花沢「ここが雛見沢村ね!」


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1 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 13:51:15.16 ID:WltghsRq0


花沢「自然はたくさんあるし、空気は美味しいし、もう最高!」
金次郎「気に入ったか? 花子?」
花沢「あ、父ちゃん! この村、すっごくいいわぁ!」
金次郎「なかなか良い物件を見つけただろ?」
花沢「住み心地もいいし、ちょっと埃っぽいけど、住居としては十分よ!」
金次郎「はっはっは、まぁそう褒めるな///」
花沢「ううん、流石アタシの父ちゃんだわ、偶然こんな良い家を見つけるなんて!」
金次郎「この雛見沢村で花沢不動産二号店を開いて、いずれは全国展開の架け橋にするつもりだ」
花沢「きゃー! 父ちゃんステキ! 抱いてー!」

梨花「なんだか祭具殿の中が騒がしいのです」
沙都子「鼠でもいるんじゃありませんの?」


3 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 13:53:06.25 ID:WltghsRq0


金次郎「はい、よろしくお願いしますぅ」 ガチャ
花沢「父ちゃん誰と電話してたの?」
金次郎「明日からお前が通う、雛見沢分校の校長先生だ」
花沢「え゛ぇ〜ッ! 聞いてないわよ、そんな話」
金次郎「しばらくここで暮らすんだ、現地の学校に通わないとなぁ」
花沢「あ゛〜ぁ、せっかく夏休み気分で引っ越して来たのが、台無しじゃない」
金次郎「とはいえ、ずっと家にいるわけにもいかんだろう」
花沢「もう、父ちゃんのケチ!」
金次郎「わかったら寝なさい、明日は早いんだぞ」

梨花「やっぱり祭具殿が騒がしいのです」
沙都子「ホームレスでも住み着いたんじゃありませんの?」
梨花「あんな所で生活する奴は気が狂ってるのです」


4 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 13:54:26.74 ID:WltghsRq0


 第一話 「花沢不動産 雛見沢支店」

――――――――――翌日――――――――――

レナ「け〜いちく〜ん!」
圭一「おう、おはようレナ!」
レナ「今日はいつもと違って早いんだね」
圭一「あぁ、転校生が来るって噂だからな、興奮して眠れなかったぜ」
レナ「やっぱり圭一くんは可愛い女の子がいいのかな?」
圭一「そっ、そんなことは……」
レナ「女の子だったら部活メンバーに入れてあげる?」
圭一「当たり前だろ! 勝者の楽しみが増えるってもんだぜ!」
レナ「やっぱり女の子がいいんだね、ふふ」
圭一「そ、そりゃ、まぁ……」
レナ「あはは、良い人だったらいい――」

花沢「い゛ぞの゛ぐーん!」
圭一「!?」


6 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 13:55:51.33 ID:WltghsRq0


レナ「え? いぞ?」
圭一「あの、人違いじゃないですか? 俺は」
花沢「い゛ぞの゛ぐーん!」
圭一「いや、だから俺の名前は前」
花沢「い゛ぞの゛ぐーん!」
圭一「俺は前ば」
花沢「い゛ぞの゛ぐーん!」
圭一「前歯」
レナ(圭一くん……)


花沢「あ゛はは! 脅かしてごめんね!」
レナ「圭一くんの知り合いなのかな? かな?」
圭一「ちっ、違う! 赤の他人だ!」
花沢「あなた、い゛ぞの゛ぐんにそっくりだったから!」
圭一「やっぱり人違いじゃねーか……」
レナ「その『びぞの』って人は、そんなに圭一くんに似てるんですか?」
花沢「やだもう! 『い゛ぞの゛』よ! ちゃんと発音して!」
レナ(殺したい……)


7 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 13:57:15.96 ID:WltghsRq0


花沢「それにしても、あんたホント磯野くんに似てるわね!」
レナ(あ、磯野か)
圭一「そんなに俺に似てるのか?」
花沢「瓜二つよ! 隣にいたら区別がつかないくらい!」
レナ「へぇ……世の中にはそんな人もいるんだね」
圭一「一度会ってみたいもんだな!」
花沢「きっと驚いて顎が抜けちゃうわよ〜?」
圭一「腰が抜けるんじゃないのか?」
花沢「あ゛はははははははは!!!! 冗談よ冗談!!!!」
圭一「…………」
レナ「…………」
花沢「あ゛はっははばっばはっはばっは!!!!」
レナ(うるさい子だなぁ……)


8 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 13:58:31.42 ID:WltghsRq0


圭一「ところで、あんた誰なんだ?」
花沢「あら! いっけな〜い、もうこんな時間!」
圭一「いや聞けよ」
花沢「今日から新しいクラスなのに、遅刻しちゃいられないわ!」
圭一(新しい……クラ……ス?)
花沢「じゃあね! またどこかで会いましょ!」
レナ「…………」
圭一「…………」
レナ「行っちゃったね」
圭一「あぁ」
レナ「…………あの人、新しい」
圭一「聞きたくない」
レナ「ごめん」


9 名前: ◆N00Fy6IYcA [sage] 投稿日:2009/03/01(日) 13:59:46.15 ID:WltghsRq0


 ――学校――

圭一「おはよー」
沙都子「あらあら! 圭一さん遅刻ですわよ〜!」
梨花「みー……レナと一緒に遅れるのは珍しいのです」
魅音「どうしたのレナ? なんだか元気ないね」
レナ「あはは、今朝はちょっとね」
魅音「そんなんじゃ転校生に顔合わせできないよ? ん? ん?」
レナ「あ……あはは……」
魅音「一体どんな子が来るのか楽しみだねー!」
レナ「…………うん……」
魅音「何して遊ぶのかもう決めてあるんだよ! まずは神経衰弱!」
レナ「……………………」
魅音「それでね! それでね! それでね!」
レナ「…………チッ」
圭一「おいレナ、ハサミしまえよ」


10 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:01:00.29 ID:WltghsRq0


     ガラッ

梨花「チャイムが鳴って先生が来たのですよ」
沙都子「どうしたんですの梨花? 見ればわかりますわよ」
梨花「台詞だけだと判断できないのです」
沙都子「何を言っているのかわかりませんわ……」
梨花「ドアとチャイムの擬音を同時に書くとスペースがもったいないのです」
沙都子「ちょっと、本当に何の話ですの!?」
圭一「いいから先に進めよ」

知恵「はーい、今日は転校生が来ますよー」
クラス「「「わーい」」」
知恵「こっちですよ、入ってください」


??「ごんに゛ぢわぁ!!」
クラス「「「!?」」」


13 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:02:38.91 ID:WltghsRq0


知恵「今日からみんなと同じ教室で勉強する、花沢花子さんです」
花沢「よろしくお願いします! 父ちゃんは不動産会社を経営してます!」
クラス「「「…………」」」

沙都子「ちょ、ちょっと反応に困るタイプの方ですわね……」
梨花「ドラえもんかと思ったのです」
魅音「ま、まぁ、悪い子ではなさそうだけど……」
レナ「花沢さんって言うんだね」
梨花「ドラえもんかと思ったのです」
魅音「度胸だけはありそうだねぇ……クックック」
圭一「おい止めろ魅音、早まるな」
沙都子「お〜ほっほっほ! どんな強敵でも相手になりますわ〜!」

梨花「ドラえもんかと思ったのです」


15 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:04:03.44 ID:WltghsRq0


 ――放課後――

レナ「で、結局メンバーに入れちゃったんだね」
圭一「だって魅音の奴、言い出したら聞かないんだよ」
花沢「よ゛ろ゛じぐね゛ぇ!!」
魅音「えっと、花沢さんだっけ……?」
花沢「父ちゃんは不動産会社を経営してるの!」
沙都子「花沢さんは、どこから転校してこられましたの?」
花沢「五年三組よ!」
圭一「どこのだよ」
花沢「かもめ第三小学校よ!」
圭一「それがどこにあるか訊いてんだよ」
レナ「殴っていいのかな? かな?」
花沢「あ゛ははははははははははははは!!!!」
梨花「死ねなのです」


17 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:05:24.49 ID:WltghsRq0


花沢「あ、そうだ! 誰か住む家に困ってる人いない?」
圭一「少なくともこの中にホームレスはいねーよ」
沙都子「は、はは花沢さんはどこに住んでらっしゃるんですの?」
花沢「あ゛たしの家はね、古手神社の境内にあるの!」
梨花「おい」
花沢「誰も住んでない物件を父ちゃんが見つけたのよ!」
レナ「うわぁ……」
魅音「それって祭具……」
圭一「おいおいマジかよ……」
沙都子「ドン引きですわ……」
花沢「ちょうど良かったから、ちょっと借りて会社にしたの!」
梨花「ちょっと待て」
花沢「不動産に困ってる人は、うちの会社に相談してね! あ゛はははは!」
梨花(駄目だこいつ……早く何とかしないと……)


21 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:06:37.55 ID:WltghsRq0


圭一「おい魅音、本当に花沢さんも一緒に部活するのか?」
魅音「何? 圭ちゃんは嫌なの?」
圭一「……別に……駄目なわけじゃないさ」
レナ「きっと、花沢さんも転校してきたばかりで不安なんだよね」
沙都子「そうは見えませんでしたけど……」
圭一「花沢さんに一日でも早く友達ができればいいと、俺は思ってる」
魅音「うん、それにはおじさんも同感だよ」
レナ「みんなで仲良く遊べるのが一番だと思うな」
沙都子「でも……梨花が……」

梨花「…………」

圭一「……梨花ちゃん……」
魅音「そっとしておいてあげなよ、圭ちゃん」
圭一「そうだな。自分の家の敷地内に他人が住み着いてたんだ」
レナ「ナイーブにもなるよね」
圭一「もし俺が梨花ちゃんの立場だったら死にたくなるぜ……」
沙都子「今は一人にしておくのが一番ですわね」
圭一「ああ……」

花沢「よくわかんないけど、元気出しなヨ!!」
梨花「!?」


22 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:08:03.38 ID:WltghsRq0


 ――五分後――

レナ「な、なんとか梨花ちゃんの機嫌も直ったみたいだし……」
魅音「今日の部活を始めるよ!」
圭一「確か、種目は神経衰弱だったよな」
沙都子「おーっほっほ、初心者にも手加減しませんわよ!」
花沢「あ゛ははははははははははははは!!!!」
梨花「にぱー……」

圭一(花沢さんには悪いけど、トランプ勝負ならこっちのもんだぜ……いっひっひ……)
魅音(部活メンバーは裏面の傷を目印に当てることができるからね……くけけけけけけ……)
沙都子(手加減はしないと言いましたわよ……くすくす……)
梨花(最初のターンで決着をつけてやるのです……にやにや……)
花沢(よくわかんないけど、前原くんって磯野くんに似てるわぁ……///)
レナ「み、みんな陰険だよ……はう〜」
圭一「地獄を見せてやるぜ!」
梨花「みー☆」


24 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:10:08.54 ID:WltghsRq0


 ――数時間後――

圭一「へっへーん、やっぱり最下位は花沢さんだったな」
花沢「みんな強いわねぇ! あ゛だじ、一ターンも回ってこなかったわよ!」
レナ「じゃあ最下位の人には罰ゲームだね」
圭一「……あ」
魅音「今日の罰ゲームは『上半身はメイド服を着て、下半身はスクール水着、それにニーソックスを――」
圭一「ちょっと待て魅音」
魅音「何? どうしたの圭ちゃん?」
圭一「あああのさ、花沢さんって部活初めてだろ? だから罰ゲームはちょっと……」
レナ「そうだね……まだ一日目なんだから、今日は免除してあげてもいいと思うな」
花沢「スクール水着のメイドさんって、あ゛だじ憧れてたのよね〜///」
圭一「!?」

 ここからが本当の地獄だった。
 花沢が突然、躊躇なくスカートと一緒に下着を脱ぎ捨てたのだ。
 訳がわからないまま、茫然自失する部活メンバー。
 やがて騒然となる教室。泣き出す下級生。顔面蒼白の男子。或いは女子の悲鳴が反響する。
 最初に状況を把握した魅音が、慌てて花沢の下半身を隠すが、既に時は遅し。
 彼女が最もこの光景を見せたくなかった人物――前原圭一の眼球には、しっかりと陰部が焼きついていた。
 今となっては、何故この時、花沢がスカートと共に下着まで脱ぎ捨てたのかを知る術はない。
 だが、いずれにせよ、この日前原圭一の網膜に刻み込まれた“ソレ”は、一生彼を苦しめ続けることになる。


26 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:11:50.64 ID:WltghsRq0


 ――下校時間――

沙都子「では、みなさんさようならですわ!」
梨花「また明日なのです☆みー」
レナ「うん、また学校でね」
魅音「明日の部活は負けないよ!」
花沢「ばいばい! い゛ぞの゛ぐーん!」
圭一「磯野じゃねーよ」

レナ「はぁ……なんだか今日は疲れたね……」
圭一「まぁ、色々あったからな……」
魅音「そう言えば、明後日は綿流しのお祭りだったよね」
圭一「綿流し? あぁ、あの人が死ぬっていう」
レナ「端的に言えばそうだね」
魅音「それでさ、今年は花沢さんも入れて六人で祭りに行こうと思うんだ」
圭一「あぁ、もう花沢さんは立派な部活メンバーだからな!」
レナ「なかなか“筋”が良かったもんね」
魅音「ちょっと、レナ……」
レナ「ご、ごめん……」
圭一「…………」

28 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:13:24.47 ID:WltghsRq0


 ――その頃――

花沢「じゃあ、あ゛だじの家こっちだから!」
梨花「ちょっと待って下さいなのです」
花沢「どうしたのよ?」
梨花「花沢が住んでる家というのは……」
花沢「あそこよ!」
梨花(やっぱり祭具殿だったわね……)
梨花「……よく聞くのです。あの建物は――」

金次郎「おや、花子ぅ」
花沢「父ちゃん! 紹介するわね、梨花ちゃんよ!」
梨花「ど、どうも初めましてなのです……」
金次郎「これは可愛らしいお嬢さんだ、花子と同じ学校の?」
梨花「はいなのです……」
金次郎「この近くに住んでるのかい?」
梨花「えっと、実は、花沢の住んでる場所は――」
金次郎「奇遇だねぇ、うちの家がすぐ近くにあるんだよ」
梨花「いや、だからそれは」
金次郎「どうだい? 今夜は我が家で晩御飯でも」
花沢「さっき事務所の改装も終わったのよ!」
梨花(改装!?)


30 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:14:40.03 ID:WltghsRq0


 ――その日の夜――

花沢「たーんと食べてね! 母ちゃんの料理は絶品なの!」
梨花「いただきますなのです」
沙都子「あ、ありがとうございます……」
花沢「はい父ちゃんビール」
金次郎「おっ、気が利くなぁ!」

沙都子(ちょっと梨花!)
梨花(言いたいことはわかってるのです)
沙都子(何で祭具殿が普通の事務所みたいに改装されてるんですの!?)
梨花(止められなかったのです)
沙都子(今年の祭り、どうするつもりですの!?)
梨花(何も知らなかったと主張するのです)
沙都子(で、でも……)

金次郎「ん? どうした沙都子ちゃん? 箸が進んでないじゃないか」
花沢「お口に合わなかったのかしら……?」
沙都子「そ、そんなことはありませんわ」
金次郎「はっはっは、遠慮せずにじゃんじゃん食べなさい」
梨花「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」


31 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:16:18.11 ID:WltghsRq0


 ――三十分後――

金次郎「それじゃあ、梨花ちゃんと沙都子ちゃんは一緒に暮らしてるわけかぁ!」
沙都子「そ、そうでございますのよ」
梨花「色々と事情があるのですよ☆みー」
花沢「それにしても梨花ちゃん、よく食べるわねぇ」

梨花「サンマの塩焼きジュウジュウ!」
花沢「大根おろしショリッショリッ!」
金次郎「炊き立てご飯パカッフワッ!」
沙都子「え、えっと、え?」
梨花「…………」
花沢「…………」
金次郎「…………」
沙都子「え? な、何ですの?」
梨花「…………」
花沢「…………」
金次郎(大根おろしだよ、沙都子ちゃん)
沙都子「え? 大根、何?」
梨花「…………」
花沢「…………」
沙都子「うゎああああああああああああああああああああああん!!」


33 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:17:33.39 ID:WltghsRq0


 第ニ章 「ツイストで目を覚ませ!」

――――――――――翌日――――――――――

レナ「おはよう、圭一くん」
魅音「おはよう圭ちゃん」
圭一「あぁ、二人ともおはよう」

沙都子「お〜っほっほ! おはようございます、圭一さん!」
梨花「おはよう☆なのです、圭一」
圭一「沙都子、梨花ちゃん、おはよう」

花沢「い゛ぞの゛ぐーん!」
圭一「だから磯野じゃねーっつてんだろ」
レナ「ねぇ、今のうちに花沢さんにも話しておこうよ」
圭一「そうだな」
花沢「あら何の話?」
魅音「明日の予定なんだけどさ、用事とかないよね?」
花沢「焦らさないで何のことか教えなさいよ〜」
レナ「あはは、ごめんごめん」


34 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:18:52.22 ID:WltghsRq0


 ――説明後――

花沢「え゛ぇ〜ッ!? 綿流しぃ?」
圭一「なんだ、花沢さんは知らなかったのか?」
花沢「そんなの初耳よ〜」
魅音「毎年、村が一丸となって取り組んでる行事だよ」
梨花「人が消える祭りなのです」
花沢「ふ〜ん、それで、みんなもお祭りに行くの?」
圭一「あぁ、俺も初参加なんだけどな」
レナ「花沢さんも一緒においでよ、きっと楽しいよ」
梨花「でも人が消えるのです」
沙都子「ちょっと梨花……」
花沢「楽しそう〜! あ゛だじも行ってみようかしら!」
魅音「私たちは大歓迎だよ! ね、圭ちゃん!」
圭一「あぁ、メンバーは一人でも多いほうが盛り上がるからな!」
花沢「今から明日が楽しみだわ゛〜!」


37 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:20:30.04 ID:WltghsRq0


 ――放課後――

魅音「今日の部活はマリオパーティーだよ!」
梨花「みぃ……テレビがないのです」
沙都子「ゲーム機もありませんわ」
圭一「どうするんだよ、魅音」
魅音「……ごめん」
レナ「じゃあ、今日は花沢さんに雛見沢を案内してあげるのはどうかな?」
圭一「そうだな……それはいいアイディアだと思うぜ」
沙都子「まだ引っ越して三日目ですから、知らない場所も多いと思いますわ」
レナ「花沢さんも、これでいいかな? かな?」
花沢「うわ゛〜本当にいいの!?」
圭一「気にすんなって、俺たち仲間だろ?」
花沢さん「ありがとう! い゛――」
圭一「磯野じゃないからな」


39 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:21:56.57 ID:WltghsRq0


 ――十分後――

レナ「えっと、まずはあれが……」
花沢「入江診療所ね!」
魅音「それで、あそこに見えるのが……」
花沢「古手神社よね!」
圭一「次に、あの白い建物が……」
花沢「い゛ぞの゛ぐんのお家!」
圭一「前原な」
沙都子「さっき来た道を逆に戻れば……」
花沢「私たちの学校に出るのね!」
梨花「さらに右に曲がって真っ直ぐ行けば……」
花沢「つり橋でしょ?」

圭一「……花沢さん、さっきから詳しすぎないか?」
レナ「はう〜、雛見沢に来て三日目とは思えないよ〜」
魅音「何でそんなに詳しいの?」
花沢「あ゛ったり前じゃない! こう見えても不動産屋の娘よ! 引越し前に全部調べたの!」
レナ「…………」
圭一「…………」
花沢「みんなより詳しいかもしれないわね! あ゛はははははははは!!!」
魅音「…………」
沙都子「…………」
花沢「あ゛ははっはっばばはははっははばっはばっは!!!!」
梨花「一日を棒に振ったのです」


40 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:23:20.39 ID:WltghsRq0


富竹「やぁ!」
鷹野「こんばんは」
レナ「あっ、鷹野さん」
沙都子「こんばんはですわ、鷹野さん!」
魅音「こんな時間に珍しいですね、鷹野さん」
鷹野「往診の帰りなのよ……あら?」
圭一「は、初めまして」
鷹野「あなたが噂の前原圭一くん? そちらが花沢さんね」
圭一「あの、どこかでお会いしましたっけ?」
レナ「鷹野さんは村の診療所の看護婦さんなんだよね」
富竹「僕は富竹、フリーのカメラマンさ!」
圭一「看護婦さんか……どこかで見たことあると思ったぜ」
魅音「じゃあ私たちはこれで」
レナ「そうだね。さようなら、鷹野さん」
鷹野「またね……くすくす……」

富竹「ばいばーい!」


41 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:25:20.83 ID:WltghsRq0


 ――その日の夜――

花沢「ねぇ、父ちゃん」
金次郎「どうした花子ぉ?」
花沢「明日のお祭り、友達と行ってもいい?」
金次郎「いいとも、楽しんできなさい」
花沢「や゛ったー! 嬉しい!」
金次郎(早速、いい友達ができたようだな)
金次郎「そうだ花子、一つ訊いておきたいことがあるんだが……」
花沢「何? 父ちゃん? 仕事の話?」
金次郎「この村で、ここ数年の間に妙な事件が起きたと聞いたんだが、何か知らないか?」



   『知らない』



 それは……
 返答というよりも、はっきりとした拒絶だった。
 そんな花子の言葉を聞いたのは、これが初めてだった。

金次郎「そ、そうか……いや、実はな……」


42 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:26:58.66 ID:WltghsRq0


 ――説明後――

花沢「え゛ぇ〜ッ!? 雛見沢連続殺人事件?」
金次郎「なんだ花子ぉ、本当に知らなかったのか?」
花沢「そんなの初耳よ〜」
金次郎「父ちゃんに何か隠し事してるのかと思ったじゃないか」
花沢「隠し事するようなこと、何も知らないわよ!」
金次郎「それもそうか(笑)」
花沢「それより、事件のこと、もっと詳しく教えて〜」
金次郎「まず、最初の事件が起こったのが4年前らしい。
     ダム工事の現場監督が殺されて、犯人は未だ逃走中……」
花沢「父ちゃん怖いわ〜!」
金次郎「翌年、ダム誘致派だった北条夫妻が何者かに殺害された。
     更にその翌年、梨花ちゃんのお父さんが亡くなった。
     そして去年は沙都子ちゃんの叔母さんが死亡……」
花沢「そんなの偶然よ〜! 東京じゃ毎年どころか、毎日人が死んでるのよ?」
金次郎「とにかく、これが『オヤシロ様の祟り』と呼ばれる事件だそうだ」
花沢「ねぇ父ちゃん、今年はどうなると思う?」
金次郎「駄目だ。もう寝る時間だぞ、早く布団を敷きなさい」
花沢「もう、父ちゃんのケチ!」


43 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:29:28.59 ID:WltghsRq0


―――――そして、綿流し当日―――――

花沢「い゛ぞの゛ぐーん!」
圭一「磯野じゃねーよ」
梨花「こんばんはなのです、圭一」
魅音「おっ、梨花ちゃん似合ってるよ!」
圭一「よくわかんないけど踊るんだってな、頑張れよ!」
梨花「今年はツイストなのです」
金次郎「今日は、うちの花子がお世話になりますぅ」
レナ「は、はい……」
レナ(本当に祭具殿で生活してるよ……)
魅音「花沢さんのお父さんも来るの?」
花沢「うちの父ちゃんも祭りが大好きなのよ!」
魅音「くっくっく……七凶爆闘かぁ……」
圭一「おい魅音、頼むからよせ」


45 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:30:46.49 ID:WltghsRq0


金次郎「う〜ん、盛り上がってるねぇ」
詩音「村の皆が一丸となって参加する祭りですから」
魅音「詩音! あんた来てたの?」
花沢「ワカメちゃん!?」
圭一「誰だよ」
詩音「こちらの方は……?」
沙都子「新しく転校してこられました、花沢花子さんですわ」
詩音「あぁ、あなたが噂の……」
魅音「紹介するよ、私の妹の園崎詩音」
花沢「よ゛ろ゛じぐね、ワカメちゃん!」
詩音「ワカメじゃねーよ」

圭一「とにかく、これで全員揃ったわけだ」
レナ「楽しいお祭りになるといいね!」
花沢「あ゛はは! 今年は誰が消えるのかしら!」
詩音「…………」
花沢「楽しみだわ〜」


47 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:32:39.32 ID:WltghsRq0


鷹野「くすくす……子供は無邪気でいいわね……」
金次郎「えぇっと……あなたは確か……」
鷹野「初めまして、診療所で看護婦をしてます、鷹――」
金次郎「あぁ、高野さんとこの美代子ちゃんか!」
鷹野「ッ……!?」
金次郎「いやぁ大きくなったねぇ、何年ぶりかなぁ」
鷹野「え、ちょ、え? 何で? え?」
金次郎「久しぶりだねぇ、お祖父さんは、まだ研究続けてるのかい?」
鷹野(おおお落ち着け……KOOLになるのよ三四……)
金次郎「うーん、覚えてないのも無理はないかぁ」
鷹野「どどどどこかでお会いしたことが?」
金次郎「昔、高野さんのお祖父さんに物件を紹介したことがあってねぇ」
鷹野「おじいちゃんに……?」
金次郎「そう、その時に女の子がいたのを覚えてるよ」
鷹野「……………………」
金次郎「あの女の子が、今じゃこんなに大きくなってるとはねぇ……」
鷹野「…………」


49 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:34:31.41 ID:WltghsRq0


花沢「父ちゃーん!!」
金次郎「じゃあ、娘が呼んでるから失礼するよ」
鷹野「……え、ええ……」
金次郎「お祖父さんにも、よろしくねぇ」
鷹野「…………あの!」
金次郎「何だい?」
鷹野「……いえ……失礼します……」

鷹野(これはマズいわ……まさか、おじいちゃんのことを知ってる人が現れるなんて……)
富竹「どうしたんだい? 何か心配事でもあるのかな?」
鷹野「ジロウさんは黙ってて」
富竹「そうか、女の子の日なんだ! 生理なんだね三四さん! 生理! 生理!」
鷹野「時報はすっこんでろ」
富竹「やれやれ……つれないなぁ」
古泉「困ったものです」
富竹「!?」


53 名前:細かい矛盾は許して下さい…… ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:37:23.13 ID:WltghsRq0


花沢「父ちゃんこっちよこっち〜!」
詩音「花沢さんって、本当にお父さんと仲がいいですね」
圭一「だな、見てるこっちが恥ずかしくなっちまうぜ」
レナ「うちのお父さんとは大違いだよ……はぅ」
圭一「そういえばレナのお父さんって、今日は何してるんだ? 休みじゃないのか?」
レナ「一人で映画館までプリキュア観に行ってるよ」
詩音「うわぁ……」
レナ「最初は私も誘われたんだけど……」
圭一「こ、断ったのか」
レナ「家を出る時にね、『礼奈は誰が好きだ? 父さんはババアが好き。ババア結婚してくれ!』って言われたの」
詩音「…………(ゴクリ)」
レナ「おかげで再婚相手の人は逃げちゃうし……」
圭一「…………ごめん」
レナ「…………」

魅音「ねぇ! 次はあっちで焼きそばの早食い競争やろうよ!」
沙都子「皆さん満腹みたいですわよ?」
魅音「ちぇっ、いいよ、じゃあ私一人で食べてくるから」
梨花「一人で早食い競争するのですか?」
沙都子「そんなわけないじゃありませんの……」
梨花「冗談なのです……」


55 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:38:41.34 ID:WltghsRq0


 ――二十分後――

魅音「ハムッ ハフハフ、ハフッ! やったぁ、私が一番だ!」
金次郎「コラ〜ッ!」
魅音「ひっ……金次郎さん……?」
金次郎「食べ物を粗末にしたら駄目じゃないか」
魅音「え、でも」
金次郎「ちょっとここに座りなさい」
魅音「だって」
金次郎「いいから座りなさい」
魅音「はい……」
金次郎「今魅音ちゃんが粗末にした焼きそばは、農家の人が一生懸命育てた稲からできているんだ」
魅音「え、焼きそばの材料は米じゃない――」
金次郎「口答えしちゃいかん!!」
魅音「…………」
金次郎「黙って聞きなさい、マリア様は見ていらっしゃるんだよ」
魅音「……ぐすん」

57 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:40:00.97 ID:WltghsRq0


 ――五分後――

圭一「あれ、魅音はどこだ?」
花沢「いつの間にか父ちゃんもいないのよー」
沙都子「あ、あそこに人だかりができてますわ!」
梨花「みー☆何かあったのですか?」
男「ん……あぁ、さっきから妙な二人が宗教勧誘を始めてね」
レナ「宗教勧誘……?」
圭一「その二人ってのは……」
男「アレだよ」

魅音「ねぇ、お姉さん、いいでしょ、ちょっとだけ話を」
蘭「私たち急いでるんで……」
金次郎「少し話を聞いてくれるだけでいいんです」
魅音「創価学会ってご存知?」
園子「ちょっと蘭、早く行きましょうよ」
金次郎「おや可愛らしいお嬢さんだ、救済に興味は?」
蘭「ありませんってば!」
魅音「世界を照らす太陽になってみたいと思いませんか?」
金次郎「池田先生は本当に偉大な方なんですよ」
蘭「すみません、父と連れを待たせてるので失礼します!」
魅音「あ、ちょっとお姉さん! ……チッ!!」
金次郎「焦っちゃいけないよ魅音ちゃん」
魅音「そうですね、奴らは地獄に堕ちるんだから」


59 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:41:31.58 ID:WltghsRq0


男「あの人たち……君らの知り合いかい?」
圭一「いえ、知らない人です」
魅音「あ! 圭ちゃんだぁ! お〜い!」
圭一「げっ、こっち来た」
魅音「花沢さんのお父さんから色々教えてもらったんだ!」
男「………………」
圭一「あ、あの本当に誤解しないで下さい」
男「悪いけど、宗教勧誘を受けるつもりはないんだ」
圭一「うわぁああああああああ!!」
魅音「圭ちゃん、困った時はお題目を唱えるといいんだってさ!」
圭一「な、何だよそれ……」
魅音「南無妙法蓮華経」
圭一「え……」
魅音「南無妙法蓮華経」
圭一「ひっ」
魅音「南無妙法蓮華経」

レナ(関わっちゃ駄目……)
沙都子(他人の振りですわ……)
梨花(知らない振りね……)


62 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:43:08.35 ID:WltghsRq0


レナ「そういえば、梨花ちゃん踊らなくていいの?」
梨花「あ、忘れてたのです」
沙都子「梨花はおっちょこちょいですわね〜」
詩音「あはははは」
レナ「なんだか祭具殿の方が騒がしいよ」

村人A「なっ、何ねこれは!?」
村人B「祭具殿に変な看板がかかっとるぞ!」
村人C「ひでぇ……内側まで完璧に改装されとる……」
村人D「何て罰当たりな……今年の祟りはこの家に決まりじゃ!」
村人E「『花沢不動産』? 聞いたことない名前やね」
サトシ「ポケモンゲットだぜ!」
村人F「はよ花沢をここに連れて来んかい!」
村人G「ぶっ殺したらぁあああああ!」
村人H「あっ、梨花ちゃま! これはどういうことなんね?」

梨花「バレてしまったのです……」
沙都子「ど、どうするつもりですの花沢さん!?」
花沢「何とかなるわよ〜(笑)」
詩音「楽観的ですね……」


64 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:44:31.88 ID:WltghsRq0


村人D「梨花ちゃん、これはどういうことなんね?」
梨花「みー☆ボクは何も知らないのです」
村人F「あ、お前が花沢の娘か!」
村人A「悪いが、あんたら一家には出て行ってもらわにゃならん」
村人D「このまま神社に住み着かれると迷惑なんでな」
花沢「え゛ぇ〜ッ!? どうしましょ〜」
金次郎「どうした花子ぅ」
村人C「あんた、この会社の責任者かい」
金次郎「はぁ……それが何か……」
村人F「ちょっと詳しい話、聞かせてもらうんね」

レナ「花沢さんも大変だね……はぅ……」
梨花「完全に自業自得なのです」
沙都子「あら? そういえば魅音さんは?」
レナ「そういえば姿が見えないね」
詩音「圭ちゃんもいないみたいですけど……」

 ――その頃――

圭一「池田先生を信じて寄付すれば、うな重食い放題なんだぜ?」
元太「うな重食い放題!?」
魅音「しかも、あの沖野ヨーコも芸術部なんだよ!」
小五郎「ヨ〜コちゃん!?」


66 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:46:42.07 ID:WltghsRq0


 こんばんは、前原圭一です。
 結局、今年の綿流しのお祭りは、梨花ちゃんがツイストを披露して幕を閉じました。
 花沢家の処遇は夜通し村長さんたちが話し合っていたようですが、まだ結論が出ていないみたいです。
 帰り際に「すぐ解決するよ」って魅音が言ってましたが、本当でしょうか?
 あと関係ないけど、帰宅したらたまごっちが死んでました。
 母さんに世話を頼んでおいたのに、どうやら推理ゲームに夢中になっていて忘れていたようです。
 悔しかったので、部屋を出るとき大声で「それ犯人はヤスなんだぜ!」と叫んだら、晩御飯を抜かれました。
 何度リセットしても親父にしかならない卵型携帯ゲームを抱いて、泣きました。
 子供ってこうして命の尊さを学んでいくんですね(マテ;
 そうそう、富竹さんが死にました。
 帰りに警察の人に色々訊かれたのが面倒くさかったです。
 何はともあれ、今年の綿流しが無事に終わったので、まずは一息……といったところでしょうか(笑)


 P.S 梨花ちゃんが「来年はパラパラを披露したい」と言っていたので、今から楽しみです。


68 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:48:02.57 ID:WltghsRq0


 第三章 「園崎魅音」

――――――――――翌日――――――――――

レナ「…………」
魅音「ってわけで、今朝は三時から起きて唱題したんだ」
圭一「へー」
魅音「五時間しかあげられなかったのは悔しいけどね」
圭一「ふーん」
魅音「池田先生のために、一秒でも多く信心を尽くしたいんだよ」
圭一「ほー」
魅音「こうして社会に貢献して……って、さっきから圭ちゃん聞いてる?」
圭一「へ?」
魅音「聞いてなかったの!? 何なの!? 死ぬの!? それでも学会員のつもり!?」
圭一「あぁ……ごめん」
魅音「ちゃんと私の話を聞いて! 池田先生の御言葉に耳を傾けて! でないと地獄に堕ちちゃうんだよ!?」
圭一「…………」
魅音「もう! しっかりしてよ圭ちゃん! 私たち学芸員は世界を照らす太――」
圭一「悪いな、飽きたから俺は脱会させてもらうぜ」
魅音「は? 何それ? 裏切り? 地獄に堕ちるよ、罰が下る、家族もみんな死ぬよ、大切な人がどうなってもいいんだ、そうなんだね」
レナ「……魅ぃちゃん……」
魅音「先生を侮辱した罰だよ、村が滅ぶんだ、災害が起こるよ、もう謝っても遅いからね、みんな死ぬんだ、圭ちゃんのせいでみんなぁあああああくぁwせdrftgyふじこ」
圭一「……………………」

圭一(たまごっち心配だぜ……)

73 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:50:12.21 ID:WltghsRq0


 ――学校――

花沢「い゛ぞの゛ぐーん!」
圭一「磯野じゃねーよ」
沙都子「あの……魅音さんと喧嘩でもされたんですの?」
梨花「朝から空気が重いのです」
圭一「いや、話せば長くなるんだが……」
レナ「魅ぃちゃんが新興宗教に没頭しちゃったんだよね」
沙都子「ひょっとして昨日のアレですの?」
圭一「あぁ、俺はすぐ飽きたから何ともないんだけど、魅音の奴が……」
レナ「家財道具と土地の権利書全部売り払ったらしいよ」
沙都子「じょ……冗談ですわよね?」
圭一「本当だ、あと魅音の両親が将来のために貯金しておいた金も、全部黙って使ったって」
梨花「げぇマジかよ」
圭一「何でも、十二月の広布基金ってのに備えてるらしい」
レナ「朝三時から起きて準備したんだって言ってたよね」
圭一「仏壇を勝手に庭で燃やして、お魎さんに絶縁されたって聞いたぜ」
梨花「L5より狂ってるのです」
沙都子「そういえば、さっきから詩音さんと揉めてますわね……」
圭一「家財を売り払う際に、詩音の部屋からも色々と持ち出したらしい」
レナ「明日から魅ぃちゃんホームレスなんだって」
梨花「ホームレス女子●生なのです」
沙都子「企画物のAVみたいですわね……」


76 名前:>>72 過去作品のことか? ◆N00Fy6IYcA [sage] 投稿日:2009/03/01(日) 14:52:53.37 ID:WltghsRq0


 ――放課後――

魅音「さぁ、部活の時間が始まるよ!」
花沢「わ゛〜昨日から楽しみにしてたのよね〜!」
圭一「今日もやるのか?」
魅音「へっへ〜ん! 逃げようったって、そうはいかないよ?」
沙都子「普段と変わらない魅音さんに見えますけど……」
梨花「きっと何かの間違いだったのですよ」
レナ「で、今日は何して遊ぶのかな? かな?」
魅音『折伏だよ!』
レナ「……しゃ……ふく……?」
魅音「学会精神をより多くの人に伝えるのが私たち部活メンバーの使命だと思うんだ」
沙都子「(゜Д゜;)」
魅音「私たちが存在している俗世は基底部でしかない……けど、お題目を唱えることで仏界に属することができるんだよ!」
圭一「な、何を言ってるのかさっぱりだぜ……」
妖精(はぁ〜さっぱり さっぱり)
魅音「早くみんなにも絶対的幸福を確立して欲しい……それがおじさんの願いなんだ」
梨花「もうドン引きなのです」


78 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:54:17.04 ID:WltghsRq0


沙都子「魅音さんがあの調子だと、部活なんてできそうにありませんわね……」
圭一「かといって、すぐに帰るのもなぁ……」
レナ「そうだ、前から気になってたんだけど、花沢さんの家って不動産屋さんだったよね?」
花沢「そうよ! 家の相談なら任せて〜!」
レナ「他にも支店があるって聞いたけど、何店舗くらいあるのかな? かな?」
花沢「雛見沢で二号店目よ! ここで繁盛したら、そのまま全国展開する予定なんだって!」
圭一「へぇ……意外と手広く仕事してるんだな」
レナ「花沢さんのお父さんって、スゴく仕事熱心なんだね!」
花沢「やだぁ〜そんなことないわよぉ〜!///」
梨花「職務熱心といえば、こんな笑い話を聞いたことがあるのです。
    ある晴れた日の午後、道を歩いていたら赤い洗面器を頭に乗せた男が歩いてきました。
    洗面器の中にはたっぷりの水、男はその水を一滴もこぼさないように、ゆっくりゆっくり歩いてくるのです。
    ボクは勇気をふるって、
   『ちょっとすいませんが、あなたどうして、そんな赤い洗面器なんか頭に乗せて歩いてるんですか?』
    と聞いてみました。すると男は答えました。
   『それは君の――』


80 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 14:57:16.84 ID:WltghsRq0


   ガラッ

知恵「前原くんと花沢さん、昇降口にお客さんがいらしてますよ」
梨花「…………」
圭一「俺に来客? 客って誰だ?」
梨花「どうせ大石なのです」
知恵「あら、園崎さんはどうしたんですか?」
圭一「ブロック座談会に行くとか言って早退しました」
レナ「魅ぃちゃん……もう部活には興味ないのかもしれないね……」
梨花「もう魅音のことは忘れるのです」
花沢「ちょっとい゛ぞの゛くん! お客さんを待たせちゃ悪いわよ!」
圭一「あ、ああ……そうだったな」


沙都子「二人とも行ってしまいましたわね……」
レナ「仕方ないよ、梨花ちゃんの話は一時中断だね」
梨花「十二……十三……十四……十六……十七……十八……」
沙都子「さっきから梨花は一人で何をやってますの?」
梨花「舌で歯の本数を数えてるのです」
沙都子「暗い遊びですわね」
梨花「また一から数え直しなのです……」
レナ「梨花ちゃん、自分の舌じゃ数え辛くない?」
梨花「みぃ……難しいのです」
レナ「じゃあレナの舌、貸してあげるね」
梨花「!?」


81 名前: ◆N00Fy6IYcA [sage] 投稿日:2009/03/01(日) 14:58:45.55 ID:WltghsRq0


 ――三分後――

大石「んっふっふ〜むぁえぶぁらすゎあああああああん!!」
圭一「日本語でおk」
大石「前原圭一さんですね?」
圭一「はい……失礼ですが、どちら様でしょうか?」
大石「私、興宮署の大石と申します。そちらのお嬢さんが花沢……」
花沢「初めまして、花沢花子です! 将来の夢はい゛ぞの゛ぐんのお嫁さんになることです!」
大石「はぁ、そうですか」
花沢「父ちゃんは磯野くんを跡取りにしたいって言ってるんです、だから親公認カップルってわけなの!」
大石(変なのが来たな……)
圭一「あの、今日は一体何の用で学校へ?」
大石「ここは暑いので……私の車でお話しませんか?」
圭一(ラッキー! クーラーかかってるぜ!)
花沢「い゛ぞの゛ぐ〜ん! きっとこの刑事さん、車の中であ゛だじに変なことするつもりなのよ〜!」
圭一「それだけは無いから安心しろ」
花沢「え゛ぇ〜ッ!? あ゛だじ怖いわぁ〜!」
大石「では、このまま外で話しましょう」
圭一「!?」


82 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:00:28.46 ID:WltghsRq0


大石「富竹ジロウさんが昨晩お亡くなりになりました」
圭一「知ってます」
大石「大きな声では言えませんが……真に奇怪な事件でしてね」
圭一「首掻き毟って死んでたんでしょ?」
大石「……そ、そうです」
圭一「蚊にでも刺されたんじゃないですか?」
大石「いや、そんなことは」
圭一「暑いんで帰っていいっスか?(ワラ」
大石(これが……都会者の無関心……冷淡……KOOL……っ!!)
アカギ「倍プッシュだ……」

 ざわざわ……はなざわ……

圭一「じゃあ、僕はこれで――」
大石「待ってください前原さん、まだあるんです……!」
圭一「なんですか? 早く帰ってたまごっち育てたいんですけど」
大石「実は……鷹野三四さんと思われる女性の焼死体が、山中で発見されました」
圭一「ななななんだってぇええええええええええええええええええええええええええええッッ!!??」
大石(やった! スゴい食いつきですよぉ!)
圭一「そ、そんな……本当に鷹野さんなんですか!?」
大石「歯の治療跡などから見て、ほぼ被害者に間違いないかと」
圭一「くっそぉおおお……あんないい乳したナースが……」


84 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:02:17.86 ID:WltghsRq0


大石「この件は他言無用でお願いしますね、特に――園崎魅音さんには絶対気付かれないように」
圭一「み、魅音が犯人だってのか!?」
花沢「え゛ぇ〜ッ!? そんなの信じられないわよ〜!」
大石「そこまでは言ってません……ですが、彼女の家は村の権力中枢と呼んでも過言ではない、例年の祟りに関わってい可能性が高いんですよ」
圭一「権力中枢ってつまり……」
大石「園崎家の監視網が村中に張り巡らされていると考えたほうが賢明ですねぇ」
圭一「じゃあ、俺たちの行動は全て魅音に筒抜け……」
大石「ええ、何をしても村中に知れ渡ることになると思います」
花沢「そんなの怖いわぁ〜」
アカギ「状況は絶対的不利……っ!」
圭一「俺は一体、どうすりゃいいんだ……」
大石「何か聞いたり見たりしたら、それを教えてくれるだけでいいんです」
圭一「……どうして俺と花沢さんを選んだんですか?」
大石「まだ村に来て日が浅い、しかも祟りを信じていないからですよ」
圭一「…………」
花沢「…………」
アカギ「ククク……」
大石「では、私はこの辺で失礼します」


圭一「こんな話……信じられねぇよ……」
花沢「考えたって仕方ないわよ! のんびりやりましょ!」
圭一「くそっ……この村(と花沢)は狂ってるぜ……」
アカギ「狂気の沙汰ほど面白い……っ!!」
圭一「さっきからお前誰だよ」


86 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:03:45.44 ID:WltghsRq0


圭一「ただいま」
沙都子「っく……ひっ……えっく……うっ……」
レナ「…………///」
梨花「…………///」
圭一「な、何があったんだよ!?」
レナ「何もなかった」
梨花「何もなかったのです」
沙都子「っ……えっ……っく……ひっく……」
圭一「いや、でも」
レナ「しつこいよ圭一くん」
梨花「死ねなのです」

梨花「それより、大石との話し合いはどうだったのですか?」
圭一「り、梨花ちゃん!? どうしてそれを……」
梨花「花沢が言いふらしてたのです」
圭一「あの豚鼻……」
レナ「魅ぃちゃんが祟りの犯人だって言われたんだね」
圭一「……そうだ」
レナ「圭一くんは信じてるのかな? かな?」
圭一「俺は…………」
レナ「魅ぃちゃんが鷹野さんを殺したって、本気で思ってるのかな?」
圭一「………………」
沙都子「魅音さんが、そんなことするはずありませんわ!」
圭一「わかってる……俺だって信じられねぇよ!」
レナ「だったら明日、魅ぃちゃんを直接問いただしてみればいいじゃない」
圭一「あぁ、そうするぜ」


89 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:06:06.90 ID:WltghsRq0


 ――下校時間――

レナ「じゃあね、ばいばい圭一くん」
圭一「あぁ、また明日な」
花沢「ざよ゛う゛な゛ら゛〜!」

圭一「あれ? 花沢さんって、帰る方角こっちだっけ?」
花沢「こっちで合ってるわよ!」
圭一「そういや、祭具殿追い出されたんだよな?」
花沢「そうなのよ〜! おかげで住む家に困ってるの〜」
圭一「じゃあ、今は野宿してるのか?」
花沢「や〜ねぇ! 年頃の乙女が野宿なんてするわけないじゃない!」
圭一「興宮のホテルにでも泊まってるってわけか」
花沢「う゛う゛ん! 村の人が、ボランティアで泊まる家を提供してくれたのよ!」
圭一「へーぇ……親切な人もいるもんだな」
花沢「村長さんたちの話し合いで、一番新しく村に来た人の家がいいってことになったの!」
圭一「…………それって……まさか……」

花沢「今日からお世話になります! よろしくね、い゛ぞの゛くん!」
圭一「!?」


93 名前: ◆N00Fy6IYcA [sage] 投稿日:2009/03/01(日) 15:07:43.99 ID:WltghsRq0


――――――――――翌日――――――――――

花沢「おはよう、い゛ぞの゛ぐん!」
圭一「居候する家の名前くらい覚えろ」
花沢「今日ねぇ、あ゛だじのともだちが遊びに来るのよ〜!」
圭一「友達? 東京にいた頃の知り合いか?」
花沢「そうなのよ〜! だから今日は午後から早退させてもらうわね!」
圭一「俺たちは構わねぇぜ、知恵先生にも伝えといてやるよ」
花沢「あ゛り゛がどう〜い゛ぞの゛ぐ〜ん」
圭一「磯野じゃねーよ」
金次郎「はっはっは、もうすっかり仲良くなったみたいだねぇ」
花沢「父ちゃん!」
圭一「あ、おはようございます」
金次郎「こりゃ同じ部屋で寝泊りする日も近いんじゃないのかぁ?」
花沢「もう! 変な冗談はよしてよ〜///」
圭一「………………」


95 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:09:22.97 ID:WltghsRq0


 ――通学路――

レナ「おはよう、圭一くん……と、あれ?」
花沢「おはよう! レナちゃん!」
レナ「……どうして圭一くんのお家から、花沢さんが出てくるのかな? かな?」
圭一「待て誤解するなこれにはわけがある」
花沢「私たち、昨日から一緒に暮らすことにしたのよ〜!」
レナ「………………」
圭一「違うやましいことは何もないんだ」
レナ「へぇ」
圭一「信じてくれよ!」
レナ「……私、先に学校行ってるから……じゃあね、前原くん」
圭一「レナぁあああああああああああああッ!!」
花沢「あ゛はは!」


圭一「ということがありました」
沙都子「それで、レナさんがあんなに不機嫌でしたのね……」
梨花「女の子と同棲なんて、圭一は果報者なのです」
圭一「百人の花沢より一人のレナだぜ」
花沢「そりゃそうよねー」
圭一「お前のことだよ」
沙都子「それより、魅音さんと話し合わなくてよろしいんですの?」
圭一「あぁ、そうだな……行ってくる……」
沙都子(心配ですわね……)

97 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:10:52.62 ID:WltghsRq0


圭一「お、おはよう」
魅音「……何? 圭ちゃん、昨日のことで謝りにきたの?」
圭一「いや、そうじゃないんだけど」
魅音「用が無いなら帰ってよ、今からお題目唱えるんだからさ」
圭一「魅音……真剣な話がある、よく聞いてほしい」
魅音「真剣な話?」
圭一「そうだ、園崎家に関わる話だ」
魅音「なら私には関係ないよ、昨日の朝に絶縁されたからね」
圭一「ふざけないで聞け! 今年の祟りを起こしたのは、お前の家じゃないんだな!?」
魅音「……圭ちゃんは疑ってるの?」
圭一「俺は信じてる! 魅音はそんなことしねぇって、信じてるんだよ!」
魅音「…………」
圭一「だから、本当のことを――」
魅音「富竹と鷹野さんは死んだんだね……」
圭一「あ、ああ」
魅音「く……っ……くくっ……くくく……」
圭一「……魅音?」

花沢「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ!!」
圭一「黙ってろ鼻ザー」


99 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:13:00.46 ID:WltghsRq0


魅音「あんな奴ら、地獄に堕ちればいい」
圭一「……ッ!?」
魅音「池田先生を信じない連中は、死んで当然なんだよ」
圭一「おい……それ、本気で言ってるのか?」
魅音「当たり前じゃない、それとも何? あんたも焼死したいの?」
圭一「ばっ、馬鹿ぬかすでねぇべさ!!」
魅音「そうだね……鷹野さんが焼死なら、あんたは“溺死”ってのはどう?」
圭一「お前……マジで狂っちまったのか?」
魅音「狂ってるのは池田先生を認めないあんたたちだ! みんな死んで当然なんだ!」
圭一「……畜生……何だよそれ……」
魅音「南無妙法蓮華経」
圭一「止めろ、止めろよぉおおおおッ!」
魅音「南無妙法蓮華経」
圭一「止めろって言ってるだろ!?」
魅音「南無妙法蓮華経」
圭一「うゎああああああああああああああああああああああッッ!!」

梨花「やっぱり、この世界でも私は殺されてしまうのかしら……」
羽入「妙な宗教のせいで、運命のベクトルが変わってしまったのです……」
梨花「やっぱり宗教なんてロクなもんじゃないわね」
羽入「あうあう……」


100 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:14:34.78 ID:WltghsRq0


 ――五分後――

圭一「というわけだ」
レナ「魅ぃちゃんがそんなこと……」
圭一「あいつは、もう俺たちの知ってる魅音じゃないんだ……ッ!」
沙都子「圭一さん……落ち着いて……」
レナ「き、きっと魅ぃちゃんも鷹野さんが死んだことで動揺してるんだよ」
圭一「違う! 今のあいつにとっちゃ、仲間や村のみんなより、池田とかいうジジイの方が大切なんだ!」
沙都子「そんなこと――」
圭一「“ない”って、心から否定できるか?」
沙都子「…………」
レナ「ごめん……」
圭一「レナが謝ることねぇよ……」
梨花「宗教気違いほど怖いものはないのです」
圭一「そうだな……」

レナ「ところで、花沢さんはどこにいるのかな?」
圭一「あぁ、何でも東京から友達が来るからって早退したぜ」
梨花「花沢の友達……ですか?」
圭一「そうだ」
梨花(嫌な予感がするわね……)


102 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:18:44.24 ID:WltghsRq0


 ――放課後――

梨花「じゃあ、また明日なのです」
沙都子「さよならですわ」
圭一「おう、またな」

レナ「……ねぇ、圭一くん」
圭一「ん? 何だ?」
レナ「明日の放課後、何か予定とかあるのかな? かな?」
圭一「いや、特に用事はないぜ」
レナ「一緒に来てほしい場所があるんだけど……」
圭一「ひょっとして、デートのお誘いか?」
レナ「そっ、そんなんじゃ――」
圭一「………………」
レナ「ど、どうしたのかな? 圭一くん?」
圭一「いや、珍しくまともな会話だなと思ってさ……」
レナ「そういえば、しばらく二人で帰る機会がなかったもんね」
圭一(花沢さえ来なけりゃレナとフラグが……くそっ……)

レナ「じゃあね、圭一くん!」
圭一「ああ、また明日学校でな」


103 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:20:06.76 ID:WltghsRq0


 ――帰宅後――

圭一「ただいま」
藍子「あら、おかえりなさい」
圭一「花沢さんの友達はもう帰ったのか?」
伊知郎「………………」
圭一「ん? どうしたんだよ、親父」
藍子「………………」
圭一「母さんまで、何で黙ってるんだ?」
伊知郎「うゎああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
圭一「な、何だ!?」
伊知郎「この一歩は小さいが、人類にとっては偉大な躍進だ」
圭一「な、何言ってるんだよ……親父……」
藍子「心を委ねなさい、圭一。宇宙と一体化するのよ」
圭一「母さんまで一体何なんだよ!」
伊知郎「“絶交”だ」
藍子「“絶交”よ」
圭一「ひぃ」



ともだち「ケーイーチーくーん あーそびーましょー」


108 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:21:59.61 ID:WltghsRq0


昭和58年6月21日 23時38分
××県鹿骨市 雛見沢村 古手神社 梨花宅

 また、夜の帳が下りてしまった。
 幾度も経験した最後の夜。幾度も殺された最期の夜。
 時計の短針が零時を指した瞬間から、私の人生は終焉へ近づいていく。
 死を意識した回数で人間の成熟指標が定まるのなら、確かに、私は立派な魔女と呼べるだろう。
 ……どうしても自嘲気味に考えてしまう。希望を感じられない時というのは、特に。
 隣の部屋で寝ている同居人を起こさないよう、気配を殺して廊下を渡る。
 背後からは微かな吐息。子供が無邪気に歩む足音。いずれも、私にしか聞き取れない。
「羽入……いるんでしょ?」
 その問いに応える者は存在しない。
 いや、私以外には存在を知覚出来ないというべきか。
 野外から響く虫の羽音に混じり、微かに「あうあう」という声が聞き取れた。
「何してたの? また、誰か気になる人間でもいた?」
「あうあう……魅音の後ろを歩いてたら、急に振り返って拝まれたのです……」
 その言葉を聞いて、今回は魅音なのかと落胆した。


109 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:23:28.74 ID:WltghsRq0


 いつもそうだ。
 あと一息という時になって、必ず誰かが発狂する。
 前回はレナだった。その前は確か沙都子。
 遡れば、圭一も大石も、智恵ですらL5発症が認められたこともある。
 次は岡村や富田あたりが発狂するのではないか、などと下らないことを考えてしまう。
「で、彼女の様子はどう? 発症してると思う?」
「……花沢ですか?」
 わかっていながら、羽入は問い返す。
 今回の世界で初めて現れた存在――花沢花子。
 百年ものカケラを生きてきた私でも、彼女がいる世界を見るのは初めてだった。
 当然、これまでにも初見の人間が雛見沢を訪れたことは数多くあった。
 星の数ほどカケラを渡れば、当然様々な出会いもある。
 大量殺人犯を追う風変わりな刑事や、世界を盛り上げる高校生の部活集団、他にも小さな名探偵や、生きた人形を見たこともある。
 ギャンブル狂の男にも会ったし、オーガの息子や、伝説的大怪盗の孫、狂った神父にネコ型ロボットが来たことも……
「……キリがないわね」
「梨花?」
 楽しかったと言えるかどうかは微妙だけど、心地良かった思い出を数え始めると終わらない。
 夜も明けてしまうだろう。それこそ、思い出なんて腐るほどあるのだから。


112 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:25:30.27 ID:WltghsRq0


 いつか――記憶が霞んでしまうほど昔のことだけど。
 誰だったのか、顔も名前も思い出せない、招かれざる客人がいた。
 あの頃は、輪廻に慣れていなかったから何度も彼女の前で涙を見せてしまった。
 すると決まって、彼女は困ったような顔をして、こう言うのだ。

『やらないで後悔するより、やって後悔した方がいいんじゃないかしら?』

 今となっては、一度しかなかった出会いを惜しむことしかできないけど。
 その言葉だけは、百年経った今でも深く胸に刻みつけられている。
 人間の出会いなんて、そんなものじゃないかと私は思う。
 たった一度のすれ違いだったとしても、相手に何かを残せるのなら、満足するべきだ。
 やらないで後悔するより、やって後悔した方がいい。
 確かに人間は面白いことを言う。百年程度では計れない人の歴史の重みだろうか。
 何をしても後悔するのだから、何もしない方がいいとも考えられるだろう。
 にも関わらず、泣いてないで行動しろと、彼女は言った。
 できることを逃して、悔やみたくないのなら。
「そうね、私も同意するわ……悔やみたくないもの」
 この考えは百年経った今でも変わらない。


120 名前:さるさんくらった…… ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:34:47.40 ID:WltghsRq0


「さっきから何の話なのですか?」
 羽入の声で、私は急に現実へと引き戻された。
 思い出を懐かしむのは構わないけど、それは七月以降の楽しみにとっておくべきだ。
 今できることをする。今すべきことをする。輪廻から抜け出してみせる。
 そして、何もかもが終わった後で、思う存分懐古すればいい。
 私はある決意を胸に、背後を振り返る。そこには、困惑するオヤシロ様がいた。
「別に関係ないわ……日本経済の話よ」
「あうあう……難しくてよくわからないのです……」
 本気で信じているあたり、天然なのか何なのか、たまにわからなくなる。
 神様の混乱が落ち着いたところで、私は静かに口を開いた。
「私は明日の夜、みんなに全てを打ち明けるわ」
「梨花…………」
「もちろん花沢も含めてよ、できる全てのことをするの」
 まだ運命には屈しない。屈するつもりもない。
 打ち勝つためなら何だってしてやる。
 友達も、自分も、みんなと一緒に七月を迎えるのだ。
「ボクは……梨花が信じる気持ちを忘れないなら、それでいいのです」
「ええ、信じてるわ……だから打ち明ける、何度でもね」
 私の返答を聞いて、羽入は微笑む。
 だから、私も微笑んでやった。


121 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:38:17.42 ID:WltghsRq0


「今夜は気分がいいから、シュークリームでも食べてあげるわ」
「ほ、ホントなのですか!?」
 オーバーリアクションで喜ぶ羽入を背に、足音を立てないように台所へ向かう。
 静かだった。特に、台所は疑いようもなく静寂に支配されていた。
 階段を下り、少しずつ目的の冷蔵庫へ向かう。

 ……ギシ……ギシ……ギシ……ギシ……ギシ……

 いくら気配を消しているとは言え、ここまで無音の場所では、僅かな足音も耳についてしまう。

 ……ギシ……ギシ……ギシ……ギシ…………ぺた。

 足音の出所が羽入だとわかっていても、今夜は少し違和感を感じた。
 聞き慣れたものとは、確かに、何かが、違う。気味ガ、悪イ。
「羽入、今の足音……誰なの?」
「あうあう……誰もいないのですよ……ボクの足音でもないのです……」
 何かの聞き間違いだったのだろうと、無理やり自分を納得させる。
 結局、その夜には何も起きなかったけど、あの不快感が拭われることはなかった。



 ――だけど、今にして思えば、何も不可解に感じることなどなかったのだ。
 耳に残る足音は、決して羽入が立てるような優しいものだけではない。
 それは、死という存在が忍び寄る予兆でもあるのだから。

124 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:40:01.54 ID:WltghsRq0


 第四章 「ホームレス」

――――――――――翌日――――――――――

 また、夜が明けた。
 部屋には朝日が差し込み、窓際のカーテンが風で揺れる。
 あくまで普段と同じように制服に着替え、トーストで朝食をとり、少々早めに学校へ向かう。
 平静を装ってはいるものの、一度たりとも気分が落ち着くことはなかった。
 これからの行動次第で、全てが終わるか、全てが始まるか。
 少なくとも生死に関わる問題を、常に抱えていることに変わりない。
 教室に入って席に着く。沙都子が圭一と戯れる為、トラップを仕掛け始める。
 見慣れた光景だ。それでも、今のうちに瞳に焼き付けておこう。
 しばらくして、圭一とレナが現れた。いつも一緒に登校して来るはずの魅音はいない。
 どうしたのかと尋ねると、彼らは哀しそうに首を振った。連絡は無かったようだ。
 一時間ほど遅れて来るのかもしれないと、誰かが言ったけれど。私にはわかってしまった。
 彼女が、この世界の学校を訪れる機会は二度とないことを。

 チャイムが響く。担任の智恵が教室に入ってきて、出席をとる。
 何度か名前を呼ばれたが、深緑の髪を靡かせる少女の姿は、そこにない。
 何気なく、窓から外を眺める。こんなにも木々が美しいなんて。
 命の儚さ慈しむことなど、遥か昔にできなくなってしまったけれど。
 それでも、世界の美しさを感じることはできる。
 私は自分の名前が呼ばれるのを耳にし、大きな声で返事をした。


125 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:41:42.37 ID:WltghsRq0


圭一「魅音の奴、どうしちまったんだ……?」
沙都子「どうせ気味の悪い集会にでも出かけてるに違いありませんわ」
レナ「家から追い出されたって聞いたけど……心配だね……」
圭一「そうだな……警察に頼んで保護してもらうってのはどうだ?」
沙都子「駄目ですわよ、今の魅音さんには何を言っても通じませんわ」
レナ「うん、そんなことしたら逆に、魅ぃちゃんは疑心暗鬼に陥っちゃうと思うな」
圭一「何だか、レナの言葉には重みがあるぜ……」
沙都子「やっぱり私たちで何とかするしかありませんのよ!」
圭一「あぁ……だけど、子供の力でやれることなんて限られてるからな……」
レナ「今は状況を窺うことしかできないんだね……はぅ……」
圭一「俺たちは……なんて無力なんだ……ッ!!」

羽入「魅音のことはどうするのですか?」
梨花「大丈夫よ、魅音の保護は入江に頼んであるわ、あとは山狗が何とかしてくれる」
羽入「……あうあう……」
梨花「一人も死なせたりしない、必ず全員で七月を」
花沢「あ゛あ゛ら〜! 梨花ちゃんこんな所で何してるのよ〜?」
梨花「…………」
花沢「一人で喋ってちゃ気味が悪いわよぉ〜! 友達減っちゃうわぁ〜」
梨花(やっぱり花沢は見捨てようかしら……)


127 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:43:14.82 ID:WltghsRq0


花沢「ところで、今何だか子供の声が聞こえなかった?」
梨花「……ボクの声ではないですか?」
花沢「違うのよ! もっと“ホアアーッ!!”て感じの声が聞こえたような気がするの!」
梨花(ほあ……?)
花沢「ねぇ梨花ちゃん、何だか怖いわ〜!」
梨花(……まさかね……)
花沢「どうしたのよ梨花ちゃん?」
梨花「いえ、何でもないのですよ☆にぱー」
花沢「あ゛はは! それもそうよね! 角の生えた子供なんて、いなかったわよね!」
梨花「………………」

圭一「俺たちは……なんて無力なんだ……ッ!!」
レナ「圭一くん、そのセリフ七回目だよ?」
沙都子「きっと自分で良いこと言ったつもりになってるんですわ」
梨花「無力でも何でもいいから、ボクの話を聞いてほしいのです」
沙都子「梨花! どこに行ってましたの?」
レナ「話って何なのかな? かな?」
梨花「みぃ……今は詳しく話せないのです……」
沙都子「それじゃ何の話しかわかりませんわよ?」
梨花「だから今日の夜、ボクの家に来てほしいのです」
一同「「「…………」」」
梨花「夕方頃に電話するのです、だから、必ず……!!」
レナ「梨花ちゃん……」


129 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:44:40.95 ID:WltghsRq0


花沢「わかったわ! お茶菓子用意して待ってて頂戴ね!」
梨花「ありがとうなのです……花沢……」
沙都子「そこまで言うなら、何か事情があるんですわね?」
梨花「沙都子……」
レナ「うん、梨花ちゃんの頼みなら断れないもんね」
梨花「レナ……」
レナ「何時くらいに行けばいいのかな? かな?」
梨花「準備が整ったら電話するのです」
沙都子「どんな話か知りませんけど……相談してくれるのは嬉しいですわね」
花沢「そうよね、信頼されてるって感じがするもの!」
梨花「みぃ……」
レナ「大丈夫! みんなで力を合わせれば、どんなことだって乗り越えられるよ!」
梨花(彼らは……なんて心強い仲間たちなの……ッ!!)

圭一「俺たちは……なんて無力なんだ……ッ!!」
レナ「まだ言ってるよ」
沙都子「そろそろ気味が悪くなってきましたわね」


131 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:46:00.41 ID:WltghsRq0


圭一「と、まぁ冗談はおいといて……梨花ちゃん」
梨花「みぃ……?」
圭一「大丈夫! みんなで力を合わせれば、どんなことだって乗り越えられるぜ!」
梨花「それ今レナから聞いたのです」
沙都子「圭一さんはとにかく……後は、魅音さんですわね……」
レナ「どこにいるかわからないし、何より協力してくれるとは限らないもんね」
圭一「あぁ、今の魅音は俺たちの知ってる魅音じゃない」
沙都子「放っておいても簡単に死ぬような方ではありませんわ!」
レナ「そうだね、今夜は魅ぃちゃん抜きで集まるしかないよ」
圭一「部長がいないのは大きいけど、梨花ちゃんの相談くらいなら何とかなると思うぜ」
花沢「そうよ! 不動産関係の悩みなら私に任せて!」
梨花「少なくとも家の相談じゃないのです」

羽入「もう話は終わりなのですか?」
梨花「……ええ、これで私の先手は打ち終えたわ」
羽入「運命を変えるには、一人でも多くの協力が必要なのです……」
梨花「一応、大石にも知らせておいた方がいいかしら?」
羽入「でも、この世界の大石は……」
梨花「……祟りを、園崎家の仕業だと思い込んでいる……協力を申し込むのは難しそうね……」
羽入「あうあう……諦めるのですか……?」
梨花「できることは全てやって、それから後悔してあげる」
羽入「梨花……」


133 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:47:42.31 ID:WltghsRq0


 ――放課後――

レナ「じゃあ、今日は私と圭一くんこっちだから」
花沢「あれ? ちょっとどこ行くのよ〜」
圭一「デートだよ、デート」
花沢「え゛ぇ〜ッ!? デデデデデデート?」
レナ「はぅ……け、圭一くん……」
圭一「いいだろ? 夕方までには帰るからさ」
花沢「わかったわよ〜! じゃあね、レナちゃん!」
レナ「うん、また夜に梨花ちゃんの家でね」


圭一「ここまで来るのは始めてだな……何があるんだ?」
レナ「いいからこっちだよー!」
圭一「……これは……そっ、粗大ゴミの山!?」
レナ「ゴミじゃないもん! 宝の山なの!」
圭一「そうか……? うわッ、足が滑るぞここ!」
レナ「いいよ、圭一くんはそこにいて!」
圭一「転ぶなよー!」
   (それにしても……ここがレナのお気に入りの場所か……)
圭一「静かな……本当にいい場所だな……」
ヨン様「嫌な事件だったね」
圭一「!?」


137 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:49:51.90 ID:WltghsRq0


ヨン様「ビックリさせてしまたかな?」
圭一「色んな意味で驚いたわ」
ヨン様「僕はペ、フリーの韓流スターさ」
圭一(何だこいつ……)
ヨン様「腕が一本まだ見つかってないんだろ?」
圭一「あぁ、祟りの話ですか」
ヨン様「殺害現場は独島だたらしいね」
圭一「……は?」
ヨン様「どうせ犯人は日本人なんだから、早く謝罪と賠償を……」
圭一「頼むから本編と絡ませてくれ」
ヨン様「ごめんね、メインはドラマの撮影なんだ」
圭一「…………」
ヨン様「彼女はあんな所で何してるんだい?」
圭一「昔、検出されたぎょう虫入りキムチでも確認してるんじゃないですか?」
ヨン様「なぁにかえって免疫がつく」
圭一「えっ…………」
レナ「けーいちくーん! お待たせー!」
ヨン様「邪魔しちゃ悪いね、アンニョンヒケセヨ、圭一くん」
圭一「あ、おい……」

レナ「誰と喋ってたのかな? かな?」
圭一「あれ? 誰もいない……」


141 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:52:03.11 ID:WltghsRq0


 ――五分後――

レナ「きっと、圭一くんが見たのはオヤシロ様だよ」
圭一「……あれがオヤシロ様……(ゴクリ)」
レナ「雛見沢のことが大好きな圭一くんの前に、出てきてくれたんだよ」
圭一「そうかな……?」
レナ「絶対そうだよ! オヤシロ様はいつも見守ってて下さるの」
圭一(レナから魅音と同じ雰囲気がする……)
レナ「きっと、私たちが幸せになれるように手助けしてくれたんだと思うな」
圭一「謝罪しろとか言われたけど……」
レナ「圭一くんは信じてるのかな? かな?」
圭一「いや……俺は……」
レナ「駄目だよ、一人でも信じてないと運命は変えられないんだよ?」
圭一「…………そうだな」
レナ「みんなで幸せになれるといいね」
圭一「あぁ、絶対に全員で幸せになってやろうぜ!」
レナ「うん! 圭一くんもレナも、魅ぃちゃんも」
圭一「沙都子も梨花ちゃんも花沢さんも!」

 ――絶対に。



143 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:53:42.02 ID:WltghsRq0


レナ「じゃあ、またあとでね!」
圭一「あぁ、また梨花ちゃんの家でな」

 俺はレナと別れて家路を急ぐ。
 早く帰らないと、梨花ちゃんの電話に間に合わないかもしれない。
 さっき、みんなで幸せになろうと誓い合ったばかりだというのに、遅刻なんて許されない。
 小走りで診療所の近くを通りかかる。どうやら、今日は休業しているようだ。
 鷹野さんが死に、診療所も人手が足りなくなっているのだろうか。
 俺はまだ会ったことはないけど、入江先生とやらの心痛を胸の中で労った。

 しばらく真っ直ぐ歩いていると、少々細い道に出る。
 この時間は人通りもなく、滅多に声をかけられることもない。
 だから、最初は気のせいかと思った。

   「圭ちゃん……?」

 聞き慣れた呼び方。
 今日初めて聞く声に、思わず振り返る。
 そこには、深緑の髪を靡かせる一人の少女がいた。

圭一「み……魅音!? お前――」


144 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:55:04.38 ID:WltghsRq0


 普段のような覇気もなく、薄汚れた私服で立ち尽くす魅音。
 俺の知っている少女とは似ても似つかない。
 例えるなら、フリーザが一晩明けてヤムチャに変わっていたような……
 何を言ってるのかわからないが、とにかくスゴい衝撃を受けた。

圭一「どうしたんだよ! こんな所で何してるんだよ!」
魅音「ごめんね、心配かけちゃって……」
圭一「学校にも来てなかったし、連絡もしてこなかったじゃねぇか!」
魅音「部員に心配されるなんて、部長として失格だね……」
圭一「馬鹿! 友達だからこそ心配なんだよ!」
魅音「………………」
圭一「お前、朝から何も食べてないのか?」
魅音「……うん」

 適当な場所で魅音を待たせ、近くの店で何か食べる物を買ってやる。
 どうやら財布も持っていないらしく、何度もごめんねと謝られた。
 ジュースを飲みながら、美味しそうにキュウリを齧る魅音。
 その様子からも、本当に空腹だったのだとわかる。


148 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 15:57:22.57 ID:WltghsRq0


圭一「お前、一円も持ってないのか?」
魅音「ハグハグ……うん……」
圭一「飯くらい家に帰って食えばいいだろ?」
魅音「ほら、おじさん……ホームレスだから……」
圭一「…………」

 そうだった。
 こいつは、家族からも親戚からも罵詈雑言を浴びせられ、絶縁された。
 今じゃ園崎家の関係書類なんかからも“魅音”の名前が全て削除されているだろう。
 誰もが俺や花沢さんのように恵まれた家庭に身を置けるわけじゃない。
 一瞬、軽率な発言をしてしまったことを恥じる。友達として。

圭一「……ごめん」
魅音「いいんだ……おじさんが好きで出て行ったんだから」
圭一「行くあてはないのか? 泊まる場所は?」
魅音「興宮の集会所に行ったんだけど、面倒までは見れないって……」
圭一(そりゃそうだよなぁ)
魅音「だから、昨日は公園のベンチで寝てたんだけど……」
圭一「よ、よく無事だったなぁ……最近物騒だろ?」
魅音「襲われないように、枕元に池田先生の写真を置いて眠ったからね」
圭一「………………」


152 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 16:00:20.94 ID:WltghsRq0


 互いに無言のまま、時間だけが過ぎていく。
 梨花ちゃんのことを知らせるべきか悩んでいると、魅音が不意に口を開いた。
 その口調は重々しく、何か重大な決心が感じられた。

魅音「それより圭ちゃん……最後にお願いがあるんだ……」
圭一「……お願い?」
魅音「今度の選挙の時には、公明党に一票入れてくれないかなぁ……」
圭一「は?」
魅音「日本のことを、私たちの生活のことを本当に考えてくれる政党なんだよ?」
圭一「でも俺まだ投票権」
魅音「そりゃ政教分離の原則違反を主張して騒ぎ立てる奴もいるよ」
圭一「聞けよ」
魅音「でも、考えてみてよ圭ちゃん! 公明党に直接、何かされたことある?」
圭一(間接的に今されてるんだが……)
魅音「確かに中には勧誘が激しい人がいるのは認める……けどね、全員がそうじゃないんだ」
圭一「お前が言うなよ」
魅音「私たちも迷惑してる、世間に誤解を与えてるのは一部なんだもん」
圭一「…………れ……」
魅音「せめて圭ちゃんには本当の私を、本当の創価学会を見てほしいんだ」
圭一「黙れッッ!!」
魅音「ひっ」


153 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 16:01:53.06 ID:WltghsRq0


圭一「いいか魅音……俺はお前が何の宗教に熱中しようと構わねぇ」
魅音「………………」
圭一「だがな、それが原因で俺たちの友情が揺らぐようなことがあれば……」
魅音「………………」
圭一「俺は、その宗教を一生許さないからな」
魅音「圭ちゃん……」

 そうだ。俺にも考えがある。
 何もせずに、部長が離れていくのを黙って見ている前原圭一じゃないってことだ。
 魅音の友人として、これだけは明確にしておかなければならない。
 別に、創価学会だろうが共産党だろうが維新政党新風だろうが、何だって構わないけど。
 こんなふうに部員と部長を引き裂いた奴らを、俺は許すことができない。
 せっかく、偶然でもなんでも、こうして魅音に会えたのだから。
 この気持ちだけは、何があっても伝えておきたかった。

圭一「……と、俺が言いたいのはこれだけだ」
魅音「………………」
圭一「熱くなっちまって悪かったな、家族も心配してるだろうし、一度くらい帰ってやれよ」
魅音「ねぇ――圭ちゃん」
圭一「何だ?」


 「今のうちに逃げた方がいいよ」


155 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 16:05:15.19 ID:WltghsRq0


 ひぐらしがないている。
 俺は魅音の意図が掴めずに、しばらく言葉を失っていた。
 夕日に沈んだ彼女の影は、どこか儚げに見える。
 そのせいもあって、今の発言が余計に不気味に感じられるのだった。
 だが、そんな俺に構わず、魅音は先を続ける。
 淡々と、お経でも上げるかのように。

魅音「早く雛見沢から離れないと、手遅れになるから」
圭一「な、何の話だよ……」
魅音「始まるんだよ、池田先生の粛清が」
圭一「粛清って……?」
魅音「人間革命」
圭一「な、何だよそれ……人間革命って何だよ!?」
魅音「くけけけけ……末法の現世を救えるのは、もう私たち学会員だけなんだ」
圭一「……み、魅音?」








     「全部終わる――池田先生のなく頃に」






161 名前:まだ半分いってないです ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 16:10:56.53 ID:WltghsRq0


 第五章 「LOVE&PEACE」

 ――帰宅後――

圭一「ただいまー」
花沢「ちょっと、い゛ぞの゛ぐん! 遅いわよ〜!」
圭一「磯野じゃねーよ」
花沢「今何時だと思ってるの!」
圭一「梨花ちゃんから電話あったか?」
花沢「え゛え゛、三十分後に家に来てほしいって」

 花沢さんに言われて時計を確認する。
 今は六時五分前。自転車で行けば二十分くらいで着くだろう。
 相談は何時くらいまでかかるのか訊くと、泊まりになるかもしれないという。
 流石に、無断で明け方まで家を空けるのはマズい。
 念のため母さんに許可を貰いに行くと、予想通りの反応が返ってきた。


藍子「駄目よ、明日にしなさい」
圭一「いいだろ! 一晩くらい泊まったって!」
藍子「そんな時間まで子供だけで外出なんて危ないわ」
圭一「で、でも――」
藍子「門限を守りなさい門限を」
花沢「い゛ぞの゛ぐんのお母さん……」

162 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 16:12:18.30 ID:WltghsRq0


 埒が明かないと判断し、言葉を切る。
 このまま口論になってしまえば、余計に母さんを苛立たせるだけだ。
 相手の言い分が正しいだけに何も言えなかった。
 それでも、何もせずに梨花ちゃんとの約束を破ることだけは許されない。
 万事休すだ。いっそ、黙って窓から抜け出してしまおうか――

 俺がそんな非現実的なことを考えていると、廊下の向こうから大人の声が聞こえた。
 見れば、うちに居候している花沢さんの父親――金次郎さんだった。

金次郎「じゃあ、私が一緒に行きましょうか」
藍子「そんな……ご迷惑をおかけして申し訳ありません……」
金次郎「なぁに、居候させてもらってる身ですから、これくらいはさせてください」
花沢「さっすが父ちゃん! 話がわかってるじゃない!」
金次郎「はっはっは、まぁそう褒めるな///」

 盛り上がる花沢親子をよそに、母さんが不安げな表情を浮かべている。
 まだ何か言いたげな様子だったが、最終的に大人が同伴するということで納得してくれた。
 別に泊まるのだと決まったわけじゃない。心配することもないと思う。
 それでも、母さんが最後に見せた表情が忘れられない。
 俺と花沢親子は、それから五分後に家を出た。


163 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 16:14:14.85 ID:WltghsRq0


 俺たちが梨花ちゃんの家に到着した頃には、約束の時間を三十分ほど過ぎていた。
 別に道に迷ったわけでも、畦道で白いバンに轢かれかけたわけでもない。
 花沢が途中で「憧れの韓流スターを見た」と、大騒ぎしたのだ。
 おかげで色んな村の人にはジロジロ見られるし、かなり恥ずかしかった。
 やはり、たまごっちと一緒に留守番させておくべきだったか。

沙都子「遅いですわよ、圭一さん!」
圭一「悪い悪い……それで、梨花ちゃんの話はどこまで進んだんだ?」
レナ「圭一くんたちを待ってたから、まだ全然進んでないよ」
沙都子「全く……いつも圭一さんのせいで予定が狂ってる気がしますわ」
梨花「花沢、約束通りお茶菓子を用意して待ってたのですよ」
花沢「あ゛ら゛! 草加せんべいじゃないの〜!」
金次郎「東京にいた頃は、よく食べたなぁ創価せんべい」
レナ(うるさいなぁ……)

梨花「――では、全員集まったので、話したいと思います」

 そうして、古手梨花は全てを語り始めた。


166 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 16:16:50.76 ID:WltghsRq0


 梨花ちゃんの話を聞き終えた後、部屋には重苦しい空気だけが充満していた。
 『雛見沢症候群』という風土病。『東京』という謎の機関。鷹野さんと富竹さんの正体。
 はっきり言って信じられないという気持ちと、何か妙な胸騒ぎ。
 思考の上では有り得ない話だとわかっていても、全てを否定できないでいる。
 それに――梨花ちゃんの目は嘘を吐く人間のものじゃなかった。
 短い付き合いだけど、前原圭一の本能が彼女を信頼しろと叫んでいる。
 それは、部屋に集まった他のメンバーたちも同様らしく。
 決して茶化すことなく、真剣な眼差しで梨花ちゃんのことを見つめていた。

梨花「以上が、ボクに話せること全てなのです」
圭一「…………」
レナ「…………」
沙都子「…………」
梨花「信じてくれますか?」
圭一「……あぁ、梨花ちゃんが、そう言うなら」
レナ「信じないわけにはいかないよね!」
梨花「圭一、レナ……」
沙都子「そうと決まれば早速、梨花を狙う人間を突き止める必要がありますわね!」
梨花「ありがとうなのです……」


花沢「よくわからなかったから、もう一度説明してぇ〜」
金次郎「つまり不動産の相談ってことかい?」
梨花「花沢、東京へ帰れ」


168 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 16:18:13.73 ID:WltghsRq0


レナ「でも、今の話って……」
圭一「あぁ……言われてみれば納得できることが多いな」
レナ「悟史くんがおかしくなったのも、病気のせいだとすれば理解できる……」
沙都子「私が診療所で受けていた診察には、そんな意味が……」
梨花「本当は黙っておきたかったのです……」
沙都子「いえ、真実を聞くことができて、かえって良かったですわ」
梨花「沙都子…………」
レナ「それにしても鷹野さんが自衛隊の人間だったなんて……意外だよ……」
梨花「富竹はともかく、あんなに簡単に殺されてしまうなんて信じられないのです」
圭一「その、梨花ちゃんの言う山狗ってのがバックについてるんだろ?」
沙都子「そうですわ! そんなにスゴい人が、焼死なんて――」
梨花「資料を読みながら書いてるわけではないので、深い話は曖昧になってしまうのですよ」
レナ「それは何の話かな? かな?」

花沢「もう〜父ちゃん! あ゛だじの創価せんべい返して〜!」
金次郎「はっはっは、ほ〜れほれほれ」
圭一「お前ら、梨花ちゃんの話を聞いてたのか!?」
黒人「スミマセン、キイテマセンデシタ」
圭一「だから誰だよ! 本筋に関係ない奴は出てくるなよ……ッッ!!」
レナ「お、落ち着いて圭一くん」
沙都子「そうですわ、相手にしてる時間が勿体ないですわよ」
花沢「あ゛〜! ひどい言いようね〜!」
金次郎「まぁまぁ、ところで良かったら何の話をしてたのか、教えてくれないかなぁ?」


170 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 16:20:05.93 ID:WltghsRq0


圭一「だから、鷹野三四さんが殺された話ですよ!」
金次郎「三四……? 誰だい?」
花沢「ほら、父ちゃんが綿流しの夜に話してた女の人よ!」
金次郎「……あぁ、美代子ちゃんのことか!」
梨花「みー? 鷹野の名前は三四なのですよ?」
金次郎「いや、昔は確かに美代子って名前だったんだけど……」
沙都子「ど、どういうことですの?」
圭一「つまり、鷹野さんは偽名を使ってたってことだろ」
レナ「苗字ならともかく、名前が変わるなんてありえないもんね」
沙都子「でも、一体どうして――」
圭一「何か知られちゃマズいことがあったからか?」
レナ「金次郎さんの言う『お祖父さん』に何か理由がありそうだね」
圭一「ひょっとすると、梨花ちゃんを狙ってる相手って……」
梨花「まさか、あの鷹野が…………ッ!?」
黒人「予想GUYデス」

 そんな馬鹿な……鷹野は『東京』の人間よ……
 雛見沢の『女王』が死ぬことで起こる弊害を最も承知しているはず。
 私を守る義務はあっても、私を殺す理由がない。
 仮に、私が死んだとしても、そこに残るのは大勢の発狂した村人たちだけ。
 あなたは何がしたいの……? 鷹野三四……


171 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 16:22:44.82 ID:WltghsRq0


花沢「ねぇ父ちゃん、鷹野さんのお祖父さんって、一体何の研究をしてたの?」
金次郎「う〜ん、詳しく知ってるわけじゃないんだけど……」
梨花「風土病……ですか?」
金次郎「そうそう、確かそんな感じの研究だったと思うよ」
レナ「風土病? それって、さっき梨花ちゃんが話した『雛見沢症候群』のことかな?」
圭一「それってつまり、鷹野が祖父さんの研究を引き継いだってことか?」
レナ「考えられる可能性としては……祖父の研究を成就させるために、何らかの計画を立てている」
沙都子「世間に認めさせたいのかもしれませんわね」
圭一「でも、それが梨花ちゃんを襲うのとどう関係するんだよ……ッ!?」
レナ「落ち着いて、圭一くん……」
沙都子「これはあくまで私たちの推測なんですのよ?」
花沢「まぁ、鷹野さんが梨花ちゃんを狙ってるっていうのも、考えにくいわよね〜」
梨花(そうよ……鷹野が私を殺す理由が見当たらない……)
圭一「……くそ……手詰まりか……」

 「……み………………き……」

圭一「え? 沙都子、今何か言ったか?」
沙都子「何も言ってませんわよ?」
梨花「どうしたのですか?」
圭一「いや、誰かの声が聞こえたような気がして――」
花沢「気のせいじゃないの〜?」
圭一「…………」


173 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 16:25:12.04 ID:WltghsRq0


 嫌な予感は、梨花の中で徐々に確信へと変わりつつあった。
 今の会話から導き出された結論が真実だとすれば、目の前に広がっているのは最悪の展開。
 自分がこれまで、いかに愚かな決断ばかり下してきたのかよくわかる。
 まさか……命を狙っている本人に、身の回りの警護を任せてきたなんて……
 冷たい汗が体中から流れ出るのを感じる。嫌な予感が、脳内で警鐘を鳴らしている。
 これまでと同様に、現在置かれている状況も、決して良好ではないのだと。

梨花(もし、理由はわからないけど、鷹野が私を狙っているとすれば――)

圭一「マズいな……」
レナ「何が大変なのかな? かな?」
圭一「いや、梨花ちゃんを狙ってるのが鷹野さんなら、この家も既に監視されてるんじゃないか?」
沙都子「そういえば誰かに見られている気がしなくもないですわね……」
花沢「キャ〜! 父ちゃん怖いわぁ〜!」
金次郎「落ち着きなさい花子、チェス盤をひっくり返すんだ、霧江さんはいいぞ」
圭一「お前が落ち着け、一番は夏妃さんだ」
レナ「みんな混乱してるね……早くここを出た方がいいよ」


176 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 16:28:35.73 ID:WltghsRq0


 山狗の監視下にある私の家なら安全だと思い込んでたけど……逆に命取りになったようね。
 皮肉なものだわ……守らなければならない友人たちを、自分の手で巻き込んでしまったなんて……
 ひとまず警察に保護を……駄目、内部に山狗と繋がりがある人間がいないとは限らない!
 大石と山狗が繋がってる可能性は低いわ……連絡を入れておいたから近くにいると思うけど……
 どこにいるかもわからない大石をアテにするのはリスクが高すぎる……ッ!
 ……落ち着いて考えるのよ梨花、KOOLになるの。
 今回の件、山狗は鷹野の独断で動いている可能性が高いわ。
 祭りの夜に死んだのが確定してるのは、富竹だけ。
 山狗の実質的指揮権を持つ鷹野は生きていると考えるのが妥当ね。
 なら、入江はこのことを知らない……? まだ望みはあるってことかしら?
 どちらにしても、富竹が死んだ今、『東京』の存在を知る人間は鷹野と入江しかいない。
 入江に鷹野の暴走を知らせて、救援を呼んでもらうしかないわね。
 なら、目指す場所は一箇所しかないじゃない……!

梨花「みんな聞くのです、今からここを出て――」

 「……む……みょ……ん……げ……」

一同「「「!?」」」
圭一「な、なぁ、今の聞いたか?」
レナ「本当だ……外から、誰かの声が聞こえてくる……」
花沢「何か唱えてるみたいね?」
圭一「ひょっとして、梨花ちゃんを狙ってるって奴なのか?」
レナ「ねぇ、聞き覚えはない? あれは誰の声なの?」
梨花(わからない……こんな状況は初めてよ……)


180 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 16:30:46.51 ID:WltghsRq0


沙都子「た、大変ですわ!! 下の階から火が出てますわよ!!」
圭一「何だって!?」
花沢「急いで避難しなきゃ!」
梨花(ついに直接仕掛けてきたわね……)
レナ「ちょっと待って!外の声が、だんだん大きくなってる……!」
圭一「ほ、本当だ……これは……」

 「南無妙法蓮華経」

レナ「ねぇ、圭一くん……この声……」
圭一「あぁ……間違いない」
沙都子「魅音さんの声ですわね……」
梨花「裏山から聞こえてくるのです」
圭一「ど、どうして裏山から魅音の声がするんだよ?」
レナ「行く場所がなくて裏山で生活してたんじゃないかな?」
圭一(何か……ひっかかるな……)

 「南無妙法蓮華経」

花沢「何だか、叫んでるように聞こえるわよ〜?」
梨花「かなり苦しそうなのです」
レナ「魅ぃちゃんに何かあったのかも……」
圭一「くそっ……魅音……!」


183 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 16:35:16.56 ID:WltghsRq0


沙都子「何をボーっとしてるんですの!? さっさと逃げるんですのよ!」
レナ「そうだね、とにかく避難しなきゃ!」
圭一「畜生ッ! かなり火の回りが早いぜ……!」
沙都子「い、急いで表へ――」

花沢『駄目! 玄関は危ないわよ!』

圭一「え…………?」
花沢「家の構造から言って、表の通路は既に建物が倒壊してる可能性が高いわ!」
金次郎「見たところ台所の裏に勝手口があるんじゃないかい?」
沙都子「あ、ありますけど……」
金次郎「そっちからなら脱出できるはずだ、急ごう」


 ガラガラガラガラ!!


圭一「はぁ……はぁ……何とか全員脱出できたな」
レナ「みんな、今の音聞いた?」
沙都子「表の廊下で瓦礫が崩れ落ちたみたいですわね」
圭一「あ、危ねぇ……向こうに逃げてたら今頃下敷きだったぜ……」
レナ「すごいよ花沢さん……まるで予知能力みたいに火が回る方向を察知したんだもんね……」
花沢「あ゛はは! 馬鹿にしないでよ? これでも不動産屋の娘なんだから!」
梨花「金次郎、どうして勝手口の位置を知っていたのですか?」
金次郎「うーん、商売人の勘みたいなものかなぁ」
沙都子「勘って……」


187 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 16:38:06.76 ID:WltghsRq0


沙都子「家が……燃えていきますわね……」
梨花「命だけでも助かって良かったのです」
永沢「うわぁああああ! ぼくの、ぼくの家がぁあああああ!」
圭一「誰だよ」

花沢「なっ、何よあんたたち!!」
レナ「え……?」
沙都子「い、いつの間にか囲まれてますわ!」
圭一「あいつらが家に放火した、ってのは間違いないみたいだな」
レナ「あ、あの作業服、村で何回か見たことあるよ!」
花沢「小此木造園って……父ちゃん!」
金次郎「あぁ、引越しの日に挨拶周りをした業者だ……」
梨花(やはり……黒幕は鷹野だった……)
圭一「相手はざっと十人ってとこか……ご丁寧に銃まで構えてやがるぜ……」
レナ「対して、こっちは丸腰の子供が五人と大人が一人……」
圭一「どうだ沙都子? 俺たちが無事にここを抜けられると思うか?」
沙都子「勝ち目がないことくらい、アルツハイマーの人でもわかりますわよ」

男A「こちら鶯5、Rの姿を確認――これより対象の確保に移る」
男B「あの刈り上げ頭の男、最優先で抹殺するようにと、三佐のご命令だ」
男C「問題ない、速やかに作戦を終了し、帰還する」
藤木「永沢くん……君が悪いんだよ……」
男D「誰だよ」

197 名前:>>190 神父はアンデルセン、それ以外は合ってます ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 16:42:36.61 ID:WltghsRq0


男E「こちら白鷺2、本部より威嚇射撃の許可が下りた」
男D「いいかRには当てるなよ! 絶対にだ!」
男S「決して走らず歩いていって、そして早く奴らに発砲しろ!」
マサオ「ム、ムチャ言わないでよ〜しんちゃん……」

圭一「幼稚園児みたいなのがいるぜ?」
梨花「よく見るのです圭一、あれはおにぎりなのです」
レナ「はぅ〜! 生きたおにぎりお持ち帰りぃいいいいいいい!」

   ドンッ!

圭一「うわっ! あ、あいつら本当に撃ちやがったぞ!」
レナ「銃口は金次郎さんの方に向いてたよ!」
沙都子「ち……直撃しましたわ……」
金次郎「大丈夫だ、ただの威嚇射撃だよ」
沙都子「いや当たって」
梨花「威嚇射撃だから大丈夫なのです」
沙都子「でも血が」
梨花「威嚇なのです」
沙都子「……」



200 名前:>>196 愚地独歩は俺じゃないぜ、過去作品は後で晒します ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 16:48:55.24 ID:WltghsRq0


梨花(冗談抜きで私たちを殺しにかかるつもりらしいわね……)
レナ「発砲までされちゃ降伏するしかなさそうだね」
金次郎「なに落ち着くんだ、一発だけなら誤射かもしれない」
圭一「そんな悠長なこと言ってられる状況かよ!」
沙都子「ま、また銃をこちらに向けて構えましたわよ!」
花沢「あいつら、父ちゃんを狙ってるみたい!」
圭一「な、何で金次郎さんを――」
梨花「恐らく……鷹野の過去を知る人間だからだと思います」
レナ「このままだと、金次郎さんが殺される……」
沙都子「ちょっと梨花! 何とかできませんこと!?」
梨花(それができたら苦労してないわよ……)
金次郎「……………………」
花沢「父ちゃん……」
沙都子「早く降伏するなり、逃げるなりしないとマズいですわね」
圭一「へっ、今度は銃殺も辞さない覚悟って感じだな」
レナ「こんな時に魅ぃちゃんがいてくれたら……」
梨花(どうすればいいの……?)



 「――子供たちは下がっていなさい」




204 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 16:56:45.50 ID:WltghsRq0


花沢「ちょ、ちょっと、父ちゃん!?」
金次郎「ここは私が囮になろう、少しでも遠くに逃げるんだ」
レナ「だ、駄目ですよ金次郎さん……」
圭一「そうですよ! 一緒に逃げましょう!」
金次郎「狙われてるのは私なんだろ? なら、時間稼ぎくらいはできるはずさ」
沙都子「しかし、それでは……!」
梨花「……金次郎」
金次郎「花子、花沢不動産の経営はお前に任せた」
花子「父ちゃん…………」
金次郎「圭一くん、花子を頼んだよ」
圭一「おじさんッ!!」
花子「いまのうちに走って! 早く!」
沙都子「何をしてるんですの!? 逃げるんですのよ!」
圭一「嫌だ! おじさんを置いていけるかよッ!」
梨花「圭一……金次郎の意思を無駄にするつもりですか?」
レナ「そうだよ、花沢さんを任されたんでしょ!?」
圭一「くそぉおおおおおおおおおッ!!」
梨花(ごめんなさい……必ず、生き延びて……!)


206 名前: ◆N00Fy6IYcA [sage] 投稿日:2009/03/01(日) 17:00:15.11 ID:WltghsRq0


男G「何だ、囮にでもなったつもりか?」
男A「俺と鶯3は他のガキを始末しに行く、残りはRの確保に向かえ」
男F「残念だったな……お前を殺したらすぐにガキの後を追う、時間稼ぎにもなりゃしねぇぜ?」
金次郎「生憎だな、1分も稼げれば充分だよ。遊んであげるぞ、おいで鉈女……!」
男D「鉈女って何だよ」
男G「ククク……どうだ? 今から殺されるって気持ちはよ?」
金次郎「可愛い子供を世の中に送り出していくから、ピースな愛のバイブスでポジティブな感じさ」
男G「そ、そうか」
男E(何だこいつ……)
男B「言ってることはよくわからないが、とにかくスゴい自信だ!!」
男A「ああ、今のこいつならマンションの九階からFly awayできそうだぜ……」
男D「いいからガキを追えよ」



沙都子「あ、あいつら追ってきましたわよ!?」
梨花「捕まったら一巻の終わりなのです」
花沢「父ちゃん無事かしら……」
圭一「…………」
レナ「ねぇ、圭一くん」
圭一「何だ?」



 「魅ぃちゃんの声……止んでるね」




209 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 17:09:31.70 ID:WltghsRq0


 第六章 「雨の足音」

梨花「まだ追ってくるのです」
沙都子「キリがありませんわね……」
レナ「ここは二組に別れた方が良さそうだよ?」
花沢「別れるって……どこで落ち合えばいいのよ〜!?」
梨花「ひとまず診療所へ向かってください」
圭一「そうだな、ここからだと診療所が一番近い建物だしな」
梨花「入江なら、きっとボクたちを助けてくれるのです」
レナ「じゃあ、私と圭――」
花沢「あ゛だじと磯野くんは右に進むわぁ〜!」
圭一「わかった、レナたちは大丈夫か?」
沙都子「おーっほっほ、こちらは任せて下さいませ!」
梨花「また後で会いましょうなのです☆」
レナ「……気をつけてね、圭一くん」
圭一「あぁ!」


210 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 17:11:15.02 ID:WltghsRq0


 レナたちと別れて、俺と花沢さんは山道を奥へと進む。
 気が付けば、辺りには暗雲が立ち込めていた。雨の感触が頬を伝う。
 じきに大雨が降るだろう。いくらこちらに地の利があるとは言え、状況が悪化すること必至だった。
 振り返ると、花沢さんが沙都子の仕掛けたトラップ相手に悪戦苦闘していた。

圭一「おい、そこは危ないぜ! よく見ろよ、土の色が違うだろ?」
花沢「あらホントだわ! 落とし穴でもあるのかしら〜」
圭一「だがそれはフェイク、本物のトラップが仕掛けてあるのは……そこから三歩先の……」
花沢「キャ〜!」
圭一「はぁ……だから気をつけろって言っただろ?」
花沢「ちょっと何よこれ、い゛ぞの゛ぐん!」
圭一「踏むと木製の鼠捕りが発動するようになってるんだよ」
花沢「痛いわぁ〜もう歩けないわぁ〜」
圭一「……くそっ、仕方ねぇ……俺の手に掴まれよ」

 花沢さんは涙を浮かべながら、上目遣いで俺を見つめてくる。
 雨粒が連続で頬を伝う。これはかなり本降りになりそうだ。
 寄り添うようにして、改めて山道を進んでいった。
 この裏山は沙都子が仕掛けたトラップで溢れかえっている。
 何度かトラップに引っかかりそうになったが、それは敵も同じだろう。
 上手くいけば、逃げ切れるかもしれない――


211 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 17:13:42.32 ID:WltghsRq0


花沢「い゛ぞの゛ぐんと手を繋いでるなんて、夢みたいだわぁ……」
圭一「おい、そんなに引っ張るなよ」
花沢「うん…………」
圭一「…………」
花沢「……えへへ」
圭一「っ……!」

 少しだけ、本当に少しだけ赤面してしまい、咄嗟に顔を背けた。
 普段はレナたちと行動しているから、こうして他の女子(?)と手を繋ぐなんて久しぶりだ。
 いや、そもそも雛見沢の女子以外と接するのすら、数年ぶりのような気さえする。

圭一(な、なんだ……この気持ち……)

 何か、言葉に出来ないものがこみ上げてくる。
 小学生の頃なんかに、少し親切な女子に抱いた気持ちに似ている。
 不思議だ。奇妙な感覚だ。まるで、これじゃ、まるで――

圭一(落ち着け……KOOLになるんだ前原圭一……ッッ!!)
花沢「頭がフットーしそうだわぁ〜///」
圭一「…………くそっ!」


212 名前: ◆N00Fy6IYcA [sage] 投稿日:2009/03/01(日) 17:15:13.15 ID:WltghsRq0


花沢「ちょっとい゛ぞの゛ぐん! あれ見て!」

 俺が自信の迷いを振り切るため、瞑想状態に入りかけていた時。
 目的地の診療所まで数百メートルという所で、急に花沢さんが声を上げた。
 あまり大声を出すと敵に居場所を教えることになりかねない。
 慌てて声を制しようと、花沢さんの方に顔を向ける。
 だが彼女の視線は前方の――

男A「はぁ……はぁ……全く、手間とらせやがって……」
男B「あらゆる所にトラップが仕掛けてある……おかげで負傷しちまったぜ……」

 ――作業服姿の男二人に注がれていた。梨花ちゃんの家を取り囲んでいた連中だ。
 どうやら先回りされていたらしい、俺たちが診療所へ向かうのは予測済みだったのだろう。
 トラップに引っかかったのだろうか。心なしか満身創痍のように思える。
 傷を負っているのなら、辛うじて突破できるかもしれない。
 問題は奴らが手にしている銃だ。あれさえ何とかできれば……
 だが、そんなことを考える暇さえ与えず、男の腕が俺の服を掴みにかかる。

男B「藻前らさっさと観念しる!」
圭一「畜生! 離せ! 古い言葉使いやがって!」
花沢「い゛ぞの゛ぐんを離しなさいよ! このロリコンどもめ!」
男A「磯野だと? こいつは前原圭一じゃないのか?」
男B「事前報告では前原のはずなんだが……」
男A「どうせ間違えて報告したんだろ、三佐はおっちょこちょいだからなぁ」
花沢「あ゛っはっはっはっはっは」
圭一「お前は笑うな」

214 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 17:18:25.46 ID:WltghsRq0


 どうにも花沢さんのせいで危機感が薄れてしまうが、窮地に立たされていることに違いはなかった。
 見たところ、敵の体格は通常の成人男性より遥かに優れている。訓練を修了した軍人というところだろうか。
 それに、先ほどから厳しくなりつつある雨。泥濘で足場が滑り、逃げることもままならない。
 状況はまさに最悪――唯一の救いは、終着地点の入江診療所までの距離がかなり近いことくらいか。
 だが幸か不幸か、追っ手は二人しかいない……意識さえ逸らせることができれば……
 男の持つ無線からガガ……という機械音がした。

男A「鶯5より本部へ、エリアCにて磯野圭一と花沢花子を確保した」
圭一「磯野じゃねーよ」
男B「貴様、口答えするな!」

 右腕を掴んでいた男が、構えていた銃で俺の頭部を殴打した。
 瞬時に鈍痛が走る。額から血が滲むのを感じる。
 瞼の裏で無数の星が煌き、徐々に意識が遠のいてゆく……

花沢「い゛ぞの゛ぐん! しっかりしてぇ!」
圭一「………………」
花沢「い゛ぞの゛ぐぅうううううううううううううううううううんッ!!」
バトー「もとこぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
圭一「……誰……だよ……」


215 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 17:20:20.35 ID:WltghsRq0


(あ、危ねぇ……もう少しで気絶しちまうとこだったぜ……)

 花沢さん(と謎のハスキー声)を耳にして、反射的に自我が覚醒する。
 今は何としてでも意識を保たなければならない。
 こんな時に失神などしてしまったら、二度と目を覚ますことなく御陀仏だろう。
 かろうじて目を見開き、視界を確保する。注意深く、状況を見極める。
 梨花ちゃんたちが生きている限り、必ずチャンスは訪れるはず。それまで耐えるしかない。
 神経を研ぎ澄ませ……KOOLになれ、前原圭一……KOOLになるんだ……ッ!

 だが、そんな俺の思惑は、非情な男の声によって、絶望に塗り替えられる。

男E『こちら白鷺11、Rならびに竜宮礼奈、北條沙都子の身柄を拘束した』
男A「こちらも銃殺許可が下りた、早いとこ始末しちまおうぜ」
圭一「な……ッ!」

 氷の足場が崩れ去るような、全身から崩れ去るような喪失感。
 俺たちへの銃殺許可? 始末? だが、何より――
 梨花ちゃんたちが、捕まった。
 これで事実上頼みにしていた命綱は全て絶たれたようなものだ。
 仲間の救援が無いないのなら、あとは偶然、誰かが通りかかるのを待つしかない。
 何て……脆い希望……淡い期待……儚い願い……ッ!
 思わず涙が零れる。せっかく金次郎さんが退路を作ってくれたのに。
 俺は、それを無駄にすることしかできなかったのか……


217 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 17:22:30.52 ID:WltghsRq0


 男が銃を構える様子が、スローモーションで網膜に焼き付いていく。
 カメラの連続映像を見ているような気分だった。銃口が、俺の額に向けられていく。
 こんな至近距離で命中すれば、独逸で天才日本人脳外科医に手術でもしてもらわない限り助からない。
 目元には涙が、口元には笑みが。大いなる悲觀は大いなる樂觀に一致する。
 思惟と物質と延長と属性と。直感と悟性と認識と理性と。雨。
 様々な概念が俺の脳裏で交錯する。だが焦りは無い。
 あるのは絶望と安らぎのみ。それも僅かなもの。
 妙な気分だった。どこか余裕がある。俺が異常なだけなのか。
 やがて引き金に男の指がかかり、静かに力が込められ――『それ』は聞こえた。

   「南無妙法蓮華経……」

男A「……おい、何か聞こえないか?」
男B「何が聞こえるって? 空耳じゃないか?」
男A「無線だ! 繋がってるぞ、おい、応答しろ!」

   「南無妙法蓮華経……」


220 名前:>>218 ヒント:ラブひな ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 17:26:05.67 ID:WltghsRq0


男B「本当だ! 女の声が聞こえるぞ!」
男A「おい、どうした! 生きてるなら応答しろ!」
圭一(これは……魅音の唱題……?)

   「南無妙法蓮華経……」

 雨の足音でかき消されそうになりながらも、確かに魅音の声が耳に届く。
 それは無機的に繰り返されるだけの、俗な例えだが『壊れたレコード』のようだった。
 気味が悪いほど単調に、何度も何度もループする、七文字の歌詞。
 見れば男たちは銃を下ろし、お題目を垂れ流し続ける無線に釘付けになっていた。
 どうやら、俺は魅音の信心とやらに救われたらしい。

男G『こちら雲雀7、応答しろ』
男A「鶯5だ、何があった? 報告を頼む」
圭一(魅音……お前……)
花沢(お腹空いたわぁ……)


222 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 17:29:35.74 ID:WltghsRq0


男A「了解した、本部にはこちらから連絡する」
男B「おい、何だって?」
男A「……やられたのは白鷺6らしい」
男B「マジかよ……あの人見知りで基本的に無口なんだけど親しくなると途端に口調が偉そうになって一緒に買い物とか行くと必ず荷物持ちやらされるくらい傍若無人に見えて
   そのくせ実は時々甘えん坊さんでたまに泣きたい夜なんかに電話越しでエヘヘって微笑みかけたりされると胸がキュンってなるくらい愛らしい所があって外見だけだと十二歳くらいに見えて
   コンプレックスでもあるオッドアイを隠そうと普段は眼帯を外さないように心がけている銀髪で貧乳(?)でツインテールの白鷺6がやられたってのか!?」
圭一「攻略キャラみたいな奴だな」

 予想GUYの出来事に動揺しているのか、男たちは意味不明な言動を繰り返している。
 勿論、俺はこの、神が与えた最高の好機を決して見逃したりはしない……ッ!
 刹那のタイミングを見計らい立ち上がる。相変わらず膝は震えていた。
 右腕を前に突き出して緩慢な動作で指を一本ずつ握り締める。
 あぁ、思い出す――好敵手との戦いに明け暮れた神奈川での日々を!
 徐々に身体が光彩を放ち始める!(気がする)
 凄まじい闘志の奔流が渦巻き始める!(気がする)
 肩のプロペラ(?)が爆音と共に回転する!(気がする)
 あぁ、俺は今まで何を悩んでたんだ。考えることなんざ何もねぇ、この世はサバイバルッッ!!
 気にいらねぇモンは叩き潰す、欲しいモンは奪う。もう止まったりはしねぇ、あとは進むだけだぁあああああああああッ!!

圭一「衝撃のファーストブリットォオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

   ガッシ!ボカ!スイーツ(笑)

男B「ぎゃあ」
圭一「もっとだ……もっと輝けぇえええええええええッッ!!」
花沢(なんだかノリノリねぇ、い゛ぞの゛ぐん)


227 名前:さるさんくらった(2回目) ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 17:41:21.23 ID:WltghsRq0


 一瞬の隙を突いて、俺の拳は標的の後頭部に殴りかかる。
 前のめりに突っ込んだ結果、上手く体重が加算され、会心の一撃を与えることに成功した。
 足を滑らせ、水溜りに倒れ込む男B。俺は間髪要れずに、未だ混乱している男Aの喉元へと飛び掛る。

男A「離しやがれくそったれ! ギャリック砲で粉々にされたいのか!」
圭一「誰が離すかよ! 今のうちに逃げろ花沢さん!」
花沢「で、でもい゛ぞの゛ぐんが……」
圭一「無駄口叩く暇があったらさっさと走れッ!」

 花沢さんが駆け出すのを確認すると同時に、凄い力で俺の身体は撥ね退けられた。
 背中から付近の木の幹に叩きつけられる。肋骨にヒビが入ったかもしれない。
 それでも、俺は立ち上がる。いつだったか、レナが暴走した時、“あいつ”がそうしたようにッッ!!
 水溜りに伏していた男が、苦痛に顔を歪ませながら起き上がる。状況は二対一。
 だが――俺は、それを、許さない。

男B「な、殴ったね! 親父にもぶたれたことな――」
圭一「撃滅のセカンドブリットォオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
男B「ひでぶ」
男A(二度もぶった……)
圭一「へへっ……ガキ相手だと思って油断してるからだ……」
亀田「どんなもんじゃーい!」


232 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 17:45:31.20 ID:WltghsRq0


男B「今のは痛かった……痛かったぞぉおおおおおお!!」
男A「くそっ! 花沢が逃げやがった!」
男B「もう許さねぇ……3のくせに……円周率が3のくせにぃいいいいッ!!」

 激昂しながら迫り来る男たち、その手には銃。今度こそ絶体絶命だ。
 それでも希望は捨てない。上手く逃げた花沢さんが、きっと助けを呼んできてくれる。
 だからそれまで、俺は何が何でも死ぬわけにはいかないんだ……ッ!
 咄嗟に、先ほど叩きつけられた木の幹の陰へと飛び込む。

圭一「ニフラム! ニフラム!」
男B「ばっ、馬鹿にしやがって……円周率が3のくせに……!!」

 勝機を確信した俺は、茂みに身を潜ませながら男たちを挑発する。
 すると思った通り、単純そうな方の男Bが一心不乱に駆け寄って来るのを確認した。
 その手には銃。目はつり上がって、顔がボーっと浮いている。まるでキチ●イの顔のようだ。
 奴が全身全霊で俺を殺そうとしているのがわかる。だが、かえって好都合。そこまで取り乱した男だ。
 当然――足元の、沙都子のトラップになんて、注意が向けられるはずもない!

男B「うおおおおっ! 公明(党)の罠か!」
圭一「違う、沙都子の罠だ!」


234 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 17:47:31.25 ID:WltghsRq0


 簀巻きにされて、蓑虫のような姿で木の枝から吊るされる男。
 これで残る敵は一人……しかし、銃を持った軍人相手に戦うような蛮行はしない。
 男Aが上方の相棒に気を取られている隙に、全速力で脇を駆け抜ける。
 一直線に目指すは診療所。ここからだと残る距離は三、四百メートルといったところか。
 もし花沢さんに追いつけなくても、上手くいけば彼女の呼んだ味方と合流できるかもしれない。
 泥塗れで、血の滲んだ服を雨で濡らし、俺は走り続けた。ひたすら、夢中で走った。
 背後から微かに気配がする。どうやら男Bのかかったトラップを外すのに苦戦しているらしい。
 この分だと、もう少しくらい時間稼ぎできるだろう。それまでに診療所に辿り着けば俺の勝ちってことだ。

 一体、今は何時くらいなんだろうか。梨花ちゃんの家を出た時、確か時計は八時半を指していた。
 あれから数時間は経過していると考えて……十時半くらいか? 肝心の診療所は開いてるんだろうな?
 夜空から零れる月明かりが、遠くに見える診療所の壁を照らし出す。やはり白い色は目立っていた。
 こんなことになるなら黒い服……いや、迷彩柄のシャツでも着てくればよかったと後悔する。
 タタタタ……と、深い静寂に包まれた夜に足音が響く。
 タタタタ……と、何度か泥濘に足を取られそうになりながら。
 途中、違和感を感じて何度か振り返た。確かに、人の気配がする。
 最初は先程の追っ手かと思ったが、どうにも違う。これは――子供の気配。
 そうでなければ俺の勘違いだと意を決し、走りながら声をかけた。

「さっきから、誰だ? 後ろにぴったりついて来てるだろ?」


236 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 17:52:14.31 ID:WltghsRq0


タタタタ……タタタタ……タタタタ……タタタタ……

 しかし、返事はない。本当に俺の思い過ごしなのだろうか?
 その割にはリアルな幻聴だ。雨の音に混じって、吐息まで聞こえてくる。
 気の所為だ。疲れているんだ。そうに決まってるさ。でないと。

タタタタ……タタタタ……タタタタ……タタタタ……

 そうだ、やっぱり気の所為だ。こんな場所に、村の子供がいるはずはない。
 論理的に考えてみろよ。聞いたじゃないか、沙都子も梨花ちゃんも捕まったんだ。
 だから、幼い子供なんて、いるはずがない。いるはずがないんだ。

タタタタ……タタタタ……タタタタ……タタタタ……

 じゃあ幽霊かもしれないって? そんな馬鹿な、非現実的すぎる。
 お前はオヤシロ様だっていうのか? さっきから唐突だな。
 いいぜ、百歩譲ってオヤシロ様の存在を認めたとする。

タタタタ……タタタタ……タタタタ……タタタタ……

 けどな、よく聞けよ? おい茶化すなって、真面目なんだぜ。
 違う気がするんだ。根拠はないけどよ、こいつは雛見沢の存在じゃねぇ。
 何かもっと、別の、オヤシロ様とかそんな神様みたいなもんじゃない。
 そうだ、全く違う他の何か子供――

タタタタ……タタタタ……タタタタ……タタタタ……ぺた。

                      キコエタ?


238 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 17:59:40.65 ID:WltghsRq0


 目の前が真っ暗になった。何が起こったのか、脳が処理できない。
 ただ一つ、自分の身体から血液が流れ出していることだけは理解できた。
 撃たれた? 誰に? 何処から狙ったんだ? 確かに追っ手はいなかったぞ?
 そうか、前方から衝撃が走ったんだから、撃った奴も前にいるんだろう。
 考えられる可能性は一つ。診療所は既に敵の手に落ちていた。
 いや、最初から鷹野と入江先生がグルだったってのも考えられるかな……
 じゃあ先に逃がした花沢さんも既に●されて……いや、まだ決まったわけじゃない。
 気が変わって、途中から別の道で逃げたって可能性もある。
 梨花ちゃんたちだって、俺みたいに上手く反撃の機会を見つけたかもしれない。
 まだ決まったわけじゃない。でもわかってる、そんな好都合なことはアリエナイんだ。
 頭の中だけなら、何だって、どんなに都合のいいことだって空想できる。
 雛見沢に救世主が現れて敵を圧倒的な力で打ち負かしてくれる……
 そうだ、何だって幻覚と組織ぐるみの犯罪で説明できるぜ?
 例えば隔離された孤島での連続殺人……全部、主人公の幻覚で説明できる。
 昔、何かの本で読んだ気がする。この現実は、全て、胎児が見ている夢なのだそうだ。
 俺だって、誰かがパソコンでキーボードを叩きながら書いている小説の登場人物かもしれない。
 ひょっとしたらソイツは、流行らない映画なんかを観ながら、平然とこの物語を書いているのかもしれない。
 だとしたら……もし、本当にそうだったら……何て幸福なんだろう……
 惨劇も鷹野の追っ手も魅音のことも、全部妄想で済まされる。
 また、最初からやり直せる。リセットできるんだよ!
 こんな下らないことを考えてしまうなんて、俺はかなり危険な状態らしい。
 ああ、これも小泉失政のツケか――


239 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 18:04:44.38 ID:WltghsRq0


 足音が聞こえる。
 もう、大人か子供かもわからない。痛みも感じない。早く楽になりたい。
 ……情けねぇな……あれだけデカいこと言っといて……これか。
 花沢さん、無事に逃げられたかなぁ……心配だぜ……
 レナも、沙都子も、梨花ちゃんも……魅音も……また、会えるかな。
 金次郎さん……殺されてなきゃいいけど……見捨てたのと一緒だよな……
 格好悪いなぁ、俺。結局、最後の最後で何もできなかったじゃねぇか。
 せめて助けを呼ぶとか、犠牲になった人のために戦うとかさ……
 ……くそっ……痛くないのに……痛ぇ……何でだよ……?
 お、おい畜生!! 止まれよ、なぁ……俺の涙だろ、止まれよ……ッッ!!
 うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!
「悔しい……本当に……悔しい……ッッ!!」






           「ですー」






 その、永遠に幼く響く子供の声が、雨の音に混じって聞こえた瞬間。
 前方に作業服の男を確認し、悲鳴を上げる暇もなく。
 前原圭一の肉体を――銃弾が貫いた。


243 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 18:08:30.68 ID:WltghsRq0


 最終章 「家路」

昭和58年6月24日 03時27分
××県鹿骨市 雛見沢村 入江診療所

 微かな光を頼りに、閉ざされていた目蓋を開ける。
 ぼんやりと視界に映し出された天井は、自分が近代的な建物の内部にいることを示していた。
 どうやら俺は病院……いや、入江診療所にいるらしい。誰かに運ばれたのか……
 突然、雷に打たれたような激痛が走り、慌てて肩を押さえる。僅かに血が滲んでいた。
 包帯を巻かれているところを見ると、どうやら銃弾は俺の肩を貫通したようだ。
 幸いにも、大事には至らっていないらしく、何とか自分の意志で腕を動かすことができる。
 しかし意識が朦朧としており、身体を少し動かす度、今にも倒れそうな眩暈と嘔吐感に襲われた。
 頭が鉛で固められたように重く、額が熱く火照っているのを感じる。どうやら、傷を負って発熱してしまったようだ。
 朧な記憶を頼りに、何が起きたのかを知ろうとしたが、雨の中で倒れたところまでしか思い出せなかった。
 体中が痛い。それでも、助けを求めなければとベッドから起き出す。
 俺がここにいるということは、少なくとも誰かが運んでくれたということだ。
 適切な方法で応急処置してあるということは、恐らく助けてくれたのは入江先生だろう。
 ……まさか、自分で命令させて撃った相手を助けたりはしないはずだ。
 やっぱり黒幕は鷹野一人で、入江先生は何も知らなかったということなのか?
 なら、一刻も早く入江先生に状況を伝えなければならない。
 壁に掛かった時計を見る。時刻は深夜三時半過ぎ。まだ、間に合うかもしれない。
 ふらつく足取りで――まるで、酔っ払いみたいだ――廊下へ出る。
 夜深く、人の気配がない病院というのは気味が悪い。


245 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 18:10:55.27 ID:WltghsRq0


 廊下の窓ガラスを、激しく雨粒が打ちつけている。
 外は文字通りバケツをひっくり返したような大雨だった。
 どうやら俺が倒れてから、さらに本格的に降り出したようだ。
 暴風と呼べるほどの風は吹いていないものの、自然災害の域に達している。
 まだ止む気配はなさそうだ。この分じゃ、朝まで降ってもおかしく――
「…………え?」
 雨に遮られ、霞む視界の隅で、何かが動くのを、俺は見た。
 それは、人間の形をしていて、あろうことか、この大降りの雨の中、傘も差さないで。
 しかも信じられないことに、俺はそいつの顔に見覚えがあって、親友で。
「……魅……音……?」
 思わず、彼女の名前が口をついて出た。
 間違いない。雨水滴る深緑の髪が、ポニーテールに結われている。
 よく見れば、昨日ゴミ山の帰りに会った時と同じ、見慣れた私服を着ていた。
 あんな容姿の人間、この雛見沢の中では少なくとも園崎魅音以外には存在しない……!
 確信と共に、俺は廊下を駆け出していた。慌てて出入り口へ向かう。
 身体が悲鳴を上げていたが、今の俺には届かない。自分のことなんか、どうでもよかった。
 とにかく魅音と話がしたい。そんな淡い想いが、俺を突き動かしていた。
 いや、それもあるが、何より、生きていてくれたことが嬉しかった。


246 名前: ◆N00Fy6IYcA [sage] 投稿日:2009/03/01(日) 18:12:37.19 ID:WltghsRq0


 俺が駆けつけた時、そいつは確かに、園崎魅音以外の何かに見えた。
 吹き降りの雨の中を微動だにせず。目は虚ろで。口は中途半端に開かれている。
 違う。よく見ると舌が微かに上下運動を繰り返していた。恐らく、何かを唱えているのだ。
 機械的な口の動きから、それは容易に判断することができた。
 というより、俺には最初からそれしか思いつかなかったと言ってもいい。
「はは……こんな時まで“お題目”かよ……狂ってるぜ……」
 絶望と喪失の中、唯一出会えた親友の姿が、頭のイカレタ宗教キ印になっていたなんて。
 本当、とことん最低なシナリオもあったものだと、つい自嘲気味に笑ってしまう。
 ゆっくり魅音との距離を詰めてゆく。彼女の視線は遥か遠く。
 東京にいる池田先生とやらを見据えているようだった。
 やがて目の前に立つ。否が応でも視界に入り、魅音は俺に気付いた様子だった。
 それまで上を向いていた顔が、俺の方を向き直る。そこに張り付いていたのは――狂気。
 鬼のものと呼んでも、あながち間違いではないと言えるであろう。般若のような笑顔。
 唇の端は醜く歪み。俺の中から、眼前の人物に対する親愛の情が失せてゆく。
 幸せそうに、心の底から幸福そうに笑う女は、こんなにも恐ろしいのか。
「…………お前……誰だ?」
 何よりも最初に俺の腹の底から出た言葉は、親友に向けられるものとしては、あまりにも残酷だった。
 だが、次の瞬間には、全ての同情を掻き消すような気持ち悪い嬌笑が辺りを包み込む。
 それは雨の足音と見事に混ざり合い、鬼の雄叫びのようにも聞こえた。


248 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 18:15:18.88 ID:WltghsRq0


「私の顔、忘れちゃった? 園崎魅音だよ、圭ちゃんの親友のね」
 艶かしく大人びた声で、嘲る様にそいつは言った。
 違う。俺の知る魅音じゃない。今のこいつは、ただの、宗教に取り付かれた鬼だ。
 本当の魅音は、今もこの化け物の中で足掻いているに違いない……!
「はははははは! その表情が見たかったよ! まるでイナゴになかされたって顔してるじゃない!」
 俺の絶望を湛えた顔が、そんなに面白かったのか。
 彼女はさも嬉しそうに膝を叩いて笑う。よくわからない喩えだ。
「お前は……本当に魅音なのか……?」
「園崎魅音だって言ってるでしょ? 圭ちゃんが会いたがってた、本物の部長さんだよ」
 信じられなかった。いや、理性がそれを魅音だと認めたがらなかった。
 ついこの間まで楽しく一緒にカードゲームやってた奴が、数日経っただけでこれだぜ?
 自分で言うのもなんだが、何もかも信じられなくなるのも当然だと思う。
 ……だが、俺は諦めるわけにはいかない。今はできる限りのことをしなくてはならない。
「じゃあ魅音でいい、よく聞けよ……これまでの祟りのことなんだけどな……」
「ざけンじゃないわよッッ!! 何が『オヤシロ様』だ、何が『鬼隠し』だ!! これは人間革命なんだぁああああああああああッ!!」

 ――駄目だ、取り付く島もない。
 今のこいつには、何を言っても戯言として処理される。ある意味、理想的な宗教家だ。
 過去の祟りの真実や、鷹野の陰謀について説明したところで、魅音は何も受け入れないだろう。


249 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 18:19:15.11 ID:WltghsRq0


 ただ、時間だけが刻一刻と過ぎてゆく。暁の空が、徐々に近づいてきている。
 早く助けを呼ばないと、助かるものも助からないかもしれない。
 俺には、自分の無力を呪うことしかできなかった。

 時間だけが過ぎていく。相変わらず、何も進展は無い。
 俺としては、一秒でも早く魅音を説得して入江先生に状況を知らせたいのだが……
 眼の前の現実は、確かにそんなに甘くなかった。
 たっぷり三分は経った頃だろうか。不意に魅音が口を裂いて笑いながら、告げた。
「気が変わったよ……圭ちゃんだけは助けてあげてもいいかな、って思ってたけど……やーめた、許してあげない」
 最初こいつが何を言っているのか、わからなかった。また人間革命とやらの話かと思った。
 だが、直後に俺に突きつけられたのは――刃渡り八センチ以上のサバイバルナイフ!
 血の気が引くのを感じる。想定していなかった展開に、身動きが取れなくなる。
「詩音も殺した、残るはあんたを殺せば、池田先生を馬鹿にした奴らは全員殺すことができる」
 何を言っているのか理解できない。理解できない。リカイデキナイ。
 詩音を殺しただと? またお得意の妄想か。止めてくれ、夢だの妄想だの、さっき話したばかりじゃないか。
 そういう下らない戯言は、是非とも別の世界で聞かせて欲しいものだ。
「落ち着け、魅音……いいか、まずはそのナイフを下に――ッ!?」
 最後まで台詞を言い終わらないうちに、俺の言葉は謎の轟音によって遮られた。
 破裂音のような、正確には虫が羽ばたく様な……ヘリコプターか……?
 どこか近くでへリコプターが着地したのか? 裏山? 何故?
 俺は何が起きているのか推測すらできないでいる。魅音が囁くように言った。
「音が聞こえたでしょ? 何だかわかる? 同志の学芸員たちが到着したんだ、もうすぐ粛清が始まるんだよ」
「な……んだよ……それ……!」


251 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 18:20:49.84 ID:WltghsRq0


 止むことのない暴雨。変わらず響き続ける謎の音。
 何が始まろうとしているんだ? まさか、本当に魅音の言う『人間革命』ってやつなのか!?
「畜生……ッ! 何だよ、『人間革命』って何なんだよ!?」
 こうして謎の音を聞くまでは、全て魅音の嘘だと思っていた。宗教に心酔した人間の誇大妄想だと。
 だが、実際に現実を目の当たりにして、俺は間違いなく錯乱してしまった。
 果たして『雛見沢症候群』を発症しているのは、前原圭一か? 園崎魅音か? そもそも、これは現実なのか?
「おい! 何とか言ったらどうだ魅音! 革命だか何だか知らないけど――」
「祭りだよ。人類規模のお祭りさ! 『一人ノ人間ニオケル偉大ナル人間革命ハ、ヤガテ一国ノ宿命転換ヲモ成シ遂ゲ、サラニ全人類ノ宿命ノ転換ヲモ可能ニスル』……」
「ま、祭りって……わけわかんねーよ……」
「のんびり話してる場合じゃないと思うよ? もう人間革命は始まってるんだからね」
 そう言うと上空を見上げ、再びブツブツと例の呪文を唱えだす魅音。
 気味の悪さと、胸糞悪さ。やはり状況は理解できないが、それでも俺は、もう何もかも手遅れの気がした。
(……どうする……一旦、魅音を見捨てて入江先生の所へ急ぐべきか?)
 ヘリコプターに乗って来た奴らが、本当に創価学会の連中なのかはわからないが、どっちにしろ友好的な奴らだという確証はない。
 梨花ちゃんを殺そうとしている鷹野三四。雛見沢に現れたヘリコプター。こいつの言う『人間革命』とやら。
 正直言って、わからないことだらけだ。


252 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 18:22:42.22 ID:WltghsRq0


 為す術もなく、呆然と佇んでいると、上を見ながら魅音が話しかけてきた。
「次は誰が死ぬんだろうね。池田先生を信じないアンチ共なら誰でもいいけどさ、くけけけけけけ」
「冗談は止めろ、これは全部、鷹野が仕組んだ陰謀だったんだよ……」
 こいつは俺の言葉に耳を貸さない。全て悪知識として聞き流しやがる。そんなことはわかってる。
 でも、何か真実と思えることを口にしていないと、俺まで何かに飲み込まれてしまいそうで怖かった。
 宗教には妙な力がある。鰯の頭も信心から。信仰心さえあれば、縋る所なんて神様でもオヤシロ様でも、何でもいいのかもしれない。
 なら、魅音は一体、何に怯えて、何を感じて、何に絶望して、宗教に頼ろうとしたんだろう。
 俺がそれに気付くことさえできたなら……こいつを救えたんだろうか。

「ノロマな圭ちゃん。せっかく警告してあげたのに……いつまでも雛見沢にいるから、こんなことになるんだよ」
 身動きできないまま、再び無意味な時間が流れ始めた。
 相変わらず向けられるナイフ。雨は滂沱として、一層激しさを増している。
「俺は…………どうすればいいんだ…………?」
「日記にでも書けばいいんじゃないの? 『祟りを起こした犯人は園崎魅音です』ってね。時計の裏に隠せば警察が見つけてくれるかもよ?」
 その言葉を聞いて思い出す。そうだ、大石さんがいた。確か梨花ちゃんの連絡を受けて、家の近くで待機していたはず。
 ひょっとすると、この近くにいるのかもしれない。もし合流できれば、救援を呼んでもらえる。
 ――駄目だ、今の魅音を見れば、大石さんがどんな反応をするかは容易に想像がつく。
 恐らくこいつの話を“祟りは園崎家のせいだった”と曲解して受け取るに違いない。
 打つ手なし。手詰まり。絶体絶命。言い方は何でもいい。
 纏わりつく無力感に侵食されてゆく。
「……………………」
「二十分くらい経ったね、そろそろ始まる頃じゃないかな……」


255 名前: ◆N00Fy6IYcA [sage] 投稿日:2009/03/01(日) 18:26:04.76 ID:WltghsRq0


「…………魅音……頼む、俺を診療所へ行かせてくれ」
 最後に俺が下した判断は、魅音を放置して診療所へ向かうというものだった。
 このままここにいても時間の無駄だろう。なら、今は入江先生に会う方を優先するべきだ。
 しかし、魅音は首を横に振った。
「入り口はもう囲まれてるんじゃないかな? それに、さっき言ったでしょ? 圭ちゃんには死んでもらうんだよ」
「何でだよ……レナが、梨花ちゃんが、沙都子が危ないんだぞ! お前、部長なんだろ!?」
「レナたちには悪いと思うよ。それでもね、私は池田先生を裏切れないんだ」
「そんなに池田先生とやらが大事なのかよ!!」
「変なことを聞くんだね……当たり前じゃない。私がどれほど先生に“救ってもらった”か、あんたにわかる?」






                  救 ッ テ モ ラ ッ タ ?






 ――救ってもらった? 救ってもらった? 救ってもらった? 救ってもらった? 救ってもらった?
 この女は何を言ってるんだ? 誰が誰を救ったって? “救う”って言葉の意味が、本当にわかってるのか?
 今のこいつは、誰が、どこから、どう見ても、不幸で、惨めで、哀れで、カワイソウな、糞ガキだ。
 なのに何を抜かした? よりによって救ってもらっただと? ふざけんじゃねぇぞ。
 俺の中で、最後の理性が、小さな音を立てて、粉々に、弾け飛んだ。


257 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 18:28:36.25 ID:WltghsRq0


「うるせぇええええッ!! お前は何かに救ってもらったつもりになって、満足してるだけなんだろうが!!」
 思わず頭に血が上り、物凄い大声で叫ぶ。
 それまで微動だにしなかった魅音の顔が、歪んでいく。
 図星だったのだろうか。かなり動揺しているのが、目に見えてわかった。
「わ、私の信心は本物だよッ!! 生命の脈動も感じてるさッ!! 頭がパーンってなったんだ!!」
「駄目だぜ……全然駄目だ、根拠不足だ、お前は何も救われちゃいない!!」
 そうだ。何もわからないと俺は言った。
 でも、一つだけ、たった一つだけ断言できることがある。
 間違いなく、こいつから家を、家族を、友人を、人間としての良心を奪った犯人!
 そいつが今も魅音を苦しめ続けている! それだけは言い切れるッ! 俺はそいつを許さねえ!
「ッ……! 何を言っても、私たち学会員が天罰を下したって事実は変わらないよ……」
「寝言は寝てから言うもんだぜ、園崎魅音さんよぉ? これまでの祟りは全部、高野美代子が仕組んだことなのさ」
「た、高野美代子……? あぁ、それが鷹野さんの本名なんだ……くけけけけ」
 以前の俺なら、それが不気味な笑いに聞こえただろう。くけけって何だよ。気持ち悪い。
 だが、もう何も恐れない。梨花ちゃんには悪いが、もう少しだけ待ってもらうぜ。
 今はこいつを、この大馬鹿ヤロウを何としてでも現実に引きずり戻すッ!

「いいぜ……こうなりゃヤケだ、徹底的にお前の暴論を打ち砕いてやる、かかってこいよ創価学会ッッ!!」

 ニヤリと、口元に不適な笑みを浮かべて、眼の前の宗教馬鹿を睨み付ける。
 戦う相手が魔女や悪魔の類じゃないのが残念だが、それでも相手に不足はない。
 宗教気違い上等だ、二度と信仰心が湧かないように再教育してやろうじゃねぇかよおおおおおおおおおおおおおおッッ!!


259 名前:サザエの時間をお知らせします ◆N00Fy6IYcA [sage] 投稿日:2009/03/01(日) 18:30:16.49 ID:WltghsRq0


「おかしなこと言うね、私の信心を試そうって言うの? 下らない……下らない……」
「じゃあ、お前はその下らない言い分に論破されたってことになるが、構わないんだな?」
 急に黙りこくって、同じように俺を睨み付ける魅音。その目には狂気を宿していた。
 確信する。間違いない、『雛見沢症候群』にかかっているのは魅音の方だ。
 それも梨花ちゃんが話していた『L5』の状態とやらを発症しているのに違いない。
「さっき、お前は“詩音を殺した”って言ったな……それは本当か」
「姉なんて……ロクな立場じゃないよ、一家和楽の信心って知ってる? 家族は同じ宗教を信仰するべきなんだ」
 要するに、分かり合えないから殺した。なんて短絡的思考……幼稚園児以下……ッ!
「だからって妹を殺すことはねぇだろ! 論点をすり替えるんじゃねぇ! それを学会が望んだってのか!?」
 鬼のような形相で先生とやらを擁護し始める魅音。侮辱は許さないと、悲痛な声を上げる。
 だが、今度は俺が奴の言い分を一蹴する番だ。教えてやらなくてはならない。
「事実ッ! お前が殺人を犯したことに変わりないだろ!? 宗教を盾に、正当化させてるだけなんだよッ!」
 つまりこうだ。こいつは、自分勝手な理由で殺人を犯した。
 その罪を全て被るのが怖いから、便利な宗教を隠れ蓑にして逃げ込んだんだ。
 またもや図星だったのか、無闇にナイフを振り回し、殺してやる殺してやると、血相を変えて叫んでいる。
「ほらな?  鰯の頭も信心から……お前は何だって良かったんだよ、オヤシロ様でも何でも……」
「はははははははははは!! 言ってくれたね、圭ちゃんのお葬式には、段ボール二箱分の祝電を送りつけてあげるよ!」
「けっ、言うに事欠いて祝電かよ、馬鹿馬鹿しい……もう一度言うぜ、論点をすり替えるな」
 昨日も言ったはずだ。俺は何も宗教を批判したわけじゃない。俺の敵は、今、あくまでも園崎魅音なんだ。
 だから、その瞳を見据えて、まっすぐと宣告した。

「お前が殺人を犯したことは、誰にも正当化できない罪であり、おまえ自身の責任に他ならないッ!!」


265 名前:さるさんくらった(3回目) ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 18:43:46.64 ID:WltghsRq0



 ――学会のため? 違う。
 ――来世のため? 違う。
 ――人類のため? 勿論、違う。


「イライラする、本当にイライラするよ、何も知らないくせに、何も、何も……ッ!!」
「ならどうした? お前は何か知ってるってのか? 寄付したら幸せになるって? 因果関係を証明するものはあるのか?」
 もちろん、そんな意味不明な証明はできない。違うとも言い切れない、悪魔の証明だ。
 それでも現実に生きる常人なら否定する。普通はそうなんだ。それが普通なんだ。
 自分の財産を他人に譲渡して幸せ? 悪いが、俺にはその流れが理解できない。
「どうして……どうして、そこまで学会を嫌うの? 私たちが何かした? 幸せになりたいって願うことが、そんなにいけないの?」
「誰も、そんなことまで言ってねぇだろ……! 他人に迷惑をかけるなって、俺が言ってるのはそれだけだ!」
 俺の悲痛な叫びは届かない。
 それでも訴え続ける。いつか伝わると信じて。
「に、人間なんてみんな一緒だ! 本当に素晴らしいことを理解しようとしない!」
「――それを、お前が決める権利なんてないだろ?」

 俺に権利がないのと同様に。誰にも、人の価値観を従属させる権利なんてない。
 だから前原圭一は、園崎魅音の宗教観を認める。
 しかし、それは彼女の罪を許容するような、屈折した同意ではない。
 あくまでも個人の価値観を侵害せず、尊重するという意味だ。
 過ちは過ちと気付いてほしいだけ。ただ、それだけ。
 それが俺の親友に対する、最後の願い……!


267 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 18:46:32.50 ID:WltghsRq0


 また、足音がした。
 魅音にも聞こえたのかはわからない。なにせこの大雨だ。
 だが、それが何かの契機になったのだろうか。
 途端に、発狂したように髪を振り回して魅音が俺の方へと駆け寄ってきた。
 避けることもできず、ナイフで数回わき腹を刺し抉られる。激痛が走る。
 そのまま薙ぎ倒されるように足払いをかけられ、地面に突っ伏す。
「ぐぁあああああああああああッ!!」
「いくら泣いても、この雨じゃ誰にも聞こえない……諦めるんだね」
 血と泥と。今日一日で、何度地面に倒れただろうか。
 土の味にも慣れてしまった。気にもならない。
 見上げれば、魅音がナイフ片手に仁王立ちしている。
 あんなに鋭利な刃物で刺されたのか……丸腰相手に容赦ないぜ……
「そりゃ……いくら、なんでも、ルール、違反じゃ……ないか?」
「ルールなんて関係ないよ……忘れちゃったの? 部活の掟じゃない」
 今の魅音から『部活』なんて言葉が聞けたことに驚きを隠せない。
 何だか妙な雰囲気になり、少しだけ俺たちは笑い合う。
 それが、最後に見た園崎魅音の笑顔だった。
「ああ、そう、だったな、勝つためには、手段を、選ばない、だろ?」
「よく言えました…………あの、それとさ――ごめんね」
「謝るなよ、馬鹿」
 言い終わると同時に、万力のような力で首を押さえつけられ、水溜りに顔を突っ込まれた。
 呼吸ができない。苦しい。もがけばもがくほど、酸素が失われる。
 刺された傷から血が溢れ出し、上手く身体に力を入れることができない。
 俺は、今度こそ、間違いなく、心の底から、死を、感じた。


268 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 18:50:35.13 ID:WltghsRq0


 あまりにも色々なことが起きたからかな。
 唯でさえ朦朧としていた意識が、さらに九割ほど吹っ飛んでしまった。
 何もかもがどうでもよくなる。生への執着心が、消えてゆく。
『圭チャ ん ハ 溺死 ダッ たヨ ネ?』
 耳だけ水溜りより上に出ているから、辛うじて聞き取れた。
 確かに魅音の声だけど、それは魅音じゃない。
 鬼と呼ぶのもおこがましいような何か。
『チゃ ン ト 警 コクした カらネ?』
 数日前のことを思い返す……そういや学校で、溺死とか言われたっけ。
 意外と覚えているものなんだと、自分で感心してしまった。
『やッと  私ノモノニナッタネ』
 誰がお前の物になるかと、内心で反抗しながら。
 妙に冷静な自分の心が、確実に死んでゆく前原圭一を、小高い丘の上で眺めている。
 時間の流れが緩やかだ。暑いも寒いも痛いも苦しいも哀しいも何もない。
『ンケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケ!!』
 脳だけが生きているような感覚。他の器官が全て消失したような。
 あれだ、昔観たアニメの映画で、脳だけになって生きている悪役がいた。
 最後は宇宙に飛び出して、主人公の仕掛けた爆弾で死んでしまったんだっけ?
『たノ シカッ  タヨ ケイ チャ ン 』
 今の俺も、同じだと思う。思考以外は何もできない。
 声も出せない。手の指一本、動かせない。
『スッゴ クシ アワ セダ ッタ』
 そりゃそうだと納得する。
『けイ チ ャ ンノコト キライ ジャ ナカ ッ タヨ』
 だって――
『テンゴ クデア エ  ルト  イ イ ネ』

 前原圭一は、もう死んでいるのだから。


270 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 18:56:34.13 ID:WltghsRq0

――――――――――――――――――――

 薄暗い、路地のような場所にいた。
 懐かしい匂いがする。夕日が、美しい。
 これが噂に聞く走馬灯ってやつなのだろうか。
 それにしては奇妙だ。俺は、こんな場所を知らない。
 雛見沢に来る前の住所でもない。全く見覚えがなかった。
 遠くに小学校が見える。チャイムが響いた。下校の時間らしい。
 次々と、校門からランドセルを背負った子供が現れては散っていく。
 明日の授業のことや、嫌いな先生の話題で盛り上がっているのだろうか。
 どこか微笑ましい気分になる。沙都子や梨花ちゃんと同い年くらいの子もいる。
 中でも、特に騒がしい談笑を耳にした俺は、咄嗟に近くの電信柱に隠れてしまった。
 片方は眼鏡をかけた柔和な少年。もう片方はいがぐり頭の、少しませた感じの子供だった。
 野球をして遊ぶ約束でもしているのだろうか。『バット』や『グローブ』といった単語が聞こえてくる。
 そして突然、背後から小走りで近寄ってきた女子児童の大声によって、彼らの会話は中断させられた。

「い゛ぞの゛ぐーん!」

 もはや聞き慣れたと言っても過言ではない挨拶。
 条件反射で圭一は答えようとする。だが、口を開く前に気が付いた。
 彼女の意識が向けられているのは自分ではない。先に歩いていた二人組であった。

「あ、花沢さん」

 そして圭一は全てを悟る。あの、いがぐり頭の子供こそ、本物の『い゛ぞの゛ぐん』なのだと。
 次の瞬間、自分とは似ても似つかない容姿に、少しだけ困惑の表情を浮かべる。
(誰が瓜二つだって? 誰が誰の隣にいたら区別がつかないって?)
 確か、抜けるのは顎だった。本当に顎が外れそうになるくらい、似ても似つかない。
 堪えられずに噴出す。幸せな笑顔が止まらない。安堵感で満たされる。
 彼女は無事、あるべき場所へと帰れたのだと、そう確信した。

271 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 18:58:34.00 ID:WltghsRq0


 しばらく歩みを進めていくうちに、彼らは一軒の店の前で立ち止まった。
 正面に『花沢不動産』と書かれた看板が掲げられている。
 どうやら、ここが少女の自宅らしい。ガラス越しに男性の影が見えた。

「ただいま、父ちゃん!」
「おかえり、花子」

 玄関のガラス戸を開けて、その人は姿を現す。
 短い挨拶を交わす親子。それは、本当に何気ない光景。
 少女は大好きな父親に駆け寄り、今日一日あったことを報告する。
 笑いながら、無邪気な娘の話に耳を傾けるおじさん。
 その大半が磯野君という少年の話題で。
 父親としては複雑じゃないのかと思いきや、そうでもないらしい。
 嬉しそうな顔で、是非不動産屋の跡取りにしたいと何度も繰り返している。
 どうにも変わった家族のようだ。圭一は少し羨ましくも、寂しくもあった。
 今、彼の中を渦巻いているのは、別れ際に見せた母親の表情。
 不安で心配で、本当は出かけてほしくないと言っていた。
 両親は、自分が死んだと知って、どう思うだろうか。
 魅音を憎むだろう。家から引き止められなかった自分を呪うだろう。
 だが、それ以上に悲しむだろう。申し訳ない気持ちが溢れる。
 それでも涙は出ない。後悔なんて、絶対にしない。
 圭一は静かに笑う。夕日を背に受けて。


274 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 19:00:47.32 ID:WltghsRq0


 振り返れば、遥か遠くに先程の少年たちが見えた。
 オレンジ色に染まる坂道を、何の疑いもなく歩いてゆく。
 家に帰って、家族と食卓を囲んで、日曜日は終わりを告げる。
 また、月曜日を迎えて新たな一週間が始まるのだ。
 それを彼らが知る術はない。永遠に。
 精一杯、自分に与えられた世界を生きているだけ。
(俺にも……同じことができただろうか……?)
 つい、彼はそんな疑問を抱いてしまう。
 沈みかけた陽の光は、とても眩しかったけれど。
 薄く霞んだ背中を、真っ直ぐ見つめながら。

「……カツオ、花沢さんを不幸にしたら、俺が許さねぇからな」

 前原圭一は、そんな言葉を呟いた。
 夢か真実かわからない世界で。
 虚構の欠片に刻み込まれた。
 僅か、一瞬の出来事――


――――――――――――――――――――――――――――――


275 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 19:02:46.67 ID:WltghsRq0


 終わらない夏がないように。
 彼らも、いつかは家路に着くのだろうか。
 本来あるべき世界に、帰りつくことはできるのだろうか。
 それがいつなのかは誰にもわからない。無論、私には見当もつかない。
 だけど、確かなこともある。小さな優しさは言葉となって紡がれる。
 少年の口から、聞き取ることも困難なほど微かな声が漏れた。
 雨の音に混じって、それは消えてしまいそうだったけど。
 確かに彼女へ届いたのだと、私は今も信じている。
 幾百年の人生を繰り返す、魔女と同じように。
 彼らも永遠の輪廻に囚われているのだ。
 だが、彼は紡ぐ。その命が朽ちる時。
 この世界で――最後の言葉を。

「そうだ……きっと、帰れる……」







   ひぐらしの、なく頃に――








276 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 19:05:49.44 ID:WltghsRq0















     ひ ぐ ら し の な く 頃 に   家 探 し 編















279 名前:もう少しだけ続きます ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 19:07:52.79 ID:WltghsRq0


 翌日、園崎詩音は山中の井戸で変死体となって発見された。
 首の周りには尋常ではないほど掻き毟った痕跡があり、死因は出血多量。
 その他にも、頭部に打撲跡や暴行を受けたと思われる外傷が多数発見された。
 また、当日の夜、竜宮礼奈や北条沙都子、前原圭一が古手梨花の自宅へ向かったと前原藍子が証言した。
 前原圭一は事件の明朝、入江診療所付近を通りかかった男性から通報があり、死体が確認された。
 死因は水溜りでの溺死。何者かに首を掴まれ、長時間押し付けられていたものと思われる。
 犯人と揉み合った際に付着したと思われる繊維が、園崎魅音の普段着と一致した。
 さらに、彼の肩には拳銃で撃ち抜かれたような跡があり、園崎組の関与も調査されている。
 尚、警察へ匿名で通報した男性は、依然不明。捜査本部では重要参考人として行方を追っている。
 竜宮レナ、並びに北条沙都子の遺体も古手神社裏手の山道で発見される。
 死因は銃殺。胸部に三発ずつ撃たれたとされる。同じく、園崎組の関与が疑われている。
 古手梨花の遺体は、一体だけ神社境内の賽銭箱の隣に放置されていた。
 司法解剖の結果、生きたまま腹部を開腹され、意図的に臓器を引きずり出されたものと断定された。
 一連の事件の重要参考人である園崎魅音は未だ発見されず。
 災害の後、大半の村人が死亡したが、彼女の遺体だけは発見されなかった。
 尚、雛見沢大災害が発生したのは、前原圭一が殺害されてから僅か三日後のことである。





                              〜fin〜 ひぐらしのなく頃に 家探し編


281 名前:後日談 ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 19:11:54.95 ID:WltghsRq0


昭和60年7月15日 12時45分
××県鹿骨市 某喫茶店

 暑い。
 容赦なく照りつける日差しに、不快感が込み上げる。
 蝉の羽音と車の騒音のせいで、一層熱気を感じてしまう。
 額の汗をハンカチで拭い、僕はタクシーから降り立った。
 懐かしい匂いを嗅ぎ取り、辺りを見渡す。随分と記憶にない建物が増えたものだ。
 東京から電車を乗り継いで数時間、この町に来るのは数年ぶりだった。
 ××県鹿骨市。雛見沢村から最も近く、比較的開発の進んだ地域。
 今日、僕がここを訪れたのは観光目的でも温泉目的でもない。
 指定された場所が書かれた紙を、スーツの内ポケットから取り出す。
 定期的に電話で連絡を取り合うことはあったけど、直接会うのは数年ぶりだ。
 特に、例の災害が起きてからは互いに忙しく、電話すら年に数回しかできなかった。
 覚えていてくれれば良いのだがと、少々不安になったりもする。
 目印のビルを裏に回って狭い路地に入る。小さな看板を掲げた喫茶店が目に付いた。
「喫茶『ポアロ』……あそこか……」
 クーラーの効いた店内に入り、ウエイトレスに同席であることを告げる。
 奥の席に視線をやると、見知った顔の男性が座っていた。
「んっふっふ〜お久しぶりですねぇ〜」
「大石さん! ご無沙汰してます」
 この巨漢の人物は、以前雛見沢を訪れた際、非常にお世話になった大石蔵人氏だ。
 元は興宮署の刑事だったが、数年前に定年退職し、現在は北海道で隠居しているとのこと。
 引退したとは言っても、相変わらず例の事件に関する捜査は独自に進めているらしい。
 そのため年に一度、必ずこの季節には鹿骨市を訪れていると聞く。
「急に呼び出してしまって、申し訳ありません」
「まぁ、お互い様ですよ……あ、コーヒーいります?」
 そう言って笑いながら、ウエイトレスを呼び止める大石さん。
 以前会った時と、あまり変わっていないように見えて、少し安心した。

283 名前:赤坂の一人称が合ってるか不安 ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 19:15:54.47 ID:WltghsRq0


「電話で用件はお伝えしたと思うんですけど――」
 しばらく世間話や思い出話に花を咲かせた後、僕は改めて切り出した。
 三杯目のコーヒーをお替りしようとしていた大石さんが手を止める。
「ええ、伺いましたよ……あの日、雛見沢で何が起きたのか知りたい、でしたよね?」
「はい……この件に関して、頼れる人は大石さんしか思いつかなくて……」
 僕たちの言う『あの日』――それは、昭和五十八年の六月二十四日を意味している。
 世間的には“雛見沢大災害が発生した日”と言った方が、認知され易いだろう。
 散々マスコミが取り上げたのだ。今や、その災害を知らない者はいないのではないか。
 二年が経過しても、未だに祟りだの宇宙人だの、馬鹿げた推論が週刊誌などで飛び交っている。
「別に構いませんけど……覚悟はあるんでしょうね?」
 大石さんは、触れられたくない傷にでも言及されたように、少々嫌そうな顔をした。
 いくら自発的な捜査をしているとは言え、やはり他人に話すのは抵抗があるのだろうか。
 まぁ、当時の事情を最もよく知る人物の一人として、数え切れないほどの取材を求められたのだ。
 簡単には口を開きたくなくなる彼の気持ちも、わからなくはない。
 それでも、容易に退けないのは、僕だって同じことだ。
「覚悟があるから、ここまできたんです」
 目を見据えて言い返すと、大石さんが長い溜息を吐いた。
「あなたが思ってる以上にキツいこと、お話するかも知れませんよ?」
「それでも、あの日、雛見沢村で何が起きたのか、どうしても知りたいんです!」
「……本当に、後悔しませんね?」
 最後の覚悟を試すように、彼は念を押してくる。
 だが、何度訊かれようともも僕の覚悟は決まっていた。

「――お願いします」

 後悔なら、もう星の数ほどした。
 これ以上何を聞かされても、悔やんだりしない。
 涙を流してすすり泣くくらいなら、潔く死んだ方がマシだと思う。


284 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 19:18:16.86 ID:WltghsRq0


「……わかりました、お話しましょう……」
 そんな僕の意思を汲み取ったのか、大石さんは観念したように頷いた。
 古手梨花が殺害されたと、電話で聞かされたその日から、ひたすら願い続けていたのだ。
 いつか、自分の手で災害の真相を暴きたいと。その願いが、一歩近づくのを感じる。
 改まって姿勢を正し、目の前に座る大石蔵人氏の言葉を待った。
「……まず、本題に入る前に、いくつかお話しなければならなことがあります」
「何でしょうか?」
「確認しますが……雛見沢大災害以前に殺害された、もしくは失踪した人物を覚えてますか?」
 それなら前に電話した時、大石さんから直接聞かされた。
「古手梨花、竜宮レナ、北條沙都子、前原圭一、そして園崎詩音の五人が殺害され、姉の魅音が失踪している……でしたね」
「さらに祭りの後、富竹ジロウと鷹野三四が殺害されていますよ」
 言われて思い出す。確かに、彼らも謎の連続殺人事件の被害者だと言える。
 そこまで考えた時、少し引っかかった。
「他にも誰かいたような気がするんですけど……」
 そうだ。確か、電話で教えられた被害者(何者かに殺害される、もしくは失踪した人物)は十人だった。
 誰だったか……どうしても思い出せない……何故か、彼らにだけ馴染みがないようで……
「花沢花子と花沢金次郎。雛見沢で一週間ほど前から不動産屋を経営してました」
 大石さんの声で、その答えを理解する。
 次の瞬間、色々と忘れていたことを思い出した。
「あぁ……古手神社の境内に住み着いてた例の家族ですか……」
 そういえば大石さんと話した時、雛見沢に妙な家族がやってきたと教えられたことがある。
 念のため、前原圭一と花沢花子をチェックする話していたが、その後は特に注意を払っていたわけでもないらしい。
 以来、全く名前を聞く機会がなかったので、忘れてしまっていた。


288 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 19:23:48.53 ID:WltghsRq0


「その花沢親子がどうしたんですか?」
「――災害が起きる直前に、失踪してます」
 またか。北條悟史といい園崎魅音といい、よく失踪者の出る村だ。
 とはいえ失踪自体、別に珍しい話ではない。
 大規模な災害の後では、必ず失踪者が出るものだと聞く。
 それでも一家全員が同時に、それも災害前に行方不明になるなんて、少し引っかかった。
「遺体は発見されませんでした……勿論、あの大災害の後でもね」
 ならば直前に一家で夜逃げしたと考えるのが妥当ではないか?
 行き先は? 不動産業を営んでるのなら、簡単に調べられることだろう。
 いや、それ以前に、過去に東京の世田谷区に住んでいたのなら、元の住所を尋ねれば……
「んっふっふ……考えてもわかりませんよ? だって、全部無駄なんですからねぇ」
 頭を悩ませる僕を見て、大石さんは笑いながら妙なことを言う。
「無駄って、どういうことですか……?」



「そもそも花沢なんて家は存在しないんですよ、赤坂さん」




291 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 19:26:07.82 ID:WltghsRq0


「――は?」
 花沢家は存在しなかった? 今度は何を言い出すんだ?
 死んだ人間が生きていても、豹変しても、それはまだ許される範囲のこと。
 しかし、“実は最初から存在しませんでした”じゃ話にならない。そもそも推理の仕様がない。
 ルールブレイカーも真っ青の、まさに夢落ち。それだけは許されない。
「……それはどういう意味です? “花沢”は偽名だったと仰るつもりですか?」
「いくら調べても、そんな不動産会社は“この世界には”存在しないんです」
 何かの比喩なのだろうか……大石さんの言葉が理解できない。
 “この”世界にはということは、まるで別の世界にも雛見沢があるみたいじゃないか。
 納得のいかない顔で俯いている僕を無視して、さらに彼は続けた。
「他にも、説明できないことはいくらでもありますよ?」
 隣の席に置いてあった鞄から、一冊のファイルを取り出す。
 そこには黒のマジックで『雛見沢大災害に関する考察』と書かれていた。
 大石さんが開いたのは、数枚の書類が挟まれているページだった。
「この書類は……『No.12 園崎魅音』……?」
「災害の後、警察が園崎家へ立ち入って調査したんですけどねぇ……奇妙なことに、家財道具も何もなかったんですよ」
「家財道具が見つからなかったんですか?」
「ええ、仏壇からテレビから何から何まで、まるで誰かが運び出したみたいにねぇ」
 それは確かに奇妙な話だった。
 火事場泥棒の線もあるが、仏壇まで持っていくとは考えにくい。
 失踪した花沢家の仕業なのか? だが、彼らが村から去ったのは災害が起こる前だ。
 災害前なら家主も生きていただろうし……家具を盗み出すのは、不可能。
 『正直言って、わからないことだらけだ』


293 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 19:30:41.03 ID:WltghsRq0


「さらに、園崎家に関する全ての書類その他において、魅音という少女の存在が消去されていました」
「え…………?」
「戸籍には死亡届が出されています。綿流しの翌日ですよ」
 そう言って、大石さんは役場でコピーした園崎家に関する書類を机の上に広げる。
 確かに何度見ても、魅音という少女の名前は記載されていない。
 順当に考えれば、第一子である彼女は次期頭首を継ぐべき、言わば園崎家の寵児と呼べる存在。
 余程のことがない限り、勘当などされるはずもない。
 これでは……まるで……最初から……
「園崎魅音なんて人間は存在しなかったんじゃないかって、何度も疑いたくなりました」
 大石さんが、僕の心情を代弁するように吐き出す。
「でもね……実は何度か目撃されてるんですよ、園崎魅音」
「え? 目撃されてるって……」
「決まって、東京都新宿区信濃町付近でねぇ……」
 具体的に地名で言われても、いまいち実感が沸かない。
 新宿区信濃町って……何があったっけ……思い出せない……

 しばらく頭に地図を思い浮かべて悩んでいたが、大石さんの声で思考は中断された。
「それでね、赤坂さん。本題に入りますけど……」
 渋みのある声で言われて思い出す。
(そうだ、落ち着け……これまでの話は本題じゃない……)
 あくまで今日、こうして大石さんと会って話すことに応じたのは、別の目的のため。
 古手梨花の死に関する話を聞くためである。


294 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 19:35:21.61 ID:WltghsRq0


 かつて過去に雛見沢を訪れた際、自らの死を予言した少女。
 あの時の言葉を、もっと深く心に留めておけば――
 彼女を救うことができたかもしれない。
 そんなことを、考えない日はない。
「…………お願いします」
「古手梨花の遺体の傍にね、こんなものが落ちてたんですよ」
 そう言って、大石さんは一枚の写真を取り出した。
 写っているのは、小さな紙切れ。細かい字で埋め尽くされている。
 梨花ちゃんが死ぬ直前に記したものだろうか、所々に血液が付着していた。
「大石さん、これって……」
「筆跡鑑定の結果、間違いなく古手梨花本人のものだと判断されました」
 だとすれば、これは、この小さな紙切れは――
「彼女の遺書……或いは、ダイイングメッセージということになるでしょうねぇ」
「………………」
 改めて手にした写真に目を向ける。
 僅かなものでもいいから、手がかりを得たいと意識を集中させる。
 だが、肝心の内容は部分的に血で隠れて、上手く読み取ることができなかった。
「どうです? そっちじゃ読み辛いでしょう?」
 大石さんが鞄から古いメモ帳を取り出し、最後のページを開く。
 どうやら前もって紙切れの内容を模写しておいたらしい。
 そこには、次のような文書が記されていた。


296 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 19:38:23.54 ID:WltghsRq0






   真実ヲ 暴イテ クダサイ
   猟奇殺人ヲ 止メテ クダサイ
   序曲ガ終ワリ 悪夢ガ始マリマス
   前原圭一ト 彼ニシカ 止メラレナイ
   デナイト 永遠ニ 七月ハ 来ナイノダカラ
   ノロシガ上ガリ 私ハ 残酷ナ 終焉ヲ迎エル
   魅了サレ 死ノ虜ニナッタ悪魔ガ 近ヅイテ来マス
   音ガシマス 全テヲ 包ミ込ム ひぐらしノ ナク声デス
   ノコサレタ 魔女ノ 時間ハ 僅カシカ アリマセン
   言ウベキコトハ コレダケ デス 助ケテ下サイ
   葉ガ枯レル 頃ニハ 誰モイナイ デショウ
   オソロシイ コトガ オコル ノデスカラ
   タスケテクダサイ 助ケテクダサイ
   テキハ ダレカ ワカラナイケド
   ヨンダ人 ナラ 誰デモ イイ
   ミステ ナイデ クダサイ






297 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 19:40:39.80 ID:WltghsRq0


「その遺書について、不可解なことはたくさんあります」
「不可解なこと……ですか?」
「まず、この筆跡なんですけどね、とても子供の書いた字とは思えないでしょ?」
 言われてみれば、紙切れに書かれた字はかなり達筆だと思う。
 筆跡鑑定の結果を先に知らされていたからこそ、梨花ちゃんが書いたものだとわかったのだ。
 もし大石さんに何も言われなければ、間違いなく大人が書いたものだと判断しただろう。
 ……梨花ちゃんは書道でも習っていたのだろうか?
 さらに大石さんは続ける。
「古手梨花の年齢を考えれば、『虜』や『終焉』なんて漢字が書けると思いますか?」
 確かに、それも大きな疑問だった。
 『終焉』なんて、義務教育を終了した大人ですら複雑に感じる字だ。
 彼女ほどの幼い子供が、しかも死に直面した状況で咄嗟に書けるとは思えない。
「つまり……何者かが梨花ちゃんに書かせた……?」
「そこまではわかりません……ひょっとすると、予め辞書を使って書いておいたのかもしれませんしねぇ」
 だとすれば、かなり悪質なイタズラだということになる。
 しかし、あの梨花ちゃんがそんな悪趣味なことをするとは思えなかった。
 それにそんなことをしても、実際に殺害されてしまえば意味がない。
 死体の傍に本人の字で書かれた遺書があったのだ。素直に本物だと認めるべきだろう。


298 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 19:42:17.46 ID:WltghsRq0


「他にも疑うべき点はあります。この文章、何を使って書かれたのか、わかりますか?」
 言われて問題の写真を凝視する。
 かなり画質は悪かったが、それでも多少の推測はできた。
「紙は市販ものでしょうし……字の濃さから言って、鉛筆で書かれたんだと思います」
 それを聞くと、大石さんは意味深げに頷く。
「はい、確かにその紙からは鉛筆の芯が検出されました」
「……何の問題があるんですか?」
「肝心のね、鉛筆が見つからないんですよ」
 それは――妙な話だ。
 殺人犯に追われている幼い少女が、謎の遺書を書き残した。
 紙に血痕が付着しているから、恐らく書き終えてから殺されたのだろう。
 しかも、それを書いた鉛筆が発見されていない。
 考えられる可能性は屋内で遺書を完成させ、外で殺害されたということ。
 鉛筆は家事で燃えてしまったという推理は成立するだろうか……?
「家が燃えてしまった以上、探しようもありませんけどねぇ」
「……犯人が持ち去ったとは考えられませんか?」
「なら、何故この紙は持ち去らなかったんでしょうねぇ……んっふっふ」
 なるほど、大石さんの言う通りだ。
 梨花ちゃんの近くに鉛筆と紙が落ちていて、鉛筆だけを持ち帰るのは妙だ。
 普通なら逆のことをするはずだ。犯人が愉快犯でもない限り。


300 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 19:46:45.81 ID:WltghsRq0


「つまり犯人は、わざと警察に紙を発見させようと――」
「まぁ、最後まで聞いて下さい……次に文面なんですがね……」
 大石さんは胸ポケットからペンを取り出し、メモ帳に記された文章を指した。
「一行目の『真実を暴いてください』……これは、まぁ素直に“私を殺した犯人を突き止めてください”ってところですかねぇ」
 どうやら、自分なりの推理ショーを始めるつもりらしい。
 ここは黙って耳を傾けているより、多少なりとも参加した方が良いと思い、一緒に机を覗き込む。
「じゃあ二行目の『猟奇殺人を止めてください』っていうのは……」
「恐らく、例年の“オヤシロ様の祟り”を示しているのではないかと思います」
「……三行目の『序曲が終わる』は?」
「これまでの祟りで起きた、“小規模な殺人”のことではないかと思います」
「小規模な殺人……?」
「簡単に言えば、一年に一人ずつ死んで消えて……これまでのように少人数の被害ではすまなくなる、ということでしょう」
「そして起きた大災害……これが大規模な殺人、つまり悪夢ってことですか」
「どうやら、そのようですねぇ」
 確かに、もう雛見沢で小規模な殺人が起きることはなくなった。
 そして入れ替わるように起こった悪夢。惨劇。村自体の消滅という悲劇。
 辻褄は合うが、何かしっくりこない文章だ。
 いや、そもそも前提が間違っているのかもしれない。
 死に直面した人間が、比喩ばかりの遺書を残すのも妙だが……
「次の行にある『前原圭一と彼』……この彼ってのは誰だと思いますか?」
 先を促すように尋ねる。深く考え過ぎるのも良くない。
 今は先入観に囚われてしまう前に、あるがままを受け入れるべきだ。
「詳しくはわかりませんが、“古手梨花の友人の誰か”である可能性は非常に高いでしょう」
「友人って、学校のクラスメートですか?」
「んふっふ〜意外とあなたのことかもしれませんよ?」
「……………………」


304 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 19:50:53.74 ID:WltghsRq0


 思ってもみなかった意見に、言葉が詰まる。
 しかし、そうである可能性が全くないわけでもない。
 これ以上考えても何もわからないだろうと、僕は先を読み進めた。
「次の行ですが、『永遠に七月は来ない』というのは“自分が今から死ぬ”ということの暗喩でしょうか」
「そうでしょう……『狼煙が上がる』は保留ということにしておいて、『残酷な終焉』というのも同様に考えられますねぇ」
「七行目の、『死の虜になった悪魔』……これは明らかに“犯人”を指している……」
「恐らく、古手梨花は犯人に一度襲われた後、どこかに隠れながら遺書を書き残したのでしょう」
 もし遺書を文字通りに読み解くとするなら、それは間違いないだろう。
 多用されている比喩も、犯人に理解できないように書かれたものだと考えることができる。
 そして犯人は、彼女の思惑通り、メモの意味を把握し切れなかった。故に、無視した。
 面白いほどパズルのピースが組み合わさっていく。
「『ひぐらしのなく声』は……? 文面通りに受け取っていいんでしょうか?」
「ええ、次の『魔女の時間』というのも意味不明ですが、これも“犯人に見つかるのは時間の問題だ”と言い換えることができます」
「そして十行目、『言うべきことはこれだけ』……ですか」
「正確には“自分に言えることはそれだけ、詳しいことはわからない”だと思いますよ」
「犯人はわからない、つまり顔見知りの犯行ではないということでしょうか?」
「閉鎖的な村ですからねぇ、犯人が知らない人間だとすると、外部犯の線が濃厚でしょう」
 十四行目にある『敵は誰かわからない』という言葉。これもそうだ。
 大石さんの言う通り、外部犯の犯行であることを裏付けているように取れる。
 また、考えるまでもなく、ピースがはまった。


308 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 19:54:48.04 ID:WltghsRq0


「……『葉が枯れる頃には誰もいない』……クリスティを彷彿とさせますね」
「実際、直後に例の大災害が起こって村人は全員死滅しています」
 そう言って、大石さんは怪訝な表情を浮かべる。
「“秋まで生き残った人間はいない”、と?」
「そうです……さらに次の行、『恐ろしいことが起こる』……」
「ここだけ見れば、古手梨花が“大災害を予期している”ようにもとれますね」
「ですが、現実にはそんなことありえない……違いますか?」
 悪ふざけをする子供を窘めるような、どこか鋭い声色で注意される。
 そうだ。現実的に考えればありえない。それでも、有り得ないことではない。
 例えば――こんなのはどうだろう?
「……彼女を殺害した犯人が雛見沢大災害を引き起こした……というのは考えられませんか?」
「災害を起こす? では訊きますが、犯人はどうやってガスを発生させたんです?」
「それは…………」
 何も言い返せなかった。人間による大量殺人説を唱えるようなものだ。
 かなり大規模な組織的犯罪でもない限り、地域一帯にガスを噴射するなんて空想的すぎる。
 第一、そんなことをしても無意味に他ならない。誰も得しない。
「ねぇ? ありえないでしょ? 自然災害を起こすことも、予測することも」
「………はい」
 こうして大石さんの一言で、僕の人為災害説が崩壊した。
 あまりにも脆く、信憑性のカケラもない。


311 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 20:00:19.78 ID:WltghsRq0


「十四行目に『敵は誰かわからない』と書いてあります、『恐ろしいこと』は“古手梨花への殺人”と考えるのが妥当でしょうねぇ」
「……では、次の行の『呼んだ人なら誰でもいい』……これは誰のことを指しているんでしょう?」
 今日はどうも調子が悪い。頭の回転が上手くいかないのか、逆に、上手くいきすぎて、自分自身で混乱しているのか。
 早く次の文章を解読したいと、何かに急かされているのがわかる。一体、僕は何を焦っているのだろう。
 ところが、僕が何気なく口にした言葉を耳にした大石さんが、どうにも妙なことを言い出したのだ。
「誰って、そんなの『読んだ』私たちに決まってるじゃないですか」
「え? 私は『呼ばれた』ことなんてありませんけど……」
「ちょ、ちょっと待ってください赤坂さん! あなた、何か勘違いしてるんじゃないですか?」
「勘違い……ですか?」
 慌てて大石さんが僕の言葉を制する。
 さっきから、二人とも何かが噛み合っていない。
「これは『読んだ人』、つまり“この遺書を読んだ人間”を指してるわけです」
「しかし、この文章だとどちらにでも受け取ることはできませんか?」
「“雛見沢に呼ばれた人間”ってわけですか……?」
「ええ……僕にはそう思えるんですけど」
 僕の意見を聞いて、少しの間だけ大石さんが何かを考え込む。
 どうやら、言葉の意図を理解し兼ねているようだ。
「では伺いますが、一体、誰が、誰を、何の目的で呼んでるんです?」
「それは……僕にもわかりません……」
 ただ、何となくそう思ったから口にしただけで。
 目の前の大石さんの語調が、徐々に強まっていく。


312 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 20:03:52.54 ID:WltghsRq0


「まさか“本来いるはずのない人間が、雛見沢に呼び寄せられている”とでも?」
「そう……かもしれません……」
「馬鹿馬鹿しい! あなたが村を訪れたのも、前原圭一が引っ越して来たのも、花沢花子が転校してきたのも、全て必然ですよ」
「本当にそうでしょうか? 僕は、何かの運命に呼ばれるようにして村を訪れたような気がしてならないんです」
 確かに誰が聞いても馬鹿馬鹿しい、唾棄に値するような説だと思う。言ってて自分でもおかしくなってくる。
 だけど、何故だかわからないけど、初めてこの遺書を目にした時から、僕の頭の中では、この一文に対する他の理解が成立しなかった。
 いや“この部分だけは本能的に意図を察知できた”と言った方がいいかもしれない。
「では、仮にパラレルワールドとして別の世界に雛見沢が存在していたとします、そこでは、あなたが村を訪れることはなかったと仰るんですか?」
「……確信は……ありませんけど」
 弱々しく、頼りなく言う。
 それを聞くと、大石さんは吐き棄てるように呟いて、机の上のメモ帳を閉じた。
「はぁ……あなたと一緒に遺書の謎を解き明かそうなんて考えた、私が浅はかだったみたいですねぇ……」
 どうやら、彼の気分を害してしまったようだ。
 こうなると仕方ない、何を言っても無駄だと判断して手元のコーヒーを啜ることだけに集中した。
 随分と冷めてしまった。どうせなら、最初からアイスにするべきだったと少し後悔する。
 しばらく無言の時間が流れる。苦痛ではないが、やはり少々息苦しい。


314 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 20:06:28.83 ID:WltghsRq0


「あの、さっきの話なんですけど……」
 十分ほど経った頃だろうか。
 流石に、これでは何の為に会ったのかわからないと思い、恐る恐る声をかけた。
 それまで俯いていた大石さんが、顔を上げる。
 何か考え事でもしていたのだろう。少し、眉を顰めていた。
「いえ……私の方こそ取り乱してしまって……申し訳ありませんでした……」
 予想外の言葉が彼の口から飛び出したので、かなり驚いてしまった。
 てっきり叱られるか、無視されると思っていたのだが。
「大石さん……」
「いつもこうなんです、雛見沢の話になると周りが見えなくなってしまいましてねぇ」
 んっふっふと、彼特有の笑い声が図書館に響く。
 どこか乾いた笑いだったが、一応さっきのことは水に流してくれたらしい。
 再び、大石さんが向かい合うように座り直す。
 それは、何か話したいことがあるという、彼の意思表示だった。
「少し考えてみたんですよ、あなたの言ったこと」
「雛見沢に呼ばれているって話ですか?」
「ええ……さっきの遺書の四行目に書かれていた『彼』って、覚えてます?」
「はい、古手梨花の友人の誰かだと話していた……」
「そうです、あなたの話に照らし合わせて考えてみると、面白い仮説を思い立ったんです」
「面白い仮説……ですか?」
 思わず声に力が入る。無意識のうちに鼓動が早まっていく。
 ひょっとすると、これから大石さんが披露する仮説が、梨花ちゃんを殺害した犯人を暴く手がかりになるかもしれない。
 どうしても、そんなふうに都合よく考えてしまうのだった。


315 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 20:09:34.88 ID:WltghsRq0


「いいですか? 古手梨花が生前、親しくしていた男性は限られた人数しかいませんでした」
 そう言って大石さんは、再び手帳を机の上に置く。
 今度は何も書かれていない白紙ページを開き、そこにいくつか名前を書き始めた。
「前原圭一、北条悟史、父親に診療所の入江所長、そしてあなた……」
「他にも学校の校長、クラスメートの男子、村長の公由氏を含む村の男性など、付き合い数をあげればキリがありませんけどねぇ」
 自分の名前を含めることはない。大石さんは自嘲気味に笑い声を漏らした。
 それは、最後まで古手梨花と友好な関係を築くことができなかった自分への戒めのように聞こえる。

 電話で、一度だけ話してもらったことがある。事件当日、一体何をしていたのかを。
 彼は――大石蔵人は、災害の前日、古手梨花が殺害されたと思われるに、彼女から直々に連絡を受けていた。
 午後四時過ぎ頃だったらしい。彼が巡回に出ていた間に、デスクの電話が鳴り、梨花ちゃんからの伝言が残されたそうだ。
 電話を受け取った熊谷氏が言うには、なんでも『真実を話したい。今晩家に来て欲しい』とのことだった。
 だが、大石さんが古手神社へ向かおうと車に乗り込んだ時、興宮で質屋を営んでいる住民から連絡が入った。
 『一時間ほど前に、雛見沢の園崎魅音と思しき人物が問題を起こしたから処理して欲しい』と。
 それで急遽、彼は連絡を受けた質屋へ向かった……梨花ちゃんからの連絡を放置して。
 尚、大石さんが問題の店に到着した時、既に園崎魅音は逃げ去った後だったらしい。


317 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 20:15:16.11 ID:WltghsRq0


 彼も苦しんでいる。その気持ちが、身に染みて理解できる。
 もし、あの日に自分が駆けつけていれば、少なくとも古手梨花だけは助かったかもしれない。
 そんな後悔を抱いているのだ。僕――赤坂衛と同じように。
 刑事という仕事を引退してからも雛見沢にこだわり続けるのは、そんな事情があるからなのだろう。
 この小さな遺言状の謎解きすら、彼なりの罪滅ぼしなのかもしれない。
 内心で感慨に浸っている僕に構わず、大石さんの話は続く。
「先に挙げた四人のうち、既に書かれている前原圭一や失踪した北条悟史、死去した父親は除外するとして……」
「じゃあ、入江氏と僕のどちらかということですか?」
「んっふっふ……それが、少し違うんですよ」
「違う? でも、もう他には――」
「だから言ってるじゃないですか、これは仮説だって」
 ……大石さんの言っていることが、いまいち理解できない。
 自分の理解力が足りないのか、或いは彼の説が常軌を逸しているだけなのか。
 再び机の上に視線を向ける。メモ帳の余白に、大石さんが新たな名前を書き加えていた。





 ――花沢花子。






319 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 20:21:54.98 ID:WltghsRq0


「もしね、転校してきたのが花沢花子ではなく“別の誰か”だったとしたら?」
「……………………は?」
 時が止まる。
 窓から、夕陽が僅かに差し込む。
 狭い喫茶店には、もう僕たち二人しか客がいなかった。
「いや、だからね、あくまで想像上の話ですよ」
 何故か嬉しそうに言って、大石さんは口元に笑みを漏らした。
 言葉の意図が読み取れず、僕には黙って机の上のメモを見つめることしかできない。
 それでも、何か、言葉に出来ない異質な空気を感じていた。
 嫌な汗が流れる。やけに静かだった。

「んっふっふ……次は、いいカードが引けるといいんですけどねぇ……」

 そう呟く大石さんの瞳には、確かに『彼』が映っていた。
 正面を見ているのだから、自分しかありえない。
 だが、それは赤坂衛という人間ではない。
 誰かわからない。知らない男だった。
 気味が悪い。音ガ聞コエマス。
 全テヲ。包ミ込ム声デス。

 ひぐらしがないている――





          〜fin〜       ――――――番外編 『古手梨花の遺書』――――――


320 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 20:24:07.86 ID:WltghsRq0


 全て読んでくださった方、お疲れ様でした。
 約七時間も、私の稚拙な文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。
 これから少しだけ質問を受け付けます。過去作品や次回作に関するものなど、何でもどうぞ。
 俺の尻の穴に貴方の野太いちんぽぶち込んでくれませんでしょうか?
 実はこの作品でにも色々なトリックがあるのですが、その謎解きは読者諸兄に任せます。
 (めんど……竜騎士氏と同様のスタンスを取らせていただこうかと思う次第です)
 作品以外の質問もOKです。性癖とか、趣味とか、性癖とか、性癖とか。あと性癖とか。
 では、どうぞー

344 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 21:00:22.97 ID:WltghsRq0


 過去の作品です。まとめサイトがほしいです。
 これ以外のSS? 書いていませんよ、ええ、書いてませんとも。

●ひぐらしのなく頃に系SS
1.ひぐらしのなく頃に 〜甘やかし編〜(祟殺し編)
http://www.csync.net/service/file/view.cgi?id=1235906295

2.ひぐらしのなく頃に 〜神殺し編〜(罪滅し編)
http://www.csync.net/service/file/view.cgi?id=1235906376

3.ひぐらしのなく頃に 〜家探し編〜(目明し編)
http://www.csync.net/service/file/view.cgi?id=1235906405
  ※今回の作品を、加筆・修正したものです。

●夜神総一郎シリーズ
1.夜神総一郎が東大を目指すようです
http://www.csync.net/service/file/view.cgi?id=1235906454

2.夜神総一郎が雛見沢に左遷されたようです
  ※(ひぐらしのなく頃に〜神殺し編〜と同様の内容です)

●その他
1.L 対 地獄少女
今のPCにファイルが無いので、読みたい人がいれば言って下さい。

2.ジーキル博士とhyde(156cm)
  すみません、テキスト持ってません……
  どうしても読みたい方は過去ログ倉庫から探してみて下さい。
  もし見つけたら、どっかのサイトにでも投稿していただけるとありがたいです。

360 名前: ◆N00Fy6IYcA [] 投稿日:2009/03/01(日) 21:38:24.64 ID:WltghsRq0


 また過疎ってきたから、風呂入ってくる。


 これにて、ひぐらしのなく頃に二次創作〜家探し編〜は終了です。
 糞長い小説にお付き合いいただき、ありがとうございました。
 最初は軽い暇つぶしに書き始めたのですが、どんどん長編化してしまい、気が付けば540KB。
 制作期間は約二週間、思えばPCの前から離れた日はなかったように思います。
 思いつきで花沢を登場させたものの、ストーリーに凹凸がなかったので、某宗教を絡ませました。
 面白そうだったので色々と遊んでたら、どんどん引き返せなくなりました。
 正直、やりすぎたと思います。信者の方、本当にごめんなさい。
 だから悪魔の詩事件みたいなのはマジ勘弁して下さい。

 上にも書きましたが、次回作はルパン三世。
『ひぐらしのなく頃に 〜君愛し編〜(仮)』を予定してます。

 では、またVIPでお会いしましょう。
 駄文失礼しました。



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