1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 19:22:28.86 ID:UCZsb2ut0
「夏だ! 海だ! 海水浴だ!」
膝近くまで伸びた青い髪の少女、泉こなたがバスから降りて叫んだ。
「今は秋だし、ここは山よ!」
紫の髪をツインテールにまとめた少女、柊かがみが続いてバスから降りつつ
冷静に突っ込みをいれる。
「まあまあ、細かいことは気にせずに。 ね?」
ふわふわとこなたが返す。
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 19:23:51.46 ID:UCZsb2ut0
「しっかし綺麗な山だねー! 見事なまでの紅葉だよ。
かがみんの強運に感謝感謝。 さすが巫女さんだねっ」
こなたはたて続けに言うと、手を額に当てて周囲を見渡した。
「巫女なのは関係ないし、たまたまよ、たまたま。 適当に応募した懸賞に当たっただけよ」
二人は今、紅葉と夕日で真っ赤に染まった山々に囲まれている田舎町に来ている。
かがみが旅行パンフレットに掲載されていた紅葉で綺麗に色付いている山々の写真が気に入り、
詳しく調べると、その麓の町が町おこしの一環として旅行チケットの抽選をしていることがわかった。
早速応募したところ、懸賞の当選には縁のなかったかがみだったが今回は見事当選したのだ。
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 19:29:46.45 ID:UCZsb2ut0
「とりあえず、今日のところは旅館に向かいましょ」
しばらく周りの景色に見とれていた二人だが、徐々に夜の帳が降り始め、
周りは薄暗くなってきていた。
「ごめんねかがみん、 わたしが乗り物酔いしたせいで予定ずれちゃって……」
旅行前の予定では初日もいくつかの場所を観光する予定だった。
しかし、乗り物酔いをするこなたが、薬を飲んだにも関わらず酷く酔ってしまい、
何度も予定外の休憩をはさむことになってしまった。結果、到着が遅れてしまったのだ。
「気にしなくて良いわよそんなの。 酔っちゃう時は酔っちゃうし、まだ明日と明後日があるんだしね!
さ、今日は旅館でゆっくり休みましょ」
かがみは建て前ではなく、本心から当然のようにそう言った。
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 19:33:47.48 ID:UCZsb2ut0
「…かがみん優しいね」
ぽーっとかがみを見つめてこなたが呟いた。
「な、何よ。 ほめても何も出ないわよ! さぁさぁ、早くしないと本当に日が
暮れちゃうわ! キビキビ歩くのよ!」
照れ隠しをするように矢継ぎ早に言葉を連ねるとかがみは地図を片手に歩き出した。
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 19:39:19.49 ID:UCZsb2ut0
旅館はパンフレットの写真よりずいぶんくたびれて居るように見えた。
しかし、田舎ながらの風情も感じることができた。
夕食は驚くほど豪華では無いが、
周囲の山々で採れたであろう山菜や川魚をふんだんに使った料理が並んだ。
丁寧語なのか、高圧的なのかわからない独特なしゃべり方の若女将が、
この料理は自分が作った、と自慢しにわざわざ部屋まで来たのが印象的だった。
運ばれてきたときには少し量が多いかなと、口にした二人だったが、結局完食してしまった。
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 19:40:35.24 ID:UCZsb2ut0
「あんなに食べたらまた太っちゃうわ……」
「コロネ体型のかがみんも面白いと思うよ」
「下半身太り……最も嫌な太り方ね」
こなたが部屋の明かりを消すと、窓から静かに月の光が入ってきた。
「田舎なのに星があんまり見えないね」
窓際の椅子に腰掛けたかがみが空を見上げながら呟く。
「満月だから月が明るすぎるんだよ、月は綺麗だけどちょっと残念だね。
窓からだと月がある方向しか見えないしね」
こなたがかがみの向かいの椅子に腰掛けて同じように空を見上げる。
しばらく二人の間に沈黙が降りた。静かで綺麗な時間だと二人は思った。
かがみは視線を空からこなたへ移した。こなたはまだじっと空を見ている。
何を考えているんだろうか。こなたの目が少し悲しそうに見えた。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 19:43:25.86 ID:UCZsb2ut0
「ん? どったの?」
こなたがかがみの視線に気づいた。
「なんでもないわよ。 そろそろ寝よっか」
なんでもないことはなかったが、具体的に何がというのはわからなかった。
かがみが椅子から立ち上がり布団に向かう。
「まさかわたしにみとれてた?」
こなたが冗談を言うようににやけて後を追う。
「そんなことあるわけないでしょ! こなたは子供っぽくしか見えないわよ!」
「うっ、かがみんが酷いこと言う」
泣きまねをするこなた。子供っぽいだけと言ったかがみだったが本当は少しみとれていた。
運動が得意だけど、小さくて華奢な体つき。そんな体のこなたが
静かに月の光に照らされている様子は触ったら崩れてしまいそうで、本当に綺麗だった。
移動の疲れか二人は布団に入るとすぐに眠りについた。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 19:48:17.03 ID:UCZsb2ut0
翌日、二人は事前の予定通り田舎町を観光して回った。
古い伝統的な建物、都会では見られない段々畑。目に映るもの全てが新鮮で、壮大だった。
時間を忘れて各所を巡っているとすでに夕方前になっていた。
「次はどこに行こうかな?」
二人は道の真ん中で観光用の地図を見ている。
「この時間だと遠出はできないし、行けるとしたらこの神社ぐらいかしらね」
地図によると二人の現在地から少し北に行った所に神社があるらしい。
二人は迷ってる時間も惜しいと神社に行くことにした。
「おや、観光かい?」
二人が神社に向けて歩き出そうとした時、後ろから男に声をかけられた。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 19:52:15.52 ID:UCZsb2ut0
男は手にスーパーの袋を持っていた。隣りにはこなたに負けないぐらい長い黒髪の女がいた。
二人が訝しげな顔をしていると
「ほらあなたがいきなり話しかけたから驚いてるじゃないですか」
女が男を叱った。どうやら夫婦らしい。
「あぁ、わりぃ。 俺たちはこの町……というよりは村っぽいけどな、まあここに住んでるんだ。
昨日観光で女の子が二人来てるってみんなが話してたからさ、見ない顔だから君たちだなって思ってさ」
どうやら小さい町では誰かが観光に来たという事がすぐに伝わるようだ。
「えぇと、はい、私たちは観光できてます」
この町の人とはいえ、誰だっていきなり見知らぬ大人に話しかけられたら緊張してしまうだろう。かがみはぎこちなく答えた。
「そんなにかたくならなくても良いのですよ」
女がにこっと笑う。
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 19:58:49.01 ID:UCZsb2ut0
「向かう方向から察するに今から行くのは神社だろ?
あそこはもうだいぶ前に祭りも終わったし、あんまり面白く無いが……実は敷地内に村を見下ろせる絶景スポットがあるんだ」
男がいじわるそうににやりと二人を見る。男が面白くないといった時、女は少し悲しそうな顔をした。
「絶景スポット…」
かがみが呟く。
「うーん、でもこんな情報を教えてもらうってのには、条件がありそうだね」
こなたはいじわるそうに笑う男に何かいかがわしいことがあるのではないかと思った。
「勿論条件はある。 でも簡単なことだから、安心して欲しい」
男は先ほどとは違った真剣な顔で二人をみた。二人は静かに頷く。
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 20:00:21.52 ID:UCZsb2ut0
「じゃあ条件を言うのです。 今回この村に来たことをどう思ってますのです?」
そう女が二人に質問した。二人は条件というぐらいだから頼み事や金銭を取られるかと思っていた。
「この村に来たことをどう思うか、ですか」
何か深い意味があるのだろうか。あったとしても関係無い。
二人はこの村に来て感じたことを誰かに伝えたいと思っていたのだから。
「景色とか綺麗というか……」
「都会にはないゆとりがある気がする? なんだか違うなぁ」
他にも沢山テンプレートのような答えを言っていく。それが本心だった。
しかし、言いたいこととは少しずれている気がした。
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 20:05:34.84 ID:UCZsb2ut0
「それでやっぱり、なんて言うか楽しかったし来て良かったと思う」
「良い経験した、とかそう言うごちゃごちゃしたのは無しで、来て良かった。
これにつきるね!」
二人はお互いに頷く。夫婦は真剣に二人の話を聞いていた。
「で、どうかな!」
二人ともうまい答えではなかったと思っている。絶景スポットをあきらめるのは残念だが、
言いたいことを言えて満足ではあった。
「君たちの気持ちはよくわかった」
男が真剣な顔で二人を見つめる。二人はだめだったかとあきらめた。
そのとき、男はまた最初時のようににやりと笑った。
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 20:10:46.14 ID:UCZsb2ut0
「合格だ。 絶景スポット教えてあげるよ。 境内の裏の方にある広場なんだけどね、案内するよ」
「神社は私たちの家でもあるのですよ」
夫婦はにこやかにこっちが近道だと歩き始めた。二人はお互いに首を傾げながらついていく。
「どうしてさっきの答えで合格なんですか?」
神社に向かいつつかがみが男に聞いた。
「君たちが本心で言ってくれたからさ」
優しく笑って男が答えた。その表情は何か昔を思い出しているような表情だった。
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 20:22:04.24 ID:UCZsb2ut0
本当に絶景と呼ぶに相応しい景色に二人は息をのんだ。夫婦とは広場の手前で分かれた。
もう一度会えたらお礼の言葉を積み重ねたい、そう思った。
「本当に綺麗だね……」
「……うん」
二人は黙って夕日に輝く山々と村の風景を眺めた。少し経ってかがみが視線をこ
なたに移した。こなたはまだ景色にみとれている。やっぱりこなたは綺麗だ。か
がみはそう思った。もう一度景色に視線を移す。
「綺麗……」
呟くと同時にかがみの目から涙があふれた。涙の理由は自分でもよくわからなかった。
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 20:25:43.41 ID:UCZsb2ut0
「かがみんどうしたの? 大丈夫?」
こなたが心配そうに近寄ってくる。
「なんでだろ、なんだかよくわかんない」
かがみの涙はあふれる一方だった。綺麗な景色に感動したのだろうか。それもあると思う。
けれどそれだけじゃない。何かが、かがみを泣かせていた。
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 20:29:17.47 ID:UCZsb2ut0
かがみが落ち着いた頃にはすっかり日は沈んでいた。広場の小さなベンチに二人
は寄り添って座っていた。
「……ねぇ、こなた」
「ん?」
「……私、こなたの事が好き」
かがみは静かに言った。前々から伝えたかった思いだった。
「……そっか」
こなたはかがみの次の言葉を待っているようだった。
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 20:31:52.52 ID:UCZsb2ut0
「ずっと好きだった。 でもよくわからないの。
恋人の好きなのか、友達の好きなのか。
ずっとわかんない。 けど昨日思ったの、こなたはすごく綺麗だって。
だから私の気持ちも綺麗に受け止めてくれるんじゃないかって」
かがみはゆっくりと言った。今度はかがみがこなたの言葉を待つ。
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 20:34:23.03 ID:UCZsb2ut0
「わたしはそんなに綺麗じゃないよ。 がさつだと思うし、そんなに外面をお洒落にしてるわけでもないし。
きっとかがみんはわたしの内面も綺麗って言ってくれてると思うけど、
沢山嫌なこと考えることも多いし綺麗じゃないと思う。
だからかがみんの気持ちを綺麗に整理してわかってあげることは出来ない」
そこまで言ってこなたは少し間を開け言葉を続けた。
「でも、手伝ってあげることはできると思う。
わたしも、かがみのこと好きだよ」
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 20:36:31.45 ID:UCZsb2ut0
少しの沈黙。先に口を開いたのはこなただった。
「ごめんね、全然考えまとまんなくて」
「ううん、好きって言ってくれて嬉しい……ありがと」
再び沈黙。今度はかがみが口を開いた。
「……星が綺麗」
ずっと俯いていた顔を上げて空をあおぐ。
月とは反対側なのか、窓という限られた枠が開放されたからか、頭上には満天の星空が広がっていた。
「……かがみの方が綺麗だよ」
こなたは星空を見上げるかがみを見つめながらそう答えた。自分でもベタだなと思った。
「……ベタね」
かがみはくすっと笑い、こなたと見つめ合った。そして静かに目を閉じた。
おわり
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 20:38:00.72 ID:UCZsb2ut0
「良いムードなのですよ」
境内から二人に見つからないように覗きこむ夫婦がいた。
「全くうらやましいぜ」
「あなたには私が居るのですよ。 ご安心」
「そうだな。 でもちょっと昔に戻りたいと思った」
男が女の頭を撫でる。女は嬉しそうに笑う。
結婚して5年経つ今も実に仲の良い夫婦だ。
「あなたもあそこで告白とプロポーズしてくれたのでしたね」
幸せそうに笑う女。
「みんな俺がお前と付き合うって言った時はすげー驚いてたよな」
「このロリコンめ!っていわれてましたのです」
間違っちゃ居ないな、と男は思った。しかし公言はしない。
女もその通りだと思った。でも口には出さなかった。お互いが同じことを考えてるとわかっているからだ。
「あの二人うまく行って良かったな」
「あれもこれも全部、私たちが未来を勝ちとった結果ね」
懐かしそうに笑いあう夫婦。
その夫婦の奥には二つのカップルを遠巻きに、うれしそうに見つめる少女が居た。
ほんとにおわり
51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/22(月) 20:45:05.83 ID:UCZsb2ut0
まずは読んでくれた皆様、ありがとうございます。
初めてSSを書いたので至らない部分がたくさんあると思います…。
黒歴史には違いないですし、短い文章ですが
最後まで書き上げた達成感はあります。
かがみやらこなたの心情が飛びすぎていると思いますね…。
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/09/22(月) 21:01:50.19 ID:UCZsb2ut0
また新しくSSかけたらスレ立ててみたいと思います。
読んでもらえてうれしかったです。ありがとうございました。