485 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/01(土) 22:35:58.43 ID:Wv+RUcY6O
>>237の続き
キョン気づいてよ私の気持ち…
しっかり眼を開き、勇気を振り絞り彼の顔を覗き込み気持ちを言葉で伝えようとした
その瞬間、世界は揺らいだ
虹色に輝く膜が私のまわりを覆い、シャボン玉のなかで浮かぶのはこんな感じなのかという錯覚を覚えた
数分間のできごとに思えた、酒酔いと船酔いが混ざり高熱の気持ち悪さを加えたような状況に私は気を失った
目が覚めると、あたりは薄暗くすでに星明かりが見えていた
486 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/01(土) 22:38:05.83 ID:Wv+RUcY6O
どうやらベンチで長い間横になっていたらしく、体のあちこちが痛い
「…夢よね」
なにかホッとした安堵の気持ちと、彼にはもう会えないのかという後悔の気持ちが入り混じり、涙が出そうになった
「…帰ろ」
誰にいうでもなく、体も心も消耗しきった自分の体を動かすため独り言をつぶやいた
ガチャッ
「…」
無言で家につくと、私はいつもの手順通り、明かりをつけ、見もしないテレビをつけ、ハンガーに上着をかけ、冷蔵庫から飲みかけのペットボトルを出した
487 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/01(土) 22:39:56.91 ID:Wv+RUcY6O
この行動は一種のおまじないみたいなものである、順番通りにしないとなにか気持ちが悪く、特にその順番に意味はない
いつもは淋しさをまぎらわすためにつけているテレビが、今日は喧騒に感じる
テレビを消そうとしたその時、なにかに気づいた
「…懐かしいわね」
テレビにはかなり前に打ち切りをくらったクイズ番組が流れていた
「…なんて番組だったかしら?」
私はとくにテレビを見る気はなかったが、その一点が気になり今日の朝刊を探した
488 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/01(土) 22:44:47.76 ID:Wv+RUcY6O
「あったあった…なによこれ?」
目を疑った、その新聞はたしかに十年前のものであった
うちにある新聞はそんな昔まで取っておいてあるはずがない
「誰かがおいていったの!?…ってうちに遊びにくる友達なんていないか…」
とりあえずうるさいクイズバラエティー番組からチャンネルをNHKに回した
「…はははっ…今日はエイプリルフールに違いないわね!たぶん今年から二回やるのよ!」
テレビの画面には十年前のニュースが生放送で流れていた
489 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/01(土) 22:47:22.72 ID:Wv+RUcY6O
ピンポーンピンポーン
こんな朝早くから誰よ…
私は苛立ちを感じインターホンをとった
「…はい、涼宮です」
「キョン・スミスことキョンだ、開けてくれ」
「キョン!!??」
ガチャッ
ドアを開けるとたしかに高校生姿の彼がいた
「おはよハルヒ!」
「…」
なにかを言いたかったが、なにも声に出せなかった
ふと彼の足元を見ると大きなボストンバッグがある
490 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/01(土) 22:49:24.11 ID:Wv+RUcY6O
「…なによそれ」
「ああ、今日からお前のところに泊まる!世話になるな、よろしく!」
「聞いてないわよ…」
「ははは、私んところ泊まりなさい!好意は受け取っておくものよ!とか言ってたのはどこの誰だよ?」
彼は笑いながら私の家に押し入ろうとしている
これはまずい、もう乙女とは言えない年齢だが、プライベートを男の子に見られるのは恥ずかしい
「ちょっと待って!!」
彼は私の制止を振り切りなかに入っていってしまった
「へえ…思ったんとおりというか、なんというか、こざっぱりしてるんだな」
492 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/01(土) 22:51:33.02 ID:Wv+RUcY6O
「…もう、というより何しにきたのキョン?」
「俺を、俺達をこの世界から解放しに……なんてな!」
「ふざけないで!!」
「…とにかく、俺はお前と一緒にいたい!それじゃ不満か?」
「…不満じゃない…嬉しい…」
「よし、交渉成立だ!あらためてよろしくなハルヒ!」
「…よろしくキョン」
497 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/01(土) 23:03:04.59 ID:Wv+RUcY6O
あの日以来、俺達SOS団と涼宮ハルヒの世界は二つに別れてしまった
要するに俺達は涼宮ハルヒの十年前の世界から抜け出せないでいる
長門いわく、涼宮ハルヒは世界に絶望したらしい
ハルヒは思い通りにできない、願った方向とは逆に進んでしまったSOS団に絶望したのだ
そこからハルヒは自分ひとりSOS団のいない世界で時を進め、俺達四人のSOS団は時の進まないこの世界に取り残した
こうして十年ハルヒが自分の世界を歩んでいる間、俺は十年間進歩なくなにも気づかずに同じ日を繰り返してきた
498 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/01(土) 23:05:35.91 ID:Wv+RUcY6O
長門によれば俺はハルヒが自分ひとりの世界を歩み始めた当初は毎日のように、自分のところにおしかけ、ハルヒが何故いないのか、どこにいるのかをずっと問い続けていたらしい
その当初はハルヒが俺達SOS団を拒み続け、むこうの世界にいくこともなにも対処はできなかった
そして困ったことにこちらの世界では、ハルヒの世界で時の流れが進むにつれて、ハルヒのいないことを全ての人間に当たり前と徐々に認識させるように仕向けられていた
俺は三年進んだあたりでハルヒのことを長門に聞かない日ができはじめ、七年過ぎるとほとんどハルヒの存在を忘れていたらしい
十年が経ち、涼宮ハルヒという存在がこちらでは塵より認知されていない世界で俺は彼女をふと思い出した
長門によるとこのチャンスを過ぎて再び涼宮ハルヒのことを思い出す確率は地球が生まれた確率より少ないだろうということ、つまり最後のチャンスだったわけだ
499 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/01(土) 23:08:08.03 ID:Wv+RUcY6O
そしてこの最後のチャンスにハルヒは、俺達SOS団。というよりも俺を拒むことはなかった
ハルヒの世界にいくことを許してくれた
長門の力でハルヒの世界に行き、あの公園で十年自分より歳をとったハルヒに出会った
正直言って言葉が出なかった、ハルヒに会えた嬉しさ、なにか懐かしい気持ち、俺達だけ取り残された悲しさ、大人っぽくなったハルヒの色香に心を乱された
俺はハルヒを自分達の取り残された世界に呼ぶべきかわからなかった
ハルヒは自分の世界で生きている、俺達を見捨てる世界を選んだ
本題を言えぬまま何気ない会話を終え、ハルヒは帰っていった
500 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/01(土) 23:11:25.23 ID:Wv+RUcY6O
ああ、これで良かったのか…
こちらにいられるタイムリミットも限られている
決心が付いてないのに、来ただけの優柔不断な自分にため息をついた
そう言えばこの世界では明日はハロウィンか…俺達が取り残された日はその翌日だよな…やはりあれが原因か…
肌寒い風が肌を突き刺すが少し眠くなり眼をつぶり軽いまどろみに落ちた
502 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/01(土) 23:13:33.77 ID:Wv+RUcY6O
熱い!!
首筋に熱いなにかを置かれ、反射的に体がびくつき後ろを見た
ハルヒはあの日と変わらないなイタヅラっこな笑いを浮かべていた
…俺はやっぱりハルヒがいない閉じ込められた世界は嫌だ…
直感的にそう思った
ハルヒは無邪気に俺に話しかけてくれる
このままずっと話していたかった
だがハルヒの本音を、ハルヒが俺達を取り残した理由どうしても聞かなければならない
「覚えてるか?ハロウィンの仮装大会のこと?」
503 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/01(土) 23:15:35.18 ID:Wv+RUcY6O
ハルヒは答えたくないような、答えにくそうな返事をした
駄目だ…これ以上追求しても駄目だ…傷を掘り返すだけでまた拒まれてしまう
あとは長門の指示通り手紙を渡し、ハルヒの記憶を呼び覚まして、こちらの世界をどうにかするしかない
そして、十年前の時間の進まない世界に涼宮ハルヒは帰ってきた…
『涼宮ハルヒの同棲生活』第一章
おわり
ここまでしか書いてない