1 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 21:31:47.79 ID:W/O5L9Xc0
涼宮ハルヒの憂鬱×デスノート
書き溜めあり
投下間隔は三分前後
WBCなんて興味ねぇぜ という非国民は是非付き合ってちょ
4 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 21:33:22.88 ID:W/O5L9Xc0
いつも通りに何の成果も見出せない不思議探索を終え、一日無駄に街を歩き回った徒労感を長めの風呂で洗い流す。
ドライヤーで髪を軽く乾かし、入浴の余韻に浸りながら流行のバラエティ番組にでも目を通そうかとテレビをつけた。
決して面白いとはいえない内容ながらも、明日級友との話題に上らせるくらいには役に立つ。
そう思いながら最近露出を増した芸人のネタに苦笑していたときだった。
異変が生じた。
テレビの画面が変わる。
真っ白な画面の中央に、奇妙な書体で『L』の文字が躍る。
それからの数分、俺はテレビ画面から目を離すことが出来なかった。
「私が正義だ!!」
世界一の名探偵『L』と名乗った男の宣誓じみた言葉を持って放送は終わりを告げた。
『キラ』?
手も触れずに人を殺すことが出来る殺人鬼だって?
冗談じゃない。そんな奴が実在したら、そりゃ神様に等しい存在だ。
だが、俺はそんな馬鹿なと笑い飛ばすことは出来なかった。
何故って? ごく身近にそんな馬鹿げた力の持ち主に心当たりがあるからな。
ハルヒよ、出来ればこの放送、見逃していてくれ。
そんな淡い期待を抱きながら俺は眠りについた。
5 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 21:35:57.99 ID:W/O5L9Xc0
「キョン! 昨日の放送見た!?」
もちろん俺の儚い願いは教室に入った途端にぶち壊された。
ハルヒの瞳がこれまで見たことがないくらい爛々と輝いている。
はあ、だから嫌だったんだ。
「ああ、見たよ」
「来たわ来たわ! 遂に来たわよ!! これよ! こんな不思議を待っていたのよ!!」
「おい、人が死んでるんだぞ。不謹慎なことを言うんじゃない」
そう言ってハルヒを嗜める。だが、ハルヒの興奮もわからなくもない。
退屈な日々を送る高校生にとって、悪人を裁く殺人鬼キラVS世界一の名探偵Lの戦いなんてものに興奮しない奴はいないだろう。
事実、ハルヒに限らず教室内はその話題一色に染まっているし、俺自身、少しは気分が高揚しているのは確かだ。
「キョン! 今日は授業終わったらすぐに部室に集合よ!!」
ハルヒは待ち望んでいた不思議の登場に相当興奮しているようだ。
無理もない、昨日の放送は演出面もインパクトがでか過ぎた。
そりゃ、不思議に飢えていたこいつには刺激が強かったろう。
「はいはい」
「何よその返事は! やる気出しなさいよもう!」
俺の返したおざなりな返事におかんむりの様子のハルヒ。
悪いな。俺は周りの奴らみたいに単純にはしゃいではいられないんだ。
まだひとつ、つぶすべき可能性が残ってるんでな。
8 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 21:40:04.14 ID:W/O5L9Xc0
「今回の件に我々『機関』は一切関わっておりません」
昼休み、最早内緒話の定番になっている中庭のテーブルで、あいも変わらずにこやか紳士面を顔面に貼り付けたまま古泉は言った。
「そうなのか?」
「ええ、昨日は僕も面食らったものでして」
古泉の前髪が風に揺れる。その姿が本当に絵になっていて、俺はコーヒーをすすりながら眉をしかめざるを得なかった。
「俺はまたてっきりお前らの手の込んだドッキリだと思ったんだがな」
「さすがに町全体の電波をジャックしての小芝居は出来かねます。裏を返せばそれだけの力を持っているということでしょうね。
……その、Lという人物は」
「お前はキラっていう奴のことは知ってたのか?」
「ええ、最近原因不明の心臓麻痺で亡くなる重犯罪者の数が激増していましたからね。当然我々の方としてもチェックは入れていました」
それから古泉は少し神妙な面持ちで紙コップに注がれたコーヒーに口をつけた。
珍しいな、こいつが口ごもるなんて。
「言いにくいことなんですが……その、我々の中には涼宮さんがキラなのではないか、と唱えるものもいまして」
「……馬鹿なことを言うなよ。そんなわけないだろう」
「ええ、もちろんです。僕だってそんなわけはないと思っています。ですが、そういった事情もあって、キラ事件についての情報は逐一チェックを入れていたんですよ」
「なるほどな……」
もちろん、ハルヒの仕業なわけはない。
だが、そうするとひとつ嫌な想像が頭をもたげる。
10 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 21:42:42.26 ID:W/O5L9Xc0
「すると、そんなことが可能なのは……」
「長門さんの同類、という可能性は考えられますね」
そうなのだ。かつて俺を殺そうとした朝倉涼子のように、何かを目的として人を殺すインターフェースが存在するのかもしれない。
長門自身がキラなんてことは発想すらしなかった。当たり前だろ?
「しかし、そういった存在を長門さんが存じていないという可能性は低いと思います。長門さんは最も涼宮さんに近しいインターフェースですから、
それに見合った権限が与えられているはずです。そんな長門さんの目を掻い潜って行動できるインターフェースがいるとは思えない」
俺は頷いた。
だが、そうすると、だ。
一番面倒くさい可能性だけが残るじゃないか、古泉。
「……あなたのご想像の通りです。手も触れずに人を殺すという神様じみた力を持っている、
我々と何の関わりも持たない第三者が確実に存在しているということです」
「犯罪者に正義の裁きを下す『キラ』……か。古泉、お前はキラについてどう思う?」
「僕たちが信仰する神はただ一人ですよ。あなたもよくご存知のとおり」
「だが、その神様は『キラ』にご執心だ」
「困ったものです」
古泉はそう言って肩をすくめた。もうお馴染みの動作だ。
耳慣れたチャイムが鳴り響く。
いつの間にか昼休みは終わっていた。
17 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 21:46:19.37 ID:W/O5L9Xc0
放課後、終礼が終わるやいなや久しぶりにハルヒにネクタイを力任せに引っ張られ、俺は部室に引っ張り込まれた。
ノックもなしにハルヒはドアを勢いよく押し開ける。
「ふぇ……?」
そこにはメイド服に着替える途中だった朝比奈さんの、見目麗しい姿があった。
レースで縁取られた薄いピンクの下着が目に飛び込んでくる。
ああ、お美しい。久しぶりに拝見した胸のほくろに俺のマイサンがスタンダップでごめんなさい朝比奈さん。
「きゃあぁあぁあぁあぁあ〜〜〜!!!!」
「キョぉン!! 何ぼっと見てんのよこのあほんだらげぇ!! さっさと出なさいこのスケベ!!!」
「お前が無理やり引っ張り込んだんだろんぼうふッ!!!」
ワンテンポ遅れた朝比奈さんの悲鳴が響き、俺はハルヒによって廊下に蹴りだされる。
しかもハルヒのやろう、あろうことか股間を蹴り上げやがった。
突然の衝撃に悶絶しながら俺は廊下でのた打ち回る。
くそう、ハルヒ。お前は知らんのだ。男の子のこんなところにそんなことをしたらどんなことになるかを。
「おやおや」
ちょうどその場に現れた古泉の余裕綽々のにやけ面が、今は無性に腹立たしかった。
22 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 21:49:31.48 ID:W/O5L9Xc0
朝比奈さんが着替えを終え、全員が揃うとハルヒはどこからか調達してきたホワイトボードに乱暴に何かを書きなぐり始めた。
『キラ事件対策本部SOS団!!』
開いた口が塞がらないとはこういうことだ。
ハルヒはペンを叩きつけるように最後の『!』を書き上げると得意満面の笑みで言い放った。
「これからSOS団は今世間を騒がしているキラを捕まえるための特別対策本部になります!!」
古泉と目が合った。古泉は苦笑を浮かべている。まさかここまでぶっとんでくるとは予想外だ。
朝比奈さんはどういう意味かわからないのか目をぱちくりさせているし、長門は本から顔をあげようともしない。
とすると、ええい、止めるのはやはり俺の役目なのか。
「おいハルヒ、正気に戻れ」
「あら、私はいたって正常よ」
発言する際に立ち上がってから気がついた。
ハルヒの奴、腕章の文字がまた変わってやがる。
『少年探偵』。ええいこの阿呆め。
「冷静に考えろ。普通の高校生が大量殺人犯を捕まえるなんて無理に決まってるだろう!」
「残念だわキョン。あんたがここまで無能だったなんてね」
ハルヒは心底がっかりというように盛大にため息を吐いてみせる。
こ〜のやろう、さすがに少しカチンと来るぜ。
「影も形もわからない殺人犯を捕まえるなんて妄言を吐く奴よりは有能なつもりだけどな」
「いいわ、あんたの残念なオツムでもわかるように解説してあげる」
24 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 21:51:41.02 ID:W/O5L9Xc0
挑発的な俺の台詞をハルヒはあっさりと流す。
ハルヒは腕を組むとふんっ、と鼻から勢いよく息を漏らした。
座るタイミングを逸した俺は立ったままその言葉に耳を傾ける。
「いい? 昨日の放送をよく思い出してみて。あのLを名乗る探偵はなんて言ってた? 私ははっきり覚えてる。彼はこう言ったのよ。
『この放送はごく一部にしか放送していない』ってね」
言われて思い出した。確かにそんなことを言っていた。
目の前で人が死んだということが衝撃的過ぎて忘れていた。
「つまりその放送を見た私たちのごく身近にキラは存在している。でしょ?」
「それはまあ……だが、それだけの情報じゃ特定は無理だろ」
「ねえキョン、もしあなたがキラで、昨日の放送を見てたらどうする?」
質問の意図がつかめず言葉に詰まる。
お構いなしにハルヒは続けた。こちらの答えなど最初から期待していなかったらしい。
25 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 21:54:21.77 ID:W/O5L9Xc0
「私なら、黙ってテレビを消すわ。でも、キラは行動に出た。テレビに出ていた『L』の影武者を殺したのよ。
結果、私たちの住むこの地域まで居場所を限定されてしまった。わかる? こいつ意外とガキ臭いのよ。きっと色んなところでぼろ出してるに違いないわ」
「しかし……」
今度は古泉が反論した。
やはりこいつもハルヒがこの件に関わるのはさすがに反対なんだろうか。
「既に世界一の名探偵といわれる『L』が動き出しています。我々の出る幕はないのでは?」
「わかってないわね古泉君」
ハルヒはチッチッチと指を振った。
その顔にはこの上ないほど不敵な笑みを浮かべている。
「だから面白いんじゃない! 世界一の名探偵と私たちSOS団。どちらが早くキラを捕まえるか競争よ!! くぅ〜、燃えてきた!!」
こうなったハルヒを止める術はもうない。俺は脱力感を隠そうともせずどかりと椅子に腰を下ろして呟くだけだ。
「やれやれ」
ってな。
28 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 21:57:29.98 ID:W/O5L9Xc0
その日の活動は散々だった。
俺たちはどこから集めてきたのかハルヒによって机の上にドカ積みされた世界各国の推理小説を読まされ、ハルヒはひたすらネットでキラ事件の情報を拾い集めていた。
救いといえばたまたま手に取ったミステリが存外面白かったことくらいだ。
しかしこういった推理ものの主人公はどうしてこうも頻繁に事件に遭遇するのかね。
俺が刑事だったらまずこいつらを疑っちまうがな。
そんな風に茶々を入れながら本に読みふけっていると、長門が本を閉じ、いつも通りその音を合図にその日の活動は終わった。
ハルヒにニュースを必ずチェックするように、とのお達しを受け、皆それぞれの帰路につく。
何気なく小石を蹴りながら帰っていると、古泉と二人になっていた。
はて、こいつの家がこっちという話は聞いたことがなかったが?
「けっこう子供っぽいところもあるんですね」
「うるさいな。こっそりと眺めた人の行動を勝手に評するんじゃない。訴えちまうぞ」
「申し訳ありません。以後気をつけます」
ちっとも悪く思ってなさそうな古泉にため息をついてみせてから話を促す。
まさか、童心に返った俺の奇行を観察するためだけに着いてきた訳じゃあるまい?
「もちろん。涼宮さんのことです」
「ああ、結局ハルヒの馬鹿げた行動を止められなかったな。おかげで明日から益体もない探偵ごっこの始まりだ。
今度から休みのたびに街で聞き込みとかやらされると思うと辟易するぜ」
「確かにそれはぞっとしませんね。しかし僕が恐れているのはそういうことではありません」
30 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:00:26.00 ID:W/O5L9Xc0
恐れているとはまた仰々しい言い回しをしたもんだ。
古泉の横顔を見ると、驚いた。常時貼り付けていた笑みが消えている。
「お忘れですか? 涼宮さんの能力を」
言われて俺もはっとした。というか、何故気づかなかった。
これではハルヒに残念なオツム扱いされても文句は言えまい。
「願望の――実現能力」
「そう、僕が真に恐れるのはそれなのです。涼宮さんがキラの正体にたどり着き、得体の知れない力によって葬られる。
――可能性は、ゼロではない。そうなれば機関はパニックですよ。いや、そもそもこの世界がどうなるかもあやしい」
「なるほど、珍しくお前がハルヒに反対意見を出すと思ったらそういう訳か」
「正直、ただの探偵ごっこで済めばそれに越したことはないと思っています。とにかく、『L』という方には頑張っていただかなくては」
そうだな、早いうちに『L』がキラを捕まえてくれればそれが一番楽で平和的な解決だ。
頼むぜ、名探偵さんよ。
探偵帽を目深にかぶり、パイプを吹かす探偵象を脳裏に浮かべ、俺は心中で盛大なエールを送った。
33 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:03:09.01 ID:W/O5L9Xc0
翌日になってますますハルヒは賑やかだった。
ハルヒだけではない、教室中が相変わらずキラの話題で持ちきりだ。
ハルヒが何事かを一心不乱に書きなぐっているノートを見れば、わけのわからん情報が羅列してある。
恐ろしいのが、すでにノートが半ばまで使い込まれている点だ。こいつ、へたすりゃそこらの警察より頑張っているんじゃないだろうか。
「お前キラ派?」
「ばっか、キラ様だべ。呼び捨てにしてたら心臓止められっぞお前」
そんなことを言い合いながらけらけら笑う男子生徒たち。
危機感が完全に欠落しているな。まあ、無理もないことだ。
まさか、そんな大事件が自分に関わってくるなんて夢にも思っちゃいまい。
大抵の人間にとっては他人事なんだ、この事件は。
自分から積極的に関わっていく大馬鹿者なんてうちの団長様くらいのもんだろうさ。
周囲の喧騒を聞き流し、寝不足から来るあくびをかみ締める。
しかし驚きだ。いくら娯楽に乏しい町だからって、ここまで話題がキラ一色に染まるとは。
その光景に空恐ろしささえ感じる。いや、こんな空前絶後の事件を前にして、ここまで冷静な俺の方が異端なのか?
やがてホームルームの時間になり、ガラガラとドアを開けて担任の岡部教諭が入ってきた。
教室の喧騒がぴたりと止まる。
入ってきたのは岡部だけではなかった。
女子は言葉を失い見惚れ、男子は思わず舌打ちしたくなるほどの、びっくりするくらいの美少年がそこにいた。
「転校生を紹介する」
岡部教諭の手招きに従って、転校生はスラスラと自分の名前を黒板に書いた。
変わった名前だ。何と読むんだろう。少年が口を開く。
「夜神 月といいます。よろしく」
優しげで、それでいて心をくすぐるような声だった。
36 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:05:43.56 ID:W/O5L9Xc0
夜神月が転校してきて一週間、彼はもうクラスの人気者だった。
無理もない。整った容姿に頭脳明晰、おまけにスポーツ万能で話し上手なんていう完璧超人っぷりを惜しげもなく披露しているからな。
加えて今日返ってきた全国模試の結果。あれが止めになった。
なんと夜神月はその模試で全国一位をとってしまったのだ。
「はぁ〜、凄いね。いるんだ、天才って」
昼休みになり、女子に囲まれながら昼食をとっている夜神月を眺めながら、国木田は心底感心したように言った。
「けっ、あんな奴に限って裏では何やってるかしれねえんだ。きっと変な趣味とかあるに違いないぜ」
谷口はひがみ丸出しで夜神月の方を睨み付けながら購買で買ったパンにかぶりつく。
どうやら先ほどの体育の時間、100m走で夜神月にぶっちぎりで負けたのが余程悔しかったらしい。
「なあキョン、お前もそう思うだろ? そう思わねえとやってらんねえよ。世の中不公平すぎるぜ」
「人を羨むより自分の手持ちの力で何が出来るかを考えろ。その方がよっぽど建設的で健康的だ」
「ちぇ、相変わらず達観したようなこと言いやがって」
「でもキョンの言うとおりだと思うな」
ぶつくさ不平不満を漏らす谷口を半ば無視しながら最後のオカズを口に放り込む。
もぐもぐと咀嚼しながらなんとなしに夜神月の方に目を向けた。
「ぶほぉッ!!!」
「どわぁ汚ねえ!!!!」
口の中のものを盛大に噴き出してしまった。
いつの間にかハルヒが夜神月の前に仁王立ちしている。
おいおい、あいつはいったい何をするつもりなんだ。
「夜神君! 気に入ったわ!! 全国模試で一位を取るその頭脳、私たちSOS団に相応しい逸材よ!!」
38 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:07:48.59 ID:W/O5L9Xc0
頭を抱えたくなった。教室中がぽかんとしてハルヒを見つめている。
当の夜神月も困惑したままハルヒを見つめて動かない。
あいつはまさか朝比奈さんや古泉を勧誘するときもこんな風にしてたんじゃあるまいな。
ええい、その自信満々な笑みをやめろ。相変わらず空気を読む能力の欠如した奴め。
「え〜と、君は涼宮さん、だったかな? そのSOS団っていうのは一体何なんだい?」
多少狼狽しながらも冷静にハルヒに聞き返すあたり、やはり夜神月は相当大物だ。
俺なら思考の整理にたっぷり五秒は茫然自失する自信があるね。
夜神月と談笑していた女の子のうち一人がこそこそと何事か耳打ちした。
夜神月がどんな説明を受けたかは簡単に想像できる。その呆れたような表情を見れば明らかだ。
きっとこんな感じだ。
奇人変人グランプリでトップを争う人材で結成された珍妙奇天烈摩訶不思議、奇想天外四捨五入な集団。
まったく否定できないのが悲しいところだぜ。
「すまないが、これでも忙しい身なんだ。せっかくのお誘いだけど、遠慮しておくよ」
「却下よ!!」
さすがに夜神月も面食らった顔をした。
そりゃ、出来るだけ穏便に断ろうとしたところで、却下の却下なんて真似をされればそうなるだろう。
「私たちSOS団にとってあなたは必要な存在よ! 今この時にあなたのような頭脳の持ち主が現れたのはまさしく天の采配だわ!!」
さて、そろそろ止めなきゃな。このままでは将来有望な青年がハルヒ節の被害者になっちまう。
39 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:10:53.33 ID:W/O5L9Xc0
俺はハルヒのそばに歩み寄り、その肩を掴んだ。
「そこまでにしろ、ハルヒ」
「何よ、邪魔しないでよキョン!」
ハルヒは大口を開けて文句を言ってくる。
ええいやめろ唾が飛ぶだろ、唾が。
「……ふん、まあいいわ。私はあきらめないわよ!!」
ハルヒは最後にもう一度夜神月に不敵な笑みを向けると、つかつかと自分の席に戻っていった。
その姿を見送って、なんとなく夜神月と目が合った。
「その、なんだ、すまなかったな。迷惑かけた」
「いや、いいよ。そんなに大したことじゃない」
夜神月はその顔に苦笑を浮かべている。
そういえばまともに言葉を交わすのはこれが初めてだ。
「少し面食らったけどね。今まであんなタイプの子には出会ったことが無かった」
「それはそうだ。あんなのがそこら中にいたら日本は終わってる」
「…はは! それは言いすぎじゃないか?」
そんな軽口を叩いて笑いあっているとこめかみに消しゴムがすごい勢いで飛んできた。
「ごっ!!」
「聞こえてんのよあほキョン!!!!」
ぐう。思いのほか痛いぞこれは。
俺がこめかみを押さえて呻いていると、夜神が声をかけてきた。
42 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:13:59.37 ID:W/O5L9Xc0
「キョン……でいいのかな?」
なんてこった。お前も俺を本名では呼んでくれんのか。
そんな聞き方をされて嫌とは言えんじゃないか。円滑なコミュニケーションを図るためにはな。
「構わないぜ」
「キョン、君もSOS団とやらに入ってるのかい?」
「まあ、成り行きでな」
「団員は他にも?」
「天真爛漫な上級生と、寡黙な文学少女と、うさんくさいスマイル野郎がいるな」
「すごい面子だな。なかなか退屈しなさそうだ」
「夜神は何か部活やってるのか? あまりそういう話は聞かないが」
夜神はふるふると首を振った。
「色々と忙しくてね」
その時の夜神は少し遠い目をしていたように見えた。
これほど何でも出来ると何の悩みも無さそうに思えるが、『それ故に』って悩みもあるのかもしれない。
とはいえ、凡百の民にすぎない俺にはそんな悩みの正体など皆目検討はつきはしないが、な。
「まあ暇が出来てもSOS団だけはやめとけ。ハルヒに付き合ってちゃ平和な学園生活なんて夢のまた夢だ」
今度は定規が喉にめり込んできた。
涙まじりでハルヒを睨み付けるとハルヒはふん、とそっぽを向いた。
そんな俺たちを見て、夜神はくすくすと笑っていた。
43 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:16:08.54 ID:W/O5L9Xc0
−Side 夜神月−
校門を出て、長い下り坂を降りていく。
一週間たち、このハイキングコースのような通学路にもようやく慣れた。
「夜神君、じゃーねー! また明日!!」
「メール頂戴ね! 絶対だよ!!」
道行くクラスメイトが声をかけてくる。僕は笑顔で手を振った。
「ククク、もてるんだなライト」
ぎょろりと飛び出た目をぎらつかせ、黒い翼をはためかせた異形の者が頭上で笑う。
化け物―――いや、こいつの正体はれっきとした死神だ。
死神リューク。
リュークの姿は他の者には見えない。なので、周りに帰宅する学生が多くいる現状ではリュークの言葉には何も答えない。
独り言を言う危ない奴だと噂が立ったらたまらない。
とはいえ、無視するのもなんなので、視線でリュークに当然だと答えてやる。
たっぷり30分は歩き、ようやく自宅に到着した。
関東にいたときよりも少し小さくなった家。
玄関のドアを開けると、母が奥から顔を覗かせる。
「ただいま」
「おかえり、月」
母はにこにこしながらその場を動こうとしない。
すぐに母が何を待っているのか思い当たった。
47 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:19:54.43 ID:W/O5L9Xc0
「はい、これ」
「まあ、また一位!」
この間の全国模試の結果を見せる。成績欄に目を通すと母は満面の笑みを浮かべた。
「月、何かほしいもの無い? 何でも言って」
「大丈夫、今のところは無いよ母さん」
すぐに二階の部屋に上がり、鍵を閉める。
もちろん、僕が帰る前に誰か部屋に入った者がいなかったか、確認は怠らない。
ブレザーをハンガーにかけ、机の一番上の引き出しを開けた。
何の変哲も無い日記帳。しかし、本当に必要なものはこれじゃない。
ボールペンの芯を取り出し、引き出しの裏に空いた小さな穴から差し込む。
引き出しの底板が持ち上がり、黒いノートが姿を現す。
そのノートを机の上に広げ、昨日まで使っていたところを開いた。
そこに羅列するのは心臓麻痺で死んだ、あるいはこれから死ぬ犯罪者の名前。
『DEATH NOTE』。
ノートに名前を書かれた者の命を奪う、死神リュークからの素敵なプレゼント。
そう、僕は――『キラ』だ。
このノートで犯罪者を裁き、僕の認めた心やさしい人間だけの世界を作る。
そして僕は―――新世界の神となる。
50 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:23:11.16 ID:W/O5L9Xc0
テレビをつけ、ニュースを確認し、新たに報道された悪質な犯罪者を裁く。
もちろん、テレビのニュースだけではない。インターネット上からも様々な情報を拾い上げ、裁きを下すものを決めていく。
黙々と、ただひたすらにペンを走らせる。
「しかし、うちに帰ってからはひたすらデスノートに犯罪者の書き込みか。本当に真面目な奴だな」
リュークが感心したように声をかけてくる。
「世の中には腐った人間が多すぎる。時間はいくらあっても足りないよ」
本当に悪人というものはゴキブリのように次から次へと沸いてくる。
世界から悪を駆逐し、新世界の神になるためには無駄なことをしている時間などない。
無駄なこと――脳裏に自信満々の笑みを浮かべたあの女、涼宮ハルヒの姿が浮かんだ。
「涼宮ハルヒ……だったか? あれは傑作だったな。あんなにうろたえたお前は初めて見たぞ。さすがのお前も女には弱いんだな」
「ふん、あの女が特別なだけだ。僕に対してあそこまで傍若無人な態度をとってくる女なんて今までいなかったからね」
「SOS団って言ってたな。一体どんなやつらなんだ?」
「話によるとやることが一貫していない、ただの暇つぶし集団だそうだ。……いや、一つ一貫していることがあったな。
彼女らの行動は一貫して『変』らしい。まあ、僕には関係のない話だが」
「へえ〜。でも見ててけっこう面白い連中だったよな。あのキョンって奴も苦労してそうだ」
リュークの言葉に裁きを下していた手が止まる。
涼宮ハルヒをとりなしたあいつ――キョンとのやり取りを思い出す。
「まあ……ね」
僕はそれだけ答え、再び作業に取り掛かった。
次の日の昼休み、僕は涼宮ハルヒという人間を知る。
52 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:26:15.39 ID:W/O5L9Xc0
思わず我が目を疑った。
目の前にバニースーツに身を包んだ涼宮ハルヒの姿があった。
教室中がどよめく。僕自身、(この僕としたことが)呆然としてしまった。
涼宮ハルヒの頭についたウサ耳がぴょこんとはねる。
その顔には相変わらず自信満々の笑み。
視界の端でキョンが口の中の物を噴き出すのが見えた。
「夜神君! SOS団に入んなさい!!」
「な、何故バニースーツ……?」
僕の当然の疑問に対し、涼宮ハルヒはそのスタイルを見せ付けるように胸を張る。
「ふふふ…男は皆すべからくバニーにぐっとくるもの!! これは若くリビドー溢れる男子高校生には抗いがたい誘惑……
バニーの魔力に引き込まれたあなたは首を縦に振らざるをえないってスンポーよ!!」
そう言って涼宮ハルヒが手を差し伸べてくる。
呆れてものも言えないとはこのことだ。
爛々と瞳を輝かせる涼宮ハルヒに対し、僕はふるふると首を横に振った。
「何でよ! この私のバニーじゃ不服だっていうの! あなたきれいな顔して中々の性豪ね!! このいやらしさん! むっつり優等生!!」
大声で何を言うんだ。下品な女め。
僕の風評を害すようなことを言うのは控えてもらおう。
54 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:29:54.67 ID:W/O5L9Xc0
「そういうわけじゃない。昨日も言っただろう、僕は忙しいんだ。それに、僕は『そういったもの』につられる人間でもない」
「むにににに………!!」
キョンが涼宮ハルヒの所にやってきた。
「そこまでだ」
「あ、何すんのよキョン!」
「すまんな夜神、昨日に引き続き迷惑をかける」
「いや、気にしないでくれ。助かるよキョン」
キョンが涼宮ハルヒを教室の外へ引きずっていく。
「ちょっとこらあ! キョン、これはSOS団に対する重要な背信行為よ!! あんたは一体誰の味方なの!!」
「悪いな、俺は常識の味方なんだ」
「あ、ちょっと、ひっぱるな! おっぱいでちゃう! でちゃうって!!」
「大声ではしたないことを言うんじゃありません!!」
二人の言い争う声が段々と小さくなっていく。
まったく、本当に退屈しない奴らだ。
58 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:33:18.57 ID:W/O5L9Xc0
次の日。
バニーが二人に増えた。
思わず飲んでいたお茶を噴き出してしまった。
キョンもお茶を噴き出し、今日も谷口というクラスメイトはびしょぬれになっている。
涼宮ハルヒは昨日と変わらぬ黒いバニースーツ。
隣にいる少女は赤いバニースーツを身に着けている。
堂々とした涼宮ハルヒと異なり、隣にいる少女は顔を真っ赤にしておどおどしている。
それにしても凄いスタイルだ。涼宮ハルヒも相当なスタイルの持ち主だが、この少女はそれにも増して抜群のプロポーションを誇っている。
「ふえぇ、涼宮さん、何で、何で私ここに連れてこられたんですかぁ?」
「さあ、これで欲張りさんな夜神君も満足でしょう! SOS団に入りなさい!!」
無理やりつれてこられたらしい少女の言い分は完全に無視だ。
またキョンがやってきて涼宮ハルヒを引っ張っていく。
赤いバニーの少女は常識ある人間らしく、ほっとした顔をして後についていった。
さらに次の日。
バニーは三人に増えていた。
駄目だこいつ……早くなんとかしないと………。
61 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:36:34.11 ID:W/O5L9Xc0
「なるほど……あなたが色気に動じない人間だというのはよくわかったわ」
連日続いたバニーによる大攻勢はようやく終わったらしく、今日は普通の制服姿で涼宮ハルヒは僕の前で仁王立ちしている。
「涼宮さん……いい加減あきらめてくれないか?」
「私の辞書に諦めるの文字は無いのよ! 絶対にあなたをSOS団に引き抜いてみせるわ!!」
まいったな……ここ数日でこの女の性格は大体把握できた。
この女は異様に諦めが悪い。プラス相当な負けず嫌いだ。
僕が首を縦に振るまではいつまでもこうして付きまとってくるだろう。
これ以上付きまとわれては僕の精神衛生上よくない。
これまではキョンが涼宮ハルヒを止めに入ってくれていたがこれからはそれもどうなるか怪しい。
基本的な力関係は涼宮ハルヒ>キョンだからだ。(これもここ数日の観察ですぐに伺い知れた)
僕が何とか付きまとわれないよう策を練っていると、涼宮ハルヒのほうから口を開いた。
「とはいえ、このままじゃ埒があかないわ。どう夜神君、ひとつ勝負といかない?」
「勝負?」
「そう、来週行われる期末テストで勝負しない? 私が勝てばあなたはSOS団に入団、あなたが勝てば私はすっぱりと諦める」
「いやいや、その条件じゃ僕にメリットが無いじゃないか」
馬鹿馬鹿しい。僕はそういった態度を隠そうともせず涼宮ハルヒを見据える。
涼宮ハルヒは不敵な笑みを崩さない。
62 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:37:22.53 ID:W/O5L9Xc0
「あら、負けるのが怖いのかしら。全国模試一位の夜神君」
ふふん、と馬鹿にしたような笑み。
ふん、安い挑発だ。だが。
「いいよ、わかった。その勝負、受けよう」
あえて乗ろう。
「その代わり、僕が勝った場合の条件を変えてもらう」
「へえ、どういう風に?」
そして。
「僕が勝ったら僕の言うことをひとつ聞いてもらおう。それがたとえどんな理不尽な願いだとしても、だ」
後悔させてやる。この僕にそんな態度を取ったことを。
64 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:40:28.14 ID:W/O5L9Xc0
「いいのか。あんな約束しちまって」
自室の机でペンを走らせる僕にリュークが話しかけてくる。
机の上に広げているのはデスノートではない。
北高で使われている化学のテキストだ。
「問題ない。元々これ(勉強)は僕の最も得意とする分野なんだ」
「でもあの女も相当頭がいいって話だぜ」
「だからこうして万全を期している。僕の負けは絶対に無い」
「だといいけどな……まぁ」
リュークは勉強する僕に飽きたようで、僕に断りも無くテレビをつけると、ごろりとベッドに横になった。
「俺はお前が勝とうが負けようがどちらでもいいんだ。面白ければな」
勝手なことをほざく死神を無視して次のテキストを取り出す。
試験前に猛勉強か。これじゃまったく普通の学生の様じゃないか、この僕が。
くそ、涼宮ハルヒめ。
66 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:43:17.99 ID:W/O5L9Xc0
そして試験は終わり、結果発表の時を迎えた。
この学校では上位30名に限り、総得点と順位を掲示板に張り出すらしい。
それが通例なのか、今回限りの特例なのかはわからない。(僕は涼宮ハルヒが『そういうこと』をやりかねない女だということはもう知っている)
その掲示板に記された結果を見て、僕は言葉を失っていた。
一位 涼宮ハルヒ(900点)
二位 夜神月 (895点)
「私の勝ちね、夜神君」
結果を見上げて呆然とする僕の後ろから涼宮ハルヒが勝ち誇った声をかけてきた。
「約束どおり、これであなたはSOS団の団員その5よ」
体が震えているのは敗北感からではない。怒りだ。
「認められないな、こんな結果は」
努めて冷静に声を出す。
涼宮ハルヒは笑みを消さず、目を細めた。
「ふぅん、どうして?」
「当たり前だ! 『あんなふざけた問題』、認められるか!」
そうとも、認められるはずがない。
『今年生まれた私の二人目の子供の名前を答えよ』なんてふざけた問題は!
71 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:45:25.86 ID:W/O5L9Xc0
「あの問題は授業での教師の雑談を聞いていなければわからない。そしてその話がされたのは僕が転校してくる前だ。
つまり、僕にはこの問題は解くことはできない! 不正な勝負だ、これは」
「あら、そうかしら? 日本史の杉田がこういうサービス問題をつけるのは毎回のことなのよ?
北高で杉田の授業を受けてる奴なら誰でも知ってる。つまり、きちんと情報を集めればあなたにも解くことは出来たのよ。
これは問題の傾向を探らず、自分の能力だけに頼ったあなたの怠慢じゃないかしら?」
この女…! 減らず口を……!!
「それにね、そういうのは『負け惜しみ』っていうのよ、夜神君」
「……ッ!!」
お、女を殴りたいと思ったのは生まれて初めてだ……!
落ち着け。落ち着くんだ。
一度大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。
頭を冷やせ。そうとも、たかだが学校のテストで負けただけだ。
何をムキになることがある。
「…ああ、わかったよ。認めるよ。勝負は君の勝ちだ」
「ふふふ、これからよろしくね夜神君! それじゃ、早速部室に案内するわ」
部室があるという旧校舎に向けて歩き出す涼宮ハルヒの後をついていく。
「そうがっかりすることは無いわよ夜神君。SOS団に入ったこと、絶対に後悔させないんだから!!」
そう言い放って涼宮ハルヒは意気揚々と歩を進める。
まるで太陽のような笑みだ。見るもの全てを明るくさせてしまうような。
だが、その効果も僕には届かない。
そうとも、今この時になって僕ははっきりと自覚した。
涼宮ハルヒ―――僕は君が大嫌いだ。
74 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:48:11.28 ID:W/O5L9Xc0
「ここが私たちSOS団の部室よ!」
もとはおそらく『文芸部』と書かれていたのだろうか。
その上に『SOS団』と書かれた紙がお粗末に貼り付けられている。
部活と裁きの両立か。ふん、口に出すと笑ってしまうな。
だが、やってみせるさ。僕なら出来る。
勢いよく涼宮ハルヒがドアを開け放つ。
窓辺で本を読む少女がいた。見覚えがある。この女もバニーで僕の教室を訪れたことがあったはずだ。
赤いバニーで教室を訪れた少女がいた。今日は何故かメイド服に身を包んでいる。相変わらず他とは一線を画すスタイルの良さだ。
初めて見る顔の男がいた。柔らかな笑みを浮かべている。だが、その笑顔は何故だかどこか胡散臭かった。
なるほど、寡黙な文学少女、天真爛漫な上級生、うさんくさいスマイル野郎、か。
キョンが言っていた通りだ。
当のキョンは心底気の毒そうな顔でこちらを見ている。
『お前も捕まっちまったんだな』。
そんな声が聞こえてくるような憐憫の視線に、僕は笑みで答えてみせた。
雑多なものでごった返す部室をざっと見回す。
道具だけ見ていると本当に何をする集団なのか皆目検討がつかないな。
そんなことを考えながら何気なくホワイトボードに目を向けて、僕は固まった。
涼宮ハルヒは一番奥の『団長席』と示された机までツカツカと進み、その椅子の上に立ち上がった。
「キラ事件対策本部SOS団へようこそ!!」
しばらく口を開けたまま立ち尽くす。
くそ、この女に出会ってからの僕は無様を晒してばっかりだ。
頭上でゲラゲラ笑う死神の声が煩わしかった。
77 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:52:06.74 ID:W/O5L9Xc0
−Side キョン−
俺の再三に渡る妨害むなしく、きれいに舗装された人生のレールを順風満帆に走っていたはずの青年はハルヒによって茨だらけの道なき道へ連れ込まれてしまった。
すまんな夜神。陳腐な侘びしか出来ぬ俺を許してくれ。
「はは、気にするなよキョン。勝負に負けた以上、これは僕自身の責任だ。
それに思ったより面白そうで安心しているよ。キラ事件は僕も個人的に調べていたからね」
俺の言葉に夜神は笑って答えてくれた。
やれやれ、本心じゃ一刻も早くこの悪夢から目覚めたいだろうに。
相変わらずの好青年っぷりだ。ますます罪悪感が強くなるぜ。
ハルヒに毒されないよう心から祈っているよ。俺にはそれくらいのことしか出来ないからな。
「それじゃあ強力な新メンバーも入ったことだし、今日からは本格的にキラ事件について調べていくわよ!!
じゃあ早速各々今まで調査してきた結果を見せて頂戴!!
ずばり、『キラはどんな奴なのか』!! はい、みくるちゃんから!!」
「ひょっ! わ、私ですかぁ!?」
まるでハルヒの指からビームでも発射されたとでも言うように、指差された朝比奈さんは弾ける様に体を竦ませた。
突然ハルヒに指名された朝比奈さんはおろおろと皆の顔を見渡している。
すいません、朝比奈さん。俺では助け舟の出しようがありません。
「え〜と、え〜と、ひどい人だと思いますぅ」
「そういうこっちゃないのよ! キラの人物像をプロファイリングしなさいって言ってるの!!」
「ふぇ〜ん! すいません、わからないですぅ〜〜!」
「んもう! じゃあ次、有希!!」
「………」
79 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:54:22.41 ID:W/O5L9Xc0
長門は本から顔を上げて無表情にハルヒを見上げている。
長門は無表情だが俺にはわかる。長門のやつ、きょとんとしていやがる。
さては今までの話を聞いていなかったな。
「有希まで見当もつかないってワケ!? じゃあ次、古泉君!!」
「そうですね……キラの思想、行動目的などにはある程度考察が及びますが、具体的な人物像と言われると………まったく持って面目ありません」
古泉が頭を下げるとハルヒは頭をわしゃわしゃとかきむしった。
「もう! まったく不甲斐ないわ!! 皆この一週間余りの間、一体何をしていたの!?」
お前の言いつけでひたすら探偵物を読み漁っていたよ。
おかげで長編ミステリシリーズを二つも読破してしまったぜ。
もっともまったく頭がよくなった気はしないがな。
「ところで俺には聞かないのか?」
「どうせアンタは何もわかっちゃいないでしょ」
むぐ。確かにその通りだが面と向かって言われると腹が立つ。
どうせお前だって何にもわかっちゃいないくせに。
「ふふん、私の推理は後でたっぷりと聞かせてあげるわよ! それじゃあ期待の新戦力、夜神君はどう思うかしら!?
さっき個人的にも調べてるって言ってたし、素晴らしい推理を期待してるわよ!!」
82 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:56:08.40 ID:W/O5L9Xc0
目を爛々と輝かせるハルヒを、俺は呆れながらたしなめた。
「おいおい、変にハードルを上げるんじゃない。夜神、真剣に答えなくていいんだぞ」
「何よキョン!! 横から口出すんじゃないわよ! 私は夜神君に聞いてるのよ!!」
夜神は口元に手を当て、少し考えるような仕草をした。
ハルヒは相変わらずわくわくしながら夜神の言葉を待っている。
「そうだな…キラは………」
夜神が口を開いた。
「裕福な子供」
「裕福な子供?」
馬鹿みたいにオウム返ししてしまった俺に、夜神は頷いてみせた。
「もし今言われているように、仮にキラが念じるだけで人を殺せるとして、そんな力を人間が持ったとしたら……
犯罪者を殺し、それを見せしめとして世の中を良くしていこうなんて考えるのはせいぜい小学校の高学年から高校生までだ。
もっと幼い子供ならそんな力怖くて使えないか、周りの気に入らない人間を殺してしまうくらいだろう。
逆に成人以上の大人なら出世や金のためにその力を使う。そんな力があれば大金持ちになる方法などいくらでも考えられる。
キラはまだどこか純粋さを持っていて、何不自由なく暮らしている裕福な子供だ。
自分専用の携帯、パソコン、テレビを持っている中学生が一番妥当かな」
おお…と思わず声を漏らしてしまう。
心底感心した。
俺にはまったく思い浮かばなかったキラの人物像をここまで限定してくると
85 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 22:57:57.95 ID:W/O5L9Xc0
「ほぇ〜〜〜」
「これはこれは」
古泉も朝比奈さんも感心した面持ちだ。長門だけは相変わらず本から顔を上げもしないが。
「素晴らしい! 素晴らしいわ!! 期待通りよ夜神くん!」
ハルヒは喜色満面といった様子でうんうんと頷いている。
と思ったら、急に眉間に皺を寄せて不満げな顔をした。
「でも少し残念ね。夜神くんの推理は確かに期待通りではあったけど、期待以上のものではなかったわ。
その推理じゃまだ甘い。私は既にその先まで到達している!!」
ハルヒの言葉に夜神の眉がピクリと上がる。
夜神はプライドが高そうだからな。ハルヒの物言いに少しむっときたのかもしれない。
「それは興味深いな。じゃあ次は涼宮さんの考えを聞かせてくれないか?」
表面上は笑顔を見せる夜神だが、やはり声にほんの少し棘がある。
挑戦的なニュアンスを含んだ夜神の言葉に、ハルヒは自信満々で頷いた。
「キラはね、か〜なり恵まれた境遇にいる奴よ。夜神君が推理したように家が裕福ってだけじゃない。
まず顔がいい!
加えて頭もいい!
そしてそれにとどまらず! 運動神経だっていいはずよ!!
つまりキラは何をやらせても完璧にこなす完璧超人に違いないわ!! そう、ちょうど夜神君みたいなね!!」
88 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:00:17.81 ID:W/O5L9Xc0
「根拠は何だ根拠は」
「馬鹿ね、相手はあの『キラ』なのよ? キラがあんたみたいな冴えない凡百の民に務まるわけ無いじゃない!!」
「何だそりゃ!! つまり根拠はないのかよ!!」
あれだけでかい口を叩いておいて結局それか。まったく呆れちまうぜ。
見ろ。夜神なんて呆れるあまり固まっちまってるじゃないか。
皆の沈黙をどんな意味で受け取ったのか、ハルヒはますます得意げな顔になった。
「ふふん、まだまだこんなもんじゃないわよ! これからキラを追う上で極めて重要となるファクターに私は気づいたわ!」
「どうせ大したことじゃないだろうが、言ってみろ」
「キラはね! 女よ!!」
ほう、それが本当なら確かにキラの容疑者を絞る上でかなり重要な要素になるな。
単純に考えて容疑者は二分の一に減るわけだ。
さあ、今度はどんな妄想願望を経てその結論に至ったわけだ?
91 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:02:50.63 ID:W/O5L9Xc0
「慌てるんじゃないわよ」
ハルヒは椅子の上から飛び降りると全員に何やらプリントを配りはじめた。
プリントに書かれた表にざっと目を通す。
記されているのは日付と、時間と、死亡者数?
なるほど、キラが裁きを下す時間帯を表でまとめた訳か。随分凝ったことをやっていやがる。
「その表を見てもらえばわかると思うけど、平日は夕方〜夜中にかけて集中し、土日はかなりのバラつきがあるわ。
この点からも夜神君が言ったとおり、キラは学生の可能性が高いってことは確かに言えるのよね。でね、この日を見て」
ハルヒのいう日付の部分に目を通す。
なんだこりゃ。この日に限ってきっちり一時間おきに犯罪者が死んでいる。
「さあキョン、これを見てアンタはどう思う?」
「と言われてもな……キラ自身も気付いたんじゃないか? このままだと学生だってことがばれるって。それで、こんな風に工作を……」
「ぶっぶー、不正解。じゃあ夜神君はどう思う?」
「……キラは死の時間を自在に操ることが出来るのかもしれない。ただ、どうしてこのタイミングで時間を操り始めたのかはわからないけど……」
夜神の言葉にハルヒはわが意を得たりと頷いた。
「さすがね夜神君。私もそう思うわ。じゃあ何故キラはこのタイミングでそれを実行したのか……実はこれが私がキラ=女説の根拠になるんだけど、
この一時間おきに犯罪者が殺されたこの日、その前日に警察のキラ事件捜査本部で『キラは学生じゃないか』っていう発言がなされているの。
余りにもタイミングが良すぎると思わない? おそらくキラは警察の情報を得る手段を持っているのよ。
そしてその発言を知って、言い当てられたことが悔しくて恥ずかしくて感情的になって翌日にこんなファビョった行動を取り出した。
この単純な思考回路、女に決まってるじゃない!!」
95 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:06:09.83 ID:W/O5L9Xc0
何だその偏見に満ち満ちた決め付けは。そんな脊髄反射的に感情で動くお前のような女はむしろごく少数だ。
「このことに気付いた時にはちょっとがっかりだったわ。これでキラが警察関係者なんじゃないかってことまで警察もわかっちゃうだろうし、
余りにも迂闊すぎてキラのイメージが崩れちゃった。キラがこんな間抜けなら急がないと『L』に先を越されちゃうわね」
ハルヒはまるで好きだったイケメンアイドルのロリコン趣味を知ってしまったかの如く、失望感をありありと表してぶつぶつ呟きだした。
荒唐無稽を絵に描いたような女に自らのあずかり知らぬところで勝手に誹謗中傷を受けるとは、キラも気の毒に。
「いや、キラはそんな単純な奴じゃない」
夜神が口を開いた。夜神は言葉を発してすぐしまった、という表情をした。
どうしたのかと思ったが、成程、見ると一度沈静化しかけたハルヒがまた燃え上がろうとしている。
心中余計なことを言ってしまったと舌を巻いているに違いない。
「へえ? それじゃあ夜神君はどう思うわけ?」
夜神は一瞬顔を伏せ、自分の発言を後悔しているような素振りを見せたが、ひとつため息をつくと仕方が無いというように話し始めた。
「キラはわざと自分が警察関係者だとわかるように行動したんだと思う。何故そんな自分に不利になる真似をしたのか?
おそらくこういうことだ。
キラが警察関係者かもしれないとしたら『L』はどうするか。当然警察内部を探り出す。いずれ警察も自分たちが疑われていることを知るだろう。
いい気分はしないはずだ。『L』は顔も名前も不明で得体が知れない探偵だというから尚更ね。おそらく警察も『L』の正体を探りにかかる。
……『L』の正体を警察に突き止めさせ、『L』を始末する。それがキラの狙い……なんじゃないかと僕は思うよ」
ハルヒは目をぱちくりさせている。
おそらく俺も似たような表情をしているだろう。
夜神の推理はハルヒのものより百倍も説得力がある。
まったく、本当に……凄い奴だな、お前は。
99 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:10:46.36 ID:W/O5L9Xc0
−Side 夜神月−
まったく、本当に……僕は何をやっているんだ。
「正解教えてどうするんだ?」
うるさいリューク。みなまで言うな。
この僕としたことが、目の前でキラへの(つまり僕への)見当はずれの罵倒を延々と繰り返されて、つい反論してしまうとは。
涼宮ハルヒの妄言など聞き流しておけばよかったじゃないか。何をムキになってるんだ僕は。
まったくひどい気分だ。家に帰って犯罪者への裁きも行わなければならないというのに……
これ以上付き合ってはいられないな。これだけ相手をしてやったんだ。涼宮ハルヒももう満足だろう。
もう一刻も早くこの部室を出なければ―――
「涼宮さ「素晴らしいわ夜神君!! これでこそあなたを連れてきた甲斐があったってもんよ!!」
思いっきり声を被せられた。
一度引き金を絞ったら撃ちつくすまで止まらない機関銃のように涼宮ハルヒは言葉を続ける。
完全に出るタイミングを逸した。
目の前にはほんの10cmくらいの距離まで涼宮ハルヒの顔が迫っている。
肩を掴まれ、がくがくと頭を揺さぶられる。
キョン、何をしてる。この女を止めるのはお前の役目だろう。
激しく揺れる視界の中で視線をキョンに向けるとゆっくりと逸らされた。ちくしょう、ここにきて涼宮ハルヒ>キョンの実情を思い知ることになるとは。
「あの、団長殿にひとつお伺いしたいのですが……」
遠慮がちに柔和な顔をした男(確か古泉一樹だったか)が涼宮ハルヒに声をかけた。
それでようやく涼宮ハルヒは僕から離れ、古泉一樹に目を向けた。
101 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:13:06.63 ID:W/O5L9Xc0
「どうしたの古泉君?」
「涼宮さんはどのようにして警察内部の情報をお知りになったのでしょうか?」
そういえばそうだ。
僕の父がキラ事件捜査本部(本物の、だ。このSOS団のように遊びの本部じゃない)の長を務めているように、この女の親も警察関係者だったりするのだろうか。
だが、少なくとも父の同僚に涼宮という奴はいなかったはずだが。
「何だそんなこと? 簡単よ、警察のコンピューターにハッキングかましたのよ」
「ぶーーーー!!!!」
噴き出したのはキョンだ。かくいう僕も耳を疑ったが。
警察庁のコンピューターに直接ハッキングだと? 馬鹿な、そんなこと不可能だ。どれだけのセキュリティで守られてると思ってる。
僕がハッキングしているのだって捜査のデータを入れた父個人のパソコンだ。
もし本当に警察庁のコンピューターにハッキングしたというなら、こんな所で飄々としていられるものか。
「一体何をやっとるんだお前は!! 世の中にはやっていいことと悪いことが」
「有希がね」
キョンがまた噴き出した。
有希? そこで未だに本を読んでいる小柄な女のことか?
当の長門有希は自分の名が話題に上ったというのに本から顔を上げもしない。
涼宮ハルヒ、長門有希―――いったい何者なんだこいつらは。
103 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:16:25.67 ID:W/O5L9Xc0
――週末、土曜日。
まさか休日まで駆り出されるとはね。これでは精神の休まる暇もない。
本来なら当然御免被りたい所だが、そうすると涼宮ハルヒは家まで押しかけて来るかもしれない。
それだけは絶対に避けたいところだった。
「今日は何をやるんだ? ライト」
「一日使ってキラ事件の情報収集プラスこの世の不思議を探索するんだそうだ。まったく馬鹿らしい」
「ククク、キラ本人がキラのことを知らないかって大っぴらにやるわけか」
リュークのジョークに僕は眉をしかめる。
どうもリュークはこの事態を楽しんでいる節があった。
集合場所に指定された駅前の広場が見えてくる。
キョン曰く、集合時間の15分前には来た方がいい、とのことだった。
普通こういった待ち合わせは5分前に到着していればいいものだが、キョンはどういうつもりであんなことを言っていたのだろう。
左手に巻いた腕時計に目をやる。きっちり15分前だ。
「夜神君! こっちよ!」
よく晴れた空に響き渡るような涼宮ハルヒの声が聞こえた。
声が聞こえてきた方に目を向けて驚いた。
既にキョンを除く全員が集合している。
古泉一樹も、朝比奈みくるも、涼宮ハルヒも皆新鮮な私服姿だったが、長門有希だけはいつもと同じ制服姿だった。
どこまでも変わった女だ。
そんなことを考え、なんとなくそのまま長門有希を観察していると、長門有希の方もこちらをじっと見つめていた。
何を考えているかわからない無表情のままこちらを、いや、視線はもう少し上を向いていた。
視線を追う。思わず息を呑んだ。
長門有希の視線の先にはリュークがいた。
104 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:18:42.48 ID:W/O5L9Xc0
(どういうことだリューク。まさかあの女見えてるんじゃないだろうな?)
「さあなぁ。でも見えてたらもっと騒ぐんじゃないか?」
そんなことわかるものか。相手はあの長門有希だ。
出会ってからの一週間、全く何の表情も浮かべず、会話は最低限の単語で済ませる長門有希なんだぞ。
「といってもな、死神はデスノートに触った人間にしか見えない。これは絶対だ」
(じゃあどういうわけだ。あいつの視線の先にはリューク以外には電柱しかないぞ)
「無類の電柱好きだったりしてな。クク、冗談だよ。この女、人より勘が鋭いとか霊感が強いんじゃないか?
見えてはいないまでも、何か感じているのかもしれない」
(有り得るのか? そんなこと)
「さあ?」
全く、役に立たない死神だ。事と次第によっては早いうちに処理しなくてはならないというのに。
長門有希はしばらく視線を空に彷徨わせていたが、やがて視線を真っ直ぐに戻し、再び微動だにしなくなった。
どうやら見えているということは無いらしいな。
ほっと胸を撫で下ろす。
警察庁にハッキングを仕掛けてみたり、何かと心臓に悪い女だ。
106 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:21:37.54 ID:W/O5L9Xc0
キョンが来たのは約束の時間のきっちり5分前だった。
にもかかわらず涼宮ハルヒは眉を怒らせ、
「遅い! 罰金!!」
などと言い放った。
なるほど、15分前に来いと言っていたのはこういうわけだったのか。
キョンも別段反論する様子を見せない。つまり、いつものことなのだ。
ならば僕も何も言うまい。この女に何を言っても無駄だということは既に僕とキョンの間での共通認識になっている。
僕に出来るのは、涼宮ハルヒの先導でやってきた喫茶店で、少しでも安い注文をすることだけだ。
「昨日も言ったとおり、今日はキラ事件の捜査と不思議探索を平行して行うわよ!!」
そう言いながら涼宮ハルヒは爪楊枝に色をつけて即席のくじを作る。
キョンはもう反論するのも疲れたようで、黙ってコーヒーを啜るだけだ。
キョンは昨日、今日の予定を巡って涼宮ハルヒと散々言い争っていた。
結局、「捜査の基本は足よ、足!」という涼宮ハルヒを説得するには至らず、今日を迎えているわけだ。
しかしキョン。涼宮ハルヒに頑なに常識を教え込もうとするその姿勢には心底感心するよ。
いや、尊敬していると言ってもいい。
出会って三日で僕は無理だと諦めたからね。
「今日は二人ずつの三組に分けるわよ! 捜査は手広くやらなきゃね!!」
涼宮ハルヒは僕の方にずい、と爪楊枝を握った手を突き出した。
「新メンバーである夜神君に最初に引かせてあげるわ!」
ちっともありがたくない心遣いをありがとう。
くじの結果、僕と長門有希、キョンと古泉一樹、涼宮ハルヒと朝比奈みくるという結果になった。
110 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:24:49.21 ID:W/O5L9Xc0
制服姿の長門有希と町を歩く。
予想していたことだが、長門有希からは一切何も話しかけてこない。
このまま僕のほうから何も話しかけなければ何の会話もないまま終わるのだろうか。
それはそれで面白いかもしれないな。
試してみようかとも思ったが、さすがにこのまま沈黙のまま過ごすのも辟易する。
なので、話しかけてみることにした。
「この間の、警察庁にハッキングしたっていうのは本当かい?」
「本当」
「凄いな。ああいった所は何重にもプロテクトがかかってるはずなんだけどね」
「……」
「……本、好きなの?」
「わりと」
「そうなんだ。僕もけっこう読むんだよ」
「そう」
「……うん。そうなんだ、はは」
女を殴りたいと思ったのは二度目だな、はは。
113 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:28:16.75 ID:W/O5L9Xc0
落ち着け僕、こんなことは十分に予想できてたことじゃないか。
「女にはモテるんじゃなかったのか? ライト」
軽口を叩いてくるリュークを睨み付ける。
いいよ、リューク。見せてやる。こんな女、僕が本気を出せばすぐに落とせるんだ。
「それじゃあどうだい? 今から図書館に行かないか? 長門さんのお勧めの本とか読んでみたいな」
僕の提案に長門有希は初めてこちらに顔を向けた。
そして、ほんの少し、本当にほんの少しだけ首を傾げた。
微動だにせず僕を見つめる瞳からは何の感情も読み取ることが出来ない。
考え込んでいるのか? 相変わらず挙動のよくわからない女だ。
笑顔のまま僕は長門有希の返答を待つ。
「遠慮する」
あぁ、そう………
118 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:32:32.68 ID:W/O5L9Xc0
−Side キョン−
古泉と二人、商店街を歩く。
まったく、何が悲しくて休日に男と仲良く肩を並べて歩かねばならんのだ。
しかもやっていることは探偵の真似事ときたもんだ。
日本中探してもこれほど無益な休日の過ごし方をしている高校生は俺たちくらいのものだろう。
古泉は律儀に道行く女の子を捕まえて聞き込みを行っている。
「真面目な奴だな、お前は。そこまでハルヒの言うことに絶対服従しなくてもいいだろうに」
「いえ、いつもの不思議探しとは違い、ある程度の報告は必要になるかと思いまして」
しかしあれだぞ。お前がそのにやけ面で女の子に声をかけてたら傍から見ればナンパにしか見えんぞ。
実際、俺なんぞよりよっぽどかわいそうかも知れんな、こいつは。
こいつの器量ならハルヒに関わりさえしなければバラ色の青春を送る事だって出来ただろうに。
「ご冗談を。それに、勘違いなさっているかもしれませんが、僕はこの現状を好ましく思っているんです。本当ですよ?」
「本当かよ。閉鎖空間なんていう辛気臭い場所、俺は二度とごめんだけどな。大暴れする神人様のオプション付きだってんだから、なおさらな」
「ふふ、確かにあれのお相手は僕も出来るだけ勘弁して頂きたいところですがね。でも、考えてもみてください。
涼宮さんや、朝比奈さんや、長門さんのように美しく、魅力的な方々とほぼ毎日同じ時間を過ごしているのですよ?
客観的に見て、これほど他人から羨まれる状況はありません。特に、健全な男子高校生にとってはね。
そして僕もあなたも健全な男子高校生です。違いますか?」
確かにそういったことも言えるだろうさ。
しかしだ古泉。そういったメリットとこれまでの、そしてこれからのしち面倒くさい色々とが釣り合うかと言われれば、これは甚だ疑問だぜ。
119 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:36:36.89 ID:W/O5L9Xc0
「あなたも素直じゃないですね」
何を馬鹿な。俺ほど素直な人間はいないと自負しているぞ。
『あなたが落としたのは金の斧、銀の斧?』の問いに、「落としたのは鉄の斧ですが金の斧がほしーです」と即座に答えてみせる自信があるぜ。
何? 無益だなんだと言いながら、こんな会話そのものがまったくの無益じゃないかだと?
馬鹿者。世の中はそんな単純なもんじゃない。
無益が利益ってこともあるんだよ。往々にしてな。
「わかってるんじゃないですか。まったく、素直じゃない」
ふん、もういい。こんな下らんやり取りは止めて屋根のあるところで休もうぜ。
「ええ、その意見には僕も賛成です。ちょうど話しておきたいこともありますしね」
何だ? またハルヒ関連で何かあったのか?
げんなりした表情で俺が聞き返すと古泉は首を横に振った。
「厳密に言えば涼宮さん関連だと言えなくもないですが……話というのは夜神月、新たにSOS団に加わった彼のことです」
古泉の顔からは笑みが消えていた。どうやらマジな話らしいな。
場所を変えて話そうぜ。いつも通り、コーヒーでも啜りながらな。
120 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:38:25.10 ID:W/O5L9Xc0
古泉に連れられて初めて入る喫茶店にやってきた。
茶色を基調とした雰囲気のいい落ち着いた内装で、非常に俺好みといえた。
既に白髪が混じり始めた年代の店主と古泉が顔なじみだったところからすると、あの店主も機関の人間なのかもしれない。
一番奥のほうの席に座り、飲み物の注文を終えると、俺は古泉にさっきの続きを促した。
「で? 夜神のことで話ってのは?」
「あなたは彼をどう思いますか?」
「どう…と言われてもな。凄い奴だと思うが」
古泉の質問の意図を測りかね、曖昧な返事を返す。
「単刀直入に言いましょう。僕は彼をキラではないかと疑っています」
たっぷりと五秒間の沈黙。
何を馬鹿なことを。冗談も休み休み言え、古泉。
……とは言えなかった。古泉の顔が真剣そのものだったからだ。
「また突飛なことを言い出したもんだ。夜神をキラとする根拠は何だ?」
「簡単なことですよ。涼宮さんがキラを望んだからです」
123 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:41:03.33 ID:W/O5L9Xc0
おい、待て古泉。人を納得させたいならしっかりと順序付けて話してくれ。
「思い出してください。何故、僕や朝比奈みくるや長門有希がこのSOS団に集結したかを。そうです、涼宮さんがそう望んだからです。
彼の転入してきたタイミングを考えてみてください。涼宮さんがキラを知り、キラを捕まえようと宣言した途端、彼は転入してきました。
余りにも出来すぎていると、そう思いませんか?」
「だからといって即座に夜神がキラだなんていうのは単純すぎだ」
「おや、涼宮さんが言っていたキラの人物像にも当てはまりますよ。彼は容姿も優れていて、頭もよく、運動神経もいいそうじゃないですか」
馬鹿野郎。あいつの推理を根拠にするなんて、なんて暴挙だ。
そもそもあいつの推理からして何の根拠もないんだぞ。
「そうでしょうか? 僕はそれなりに説得力のある説だと思っていますよ。今のこの時代、そんな異能の力を手にしてそれを人のために
――いえ、世の中のために使おうなんて発想は中々出来ませんよ。それにですね、この事件、学生の被害者がいないんです。
キラは学生。この点は間違いないと思います。あなたも頷くことが出来るでしょう。
とするとですね、一人や二人くらい、学生の被害者が出てもおかしくないと思いませんか?
素行の悪い不良やいじめっ子、対象になる人間はいくらでもいるはずです。にもかかわらず、キラは最初から世直しにその力を使っている。
……おそらく、誰かを羨むだとか、劣等感とかいったものがないんですよ。だから、周囲の人間になど目が向かない。興味を持たない」
確かに、こうしてお前からの補足が入るとハルヒの推理も説得力を帯びてくる。
だがな、古泉。それでもいきなり夜神がキラだっていうのは突飛過ぎだ。
大体、あいつがキラなら自分に不利になるような推理をするはずがないじゃないか。
「キラに対してあそこまで見事に推察してみせたのも彼がキラなのだとしたら簡単なことです。何しろ事実を述べるだけでいい」
126 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:43:32.82 ID:W/O5L9Xc0
ふん、お前もハルヒに負けず劣らずの決め付けっぷりだな。
「そうでしょうか? ですが……」
「別にSOS団に集まる奴が皆が皆特殊な奴なわけじゃない。俺みたいな凡人だっている。
ハルヒが望んだから?
ハルヒが望んだのはキラに出会うことか? 違うだろ。ハルヒが望んだのはキラの逮捕だ。
だから夜神はここに来た。その卓越した推理力でキラを捕まえるために」
そうだ、仮に夜神がハルヒの力で現れたというお前の案を採択したってだ。
こういう解釈は出来るだろうが。
「成る程、確かにその解釈も出来なくはないでしょうね」
古泉はそう言うと何がおかしいのか笑みをこぼした。
「やはりといいますか……あなたは善人ですね」
何だそれは。褒めてるのか?
だとしたら失敗だぜ古泉。馬鹿にされてるようで少しカチンときたからな。
挑発してたってんならこの上ない成功だ。褒めてやるぜ。
「とんでもない。本心からの言葉ですよ。気分を害されたなら謝ります。そうですね、お詫びにここのお代は僕が持ちましょう」
それは侘びになっちゃいないぜ古泉。
普段、俺のおごりで散々飲み食いしてるんだ。お前は俺に一度くらいは奢ってしかるべしなんだからな。
「これは手厳しい」
「お待たせしました」
タイミングを見計らったかのように店主が温かそうな湯気を立てたコーヒーを持ってきた。
131 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:47:11.40 ID:W/O5L9Xc0
「ここのコーヒーは時間がかかる分絶品なんですよ。ブラックで飲むことをお勧めします」
ふぅん、確かにいい香りだ。ブラックは苦くて苦手なんだがな。
そこまで薦めるなら試してみよう。
「話を蒸し返して申し訳ありませんが……」
古泉の顔がコーヒーの湯気で曇る。
「僕はあくまで彼をキラだという想定の下で行動します。こういうときは常に最悪の事態を想定するのがセオリーですから。
万が一、ということもあってはならないのです。おわかりいただけるでしょう?」
コーヒーから立ち昇る湯気も相まって、その表情はとても曖昧で、感情が読みづらい。
ああ、確かにお前の言い分もわかるさ、古泉。
だがな、あいつはそんな奴じゃない。これは俺の直感に過ぎないが、俺にはあいつが人を殺して平気でいられるような人間だとは思えないんだ。
「……残念です。あなたに賛同してもらえるとこちらとしては非常に助かったのですが」
その言葉でもってこの話を締めとするつもりか、古泉がカップに口をつける。
さて、厄介なことになった。こんな話を聞かされて、それでも傍観者でいられるほど俺の神経は図太くない。
これで否応無く俺もこの騒動の関係者になってしまったわけだ。
くそ、まったくもって面倒な。俺もキラ事件を本気で追う馬鹿者の仲間入りか。
責任取れよ、古泉。
古泉に倣い、コーヒーに口をつける。
初めて飲むブラックは、確かにうまかったが、やっぱり少し苦かった。
134 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:49:22.35 ID:W/O5L9Xc0
ここで前回までの投下分(若干のリメイク版)は終わり
次から新作 前回読んでた人はお待たせした 申し訳ない
136 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:51:50.15 ID:W/O5L9Xc0
午前の探索を終え、喫茶店で再会した夜神は何だか少しやつれているように見えた。
何があったのか聞いてみたら、
「何もなかった……ふふ、本当に『何も』なかったんだよ……」
と、虚ろな瞳で返された。
う〜む、何があったのだろう? 長門が何か言ったのか?
昼食を終えて、午後の部の組分けをくじで決める。
くじの結果、午後は俺と長門、夜神と朝比奈さん、ハルヒと古泉という組み合わせになった。
見事に男女で組み合わさったな。こういうときは決まってハルヒは言い出すんだ。
「いい! 夜神君はわかってると思うけどキョン!! デートじゃないんだからね!! しっかり捜査してきなさいよ!!」
ほらな。言うと思ったぜ。
しかし、なんとまあ………
夜神と朝比奈さん、古泉とハルヒ。並び立つと本当にお似合いのカップルにしか見えんぜ。
何気なくそんなことを言ったらハルヒに背中を思いっきりはたかれた。
「痛ってぇな!! 何すんだ!」
「ふんっ! アンタは有希と全然釣り合ってないけどね! 勘違いするんじゃないわよこのバカキョン!!」
138 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:54:34.72 ID:W/O5L9Xc0
うるさいな、わざわざ言わなくてもわかってるよ。
俺は自分を客観視することに関しては若干の自信があるからな。
言われるまでもなく、この美男美女の集団の中で俺だけが浮いてることはわかってるさ。
「僕のバイトを増やすような発言は控えてもらいたいですね」
去り際に古泉から忠告のように言い渡された。
何を馬鹿な。むしろ俺はハルヒを褒めてるんだぞ。黙ってりゃ絵になるってな。
「やれやれ、困ったものです」
「古泉君! 早く行くわよ!!」
ため息をついて古泉は去っていった。
何だちくしょう。俺は素直に感想を言っただけじゃないか。
「それじゃ、キョン。僕らも行くよ。また後で」
「キョン君、行ってきます」
夜神と朝比奈さんも並んで歩き出した。
本当に、幼さが残る天使のような朝比奈さんと真面目で誠実そうな美青年である夜神は悔しくなるくらいお似合いだ。
夜神はさっきまでの表情とは打って変わって明るい笑顔を浮かべている。
そりゃそうだ。マイエンジェル朝比奈さんと並んで歩けてにやけない奴がいるか? いないね。断言できる。
くいっ、と袖に感触を感じ、振り返れば長門がちんまりと俺の袖を引っ張っていた。
140 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:56:27.54 ID:W/O5L9Xc0
「あぁ、悪い。俺たちも行くか」
長門はこくりと頷く。
「あなたに」
歩き出そうとした所で長門が口を開いた。
雑踏の中にまぎれて消えてしまいそうな小さな声に、足を止めて振り返る。
「あなたに話しておきたいことがある」
古泉に続いてお前もか、長門。
このタイミングで言うってことはだ。どうせキラ事件についてのことなんだろ?
「そう」
「確か近くに公園があったな。そこで話そうぜ」
内心の嫌な予感を押し殺し、長門を連れて公園に向かう。
やめてくれよ、長門。お前まで夜神がキラだとか言い出すのは。
お前に言われたら、俺はそれに対して反論なんて出来なくなっちまう。
信じたいんだ、あいつを。
144 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/23(月) 23:59:06.73 ID:W/O5L9Xc0
駅の裏手にある小さな公園で、長門と二人ベンチに腰掛ける。
土曜の昼だというのに利用者の姿は一人もない。
だからなのか、その公園はあまり手入れもされておらず雑草が生い茂っていた。
休日に女の子と二人でいるような所ではないが、キラ事件についてなんていかがわしい話をするには丁度いい。
「コーヒーでも飲むか?」
「いい」
俺の心遣いを長門はにべもなく却下した。
ちえ、少しばかり心の準備をする時間が欲しかったんだがな。ま、しょうがないか。
「じゃあ、早速話ってのを聞かせてもらおうか」
俺が腰を据えて話を聞く姿勢を整えると長門はこくりと頷いた。
「今回の、世俗的には『キラ事件』と呼ばれる一件に関して情報統合思念体、
ひいては私達ヒューマノイド・インターフェースは基本的には干渉しない」
長門の発言に俺は驚きを隠せなかった。
ハルヒが関わっているんだぞ? それをあの情報統合思念体が無視するってのか?
「今回の一件は涼宮ハルヒの情報改変能力とは無関係に発生した可能性が高い。情報統合思念体はこの事態を歓迎している。
『キラ』は涼宮ハルヒと同じく、この世界を変容させることが出来る新たな進化の可能性だと情報統合思念体は判断した。
『キラ』が創ろうとしている新たな世界に情報統合思念体は大きな興味を示している」
150 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:00:57.59 ID:ogyox4PJ0
ちょっと待て長門。
殺人鬼『キラ』が新たな進化の可能性?
それはあれか。その新たな世界とやらのためにキラがどれだけ人間を殺そうが知ったこっちゃないと、そういうことか。
「そう」
はっ、相変わらずだな。お前のご主人様は。
ちっぽけな人間のことなんか眼中にない。進化至上主義万歳ってな。クソッタレ。
「話はそれで終わりか?」
つい声が刺々しくなっちまった。まあ、神様気取りの情報ナントカ様に対するちっぽけな人間からの反抗ってことで勘弁してもらいたいね。
長門を見る。長門は無言のまま俺の言葉に頷いた。
頷いた後の頭の位置が、いつもより3センチほど俯いて見えたのは俺の気のせいなのか。
「すまん長門、お前を責めてるわけじゃないんだ。誤解しないでくれ」
考えるより先に謝っちまった。
恥ずかしい勘違いかもしれないが、落ち込んで見えたんだ。
もっとも長門が俺なんかの言葉でどうこうなるとは思えん。自意識過剰ここに極まれり、だ。
これで長門がきょとんとしたら、羞恥で三度は悶え死ぬ自信があるぜ。
157 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:03:03.52 ID:ogyox4PJ0
「気にする必要はない。あなたのその感情はむしろ当然のこと」
待て長門。その言い方だと何か違くないか? 気にする必要がないのは俺じゃなくてお前なんだぞ?
長門の視線は真っ直ぐ前を向いたまま、こちらを向こうとしない。
やれやれ、失敗したなこれは。こんな湿っぽい空気は勘弁願いたいぜ。いや、湿っぽくなってるのは俺だけか?
ええい、そんなことはどっちでもいいんだよ!
「気分転換にどうだ、長門。久しぶりに図書館に行かないか?」
長門がようやく顔をこちらに向けた。
静かな水面のような、感情を読みづらい瞳が真っ直ぐに俺を射抜く。
「行く」
そう言って立ち上がった長門は、もういつもの長門と変わりはなかった。
ほっとした。対長門万能薬。図書館様様だぜ。
159 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:05:03.51 ID:ogyox4PJ0
−Side 夜神月−
朝比奈みくると肩を並べて街を歩く。
「ひゃっ」
時折雑踏に押されて腕が触れ合うと、朝比奈みくるは飛び跳ねるようにして顔を赤らめた。
ふん、初心な女だ。態度も見た目も妙に幼いし、本当に上級生かと疑いたくなる。
それにしてもおどおどし過ぎだ。警戒してるのか?
「緊張してるんですか?」
人懐っこい笑みを浮かべて気遣いの言葉をかけてやる。
朝比奈みくるは困ったように笑った。
「すいません、私、こういう風に男の子と二人で歩いたりするの慣れてなくて」
「そうなんですか? 意外だな。もてるでしょう? 朝比奈さん」
「うふふ、キョン君にも同じこと言われました。全然そんなことないんですよ」
もてない、というのは嘘だろう。この女にはこの僕でさえある種の庇護欲を掻き立てられる。
言い寄る男は腐るほどいるはずだ。
とすると、頭が弱いわりに身持ちが固いのか。あるいは、男に対して何かトラウマでもあるのか。
試してみるか。
162 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:06:55.15 ID:ogyox4PJ0
「それは嘘でしょう? もしお相手がいないなら僕が立候補したいくらいだ」
「へぇ? ふぁ、あの、その……もう、からかわないで下さい。 誰にでも言ってるんですか、そんなこと?」
「とんでもない!」
大げさにおどけてみせると朝比奈みくるはくすくすと笑った。
僕の言葉に対して照れはあっても恐怖は微塵も感じられない。男そのものを恐れているわけではなさそうだ。
「僕はこういう冗談は本当に魅力的な女性にしか言いませんよ」
そう言ってウインクしてみせる。朝比奈みくるはさらにその頬を朱に染めた。
「何そのキャラ?」
リュークが呆れたように声をかけてくる。うるさいな、僕だって反吐が出る思いなんだ。
こういう恋愛経験が浅い女には、いかにも少女漫画に出てきそうな男のほうが受けるんだよ。
「少しお茶でもしませんか? もっと朝比奈さんのことを聞かせてください」
「で、でも、でもでも、ちゃんと捜査しないと涼宮さんに怒られちゃいますよぅ」
166 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:08:21.41 ID:ogyox4PJ0
「大丈夫ですよ、僕が何とかします。さあ――」
僕が差し出した手を、朝比奈みくるは沸騰して湯気が立つんじゃないかと思わせる面持ちで凝視した。
しばらくそのまま、じっと僕の手を見つめる朝比奈みくる。
真っ赤な顔のまま、泣き出すんじゃないかと思うほど、瞳を潤ませる。
「ご…ごめんなさい!」
頭の中がパンクしてしまったのか、朝比奈みくるは僕の横をすり抜け、そのまま駆け出してしまった。
「照れる姿も可愛いですよ! 朝比奈さん!!」
後姿に声をかける。聞こえただろうか? 聞こえたはずだ。走る速度がほんの少しだが上がっている。
さて、見失ってもいけないな。追いかけるか。
「何か、胸焼けするような恋愛ドラマを見せられてる気分だぜ」
当然だよリューク。そういう演出でやってるからな。
170 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:10:18.03 ID:ogyox4PJ0
朝比奈みくるにはこちらが驚くくらい簡単に追いついた。
ほんの少ししか走ってないのに、もう朝比奈みくるは息を切らして目を回している。
まったく、ここまで『守ってあげたくなる女の子』のテンプレート通りの女がいるとはな。
さっきのことを一言詫びて、休憩がてら喫茶店に入る。
店内は可愛らしい内装でまとめられており、多くのカップルで賑わっていた。
「それでね、涼宮さんったらひどいんですよ。私あんまり泳げないのに無理やり池に落っことして……」
「ははは、本当ですか? ひどいな涼宮さんは」
「ほかにも、ほかにも……」
すっかり朝比奈みくるの警戒心を解くことには成功した。
何気ない世間話から始まった雑談は、いまや朝比奈みくるの愚痴大会に発展している。
しかし話だけ聞いているとSOS団……いや、涼宮ハルヒは本当に珍妙奇天烈なことばかりやっている。
クラスメイトから説明を受けたときは話半分に聞いていたが……事実は小説より奇なり、とはよくいったものだ。
「よく活動を続けていられますね。話を聞く限りでは相当辛いことも多いみたいですけど……」
朝比奈みくるは僕の問いに照れたように笑った。
「うん…正直、辛いこともあるけど……楽しいの、すごく」
花のような――そう表現してやってもいいだろう。
その笑顔には嘘がない。本音を隠した建前というわけではない。
いや、それ以前にこの女に嘘をつくという芸当は無理だ。
ふん、つまり――この女も立派に変人というわけか。
173 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:12:57.30 ID:ogyox4PJ0
「それにしてもライト」
「ん?」
リュークが話しかけてきた。朝比奈みくるは御手洗いに立っている。
周りのカップル達は自分たちの世界にのめりこんでいるし、僕の独り言を聞き咎めるものはいないだろう。
「お前、あの女を自分に惚れさせようとしてるよな?」
「ああ、そうだよ」
「なんで?」
「さっきはリュークに無様な所を見せてしまったからね。名誉挽回ってやつさ」
「さっき……? ああ、あの長門って女の時か」
思い出すと頭を抱えたくなる。
結局、図書館に行くのを断られてからまともな会話は一回も無かった。
何度話題を振っても一回の相槌で終わり、そこから先が続かない。
その時、四苦八苦している僕の様子をゲラゲラ笑うリュークの態度が激しく癇に障ったのだ。
見ていろリューク。僕が本気を出したら女なんて簡単なものなんだ。
「ごめんね、お待たせ」
朝比奈みくるが席に戻ってくる。
「それじゃ、お手並み拝見といかせてもらうぜ」
リュークが挑発めいた言葉を口にした。
邪魔するな! 黙ってみてろ、死神め!!
174 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:14:47.05 ID:ogyox4PJ0
「夜神君は、北高に転校する前はどこにいたの?」
「関東の方なんです」
朝比奈みくる、いい話題を振ってくれた。
過去の思い出の共通点からシンパシーを煽る。親交を深めるための常道だ。
「朝比奈さんの生まれはどこなんです?」
「禁則事項です」
……ん? 何? 何だって?
「すいません、よく聞こえませんでした。朝比奈さんはどちらの生まれなんですか?」
「禁則事項です」
なるほど。キンソクジコウ。中国辺りにそんな都市があったかもしれないな。
――馬鹿か!! あるかそんな場所!! どういうつもりだこの女!!
待て、落ち着け。わけのわからない答えが返ってきたときは無難に話題の転換だ。
「兄弟はいるんですか?」
「禁則事項です」
「ご両親は何の仕事を?」
「禁則事項です」
「……禁則事項ってどういう意味ですか?」
「禁則事項です」
ファック!! 女を殴りたいと思ったのは三度目だこんちくしょう!!
笑うな死神! くそ! しばらくりんご禁止だお前は!!
179 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:16:51.78 ID:ogyox4PJ0
「ふぇ〜ん、夜神君顔がこわいですよぅ〜〜」
「すいません、ちょっと嫌なことを思い出してしまいまして」
必死に笑顔で取り繕う。
朝比奈みくるはあっさり「そうなんですかぁ〜」と信じた。
純粋なのかただの馬鹿か。いや、純粋な馬鹿に違いない。
なるほど、納得したよSOS団。
どいつもこいつも――一筋縄ではいかないな。
185 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:18:38.27 ID:ogyox4PJ0
太陽は既に西に傾き、オレンジの光の中で僕らの影が長く伸びる。
何だかどっと疲れた。まだ犯罪者への裁きが残っているというのに。
長く伸びた影の中で、一際大きく動く影がある。
「それじゃあ明日また同じ時間に集合ね! 解散!!」
右手を高々と掲げて解散宣言をする涼宮ハルヒ。
ちょっと待て、明日もだと? 冗談じゃないぞ。これ以上大事な時間を削られてたまるものか。
「来なかったら死刑だから!」
猛烈な脱力感が僕を襲った。いつものあの自信に満ち溢れた笑顔。
何を言っても無駄だ。早々に悟ったことじゃないか。
物事は建設的に考えろ。
今日僕がやるべきことは犯罪者を滞りなく裁き、早々に休むことだ。
小さくなっていく涼宮ハルヒの背中を見つめる。
おかしいな――僕は何故笑っているんだ?
187 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:20:25.07 ID:ogyox4PJ0
−Side キョン−
帰宅後すぐに風呂に入り、夕食を終え、ベッドに体を横たえる。
体は疲れているはずだったが、やたらと目は冴えていた。
頭の中で古泉と長門の言葉がぐるぐると回っている。
夜神月はキラなのか。
長門の宇宙的パワーを使えばすぐにわかることなのかもしれないが、今回長門の助力は期待できない。
熱心なハルヒ教信者であるところの古泉は決してそのスタンスを変えないだろう。
朝比奈さんの未来人パワーにも大きな期待は出来ない。
とするとあれか、大して賢くもないこの俺の頭で解決しなければならないということか。
夜神=キラ説を否定する最大の根拠と成り得るのは、当然夜神以外のキラの証明だ。
それは結局のところキラの正体を暴くと言っていることと同義だ。
それを、俺が? このなんの才も持たない、いわゆる登場人物Aに過ぎない俺がやるのか?
無理だ。あっさり断言できる。無理だ。
癪にさわるがハルヒを頼るしかないということか。いやいや、あいつの無茶苦茶な推理になんの希望が持てるのか。
溺れるものは藁をも掴むというが、ハルヒを掴んじゃおしまいだ。
「人間には70%の隠された力があるのよー」なんつって突き飛ばされるに決まってる。
とすると、やはり本命は『L』だ。『L』がさっさとキラを捕まえてこの一件ははい、終わり。これが最高の形なわけだ。
他力本願大いに結構。楽してズルしていただきかしらとは誰の言葉だったか。
……等と言いつつ何もせずにはいられないのは小市民故なのか。
ベッドから身を起こし、ニュースや新聞、携帯電話など使えるだけの情報ツールを用いてキラ事件の情報をチェックする。
今日も今日とてたくさんの犯罪者が昼夜問わず殺されていた。
見ろ、古泉。今日夜神は一日中俺達のうちの誰かと一緒にいたはずだ。
これだけでも疑いは晴れそうなもんじゃないか。
携帯電話が鳴った。噂をすれば、とはちょっと違うかもしれないが古泉だ。
189 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:22:00.34 ID:ogyox4PJ0
「よう、どうした」
「夜分遅くにすいません。どうしても頼みたいことがありまして」
「なんだ?」
「ええ、実は―――」
古泉の頼みは、なんとも意味不明なものだった。
一応内容を忘れないように古泉の言う言葉をメモに書き連ねていく。
「まあ、別に俺は構わんが……」
「助かります。では明日の朝、喫茶店で。よろしくお願いしますよ」
古泉との電話を終えて、手元のメモに目を落とした。
メモに記された内容を二度ほど読み返してみたが、何のためにこんなことをするのか見当もつかない。
こんなもん、ハルヒの不興を買ってお終いだと思うんだが。
191 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:23:41.78 ID:ogyox4PJ0
翌朝、俺が駅前に着いたのはやっぱり一番最後だった。
「遅い! 罰金!!」
わかってるよ。みなまで言うな。
「昨日に引き続きすまないな、キョン…っとこれはいつか君が僕に言った言葉だな」
「気にするな夜神。俺達のこのやり取りの原因はいつだってあの馬鹿だ…って何だその顔。大丈夫か?」
俺の隣に並んで歩き出した夜神を見て思わず声が出た。
夜神の目の下には見てわかるほどのクマがありありと刻まれていた。
「ああ…昨日ちょっと遅くまで起きてたからね。気にするほどのもんじゃない」
「馬鹿だな、きつかったらこんな集まり休めよ」
「来なかったら死刑だそうだからね」
そう言って夜神はくすくす笑う。
真に受けるなよそんなもん。そう言って俺も笑った。
喫茶店に入り、くじを引いてペアを決める。
いつも通りの流れだ。だが、今日はその前に少しやらなきゃならないことがある。
古泉と目が合った。古泉が頷く。
へーへー、わかったよ。
193 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:25:37.41 ID:ogyox4PJ0
「しかしあれだな……」
我ながら演技くさい出だしになってしまったな。
まあ、芝居なんて幼稚園の時の学芸会くらいしか経験がないんだ。勘弁してくれ。
「こうやって俺達はキラを追ってるわけだけど、キラに殺されたりはしないだろうな?」
突然物騒なことを言い出す俺に、朝比奈さんが「ひえぇ」とおびえた声を出す。
すいません朝比奈さん。俺の本意じゃないんです。
「それは大丈夫でしょう。僕達がキラを追っているということを知ってるのは極一部の人間だけです」
「そんなことないだろ。俺達はこうやって休日に集まって大っぴらに捜査をやってるんだぜ?」
台本通りにフォローを入れてきた古泉に、これまた台本通り噛み付く俺。
「この世界には新聞やゴシップ誌の記者、また僕らのような趣味の活動など、ミクロな視点で見ればキラを追っているものは数え切れないほどいます。
キラ本人からすればそんなのいちいち相手にしてはいられませんよ。例外はひとつ。僕らがキラの正体に近づきすぎてしまった場合です。
しかし、僕らの捜査の進行状況をキラが知る術があるでしょうか? 先ほども申し上げた通り、僕らの活動、その内情まで知るのはごく一部の人間のみ。
もし仮に、万が一僕らの捜査を知り得る立場にキラがいたとしても、僕らを殺してしまうような愚は犯さないと思うんです。
僕らを殺してしまえば、キラの容疑者は極わずかな範囲に限られてしまうわけですから」
「ふん、なるほどな。それならまあ安心か。頭いいな古泉」
「いえ、警察関係者に知人がいるもので。その受け売りですよ」
これにて古泉の不可解な頼み、朝っぱらからの猿芝居は終了だ。
「まったく、何を怖気づいてるのよキョン!! 情けないったらないわね!!」
ほら思ったとおりだ。団長様は腰抜けの団員にいたくご立腹の様子じゃないか。
だから嫌だったんだよ、俺は。後でコーヒー奢れよ、古泉。
おあつらえ向きに午前の探索はまた俺とお前なんだからな。
195 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:27:25.98 ID:ogyox4PJ0
「さあ、説明してもらおうか」
昨日と同じ喫茶店、昨日と同じ席で、昨日と同じコーヒーを注文してから俺は古泉に話を促した。
「平たく言えば僕はあの場で彼を牽制したんですよ」
ええい、平たく言うな。俺の頭では理解が追いつかん。
しっかりと山あり谷ありで頼む。
「あの場では僕は極一部、という言い方をしましたが、事実僕らの捜査状況を知っているのはSOS団のメンバーのみです。
つまり、これから僕らのうちの誰かに何かがあれば、それは彼がキラだと自白したに等しい。
最も恐れるべき事態として僕らの皆殺しという状況が考えられますが、それも僕がSOS団を知る外部の人間を匂わせたことで防ぐことが出来ます」
あの、「警察関係者からの受け売り」といった下りか。
「彼はあなたも知る通り実に聡明です。たったあれだけのやり取りでしたが十分に意味は通じたでしょう。
また、彼は聡明であるが故に、僕らを殺しにかかるような愚は犯さない。僕らが彼がキラだという確たる証拠を突きつけるまでは」
なるほど。お前が何故あんな小芝居を俺に打たせたのか合点はいった。
しかしそれは意味の無い行為だと俺は言っておくぞ。
197 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:28:52.26 ID:ogyox4PJ0
「もちろん、彼がキラではないのであればそれが最善です。僕らのやり取りが無意味であればこんなに嬉しいことはないでしょう。
しかし予防策は常に張っておかなければ。どんなに見晴らしのいい道路でも、シートベルトは着用するものです」
もちろん、その辺はお前の言うとおりで、お前が正しいと俺も思う。
だが古泉。それでもひとつ、俺には納得のいかないことがあるんだ。
お前が何だかかっこいい役割で、俺が腰抜け役だったのはどういうわけだ。
逆でもよかったじゃないか。こういう時は普通お願いされる側に花を持たせるもんだぜ。
「逆の立場にすると、どうしても涼宮さんは違和感を覚えるかと思いまして」
何だそりゃ。おい、どういう意味だ古泉。
「いやあ、別に深い意味はありません。さあ、コーヒーが来ましたよ」
「おい誤魔化すな! お前俺をさりげなく馬鹿にしただろう!!」
「冷めないうちに飲みましょう。ここのコーヒーは時間がかかる代わりに……」
「その下りは昨日も聞いたんだよ!」
「おや、そうでしたか?」
ええいマスター、ケーキセットを追加だ。ちょっとでもこいつの財布を軽くしてやらなけりゃ気が済まん。
「これは手厳しい」
言ってろちくしょうめ。
夜神、お前は今何をしてる?
随分調子が悪そうだったが、無理やりあの馬鹿に引っ張り回されてやしないか?
無事を祈ってるぞ。
198 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:30:52.42 ID:ogyox4PJ0
−Side 夜神月−
頭の中で、さっきのキョンと古泉一樹のやり取りを反芻する。
あれが芝居だということはすぐに分かった。キョンの様子から見て、言い出したのは古泉一樹だろう。
何のためにあんな真似をする必要があったのか。
SOS団によるキラ捜査を止めたかったのか? 違う。それだと芝居の結論がおかしい。
では逆に鼓舞するため? それも違う。それならばわざわざあんな可能性を示唆する必要は無い。
まさか、SOS団の中にキラがいると(というよりは、恐らく僕を)疑っているのか?
他にSOS団を殺すことの無益さをわざわざあの場でアピールする理由が無い。
何故? 僕がキラだと疑う要素がどこにあった?
動悸が激しい。全身から汗が噴き出す。息も荒い。
くそ、頭が回らない。
「情けないわよ夜神君! もうへばったの!?」
うらぶれた商店街の裏通り。僕の10mほど先で、涼宮ハルヒが大きく手を振っている。
もうさっきからずっとこうやって涼宮ハルヒは僕を引きつれ、街の中を縦横無尽に駆け巡っていた。
ひとつ大きく息を吸い、呼吸を整えてから涼宮ハルヒに追いつく。
僕が追いつくと涼宮ハルヒは満足そうに頷いた。
「うん、夜神君と一緒だと思いっきり探索できるわ! 他の団員だとこうはいかないもの!!」
散々僕を引っ張りまわした涼宮ハルヒは実に涼しい顔をしている。
この僕ですら息を切らしているというのに、何て女だ。
「ねえ夜神君、あれ!」
涼宮ハルヒが嬉々として指差すほうを見ると、随分年季の入ったビルがあった。
窓にカーテンもかかっていないし、一面に蔦が這っている壁もある。
所有者がいなくなって久しい廃ビルだということが容易に伺い知れた。
200 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:32:41.97 ID:ogyox4PJ0
「何だか怪しいと思わない?」
怪しいというのはどういう意味だ。あのどこにでもあるようなビルがキラ事件に関係しているとでもいうのか。
だったら断言してやる。無い。これは別に僕がキラだから言うんじゃない。
普通に、単純に、論理的に考えて、あんな所がキラに関係しているわけがないだろう!
僕の意見をやんわりと伝えてやると、涼宮ハルヒはちっちっち、と指を振った。
「甘いわね夜神君。もっと発想のスケールを広げなさい。常識に囚われてちゃ見えるものも見えなくなるわ」
く、もっともらしいことを言いやがって!
じゃああんな所に行って一体何が見つかると言うんだ!
「それは行ってみればわかることよ!! いっくわよーーー!!!」
「ちょ、ちょっと待て!! おい!!」
「うりゃあ〜〜〜!!!!」
僕の制止の声など届く間も無く、あっという間に涼宮ハルヒの背中が小さくなっていく。
朝比奈みくるの速度など比較にもならない。ロケットエンジンが搭載してると言われても納得してしまいそうだ。
「なぁにしてんの夜神くん! 置いてくわよ〜〜〜!!」
こちらを振り返り、涼宮ハルヒが怒声を飛ばす。
くそ、見ていろ。絶対に追いついてみせるからな。
大きく息を吸い、地面を思いっきり蹴りこむ。
何故自分がこんなにムキになっているかはわからない。
ただあの女にだけは絶対に負けたくなかった。
204 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:34:41.95 ID:ogyox4PJ0
「ふぅ、少し休憩しましょうか」
涼宮ハルヒがようやく腰を落ち着けたのは、あれからさらに二つの廃ビルと一軒の廃墟を探索し終えてからだった。
たまたま目に入った公園のベンチに腰掛ける。
そこは多くの子供たちで賑わっていて、遊具も芝もよく整備されていた。
近くにあった自動販売機で何も言わずにスポーツ飲料を二つ購入し、涼宮ハルヒに手渡してやる。
「ん、ありがと」
僕が差し出した飲み物を、涼宮ハルヒは素直に受け取った。
「こういうところマメよね。もてるでしょ?」
ああ、もてていたさ。今は少しその自信が揺らいできているがな。
「そんなことないよ」
「謙遜しちゃって。まったく、あいつにも見習ってもらいたいもんだわ」
涼宮ハルヒがドリンクに口を付ける。僕もそれに倣い、ペットボトルを傾けた。
火照った体に冷たいドリンクが染み込んでいく。一気に半分まで飲み干して、ようやくひと心地ついた。
ふと涼宮ハルヒを見ると既にペットボトルは空になっていた。まったく、どこまでも規格外な女だ。
そのまま何となく、お互いが無言になる。
肌に心地良い風が吹いた。
サワサワと葉と葉が触れ合う音がする。無邪気な子供たちの声が響く。
涼宮ハルヒの前髪が風に揺れた。
「涼宮さんは――」
「ん? 夜神君も座ったら?」
207 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [でねえ] 投稿日:2009/03/24(火) 00:36:42.11 ID:ogyox4PJ0
そういえば飲み物を買いに行ってから何となく立ちっぱなしだった。
そうだね、と呟き、涼宮ハルヒの隣に腰掛ける。
「それで、何?」
何だったか。何を聞こうとしていたか忘れてしまったな。
沈黙するのもおかしいので、当たり障りの無いことを聞いておくことにしよう。
「どうしてキラを追うんだい?」
「決まってるじゃない。面白いからよ!」
僕の問いに、涼宮ハルヒは明快に即答して見せた。
「お、面白いから? 他に理由はないのかい?」
「無いわ! それだけよ!!」
まただ。太陽のような笑顔。だが―――
その時、僕の中で急速に何かが冷めていくのを感じた。
何のことは無かった。結局コイツはキラを追うことの危険性も判断できない阿呆。そこらの馬鹿と何の変わりもないのだ。
こんな奴に僕は振り回されていたのかと思うと情けない。
深くベンチに背を預け、涼宮ハルヒから視線を外す。ため息がこぼれた。
「私はね、ずっと退屈だったの」
耳に届く涼宮ハルヒの呟き。その響きはさっきまでと違い、どこか弱々しく感じた。
212 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:38:39.37 ID:ogyox4PJ0
「中学のころは目に映る全てが下らなく見えた。何にも面白くない。こんな世の中腐ってるって、そう思ってた。
それでこの北高に入ってからSOS団を作ったの。SOS団を作ってからの活動は楽しかったわ。それは本当。
でも、やっぱり心のどこかで願ってた。宇宙人や未来人、異世界人とか超能力者、
何でもいいからこの世の中をひっくり返すような何かが起こらないかって。
……ようやく出会えたの。確かにさっきキョンが言ってたみたいにキラに殺されることもあるかもしれない。
それは最初からわかってた。でも、だからって止められない。そんなんで怖気づいちゃいらんない。逃がすわけにはいかないのよ! 絶対に!!」
そう締めくくった涼宮ハルヒはもういつもの涼宮ハルヒだった。
だんっ、と勢いよくベンチの上に立ち上がる。
大きく、強い瞳で涼宮ハルヒは僕を見下ろしている。
「だから夜神君! あなたの力が必要なのよ!! なーに、恐れることは無いわ!
世界を(S) 大いに盛り上げるための(O) 涼宮ハルヒの(S)団がキラなんかに負けることなんて、
天地がひっくり返ったって有り得ないんだから!!」
堂々たる勝利宣言とともに、涼宮ハルヒはその小さな手を僕に差し出してきた。
215 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:40:25.95 ID:ogyox4PJ0
しかし僕の頭は若干混乱していて、きょとんとその手を見つめてしまう。
ちょっと待て。SOS団って、まさか、おい、そういうことなのか?
業を煮やした涼宮ハルヒは僕の手を無理やり取ると、勝手に固い握手を交わしてしまった。
「じゃあ、決意も新たにSOS団! 出発進行!!」
軽やかにベンチから飛び降りて、涼宮ハルヒは歩みだす。
慌てて後を追おうとした僕に、リュークが声をかけてきた。
「なあライト。ちょっと思ったんだけどな」
うるさい、黙ってろ。
どうせお前はくだらないことを言うに決まってる。
「あの女とお前、似てるんじゃないか?」
ほらやっぱりだ。まったくもってくだらない。
いいかリューク。忘れるな。僕はあの女を殺そうと思えばいつだって殺せるんだ。
つまりあの女は僕の慈悲で生かされている、僕の手のひらで踊る猿に過ぎないんだよ。
似てるだと―――?
そんなこと、あってたまるか。
216 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:42:04.69 ID:ogyox4PJ0
午前の探索を終え、再びくじで午後の組分けを行う。
青い印のついた爪楊枝を眺め、僕は心底安堵していた。
午後のパートナーは、キョンだ。ようやく心穏やかな時を過ごせそうだよ。
「午前はどうだった? ハルヒは無茶苦茶しなかったか?」
昼下がりの街並みをキョンと並んで歩く。
僕は涼宮ハルヒの奇行をかいつまんで説明してやった。
「まったく、あの馬鹿は……それでお前は集合したときあんなに汗だくだったんだな」
言われて自分のシャツに目を落とす。
みっともないことに汗で色が暗くなっている部分が、まるでネズミのアイドルみたいな形になっていた。
「そんな汗で濡れてちゃ体冷えるだろ。風邪引くなよ? ハルヒの馬鹿と違って、お前は普通の真人間なんだからな」
「ふふふ、確かに涼宮さんは風邪をひきそうにないな。しかしキョン、そんなことを言っていいのかい?
またどこから何が飛んでくるかわからないぞ?」
「物騒なことを言うな。いくらあいつでもそこまで神出鬼没じゃなかろうさ」
言いながらもキョンは周りをきょろきょろと伺っている。
その様子は中々滑稽だった。
薄々感付いてはいたことだが、あのSOS団の中にあって異質なことに、キョンは本当にごく平凡な男だった。
何故こんな男がSOS団に所属しているのか不思議でならない。
その辺りを伺ってみたら、答えは単純明快、お前と同じだと言われた。
218 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:43:35.35 ID:ogyox4PJ0
成る程、過程に違いこそあれど「涼宮ハルヒに無理やり」という点では確かに共通している。
キョンに対し、妙にシンパシーを感じてしまう原因もその辺りにあるのかもしれない。
……いや、それだけではない。わかっている。
キョンには、一つだけ非凡な所がある。
この男は、誰に対しても「自分」で在り続ける。これは、簡単に聞こえてその実とても稀有な性質だ。
人は、誰しも仮面を被る。
友人に対する自分、恋人に対する自分、家族に対する自分、嫌いな奴に対する自分、相対する人物に応じて自分を変える、擬態する。それが人間だ。
だが、キョンにはそれがない。キョンは誰に対しても『素』の自分で接している。少なくとも僕にはそう感じられる。
もちろん、まったく裏表が無いとは言わない。
でも―――
涼宮ハルヒにあんなにずけずけと物を言うのはキョンだけだ。
羨望、尊敬、嫉妬、憎悪―――そういったものを一切抱かずに僕に接してきたのはキョンだけだ。
くく、成る程。
非凡な平凡。
面白い男だ、お前は。
221 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:45:05.42 ID:ogyox4PJ0
「なに人の顔見てにやにやしてやがる」
「涼宮さんに怯える君がおかしかったのさ」
僕がそう言ってやると、キョンは羞恥で顔を少し赤くした。
「ちぇ、いい性格とは言えないぜお前」
「悪かった。怒るなよキョン」
「別に怒っちゃいないさ。それで、どうする?」
「どうする、とは?」
「まさか真面目にキラ事件の聞き込みなんてするつもりはないだろ? これからどうやって時間潰しするか考えようぜ」
そう言われても、僕には何も浮かばない。何しろ本音を言えば今すぐにこんなもの打ち切って家に帰りたいのだ。
それに、こういう風に純粋に暇潰しすることなんて初めての経験なんだからな。
224 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:47:16.07 ID:ogyox4PJ0
結局、その後は適当に街をブラブラして終わった。
ゲームセンターで対戦格闘ゲームをしてみたり、誕生日が近いというキョンの妹のプレゼントを見繕ったり、本屋に寄ってだらだらと店内を物色したり、だ。
実に無駄な時間を過ごしたと断言できるのに、それほど嫌な気分じゃない。
最近はずっと犯罪者裁きにしか時間を使っていなかったからな。いい息抜きになったと考えよう。
キョンがちらりと腕時計に目をやった。
「さて、そろそろ集合時間だな」
「そうだね。遅れたらまた涼宮さんから大目玉だ。行こうか」
今向かっている方角はSOS団御用達となっている喫茶店とは逆方向だ。
一度足を止め、元来た道を戻る。
「今日もキラ事件に関してさしたる収穫も無し、か」
「へぇ、収穫しようなんてしてたっけ?」
「何も無い畑で鎌を振ることほど切ないことは無いだろ?」
「違いない。でも涼宮さんには何かが見えてるんだろう。馬鹿には見えない果実なのかもしれないな」
キョンが目を丸くして僕を見る。そして声を上げて笑い出した。
「ははは、結構言うなぁ夜神!!」
「今言ったこと、涼宮さんには絶対言わないでくれよ?」
僕も笑う。何故だか痛快な気分だった。
「どりゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
聞き覚えのある声。同時に人と人が激しくぶつかる音がした。
226 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:49:01.58 ID:ogyox4PJ0
一瞬で僕もキョンも言葉を失う。
今の怒声。聞き間違えるはずが無い。
涼宮ハルヒだ。
声が聞こえてきたのは前方、距離はそんなに離れていない。
「あの馬鹿、何してんだ!?」
キョンが駆け出した。遅れずに僕もついていく。
少し行ったところで人垣が出来ているのが見えた。
「すいません、ちょっと通して!」
キョンと共に人混みを掻き分けて進む。
人垣の中央で、涼宮ハルヒが妙な男の上に圧し掛かっていた。
「何をやってるんだお前は!!」
「キョン! ぼ〜っとしてないで手伝いなさい! この男はね、あんたたちをつけまわしてたのよ!!」
「ご、誤解だ! 私はそんなことはしていない!」
涼宮ハルヒの言葉を、男は声を張り上げて否定した。(男は30前後、その顔は日本人には見えなかった)
229 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:50:47.14 ID:ogyox4PJ0
「ふふ〜ん、そうかしら? 悪いけど、私はずっと見てたのよ。あんたがあの二人をずっと尾行しているのをね!」
「そ、そんな! 偶然だ!!」
「なら何故あなたは二人が引き返してきた時に慌てて隠れようとしたのかしら!?」
「そ、それは……」
男が言葉に詰まる。
「くっ!!」
男が力任せに涼宮ハルヒを突き飛ばす。
いや、突き飛ばそうとした。
しかし涼宮ハルヒは男の手を巧みに捌くと男をうつ伏せに寝かせ、逆に組み伏せてしまった。
「あ」
涼宮ハルヒに圧し掛かられ、必死にもがいている男を見てリュークが声を上げた。
「ライト、ちょうど今日言おうとしてたんだけどよ」
なんだ? 前置きはいい、さっさと話せ。
視線でリュークに話の先を促す。
「あの男、ここしばらくお前をつけまわしてた奴だぜ」
リュークの言葉に目を見開く。
その言葉が真実なら、つまり。
こいつは十中八九、『L』の手の者だ。
何てことだ。これはチャンスなのか。それとも。
233 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:52:35.55 ID:ogyox4PJ0
「SOS団の団員を尾行するなんて、さてはあんたキラの手先ね!」
「違う! 断じて違う!!」
僕が思考する間にも涼宮ハルヒの尋問は続いている。
「ふん、とぼけたって無駄よ! 有希!!」
涼宮ハルヒが名を呼ぶと、どこに待機していたのか長門有希が飛び出してきた。
長門有希は(まさしく)目にも止まらない速さで男の体を物色する。
そして長門有希は男の着ているコートの内ポケットから一冊の手帳を抜き出した。
何だこの手際の良さは。本当に何者なんだお前は。
長門有希は取り出した手帳を涼宮ハルヒに手渡した。
涼宮ハルヒの代わりに今度は長門有希が男を押さえつけ、涼宮ハルヒは手帳を開く。
瞬時に涼宮ハルヒの顔が驚愕に染まった。
「FBIィッ!?」
な…んだと……!?
あの手帳、身分証明証か!!
すぐに涼宮ハルヒの後ろに回り、手帳の中身を覗き見る。
―名前『Rice Naylor(ライス・ネイラー)』―
思わず込み上げる笑いを噛み殺すのに精一杯だった。
『L』にキラが警察関係者だと言うことを教えてから、遅かれ早かれ僕にこういった尾行がつくのはわかっていた。
その時尾行者の名前を知るのが最大の難関だと思っていたが……
涼宮ハルヒ……まさかこんな所で役に立ってくれるとは思わなかったよ。
234 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:54:28.88 ID:ogyox4PJ0
その後、僕とキョンによる説得で涼宮ハルヒはライス・ネイラーを解放した。
さすがに涼宮ハルヒもFBIがキラの手下になるはずはないと理解は出来るらしい。
涼宮ハルヒはずっとライス・ネイラーに何故僕らを尾行したのか食い下がっていたが、FBIが自分の任務を一般人に漏らすわけも無い。
結局、涼宮ハルヒは納得がいかないまま引き下がらざるを得なかった。
「くくく……! まさか今日がこんなにも充実した一日になるとはな」
夜、自分の部屋に戻った僕はずっと堪えていた笑いを漏らしていた。
「で、どうすんだ? 今から殺すのか?」
リュークがりんごを齧りながら聞いてくる。
「いや、まだだ。あのライス・ネイラーにはもう少し僕を監視し、『疑う余地無し』と『L』に報告してもらう必要がある。
それに、もっと多くの警察関係者を調べてもらってからの方がいい。
そうだな……二週間後、それくらいでいい。その時にライス・ネイラーには他のFBI捜査官も始末してもらおう。既に計画は出来ている」
「でもライト、今日お前がFBIの名前を見たことは結構な奴に知られてるだろう? 殺したりしたらお前に疑いがいくんじゃないか?」
「それは無いよリューク。ライス・ネイラーは今日のことを絶対に誰にも言わない。当然だ。
現役のFBI捜査官が女子高生に取り押さえられる? そんなこと、口が裂けても言えるものか。
周りの野次馬は問題にならない。明日には今日のことなど忘れている連中だ。FBIの死とあの騒動とを結び付けられるはずがない。
つまり、僕がライス・ネイラーの名前を知ったことを知っているのはSOS団のメンバーだけだ。あの連中に何が出来る? 警戒するにも値しない」
235 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:55:57.88 ID:ogyox4PJ0
次から次に笑いが込み上げてくる。全てが僕に都合の良いように動いている。
つい運命と言う物を信じてしまいそうになる。自分が神に祝福されているのでないかと錯覚してしまう。
こんなに愉快な夜が今まであっただろうか。
そうやってはしゃぎ過ぎてしまったのが良くなかったのか。
翌日、僕は風邪を引いてしまった。
241 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:57:45.52 ID:ogyox4PJ0
「くそ、この僕としたことが……ごほっ!」
布団をしっかりと被っているというのに寒い。がたがたと体が震えている。
鼻水は止まらないし喉も痛い。最悪のコンディションだ。
こんなろくに頭も働かない状況では裁きを行うことも出来ない。
「きつそうだな、ライト」
「あぁ、きついね……リューク、死神界に伝わる秘伝の風邪薬とかないのか」
「ないよ。死神は風邪ひかないもん」
「だろうな……げほっ!」
「お前がそんな事言うなんて本当に参ってるんだなあ」
病気の時というのは、健康な人間を見ているだけで腹が立ってくる。
まあ、目の前にいるのは死神で人間ではないんだが、くそ、飄々としやがって。
……何をくだらないことを考えている。やはり熱に浮かされた頭ではろくなことを考えないな。
余計なことは考えるな。今はとにかく休んで体調を元に戻すことが先決だ。
よってリューク。今日は一切僕に話しかけるな。出来れば声も出すんじゃない。
「ええ…? 退屈だなぁ……」
リュークの不満の声は黙殺する。頭の中を空っぽにして目を閉じた。
とりあえず眠ってさえしまえば何とかなる。起きたときには裁きを行えるほどには回復しているはずだ。
意識がまどろんでいく。
最近の睡眠不足も手伝って、よく眠れそう――だ―――
244 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 00:59:32.52 ID:ogyox4PJ0
「月ー!」
母の声で目を覚ました。ぼぅとした頭で枕もとの時計を確認する。
時間は午後の四時を回っていた。随分長い間眠っていたらしい。
「ごほっ」
体調はそこまで回復していなかった。当然か。朝にりんごを摩り下ろして食べてから、今まで何も口にせず眠っていたんだ。
きちんと栄養を摂らなければ、治るものも治らない。
しかし、寝る前と違って立てないほどではなさそうだ。
「月ー!」
再び母の声。そういえば呼ばれていたんだった。
「何ー?」
ベッドから身を起こし、廊下に顔を出す。
「お友達がお見舞いに来てるわよー!」
「…え?」
嫌な予感が猛烈に体を駆け抜ける。一瞬で頭の中が真っ白になった。
「おっ邪魔しまーーす!!」
放心していた僕を現実に引き戻したのは紛れもなく『あの女』の声だった。
幾分収まっていたはずの頭痛が舞い戻る。
「あ…悪夢だ……」
249 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 01:01:26.82 ID:ogyox4PJ0
気配と話し声から察するに、SOS団総出でやってきているらしい。
くそ、何故こんなことに?
昨晩のはしゃいでいた自分にビンタをくれてやりたい気分だった。
「か、母さん、せっかく来てもらって悪いんだけど、帰ってもらってよ。うつしたりしたら悪いからさ」
母を二階に呼び、説得する。
何としても僕の部屋にあいつらを入れるわけにはいかない。
こう言えば母も納得してくれるだろう。
念押しとしてこれ見よがしに咳をしてみせる。
「ううん、そうねえ…咳も酷いみたいだし……」
母が納得しかけたところで電話が鳴った。
くそ、間の悪い。粧裕はいないのか。母が一階に降りていく。
「もしもし、あらあなた? 着替えを持ってきて欲しい? でも……」
「お母様! 夜神君のことは私たちがきちんと看ますから、どうぞ行ってきてください!」
何? ちょっと待て、おい、何を言っている。
「申し訳ないけどお願いしちゃおうかしら。すぐに戻るから、ちょっとの間お願いね」
「はい! いってらっしゃい!!」
ふざけるな! 何でそうなる!
何てタイミングで着替えを頼むんだ父さんこのやろう!!
253 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 01:03:23.61 ID:ogyox4PJ0
母はいそいそと準備をして出て行った。階段を上る大勢の足音が響いてくる。
「夜神君、だいじょーぶ!?」
「こら、大声を出すな。寝てるかもしれんだろ」
「長門さん、言われた通りの材料を揃えましたが、足りてますか?」
「問題ない。感謝する」
「いえいえ、お役に立てて何よりです」
「それ何なんですかぁ〜?」
狭い階段を押し合いへし合いしながら奴らがやってきた。
先頭にいた涼宮ハルヒは間抜けにも廊下に顔を出しっ放しにしていた僕を見ると、にやりと笑みを浮かべてみせた。
「本当に顔色悪いわよ夜神君! でも安心してちょうだい! 私たちSOS団がこれでもかってくらい看病してあげるから!!」
顔色が悪いのはお前らのせいだ。これでもかって何だ。何をする気だ。
初めてリュークが僕の部屋を訪れた時よりも不安だ。一体これから何が起こるというんだ。
そして地獄が始まった。
257 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 01:06:48.05 ID:ogyox4PJ0
1.本棚編
「随分色んな本があるわね〜」
「法律関係に数学史…うわ、建築関係の資料まであるんだな」
「これらの蔵書にはもう目を通されたのですか?」
「まあ、一通りは……」
「ふわぁ、すごいですぅ〜〜」
「んで、長門は何を黙々と読んでるんだ? …六法全書じゃないか。おもしろいか?」
「ユニーク」
「ねえねえ、これなんて凄い厚さよ」
「ッ! ちょっ、それは!!」
「うわっ! 何よこれ、『世界の建築家』なんてカバーはカモフラージュで、中はえっちい雑誌が一杯じゃない!!」
「おやおや」
「はややややや」
「ユニーク」
「何よ夜神君! 私達のバニーにはしれっとしときながら、しっかりとこんな物を読んでるなんて!!」
「違ッ! それは…!!」
「しかもおっぱいの大きい女の子の写真ばっかり!! こんなもの見るくらいならみくるちゃんを見なさいみくるちゃんを!!」
「こらこら、何を熟読しとるんだお前は!!」
「絶対みくるちゃんの方が大きいわよ! ねぇ!?」
「ねぇって言われても困りますぅ〜〜!!」
「その写真の女性より朝比奈みくるの方が胸囲は3cmほど大きく、ウエストは2cmほど細いと推定される」
「な、長門さん!!」
「ええ!? ってことはみくるちゃんのバストとウエストって……」
「きゃーきゃー!! だめだめ、だめぇ!! 涼宮さん言わないでぇ!!」
「……これは僕たちは席を外したほうがよろしいのでしょうか?」
「さあな……大丈夫か? 夜神」
「………生き恥だ」
263 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 01:09:54.54 ID:ogyox4PJ0
2.机編
「おっきな机ねぇ」
「へぇ、俺の机と一緒なんだな」
「使ってる机は一緒なのに、どうしてこんなに成績に差が出るのかしらねぇ」
「なんだその憐れみの目は」
(机の中にはデスノートが……! 心臓に悪いぞこれは……!)
「随分調子が悪そうですが、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……」
「凄い汗ですぅ」
「ユニーク」
「ん? 引き出しが開かないわね」
(……!!)
「鍵はこれね。よっと」
(ちょッ!!!!)
「何故お前はそうやって人のプライバシーをごくナチュラルに覗くんだ!!」
「なんだ、日記帳が入ってるだけだわ、つまんない」
「夜神、こいつ殴っていいぞ」
「……そうしたいのは山々だが体が動かない。代わりにキョン、頼む」
「何よ、この程度で怒るなんて、器がちっちゃいわよ二人とも…いたっ! た、叩いたわねキョン!!」
「やり過ぎだ馬鹿者。親しき仲にも礼儀あり、だ」
「もう怒った! こうなったらとことん調べてやるわ!!」
「やらせるか! 手伝え古泉!!」
「困ったものです」
(具合悪くなってきた……)
271 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 01:13:34.21 ID:ogyox4PJ0
3.とどめ編
「さあ夜神君、これを飲んで!」
(突然台所を貸せと言い出したと思ったら…なんだこれは……)
「ん? おいハルヒそりゃ何だ」
「ふん、あんたは黙って古泉君とそのままマリカーでもやってなさい」
「古泉弱いから飽きたよ。緑甲羅で自爆ばっかするしレースやれば50ccキノコカップで8位取るし」
「これは手厳しい」
「んで、そりゃ何だ?」
「有希と二人で作ったのよ。これを飲めば風邪なんて一発で回復するわ!」
「色が飲み物とは思えないんだが……」
「確かに……せっかく作ってもらってなんだけど、あまり気が進まないな…七色の光を放つ飲み物なんて、生まれて初めて見たよ」
「大丈夫よ! ねえ有希!!」
「見た目は確かに飲料としては適さないように見える。しかしこの液体は全て体調を回復させるのに必要な成分で構成されている。
……信じて」
「…キョン」
「何だよ、俺を見るな。大丈夫だ。長門が言うんなら間違いない」
「じゃあ君がまず飲んでみてくれないか」
「何でだよ。それはお前のために作られたんだぞ。それに俺はこの通り健康なんだ。飲む理由がない」
「いやいや、キョン」
「いやいやいや、おかしいおかしい」
「いやいやいやいや」
「いやいやいやいやいやいや」
「つべこべ言わずに飲みなさい!!」
「うぐぅ!!」
274 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 01:15:54.62 ID:ogyox4PJ0
――それからのことは記憶に残っていない。
しかし、翌日には風邪は綺麗さっぱり治っていた。
ただ、僕の寿命は縮まった気がしてならない。
今度リュークに聞いてみようか。
まああの耳まで口が裂けた死神は、口が裂けても教えないなんてほざくのだろうけども。
276 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 01:16:58.93 ID:ogyox4PJ0
そしてそれから二週間の時が過ぎ――僕は計画通りFBI捜査官を殺した。
279 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 01:18:50.50 ID:ogyox4PJ0
−Side キョン−
夜神がSOS団に連れ込まれてからもう一ヶ月余りが経過した。
今では夜神も随分SOS団に馴染んできたように思える。
ハルヒと夜神がキラ事件について熱心に語る横で俺と古泉がゲームに興じ、長門はいつも通り隅っこで本を読み、朝比奈さんがお茶を配る。
これもすっかりお馴染みの光景だ。もう少ししたら俺と古泉にハルヒからのお叱りが飛んでくる。
「こぉらキョン! 古泉君!! ゲームなんてしてないで議論に参加しなさい!!」
ほらな。
「まあまあ涼宮さん。ああ見えて二人はちゃんと頭を働かせてるんだよ。そうだろキョン?」
「そうだ。ハルヒ、お前はこうやって何かをしながら考えることで右脳を活性化させるという有名な学説を知らんのか」
ハルヒに追従するイエスマン揃いのSOS団メンバーの中で、俺と同じようにハルヒに常識で対抗する夜神の存在はありがたかった。
しかし、こういう風にいいことばかりでもない。
「じゃあその活性化された脳で何がわかったか聞かせてもらおうかしら?」
「僕も興味があるな、キョン。まさか君ともあろうものが何も思いついてないなんてことはないだろう?」
これだ。夜神はフォローしたかと思えば極まれにこうやってハルヒに追従して俺を困らせることがある。
そうやって俺があたふたする様を楽しんでいるのだ。
やれやれだ。やっぱりハルヒの影響を多少は受けてしまっているのかね?
もしくはこっちが夜神の本質だったりするんだろうか。うへえ、嫌な想像だ。頼むからお前は俺の味方でいてくれよ。
しかし、こういったやり取りも正直悪いもんじゃない。
夜神を加えた新生SOS団は、この一ヶ月でうまく関係性を築けたんじゃないかと思う。
いつまでも続くといいな。この心地よい空気が。
だが――そんな俺のささやかな願いはあっけなくぶち壊されてしまうことになる。
282 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 01:21:33.63 ID:ogyox4PJ0
場所は公園。時刻は深夜。目の前には俺を突然呼び出した古泉が立っている。
「あなたには報告しておくべきだと思いまして」
そう前置きを入れて、古泉は語りだした。
「機関は夜神月をキラだと断定しました」
ざわざわと葉と葉が触れ合う不気味な音がする。
誰もいない公園に、古泉の声だけが木霊した。
285 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 01:24:05.51 ID:ogyox4PJ0
「これはまだ一般には報道されていませんが、キラ事件捜査のために日本に入り込んでいたFBI捜査官が全員殺害されました」
「キラの殺人に必要なのは顔と名前。どうやってキラはFBIの顔と名前を知ったのでしょう」
「覚えていらっしゃいますか? 二週間前の不思議探索の時です」
「あなたと彼はFBI捜査官に尾行されていた。これはあなたが僕に語ったことです」
「ええ、お察しの通り――死亡したFBI捜査官の中に彼の名前、ライス・ネイラーの名前がありました」
「当然、日本に潜伏したFBI捜査官達は自分の名前を外に漏らさぬよう厳命されていたそうです」
「もうおわかりでしょう?」
「ええ、もしかしたらあの場に偶然キラがいたのかもしれません。その可能性もわずかながらあるでしょう」
「証拠もありません。あなたの仰る通り、機関が夜神月を疑う理由は涼宮さんが望んだからというだけのことです」
「ですが、機関にとってはそれが全て。それも、あなたがご存知の通り」
「機関は夜神月を外界から完全に隔絶された場所に監禁します。それでキラの裁きが止まれば彼がキラ。単純な話です」
288 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 01:25:54.23 ID:ogyox4PJ0
頭がついていかなかった。余りにも突然すぎる。
夜神を監禁する? それで裁きが止まればキラ?
なんだそりゃ、無茶苦茶だ。人権侵害にも程がある。
それでもし違っていたらどうするつもりなんだ。間違っちゃったごめんで済む話じゃないんだぞ。
「彼がキラでなければ当然監禁されていた間のことは忘れてもらいます。場合によっては再び転校していただくことになるかもしれません」
理不尽過ぎる。本気で言ってるのかそれは?
俺には冗談にしか聞こえないが、お前ら『機関』のことだ。マジなんだろうな。
……ふざけるなよ。
「止められないのか」
「機関の総意は変わりません」
「俺はお前に聞いてるんだ古泉!!」
声を張り上げて、目の前で淡々と語ってみせた男の名を叫ぶ。
握りこみすぎて拳の感覚がない。はらわたが煮えくり返るとはまさにこの状態を言うんだろう。
292 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 01:27:29.12 ID:ogyox4PJ0
「誤解しないでいただきたいのは……」
古泉が口を開く。
「決して僕は望んでこんなことを喋っているわけではないということです」
そうか。その言葉と、今のお前の顔を見れて安心したよ。
お前だってこんな結末は望んじゃいないんだな。
なら足掻こうぜ、古泉。
諦めの悪さなら我がSOS団団長様から散々学んできただろう?
「……一週間、何とかして監禁を遅らせてみせます。僕に出来るのはそれが精一杯です」
一週間。それがタイムリミット。
余りにも短すぎる。だが、やらなければならない。
俺だってSOS団の団員その1なんだ。守ってみせるさ、今のSOS団を。
295 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 01:31:48.75 ID:ogyox4PJ0
――一日目。
まずはあのFBI捜査官を取り押さえたときに周りにいた人間を探さなければ。
夜神がキラでないのなら、あの場にキラがいた可能性は高い。
だが、どうやって―――?
297 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 01:32:57.44 ID:ogyox4PJ0
――二日目。
学校をサボり、街に出向く。あの騒動があった場所近辺の店で聞き込みを行う。
やはり徒労に終わった。ハルヒから携帯に着信。
事情を話すわけにはいかない。無視した。
301 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 01:35:59.89 ID:ogyox4PJ0
――三日目。
やはり俺の頭では有効な手立てが見つからない。
夜神ならなにか思いつくだろうか。駄目だ。夜神にも事情は話せない。
俺だってそこまで馬鹿じゃない。
もし仮に、夜神がキラであり、事情を知ったらまず間違いなく古泉が殺される。
それくらいはわかってるんだ。ただ、認めたくないだけで。
303 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 01:37:31.21 ID:ogyox4PJ0
――四日目。
古泉が学校に来なかった。あいつも今頃頑張っているのだろうか。
折れかけた心を奮い立たせる。
あれだけでかい口を叩いたんだ。俺だって頑張らなきゃな。
305 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 01:39:06.11 ID:ogyox4PJ0
そして、五日目。
夜神がキラではない証拠など、何も見つからない。かといって、他にキラの可能性がある奴なんて見つけられない。
当然だ。世界一の名探偵『L』ですら苦戦している事件を、この平々凡々の極みといえる俺が一週間で解決しようなど不可能だ。
余りにもおこがましくて、笑っちまうぜ。
俺は―――無力だ。
今の時刻は昼休み。
俺は誰とも話す気になれず屋上で一人、空を見上げていた。
広い空を眺めていると、本当に自分はなんてちっぽけな存在なんだと思い知らされてしまう。
「あっれぇ? キョン君じゃないかぁ!!」
この青い空に良く響く快活な声。
振り向くと、そこにはSOS団が誇る無敵の名誉顧問、鶴屋さんが立っていた。
「君が一人でたそがれてるなんて珍しいこともあるもんだね!! 何かあったのかい!?」
「いえ、ちょっと風を感じたくて。鶴屋さんこそどうしてここに?」
「私はよくここに来てるんだよ! ここは一人でのんびりするには最高のロケーションなのさ!!」
はぁ、そうなんですか。
それにしても鶴屋さん、相変わらずハルヒにも負けないくらい元気一杯ですね。
「そういうキョン君は元気がないっさ! 何か悩みがあるならお姉さんが聞いてあげるにょろよ?」
そう言って鶴屋さんはどんと自分の胸を叩いてみせた。
この人を見ていると、本当にどんな悩みでも解決できそうな気がしてくるんだからな。
凄い人だ。
309 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 01:40:48.69 ID:ogyox4PJ0
「そうですね、少し、聞いてもらっていいですか?」
「ドンと来いにょろ!!」
鶴屋さんの優しさが折れかけた心に響く。甘えてしまいたくなる。
震える声で、俺は言った。
「友人があらぬ疑いをかけられています。俺はその疑いを晴らしてやりたくて、俺なりに頑張ってみました。
でも、何も出来なかった。無力な自分に腹が立った。でもですね、もっと腹が立ってしょうがないのは」
誰かに話すことで考えが纏まるということはままあることだ。
そうか、俺が本当に自分自身を許せないのは、自分が無力だからではなく。
「俺は、本当は疑っているんです。その友人を。いい奴ぶってそいつの無実を主張しているくせに、俺はあいつを信じきれていない!
俺は、そんな自分が嫌でしょうがない。そりゃ、こんな気持ちじゃあいつの疑いを晴らすなんて不可能だ。
だから俺には何も出来ない。何も変えられやしない。そもそもそんな資格もありはしない!!」
俺の独白を、鶴屋さんはただ黙って聞いていた。
沈黙。
そりゃそうだ。こんなこと聞かされてどうしろってんだ。
誰だって言葉に詰まる。俺だって詰まる。
310 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 01:43:02.81 ID:ogyox4PJ0
「すいません、忘れてください」
そう言い捨てて、鶴屋さんから視線を外す。
正直、居た堪れなくて、まっすぐこちらを見つめてくる鶴屋さんを直視出来なかった。
「キョン君! 諦めるのはまだ早いっさ!!」
余りにも単純明快な励まし。振り向く。鶴屋さんは笑っている。
だけど。
「俺はもうやれるだけやったんです! でも無理だった!!」
「本当にかい!? 白黒はっきりさせるために、自分に出来ることは全てやったと断言できるのかい!?
そうじゃない! キョン君がその気になったら解決できないことなんてあるはずないのさ!私はそう信じてる!!
それでも諦めるっていうんなら、『僕に出来ることなんてもうないです』ってお姉さんに胸を張って言ってごらん!!」
出来ない、そんな風に言われてそんな真似が出来るものか。
俺にだって意地というもんがある。
だが、俺に何が出来る。夜神の疑いを晴らすために。
『白黒はっきりさせるために――』
鶴屋さんはそう言った。
そうだ、考え方を変えろ。認めるんだ。
俺のやるべきことは夜神の無実の証明なんかじゃない。
もはや事態はそういうレベルの話じゃない。
俺のやるべきことは――夜神はキラか否か、その確認なんだ。
311 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 01:44:28.69 ID:ogyox4PJ0
発想の転換によって絡まった思考の糸がいとも簡単に解けていく。
そうだ。俺にはまだ出来ることがある。
「鶴屋さん、ありがとうございます」
「どういたしまして! 迷いは吹っ切れたっかな!?」
「ええ、もうすっかり。まだ俺は自分に出来ることを全て試したわけじゃない。そのことに気づきました」
とは言っても、今思いついたこの方法はまさしく「手段を選ばず」というやつだ。
これをやっちまったら俺も機関のことをとやかく言えなくなっちまう。
それでも、やらなきゃならない。綺麗なままじゃこの事件は解決できない。
特に、俺みたいな凡人に手段を選んでる余裕なんてありはしないんだ。何を勘違いしていたんだか、まったく。
「それじゃ、行きます」
「うん、すっきりした顔してるね! やっぱりキョン君はそっちの方がめがっさカッコイイにょろ!!」
「おだてたって何も出ませんよ」
最後に鶴屋さんに頭を下げて駆け出す。
昼休みは残り十分。間に合うか。
階段を駆け下り、渡り廊下を目指す。目指すは旧校舎、元文芸部室、つまりはSOS団の部室。
扉を開ける。
いた。いてくれた。
長門。
長門有希。
「長門、お前に頼みがある」
461 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 18:31:31.79 ID:xFWLC3PK0
六日目。
俺は再び学校をサボり、夜神の家の前にいた。
俺だけじゃない。俺の隣には長門と古泉が、その古泉の後ろには機関から派遣されてきた森さんと新川さんの姿がある。
俺達はこれから最低の行為をするために集まっている。
現在、夜神家には誰もいない。その家を、俺達は徹底的に家捜しするのだ。
その痕跡を長門に完璧に消してもらう。夜神家の面々は俺たちの侵入に絶対に気づけない。
俺がこれを古泉に提案したのは昨日のことだった。
その時のことを少し語ろう。
最初、古泉は俺の提案に目を丸くしていた。
466 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 18:34:08.13 ID:xFWLC3PK0
「まさか、あなたがそんな提案をしてくるとはね。ご自分の仰っている意味がわかっていますか?」
「わかってる。でももう時間が無い。手段を選んではいられないんだ」
「しかし、それで彼がキラかどうかという明確な判断材料が出るでしょうか」
「出る。夜神がキラだというなら、必ず」
確信はある。俺だって無為に五日間を過ごしていたわけじゃない。
俺なりに必死に頭を働かせたんだ。
「聞きましょう。その根拠を」
「仮にキラが本当に頭で念じるだけで人を殺せるとしよう。夜神がキラなら、学校の授業中や不思議探索のときに、そういった挙動がでるはずだ。
でもそれは無かった。それはお前も確認していたはずだ。
じゃあ、夜神はキラじゃないんじゃないかと普通は思う。ところがそう言い切ることも出来ない。
キラがそんな能力の持ち主なら『L』やFBIを殺そうとするはずが無いんだ。
どれだけ調べられたって、それこそキラの頭の中を覗かれない限り証拠なんて出てこないんだからな。
でも、実際にはキラは『L』の殺害を試み、続いてFBI捜査官を虐殺した。
つまり、人間に可能な捜査の範囲内に、殺人の証拠は実物として必ずある。それが何なのかまではわからないけれど」
「彼の家に何かがあれば彼がキラ。何もなければキラではない。と、あなたはそう言いたいのですか」
「そのはずだ。自宅以外に隠していたとしたら夜神は頻繁に家を空けなければならない。
そんな不審な真似をしていたらまず家族に疑われる。夜神がそんなことをするとは思えない」
469 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 18:35:57.21 ID:xFWLC3PK0
俺が話し終えると古泉はしばらく黙考に入った。
頭の中では俺の推論を検討しているのだろう。
古泉はひとつ大きく息を吐いた。
「いいでしょう。現状、試す価値はある。あなたの提案を上に掛け合ってみます」
言うが早いか古泉は携帯を取り出し、どこかにかけ始めた。
「しかし…あなたも大胆なことを考えたものです」
電話の相手が出るのを待つ間、古泉はそんなことを言ってきた。
ふん、別にこれは俺だけの考えってわけじゃない。
むしろ、俺だけなら『夜神がキラだとしたら』という前提の下での考察なんて発想も出来なかった。
頼りになる上級生がいたんだよ。お前もよく知ってるな。
470 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 18:37:42.46 ID:xFWLC3PK0
結局俺の提案を機関は承諾した。
ただし、探索の際には機関の人間を最低二人同行させること、また、これで何も出なくとも、
夜神をキラの容疑者から外すというわけではなく、とりあえず今回の拉致監禁を見送るだけだということを付け加えられた。
そして時計の針は現在に戻る。
もたもたしている暇は無い。さっさと行くとしよう。
「長門、頼む」
長門は頷き、高速で何事かをつぶやき始めた。
「終わった。これで貴方達に関わる全ての情報は一切この家には残留しない。
加えて、一時的にこの家を通常の情報空間から断絶させた。
これからこの家の中で何が起こっても、周囲の人間にはそれを認識することは出来ない」
さすが、頼りになるぜ長門。
準備は整った。
さあ、プライバシーの侵害を始めよう。
すまんな夜神。これでお前の潔白が証明されたら地面に頭をこすりつけて謝らせてもらうよ。
471 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 18:39:50.16 ID:xFWLC3PK0
夜神家の中を隅から隅まで森さんと新川さんが手際よく調べていく。
隠し倉庫の類はないか、そういった点まで念頭に置いて、徹底的に。
下着入れや洗濯物まで漁るんだから、本当にプライバシーもへったくれもない。
申し訳ない気持ちで一杯になる。なにくそ。何だ今さら。
気を取り直して俺と古泉、長門は二階の夜神の部屋へ。
何しろ、殺人の方法に見当もついていないので、どんな些細なことも見逃すわけにはいかない。
本棚にある本なども全てひっくり返していく。夜神が隠していたグラビア本が出てきた。
ハルヒにこれを発見され、青ざめていた夜神を思い出し、不謹慎にも少し笑みが浮かんでしまう。
やがて森さんと新川さんも二階に上がってきた。一階には怪しいものは一切見当たらなかったらしい。
森さんも新川さんもおそらくその道のプロだ。信用していいだろう。
全員で大本命である夜神の部屋の捜索に当たる。
結果は――シロだった。夜神の部屋からも怪しいものは何も見つからなかった。
開きっ放しになっている机の引き出しに目を落とす。
そこには夜神がいかに真剣にキラを追っているかが如実に示されている日記帳が置かれていた。
「確認いたしました。夜神家には夜神月=キラだと示す物証は見当たりません。
また、彼の主張通りキラが何の物証も持たないということも考えにくいことだと判断します。
よって、機関は夜神月への疑いを一時緩和。明日の計画は中止します」
森さんの口からはっきりと夜神を拉致監禁するという馬鹿げた計画の中止が告げられる。
古泉が「やりましたね」と目で語りかけてくる。
全てうまくいった。俺はSOS団を守れたんだ。
なのに、何故―――俺は快哉を上げる気にならない?
―――この違和感は何だ?
473 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 18:42:06.31 ID:xFWLC3PK0
−Side 夜神月−
「馬鹿な…! 馬鹿な馬鹿な馬鹿なッ!!!!」
感情の爆発のままに叫ぶ。
学校から帰宅し、自分の部屋に戻った直後に突きつけられた現実。
唇が急速に乾く。今自分が置かれている状況に頭がついていかない。吐き気すらもよおしてきた。
血の気が引く、とはまさにこのことか。
何故――デスノートが消えている!!
誰かが部屋に入った痕跡は無い。
ドアノブも、ドアの隙間に挟んでいたシャーペンの芯も、全て僕が部屋を空けた時のままだった。
机の上のボールペンの配置も、カモフラージュの日記帳の位置も、何もかもが寸分違わず同じ位置のままなのに、デスノートだけが忽然と消えている。
「どういうことだ! リューク!!」
家族に声が聞こえてしまうかもしれない。
だが、声を抑えることなどとてもできない。
絶叫するような僕の問いかけに、リュークは肩をすくめた。
「俺にもわからない。ただ、ノート自体はまだこの地上のどこかにあるはずだ。それはわかる」
とすると、やはりここからデスノートを持ち去った誰かが存在するということだ。
誰だ? 『L』なのか?
いや、違う。『L』がノートだけを持っていく理由は無い。もし『L』の仕業ならとっくに僕も捕まっている。
同じ理由で警察もありえない。
わけがわからない。
パニックを起こさない様にするのが精一杯で、とても冷静に頭を働かせることは出来なかった。
何だ? 今僕の周りで一体何が起こっている?
475 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 18:45:15.57 ID:xFWLC3PK0
チュンチュンという鳥の鳴き声が朝を告げる。
結局一睡もすることが出来なかった。
まったく生きた心地がしない。
こんな思いをするのは――初めて人を殺したとき以来だ。
ふらふらする頭のまま、ハイキングコースとも言える通学路を歩く。
いつもは慣れたこの道も、一睡もしていない今のコンディションでは流石にキツイ。
「夜神」
聞きなれた声がした。足元を漠然と眺めていた視線を前方に移す。
キョンがいた。何故かほっとする。
「どうしたんだ、キョン? 珍しいな、こんな所で会うなんて」
「話があるんだ」
場所を変えようとキョンは言った。
いつになく真剣なキョンに違和感を覚えながらも、黙って後をついていく。
着いたのはいつか涼宮ハルヒと来た公園とは似ても似つかぬ、雑草が生い茂るうらぶれた公園だった。
479 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 18:47:30.55 ID:xFWLC3PK0
まったく人気はない。
いくら平日の朝方だとしても、ここまで人っ子一人いないというのは有り得るのだろうか。
まるで世界にキョンと僕の二人しかいないような静けさだった。
「何だ、こんな所に連れてきて。誰かに聞かれちゃまずいのか?」
「ああ。お前と二人っきりで話したい」
キョンの声は暗い。
今気付いたが、僕と同様に一睡もしていないのか、キョンの顔も酷いものだった。
「大げさだな。手短に頼むぞ。学校に遅刻してしまう」
「そうだな、回りくどいのはもういい。単刀直入に行こう」
そう言ってキョンは自分の鞄から一冊のノートを取り出した。
「なっ……!!」
声を失った。
キョンが差し出して見せたのは、見覚えのある黒い背表紙のノート。
デスノートだ。
480 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 18:49:09.47 ID:xFWLC3PK0
馬鹿な。何故だ。何故お前がそれを。
「もう…全部わかってるんだ夜神……いや、『キラ』…!」
キョンの顔は今にも泣き出しそうなほどに歪んでいた。
わけがわからなかった。
どうしてなんだキョン。何故今お前の手にそのノートがある?
どうやって僕の部屋に入った。どうやってそいつを見つけた。
「お前の細工は本当に完璧だった。それこそ、森さんや新川さんの目を欺くほどに」
くそ、きちんと説明をしろ。意味が分からない。
「だけど俺は気付いた。気付いちまった。そう、俺だけが気付けた。『お前と同じ机を使っている俺だけが』」
482 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 18:51:04.65 ID:xFWLC3PK0
−Side キョン−
そう、俺が抱いていた違和感の正体はそれだった。
以前、お見舞いに来たときには気付かなかった。それも当然だ。誰が人の引き出しの中をまじまじと観察するものか。
だが、今回の捜索の時は違う。些細なことも見逃さぬよう、神経を尖らせていた。
だから気付けた。
『夜神の机の引き出しは俺が使っている机より底が浅かった。』
ほんのささいな違和感。しかし、夜神=キラの前提で行っている捜査では決して見逃すことの出来ない違和感。
俺は無理やり底板を引っぺがした。
すると突然引き出しが燃え上がり、二重底に隠されていた物は灰となり、俺自身も火傷を負ってしまった。
見事な証拠隠滅だ。普通ならそこでもうお手上げさ。
そう、普通なら。
だが、俺たちには長門有希がいた。
俺の火傷を治療し、焼けた部屋を綺麗に修繕した後、かき集めた灰を持って長門は言った。
「引き出しの底に隠されていたものは地球上には存在しない物質で構成されていた。
即座の修復は不可能。でも、修繕自体は可能。出来るだけ早く直してみせる」
頼もしいことに長門はそう言い切ってみせた。
そして長門は見事にデスノートを復元してみせたのさ。たった一晩でな。
485 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 18:52:49.65 ID:xFWLC3PK0
−Side 夜神月−
キョンの言っていることは何一つ理解できなかった。
長門有希が灰からデスノートを再生した?
馬鹿をいうな。何だそれは。得体が知れないとは思っていたが、あの女はエイリアンか何かなのか?
もういい。わけのわからないことに捉われていては混乱をいたずらに増長させるだけだ。
理解できることだけを整理しろ。
「キョン…君が何を言っているのか理解できないよ。そのノートが何なんだい?」
「とぼけても無駄だ夜神。俺にはお前の傍にいる化け物がもう見えている」
ちっ、リュークの姿が見えているということは、キョンが持っているのは紛れも無く僕の部屋にあったデスノートだ。
つまり、キョンが何らかの方法で僕の部屋に侵入し、デスノートを回収したことは間違いない。
どうやって手に入れたかはこの際どうでもいい。
問題は、だ。
キョン、お前は何故僕がキラだと疑った。
僕の部屋を漁るなんて暴挙、よっぽどの確信がなきゃ出来ることじゃない。
「確信があったわけじゃない。むしろ、俺はお前の潔白を信じていた」
ならば、何故。
「結果的には古泉の言った通りになっちまったな。ハルヒがお前を望んだから…そういうことなんだろうよ」
またわけのわからないことを。いいよ、説明する気はさらさらないってことか。
「夜神……なんで、何故こんな馬鹿げた真似をしたんだ」
何故…? 随分と間の抜けたことを聞く。
言わなければわからないか、キョン?
489 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 18:54:42.21 ID:xFWLC3PK0
−Side キョン−
「く、くくくく……ふははは……!」
俺の問いかけに、突然体を折って笑い出す夜神。
その笑みは俺の知る夜神月とはかけ離れた、とても歪んだ哄笑だった。
ああ、夜神。お前は本当に、そうなんだな。
「なあキョン。この世の中は、本当に腐ってる。そう思わないか?
弱者は弱者として虐げられるしかなく、強者は弱者を食い物にしてさらに肥え太っていくこの世界のシステム。
罪を犯した人間をかばい、被害者の気持ちを考えないイカレた法制度。
他者のことにはとことん無関心で、自分のことしか考えられない愚劣な大衆精神。
もうこの世界はどうしようもない所まで来てしまっていたんだ。
誰かが変えなければいけない? そうだろう?
だから僕はそのデスノートを手にした時、やってやろうと思った。
世の中から腐った悪を一掃し、心優しい人間だけの世界を作ろうと……僕ならそれが出来る。やってみせる、と。
キョン……僕がキラになってからまだほんの二ヶ月だ。それでも世界から目に見えて犯罪の発生件数は減少している。
いずれキラがこの世の正義となり、どうしようもない理不尽に泣く人々はいなくなる。そんな世界が来る。僕がしてみせる!」
そうだな。お前にならもしかしたら出来るかもしれないさ。
そこに疑問を差し挟む余地は無い。
でも、それでも俺はお前を認めることは出来ないよ。
「何故だ? お前も人を殺して得る平和になど何の意味もないなどというちっぽけな道徳心をひけらかすのか?」
いいや、そういうんじゃない。それどころか、お前がFBIを殺したのだって納得は出来る。
感情は別として、理屈ではな。大小の違いはあれど、人は保身のために心を殺すことは出来るから。
でも、お前は。
491 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 18:56:28.71 ID:xFWLC3PK0
−Side 夜神月−
「お前は『L』の影武者を、あの時テレビに出ていた『リーバス・L・テイナー』を殺したんだ」
キョンの言葉に首を傾げる。
何だそれは。意味がわからない。
FBI殺しは認められて、そっちを認めない理由は何だ?
「『L』は今まで多くの迷宮入りの事件を解決してきた名探偵だ。
『L』のおかげで泣き寝入りするしかなかった多くの被害者は、きっといくらか笑顔を取り戻すことが出来たんだ。
これからもきっと『L』はたくさんの笑顔を取り戻していく。他の者には不可能な、『L』だけが解決できる領域で。
でも夜神。結果的には影武者だったとはいえ、お前はその『L』を殺した。
これからも多くの人間を救ったであろう『L』を。自己保身のためですらなく、ただ気に入らないという理由だけで。
そうなんだろう? こんなデスノートなんて代物、いくら『L』だろうと見つけられるはずがなかった。お前がとことん無視していれば。
夜神、結局お前はただのガキなんだ。自分の気に入らないことは認められない、駄々をこねるだけの子供」
キョンは真っ直ぐに僕の目を見つめ、続けた。
「お前は、神になんかなれない」
ふん、所詮お前も言っても分からぬ馬鹿に過ぎないというわけか。
残念だよ、キョン。もうこれ以上の問答は無駄だ。
僕の信じる正義とお前の信じる正義はどうやら交わることは無いらしい。
493 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 18:58:38.89 ID:xFWLC3PK0
それで、そのノートを手にして、お前は僕をどうするつもりなんだ、キョン。
「デスノートの所有権を放棄しろ、夜神。そしてただの夜神月として、これからもSOS団で一緒に遊ぼうぜ」
思わず目が点になってしまった。
「ふふ…くくく……あっはっは!!
予想だにしなかったキョンの言葉に堪えきれず笑い出してしまう。
キョンはそんな僕を不機嫌そうに見つめている。
悪い悪い、確かに今のは無かった。お前は大真面目に話をしているんだから。
だが、キョン。しょうがないことだろう。
そんなことを言い出すからにはきっとお前はもう知っているんだろう。
デスノートの所有権を失えばその所有者はデスノートに関する記憶を失うということを。
デスノートに関する僕の記憶を消してこの一件の決着とするつもりか?
記憶は消えても、僕がキラだったという過去は消えやしないのに?
甘い、甘すぎるよお前は。この土壇場で、余りにも温すぎる。
僕がそんな提案に乗ると思ったか?
そして。
僕がデスノートの切れ端を常に携帯していることなど、想像もしなかったか?
ずっと周囲を観察していたが、他に誰かを潜ませている様子は無い。
キラである僕の前に、たった一人で現れるとは愚か過ぎる。
救えないよ、キョン。
気の合う友人だと思っていたが、これでお別れだ。
495 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 19:01:46.20 ID:xFWLC3PK0
「わかったよ、キョン。君の言う通りにする」
「わかってくれたか、夜神」
僕の言葉に、キョンはあからさまにほっとした顔をした。
馬鹿が。僕を舐めた愚かさを存分に悔いて死ね。
「最後にリュークにお別れをさせてくれないか? こんな恐ろしい外見だけど、結構長く一緒にいたんだ。もう会えないとなると名残惜しい」
「そうだな……そうしてくれ」
キョンに背を向け、背後にいたリュークの方を向き直る。
これで僕の手元はキョンの方からは見えない。手には既に切れ端とペンを握っている。
「世話になったな、リューク」
「ククク…! そうだな、ライト…!」
当然、リュークの方からは僕のしていることは丸見えだ。
そりゃあおかしくてたまらないだろうさ。
デスノートの切れ端に、今まで一度も呼んだことの無い、キョンの本名を書きこんでいく。
一文字、一文字、ゆっくりと。
499 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 19:04:35.90 ID:xFWLC3PK0
「キョン」
最後だ。手向けの言葉でもくれてやろう。
「君と過ごした日々、悪くはなかったよ」
僕の言葉にキョンは怪訝な顔をしながらも、笑った。
「これからも楽しくやっていけるさ、きっと」
ないよ。お前はここで死ぬのだから。
そして僕は最後の一文字を書きこんだ。
502 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 19:06:17.62 ID:xFWLC3PK0
―――はずだった。
503 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 19:08:03.52 ID:xFWLC3PK0
最後の文字を書こうとしたところで体が突然動かなくなった。
書きかけの切れ端を握りつぶし、足元に投げ捨てる。
もちろん僕の意思ではない。
「ライト?」
リュークの言葉にも何の反応も示すことが出来ない。
体が勝手に動く。振り返った。
もういいのか。
キョンが言う。
もう済んだ。
僕の口が勝手に答える。
何だこれは! 僕の身に一体何が起こっている!!
何とか自由に動く目で必死に原因を探る。
キョンの後ろに公園の入り口が見える。
いた。立っていた。
ついさっきまで誰もいなかったはずのその場所に。
長門。
長門有希。
得体の知れないあの女が。
505 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 19:09:43.57 ID:xFWLC3PK0
「デスノートの所有権を―――」
待て、待ってくれ。
まだ僕は何も成し遂げちゃいない。
出来るんだ。世界を変えれるんだ。
僕なら、僕になら。
嫌だ、やめてくれ。
戻れというのか。腐った世の中に絶望していたあの僕に。
わかってくれ。助けてくれよ。
キョン。
キョン。
キョン!!
「―――放棄する」
終わった。
意識が暗転していく。
目が覚めたときには、もうこの僕はいない。
それはきっと、まったく別の夜神月なんだ。
キラとしての僕は、今死んだ。
507 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 19:11:34.64 ID:xFWLC3PK0
−Side キョン−
夜神は綺麗さっぱりデスノートに関しての記憶を失っていた。
これでこの世界にキラはいない。人々は事件のことを緩やかに忘れていくだろう。
あいつがキラとして行ってきたことは、決して許されることじゃない。
それでも、俺にはあいつを罰することなんて出来なかった。
こんなことをしでかしてしまったあいつの気持ちも、少しはわかるから。
きっとあいつは退屈だったんだ。
なまじ何でも出来てしまうから、人生をつまらなく感じてしまって。
そう、それはまるで中学のころのハルヒと同じように。
だからといって人を殺していいのかと言われると、そりゃちょっと違うんだが、俺はあいつを許してやりたかった。
悪いのは人を殺せるこんな馬鹿げた力であって、夜神はちょっとその魔力に取り憑かれてしまっただけなんだ。
やっぱり甘いか?
でもな、それでも考えちまうんだ。
もし俺がハルヒに出会う前にこのデスノートを拾っていたら。
やっぱり、使ってしまったんじゃないかって。
510 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 19:13:40.98 ID:xFWLC3PK0
「それで、お前はどうするんだ?」
一人公園に残った俺に、夜神にとり憑いていた死神が話しかけてきた。
どうするって何だ? あとお前名前なんだったっけ? るーく?
「リュークだ。お前もライトと一緒で、俺に対してずけずけと物を言うなぁ。俺のことが怖くないのか?」
まあ、色々と耐性が出来ちまってるもんでね。
決して望ましくはないことなんだがな。
「ククク…やっぱり面白い奴だな、お前。まあいい、軽く説明しておくぞ。
ライトがノートの所有権を放棄した時点でノートに触れていたお前に所有権は移ってる。
これからそのノートをどうしようがお前の自由だ。俺としてはお前がそれをどう使うか見てみたいんだがな」
その言い方だと俺がどうするかはもう想像がついてるんだろ?
俺はポケットからさっき買っておいた100円ライターを取り出し、ノートに火をつけた。
おぉ、地球には存在しない成分で出来てるらしいが、よく燃えるな。
「リューク、俺はこんなものはいらない。俺みたいな凡人には過ぎた力さ」
こんな神様じみた力なんて無いほうがいい。
こんなものがあるから、それに振り回されてたくさんの人がヒィヒィ言うことになるんだ。
そんなもん、俺たちSOS団のメンバーだけで十分だろう?
「まぁ、お前はそうすると思っていたけどなぁ。あ〜あ……」
リュークは心底残念そうな顔をすると、翼をはためかせ、空に舞い上がった。
「つまらないなぁ」
513 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 19:16:18.18 ID:xFWLC3PK0
その言葉を最後に、リュークの姿は空に溶けて消えた。
そろそろ、俺の中にあるデスノートに関する記憶も消えてなくなるんだろう。
だが、その前に。
「リューク。つまらないっていうんなら俺たちSOS団を見てろ。
涼宮ハルヒが率いて、宇宙人、未来人、超能力者で構成される究極の暇つぶし集団。
さらにこれからはそこに完全無欠の天才少年も加わるんだ。
―――絶対に、退屈はさせないぜ」
届いただろうか。
ま、どちらでもいい。
ポケットの中では携帯電話がひっきりなしに鳴っている。
きっとハルヒだ。
最近無断欠勤が多かったからな。随分とご立腹なんだろう。
急がなきゃな。今からならぎりぎり一時間目に間に合うだろ。
見覚えの無いノートが燃えている
その燃えカスは風に舞い、空へと吸い込まれていった。
―――――Episode “キョン” The end.
517 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 19:18:03.98 ID:xFWLC3PK0
−Side ???−
薄暗い部屋で、一人の少女が黒いノートを手にしている。
その傍らには、リュークと呼ばれたあの黒い死神が佇んでいた。
「ノートが無くなっても人間界に留まれるからおかしいと思ったぜ。それ、俺のノートか?」
死神の問いに、少女はこくりと頷いた。
「やっぱりな。でもおかしいな。俺のノートはキョンが燃やしたはずだぜ?」
「彼が燃やしたのは確かにあなたのノート。今ここにあるこれはその複製体」
死神は少女の言っていることが理解できなかった。
彼女の存在、能力は彼のいた死神界ですら解明できぬ、未知なのだ。
「複製体といっても、寸分違わず同じというわけでは無い。『彼』の使った痕跡は消してあるし、
情報組成も意図的に少し変えてあるから、『彼』がこのノートに触っても記憶を取り戻すことはない」
「何だそれ? 何でそんなことするんだ?」
「私には死者を蘇らせることは出来ない。時を逆しまに動かすことも出来ない。でも、時計の針をごまかすことは出来る」
死神はやはり首をひねる。
どうにも少女の言うことは抽象的で、難解だ。
「なあ、つまり、どういうこと?」
もう少し分かりやすく説明してくれという死神の懇願に、少女はあくまでも無表情に口を開く。
522 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 19:19:49.32 ID:xFWLC3PK0
「『彼』の物語が紡がれるべきは、今ではない。それが、情報統合思念体の結論」
527 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 19:21:36.83 ID:xFWLC3PK0
−Side 夜神月−
「くぁ……」
テキストを読み上げるだけのつまらない教師の授業が粛々と行われる中、思わずこみ上げる欠伸を噛み殺す。
まったく、この世の中は退屈だ。
毎日繰り返されるつまらない日常が、緩やかに僕の心を蝕んでいく。
宇宙人や未来人、異世界人や超能力者。
何でもいいから現れて、退屈なこの世界を変えてくれないものか。
「何くだらないことを考えている。この僕としたことが」
いけないな、余りにも退屈すぎて何だか妙な電波を受信してしまったらしい。
気分転換に窓の外の、毎日代わり映えのしない景色を眺めてみることにした。
「……ん? 何だあれ?」
いよいよ大学受験を控えた高校三年の初冬。
この日、僕は一冊の黒いノートを拾う。
Episode “夜神月” Never end.
And his story continues to “DEATH NOTE”.
531 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 19:23:53.69 ID:xFWLC3PK0
以上で終了
もっと色々詰め込みたかったけど、これが俺の限界でした
一安心しつつ ちょっとキムチ鍋作ってくる
550 名前:doshun ◆4aFyC1QECs [] 投稿日:2009/03/24(火) 19:28:53.00 ID:xFWLC3PK0
一応このオチの伏線は色々張ってた
一番顕著なのがLの影武者とFBIの名前
というか Lが出てないデスノートなんてデスノートじゃねえやな
涼宮ハルヒの憂鬱×デスノート は誇大広告だった
夜神月がSOS団に入団するようです の方がしっくりくるな