「問おう。貴方が私のマスターか」こなた「……誰?」


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1 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 16:30:00.73 ID:7/d9w7qBO

「おや?貴方は魔術士ではありませんね?」

「はあ、主にシーフかガンナーなんかを」

「聞いたことの無いクラスですね……」

「てゆーかホントに誰なんですか」

6 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 16:37:49.43 ID:7/d9w7qBO

私、柊かがみは、その日もいつものように受験に向けて勉強をしていた。

ドカーーンッ!!バフッ!

「わわッ!な、何よ!?」
不意に後ろの方で大きな音が響き、驚いた私は首の骨がどうにかなりそうな勢いで振り向いた。

……ベッドの上に、赤い服を着た見知らぬ男が横たわっていた。

7 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 16:46:01.37 ID:7/d9w7qBO

「……これは、どういう事かな?」

と言ったのは私じゃなく、赤い不法侵入者だった。
「な、なななな、アナタは」
白い髪、浅黒い肌、赤い服。
どこをどう見ても怪しい男は、その長身をゆっくりと座位にすると私に問いかけた。
「君は魔術士ではなく、そしてここには聖杯も無い。しかし私は君に召喚された。これはどういう事か説明してもらえると助かるのだが?お嬢さん」

8 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 16:53:57.10 ID:7/d9w7qBO

その時まで悲鳴をあげて家族を呼ぶか、逃げ出すか、考えていた私だけど、赤い男の妙に落ち着いた口ぶりと皮肉っぽい響きにカチンと来た。
「……アンタ、犯罪者にしては余裕たっぷりじゃない。て言うか、どこから侵入したのよ」

「は、犯罪者?」
皮肉な笑みを浮かべていた怪しい男は、初めて表情を変えた。目を丸くしている。なんだか急に幼い顔に見えた。

9 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 17:01:27.34 ID:7/d9w7qBO

だけど次の瞬間には男は爆笑していた。
「ははははは!犯罪者か!いや、確かにそう呼ばれた時期もあったかな?これは懐かしい」

笑う男とは正反対に、私はドン引きしていた。やっぱりこの男はイカれている。どうにかして逃げ出さないと……。
その時、ノックの音と共に、まつり姉さんの声が聞こえた。
「ちょっとかがみ、何か男の声が聞こえるんだけど。入るよー?」

止める間も無く、ドアがガチャリ、と開けられた。

16 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 17:11:04.12 ID:7/d9w7qBO


「……あれ?」
事情を詳しく説明しようか、ドアに向かって逃げ出そうか迷っていた私に、まつり姉さんは拍子抜けしたような顔を見せた。

「誰もいないじゃん。テレビ?もうちょっと音量下げてよねー」

はい?とベッドの方を振り替えると、そこには誰もいなかった。
「えっと、いや、あのね、さっき」
「男連れこむなんて、かがみもやるなあ、な〜んて思ったのになぁ」

まつり姉さんはブツブツ言いながらドアを閉めて帰っていった。
私はまた一人、部屋の中に取り残された。

21 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 17:22:48.40 ID:7/d9w7qBO

「……幻覚?」
私はイスに座ったまま、ぼんやりベッドのほうを見つめていた。
確かに勉強に煮詰まってたし、ダイエットでイライラしてるし、ストレス溜ってはいるんだろうけど……。

さっきの男、あの顔。あの声。あの存在感。
幻覚だとしたら、あまりにも生々しすぎる。
「私……疲れてるのかな……それともおかしくなっちゃったとか」「安心したまえ、それは無い」

「ぅわああぁっ!!」
再びすぐ後ろから響いたバリトンの声に、私はまた驚いてイスから転げ落ちた。
「……君な、少し落ち着きたまえ。レディらしくないな」
赤い侵入者は、呆れたように腕を組んで私を見下ろしていた。

23 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 17:35:23.01 ID:7/d9w7qBO

なんでよりによって、見知らぬ不法侵入者にレディのなんたるかを説教されなきゃいけないのよ!
と怒鳴ろうとした私は、ふとさっきの現象を思い出した。
「あ……アンタさっき、まつり姉さんが来た時には……」
「ん?ああ、存在濃度を薄くして幽体に近くなっていたから、普通の人間には見えなかったのだろう」

存在濃度?
幽体?
普通の人間?

「……ちゃんと答えなさいよ?アンタ、何者?」

長身の赤い騎士は、心持ち背筋を伸ばして答えた。

「私は英霊にしてサーヴァント。クラスはアーチャー」
答えられてもわかった事は、やっぱりコイツはイカれてるってことだけだった。

25 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 17:50:51.93 ID:7/d9w7qBO

一時間後。
「……つまりアンタはすでに亡くなっている人間で、幽霊みたいなモンってことね」
「乱暴に過ぎる要約だが、間違ってはいないな」

赤い服を着た男――アーチャーとか名乗ったかしら――は、相変わらず慇懃無礼を絵に描いて額に入れたような態度で答える。
何でも、生きている間に偉大な功績を上げた人間は死後、『英霊の座』という場所にシフトし、世界を守るための『守護者』として、またこの世に呼ばれる事があるらしい。
「もっとも、ある程度の人々の信仰や知名度があれば、滅多な事では召喚されない。私は英霊の中でも格下、という訳だな」
アーチャーは嘲るように言った。自分に向かって。

26 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 18:02:44.03 ID:7/d9w7qBO

「それで、今日はなんでまたこの世に戻って来たわけ?」
私はアーチャー(恥ずかしい呼び方だわ……)の話を全面的に信じたわけじゃないけど、さすがにさっきの透明人間マジックを見せられると、確かに普通の人間じゃないことも確かだ。

「別に世界の危機なんて無いみたいだし、まして私は呼び出したりしてないわよ?」

「うむ、それなのだが……」
アーチャーは少し表情を曇らせて言った。
「今回の私は『守護者』ではなく、聖杯戦争のための『サーヴァント』として召喚されたようなのだ」
そうでなければアーチャーというクラスに当てはめられる訳が無い、と独り言のように呟いた。

29 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 18:18:08.49 ID:7/d9w7qBO

聖杯戦争。
約60年に一度、日本の冬木市で行われる、箱庭の中の核戦争。
どのような願いも叶える『聖杯』を求め、最後の一組になるまで七人の魔術士、七騎の英霊が殺し合う。
十四人で『戦争』は大袈裟だ、と思ったが、召喚された英霊――サーヴァント――は、古今東西、あらゆる伝説、歴史上の英雄らしい。
以前にはイスカンダル、要するにアレキサンダー大王までもが召喚されたらしい。まさに『戦争』だ。

さっきからの一時間でザッと説明された内容が頭をよぎる。本当にこの男、アーチャーはマトモじゃない。

30 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 18:30:51.89 ID:7/d9w7qBO

「ここで最初の話に戻るのだが」
アーチャーは真面目な顔になった。
「君は魔術士ではない」
「当たり前よ」
現実でそんなジョブにチェンジした覚えはないわよ。
「わからんのか?これは大きな矛盾なんだ」
アーチャーがまた呆れたような顔になる。わかってるのはアンタの電波話に付き合ってる私がお人好しってことだけよ。
「サーヴァントというのはマスター……魔術士の魔力の供給が無いと、この世に現界できんのだ」
「さっきちょっと言ってたわね」
「にも関わらず、私はここに現界している。アーチャーというクラスは単独行動のスキルがあるが、それにしても異常だ」

31 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 18:40:37.37 ID:7/d9w7qBO

私はいい加減頭が痛くなってきたが、必死で考える。さっさとコイツを追い払って勉強に戻らないと。
「えっと……そうよ!アンタを呼び出した魔術士……マスターとやらは、別な場所にいるんじゃない?」
我ながらナイス判断。
「たまたま私の部屋に現れただけで、別な場所にアンタをまってるのよ!そうよ、そうに違い無いわ」
しかしアーチャーは首を振る。
「お互いに残念だが……私のマスターは君に間違いない」
へ?
「いや、だって……私、魔術士じゃないって」
「そうだ。君には魔術回路も無いし、私への魔力の流れも感じない」

33 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 18:53:03.76 ID:7/d9w7qBO

アーチャーは少し迷うような顔をしたが、やがて言った。
「君、体のどこかに今痛い所は無いかな?」
頭の他に?
「ん……そういえば、手首が少し熱いような」
私は何の気無しに服の袖をまくった。

手首に赤いタトゥーが三つ。

「な、なによコレえぇぇぇぇーーーーッッ!!」

乙女の柔肌に、大事な体にこんなモノが!!
学校退学!進学絶望!結婚不可能!
「ヤダヤダヤダ!私こんなの知らないわよーーッ!」
床の上でジタバタ転げ回る私を見て、アーチャーは溜め息をついた。
「安心したまえ。それは刺青ではない」

36 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 19:05:43.00 ID:7/d9w7qBO

「これ、アンタの仕業!?」

立ち上がって詰め寄る私の勢いに、30センチは背の高いアーチャーが後ずさる。
「ある意味そうとも言えるが……それは聖痕だ」
は!?
「それこそがサーヴァントのマスターたる証。サーヴァントに対して三つまでの不可能を可能にさせる奇跡の源。コマンド・スペル……令呪だ」

「奇跡だかなんだか知らないけど、これ消しなさいよーーーッ!!」
「君、話を聞いてないな……?」

40 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 19:28:33.44 ID:7/d9w7qBO

どうにか落ち着きを取り戻した私に、アーチャーは令呪の説明をした。
令呪。コマンド・スペルとも言われるそれは、マスターがサーヴァントに対して行使できる、強制的、絶対的な命令件。
どんなに自我の強い英霊でも命令に従わせ、サーヴァントのもつ能力さえ一時的に限界を突破させる、まさに奇跡の証。
ただし、回数は三回まで。

「じゃあ私が『アンタ消えて』って命令すれば消えてくれるのね!」
「間違ってはいないが、君、それはあんまりじゃないか……?」

42 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 19:40:42.86 ID:7/d9w7qBO

「しかし、その令呪も矛盾の一つだ」
内心で『消えろ消えろ消えろ』と唱える私を無視して、アーチャーが続ける。
「そもそも令呪というのも、聖杯から流れ出る膨大な魔力が凝縮されたものだ」
アーチャーは私に聞き直す。
「君、ここは間違いなく冬木市では無いのだな?」
「しつこいわね。ここは埼玉県だってば」
ふむ、と顎に手を当てるアーチャーに、私は令呪とやらで消えてもらおうと身構えた。
「それからもう一つ」
ギクッ。
「な、なによ」
「私の他に六騎のサーヴァントが、間違いなく近くに現界している」

44 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 19:53:22.81 ID:7/d9w7qBO

「六騎の……サーヴァント?」
私はキョトンとした。
「うむ。聖杯からマスターに与えられる令呪の数は全部で21。まれに教会の監督役が追加令呪を持つこともあるが……」
アーチャーは顎から手を下ろして、
「私が現界し、君に令呪がある。という事は、間違いなく他の六騎も現界しているということだ」
剣の騎士セイバー、槍の騎士ランサー、弓の騎士アーチャー、騎上兵ライダー、魔術師のキャスター、暗殺者のアサシン、狂戦士のバーサーカー。
私や、私の家族、友達の身近に、そんな途方も無い力を持った存在がいる……。

45 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 20:08:17.69 ID:7/d9w7qBO

「アーチャー、令呪を使わせてもらうわ」
私は精一杯背伸びして、アーチャーの目を覗き込んだ。
「やれやれ、やはり現界早々消える羽目、か」
アーチャーは肩をすくめる。
「特に残念とも思わんがね君も危ないと思ったら、近くの聖堂教会に」
「Anfang」
「……なぜドイツ語なのだ?」
私は思いっきりの願いを、手首の令呪に込めた。

「アーチャー、サーヴァントもマスターも、誰一人傷つける事なく、聖杯戦争とやらを終わらせて」



48 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 20:26:09.62 ID:7/d9w7qBO

選ばれるマスターは七人。
与えられるサーヴァントは七クラス。
ヘブンズフィールは一つきり。
奇跡を欲するなら、汝。
自らの力を以って最強を証明せよ。

こうして私、柊かがみにとっての、糟日部聖杯戦争は始まった。

49 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 20:38:15.42 ID:7/d9w7qBO

私は手首の令呪を見つめていた。確かに三つあった令呪の内、一つが消えている。
「……君は私の説明を聞いていなかったのか?」
アーチャーの、呆れたを通り越して脱力したような声。
「わかってるわよ。長い期間束縛したり、曖昧な命令で使われた令呪は効き目が薄い、でしょ?」
私はジンジンうずく手首を撫でながら言った。
「でもね、その聖杯とやらが無ければ、戦う理由も無い訳でしょう?」
「……どうかな。英霊の中には戦いを欲する者もいるだろう。むしろ、そのような者こそ英霊となる場合が多い」
「もし英霊がサーヴァントとして呼び出されても、マスターの方は私と同じ、魔術士じゃない可能性が高い」
アーチャーは驚いたように私を見た。
「ふむ、確かにそうだ」

53 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 20:52:17.39 ID:7/d9w7qBO

「今回のえーと、聖杯戦争?が、イレギュラーなものなら、私みたいな一般人がマスターになってるかもしれないのよね?」
「ふむ」
「マスター同士が会ったとしても、なんの利益も無いって確認できれば、戦いにはならないと思うのよ」
アーチャーは苦笑いした。
「この時代のこの国の、子供の考えだな」
「子供で悪かったわね!」
私はムッとした。
アーチャーは案外素直に謝った。
「すまない。レディと最初に言ったのは私だったな」
「べ、別にいいけど。それでアーチャー?令呪の効き目はどうなの?」

54 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 21:05:00.12 ID:7/d9w7qBO

「うむ」
アーチャーが目を閉じて、何かを確かめるような顔をする。
「……やはり効き目は薄いな。内容が漠然としすぎているし、第一君の魔力のバックアップも無い」
「そうなんだ……」
「あの令呪の使用の仕方では『マスターの方針をなるべく尊重しよう』という程度の強制力しかない」
大事な命令権を一つ無駄にしちゃった訳か……。
ガックリしている私に、アーチャーが笑いかけた。皮肉の無い、無邪気な笑顔。
「安心したまえ。不本意に召喚されても、マスターが魔術士でなくとも、私はサーヴァント。必ずや君の期待に応えてみせよう」

59 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 21:16:42.40 ID:7/d9w7qBO

「ありがとうアーチャー!これから、よろしくね!」
と、『アーチャー』というのは聖杯戦争でのクラスの名前だというのを思い出した。
「えっとね、アーチャーって、本名はなんていうの?」
アーチャーは困った顔をした。
「本名……真名か」そしてあっさり言った。
「思い出せない」
「お、思い出せないって?」
「今回の召喚がイレギュラーなせいか、他に原因があるのか……私にもよくわからないのだ」
自分の正体がわからない割りには、あまり気にしていない様子だった。

60 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 21:27:02.33 ID:7/d9w7qBO

「そ、そうなの……その内思い出せるわよ。あ、人に名前を聞く時は自分からよね。私は」
「カガミだろう?さっき、君の家族らしき女性がそう呼んでいた」
「そう、私の名前は柊かがみ。よろしくね!」
「ああよろしく、カガミ」
アーチャーはなんとなく棒読みっぽく私の名前を読んだ。
それからなんとなく私の顔を見つめていた。
「……な、なによ、アーチャー」
「いや、君の吊り目と髪型を見ていてな」
「はあ!?」
「ああ、その目とその髪型は実に君にふさわしい」
「意味わかんないわよ」

65 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 22:46:49.87 ID:7/d9w7qBO

「おっはよー、かがみ、つかさ」
「よっす、こなたー」
「おはよう、こなちゃん」
次の日の朝。いつもと変わらない登校風景。
私は双子の妹、つかさと、腐れ縁の友人、泉こなたとともに陵桜高校に向かって歩いていた。
ただ、いつもと違う事がひとつ。

「……ちゃんとついて来てる?アーチャー」
ほとんど唇を動かさず、口の中だけで発音する。

(学生というのは歩みが遅いものだな。こっちは歩きながら寝てしまいそうだぞ)
姿を透明にした私のサーヴァント、アーチャーがすぐ隣にいる。

67 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 22:56:39.78 ID:7/d9w7qBO

昨日は不戦のポリシーを確認しあったけど、いざ朝になり登校しようとしたら、アーチャーが『側にいなくては不測の事態に対応できない』と同行を主張したのだ。
私は最初渋ったけど、街の視察も兼ねる、というアーチャーの言葉も一利があると考え、友人プラス透明人間の四人での登校になった。他の二人はもちろん知らないけどね。危険な事には巻き込めないし。
「どしたの、かがみー。ぼ〜っとしちゃってさー」
「そう言えばお姉ちゃん、昨夜もまつりお姉ちゃんに何か怒られてなかった?」

69 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 23:08:01.90 ID:7/d9w7qBO

「な、なんでもないわよ、昨日はダイエットのせいでイライラしてたんで」
(今の君の体重は、十分平均範囲だと思うが?今朝の体重計を見た限りでは)
「ばっ!ちょっ、おま、見てたのかよっ!」

「ほえ?」
「……どうしたの?お姉ちゃん」
こなたとつかさが不思議そうに私を見ている。マズイ。
「なんでもない、なんでもな〜い」
あははと二人に手を振りながら、口の中で呟く。
「今度体重計覗いたら、本っっ気で殺すわよ……」

(わ、かった。りました)
人の範疇から外れ、英霊になった男の声が、なんとなく脅えているように聞こえた。

72 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 23:22:12.08 ID:7/d9w7qBO

(ところで)
気を取りなおしたようにアーチャーが私だけに聞こえる声で言う。
(やはりイレギュラーな召喚のツケがここにもあるな)
「……どういうこと?」
先を歩くこなたとつかさをみながら小声で聞き返す。
(通常、サーヴァント同士というのはある程度相手の場所がわかるのたが)
同じ、霊的な者同士感じあう、ということだろうか。
(……近くにいることはわかるが、方角や距離がさっぱりだな)
「しょうがないわよ、何事も完全には……って、え?」

大声になってしまった。

「近くにサーヴァントがいる!?」

76 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 23:35:08.80 ID:7/d9w7qBO

学校についた。
(……カガミ)
「なによ、アーチャー」
靴箱の前で、靴が脱げない演技で一人になれる時間を稼ぐ。
(さっきの話の続きだが)
「相手の居場所がわからないってヤツ?」
(そうだ。この状態でサーヴァントの位置を把握できるのはキャスターぐらいだと思っていたが)
「いたが?」
(ここまでだとさすがにな……間違いなくこの学校に、いる)
急に膝が震えだす。
「……サーヴァント?」
なんとか声の震えは押さえられたと思う。
(それも一騎や二騎では無いな)

79 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 23:47:20.05 ID:7/d9w7qBO

ちょっと待ってよ……。
「一騎や、二騎じゃ、無い?」
今度は、はっきり自分の声が震えるのがわかった。
(恐らくな。まさか私を含め、サーヴァントの半数近くが同じ建物に集まるとは)
あの不遜なアーチャーの声ですら緊張して聞こえる。
(限界まで存在濃度を薄くしないと、さすがに相手に気付かれる)
「そうしてアーチャー……お願い」
ふ、とアーチャーの気配が消えた。
第四次聖杯戦争では、航空自衛隊の戦闘機、F15Jが二機墜落するほどの大惨事が起きた、という。
学校の中で迂濶な真似はできない。私は額の汗を拭った。

81 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/03(水) 23:59:14.74 ID:7/d9w7qBO

昼休み。
「あら?柊ちゃん、今日はB組に行かないの?」
「おぉ、柊ぃ、今日はアタシらと一緒に食べるかぁ〜」
峰岸と日下部が声を掛けてくれたけど、それどころではない私は、
「あは、あはは、今日はちょっと」
などと言葉を濁すとか濁さない以前のごまかしかたでC組の教室から立ち去る。
何かあった時、周囲の人間を巻き添えにできない。
足早に向かった先は、今の季節誰もいないであろう、屋上だった。
「……いいわよアーチャー、出てきて」
ふ、と隣に気配を感じた。姿は見えないままだが。
(だいぶ気疲れしたようだな、カガミ)
アーチャーの声が珍しく心配そうだった。

83 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/04(木) 00:09:24.93 ID:YCs0dEEiO

「私の事はいいわよ」
なんとなくアーチャーに心配されるのが恥ずかしい。なんでだろう?
「そっちのほうは、それらしいのは見付かった?」
(……ダメだな。あまり探りすぎると、こちらが気づかれる)
アーチャーもそれなりに探索したのだろう。
(ただ、わかったことが一つある)
「なに?アーチャー」
(少なくとも、キャスターとバーサーカーはここにはいないな)
「……どうしてわかるの?」
(キャスターは魔術士よりは数段上の、魔術師だ。ここに存在していたら、それだけで魔力を隠しきれまい)
そんなものか、と曖昧にうなずく。

84 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/04(木) 00:20:03.70 ID:YCs0dEEiO

(もう一騎、バーサーカーは、理性を奪うことで、他の能力値を上げるタイプのサーヴァントだ)
アーチャーの説明は続く。
(とても存在濃度を薄くして、気配を消す、などという器用な芸当はできまい)
「と言うことは……」
(そう、私を抜かすと、セイバー、ランサー、、ライダー、アサシン)
「その内の三つ……」
(あるいは全員か。厄介だな)
アーチャーもさすがに疲れたように言う。
まさか召喚された次の日にもう半分以上のサーヴァントと同じ屋根の下、などというのは、予想外もいいところなのだろう。
私も、だけど。

91 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/04(木) 01:43:21.69 ID:YCs0dEEiO

(……それからカガミ、聞きたい事があるのだが)
ためらいがちなアーチャーの声。
「今更遠慮することなんて無いわよ。なに?」
(朝、君といっしょに学校に来た二人は、妹と友人、だったな?)
え?
ドクン、と自分の鼓動が耳に響いた。
「つかさ、と、こなたは」
(ふむ、ツカサが君の妹、コナタが友人か)
「それが……なによ」

(君と二人で歩いている時、近くでサーヴァントの気配を感じた)

嘘……。

92 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中[sage] 投稿日:2008/12/04(木) 01:57:13.34 ID:YCs0dEEiO

「つかさかこなたが……サーヴァントのマスター?」

有り得ない。信じられない。
(幽体にしても気配が奇妙だったが、サーヴァント固有の気配だったのは確かだ)
つかさが?こなたが?
(大丈夫か?カガミ)
気がつくと私は膝を床について、汗を流していた。
大丈夫。逆にラッキーだ。
つかさやこなただったら話し合いもスムーズに行く。戦いになんてならない。

なのに、この嫌な予感はなに?



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