1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/10(金) 23:31:17.94 ID:kLJ/LJaD0
ふつーな日常。
いつもどおりの朝。
のはずなんだけど。
「こな……ちゃぁん、おはよーぅ」
かがみの様子がおかしかった。
というより気持ち悪かった。
これはそんな始まり方を見せた、ある日の出来事である。
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/10(金) 23:36:08.24 ID:kLJ/LJaD0
取り敢えず訊ねてみることにしよう。
「なんだか気持ち悪いよ」
我ながらストレートだとは思うんだけども、
このむず痒いような違和感を受け流せる程に、私も人間が出来ている訳じゃあないしさ。
「うるさっ……ハハっ、こなちゃんは正直者だね」
あれ、褒められちゃったよ。
キツいツッコミを期待していたのですが。
それにしてもかがみんや。
眉がピクピクしているのと、やたら硬直した作り笑いを保とうとしているのは何故なんだい?
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/10(金) 23:37:45.48 ID:kLJ/LJaD0
「こっちにも事情ってものがあんの。なのぉ」
取って付けたような語尾がまっこと不自然すぎる。
あと、凛とした声質のかがみとは台詞の不釣り合いも甚だしいしさ。
もしかして、急遽の諸都合で中の人が変わってしまったのかい?
「ま、まあ、あんまり気にしないでよぉ」
うわ、気持ち悪っ。
小馬鹿にされていると錯覚してしまうほど、作っていることがバレバレなその嬌声。
鳥肌が立ちそうだよ。
なんて遣り取りを傍目から眺めていた人物が居た。
それはかがみの妹、つかさの事なんだけどね。
……ところで、なんで含み笑いをしてんのさ?
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/10(金) 23:40:20.19 ID:kLJ/LJaD0
「んーんー、別に、なんでもないわよ」
間延びしたような声の割には、キッパリとしたその口調。
どこかで聞き覚えがあるような。
ふむ、探らねば。
「えと、何かあったの?」
「うーんとね、大したことじゃあないけど、昨日ちょっとした決まりを作ったからね」
「決まり?」
「うん……じゃなかった。そう、決まりよ!」
妙にテンションが高い。
今日も溌溂、常に全開といった印象だし。
まあいいや。
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/10(金) 23:42:06.91 ID:kLJ/LJaD0
「それで、どういう決まり?」
「それはね、」
「ちょっと待ちなさいよ、こなたに言ってもロクなことにはならないでしょ!」
お、いつものかがみが出て来たぞ。
「こら、かがみ。元に戻ってるわよ?」
それをお姉ちゃんが制した。
あれ、お姉ちゃん?
「まさかその決まりって……」
「かがみとあたしがね、交換してみようかなって。お姉ちゃん役と妹役をさ」
あらまあ、実にいい笑顔でございますね。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/10(金) 23:43:42.97 ID:kLJ/LJaD0
「そうだったんですかー」
どうやらみゆきさんは、今更にして二人の違和感に気付いたらしい。
ちょっと遅いぞー。
「お恥ずかしながら」
「許す!」
親指を立てておいた。
それから暫くの間、柊の二人に伺ったところ、取り決めは以下の通りらしいことが分かった。
1.つかさがかがみを、かがみがつかさを演じること。
2.姉妹関係の逆転のみならず、口調等も変えること。
3.口調のみならず、性格も変えること。
とはいっても、互いの性格まで完全に掌握することは不可能だよね。
との事で、”互いが見て来た相手の印象”を元に演じるようだ。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/10(金) 23:46:28.80 ID:kLJ/LJaD0
つまりは、つかさは今までお姉ちゃんとして見て来たお姉ちゃん役を自らが担い、
かがみは、今まで妹として見て来た妹役へ挑戦するとのこと。
ややっこしいけど、要は役割交換ってだけの話。
あ、言い忘れてた。
かがみはストレートの髪に黄色のリボンを揺らしていたり、
つかさは臙脂色のリボンで小ぶりなツインテールにしていたりするんだよね。
まあ、伝わらないだろうけど。
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/10(金) 23:57:08.11 ID:kLJ/LJaD0
斯くして、どうでもいい世間話に毛の生えた的な意味合いの前フリを済ませると、
かがみは教室へと戻っていった。
ふぅ、今日のかがみにはあまり近付きたくないような。
なんとなく調子を崩されてしまいそうだし。
「ところでつかさ、なんでそういう事をしようと思ったの?」
率直に問い掛けてみた。
つかさはニッと口元を歪めてから、
「ひ・み・つ」
やっぱり姉妹揃って気持ち悪いなと、私は一人で首肯してしまった。
それにしても、みゆきさんは全く動じないんだね。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 00:01:39.26 ID:7p34B9ID0
静けさの残る朝ホームルーム直後。
1時間目、数学。
既に彼女は全開だった。
「はい!」
なん……だと……?
つかさが挙手しただと……?
もしや、早くもお姉ちゃんとしての威厳が備わってきたのかもしれない。
それがプラシーボ効果なのか信じる心の力なのかは不明だけど。
つかさは堂々とした歩みで壇上に上がると、
徐に白のチョークを手に取り、軽快な様で方程式を描きだしていった。
その踊るような手捌き。
心地よい連音。
パーフェクトハーモニー。
完全調和だ。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 00:06:57.46 ID:7p34B9ID0
見上げたよ、つかさ。
今日に備えて昨日はさぞかし予習に力を入れて来たのだろうね。
やれば出来る。
それを君は実証してみせているのだ。
私は密かに心内での拍手喝采を浴びせていた。
コトン。
つかさがチョークを置いて悠々と自席まで戻っていく。
その顔は大事を成し遂げた漢の顔だった。
「はい、それじゃあ答え合わせをしますね!」
教師も感化されたのか赤のチョークを手に取って喜色を浮かべている。
その意気を以って、つかさの解答に盛大なバツを与えた。
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 00:18:59.19 ID:7p34B9ID0
一校時目の終了を告げるチャイムが鳴り終わるよりも前に、
隣のクラスからかがみがやって来た。
「おーっす、こなちゃぁん」
きもっ。
挨拶までは普段通りだったのに、慌ててルールを思い出し取り繕ったような呼称。
うう、背中に指を這わせられているような気分だよ。
そうやって私が身を捩じらせている合間を縫い、つかさが切り返した。
「もうっ、かがみは寂しがり屋なんだからっ」
「お、お、お……」
何が言いたいんだ、かがみんや?
顔が金魚みたいになってるよ?
「お姉ちゃんに会いたかったのぉ」
「あらあらこの子ったら、仕方ないわねぇ」
と、次の瞬間!
つかさがかがみを撫で始めたのだ!
その思わぬ攻撃を受けた妹(かがみ)は、周りの眼を気にして早くも俯き気味である!
しかし尚も姉(つかさ)の攻勢はとどまる所をしらない!
妹(かがみ)も妹(かがみ)で負けじと拒否の姿勢を見せている!
それにしてもこのつかさ。
ノリノリである。
……はぁ、なんだか今日は疲れるよ。
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 00:25:11.86 ID:7p34B9ID0
一旦落ち着こう。
奪われたペースさえ取り戻せればオールオケーイなんだから。
そう考えた私は二人に意見してみることにした。
A.「もう、やめにしない?」
流石に付き合い切れそうなバイタリティはないよ。
B.「ま、これはこれで面白いのかもね」
二人をやんわりと眺めてみよう。
C.「いや待て、案外私もノってきたかも」
うはっ! テンション上がって来たッ!
D.「みゆきさん、この二人を見てどう思う?」
客観的な意見はどうだろうか。
>>25
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/11(土) 00:39:25.09 ID:iJZjY/xxO
D
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 00:52:14.09 ID:7p34B9ID0
客観的な意見を求めてみよう。
「みゆきさん、この二人を見てどう思う?」
「微笑ましくて、とても楽しそうですねっ」
相変わらずの微笑みっぷり。
うん、十中八九そのように答えると予想は出来ていたんだけどね。
加えて訊ねようか。
「なんとなくだけど、やり辛くないかなこの状況?」
「と、仰られますと?」
「ペースを乱されるというかさ、なんというかさ……
こう、ツッコミ役とボケ役が半端に足りてないというか」
「そうでしょうか?」
少なくとも私はそう感じているんだけど。
けれどもみゆきさんは一向に構わないようで、
「では、何かしらの策でも練ってみましょうか」
やっぱり柔らかに微笑んでいる。
この会話を終えた時、次の授業を告げるチャイムが鳴り響いた。
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 01:00:13.15 ID:7p34B9ID0
2校時目
国語
なんか
古文とか
なんとか
そんな感じ
みたいな
時刻?
10時5分
まぁ今は6分
授業?
まぁ
適当に
すごす
てか
古代文字解んないじゃん
みたいな
現代文学(?)に置き換えてみても、この授業の難解さは変わらないみたいだ。
それはつかさに至っても同様のようで、
1校時目の騒がしさは何処吹く風といった具合に頭で振り子を刻んでいる。
外観を装ってみても、結局のところ中身はそのまんまということらしい。
人間、急には変われないもんだね。
その後も暇を持て余した私は、
つかさが何回頭を往復させるかをカウントする作業に没頭していった。
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 01:14:11.18 ID:7p34B9ID0
2校時目の終了と共に何時も通りに各自集合。
よし、今度はこちらからアクションを起こさねば。
先ずはこれだ、
「ものすごーくどうでもいい話を思い出しちゃったんだけどさ、聞いて貰えないかな?」
私が放った軽いジャブ。
それに反応を示したのは、つかさだ。
「何よ?」
高圧的な文句を、ゆったりと間延びした声で告げられた。
嗚呼、物凄く気が抜けそうだよ……。
けど負けないから。
それくらいにどうでもいい話をしてやるんだからっ。
「コアラのマーチってるじゃん?」
「あるわね」
「アレって、マユゲが生えた奴とか盲腸の手術痕のある奴とかがあるらしいよ」
さぁどうだ。
かがみなら「本当にどうでもいいな」というツッコミが来る――
「へぇー」
……終了。
こいつ、手ごわいぞ。
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 01:25:36.24 ID:7p34B9ID0
待て待てまてー、心を乱されちゃ駄目だ。
明鏡止水の心得で挑めば取るに足らないことだろう?
そうよ、落ち着くのよ私っ。
こんな所でボロを出しちゃ駄目なの。
たかだか姉と妹が入れ替わっただけじゃない。
そもそも双子というのは生年月日やら何やらが一緒なんだし、
別にどっちが姉でどっちが妹でも全く差障りはないはずだから。
そうだから、うん!
「なんだか、今日のこなちゃん変だよ?」
ぜんっぜん変じゃないから。
私は私だから。
というより、貴方達には言われたくないから。
ううん、このままじゃいけない。
流れを変えなきゃ。
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 01:28:38.90 ID:7p34B9ID0
そう、こうするしかない。
A.「おい、かがみんやい」
かがみがボロを出すように問答してみる。
B.「ねぇ、つかさ」
つかさともう一勝負やってみよう。
C.「ねぇ、みゆきさん」
そういえば策はどうなったのだろう。
D.「……」
固く口を閉ざして静観の姿勢を決め込もう。
>>38
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/11(土) 01:29:18.76 ID:SUSlG4260
AAAAAA
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 01:49:00.57 ID:7p34B9ID0
「おい、かがみんやい」
かがみの方が扱いやすそうだし、頑張って釣ってみようかな。
「なぁにぃ?」
うわぁー……鳥肌きたー。
かがみにこういう可愛い子ぶりっ子なキャラは似合わなすぎるよ、ホント。
なんて身動ぎをしていたところ、
「あれ、こなちゃん……?」
かがみが私を、じっとりとした両の眼で捉えていた。
そんなに覗き込んでなにさ?
私はなにも怪しくなんかないよ?
嘘じゃないよ?
「でも、なんか変なんじゃないかな?」
「まさかぁ、まさかねぇー」
気付けばこちら側が変な人認定をされ掛けているこの戦局。
かがみへ仕掛けたつもりが、気が付けば私の方が絡め捕られちゃってたよ……。
そしてこの時、またもチャイムが鳴り響いていた。
(疑惑+1)
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 02:09:35.24 ID:7p34B9ID0
3校時目、英語。
ペラペーラとあちらの抑揚で歌うと年増の女性教師と、
その隣で微笑のままに待ち惚けているティームティーチングの外国人男性教師。
こういう場合は空気を読んで、外国のお方へ出番を譲るべきだと思うんですけどねぇ。
そこんとこどーなの?
「オーケイ、ではイズミーサン、スタンダッ!」
げっ!
男性教師と目が合った途端にこれだよ。
別に問題が掲示されているシーンでもないのに、女性教師の朗読を止めて入っちゃったし。
ふむぅ、パティからも察するに、外国のお方は割とフリーダムなのかもしれないなぁ。
ところで、私は立って何をすればいいんですか?
「タコノアシハポン、イカノアシジュポン?」
はい?
何か訊かれているらしいけども意味が分からないし笑えない。
これ、笑うとこ?
「タコノアシハポン、イカノアシジュポン?」
繰り返されても困ります……。
そういった困惑をようやっと汲み取ってくれたのか、男性教師は頷きつつにさらりと述べた。
「これ、フランス語っぽく聴こえるらしいよ」
それが言いたかっただけらしい。
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 02:37:15.36 ID:7p34B9ID0
三校時目の休み時間。
あの甘ったるい声で名前を呼ばれなかったので、
どうやら今回はかがみが御来場なさらないようだと私は悟った。
多分、移動教室か何かだろうね。
ともなればこの時間はゆっくりできそうなので、
私は机に突っ伏したまま、つかさとみゆきさんの会話でも眺めておくことにしよう。
「ねぇ、ゆきちゃん。じゃなくて、みゆきさん?」
「みゆき、ですね」
「えっと、みゆき……
うーんとぉ、えへへ、照れちゃうな。
それに何だか悪いような気がするし、ゆきちゃんでいい?」
「ええ、構いませんよ」
あっさりと妥協しちゃってるよ。
それならいっその事、入れ替えもやめちゃえばいいのに。
そんな私の心境など介さずに、つかさの話は続いていく。
「でさ、学校給食なんかでミカンが出てくるでしょう?」
「ちょうどこの季節周りが旬ですしね、懐かしいものです」
「そうそう、あれってさ、意味も無くシールが貼ってある奴を獲りあわなかった?」
つかさは最早、演じる気が微塵もないんじゃないのか?
そんなどうでもいいあるあるネタを語るかがみなんて見たこともないよ。
もっとこう、バシッとツッコミをちくしょう。
にしても、やっぱりみゆきさんの環境適応能力は凄いらしいと再確認。まる。
70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 12:21:57.56 ID:7p34B9ID0
四校時目、世界史。
黒井先生が教壇に立って熱弁を振るっている。
「でなー、厄介なんが宗教や慣わしの壁というものでな。
ある国にとってはそれが正しいことやとしても、また別の国では悪者とされてしまうことがあるんや。
特に西洋の方じゃあ一神教って言って、一つの崇拝対象以外は認めんとするような排他的傾向が高うて。
そんなんが元で他宗派間との争いの火種にも――」
民族間紛争に迫害がどうたらという話らしい。
が、始めは真面目な話だったのに、やがては氷が溶けるよう緩やかに逸れていき、
「いいかーお前等、プロ野球球団で一番偉いのはロッテや。それ以外は認めたらあかん。
……なんや白石、どうした?」
やけに絡むなぁ黒井先生。
「ジャイアンツ? ウチはパ・リーグの話をしとんのや。おい、ちょっと廊下に立っとけ」
なるほど、これが迫害か。
身近なところでも日々繰り広げられている抗争。
例えばアニメキャラのカップリング的なアレとか。
なんとも世知辛い世の中だねぇ。
74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 12:46:28.72 ID:7p34B9ID0
昼休み。
「お待たせー」
おーっす、って言わないの? ねぇかがみん、おーっすって言わないの?
いつもの威勢はどうしたの?
今のお前はまるで牙の抜けた虎じゃないか。
強引なドリブルでゴリ押していた嘗てのかがみは何処にいったんだい?
「こなちゃん、なんだか楽しそうだね!」
うわっ。
さらにつかさ。
「いつもの事よ」
あ、今のちょっとかがみっぽい。
って納得してどうする!?
仕方がない、
「ちょっとパン買ってくるね」
こんなところに居られるか、私は一人で部屋に戻らせて貰うよ。
「いってらっしゃいませ」
やんわりと見送る平時通りのみゆきさんに幾許か安心しつつ、
私は購買部へと歩いていった。
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 13:07:00.54 ID:7p34B9ID0
「あ、泉先輩……」
「あ、ひよりん……」
購買部前の廊下でばったりと出会った彼女は、
なんだか酷く憔悴しきっていた。
どうしたんだろう。
「なんだか先輩、疲れちゃってますね」
それはこっちの台詞だよ。
ひよりん、ハハッと笑う顔にも翳りが見えてるじゃないか。
「先輩、わたしはわたしですよね?」
「デカルト? ロック?」
「いえ、そういう哲学的な話ではなくって、その……
おかしいのはわたしの方なのかなって思って、あの、客観的な意見を頂きたいなと」
このままでは、ひよりんがゴールしてしまいそうだ。
よ、よし――
A.「大丈夫、ひよりんは正常だ! 元気を出して!」
励ましの言葉を掛けた。
B.「残念ながら、もう……手遅れのようだね……」
沈痛な面持ちで宣告した。
C.「迷わず行けよ、行けばわかるさ」
危ぶむなかれ。危ぶめば道はなし。
>>77
77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 13:29:55.04 ID:svwUN8m20
B
79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 13:47:16.33 ID:7p34B9ID0
ひよりんの言葉の意図が掴めない。
これはどう考えても……
「残念ながら、もう……手遅れのようだね……」
私は彼女が遠いところへ旅立ったのだと悟り、沈痛な面持ちで宣告した。
ひよりんは驚きの色を一瞬だけ見せたものの、
「そうですか、やっぱりわたしが間違っていたんですね」
観念したかのように呟く。
それを皮切りにして、壊れた笑顔のまま長い独白が始まった。
「先輩、こういう話があるんですよ。
自分が視ている色と他者の視ている色は、実は全く違うものだっていう話です。
そうです、所謂”視覚のクオリア”ってやつです。
だけど誰もそれを証明出来ない。
だって、何人たりとも自分以外の人間にはどうやっても移り変われない訳ですし、
そもそも色という概念を言語化して普段の私達は遣り取りしているわけですから、
言語の定義に齟齬が発生しない限りは色の本質が何色であったとしても矛盾は生じません。認識も不可能です。
けれどもある時、自分自身が別の何かに入れ替わってしまった。
或いは、今まで見ていた認識下の差異が、何らかの事情で埋まった。
そう、今までわたしが見ていた世界は偽りに満ちて――」
ごめん、ひよりん。
面倒臭いので先に帰っちゃうね。
じゃ、また。
80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 13:49:03.61 ID:7p34B9ID0
教室へ戻った直後の事だ。
「はい、お姉ちゃん。あーんってして」
「あーん」
「ハンバーグだよ、美味しい?」
「うんっ、美味しい。ありがと、かがみ!」
ちょっと待てよ!
普段のつかさはそんな事しないでしょ!?
「何言ってんのよ、普段のあたしならこれくらいやってるわ」
この台詞を言っているのがつかさで、”普段のあたし”が”普段のつかさ”を指してて……
俺がお前でお前が俺で……
あれ、私は誰だっけ?
「泉さん、お気を確かに」
ああ、私は泉だ。泉こなただ。
良かった、みゆきさんが居てくれれば大丈夫のようだ。
うん、きっと。
「まったく、こなたは大げさなんだからぁー」
「いつもの事だよね、お姉ちゃん?」
姉妹が言うのならば仕方がない。
確かに普段からそうだったような気が、そこはかとなくしてきたし。
きっと間違ってたのは私のほうだったんだねっ!
81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 13:52:06.44 ID:7p34B9ID0
その後、泉こなたの自我は崩壊した。
BAD END (終)
というのは冗談です
昼御飯を食べるのでそれなりに席を外します
相変わらずスロー展開だけど許してねっ!
83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 15:05:42.95 ID:7p34B9ID0
一方その頃、田村ひよりはというと――
84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 15:08:07.36 ID:7p34B9ID0
認識のズレ。
もしかすると、私が見ているこの世界全部が嘘っぱちで、
実は大規模な仮想シミュレーション空間の中だったとかいうオチの可能性もあり得る。
そういうSFを読んだ事もある。
謎は深まるばかり。
私は、私なんだろうか。
そういえば人間の血の色って赤でいいんだよね?
きっと生まれた時から誰しもが持ち得ているものだから、万人共通なんだよね?
……確かめてみよう。
カッティングシートに小指を乗せる。
次いで、ペーパーナイフとして自作した小ぶりのナイフを取り出す。
意を決するために深呼吸を幾度か繰り返すと……思い切って刃物の先端を押し当てた。
チリッとした焼けるような痛みのあと、小指の腹に紅く紅いな水玉が浮かびあがってくる。
綺麗な血玉。
良かった。
やっぱり赤色だ。
あはは、やっぱり私は私だ。
……でも皆の血の色も赤なのだろうか。
「イヨーゥ! ヒヨリー、おげんきデスカー?」
あ、パティさん。
丁度いいところに来てくれたっス。
「ホワァイ? どうしたんデスかー?」
うふふ、大したことじゃないから。
ちょっとこっちまで来て貰えますか――
85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 15:25:30.14 ID:7p34B9ID0
私は諦めないよ。
今度はかがみんにどうでもいい話を振ってやるから。
「焼肉でさ、ホルモンってあるじゃん?」
「うん」
「あれってさ、よく見ると毛が生えてたりするんだよね」
「そーなんだー」
……あれ。
「どうしたのぉ?」
「い、いんや、なんもないです」
おかしいよね?
ホルモンに毛が生えてるのって結構嫌でしょ?
だって、ようやく焼き上がったホルモンを眺めてヒゲのような毛があると判れば、
その途端に食欲が無くなるっていうのに、このスルー具合。
絶対おかしい。
それとは関係ないけど、焼肉食べてると隅のほうに消し炭と化したホルモンが残ったりするけど、
あれも絶対におかしい。
喰わないんなら焼くなと。頼むなと。
あと野菜ばっかり取る奴も分配割り考えろと。
と、仰々しく脱線したことを考えていた私に、かがみが笑い掛けてきた。
「はい、あーん」
箸に刺されているのはミートボールらしい。
86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 15:31:31.16 ID:7p34B9ID0
これは――
A.「いや、やめてくださいホント、迷惑なんで」
冷静に断った。
B.「やっぱりおかしいよ、こんなの!?」
動揺した。
C.「あーん!」
準備バッチだよ!
D.「みゆきさん……」
みゆきさんに指示を仰いだ。
>>87
87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 15:35:58.54 ID:I2H4+f1p0
b
89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 16:07:02.41 ID:7p34B9ID0
「やっぱりおかしいよ、こんなの!?」
私は思わず動揺した。
「なにがよ?」
応じたのはつかさだ。
「だって、普段のかがみんこんな事しないじゃん」
「でも、今のかがみはあたしだから」
「あ、そうだったね」
納得。
する訳が無い。
「いつものかがみだったら、
『ば、馬鹿っ、あたしがそんな恥ずかしいこと出来るわけないじゃないっ……』
って言う筈だよ!」
90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 16:08:35.67 ID:7p34B9ID0
私の言葉を期に皆が沈黙してしまった。
その重い空気を十分に飲み下した頃合いを見て、かがみが糸目を継ぎだす。
「なんだか、今日のこなちゃん変だよ?」
「そ、そんなことはないよ!」
私が否定すると、つかさも怪訝な顔で続けた。
「確かに、なーんか引っ掛かるのよね。何処がって訊かれても困るけどさぁ。
それに、こなたならこのくらいのお遊びでは動揺しない筈よ?」
そうだったっけ?
いや、そう言われるとそうだったような……
「まあまあ、お二人とも。その辺りにされては如何でしょうか」
仲裁をするみゆきさんは、今日もやっぱり微笑んでいた。
(疑惑: 1 → 2 )
91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 16:32:28.04 ID:7p34B9ID0
釈然としないまま昼休みが過ぎ去り、5校時目の授業が始まった。
今度は物理。
もはや懐かしくも思える公式を用いて、教師が解を導き出している。
憶えた側から忘れていく公式に、意味などあるのかねぇ。
私は投げやりな教師の言葉を聞き流しながら、パラパラと教科書を捲っていく。
ふと、目に留まった。
端の方に載っている偉人の顔部分に、実に様々な落書きがなされていたのだ。
それらを細々と眺めて共通点を探ってみると、
どうやらヒゲを重点的に生やす傾向にあるらしいことが分かった。
名称にも接頭語として”ピエール”が付け加えられている。
なにやってんだよ私……
自分自身に嫌気を感じつつも、そのままぼーっと拝聴を続けた。
93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 16:42:55.25 ID:7p34B9ID0
5,6時間目はもう面倒臭いので飛ばすとして、今はもう放課後となった。
放課のチャイムと同時に隣のクラスからかがみもやって来たし。
いつもならばかがみの台詞であるところを、つかさが、
「よーっ、かがみ。帰ろー」
なんて具合に担っている。
どうやら外観と仕様が変わっても、役柄に与えられている役割は手筈通りに熟すらしい。
さて、どうしようか。
A.「ごめん、私一人で帰るね」
疲れたので先に帰ることにした。
B.「それじゃあ皆、帰ろうか」
いつも通りに振る舞うことにした。
>>94
94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/11(土) 16:51:54.39 ID:8Jq+DhHrO
B
95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 17:22:04.47 ID:7p34B9ID0
「それじゃあ皆、帰ろうか」
私もいつも通りに振る舞うことにした。
下手な行動は採らないほうがいいだろうしね。
「ええ、そうしましょう」
「そうだね」
みゆきさんとかがみも賛同し、私達は連れ立って教室を後にした。
96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 17:22:58.29 ID:7p34B9ID0
公道を往く道。
時刻はまだ4時半前。
けれども、この季節ともなると光量が翳りを見せ始めていることが歴然とわかるようだ。
落ち葉もあちこちに落ちているし、あと2時間も経てば完全に暗くなるんだろうな。
かのようにして私がぼーっと景色を眺め回している間に、
つかさが喜々として話題を振りまいていた。
「あのさ、こういうふうに入れ替わるのって、なんだか新鮮よねー!」
かがみも朝の気恥ずかしさは何処へやらといった様子で、
すっかり妹気分に浸っているらしい。案外そういう気質なのかもしれない。
ちなみにそれは、かがみの先を歩いているのがつかさだという些細な点にも表れている。
だいぶ役割分担が板についてきたということなのかな。
「ねぇ、こなたぁー」
つかさだ。
やっぱり声が不釣り合いのような。
まあいいや、
「なに?」
「こなたさぁ、誰かと入れ替わったりとかしたことない?」
「えっ……」
「例えばの話だよぉ、例えばのぉ、ねぇ?」
「な、ないよ」
「ほんとぉー? ホントかなぁー?」
意味不明のプレッシャーが恐い。
97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 17:30:00.06 ID:7p34B9ID0
その後、みゆきさんと別れた後も真綿で首を絞められるような追及が続いたが、
自宅近郊まで辿り着けたことによって、ようやっと私は解放された。
「じゃあね、こなたぁー」
「またね、こなちゃぁん!」
逆転したままの二人に手を振ってから背を向ける。
そしてすぐさま安堵の溜息をつく。
はぁ、疲れた。
異様に疲れた。
最近の学校生活がこんなにハードになっていたとはね。
私としたことが不覚すぎたってものだよ。
でも、これでもう終わりのはずさ。
家に帰ってゆっくりしよう。
98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 17:49:33.63 ID:7p34B9ID0
敷居を跨ぐと、丁度廊下にいたらしく声を掛けられた。
「学校どうだった?」
どうだったって言われてもねぇ。
こう答えるしかないかな。
「疲れた」
「あはっ、だからやめとこうって言ったのにさ」
「だって、久しぶりに楽しんでみたかったんだもの。それにしても中々にスリリングな一日だったわ」
「どうして?」
姉妹の役割交換のことと、一連の出来事を説明した。
「そりゃタイムリーだったね!」
「なんとか乗り切れたみたいだから良いんだけどね」
今になると奇妙な達成感すら覚えてしまうくらいだ。
別に嬉しくなんてないけれど。
「ともかく、お疲れ様!」
「どう致しまして。そっちはどうだったの? イベントがどうのって言ってたみたいだけど」
「うん、御蔭さまでハルヒの中の人に逢えましたー! サインも貰っちゃったよ! いぇい!」
「はいはい、それは良かったね」
こんなに嬉しそうな顔を見せてくれるのなら、私の努力も無駄じゃなかたってものね。
ということで、
「夕食の準備でも始めようかしら」
「そう? だったらわたしも手伝うよ、お母さん」
本日における思い出を語り合い、共に笑い終えると、
やがて夕食を何にしようかという談笑を交えつつ台所へと向かった。
99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/11(土) 17:55:11.46 ID:7p34B9ID0
盛り上がりもないままに、ここらで終わり
オマケ(どうでもいいようなルート分岐のメモ)
疑惑 − 疑われると分岐。”私”はだぁれ? 疑惑+3(かがみ、つかさ、みゆき)で身バレEND。
双子 − 姉妹を煽てると本性を出す的な。姉妹が元に戻るかそのままか。
表裏 − みゆきの策に応じるとキャラ交換。こなたのキャラをどう取り違えたのか黒みゆき降臨とか。
2日目、3日目続けようかと思ったけどこの投下速度でやってちゃ話になんないですね
ということで、お付き合い頂いた方々ありがとうございました