらした。うーむ。今朝谷口が言っていたが、確かにこいつはツラはいい。
朝比奈さんと比べてもそんなに見劣りしないしな。男にはモテそうだ。まぁ今はそんなことはど
うでもいい、聞きたいことがある。

「ジョンは元の世界に戻したい、戻りたいと言っていたそうだが、その後どうなったんだ?俺が
ここにいるってことはジョンはどうにかなったってことなのか?」

そういうと古泉は少しだけ神妙な顔をして、

「そうですね、その部分についてまだ触れていませんでしたね。」

古泉は少し間をおいてから言った。

79 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:36:22.47 ID:L16jdEMsO


「喫茶店を出た僕たちは北高に向かいました」

北高に?なぜだ。

「侵入するためよ」

あっさり言いやがった。なぜ侵入したんだ。何が目的だったんだ。

「なんとなく見たくなったのよ。ジョンが言ったSOS団ってのをね。楽しそうだったもの。五人集
めてあたしたちも団を作るってのも悪くないかなと思ったのよ。五人集めてみて思ったわ、当た
りだって。ピンと来たわね、なんかこう、エジソンが蒸気機関を発明した時のアレみたいに!」

ピンときたって感覚についてはまぁなんとなくわかるが。

「のどかわいたわ、みくるちゃん、お茶」
「えっ、お、お茶ですか?えっと、な、長門さん、このコンロつかえますか?」

上級生には見えないが一応上級生である朝比奈さんをいつのまにかちゃん呼ばわりしお茶をオー
ダーするなんてなんという図々しさか。これがハルヒクオリティか。こりゃジョンも苦労しただろう
に。朝比奈さんもそんなに健気にハルヒの命令に従わなくてもいいのに。


80 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:38:12.33 ID:L16jdEMsO


「僕ら五人がこの文芸部室にあつまったその時、急にパソコンの電源が入りました」

古泉はそう言って旧型のデスクトップパソコンを指差す。

「彼はパソコンの電源が入るや否やディスプレイに釘付けになり、かなり集中していましたね。
僕らの話し声なんかは聞こえていない様子でした。彼は最後にこう言いました」

『なぜなら俺は、SOS団の団員その1だからだ』

どういう意味だ。

「彼がキーボードの何かのキーを押した瞬間、多分エンターキーですね、ジョンさんはいきなり
消失しました」

消失したって、どういうことだ。想像がつかんぞ。

「目の前からいきなり消えた、ということです」

「最初はビックリしたんだけど、何かトリックを使ったんじゃないかって思ったわ。だから今日
北高を訪ねて来たわけよ。もしあんたがいたらトリックって可能性もあるからね。でもあんたは
いたけど、記憶は無かった。ジョンの言葉を信じるしかないわ」



82 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:39:40.13 ID:L16jdEMsO


「そういえば長門さん、彼が消える直前のディスプレイの様子をあなたは見ていたのではありま
せんか?」

「・・・・・・」

長門は無言のままうなずき、

「・・・・見ていた。画面にはわたしがいた」

どういうことだ、長門。

83 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:41:29.71 ID:L16jdEMsO


「わたしの、多分別の世界のわたしの彼へのメッセージが表示された」

一字一句正確には覚えていないけど、と長門は続ける。

  このメッセージが表示されたということは、そこにはあなた、わたし、涼宮ハルヒ
  古泉一樹、朝比奈みくるがいるはずである。

  それが鍵。あなたは答えを見つけ出した。

  これは緊急脱出プログラムである。起動させる場合はエンターキーを、そうでない
 場合はそれ以外のキーを選択せよ。起動させればあなたは時空改変の機会を得るが
  成功する保障はできない。

このプログラムが実行されるのは一度だけ。実行されなかった場合はそのまま削除
  される。Ready?

こんな感じだったと思う、と長門。長門が話してくれた栞について思い出す。そこに書いてあっ
たカギというのがこの五人でジョンは時間内にそれを集めた。ジョンはエンターキーを押してこ
のプログラムを起動させた・・・ということなのか?


85 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:45:18.68 ID:L16jdEMsO


「そういうことになるのでしょうね」

と古泉。

「僕たちがジョンさんについて知っていることはここまでです。なんせ消えてしまったわけですから
ね。どうしようもありません。もっとも、あなたが一世一代の演技をしているなら別ですが」

古泉はそう言って喉奥から不快な音を出した。何度も言うようだがここ三日の記憶は無い。った
く、いい加減言い飽きたぜ。

「そのジョンが消えたのが何時頃なんだ?」

「はずかしながら、僕も気が動転していて正確なところまでは覚えていないのですが、午後五時
から六時の間だと思われます。・・・そうか、あなたの記憶がはっきりしているのがそれ以降
だということですね」


87 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:47:46.86 ID:L16jdEMsO


勘のいい奴だ。その通り、俺は午後六時に教室で目覚めた。気が付いたら教室にいたんだ。そこ
で俺とジョンが入れ替わったってことなのか。

しかしながら、あっちの長門は世界の命運をジョンに預けたのか。さっきのSOS団の話を聞いた限りでも長門には大分世話になっていたようだな。そう言って長門をちらりと見ると、恥ずかしそうに顔をうつむかせる。
よく見ると長門も結構かわいいな。隠れファンとか結構多いんじゃないか?眼鏡を取った顔も見
てみたいね。

「そうですね、ジョンさんはあちらの長門さんに絶対の信頼をよせていたようです。微笑ましい
限りです」

すみませんといいながらくっくっと笑う古泉。しかしまぁ、お前らの言っていることを全て信じ
たとして、これからどうしようってんだ。もうこの世界にジョンはいないんだから何も手がかり
は無いだろ。ジョンの話をネタにSF本でも書こうってのか?

「何言ってんの、そんなつまらないことするわけないじゃない」


88 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:49:11.07 ID:L16jdEMsO


「お前は今全国のSFファンを敵に廻した。だったら何をするんだ?」

「決まってるじゃない!ジョンを追うのよ!」

「何を言っている。確かにそれはそれで面白そうではあるが、もう一度言うがジョンはもうこの世
界にいないのだ、手がかりが無いじゃないか。」

「あんたもアホね!始める前から諦めてどーするのよ。やらないで後悔するよりやって後悔した
ほうがいいって言うでしょ。青春は待ってはくれないわ、当たって砕けろ精神で突進するべきなのよ!」

90 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:52:12.41 ID:L16jdEMsO


お前の青春に俺を巻き込まんでほしいねといい終わる前にハルヒはすっくと立ち上がり、椅子に
片足をのせて石原裕次郎がかっこつけたときのポーズみたいな姿勢をして、

「みんな、いいわね!これからSOS団はジョンの後を追います!ジョンがあのあとどうなったのか
は分かりません。時空改変に成功してもとの世界に無事にもどれたのか、あるいは失敗して次元
の狭間でバッツ達を待っているのかもしれません。もし後者だったら助けてあげる必要がありま
す。どっちにしろ、ジョンの無事を見届けなければなりません。明日からジョンの後を追うため
の手がかりを探しに入ります!いいわね!文句があるならジョンを見つけた後に文章で提出しな
さい。いちおう見てあげるわ」

長門は座ったまま、朝比奈さんは人数分のお茶をトレーに置いた所で、古泉は微笑したまま、俺
は何と反論すればよいかと考えながらハルヒを見ていた。


91 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:53:18.68 ID:L16jdEMsO


「いちおう聞くが、SOS団ってのは俺たちのことか?ん?団員構成を教えてくれ」

「何アホなこと言ってんの、あたしたち五人に決まっているでしょ!そうね、団長はもちろんあ
たし、副団長に古泉くん、副副団長に長門さんと、あーめんどいから有希でいいわよね!、有希
とみくるちゃん、キョンあんたはパシリよ!」

パシリて。

「定期集会は毎週土曜、とりあえず明日は北高も光陽園も午前授業だから駅前に集合!午後1時
には来なさいよ!それからみんな、ジョンを救出するための策を考えてきなさい!いいわね!」

どうやらジョンは、次元の狭間にとじこめられている設定で決まりらしい。やれやれ。

時計を見ると、午後六時を回っている。大分話し込んでしまったみたいだ。俺は朝比奈さんがせ
っかく入れてくれたお茶を飲み干した。もったいないもんね。さすが天使のような朝比奈さんが
入れてくれたお茶だけあって愛情というスパイスがふんだんに入っているね。ただのお茶のはず
なのにただのお茶の三十倍はおいしいですよ。



93 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:55:43.96 ID:L16jdEMsO


帰り際、俺は長門に呼び止められた。

「どうした、長門」

長門の漆黒の瞳が俺を見つめる。

「・・・・・・・お礼、言ってなかったから・・・」

「お礼って何のだ?」

「・・・・・・・図書館のカード」

あぁ、気にしなくていいぞ。部室の本棚とかもちらっと見せてもらったが、あれは全部お前が読
んだ本なのか?本が好きなんだな。

「・・・そう」

「何やってんのキョン、有希ー。早く行くわよー!」

「行こうぜ長門」

「・・・・・・」

音も無くうなずいた長門と共に、俺は玄関へと向かった。

94 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:58:42.35 ID:L16jdEMsO



翌日。十二月二十二日

「ひぃ、ひぃ、はぁっ、ちくしょーー」

これは間に合うかどうか微妙だ。担任の岡部に呼び出され進路についてチクチクと説教をされた
せいで意外と時間を食ってしまい、午前授業だというのに我が母が作ってくれた弁当を食べる時
間もなく駅前へと急いでいる俺だったが、そもそも光陽園と北高とでは駅までの距離に大分差が
あるのに集合時間を午後一時に設定するのはおかしいだろう。授業が終わってから1時間も経っ
ていないというのに。あとで抗議してやろうかね、あやつが聞く耳を持つかどうかは定かではな
いが。

足や心臓の悲鳴を無視し続けて走ったせいか、なんとか集合時間に間にあうことができたのだが
、すでに俺以外の全員が集まっていた。

「遅い、罰金!」


96 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 01:59:45.84 ID:L16jdEMsO


冬なのに汗だくでかつマラソンした後のように息切れを起こしている俺に気遣う言葉をかけるで
もなく、問答無用で罰金宣言かい。

「はぁ、はぁ、集合時間には間に合ってるはずだろ」

「たとえ遅れなくても一番最後に来た奴は罰金なの。それがあたしたちのルールよ」

「初耳だが」

「今決めたからね」

そう言ってハルヒはにやりと笑った。そういう風に笑ってた方がとっつきやすいねお前は。昨日
職員室で出合ったときの八倍はとっつきやすいオーラを出してるぜ。

「な、何言ってんのよアホキョン、さっさといくわよ、あんたのおごりだからね!」

そういうとハルヒはずかずかと喫茶店に直進していった。




97 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 02:01:00.71 ID:L16jdEMsO


「キョンくん、よかったらこれで汗をふいてください」

そう言ってハンカチを差し出してくれたのは朝比奈さんだった。いやいや朝比奈さん、あなたの
小奇麗な木綿のハンケチーフを男の汚い汗で汚すわけにはいきませんよ。気持ちだけもらっと
きます。こんなのシャツの袖で十分ですよハッハッハ。

「昨日は本当にごめんなさい、キョンくんの記憶が無いなんてどうしても信じられなくて、気分
を悪くさせるような態度をとっていたかもしれません」

「何を言ってるんですか朝比奈さん、俺が朝比奈さんに乱暴を働いたのは事実のようですから、朝
比奈さんが恐がるのも無理はないですよ。態度については俺は全然気にしてませんから大丈夫で
すよ。」

「でも・・・」

「朝比奈さんが気に病むことはないですよ、ほら元気出してください。ハルヒに置いていかれちゃ
いますよ。」

「は、はい!」

やはり笑顔の朝比奈さんは天使のように可愛いね。うん。いかん、少しでも油断したら鼻の下が
のびてそうだ。


98 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 02:03:38.99 ID:L16jdEMsO


喫茶店での俺のおごりということでいつの間にか決定していたようで、ハルヒは全く気を使うこ
となく高級そうな高いお茶をオーダーし、長門と朝比奈さんは気を使ってくれたのか一番安いホ
ットコーヒー、古泉はカプチーノを、俺はアップルティーを注文した。

「なによこれ、苦っ!」

自分のオーダーした茶に文句をつけるハルヒ。自業自得だね。と、一瞬だけニヤっとした俺の表
情をハルヒは見逃さなかったようで、

「キョン、あんたちゃんとジョン救出作戦について考えてきたんでしょうね。あんたから発表し
なさい!」

そういえばそんな宿題があったな、と今思い出した。すまん、まったく考えてなかった。

「はぁ!?あんたやる気あんのキョン?そんなんだからいつまでもパシリのままなのよパシリ!」


100 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 02:05:37.88 ID:L16jdEMsO


「いつまでもも何もこの団は昨日立ち上げたばかりだろうが。そもそもなぁ、お前らはジョンの消
失を見ているからまだいいものの、俺はそれらの不思議現象を直に体験したわけじゃない。昨日
の話だって一応信じると仮定してはいるものの心の奥底では疑心もまだ残っていてなぁ、そんな
状態の俺にジョン救出だとかぬかしてもなかなか想像しずらいのだよ。ここは団長様の意見を聞
きたい所だね。」

団長の意見を聞きたかったのは俺だけではなかったらしく、長門と朝比奈さんもヌッとハルヒの
方を見る。

うっ、と何かつまったような反応を見せるハルヒ。さてはこいつも考えてないな。

「団長」

古泉が割って入る。俺としてはもう少しハルヒを困らせたかったのだが。

「よろしければ僕の考えを発表したいのですが、よろしいですか」


101 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 02:06:33.67 ID:L16jdEMsO


「さ、さっすが古泉くんね。だてに副団長じゃないわ。キョン、あんたも古泉くんを見習いなさい」

古泉を見習ってニヤケた笑みを浮かべてみようかと一瞬考えるも脳内会議で即座に却下された。

「解決策といいますか、ただの分析なのですがとりあえず聞いてください。昨日も一部説明はし
ましたが、十二月十八日におかしくなってしまった世界についてです。世界がパラレルワールド
のように枝分かれしていて、ジョンさんが何らかの影響により彼が元々いた世界から僕らの世界
に迷い込んでしまい、そこから脱出プログラムを使い元の世界に戻ったのか、あるいは世界がジ
ョンさんを残し世界が全て変わってしまい、脱出プログラムによって彼が世界そのものを変えよ
うとしたのか、そのどちらか、あるいはそれ以外の選択肢もある可能性もありますが、とりあえ
ずはこの二つについて考えましょう」

103 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 02:09:59.39 ID:L16jdEMsO


何を言ってるのかねこいつは。こういう時はやけに元気になるんだな。

「前者の、世界がパラレルワールドのように枝分かれしているとすると、彼が無事に帰還できた
かどうかは定かではありません。パラレルワールドですから、彼のがどうなろうとお互いの世界
は独立していますからお互いに影響を及ぼすことはないと推定できます。しかし後者の場合はど
うでしょうか。もし彼が時空改変に成功したとなれば、僕たちは今ここに存在しないはずです。
ジョンさんにとって僕らの世界は間違った世界なのですから、彼が改変を成功させていれば彼に
とっての正しい世界が再構築され、今の僕たちは存在しないことになります。」

うーん、まぁなんとか理解したことにするか。しかしマジでいい顔してやがる。反抗して俺は曇
った顔をすることにする。



106 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 02:11:39.23 ID:L16jdEMsO


「なるほど・・・つまり後者であれば、ジョンは時空改変を失敗したということになるのね」

こいつは、どうあってもジョンを次元の狭間に閉じ込めたいようだな。

「長門、お前はどう思う?」

いきなりだったが長門に振ってみた。少しは驚いたそぶりを見せるのかなと思いきや意外にも冷
静に答えてくれた。

「わたしは後者だと思う。彼が消える前のパソコンの画面に表示されたメッセージに、時空
改変の機会を得るが成功の保障はできないという一文があった。もし世界が前者であれば、大切
なのは彼が元の世界に帰れるかどうかであり時空を改変する必要性が無い。時空改変をする必要があ
るのは後者のみであるとわたしは解釈した」

俺は少し驚き混じりの顔で長門を見つめる。こいつは、前に図書館で会った時や昨日の様子では
、口下手で人付き合いの苦手なたよりなさそうな一少女に見えたがどうやらそれは間違いで、自
分なりの意見をきちんと持っている奴のようだ。いざというときに頼りになる奴だったりするん
じゃないか。ジョンは長門に絶対の信頼を置いていたようだしな。


108 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 02:13:21.84 ID:L16jdEMsO


俺は長門をまじまじと見つめる。俺の視線に気が付いたのかうつむき、頬を朱に染める長門は
結構可愛かった。ほんとに。じっと見てたかったがそれも意地悪なのでやめておいたが。

「なるほど・・・そうですね、それにもし前者であれば文芸部のあのパソコンのプログラムや栞は向
こうの世界のからどうやってこちらの世界に来たかが謎です。ジョンさんがこちらに迷い込んだ
と同時のことだったのかもしれませんが、少々都合が良すぎるような気もします。後者であれば
事前に仕込んでおけますからね」

そ、そうなのか?また頭がこんがらがってきた。見ろ、朝比奈さんも首をひねっている。

「後者の可能性のほうが高いってわけね。みくるちゃんは?何か意見ある?」

「ひぇっ、う、うーん、あ、そういえば・・・」

見事に慌ててくれた朝比奈さん。慌てた朝比奈さんも絵になるほど可愛い。この人に可愛くない
瞬間なんてあるのだろうか。

「あの、わたし書道部の部活にも参加しないといけないんですよぉ。もう少ししたら引き上げ・・・
ひゃぁっ!!!」

ハルヒは書道部の"しょ"の文字が耳に入った瞬間に立ち上がり朝比奈さんが座る椅子の背後に回
り、いきなり後ろから抱きついた。

109 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 02:16:14.92 ID:L16jdEMsO


「ひゃあぁぁ、ななな、何するんですかぁー!!」

セクハラ女は朝比奈さんの制服の下から手を入れ、なんと直に胸を揉み始めた。オイオイ。

「なぁにみくるちゃん、あたしの団があるってのに部活?掛け持ちは半端になるから許さないわ
よ。そっちはやめてきて欲しいんだけど〜。」

なんという傲慢さか。まぁこいつの自己中さにおいては今更突っ込む気にもなれんが。
「そそそ、そんなぁー」

「しっかし本当に胸でかいわねぇ〜。こんなかわいい顔してあたしより胸でかいなんてなんかイ
ジワルしたくなっちゃうわねぇー」

ハルヒがスカートの裾をめくり上げ始めた所で俺は止めに入る。

「アホか。そこらへんにしとけ。他の客がみんなこっち見てるじゃねーか。」



111 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 02:17:33.88 ID:L16jdEMsO


「なによ、あんたも触ってみる?古泉くんは?」

「ヒッ・・・」

大丈夫ですよ朝比奈さん、そんなことしません。多少羨ましかったがそう言っておくべきだろう
ここは。古泉も、

「遠慮しておきましょう。後が恐そうだ」

とニヤケたままに否定をする。

長門は羨ましそうに朝比奈さんを見ていた。長門・・・。

結局このあとは終始雑談で、ハルヒはゴリ押しで朝比奈さんに書道部をやめることを約束させ、
全員の携帯の番号とアドレスを交換して今日はお開きとなった。しかし、全く進展しなかったな。

「明日も同じ時間に集合ね。キョン、あんたは特に時間に気をつけなさいよ。あたしはともかく
、他の団員に迷惑がかかってるってことを忘れないことね。あとジョン奪還作戦についてもちゃ
んと考えてきなさいよ、じゃねー」

そう言ってハルヒはB'zの"いつかのメリークリスマス"を口ずさみながら帰っていった。そういや
もうすぐクリスマスだな。

113 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 02:20:09.85 ID:L16jdEMsO


俺は長門と途中まで一緒に帰った。思ったことを正直に言ってみることにした。

「正直、お前が自分の意見をはっきりと述べた時には驚いた。てっきりお前は口下手な奴だとば
かり思っていたからな。まぁこういう表現もどうかと思うが、見直したぜ、長門。」
長門は少し照れた様子で、少しの間の後に、

「・・・・・・・・わたしも、知りたいから」

「ジョンのことか?」

「そう。彼にも、お礼を言わなければいけない。それと、彼に渡したいものがある」


119 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 02:33:23.64 ID:L16jdEMsO


「渡したいもの?」

「・・・・そう」

「何なのか聞いていいか?」

「・・・・ひみつ」

長門がそれを渡したいのは俺ではなくてジョンだ。まぁなんとなくジェラシーを感じなくも無い
が俺ももう高校生だ。つまらない嫉妬などはしないさ。

長門は俺の考えが読めたのかハッと顔を上げるが、俺のわかっているさ的な微笑を見て安心した
のか、ゆっくりと視線を元に戻す。

頬を撫でる冬の風は冷たいが、どこか心地いい。

「じゃあな、長門」

「・・また」

しかしやっぱ冷えるね。俺は家路へと急いだ。

123 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 02:36:56.69 ID:L16jdEMsO

//携帯も再起動するとID変わるんだね。



翌日。十二月二十三日

俺は珍しく余裕を持って学び舎に到着し、そんな俺とほぼ同じ時間に到着した朝倉が変な微笑みを
浮かべながら話しかけてきた。

「もう頭は冷えたみたいね」

どうやらそのようだ。

「驚いたわ、あなたが、私があなたを殺そうと思ったことはないかって言ってきた時にはね」

忘れてくれ。っつっても俺にはそんなことを言った記憶は無いがな。

そういえば長門は言っていたな、ジョンが朝倉は長門の同類だと言ったってことを。ということ
はジョンの世界では朝倉も宇宙人なのか。

「なぁ朝倉」

「なーに?」

「お前、宇宙人を信じるか?」



124 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 02:38:35.49 ID:L16jdEMsO


朝倉はその晴れやかだった表情を一気に怪訝そうな表情に変化させ、

「まーだ熱があるみたいね」

と言い大きなため息を吐いた。そりゃそうだな。この世界には宇宙人も未来人も超能力者もいな
いんだ。朝倉が宇宙人なわけない。朝倉が思い通りのリアクションをしてくれたことに安心もし
たが少しがっかりした。軽く手がかりのにおいがしたんだがな。スカだったようだ。

「あなた、長門さんのことはどう思っているの?好きなの?」

・・・いきなりずいぶんと突っ込んだ質問をしてくる。好きか嫌いかで言えば、俺が長門を嫌いにな
る理由などない。性格的にも気が弱そうに見えて実はそうでもない部分もあることを発見したし、
照れている長門は素で可愛い。だが、

「俺は長門とまともに話すようになってからまだ少ししか経っていない。恋愛感情を覚えるには
早すぎる期間だ」



125 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 02:40:12.19 ID:L16jdEMsO


「あら、そうかしら」

そう言って朝倉はクスクスと笑う。

全く、からかうのは遠慮してもらいたいね。俺は人に誇れるほどの恋愛経験などはしてないのだよ。
そういう話には自信が持てないんだ。多少開き直り気味で言うと、

「ごめんごめん、からかったつもりじゃないの。でもね、前も言ったけど長門さんと付き合うな
らちゃんとしなきゃ駄目よ?あの子、ああ見えて精神の弱い子だからね」

前も、ってのはジョンに言ったってことなのか?多分そうだろう。

朝倉は長門の分析が出来てないんじゃないのか?などと一瞬思ったが、だからと言って俺も長門
の分析が出来ているかと言うとそうではない。出来ていると言うのは傲慢だろう。そもそも先に
も言った通り、まだ長門とまともなコミュニケーションを取るようになって日が経っていないの
だ。自分以外の人間の性質を断定するには早すぎる期間だと思うね。


127 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 02:42:36.17 ID:L16jdEMsO


朝倉はまだ何か話しをしたいようだったが俺は前を向いて机に突っ伏し寝たフリをしながら考え
ていた。ジョン、別世界、時空改変。全く、何も思いつかんね。この午前授業は自分の脳を休め
るためにあるというのに、こう考えてばかりじゃ休憩にもならん。どうせだから岡部が入ってく
るまで仮眠することにした。明日は期末テストの返却日にして終業式兼クリスマスイヴ、明後日
二十五日は冬休み開始日にしてクリスマス当日。


その日も半ば夢心地のうちに午前中が終り、SOS団の集合時間が近づいてくる。我が母には今日は
弁当はいらないと伝えておいた。どうせ食べる時間など無いだろうからな。

しかし、集合時間に関しては地理的に光陽園の二人の方が圧倒的に有利であり、となるとビリを
飾るのは俺か長門か朝比奈さんの三人に絞り込まれ、長門と朝比奈さんにおごらせるのは、最低
でも俺は気が引ける。ハルヒがどうかは知らんが。気を使ってわざと遅れた方がいいかなと思いつつ
も今日は余裕を持って現地に到着した俺だったが、朝比奈さんと長門は既に到着していた。
俺も今日は大分早く着いたと思ったのだが、まぁ二人がこの調子なら気を遣うまでもないかもな。


129 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 02:43:56.44 ID:L16jdEMsO


驚くべきことに、地理的に圧倒的優位に立つ光陽園の二人はまだ来ておらず、その後集合時間を二十分程度オーバーしたところで二人がやっと到着した。

「めんごめんご。終業式が長引いちゃってー」

む、お前らの所は今日が終業式か。いいな、北高よりも早い。しかし団の決まりごとにだなぁ、
一番最後に来た奴がおごるってー決まりがあってだなぁ、つまり・・・

「今日はワリカンね」

なんですとぉー!

「あたりまえでしょ、終業式が長引くかどうかなんて事前の予測は不可能だわ。あんたに予知能
力があれば別だけどね」

いちいち反論するものガキ臭いので、せめてもの反撃の証にため息を大きめに吐いておく。まぁ
せめて遅れるならメールの一つでもよこしてくれ。



130 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 02:45:10.86 ID:L16jdEMsO


「さぁいくわよ!今日もジョンに一歩近づくのよ〜〜〜!」

こいつは本当にいつも元気だね。俺の妹とも引けを取らない。俺は聞こえないように、今度は素
でため息をはいた。

しかし今日の会議は全く進展しなかった。古泉も昨日とは別人のように話さなかったな。代わり
にいつもそのハンサム面に浮かべている微笑に苦笑の割合が多くなったのは確認できた。

「ちょっとみんなどうしたのよ!昨日の勢いはどうしたのよキョン!」

困ったからって俺に振るな。しかしここは正直な意見を言うことにした。

「うーむ、これはネタ切れと言わざるを得ないな。ジョン、宇宙人、未来人、超能力者、次元改
変、いろんなキーワードについて考えてみたが、今以上に有益な情報が得られる気配は俺は感じ
ねー」


132 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 02:46:16.24 ID:L16jdEMsO


「悔しいですが、僕も同意見です。これ以上机の上の会議だけでは問題を解決できそうにありま
せんね」

朝比奈さんはさっきから考えながらぶつぶつと何かつぶやいている。

「ジョン、ジョン・F・ケネディ、ジョン・トラボルタ、ジョン・・・」

一人連想ゲームでもしているのだろうか。

133 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 02:48:22.80 ID:L16jdEMsO


「・・・・・・・・・・」

澄んだ暗黒色の瞳がいつもより少し長い間俺を見つめた後、

「・・・・メッセージ」

メッセージ?

「あたしが書いたやつ?」

「・・そう。それをみてみたい」

ハルヒはかばんからA4の紙を取り出し太めのサインペンで織姫と彦星宛のメッセージ縮小版を書
き始めた。出来上がったのはナスカの地上絵のようであり古代文明のお偉いさん方が使っていたよう
な文字でありつまりは俺には全く意味不明な文字だった。文字と呼べるかも疑問だが。

長門はそのハルヒの書いた文字を見つめ続けた。何か引っかかることでもあるのか?長門。

「・・・・・・・」

長門はウンともスンとも言わずただ見続ける。
長門はどうだ?
「どうなの有希。思い当たる節でもあるの?」

「・・・・・」

長門は何も言わず、ただ首を横に振った。


139 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 02:59:08.60 ID:L16jdEMsO

//とりあえずここではハルヒはこういう絵を描いたということにする。
http://imagepot.net/view/124154227748.jpg
パスワードは797423(泣くなよ兄さん)



確かに、手がかりのにおいはした。これもスカだったのだろうか。続いて古泉、朝比奈さんとこ
のマークを見てもらったが、二人とも特に有益な意見をもたらすことはなかった。

「うぬぬ・・、完全につまったわね・・・。」

「涼宮さん、ここは一つ現地調査の計画を立ててはいかがでしょうか」



141 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 03:01:45.15 ID:L16jdEMsO


まぁ、そうなるわな。これ以上頭をひねった所でどうにかなるとは思えない。しかしあまり面倒
くさいことはしたくないのだが。

「そうね・・・。ジョンに関係のあった場所を中心に何箇所かリストアップしましょう。何かある可
能性が高い場所から順次調べていくのよ。我ながらいい案だわ」

提案したのは古泉だが。

ジョンに関係のある場所。やはり第1位にランクインするのは北高であろう。北高の文芸部室。
栞やパソコンなどの重要物はすべてこの部屋に関係している。次いで北高の俺の教室、次いで俺
の家、あとはどう続くだろう。

「北高の文芸部室については一応調べたわ、あんたが、じゃなくてジョンが消えた直後からね」

「そうですね。一通りは調べたはずですが、あの時は僕らはみんな気が動転していましたからね、
もしかしたら何か見落としがあるかもしれません。僕はもう一度調査してみたく思っていますが」

なるほどな。再調査するのも悪くないだろう。俺はそこに踏み入れたのは一昨日が初だし、気に
なる点も無くはない。

「有希の家にもいったことがあるって言ってたわよね、ジョンは」

「長門の家か。たしか三年前の七夕の日に時間遡行したジョンが元の時間軸に戻るために長門の力
を利用したって話だったな。」


144 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 03:06:22.71 ID:L16jdEMsO


「こうしましょう。北高には冬休みに入ってから行けばいいわ。その方が時間をかけて調査でき
るでしょ。まずは有希ん家とあんたの家よ。明日はそうね、有希の家の調査にいきましょう!」

「まてまて、長門の意向を無視すんな。長門、大丈夫か?」

「問題ない」

明日は午後二時に駅前に集合になった。終業式が長引いた場合について、団長さんが考慮してく
れたらしい。しかしウチの校長の挨拶はテンプレートにまみれているから、あまり長引くことは
無いのだがね。しかし長門の家か。ジョンは行ったことがあるらしいが俺は初めてだ。なんとな
く楽しみでないといえば嘘になる。

最後に古泉が言った。

「提案があります。ジョンさんの件全般についてですが、僕らだけの機密にしておくべきだと思
います。そもそも人に言ったところで簡単に信じてもらえるとは思いませんが、できるだけ周り
を混乱させることは避けるべきではないでしょうか」

俺も同意だね。こんなこと他人にばれたら頭のオカシイ奴だと思われちまいそうだからな。信じ
る奴がいるとは思えん。俺がそうであったようにな。


145 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 03:07:48.92 ID:L16jdEMsO


「まぁ、そうね。それでいいわ」

長門と朝比奈さんもそれに同意した。

今日のハルヒはあっさりと解散宣言を出した。


「くっくっ・・・」

女共が帰路に着いた後古泉が不気味に笑う。こいつがラスボスだったのかー!なわけない。

「なんだいきなり。気持ち悪いぞ。」

「いやね、嬉しいんですよ」

何がだ。

「僕は光陽園に転校してきてから涼宮さんに気に入られましてね、あなたに会うまでも二人で行
動することが多かったわけなんですが、実は最近飽きられている様子だったんですよ」

そりゃまた何で。

147 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 03:11:23.70 ID:L16jdEMsO


「涼宮さんが僕を気に入ってくれたのは僕が転校生だからなんです。転校生という属性にのみ彼
女は興味を持ったわけですね」

あいつらしいな。どうせ転校生マオとかを見て、転校生には不思議なやつが多いんじゃねーのか
って思ったってー訳か。

「そうですね。多分そうなんでしょう。しかし見ての通り転校生という属性以外は全く普通なも
のですからね、そういうわけで飽きられつつあったんですが、SOS団のお陰でしょうね。あなた達
に会えて、僕の重要性も涼宮さんの中では回復してきていますからね」

なんとか延命できて嬉しいってか。俺なら素直に喜べないね。こいつが普通かどうかって部分に
は突っ込まないでおく。

「それもありますが、嬉しい理由は他にあります。」

もったいぶるなよ。


148 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 03:12:27.46 ID:L16jdEMsO

「すみません、どうも僕の話は回りくどいみたいです。よく言われますよ。涼宮さんはあなた達
と出会ってからよく笑うようになりました。あなた達に出会う前は、一日のほとんどは不機嫌そ
うな顔で占められていましたよ。今の彼女の楽しそうな顔を見ることが出来て僕は嬉しいのです」

そう言って古泉は父親のような微笑をそのイケメンフェイスに浮かべる。
まぁ、分かる気がするけどな。誰しも不機嫌そうな顔を見るよりも笑顔を見るほうが安心する。

「そういうわけで、これからもよろしくお願いしますね」

ニヤケ度が10%上がったような微笑を浮かべながら言いやがる。俺はよろしくと言い返す代わ
りにフンと鼻息を鳴らした。

「ではまた明日」

「じゃあな古泉」

明日は終業式。そう思うと足取りも軽くなる。俺は家路へと急いだ。腹減ったしな。

152 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 03:15:04.25 ID:L16jdEMsO



翌日。十二月二十四日兼クリスマスイヴ

予想通りテンプレにまみれた校長の演説と共に終業式が終り、多少は晴れやかな気分に浸かって
いた俺だったが、山のような数の宿題に呆然とし、進学を志している身だから仕方ないと思い直
すも、やはり休み後半で焦ることになるのだろうと予想していた。過去の長期休暇においてこの
予想がはずれたことは未だ無い。

今日の集合は午後二時。終業式だというのに我が母が作ってくれた弁当を食べながら、やはり半
熟のゆで卵にどう文句をつけようかと考えていた所で、ケータイに着信が入った。

涼宮か。集合時間にはまだ一時間以上あるが・・・何の用だろう。

「もしもー・・・

「おっそーい!今何時だと思ってんの!もう皆来てるのよ!あんたも早く来なさい三十秒で!三
十秒で来ないと罰金十倍にするわよ」

んなアホな。そういうとハルヒは30カウントを約10秒で数え、俺は食いかけの弁当を急いで
たたみ、駅までの殺人的坂道走り降りるのだった。階段は上りよりも下りの方が足にかかる負担
が大きいそうだが、下り坂道も同じようなもんなのかね。足が痛いよ全く。

「はぁ・・・はぁ・・・」

超特急で坂を下り終えた俺は力尽きたようにガクっと膝を落とす。いや疲れたマジで。日ごろの
運動不足がたたっている。


156 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 03:18:15.72 ID:L16jdEMsO

//1/3程度終わりました。長丁場になりそうだけど付き合ってくれ!


「キョン〜。あたし達をこんなに待たせてくれるなんて、覚悟はできているでしょうねぇ」

ハルヒは不気味にニヤリと笑った。

「アホか。集合時間は二時のはずなのに何故に一時間以上前に到着してんだよ」

半ばあきれ風味の口調で言うと、

「何言ってんのアホキョン。集合時間なんてのはねぇ目安でしかないのよ。このSOS団の絶対的権
力者である団長のあたしを、団位最下位のパシリであるキョンのせいで待たせることになるなん
てあってはならないのよ!脳みそに焼き付けておきなさい!」

「昨日はあたしはともかくとか言ってなかったっけ。」

「うっさいわね、とにかくあんたは有希ん家で食べるおやつ代全額負担と一発ギャグをやっても
らうわ。今のうちに考えておきなさい」

ハルヒは嬉しそうに怒鳴るという器用な技を俺に見せ付ける。一発ギャグて。


160 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 03:20:14.20 ID:L16jdEMsO


長門は心なしか楽しそうだ。まさか俺の一発ギャグを楽しみにしているのだろうか。プレッシャーだ。

さて、ハルヒは良くてもこの人には謝っておかねばらるまい。

「すみません朝比奈さん、待たせてしまいまして」

「いえ、いいんですよ。わたしも少し前に着いたばかりですから」

そう言って微笑む朝比奈さんは大天使ガブリエルのように神々可愛い。この笑顔が見れるだけで
もおやつ代は安いもんかもしれないな。

「そういえば朝比奈さん、書道部のほうは本当にやめたんですか」

気になっていたので聞いてみた。

162 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 03:23:07.80 ID:L16jdEMsO


「は、はい」

なんと。本当にやめてきたのか。なんか悪い気がしてきたね。謝るべきはハルヒなんだろうが、
この団の結成を止められなかった俺にも非はある。代わりに謝らせてもらいますよ。

「いっ、いいんですよキョンくんがあやまらなくても。大丈夫、大丈夫です」

「しかしまたなんで。書道部に思い入れが無かったというわけではないでしょう。」

「知りたいの」

「やっぱり、ジョンについてですか?」

「・・・うん。この世界で彼を知っているのはわたしたちだけでしょ。彼がもし時空改変に失敗して
しまったのであれば、彼を助けてあげられるのもわたしたちだけだと思うの」

「確かにそうですが。」

「それに、わたしは何の力にもなれなかった。彼は自分の世界を取り戻そうと必死だったのに、
わたしはそれに気がつけなくて、そんな彼を殴ったりもしてしまった。謝りたいの、彼に。そし
て困っているなら今度こそ力になってあげたい。わたしだって、家族や友達や大切な人が急にい
なくなればなんとかして元に戻したいって思うはず。彼と同じ立場だったら同じような行動を取
ったと思うの」


165 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 03:29:05.27 ID:L16jdEMsO


朝比奈さんは真剣だった。それに倣って俺も真剣に考えてみる。俺だったらどうか。家族がいな
くなったらどうする。友達がいなくなったら。SOS団がなくなったら。その時になってみないと分
からないってのもあるが、多分俺も取り戻そうとするのだろうな。ジョンもそうしたんだし。

「こらーキョン、みくるちゃん何してんの置いていくわよー!」

ったく、よく通る声をしてやがんぜ。そんなに叫ばなくても聞こえますよーだ。

「さ、行きましょう朝比奈さん。置いていかれちゃいますよ」

「うん!」

その後コンビニでこれでもかとお菓子を買い、袋をすべて俺に持たせ、重いので半分を古泉に無
理矢理押し付け、長門は新刊の文庫本を読みながら、朝比奈さんはそんな長門を微笑ましそうに
眺めながら、ハルヒは先頭をずかずかと歩き長門の住むマンションに到着した。

「どうぞ」


168 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 03:33:07.62 ID:L16jdEMsO

長門のマンションは駅からほど近いという立地でかつ3LDKくらいだろうか。結構な値段なんじゃ
ないだろうか。俺達以外に人の気配はない。一人暮らしなのか?

「・・・そう」

「家族はどうしてるんだ?」

「・・・」

「すまん、言いにくかったらいわなくていいから。」

「・・ごめんなさい」

「謝ることないぜ、長門。」

「・・・・」

とりあえず少し安心した様子。

「おー広ーい。あんまり物とか無いのねぇ」

確かに。生活臭の無い部屋だった。リビングにはコタツが置かれているだけで他には何も無い。
窓にはカーテンもかかっていないし、なんとテレビもなかった。笑っていいともとか見ないのかこ
いつは。

「好きなところに座って」



169 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 03:34:45.06 ID:L16jdEMsO


そういうと長門はコタツの一角に腰を下ろした。ハルヒも全く遠慮する気配なくドカっと座る。
俺も長門のちょうど向かい側に、朝比奈さんはハルヒの向かい側に座る。古泉がふざけて俺側に
侵入しようとしてきたが断固拒否した。

「いいですねぇ、一人暮らしですか。あこがれますね」

コタツが満員なのでフローリングの板の上にあぐらをかく古泉が言った。あこがれる気持ちは何
となく分かるが。どうせお前は進学するんだろ?大学生になってからイヤというほど一人暮らし
ができるじゃないか。

「そうですね、一人暮らしにあこがれ一人暮らしを始めるまではいいものの、食事や家事などの
面で家族の大切さを再確認するという話はよく聞きますが、そういう感覚を味わってみたいもの
です。そういえばあなたは進学を志しているのですか?それとも就職ですか?」

一応は進学を目指している身だ。成績の方はあまりいいとは言えないがな。



173 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 03:37:39.45 ID:L16jdEMsO


「ふーん。あんたあんまり頭よさそうには見えないとは思ってたけど、やっぱそうなのね」

ったく、すこしは気を使って回りくどい言い方を学んでもいいんじゃないか?


「あたしは面倒くさいのが嫌いなの。常に直球勝負よ。フォークやカーブやシュートなんてのは
あたしに言わせればナンセンスだわ」

変化球を使わずにマウンドに立つピッチャーが活躍できるとは思えんがな。と、ぐだぐだと世間
話に華を咲かせる俺たちだったが、

このまま雑談していても何も進展しなそうなので、ジョンのことについて少し考えることにした。

「ジョンについてだが、長門家とジョンとの関係は、たしか三年前の七夕にタイムスリップした
帰りに長門宅で三年間時間を止めてもらって元の時間軸に復帰したってー話だったな」

「そうだったわね」

一言だけ言い放ち沈黙するハルヒ

174 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 03:40:52.52 ID:L16jdEMsO


「十九日にジョンさんがこちらに来た時の彼の様子を詳しく話していただけませんか?何かおか
しい所があったとか」

古泉は長門を見て言う。

「・・・・・彼はあの部屋をみせてくれと言った」

そう言い長門は襖を指差す。

「・・・何の部屋なんだ?」

「寝室。彼はしばらく眺めていたけど、何も無いと判断しあきらめた様子だった」

ジョンは長門の寝室を見せろと言ったのか。なんかまた後ろめたい気分になる。

「あんた有希に変なことしてないでしょうね!」

からかい半分の顔でハルヒが言うが、俺じゃないだろう俺じゃ。ジョンに言え。

俺達もその部屋とやらを見せてもらうことにしたのだが、

「・・・・・・・・・・」

見事に何も無い。畳のみだ。いちおう隅の方まで見て回ったが特にめぼしいものは無い。ジョン
はなぜこの部屋を見せてくれなんて言ったのだろうか。わからん。


175 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 03:43:27.22 ID:L16jdEMsO


推測ですが、と古泉。

「向こうの世界では、例えばこの部屋には時間を止める装置があって、この部屋でジョンさんは
三年間眠り続けた、というストーリーはどうでしょうか。もっとも情報が不足していますから、
推測はいくらでも出来ますがそれ以上に確信を持てる段階まで進むことはできそうにないですね」

「手がかり無しね・・・」

残念ながらそのようだ。俺も沈黙する。

「まぁ、お菓子でも食べながら考え直しましょう」

苦笑混じりに古泉が言う。

そうだな。糖分を脳に回しせば何か良い案も浮かぶかもしれないな。うんそうだそうしよう。弁
当も食いかけだったしなんか腹減ってたんだ。

サラダ味がハルヒに取られたので、俺はうまい棒のなっとう味を食べながら考える。

「なぁ、時空改変って具体的には何をするんだろうな」

「ふむ、何をするんでしょうね」

さすがの古泉もお手上げ状態のようだ。

「そもそも、ジョンさんの世界と私達の世界は最低でも三年前の七夕の時点では同じでした。そ
こはいいですよね?うわ酸っぱ!」

176 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 03:46:13.26 ID:L16jdEMsO


まぁな。三つあってどれか一つがめちゃめちゃ酸っぱいガムのうちの一つを食べた古泉だったが
見事に当たったようだ。

「その日以降に何かがあり僕達の世界がジョンさんの世界よりも優位に立つことになる状況にな
ったんでしょう。何が起こったかについては知る由もありませんが。それによく考えれば僕達に
とってはジョンさんが改変を失敗してくれたほうがいいではありませんか。成功すれば僕らの存
在がどうなるのかは分かりませんしね。消えてなくなるかもしれません」

よっちゃんイカを食べて酢臭くなった朝比奈さんが心配そうな顔をする。しかし確かにそうなの
だ。ジョンを助けるよりも改変を阻止する方が俺達にとっては都合がいいってことになるっての
は俺も考えた。

「だめよそんなの!いい、ジョンは次元の狭間に閉じ込められて困ってるのよ。あんた困ってる
人を見かけたときほっとくの?手を差し伸べるでしょ普通?」

俺のサイフに手を差し伸べてほしい。

「バカ。それは自業自得でしょうが。いい、まずジョンを助けるの。その後でジョンの世界もあ
たしたちの世界も両立できるようにすればいいのよ」

どうやって。そんななんでも都合よくいく訳ねーだろ。それにジョンは次元の狭間に閉じ込めら
れているって設定で決まりかい。

「それを探してるんじゃない。ったく、バカな団員を持つと苦労が耐えないわ」


180 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 03:48:40.55 ID:L16jdEMsO


なんだと。オイこら。えーこら。

「そういえばキョン。そろそろ一発ギャグしなさい」

う。忘れてなかったか。二本目のうまい棒、めんたいこ味を食べながらハルヒはまたニヤリとし

「あたしを出し抜こうなんて4億光年早いわ。ほら、考える時間は十分にあったでしょ。やりな
さい」

仕方なく俺は立ち上がりとりあえず考えていたネタをやったが、笑っていたのは古泉のみであり
、つまり古泉はいつでも笑っているので俺のネタで笑ってくれたわけではなく、朝比奈さんにお
いてはついに震えだした。

俺が一発ギャグをやっている間、長門はガブリチュウを食べながら動かない石像のように俺を見
つめていたが、俺がダルシムのものまねをした時に

「ぷふ」

となんとも笑ったのかどうかよく分からない効果音を発したのだが、顔を見ると笑いを堪えよう
としているようにも見えたので、しめしめと思い、

「ヨガファイヤー!ヨガファイヤー!ヨガフレイム!プギャー!」

長門はもう笑ってはくれなかった。

182 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 03:50:20.88 ID:L16jdEMsO


その後、古泉がなぜか持ってきたボードゲームなりトランプなどをして盛り上がった。大貧民は
俺とハルヒの壮絶な大富豪取り合い合戦の戦場と化したが結局俺が寸分の差で勝利した。いやぁ
気分がいいね。ハルヒには日ごろ世話になってるからなぁ。せめてカードゲームの場ではお返し
をしたいと思っていた所なのだよ。こう見えてもカードゲームやボードゲームは得意だったりす
るんだぜ俺は。

「うぬぬぬぁあっ!悔しいったりゃありゃしないわ。パシリのキョンに負けるなんて、涼宮家末
代までの恥ね・・・」

そこまで言うか。と本気で悔しそうな顔をするハルヒ。そんなこんなで今日も過ぎていったが、
俺はふと考える。

結局今日も進展はしなかったな。

「さて、もう遅いですし今日はお開きにしますか」

と古泉。時計の針は午後八時を指していた。ったく、楽しい時間は過ぎるのが早いと言うけれど
、全くその通りだね。あぁ楽しかったさ悪いか。俺も部活なり同好会なりに所属したりはしなか
ったからな、何か寂しかったのかもしれん。


183 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 03:51:36.13 ID:L16jdEMsO


「あしたはあんたの家ね。ちゃんと掃除しておきなさいよ。エロ本とかも隠しておきなさいよ今
のうちに」

そういやそうだったな。

なぜか朝比奈さんが顔を赤くし、ハルヒはニヤニヤしながら言ったが、残念ながらそんなもんは
無いね。いや、無いと思う。処分したはずだからな。しかし後で再確認せねばなるまい。ハルヒ
はともかく他2名のレディーにそんなはずかしい物を見られでもしたら俺のクールでニヒルなキ
ャラ像が崩壊しちまうからな。

「そうね、あんたの家に行くついでにクリスマスパーティーをしましょう。ちなみに今日のはク
リスマスイヴパーティーよ。イエスキリストが生まれたのは明日なの。世間では今日の方が本ク
リスマスとして騒がれてるようだけどね、ちゃんと生まれた日に祝ってもらわないとキリストも
がっかりするわ」



186 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:02:40.58 ID:L16jdEMsO



「なっ!いきなりだなオイ。キリスト教徒でもないマルチ宗教国家である日本国の国民に祝われて
もキリストは嬉しくないと思うがな。」

「何よ、どうせ何も予定無いんでしょ。あんたに彼女なんかいるわけ無いもんね。過去だってク
リスマスの日に赤いハートのマークが付いたことはどうせ一度も無いんでしょう。いい機会じゃ
ない、女の子三人とクリスマスを過ごせるって言うのよ、あんたが女の子と同じ時を過ごすなん
て5兆光年早いと思うけどね、このあたしが5兆光年を埋めてあげると言ってんの。感謝しなさ
い」

俺の過去と女事情を的確に言い当て俺を黙らせる。しかしまぁ、反対する理由は無いね。北高の
誇るプリティ天使である朝比奈さんとクリスマスを過ごせるのであれば文句があるわけなどない。
それにこいつに反対意見を提出したところで受理されるのはその予定を行った後だからな。

187 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:04:25.51 ID:L16jdEMsO


「古泉くんは?明日大丈夫でしょ?」

「全く問題ありません。しかしクリスマスパーティーですか、いいですね。そうだ、バーベキュ
ーでもしましょうか。ちょうど父が新しいセットを買ってきたのですよ」

「それいいわね!決定!みんな、肉持ってきなさい!野菜はいいからとにかく肉よ!」

俺ん家の家事情をまったく無視して話を進めやがる。まぁ今更止める気は無いがな。

「クリスマスパーティーかぁ、ケーキもほしいですよね」

「いい所に気が付いたわねみくるちゃん。それよそれ、ケーキが無きゃ始まらないわ!」

バーベキューよりもそっちのが重要だろう。

「有希は大丈夫?」

「問題ない」

ということで明日は午後3時に駅前集合となった。集合時間が午後三時だから一時間前には到着
していないとヒドイ目にあうな。


188 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:05:39.47 ID:L16jdEMsO


「あとはなんでもいいから遊べそうな物を持ってきなさい!キョン、あんたはホストなんだから
お客様をもてなす準備もしておきなさいよ。それから集合時間は守ること!以上!」

ハルヒは太陽のような笑顔で俺を見つめる。まぁいいさ、お前の暴言については逐一突っ込まな
いでおいてやる。こういう高校生らしい青春も悪くないさ。

「じゃあな長門、明日な。」

「また・・・」

マンションの玄関まで見送りに来てくれた長門と別れ、俺達は別々の帰路につく。ハルヒの野郎
はよっぽど機嫌がいいのか、もろびとこぞりてを口ずさみながらスキップで闇に消えていった。
俺は帰り際に朝比奈さんに呼び止められた。

「キョンくん、今日はお話を聞いてもらってありがとうございます」

「お話って、あぁ、いえいえお礼を言われるほどのことじゃないですよ。聞いたのはこちらですし
ね。」

「えへ、じゃあ、また明日ねキョンくん」

そう言って小走りで去っていく朝比奈さんはまだ、酢臭かった。お疲れ様です、朝比奈さん。


189 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:07:05.87 ID:L16jdEMsO


俺も家路へと急ぐ。確か今日の晩飯はかに玉とか我が母が言っていたからな。





空から舞い降りる白き粒。こりゃ、いいクリスマスになりそうだな。全くもって。


192 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:10:11.10 ID:L16jdEMsO


翌日。十二月二十五日兼クリスマス。

ここ最近は温暖化だの何だのと各国の首脳陣が言っているがその影響でか、子供の頃よりも降雪
の量や割合は少なくなった気もする。しかしながら本日は雪が降り続いている。まぁいちおう降
ってはいるのだが、雨に換算すると霧雨程度のもので、山間部では何センチか積もっているらし
いのだが、都市部ではそうまでは至っていない。まったく半端なものだ。

ハルヒも同じことを思ったようで、

「まったく歩きにくいったりゃありゃしないわ。どうせならもっと大々的に降ればいいのに。雪
合戦したりとか雪だるまつくったりとかしたかったのに!」

「おめーは子供か。」

「フンだ。なによ、日本は四季がはっきりしている国なのよ。冬なら冬らしくもっと寒くなって
雪もじゃんじゃん降るべきだわ。なのに何なのよこの半端さは。政府も温暖化対策にもっとお金
をつぎ込むべきなのよ。超大型のエアコンを作って地球を冷やすべきだわ」

それじゃ根本的な解決にならん。

193 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:11:08.95 ID:L16jdEMsO


「なによ。みくるちゃんもそう思うわよねー」

「ひえっ、えっ、その、わたしは暖かいほうが・・・わきゃぁー、ななな何するんですかぁー」

ハルヒは後ろから朝比奈さんの体に手を絡ませ動けないようにし耳をはむはむ噛み始めた。
俺は呆れ半分羨望半分でその光景を眺めていたのだが、羨ましい思いがにじみ出ていたのだろうか。

「目がヒモみたいになってるわよ」

ハッ!いかんいかん。

長門はいつかのようにじっとに朝比奈さんを見ていた。長門。ニーズはある。お前は希少価値なんだぞ。

「そういやハルヒ、お前の荷物はやけに膨れているが何が入ってるんだ。あんまりおかしいもの
を持ってこられても困るぜ」


194 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:12:11.80 ID:L16jdEMsO


「ふふふ、気になる?でも教えないわ。その時のお楽しみね。あたしがあんたたちを楽しませて
やろうってんだから感謝しなさいよ」

どーせロクなもんじゃないな。まぁ一応期待はしておこう。

しかし珍しく今日は俺が最後ではないのだ。SOS団副団長であるニヤケハンサム野郎、古泉一樹の
姿がまだ無い。時間にルーズな奴だとは思えないのだが、何かあったのだろうか。電話の一つで
もかけようかどうしようかと思っていた所に、ハルヒのケータイに着信が入った。

「もしもし、あ、古泉くん?どうしたの?みんなもう来てるわよ。・・・え、あ、うん。わかった、
炭ね。わかったわ。あ、ちょっと待ってキョンに代わるから」

俺に用があるのか?


198 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:15:24.10 ID:L16jdEMsO


「もしもし古泉か?俺だ」

「申し訳ありません、バーベキューセットが思っていたより大きくて一人では運べそうもないの
で、みなさんが買出しを終えてあなたの家に着く頃にあわせてタクシーを使ってそちらに運ぼう
と思います。なので買出しには皆さんだけで行ってください」

「あぁ、そういうことか。了解したぜ」

「家の方に到着しそうになったらメールか何かでご一報ください。それから住所を教えていただ
けませんか?」

「住所?ああ、お前は俺の家の場所を知らないもんな。というかここにいる皆も知らないが。住
所だけで所在が分かるのか?」

「ええ」

こいつは郵便局員のバイトでもやってたのだろうか。そんなバイトがあるかどうかは知らんが。

「○○△△■■-189番地だ」

「ふむ、なるほどあそこですか。北高の学区の端付近ですね。意外と大変そうですね、通学」

「通学は大変だが、まぁ一番大変なのはあの殺人的坂道を登ることさ」

他校の学区の範囲などよく分かるものだ。俺なんか自校の学区でもさして興味は無い。

「なるほど。あぁ、涼宮さんにも言っておきましたが、炭が足らないのでそちらの方も買ってき
てください。お願いしますね」


199 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:16:31.59 ID:L16jdEMsO


適当に返事をし俺は電話を切った。

「さぁ行くわよぉ〜!肉!ケーキ!肉!ほら有希も!肉!!」

「に、にく・・」

ハルヒのなすがままになっている長門と朝比奈さんをながめながら俺達はの買出しへと向かう。
おまえはどんだけ肉が好きなんだと逐一突っ込みたくなるほどにハルヒはポンポンとかごに肉ば
かりいれていく。これでは食いきれるかどうか微妙だ。

「あのぉ、こんなにたくさんは食べきれないんじゃあ」

カートを押す朝比奈さんが心配そうに言う。豚肉300グラム4パック、牛肉500グラム焼肉用8パ
ック、鳥肉少々、ウィンナー一袋、ベーコン少々。これを五人、まぁ妹と母も入れたとして七人で
食べきるのは確かに少々辛いかと思われるが。


200 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:17:46.22 ID:L16jdEMsO


「なによみくるちゃん、ちゃんとタンパク質をとらないと胸が大きくならないわよ。それに大食
いの男共が二人もいるんだからすぐなくなるわよこんなの。ねぇキョン」

と言いまた朝比奈さんに絡みつくハルヒ。朝比奈さんに限ってはその部分のタンパク質は間に合
っていそうだし(ていうか脂質じゃないのか?)、俺は大食の自信は無いね残念ながら。

「・・・・・」

しかし今の話を黙って聞いていた長門は、また一つ肉のパックをかごに入れるのだった。

だが流石に野菜も入れた方がいいだろう。とりあえずキャベツとタマネギと、鳥肉もあったから
ネギでも買ってネギ間の焼き鳥でも作るか。

209 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:32:03.51 ID:L16jdEMsO


「あーっ!何やってんのよキョン!野菜を買うなんてのは軟弱物のやることなのよ。男なら黙っ
て肉食ってりゃいいのよ肉!戻してきなさい」

こいつは農家の人たちに謝ったほうがいい。

「何言ってる。日本人は元来野菜を食べるのに適した胃腸の構成をしているのだよハルヒ君。こ
う肉ばかりだと常にハイテンションで元気なお前の胃袋でもさすがに疲れるだろうよ。よって少
しは野菜を入れておくのさ」

見ろ、朝比奈さんもうなずいている。ハルヒは一瞬ムスっとした顔をしたが、

「むー、まぁ、あんたがそれでいいならいいわ。あとお菓子ね!昨日食べたうまい棒うまかった
わ!何味か忘れたけど。うまい棒を大人買いしましょ!あ、あと炭ね。古泉くんに頼まれてたの
忘れる所だったわ!」



210 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:33:29.33 ID:L16jdEMsO


こいつが俺の言うことをすんなりと聞くとはな。大雪にでもなったりして。

「ん?なんか言ったキョン?言いたいことがあるならハッキリいいなさいよ」

「ん、あぁ、お前が俺の言うことを素直に聞くなんて珍しいこともあるんだなと思ってさ。可愛
いところもあるじゃないか」

思ったことを素直に言ってみたね。

「なっ、なな何言ってんのよエロキョン!みくるちゃん、カートをこのアホキョンに押させなさ
い。キョンはパシリなんだからこういう肉体労働系は優先的にパシリがやらなきゃいけないのよ。
全く大体・・・」

ハルヒはぷんすかしながら早足で進んでいく。まったく微笑ましいリアクションをしてくれるぜ。
しかしエロキョンは無いだろエロキョンは。


211 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:34:25.90 ID:L16jdEMsO

さて朝比奈さん、代わりましょう。かごの荷物も多くなってきたし重いですからね。

「あ、ありがとうキョンくん」

なぁに、我が天使である朝比奈さんに御両手にかかっていた負荷とあれば我が両手も万々歳で受
け入れるでしょうハッハッハ。

「そこぉ、なにイチャついてんの!団内でイチャつくのは禁止!次やったら逆立ちで校庭十週の
刑よ!早く来なさいカゴ係がいないと買い物ができないでしょ!」

へいへい行きますよ。ったく店内には他の客も大勢いるってのに大声で叫びやがる。恥ってもん
がこいつには無いのかね。

そんなこんなで俺達は買い物を終え、ちょうど我が家が見えてきたあたりで古泉の乗ったタクシ
ーが到着した。

「ちょうどよかった、これ降ろすの手伝って下さい」


213 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:35:50.27 ID:L16jdEMsO


古泉が持ってきたバーベキューセットはかなり本格的なものだった。こりゃうまい肉が焼けそう
だ。雪も買い物を終えた頃から止んだ様だし、天気もいい。ちと寒いが肉でも食えば体も温まる
だろう。

てかどうせやるなら鍋とかの方がよかったかもな。冬にバーベキューはあまりやらなさそうだ。
と今になって思ったがも言わないでおいたね。みんな結構ノリノリだしな。

「とりあえず荷物を置こう。入ってくれ」

「おじゃましまーす」

ハルヒがでかい声で挨拶する。

「こんにちわぁ〜、キョンくんのおともだちー?」

あー、紹介しよう。我が妹だ。

214 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:37:12.22 ID:L16jdEMsO


あんた妹にもキョンって呼ばれてんのねと言ってハルヒはヒッヒッと笑う。聞かなかったことに
してくれ。

ハルヒ達は母にも挨拶をし、母は俺が進学校である光陽園の生徒を連れてきたことに驚き、俺に
勉強を教えてあげてはいただけないだろうかと頼み込む母にもそろそろ鬱陶しくなったのでバー
ベキューの準備にとりかかることにした。

「よし古泉、そろそろ準備するか。女子は食料の方の準備を頼む」

庭にセットを組み立て、炭に火をつける。意外と難しいんだな炭に火をつけるのって。

「ふう、とりあえずこれで準備はOKですね。あとは焼いて食べるだけです。しかし、先ほど買い
物袋を拝見させていただきましたが、肉の量はすさまじいですね。全部食べきれるのでしょうか」

苦笑混じりに古泉が言う。


215 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:38:34.46 ID:L16jdEMsO

「それを言うな。ハルヒの中では男=大食いとなっているようだ。俺達
が全部食ってくれるとか言ってたぞ。いちおう聞くがお前は自信あるか?」

「無いですね。運動部の方であれば部活等でエネルギーも多く消費しますから、より多くのエネ
ルギーを摂取するために食事の量も多くなるようですが、僕は生まれてかれこれ運動系の部に所
属したことはありません。まぁ野球の経験はあるのですが。よって胃袋の大きさも人並みですね」

「俺もそんなもんさ。」

「しかし、あまり大声では言えませんが実は涼宮さんは意外と大食らいなんですよ。それこそ同
年代の女性よりは大分食べますね。同年代の男性よりも食べるかもしれません。彼女が常にエネ
ルギッシュなのはそのせいかもしれませんね」

細胞に梱包しているミトコンドリアの数が常人とは違うのかもしれんな。そのエネルギーをせめ
てもう少し世のため人のために使えばいいものを。

女共が一口大に切った野菜や肉を持ってきた頃には鉄板も十分温まっており、紙コップにウーロ
ン茶を注ぎ、よし早速第一号の肉を焼きにかかろうかと思い我が箸で肉を掴もうとしたその矢先、
俺の手首に衝撃が加えられた。


216 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:39:38.48 ID:L16jdEMsO


アウチッ!なにすんねん!

「キョン、あんた団長の挨拶も待たずに食べようとするなんて一体何を考えてんの?少しは学び
なさいよ!」

「まなびなさいよー」

妹がハルヒのセリフをリピートする。ちなみに妹はというと、どうやら朝比奈さんを大分気に入
ったみたいで先ほどから朝比奈さんにまとわりついている。その豊かな胸に顔をうずめ、

「みくるちゃんふわふわ〜」

などとのん気な事を言っている。羨ましいなオイ。

「うふふふ」

朝比奈さんも満更ではなさそうだ。将来は保育士とか小学校の先生とか合ってそうだな。子供好きそうだし、子供からも人気がありそうだ。

217 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:41:34.47 ID:L16jdEMsO


「ごほん!」

皆が一斉にハルヒの方を向く。そういや挨拶がどうとかだったな。どーでもいいが早く食わせて
もらえないかな。

「さて、我々SOS団の結成からなんと今日で四日目です」

21、22、23、24、25

「五日目じゃねー・・・

「五日目です!!!」

こいつ・・・。

「思えば色々ありました。ジョンの消失、喫茶店での会議、クリスマスイヴパーティー・・・

確かに色々あったな。懐かしべきほどの時間は経っていないが。

「しかしながら、ジョンに繋がる大きな手がかりはまだ発見できずにいます。これは悲しむべき
ことです。ジョンは今も次元の狭間で苦しんでいるというのに私達はそれを指をくわえて見てい
ることしかできません」


220 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:44:12.23 ID:L16jdEMsO

//前レス 懐かしべき→懐かしむべき


見る事すらできていないだろ。ハルヒは虚空を見つめ空を指差し、

「我々は何としてもジョンの行方を見つけ出さねばなりません。今日はそのための英気を養うた
めのパーティーです。これから我々は戦場へと赴かなければなりません。みんな、今のうちにじ
ゃんじゃん食べてエネルギーをたくわえておきなさい!それじゃ、 乾杯!」

「かんぱーい」

俺は第一号の肉を鉄板に乗せる。そういやバーベキューなんてやるのは何年ぶりだろうか。前に
やったのは、思い出せないほど前のことだ。しかしながら寒空の下で食べる肉はかなり美味しか
ったな。

俺との肉取り合い合戦に勝利し勝ち誇るハルヒや(余るほどあるというのに)、一切れの肉を食べ
終わるまでに3分くらいかける長門や、焼けた野菜に肉を包み何か朝比奈流の新しい料理を開発
していた朝比奈さんや、無邪気に朝比奈さんにじゃれる妹、それらを微笑ましく見守る父親のよ
うな古泉をひとしきり眺め、俺はふと空を見る。雪雲はどこかに行ってしまったようだ。冬の空
気は澄んでいて綺麗だと言うが、全くもってその通りだね。


221 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:47:16.30 ID:L16jdEMsO


そこには、あまねく星空が広がっていた。

バーベキューもそうだが、いつが最後だろうな。まともに星空を見たのは。


「きれい」

長門が言う。長門も同じものを見ていた。

「そうだな」

「星座、知ってる?」

長門の宇宙のような瞳が俺を見る。そういや長門に疑問系で話しかけられたのは初めてだな。

「んー、オリオン座と北斗七星くらいは分かるが、あとは分からないな。分かるのか?」

「・・・・」

長門はコクリとうなずく。

「オリオン座より南東方向に比較的明るい星がある。それがシリウス。シリウスがあるのがおお
いぬ座。おおいぬ座より北東方向にある比較的明るい星、それがプロキオン。プロキオンのある
星座がこいぬ座。オリオン座の一番左上の赤くて明るい星、あれがベテルギウス。シリウスとプ
ロキオンとベテルギウスをつないだ三角形を冬の大三角という」


222 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:49:47.14 ID:L16jdEMsO


長門は指を指しながら説明してくれた。冬の大三角は聞いたことあるな。シリウスも聞いたこと
はある。ハリーポッターに出てきたよな確か。ベテルギウスとプロキオンは初耳だ。さすが本を
読んでいるだけあって物知りだな、長門。

「・・・」

照れてうつむくのかと思いきや、珍しくもそうはならずまだ黙って天を見上げている。ジョンの
世界では長門は宇宙人らしいが、こっちではそんな属性は無くとも、何か通じるものがあるのだろう
か、宇宙に。

俺達の話を聞いていたのか、ハルヒが、

「ねぇねぇ、オリジナルの星座を作りましょうよ!あんたの星座を作ってあげるわ!」

オリジナルって。てかお前に作ってもらっても嬉かねー。


224 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:50:58.16 ID:L16jdEMsO


「なによ、あんたにお似合いのマヌケな星座を作ってあげようと思ったのに。そうね、あの星と
あの星とあの赤い星でキョン座よ。どう?」

そう言ったハルヒは満点の星空のような笑顔を浮かべていた。そんな無邪気な笑顔を見ていると
悪くないかなと思えてきてしまうね、キョン座ってのも。あの星とあの星とあの赤い星ってのが
どれだか分からんが。赤いのはベテルギウスか?

結局肉は余った。始めから分かりきっていたことだがな。我が食卓にはここ数日間、肉の割合が
増えることだろう。

冷えてきたので室内に移動することにした。バーベキューセットは物置に一時格納し、明日解体
することにする。

「あんたはケーキ持ってきなさい。あ、あとあんたの部屋借りるわ。いいって言うまで入ってき
ちゃだめよ。古泉くんもケーキ持ってくるの手伝ってあげて」

そういうと女子共は俺の部屋に入り、何をしているのかは知らないが朝比奈さんの悲鳴が聞こえ
てきた。

「えええちょちょっと何するんですかー、えっ、わー、自分で、自分で脱ぎますー、わきゃぁー
、うっうう」


225 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:53:21.08 ID:L16jdEMsO


い、一体何をやっているのだろうか。妄想だけが一人歩きするような悲鳴であったが、とりあえ
ず朝比奈さんの無事を祈りつつ、俺と古泉はケーキを人数分切りそろえ部屋にもどる。一応ノッ
クしとくか。自分の部屋だというのに。

「入っていいかー」

「ふっふっふ、どうぞー!」

「わっ・・・」

部屋にはなんとサンタがいた。頬を朱に染めて立っているそれは見るもの全てを幸せにしてしま
うような美貌をもった美少女サンタ、つまりは朝比奈さんミニスカサンタバージョンだ。俺が絶
句していると、

「これはこれは」

古泉が口を開く。

「非常によくお似合いです。申し訳ありませんがこのような常套句しか思い浮かびませんね。う
ん、そうですとも。とてもよくお似合いですよ」


226 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:54:15.68 ID:L16jdEMsO


「でしょ!あたしの衣装センスに間違いは無いのよー!」

そういうとハルヒは朝比奈さんを抱き寄せ、愛くるしいサンタの顔に自分の頬を寄せた。

「みくるちゃん、あなたものすごい可愛いわ。これほどの可愛さなら本物のサンタと取って代わ
っても誰も文句言わないわ。みくるちゃんはこれからSOS団専属サンタになるのよ!いいみんな、
今まで町で見かけたサンタは全部ニセモノよ!みくるちゃんこそが本物なの。プレゼントが欲し
ければみくるサンタにお祈りしなさい!」

「ふひー」

頼りなさそうなため息を吐く朝比奈さんだったが、いや俺はお祈りの一つや二つなら捧げてもい
いと思ったね。プレゼントをよこせというのは傲慢だが。あぁ、ハルヒのかばんがふくれていた
のはこの衣装のせいか。どこで手に入れたんだかな、こんな衣装。


227 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:55:31.80 ID:L16jdEMsO



そんなわけで俺の部屋でもハルヒの勢いは変わらず、俺達は主に古泉が持ってきたゲームで遊び
呆けた。こいつはゲームマニアか何かなのかね。

ハルヒがリベンジマッチとばかりに果敢にも俺に挑んできた大貧民では、またしても俺が寸分の
差で勝利を飾り、エースコンバット4のプレイヤー同士の対戦では長門と古泉の20分に渡る死闘の
末古泉が勝利し、名前なんつったかな、指定された数字に手足を移動させ崩れたら負けってゲー
ムはハルヒの独壇場でだった。ちなみにこのゲームでは俺は一回戦で長門に敗れた。手加減した
つもりは無かったのだが長門は意外にも粘り強く、無惨にも俺は崩れ落ちた。こいつは結構負け
ず嫌いな所もあるのかもな。長門の意外な一面をまた一つ発見した気分だ。

この頃になると妹は疲れたのか、サンタ朝比奈さんの膝の上ですやすやと寝息を立てていたが、
ハルヒの勢いは留まることを知らず、次は王様ゲームをする運びとなり・・・

とまぁこんな感じでいかにも高校生らしいモラトリアムなクリスマスを俺達は過ごしていた。王
様ゲームについても特に執筆するほどのことは無かったが、まぁ、とある一回については俺が心
に留めておきたいと思った風景を見ることができたので、それについてお話ししようか。


229 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 04:59:04.76 ID:L16jdEMsO


それは9回目の時だった。8回もやってるというのに俺が王様のクジを引くことは未だ無く、そ
のくせ4回も王様の命令を受けてしまっているという状況だったのだが、

「ふ、どうやら俺の時代が来たようだ」

「なっ、まさか」

ノリノリのハルヒが大げさなリアクションをする。

「そうだ、俺がゼロだ!」


クジが0〜4でゼロの奴が王様って設定になってるわけで、コー○ギアスの主人公を真似たって
訳じゃない。皆のリアクションからして誰もコー○ギアスを知らないっぽくてどこかスベった感
じになったからといって言い訳をしているわけでもないぞ。いちおう言っておくが。


230 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:00:08.05 ID:L16jdEMsO


「いやぁハルヒよ、先ほどは安部総理のモノマネをしろなんてー無理難題をよくも押し付けてく
れたな。これでようやくウサ晴らしができるってもんだ」

「ほぅ、いくら王様とはいえ命令を下せるのは一人だけ。あたしに当たる確率は四分の一よキョ
ン。大層な自信ねぇ」

確かにそうなのだが、まぁハルヒ以外に当たっても大丈夫な命令にしとこう。

「3番は」

そう言い、少しだけ間を持たせる。ハルヒが一瞬ビクッと動いたのを俺は見逃さなかった。しめ
しめ。

「ポニーテールに髪型変更!」

声を大きくして言うことじゃあないが、俺はポニーテール萌えなのだ。古泉で無いことを祈るが、
誰だね3番は。

うっ、と反応するハルヒ。



231 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:01:17.53 ID:L16jdEMsO


「あ、あたしよ・・」

命令ですよハルヒさん。ポニテにしてもらいましょうかね。

「な、なんであたしがあんたなんかの命令に従わなきゃいけないのよ!」

これが王様ゲームだからですよハルヒさん。そういう仕組みなんですよ。
ハルヒは10秒くらいうぬぬぬと唸っていたが観念したのか、

「分かったわよ、すればいいんでしょすれば!」

ポケットから髪留めゴムを取り出して、長い黒髪を器用に後頭部でまとめあげる。

「わわっ、かわいい。似合ってますよ涼宮さん」

と朝比奈さん。全くその通りです。ハルヒポニテヴァージョンは見事に似合っていた。俺の目に
は魅力度三十八パーセント増しになったように見えるぜ。

「なっ・・」

一瞬怒ったような顔をしたハルヒだったが、次の瞬間にはなんと、笑い出した。なんだなんだ、
何か面白いことでも言ったか?



232 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:03:47.70 ID:L16jdEMsO

「これはこれは、さすがと言うべきですか」

古泉までもが笑っている。どーゆーこった?

「ジョンもね、同じことを言ったのよ。あたしと古泉くんと一緒に北高に潜り込んだときにね・・・

「やはりジョンさんは、別の世界の"あなた"なんですね。もっともジョンさんが言ったのは確か、
"三十六パーセント増し"だったと思いますが」

なるほどな。さすがはジョンだ。考えていることも俺とそう違わないのだろうな。何か狙いをか
わされたような気がして恥ずかしくなったね。


「はい、もういいでしょ」

そう言ってハルヒははらりとポニテをほどく。俺としてはもう少し見ていたかったのだが。



233 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:04:40.13 ID:L16jdEMsO


「何よ、あんた命令を出すときに期限までは言わなかったでしょ。せめて今日中とか条件をつけ
ておけばよかったのに。まったくアホね」

ハルヒは次やるわよと言いクジを手に取る。まぁいいか、網膜には焼き付けておいたから当分は
忘れなさそうだ。またいつか見たいもんだぜ。

そんなこんなで夜は更けていく。さすがに午後二時を回る頃にはみんな疲れが出てきたのか、ハ
ルヒは長門とお互いに寄り掛かるような感じで、古泉はコタツにそのまま突っ伏して、俺はコタ
ツに足を突っ込んだまま床に寝転び、そのまま寝てしまったようだ。やれやれ、悪くない青春だ
と思うけどね。我ながら。

てかこいつら、お泊りするつもりだったのか?

237 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:10:45.08 ID:L16jdEMsO


翌日 十二月二十六日

翌日、男共はバーベキューセットをかたずけ、女共は俺の部屋の片づけをしてくれた。
解散際にハルヒはこう言った。

「さて、やることはやったはね。あんたの部屋から卑猥な雑誌やビデオが出てこなくて残念だわ。
見つけたら証拠として押収しSOS団パシリとして一生下働きをさせるための材料にしようと思っ
たのに」

そう言いハルヒは怪しくニヤリと笑った。そんなものは処分したからな。前にも言ったが残念な
がら存在しないのだよハルヒ君。てゆーか掃除と見せかけてお前はそんなもんを探していたのか。
変な所いじってないだろうな。油断のならん奴だな全く。いや変な所なんて無いが。

ふーんとハルヒは鼻をならす。信じてないなこいつ。


238 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:11:57.97 ID:L16jdEMsO

「まぁいいわ。今日はこれで解散にしましょ。まぁあんたのもてなしにしては上出来だったわ。
楽しかったからね。今後の行いによってはパシリから団員その一にランクアップさせてあげても
いいわよ。がんばりなさい」

へいへい。

「明日は北高に行くわよ。みんな、ジョンのこと忘れちゃだめよ。クリスマスパーティーはジョ
ンを助けるための英気を養うためのものだったんだからね。これだけ食べて遊べんだんだからい
いアイディアの一つや二つや三つ、浮かんできてもおかしくないわ!」

「お前がジョンのことを一番忘れてそうだったがな。覚えててくれて安心したぜ。しかし明日とは
急だなオイ。SOS団には休日ってもんは無いのかね。冬休みなんだから少しはゆっくりしたいよ。」

「なによキョン。パシリごときが団長様に楯突こうってわけ? 謀反の罪は重いのよ。あたした
ちはジョン救出という最優先任務を背負ってるの。任務を無事遂行できるまで休むことは許され
ないのよ!わかった?それからあんたを団員その一にランクアップさせるって話は無かったこと
にするわ。それで謀反を許してやるってんだから感謝しなさいよ」

240 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:12:52.31 ID:L16jdEMsO


「全く、初めからそんな気は無かったんだろう。やれやれ。」

「んん、分かった?」

そう言うとハルヒはヒマワリのような笑みを浮かべる。
そうだな、お前は思い立ったら即行動、途中棄権は許さない、そんな奴だったな。俺が反対意見
を主張した所で通る訳など初めから無いってのはもう分かりきっていることさ。まぁいい、この
際最後まで付き合ってやるよ。俺もお前らと共に見届けたくなってきたからな。ジョンの行方を。

「集合場所は駅前のいつもの場所ね。時間は後でメール回すわ。みんな、異論は無いわね」

沈黙を肯定と受け取り、

「じゃあ解散!」


242 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:16:09.54 ID:L16jdEMsO


俺は女共が片付けてくれた綺麗な我が部屋に戻り、とりあえず仮眠を取ることにしたね。30分だけ。


この後、事態は急展開を迎えることになる。



245 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:18:59.73 ID:L16jdEMsO


ハルヒはクリスマスパーティーはジョンの手がかりを見つけるための英気を養うためと言ってい
た。本心からそう言っている部分もあるのだろうけど、ただ俺たちと騒ぎたいがための口実であ
る割合が大きいだろうと俺は判断していたのだが、

ハルヒの言ったことも、あながち間違いではないかもしれない。


六時間ほど後に俺は目を覚ました。眠りを妨げたのはケータイの着信音であり、これが無ければ
俺に晩飯が出来たことを知らせに来る母親の使者である妹が我が部屋に侵入しなかなか起きない
俺にボディプレスをかけるまで寝ていた自信がある。

俺はケータイを手に取り画面を見ると、なんと電話をかけてきたのは長門だった。一番可能性が
低そうな奴からかかってきたな。


246 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:19:42.26 ID:L16jdEMsO


「もしもし、どうした、長門」

「・・・ねていた」

疑問系の口調ではないが、多分疑問系なのだろう。

「ああちょっとな。仮眠のつもりだったのだが、うわ、大分寝てしまったようだな」

「ごめんなさい、わたしの用事は後でいい。また寝て」

と言って切ろうとする長門だったが、

「大丈夫だ長門。人間の睡眠周期は1時間半で、俺が寝てから丁度6時間が経過した所なんだ。
むしろ感謝してるぞ。いい所で起こしてくれた」

「・・・そう」

「で、用事って何だ」

「手がかりを見つけたかもしれない」

「ジョン関係のか?」

「そうかもしれないけれど、確証はない。あなたに見てもらって意見を聞かせて欲しい」


248 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:24:18.44 ID:L16jdEMsO

>>244 午前です。すまぬ。

支度をし、階段をかけおりる。

「キョンくん、もうすぐご飯だよ。どこいくのー?」

「用事ができた。母には俺の分は取っておいてくれと伝えてくれ。」

「えっ、キョンくーん」


妹を振り切り自転車を走らせる。長門が見つけた手がかりらしきもの、何だろう。あの襖の部屋
に何かあったのだろうか。

長門のマンションに到着し、インターホンを鳴らす。

「長門、俺だ。悪い、ちょっと遅くなった」

「問題ない。入って」

扉が開く。
昨日来た時と全く変わらない質素な部屋。それもそうか、一日二日で変わる訳が無い。


250 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:26:10.61 ID:L16jdEMsO


「お茶をいれる、待ってて」

お茶なんかいいから早く手がかりについて聞きたかったのだが、せかすのも悪い。時間がないわけでもないし。

「どうぞ」

長門の入れてくれた緑茶を飲む。普通だ。質素な奴だけあって、どこかお茶もあっさりしているな。
嫌いじゃないけれども。

「長門、そろそろ手がかりについて教えてくれないか」

「・・・・・・・」

長門は立ち上がり、部屋の隅にあった三冊の本を持ってきた。

「これを見て欲しい」

一冊目、分厚いSF本。指定されたページを開く。そこには見たことも無い文字が描かれていた。
言わずもがなこれは日本語で書かれた本であり(原作者は外国人のようだが)、そのページ以外は
すべて日本語で埋め尽くされている。


251 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:28:43.36 ID:L16jdEMsO


しかもこのページのその見たことも無い文字は、十字架のような形でそのページを埋めている。
しかし完全な十字ではなく、ふにゃりと曲がっている部分もあるし、全体的に斜めに傾い
ている、そんな感じだ。

「これは、確かにおかしいページだが、これとジョンとにどんな関係があると思ったんだ?この
本でおかしいのはこのページだけなんだろ、確率は低いが出版社側の印刷ミスってこともありえ
なくはないと思うんだが」

「印刷ミスの可能性は限りなく低いと思う。なぜならば、わたしはその本を一度読破している。
その時にこのような異常は見つからなかった。さらにおかしいのは」

と言って長門は二冊目を指差す。同じく指定されたページを開くと、そこには先ほどと同じよう
な形態をした文字が描かれていた。先ほどは十字架形でページを埋めていたが、今度は斜めに一
直線だ。


253 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:29:46.67 ID:L16jdEMsO


「そこに書かれている文字と、先ほどの本のあのページに書かれていた文字は、非常に近い形態
をしていると思う。ちなみにその本もわたしは一度読破し、その時に異常は見つからなかった。
二冊が同じ文体で印刷ミスが起こるとは思えないし、この二冊は出版社も出版時期も異なっている。
印刷ミスである可能性は低い」

なるほどな。それは理解した。

続いて三冊目にも目を通したが、この本にも同じ現象が起こっていた。

聞くところによると、ジョンが消失して以降、長門は自分でも何かできることは無いかと思い、
文芸部に一番長く所属しているのは長門自身なので、自分なりに文芸部室の調査を行ったらしい。

254 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:31:21.72 ID:L16jdEMsO


「わたしが手をつけたのは本棚。本から調べようと思った」

本を数冊持ち帰り異常が無いか探そうと思ったが、ここ最近はSOS団の活動もありじっくりと本を
読めずにいたが、今日俺の家から帰ってきた後に時間があったので本を読んでいたところ、異常
が見つかったのだという。

「この異常はすべて今日見つかった。つまり彼が消失した後のもの。彼が関係していてもおかし
くはないのではないか、とわたしは思った。部室の本をすべて調査したわけではない。まだこの
異常を持つ本がある可能性がある。明日はみんなで本の調査を行いたい。その上で、これが手が
かりになるのかどうなのか、判断したい」

なるほど、おおかた理解した。これはかなり手がかりのにおいがするな。

「長門!これはすごいぞ。よく見つけたな。これは、俺の勘で物を言うのもおかしいが重要な手
がかりとしてのにおいがプンプンするぜ」


255 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:32:49.41 ID:L16jdEMsO


長門は嬉しそうに笑った。そういえば笑顔のこいつを見るのは、職員室であった時に次いで二回
目だな。俺は少し新鮮な気分になる。

部室については、本以外はまだ手つかずらしいのでそれ以外にも手がかりがある可能性があるな。
これは、明日の部室調査でどのような結果が出るのか楽しみだ。事態が一気に進展するかもしれない。

「よし、とりあえずみんなにメールを出しておく。長門が手がかりらしきものを見つけたとな。
あとは明日だ、明日の部室調査にかけよう。これが手がかりとして役立つといいな、長門」

「・・・」

長門はコクリとうなずいた。

「しかし長門よ、どうして本棚から調べようと思ったんだ?他にも怪しい所といえばパソコンもそう
だし、他にも調べる箇所はいくつかあったはずだ。」



256 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:34:40.60 ID:L16jdEMsO


「・・・本が好きだから」

なるほどな、お前らしい。

俺はこの後少しだけその異常なページを観察し続けたが、結局それが何なのかは分からず終い。
明日考えよう、明日。

そろそろ戻らないと母と妹がうるさそうだから俺は帰ることにした。また明日な。

「また明日」

俺は湯のみに残っていたお茶を飲み干し、長門と別れ帰路についた。これは、本気で明日が楽しみだ。


258 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:41:04.10 ID:L16jdEMsO

その後、ハルヒから電話があり、明日は8時集合となった。
あいつはもう待ちきれない様子だった。気持ちはわかるね。

遅くなってしまったが、俺は帰路へと就いた。

262 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:48:58.70 ID:L16jdEMsO


翌日。十二月二十六日

集合は午前8時となるとどんなに最低でも午前7時には起きなくてはならず、SOS団の集合に関し
ては団長より遅ければそれは遅刻ということになり、かつ最後に到着した場合は問答無用で罰金
刑となる。

団長の涼宮ハルヒにおいては今日の北高調査をかなり楽しみにしているので、相当早く到着する
と予想できる。約一時間前に到着すると見込むと俺の到着すべき時刻の期限は午前7時であり、
そのためにはどんなに遅くとも午前六時に起床しなければならないのだが、

一体どこの世界に冬休み中に好きで午前六時に起床する高校生がいるだろうか。いやいない。俺
もそれのうちの一人に過ぎないのであり、数回目のスヌーズで目覚まし時計と共に起床した時に
は時計の針は既に午前7時を回っていた。


264 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:52:53.73 ID:L16jdEMsO


「うお、これはやばい・・・」

超高速で制服を身にまとい、髪を整え、かばんに必要な物を入れる。とりあえず筆記用具があれ
ばいいか。まぁ何も持っていかなくてもよさそうだが。冷蔵庫からこんな時のために買っておい
たウィダーインゼリーを取り出し、10秒チャージ完了、マイチャリンコでやや霧がかった朝の通
学路を疾走する。

人影は少なく、風を切って猛スピードで進むがすぐに息切れ(10秒チャージしたのに)、
いつものようにのっそのっそと自転車を漕ぐ。

案の定到着したのは俺が最後であり、

「遅い!罰金!」

またしても罰金刑が下された。そろそろ俺のサイフも刑罰に耐えられそうにないのだが。


269 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 05:59:42.84 ID:L16jdEMsO


罰金刑を下したハルヒだったが、それでも楽しそうだった。俺の視線に気が付くとわざわざ怒っ
た顔を作り、

「あ、あんたね、昨日あれほど言ったでしょ。あたしは待つのが嫌いなのよ。今日は皆に飲み物
をおごりなさい。全く、たまにはあたしよりも早く来てみなさいよ」

「何言ってるんですか、団長だってほんの数分前にヌアッ!」

ハルヒは地味なしぐさで古泉のスネを蹴る。

「古泉副団長、何か言ったかしら?」

ニヤリと笑いイジワルそうな目で古泉を見るハルヒ。古泉も困ったのか俺に助けを求める視線を
送ってくるが断固拒否した。

「ほほぉ、お前もついさっき来たばかりなのか。団長さんがそんなんでいいのかねぇ」

「う、うるさいわね!昨日は寝れなかったのよ。あんたのせいよあんたの!あんたが変に焦らす
から色々と想像しちゃって全然眠れなかったのよ。期待はずれだったら怒るわよ。なによ!罰金
倍にするわよ!」


271 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 06:00:31.65 ID:L16jdEMsO


俺はちょっとイジワルしてみようかなと思い、ニヤニヤしながらハルヒを見ていると、なんとい
うことか、いきなり襲い掛かってきた。

「キョンキョン、キョンのくせに生意気なのよー!」

ハルヒのバカ力の前にまだ寝起きモードの俺は成す術も無く押し倒され、外だというのにハルヒ
は恥らう様子も無くその生足を惜しげもなく晒し俺に腕挫十字固をかける。人通りの少ない時間
帯でよかった。

「いててて、アホー、ギブ、ギブだってー!」

あ、パンツ見えそ・・・ハッ!いかんいかん。誓って、足しか見てません。

なさけないわねーとハルヒは俺を弄ぶも、ギブ宣言はなかなか受理せずに、これは本格的に関節
がヤバイなと思った頃にようやく俺は解放された。

272 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 06:02:13.36 ID:L16jdEMsO


「あんた弱いわねぇ。なさけないわ男のくせに」

お前の超人的肉体と一緒にしないで欲しいね。それにしても、お前はなぜ運動部に入らないんだ?
お前の能力ならインハイなんかは余裕で出れるだろう。全国優勝したって不思議には思えないけどな。

「ふんだ。つまんないじゃない、スポーツなんて。あたしはね、もっとこう不思議なことをした
かったのよ。正に今みたいにこの世の謎を見つけて解き明かしたり、宇宙人を見つけたり未来人
とコンタクトを取ったり超能力者と共に悪の組織を撲滅したりしたいの!スポーツなんていうの
は所詮現実世界のものよ。あたしは現実に耐えないの!」

なんという子供じみた意見なんだろね。まぁしかしこいつのそういう所はもう分かりきっているしな。
今更突っ込むまでのことは無い。


273 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 06:03:09.62 ID:L16jdEMsO


「ふふふ」

そんな俺とハルヒのやりとりを見て朝比奈さんが笑う。

「そうだ、今日はお弁当を作ってきたんですよ。みんなの分もあります。上手に作れたかどうか
は自信ありませんが、がんばって作ったのでぜひみんなに食べてもらいたいです」

朝比奈さんのお弁当とあらばたとえ日の丸弁当でも高級なマツタケご飯並みの美味しさに変動す
るに違いありませんよ。なにせ愛情という名のスパイスがふんだんに入っていますからね。今か
らすでに楽しみです。

そんなこんなで朝からハイテンションのSOS団のメンツ(俺含む)と共に俺たちは北高へと向かう。

「そういえばお前らはどうするんだ?いくら冬休み中とは言え他校の生徒が学内に入るには言い
訳がいるぞ。忍び込んでばかりはいられまい」

「そうね・・・」

ハルヒは少しの間思考を巡らし、

「光陽園で文芸部を設立したいからその参考にさせてもらうってことにするのはどうかしら。光
陽園には文芸部無いしね。有希とも友達だし、有希に刺激を受けて文芸部の何たるかを学びたい
ってことにすればいいわ」

色んなことを考え付くやつだ。


274 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 06:04:13.87 ID:L16jdEMsO

「それは良い案ですね。一度きりでなく、何度も正規に北高に訪問することができますからね」

でしょ!とハルヒ。まぁ、問題は北高の教師陣がそれを認めるかどうかだな。

「大丈夫よ。あたしに任せておきなさい。こういうのは熱意で押せ押せで何とかなるのよ。あた
しの演技力をもってすればそんなの余裕のよっちゃんだわ」

まぁ確かにこいつならどうにかなりそうだが。

ハルヒと古泉は長門を連れ職員室へと入っていった。どうやら教師陣は初めは否定の色が濃かっ
たらしいが、ハルヒの熱血押せ押せ作戦(だっけ?)と無言のまま教師の瞳を見つめ続ける長門の
眼力に押されたのか、しぶしぶだが正式な許可を出すに至ったらしい。

「こんなもんね、ちょろいちょろい。教師なんてどこの学校のでも同じだわ。感情論に弱いのよ
ね教師って。感情論だけじゃ世界は動かないってのにね」

別に世界を動かすために教師やってるわけじゃねーだろ。しかし本当にやりやがるとはな。
器用な奴だ。

275 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 06:06:44.89 ID:L16jdEMsO


そして俺たちは文芸部部室に到着する。俺は前と同じ本棚付近のイスに腰をかける。俺にイスを
取られ、向かい側に回り込む古泉だったが残念ながら朝比奈さんが着席し、さらに窓側に移動す
るもすでにハルヒが着席し終えるタイミングであり、最後の窓際にあるイスの方を向くも既に長
門が着席し終えているという状況であり、つまり古泉の分のイスは無かったということである。

「さて有希、手がかりについて教えてちょーだい!」

到着するや否やすぐに本題に入るハルヒであった。

長門はカバンから昨日と同じ三冊の書を取り出し、説明をする。ハルヒも古泉も朝比奈さんも、
長門の説明を興味深そうに聞いている。

「これはすごいですね。こんなに分厚い本から良く気が付けたものです。賞賛に値しますね」


276 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 06:07:35.64 ID:L16jdEMsO


朝比奈さんもハルヒも肯定の仕草。長門は照れくさそうに下を向く。

「有希、照れることは無いわ。もっと自信を持ちなさい!あなたの発見はSOS団団史に大きく残る
ほどの快挙よ。階級を副副団長から副団長に引き上げるわ。ちなみに副団長には一人しかなれな
いから後で何かで勝負して決めなさい。エースコンバットでいいわ」

「ほう、黄色の14の異名を持つ僕に空の戦いを挑んできますか。いいでしょう、再びあなたと戦
火を交えてみたいと思っていた所です」

「・・・次は負けない」

アツい火花を散らしていた二人だったが、話が完全にずれている。それは後で決めてくれ。とり
あえず今は他の本を全て調べて、ほかに同現象が起こっている本が無いか探そう。本棚の、そう
だな、ハルヒは一番上、俺は二段目、朝比奈さんは三段目、長門は四段目、古泉は五段目を調べ
てくれ。異常の見つかった本はこのテーブルに置こう。


278 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 06:09:36.27 ID:L16jdEMsO


「何勝手に仕切ってんのよ。まぁいいわ、みんな、作業に入りなさい!」

非常に疲れる作業だった。何と言っても本の数が多く、しかも一つ一つが分厚い。長門はこんな
ものを良く読めるものだ。俺なら目次で音を上げそうだがね。と愚痴りながらもなんとか作業を
終える。

結局、異常の見つかった本は長門が発見した三冊を含めて計九冊となった。意外と多く見つかっ
たな。

一番上のハルヒが調べた段からは二冊、二段目の俺が調べた段からは一冊、三段目の朝比奈さん
が調べた段からは見つからなかったが、しかし長門が事前に調べた本三冊はすべてこの三段目に
あった本らしいので、三段目からは三冊見つかったということにする。古泉が調べた四段目から
は一冊、長門が調べた五段目からは二冊が発見された。

http://imagepot.net/view/124154244096.jpg
本棚
パスワード 797423


282 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 06:12:38.52 ID:L16jdEMsO


すべてにあの意味不明な字で書かれており、それぞれに違う形で描かれている。直線状のものも
あれば曲線のものもあり、釣り針状の形をしているものもあった。
http://imagepot.net/view/124154227434.jpg
パスワード 797423

283 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 06:15:22.80 ID:L16jdEMsO


全てのページを並べ、一通り眺めてみるものの、訳が分からない。それらに何かしらの共通点が
ある様には思えなかったのだが、

それらをしばらくじっと眺めていた古泉が口をひらいた。

「三段目のこの十字架のような形、それから五段目のTの字を逆にしたような形、これはどこかで
見たことがあります。いえ、これら全てどこかで見たことがあるんですが、特に先の二つは特徴的ですよね。何か引っかかります」

十字形にTを逆にしたような形か。確かに他よりは印象的なような気もしなくもないが、しかしながら俺は全く駄目だ。何も浮かんでこないぜ。軽く開き直り気味だ。

「そうだ、ページ、ページ数です。十字架のページのページ数はいくつですか?」

こいつ、何かひらめいたようだな。ページ数がどう関係しているんだ?

「77ページ」

長門が素っ気無く答える。


284 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 06:17:16.95 ID:L16jdEMsO

「ではTの字を逆にした方のページ数は?」

「同じく77ページ」

「なるほど・・・」

こいつは何かを理解したようだが、俺には全くわからん。ハルヒや朝比奈さんも同じようで、古
泉に質問を浴びせている。

「えっ、何か分かったんですか?」

「ええ、分かりました」

「何が分かったのよ、もったいぶらないで教えなさいよ!」

俺もそうしてもらいたいね。

「ふふふ、落ち着いてください。まず本に番号を付けます。一番上の段のより左側から発見され
た本を@とします。次いでA、二段目の本がB、三段目を左からC、D、E、四段目をF、五段
目をG、Hとします」



291 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 06:52:26.92 ID:L16jdEMsO

すまねぇ、>>279に気を取られて…w

@の本の異常があるページのページ数は75、
同じく A が 66
    B が 90
    C が 57
    D が 21
    E が 77
    F が 28
    G が 77
    H が 45
となっています。


全部100ページ未満だな。それも何か関係しているのだろうか。

「ややこしいわね」

「すぐに分かりますよ、ここは我慢して聞いてください。次にグラフを書きます。縦軸に本の番
号、横軸にページ数をとって、該当する点をプロットしていくとこのような図ができます。」

http://imagepot.net/view/124154200183.jpg
パスワード 797423


292 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 06:54:18.26 ID:L16jdEMsO


俺は数学や物理にアレルギーがあってだな・・・

「プロットした点を中心に、おおまかにでいいのでそのページで描かれている形を描きます。す
ると次のようになりますね」

古泉は俺の言葉を無視して続ける。こいつにシカトされると異常にハラが立つな。

「さて、ここまで来ると何か浮かんでくるものもあるかと思いますがどうですか?」

「あっ!」

ハルヒが何か気が付いたようだ。

294 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 06:56:39.13 ID:L16jdEMsO


「古泉くん、これって・・・」

「さすが涼宮さんですね。多分真っ先に気が付くだろうと思っていました」

そういうと古泉は、先ほどの図に違う色で線を付け足し始めた。

出来上がった図を見て俺は驚く。これは・・・

「ハルヒが書いた織姫と彦星へのメッセージじゃねーか!」

「古泉くん、すごーい!」

朝比奈さんも目を丸くして驚いている。

「そうです」

そう言って古泉はポケットからくしゃくしゃの紙を取り出した。

喫茶店でハルヒが書いて長門が眺め、結局あの時は有益な答えを出せなかった、その時の紙だ。
お前、まだ持ってたのか。


295 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 07:02:13.12 ID:L16jdEMsO


http://imagepot.net/view/124154200317.jpg
一部描写

http://imagepot.net/view/124154227580.jpg
完成

「僕はこれが結構怪しいのではないかと初めから睨んでいました。どうやら勘が当たったようです。
僕は自分の状況分析能力や閃く力はそれなりに優れていると今までは自負して生きてきたんですが、
ジョンさんの件に力を入れるようになってからは、全くと言っていいほど閃きが無くてですね。
まぁ情報自体が少なかったので仕方ないといえばそうなんですが、どうも自分に自信を無くしていた
んですよ。しかし、今やっと自信を取り戻しましたよ。僕の勘や閃きもまだまだ棄てたもんじゃない
ってね」

とカッコつけたことを言いやがる。ムカツクが、とりあえずはこいつのお陰で謎が一つ解けたわ
けだしな、今は感謝しておこう。

「ふふ、いえいえどういたしまして」

ふふとかいう笑い声はやはりキモい。


296 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 07:04:29.55 ID:L16jdEMsO

「涼宮さんの図が何らかに関係しているということはわかりましたが、その"何らか"の部分が未
だに不透明です。その部分を明らかにする必要がありますね。この暗号を解くには全ての角度か
らのアプローチが必要です。この本の内容、異常の起こったページに書いてあった文章の内容、
この本が配置されていた場所、ページ数、章数、その他色々な情報から隠されている情報を引き
出しましょう。そもそもここにはもう情報が隠されていないという可能性もありますが、今はそ
ちらは無視です。この書籍類にはまだ隠された情報があり、暗号を解けばそれを引き出すことが出来
るという前提で作業を進めましょう」

そうしてまた、全員が本に集中を戻す。無論俺もそうしたのだが、しかし自分の頭の悪さにはほとほ
とガッカリするね。アイディアも何も本当に浮かんでこない。ありえそうな全てのキーワードについ
て自分なりに考えてみたが、どんどん自己嫌悪に陥っていくばかりだ。


298 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 07:07:07.01 ID:L16jdEMsO


だが俺だけではないらしく、他四人もまだ本に隠されてるかもしれないヒントにたどり着けずにいる。
ハルヒなんぞはいつもの元気さがウソのようにだまりこくって頭を回転させている。こいつは勉強は
出来る奴なんだっけ。集中力はかなりあるようだな。しかし俺はもうだめだ、そもそもウィダーイン
ゼリーは10秒チャージはできるが二時間しかキープされないのだ。脳は糖を燃料に働くというが大
分前に燃料切れを起こしてるんだよねこれが。

そんな、集中を切らし頭を抱えてうなっている俺を見てか朝比奈さんが、

「そろそろお昼ご飯にしませんか?もう午後1時を回っていますから」

ハルヒが顔を上げて時計を見る。

「あら、もうそんな時間? そうね、お腹すいてきたわ。ご飯にしましょ!」

パスワードは全て797423でつ

299 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 07:08:54.70 ID:L16jdEMsO


待ってました。さすがは愛しのマイエンジェル、朝比奈さん。タイミングもばっちりだ。

これまた愛らしい弁当箱を開けると、そこに詰まっていたのはサンドイッチだった。手に取ると
ハムとチーズとレタスが挟まっているのが分かる。しかも美味しい。一口食べるごとに脳に栄養が戻
ってくるようですよ。

俺が世界陸上の時の織田裕二並に絶賛していると、

「ふふふ、たまごとレタスとトマトの組み合わせもありますよ。いっぱい食べてくださいね」

「みくるちゃん、おいしいけど肉が足りないわ。もっとから揚げとかハンバーグとか挟むべきよ」

朝比奈さんがボランティアで作ってくれた昼飯に対して文句を吐くとは、なんたる愚かしさか。
というかから揚げやハンバーグを挟んだらサンドイッチじゃなくなってしまうだろうに。それにして
もこいつはどんだけ肉が好きなんだ。この前飽きるほど食べたばかりじゃねーか。

「ひ・・・ごめんなさい、次はそうします・・・」


300 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 07:09:55.95 ID:L16jdEMsO


朝比奈さんも謝らなくていいのに。素直で健気なお人だね。まぁそこがいいんだが。

昼飯を食い終え俺たちはまた思考モードに入る。朝比奈弁当のお陰で俺の脳も大分回復し
たようだったが、残念ながら有益な閃きはまだ無い。

そんなこんなでまた沈黙が続くのかと思いきや、意見は意外と早く出された。しかも意外な人から。

「あああっ、あの、へんなところに気が付きましたっ」

なんと朝比奈さんだ。

「なになに、何を見つけたの?」

ハルヒも興味深々で身を乗り出す。

「えぇえっとぉ・・・そのぉ・・」

あわあわしている朝比奈さんだったが、これでは何を言っているかわからん。朝比奈さん、落ち
着いて下さい。ハルヒもせかすんじゃない。

「なによ。あんたみくるちゃんには甘いわね、まぁいいわ、落ち着きなさいみくるちゃん。あたしたちに分かるように説明しなさい」


302 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 07:13:48.63 ID:L16jdEMsO


大げさに深呼吸をする朝比奈さん。少しは落ち着いたようですね。

「こっここ古泉くんが言ってた、異常のページに元々書いてあっただろう内容について、わたしは考
えました。前のページと次のページから、大まかなストーリーは予想できるんですが、わたしが目を
つけたのは、異常ページに元々書いてあった文章の一文字目です。Fの本以外は全て前のページで
文章が途中で途切れています。そこから異常ページに続くはずだった文章が予測できますが、そ
の一文字目を予測するとこのようになりました」

@ き
A た
B こ
C う
D の
E こ
F 不明
G て
H い

きたこうのこ○てい・・・ん、

305 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 07:16:22.52 ID:L16jdEMsO


北高のこ○てい!

「なるほど!」

ハルヒが絶叫を上げる。さすがにここまでのヒントを貰えば俺のアホな脳みそだって答えを導き出せ
るね。

「なっFは不明ですが、もしも"う"の文字が入るとすれば・・・

北高の校庭。

これは重大事項なんじゃないのか?朝比奈さん、これはすごいですよ。朝比奈さんも副団長に格上げ
するべきだね。照れている朝比奈さんにしばし見とれていると、古泉が、

「なるほど、これは重要な手がかりかもしれません。先ほどの図とこの北高の校庭という情報を
組み合わせると、僕らは何が想像できるでしょうか」

答えなど一つしかない。こいつももう分かってる口振りだしな。

「決まってるじゃない!北高の校庭にこれを書くのよ!」

虚空を仰ぎながらハルヒはそう言った。


306 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 07:18:34.65 ID:L16jdEMsO


そのハルヒの雄叫びにより、俺たちの次の任務が決定されたのはいいが、

さてどうするか。俺たちが次にやるべきことは、学校の校庭にハルヒ印のアホマークを描くこと。
ハルヒは中学生の時にジョンと共に校庭のラクガキを経験したという話だったが、俺にとって
は人生初の体験であり、多分俺以外の大多数の学生にとってもそのような経験をしたことのある
奴がそこかしこにいるとは思えない。

しかも俺たちの身分は高校生である。中学までは義務教育という縛りがあったから、多少の悪ふ
ざけ程度で停学、退学になることは無いが、高校生となれば話は別である。

校庭に落書きなどをして、正当な理由が無いとなれば、それなりの処罰が下されるのを覚悟せね
ばならない。

その上俺は、一応進学を目指している身である。そのような処罰が過去に下されたとなると、進
学する上で大きな妨げとなることは間違い無しである。いやこの五人に関しては全員が進学を志
望している様子であるため、全員にとって大きなリスクとなるのであるわけだが・・・・


307 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 07:22:25.53 ID:L16jdEMsO


「夜にやればいいじゃない。何も起こらなかったら朝までに消せばいいわ」

しかしだな、この学校には確か夜でも宿直の教師がいてだな、それも大きな妨げになるぞ。見つ
かったら一貫の終りだ。

「文芸部の活動の一環とするのはどうでしょうか」

いやそれはさすがに無理があるだろう。第一何を名目にするんだ、文芸部は読んで字のごとく文
で芸をする部だぞ。校庭に落書きなんて文でも芸でもない。

そういう古泉も苦笑いを浮かべているしな。本気で言った訳じゃないようだ。

「校庭アート」

長門がボソっと言うが。え、何だいそれ。

308 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 07:25:50.85 ID:L16jdEMsO


「青森県には田んぼアートというものがある。それにならって、校庭アート」

「それいいわね有希!」

いやいや全然よくない。田んぼアートは知ってるぞ。ネットで写真を見た。町おこしとしてはな
かなか成功した例だと言っていいと思うが、いやそんなことはどうでもいい。

それをどう文芸部の活動だと言い訳するんだろう。だめだ、わからない。美術部ならギリギリOK
そうな気もするが。

「バカ。言い訳なんてなんとでもなるの。そうね、あたしのメッセージをどこかの国の言語って
ことにしちゃえばいいのよ。セントクリストファー・ネイビスあたりの言語だって言ってしまえ
ばいくら教師とはいえ分からないだろうし、文字なんだから一応文芸部の活動として言い訳を作
ることはできるわ。まずくなったら今朝みたいに押せ押せでなんとかなわのよ!」


314 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 08:00:49.16 ID:L16jdEMsO

ここに来て規制に引っ掛かりまくるのでペースダウンします。

大体5分に1レスくらいで投下するわ。のんびりしてってくれ

315 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 08:02:49.60 ID:L16jdEMsO

うぬぬ、まぁ確かにこいつならなんとか出来そうな気もするが、

「しかしまだ問題がある。この学校の校庭はそんなに広くない。サッカー部も野球部も陸上部も
この校庭を使っているんだ。そんな中で校庭をまるまる占領するような行為の許可が下りるとは
思えん」

「それこそ全ての部が引き上げた後の夜にやればいいのよ。むしろ夜にしかできないわ。もしメ
ッセージを書き終えて何かが起こるとすればできるだけ他人に見られないようにすべきよ。むしろ
他の部の事を考えて夜にやりたいってのは良い言い訳になるじゃないの」

無茶苦茶だなオイ。

「ここはその手で行きましょう」

古泉まで肯定する。俺はできるだけ粘ることにする。

「待て、印を描いて何かが起こったとするぞ。前にも言ったが最低でも宿直の教師には見られる。
とんでもないことが起こって言い訳のしようが無くなったらどうすんだよ」

「宿直の先生は何人なのか分かりますか?」

「一人だと思うが・・・」

「こちらは五人です。いざとなれば数の力で押し切りましょう。僕達ならごまかし切れると思い
ますが」


317 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 08:08:26.99 ID:L16jdEMsO


そう言って古泉は微笑度を上げる。ハルヒみたいに無茶なことを言いやがる。常に冷静な奴だと思っ
ていたが、ついにハルヒオーラに侵されはじめたのだろうか。まぁいい、それで良いとして、朝比奈
さんと長門はどう思う?これでいいと思うか?

「・・・やってみる価値はある。挑戦すべき」

まじか。

「そうですね。やっ、やってみましょう。ちょっとこわいけど・・・」

これは、俺も腹をくくるしかないようだな。

「あんたも覚悟が決まったようね。行くわよ職員室に。あたしに任せておきなさい、あたしのト
ーク術があれば達成できない交渉事なんてこの世に存在しないわ!」

そう言ってハルヒは高らかと笑う。まぁいい。こいつのトークの技術がそれなりに高いことは認
めねばなるまい。さっきみたいな押せ押せで何とかなるに100円賭けようかね。

318 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 08:14:56.77 ID:L16jdEMsO


職員室に乗り込んだ俺たちは、ハルヒの高らかで安っぽい演説に古泉・長門のフォロー、立って
いるだけで天使のようなオーラを放つ朝比奈さんのお陰で、なんということか、本当に許可を出
させるに至ってしまった。全く器用な奴だぜ。

教師陣はハルヒの演説に感動したのか、新任で熱血の体育教師は涙を流していたな。裏を知って
いる俺は全く感動しなかったが。俺?俺は立っていただけさ。存在感ゼロだったろうな。

「へっへーん、ちょろいちょろい。この学校の先生は本当にチョロすぎるわね、こんなんだから
あんたや谷口みたいなバカばっかが入学すんじゃないの?」

そう言うハルヒは目を細めながら意地悪そうに笑う。誰がバカだって。谷口はいいが。

「みんな」

いきなりさっきとはうって変わって深刻そうな声を出すハルヒ。表情も一変、真剣な面持ちへと変化させ、

「本番はこれからよ。これからあたしたちは戦場へと向かうの。ジョンを助けにいくのよ。校庭
にメッセージを描くのは午後九時からにしましょう。今からそれまで、六時間。一旦ここで解散
するから各自準備を整えなさい。心の準備もね。自分がジョンを助けに行くか行かないか、選択
権は各自に任せるわ。恐くなって行きたくないと言うのならばそれでもいい。あたしはSOS団団長
として部下を危険な目に合わせるわけにはいかないの。覚悟が無い者を連れてはいけないわ。覚
悟がある人は午後九時までに北高に集合しなさい。あたしと一緒にジョンを助けにいきましょう!」

319 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 08:16:30.76 ID:L16jdEMsO


古泉も長門も朝比奈さんも、ハルヒを見る目には力が込められていた。もちろん俺もな。ハルヒ
もそれに気が付いたのか、その顔に満点の笑みを浮かべ

「よし、解散!」


俺は我が家への道をひた進む。もう何度も通るお馴染みの道だが、これが最後になる可能性もゼ
ロではない。そう考えると何か切なくなるね。そう言えば、ハルヒのメッセージが戦場へと続く
扉だと仮定してもだ、帰ってくる手段の確認がまだだな。そんな手段無いのかもしれない。本当
に帰ってこれず終いなんじゃないかと思えてきたぜ。

しかし今は、SOS団の団員が全員揃えばなんとかできるんじゃないかねとも思えている。だってそ
うだろ、ジョンが消えてからほとんどヒントも何も無い状況からここまで来れたんだから。これ
から先困ることがあったって何とか解決していけるさ。

俺は家に着くと晩飯まで仮眠し、妹のボディプレスを受ける。育ち盛りの妹はまた少し成長した
のか、重くなったような気もするね。

最後かもしれない母の晩飯を俺は心行くまで食する。夕食のゆで卵はまたしても半熟だったが、
俺は三つほど食した。

「今晩からちょっと友達ん所に泊まりに行って来る。もしかしたら数日帰らんかもしれんが気に
しないでくれたまえ」

「キョンくんどこいくのー?みくるちゃんとこ〜?」

そうであったらどれだけ素晴らしいだろう。しかし残念行くのは時空の彼方、ここではない何処
か別の世界さ。


320 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 08:22:07.82 ID:L16jdEMsO


「おみやげ買ってきてねー」

あぁ、できるだけそうする。できるだけな。

最後の晩餐と家族とのコミュニケーションを終えた俺は準備に入る。準備ったってな。何を持っ
ていけばいいんだろう。武器か? エアガンくらいならあるが何の役にも立たないだろう。ここ
は食料とか水とかを持っていくべきだろうか。

結局何も思い浮かばなかったので俺は手ぶらで家を出る。このまま行けば集合時間には余裕で間
に合うが、家にいても何か落ち着かないので、妹に別れを告げると俺は学校へと向かう。


「あんたにしては早い到着ね」

校門前でハルヒが一人で待っていた

「お前だけか?」

「そうみたい。てゆうかあんた手ぶら?これから戦場に向かうってのになに余裕ぶってんのよ。
流れ弾に当たって死んだって助けてあげないわよ」

戦場って、そういう戦場じゃねーだろ。

「そういうお前の荷物はすごいな、何が入ってるんだ。あんまり重いと体力続かないぞ。何が起
こるか分からないんだからな」


321 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 08:27:20.41 ID:L16jdEMsO


ふふん、気になる?とハルヒは言い、カバンを開け荷物を見せてくれたのだが・・・

「武器よ武器、戦場なのよ、戦うの!あんたにも分けてあげるわ」

なべのふた、たけのやり、こんぼう、ドラクエかよ。ハルヒはなべのふたを差し出してきたが、
拒否したね。役に立ちそうにねー。

「行くのが戦場だとしてだな、そんなんじゃ本格的な戦いはできないだろ。逆に危ないね」

「なによ。手ぶらのあんたに言われたくはないわ。バトルロワイヤルだとなべのふたとかハリセ
ンとかの武器を持ってる奴の方が最後まで生き残るのよ!銃とか本格的な者持ってる奴はそれだ
けで死亡フラグが立つの。死亡フラグが立ちそうに無い物持って来てあげたんだから感謝しなさ
いよ!」

そう言ってハルヒはフンを顔を背ける。まったく、ハルヒらしい物言いだぜ。このやりとりが今
回で最後にならないことを祈るばかりだ。

「・・・ねぇキョン」

いきなり神妙な面持ちで問いかけるハルヒ



324 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 08:35:50.86 ID:L16jdEMsO

「どうした、今更になって恐くなったとか言うんじゃないだろうな」

何言ってんのよバカと反論されるだろうと思って覚悟していたのだが、そう言い返されることは無く、

「・・・そうね。みんなにはああ言ったけど、本当に恐がってるのはあたし。情けないわ、あんな大
それたこと言っといて。世の中が不思議でいっぱいあふれてればいいのにって思ってたのはあた
しなのに、いざ不思議に直面したら、なんか恐くなっちゃった。ねえキョン、どうすればいいかな」

なんともハルヒらしくない。

「らしくねーな。お前、熱でもあるのか?」

ハルヒのでこに手のひらを当てる。んー、熱は無いみたいだな。少しの間の後に、俺の手を振り
払うと、

「なっなな何すんのよエロキョン!変態!変態!変態!変態っ!!!」

変態て。

「あたしがせっかく勇気をだして本当の事を言ったってのに、全く何考えてんのよ!元気づける
セリフの一つや二つ言うくらいの気を回しなさいよー!」

そう言ってハルヒはまたプンスカしている。落ち込んだと思ったら切り替えの早い奴だ。

「お前はお前らしい方がお前らしい。落ち込んでいる所なんて見たくないんだよ。常にハイテン
ションでわがままで自己中な我らの団長でいてくれ」

325 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 08:38:18.96 ID:L16jdEMsO


ハルヒはうぬぬぬと怒った顔をしていたがハッと我に帰り、

「そうね。あたしは団長だもんね。部下に情け無い所を見せるわけには行かないわ。ジョンを助
けに行くと行ったら行くの。あたしは途中で諦めるのが大っ嫌いだからね」

そうだな。

「それに、SOS団のメンツが揃えば出来ないことなんか無いんじゃないかとも最近は思えるように
なってきたぜ。何せ何も無い所からここまで進んでくることができたんだからな。何が起こって
もまた五人で問題を解決すればいいだけの話さ」

ハルヒは落ち着いたように笑う。俺もそれを見て微笑を浮かべることにした。

「そうね。あんたの言うとおりだわ。ふふん、あんたも分かってきたじゃない。だてにパシリを長く
やってないわね。そうよ、なにせSOS団はあたしが作った団だからね。SOS団に不可能なんて無い
のよ。あんたにもまだまだキリキリと働いてもらうわ。SOS団の未来永劫の発展のためにね!」

そう言うハルヒの目にはまた、自信の炎が轟々と燃え盛っている。まぁ、こいつがこんないい目
をしている時は決まって俺たちは厄介ごとに巻き込まれるのだが、落ち込んでいるハルヒを見る
よりは何倍もいいさ。


327 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 08:43:41.31 ID:L16jdEMsO


そう思っていると古泉と朝比奈さんと長門が揃って登場した。なんだなんだ、三人で待ち合わせ
でもしてたのか?

「いえいえ、そうではないんですよ」

と言ってくっくと笑う古泉

「お二人の雰囲気が、その、よろしい感じでしたので、登場するタイミングを見そこなってしま
いましてね」

「なっなに言ってんのよ古泉くん、あたしがこのパシリといい雰囲気なわけないでしょ!変なこ
と言わないでよ!」

とそっぽを向くハルヒ。見飽きた爽快スマイルを俺に向け、まいりましたのポーズをする古泉。
空気を読まなかった長門が、

「・・・ラブラブ」

ふふっと笑う長門。こいつもこんな笑い方ができるんだな。顔を真っ赤にしたハルヒと長門の追
いかけっこが始まったが長門はすぐにつかまりくすぐりの刑に処せられた。

「ふっ・・・ふひ・・・ひっ・・・・・」

顔は笑ってるが、何も知らない第三者が聞いたら恐れをなしそうな笑い声で笑う長門も可愛かっ
たが全員揃ったところだ。そろそろ準備をはじめよう。


333 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 09:19:15.10 ID:L16jdEMsO

また規制…


俺は長門を無限にくすぐるハルヒの腕を止め、みんなを校庭へと促す。

どうやら手ぶらなのは俺だけのようだ。朝比奈さんも長門も古泉もハルヒほど大規模ではないが
荷物を持って来ていた。そういえば長門はジョンに渡したいものがあるらしいが、それを持って
きたのかな。

ラインカーは二台しかなかったので、必然的に俺と古泉が線引き労働をすることになった。女共
は高台に立ち、下々の者共に指示を出している。

「キョン違うわそこ曲がってるってば。前もそこ曲がってて注意したでしょ忘れんな!」


それは多分ジョンだ・・・。分かっててからかってんのか素で間違ってんのか分からん。そんな感じ
でハルヒは使えるものなら狂ったロボットでも使うといった具合に俺たちをこき使った。しかも
校庭はしめっていて所々ぬかるんでいたので、これまた線引きの作業がやりづらかったのなんの。
冬だというのに汗だくになってしまうなこりゃ。

そんなこんなで俺たちようやっと線引きを終える。中心からざっと眺めてみても原作を忠実に再
現したという意味では悪くない出来なはずだ。が、何かが起こる気配は無い。


337 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 09:25:14.81 ID:L16jdEMsO

「悪くないわキョン、古泉くん。そっちに行くから待ってて!」

女三人集もこっちに駆け寄ってきた。

「何も起こらないわね。どうしちゃったのかしら。もっと大きく書いたほうがよかっ・・・・」


それはいきなりだった。


描いた線が光を放つ、七色の綺麗な光だ。俺はしばしそれに見とれる。

「わぁっ、きれい」

「な、何が・・・」

「皆さん、落ち着いてください。見てください、ここに新たな文字が出現しています」

古泉の指す場所を見ると、小さいが虹色の光を放つ文字がそこには刻まれていた。


339 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 09:31:26.85 ID:L16jdEMsO

  これは予備プログラム。

  あなたがもし、時空改変プログラムを見つけられなかった場合、

  あるいは時間内に起動させる鍵を見つけられなかった場合に、

  予備の手段として残しておいた最後のプログラム。

  あなたは少ないヒントからここに辿りついた。

  しかしながらこのプログラムは時空を改変し正常に戻すものではない。

  時の流れは一つではない。この世界とあなたの世界が分かたれ、

  別々の時の流れの次元の元にそれぞれの世界が成立するに至った、

  その可能性は低くない。これを実行すれば、あなたはあなたの世界に帰れる可能性を得る。

  しかし確実に成功するかどうかの保障はできない。

  起動させる場合は左の円の中に、させない場合は右の円の中に、それぞれ移動せよ。

  起動させた場合でもさせなかった場合でも、その後にこのプログラムは消去される。

  またあなたと共に、SOS団の部室で出会えることを私は祈っている。


340 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 09:36:30.64 ID:L16jdEMsO


文字がすべて表示された後、俺たちの左右に円が出現した。どうする、ハルヒよ。


「あたしの覚悟はとっくに決まってるわ。キョンあんたのせいでね!みんなはどう?ここにいる
時点で覚悟は決まってるわよね」

「俺は行くぜ。帰りもきっとなんとかなるさ。なんせジョンの世界には宇宙人や未来人や超能力者
がうじゃうじゃいるらしいからな。奴らの力を借りれば戻ってくることだって造作ないさ」

「・・・わたしも、行く。問題は無い。覚悟は決まっている」

「僕もです。いやぁ、僕は今幸せですよ。こんな体験ができるなんて世界広しといえども僕らだ
けでしょう。この機会を僕に提供してくださった皆さんに感謝します。いえ、感謝するのは無事
に帰還してからにしましょう。長門さんとの副団長争奪戦の決着もつけなければなりませんしね」

「わたしも行きます。ちょっとこわいけど、みんな一緒ならなんとかなるような気がします。
きっと!」

みんな、覚悟は決まっていた。俺たちは左の丸の内部に移動する。


343 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 09:44:26.96 ID:L16jdEMsO


「わわっ、まぶし・・」

円の内部に移動し終えると、急に光量が増した。かなりまぶしい。

「みんな、手をつなぎましょう。丸くなって!何が起こるか分からないから絶対手を離しちゃだ
めよ!」

おうよ!俺はハルヒと長門の手を握る。こういうのは手をつなぐのが定石だもんな。ドラゴンボールでも瞬間移動する時とかも手つなぐし。などと無駄なことを考えていると、

次の瞬間、視界が一気に暗転、闇に包まれると同時に重力の感覚が一気に消失した。これ、落ちてる
のか?

「わぁあああ、こわい、恐いですぅー」

「朝比奈さん、落ち着いてください。手を離さないように!」


344 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 09:45:35.43 ID:L16jdEMsO


さすが古泉と言うべきか、冷静さをよく保っていられる。落ちてるというよりかは周りが目まぐ
るしく変化しているという感覚だ。重力感も何も無く、目も開けてられない。ハルヒと長門の手
の感触だけが頼りだが、長門も、さすがのハルヒも恐怖を抱いたようで、

「うっ・・・うぅ・・・・・・・」

「・・・キョン、キョンこわい、キョン!」

大丈夫だハルヒ、絶対手を離すなよ!長門も!

しかしまだ終わらないのか。なんか、車酔いの酷くなった感じで吐き気が催されてきて、これは
もうヤバいと思ったその時、俺の両足に重力感が戻った。

ゆっくりと目を開ける。

そこは・・・・・・

346 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 09:50:41.92 ID:L16jdEMsO

自分で書いといて言うのもアレだが、こっから先は正直つまらん(笑 でも最後まで投下するんで
ゆっくりしていってね!


ふぅ。世界は今日も平和である。

俺は今日も授業が終わると同時に謎の団・SOS団のアジトと化した、由緒正しき部である文芸部の
部室へとのそのそと向かい、高校生であるのにメイドさんの衣装を着込んだメイドルック朝比奈さ
んが入れてくれたお茶を飲み、ちなみに朝比奈さんがメイドさんの衣装を着込んでいるのはハル
ヒの命令であり、それに何かの意味があるのかというと、全く無いのである。

ただ単にハルヒにとってそれがおもしろいから、気分が良いからという理由だけで、朝比奈さん
は毎日、メイド衣装に着換えなければならなくなったのだ。なんとも健気で儚くしかしながら可
愛い、そんなお人なのだよ。

ちなみにこの人は未来人である。去年十二月十八日におかしくなった世界を元に戻すために、俺
たちと共にその日にタイムスリップしたり、三年前の七夕の日、ハルヒと校庭に落書きをしたあ
の日に時間遡行をしたりとこの人には色々とお世話になった。一度はTPDDとか言うタイムマシン
を無くしてオロオロしていたものの、まぁその時は長門のお陰で戻ってこれたがな。


349 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 09:57:24.25 ID:L16jdEMsO


そんな朝比奈さんをひとしきり眺めた後、俺は窓側に視線を移す。そこにいるのは無口で読書好
きな宇宙人製のヒューマノイドインターフェイス・長門有希。三年前にタイムマシンを無くし
て元の時間に帰れなくなった俺たちの時間をなんと、三年間もの間止めるという反則的な宇宙人
的力を使い、俺たちを元の時間に戻してくれたというなんでもアリな奴だ。これ以外にも俺は長
門にはかなり世話になっているのだが、

先ほど、十二月十八日に世界がおかしくなったと言ったが、世界をおかしくしてしま
った張本人はなんと、この長門有希なのだ。こいつのメモリ空間に溜まったバグが引き起こしたエラ
ーらしいが、詳細は自身でも分かっていないらしい。

世界をおかしくした張本人だからとはいえ俺は長門を責めたりはしない。なぜなら長門がエラーを引き起こす原因を作ったのは俺にもあるのだと俺は考えている。
事あるごとに長門を頼り、長門ならなんとかしてくれる、長門なら・・・と俺はいつのまにか長門まかせにしてしまっていたのだ。

こいつはこいつで色々と疲れていたのかもしれないな。これからは出来ればあまり無理はしてほ
しくない。と言っても俺には何の能力も無いので長門に代わって戦うことはできないが、それで
も簡単に長門に甘えるのはよそう、と思っている。



351 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 10:03:33.31 ID:L16jdEMsO


現在この部屋にいるのは俺以外ではこの三人。ハルヒはどこをほっつき歩いているのかは知ら
ないが、そのうち部屋のドアを突き破らんばかりの勢いで開き、厄介ごとを抱え込んで登場する
に違いない。

限定超能力者・古泉は俺とのオセロの対戦中に生徒会の仕事で呼び出されたと言って部屋から出て行
った。すぐに戻りますよと言ったっきり30分も戻ってこない。オセロはもう終盤に入っており、四
つある角のうち四つを俺が操る黒の騎士団に占領されており、どうあがいても古泉の勝利は無い。

勝敗の決まっているオセロの盤面をいつまでもただ見ているのもつまらないので、長門に前々か
ら気になっていたことを聞いてみることにした。

「なぁ長門」

長門はゆっくりと本から目をそらし、俺を見る。

「十二月十八日から俺が三日間迷い込んだあの世界なんだが、古泉の主張では俺たちの改変し直
しによって世界が上書きされたとかなんとか言っていたが、あいつの主張は正しいのか?」

「間違ってはいない。ただし、上書きという表現に誤謬が含まれる。その表現だと、元々そこに
あったものが完全に消えてしまうということになるが、時間の流れと次元の存在の可能性とを複
合的に考えると、上書きという表現は適切ではない」

つまり、上書きされても消えるわけじゃないってことか?

「それも概ね間違ってはいない考え方だが、正確ではない。人類の用いる言葉の概念ではこれら
を正確に説明するのは困難、理解も困難」


352 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 10:08:03.61 ID:L16jdEMsO


俺は朝比奈さん(大)の言っていた言葉を思い出す。確か未来のコンピューターは無形で脳の中に
存在しているって話だったな。そのコンピューターとやらが、言葉に代わって新しい概念を提供
しているのだろうか。何にしろ、そこまで技術が進歩しないと、人間が時間の流れについて理解
することはできないんだろうね、きっと。

俺としてもそれに興味がないっつーわけじゃないが、理解できないんなら仕方ない。時の流れを
勉強する前にテストでいい点取れとか言われそうだな、母には。

そうしている間に古泉とハルヒが同時にやってきた。

「遅れちゃってめんごめんごー!映画の続編について考えててね、良い感じのストーリーを思い
ついたのよ!今週末に第一回の撮影を行うわ。有希、あの魔法使いの服まだ持ってる?」

「・・・・」

音も無くうなずく長門。

「みくるちゃんはウェイトレスの格好、古泉くんは制服でいいわ。キョンあんたは雑用係よ。カ
メラとか機材持ってきなさいよね」

怯えながら首を横に振り続ける朝比奈さんに、ニヤケた笑みを浮かべ続ける古泉、我関せずとば
かりに読書に耽る長門。SOS団のいつもの、なんの変哲もない風景だ。平和だねぇ。

俺が古泉と共にオセロに戻ろうとしたその時、


353 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 10:13:45.55 ID:L16jdEMsO


長門が何かに驚いたように顔を上げ、ドアの辺りを凝視している。
本を読んでいる普段のこいつは誰かが声をかけない限り顔を上げることはない上に、そのように
して顔を上げる場合の動作は緩慢であり、驚いたように顔を上げるなどということは過去には無い。

俺と古泉がそれに気が付く。朝比奈さんはハルヒに抱きつかれてわきゃわきゃ言ってるので気付
いていない様子。俺は長門にかけより、

「長門、どうした。何かあったのか?」


いきなりハルヒはがくっと膝を落とし、全体重を長門の右腕にかけてぐったりしている。

「大丈夫、眠らせただけ。全員わたしの後ろに来て、早く」

長門の後方に移動すると、長門はハルヒを俺にあずけてきた。

「・・・さがって」

「待て、何が・・おわっ!」

言い終わらないうちに長門は得意の呪文を超高速で唱え、部屋の真ん中に透明なガラスのよう
な仕切りを発生させた。窓側とドア側に部室が分断されたという状況だ。

次の瞬間、猛烈な光と共に俺の目に飛び込んできたのは・・・・・・・


357 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 10:34:01.30 ID:L16jdEMsO

俺だった。

しかも俺だけじゃない。ハルヒ、長門、古泉、朝比奈さんまでもがいる。

注目すべき点は三つ。ハルヒが光陽園の制服を着ている。古泉が光陽園の制服を着ている。長門
が眼鏡をかけている。

さて、この三つのヒントを元に何が想像できるだろうか。考えるまでもない。あっちの、消失世
界の住人がこちらにやってきた、ということになるのだろうか。あるいは逆。俺の脳みそじゃそれく
らいの解釈しかできないが。

仕切りの向こう側の俺、古泉、朝比奈さんは驚いたようにポカーンとしている。長門は驚き混じ
りではあったが、あの時の微笑を浮かべていた。沈黙から一早く復活したのはあっちのハルヒだった。

「ジョン、ジョンなのね!探したんだから!」

「お前は、あの時のハルヒか。十二月二十日に会った・・・」

「・・・やっぱり、ジョンなのね。よかった、会えて・・・」

涙ぐんだハルヒはそう言いながらこちらに進んでくる。しかしそんなハルヒのレア顔をじっくり観察
する余裕は俺にも無かった。程なくして長門の作った壁に激突し、

「あいたぁっ!何これ、壁!?なんでこんな所に壁なんかあんのよ。ちょっとジョン、これどう
にかしなさい!」


358 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 10:38:11.14 ID:L16jdEMsO


他にも考えるべきことはあったが不覚にも俺は笑ってしまった。

「ちょ、ちょっとジョン何笑ってんのよ!早く何とかしなさいよこの壁!なんなのこれ?ガラス?
すっごい硬いわね」

長門、大丈夫か?

長門は俺を凝視し、


「危険値は全くゼロではない。彼ら自体からは特殊な属性情報は感知されていないが、次元の異なっ
ている存在が同時に存在するなどということは前代未聞。情報統合思念体には他次元にまで干渉でき
るような力は無い。状況情報を転送しているが、情報統合思念体も困惑している。さらに、彼らから
はわたしの力の断片を感じ取ることができる」

どういうことだ。


「彼らはわたしの力を使い、こちらの世界に来たと予想できるが、わたしの記憶領域には彼らの世界
にそのような力を残したという行動の履歴は残されていない。可能性があるとすればわたしがエラー
動作をおこしている最中。しかしエラー動作中の履歴はわたしが正常に戻ると同時に大部分が削除さ
れ、残っている部分もノイズが多く解析することは不可能、よってこの事態とわたしの力とに関連が
あるのか、解析ができない」


363 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 10:45:18.10 ID:L16jdEMsO


長門に解析できなこほどのことが俺にわかるわけもない。これはどうしたものかと考えていると、壁
の向こう側のハルヒが騒ぎ出した。せっかちなのは相変わらずのようだが、

「なにごちゃごちゃ言ってんのよジョンと有希!いいからこれなんとかしなさいよ!こっちはね、あ
んたに色々聞きたいことがあるし、あんたがいきなり消えたから心配になって後を追ってきたのよ!
困ってるんじゃないかってね!それが心配をかけた奴がとる態度なの?早くこの壁なんとかしなさ
い三十秒で!」

こっちのハルヒと全く変わらない罵声。そういえばあっちの、消失世界の住人は長門以外の性格はこ
っちと同じだったからな。俺に関しては不明だが。

確かに、こいつらには世話になった。こいつらがいなかったら俺はここに戻ってこれなかっただろう
からな。心配してたってのも、大方嘘ではなさそうだ、さっきは涙ぐんでたしな。今は嘘のように怒
った顔をしているが。俺は寝ているハルヒを団長机に置いた後、

「長門、壁を解いてくれないか。あいつらは、多分大丈夫だ」

俺を見つめていた長門は、一度団長机で突っ伏しているハルヒを眺め、また俺と目線を合わせる。

「あなたが、そういうのなら。ただし、予測不能の事態が起こった場合、わたしがあなた達を守れる
保障はない。それでも」


364 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 10:47:01.08 ID:L16jdEMsO

俺は返事のかわりにうなずきを返す。

「了解した。ただし障壁は消去するが彼らをこの空間から出すわけにはいかない。ドアと窓に封印を
かける」

長門はまた呪文を唱え、部屋を二分していた障壁が消えたと思いきや、ドアと窓に先ほどの障壁と同
じ、ガラスのような薄い板が張られた。封印って何だ?もう出られないとかじゃないだろうな。

「外側からは、人間の感覚ではこのドアと窓を認識できなくし、さらに物理的な手法では侵入するこ
ともできなくした。それだけ」

という長門の言葉も半分に、俺の胸の辺りに強い衝撃が走る。

「ぬぉあっ!なっ何しやがるっ!」

まったく、バカ力なのも変わらねぇな。

「さぁ説明しなさい、あんたは何者?なんであたし達の世界に来たの?そしてなんでいきなり
いなくなったのよ。時空改変って何?成功したの?失敗したの?」

矢のように質問を浴びせるハルヒだったが、

「まぁまぁ涼宮さん、落ち着いてください」

割り込むようにそう言ったのはこっちの古泉だった。こいつはもう事態を理解しているようだ。冷静
なもんだね。ハルヒはじとっとした目で古泉を見ていたが、



366 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 10:50:30.97 ID:L16jdEMsO

「状況は大体理解しました。あなた方は、僕達から見ればお客さんですからね。積もる話もあるでし
ょうが、とりあえずお座りください」

そう言うと古泉は備え付けのパイプイスを並べ、俺にもその作業を手伝わせて、

「どうぞ、他の皆さんもお座りください。朝比奈さん、皆さんにお茶をお願いしてもよろしいです
か?」


最初っからずっと唖然としていた朝比奈さんは、急に話を振られて驚いたのか

「ひゃ、はいっ!」

と舌を噛まんばかりに勢い良く返事をし、ポットのお湯を急須に注ぎこむ。あぶなっかしい手つきだ。
慌てているのは分かるが、火傷には気をつけてくださいね。

「まさか、あなたの言っていたことが本当だったとはね。僕は正直、あなたとはじめて会ったあの日
にあなたが言ったことは全部デタラメだと思っていました。あなたの消失を目の前で見た後も、頭で
はあなたの言動が真実なのかもしれないと理解しても、心の奥底には疑いが残っていました。しかし、
このような経験をしてしまった今では、あなたの言葉を信じるより他ありませんね」


368 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 10:53:27.89 ID:L16jdEMsO

メイド朝比奈さん以外の全員が着席するや否や、一番に口を開いたのは光陽園古泉だった。ハルヒは、
先を越されたとばかりに古泉を横目で睨んでいる。

「確かにな。俺もそうだった。こっちの世界には宇宙人も未来人も超能力者もいるが、しかし大半の
人間はそれに気付くことなく生活を送っている。俺は例外中の例外なんだ。俺だって最初にこいつら
から宇宙人だの何だのってー電波話を聞かされた時は全く信じられなかった。特に宇宙人とか未来人
とか、そういうのが無いそっちの世界でならなおさら信じられないだろう。そもそも、どうやってこ
っちに来たんだ。宇宙人的、または未来人的、超能力的な力の無いそっちの世界でやれることは限ら
れてるだろう。長門の力を使ったのか?しかし長門の力といえば俺が使った脱出プログラムくらしか
思い浮かばんぞ。しかもあれは一度使ったっきり消去されるっつー設定だったはずだ」

「織姫と彦星宛のメッセージだ。それが鍵になってたんだよ」

『俺』が初めて口を開く。

『俺』は俺を凝視している。俺もそうしていることだろうが、しかしこいつは一番の謎だ。俺がそっちに行った時、お前はいなかったよな。お前
は一体、何者なんだ」



372 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 10:59:34.21 ID:L16jdEMsO


「んなこと言われても困る。俺は俺だ。それ以外の何者でもないね」

俺が考えそうな事を見事に言いやがる。しかしもう少しシャキっとしたオーラを出してくれないかね。
俺はよくもっとやる気を出せとか注意を受けるが、これほどそれがよく分かるシチュエーションは他
に無いよ。と、またもや関係ないことをつい考えてしまっていた、そんな俺に長門が目線を投げかけ
てきた。

「彼の存在が誕生したのは、彼らの世界の時間で十二月二十日のことだと考えられる。あなたがわた
しのプログラムを起動させると同時に、彼が構築された」

『俺』は少し考えるようなしぐさを取り、

「それはつまり、俺が生まれたのは十二月二十日だってことなのか?」

と長門の言ったことと全く同じことを言う。俺だけに頭はあまりよくないようだな。

「そう」

長門は一言だけ言い、『俺』をじっと見ている。

「そんなわけないだろ、俺には記憶がある。あんたがこっちに来ていた三日間の記憶だけきれいに無
いが、それ以前の記憶はあるぜ。いとこの叔母に変なニックネームを付けられたりとか、中三の時に
ミヨキチと映画を見に行ったとか、他にもだ」


377 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 11:07:21.56 ID:L16jdEMsO

「あなたたちの世界を構築したのはわたし。そして、わたしは・・・・


途中で言葉を切り、長門はめがねの長門を初めて見る。眼鏡の長門は驚いた様子でいたが、しかしう
つむいたりはせず、お互いに目をそらすことなく、

「あなたは、わたしが望んだ姿。エラー動作を起こしたわたしは、人間であることを望んだ。ヒュー
マノイドインターフェイスなどではなく、一人の人間として存在することを」

長門はまた、『俺』に視線を戻し、

「あなたが誕生した理由については、詳細まではつかめない。エラー動作中のわたしの行動履歴につ
いては、先も言った通り、解析できないから。ただ、あなたが存在することを、わたしは望んでいた。
そちらのわたしがそうであるように」

長門の漆黒の双眸が、今度は俺を見つめている。

「あなたが時空改変プログラムを発見し、無事に起動させることができた場合、あなたという存在は
あちらの世界からは消える。わたしが一人にならないように、あちらの世界でのあなたの存在を用意
したのだと思う。」


381 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 11:09:22.68 ID:L16jdEMsO


また『俺』に目線を戻し、それがあなたが誕生した理由、と長門。何て言ったらいいのかね。長門よ。
言葉が出てこないよ。

「そうか、わかった。その点はそれでいいことにしよう。しかしだな、長門の言うエラー動作っての
は何のことだ。他にも何だ、その、世界を構築したのが長門ってのはどういう事だ。更に記憶だ。そ
れについてはどうなんだ。記憶だけ持っている状態で生み出されたとか言うんじゃないだろうな。そ
んなの、信じられんぞ」

「記憶を持った状態で誕生したという認識はあながち間違っていない。あなたは自分が十二月二十一
日に誕生したことが信じられないようだが、わたしがあなたたちの世界を構築したのは十二月十八日。
あなたを除いても他の四人は、十二月十八日に誕生した。記憶を持った状態で」

俺は予期せぬ訪問者達に俺がそっちの世界に迷い込むに至ったまでの過程、理由、俺がプログラムを
起動させた以降のことについてや、その後に判明したすべての真実について詳しく話してやる。もち
ろん、長門のバグによって引き起こされたエラーの働きであっちの世界が想像され、それを元に戻す
ために東奔西走したことも話した。まぁこっちには朝比奈さんもいるし、朝比奈さん(大)については
うまく誤魔化しておいたが。


383 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 11:11:22.22 ID:L16jdEMsO

話し終える頃には訪問者達は、みんな唖然としていた。

「あたしたちの世界を作ったのが有希で、ジョンだけが正常な状態で取り残されたってわけ?やっぱ
りあたしたちの世界は間違った世界なの?それからあたしたちが作られたのが十二月十八日だとす
るとまだそこから一週間も経ってないじゃない。信じがたいわ・・・」

そう思う気持ちはわからんでもないがな。

「結局のところ、僕達の世界が存在しているということはどういうことなのでしょうか。僕は世界が
パラレルワールドのような形になっているのか、あるいは時間の流れは一つだけで、時空改変によっ
てすべてが上書きされてしまったりするような形になっているのかという推測をしたのですが、結局
後者なのではないかという結論に至りました。しかしジョンさんは改変を成功させたのに僕達は存在
しているし、あなたたちの世界もまた存在している。これは、どういうことなのでしょうか」

光陽園古泉が言う。それはお前らが来る直前まで俺が考えていたネタなのだが。

384 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 11:14:02.02 ID:L16jdEMsO


「世界の成り立ちは時間の流れと大きく関係している。そして時間の流れについてを人間の用いる言
語を使って説明するのは困難が極まる。理解も困難。なぜならば、時間の流れのメカニズムの概念は
人間の用いる言葉の概念と大きくかけ離れているため。数字を用いずに数学を学ぶのが困難なのと同
じ。よってその疑問に答えることはできない。しかし非常に簡易的に説明すると、時間の流れと次元
の存在の可能性を複合的に考えると、あなたたちの世界とわたしたちの世界が二つとも独立し存在す
るに至る可能性はゼロではない。実際、こうして存在している。あなたたちの世界はわたしたちの世
界がベースになっている、いわば川の支流みたいなもの。間違った世界だという認識こそ間違い」

先ほどよりも少し分かりやすい説明をしてくれた長門。

「さて、こっちの事情を話したんだ。こんどはそっちの話を聞きたいね。どうやってこっちに来たん
だ。織姫と彦星のメッセージが鍵だとかお前は言っていたが、どういうことなんだよ」

唖然としっぱなしでいた『俺』がハッと我に返ったようなリアクションをとる。

「あ、あぁ・・・。まだ話してなかったな。俺たちは・・・


386 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 11:18:14.20 ID:L16jdEMsO

『俺』が話しを続ける。どうやら、俺が使った脱出プログラム以外にもまだ手段が残っていたようで、こいつらはそれを使ったのだ、という認識でいいのか。

「長門、お前が俺が使った脱出プログラムを残してくれたのは実際に俺が使ったから知っているが、あいつらが使ったプログラムを残したのは、お前なのか?」

「・・・・・・・・」

長門は黙っている。こいつにも分からないのだろうか、いやしかし、長門はあいつらに自分の力の断
片を感じるとも言った。それがその校庭プログラムとやらなんじゃないのか?もうしばらくの沈黙の
後、長門が口を開いた。

「彼らが使用したプログラムは、わたしが作成したもので間違いない。しかしわたしにはそのような
動作を行った履歴は残されていないために、エラー動作中に行った行動だと予測できる。それ以上は、不明。なぜこのようなプログラムを残したのか、推測できない」

そう言い、長門は口を閉じる

不明、か。しかし、俺にはなんとなくだが分かる気がする。長門はバグにまみれてもなお、俺を救お
うと手段を残してくれた、ということなのかな。実際、俺が脱出プログラムを100%起動させられた
かどうかを考えてみても、どちらかというと起動させられずに終わってしまう可能性のほうが高い気
がしないでもない。あっちのハルヒの行動力が無ければ、鍵を集めることすらできなかったろう。

俺は長門を見つめ、長門の闇色の瞳に俺が映る。ありがとうな、長門。本当お前に
は頭が上がらないよ。



387 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 11:20:11.04 ID:L16jdEMsO


その後俺たちはいろいろなことを話した。俺とハルヒが出合った時の事、突飛な自己紹介に驚いたこ
と、SOS団で参加した野球大会のことや映画についてなども。あっちの奴らも話してくれたぜ、ク
リパのこととかな。そうして小一時間くらい経っただろうか、長門が口を開いた。

「・・・そろそろ、時間」

訪問者たちにそう言い放つ。

「時間って、何のことよ。あ、そうそう、あたしたち、元の世界に帰る手段が無いのよね。どうすれ
ばいいの?あんたたちなら何とかしてくれそうだけど」

さすがだな。後先考えず突っ走る所はこっちもあっちも変わらず、か。

「あなたたちとあなたたちの時空とのつながりが弱くなってきている。今なら私の力を使いあなた達
を元の世界に戻すことが可能。この機を逃すと、帰還は困難」

そう言うと長門は床に魔方陣のようなものを描き始めた。

「ちょっと待ってよ、まだ話してないことだって沢山あるのよ、時間が無いって、あとどれくらいな
らいいのよ」


388 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 11:22:30.46 ID:L16jdEMsO


長門の言葉に納得できていない様子のハルヒであったが、フッと我に返り、

「そうね、わかったわ。わがままは言わない。あたしたちはあたしたちの世界に帰るべきなんだわ。あんたがそうしたようにね。」

「そうだな」

『俺』が言う。

「あんたも大変な苦労をしてきたみたいだしな。これ以上苦労を増やさせる訳にはいかんだろ。えっ
と、そっちの寝ているハルヒには世界を作り変える力が宿ってるんだっけ?とてもそうは見えない
な」

『俺』は落書きでもしたそうな顔でハルヒを見ている。やめとけよ、後が恐い。俺がとばっちりを食らうことになるんだからな。

「世界を作る力か。軽く羨ましいわね、ふふ」

ハルヒが、寝ているハルヒの頬をつつきながらそう言った。そんなハルヒに俺は言う。

「もしお前がこの力を持っていたらなら、どうする?」

こいつはハルヒであり、かつそのヘンテコパワーを持っていない。聞いてみたくなったのさ、どう答えるのかをな。


390 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 11:25:42.14 ID:L16jdEMsO

「そうね、まず世界をあたし中心に回るようにして、宇宙人や未来人や超能力者がうじゃうじゃいる世界に変えて・・・

ハルヒは沈黙する。

「あたしね、ちょっと分かったんだ。キョンには言ったんだけど、本当はちょっと恐かったの。ジョ
ンを助けるとか大口を叩いておいて情けないなとも思ったけど、ここに来れたのはみんなのお陰なの
よね。あたし一人ではできなかった。あたしにはSOS団があるもの。だからそんな変な力なんてあ
っても意味ないわ。なんせあたしのSOS団に不可能の文字は無いんだからね!」

そう言って微笑むハルヒの顔には、一変の迷いも見られない。

そうだな。俺たちだってそうさ。いい答えを聞いた。

「時間。急いで」

長門の声に倣い、訪問者達は陣の内部に移動し終わると、陣が光り始めた。

「そっちの『俺』よ。ハルヒのことは頼んだぞ」

俺は『俺』に言う。


393 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 11:29:23.18 ID:L16jdEMsO

「お前こそな。喧嘩とかすんじゃねーぞ。それから風邪に気をつけとけよ」

母親みたいなことを言う『俺』だった。

「じゃあね、ジョン。元気でね・・・

「ああ、お前もな。あんまり団員に迷惑かけるんじゃねーぞ」

陣の光量が増してゆく。

「ま、待って!」


眼鏡の長門が叫ぶ。どうした、何か忘れ物でもしたのか

「こ、これ・・・

長門はカバンから何枚かの紙切れを取り出し、俺に渡す。

「これは・・・」

「あなたがわたしたちの世界に迷い込んだ時に、わたしが書いていた詩。あの時は見せられなかった
けど、完成したから、あとで読んでほしい」

なるほどな。やはりあの時は何か書いていたんだな。しかしいいのか、俺なんかに渡して。

「・・・いい。あなたに、お礼を言いたかった。口下手で、友達もいなかったわたしとSOS団をめぐり
合わせてくれたのはあなた。ありがとう」


398 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 11:36:15.77 ID:L16jdEMsO


俺は眼鏡越しに長門の漆黒の瞳を見つめる。いつかのように、目をそらすことはない。

「そうか、よかったな。俺のほうこそお礼を言わなくちゃな。お前がいてくれたからこそ、俺は俺の
世界を取り戻すことができたんだ。ありがとう、長門」

長門は、あの時と同じ微笑を俺に見せ、陣の内部に戻る。

「じゃあな、お前ら。あっちの世界でも仲良くやれよ!」

五人の声が入り混じった声が聞こえると共に、光量が更に増加、目も開けてられないほどにまぶしく
なったかと思いきや、次の瞬間には、陣だけが残され、訪問者達は消えていた。

「長門、奴らは無事に元の世界に戻れるのか?」

「問題ない。・・・今、無事に到着したのを確認した。彼らの世界とのつながりを切断する」


399 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 11:37:05.94 ID:L16jdEMsO


俺はしばらく、さっきまで訪問者達がいた陣を見つめていると、

「彼らもまた、涼宮さんが望んだ結果なのかもしれません。おっと、こちらの涼宮さんのことですよ。」

と古泉。どういうことだ、奴らは奴ら自身の意思でこっちに来たんだろう。

「涼宮さんの最初の自己紹介を思い出してみてください」

あの自己紹介は一生忘れないだろう。一瞬にして担任を含むクラス全員を氷つかせたあの出来事をな。
宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたらあたしの所まで来いとかそんなんだったな。まさか・・・

「そうです。つまり彼らを異世界人として解釈するのはどうかってことですよ。異次元の住人が僕たちの世界にやってきたんですよ。異世界人として十分なステータスを持っていると思いませんか」

そう解釈すれば、奴らがここに来たことについて変な理由付けをしなくてすむ、と古泉。

確かにその解釈は悪くなさそうだが、正直、そんなことはどうでもいい。SOS団があるから、変な
力なんていらないと言ったハルヒ。頼んだぞ、ハルヒよ。あっちのSOS団をな。未来永劫の発展の
ために、せいぜい『俺』をこきつかってやってくれ。

元気でやれよ。

403 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 11:39:17.37 ID:L16jdEMsO


視界が一気に暗転し、これは来た時のような重力の喪失が始まるのかと思いきや、気が付くと、俺た
ちが出発した北高の校庭に立っていた。織姫と彦星宛のメッセージが書いてあるから間違いないね。
もちろん、光ってたりはしていない。

「ねぇキョン」

少しの沈黙の後、ハルヒは口を開く。

「ジョン達、大丈夫かな」

「大丈夫だ。なにせジョンはとんでもねー苦労をしてまでも仲間を取り戻そうとした奴だ。これから先何が起こってもあいつらならなんとかやるさ。ま、さすが俺ってとこだな」

そんな俺に突っ込みをいれることなく、微笑を投げかけてくる。

「そうね、まぁ、あんたを褒めたわけじゃないんだからあんま調子に乗んないでよね」

自然とフッと笑みがこぼれた。

「さて、まだ安心はできませんよ」

と古泉。そうだ、校庭の落書きを消す作業がまだ残っている。
今日は朝早く起きてこんな大変な目にあったというのにまだ休めないとは。まぁ仕方ないがな。


405 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 11:40:40.00 ID:L16jdEMsO


ハルヒはハルヒ文字を書いたときと同じく肉体労働を男共にまかせ、長門と共に夜空を見上げている。
あいつらも、この星空を眺めているのだろうか。

朝比奈さんは壁によっかかりうとうとしている。疲れたからな。俺もそうしたい。

文字を一通り消し終えた後、ハルヒはこう言った。

「みんな、今日はお疲れ様。とりあえず今日は解散ね。明日反省会をするわよ!」

明日かよ!休ませろよ!

「なによ、文句は言わせないわよ!時間が経つと記憶が薄れるのよ!こんなレアな体験の
記憶が薄れるなんてもったいなわ!本当は今すぐにでも反省会をしたい所だけど、さすがに
今日は疲れたしね。明日でいいわ!」

と、まったく疲れた様子を見せずに高らかに話すハルヒ。

まぁいいか。

正直言って、楽しかったからな。SOS団としてこれからもお前に振り回されるのも悪くない。
これからもわががまで傲慢で高飛車な我らの団長でいてくれ。ハルヒ。

俺たちは同時に帰路に就く。

今日のハルヒの鼻歌は、JamProjectのSKILLだった。

おしまい

425 名前:名前なしなし[] 投稿日:2009/05/06(水) 11:53:39.28 ID:L16jdEMsO

コラム

約半日の長丁場、はじめから支援してくれた方、途中から支援してくれた方、共にお礼を言わせていただきたいと思います。

これ、実は二年前に作ったもので、当時は恥ずかしくてアップできなかったのですが、今になって読み返してみたら意外と読めたので、ちょっと勇気を出して投下してみました。

スレタイについてはあまり意味ありません。始めは涼宮ハルヒの再会あたりを考えていたのですが、このタイトルの方がクリックしてくれそうなのでこうしました(笑

次回作は二年後くらいになります(笑 ご期待下さい。

それでは、またの機会にお会いいたしましょう!グッバイ!



ツイート

メニュー
トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:キョン「……」ナデナデ 長門「……」