古泉「やはり…もう涼宮さんは…」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/01/15(木) 22:00:14.28 ID:PPwdvS+w0

「やはり…もう涼宮さんは…」

沈痛な面持ちで古泉が呟いた。
俺はといえばただただ顔を覆って待合室の椅子に沈んでいる。

「言うなよ、きっと、ハルヒは……」

思い出されるのは今日の昼前のことばかりだった。
部室に来ないハルヒを不審に思った朝比奈さんが窓の外を除いていて
やがて絶叫した。驚いた俺はオセロ版をひっくり返し古泉は目を見開き
長門はノートパソコンを閉じた。

キョン「あ、朝比奈さん!?」
みくる「あ、あ、あ、ああ…」


4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/01/15(木) 22:02:33.24 ID:PPwdvS+w0

痙攣するように震えた朝比奈さんの麗しい指がさした先には
タイヤのスリップ跡と華奢なおんなのこが落ちていた。

「うっ……」

ねじくれた四肢に素直な吐き気を催して朝比奈さんの目をふさぐ。
自分の口を塞ぐより先に彼女の目を塞げたことを嬉しく思った。

「何、ですか。キョン君、顔色が悪いですよ」
「………時空に異常… ]


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/01/15(木) 22:04:17.39 ID:PPwdvS+w0

黒いRV車はしばらく狼狽えたようにおんなのこの周りを揺れたのち
思い切ったように発進してやがて見えなくなった。

「あ、ぁあっ……きょん…君…」
「だ、大丈夫です朝比奈さん、それよりハルヒはどこへ…」

ショックで噎ぶ朝比奈さんの肩を抱いて窓から遠ざかる。
入れ替わりに古泉と長門が窓の向こうを覗いた。

「……ひき逃げ…ですね…ナンバーは見ましたか?キョン君…」
「い、いや、見てない。それよりハルヒ」


「否、」


長門が厳かに呟いた。うん、そうそう。いくら俺でも見当ぐらいは
ついてるよ。見当を付かせたくなかっただけで。

「否、涼宮ハルヒなら、もうあなたは見つけている」
「ふ、ふぇ?どういうことなんですか?」

長門の指がぴいんと奇麗に伸びて窓の向こうを指す。
宣言する。

「その轢体が見えているなら、もう涼宮ハルヒを探す必要はない」

古泉が柔らかく微笑んで失神した。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/01/15(木) 22:06:03.92 ID:PPwdvS+w0

阿鼻叫喚。


ぼうっとそんなことを考えている。
イエローテープの貼られた自動販売機前。タイヤのスリップ痕。
赤いサイレンがくるくる回って目蓋の奥にねちっこく尾を引いた。

怒号。怒声。悲鳴。悲哀。
誰かが泣き叫んでいて誰かが怒号を散らしている。

ハルヒが、轢かれた。

「キョッ、キョン君!邪魔になっていますよ!」
「、あ。こ、いずみ」

顔を蒼くした古泉が俺の手を引いて人混みから離脱した。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/15(木) 22:09:43.96 ID:PPwdvS+w0

俺の手を引く古泉の手もまた、ひどく冷えて震えている。

「……おい、ハルヒ…」
「今は…心配してもしょうがないですよ」

人混みの垣根のすきま、担架からはみ出した白い手を見た。
そこから俺の意識も毛糸のようにほつれている。
ハルヒ、ハルヒ。
ねじくれたあの華奢身を思えば思うほど脳が融けていく。
ハルヒ、ハルヒ。
もっとちゃんと言うことを聞いて、あんなに嫌な顔をせずに
もっと、ちゃんと。


ハルヒ。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/15(木) 22:12:16.52 ID:PPwdvS+w0


「キョン、キョン君!」
「……古泉」
「心配しました。大丈夫ですか?まあ、僕もあなたのこと言えないですけど」

失神しちゃいました。蒼白な顔で古泉が虚ろにほほえむ。
傍らの保険医が不謹慎にも頬を染めた。

「う゛……いてえ」
「アスファルトの上でしたからね。脳震盪だそうで」
「…え、えっと、古泉君、鍵、渡しておくからこの子が
良くなったら戸締まりして、鍵返してちょうだい」
「ええマドモアゼル、なあんてね」
「あらやだ。うふ。………あとでおばさんといいことしない?」


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/15(木) 22:14:21.65 ID:PPwdvS+w0


「はは…すいません、遅れてしまって」

乱れたシャツをした古泉が虚ろな目のまま
保健室のドアを閉めた。ぴしあん。古い木の擦れる
音がひどく荒々しくて耳にいたい。

「……お前はあんなおばはんでもいいのか」
「熟女の良さがわからないだなんて…。キョン君、損してますよ」
「…………」

どこか熱に浮かされたようにへらへらと笑う古泉は確実に
錯乱している。矢張りその目は虚ろだった。


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/15(木) 22:16:13.39 ID:PPwdvS+w0


「……キョン、くうん」
「…………」

朝比奈さんがスカートの裾をまくり帰らせて走り寄ってきた。
長門は目を泳がせている。こんなに慌てたこいつは珍しい。

市立病院の廊下。
リノウムの冷たい床。鏡さながらに反射して目が眩む。
抱き付いてきた朝比奈さんはやがて安心したように
鳴き始めた。悲鳴じみた嗚咽が無機質な床に反響して
そのまま耳を喰う。

「……ハルヒは、どうなんですか」
「わ、わかりませんっ。う、ひぐっ。ひっ、ひんっ」


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/15(木) 22:21:42.19 ID:PPwdvS+w0


噎ぶ朝比奈さん。目を泳がせる長門。錯乱している古泉。
こんな、馬鹿な。

ドラマティックにも程があるだろう。
こんな、薄暗い手術室前の赤いランプを
何時間も見詰めていなければならないなんて。

(ハルヒ)

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/15(木) 22:24:05.36 ID:PPwdvS+w0

カチカチカチカチカチ

時計の針の音なのか、自分の震える音なのか。
もはやなにもかもぐちゃぐちゃで意味がわからない。
顔を覆う。息が詰まるほど空気が重くて文字そのままに
潰れてしまいそうだった。

かつん。

「………来て、話が、ある」
「…長門」

ローファをリノウムに押しつけて長門が俺の前に立った。
がさがさに乾いた唇を舐める仕草がひどく獣臭い。
長門が座り込む俺の手を引く。信じがたい馬力で
俺を椅子から立ち上げてそのまま近くの女子トイレに
引きずり込んだ。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/01/15(木) 22:30:25.06 ID:PPwdvS+w0

「………話ってのは何だよ。俺はこれ以上驚かない自信があるぞ」
「……今回、涼宮ハルヒは自分の意志で死んでいない」
「はあ?」

狭苦しいトイレの個室。
ピンク色をした便器をなるべく見ないようにして
長門と向き合っている。

「涼宮ハルヒを跳ねた車はじきに捕まる。でも、問題は
そこじゃない」
「ちょ、ちょっと待てよ、長門」
「待てない。今回は異例。彼女の意志はどこにもない」
「はあ!?」

長門がその首をガックンと音がしそうなほど
強く曲げる。気持ちが悪かった。


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/15(木) 22:32:29.44 ID:PPwdvS+w0

「………話ってのは何だよ。俺はこれ以上驚かない自信があるぞ」
「……今回、涼宮ハルヒは自分の意志で死んでいない」
「はあ?」

狭苦しいトイレの個室。
ピンク色をした便器をなるべく見ないようにして
長門と向き合っている。

「涼宮ハルヒを跳ねた車はじきに捕まる。でも、問題は
そこじゃない」
「ちょ、ちょっと待てよ、長門」
「待てない。今回は異例。彼女の意志はどこにもない」
「はあ!?」

長門がその首をガックンと音がしそうなほど
強く曲げる。気持ちが悪かった。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/15(木) 22:33:27.41 ID:PPwdvS+w0

すまん誤爆した

>>23
女の子は大をしないんです><

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/15(木) 22:37:29.18 ID:PPwdvS+w0


長門がその首をガックンと音がしそうなほど
強く曲げる。気持ちが悪かった。乾いた唇が蠢く。
奇麗な指がぴいんと伸びて、丁度その指が俺の胸を
突く。

「あなたができることはない」

「ただひとつ、わかるのは」


そこまで明瞭に呟いて一瞬躊躇するように瞬きして
耳打ちするようにつま先立ちで俺に呟いた。



涼宮ハルヒはもう恐らく、世界の主導権を握ることはない。


・・・

ごめん
私男だけどって付け足すの忘れてた
女になりてええええええええええええ

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/15(木) 22:42:25.44 ID:PPwdvS+w0


オーバーヒートした脳味噌を抱えて待合室に戻れば
何も変わらずに朝比奈さんは咽び泣いていて古泉は
虚ろな目でへらへらしている。

ようよう考えたら、俺も朝比奈さんも古泉も長門も
ハルヒには迷惑をかけられっぱなしであったはずなのに
どうしてこんなに動揺して居るんだろう。

カチカチカチカチカチ


31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/15(木) 22:46:09.37 ID:PPwdvS+w0

カチカチカチカチカチ

こつん。

「……キョン君、来てくれませんか。話があるんです」
「古泉…」

今度は、おまえか。
古泉は焦燥して虚ろになった両の瞳で
俺をまっすぐに見ている。立ち上がろうとしない
俺を長門と一緒の仕草で立ち上がらせて
こんどは男子トイレに引っ張り込まれる。
男二人で個室に入っていく俺達を物凄い目で
点滴をぶら下げたじいさんが見ていた。


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/15(木) 22:51:23.37 ID:PPwdvS+w0


「……長門さんから大体の説明は受けたでしょうけど」
「受けてねえよ。主導権がどうのこうのって…」
「それだけ言われて理解ができないんですか?」
「できねえよ、顔が、近いんだよ馬鹿」

個室に入るなりいきなり顔を近づけてきて
本当にこいつ気持ち悪い。悪い気はしなだなんて
ホモのような事は絶対に言えない。純粋に、気持ち悪い。

「……今回のことですが、涼宮さん
消失の時のような状況ではないようです」
「それは長門が言ってたぞ」
「機関のデーターベースに何の変化もなんです。異常、です」
「はあ?」

意味の掴めないやりとりで徐々に俺のなにかが削れていく。
古泉が意味深に目を閉じた。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/15(木) 22:55:15.28 ID:PPwdvS+w0

意味の掴めないやりとりで徐々に俺のなにかが削れていく。
古泉が意味深に目を閉じた。深く呼吸して脳味噌の中で
何かを組み立てている。

「………今、この世界の……あー、なんと言いますか…
イニシアチブ?イチニシアブ?……主導権って言いますか…
それが今、涼宮さんの手から転げ落ちてるんです」
「…………」

言うことの本質がまるっきり長門と一緒で
このまま行けば今までのパターンから詠めるように
この次に俺を便所に連れ込むであろう朝比奈さんも
同じ説明をしそうだと思う。多分、間違いじゃない。

「……何ですかその目。ええわかってますよ。どうせ
長門さんの説明と一緒だって言いたいんでしょう」
「……ご名答って言ったら機嫌悪くなるんだろ、どうせ」



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/15(木) 22:57:31.13 ID:PPwdvS+w0


「……ご名答って言ったら機嫌悪くなるんだろ、どうせ」


古泉の目が点になるように見開かれた。
やがて気持ち悪く笑って俺の鼻を人差し指で突く。

「ご名答です」

ああ、きもちわりい、こいつ。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/15(木) 23:00:20.72 ID:PPwdvS+w0


カチカチカチカチカチ

ぺた

「あ、あのお…ひ、ひっく…キョンくん…」
「…………」

ほれみろ。
脳味噌の中で俺のような顔をした疑似俺が
舌を出して馬鹿にしてくる。うるせえわかってるよ。
いつもこうだ。なんで、俺ばっかり。どれもこれも全部ハルヒのせいで


「…………」
「キョン君?どうしました?」


ハルヒの、せい。

・・・・・

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/15(木) 23:33:35.42 ID:PPwdvS+w0



「…………」
「キョン君?どうしました?」


ハルヒの、せい。
ハルヒの、せい?

(ハルヒ)

じんわりと胸の底が熱くなっていく。
感情が上り詰めていく感覚。熱い。
朝比奈さんが座り込んだままの俺を引き起こそうと
してその細い手に力を篭めるも持ち上がるわけがなく
薄い気力を総動員して俺は自力で立った。

「あのう、キョン君…お話…う、ぐすん」
「………泣かないでください」


51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/15(木) 23:40:41.27 ID:PPwdvS+w0

「あのう、キョン君…お話…う、ぐすん」
「………泣かないでください」

またぐずり始めた朝比奈さんの肩を優しく抱く。
いくぶん冷静になったらしい長門と古泉が
焦燥したようにこちらを見ている。カチカチカチカチカチカチ

赤く潤んだ目を拭おうともせずに
朝比奈さんは俺を引っ張ろうと踏ん張る。
動くわけがないのに。
何を言われるかだなんてわかりきっているのに
こんなに面倒臭い事があろうか。もうごめんだ。

「……朝比奈さん、俺、何言われるのかもうわかって」


るのでもういいですよ。それだけの口の動きを
意地の悪さに定評のある現実は許してくれなかった。

「あ、」

ぷつん。

禍々しく光り続けていた手術中を意味する赤いランプが消えた。
重々しく扉が開く。

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/16(金) 15:51:55.60 ID:Cp0qiyAG0

ウオオオオオオオオオオオオ残ってたありがとおおおおおおお



ぷつん。

禍々しく光り続けていた手術中を意味する赤いランプが消えた。
重々しく扉が開く。

リノリウムの廊下に医師のサンダルが反射した。
手術室の中から漏れる光がひどく眩しい。もう、夜なのか。
ふいと仰いだ備え付けの時計の針が刺している時刻は
確かに夜だった。こんな時間まで待合室にたむろしていた
俺達に驚いたナースがあなたたちごはんは?と聞いてくる。

「親族の方ですか?」

マスクを外しながら重々しく医師が呟く。
寝台のような銀の台に乗せられた包帯人間はぴくりともしなかった。



102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/16(金) 16:05:06.40 ID:Cp0qiyAG0



マスクを外しながら重々しく医師が呟く。
寝台のような銀の台に乗せられた包帯人間はぴくりともしなかった。

「え、え、あ、……す、涼宮さぁ、ん」

生々しく冷たい現実に打たれたことに耐えられなかったらしく、
わあっ、と耳を割るような甲高い声で朝比奈さんが
また泣き出した。古泉も長門も格段に青くなった顔で
包帯まみれの人体を見詰めている。俺はと言えば
オーバーヒートして現実を認識してくれない脳味噌に
辟易している。おい、これ、ほんとにハルヒか?
誰に投げかけたわけでもない疑問はリノリウムの床にただ反射しただけだった。




106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/16(金) 16:17:28.25 ID:Cp0qiyAG0



「……どういう、ことなんだよ」
「わからない」
「ええ、僕もです。さっぱり」

長門のマンション。
いつかと同じようにあのドカ盛りカレーを出された。
しかし今回は朝比奈さんの代わりに鎮座しているのが
古泉なので喰いきれるかの心配は多分いらない。

あのあとすすり泣く朝比奈さんを、なぜか迎えに来た
鶴屋さんに任せて俺達は長門の家に待機することになった。
親族でない俺達への対応の淡泊さに見えた病院側の歪みのようなもの。

いろいろ思うところがないわけじゃなかったけれど
いい加減堪えられなくなった空腹に負けて目の前のカレーに齧り付いた。

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/16(金) 16:32:34.81 ID:Cp0qiyAG0

今気付いたけどIDがアゴだ



なんだかんだで風呂までいただいてしまったことに
一抹の申し訳なさを感じつつ、振り分けられた部屋に
行ってみても矢張り予想通りというかなんというか
何もなかった。いやもう知ってるけど。ただひとつ
古泉が寝転んでいることひとつ除いて。

「……気持ち悪っ」
「……何とでもどうぞ…今悩んでるんです…」
「お前と同室だなんて聞いてねえよ」
「言ってないんですから知らないのも当然です」
「気持ち悪い………」
「何ですか?朝比奈さんと枕を並べておいて…」

ぶつぶつと文句を言う古泉。
第二のハルヒを前にしたような錯覚に囚われて
少しずつ今日の事を思い出していく。本当だろうか、
本当にハルヒは

がら。

襖が開く。代わり映えのしない長門が顔を覗かせた。


「………話がある」


111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/16(金) 16:41:51.61 ID:Cp0qiyAG0

ほい続き



「涼宮ハルヒが世界の主導権を握ることはない」

「あれは涼宮ハルヒが望んで起こした事故ではなかった」

「犯人はじき捕まる。けれど問題はそこじゃない」

「この世界を涼宮ハルヒの造ったものだと仮定する」

「そうなると自分の命の行く道すら管理できなかった涼宮ハルヒは
もはやコントロール力がないと考えるのが妥当」

「そうなれば、今この世界の舵を取っているのは誰かということになる」


ひどく饒舌にそこまで捲し立てて長門は茶を啜った。
静かに置かれたはずの湯飲みの音が大きく感じられる。
古泉の呑んだ生唾の音だけがやけに響いた。


114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/16(金) 16:47:55.14 ID:Cp0qiyAG0


やけに大きく響いた生唾の音。
息をついた長門はまた喋り始める。

「もしかしたら、どこかでまた新たな涼宮ハルヒが誕生したのかも
ということもありうる」

「既に世界を作り替えた後なのかもしれない」

「だから、涼宮ハルヒは」
「ちょ、ちょっと待て!」
「……何」
「そんな馬鹿な話があるか!ありえねえだろ!ハルヒは神様なんだろ!?
そんな簡単に殺しちまえるもんなのかよ!」

包み隠さずの本音を叩き付けて長門に詰め寄る。
長門は少し居心地が悪そうに目を細めた。古泉の顔色だけが悪くなっていく。



115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/16(金) 16:54:04.00 ID:Cp0qiyAG0



「そんな馬鹿な話があるか!ありえねえだろ!ハルヒは神様なんだろ!?
そんな簡単に殺しちまえるもんなのかよ!」

親指の爪を噛みそうな勢いで顔を蒼くしていく
古泉が俯いた。ふう、と落ち着こうとするかのような
冷めた息を吐く。それをおかまいなしに長門が反論した。

「世界を把握することはできない。到底」
「だからって…!」
「だからこそ、涼宮ハルヒを把握することで
世界を把握できたかもしれなかった。涼宮ハルヒは
世界にとっても私達にとっても彼にとっても朝比奈みくるにとっても
非常に重要なものだった。そして」

あなたにとっても、ね。

長門らしくない女の子らしい口調。
いつ俺がハルヒを大事だなんて言ったんだろう。
けれども実際俺はこうやってハルヒの不在に
打ち拉がれている。詰め寄ったまま静止していた俺を
やんわりとよけて長門が立ち上がる。


「もう、寝たほうがいい。まずは、落ち着くことが先決」





116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/16(金) 17:01:59.37 ID:Cp0qiyAG0



寝たほうがいい。まずは落ち着け。

的確な長門の指示に従ってのこのこと
布団部屋に押し込まれても眠れるはずもなく
床に髪の毛を散らして寝転んでいる古泉を
観察するぐらいしかやることがない。ああきめえ。
月明かりに照らされてもそこに寝転ぶのは男でしか
ないので色気も浪漫もへったくれもない。

「……おい、古泉よ」
「何ですか。悩んでるんですよ、今」
「お前はなにがショックでそんなになってんだ」
「情が薄すぎやしませんか?……まぁ、正直なところですけど
誰だって失業の二文字を目の前にぶら下げられて冷静ではいられないでしょう」
「なるほど……」

失業、か。
職持ちの大変さを目の前にぶら下げられて自分も同様に
見通しのないこれからの人生を憂いてみたりする。月が陰った。

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/16(金) 17:12:23.26 ID:Cp0qiyAG0


「……おはよう、眠れた?」
「ええ、とってもよく眠れましたよ」
「………」

早朝。
身支度をすませて襖を開けた俺と古泉を見て
長門が静かに文庫本を閉じた。俺はと言えば
古泉の二枚舌具合に辟易している。

「朝食ももうできている。食べて」
「何から何まで申し訳ありません。ありがとうございます」

ででん、と。

(うっ……!?)

昨晩より若干ボリュームアップしたデカ盛りカレー。
なぜかとろけるチーズがトッピングしてある。
ギャル曽根がサンダルで逃げる勢いのボリュームに気圧される
俺の背中を古泉が意味深に小突く。善意を無駄にするなと言うことか!?



119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/16(金) 17:13:08.31 ID:Cp0qiyAG0

「食べて」
「長門、この、チーズはなんなんだ」
「やだなあ。どう見てもチーズはチーズじゃないですか。ねえ長門さん。
キョン君宅では納豆でもかけるんですか?」
「誰がそんな最臭兵器を持ち出すか」
「昨日と、味が同じでは申し訳ないと思った。嫌なら私のと替える」

すまなさそうに眉を下げて長門がノントッピングのカレーを寄越す。
慌て古泉と一緒にて自分のチーズカレーへスプーンを突き立てた。


125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/16(金) 17:38:14.28 ID:Cp0qiyAG0

「う、ぷ……」
「あ、朝からきつかった、ですね…!」

古泉が腹を押さえて顔を蒼くしてへらりと笑った。
長門が消えた途端にこれだ。二枚舌。
昼休み、ハルヒの席は当然空いたままで級友達は
気を遣ってくれているのか話しかけてくるものの
ハルヒの話題にはなかなか触れようとしない。

(当然だけどな)

買ってきたパンを俺が食べ終わっても古泉は
苦しげに腹を押さえているばかりだった。



127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/16(金) 17:55:58.91 ID:Cp0qiyAG0


ざわざわざわざわざわざわざわざわ

国木田谷口その他諸々が蠢いている教室の箱。
吐きそうな顔をした古泉とただ眺めている。

「……吐くなよ、ハルヒの、………机だから」
「吐きませ、う、ぷぇ。し、失礼な」

開け放しの窓からなまぬるく湿った風が吹き込んでくる。
雨の臭いがする。

「………お前古泉、どう思う?」
「神様説のことですか?」
「そうだよ」
「眉唾ではないと思いますよ。少なくとも、ぼくらの壁である仮定ですから」
「………ハルヒが普通の女の子だってことは考えないのか」
「あなたは今まで見てきたことをふまえて彼女を凡人であると考えられますか?」
「…………いや、」
「そうでしょう。僕だってあんな女の子がこの世界の鍵なのかどうか
明確にはわからないですよ、正直なところ。けれども彼女は確実に何かを持っていた」
「過去形、かあ」

ふいに会話が途切れて窓の外を仰いだ。
木立が揺れている。校庭で誰かが遊んでいる。夕立が、来る。


129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/16(金) 18:02:32.87 ID:Cp0qiyAG0


きゅうきゅうきゅうきゅう。
予想通り凄まじい夕立が降り注ぐ昼過ぎ。
自分の野生のカンを捨てたモノではないと自賛しつつきゅうきゅうと
どこか耳やかましく鳴る下履きを鬱陶しく思う。
俯いて歩いていたせいで誰かとぶつかりそうになる。
驚いて顔を上げた先に真剣な目をした鶴屋さんがいた。

「………キョン君」
「鶴屋さん?」
「みくるのことなんだけどね」
「………大丈夫なんですか、朝比奈さん」
「大丈夫も何もないよ。朝から泣きっぱなしで情緒不安定もいいとこさっ」
「………すいません」
「キョン君が謝ることはないのさ。悪くないんだよ」

君もあの子も。
すれちがいざまに呟かれた一言の意味はきっと
この先もこれからもわからないなと思った。女って、フクザツ。


131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/16(金) 18:10:40.30 ID:Cp0qiyAG0



放課後になって誰に言われるでもなく、足がむいた先は
言わずもがなSOS団の部室だった。

ドアノブを捻っても返答は無い。
パソコンの起動音も朝比奈さんの甲高い声も
古泉がいじくるオセロチップの音も、遅いわよ!という怒号も。

(………ハルヒ、お前、どうなっちまうんだ)

ずるずるとパイプ椅子に座り込む。しばらく固まっていたら
ドアノブが回って目の隈を拵えた朝比奈さんがおずおずと
部室に入ってきた。

「………どうも、朝比奈さん…」
「…………………………」

無言。
ひどく気まずそうに俯いて扉の前に立ちすくむ朝比奈さん。
夕立の激しい癇癪だけが鳴り響いている。

「……また、未来に行けなくなったりしたんですか」
「え、あ、なんでそれをっ!?」
「……………」

カマをかけたつもりとその場しのぎの和ませ半々だったんだけど
見事な獲物が掛かった。溜息をついて顔を覆った。



133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/16(金) 18:16:08.76 ID:Cp0qiyAG0

すまん説明不足
学校前に自販機とかあるじゃんそこで轢かれた設定
最初は教員の車にしようと思ってたがそれだと
別の話になるからやめたんだ

ていうか支援有難うここまで続くとは…

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/16(金) 18:23:40.19 ID:Cp0qiyAG0


「………これはこれは…朝比奈さんに何をしたんです?」
「なんもしてねえよ……」
「う、うぇえ。ひ、ひんっ。うわああん!」
「…………」

顔を覆って泣く朝比奈さん頭を抱える俺何もしない長門。
一番最後に入ってきた古泉が頬を引きつらせた。
引きつらせた頬そのままにドアを閉めてまた彼も座り込む。
しゃくりあげながら朝比奈さんが話し始めた。

未来へ行くこと。
過去へ行くこと。
そのどちらもを禁止されたこと。
このままでは禁則事項で言えないけれどえらいことになること。
拙く必死に喋り終えて、朝比奈さんはまた泣き出した。

「ふ、え、うえええん、ぁあん!」
「泣かないでください朝比奈さん、落ち着きましょう。術はあるはずです」



202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/16(金) 23:31:23.16 ID:Cp0qiyAG0

ほい続き

・・・
「ふ、え、うえええん、ぁあん!」
「泣かないでください朝比奈さん、落ち着きましょう。術はあるはずです」

よしよし。そうやって憔悴しきった両の眼で
朝比奈さんを優しくあやす古泉。羨ましいとはちょっと思う。
思うだけに留めておきたいものである。

「…………困った」

長門がそう言ってパソコンをガチャガチャいわせていた。
何をしているのかだなんて知れたもんじゃない。
泣いている朝比奈さん虚勢を張る古泉大分落ち着いた長門、そして俺。
夕立はやみそうにない。

206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/16(金) 23:40:10.71 ID:Cp0qiyAG0


やみそうにない夕立。痛いほど静かで、朝比奈さんのすすり泣く声
古泉の声、長門の呼吸音。パソコンの稼働音。
それだけがただただ静寂に反抗している。

痛いほど、ハルヒの不在を思った。

「………なあ、」

黙りこくっていた十数分。確実に咽の潤いを奪っていた。
思っていたよりかすれの大きい声。頬が熱くなる。
朝比奈さん古泉長門。一斉に振り返った。
少々たじろきながらも出した声音の収拾はつけようと
腹に力を篭める。六つの瞳がこちらを見ている。


「もっかい、ハルヒのお見舞いに行こう」


反論の声は上がらないようだ。


208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/16(金) 23:57:23.18 ID:Cp0qiyAG0

すまん今ネットの海泳いでて驚愕したんだが
ヘタリア中止ってどういうことだよ
ベラルーシは?リヒテンシュタインは?

211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 00:07:50.93 ID:qfrDZ1cs0

おースマソ錯乱しておもいっきりスレチ
まぁ、しょがないなと諦められんけど




「……意外と詰めても大丈夫なもんですねえ」
「………まったくだな」

はははは、と古泉があのうすっぺらい笑い方をした。
俺は濡れたブレザーの不快感で眉を顰めているけれど
古泉は割合気にならないタチのようだ。へらへらしている。

「……大変だねえ、ワリカンかい?」

おじさんも学生の時はよくこんな無茶したよ。
タクシー運転手のおっさんが愛想良く嗤った。

「……ええ、すいませんね、四人も」
「はは、いいさ」

ぎゅうぎゅうづめのタクシー車内。
窓を叩く夕立。
助手席に長門、後頭部座席には右から順に古泉、俺、朝比奈さん。
狭苦しい車内にただ誰かの息遣いが響いている。


216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 00:22:46.65 ID:qfrDZ1cs0


「………すいません、まだ面会時間はありますか」
「ええありますよ、誰をお見舞いに?」

手慣れた調子でナースコールセンターに踏み込む古泉。
俺、長門、朝比奈さんは変な形のソファに埋もれている。
雨のせいもあってか人のまばらな待合室。学生服の俺達は
ひどく浮いているように思うのはきっと間違いじゃない。

目蓋を閉じて目の奥に浮かび上がるのは
包帯まみれの人体、ぴくりともしないハルヒ。
張り巡らされたイエローテープ、朝比奈さんの絶叫。
笑顔で失神した古泉、動揺した長門。


おっそいわよ、キョン!



(ハルヒ)


221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 00:39:26.97 ID:qfrDZ1cs0



(ハルヒ)(ハルヒ)

「キョン君?……キョン君?」
「えっ」
「あ、よかったです。ぼうっとしてたから」

赤く潤んだ目をした朝比奈さんがふふ、と久々に視る
ような気がするやわらかい目で笑った。花が咲くようだ。

「帰りましょう、キョン君」
「え?」

朝比奈さんが俺の手を引く。視れば古泉も馬鹿殿コートを羽織って
エレベータ前に待機している。朝比奈さんもそうだった。

「え、ちょ、なんでですか。折角来たのに」
「容態が重いから、ご親族以外は面会謝絶なんですって」
「そんな」

わたしたち、赤の他人なんですよね。
寂しそうに朝比奈さんが鼻を啜った。言葉が出ない。
出てくるはずの返事も出ずに、気が付いたら走り出していた。
目指す先は部屋番号さえ知らないハルヒの病室。

228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 00:58:00.99 ID:qfrDZ1cs0

湿ったローファが重い音を立ててリノリウムを削る。
数歩も進まないうちにスライディングで転倒した。手すりに頭をぶつける。
素直な呻き声が咽から漏れる。仰いだ先には予想通り
こちらへ手を掲げる長門が居た。ちくしょう、ハイテクな。

厳かに呟く長門。


「やめて、その行為に、意味はない」


ああそのとおりだよ長門。肩を落とす。
これまで存在することがあたりまえだったハルヒが
消えてその上俺や長門、朝比奈さんや古泉が基盤とした
仮説まで崩れた今、自分がどれほどハルヒの造り出す
トラブルに依存していたのか思い知る。

230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 01:00:12.12 ID:qfrDZ1cs0

「大丈夫ですか、キョン君。派手にいきましたけど」
「大丈夫だよ。一人で起きれるぞ」

古泉の手をやんわりと避けて立ち上がる。
駐車場までの数十メートルの間、誰も口を開こうとはしなかったように
思ったのに、再度タクシーを待つ間、朝比奈さんが決壊した。

どん、と女性らしい非力な拳が俺の胸板に叩き付けられる。

「ば、ばかッ!キョン君の、ばかあッ!」
「…………すいません、朝比奈さん」

やまない夕立。長門と古泉は何も言わずに俯いている。
どん、どん、どん。
打ち付けられる拳は痛くも何ともないのに、

「ばかッ!ばか!ばかあ!し、心配なのはッ!」
「………すいません、」


「心配なのはみんな一緒ですよぉッ!キョン君の馬鹿!」


心が、痛かった。


234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 01:15:27.63 ID:qfrDZ1cs0


すすり泣く声が響くタクシー車内。
タクシー運転手のおっちゃんは何事かを察してくれたようで
俺の肩に身を寄せて噎ぶ朝比奈さんのことを
言及しようとはしなかった。しばらく走行してから
朝比奈さんを家に降ろして俺と長門と古泉を乗せた
タクシーが再出発する。

「………この道、右でお願いします」
「×××マンションだね、はいはい」

古泉はどっと疲れているようで長門は何事かを考え込んでいる。
夕立だとばかり思っていたら違ったようで、
益々激しくなる雨に時折雷が混じっているのが
水滴に埋められた窓からちらちらと見えていた。

235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 01:16:33.44 ID:qfrDZ1cs0

「あいよ、ここだね」
「そう。ありがとう。いくら?」
「三千円になります」
「わかった」

長門のマンションの前に止まったタクシー。
長門は静かに財布から紙幣を取り出して運転手に手渡す。
俺は財布の中に二千円しか入っていない現在のことを
脳味噌の隅で考えながらも頭の中はハルヒ一色だった。

おもむろに古泉が俺を車外に引っ張り出そうとする。
睨み付けて立ったらけろっと言い放った。

「あれ、キョン君あなたもおりるんですよ?」
「はあ!?」

245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 01:34:37.24 ID:qfrDZ1cs0


「……どういうことなんだよ」

ドカ盛りのらっきょうカレーを前にして俺は呟いた。
古泉は憔悴した面持ちですいません、とだけ呟く。

長門家の食卓。囲む各々。
目の前の長門をまっすぐに見据える。
長門の大きな目と真っ向からかち合う視線。気圧されそうに
なるけれど、譲れない。どうして俺はここにまた連れてこられた?
おかしい。

253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 01:58:30.62 ID:qfrDZ1cs0

「……俺の家はここじゃねえんだぞ」
「わかっている。あなたに話がある」
「……………」

身構えた。本能が警鐘を打ち鳴らしている。
逃げろ、今すぐ逃げろ。
脳味噌の中の疑似俺が必死で叫ぶ。バカヤロウオートロックだよここ。
出れるか馬鹿。

「警戒されてもしかたない。もしかしたら、あなたに甚大な被害が出るかもしれない」

「仮定だけれど、もしかしたら」

緊張をほぐすように長門が息をつく。
そして、

宣言する。




「あなたが、涼宮ハルヒの後釜かもしれない」






258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 02:07:07.13 ID:qfrDZ1cs0



「あなたが、涼宮ハルヒの後釜かもしれない」


「……は?」
「……移動中に長門さんからメールが来たんです。…驚きました」

けれど、へたに動くわけにはいかないにですよね。
柔和な笑み。悪魔だ外道だひどでなしだ、こいつ。

「俺のこと……殺…」
「しない!」

ばん!
長門が激昂した。強く机を叩く。
さすがの俺も度肝を抜かれた。だってあの長門がだぜ。
古泉も開いた口がふさがらないようでぽかんとしている。
まぁ、俺もだけど。

「………私は、そうさせないためにあなたをここへ連れてきた」

言い切る。
溜息が出るほど凛とした佇まい。
そこにはヒューマノイドなんかじゃない、強い強い一人のおんなが居た。


「………あなたを……守りきって、みせる」


267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 02:23:56.10 ID:qfrDZ1cs0



腰が抜けた。
膝が笑う。

なんでだかなんて、わからない。
もしかしてもしかしたらら俺はうすうす感づいていたのかもしれない。
それと同時に、ひどく安心した。(内心怯えていたのかもしれない)

「……思い出して、涼宮ハルヒが轢かれる前、何があった?」
「え、思い出せ、って…」
「なんでもいい。どんな小さいことでも良い、思い出して」

思い出す。
あやふやに乱れた記憶がひどくもどかしい。
何かを思い出そうとするたび、ハルヒの轢体がぴくりとも
動かない体がリノリウムの廊下が赤いランプがフラッシュバックする。

(思い出せ、何があった)
(何が……)


268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 02:25:27.36 ID:qfrDZ1cs0

「……そういえば、なぜ昨日涼宮さんは自販機へ行ったんです?」
「……それだ。……なぜ涼宮ハルヒは自動販売機へ?」
「え、……ああ、そういえば…」

思い返す。フラッシュバックピクチュアは一旦脳の隅へ。

ハルヒが、ジュースが飲みたいとゴネて、俺にジャンケンを
一方的に迫って、嫌々応じてやって、ハルヒが負けて。

(ん?)


ハルヒが、負けて?



何がわかったわけでもないのにぱちんと弾ける音がした。

271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 02:31:54.94 ID:qfrDZ1cs0


「涼宮さんが……負けた…?」
「確か、俺がグーでハルヒがチョキで…」
「ありえないことではない。いくら涼宮ハルヒでも
実際に負け体験がないわけはない。…けれど」

ううむ。
そんな効果音があたりそうな雰囲気を纏って長門が顎に手を当てる。
大きなその目が左右に泳ぐ。


黙考。


「……そう…か……」

ぼそりと呟いたつもりだったのであろう声は
サイレントな室内に意外と大きく響いた。古泉が首を傾げる。

「……何かわかりましたか長門さん。僕には……なんていうか言葉に出来ない
っていうか…」

長門が顔を上げる。
薄い曇りが取れたような、僅かながらではあれ、爽やかな表情。

「……わかった、恐らく、だけれど」



272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 02:36:51.11 ID:qfrDZ1cs0


「………恐らく、だけれど…」

長門が呟く。
奇遇なことに俺と古泉が同時に生唾を呑む。

「………この騒ぎの、発端…」

長門が目を泳がせる。
言葉を探しているのか。

「……それは、涼宮ハルヒ。そこに変化は無かった」

「…きっと、……なんと言えば良いのかわからないけれど」

「……その、ジャンケンが、すべての発端……きっと」

耳鳴り。
ハウリングのように大きな音。
耳を塞ごうにも塞げば長門の声が聞こえない。
ジレンマを感じつつ隣を仰げば古泉も同じような境遇らしい。
ただひとり長門だけが静止している。


「…このハウリング。……このハウリング程度の反抗しか、
今の涼宮ハルヒには不可能ということ」


276 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 02:45:54.36 ID:qfrDZ1cs0



「涼宮ハルヒは、自業自得のアイデンティティ崩壊で、きっと」

ぐあん。

「くうっ…!」
「い、痛ッ…!」

脳天を打つようなハウリング。
俺も古泉も悶絶に近しい事になっているけれど
長門は眉一つ動かさない。
ハルヒの不在に狼狽えた今日までの長門じゃない。
いつもの、一番頼りになる、長門有希がそこにいた。

277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 02:47:26.48 ID:qfrDZ1cs0

「ジャンケンに負けて、ジュースを買いに行くという」

「たったそれだけの」

「【使われる身分】に落ちたことがきっと彼女には耐えられなかったのだと、思う」

彼女は無意識のうちに最も信頼しているあなたにチカラを行使することを
やめていたのよ。だから、力のない「涼宮ハルヒ」個人ではその時たまたま」

「あなたにジャンケンで勝つことができなかった」

「使われる立場である、という認識は涼宮ハルヒの中で
あなたを語るのに欠かせないワードだった筈」

「たとえそれがジャンケンひとつの敗北、缶ジュース一本の敗北でも」

「彼女は「負けた」と思った。自分の立場とあなたの立場をすりかえた」


ハウリングが強くなる。視界のノイズが強くなる。
目も開けていられない。



「そう、その時きっと、【入れ替わった】のよ」




280 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 02:56:50.74 ID:qfrDZ1cs0


ハウリングが止んだ。ハルヒが諦めたのかも知れない。
聞き漏らしてくれれば後々楽なのに苦労人気質な
俺の脳味噌はがっつり長門の声を拾っていた。
古泉も同様のようで目を丸くしている。

「……え、では」
「……恐らく、本来なら…跳ねられるのは」

古泉が喉仏を震わせる。長門は肩を震わせる。
苦しそうに眉を歪める長門。カレーはとっくに冷め切っている。


「…彼よ」





281 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 03:03:12.31 ID:qfrDZ1cs0


重々しい空気が流れる。
把握できているはずの意味を呑み込むことを
脳味噌が嫌がっている感覚がリアルに伝わってくる。

死にたくない。

まだ死ぬと決まったわけでもないのに死にたくないだなんて
貪欲なものである。けれど、死にたくない、したいこともないのに
死んではいけないと脳味噌が心が躯が、叫んでいる。
けれども脳味噌と親友のせいで苦労人気質な俺の口は
勝手に動いてくれた。


「……じゃあ俺が死ねばいいっていうやつかよ」


ぱあんッ!
一瞬何が起きたのかわからなかった。
歯が砕けたんじゃねえの、っていう感覚。

282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 03:04:33.88 ID:qfrDZ1cs0

ハウリングよりひどく脳味噌を揺さぶられて目が回る。
しばらくグレーマーブルの視界と格闘していて、やがて
視界が晴れた俺の両側には古泉と長門が居た。
ふたりとも息荒く俺を視ている。
二人とも聞き手を赤く腫らしていて、ああ両側から
俺を平手打ちしたのだなと思う。

「……いてえ」

そう呟いて、涙が出た。

287 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 03:15:45.40 ID:qfrDZ1cs0


「いてえ」

そう呟いて泣いた俺を視ての反応は流石にまちまちだった。
古泉ははっとしたように自分の手を見詰めて
長門は俺の肩を強く掴んだ。


「させない。…私があなたを殺させない」
「けどあれだろ、……俺には無理だと思う」

世界を制御したり転がしたりそんな、ハルヒのような真似
はできない。俺には到底。

「でも解決策って、ないだろ、そんなん」
「駄目。駄目」
「なんでそんなに……駄目なんだ」

その一言で長門が凍る。
古泉がだるそうにヤボですね、と笑った。
もうどうにでもなれ。そう思ったはいいけれど
どうしてだが俺の腕は震えていた。



289 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 03:28:33.63 ID:qfrDZ1cs0

*




「……なあ、ハルヒよ、聞こえてるか」

ピー、ピーと規則正しい電子音だけが返答する。
やわらかな白い陽差し。目を細めるた。
眼前に器械と添い寝する包帯人間ハルヒ。笑えない。


意識不明のハルヒに面会するにあたって
だめもとでハルヒの保護者に頭を下げた。

お願いします。娘さんに一目逢わせて下さい。

快諾とまでは行かないが許可をもぎ取って
この病室に辿り着いた。見舞い品のカーネーションを
そっと花瓶に足しておく。

「……俺、決めたよ」



291 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 03:44:00.70 ID:qfrDZ1cs0



「……どういう、こと…!?」


がくり、と長門さんが部室の床に膝を突きました。
部室にはあたしがぽつんと座っているだけ。
あたしは凛と顎を引いて泣くのをこらえています。

「……キョン君は、もうじき崩れます」
「朝比奈さん、まさか独断で…?」

古泉くんが狼狽したようにあたしへ質問を投げます。
あたしはただ泣くのを堪えて返答を返します。

「………いいえ。禁則事項ですが、あたしの上司は、これ以上
観察対象が変わるのを嫌がって…」

嗚咽を飲み下す。泣いちゃいけない。泣くな、あたし。
これはお仕事なんだ。泣くな、あたし!

「……ハウリングが停まって朝比奈みくると歪曲時空が
つながったのはのは、涼宮ハルヒが納得したから…?」

長門さんが震える声で言います。こんな長門さんも初めてです。

「……恐らく、そうでしょうね。ただ入れ替わっただけ、と
考えるなら僕らの上司もキョン君に価値は見出さないでしょう」

293 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 03:51:43.30 ID:qfrDZ1cs0

ウオオオグダグダなのにすまんありがとう

・・


蒼白な顔で古泉君が言います。

「生き残るのが面倒臭くなったんでしょうかねえ。……あの人らしいですけど」

バカなんですから、ほんと。古泉君の頬を涙が伝いました。
あの晩、ダメモトでリトライしたら意外とあっさり繋がった
時間に驚く暇もなく指令が飛んで、その内容は
半ば予想通りで、涼宮さんを最優先にしたものでした。

当然の選択であるはずなのに、涙が止まりませんでした。
結果、先程遡ったあたしの時間が適用されれば
キョン君はこの学校からいなかったことになり
キョン君の代わりにひとりの男の子が意識不明の
重篤状態に陥るのです。せめてキョン君と別の
子にしてほしい。私の最後の我が侭でした。

泣き顔を隠して呟きます。

「……キョンくんなら、屋上です」



294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 04:02:09.59 ID:qfrDZ1cs0


ばん!

ふいに響いた破壊音に肩を震わせて音源を仰げば
予想通り屋上の戸を開け放った長門と古泉だった。

「……平手打ちはもうごめんだぞ」
「……あなたって人は」
「…………」

無言の長門、呆れた泣き顔の古泉。
後悔をしていないと言えば嘘になると思う。
死にたくない、確かにそう思ったのにあのあと
朝比奈さんから来たメールを読んで色々と考えた結果
割合易々と北高とその周りの記憶から退こうと思った。

「………めんどくさいのはごめんだ」
「……嫌。あなたを忘れることを私は……拒否する」

295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 04:03:23.36 ID:qfrDZ1cs0

初夏の良い風が俺の、長門の、古泉の前髪を
嬲ってどこかへ抜けていく。

「……俺が決めたことなんだ。長門、古泉、ありがとう
助けるって行ってくれて、嬉しかった、でも俺は
どうしてもハルヒにあのままでいてほしくないんだ」

あいつはバカやってねーとあいつらしくないだろ。
そもそも俺に世界なんて背負い込めるかっての。

強がったふうに笑う。
あーあー長門、おまえでも泣けるんだな。
古泉なんて、おまえこんなモブに情移してどうすんだよ。

視界がマーブルに歪んでいく。
適用の時間だ。呟く。



「ありがとなー」


299 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 04:14:38.18 ID:qfrDZ1cs0

もうちょっとでおわるぜごめんなー

300 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 04:16:48.12 ID:qfrDZ1cs0


*


(あーあー、なかなか不思議って見つからないわね)

(このハルヒさまが探してるっていうんだからもっとこう、)

(ドバーっとブワーっと出てこないかしら、不思議)

妄想に限りなく近い構想を脳味噌の中で練る。
平凡な通勤ラッシュ車両。平凡な朝、平凡なあたし。平凡な風景。

(ほんっとにもー…。やんなっちゃ……うおっ)

くたびれたサラリーマンの抱えた大きな鞄が
顔に当たる。痛い。避けようと身を捻っても
この満員電車では避けきれない。

(い、いったあ…。何が入ってんのよこのオッサンの鞄…!)

カーブにさしかかる。この状態でカーブが来たら
怪我しちゃうかもしれない。さっと顔が蒼くなる。

(や、やだカーブもうすぐそこじゃない…)

(い、痛い…!やだ、カーブがっ……!)

「すいません、ちょっといいですか」

301 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 04:18:50.06 ID:qfrDZ1cs0

ふい、と。
あたしの頬に刺さっていたオッサンの鞄がなくなった。
それと同時にカーブにさしかかる。若い男の人だった。

偶然、たまたま、それだけのタイミングで
あたしと鞄の中に滑り込んだ同年代と思わしき男の人。
特徴のない顔立ち。

ぼうっと視ている打ちに列車は停まってその男の人と一緒に
ホームへ吐き出される。

「……あー、狭かった……」
「あ、あのっ!」
「ん?」

302 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 04:20:42.17 ID:qfrDZ1cs0

ふいに声を掛けたあたしを不思議そうに見詰める
男の人。来ている制服はきっと隣町の高校のものだ。
どうしてだか声を掛けなければいけない気がして、あたしは捲し立てる。

「あ、あの、あたし、涼宮ハルヒって言うの!北高二年生!」
「え…、あ、……あ?」

男の人が引っ掛かった顔をする。
そしてひらめいたように勢いのある声を出したタイミングは
男の人とあたしと、まるっきり一緒だった。


「「どこかで、お会いしたことありましたよね!?」」




end

303 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 04:22:38.22 ID:qfrDZ1cs0

まさかここまで続くと思わなかった
自分でびっくりした

みんなありがとー

309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 04:28:54.54 ID:qfrDZ1cs0

誤字りまくりミスりまくりで申し訳ない
つきあってくれてありがとう!

311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/17(土) 04:33:58.65 ID:qfrDZ1cs0

それではもう寝るぜ…センター組ガンバレ
つきあってくれてありがとう何度でも言うぜ


おやすみ!



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