長門有希の消失


メニュー
トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:灰原(16)「起きなさい工藤君。入学式、遅れるわよ?」

ツイート

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 01:43:53.68 ID:yLSoPwob0

 12月18日午前5時12分
 世界改変によって生まれた朝倉涼子の襲撃をかわし
彼と朝比奈みくる達の協力のもと、わたしは世界を元の戻した。
「長門、これで全部終わったのか?」
 彼は少々の不安と期待の混じった顔でわたしを見る。
彼を安心させるため笑って頷いたつもりだ。
でもわたしは今自分がどんな顔をしているのかはわからない。
「そうか、よかった。長門、まだ情報操作が残っているんだろ」
 情報操作・・・それがわたしの最後の指令。任務。
これを終えたら私は情報統合思念体に連行されるだろう。
おそらくSOS団と再び会うことはない。
 わたしはまだここにいたい。

「大丈夫。もう問題はない。あとの処理はわたしが引き受ける」

 ここにいたい。でも彼らに心配や迷惑はかけたくない。
言ってしまえば彼はなんとかしようとしてくれるだろう。
それによってSOS団になにかあったら
わたしは自分を破壊しても癒えない千の苦しみに悶えるだろう。
だからいい。これでいい。

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 01:44:20.28 ID:yLSoPwob0

「そうか、本当に大丈夫か?」
「大丈夫」
「ならいいんだがな。じゃあ長門、未来で待ってる。
そこに転がってる俺によろしくな」
 わたしは頷く。その笑顔を決して忘れないように。
「長門さん、なにからなにまですみません・・・」
「気にしなくていい。これはわたしの責任」
「私をたくさんこき使ってやっていいですからね」
 朝比奈みくるが優しい笑顔を向けてきた。いつかわたしも
こんな笑顔ができるのだろうか。
 そんなことを考えながら彼らを見送った。
 そして同時にその考えがとても滑稽なことだと気づいた。
なぜならわたしが笑える頃には彼らはもういないのだから。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 01:47:12.68 ID:yLSoPwob0

 世間では地球温暖化がどうのと騒がれいてるが
我らがお天道様もどうやら寒い日は顔を出したくないようで
ここ数日は雲の中に引きこもってしまっている。
例の世界改変の日も思い出せば久しい気がするもので
俺の退院も間近に迫っていた。
 振り返ってみると入院生活で一番驚いたのは
長門が世界改変のバグがどうのとわざわざ説明に来た日
なんと俺に恋愛小説を見舞いに持ってきたことだった。
初めて会った頃にはまったく想像もつかないことで
俺にとってはなんだか嬉しいような戸惑うような面持ちであるが
長門、少々余計なお世話だ。
「ちょっとキョン聞いてるの?」

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 01:51:35.99 ID:yLSoPwob0

 思いを巡らしていると本日も訪問してくださった例のごとく
元気いっぱいの団長様が包丁をつきつけてきた。
「すまんハルヒ。ちょっと考え事をしていた。
謝るからその手にもった凶器をりんごの皮むきに戻してくれ」
 そう言うとハルヒは電車を待つ自分の前に割り込んできた
非常識者でも見るような顔でうさぎさんを作る作業に戻る。
「まったく、長く入院してたるんでるんじゃないの?
平団員のくせに団長に二度も同じことを言わせるなんて
いい度胸じゃない」
 たしかに考え事はしていたが俺の耳は
ハルヒが「SOS団員はあたしの許可なく退部は許さないわ」
と言ったのを聞いていた。
「転校やら死亡やら本人の意思が関与しないところで
そんな制約つけてもそれは無理な話だろう」
と思ったが敢えて言わない。なぜならハルヒが言うなら
きっとそうなるんだろうなと不覚にも心強く感じたのが
なんとなく悔しかったからだ。
 だから死んでも口にはしないのさ。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 01:53:39.77 ID:yLSoPwob0

「そうそうキョン、クリスマスパーティーの計画が持ち上がったんだけど
それ、あんたが退院してすぐだから。
もちろん拒否権はないわ。これだけ怠惰に入院生活を送ってたんだから
病み上がりだからなんていう言い訳は通用しないわよ。
退院おめでとうパーティーだとでも思いなさい」
 どうせそんなことになるだろうと思っていた俺は
ため息をひとつと「やれやれ」とセットで言っておいた。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 01:59:15.79 ID:yLSoPwob0

 さて、謎の宇宙パワーを持つ連中の軟禁やら
古泉達機関の仕組んだ推理ゲームなどいろいろな意味で
内容盛りだくさんの冬季合宿を終え
俺達は懐かしきふるさとへと舞い戻ってきた。
 いつぞやの夏休みのように何万回もループすることもなく
(長門に確認済み)平和に過ぎた冬休みは
平凡な高校生のそれそのものとそう変わらない
平凡でなかなかに楽しいバケーションだった。
 だが時間というものは非情なもので
始まりのあるものには必ず終わりを用意してくれている。
率直に言うと俺はこのかったるい坂道を
寒さに身を縮めながら歩いているわけだ。
 まあなつかしの面々と会うのは楽しみだからいいんだけどな。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:03:21.24 ID:yLSoPwob0

 後回しになってしまったが、
冬季合宿以降長門は頻繁に学校を休むようになった。
どうやら合宿で俺達にちょっかい出してきたやつらの処理に
追われているようで、会うたびに顔に疲れが見える。
俺たちの知らないところで無理していないといいんだがな。
「やあキョン君っ!おはよう!いや、その前に
明けましておめでとうかなっ?」
 相変わらずのテンションで声をかけてきてくれたのは
寒さにほっぺを赤くした鶴屋さんだった。
「おはようございます。今日も朝から元気ですね」
「そうさっ!年が明けたんだし、一年の初めを元気に過ごさなきゃ
景気よくないからねっ。あ、そういえばこないだうちの蔵から
宝の地図とよくわからないモノが出てきたんだっ。
ハルにゃん好きそうだから今度持ってくるねっ!それじゃあねっ!」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:06:50.63 ID:yLSoPwob0

 そう言うと鶴屋さんは突風のように学校へかけていった。
朝からエンジン全開な人だ。
彼女が太陽ならきっと冬も暖かくすごせるだろう、なんて考えていると、
「ようキョン」
「キョン、おはよう」
 谷口と国木田がやってきた。
「よう、二人とも。久しぶり」
「頭の方はもう大丈夫なの?」
 18日から入院しっぱなしだったから終業式も出ていないせいで
こいつらとまともに話すのは1ヶ月ぶりくらいだったな。
「ああ、おかげさまでな」
「まったく階段から落ちるなんて間抜けなやつだな」
 ほっとけ。それにあれは誰かが俺を押したらしいじゃないか。
もっとも当の俺は覚えてないわけだが。
「誰がやったかまだわからないんでしょ?気をつけなよ?」
 ご忠告ありがとうよ国木田。だがあいにく2度も3度も突き飛ばされる程
恨みを買った記憶はないし大丈夫だろう。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:08:42.05 ID:yLSoPwob0

「人間とは限らないぞ?涼宮関連で宇宙人かなんかの仕業じゃないか?」
 そんなわけあってたまるか。そうほいほい宇宙人が出てきたら
NASAは大騒ぎだろう。
「じゃあ未来人とか?」
 国木田までやめてくれ・・・。だが俺は冬休みには招かぬ新キャラが
登場してくるというフレッシュな事実があるせいか
そんなバカなと笑い飛ばせなかった。これから先
何が起こってもおかしくない状況に今俺達は立っているのか。
いや、今までもそうだったな。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:10:51.64 ID:yLSoPwob0

 始業式が終わり、申し訳程度の授業を終えた今日も
俺は部室へと足を運ぶ。ノックをすると扉1枚隔てた向こうから
「はあい」と可憐な声がした。うむ、こんな寒い日は
朝比奈さんを鑑賞しながら熱くて渋い茶を飲むに限るな。
俺はヴェルタースオリジナルをもらおうとしている子供のような気持ちで
ドアを開けると、眉を吊り上げながら笑うという器用な表情をしたハルヒが
俺のネクタイをひっつかんできたせいで酔っ払いの嗚咽みたいな声が出た。
「なにしやがるっ!」
「キョン!聞いたわよ。鶴屋さんが面白そうなこと教えてくれた
そうじゃない?それをあたしに言わないなんてどういうことかしら?
あたしたち席は前後のはずよね?」
 ああ、そういえばそんなようなことを言ってたな。
谷口達とダベってたらすっかり忘れてしまっていた。
「入院ボケのあとは正月ボケ?あんた有意義に使える高校の時間は
限られてるってことわかってるんでしょうね?
 話を聞くと宝の地図だそうじゃない!誰かに先を越されたら大変だわ。
帰る仕度しなさい!今日は鶴屋さんの家へ行くわよ!」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:14:19.46 ID:yLSoPwob0

「待てハルヒ、そんな急に決めても鶴屋さんにも都合があるだろうが!」
 だがしかし!横目で見ると他のメンバーはすで準備万端という
異常事態だ。誰か一人くらいハルヒを止めようというやつはいないのか。
「今日なら来ても大丈夫だよっ!」
 ふいに聞こえた鶴屋さんの声に目を丸くする。
 そこにはいつからいたのか同じく準備万端でスタンバイしている
鶴屋さんの姿があった。なるほど、どこから情報を仕入れたのかと思ったら
本人から直接聞いたのか。鶴屋さん余計なマネを・・・。
「そういうわけだから!わかったら行くわよ!」
 予想はしていたが団長様は3学期もしょっぱなからフルスロットルだ。
相変わらず古泉はイカサマスマイルで肩をすくめているし
朝比奈さんは素直に楽しみにしている。長門は・・・
今日はめずらしく長門の表情がよく読めないな。スランプだろうか?

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:17:13.11 ID:yLSoPwob0

 鶴屋邸に着くとすぐにわざわざお茶を出していただいた。
 たまには梅昆布茶もいいな。今度朝比奈さんに入れてもらおう。
「ふう、やっぱり寒い日は熱いお茶だな」
 と俺が言うと、
「そうね、たまには梅昆布茶もいいわ。みくるちゃん、
今度部室でも入れてもらえないかしら」
 とハルヒが言ってきた。なんと、この意図せぬシンクロは少々不本意だが
これで朝比奈さんの梅昆布茶が飲めるならハルヒに感謝しておくべきだろう。
「あ、はい。じゃあ今度探してみますね」

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:21:39.39 ID:yLSoPwob0

「みんなおまちどおさまっ。これが学校で話した
宝の地図と一緒に出てきたモノだよっ」
 勢いよく障子をあけた鶴屋さんが持ってきた木箱には
古びてあちこちが擦り切れた地図といろいろと装飾が施された
くすんだ鉄球が入っていた。鉄球はどう見ても地図と同じくらいの
時間が経ったように見えるのだがどこか近代的な雰囲気を感じる。
「この地図はたぶん家の敷地の山だと思うんだっ。
でも今日はもう暗いから掘るのはまた今度の方がいいかもね」
「そうね。それにしてもこの鉄球なんなのかしら」
「地図とこれは同じ木箱に入ってたのさっ。
ご先祖様が大掃除かなんかでまとめただけかもしれないけど
なんだか絶対に関係がある気がするんだよねっ」
 絶対というわりには気がする程度の勘らしいところがよくわからないが
俺にはますますもってさっぱりだ。
そもそも芸術だとかそういう崇高な感性はミミズの白っぽいところ程度しか
持ち合わせていない。
 古泉も朝比奈さんも首を傾げるばかりで期待しているような
答えは返ってきそうにないし、
ここはやはり長門に聞くのが1番手っ取り早いだろう。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:26:11.08 ID:yLSoPwob0

「なあ、長…長門?」
 俺が一瞬長門の名前を呼ぶのをためらったのは
長門が険しい目で鉄球を凝視していたからだ。
俺はその目を見たことがある。1学期、教室で
俺を殺しにかかってきた朝倉と同じ目だ。
いや、なんとなく雰囲気がそれだった、
と表現した方が正しいだろうか。
まだ長門がそれらしい感情を表現できなかった頃の目…
 ここで俺はなにか違和感に気づいた。しかし
気づいただけでその正体は霧のように形にならず
ただ漠然と「長門がおかしい」としかわからなかった。
「おい、長門」
 俺がもう一度呼ぶと長門は目だけ俺の方を向けた。
「おまえはこいつがなんなのかわからないか?」
「知らない。私のデータベースに該当する項目は存在しない」
 そう言った長門の目はやはりいつかと同じ
無機質で冷たい目をしていた。まだ半年程しか付き合っちゃいないが
俺にはわかる。長門は何かが変わった。
なぜ気づかなかったのかと思うくらいに。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:29:08.63 ID:yLSoPwob0

「なあ、長…長門?」
 俺が一瞬長門の名前を呼ぶのをためらったのは
長門が険しい目で鉄球を凝視していたからだ。
俺はその目を見たことがある。1学期、教室で
俺を殺しにかかってきた朝倉と同じ目だ。
いや、なんとなく雰囲気がそれだった、
と表現した方が正しいだろうか。
まだ長門がそれらしい感情を表現できなかった頃の目…
 ここで俺はなにか違和感に気づいた。しかし
気づいただけでその正体は霧のように形にならず
ただ漠然と「長門がおかしい」としかわからなかった。
「おい、長門」
 俺がもう一度呼ぶと長門は目だけ俺の方を向けた。
「おまえはこいつがなんなのかわからないか?」
「知らない。私のデータベースに該当する項目は存在しない」
 そう言った長門の目はやはりいつかと同じ
無機質で冷たい目をしていた。まだ半年程しか付き合っちゃいないが
俺にはわかる。長門は何かが変わった。
なぜ気づかなかったのかと思うくらいに。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:29:37.14 ID:yLSoPwob0

 ともかく長門は常に情報統合思念体と同期しているおかげで
この世のありとあらゆる情報を持っているはずであって
その長門が知らない、ということはつまり情報統合思念体も
まだこの鉄球については知らないということだ。
 情報のカタマリみたいな奴に限ってそんなことがあるのか
なんてのは疑問だが、とにかく今日はこのまま退散した方がいいだろう。
俺の直感がそう告げている。というか帰りたい。
 俺は古泉と朝比奈さんにアイコンタクトを送ると
古泉はわかってくれたようでうなずいてくれた。
一方朝比奈さんはさっき鉄球に向けていた顔をそのまま
俺にむけてきた。愛らしいが朝比奈さんはあてにならない。
「涼宮さん、すみませんが今日は叔父が家に来るというので
この辺でおいとまさせてもらいます」
「ハルヒ、ちょうどいい時間じゃないか。すぐ暗くなるんだ
今日はこの辺で解散しないと帰路が物騒になる」
「うーん、そうね。宝が鶴屋さんの家の敷地にあるなら
そうそう先を越されることもないしね」
 じゃあ今日は解散!というハルヒの声を合図に
みんなそれぞれ玄関に向かった。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:33:02.50 ID:yLSoPwob0

「ばいばいっ。みんなまた来てねっ!今度来るときは
発掘するときかなっ」
「じゃあ俺は途中まで長門と同じ道だから送っていく」
「有希に変なマネしたら死刑よ!」
「私はお茶を買っていきますね」
「それではみなさん、また明日」
 俺はみんなの姿が見えなくなると長門に尋ねた。
「長門、少し聞きたいことがある」
「なに?」
「あの鉄球のことだ」
 長門が俺を見る。
「さっき鶴屋さんに借りていたよな。おまえも気になるのか」
 長門は鶴屋邸を出る前に鶴屋さんに1日だけ
鉄球を貸してもらえないか聞いていたのだ。
俺が気になったのは普通に借りればいいものを
わざわざみんなが部屋から出て行ったあとで借りるように話したからだ。
俺は背中越しにその会話を聞いていた。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:37:16.81 ID:yLSoPwob0

「この鉄球は情報統合思念体も知らない未知の物体。
用途、目的、使用方法など一切が不明。
私達の今後の行動に害を及ぼす可能性があるかどうか
情報統合思念体とともに調べ、場合によっては破壊する。
鶴屋家にはよく似た害のないものを返す。
問題はない」
「そうか。あの日にも合宿でも言ったが一人で溜め込むなよ。
おまえには俺たちがついてる。必要ならあの謎の新キャラとも
戦ってやる。わかったな?」
 そう言うと長門は1ミリほどだけ頷いた。

 それから数日、長門は続けて学校を休み
次の週の月曜日には長門は転校したと伝えられた。
 ハルヒを除くSOS団員には喜緑さんから長門は合宿で俺達を
異空間に閉じ込めたやつらとの戦いで死んだことを告げられた。
 朝比奈さんがTPDDの使用を上司に申請しているから
どうか気をおとさないでと言ってきてくれたが、俺の耳には
何も入ってなかった。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:40:00.63 ID:yLSoPwob0

「あーもう!有希ったらなんでお別れもなしに転校しちゃうのよ!
お別れを言う時間があったら腕づくでも止めたのに!
しかもなんなの?引越し先はプライバシーの関係で教えられないって
どういうことなのよ!これじゃあ朝倉さんのときと同じじゃない!」
 部室には激昂するハルヒと沈んだ顔のメンバーが3人。
 長門のパイプ椅子がいつものようにそこにあるだけで
よりいっそうもの足りなさが際立った。
「キョン!有希の住んでたマンションに行くわよ!
管理人さんならなにか知ってるかもしれないわ!」
 ああ、そうだな。もし長門がまだ生きてるなら
きっとなにかあるだろうさ。だがな、長門は死んじまったんだ。
どれだけ喜緑さんに問い詰めても、どれだけ涙を流しても
どれだけ自分を責めても長門はもういない。
 長門のマンションに行っても無駄なんだよ。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:43:57.78 ID:yLSoPwob0

「悪いがハルヒ、今はそんな気分じゃないんだ」
「キョン!ふざけてるの!?このまま有希とお別れしちゃってもいいの!?」
「朝倉のときとまったく同じじゃねえか!行ってもどうせ」
 無駄なんだと言おうとした俺を古泉が制し、無言で首を振る。
 ハルヒは涙こそ浮かべてないが今にも泣きそうといった顔だ。
「僕も涼宮さんに賛成です。なにもせずこのまま、というのは
少々寂しいですしね」
「キョン君私もいろいろとがんばるわ。すぐに何か
できるかどうかはわからないけど、きっと大丈夫よ」
 そう言って朝比奈さんは俺に手を差し伸べてきた。
その手を見て俺は深呼吸する。
やっと冷静になった。
はは、まったく俺は何をやってんだ。クールになれ。
こんなんじゃ失笑も得られないぜ。

あほか。
付き合ってられるか。
長門が死んだ?
そんなバカな話エイプリルフールでも信じられないな。
たとえそうであったとしてもなんとかしてやる。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:47:58.86 ID:yLSoPwob0

「…悪かった。そうだな。やっぱり行こう。
ハルヒ、俺も一緒に行かせてくれ。ダメだと行っても俺は
行くがな」
 そう言うとハルヒはさっきの顔のままニッと笑って見せた。
「そうと決まれば善は急げよ!さあ仕度しなさい!」

 長門のマンションに着くと俺たちはまず管理人に会った。
耳が遠いのでいくらか声を張り上げなければならない。
「こんにちは管理人さん!覚えてるかしら?去年の5月くらいに
来たんだけど…」
「えーっと…ああ、朝倉さんを訪ねてきた子だね?
今日はお友達たくさん連れてきたね。どうしたんだい?」
「実はまた友達が知らないうちに転校しちゃって…
引越し先を教えてもらえないかしら?」
「引越し?おかしいねえ、今月は誰も出てってないんだけど…」
 なんだと?おかしい。今は1月の第4週だからそんなことは
ありえないはずだ。朝倉の時は朝倉が死んですぐ情報操作が
されたのになぜ今回はすぐにしない?情報統合思念体が
それだけ天蓋領域にてこずっているのか?いや、喜緑さんが
こっちにいるんだから長門の転校や引越しに関する
情報操作くらいすぐにできてしまうはずだ。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:50:24.38 ID:yLSoPwob0

「あのう…でしたら、お部屋を見せていただくことは
できないでしょうか…?大事なお友達なんです…学校では
もう会えないんです…」
「そうだねえ…」
「お願いします。僕たちの身分証明をした上で構いませんので
どうか彼女の部屋に上がらせてください」
「おやおや、いいねえ友情ってのは。はいよ、これが長門さんとこの鍵だ」
「ありがとうございます!」
 俺たちの声はタイミングでも合わせたかのように重なった。

 ガチャ

 扉を開ける。ここに来るのがずいぶん久しぶりな気がする。
「有希ー?いないのー?」
 ハルヒは呼びかけるがなんの音沙汰もない。
「しかたないわ、少し調べさせてもらいましょう」
 そう言うとハルヒはすたすたと部屋に入っていった。
なにしろ緊急事態だ。今日ばっかりは人様の部屋にずかずか入るな
なんてツッコミはしないでおこう。
 なにか手がかりが見つかるといいんだが…。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:53:11.22 ID:yLSoPwob0

 室内は相変わらず必要最低限のものしかないし、
調べるのにそう時間はかからないだろう。
 俺はゴミ箱の中にコンビニ弁当のパックを見つけた。
弁当の製造時間と消費期限から察するに
おそらく長門は土曜日の昼から夜9時にはここにいたと思われる。
コンビニ弁当の下に捨ててあったレシートでも確認したから
間違いないだろう。しかし物色ってのは気分のいいものじゃないな。
あとで長門に謝っておこう。
 それはそうとあいつこんなものばっかり食ってたのか。
「ダメね。洗濯も食事の形跡もないわ。有希ったらどこへ行った
のかしら…」
「こちらもとくに手がかりはありません」
「こっちもです…お布団が敷いてあっただけで他にはなにも…」
 布団というのはおそらく俺と朝比奈さんが部屋ごと凍結された
ときのものだろう。したがって、期待していた情報はなかったようだ。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:56:00.17 ID:yLSoPwob0

 衛生兵を失った小部隊のような雰囲気が漂う中
ふと本棚にある本に気がついた。
あの小難しそうでやたら分厚い本は見たことがある。
去年、長門がトンデモ話を俺に聞かせるために渡した本だ。
 よく見てみるとまだ栞が挿んである。
そういえばあの後ついに俺は完読して長門に返したんだったな。
どうしようもなくなつかしい気持ちになって、
気づくと俺は本を手にとっていた。
そしてゆっくりと栞の挿んであるページを開くと
相変わらず綺麗な明朝体で以前とは違う文字がそこには書いてあった。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:59:23.53 ID:yLSoPwob0

「パソコン SOS」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:01:48.03 ID:yLSoPwob0

 俺は学校にいた。栞を見たあとのことはよく覚えていない。
なんとなく部室で長門が待っていると言った気がする。
うしろでハルヒ達が呼ぶのも聞かず、
真っ暗になった道を俺は学校へとひたすら走った。
 たしか谷口が部室棟の1階の北側の窓に鍵が壊れていると言っていた。
俺はそこから校舎に忍び込んだ。
 SOS団部室に入るとアニメとかでよく見る
購買に駆け込む生徒のような勢いでパソコンの電源をつけた。
SOS、これがSOS団のことなのか、はたまた長門からの
救難信号なのはわからないが、とにかく長門は
消える前に俺達に伝えたいことがあったようだ。
しかもご丁寧に暗号つきで俺達に手がかりを残すということは
以前から長門はこの事態を予見していたのかもしれない。
参った、これは本当にやばいことになってるみたいだ。
 すべてのファイルを表示してみるとデスクトップ画面に
「SOS」フォルダが隠されているのを発見した。
フォルダにひとつだけあったテキストファイルには
長門のものと思われるメッセージが綴られていた。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:03:34.57 ID:yLSoPwob0

今こうしてあなたがこのファイルを見ているということは
おそらく私はもうその世界に存在していないのだと思う。
以降の文はそれを前提とする。
今本当の私に関わることについて調査を進めると
そのすべての情報、およびあなた達の記憶が抹消されることを
覚悟しておいてほしい。
私は真実について記した情報をあなた達の世界のいたるところに隠した。
その情報を引き出す鍵はあなた達SOS団自身だから
ほかのインターフェースの力だけではすべてを探し出し抹消することは不可能。
ただし、あなた達の記憶に私を残しているのは私がいなくなることで
涼宮ハルヒがなんらかのモーションを起こすかの実験をするため。
だからその世界の私が消えてから約2日以内にすべての
情報を探し出しなんあらかのアクションを起こさないと
私という存在の有無に関する涼宮ハルヒの実験は終了され
同時にあなた達の記憶からも私の存在は抹消されると予想される。

すくなくとも私は生存している。
あなた達の世界で長門有希がどう処理されたかわからない。
でもその長門有希は私ではない。
私は12月18日世界改変阻止以降、情報統合思念体によって
感情を持つインターフェースとして研究・監視されているだろう。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:07:09.72 ID:yLSoPwob0

「キョン!どうしたのよ!突然」
 ここでハルヒ達がやっと追いついてきたようだ。
「長門はどうやらどこぞの誰かによって拉致されたみたいだ。
今長門が残してくれた手がかりを読んでるところだ」
「え?拉致って大変じゃない!すぐに警察に…」
「無駄だ。警察じゃ手も足も出ないし、犯人がどこにいるのかもわからない」
「でも、じゃあどうしろっていうのよ!」
「おまえらしくないじゃないかハルヒ。俺の知ってるおまえなら
とっくに大丈夫だ長門を必ず助けだすんだ!とか言ってるはずだぜ」
 そう言うとハルヒは次第に勝ち誇ったような顔をして、
「言ってくれるじゃない。いいわ、望むところよ!
犯人を捕まえてSOS団のすごさを世間に知らしめようじゃない!」
 と言ってきた。

        <CAUTION!>
  このパソコンはウイルスに侵入されました。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:09:42.05 ID:yLSoPwob0

 もう見つかったのか!ウイルスバスターはかけておいたはずなのに!
ちくしょう、ノートン先生はなにやってんだ!
「おい、古泉!おまえこれなんとかならないか?」
「すみません、あいにく機械類は人並み程度しか扱えないので…」
「朝比奈さん!」
「ふう、ふう、すみません、この時代の、機械の扱いは、
よく、わからない、んです…」
 朝比奈さんはまだ息を切らしていた。しかもさらっと禁則事項っぽいことを
言ってしまってるあたり相当テンパっている。
 今後都合よく長門の残してくれたヒントにたどり着けるかどうかは
まず後ろ向きに考えておいた方がいいだろう。
 俺は急いで画面をスクロールして断片的にでも情報を得ようと試みた。
しかし画面は固まったまま次第に暗くなっていく。
 強制終了も試してみたがうんともすんとも言わない。
ただ目の前のウイルスの侵攻を見ることしかできなかった。
「くそっ!」
 このとき俺はある可能性を考えた。情報統合思念体が俺達に
気づいてるとしたらすでに俺達の記憶をいじる作業を始めていても
おかしくない。下手すると危険が伴うかもしれない。
だがインターフェースはそこらじゅうにいるって喜緑さんが言っていたし
逃げ場などあるのだろうか。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:12:22.93 ID:yLSoPwob0

 刹那、全身を這い回るような悪寒がした。
長門を除いたすべてのインターフェースのうちで俺達をよく知っているのは
喜緑さんじゃないか。
彼女は俺達を監視し情報を引き出そうとしてるのではないか?
今もどこかで蛙を前にした蛇のように部室を見つめているのでは?
まさかずっと狙われていたのか・・・。
 と次の瞬間ハルヒ達が次々と倒れた。
「ハルヒ!?古泉、朝比奈さんまで…!」
 おいおいちょっと展開が速すぎるんじゃないか。
俺達はまだなにもできてないんだぞ?
頼む、頼むからまだ終わらないでくれ!
 そして扉のノブが回る。息をとめ部室に入る人物をにらむ。
「キョン君、お待たせ!」
 俺の目の前に現れたのは朝比奈さん(大)だった。
「ごめんなさい、何者かによる妨害で時間遡行に問題が生じたの。
おそらくはインターフェースだと思うわ。
涼宮さん達は眠っているだけ。彼女達はわたしが保護するから安心して。」
 突如現れた心強い味方に俺は緊張の糸が切れてへたりこんでしまった。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:15:19.74 ID:yLSoPwob0

「よかった・・・インターフェースだったらどうしようかと・・・」
「安心してる暇はないわ。キョン君、長門さんはおそらく
あなたが見つけやすいところにヒントを隠したと思われるわ。
あなたが長門さんを救う鍵になるはずよ」
 朝比奈さん(大)の言ってることはわかるような
わからないようなことだったが今はそれについて質問している余裕はない。
彼女は俺の肩をつかむと今までに見たことのないほど真剣な顔をして、
「今回の事件は情報統合思念体が関与しているから
多くの情報が彼の支配下にあるせいでわからないことだらけなの。
今からわたしはあなたと行動を共にしあなたを護衛するわ。
だからキョン君は自分の考えに従って動いてくれればいいわ」
 と言う。急展開なのは変わらないようだ。
そういえばと俺は長門が見舞いに持ってきた恋愛小説を思い出す。
「俺の部屋に長門がくれた本があります。とりあえず
それになにか手がかりがあるかもしれません」
「わかったわ。じゃあまずキョン君の部屋に行きましょう」
「ハルヒ達はどうするんですか?」
「この部屋ごと複雑で高度な結界を施すわ。
インターフェースでもそうそうやぶれないくらい強力だから大丈夫よ」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:18:42.99 ID:yLSoPwob0

 学校の外に出た俺達は待ち構えていたように校門にたたずむ
人影に気づいた。朝比奈さんの表情がこわばる。喜緑さんだ。
「喜緑さん…」
「ごめんなさいね、わたしも情報統合思念体の命令があるの」
 さっきのウイルスはやはりあなたの仕業だったんですか。
「昼間なぜ俺達に嘘をついたのも情報統合思念体の命令ですか?」
「そう。私達は長門さんのように感情を持っているわけではないから
情報統合思念体に対する拒否ができないの」
 喜緑さんはふっと笑う。
「長門さんはわたし達ほかのインターフェースが持っていないものを
持ちすぎです・・・正直うらやましいわ・・・。
情報統合思念体の意思を今からわたしが代弁します」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:21:48.16 ID:yLSoPwob0

 喜緑さん代弁する情報統合思念体が言うには
長門は今情報統合思念体によって研究の対象として軟禁されているらしい。
 長門の研究は重要である感情の芽生え始めである今から
約200年の歳月がかかると予測されたから
長門が情報統合思念体に反抗したため強行されたわけだ。
 俺達が情報統合思念体の用意したニセ長門で問題なさそうなら
ニセ長門を引き続きハルヒの監視につける予定だったが
団員が違和感を感じたため、長門が死んだことにし
ハルヒの反応を見ようとしたというクソのような計画を
練ってくれたそうだ。
 だがその後のSOS団の行動が気になり、もし
自分から長門を奪還することに成功したら長門の
研究を諦めるという賭けを提案してきた。
なめやがってこの野郎。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:24:52.43 ID:yLSoPwob0

「上等だ宇宙人。すぐに長門を取り返しに行ってやるから
首を洗って待っていろ」
「ふふ、わたしからはひとつヒントをあげますね。
鶴屋家の蔵で発見された鉄球は情報統合思念体も
未確認の別次元のロストテクノロジーの産物。
長門さんの後任が調べたの。オーパーツとでも
呼べばいいかしら。あれには物体の情報を対象に
一時的に完全にコピーする効果があるわ。」
 俺は訝しげな目を喜緑さんに向ける
「喜緑さん、なぜそんなことを…?」
「なぜかしらね。わたしも長門さんがいないと学校
生活がつまらないんだと思うわ。
情報統合思念体には私がオーパーツのことを喋ったのは内緒だけどね」
 そういうと喜緑さんはいつかの朝倉のように襲い掛かってきた
長門、おまえ自分の知らないところで人気者じゃないか。
おまえの代わりなんかいないんだ。だからちょっと
待ってろよ。すぐに助けに行くからな。
 それにしても、はは、気がついたらすっかり非日常が
日常になっちまったな。
ついに宇宙人の親玉との会話まで遂げてしまった。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:26:48.47 ID:yLSoPwob0

「設定式強制凍結プログラムの局所展開を要請。対象の
行動停止時間を8時間に設定、後ランダムで指定した座標への
強制転送を実行。プログラム発動まで2秒前」
 俺は隣でdef-techも真っ青の早口で朝比奈さんが
そうつぶやくのを聞いた。3秒とかかっていなんじゃないか・・・?
すると喜緑さんの攻撃が届く前に彼女は
ビデオの一時停止のように固まってしまった。
かと思うと音もなくどこかへ消えてしまった。
 あのあわ言ってる朝比奈さんがこんなになるとは・・・
俺もがんばれば市長くらいにはなれるんじゃないか?

 途中5回ほど奇襲を受けたがその度に朝比奈さんは
さっきの設定式プログラムとやらを発動し、宇宙人を
ことごとくかわしていった。
 家に着くと横で律儀に「あの、あの、お邪魔します」とか
言ってる朝比奈さんをよそにただいまも言わず部屋に向かった。
妹がなにやら騒いでいるが今は遊んでやる時間などない。
 目的の本はすぐに見つかった。パラパラとめくるとやはり
栞がはさんであり、

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:27:36.77 ID:yLSoPwob0

「布団の下」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:30:20.63 ID:yLSoPwob0

 とだけ書かれていた。
 まったく、俺じゃなかったらわからないだろうが。
「朝比奈さん、俺達が凍結された部屋です。行きましょう」
 俺達は再び長門のマンションに来た。
鍵は朝比奈さんがなにやら毛抜きのようなものを捻ると開いてしまった。
「朝比奈さん、今の・・・いや、禁則事項ですよね?」
 と聞くといつものイタズラっぽい笑顔で
「はい♪」
 と言われ、軽くいなされた気分だ。
「今からこの部屋を凍結するわ」
 さっきハルヒ達にやったやつか。
なるほど、これ以上安心できるセキュリティはないな。

 朝比奈さんが例の部屋に入ろうとすると、
「あいたっ!不可視障壁があるわ・・・どうすれば・・・」
 頭をぶつけた。SOS団メンバーが鍵ってのはこういうことか。
朝比奈さん(大)は「現団員」ではないから入れなかったのだろう。
「大丈夫です。俺のあとに入ってください。
長門がこの時代のSOS団が鍵になるようにしたみたいです」
 部屋に入り布団を引っぺがすとそこには封筒が一通あり、
俺は部室のパソコンで見た記述の続きから読んだ。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:33:15.49 ID:yLSoPwob0

そもそもの発端は私が感情に近いものを持ったこと。
そして、その私に涼宮ハルヒとは別次元の自立進化の可能性を見出した
情報統合思念体は12月18日の翌日研究対象として私に
帰還命令を出すことを同期によって知った。
当初、私は命令であるならばそれも構わないと考えていた。
でもあなた達とともに時間を過ごしていくことで
できるならばその命令に背きたいと考えるようになった。
世界改変の夜に私を支配したバグは涼宮ハルヒが原因ではなく
本当はその感情が原因。
結果、私は涼宮ハルヒの力を消費して情報統合思念体の
いない世界を作り出し、また、仮にその世界でも情報統合思念体が
生まれたとしても涼宮ハルヒに興味を持たぬよう
自立進化の可能性である涼宮ハルヒの力を消し
(もっともこの目的は世界改変と同時に副産物的に果たされた)、同時に
わたし自身も普遍的な人間にした。それに連動して
古泉一樹の能力も消え、朝比奈みくると未来世界の関係が断たれた。
もっとも次元波の影響によってSOS団は別々になってしまったことは
想定外だったが。
そしてわたしはその状況を利用し、普遍的でない要素を持つ世界を
あなたが望むのかどうかを試験することにした。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:34:36.77 ID:yLSoPwob0

今までの世界を望んだあなたは未来の朝比奈みくるの協力のもと
世界改変の歴史は塗りなおし、世界は今までの様相を保つこととなった。
その後情報統合思念体に危険視されるようになったわたしは
すぐに捕らえられると思われる。
12月18日午前5時48分以降のわたしとはすでに同期できないため、
確定的なことはわからないが、おそらくその時間には
私は情報統合思念体に拘束され、
感情を除いた私のすべてのステータスをコピーされた
命令に忠実な私が配置されているだろう。
もしあなた達が望んでくれるのならわたしをこの世界から助けてほしい。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:37:55.76 ID:yLSoPwob0

 これが世界改変の真相か…。
「キョン君、長門さんを助ける考えはあるかしら」
「喜緑さんが言ってたことを信じてみましょう」
 朝比奈さんは目を丸くした。
「例のオーパーツを使うの?向こうもそれを予想してるんじゃないかしら」
「喜緑さんは情報統合思念体には内緒と言いました。
おそらく向こうは俺達がこの情報を持っていることを
知らないんだと思います」
 朝比奈さんはいくつもの死線を越えてきた戦士のような眼差しを
俺に向ける。
「もし彼女が嘘をついているとしたら?」
「俺は喜緑さんを信じます」
「なにか作戦を思いついたって顔をしてるわ。
話してくれるかしら?」
「はい」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:39:15.60 ID:yLSoPwob0

 作戦を決定した俺達はまずオーパーツを目指して鶴屋邸に赴いた。
 さすがに深夜に玄関を叩いて「お宅の謎の鉄球を貸してください」
と言うには言い訳が思いつかないのでこっそり借りていくことにした。
いやいや、(時間平面的に)すぐに返すつもりだから盗むとは言わないさ。
そうだろ?
 また朝比奈さんの例の禁則事項の毛抜きもどきで錠前をはずすと
俺達はジェームズボンド顔負けのフットワークで蔵に忍び込んだ。
しばらく探すと見覚えのある木箱を発見した。
中には目当てのオーパーツが変わらず身を置いていたが
これが本物かどうかはわからなかい。すると朝比奈さんが、
「そんな・・・これがこんなところにあるなんて・・・。
じゃあひょっとしてこの後わたしがしかるべき場所に・・・?」
 とつぶやく。
「どうかしたんですか?」
「このオーパーツは今より後で発見されることになってるの。
今はそんなことどうでもいいわ。
とにかくこれは未来世界でも分析が終わっているんだけど
これ1つじゃ能力を発揮しないの。もうひとつ、始動キーとなる
媒介が必要なんだけど・・・。えっと・・・たしか出発するとき
持ったと思うんだけど・・・」
 朝比奈さんは服の内ポケットをごそごそと探し始めると
「ああこれこれ」と言って金属棒のようなものを出してきた。
それもオーパーツなのだろうか?
 それにしてもこう都合よく内ポケットに始動キーなる秘密道具を
持っているものだろうか・・・。俺は未来から来た使者はみんな
4次元ポケットのようなものを持っているのだろうと
無理矢理に結論付けてとっとと疑問を解決させることにした。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:41:30.20 ID:yLSoPwob0

 朝比奈さんがその金属棒を鉄球のオーパーツに近づけると
それらはキインと耳鳴りのような音を発した。
「反応が正しいわ。どうやら本物みたいよ。情報統合思念体もわたし達が
このオーパーツの情報を持ってることなんて想像してなかっただろうし
ましてや始動キーまで持ってることなんて思わなかったんでしょうね。
だからこのオーパーツを偽物とすりかえなかった。そして
それが仇になったのよ。キョン君も念には念を入れておきなさい」
 情報統合思念体のせいで俺は思わぬ戒めを食らうことになったが
とにかくこれで必要なアイテムは手に入った。
 次に俺達はニセ長門を捕獲するためにタイムスリップしなければならない。
長門の部屋を捜索したときコンビニ弁当から土曜日は
ニセ長門がまだいたことがわかっているからとりあえず
土曜日の長門がコンビニ弁当を購入した時間に時間遡行し
様子を見てニセ長門を誘拐することにした。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:43:27.60 ID:yLSoPwob0

「キョン君、わたしは今から長門さんにも通用するような
プログラムの仕掛けを組むわ。少し時間がかかるから
あなたはそれまで休んでて。これからが正念場ですもの、
途中で倒れないように、ね?」
 心身ともにくたくただった俺は朝比奈さんのありがたいお言葉に
甘えることにした。その辺のコンビニで買ったパンをいくつかたいらげると
すぐに眠気が俺の脳を支配した。

「キョン君、起きて」
 清々しい朝比奈さんのモーニングコールで目を覚ました俺は
だんだんと記憶を取り戻す。
「おはようございます、朝比奈さん。どれくらい寝てました?」
「3時間くらいね、本当はもう少し寝かせてあげたかったんだけど・・・」
「いえ、3時間も寝れば十分です。徹夜はそれなりに慣れているんで。
ところでなにかあったんですか?」
「ええ、さっき長門さんが部屋に入っていったのを確認したわ。なんだか
5階に用があったみたい。用事まではわからないんだけど」
 5階・・・?5階に長門の知り合いなんていたか?なんなんだ、この
言いようのない不安感は・・・。
しかしもう俺達に迷ってるような時間はない。
この先なにがあったってなんとかなるさ。
たまには楽天的にものごとを見ないとやってられないね。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:46:03.21 ID:yLSoPwob0

「わかりました、朝比奈さん。俺が長門を誘い出します。
どこへ連れ出せばいいですか?」
「おそらく図書館はあの長門さんにとっては
なんの思い入れもない場所だから
あそこにプログラムを組んだわ。
できればそこに連れ出して欲しいんだけど…」
「任せてください」
「キョン君・・・大丈夫?あの長門さんは長門さんじゃないのよ…?
もしものこともありうることを忘れないで」
 朝比奈さん、俺だってバカじゃあない。
それくらいの危険は承知の上でここまできたんです。
「大丈夫ですよ、それに考えもありますしね」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:48:55.20 ID:yLSoPwob0

 俺は長門に電話をかける。2回ほどコール音が鳴ると
すぐに「もしもし」という懐かしい声が聞こえた。
たった数日会ってないだけだけどな。
「よお、長門今日暇だったら図書館に行かないか?」
 しばらくの沈黙の後、
「なぜ?」
 と短い問いが返ってきた。
「また無理してるんじゃないかと思ってな。
たまには気分転換に誘わないとおまえは自分から休憩ってものを
してるかどうか怪しいのさ」
我ながらいまひとつ怪しさの残る誘い方だ。
長門はまた少々の間をあけ、
「そう」
 と言う。それは肯定ととっていいのか?
とりあえず今からおまえの家に行くからな。
 30分ほどしてから俺は長門の部屋に向かう。
今俺達の存在は朝比奈さんによってこの世界でも自然なものとして
認識されるよう処理されている。
同時に嘘やごまかしによって体に現れる微弱な変化も適当に
ごまかせるようになってるらしい。
つまり「なんとなく怪しいぞこいつ」というような感想を
一切相手に持たせない装備をしているわけだ。
まったく未来の技術さまさまだな。
でなきゃ今頃俺は微粒子レベルにまで分解されててもおかしくない。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:50:44.75 ID:yLSoPwob0

「よう長門。ずっと休んでたが調子はどうだ?無理してないだろうな?」
「問題ない。戦いも順調」
「そうか・・・それならいいんだがな。じゃあ行くか」
 いつもの俺じゃ言えないな。きっとこの長門だからこそ
こんな女たらしみたいなこと言えるんだろう、きっとそうだ。
そうだと信じたい。
 長門は少し考えた後玄関から出てきた。
これは肯定ととってもいいのだろう。
しかし初期の長門そっくりなだけに俺は罪悪感でいっぱいだった。

 俺達は記念すべき最初のSOS団課外活動で訪れた図書館に来た。
図書館に入るといつかのように長門はふらふらと図書館の中と移動し
例のごとく分厚いハードブックがずらりと並んだ本棚の前で
目だけを動かしてめぼしい本を探した。
 そうだ、本物の長門もこうやって俺達とひとつひとつ思い出を
作っていったんだ。
ひょっとしたらこいつも長門みたいに感情を持つようになるのだろうか・・・?
そうしたらこいつは誰なんだ?
長門と同じ姿をして、長門と同じ記憶を持っていて長門と同じ行動をする・・・。
おまえは長門なのか?
「なあ・・・長門・・・」
 長門は顔をあげる。なんおためらいもなく俺の目を見つめ、言う。
「あなたはわかってるはず。わたしという個体は長門有希ではない。
でもその差は感情というステータスの欠落とあなたたちの認識だけ」
「おまえ・・・俺が疑っていることを気づいていたのか」
「おそらく他のメンバーも同様にわたしに違和感を感じていると思われる」
 俺はこいつに嘘をついたら長門に嘘をつくくらい後悔するだろう。
なぜだか今計画をこいつに喋らないといけない気がした。
もちろんそんなものは一瞬の気の迷いにほかならないだろうが
俺の衝動はもはや止まらない。気づくと口は勝手に動いていた。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:52:21.91 ID:yLSoPwob0

「長門、すまない。今日はお前を捕まえにきたんだ」
「…そう」
「おまえの言うとおりおまえと長門の差はそれくらいかもしれない。
でもな、俺達にとっちゃそれが一番大事なんだ。
おまえは感情を除けば何から何まで長門だが、俺達の長門は
この世に一人だけなんだ」
「…そう」
「俺は情報誌念体から長門を取り戻すために過去に行く。
おまえに協力してほしいんだ」
 長門はハードブックに目を戻し、言う。
「長門有希という端末はとても幸せ」
「え?」
「私はあなた達に協力する」

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:54:23.45 ID:yLSoPwob0

 図書館から出ると俺と長門は朝比奈さんと合流した。
「朝比奈さん、長門が協力してくれるそうです」
 朝比奈さんは驚愕した顔で俺と長門を交互に見る。
「え?え?長門さん、それは本当なんですか?」
「事実。私は感情を持たないもう一人の長門有希。
だから長門有希としてあなたたちの力になる」
「よかったあ、わたし長門さんを抑えられるかどうか不安だったから・・・
でも、できれば拘束だけさせてください。これは安全上の措置なんです・・・」
 長門は俺の顔を見たあと
「構わない」
 と答える。朝比奈さんは安堵の表情を見せ、
「ごめんなさい、長門さん」
 小声でぽそぽそと何かつぶやくと
長門は腰あたりを紐で結ばれたように身を縮めるがすぐにほどける。
「長門さんのインターフェースとしての能力を制限させてもらったわ」
「…そう」
「すまない、長門。朝比奈さん、行きましょう。12月18日、
長門が世界を再構築した日に」
「待って、問題がある。私達の行動を阻止しようとする者がいる」
 長門が言う。どういうことだ?
「そのとおり。残念だけど、そうはいかないわ」

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:56:52.49 ID:yLSoPwob0

 声のした方に目を向けると俺は目を疑った。いや、俺だけじゃない、
朝比奈さんも驚きをあらわにしている。
 なぜだ?なぜおまえがここにいる?おまえがいるなら
情報統合思念体も長門も知っているはずだ。
「久しぶりね、キョン君。あれからどう?おかわりない?」
 そうだな。俺の方はいたって元気さ。おまえこそなんで
そんなにぴんぴんしてやがるんだ?
「そうね、これはたぶん長門さんのおかげ。それとさすがに3回も
再構築されたらこの世界にもバグが生じるみたい」
 1度目は3年前のハルヒ、2度目は長門、
3度目はこんがらがった世界を元に戻すために長門がやった。
その結果おまえが帰ってきた。そういうことか。
−−朝倉。
「ええ。わたしは改変された世界で唯一復活した人間。
いえ、改変された世界では人間だった。
でも長門さんが世界を元に戻すとき、
世界は度重なる改変の負荷に耐えられず、
私の個体の情報をごっちゃにして世界から切り離した。
そして私はインターフェースとしての力を取り戻し
世界に認知されえることなく留まることになった」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:58:43.56 ID:yLSoPwob0

 長門のマンションの5階にいたのはおまえか。
それでどうしていまさらになってひょっこり出てきた?
なぜずっとなりを潜めていた?
「それは単に私の覚醒が遅かっただけ。つい昨日目覚めたんですもの」
びっくりしたわ。でも嬉しかった。
だってこれで私はまたあなたを殺せるんですもの」
 朝倉は教室のときにも世界改変の日にも見た
冷徹で笑わない仮面が笑ったような笑みを浮かべる。
 と、俺は間一髪朝倉を避けた。見ると右腕から血が流れている。
朝倉が握っているのは夕暮れの教室をバックに見たサバイバルナイフ。
「キョン君逃げて!私が長門さんの拘束を解除するまで逃げるのよ!」
 朝比奈さんは叫ぶ。長門は朝倉を静かに睨む。俺は逃げ惑う。
「無駄。この周辺25メートル四方に結界を張ったわ。
ふふ、キョン君、2度も生まれ変わって気づいたんだけど
私やっぱりあなたを殺したいみたい。涼宮さんとか長門さんとか
そういう理由を全部抜きしにて個人的に殺したいんだと思うわ」
 そう言うと朝倉は俺の体の自由を奪った。
「そいつは弱ったな。今回は長門も俺も文字通り手も足も出ない、
朝比奈さんは長門で手一杯。王手飛車取りってところか」
 皮肉っぽく笑ってみた。これが俺の精一杯の抵抗、そして強がりだ。
「王様は逃げるのかしら?」
「俺が王なら飛車を助けるために逃げないだろうな」
「そう、じゃあさよならね」
 朝倉のナイフが俺を捕らえる。心臓を貫く。顔を引き裂く。
何度も何度も滅多刺しにする。朝比奈さん絶叫する。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 04:00:42.17 ID:yLSoPwob0

「あなた達にも消えてもらおうかしら」
 朝比奈みくるが悔しそうに唇を噛む。
「くっ…!」
 そのとき私は朝倉涼子の結界内にある異変を感じた。
そして悟った。
「終わった」
「あはははは!何が?キョン君のことかしら?」
「違う。あのときもそう。あなたは見落としのせいでまた私達に負ける」
 朝倉涼子は顔を歪める。
「どういうこと?」
「こういうことだ」
 そこで彼はタイミングよく出てきた。
「よお朝倉。
なにやら楽しそうに俺がとっておいたあんぱんを切りつけていたが
変わった趣味をしてるんだな」
 朝比奈さんは突然出てきた俺に目を丸くしている。
無理もない、さっきまでそこにあった俺の惨殺死体の存在を
完全に無視して出てきたわけだからな。
 と、ここでネタばらし。
さっき俺は長門を迎えに行く時間として空けた30分に
オーパーツの使い方を学んでいたのさ。
それで長門に会いに行く前に
残しておいたあんぱんを俺にしておいたってわけだ。
言ってみればベタな対抗手段だがなかなかいい作戦だったと自負している。
これには朝倉も苦笑いだろう。
 朝比奈さんはすっかり忘れていたようだがな。
相も変わらずうかりしておられる。
「おまえが討ち取った王様は影武者だったのさ、朝倉」

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 04:02:16.82 ID:yLSoPwob0

「ならもう1度殺すだけよ!」
「残念だけど、そうはいかないわ」
 朝倉が振り返るとそこには
さっきの朝倉のセリフをそのまま返した朝比奈さんと
拘束を解かれ早くもプログラムを組んでいるっぽい長門がいた。
「あなたはとても優秀。
このタイミングで結界を張り無防備となった彼を狙った。
でも半年の間、彼はただの高校生として過ごしてきたわけではない。
それが誤算」
 朝倉はいつぞやのように体が細かい粒子になって消え始めている。
今日はなんだか懐かしいものを多く見るな、となぜかこんなときに
感慨にふけってしまった。
「あーあ、また私の負けか。いいわ、3度目だものね。
もうそろそろ潔く負けを認めるわ。
今度会ったときは友達になれるといいわね」
 どうだか。本心で言ってるなら考えてやってもいいがな。
「ふふ、じゃあね、キョン君。長門さんと涼宮さんによろしくね」

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 04:04:17.78 ID:yLSoPwob0

 12月18日午前5時42分
 彼と別れを告げたわたしの目の前に何者かが現れた。
それはわたしだった。
「あなたは?」
 わたしは問う。
「私はあなたの代わり。
あなたが情報統合思念体に調査されている間、涼宮ハルヒの監視をする」
「情報統合思念体はの意見は?」
「あなたの即時帰還を指令としている」
 やはりもう私の処分は決まっているようだ。
「情報操作を終えたら帰還する。あなたは明日に備えて家に帰るといい。
情報操作が終わったころにはあなたはわたし」
「・・・そう」
 彼女はそれだけ言うとさっさと去っていった。
わたしは彼の忠告に従い同期を停止する。
 12月18日午前5時48分
 さあ始めよう。わたしの最後の仕事を。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 04:06:49.10 ID:yLSoPwob0

 情報操作は終わった。彼女をわたしにして
12月17日の部活が終わったあと彼が階段から落ちたことにする。
 今まさにその状況に私はいる。彼の体をそのまま
階段に転送したため気を失った彼は受身をすることもなく
落ちていった。迂闊。ごめんなさい・・・。
 そしてわたしは彼を、彼らの姿を目に焼き付けその場を後にした。
背後で誰かが引き止めるような声がしたがわたしは自分を転送する。

 自宅に帰る。
人間を真似て思い出を振り返ってから帰還しようかと思ったのだ。
わたしの代わりはまだいなかったが、そこでわたしは思わぬ客に驚く。
彼がいたのだ。
「よお、長門。1ヶ月ぶりか?いや、おまえはそうでもないのか」
「すみません、長門さん。あの、いつ帰ってくるかわからなかったので
勝手にあがらせてもらいました」
 状況が読み込めないでいると、もう一人のわたしが口を開く。
「彼は1ヶ月後の未来からあなたを救うため来た。
今から私とあなたが入れ替わる」
 それを聞いてわたしはうれしかった。
彼はわたしがちりばめた情報を探し出し、情報統合思念体に立ち向かい
わたしを救うためにわざわざやってきてくれたのだ。
だが喜ぶのもつかの間、一抹の不安がよぎる。
「しかし情報統合思念体にはわかってしまう」
「その点ならこのオーパーツがあるから大丈夫ですよ。
これはある対象を何から何まで完全にコピーするんです」
「長門、帰ろう。俺達はおまえじゃなきゃだめなんだ。
どんなに姿かたちが似ていようとも、俺達とトラブルを
くぐりぬけてきたのは他の誰でもない、おまえなんだ」

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 04:08:51.59 ID:yLSoPwob0

 かくして長門は俺達の元へ帰ってきた。
だがすぐには帰らず、長門の希望により俺が目覚める日の深夜の病院に
寄り道することになる。
俺と朝比奈さんは病室前で待機だ。
 そういえばあの日は長門が来たんだっけな。
それで自分の処分がどうのと説明されたんだ。
そしてその後恋愛小説を渡されたと記憶している。
 病室から長門が出てくる。
「情報統合思念体には見つからないのか?」
「同期を停止しているから大丈夫」
「まああいつとの賭けだしな。
長門を奪還したら情報統合思念体もおまえの研究を諦めてくれるらしいぞ。
じゃあ朝比奈さん、お願いします」
「はい、じゃあ行きますよ」
 そしていつものキッツイのがクる。
今回も何度かもらったがやはり慣れないもんだ。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 04:10:34.63 ID:yLSoPwob0

 さて、とりあえず月曜日の夜の長門の部屋に帰ってきたわけだ。
「長門、今回のことについていろいろと聞きたいことがある」
「わかっている」
「まずはなぜ文面で俺達にSOSを出したんだ?
それなら直接言えばよかったんじゃないか?」
「それは心境の変化。あなた達とともにいたいという思いより
あなた達に迷惑をかけたくないと思うようになった。
文書を作ったのは前者の時期」
 なるほどね、なかなかにありがちな理由だがひとまず納得しておこう。
「じゃあなぜさっき病室のキョン君にあの本を渡したんですか?」
「それはわたしを救いに来てくれたあなた達と会ったせい」
 朝比奈さんは納得したような顔で、
「ふふ、やっぱり一緒にいたいと思ったんですね」
 とイタズラっぽく笑う。
「じゃあ3年前に12月18日のバグの原因を教えてくれたとき
本当のことを言わなかったのはなぜだ?あのころのおまえなら
俺達に迷惑がかかるから、とか考えなかったはずだろ」
 実はこの問いについては俺自身の中でなんとなく予想がついている。
「それはわからない」
 やっぱりな。そう言うと思ったぜ。
きっとあのとき未来と同期したおまえに感情の一部が
一時的に情報と一緒に流れ込んできたんだろう。
俺に心配かけたくないってな。
じゃあないと常に理にかなったおまえがあんな矛盾だらけの
ヒントの出し方はしないはずだ。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 04:12:37.26 ID:yLSoPwob0

「そういえば長門の代わりが失踪したのは俺達のせいだったんだな。
ひょっとして、情報統合思念体の長門の情報操作が遅れたのは
それが関係してるのか?」
「おそらくそう。情報統合思念体は長門有希の意図せぬ失踪に対して
それを利用し涼宮ハルヒの行動を調べるか、
まだその時期ではないか迷った可能性が考えられる」
 なるほどな・・・。
「話は変わるが、なんで敢えて恋愛小説を選んだんだ?
長門なら六法全書みたいな厚さの本をすすめてくると思・・・いってえ!!」
 なぜか朝比奈さんに思い切り尻をつねられた。
「キョン君、そういうことは聞かないのが紳士よ」
 言ってる意味がさっぱりわかりません、という言い訳は通用しない
とでも言いたげな表情で朝比奈さんが睨みつけてくるもんだから
俺はあわてて話題を変えた。
「なっ、長門!バグの原因、なんであれにしたんだっ?
ほら、ハルヒのエラーデータがたまったとか言ってたろ?」
 それを聞いて朝比奈さんは額に手を当て「あ〜あ」と
いう顔をする。は?え?なんだこの反応は。俺は地雷を踏んだのか?
「それは・・・」
 めずらしく長門が言いよどむ。
「涼宮ハルヒに対する嫉妬が原因だと・・・思われる・・・」
 下を向く長門。気まずい沈黙が部屋を支配する。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 04:14:15.60 ID:yLSoPwob0

 再び長門が口を開くが、
俺は一瞬長門の言ってることがよくわからなかった。
目をぱちくりさせているとご親切にも長門はもう1度言ってくれた。
「あなたの記憶を操作する」
 俺の耳は正常に作動しているようだが、長門は正常に作動しているのか?
なぜこのタイミングで俺は記憶をいじくられなきゃならないんだ?
「当然ね。諦めなさい」
 朝比奈さんまで何言ってるんですか?ちょっとちょっと?
「長門さん、冬季合宿の記憶はどうするの?」
 俺の困惑を無視して2人は会話を続ける。
「彼の賭けが本当なら情報統合思念体より補填できる」
 そういえば朝比奈さん、オーパーツはどうなるんですか?
「こっちの丸い方は未来の文献では今より未来で
発掘されることになってるから私が帰る前にしかるべき場所に埋めていくわ。
こっちの始動キーもね。もっとも始動キーはキョン君が掘り返すのよ。
それとこの時代でオーパーツに関わる記憶を持つ人ては未来の都合上、
情報操作の対象になるでしょうね」
 また朝比奈さんは意味ありげに笑う。
「じゃあキョン君、おやすみなさい」
「また明日、学校で」
 その声を合図に俺は意識を失った。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 04:16:14.96 ID:yLSoPwob0

 さて、鶴屋さんの家へ遊びに行ってから2週間が経った。
SOS団は悪の生徒会長によって存続の危機に立たされていた!
文学部の活動としてのために本を書け。書かねば部室は没収するという
なるほど納得のいく内容だが団長様からしたら職権濫用の横暴らしい。
そんなわけで先週から俺達はせっせとペンを走らせているわけだ。
とはいえ、俺のシャーペンはバグったファミコン画面のように動かない。
そもそも俺に恋愛小説を書けというのが間違っているんだ。
それなのに俺は律儀にも授業が終わればいち早く部室に足を運び、
早々に3つも作品を仕上げた長門を横目で羨みながら頭を悩ませているんだから
つくづくお人よしだなあと実感してしまう。
おっと、異論は認めない。
 だがもう1週間になるのにだいたいの粗筋すら決まらない。
ああもう!とペンを投げ出し、ふと喜緑さんに妙なことを言われたのを思い出す。
 それは先週の火曜日だった。廊下でふと出会った喜緑さんが
「こんにちは、昨日はお疲れ様でした。
情報統合思念体もまんまとやられたと負けを認め、長門さんを諦めましたよ」
 と笑顔で言ってきたのだ。はっきり言って俺にはさっぱりだ。
なんのことだか見当もつかない。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 04:18:27.28 ID:yLSoPwob0

先々週まで記憶を遡ってみるが、長門がらみのトラブルは
思い当たる節がない。
順風満帆に部員全員元気に登校し仲良く下校したくらいだ。
 そのあと生徒会長の呼び出しによる文芸部の最後通告があったので
そんなことすっかり頭の端っこにおいやってしまった。
「なあ長門、先週なんかあったか?」
 俺の問いに長門は本から視線をはずさず、
「とくに」
 と答える。
「そうか。世界改変の日にも言ったが、もしなんかあったら
俺達に言えよ。俺達はおまえじゃなきゃダメなんだからな」

68 名前:1(規制中)[] 投稿日:2008/10/07(火) 04:24:27.66 ID:VA2anghjO

わたしは耳を疑った。彼の記憶は確かに操作したはずなのに。
しかしそういうこともあるだろうと思う。
わたしにも失敗くらいきっとあるのだから。
でも、これが彼のわたしへの思いによるものならば、と思いながら
「ありがとう」
と言う。

69 名前:1(規制中)[] 投稿日:2008/10/07(火) 04:26:16.78 ID:VA2anghjO

なんだなんだ?なぜか長門の元気がなくなった(ような気がする)。
困った、まさか長門を落ち込ませるとは...なにか言って
元気を出してもらわねば。なんと言えばいいだろう...。
そして俺は無意識に口を動かしていた。
あまりに無意識だったんでなんて言ったのか自分でわからなかったほどだ。
すると長門は驚いたような表情を見せた(気がした)。
そして長門はたしかに笑ってこう言った。
「わたしも」
と。
長門には悪いが俺はなんて言ったのか覚えていない。
でもなにやらご機嫌な様子なので俺は敢えて黙っていた。

今日も平和だ。どうせそのうち嵐みたいなやつが飛び込んできて
そんな淡い安息も吹き飛ばしてしまうんだろうがな。
だがそれでいい。少しくらい騒がしい方が人生楽しいってもんだ。
もちろんそれにはSOS団全員がいなくちゃ意味がない。
それに俺はそんな生活が楽しくてたまらないんだからな。
そんなことを考えていると部室のドアが勢いよく開いた。

終わる

70 名前:1(規制中)[] 投稿日:2008/10/07(火) 04:27:19.02 ID:VA2anghjO

稚拙な文章な上今単行本が手元ないから時系列おかしいかもしれんけど
ご静聴ありがとうございました



ツイート

メニュー
トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:コナン「博士、今日の夕飯は?」阿笠「元太君の丸焼きじゃ」