鶴屋「キ、キョン君!ストップストップ!」


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119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/04(水) 01:32:14.17 ID:GLo9ChECO


「キョン君、ストップストップ!」

 言われて我に帰る。
握って振りかざした拳に鶴屋さんが両腕を絡ませて動きを止めている。
目の前には竦んだ様にも怯えた様にも見えず、ただ不遜に口端をあげて怒るハルヒ。

「あんた、団長に手をあげようとしたわね」
「鶴屋さんがいなけりゃ手加減なしで手をあげてたさ、感謝しろ鶴屋さんに」

 放課後の部室、普段通りの環境に響く違いの低い声。

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/04(水) 04:00:21.52 ID:GLo9ChECO

把握

>>119

 古泉が中腰になってるのを視界の端で捕らえる。
…そうか、鶴屋さんがいなければ古泉なり長門なりに制止されてたか、
朝比奈さんは…、無理だろうな。

「鶴屋さん、もう大丈夫です。腕を離して貰えますか?」
「ダメだよ! 話が終わるまではダメだね」

 振りかぶってはもういない。
真直ぐ降ろした俺の腕に絡んだ鶴屋さんの二本の腕、まるで街中をあるく恋人のように腕を組んでるようだ。
あまり鶴屋さんに文句を言いたくはないが、それもハルヒを苛立たせる要因だと思います。

「キョン」
「なんだハルヒ」
「いまなら、土下座して謝るなら許すわ」
「寝言は寝て言え」
「どうしても謝らないならあんたはSOS団を辞めなさい!」

 自分の非を認めず、あげくこの台詞。
しかもこれで譲歩したつもりになってやがる。俺の堪忍袋は再度切れかかったが、
そこは鶴屋さんの体温が収めてくれた。

「どうすんのよ!?」


 その日、俺はSOS団を抜けた。

180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/04(水) 04:11:45.25 ID:GLo9ChECO


 謝罪を要求するハルヒに背を向け無言で部室から去った俺は。
鶴屋さんと一緒に帰路についていた。

「ごめんよキョン君」
「鶴屋さんは気にしないでください、あんなのハルヒが一方的に悪い」

 俺の脳にはアイツの理不尽な発言が逐一蓄音されている。
あんな奴に下げる頭も従う体も付き合う気持ちも無い、どうせ時間の問題だったのだ。
朝比奈さんのメイド姿を見れなくなるのは残念だが…。

「まさかハルにゃんがあんなに怒るなんてねぇ…」

 鶴屋さんと行動を起こしてる時はいつもご機嫌でしたからね。
珍しく思うかも知れませんがあれがデフォルトです。

「そうなのかい? なんか落ち込むなぁ」
「元気だしてください、俺がついてます」

183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/04(水) 04:21:23.15 ID:GLo9ChECO


 俺がそう言うと、鶴屋さんはややぎこちないものの、素敵な笑みを浮かべてくれた。
それだけに、ハルヒの吐いた不条理な言葉に腹が立つ。

「あっ、私こっちだから…」
「いえ、最後まで送っていきますよ。なんなら自転車の後ろに乗ります?」
「あははっ、お巡りさんに怒られちゃうよ!
それにどうせなら歩いて送って欲しいな…、もう少しお話したいっさ」
「かしこまりました」

 カラカラとタイヤのシャフトが立てる小さな音を聞きながら自転車を変わらぬ速度で押す。
鶴屋さんは自転車を挟んで反対にいる。

「ねぇキョン君」
「なんでしょう?」
「キョン君は、これでよかったの? あんなに大事にしてたSOS団も私の所為で辞めちゃって…。
迷惑ばかりかけちゃう私でいいのかな?」

 鶴屋さんはらしくない、暗い響きを持つ言葉をぽつりと落とした。

184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/04(水) 04:29:43.84 ID:GLo9ChECO


「俺としては逆に考えて貰いたいですね」

 不安そうな、哀しそうな、切なそうな。
困惑した様な、当惑した様な、落胆した様な。
そんな彼女の表情を少しでも元気づけたくて俺は言う。

「俺にとって鶴屋さんは、SOS団を抜けることになっても守りたい程に大事なんだって」

 少々以上にくさい台詞なのは理解してる、我ながらよくこんな台詞がポンと浮かぶ物だ。
しかしそんな発言でも、少しは鶴屋さんの心を晴れ渡らせたか、先程よりもさらに素晴らしい見とれる笑顔を見せてくれた。

「えへへ、お姉さん照れちゃうよ〜」

 そう言っておどけて見せる鶴屋さんには先刻までの憂いは見られなかった。



185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/04(水) 04:42:44.65 ID:GLo9ChECO


―――

「では、俺はこれで」
「あんがとキョン君! また明日ね!」

 手を振る鶴屋さんに別れを告げて自宅に向けて自転車をこぐ。
いまから全力で帰っても付く頃には真っ暗だな。
妹にまた質問攻めにされる。

 等々、家に帰ってからの事を早々に考えていた俺なのだが、
どうやらそれは少しばかし時期尚早だったらしい、このイベントを忘れるとはらしくない。

「よぉ古泉」

 咄嗟の反応が遅れて古泉の居る場所までバックしながら声を掛ける。

190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/04(水) 05:11:45.36 ID:GLo9ChECO


「どうも、二時間ぶり位ですかね?」

 そう言う古泉はいつもと変わりない様に見える。
わざわざ鶴屋さんから俺の自宅までの道程の中間で待ってたりする所を見ると、
どうやら閉鎖空間はできなかったようだな。

「ご明察ですよ、彼女は落ち込むのに精一杯で怒りを覚えていない」

 ふん、映画撮影と同じような流れだな。
まったく成長しないな、俺もあいつもな。

「さて、どうでしょうか? あなたがわざわざあの様な場所であの様な発言をしたのは
こうなるとあなたが確信していたからのように思えるのですが」

 勝手に思え。思うだけなら自由だし俺も否定はしない。
肯定もしないがな、俺はお前らみたいに常に先を見通さなくちゃいけない生活を送っちゃいないんだよ。
比較的行き当たりばったりで生きてるんだ。

337 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/04(水) 16:56:56.97 ID:GLo9ChECO

>>190

「それは素晴らしい事だと思いますが?」
「言ってろ」

 時期が時期、日の入りも過ぎて暗くなった夜道はやけに寒々しい。
街灯の照らす光に吸い寄せられる蛾に目をやる。

「しかし、このままではいけない。涼宮さんはいまは落ち込んでいますが、
そのうちそれは怒りに転換されます。となれば確実に世界は閉鎖空間に覆われます」

 で、お前は俺にどうしろと? 謝る気は更々ないぞ。
団に戻るだけならいいがな、ハルヒはともかくお前達との交流の場がないのはつまらん。

「それは、……まぁ光栄ですが…」
「わかってる、お前達。特にお前の立ち位置を考えれば言いたい事も、だが無理だ」



340 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/04(水) 17:06:01.41 ID:GLo9ChECO


 昨日殴り飛ばそうとして、次の日にはごめんなさいなんて有り得はしない。
そもそも映画の時が無茶だったのだ、あの時すんなりと謝った俺はどうかしてた。

「どうしても無理ですか?」
「知らねえよ、ただいまの俺はやらないって言ってるんだ。
喧嘩した直後の頭に鮮明に残ってる状態で謝れってのが無理難題だろ?」
「おっしゃる通りですよ、けれどそれはただの喧嘩の場合です」
「俺とハルヒだってただの喧嘩だ、観測するお前らがただの人間じゃねぇんだよ」


341 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/04(水) 17:24:24.82 ID:GLo9ChECO


 押し黙る古泉に別れを告げて、俺は自転車のペダルをこぐ。
かなり遅くなってしまった、また文句を言われる。

『あんたには関係ないでしょ!』

 完全に再生される声。

348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/04(水) 17:46:24.97 ID:GLo9ChECO


―――

「おかえりー、遅かったねキョン君!」

 妹の強烈な愛情表現アタックに辟易しつつ、
帰宅の挨拶もそこそこに自室に戻る。

「キョン君、なんでこんなに遅かったの?」
「ちょっと回り道してな、すまん」

 自室までちょこちょことついてくる妹に適当に返事しながら、部屋に到着。
妹を追い出して着替える。

「はぁ」

352 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/04(水) 18:31:29.86 ID:GLo9ChECO


 制服のポケットから携帯を取り出し開く。
古泉と話してる途中に振動していた携帯には、未読メールが二通あった。
一つは鶴屋さんから、一つは長門から。
片手でそれを読みながら制服をハンガーにかけてベットに座り込む。

354 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/04(水) 18:39:48.79 ID:GLo9ChECO


『今日はごめんね。キョン君はあぁ言ってくれたけど、やっぱり心苦しいかな。
私なにか浮かれてたみたいで…、でも送ってくれて嬉しかったよ! ありがと!』

 以上鶴屋さんから。

『涼宮ハルヒには明日以降無暗に接触するべきではない、涼宮ハルヒの前で彼女と会うべきでもない、気をつけて』

 これが長門の分。
いやはやなんとも言えないね。

365 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/04(水) 19:51:32.10 ID:GLo9ChECO

>>354

 携帯を机に戻して、寝転がる。
明日は平日、当然登校すれば後ろにはハルヒ。
対応を考えないとな…。長門は接触するなと言ってたし学校を休むのも手だが。
昨日の今日で休んだら鶴屋さんにあらぬ誤解を与えかねない。

「やっぱ行くしかないよな〜」

384 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/04(水) 21:30:02.72 ID:GLo9ChECO


 それからしばらく愚考と呼べるなにかを続けていたもののなにが浮かぶ訳でもなく。
夕食の時間を告げにきた妹と階下に降り、
母が用意した青椒肉絲を腹一杯食べる作業に移行した。

 結局の所、俺はなにを知ろうとなにと居ようとただの高校生なのだった。
だからこそハルヒが許せないのだが。


389 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/04(水) 21:49:10.33 ID:GLo9ChECO


―――

 次の日、からっぽの鞄を持って投稿した俺はかなり驚いた。
あんなに意気込んでいたにも関わらず俺一個後ろの席は空席だった。
肩透かしを食らった気分だが、しかしべつに問題がある訳ではなく、
むしろ問題を先送りにできたと内心俺は喜んでいた。

「おはようキョン」
「国木田か、おはよう」

 久し振りに普通に穏やかな気分でクラスメートと挨拶を交わす。
こんな日常を最近は忘れてた事に気付いた。まったくずいぶんとハルヒに引っ張られてたんだな。



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