1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 08:05:30.84 ID:8yOnT19b0
放課後、俺は部室に居た。
古泉はバイト…といっても、定期的に行われる会議とか言ってたな。
朝比奈さんは新しい茶葉を買いに、長門は朝比奈さんにくっついて新作のお菓子を買いに行っていた。
つまり、部室には俺とハルヒだけしか居なかった。
俺はいつものように机に突っ伏して、寝ようとしていた。
しかし、暇を持て余したハルヒがそれを許してくれるはずもなく、俺は叩き起こされる。
「寝るんじゃないわよ、あたしが暇でしょ」
なんとも自分勝手だ、なんて考えながらも起き上がる辺り俺も慣れたもんだと思う。
いつもなら古泉の座る、机をはさんだ正面の椅子にハルヒが腰掛ける。
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 08:08:31.47 ID:8yOnT19b0
「ねえキョン、今からゲームしない?」
持ちかけられた提案は、平凡な俺の頭の中では古泉とするようなボードゲームしか浮かばない。
そうして、俺がどれにするんだ、と問い掛けていつも古泉がゲームをしまっている棚を指差す。
「ううん、ああいうのじゃなくて。…じゃんけんで負けたほうが、勝ったほうの出す質問に答えるの」
小学生がよくするような内容だなと呟くと、いつものごとく「うっさい」と一蹴された。
まあ、質問の内容にはよるが俺も暇なのは暇なんだ、付き合ってやらんこともない。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 08:10:55.69 ID:8yOnT19b0
「じゃあ行くわよ、最初はぐーっ、じゃんけんほいっ!」
反射的に、握ったままの拳を出した。
ハルヒは、五本の指がまっすぐに伸びている。
…つまり、パーだ。
一体なにを聞かれるのかと思いきや、案外普通なことだった。
「んー…あんたのちっさいころの趣味はなんだったの?」
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 08:13:12.76 ID:8yOnT19b0
そうそう、と口を開いて質問には絶対答えないとダメだからねと念を押すハルヒ。
「そうだなー、こうみえても虫取りとか好きだった。俺、昔は虫博士って言われてたんだぜ」
あの頃は、仲の良い奴らと一緒によく虫取りに行ったもんだ。
誰が一番虫に詳しいかなんかで競ってて、俺が勝ったんだっけな。
「へえ、なんか意外ね。あんたって昼寝が好きだったと思ってたんだけど」
それもあながち間違っちゃいないな。
質問と、応答だけのやりとりを終えてまたじゃんけんの準備をする。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 08:16:27.64 ID:8yOnT19b0
「最初はぐー…ねえ、やっぱり、じゃんけんぽんじゃだめ?」
グーを出し、万全の準備を整えていた俺はいちいち長い掛け声をかけるのが面倒なのであろうハルヒに頷いて仕切りなおした。
「せーの、じゃんけんぽんっ」
今度は俺の勝ち。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 08:18:38.19 ID:8yOnT19b0
ぶっちゃけた話し、こういうのはハルヒのとんでもパワーで俺は負け続けるのかと思ってたんだが…。
まあ、勝ったのには変わりないから遠慮なく聞かせてもらう。
「じゃあ、おまえの小さい頃の夢な」
いつだったか、こいつが世界に興味をなくし始めたのは自分が小さな存在だったからだと聞いた。
つまり、それ以前のハルヒには将来の夢なんてもんもあったんじゃないかと思うんだ。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 08:22:58.20 ID:8yOnT19b0
頬杖をついていた手を机に置いて、ハルヒの顔を見詰める。
「そうね…確か、その…ケーキ屋さんだったかしら…」
「ケーキ屋さん?」
「そうよ、なんか悪いっ!?」
顔が赤い。
どうやら、昔のことを思い出したのが恥ずかしかったらしいな。
「いや、いいと思うぜ」
「今は違うわよ」
「今はなんなんだ?」
答えは無い。
ハルヒは俯き、黙っている。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 08:30:04.36 ID:8yOnT19b0
何故か申し訳なくなってきて、口を開こうとした瞬間、顔をあげてこういった。
「その質問はまた勝手からしなさいよね」
はいはいと了解すると、また先程の掛け声がかかる。
「じゃんけんぽんっ」
俺はチョキ、ハルヒはパー。
また俺の勝ちだ。
「じゃあ、今の夢」
これを聞くしかないだろう。
もしも夢がないと言われたら、俺はなんて答えたらいいんだろうな。
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 08:33:30.55 ID:8yOnT19b0
そんな心配も、どうやら要らなかったらしい。
「…よ」
「え?」
恥ずかしそうに下を向くハルヒ。
声の小ささに答えが聞こえずに聞き返す。
「だからっ…お…お嫁さんって言ってんのよ!」
勢い良くあげられた顔はとても赤い。
今までにこんなハルヒを見たことがあっただろうか、というほどにだ。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 08:36:31.83 ID:8yOnT19b0
意外だとは思うが、変だとは思わない。
また、ぱっと俯く。
「…べっ…別に、その…ウエディングドレスが着たいだけだからね、勘違いするんじゃないわよ」
「可愛い理由だな」
ハルヒにしては珍しい、なんて考えていたらうっかり口が滑った。
自分でも一体なにを言ってるのかってな感じだな。
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 08:40:20.80 ID:8yOnT19b0
目を見開いてこっちを見ると、言葉にならない声を上げている。
「なっ…なな…かかか、かわいいいい…って…ば、ばっかじゃないにょ…あ!」
両手をばたばたさせて、しまいには顔を覆ってしまった。
ほとんど初めてみるハルヒの表情に驚きながらも、ハルヒにちゃんと夢があって良かったと安堵した。
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 08:45:52.64 ID:8yOnT19b0
「ああああ、もう、さっきのは忘れなさい!いいわね?」
「はいはい」
まだ赤い顔で睨みつけてくるのを適当に流し、握った手を突き出す。
「ほら、次行くぞ」
じゃんけんぽんの合図で、今度はハルヒの勝ちが決まった。
先程からの流れで、あまり突拍子もないことは聞いてこないだろうからそこまで心配しなくてもいいだろう。
聞きたいことが山ほどあるのか、逆になにも無いのかいつまでたっても質問は出てこない。
しかし、文句を言っても口では勝てないと分かっているので黙っておく。
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 08:51:03.88 ID:8yOnT19b0
暫く沈黙が漂って、ようやくハルヒは口を開いた。
「…あんたは、恋愛とかそういうのに興味あるの?」
幾分か顔に集まった熱も収まったようで、向けられた瞳には真剣さが見えていた。
突然の質問に正直なんと答えていいか分からんのだが。
それでも答えを言わないわけにはいかないのがハルヒルールだ。
早くしなさいとせかされて言葉を濁しながら答える。
「あー…その、なんだ。俺もな…健全な男子高校生なんだ」
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 08:56:30.12 ID:8yOnT19b0
答えてからしまったと気付く。
これじゃあ、恋愛に興味があるかないかよりも、性欲が盛んみたいな意味に取れちまうんじゃないだろうか。
眉間に皺を寄せたものの、ハルヒは気付かなかったらしい。
「なによ、はっきり答えなさいよね」
「だからな、あるていどはあるってことさ」
聞いておいたわりに興味は無さそうだな。
ふうんと横を向いている。
いつもなら、お前はどうなんだと聞くところだが恐らく今はゲームで勝たなければ聞くことは出来ないだろう。
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 08:59:27.44 ID:8yOnT19b0
淡々と会話は終わり、またじゃんけんをする。
それを繰り返すうちに、最初は気付いていなかったが、段々ハルヒの質問の内容がおかしな方向に向いてきていることに気がついた。
そして、心なしかハルヒの表情にも不安なんかが見え隠れしている。
ハルヒは、とうとう確信をつくような質問を出してきたのだ。
「…好きな人はいるの?」
「な…」
口を開いたままの俺は、きっと今とてつもなく間抜けな顔をしているんだろうな。
他に誰かいなくて良かったぜ。
現実から逃れるようにどうでもいいことばかりを気にしている俺に気付いてか、ハルヒに頬を引っ張られた。
「いてぇ!」
答えを催促する行動に、どうしたものかと悩む。
「ちょっと時間をくれないか」
下手な応答をしちまえば、なにがあるか分かりやしない。
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 09:02:44.83 ID:8yOnT19b0
なにせ、常々古泉から忠告されてるんだからな。
『恋愛に関しては、あなたの返答次第でいとも簡単に世界は壊れるのですよ』と。
それが何故かなんていうのは、よくは分からない。
どうせ、ハルヒのことだから団員が他に意識を向けるのが嫌だそんんなのだろうがな。
流石のハルヒもこういう質問に関しては時間を与えてもいいと思ったのだろう、渋々ながら了解してくれた。
まず、俺は答えを出すにあたって整理しないといけないことがある。
まず一つ目は、俺に好きな相手はいるのかどうか、だ。
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 09:04:52.92 ID:8yOnT19b0
実のところ、よく分かっていない。
ただ、好きな相手と言われてなんとなく思い浮かんだのはハルヒだった。
かと言って、ハルヒだというのもどうかと思う。
何故なら、例えばあいつが他のやつを好きだとして、好きでもないやつ…ましてや部活や教室で顔をあわせることになる相手から突然告白なんかされちまったら悩んだ末に世界を変えてしまうかもしれない。
それに、本当に好きかどうかも分からないのに名前を出してしまうのもどうかと思う。
それを回避するために、比較的仲が良いと言える朝比奈さんや長門たちの名前を出すとまずいのも分かっている。
なにせ部活では恋愛禁止なんだからな。
SOS団のやつらと居ると谷口たちとは違う楽しさがあるし、ハルヒのことは放っておけないと思う。
他の女子に関しては、とくにそういった感情はないな。
友人として楽しい、そんな感じだ。
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 09:07:18.98 ID:8yOnT19b0
恋愛ごとに疎い俺は、感情は喜怒哀楽しか区別がつかない。
むしろ、それすらも時々分からなくなるというのに好きなんて分かるわけもない。
だが好きな人は居ないといったところで、簡単に納得してくれるとも思わないのだ。
難しい。
テストで全教科満点をとるほど難しい。
どうすればハルヒの心を乱す事無く答えることが出来るのだろうか。
「ねえまだ?」
待ちくたびれたのか、まだ答えを出せずに居る俺に問う。
「あ、ああ…すまんな」
目を伏せて思考の世界に戻る。
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 09:10:35.89 ID:8yOnT19b0
事情を知らない奴から見れば、馬鹿みたいな悩みだろうと思う。
だが、俺の答え次第でもうみんなと顔をあわせることも出来なくなるかもしれないと思うとどうにも…。
ふと視線を上げると、明らかに苛つきはじめているハルヒの顔が映った。
まずいな。
仕方ないが、ここは答えを濁しておくか。
待たせたなと声をかけて、息を吸い込む。
同時に、ハルヒも緊張したような面持ちになった。
「…まだ、分からないんだ」
その言葉を口にした途端、力が抜けたようにハルヒは声を上げる。
「はぁ!?」
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 09:13:34.23 ID:8yOnT19b0
怒るのも仕方ないな、あれだけ待たせて分からないなんて。
「すまんすまん。…気になるやつは居る。ただ、それがすきなのかどうかは分からないんだ」
「なによそれ…」
明らかに落胆した様子ではあるが、俺だってどうしようもないんだ。
これぐらいで許してくれないか?
「仕方ないわね、それで、誰なのよ」
許されたかと思えば、次は誰が気になるのか、だと?
お前…。
どうする、俺。
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 09:17:09.20 ID:8yOnT19b0
正直なところ、誰のことかなんて考えてないような気がするんだが。
自分のことながら情けない。
途中からなに考えてるのか分からなくなってきて、その場しのぎの返事をしちまったのがダメだったな。
道を塞がれたように見えた俺は、そこに出口を見つけた。
「ハルヒ、それは次にお前が勝ったときに聞いてくれよ。お前は好きな奴は居るのかと聞いたんだからな」
「…むう、それもそうね」
…出口と言っても、ほんの少し先延ばしにしただけだな。
それでも考えるには十分だ。
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 09:20:00.81 ID:8yOnT19b0
しかし、それも次のじゃんけんで負けてしまえば意味がない。
いつだったか、谷口がじゃんけんの前に腕を組んでなにやら捻り、組んだ手の隙間の開き具合で相手の出す手が分かるというようなことを言っていたのを思い出す。
気休めにしかならないと分かっていても、試したくなるのが人間というもので、早速俺は谷口がしていたのと同じようにした。
ハルヒの訝しげな視線を無視して隙間を覗く。
いまいち分からんが、なんとなくパーかな、と思う。
なので、俺はチョキを出すつもりだ。
55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 09:25:04.40 ID:8yOnT19b0
「じゃんけんぽんっ」
互いに勝ちに行くつもりのためか、自然と動きも早くなる。
俺はチョキ。
そしてハルヒは、なんとパーを出した。
ありがとう谷口、今日ほどお前に感謝した日はないぜ。
お前最高!
「ぃよしっ!…さて、じゃあお前にも好きな奴はいるのか?」
出来るだけ、俺と同じように難しい質問をして悩ませ、時間を稼ぐつもりで聞いた。
しかし、よくよく考えてみればこの質問はまずかったかもしれないな。
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 09:29:54.19 ID:8yOnT19b0
うーんと唸ってハルヒは俯いてしまった。
その間にと俺はまた考え始める。
何故SOS団のメンバーを前提で考えているのかはともかく、長門は違うな。
あいつは、俺にとってなんていうか…頼れる存在だ。
そして、生活していく中で人間に近付いていくのが楽しみである。
それはまるで、子供の成長を願う父のような気持ちではないかと思うんだ。
つまり、長門は俺にとって娘のような存在なのだろう。
次に朝比奈さんだ。
彼女は、魅力的な方だ。
とても。
あの可愛らしいエンジェルスマイルに、素晴らしい体。
やさしいところも、まさしく天使といえよう。
淹れてくださったお茶も飲むのがもったいないほどにおいしい。
だが、朝比奈さんはなんていうか…そう、アイドルだ。
好きな相手、とは違う場所に居る。
憧れとでも言うのか?
うん、それがいいな。
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 09:35:34.08 ID:8yOnT19b0
古泉は…当たり前のことながら除外だ。
残るはハルヒなんだが、考える間もくれないようだ。
「そうね、…あたしは、居るわ」
黙っていたと思えば、突然の返答。
好きな相手が居ると聞き、俺は何故か緊張した。
だが、ハルヒは俺と同じくその相手を告げるのはまた俺が勝手からのつもりのようで、次行くわよという。
運が良ければもう一度勝てるだろうな。
しかし、勝ったとして俺は恐らくハルヒの好きな奴を聞かないとダメだろう。
あいつの口から他の男の名前が出るのはどうもな。
聞かないという手もあるが、この雰囲気じゃそれは避けられなさそうだ。
かといって負けてしまえば俺の好きな相手を聞かれるだろう。
そのときは答えないわけには行かない。
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 09:39:46.25 ID:8yOnT19b0
なんでたかがゲームでこんなに悩んでいるんだろうな…。
そうこういっている間に、ハルヒはグーを握っていて、すぐにでもじゃんけんぽんと言うだろう。
今度こそ覚悟を決めて、そして古泉たちに心の中で謝る。
もしもなにかあったら俺のせいだ、すまん。
先程と同じように、手を組み、なんとなくの勘で出す手を決める。
「じゃんけん、ぽんっ」
…俺の勝ちだ。
こういう場合は、うれしいのか悲しいのか分からないな。
ハルヒはあからさまに驚いた顔をしているし、きっと好きな相手を言うのが嫌なんだろう。
「…じゃあ、好きな天気」
無理矢理言わせるのもどうかと思い、少し強引にではあるが質問を変えた。
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 09:43:16.40 ID:8yOnT19b0
ところが、ハルヒは不満そうに口を尖らせて言う。
「なによ、誰が好きか聞かないの?」
「…え、嫌じゃないのか?」
さっき嫌そうな顔してただろ、と付け足すとあいつは首を振った。
「別に。ただ、連続で負けたのが悔しかっただけ」
少し気が抜ける。
じゃあ、ハルヒは好きなやつの名前を聞いてほしいのだろうか。
ああ、古泉が好きで手伝ってほしいからとかか?
なんか嫌だな。
悔しいが、美男美女カップルになるだろ。
きっと古泉は拒まないからな。
67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 09:45:40.11 ID:8yOnT19b0
そんなことを考えてるあたり、俺はハルヒが気になるのかもしれない。
だからこそ答えを知りたくないし、答えたくもないのだろうか。
どこかもやもやとしながらも、期待に応えるべく俺は問う。
「じゃあ、お前の好きな奴は誰なんだ?」
沈黙。
自分から聞かせておいて、それはないぜ。
気持ちのいい沈黙ではなく、俺だけかは知らないが空気が重い。
ハルヒの口がぼそぼそ動くのが見えて、再度問い掛ける。
「聞こえないんだが」
いっそ聞こえないままでもいいかもしれないとも少しだけ思った。
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 09:47:44.34 ID:8yOnT19b0
すう、と息を吸い込む音が聞こえる。
「好き、キョン、好きよ!ずっとずっと好きだった」
目をぎゅっと閉じ、勢い良く椅子から立ち上がるハルヒ。
その両手は強く拳を握っていた。
ゆっくりと目を開けて、俺の反応を待つ。
「ねえ、教えなさいよ、あんたは誰が…気になってるの?」
じっと見詰められて、俺はなにも言えなくなった。
まさか、俺を好き?
ハルヒが?
言われて気付くことって多いよな、とか思っちまうぜ。
「あ、え…?俺?」
間が抜けた声を上げ、自分を指差す。
小さく頷いて、返事を待つ姿から思わず目を逸らした。
73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 09:50:12.15 ID:8yOnT19b0
どうしたらいい?俺はまだ答えが出てない。
しかしこんなことを聞いた後じゃ、世界を守るための選択肢は一つしかないんだ。
確かにハルヒのことは大事だ。
それが恋愛感情なのかと聞かれると分からない。
ハルヒはどんな気持ちだったんだ?
「なあハルヒ…俺を好きって、どんなときに思ったんだ?」
こんなことを聞くのは、少しでも答えを先延ばしにするためか、それとも他に理由があるのか。
そんなこと、俺自身が分かって居ない。
もちろんハルヒも理解できるはずも無く、「え?」といったあと考え込んだ。
77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 09:53:46.10 ID:8yOnT19b0
「…あたしは…キョンと二人で不思議探索するときが一番楽しかった。キョンが心配してくれたり、頭をなでてくれたとき、色々言ったけどすごく嬉しかったわ」
いつものハルヒとは違う、素直な言葉だった。
「あんたがみくるちゃんや有希をかまってるときは、つまんなかったし、あたし以外の女の子の話しをしてほしくいって思ったわ」
あ、なんとなくそういうの分かる気がする。
俺は時折「うん」とか「ああ」とか相槌を打つだけだったが、ハルヒは言葉を並べていく。
きっと、今までハルヒの性格が故にいえなかったことを吐き出してるんだろう。
俺も、お前が古泉のことを好きだと思ったとき、嫌だったな。
お前が楽しそうな姿を見てるのは楽しいし、だからこそむちゃくちゃなハルヒについてこれた。
「話しを切って悪い。…まだよく分からんが、俺はお前が気になってるらしい」
結論は出ていないものの、ハルヒがつらつらと想いを語っているのを聞くと、俺もなにか言いたくなった。
79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 09:56:01.36 ID:8yOnT19b0
「え?それ…え…ほんとう、なの?」
一度頷いて、「おう」と笑う。
ぽかんと口を開いているハルヒに、後頭部をかきながら謝る。
「すまんが、まだ、はっきりしたものはなんにも分からん。ただ、もっとお前と遊んでたい」
幼い頃に捨ててしまった不思議な存在と遊ぶという夢を実現させてくれたお前と。
また、ハルヒの顔が赤くなっていく。
「あ…それじゃあ、あんたはずっとあたしの傍に居なさいよね!命令なんだから!」
バーンと机を叩いて笑みを浮かべるハルヒ。
80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 09:57:43.87 ID:8yOnT19b0
いつもの、なにか楽しいことを見つけたときのように輝いている。
「へいへい、分かってるよ」
俺もつられてニヤけた。
「キョン、好きよ!」
机を越えて、ハルヒが俺に抱きつく。
「うわっ…おう。ごめんな、こんなことしか言ってやれなくて」
ハルヒの好きだという言葉に、曖昧な返答しか出来ない自分が悔しい。
「いいわよ、絶対あんたはあたしのことを好きになるんだから」
その自信に助けられて、俺はハルヒの背中に軽く手を回した。
完
82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/02/07(土) 09:59:18.37 ID:8yOnT19b0
付き合ってくれて有り難う、後半からぐだぐだだったけどなんとか終わったぜ。
途中ベタって出てたけどその通りです。
キョンハルはベタベタで甘いのがすきなんだ。
朝から付き合ってくれてみんなほんとありがとうございました。