ハルヒ「もう、離さないんだから!」


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11 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/14(日) 23:26:03.67 ID:XW2MCBtt0

冬も佳境、学校のお偉いさんがドタバタ走り回るかは知らないしそんなことどうでもいいのだが、師も走ると言われる師走のある日のこと。
色々あったが、こうして平和に高2の冬を迎えているわけだ。
今日は22日、たしか去年は今頃……。
身の毛もよだつ、忘れもしない。今も夢に見る。
幸せな日々なんて続きやしない、必ず物事には終りがある。
そんな恐ろしい現実を突きつけられた、おぞましい事件のあった頃だ。
だが、あの事件はあの事件で、逆に俺にSOS団や朝比奈さん、長門、古泉、そしてハルヒ。

SOS団がいかにかけがえの無いものかを認知させてくれた、ある種、思い出でもある。
ちょっと、思い出と言うにはあまりに辛すぎるものだがな。


草木も眠る、限6つ。更に今日の6限は理科の授業。
右から左へ淀み無く流れていく数々の言葉。あぁ、もう限界。

気づけば俺は夢を見ていた。懐かしい、だが重々しい夢だ。

13 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/14(日) 23:28:54.47 ID:XW2MCBtt0

――自分の小ささを思い知ったことがあるか

そんなもん、「救世主の陰に隠れて不思議体験」なんて都合良く適当な願いを持っていた俺だ。
俺の全くもって無為な構想の選択リストにすら挙がらなかった。
よって、あの時の俺は何も言えなかった。

でも今は違うね。あんな、思い出すだけで憂鬱になる思いをした後だ。
そうだな、今の俺なら何て言うかな。

「そうさ、この世の中なんてのは……」


「――ョン?」

「キョン! ちょっと…さいよ!」

ん? はっ!

「何で寝てんのよ。あんたの期末考査の結果次第で今年のSOS団年越し企画の行方が決まるってのに、のんびり寝てる場合じゃないでしょ」
ハルヒは怒りながらも、どこか閑かな目で俺を見ている。

ああ、スマン。馬の耳に念仏、釈迦に説法、と言うだろう?よって、俺の耳に…

ゴツンッ

目の前が暗転する。あぁ、SOS団の始まりを思い出すな。

これは走馬灯だろうか。

17 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/14(日) 23:31:59.12 ID:XW2MCBtt0

授業はつつがなく終了した。理科の授業も然り。
いや、あれは教師も少しは気づいてくれてもいいようなもんだが。
頭のたんこぶを擦りながら部室へ。
だが、足取りは重くない。むしろ軽やかだ。

部室に入ると、そこには見慣れた面々が既に揃っていた。
あのいけ好かない営業スマイル野郎も例外ではない。
我らが団長は御椅子に座ってつまらなそうにパソコンに向かっている。
まぁ、パソコンに向かうイコールSOS団のサイトの確認、なんだがな。
何を確認するのかは知らないが。

俺もいつもの席につき、
いつものお茶を賜り(普通人の私めにここまでして下さるお方だぞ)
いつものボードゲームに精を出す。
いつもの様に長門は本を読み
いつもの様に古泉も俺と対局
いつもの様に朝比奈さんもぱたぱた働いて

いつもと変わらない平和な日々。最近はこういうのが多いな。
大いに結構。閉鎖空間という名の人生のグレーゾーンなんか二度と行きたくもないし、
クラスメートに刺殺されるなんてもっての外。
なんて平和なんだろう。

だが、この平和なご時世の中、何の巡り合わせか、SOS団に入ったからには、
一つ、ある鉄則、言葉を覚えておくととても便利だ。
これを肝に銘じておくと、生活をスムーズに送れる。
というか、心の準備が出来る。


そう、『嵐の前の静けさ』

19 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/14(日) 23:34:58.32 ID:XW2MCBtt0

「ねぇ、キョン」

ほれ来た。言わんこっちゃない。嵐だな、これは。
考えている間もなくハルヒが更にかぶせてくる。

「キョンってば、聞いてるの?」

やれやれ、何事も慣れが肝心だ、俺流処世術も完成の日は近いな。
とりあえずは返答だ。だいたい用向きは察しが付く。

「クリスマスも近い、少しなら調達その他雑用を手伝ってやらんこともない。」

どう言ったところであいつの考えたことは実現するんだ、というかさせられる。
ここは無抵抗に限るね。

「そうじゃないの」

おっと、更に嫌な予感。
そりゃここ一ヶ月何も大きな行動を起こさなかったんだ、ある程度は覚悟しているが。
仕方ない、聞いてやろう。じゃあなんだ?


「今年のクリスマスは、家で過ごしたい?
別に、パーティー、嫌ならやらなくてもいいわよ?」

21 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/14(日) 23:37:19.80 ID:XW2MCBtt0

沈黙。

ハルヒは今何と?
クリスマスを忘れていたから急いで商品を調達して来なさい!
じゃなくて
クリスマスパーティーをやめてもいい? だと?

「はぁ?い……今さら何を言い出すんだハルヒよ」


俺は二の句を次げない。朝比奈さんは穏やかな顔をしている。
あぁ、そうですね、サンタコスプレをしなくて済みますもんね。
俺は残念ですが。

それはいいが、ともかく、これは否定しないと。
何故かって?
俺だって俺なりに想いを持ってやってんだ、この部活を。
いや、そうやってやってる気にでもしないと、やってられんのだが。
しかし、今さら自分のトンデモ行動にケチをつけるとは……。天変地異とはこのことだ。

「とにかくだ、そんな訳の分からんことを言うな。」

ハルヒは黙って俺の目を見ている。
これ自体は今となってはそこまで珍しい事でもないが、何かおかしい。なんだ、この、猜疑心の塊の様な視線は。
確かに俺ならば、ここは偉人の名言を引用してきたり、もっと何か肯定的なことを言ってもいいはずだ。

25 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/14(日) 23:40:59.07 ID:XW2MCBtt0

しかし、だ。

「第一に、今さらお前がそんなことを言い出したら、
今までのSOS団の数々の訳分からない強制参加トンデモ行動の90%をお前が否定することになるんだぞ?」


「何があったか知らんが、今日は家に帰ってとっとと休め。悪いことは言わん」

ハルヒは少し考えた後に一言。

「そう……よね。キョン、今のは無し!忘れちゃって!」

そう言いつつとって付けたような贋作の笑顔を向ける。
こんなこと今まで一度もなかったぞ、ハルヒ、どうしたってんだ?

その後の活動で特筆するようなことは何もなかった。
ハルヒを除く3人はいつも通り。相変わらず古泉は俺に負け続ける。
ハルヒは外を眺めたり、部員の顔をじっと凝視したかと思えば、
意味もなく俺と古泉のオセロの盤上にただ茫然と目を落したりする。
俺はそんなハルヒが気になりつつも、触らぬ神に祟り無し(まさに言葉通りだな)
いつもと変わらず普通に過ごしていた。
でもきっと、最終的には俺達4人は同じことを考えていただろうね。

「嵐の前の静けさ」 と。

29 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/14(日) 23:44:49.51 ID:XW2MCBtt0

(訂正)
だが、その翌日も、その次の日もこんな感じだった。
ハルヒは何をするにも、どこか上の空。窓の外をぼーっと眺めている。
何か悲しげな眼だ。
ハルヒが悲しい眼をする、なんてことは滅多に無く、一枚ぐらい写真を撮っておきたいぐらいだった。
あまりにも絵になっていたのだ。
美しいな少女が、寂しげに青空を眺めている。
――なんてどうでもいいことは、正直俺は考えていなかった。
それよりも俺は、何か胸に引っかかるハルヒのおかしな雰囲気の方を強く感じていた。
ハルヒがSOS団に気を遣う?
一体どういう風の吹きまわしだ。

31 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/14(日) 23:46:32.07 ID:XW2MCBtt0

放課後。
長門に助言を求めると

「思春期」

おいおい、それはちょっと違う気が……。

「言葉を換える」

「中二病」

まぁ、当たらずとも遠からず、最もな意見ではある。
だが、あいつ自体が中二病みたいなもんだぞ。
これは苦笑せざるを得ない。流石は長門だ。

「今のところ、閉鎖空間は発生していませんし、特に問題はないと思いますよ。
最近は閉鎖空間自体の発生も稀ですからね。
確かに最近涼宮さんの思考は後ろ向きですね。
ですが、涼宮さん自身、さばさばした性格をしてらっしゃいますし、そのうちに時間が解決してくれるでしょう」

「それよりクリスマス、暇ですよね?よければ僕と……」

俺以外のSOS団の面々はスーパー高校生だし、俺の主観的判断よりもハルヒ関連においては信頼が置ける。
彼らスーパー高校生が安全と言うからには安全なんだろう。

34 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/14(日) 23:50:33.89 ID:XW2MCBtt0

ガタッ
扉が開く。そんなに勢いはついていない。

「今日のSOS団の活動はお休み、みんな、もう帰っていいわよ」

なんだこれ?誰だこいつ?
分からん。一体全体どうしたってんだ、ハルヒ……。


皆と別れた後、俺は家に帰らずに、ここよりいくらか開けている隣町へと向かった。
今日はクリスマスイヴだ。そして俺は高校2年生。
さすがに家で一人、というのは寂し過ぎる。
たまには俺だって意地を張りたくなるのだ。

「今日は遅くなるから、夕飯はいいよ。鍵もあるし、ドアには鍵かけといてくれ」

とは言ったものの、行く場所もなく、一人レストラン、一人ゲーセン
一人カラオケ……はさすがに惨め過ぎるから止めた。
時計を見る。あぁ、もう11時か。
なかなか人生ってのは上手くいかんもんだ。こんな惨めなら朝比奈さんでも誘うんだった。
俺と付き合ってくれるとか付き合えないとかじゃなく。こりゃ惨めだぜ。

38 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/14(日) 23:54:44.67 ID:XW2MCBtt0

――ゾクッ
急に悪寒が走る。なんだこの感覚は……って、まさか

閉鎖空間!?

でも何で、どうして、こんな俺のいるとこにピンポイントで?
しかも神人もいなけりゃ赤い光球もない、よって古泉もいない。
そして俺一人。はぁ? いよいよ訳が分からんぞ。

第一、何で俺が閉鎖空間に来れてるんだ?


って……まさか。

辺りを見回す。空を見上げると灰色の空が広がっていた。やっぱり閉鎖空間で間違いない。
そのまま視線を下ろすと、道のど真ん中でうずくまる少女が。

街は輝きを失ったネオンライトと無機質なアスファルトに埋められ、あるのは静寂。酷く不気味だ。
だが、なにか聞こえる。
静寂を破り、嗚咽が聞こえる。あの少女だ。
さすがに近づいてやる。困ってる奴は放っておけない。
相手が知り合いともなれば、尚更だ。

40 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/14(日) 23:58:01.19 ID:XW2MCBtt0

「こんなところでどうした、ハルヒ」

「きょ……キョン……?」

「ああ。大丈夫か?」

「うっ……うぅ、逢いたかった、誰かに、あ、逢いたくて……た、助けて欲しくて……」
ハルヒは嗚咽を漏らしながらつぶやいた。

「最近のお前がおかしいのは俺が一番よく分かってる。
聞くだけなら聞いてやるから。思いっきり言ってみろ。」

「あ……あたし、SOS団が大好きで」

言葉を詰まらせている。いきなりそこからか……。
直球とは、いかにもハルヒらしい。
何度か深呼吸をすると、少し落ち着いたようだ。

42 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/15(月) 00:01:58.63 ID:TV45n6Uo0

「あたし、怖くなったの。
SOS団で過ごしてるあたしは、本当に楽しくて、毎日が目まぐるしくて、
一日、一ヶ月、ううん、一年だってあっという間に過ぎてっちゃった
でも、楽しいのはあたしばっかりで
あたしのせいで、みんなに迷惑かけて……。
あたしがいなければ、キョンだってみくるちゃんと付き合ってたかもしれないし
有希だってもっと静かに読書出来た。
古泉君に至っては、あたしがいるってだけで無駄な気を使わせちゃってるし……」

ハルヒは相変わらず俯いたまま話を続ける。
弱気なハルヒってのはこういうもんなのか。なんか、調子狂うな。
にしても勘は健在だ。古泉の表情の変化なんて普通読み取れないぞ。

ハルヒは坦々と話を続ける。

「あたしも、いつかここを去って、皆と別れる日が来る
不思議探しとか、映画作りとか、本当に色々やってきたけど、
そんな毎日も、皆が私のわがままに付き合ってくれたから。
でも、もしある日、みんながあたしの前からいなくなっちゃったら――」

43 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/15(月) 00:06:08.08 ID:TV45n6Uo0

「……」

俺は何も言えない。その「もしも」を知っているから。
ハルヒの思い描くような、嫌われる という形ではないにせよ、同じことだ。

「そうやって、思ってるうちに、あたしは日常の幸福さを思い知って
そうしたら、あたしは……」


「何も出来なくなった」


「無理なことを言ったり、皆の気分を悪くしちゃったり
そうしたら、皆が離れて行ってしまうような気がして
必死になって手にすくった砂が
静かに、ゆっくりこぼれて行くのをわたしは見たくない
いつか壊れてしまうなら、いっそ一生このままでもあたしは構わないと思ったの。
たとえそれが、どんなに退屈なものでも、その方がよっぽど……」

やれやれ、完全にぶっ壊れてやがんな。というか、なんだか話が無茶苦茶だ。言いたいことだけ言ったって感じだな。
まぁ、生真面目なハルヒのことだ。一度考え始めちまうと、もう止まらなかったんだろう。
自分の考えが絶対 なんて常に思ってるあいつだけにここまで貯めこんじまったんだな。
閉鎖空間が出なかったのもそのせいか。
イライラした感情よりも、悲しみや申し訳無いといった感情が勝ったということだ。

45 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/15(月) 00:10:59.73 ID:TV45n6Uo0

「お前の辛さは、俺にも分かる。
えーとだ、その……俺は似たような目に、実際に遭ったことがある」
こう言うしかない。すべては明かせないしな。

「その時は、ただ愕然とした。
今まであって当然と思っていたものが消えるんだ。
これが思いの外厳しい。
だが、今の俺はこうして幸せな日常を送れている。何故だと思う?」

ハルヒは顔をあげた。
かすかに残る涙の軌跡と真っ赤に充血した目が、あいつがいかに思いつめていたかを物語っている。

俺は間をおいて答える。

それはな。
俺が願ったからだ。

「ハルヒ。この世に神様は存在すると思うか?」

「神様は、いないと思う。
だって、全ての人間を平等に幸福にしたら、世界が成り立たないじゃない。
そうしない為には神様が自分の尺度で物事を決めなくちゃいけないけど、そんな神だったらもう神じゃない」

「そうだな、確かに。
だが、神はいなくとも、願いを叶えてくれる
……そうだな、妖精。
妖精は居るんだ」

46 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/15(月) 00:13:03.37 ID:TV45n6Uo0

「おとぎ話の中のあの妖精だ。
俺はその妖精に助けられた。
そのおかげで、大切な物を失った絶望の淵からでさえも帰って来れた」

そう、一人は見た目もそのまま妖精の朝比奈さん。
もう一人は寡黙でおっかない感じもするが、どちらも俺の願いを叶えてくれた。


「無くしたものは取り返せばいいんだ、ハルヒ
だから、無くすことなんか考えるな。無くしたら無くしてから考えればいい。
それに、お前がそんな調子だと、こっちの調子も狂う」

「で……でも……」

ハルヒは今にも泣きそうだ。
ハルヒの目は俺にこう訊いている。
――こんな勝手な私には、きっと妖精は来ない。
私は、何も出来ない。ただのちっぽけな一人の人間に過ぎない。
そうしたら私は、どうしたらいいの?

47 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/15(月) 00:16:00.29 ID:TV45n6Uo0

「この世の中なんてのは、ちっぽけな奴らがたくさん集まってんだ
勿論、俺だって、おまえだって例外じゃない」

「皆があまりにもちっぽけすぎるから、一人で生きていくなんてのは無理だ。
じゃあどうするか。

仲間に頼るんだ。
小さな体同士、支え合って、そうやって生きていくのが普通なんだ。
妖精は問題外だ。
誰にも平等に付いているからな。お前にも、ちゃんと付いてる。」

ハルヒ。
お前は今まで全てを一人でやりすぎていたんだよ


さて、俺に問題だ。
問1。ここはどこだ?
――簡単だ。閉鎖空間。

問2。ここに長くいることは?
――出来ない。一生ここに居るわけにもいかない。

問3。どうやれば帰れる?

48 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/15(月) 00:18:13.17 ID:TV45n6Uo0

――全く。世話を焼かせる。


いつか古泉が言っていたな。あいつは人並みに常識的だと。
こんな変なところに限って常識的になられても、全くもって困るだけなのだが。
ハルヒは後先考えずに突っ走るからこそハルヒなのであって。

だが。

まぁ、あいつらしいっちゃ、あいつらしい。
仲間を第一に思うあいつならではの考えだ。


時計は12時を回ろうかとしている。無彩のクリスマスイルミネーションに彩られた、だだっ広い歩道。

あるのはただ2人の影のみ――そう、俺とハルヒ。
冬の寒空の下、二人きりでお互いに一体何を想っているのだろうか。

「なぁ、ハルヒよ」

俺は目線を少し、ハルヒの上にずらして尋ねる。
とても直視して話せるような内容ではない。

「じゃあ、もしお前に妖精がついなかったらどうすればいいと思う?」

51 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/15(月) 00:24:02.31 ID:TV45n6Uo0

「そんなの……わかんないわよ……」
ハルヒの目には涙が溜まっている。
全く、簡単な答えだというのに。本当に動転してぶっ壊れてやがる。
これじゃ俺に勉強を教えるなんて到底無理だな。

ハルヒは俺の目を見る。
いや、そんなに見るな、恥ずかしい。

……ええい、言ってしまえ、所詮閉鎖空間だ、後でごまかしも効く。

「捕まえればいいんだよ」


ハルヒはまだ俺の眼を見つめている。涙を溜めた顔で。

「お前の持前の強引さで妖精を無理やりにでもとっ捕まえちまえばいいんだよ。
お前なら、そんなこと訳ないだろ?」

俺もハルヒの眼をちらりと見てやる。本当に一瞬だけ。
まともに顔なんか見れやしない。

でも、ハルヒの眼にはこの間の時のような悲しい目はしていない。
いつもの眼をしている。

54 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/15(月) 00:28:24.43 ID:TV45n6Uo0

もう、いつものハルヒだ。

ハルヒは無言でよろりと立ち上がると、何も言わずに、俺のほうへよろよろと歩いてくると、倒れこむように

――抱きついてきた。

抱きつくや否や、俺の薄い胸板に顔を押し付け、さめざめと泣き始めた。

……こ、これは……さすがに想像してなかった。
まさか、言葉通り、本当に捕まえてきやがった。
全く、こんなところでハルヒらしくならなくてもいいんだが……

でも、その、あれだ。
まぁ、悪い気は……しなかったな。
形式的に例の儀式を行って、現実世界へ戻ろうと思っていたのだが
これではちょっと別の感情まで混じってしまいそうだ。

56 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/15(月) 00:30:29.68 ID:TV45n6Uo0

俺はそっと肩に手をまわして、頭を撫でてやった。

ハルヒは暫く泣いていた。少し顔を見ると、その顔はくしゃくしゃで、まるで泣きじゃくる子供のようだった。
古泉や長門、朝比奈さん達にとっては、ハルヒ神扱いだ。
だが、俺にとっちゃ、普通の人間と何にも変わりない。
何よりハルヒは、こんなにも弱いんだ。
いつもは強気だが、ハルヒほど人間臭くって、弱っちい心を持ってる奴なんて、そんなにいないぞ。

57 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/15(月) 00:33:04.48 ID:TV45n6Uo0

「ね、ねぇ、キョン」
まだ少し泣いているようだ。言葉がはっきりしない。

「どうした、落ち着いたか?」

「あんたは……」

「あんたは、居なくなったりしないわよね?」

「ああ」
というか、居なくなってもお前が今みたいに無理やり呼び出すだろうがな。

「約束、しなさいよ?」

「分かった。誓おう」

二度目の感触。あの日以来だ。
魔法にでもかけられてるみたいだ。頭がふらつくったらない。

その瞬間。
空が割れ、灰色の空は漆黒の夜空へと変わった。一瞬の出来事であった。
まるで、空の皮を一枚剥いたように美しく輝いていた。
それは、漆黒が灰色を飲んでいくようだった。

ネオンライトは輝きはじめ、ネオンが二人を照らす。

58 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/15(月) 00:38:36.06 ID:TV45n6Uo0

あ……、そうか!
ベッドに戻るんじゃないのか!
俺はたまたま(多分違うが)ハルヒの作った閉鎖空間に迷い込んじまった。
だとしたら閉鎖空間が無くなって戻るのは、俺の元いた場所、つまりここになるわけだ。

と、なると、人前だし、早く離れるべきなんだろうが……

離れられる訳もない。俺は魔法にかけられたんだからな。

長かった。時間がゆっくりと流れていく。
それは、深いものではなかったが、それでもお互いの心には深く触れられた。


「もう――」

「ん?」

60 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/15(月) 00:40:44.49 ID:TV45n6Uo0

ハルヒは涙に濡れた顔を、精一杯輝かせながら


「もう、嫌って言っても、離さないんだから!」

100万ワットの会心の笑みを浮かべ、照れ隠しに、また抱きついてきた。


「いなくなったら、死刑…なんだから……」


空は粉雪が舞い散らせ、ハルヒの涙を隠していた。

61 名前:1(東京都)[] 投稿日:2008/09/15(月) 00:43:21.81 ID:TV45n6Uo0

以上です。どうも。
初投下だったんで雑ですが、どうも人のを見てると自分でもやりたくなっちゃうんですwww

公開オナニーに付き合って下さり、皆さんどうもありがとうございました。

69 名前:1(東京都)[sage] 投稿日:2008/09/15(月) 01:08:24.51 ID:TV45n6Uo0

みなさん、ほんとうにありがとうございました。
読み返すと、誤字脱字がとんでもないですね。

もう沈めます。

また機会がございましたら。



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