1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 16:01:12.31 ID:c15TwCpi0
それは、夏の暑さも少しずつなくなってきた、秋のある午後の話である。
ハルヒ「あんた、誰? 名乗りなさいよ!」
??「んなこと言われてもなァ、俺だってここが何処なんだか知りてェっつの」
ハルヒ「じゃあ質問を変えるわよ、あんた、キョンを何処にやったの!」
??「だァから!! ここが何処だかもわからねェ俺が、何でそのキョンとやらを知ってなくちゃけねェんだ」
文芸部部室。皆が集合体であるという証の制服を纏わぬただ一人の男が、部員全員の視線を一纏めに受けていた。睨み付けてくる少女、曖昧に笑んだままの少年、そして怯えながら見てくる少女に冷静な視線をくれてくる少女。
そんな異様な光景に身をおかれながらも、黒のブーツ、黒の服の上から巻かれた着流し、その腰に木刀をさして、魚の死んだような双眸を緩慢に瞬かせた男は一言言い放った。
「どーでもいいから、俺の注文したチョコパフェ出せよ」
これが坂田銀時と、涼宮ハルヒの、出会いである。
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 16:10:46.21 ID:c15TwCpi0
古泉「――つまり、貴方はその、江戸という場所からこちらへ?」
いくら冷静沈着な古泉とて、驚きを隠せないのは皆と同じらしい。
当然も当然である。
何せ、今この問いに答えるのもだるそうな男は、数分前突如として現れた不可思議な存在なのだ――それも、キョンという存在と入れ替わるようにして、出現した存在。
もちろんのことキョンの姿はここになく、代わりに風変わりな格好の大人がここにいるのだ。
もし、これがキョンでなく、例えば谷口とかと入れ替わり、別の校内でこのような出現のされ方でもしたら、北高では凄い騒ぎになっていたに違いない。
しかしここは文芸部部室である。
ハルヒ以外の面子は、確信は持てないものの皆同じことを考えていた。
(これも、涼宮ハルヒの願望)
銀時「そういうこった」
古泉「えー、とお名前は・・・・・・銀時さん? ですね、貴方はその江戸で何をしてらしたので?」
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 16:20:19.23 ID:c15TwCpi0
銀時「何をしてたっつわれてもよォ、いきなりこんなところに飛ばされて、状況もわからない俺は一体どうすりゃいいんだ?」
古泉「申し訳ありません。ですが、僕たちもそれは同じくで・・・・・・」
相手の混乱もうなずける話だ。現に銀時は珍しく借りてきた猫のようなしおらしさで、古泉に促された椅子に腰を落ち着かせている。組んだ足が僅かにリズムを刻んで貧乏ゆすりを始めた。
喋らせては何が起こるかわからない。そんなハルヒをなだめた古泉が、困ったように眉尻を下げて苦笑を浮かべる。
古泉「あなたがこちらにいらっしゃる前、ここに僕らの友達がいまして・・・・・・あなたと入れ替わるようにして、消えてしまったのです」
銀時「・・・・・・」
古泉「この一連の不可思議な現象を見て、誰が冷静でいられますでしょうか」
口調こそ落ち着いているものの、古泉自身も内心穏やかでないのは確かだ。
声に僅かな翳りが見える。
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 16:29:03.76 ID:c15TwCpi0
すまんパソコン再起したからID変わってるかもしれん。
俺は>>1な。
古泉だけじゃない。
影でおびえていた少女は、ひくひくと時々しゃくりあげ小さく嗚咽をこぼし泣いているし、先ほどまできつく睨み付けてきていた少女も感情の行き場をなくして、銀時を見ようともしない。
ただ一人、物静かな少女が落ち着いている――かと思いきや、銀時の目にはしっかりと映っていた。彼女が、時々本の端を指先でいじくる姿を。
銀時「・・・・・・」
様々な経験をつんできた自分でさえ、今この状況を飲み込める気がしない。
それ以上に幼い者に、落ち着けということは酷以外の何者でもない。
普段ならばこの場をあっさりと終わらせて逃げているだろうが、今回のこの状況は、状況が状況だ。自分と入れ替わるようにしていなくなったという少年の安否、というものが、自分とは無関係とは言い切れないことが、銀時の妥協と甘さを示している。
どうしたものか、と久々にここまでの虚無感と途方にくれた感情をいり混ぜたような複雑な心境に追い詰められた銀時が、軽くため息をついたときだった。
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 16:33:59.34 ID:c15TwCpi0
長門「・・・・・・声」
今まで何も喋らなかった少女が、突然口を開いた。
古泉「声、ですか?」
古泉の問いかけに、こくりと小さくうなずく。
ハルヒ「・・・・・・私も思ってたんだけど」
すると、そこで漸くそれなりの自制心を保てたのだろうか、落ち着いた口調でハルヒは口を挟みながら振り返る。
既に夕闇に包まれたガラス戸を背に、眉をひそめながらつぶやいた。
ハルヒ「あんたの声、キョンと似てるわよね」
銀時「は?」
ハルヒの一言に、比べられている元もわからず、間抜けな声を出した銀時。
しかしそれとは対照的な反応を示したのが、残りの二人だった。
古泉「確かに・・・・・・キョン君にすごく、似ていますね」
みくる「キョン君がすこし大人びたような・・・・・・」
7 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 16:40:44.09 ID:c15TwCpi0
銀時「・・・・・・」
さて、困ったものだ。そうは言われても、一体全体それが何と関係しているのだろうか?
関係があったとしても皆目見当のつかないことだ。
普段ならば、銀時とて気の利いた一言や、場を和ます一言ぐらい用意できるのだが、何せ今回のこの事情で、場の空気に気おされてしまったらしい。
何より自分の置かれている立場が一番わからない。先ほど発した「チョコパフェマダー?」でさえ、今思えば後悔される言葉である。
それぞれが物思いにふけるように考え込んでいる表情を見渡して、銀時はごほんと一つ息をついた。
銀時「あー・・・一ついいか?」
古泉「はい、なんでしょう?」
銀時「俺はもう事情を説明したが、まだなァんもお前らから聞いちゃいねェよ、そのキョンとやらも、ここが何なのかも。まずそれを話してくれるってことが、道理ってもんじゃねーのか?」
このような非常事態に道理など存在するのかすら危ういところだが、幸い古泉はそれをああと頷いてわずかに笑んだことで承諾を示してきた。
古泉「ここは、えっと・・・・・・まず日本という場所で――」
長い説明が始まった。
9 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 16:55:14.84 ID:kHcGTYcjO
古泉「――というわけです。何となくおわかりいただけましたか?」
銀時「ここが変人の巣窟だってのァよーく分かった」
時間としては30分と経ったかもしれない。
若干のしゃべり疲れを見せつつも笑みを絶やさない古泉に一つ頷いてみせる。
銀時「要はここは寺子屋なんだろ? それでその中で集まり作って天人とかを探してるっていうわけか」
古泉「あまんと?」
聞き慣れない言葉に古泉が聞き返す。
ああそうか、と銀時が言葉を返そうとしたそのときだった。
ハルヒ「あんた宇宙人なの!?」
セミロングの髪を揺らして、ハルヒがぐいと身を乗り出し銀時の顔を覗き込んだ。
思わずのことに銀時は背をそらしてそのまま椅子から転げ落ちてしまった。
銀時「ってェ……何なんだてめーは、」
ハルヒ「いいから答えなさい! 違うの!?」
銀時「俺があいつらと同じように見えるか? どー見たって人間の形を保ってるだろうが」
ハルヒ「……そう」
11 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 17:06:28.63 ID:kHcGTYcjO
目標のものとは違うということがわかり、多少気を落としたようなハルヒだったが、すぐに彼女はまた銀時を見据えた。
力強い瞳だ。
ハルヒ「その、あまんと、っていうの? そいつらは宇宙人?」
銀時「あ、あァ……」
ハルヒ「ああもうキョンったら! SOS団が漸く宇宙人の情報を得たのにいないなんて、使えないわねっ!」
仁王立ちしたハルヒは腰に手を当てながら憤慨している。しかし楽しそうな笑みが若干見える辺り、なんとかなるとでも思っているのだろう。
すると、タイミングよくか、部室内に下校を促すチャイムが鳴り響いた。
銀時「今度は何だァ?」
古泉「我々が下校する時間ですよ。……銀時さんのことは、僕に任せてください」
こんなことは警察に頼んでも何もしてくれませんから、と付け足した後、古泉は急いで下校の準備を進める。
そして打ち付けた腰をさすりながら立ち上がる銀時の腕をとり、帰ることを促した。
古泉「このことは口外無用です」
部員にそう言い放つと、急かすように古泉は銀時の腕をつかみ部室を後にしてしまった。
12 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 17:15:48.94 ID:kHcGTYcjO
銀時「おいおい、えっと……古畑だっけか? そんな急ぐ必要ねェんじゃねェの?」
学校から急いで飛び出すような二人は、下校する生徒の合間を縫って校舎を飛び出し坂を下り始める。男子生徒がいい大人を捕まえて連れ去る姿のなんと異様なことか。
銀時はあくまでだるそうに相変わらず背を見せる少年に話しかけた。
古泉「僕は古泉です、……あの場では話せないことがたくさんありました。僕の家にきてください、そこでお話いたします」
どこか切羽詰まったような口調に、何かを喋ろうとした銀時も思わず黙り込む。
黙り込むと自然、あの二人が思い出された。
銀時(新八、神楽は……大丈夫か)
大丈夫という確証はない、自分と同じように見たこともない世界にいるかもしれない。それがここのように安全とも言い切れない。
そもそもこんなことが起こることすら予測は不可能だった。つまり自分の思考を越えたことが今起こってもおかしくはない。
皆目見当のつかない――そんな非現実にたたされた銀時は、思わず唇を噛みしめた。
自分の国に二人はいない。
14 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 17:26:54.91 ID:kHcGTYcjO
古泉「着きました、ここが僕の家です」
そうして案内されたのは、万事屋よりも綺麗に整っている小さな一軒家であった。
古泉「と、いっても第二の家……なんですが」
銀時「何だそりゃ」
古泉「ここでは僕たち"機関"が使用出来る宿舎なのです、何かあったときの為に僕も一つ貸し与えてもらっていたのですが、まさかこんな形で役に立つとは」
銀時「"機関"……?」
銀時の問いかけには答えず、古泉は鍵を取り出し扉を開ける。そして笑顔でどうぞ、と促した。
銀時の足は一度躊躇ったが、腰に差したままの木刀の柄に指を添えるとゆっくりと中に入っていった。
古泉「使うことがさほどなかったので全てそろっているわけではありませんが……生活に不自由はないと思いますよ」
つまりここで生活しろと古泉は言っているようだ。
今お茶をいれます、と台所に消えていった古泉を見送ると銀時は居間を見回した。
確かに、使われた形跡はない真新しいものだ、新築のにおいが鼻をくすぐる。
15 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 17:37:59.67 ID:kHcGTYcjO
古泉「どうぞ」
居間を見渡す銀時を見やり微かな笑みを浮かべて、淹れたばかりのお茶を机におき差し出す。
そしてお座りください、と促してから自分も腰を落ち着けた。
古泉「さて、どこから話していいものやら……」
銀時「まず"機関"ってのは一体なんだ? こんな小僧に一軒家貸し与えるたァ……新手の宗教団体かコノヤロー」
古泉「宗教団体……そうとも呼べますね。何せ我々は"神"を見張っている」
謎めいた一言に銀時の顔がしかめられた。
銀時「……さっきからどうも、わからねェ。俺がここに来ちまったのを、お前は冷静に対応してるが」
古泉「冷静ではないですよ?」
銀時「普通がきんちょなら、もすこし慌てるのが普通だ。大人に頼ったりするもんだと俺は感じた」
古泉「……」
銀時「まるで、何でこうなったかをわかっているように話を進めてる」
銀時はそこで一息つくと瞳を閉ざした。差し出された茶を飲む気にはなれない。
目の前の少年が末恐ろしくも感じさせられる。それほどにこの緊迫した空気で銀時は緊張している。
銀時「……てめーはどうしてこうなったか、知ってんじゃねェか?」
16 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 17:45:09.90 ID:kHcGTYcjO
古泉「ええ、わかっていますよ」
しかしそんな空気も関係ないとばかりに、古泉は柔らかな微苦笑さえ浮かべた。
その様子に銀時は眉間にしわを寄せる。
古泉「むしろ、あの場で原因がわからなかったのは二人だけ。貴方と……涼宮ハルヒ」
銀時「!」
予想だにしてなかった言葉に目を見開いた銀時にかまわず続ける。
古泉「このような不可思議な現象を我々は幾度と見てきました、確かにここまでのケースは今までにありませんでしたが……その現象の中心には必ず彼女がいた」
涼 宮 ハ ル ヒ
古泉「つまり貴方は彼女に呼ばれた存在……だから僕は今貴方をここに呼んだ」
古泉「涼宮ハルヒは、……"神"は一体何者なのか」
17 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 17:54:41.14 ID:kHcGTYcjO
それから時を忘れたような長い長い解説が続いた。
涼宮ハルヒは、様々な立場から見守られた存在で、そしてそれのキーパーソンが"キョン"という存在。
彼女の負の気持ちが世界の崩壊を導き、彼女も異質な世界を望んでいる。
それを見守るために宇宙人、未来人、超能力者が集められたというのだ。
それが彼女の"願望"であると。
古泉「原因こそわかりますが、貴方が呼ばれた理由は……察しかねます」
長々続いた説明も終盤にさしかかり、古泉はそう言うと軽く会釈する。
古泉「涼宮さんが何を望まれて貴方とキョン君を入れ替えた……と考えるのが自然ですから、そうしたのかはわかりません、しかし、一つ言えることがあります」
古泉はそう一つ区切りをおくと、銀時を見据えて言った。
古泉「貴方は彼女に必要とされてやって来た……異世界人、だということです」
19 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 18:07:58.26 ID:kHcGTYcjO
古泉「涼宮さん自身はそれに気づかず、また気づかせてもいけない。ですからあの場で話が出来なかったのです」
すみません、と微苦笑をこぼす少年を見やりようやく銀時の中でも話がつながってきた。
やや無理矢理だが自分がこの世界にやってきた理由に繋がっていく。
だが、それはある条件の下成立する。
銀時「……それが、本当ならな」
古泉「……」
銀時「生憎俺はオカルトなんざ信じちゃいねェし、おばけ? そ、そんなのも怖くねェ年だし? 要はそんなこと言われてはいそうですかなんて、簡単には頷けないワケ」
きっぱり言ってのけると、銀時はしかし軽く笑みながら古泉を見つめた。
銀時「だがこの場じゃお前のいうことを信じるほかツテがねェ……俺だって江戸に帰りてェんだからな」
そうだ、帰りたい。
初めて口にしてみれば願望はそれしかなかった。この場所にきて何をどうすればいいのか全くわからないのは今もそうであるが、目標自体は「万事屋に帰る」ということに変わりない。
そのためにはどうすればいいか――それはきっとあの部室にいる面子、特にハルヒと居れば自ずと見えてくるのではないだろうか。
ある一種の賭だ。
銀時は身を乗り出した。勝負の女神を落とすことを考えよう。
銀時「俺はどうしたらいい?」
20 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 18:20:13.62 ID:kHcGTYcjO
銀時「携帯から書いた文章は違うページにいくとすぐ消えるから萎えるぜ、気分転換に飯食ってくる」
古泉「支援ありがとうございます。よろしかったら続きがんばりますので閲覧や保守などしていってください」
24 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 19:04:03.40 ID:kHcGTYcjO
古泉「そうですね……」
銀時の姿勢に何かしら感じたことがあったのだろう。
微笑を浮かべた古泉が言葉を続けようとして、ふと下を見やり携帯を取り、耳に当てた。
古泉「もしもし?」
どうやら電話のようだ。
銀時は肩をすくめると背もたれに寄りかかり、ようやく淹れてもらったお茶を飲み始める。
暖かな液体が体に染み込むのは気持ちがいい。
この世界は天人がいないことにより、別の意味での近代化が進んでいるらしい。
真撰組のような輩もいなければ、和服を着たものもいない。
古泉「――……なんですって?」
不意に古泉が探るような語調を強めた。
何かあったのだろうか。飲んでいたお茶を飲み干して銀時は初めて表情をしかめさせた古泉を見つめる。
26 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 19:19:59.59 ID:kHcGTYcjO
古泉「……はい、わかりました、それでは」
暫くして古泉は携帯を静かに閉じた。話してた相手は"機関"の者だろうか、と探る目で見てみると、視線に気付いた古泉が苦笑を零して口を開く。
古泉「今長門さんから連絡をいただきまして、調べてもらったことの報告を受けていました」
部室にいた無口な少女を思い浮かべた銀時は、なるほどとうなずいてから続きを促す。
銀時「それで? 何を調べてたんだ」
古泉「キョン君の戸籍です」
銀時「戸籍?」
古泉「調べてもらったところ、……彼の戸籍はありませんでした」
銀時「なん……だと……?」
古泉「つまりこの世界でキョン君という存在は、元から存在しなかった……そういうことになります」
古泉はそこまでいった後にふぅと一息つくと苦虫をつぶしたような表情を作る。
28 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 19:29:38.41 ID:kHcGTYcjO
古泉「この世界が破滅に向かわないのは、涼宮さんの負の感情の制限と……キョン君という存在があるという大前提があってこそのことでした。しかしその大前提が崩され、代わりに貴方が来た」
銀時「……」
古泉「"神"は何をお望みで……貴方は何なのか。わかりませんが、言えることとすれば、余計貴方の持つ意味は重くなり、どうしたらよいかという行動も慎重にせねばなりません、ということですかね」
古泉が肘を机につくと指先に鼻を乗せて銀時を見つめる。
今までは情報や感情の信号により、全ては"機関"やその他の団体からの助言も合わせ、キョンに出来る限りの指示を与えていた。その大前提のもとに。
しかしそれが通用しなくなった今。"機関"もこの事態に気づいている者もいるだろう。キョンの存在がなくなっても記憶が残っているのは自分たちだけではないはずだ。
まずはこの銀時を返すということもそうだが、キョンを取り戻すことも必要だ。
一体それには何をしたらいいのか……企てていた計画が一気に音を立て崩れ去ったのを古泉は感じた。
神を前に今、正々堂々たる戦いをしなければならない。
29 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 19:37:20.53 ID:kHcGTYcjO
銀時「……」
銀時は口を開かない。いや、開けないのだろう。
無理もない。訳の分からない理由で訳の分からない場所につれてこられ、尚且つ訳の分からない役割を担わされたも同然なのだ。
彼が来た代わりにキーパーソンの存在がなくなった。つまりこれは彼が代役を担わなくてはいけないという理論は、大体のところ通用するのだから。
古泉も珍しく背に冷や汗を感じている。
今まで自分は石橋をたたいて渡るという手法をとっていた。
世界崩壊という事柄を前に慎重になりすぎるということはないのだから。当たり前である。
しかしそれがもうできない。
猛火の上の綱を渡るようなものだ。一体何をしたらいいのか。そんなことが軽々しく助言できるわけもない。
銀時「……オイ、古泉」
すると、不意に銀時が口を開いた。
古泉「はい?」
銀時「お前甘ェモンは好きか?」
30 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 19:46:06.26 ID:kHcGTYcjO
突然の意図の読めない質問に、豆鉄砲を食らった鳩のような表情をした古泉は、嫌いではありませんが、と答えた。
銀時「そうかィ、なら、今度奢れよ」
古泉「は?」
銀時「そりゃよ、こんなところにお前らの都合で呼び出されて? んで同じような声だから、俺がキーパーソンに間違いなくて、挙げ句の果てに世界崩壊の危機? 普通なら『妄想乙wwwwww』な話じゃねェか」
古泉「……」
銀時「だが俺は元の世界に戻るために、んでお前らのそのキョンって奴をこっちの世界に帰す。そのために一肌脱いでやるってんだ、それくれェ奢ってもらわなくちゃ困るぜ」
古泉「それって……」
古泉のわずかに上擦った期待の声に、銀時は着流しに突っ込んだ指先に小さな紙片を挟んで取り出す。
銀時「万事屋銀ちゃんに、任せとけって」
名刺を古泉にすっと差し出すと、銀時は死んだ魚のような瞳をわずかに光らせてニヤリと笑った。
33 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 20:00:13.23 ID:kHcGTYcjO
銀時「――とは言ってもよォ、わかるかってェの、どーしたらいいのよ俺はさーあー?」
夜となれば秋の寒さは一段と増すものになる。
そんな体を暖めようと通勤帰りのサラリーマンが、屋台で熱燗をひっかけていく中に、酔い始めた銀時の姿があった。
屋台の端っこに座り机に頬ずりしながら赤い顔をして、屋台の親父に絡み始める。
銀時「なァ親父ィ。あのとき俺なんて言ったらよかったんだ? ああ言うしかねェだろJK」
親父「はいはいそうだね」
銀時「うっせ、てめーに何がわかんだよ、いい年して屋台しか開けねェ親父がwwwww」
親父「はいはいワロスワロス」
36 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 20:15:48.84 ID:kHcGTYcjO
銀時「一時のテンションって駄目だわ、ほんっと駄目だわ、そんなマダオがいたら笑ってやったけど、まるで今の俺じゃん」
親父「マダオさんよ、ちょっと飲み過ぎじゃねェか?」
銀時「うっせェ黙れ、俺をマダオと呼んでもいいのはマダオと呼ばれる覚悟があるやつだけだ」
親父の心配をよそに銀時はわずかにこぼれている酒を指先にとり、のの字を書いている。
少しは勢いでなんとかなると思ったのが大間違いだった。
あの家にいるだけでなんとかなる受け身体勢でなんとかなるわけがなかったのだ。
万事屋のように依頼がくるのを待つのとは訳が違う。自分から動かなくてはいけないのだ。このわけのわからない世界で。
それがどれだけ大変かというのを、古泉が去ってから身を持って知らしめられたのである。
料理程度はなんとかなる。しかし掃除や洗濯になると銀時はお手上げであるし、ゴミの分別どころかゴミの日もわからない。
何よりショックなのが生活の糧である週間少年ジャンプが――勿論ではあるのだが――この世界にはなかった。
周りには普段けたたましいばかりの知り合いが誰もいないという状況。
銀時(……)
銀時は孤独なのだ。
38 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 20:29:02.20 ID:kHcGTYcjO
――その頃。
キョン「つまり。なんだ、この世界ではそのアマント? って奴らがいて、そいつらと共存している世界を作ってる……そういうわけでいいのか?」
新八「はい」
見たこともない世界に連れてこられた俺は若干のパニックと、後は何となくの予想でハルヒ関連であろうという若干の冷静さを駆使して、自分と同い年ぐらいの少年の話を理解し終えた。
古めかしい景色なのに、空には飛行機と呼ぶには仰々しい機械が飛んでいて、そんな不思議な世界に飛ばされた事実の確率と、戻れる確率は決して釣り合うものではなかった。
神楽「それより銀ちゃんネ、銀ちゃんはどこアル!」
キョン「だから。何度もいってるがその男は知らん。聞かれても困る」
噛みつくように問いかけてくる――本当にかみつかれそうだ――色白の少女を宥めるように俺は返すと、眼鏡の少年に向き直った。
40 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 20:42:43.38 ID:kHcGTYcjO
キョン「俺がこうなった理由は……多分俺の世界にいる破天荒な奴が原因だ。多分その銀時さんとやらが、向こうにいるはずだが」
新八「銀さんは帰ってくる……?」
キョン「きっと、向こうの奴らが何とかしてくれる……そうに違いない」
神楽「そんなの! 銀ちゃんが可哀想ネ! 銀ちゃんああ見えて寂しがりヨ!」
座っていたソファから立ち上がるなりわめきだした少女を見ながら俺も考えた。
助けてくれるはず。その保証はあるのだ、しかし、助かる保証はどこにもない。
俺はもうまた皆に逢うことなくこの世界に在留することだってあり得なくもない。ぞっとした。
ハルヒの奴はまた無関係な人間を巻き込んで、何をしたいのだろうか。
神楽「……銀ちゃんのばか」
すると、不意にあのわめいていた少女がぴたりと動きを止めて、そう呟いた。そしてへたりと座り込む。
合わせて目の前の少年が俯いた。
神楽「また、あたしたちをおいていなくなるアルか」
キョン(また……?)
新八「神楽ちゃん、大丈夫だって」
どうやら前にも疾走の経緯があるようだ。しかしそれを問う暇すらなく、少女が大声を張り上げた。
大きく見開かれた青色の瞳に涙が溜まっている。そのまま少女は大股で俺に近づいた後、俺の制服をつかんで揺らし始めた。
神楽「大丈夫って、何が根拠ネ!! 銀ちゃんは……自分でいなくなったんじゃないヨ、こいつのせいアル! 本当に戻るなら、今すぐ返してヨ! 銀ちゃんを返してヨ!」
41 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 20:53:40.14 ID:kHcGTYcjO
悲痛な叫びだった。
瞳いっぱいに涙を浮かべた少女の、精一杯の訴えだった。
無責任な大丈夫だなんて言葉がつらいのは、俺だけじゃなかった。
きっとこの二人にとって大切な人に違いない、その銀時という人は――新八君が俺と少女を引きはがそうとする手が震えて、眼鏡の奥が見えない。
ハルヒ……これがお前の望みなのか?
キョン「すまん……か、神楽ちゃん」
覚え立ての名前を呼んで、自分なりの謝罪を伝えた。泣いている女の子相手に何を言えばいいか、気の利いた言葉など思い浮かぶはずもなかった。
しかし神楽ちゃんは瞳いっぱいに浮かべた涙を止めて、俺をびっくりしたように見上げてくる。
42 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 20:55:55.23 ID:kHcGTYcjO
神楽「……もっかい」
キョン「え?」
神楽「もっかい呼ぶアル」
キョン「か、神楽……ちゃん?」
神楽「もっと! もっと呼ぶネ!!」
キョン「か、ぐらちゃん……?」
相手の意図がくめずに思わずたじろぎつつ答えていると、神楽ちゃんは再び涙いっぱいにして俺を強く見上げた。
神楽「声は……銀ちゃんなのに、なんで銀ちゃんじゃないアルカ……」
その言葉を呟いて、再び泣き始めてしまった神楽ちゃんを、俺はただ制服が濡れるのも構わずに撫でることしか出来なかった。
新八君も眼鏡を外して、涙を拭う袖を湿らせている。
俺はこの場所にいて、銀時さんを取り戻そうと決めた。しかしだ。
今こうして悲しむ二人を見て、本当にそんなことが出来るかも、わからない。
俺はどこに行っても無力だった。
46 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 21:15:57.33 ID:kHcGTYcjO
銀時「あー……頭いてェ……やべ割れる、西瓜になる、あんな飲むんじゃなかったぜ」
既に日も高い。夜遅くに飲んで今更帰ってくるというのは屋台にしてはのんびりなものだが、そこは親父の優しさだった。
眠りに落ちてしまった銀時が起きるまで待ち続け、近くまで送ってくれたのである。
人情とはいいものだと感慨深くしみじみふけりつつ帰宅し、ブーツを脱ぎ捨てた途端ばたりと玄関に倒れ込んだ。
銀時「おーい新八、神楽ァ、銀さんが帰ったぞー……いちご牛乳持って来いよ、このままだと銀さん頭割れて死んじゃうぜー」
二日酔いの頭に響かない程度に声を上げて反応を待つ――が、反応がない。
シカトこくなよ、と舌打ちしそうになり、銀時は思い出した。
そして静かに起きあがると覚束ない千鳥足で浴室に向かった。
48 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 21:35:16.65 ID:kHcGTYcjO
入浴でアルコールを抜き、再び睡眠した次に銀時が目覚めたのは既に夕方に近かった。
仕事の依頼やこのグータラ生活に文句を言うものがいないだけでこんなにも生活が違うらしい。
たまには欲しいと思っていたその日がいざこんな形で訪れられると少し困りものだ。
いつもの服に着替えようとして玄関の前をふと見ると、どうやら古泉がいう"組織"がおいていったのだろうか。服が支給されていた。
昨日着ていた服をとりあえず洗濯籠にいれておいて、新しい衣服に袖を通す。
ぴったりだ。
銀時「さて、そろそろいくか……」
一応の目的地はある。
いざブーツを履き、木刀を持ったところでふと気づいた。
木刀をさす場所がない。
銀時「……まァんな危ねェことはねェか」
洞爺湖と刻まれた柄を撫でて銀時は木刀を壁に立てかけ、その場を後にした。
55 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 22:02:03.04 ID:kHcGTYcjO
二日酔いの頭と体で、北高までの坂の道のりはつらいものがあった。帰宅部の学生に逆らうように登りきった銀時の体は疲労困憊で既に限界値を越えていた。
肩で息をしつつゆっくりと校舎内に立ち入っていく。
銀髪で疲労困憊からの若干の千鳥足な様子は、生徒がよけて道を作るのも仕方ないと言えよう。
銀時「さて、どこだったか……」
昨日いた場所が思い出せない。考えようにもうまく頭が働かないので、そこらにいる生徒を一人捕まえた。
58 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 22:18:56.18 ID:kHcGTYcjO
銀時「おーい、そこの、触角つけてるやつ」
谷口「は? 俺?」
通りすがりの生徒を捕まえる銀時。あまりの呼称にびっくりしたような顔を見せたのすらかまわず、そのまま言葉を続ける。
銀時「あらあらなんだかバカ皇子っぽいね」
谷口「ちょっ」
銀時「いや失礼、古泉ってやつどこにいるかしらね?」
思わず本音をつげるもののすぐに訂正すると、探し求めている人物を尋ねた。
場所の名前を覚えてはいないが彼ならあそこにいるだろうと踏んだのだ。
谷口「古泉なら、文芸部にいると思いますが」
銀時「文芸部、ねぇ……どこ?」
とりあえず助かった。
場所さえわかれば、と説明を聞いたのちにバカ皇子二号に別れを告げて立ち去る。そのまま文芸部へと向かった。
61 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 22:29:42.55 ID:kHcGTYcjO
長門「……坂田銀時」
部室に多少迷いながらもたどり着き、ノックもなしにドアを開けると、中に一人ぽつんと座り本を呼んでいた少女――長門が、銀時の名をつぶやいた。
銀時「あー……お嬢さん一人? 古泉は?」
長門「古泉一樹なら、今はいない」
銀時「マジか……どこ行った?」
長門「朝比奈みくると共に街に出掛けた。調査中」
銀時「なるほど……お嬢さんは留守番か。で、あの……カチューシャのお嬢さんは?」
長門「……」
長門は答えなかった。
しかしそのかわり、窓から外に一瞥をやったのが答えらしい。
歩み寄って外を覗くと、木の下で一人座っているハルヒの姿があった。
63 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 22:44:17.42 ID:kHcGTYcjO
銀時「思春期のお嬢さんは大変だねェ……何悩んでんだか知らないけどよォ」
長門「涼宮ハルヒの思考ルーチンがパトスに追いついていない」
銀時「日本語でおk」
本をめくっていた長門の指がぴたりと止まり、やがて本を閉じた。
長門「貴方たちで言う、心に体が追いつかない。……そういうこと」
銀時「ははン、そのキョンとやらがいなくなって、凹んでるがどうしようもないってか」
原因は自分なのにな――言いかけた言葉をごほんと軽く咳払いして止める。
長門はその意をくんでかじっと銀時を見つめた。
長門「彼女は気づいていない」
銀時「気づかせちゃいけねーんだろ? わかってるよ」
長門「そうじゃない。聞いて」
銀時「?」
長門「気づくべき事実が彼女にはない」
65 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 22:55:17.94 ID:kHcGTYcjO
銀時「は? どういうこった」
長門「今回のケースは極めて異例。常に涼宮ハルヒの願望はキーパーソンがいることにより成り立った」
銀時「古泉も昨日同じようなこと言ってたな」
長門「それが涼宮ハルヒの願望でもあった。しかしキーパーソンが消失、そして貴方が来た……これは彼女の願望にしては不思議」
銀時「……」
そう言い切ると長門は再び本を開き、悩む銀時をよそに読み始めてしまった。
銀時(……願望、か)
暫く悩んでいた銀時だったが、何を思い立ったかくるりと踵を返すと出口へ向かう。
長門「……どこへ?」
とりあえず社交辞令でもといった口調で長門が銀時に話しかけると、銀時は振り返りもせず、好き勝手伸びた髪をがしがしと掻きながら扉をあけた。
銀時「うちにも思春期な女がいてな、帰って参考にしたいこともあるからよ、ちょっくら相手してくらァ」
66 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 23:04:28.93 ID:kHcGTYcjO
木の下で浮かない顔をしている美人はたいてい失恋後だ、なんて言葉が頭に浮かんだ。
まるで話しかける自分を正当化するような理由に思わず笑ってしまったことがあるが、今の自分はまさにそれじゃないのか、と銀時は自嘲を零す。部室を出て中庭にくると、木の下で立てた膝に顔を埋めているハルヒがいた。
なんと声をかけるべきか迷ったが、ふと思い出したように踵を返し自販機に向かう。
ハルヒ「……っひゃ」
銀時「どうした、ほら、ジュースやるよ」
ハルヒ「も、もう……冷たいじゃない、ばかぁ」
銀時「俺が暖めてやるよ」
銀時「……なんてな」
ハルヒ「何が、なんてな、よ。気持ち悪い顔して何突っ立ってんの」
67 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 23:09:53.50 ID:kHcGTYcjO
ジュースを手にしたままの銀時の妄想を見抜いたのだろうか、いつの間にか顔を上げていたハルヒはすでにそれが自分のものとわかっているとばかりに一つ奪い去ると、プルタブを開ける。
銀時「……図々しいお嬢さんだな」
そんな様子に溜め息をつきながらも銀時はハルヒの隣に腰をおろす。自分のジュースを開けると口を付けながらハルヒを見やった。
銀時「いっつもそんなんなのか」
ハルヒ「何が」
銀時「自分が中心みたいな生き方、よくねーぜ。得なことなんざ一つもありゃしねーさ」
ハルヒ「あんたには関係ない」
銀時「そーかい」
ハルヒ「……」
銀時「……」
ハルヒ「……あんたも同じね」
銀時「何がだ?」
ハルヒ「……」
銀時「……キョンってやつと同じだなんて思うなよ」
70 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/07(火) 23:16:52.35 ID:kHcGTYcjO
その言葉にびくりとハルヒが僅かに肩を揺らした。
そして恐ろしい目つきで睨みつけてくる。だがなんと可愛らしいことか。
銀時「ま、気にしなさんな」
ハルヒ「……気にするわよ」
銀時「何が?」
ハルヒ「……、今日、キョンはいなかったわ」
銀時「そりゃな」
ハルヒ「周りは、キョンなんて知らないっていうのよ。あの谷口や、国木田さえ!」
谷口や国木田さえといわれてもわからないのだが、口調からすると仲のよい友達なのだろう。
存在自体がない。どうやら昨日の古泉の言葉は正解なようだ。
ハルヒ「……SOS団は1人として欠けちゃ駄目なのよ」
銀時「ふむ……なァ、なんでお前はそのー、SOS団? なんて作ろうとしたんだ?」
ハルヒ「え……」
銀時の問いにハルヒは瞳を見開いた。戸惑っているのだろう、視線をさまよわせて合わせようとしなくなった。
どうやら言いたくないらしい。
1 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 12:12:25.63 ID:hfgEQ9X60
前回までのあらすじ
キョンと入れ替わるようにしてハルヒの世界にやってきた、坂田銀時。
突然のことに戸惑いつつも、古泉の助言で"組織"の一軒家を借りることに。
しかしこの世界で、キョンの戸籍は無くなっており、ハルヒのキーパーソンとしてのキョンの存在は元から無かったということに。
周りの人間はキョンのことを覚えておらず、これがハルヒの願望にしてはおかしい、と周囲の人間もあわて始める。
そんな中、銀時は元の世界に帰り、そしてキョンを取り戻す、という「依頼」を引き受けることにした。
3 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 12:25:18.73 ID:kESOS2TBO
銀時「昨日聞いた話じゃ、宇宙人や未来人、異世界人に興味あるみてェじゃねェか」
ハルヒ「そうよ、その通り! だからSOS団は忙しいのにキョンったら……!」
銀時「……ハルヒちゃん、だっけか?」
怒りにか一気に飲み干したジュースの缶を勢いよく握りつぶした彼女に向かい、銀時は躊躇いながらも話しかける。
ハルヒ「何よ」
銀時「はァーい、俺異世界人。ほら、お前さんの大好きな異世界人だぜ」
考えてみればわかることだった。
ハルヒの周りのおかしな奴らはばれてないにせよ、銀時は登場シーンから何から何までもろもろと見られ、昨日は宇宙人かと詰め寄られた。
しかし『ハルヒ』ならば、突然とはいえ異世界人に興味を示してもおかしくないはずである。
4 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 12:33:18.05 ID:kESOS2TBO
しかしハルヒの答えは期待とは違うものだった。
ハルヒ「は? あんた何言ってんの?」
本気で馬鹿にしてるらしい。
銀時「何って……」
ハルヒ「あんたはうちの、SOS団の顧問じゃない」
銀時「……は?」
ハルヒ「産休の先生の代わりに入ってたけど、先生が戻ってきたから今顧問と少しの担当しかないんでしょ?」
銀時「……」
話が変わりすぎている。
彼女には昨日の思い出すら残っていないのか。
銀時はそこでふと感じた。これこそが彼女の"願望"が起こす"変革"なのだと。
その瞬間を目の当たりにしたのだ。
彼女はキョンの消失を認めたくないわけではなく、もしかしたら異世界にいったことを拒否したいのかもしれない――
5 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 12:40:37.80 ID:kESOS2TBO
古泉「坂田先生」
するとそこで、有り難い助っ人が登場した。
コンビニの袋を両手に持ち、相変わらずの微笑を浮かべた古泉は二人の元にやってくる。
古泉「涼宮さんもいましたか、道具は揃いました、先に部室にいてください」
ハルヒ「古泉君は?」
古泉「少し坂田先生とお話が」
ハルヒ「わかったわ、遅くなるんじゃないわよ!」
いいわね、と途端に笑顔になったハルヒが部室への道をかけていく。
それを見やった銀時はじろりと思わず古泉を睨みつけた。
銀時「オイ、どうなってるんだ」
古泉「おや、知らなかったのですか?」
銀時「知るわけねーだろお前はバカか! 俺はお前とは違って超能力なんかもってねーよっ!」
古泉「僕は超能力を使ったわけではありませんが」
6 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 12:54:19.08 ID:kESOS2TBO
古泉「服の中に教員証明書をいれましたが気づいてませんでした?」
銀時「……」
言われてみるがままに上着のポケットに手を突っ込むと、首からかける形のホルダーの中に、固いカードが入っていた。
『坂田 銀八』
体育科、と追記されている。
銀時「オイ誰が銀八だ、名前が違うじゃねーか」
古泉「すみません、機関側のミスです」
銀時「機関はぜってーこのミス美味しいとか思ってやがるよ、けどそんなわけねーだろ、第一本編では国語教員だろうが」
古泉「一番楽なものにしたんですから文句はそこまでに、ね?」
銀時「……しかしよ、なんでハルヒのヤローは俺のことまで忘れちまったんだ」
仕方ない、とばかりに部室に向かい歩き出した銀時は、だるそうに手にしていた缶をゴミ箱に投げ捨て古泉に問いかけた。
7 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 13:03:15.26 ID:kESOS2TBO
古泉「今回のことは我々も推測しかねます」
銀時「……」
古泉「今の我々にできるのは、事が起きた後の処理対処のみです。理由も徹底調査中ですが……いかんせん霧をつかめと言われてるようなものですから」
銀時「なるほどな……」
確かに訳の分からない話である。
しかし、ここで一つ道は開けたというべきだ。
今日何もなければ明日から何をすべきだろうと途方に暮れたに違いない。多少厄介ながらも具体的な目的が掴めたのだ。これは前進こそすれ、後退ではない。
活路が見えた、銀時は表情は変えないものの口元をわずか緩ませる。
そしてふと先ほどから気になっていた彼の持ち物を指差した。
銀時「そういや、その荷物はなんだよ」
古泉「これですか? ふふ、秘密ですよ」
9 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 13:08:20.62 ID:kESOS2TBO
銀時「秘密ってなァ、俺達の間柄にこれ以上何の秘密があるんだ」
古泉「まぁまぁ、お楽しみはとっておいた方が宜しいですよ」
何処か楽しそうにも含み笑いをする古泉に、多少むっとも感じたらしい。銀時はやや大股に古泉よりも歩幅を広めて歩き出し、部室のドアに手をかける。
すると途端に古泉が「あっ」という顔をした。だが気にかけるものか、と銀時はバタンとドアを開け放った。
みくる「ふぇ……」
銀時「あ……」
まさしく着替え真っ最中なみくると気まずく目が合ってしまった。
その後みくるの悲鳴混じりに響いた叫び声を後にドアを急いで閉めたのはいうまでもない。
10 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 13:20:31.76 ID:kESOS2TBO
銀時「――あの、先ほどはホントすんませんでした」
みくる「いえいえ、私こそすみません」
銀時「いやみくるちゃんが謝ることじゃないでしょう、むしろけしからんもっとやれ」
ドガッ
銀時「オイハルヒー、お前教師に向かって拳骨は無いんじゃねーの?」
ハルヒ「うっさい変態顧問、汚らわしい目でみくるちゃんを見ないで」
痛む頭を擦り擦りハルヒを見上げた銀時は、彼女の一括に反論しようとしたがそれすらも面倒なのでやめることにした。
すると彼女も上機嫌になったらしい。にっと口の端を釣り上げて、いつもの団長席へ向かう。そして躊躇なく回転椅子に乗り上げ立ち上がった。
銀時「オイハルヒ、あぶねーぞー、お子様がそんなとこ立つんじゃありません、降りなさい」
ハルヒ「――じゃあみんな聞いて! SOS団の新たな目標が出来たわ」
仁王立ちするハルヒは銀時の意見もお構い無しなようだ。再び拗ねてしまった銀時すらも気にせず、腰に手を当てる。
部員一人一人の顔を見回す。そして大きく息を吸ってその勢いで言葉を吐き出した。
ハルヒ「私たちの新しい目標は――消えたキョンを探せ、よ!」
11 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 13:30:07.32 ID:kESOS2TBO
ハルヒ「キョンが消えたのは何故なのかわからないわ、でもみんなの記憶からも無くなるなんておかしい、こんな原因を追求してこそのSOS団じゃない!」
意気揚々として語り出したハルヒに、誰も答えない。答えられない。
自ら消した人物を自ら探し出すその行為の特異性や、彼女の言動を理解できないわけでなかった。
ただこの世界がどう動いていくのか――予測のつかないことに一歩踏み出せない団員たちなのだ。
しかしハルヒは構わずに続ける。
ハルヒ「そこで、古泉君」
古泉「はい、皆さんにこちらをお配りいたします」
ここでも冷静さを失わなかったのだろう。古泉は先ほどの袋を取り出すと、中から使い捨てカメラを取り出し始めた。
それを一つハルヒに渡すと、ハルヒはそれを目に当てて笑う。
ハルヒ「人物の消失っていったら心霊スポット、心霊スポットといったら心霊写真! みんなにはキョンの手がかりを、心霊写真をもとに探してほしいの」
12 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 13:39:08.58 ID:kESOS2TBO
ハルヒ「後一週間で秋休みが始まるから、その秋休みに、泊まりがけの探検に出かけましょっ!」
銀時「オイオイ、そんな費用は何処から……」
ハルヒ「あんたはさっさと合宿の届けを出す!」
銀時の疑問もあっさり消えてしまったようだ。むしろ反論を却下といった勢いで命令したハルヒは、古泉がすっと差し出してきた地図を開いて目的の場所を示す。
ハルヒ「ここから近い方だけど人気が少なくて、いい心霊スポットなのよ。あとなんか風水に通ずるものがあるとか言うけど、そんなことをもろもろあわせてここがいいと思ったの! どう? みくるちゃん」
みくる「えっあっ、その……」
急に話を振られて驚くみくる。どうしたらよいかわからないといった双眸を震わせ部員を見回すものの、ふにゃりとした柔らかな笑みをこぼす。
みくる「いいのではないんでしょうか」
14 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 13:45:51.40 ID:kESOS2TBO
ハルヒ「有希は?」
長門「……別に」
ハルヒ「そう、じゃあ決定ね!」
返答に満足したのかにっこりと微笑んだハルヒは大きな瞳をきらきらと輝かせて、きっぱりと言い放った。
「SOS団の合宿は秋休み! 心霊写真を撮って幽霊の正体を暴いちゃいましょう!」
……オイ、目的違ってないか?
第一部 完
第二部に続きます
ご精読いただきありがとうございます、引き続き書かせてもらいます
16 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 13:53:41.76 ID:kESOS2TBO
キョン「……さむいな」
江戸の朝は、元いた世界の朝と大差なかった。秋も近いということで寒さが増してくる中を、俺は歩いていた。
朝早くの街を歩く習慣は俺にない。むしろ人通りがすくなく、朝靄の中を歩く薄気味悪さは御免被りたい程だ。しかし目覚めてしまった体は睡魔に呼ばれることがなく、あの場でじっとしていることも出来ずに思わず飛び出してしまったのである。
吐息は白く変わり、やがて消えていく。
俺も今そうやって消えてくれないか。そうして代わりに銀時という男が帰ってきて、そうだ、円満となる世界がまたやってくる。
ハルヒの願いばかりじゃなく俺の願いも叶えてくれよ神様。
キョン「……」
これから先、何をしたらいいのか――そんなこと皆目見当もつかない。
19 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 14:02:02.59 ID:kESOS2TBO
そうだ。いつもあの非現実的な世界ではあいつらがいた。
気持ち悪い超能力者、頼りになる宇宙人、癒しをくれる未来人、そして――全世界を創造した神が。
その人物が今まで自分を必要として、それに答えたからこそ、世界は保たれたに違いない。
だが今はどうだ。
俺を必要としている人はいるのか?
こんな無力な俺を必要とする人はいるのか?
誰も知らないこの場所で。
キョン「……あ」
いつのまにかこのかぶき町を一周していたらしい。気づけば目の前には、万事屋銀ちゃんの看板があった。
どれほどの時間歩いたかも覚えていなかったが、俺の目の前で年老いた女性――お登勢が、閉店の準備をしている。
20 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 14:13:04.65 ID:kESOS2TBO
お登勢「なんだィ、こんな朝早くに……」
どこかに行ってたのか、と尋ねてくるお登勢さんに俺は軽く会釈をした。
昨日俺達よりも落ち着いた状態で、俺のことを受け入れてくれた人だ。新八君曰く、こんな優しいことは珍しいのだという。有り難い話だ。
キョン「寝付けなくて、町内を巡ってました」
お登勢「枕が変わると眠れないたちには見えないがねェ」
からかうように喉を鳴らして笑ったお登勢さんは、こっちへおいでと俺を手招きする。
俺はそれについていき、店内に入ると、可笑しな猫耳の女――こういうのがうじゃうじゃいるらしい、ハルヒなら歓喜だろう――が掃除していた。
お登勢「洗い物。手伝ってくれるかィ」
キョン「あ、はい」
居候の身だ。お登勢さん要望にそれくらいは、と慌ててカウンターに入る。思ったよりも多い食器の数にたじろいでしまったが、多くはグラスの処理だ。
それに、とお登勢さんの手を見やる。きっと朝早くいつもこんな仕事をしてるのだろう。手が荒れている。
俺は腕まくりしてスポンジを取って洗い始めた。
21 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 14:27:50.78 ID:kESOS2TBO
多少の家事なら出来る。両親がいないときに、妹の面倒を見るついでだ。
思ったより多くなかった食器の洗い物を終えるときには、猫耳も掃除を終えていて、店は完全に閉店状態だ。
かぶきの朝が閑散としてたのは、朝だからではなく、きっと店仕舞いだったからなのだろう。この町はどうやら夜の店が多いらしい。
お登勢「もう終わったのかィ?」
お登勢さんがびっくりしたように近づいてくる。そして一つ一つチェックしていき、軽く笑った。
お登勢「大した速さだねェ」
キョン「家に小さい妹がいて、両親がいないときは俺が面倒見るもので」
お登勢「ふむ……」
僅かにお登勢さんの瞳が和らいだ気がする。
俺が手を拭き終わりカウンターを出ると猫耳も会話に混じってきた。
キャサリン「アホノ坂田サントハ大違イデスネ」
お登勢「ずっと役に立つよこの子は」
どうやら誉められているらしい。恥ずかしい話だ。
俺は会釈してその場を立ち去ろうとする。そこでふとお登勢に呼び止められた。
22 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 14:36:04.41 ID:kESOS2TBO
お登勢「今日何か予定は?」
そう聞かれ思わず悩んでしまった。昨日いきなり飛ばされてきたこの町での具体的な予定などあるわけもない。
首を横に振ると、お登勢は顎に指先を添えながら言葉を続けた。
お登勢「こんな現象は初めてだからねェ……参考になるかはわからないけど、平賀のところに行ってごらんよ」
キョン「平賀……?」
お登勢「新八達が知ってるよ、カラクリオタクさ」
キョン「はぁ……」
頼るつてがないのは確かだ。ここはそのカラクリオタクという人を頼るのも手だろう。
お登勢「あの馬鹿なら別世界にいくようなカラクリぐらい作ってるかもしれないねェ」
23 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 14:53:38.05 ID:kESOS2TBO
キョン「そんな人がこの世界に……?」
お登勢「意外かィ?」
キョン「……はい」
この町は、いやこの世界は風変わりな様をしている。軒並みや服装、見栄えは古めかしい江戸のままなのに、真ん中には俺たちの世界の技術も大きく超えた建物が占拠している。
そのミスマッチな空間が謎といえば謎だ。
そしてそんな人物がいるのだという。意外かと問われたら意外でしかない。
するとお登勢はクツクツと喉を震わして笑い始めた。
お登勢「まァ、そう思うのも無理はないさね。アタシとて、これだけ進歩が進んでも、こんなことは生まれて初めてさ……人が別世界から来るなんざ、意外だよ」
キョン「……」
お登勢「何かあったら聞きにおいで、昼は寝てるから夜にしなよ」
キョン「はい、ありがとうございます」
俺はそういうと、もう外に出るしかなかった。
聞きたいことは山ほどあった、しかしそれをお登勢さんに聞いたところでなんの解決も得れないことも、わかっていた。
24 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 15:13:50.40 ID:kESOS2TBO
外に出るとぼちぼちと人が出始めている。学校にいく子供や、仕事にいく大人――日本と変わらない風景でもある。
どこか落ち着いた面もちで俺はスナックの扉を閉めると、万事屋への階段を上がっていった。
すると。
??「すみませーん、銀時君いませんかー」
片手に袋を持った男が、インターホンを押している。探しているのは今はいない彼だ。
しかし俺が驚いたのはそこではない。髪の長いその男が左腰に差しているのは……刀ではないか?
キョン「……!」
??「む、貴様、」
すると男もこちらに気づいたようだ。いぶかしむようにこちらを凝視する。
??「万事屋の新しいのか? それとも客か?」
キョン「え、えっと、……」
話し方こそ穏和だが、何か怒りに触れてしまっては意味がない。俺が言葉に迷っていると中からがらりと音を立てて扉が開いた。
25 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 15:25:44.97 ID:kESOS2TBO
新八「うるさいですよ桂さん、朝から何ですか」
朝起きたばかりなのだろうか、寝癖をそのままにした新八君が寝ぼけ眼で男をじろりと睨む。そして俺の視線に気づいたらしい、そこでぱちりと目を覚ましたようだ。
新八「ああ、おはようキョン君、こんな朝早くからどこかいってたの?」
キョン「え、えぇ……少し外を」
ヅラ「何だ新八君、万事屋に一人また増えたのか」
俺たちの会話に桂と呼ばれた男が口を挟んだ。どうやら刀を抜く気は毛頭ないらしい。
安心して近づくと軽く会釈だけはしておくことにした。
新八「え、っと……そこらへん話が複雑なのですが……それより桂さん、今日はどうしたんですか」
ヅラ「そうだ、そんなことより銀時を出せ、やつの力を借りたい」
うまく話をはぐらかしたつもりが、結局は無駄だったようだ。俺たちは顔を見合わせた後、桂を見上げた。
新八「そのことを話すと長くなるのですが……とりあえず中にお入りください、お茶くらい出しますよ」
26 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 15:39:18.61 ID:kESOS2TBO
ヅラ「――なるほど、信じにくい話ではあるが、こうなっている今それを信じるしかあるまいな」
桂さんという人は物わかりのいい人だった。話によると、日本史に出てくる桂小五郎と似たような人物で、銀時さんの古くからの友人であるらしい。
お登勢さんと同じく冷静に場を受け止めて、一つ頷くと出されたお茶に手を伸ばした。
ヅラ「銀時が今不在の代わりにこの――キョン君がいるというわけだな」
新八「はい……」
ヅラ「困ったな、……銀時がいないとなるとかなり不利になる」
ここでも必要とされているのは銀時だ。
お茶を飲むヅラが苦い表情をして考え込んでいる。新八君も困惑した表情だ――ここに銀時さんがいれば、と思っているのだろう。
俺に何ができる?
こんな俺に何が残されてる?
52 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 18:53:04.20 ID:kESOS2TBO
新八「それで、桂さんが銀さんに用って? 余程のことなんじゃ……」
ヅラ「うむ」
新八の言葉にようやく自分の意見を思い出したようだ。小さく頷いて、懐に手を突っ込む。何かを探っているようだ。
そして探り当てたのか出してきたのは折りたたんだ紙片だ。
ヅラ「これを見てくれ、こいつをどう思う?」
新八「え?」
紙を広げると――小さなチラシらしい――ターミナルという場所でどうやら大きなイベントがあるらしい。
ターミナルというのはこの江戸の真ん中の、タワーのことだそうだ。あそこから各惑星に飛び立てるらしい。なんのこっちゃ。
新八「すごく……大きいです……イベントが」
ヅラ「その通りだ。今回のイベントは、天人とあるカラクリ技師が手を組んで成したそうな」
53 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 19:01:32.94 ID:kESOS2TBO
ヅラ「今までのターミナルは各惑星に飛びだったり、各地方にも飛びだったりと、いわば同じ次元を行き来するだけだった」
新八「次元?」
ヅラ「あァ……それが、今回のイベントで、なんと別世界にも飛び立つことが可能になるらしい」
新八「え!!」
ヅラ「あくまで噂の範疇からは抜けんよ、しかしこの宇宙海賊は最近凶悪な海賊と悪名高くなってきている。もし別世界との行き来など可能にしてみろ、……世界は崩壊する」
世界は崩壊する。
その言葉を俺は何度も聞いたことがあった。
古泉から、長門から、朝比奈さんから。
そうだ、俺は幾度とこんなピンチに立ち合ってきた。
助言こそあるものの。俺は何度もそれをくぐり抜けてきた。
ないものねだりをしてはだめだ。
ここで立ち上がるべきは、俺だ。
55 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 19:07:52.29 ID:kESOS2TBO
ガタン、と急に立ち上がった俺を見た二人の双眸が見開かれる。かまうもんか。
俺は言葉をようやく発した。
キョン「桂、さん!」
ヅラ「……銀時?」
そういえば俺と銀時さんの声は酷く似ているらしい。しかしそんなことは構ってられない。
キョン「そのカラクリ技師というのは、一体?」
ヅラ「む、ああ……新八君はよく知っている彼さ。平賀、平賀源内」
キョン「――!」
物事はつながるといったものだ。急に広がる活路に俺は内心穏やかというわけにはいかなかった、しかし平静さを失わないようにゆっくり息を吐き出して桂さんたちを見下ろす。
キョン「平賀源内の元に行きましょう、もしかしたら、銀時さんを連れ戻す鍵になるかもしれない」
57 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 19:18:26.79 ID:kESOS2TBO
銀時「オイ古泉、銀さんはなァ、期日以内に何かを提出なんて面倒だからやらねーぞ」
古泉「大丈夫です、"機関"が既に手配済みですよ」
銀時「本当かァ?」
部活が終わり、皆で帰ろうとなったので、目の前で団欒に花を咲かせる女子を一瞥して銀時は怪訝そうに古泉に尋ねた。
しかし相変わらずの飄々とした態度を崩すことはなく、銀時は肩を竦めると溜息をつく。
銀時「ハルヒも妙なものを思いつくもんだ……ったくめんどくせーなーオイ」
古泉「……ぷっ」
銀時「何だよ」
古泉「いえ」
いきなり笑い出した古泉をじろりと睨みつけると彼は慌てて手を振って――しかしまだ肩は震えたまま――弁明を図る。
古泉「やはり、キョン君と似てますね」
銀時「声がか? 今更なこった」
古泉「ではなく、何と言いましょうか……雰囲気?」
まるで自分にも問いかけるようにして古泉は続けた。
古泉「彼もそんなことを言いながら、楽しんでましたから」
58 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 19:26:44.80 ID:kESOS2TBO
銀時「よせよ、俺はむしろ厄介に思ってる」
古泉「はいはい」
銀時「……」
古泉「しかし、キョン君の消滅により閉鎖空間が発生するかと思われましたが……現れませんでしたね」
銀時「そのフラなんとか? それで発生するおかしなものか」
古泉「フラストレーション、欲求不満です」
銀時「はん、そんなもので世界が崩壊するなら俺だって世界崩壊させてやらァ」
古泉「彼女は特別なのです、……さて、これを良しとするかは我々次第です」
銀時「どういうこった」
古泉「彼女はある意味で閉鎖空間の発生、そして我々の処理で落ち着きを取り戻していた……しかしそれがない」
古泉「つまり心がうまくコントロールされていない、という可能性があります」
59 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 19:32:35.07 ID:kESOS2TBO
銀時「……」
古泉「このままでは世界の崩壊ではなく、」
涼 宮 ハ ル ヒ の 崩 壊
古泉「――が、発生します」
一気に場の空気が凍ったのは、秋風の冷たさからではないことくらい、銀時にも伝わった。
長門も似たようなことを言っていた。
しかし本人はそれに気づけないのだという。
気づく事実がない。
それは一体どういうことか。
銀時が思いを巡らせたそのときだった。
60 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 19:40:29.12 ID:kESOS2TBO
みくる「キャァァァァァァ!」
耳をつんざくような悲鳴が響き渡った。
話題から取っていた距離の先で、女子の前に怪しげな者がいる。しかも人間とは思えない形をしている。
銀時にはその滑稽な形がなんなのか、すぐにわかった――天人だ。
長門「――っ」
長門が何かをしようとしたらしい。しかし、それは天人の大きな手が彼女の小さな体を凪払うことによって阻止されてしまった。
しかしそれまでだ。
白夜叉が許す時間というものは。
古泉「長門さん!」
耳の端で彼女がきっと無事であることを祈り、銀時は駆けだしていた。相手が背を向ける。
背を向けるとはなんと愚かか――思わずニヤリと笑もうとした時。
銀時「……あ」
左腰にやった掌が空を切った。
木刀が、ない。
62 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 19:47:50.30 ID:kESOS2TBO
あの時部屋に置き去りにしたことを後悔。
ハルヒ「これ!」
そうハルヒが叫びながら、落ちていた木の棒を投げてきたことを合わせても一秒かかるかかからないか。
しかし戦場を生き抜いた銀時にはその一秒が大きな差になるというのはわかりきったことだった。
天人は脇の林に逃げ込んでしまった――深追いはできない。
銀時「クッ――」
古泉「皆さん無事ですか!」
みくる「は、はぃ〜……」
ハルヒ「有希は!?」
長門「……大丈夫」
古泉にわずか寄りかかり覚束ない足元をしつつも、長門はなるべく心配をかけまいとしたのだろう、きつく結んだ唇を微かに緩めた。
71 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 21:00:31.93 ID:kESOS2TBO
古泉「銀時さん、今のは……」
銀時「天人だ、……何でこんなところに」
古泉だけでない。銀時も勿論驚きを隠せない。
自分だけではなかった、この世界に紛れ込んでいたのは。
手にした木の棒をおくと、ハルヒを見やる。さすがに宇宙人云々と言える状況ではないらしい。
何が目的かはわからないが彼女の影響を受けた可能性は否めない。
銀時「ハルヒは俺が送ろう」
古泉「わかりました、長門さんと朝比奈さんを連れますから涼宮さんをよろしく頼みます」
72 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 21:16:51.67 ID:kESOS2TBO
ハルヒ「……」
銀時「……」
ハルヒとの帰り道は終始無言だった。あんなことの後だ、きっとハルヒ自身も喋る余裕がないに決まっている。
ならばそれはそれで、考えることが山ほどだ。
何故この地に天人がいるのか。いや考えたところでこれだという答えがないのだが自問しないと気が済まない。
彼らが襲ってきた、割には早々とした退散をした気がする。
何か盗んだわけでもない。誰かを殺したわけでもない。奴らは一体何しにこの世界へ来たのだろう?
ならばそもそも自分は飛ばされたとき何をしていたのだろう――それを思い返してみようと考えたとき、なかなか思い出せないことに気づいた。
今までハルヒのせいというレッテルが貼られ気にもしなかったが、もしかしたら自分が何かをしたのかもしれない。しかし思い出せないのだ。
73 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 21:32:18.97 ID:kESOS2TBO
ハルヒ「……私が求めてたのは、あいつらなんかじゃない」
すると不意に、ハルヒが口を開いた。
銀時の身長からでは俯いた彼女は察しがたいが、呟いた言葉は吐き捨てるといった方が正しかった。
彼女なりに、あれは異質なものと理解出来たらしい。
銀時「ならどんなのを求めてたんだ」
ハルヒ「……」
黙りこくるハルヒ。多分気持ちの整理がついていない。それを無理に乱すことはしてはいけない、そう感じた銀時はゆっくりと息を吐き出して、ハルヒの頭に軽く手をおいた。
銀時「――そんなもんさ、現実なんて」
ハルヒの中の絶望が、再び肥大していくには十分だった。
76 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 21:57:56.99 ID:kESOS2TBO
ハルヒの家は思ったほど大きくはなく、決してお嬢様環境で育ったのではないのだと理解した。
あれから人の手を払っていつも通り噛みつくような反論をしてきた彼女に安心はしたが、心のつかえはとれない。
何故こんなにも世界を脅かす存在が、こんなにも小さな少女なのだ。
ハルヒ「ありがと」
銀時「明日もくるか?」
ハルヒ「いいわよそんなの」
銀時「そうかィ、それじゃあな」
ハルヒ「……――」
銀時「……は? なんつった?」
ハルヒ「なんでも、ない」
79 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 22:27:07.01 ID:kESOS2TBO
俺はもう少しハルヒの言葉にしっかりと耳を傾けるべきだったのかもしれないが、いかんせんこんな状況で自分のことが精一杯なんだから、しょうがないっちゃしょうがない。
銀時「はァい、んじゃお前ら早速取りかかれー」
生徒「銀八先生」
銀時「何だ生徒」
生徒「百人一首しながら跳び箱とか意味わかりません」
銀時「知性と体力を育てるためだ、文句言わずに取りかかれー」
そんな他愛のない一週間がすぎて、秋休みはすぐそこまで近づいていた。
84 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 23:16:26.92 ID:kESOS2TBO
キョン「その、平賀源外って人は一体何者なんですか?」
お昼になると、かぶき町も盛りになってくる。
俺は新八君の隣を歩きつつ、尋ねてみた。
未だに眠る神楽ちゃんはおいてきている。
新八「平賀さんは、江戸一番のカラクリ技師で、いろんな者を作ってるんですが……ちょっと昔起こした事件でお尋ね者になった人ですが」
キョン「そんな人が、こんな大々的にイベントおこしていいのか?」
新八「うーん……このチラシには名前はないですが、多分裏方では?」
85 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 23:27:27.28 ID:kESOS2TBO
キョン「ふむ……」
そんな人の居場所を知っているらしい桂さんを先導に歩いている訳だが、その桂さん自体もお尋ね者らしく、法師に扮装して錫杖を鳴らしている。
ヅラ「キョン君……と言ったか」
キョン「は、はい」
ヅラ「この町を見てどう思う?」
キョン「え?」
桂さんの言葉に俺は戸惑った。どうと言われても答えに困る。
キョン「綺麗な……いい町だと」
ヅラ「本当にそう思うか?」
86 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/08(水) 23:53:15.79 ID:kESOS2TBO
当たり障りのない答えを言ったつもりが、そうじゃなかったらしい。
驚いた俺を後目に、桂さんの言葉は続く。
ヅラ「天人に支配されてからというものの、この江戸は……日本は外発的な開花を強いられてきた。決して内発的でない、自然と目覚める予定だった日本の美は……失われた。あれを見ろ」
そういって桂さんが指したのは、堂々と立つターミナルだ。
桂「この風景に、なんと不似合いなことか……異国の文化を取り入れてなお美しくさこうとする我が国と、それを飲み込む異国……」
キョン「……」
桂「普通なら何十年、何百年とかかる進化をこの江戸は数年で見せた……そんなもの、進化とは呼べん。ただの見掛け倒しだ」
88 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/09(木) 00:03:21.19 ID:XNEVzd5XO
ヅラ「そんな日本は後わずかで、天人に乗っ取られてしまう。……その前に真の日本を取り戻さねば、本当の日本はやってこない」
キョン「……」
ヅラ「今この計画もそれに通じるものとなるに違いない、阻止せねば」
確かに。この国は妙なアンバランスさで成り立っている。
進んでいるかのように見えて、全く進んでいない箇所もある。
しかしそれらは種族の違う者の利害で埋められうまく取り持っているのだから、それが無くなればこの国の安堵は無いも同然に違いない。
キョン「……」
しかし俺は腑に落ちない部分があった。
こんな変化を、"非日常"というものを好んでいた人物が側にいて、周りを自らの手で変えていった姿を何度も見てきたからだ。
それこそ外発的に――俺を変えた人物が
89 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/09(木) 00:16:56.93 ID:XNEVzd5XO
"源外庵"
たどり着いた町のはずれのぼろぼろの建物にはこんな文字が達筆らしき文字で書かれている。
どうやら着いたらしい。
新八「平賀さん!」
源外「ん? おめェは確か銀の字のとこの……」
どうやら作業中だったらしい。不格好なゴーグルを外して振り返った老人――源外さんは、新八君を見るなり懐かしむ声を上げた。
新八も笑いながら近寄り、源外の手元を覗き込む。
新八「お久しぶりです、……何を作ってるんですか?」
源外「これかい? これはな……」
そこで手にされたものは――俺でもわかる凶悪な代物だ――スタンガンらしきものだった。
キョン「――新八君!!」
無我夢中で叫び駆け寄ろうとするが、不意に感じた首の鈍痛に足に力が入らず前のめりになる。
どさり、と体が地面に倒れた直後に、また違う物体――新八君が倒れた音を聞いた。
90 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/09(木) 00:19:41.70 ID:XNEVzd5XO
源外「ヅラ、ご苦労だったな」
ヅラ「ヅラじゃない桂だ」
新八「な、ぜ……あなたが……桂、さ……!」
ヅラ「日本はこうせねば、生まれ変わらない」
遠くの意識で、三人の声が響いて、俺はそこでそれを失った。
第二部 完
次が最終です
色々文章が稚拙でアレですがよろしかったら最後までお付き合いください。
91 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/09(木) 00:29:41.05 ID:XNEVzd5XO
――変わりたいと思ったことはないか
――今の自分から
――非力な自分から
銀時「――……夢か」
ありきたりな問いかけだった。
戦後の荒れていた自分をうなす悪魔でもあった。
しかし今は違う。
93 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/09(木) 00:39:02.34 ID:XNEVzd5XO
みくる「はい、次涼宮さんの番ですよ」
電車の中で愉快なものだ。と銀時は思わず溜息をついた。
これから行く場所が心霊スポットだというのに、このはしゃぎはなんだろうか。ババ抜きが楽しいお年頃でもないだろうに、と。
あれから、ハルヒをなるべくの間見守っていた。
またあの天人が現れないようにだ。
しかしあれからうんともすんとも音沙汰はなく、特に何か危害を加えられたわけでもなかった。
しかしこれから、だ。
何があるかわからない――数少ない荷物に洞爺湖を混ぜてきたが、幽霊相手には通用しないと思うとぞっとする。
94 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/09(木) 00:48:24.65 ID:XNEVzd5XO
古泉「先生もいかがですか」
古泉が笑顔で問いかけてきたが、銀時は首を振ることにより拒否を示す。騒がしいそれよりも睡眠を優先したい。
ハルヒ「何よ、銀八の癖に、つまらないわね」
鼻で笑うハルヒもお構いなしだ。眠いし体が辛いのもある。ご老体をいたわれ、とだけ述べて目を閉じた。
あの事件からハルヒは特に変わったこともなく過ごした。いつもと同じように笑い、怒り――銀時の知る限りでは――普通のハルヒだった。
古泉が危惧したことも特におこらず、無事に一週間を終えた。
問題は今日からだ。
95 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/09(木) 00:55:55.49 ID:XNEVzd5XO
みくる「今から行く場所は紅葉が有名な場所らしいですよ、楽しみですね」
ハルヒ「紅葉ももちろんだけど、心霊写真もよ」
みくる「ふぇ、やっぱり、です、か」
ハルヒ「当たり前じゃない! キョン探しのためよ!」
みくる「ふぇぇ……」
長門「……」
古泉「涼宮さんなら大丈夫、そのはずです」
長門「……私は」
古泉「……長門さん?」
長門は小さな体を一度震わせた。そして古泉を見上げる。
長門「一週間前にあった生物に対して……なすべき処理が見当たらない」
古泉「……?」
長門「人間でいう"恐れ"に近い」
古泉「!」
あの長門が、天人を恐れている。
一週間前確かに天人は素早い動きで長門を封じた。しかしそれだけであの長門が恐れているという事態になるのだろうか。
96 名前: ◆bvxKp9PK1k [] 投稿日:2008/10/09(木) 01:10:12.27 ID:XNEVzd5XO
長門「……」
それきり長門は喋らずに、読書に熱中し始めてしまった。
古泉(……何も起こらなければいいですが)
もはやどうにもならない願いであったが、古泉にはそう願うしか出来ない。
それぞれの思惑を積んで電車は目的地まで進む。