ハルヒ「キョン。そんなにこっち見ないでよ……」


メニュー
トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:朝倉「何で私のベッドにいるのよ」キョン「今朝は寒いからな」

ツイート

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 14:50:38.48 ID:uqkP9Ak60

小さい頃から、鼻毛が好きだった。

誰のものでもいい。男のものでも女のものでも、とにかく鼻毛が愛しかった。
その人の息に揺られ、時折顔を覗かせるほっそりとした黒の肢体。
自らの住処に隠れて、そしてまた現れてという様には恥じらいすら感じる。

二人きりの部室。いつもの机に座り、対戦相手のいないオセロのボードからふと移した視線が捕らえた光景。
視線を釘付けていることに気づいたのか、キーボードを叩く時の無機質な音を止め、ハルヒは言った。

「キョン。そんなにこっち見ないでよ……」

ハルヒよ、大いなる勘違いがお前と俺の間に横たわっているようだ。
俺が見ているのはお前じゃない。
お前のその整った鼻からこんにちわしている愛すべき鼻毛たちなんだよ。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 15:02:04.98 ID:uqkP9Ak60

ハルヒは気づいていなかった。
己の持つもっとも魅力的な部分が鼻の下で揺れていることに。
その溢れる魅力はもはやハルヒ自身から解き放たれ、明らかな主体性を持って
やわらかに、しかし決然と、その肢体を俺の前で揺らしていた。

「ちょっとキョン!聞いてるの?」

我に帰る。今からその美しい姿を余すところなく目に焼き付け、存分に愛でるという
至高の世界に入ろうというところだったというのに、その言葉で俺は現実世界に引き戻されてしまった。
一回目は耐えたというのに……。

鼻毛という芸術品をぶらさげているハンガーの分際でいまいましい。

「いや、きれいだなと思ってな」
「え、え?ちょ、いきなり何言うのよ馬鹿キョン!」

俺の一言でハルヒは秋風に揺られる熟した烏瓜のように真っ赤になり、
俺から視線を外した。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 15:09:37.21 ID:uqkP9Ak60

そうそう、そのままじっとしていてくれればいいんだよ。
あんまり動くと鼻毛を愛でる余裕がないだろうが。

鼻毛があんなにもっさりとその姿を世界に曝け出している様などめったに拝めるものではない。
そう、これでようやく俺は再び世界から切り離され、心置きなく彼女達のダンスを見ることが出来るというわけだ。

――ああ、美しい。

少しばかり早くなったハルヒの鼻息に揺られるその姿は、
さながら風にさらされつつモンゴルの草原を駆け抜ける漆黒の馬だった。

美しいものをより近くで見たいと思うのは自然なことだ。
俺はその欲求を抑えきれなくなり、椅子から立ち上がった。
そしてゆっくりとハルヒの方へ――


ガチャリ


耳障りな音をたてて扉が開いた。
ああ、なんということだろう。世界はこんなにもノイズに満ちている。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 15:17:58.12 ID:uqkP9Ak60

「どうも。遅れてしまい、すみません」

緩やかに片手を上げて、優男がニヤケ面を貼り付けて立っていた。
ふざけた野郎だ。俺を美術館から引きずり出しておきながら笑ってやがる。
幸いにして見物は無料だったが、もし入館料を払っていたなら倍額で弁償させるところだぜ。

「おや、長門さんはまだですか」

ハルヒの右隣、いや俺たちから見れば左隣だが、誰も座っていないパイプ椅子に眼を向けて
古泉が言った。

「今日は掃除当番ですって。昨日言ってたわ」
「なるほど。掃除当番ですか」

それはそれは、とにこやかな笑みをそえつつ古泉は返す。
荷物を机の上に置き、まるで俺が部室にいることに今初めて気づいたかのような顔でこちらを見た。

「オセロですか。いいですね」

俺が一人でなんとはなしに駒をいじっていたオセロ盤を見て、古泉が言う。
そこで初めて、俺はとんでもないことに気づいた。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 15:22:30.72 ID:uqkP9Ak60

視線を感じたのか、ハルヒと同じく俺に声をかけてきた。

「……どうかしましたか?」
「いや……なんでもない」

もっさり。
その擬音ですら表現するのに足りないほどの、雄雄しいまでに力強い鼻毛が、
己の存在を世界に知らしめようとその姿を見せていた。
余りの多さに鼻の穴が広がっている。

古泉、お前はやれば出来る子だと思っていたよ。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 15:33:21.83 ID:uqkP9Ak60

素晴らしい。
二人だ。二人の人間がその鼻毛を覗かせている。こんなことがありえるだろうか?
ハルヒと古泉。並んで黙って歩いていれば美男美女と評するになんの異論も出ないであろう二人が、だ。

「僕は黒……でよろしいですか?」

再びノイズが俺の邪魔をする。
耳に入りこんだ空気は俺と芸術品との接続を妨害する。

「あ、ああ……分かった」

分かったからそのまま黙って座ってろ。
うん、そうそう。あ、顎はもう少し上げて。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 15:44:02.70 ID:uqkP9Ak60

駒の配置は戦略に基づく。
ボードゲームはというのは常に綿密なタクティクスのもと、相手の先を何手も読んで
慎重に進めていくものだ。それはこの世の全てのことに通ずる普遍の真理だろう。

今、こうして古泉と興じているオセロというゲームだって例外ではない。
ここにおけば次に相手はどう置いてくるか。どこにおけばより多くひっくり返せるのか。
四つ角をいかに取るか。お互いの思考が絡み合い、白と黒が緑を埋めていく。

が、だ。ここで一つ確認せねばなるまい。普段のゲームと今のこのゲームがいかに違うものなのか。
俺の目的、今においてはこのゲームに勝つことなどどうでもいいのだ。
そう、考えるべきはただ一点のみ。

『古泉の鼻毛をいかに愛でるか』

勝負事はまず戦場を見極めることから始まる。
古泉よ、分かるか?目の前の小さな盤上でどうやって黒を増やそうかと黙考しているお前と違い、
俺の目的はさらなる高み、お前の鼻下で揺れる黒にある。お前はせいぜい目の前の小さな勝利に一喜一憂しているがいい。
俺は白を取らせて黒を視ることとしよう。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 15:56:53.11 ID:uqkP9Ak60

二つの戦場が繋がりを持っていることもまた念頭に置かねばなるまい。

例えば、だ。今俺は、自分の番で、白の尖兵をいずこかに配置しようと盤上を吟味している。
ここで置ける場所が二つあったとしよう。古泉の近くと俺の近く。この二ヶ所だ。
普通のゲームなら、より多くの駒を裏返せる場所、あるいは後々の戦略的におさえておかなければ
ならない場所を選ぶだろう。

しかし、違うのだ。目的が。戦いから得ようとする戦利品が。

俺が自分の近くの方の場所を選び、白を置いたとしよう。しかし、実はこの場所は、たとえおいても
すぐに誰かにひっくり返されてしまう場所なのだ。
ルールに則り、俺の次には必然的に古泉の番が回ってくる。

当然古泉は、俺が愚かな選択をしたと思い、意気揚々とその手を伸ばして黒を置く。
俺はあえなく、先ほど俺が裏返したものよりもはるかに多い駒を裏返される。
しかし、ポイントはここではない。そう、古泉がその尖兵を配置するために
腕を伸ばす。ここが大事なのだ。

腕を伸ばすには少なからず体を動かさなければならない。
体が動けば必然的に顔も動く。
すると何が起きるか。賢明なる方々ならもうお分かりだろう。


そう――揺れるのだ。鼻毛が。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 16:08:12.23 ID:uqkP9Ak60

じっと動かない『静』の美しさは確かに素晴らしい。
悠然とたたずむ凛とした誇り高いその様は、間違いなく少なからぬ人を惹きつける。

しかし、その肢体を『静』から解き放ったときに生まれる『動』の美しさも、
これまた俺を惹きつけて止まないのだ。

鼻毛が、揺れる。

それも半端な鼻毛ではない。
鼻の両穴にシャーペンの芯を一セット突き刺しているのではないかというほどの雄雄しき猛者だ。
力強くも決して視るものをおびえさせることはない、むしろ勇気付けさえするその姿は、
世の中に絶望している人たちにぜひ見てもらいたいとすら感じる。

「ああ、残念です。どうみても僕の負けですね」

ノイズがまたも俺の世界を蹂躙する。
勝ち負けなどどうでもいいとさっき……僕の負け?

「お前……」
「いやあ参りました。いつもどおりですが」

小さな勝利はくれてやるつもりだったのだが、古泉の弱さは想像以上だった。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 16:22:14.44 ID:uqkP9Ak60

一戦を終えた俺は、少しばかり深呼吸をする。
さすがに、疲れた。

アドレナリンの分泌はかつて経験したことのないスピードでなされており、
俺の頭は沸騰しそうだった。

いかん、冷静さを保たねば。

鼻毛鑑賞の最大の難点は、いかに相手に気づかれないようことを運ぶかだ。
俺が鼻毛を愛でていることはもちろん、鼻毛がこんにちわしていることに気づかれてもならない。
普通の人がそれに気づいたのなら、おそらく大いに恥じ入り、即刻洗面所に向かうだろう。

だからこそ、鼻毛鑑賞はめったに出来ることではないし、
そしてだからこそ今のこの状況はとても貴重なのだ。

コンコン

ノックの音が部室に響いた。
ハルヒが「どうぞー」とけだるそうな返事をするのを聞きながら、俺は、「そういえば古泉はノックをしなかったな」
などと考えていたのだが、扉を開けて入ってきた愛らしいそのお姿を見て思考はいやおうなしに中断された。


「おくれちゃってごめんなさーい。補講の方が長引いて……」


部室専属のメイドさんである朝比奈さん。
小さくてかわいらしいその丸いお顔の下半分で、鼻毛のバーゲンセールが開かれていた。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 16:36:11.05 ID:uqkP9Ak60

ここまでくると、さすがに異常だと思った。
もちろん、鼻毛の量に関してのことではない。俺が鼻毛が出ていることを異常だと感じるなど、
ハルヒが谷口と国木田をSOS団の名誉団員として迎え入れるくらいいありえないことだ。

異常性を感じたのは、鼻毛が出ていることに誰も気づいていないという事実だ。
自分のものならば、気づかなくてもまあおかしくはない。自分から自分のは見えにくいしな。
しかしいくらなんでも、他の人物の鼻毛が揃って敬礼しているような状況に食いつかないのはおかしいだろう。
この不自然さは……まさか、ハルヒの力?

しかし――ああ、そんなことはどうでもいい。
だってほら、視てくれよ。朝比奈さんのあのお顔を。
幸か不幸か口の部分を綺麗に避けて、綺麗なその白い肌を埋め尽くす鼻毛たちを。
宗教に篤い訳ではないが、これを極楽浄土と呼ぶのなら俺はそこに向かうためのどんな苦行にも耐えられるだろう。

「あ、あと長門さんは今日はお休みするみたいです」
「え、ほんと?」
「はい、さっき本校舎の方でお会いして……」

なにやら会話がなされているようだが、俺の耳には半分も入っていなかった。
朝比奈さんのかわいらしく、それでいて主張しすぎない黒の茂み。
ハルヒだって、そうやって黙って鼻毛をはやしていればかわいいものだ。

二人が言葉を発するたびに、鼻毛が揺れる。それは、俺の中では世界が揺れるようなものだった。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 16:50:55.71 ID:uqkP9Ak60

「あ、遅れちゃいましたけど、今からお茶淹れますね」

律儀にも今からお茶を淹れてくれると言う朝比奈さん。その甲斐甲斐しさに涙がでそうになり、
そしてその笑顔よりもまぶしい鼻毛たちのワルツも相まって俺の涙腺は緩んだ。

「ちょっとキョン?どうかしたの?」
「あ、いやなんでもない」

なんでもないわけなかった。三つの奇跡が一堂に会して三重奏を奏でているのだ。
溢れる涙が見られないよう急いで拭い、俺は目を扉の方に向けた。

信じられない。先に部室に来ていたハルヒを除いても、二つの奇跡が
この扉をくぐってくるのを俺はこの目で見ることが出来たのだ。この世に神はいる。

「では、僕たちは一旦表に出るとしましょうか」

古泉が、朝比奈さんに気を利かせて立ち上がり、「行きましょう」と俺に言う。
おそらくそこらの女子生徒なら一瞬おちそうな笑顔だった。鼻毛が出ているという一点を除けばの話だが。
そしてその一点は全てを台無しにする破壊力を秘めており、奇特にも鼻毛が出ていることを気にしない
人間である俺は鼻毛にしか興味がなかった。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 16:59:47.46 ID:uqkP9Ak60

扉を開いて表に出る。
冷たい風が廊下を走り、俺たちに部室がいかに暖かかったかを思い出させる。

「今日は冷えますね」

古泉が声をかけてくる。ああ、と簡単な返事を返しながら、俺は古泉の顔を見ることが出来ないでいた。
これ以上あんな力強い鼻毛を見ていたら、俺は理性を失って容赦なくそれを束で引き抜きにかかる可能性が大だ。

「長門さん、なんでお休みしたんでしょうか」

古泉が再び言葉を紡ぐ。
俺はもしかしたら鼻毛を見ていた方が体が温まるのではないかと考えながら適当に答えた。

「さあな。さっき朝比奈さんはなんて言ってたっけか?」
「聞いていなかったのですか?なんでも具合が悪いから帰るとかなんとか」

長門が具合が悪い……ね。まあ、本当とは思えないな。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 17:11:09.29 ID:uqkP9Ak60

「あなたも分かっているでしょう?あの長門さんが、体調不良を理由に団活を欠席するなどありえない。
 いやそもそも、彼女に体調不良などないのですから。長門さんが休んだのには何か他の理由があります」

きっと真面目な顔で話しているのだろう。
古泉の顔を見ていない俺には確実な判断などしようがないが、
その声はいつものニヤケ面を伴って発されるそれではなかった。
もっとも雄雄しき鼻毛というオプションが加わっている今、笑いながら鼻毛を揺らせているよりも
真面目な顔でいるほうがふざけているような感じを覚えるそうだが。

「そうだな。また面倒ごとにならないといいんだが」
「それはおそらくないとは思います。涼宮さんの精神状態は頗る安定していますよ。
 おかげで最近はバイトも入らず、楽をさせていただいています」
「それは良かったな」
「ええ。珍妙な世界でのバイトも長く続くと飽きてしまいますから

ハハハ、とい笑いながら古泉が肩をすくめたのを目の端で捕らえる。
鼻の下に具現化された見事な珍妙さがぶらさがっていることは、おそらく言わない方がいいのだろう。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 17:20:49.89 ID:uqkP9Ak60

「入っていいわよー」

ハルヒの声が俺たちを呼んだため、会話はそこで中断された。
扉を再び開き、部室の中へ。

そこには、たわわに鼻毛をたくわえたメイドさんが待っていた。

「すぐにお茶淹れますからね」

ありがとうございます、朝比奈さん。あなたのお茶はいつも絶品だ。
しかし俺はお茶よりも――



「はい、どうぞ」

柔らかい声と共に、コトン、という音をたててゆのみが置かれる。

「ありがとうございます」

続いて古泉が受け取った。鼻毛のメイドさんの給仕。
なんという至高のお茶請けだろう。
幸福感に満たされていくのを感じつつ、俺はゆのみに手をかけ、そしてまたも神に感謝することになる。


――浮かんでいたのだ。鼻毛が。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 17:32:00.71 ID:uqkP9Ak60

通常、飲食物とは常に清潔であるよう心がけなければならないものだ。
レストラン、ホテルや旅館の食事、ファーストフード店から自動販売機で己の体が転がり落ちるのを待つ缶コーヒーまで、
全ての料理、飲み物は一切のものから守られなければならない。

ましてや、料理や飲み物に毛が浮かんでいるなど言語道断、料理の提供者にしてみれば、
最大限の注意を以って排除されるべき可能性だ。

高級レストランで、安物のジャンクフードなど食べたことのないような金持ちが給仕に
文句を言っている光景が容易に思い浮かべられる。

「君ィ!なんだねこれは?」

給仕は慌てふためき、客はおそらく料理長を呼び出すだろう。

しかし俺が給仕ならば料理長の手を煩わせるようなことはしない。
慌てることなく、エレガントにこう言うだろう。

「失礼ですが、落ち着いてもう一度よくごらんになってください」
「なんだね?どう見ても毛じゃないか!」


「お客様、ただの毛ではありません――鼻毛で御座います」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 17:42:33.21 ID:uqkP9Ak60

その一言で黙ってしまうだろう。
俺が客なら確実に黙る。いや、黙るどころではない。
非礼を詫びた上、料理長を呼び出して握手を求め、次回の予約を入れるところだ。

ま、もっとも俺ほどのハナゲリアンになれば、何かの毛を見つけた時点でそれが鼻毛であるかどうかくらい
すぐ見抜くがな。


――――話を戻そう。

今、俺の目の前でわずかにさざなみをたてているゆのみの中のお茶。
そしてそこに浮かぶ、一本の輝くばかりの毛。

繰り返すが、俺ほどのハナゲリアンになれば、その毛が鼻毛であるか否かを見抜くのは
容易いことだ。ましてや俺はさきほど朝比奈さんの鼻毛を直に見ている。


――史料の存在と、培われた目利きの力。

俺が朝比奈さんの鼻毛としてその毛に鑑定書を付すまでに時間はかからなかった。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 17:52:24.55 ID:uqkP9Ak60

身体が、震えているのが分かる。
さっきも語ったとおり、俺は古泉の鼻毛を見ているだけでも理性を失ってしまうほどなのだ。

……ああ、一応言っておくが、俺にそっちの気はない。確かに毛は好きだが。いやそんなことはどうでもよくてだな、
俺が好きなのは古泉の鼻毛であって決して古泉自身ではないことをここで明言しておきたい。
変な勘違いをされちゃたまらないからな。

とにかく古泉の鼻毛でさえ興奮してしまう俺なのだ。
それなのに、天使のごとき朝比奈さんの鼻毛を、見るどころか体内に取り込む。
そんな衝撃に、俺は耐えられるだろうか。


「キョンくん?大丈夫ですか?」

ふと我に帰ると、朝比奈さんが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
お心遣いが突き刺さる。それはもう痛いほどだった。

なにせ、朝比奈さんの顔が近くにあるということは、それすなわち
朝比奈さんの鼻毛が近くにあることと同義だからだ。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 18:03:42.24 ID:uqkP9Ak60

「あ、ああ、大丈夫ですよ」
「本当?お茶も飲んでくれてないみたいだけど……」

必死に言葉を搾り出す。朝比奈さんの心配そうな声が返ってくる。
そうだ。せっかく淹れてくれたお茶なのだ。飲まない問という選択肢があろうはずがない。

一度持ち上げておきながら、机の上に戻してしまっていたゆのみに再び手を伸ばす。
持ち上げた。さっきも感じたが、いつもよりも若干重いような気がする。
その増加分は明らかに鼻毛本来のそれでは無く、ゆえに俺は朝比奈さんの鼻毛の
持つ物理法則を超越した重量感に生唾を飲み込んだ。


口元にゆのみをつける。
香りは……いつものお茶のものだ。
さらに傾ける。お茶が唇に触れた。


一気に角度を増す。
口内に勢いよく流れ込んできたそれは、たしかにお茶の味だった。


しかし、これはただのお茶ではないのだ。
俺の舌が、普段の数倍のスピードで動き回り、ついに"それ"を見つけ出した――――

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 18:11:23.12 ID:uqkP9Ak60


至福とはこのことだった。
そこには一点の曇りも闇も無い。
ただそこにあるのは、クリーム色の優しい空間。

意識だけの存在になった俺は、そこでゆっくりと吹き渡っていた。

今の俺ならなんでも出来る。
なにもかも敵ではない。
世界をとれる気がした――――



「……ョン!キョン!」

誰かが俺の名を……。

「どどど、どうしましょうぅぅ!」

可愛らしい声がする。

目を開けた。

「う……、ハル……ヒ?」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 18:19:05.65 ID:uqkP9Ak60

光と共に飛び込んできたのは、心配そうに俺を見つめる団長閣下。
なんというか、やっぱり一番最初に目に入ったのは、その鼻毛だった。

「ハルヒ……」

思えば、ほんのついさっきまで、お前の鼻毛くらいで俺は興奮していたんだな。
あの時は遠くから視るだけで動悸が早まっていたというのに、今となってはこれだけ近くにあっても
かわいいものだ。


「あなたがいきなり倒れましてね、びっくりしましたよ」

そのあと古泉に聞いた話によれば、俺はお茶をのんで少ししたあといきなり
倒れたそうだ。

「どうされたんです?」
「いや……分からん」

分かっていた。全ては朝比奈さんの、あの鼻毛によるものなのだ。
さすがに参った。俺はまだまだ青い。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 18:30:04.94 ID:uqkP9Ak60

その後の団活は恙無く進んだ。

古泉と話しているときに少々フラフラしたことを除けば、身体の方も特に問題なかった。
オセロで散々古泉の鼻毛を揺らすことも出来たんだし、しばらく控えた方がいいとはいえ
あの朝比奈さんの鼻毛をこの口に……いやだめだ、思い出すだけでめまいがする。

「今日はそろそろ終わりにしましょう」

いつも終礼の番人を司っている長門に代わり、今日はハルヒの一声でSOS団の活動は終わりを告げた。
荷物を整理し、すでに出て行ったハルヒの後を追う。
と、朝比奈さんが声をかけてきた。

「キョンくん、実は長門さんから伝言があるんです」
「長門から?」
「はい。団の活動が終わったら長門さんの家に来て欲しいと」

長門の部屋。
俺は最初の頃の無機質の極みのような内装から、主にハルヒの影響によって随分と様変わりした
長門の家を思い浮かべた。

「分かりました。あとで寄ってみます」
「うん」

朝比奈さんが笑うと、口の周りの鼻毛も顔の形にそって笑った。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 18:42:46.92 ID:uqkP9Ak60

吹きすさぶ寒風が頬を撫でる。
すでにおり始めていた夜の帳は、夕焼けが最後の抵抗をしている部分を残して、
空を一部の隙も無く黒く塗りつぶしていた。

団員の顔を見る。

ハルヒの、二人に比べれば短くも、凛とした風格のある鼻毛。
カゼニモマケヌ古泉の力強い鼻毛。
愛らしさと侘び寂びを兼ね備えた朝比奈さんの鼻毛。

三者三様、それぞれ思うままに、個性が風になびいていた。


別れ道。ハルヒが元気よく別れを告げる。
朝比奈さんと古泉とも別れ、俺は一人、長門の家に向かった。

「…………」
「長門、俺だ」

入り口のインターホンでいつものやり取りをこなした後、
俺は長門の部屋の前に立つ。

「よお」

そう言っていつものようにまたぐつもりだった敷居だったのだが……。

「…………」
「…………」

沈黙を重ねる。玄関からに出てきた長門の顔。鼻の両穴からそれぞれ一本ずつ、ぴんと伸びた鋭い鼻毛が大気を穿っていた。

54 名前: ◆Mene.OWFJw [] 投稿日:2009/02/08(日) 18:44:25.39 ID:uqkP9Ak60

一時間ちょっと空ける
一応トリつけとく
次は長門編

65 名前: ◆Mene.OWFJw [] 投稿日:2009/02/08(日) 20:09:44.48 ID:IjBVM7sx0

「…………」

三点リーダーを連ねるのは本来俺の役割ではないはずなのだが、
このときばかりは長門の専売特許ではなくなっていた。

いつも俺を助けてくれた長門。苦境にあっても、必ず打開のためのアドバイスをくれた長門。
長門だけが気づいていたループなんてものもあったな。

そんな長門までもがこの様だ。

触ったら怪我をしそうなほどぴんと鋭く尖ったその鼻毛と相まって、
長門の顔はいつもよりも輪をかけて無表情になっている気がした。

「入って。今、お茶を淹れる」
「あ、おう」

促され、入室。扉を閉めてリビングへ。
冷え切った体が、部屋を満たしている暖気に触れて喜んでいるのが分かる。
こたつに入れさせてもらい、律儀にも長門がお茶を淹れてくれるのを待つ。

さすがにあの針みたいな鼻毛がさきほどのごとくその身をゆのみに浮かべることはないだろうし
あっても困ると考えつつ、一方でその鼻毛が自分の口内で咀嚼される様を想像してしまった俺を一体誰が責められよう。


……飲み込めるだろうか?

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 20:24:26.17 ID:IjBVM7sx0

「悪いな」
「いい」

期待通りなのか外れなのか分からんがとにかくお茶以外には何も入っていないゆのみを俺に渡すと、
長門は盆をこたつの上において身体をその中にうずめた。

「今回の一連の事象は全て涼宮ハルヒの力によるもの」

液体ヘリウムのような光をたたえた目をこちらに向け、長門は唐突に話し始めた。

「涼宮ハルヒは最近、自身の鼻腔から有機生命体が一般的に有する細い突起状構造が
 よく飛び出るようになったことを気にしていた」

長門、難しい言葉を使って解説してくれるのもいいが、『鼻毛』の二文字でことたりるような
語句が紛れていたような気がするんだが。

「……涼宮ハルヒは逐一手入れをしていたが、
 やがていちいち飛び出てくるその器官を煩わしいと感じるようになる」

一生懸命説明してくれてる長門だったが、おそらく俺の理性はもうすぐその長門の鼻毛の前に
膝をつくことになるだろう。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 20:33:03.16 ID:IjBVM7sx0

揺れる。揺れる。長門の鼻毛。
話せば話すほど、その振動は抑えがたく鼻毛に伝わる。

カイゼル髭を細く結ってまっすぐに伸ばしたようなその鼻毛は、
長門が言葉を発するたびに揺れ、そして等しく俺の理性も大きな振幅を以って揺れ動く。

「涼宮ハルヒは、『このような煩わしいものなどなくなってしまえばいい』と考えるようになった。
 彼女の力は全てのものに作用する。しかし、この突起状構造は、呼吸の際に菌などが侵入するのを
 防ぐなど、様々な役割を担う重要な器官」

鼻毛の力を力説する長門。
いい心構えだ。が、まだ分かっていないな。
鼻毛を"一器官"としか捕らえていないようではハナゲリアンは名乗れない。
まあこれが体有機生命体なんとかインターフェースの限界か。


俺の思考の主題はすでに真実を知ることではなく、
高みから長門の鼻毛に関する考えをいかに評定するかにすり替っていた。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 20:48:27.12 ID:IjBVM7sx0

「対象器官の重要性から、涼宮ハルヒの無意識下の生存本能が
 彼女が思考したとおりの能力の行使を許さなかった」
「その結果が……これか」
「そう。結果、『対象器官が無くなる』のではなく、『自分や周りの人間の対象器官が異常なレベルにまで伸長する』
 という形で能力の行使がなされた」

なんてこった。
つまり今回の件はハルヒの鼻毛に対するコンプレックスからのことだったのかよ。

「つまり、周りの人間がみんな長い鼻毛を持っていれば、自分の鼻毛が出ていても
 特に目立たないってことか」
「そう」

ハルヒの鼻毛が古泉たちより短かくて地味だったのも、比較対象として目立たないことが
大事だったからか。

「古泉たちがお互いの鼻毛の異常性について気づかなかったのもハルヒの仕業か。
 だけど、SOS団の団員にしか作用していないってのはどういうことだ?
 それに団活の時間までは、少なくともハルヒの鼻毛は正常だったぞ」
「この改変が行われたのはあなたが部室に入った直後」
「……ん?つまりどういうことだ?」

長門の話すスピードと鼻毛の動きに一定の法則性を見出そうと観察しながら、俺は尋ねた。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 21:02:21.46 ID:IjBVM7sx0

「涼宮ハルヒは、前々から鼻g……対象器官を無くしてしまいたいとは考えていた」

あ、鼻毛って言いそうになったな。

「なっていない。……しかし、決定的な段階には踏み出せずにいた。
 悩んでいたところに、あなたが来た。二人だけしかいないという状況の緊張性が、
 無意識下で涼宮ハルヒに力の行使を決断させた」
「…………」
「あなただけに変化が現れなかったのは、涼宮ハルヒがあなたの外見を損ないたくないと思っていたから」

……なんというか。
ハルヒがねぇ。

「この改変はいつまで続くかは分からない。放置すればするだけ長引く可能性もある」
「それは困るな……」

困る、と言ってはみたが、正直俺にとってはこれが毎日でも構わないような……。

「この改変が事実として涼宮ハルヒの意識下に定着すれば、もう、元には戻せない可能性もある」

まるで俺の思考を読んだ上で、嗜めるかのような言葉だった。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 21:13:00.94 ID:IjBVM7sx0

「分かった。どうすればいい」
「涼宮ハルヒに会って話をすることを推奨する」

ハルヒに会う……って今からかよ?

「早ければ早いほどいい」

まあ確かにな……。

「ところで長門、まさかとは思うが、俺がこんなに鼻毛が好きなのももしかして……」
「涼宮ハルヒの力によるもの。彼女は自分の対象器官をあなたの性癖の対象とすることで、
 安息を得ようとした」

それもまた無意識下で、か。まったく都合のいいこった。
小さい頃からって記憶までご丁寧に植えつけてくれるとはな。
だがまあいいさ。鼻毛を見るだけでこんなにも満たされるのもある意味幸せといえば幸せかもしれないが、
正直鼻毛の混入したお茶を飲んだだけで卒倒するような生活は余り送りたくはない。

いや、それ以前に、髪の毛はともかく鼻毛の混入したお茶を飲んでしまう確率はいかほどのものだろう?

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 21:21:09.65 ID:IjBVM7sx0

ハルヒに会う。
会ってけじめをつける。
それが俺の役割。

そうなんだ……と、頭ではわかっていても。
ハルヒの力によるものだと知っていても。
抑えがたい衝動は実はさっきから身体を巡り始めてはいた。

なにせ目の前にこれでもかというくらいに立派な鼻毛を持った宇宙人が佇んでいるのだ。
そしてもう一つ、さきほど俺は部室で鼻毛を思う存分『視る』ことは出来たが、一度も『触る』ことは
出来ていない。

ああ、触ってみたい。
全てを穿つのになんの躊躇いもなさそうな鋭敏な鼻毛。
その肢体は時折放たれる言葉に揺られ、黒の軌跡を描いて俺の心を容赦なく揺さぶる。

「なあ長門……ハルヒに会いに行く前に、一回だけでいいんだ」

その二度と拝めそうも無い芸術品を――触らせてくれないか。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 21:28:05.83 ID:IjBVM7sx0

「…………」



――――――――



再び冬の風に身をさらす。
さっきよりも少しばかり風は強くなっているようで、待ち合わせ場所に向かう足は悴みに
蝕まれてひたすらに重い。

呼び出しは至極簡単に済んだ。
団長をこんな時間に呼び出すなんて……とかなんとか言っていたが、結局、

「いいわ!今から行くからちゃんと先に待ってなさいよ!
 あたしが着いた時いなかったら罰金だからね!」

と電話口で怒鳴られて会話は終わった。
ま、休みの日によく俺を叩き起こしてるわけだし、これくらいはな。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 21:37:35.12 ID:IjBVM7sx0

公園に人気は無くて、ただ、星が綺麗だった。
明るすぎない控えめな月を見つけたところで、ハルヒがやって来る。
ハルヒが着くであろう時間に着けるように計算して来たからな。

「こんな時間に呼び出すなんて、それなりの用事なんでしょうね?
 日本列島に巣食う地底人たちを見つけたとか、夜でも太陽が沈まない場所を見つけたとか!」

咎めるようにハルヒは吠える。
いつもよりも例えが大仰じゃないか?それに後者の方は実際に北欧とかで確認されてるぞ。

「うるさいわね!なんで呼び出したのかって聞いてんの!」
「お前のためだ」

よどみなく、言い放った言葉に珍しく気圧されたのか、ハルヒは言葉を詰まらせた。

「え……?」

ま、正確には、お前と俺と、そして世界のためだけどな。

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 21:47:03.90 ID:IjBVM7sx0

「お前さ、こんな話知ってるか?」
「……どんな話よ」

「ある村にな、一組の男女がいたわけだ。男は女を愛していた。
 そしてあるとき、村から旅にでる時に、男は女を誘ったのさ。
 一緒に行かないか?とな。男を愛していた女は喜んだが、女は自分の容姿に
 自身が無かった。そこで、近くの街に出てごてごての装飾品や化粧品を買い込んで、
 整形までして美しさを求めた。男にふさわしい女になろうと必死だったのさ」
「…………」

ハルヒは何も言わず、俺の話に耳を傾けている。
鼻毛が時折夜風に揺れる。

「そして女は確かに美しくなった。でもな、男はそんな女を見て絶望した。
 男は、そのままの、昔のままの女が好きだったんだ」
「……それが何?」

深呼吸をして、ハルヒの目を見つめる。

「今のはほんのお話に過ぎないけどな、ハルヒ、お前少し無理してるんじゃないか?」

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 21:58:20.47 ID:IjBVM7sx0

「お前はさ、もっとお前のままでいいと思うぞ」

こんな臭いセリフが言えるのは、おそらく鼻毛を視すぎて思考が麻痺しているからだろう。

「あたしが……あたしの?」
「まあ、俺の言いたいことはそれだけなんだ」

無意識下で行われた改変を意識的に解除しようというのは難しい。
そもそも無意識下なんだから『無理をしている』とも言いがたいし……。
とにかく、さっきの話でハルヒが無理に自分や周りをいじらなくてもいいと思ってくれればいいんだが。
……あれ?待てよ。さっきの話、女がハルヒだとすると男はハルヒが好きだってことで、つまりそれは……。

「あんたが何のこと言ってんのかさっぱり分からないわ。
 だけど……」


その後に続く言葉はよく聞き取れなかった。
聞き取れなかったはずなのに、俺の頭にはなぜか残っていた。
ここで回想の形になってしまったのは、そのあとにとんでもないことに気づいて
しまったせいで冷静さを失っていたからだ。


――そう、星の光と、ぼんやりとした公園の街灯に照らされたハルヒの鼻毛は、半端物ではないという事に。

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 22:08:11.22 ID:IjBVM7sx0

古泉や朝比奈さん、長門のそれと違い、ハルヒの鼻毛はこういう情景の中にあってこそ光るものだということに
気づけずに、古泉や朝比奈さんの鼻毛ばかり気にかけていた昼間の俺を殴りにいきたい気分だ。

さっき俺はハルヒの鼻毛を『地味』だと称したがとんでもない。
環境が少し変わるだけでこんなにもその輝きを増すものだったとはフロイト先生も思うまい。

黒の毛は、よく見ればそれぞれが艶やかな光沢を有していて、風に揺れて時折光る様は、
さながらその色を刻々と変える宝石のようだった。

落ち着け俺。理性を保て。ハルヒの力に負けるな。

「ハ、ハルヒ……」

空にいくつの星が見えるかを数えるのに力いっぱい集中しながら言葉をひねり出す。

「お前は……」

ダメだ!もうこの場にはいられない。

「お前はお前のままでいろ!」

まるで捨てゼリフのように最後の言葉を言い放つと、俺は振り向きもせず、一目散に
その場を離れた。


さっき聞き取れなかったようで、なのになぜか頭に残っていたハルヒの言葉を反芻しながら。



――――ありがとう――――

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 22:17:35.67 ID:IjBVM7sx0

――その後のことを少しだけ語ろう。


結局翌日、世界は元に戻った。
団員の鼻毛はものの見事にその原型……いや原型を詳しく知っているわけではないが、
とにかく元通りの長さに戻ったようだ。

古泉や朝比奈さんに昨日のことを話すのはやめておくことにする。
いたずらに混乱させることはないし、話さなくとも実害は無い。
特に朝比奈さんなど、自分の顔面の半分が毛むくじゃらだったと聞いたらそれだけで卒倒してしまいそうだ。
俺は麗しい女性が顔を青くして倒れる姿なんざ見たくないんでね。

今俺は、長門と二人、部室で時間を潰している。といっても長門は相も変わらず読書だが。
ハルヒ、朝比奈さん、古泉の三人は各々用事があるようだ。

「世界は元に戻った。もう問題ない」

たしかに、長門も含めてみんなの鼻毛は元に戻ったし、俺の特殊な性癖もなくなっているようだしな。
その他の人間の鼻毛が代わりに数倍の長さへと華麗なる変貌を遂げちまった、なんてこともなさそうだ。
なにせ長門が問題ないと言っているんだからな。

と、ここで、俺は一つ気になる質問をぶつけてみる。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 22:32:03.09 ID:IjBVM7sx0

「なあ長門、あの後思い返してみたんだがな、どうも俺はあの日部室に
 入った時以前から、なんとなく他人の鼻毛が気になるようになってた気がするんだが」
「あなたの性癖に改変が施されたのは、涼宮ハルヒが我々の対象器官を変化させる数日前。
 まず対象器官に対するあなたの性癖を変えることで、涼宮ハルヒは一刻も早く安息を得ようとしたのだと考えられる」

なるほど。そのあと他人の鼻毛も巻き込むかどうかはまた別の話だったってことか。
結局、実行に移されちまったみたいだが。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/08(日) 22:35:28.98 ID:IjBVM7sx0

ガチャリ

「こんにちはー」
「どうも」

朝比奈さんと古泉が一緒に入ってきた。
マイスウィートエンジェル朝比奈さんと一緒に来るとはけしからん奴だ古泉め。
と、心の中で文句を連ねてやろうとニヤケ面の優男を見やる。


瞬間、なぜか動悸が少し早くなり、そして収まった。


一つ溜息をつくと、俺は席に座ってオセロの準備を始める。
俺はいたって正常だ。そう、気のせいに決まってるさ。





――古泉の眉毛に、不思議な魅力を感じてしまった……なんてな。








100 名前: ◆Mene.OWFJw [] 投稿日:2009/02/08(日) 22:43:55.53 ID:IjBVM7sx0

えー、なにやら俺が鼻毛スキーだという話が持ち上がってるけど、
そんな事実はまったくねーから。いやもうまったく。
なんで鼻毛にしたのかはよく分かんない。なんかピーンと来た。

でもこういうカオスってなんか即興で書いてて楽しいんだけど何これ病気?


スレの途中で出てたけど、『キョン「ハルヒに暇を出された」』とか『ハルヒがクリスマスに不満のようです』
とか書きました。もし良ければ読んでくれると嬉しいです。


支援・保守&読んでくれてありがとうございました。



ツイート

メニュー
トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:阿笠「未来を見たくないかね?」コナン「はあ?」