朝日の昇る頃に・中編


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18 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 01:52:41.17 ID:2jqzZfL/0

朝日の昇る頃に

俺と入江先生はレナのおかげでダクトから
診療所の地下階に入り込むことに成功し、
鷹野の元へと向かうため廊下を進んでいた。


圭一「どうですか?」

入江「…」

入江先生が廊下の先を覗き込む。

入江「…だれもいないようです。行きましょう」

俺達は周りに注意しながら廊下を進んでいく。

20 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 01:53:50.06 ID:2jqzZfL/0

すると廊下の先の曲がり角から男が急に姿を現した。

鳳7「止まれ!」

圭一「!!」

鳳7「止まらんと撃つぞ!」

そういってそいつはテーサーという武器を俺達に向ける。

テーサーは奴ら山狗が携帯している武装で、
ワイヤーに繋がれたスタンガンのようなものを発射し目標を
痺れさせて無力化するというシロモノらしい。

だが俺はかまうことなくそいつの元へ走っていく。

21 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 01:54:30.91 ID:2jqzZfL/0

鳳7「止まれといっとるだろうがぁ!撃つぞ!」

圭一「そんなに撃ちたきゃ撃ってみな」

鳳7「う、うおおおお!!」


バシュゥ!


鳳7「…な…消えた!?」

テーサーから発射された伝導部分が誰もいないところに打ち出される。

奴から見たら俺達が消えたように見えたのだろうが、実際は俺が
奴に向かって走っている間に奴の足元に能力を通した硬貨を投げておいた。

そして能力を発動し、その風によって奴を180度回転させたからだ。

圭一「お前が後ろを向いただけさ」

22 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 01:55:15.31 ID:2jqzZfL/0

後ろを向いている山狗の隊員の背中に
別の隊員から奪ったテーサーを発射する。

圭一「おらよっ!」


バシュゥ
バチッ!


鳳7「ぐおっ!…」

隊員はその場に崩れ落ちた。

圭一「さ、行きましょう入江先生」

入江「ええ」

23 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 01:55:59.48 ID:2jqzZfL/0

気絶した隊員を後に俺達は廊下の先を目指す。

入江「それにしても、前原さんはお強いんですねぇ」

圭一「はは、そうですか?」

入江「ええ。山狗の隊員が全く歯が立ってないじゃないですか」

圭一「というか…あいつらが手応えなさすぎなんですよ。」

入江「…そうですか?」

圭一「ええ」

入江「…あ、そういえば今日は戦闘専門の隊員がいない日でした」

圭一「そうなんですか?」

24 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 01:56:35.21 ID:2jqzZfL/0

入江「ええ。というか戦闘が得意な人は
   山狗にそこまで必要ではありませんからねぇ」

圭一「ああ、防諜部隊でしたね」

入江「はい。そうなんです」

圭一「なるほど」

入江「ですが」

圭一「?」


入江「一番厄介な方はいますよ」

圭一「…」

25 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 01:57:43.98 ID:2jqzZfL/0

俺達は更に地下の奥へと進んでいく。


俺はさっきから疑問に思っていることを入江先生に
聞いてみようか迷っていたが、聞いてみることに決めた。

圭一「…あの、入江先生」

入江「はい、なんですか?」

圭一「ちょっとお話があるんですけど…」

入江「ええ」

圭一「…俺の能力が"変わってきている"みたいなんです」

入江「変わってきている、ですか」

圭一「はい」

26 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 01:58:45.18 ID:2jqzZfL/0

入江「何故そう思うんです?」

圭一「さっきの戦闘の時、覚えてますか」

入江「さっきというと、あなたがコインを敵の足元へ投げて
   回転させた時ですか?」

圭一「はい。あれは、硬貨に能力を通しておいて、
   後から風になるようにしたんですけど…」

入江「つまりコインをすぐ風に変えるのではなく、
   時間が経ってから風に変わるようにしたんですよね」

圭一「はい」

入江「それが、何か?」

圭一「その、最初はそんなことできなかったんです」

27 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:00:06.13 ID:2jqzZfL/0

入江「…ほう」

圭一「いつも硬貨に能力を使うとすぐ風になりました」

入江「では何故先ほどは、
   能力を一定時間経った後に発動するということができたのでしょうか」

圭一「わかりません…ただ、」

入江「ただ?」


圭一「なんとなくできるような気がしたんです」

入江「…なんとなく、ですか」

28 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:01:05.19 ID:2jqzZfL/0

圭一「それに、なんか前よりだいぶ風自体も強くなってる気がします…
   いや、強くなっています」

入江「そうなんですか…」

圭一「それだけなんですけど、ちょっと不安で…」

入江「…そうでしたか」

29 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:02:38.33 ID:2jqzZfL/0

入江「…前原さんはこれまでに能力をよく使っていましたか?」

圭一「え?…いいえ。使ってはいけないと言われてましたし」

入江「具体的に、これまで何回ほど使いました?」

圭一「今日の分を抜けば、これまでは2回だけです」

入江「そうですか」

圭一「はい」

30 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:03:26.57 ID:2jqzZfL/0

入江「そして今日だけで山狗相手に4回使ったんですよね」

圭一「そうです」


入江「…ふむ。それが原因でしょう」

圭一「え?」

入江「今日までは能力を使うことを控えていたのに、
   今日で何回も能力を使っていますよね」

圭一「はい」

入江「その反動で能力が引き出されてと思います」

31 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:04:16.30 ID:2jqzZfL/0

圭一「引き出されるって…」

入江「つまりあなたが自在に操れるようになっている、
   ということです」

圭一「そ、そうだったんですか…」

入江「しかし…」

圭一「なんですか?」

入江「能力が引き出されるということはですね。
   …その、言いにくいんですが…」

32 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:06:12.95 ID:2jqzZfL/0

圭一「言ってください。何を言われても受け止めます」

入江「…能力を引き出されるということは、つまり
   雛見沢症候群の感染度が上がっているということです」

圭一「か、感染度ですか」

入江「はい。ですから能力が変化していると思われます」

圭一「…そうですか」

入江「このままだと、…L3に段階が進むことも考えられます」

圭一「L3…」

33 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:07:19.18 ID:2jqzZfL/0

入江「ですから能力を使うのは少し控えて…」

圭一「入江先生」

入江「はい?」

圭一「鷹野を止めるには能力が必要ですよね」

入江「それは…あったほうがいいと思いますが」

圭一「俺は、鷹野を許せない。
   沙都子達をさらい、能力者を利用しようとしている、
   鷹野三四という存在が…」

入江「前原さん…」

34 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:08:09.95 ID:2jqzZfL/0

圭一「鷹野をぶっとばすためならL3になろうがかまわないです」

入江「…そうですか」

圭一「ええ!」

入江「ふふふ、わかりました。もう何も言いません。
   一緒に鷹野さんを止めましょう」

圭一「はい!」

35 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:09:39.61 ID:2jqzZfL/0

その後、研究所内を進んでいくと、
左右に分かれ道があるところへ出た。

圭一「道が分かれてますね。どっちに行きましょう?」

入江「左が研究職員の自室で、右が監視室です」

圭一「鷹野はどっちにいると思いますか」

入江「きっと鷹野さんは監視室です。
   診療所内部の様子を見ているはずです」

圭一「それじゃあ右へ行きましょう」

入江「前原さん。私は左へ行かなくてはいけません」

36 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:10:25.18 ID:2jqzZfL/0

圭一「何故です?」

入江「この隙に鷹野さんの部屋から能力者利用計画に関する
   資料や証拠などを探してきます」

圭一「あ、そうでしたね」

入江「それで、能力のない私がいても戦闘の邪魔になるだけですので、
   時間も無いですし、前原さん一人でこの先、
   鷹野さんの元までいってもらってもいいでしょうか?」

圭一「…へへっ、任せといてくださいよ」

入江「ふふ…さすが頼もしいですね」

37 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:11:24.37 ID:2jqzZfL/0

圭一「はい。入江先生は安心して証拠をつかんできてください」

入江「それじゃあここでお別れです。健闘を祈りますよ」

圭一「ええ。また後で」

38 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:12:37.18 ID:2jqzZfL/0

入江先生は左の道へ行ってしまい、もう見えない。

圭一「さ、俺も行くか……ん?」

…後ろから一人、こっちに走ってきている。
ちっ、これで五人目か…。もういないと思ったのに。

硬貨はもう握っている。もう少しひきつけて。
…今だ!

圭一「くらっ…!ええ!?」

梨花「わっ!?」

39 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:13:07.85 ID:2jqzZfL/0

勢いあまって梨花ちゃんにのしかかってしまった。

圭一「り、梨花ちゃん!??あ、ご、ごめん!」

急いで立ち上がる。そして倒れた梨花ちゃんを引き上げる

梨花「圭一、こんなところで…積極的なのです」

圭一「ご、ごめん!…っていうか!なんでここに梨花ちゃんが?」

梨花「圭一に会いたくなったので来ちゃいました」

圭一「ええ!?」

梨花「…というのは半分冗談なのです」

40 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:14:08.48 ID:2jqzZfL/0

圭一「半分…そ、それより!沙都子は?
   ちゃんと連れ出せたのか?」

梨花「はい。今頃詩音と富竹が外まで連れて行ったと思います」

圭一「そっかぁ…よかった」

梨花「はいなのです」

圭一「…それで、梨花ちゃんはなんでここに?」

梨花「沙都子はあの二人にまかせれば十分だったので
   圭一の応援にきました」

圭一「お、応援、ね…」

梨花「にぱ〜☆」

41 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:15:04.24 ID:2jqzZfL/0

圭一「…本当は?」

真剣な目で梨花ちゃんの瞳を覗きながら質問する。


梨花「…鷹野に、どうしても聞きたくて」

圭一「え?」

梨花「私を、殺す理由」

圭一「…」

梨花「あのまま脱出したらきっと鷹野とはもう会えないし、
   最後にちゃんと聞きたいのよ。鷹野の口から」

圭一「梨花ちゃん…」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/09(火) 02:15:50.16 ID:2jqzZfL/0

梨花「…というわけで圭一、一緒に行きましょう♪」

圭一「…そういうことなら、しょうがないな」

梨花「流石圭一!話がわかるのです」

圭一「はは。そんじゃいっちょ行きますか」

梨花「鷹野、待ってろー!なのです」

43 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:16:41.52 ID:2jqzZfL/0

俺と梨花ちゃんは鷹野のいる監視室へと足を進めていた。

そして、廊下のつきあたり。
とうとう監視室と書かれた表札があるドアを見つけた。

圭一「ここか…」

梨花「やっと、きたのです」

圭一「よし、梨花ちゃんはここにいてくれ」

梨花「はい」

圭一「俺がまず突入して…」


??「グズグズしてないで早く入ってきたらどうだ?」

44 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:17:34.37 ID:2jqzZfL/0

ドアの向こうからドスの聞いた声が俺達の耳に届く。
もうばれてるってわけか…。

俺達はドアを開き中へと入った。

??「ほぉ…ほんとに子供だな」

中は監視室だけあって壁にはモニターがいくつもつけられており、
そこに映る映像で内外部の様子が見て取れるようだった。

そしてこの広い部屋の真ん中に声の主は腕を組んで立っていた。

??「ここまでよく来たな。ガキのくせにたいした奴だ」

圭一「だれだおっさん」

小此木「俺は小此木ってんだ。山狗の隊長をやらしてもらっている」

45 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:18:20.42 ID:2jqzZfL/0

圭一「へぇ…あの山狗のか。そりゃたいしたことなさそうだ」

小此木「…ほぉ。おもしろい小僧だ」

圭一「…ここにはアンタしかいないのか?」

小此木「ああ。姫なら奥の部屋にいる」

圭一「姫?…ああ、鷹野のことか」

小此木「そうだ」

46 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:18:55.59 ID:2jqzZfL/0

圭一「そんじゃ通してくれ」

小此木「おいおい、じゃあ俺がここで待ってた意味がない」

圭一「もともと意味なんかねぇよ」

小此木「ほぉ…」

圭一「俺に倒されるんだからな!」

47 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:19:49.79 ID:2jqzZfL/0

硬貨を一枚親指で上にはじく。
そのままはじかれた硬貨は俺の頭上の頂点を過ぎ、
放物線を描きながら俺の背後へと落下していく。

そして俺の背中に硬貨が来たとき、風を発動させる!


ドウッ


小此木「!?」

梨花「速い!」

背後に風を発生させ、それを推進力にして突撃。
俺と奴の間合いを一気に縮める。
このまま拳を奴の顔面に叩きいれるっ!

48 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:20:37.79 ID:2jqzZfL/0

圭一「らぁっ!」

小此木「ふっ…」

小此木は横移動で俺の右ストレートを避ける。

すかさず左手に持っていた硬貨で右手の間接に向かって能力を発動、
右ひじが奴に向かって突き放たれる。

小此木「!?ぐっ!」

それを小此木は両手で防ぐ。

圭一「ちぃっ!」

後退して一度間合いをとる。

小此木「つつ…へへっやるじゃねえか坊主」

49 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:21:26.92 ID:2jqzZfL/0

こいつ…今までの山狗の奴らとは違うみたいだな。

圭一「あんたも、さすがに隊長なだけはあるみたいだな」

小此木「ふふ。戦闘に慣れてない隊員を倒したからっていい気になるなよ?
    俺は奴らとは一味違うぞ」

圭一「へっ、どうだかな!」

もう一度奴に向かって走り出す。

小此木「来い!」

50 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:22:22.07 ID:2jqzZfL/0

圭一「ほっ!」

小此木の足元に硬貨を投げる。

小此木「鳳7を倒した手段か。それはさっきカメラで見ていたぞ」

小此木は硬貨をうまく蹴り飛ばす。

小此木「ふふ、残念だったな…!?」

その隙に俺はさっきのように後ろからの風で
一気に距離を詰めた。

圭一「はぁっ!」

奴の腹へとボディブローを狙う。

51 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:23:20.68 ID:2jqzZfL/0

小此木「二番煎じか!」

今度は小此木は俺の腕を取りに来る。


ビュウゥッ


小此木「…うぉ!?」

奴が俺の腕を掴む瞬間よろける。

小此木「な、なんだ!?」

ブローを放つ寸前に、周りを囲むように竜巻を作っていたからだ。
その風によって小此木は体勢を崩した。

52 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:24:39.49 ID:2jqzZfL/0

俺は袖の中の右ひじに仕込んだ硬貨に能力を発動、
その風によりパンチのスピードをあげる。

そしてその拳を、竜巻によってよろけている小此木の腹に突き刺す!


小此木「うごぁ…!」

圭一「へへっ、もういっちょう!」

苦しそうに腹を手で押さえ、前かがみになっている小此木へ
今度は側頭部を狙ってハイキックを放つ!

圭一「うらあ!」

小此木「くっ…」

こいつでノック・アウトだ!

53 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:25:20.10 ID:2jqzZfL/0

ヒュッ


圭一「な、消えた!?」

俺の蹴りは空を切った。
俺の目の前には小此木はいなかった。

梨花「圭一!後ろっ!」

圭一「な!?」

小此木「ぬん!」

54 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:26:47.63 ID:2jqzZfL/0

ドンッ


圭一「ぐあ!!」

背中にすさまじい衝撃!
俺は向こうの壁まで吹っ飛ばされた。

梨花「け、圭一!大丈夫!?」

小此木「おお、ちょっと強すぎたか?」

圭一「う…くっ…」

55 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:27:32.01 ID:2jqzZfL/0

今のは…なんだ。
俺が奴の腹にブローを決め、奴がよろめき、隙を見せたのを狙って
頭に向かって蹴りを放った。

そしてヒットする直前に奴は消え、俺の背後にいた。
これは、能力か…?

小此木「ふふ。すまんな、いきなり厳しい攻撃で」

圭一「あ、安心しな…全然、効いてねぇよ…」

小此木「咄嗟に俺の当身の方向へ風を発生させ、
    体を流しダメージを軽減させたのは感服したぞ」

56 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:28:18.07 ID:2jqzZfL/0

圭一「…どうやって俺の蹴りを避けたんだよ」

小此木「言うわけないだろう…と言いたいところだが、
    こちらは闘う前からお前の能力を知っていた。
    それじゃフェアじゃないから教えてやろう」

圭一「…へへっ。紳士だな」

小此木「まぁな」

圭一「ふざけやがって…」

小此木「そこのお嬢ちゃんは端からみててわかったかい?」

小此木は梨花ちゃんを見て問う。

57 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:29:06.63 ID:2jqzZfL/0

梨花ちゃんは少し考えてから口を開く。

梨花「…ここから見ていたけど、圭一の足が当たる瞬間、
   あなたは後ろに回りこんだ」

小此木「ほぉ、見えていたのか」

梨花「ただ、あなたの回りこむ速さ。それだけが異常だった。
   人間離れしたスピードで動いた」

そうか…だから俺には目の前から消えたように見えたのか。

梨花「つまりあなたの能力は"超スピードで動ける能力"ね?」

58 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:30:14.67 ID:2jqzZfL/0

小此木「…予想通りの答えだな」

梨花「どういう意味よ」

小此木「超スピード?そんなチャチなものじゃないさ」

梨花「ち、違うの?」

小此木「確かにお前達からすれば、
    今の動きは信じられない速さだったかもしれん」

59 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:31:05.64 ID:2jqzZfL/0

梨花「…?」

小此木「だが俺は普通に後ろに回っただけだ。
    俺から見ればお前達がのろすぎる」

梨花「…どういうことよ」


小此木「俺の能力は"自分だけ1秒を5秒にする能力"さ」

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/09(火) 02:31:59.18 ID:2jqzZfL/0

自分だけ、1秒を5秒にする能力だと?
どんな能力だよ…。

小此木「単純なことだ。
    お前らが1秒分の動きをする間に、俺は5秒分の動きができる」

梨花「…そんな能力が…」

小此木「この能力を使っている間はお前らがスローモーションになっているような感覚だ。
    お前達から見れば俺が凄まじい速さで動いているだろうな」

…ははは、こいつ、そんな反則みたいな能力持ってんのかよ。

圭一「…なるほどな。そりゃすげえ能力だ」

小此木「…ありがとう」

61 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:32:39.93 ID:2jqzZfL/0

圭一「…こっちこそ教えてくれてありがとよ。お礼にぶっ倒す」

小此木「ふふ、そうこなくてはな。来い」

梨花「圭一!」

圭一「梨花ちゃんはそこで見てな。すぐ終わらせるから…」

梨花「圭一…」

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/09(火) 02:33:24.36 ID:2jqzZfL/0

イチかバチか…やるしかねぇ!

圭一「おらぁ!」

小此木「また風で突進か…いい加減見飽きたぞ」

圭一「はぁあああ!」

右手に力を込め、硬貨に能力を通す。

小此木「その右手に持った効果でどうするつもりだ?」

ちっ、そこまでわかってんのかよ…。
だけど、これはかわせないぜ!

63 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:34:17.36 ID:2jqzZfL/0

圭一「うらぁ!」


ジャララ!


小此木「これは…」

十数枚の硬貨が小此木の周囲に舞う。

圭一「へへっ。ありったけの100円だ」

小此木「…」

64 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:35:04.94 ID:2jqzZfL/0

圭一「はぁ!」


ビュオオオオ!!


梨花「くっ!すごい風…」

全ての硬貨は一斉に風に変わる。
まるでこの部屋に台風が来たかのようだ。

普通の人間ならこの風に動きをとられてろくに動けない。
そして、この暴風域の中動けるのは風を利用して奴の元へ向かっている俺だけだ。

あいつもこれだけの風に囲まれてたら、俺の攻撃は避けられないはずだ。
今度こそ顔面に勢いをつけた拳を叩き込んでやる!

65 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:35:51.02 ID:2jqzZfL/0

小此木「…ふふ。涼しいぞ」

圭一「!?」

小此木は暴風の中俺に近づいてくる。
風など意にも介さないかのように…。

小此木「ふっ!」


バキッ!


圭一「ぐあっ!…」

奴の打撃が俺を襲う。

66 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:36:36.74 ID:2jqzZfL/0

ドンッ

再び奴の攻撃によって俺は壁まで飛ばされる。
壁に背中を打ち付ける痛みで気絶しそうになる。

梨花「圭一!!」

野郎…能力で一瞬に10発もパンチ入れやがった…。
腕の骨…いっちまったな。効いたぜちくしょう…。

しかし、なんで風が効かないんだ…。
あれだけの風に奴はどうして…。

小此木「あれだけ硬貨を使ったのに残念だったな」

圭一「…」

小此木「なんで俺が風でよろめかなかったんだ、
    って顔してるぞ?ふふふ」

67 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:37:20.04 ID:2jqzZfL/0

圭一「…くっ」

小此木「図星か?ふふ」

圭一「……教えろよ」

梨花「…」

小此木「通常の俺ならさっきの暴風のなかじゃ、
    ろくに身動きもとれずなすがままだっただろうな」

梨花「…じゃあ何故あなたは風に流されずに圭一に攻撃できたの」

69 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:38:18.77 ID:2jqzZfL/0

小此木「今の風の風力は大体10から11、暴風ってとこだろう。
    普通なら立っている事もままならない。
    だが能力を使った状態なら、それはそよ風にすぎん」

梨花「どういうことよ」

小此木「風が俺自身を押す、その前に俺が動くからさ」

圭一「なに言ってんだ…こいつ」

梨花「…つまりあなたが能力を使っている間は風は弱くなる、ということ?」

小此木「違う。俺の力で気体や物体の運動エネルギーが変化することはない。
    たとえ銃弾が迫っていて、能力を使って弾丸がスローになろうが、
    そのスローな状態の弾丸に打ち抜かれれば死ぬ」

70 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:39:23.73 ID:2jqzZfL/0

梨花「…」

小此木「だがスローであれば、避けられる」

梨花「…つまり、風をよけたっていうの?」

小此木「この能力を持たない俺以外には信じられないだろうがな」

梨花「だって!風なんて弾丸と違って見えないじゃない!」

小此木「風を俺の肌で感知した瞬間、暴風となって俺を襲う瞬間に避ける。
    もし見えない弾丸ならば、
    俺の肌に触れた瞬間に感じて避ければいいだろう?」

71 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:40:08.88 ID:2jqzZfL/0

梨花「つまり、あんたは強い風が自分に向かってくる直前に
   感知して避けてる…っていうの?」

小此木「そんなとこだ」

梨花「…非現実的だわ」

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/09(火) 02:41:03.35 ID:2jqzZfL/0

小此木「さぁ、おしゃべりはこんなもんでいいだろう」

圭一「くっそ…」

小此木「どうやら坊主はもう立てないようだ。
    次はお前の番だな」

梨花「け、圭一…」

小此木「来るか?お前も能力者なのだろう?」

梨花「うぅ…」

小此木「ふふ。大丈夫だ。あいつよりは手加減してやる」

73 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:42:11.15 ID:2jqzZfL/0

梨花「い、いやよ…」

小此木「まさかここまで来て無傷で返すと思ってるのか?」

梨花「来ないで…圭一…ねぇ、圭一ってば、起きてよ…」

小此木「そいつは充分に戦った。もう寝かせてやれ。
    さあ、次はお前の番だぞ」


梨花「け、圭一ッ!!」

小此木「なに!?」


ブワッ


***

74 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:43:05.17 ID:2jqzZfL/0

くっそぉ…風が効かないってどういうことだよ…
俺にはもう成す術がないってことかよ…

この折れた腕じゃ…格闘であいつに勝てるわけないし、
風を利用した攻撃も全部見切られちまう…。

硬貨は……今のであと一枚しかない。


小此木「…来るか?お前も能力者なのだろう?」

梨花「うぅ…」

小此木が梨花ちゃんのほうへゆっくりと歩いていく。
梨花ちゃんはそれに伴って後ずさる。

75 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:43:48.83 ID:2jqzZfL/0

…やめろ、梨花ちゃんに、さわんじゃねぇこの変態野郎…。

小此木「まさかここまで来て無傷で返すと思ってるのか?」

梨花「来ないで…圭一…ねぇ、圭一ってば、起きてよ…」

梨花ちゃん…!
頼む!…最後に、あいつだけ…倒せる力を…。

最後の硬貨を握り締め、渾身の力をこめる。
硬貨を握った手の中がどんどん熱くなっていく。

手の感覚がだんだん無くなっていく。
硬貨の感触はとっくにない。まるで俺の手が硬貨を飲み込んだように…。

76 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:44:49.27 ID:2jqzZfL/0

小此木「そいつはもう充分に戦った。もう寝かせてやれ。
    さあ、次はお前の番だぞ」

ありったけの力を込めた硬貨を奴に向かって開放する。
…しかし、風は吹かなかった。

ど、どういうことだよ!?
な、なんで風が出ないんだ…。

梨花「け、圭一ッ!!」

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/09(火) 02:45:24.16 ID:2jqzZfL/0

梨花ちゃんは壁まで小此木に追い詰められている。

梨花ちゃん!!くっそぉおおおおおお!

俺は、小此木をぶっ飛ばすんだ!!


ブゥン!


小此木「なに!?」


***

78 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:46:14.66 ID:2jqzZfL/0

小此木「…これは」

小此木は梨花ちゃんの前から数メートル程飛び退いた。
なぜなら俺の攻撃をかわしたからだ。

梨花「け、圭一の…」

梨花ちゃんの目の前に、その小此木を攻撃したモノはいた。


梨花「スタンド…」

79 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:47:32.28 ID:2jqzZfL/0

圭一「こいつが…スタンド?」

それは人型なのだが、頭に角を生やした妙なやつだった。
形は人だが、明らかに人間ではない。

なにより一番妙なのは、やつの胸から下が無いのだ。
雲のようなものがその胸の切れ目、奴の周りに漂っている。
見ようによっては雲からやつの上半身が
にょきっと出てきているようにも見える。

圭一「これは…俺のスタンドなのか?」

80 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:48:22.59 ID:2jqzZfL/0

梨花「たぶん。…圭一のスタンドです」

梨花ちゃんがつぶやく。

梨花ちゃんが小此木に襲われそうになった瞬間、
この、俺のスタンドはいきなり俺の前に現れ、
小此木へと向かっていき、パンチを繰り出したのだ。

どうやら小此木はパンチを能力で避けたようだが…。

小此木「ほう…この土壇場でL3になりスタンドを発現させるとはな」

梨花「圭一!立てますか?」

梨花ちゃんが俺の元へ駆け寄ってくる。

81 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:49:05.46 ID:2jqzZfL/0

圭一「…なんとか大丈夫だ。それより、恐い思いさせてごめんな…」

梨花「…そうなのです。もっと早く助けてほしかったのですよ」

圭一「ははは、…ごめんごめん…、あてて…」

梨花「け、圭一…」

圭一「大丈夫だよ。梨花ちゃんはここで見ててくれ。…すぐ終わらす」

小此木「スタンドを覚醒させ能力が変わっただけで俺に勝てると?」

圭一「…今の俺は誰にも負けねぇ」

小此木「ふふ。ならもう一度来い」

82 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:49:58.34 ID:2jqzZfL/0

離れたスタンドを俺の元へ来るよう念じる。
するとスタンドはふわふわと俺の方へとやってきた。
やっぱりこれは俺のスタンドであることを実感する。

小此木「ふふ、スタンドが出せるようになったはいいが…」

圭一「なんだよ…」

小此木「まだ能力を把握していないんじゃないか?」

梨花「け、圭一…」

圭一「安心しろ。梨花ちゃん」

俺の能力、このスタンドからなんとなく伝わってくるんだ。

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/09(火) 02:50:41.72 ID:2jqzZfL/0

小此木「貴様が能力を制御できる前に、もう一度再起不能にしてやる!」

小此木が俺に向かって突進してくる。
よし、たのんだぜ。俺のスタンド。


ギュゥゥウン


俺の前に空気中の水分を収集、凝縮させる。

圭一「…よし」

それをやつに向かって発射する。

85 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:51:36.20 ID:2jqzZfL/0

ヒュッ


小此木「!?」

小此木は俺の飛ばしたモノを避ける。


バキッ


飛来物は向こうの壁に当たり砕けた。
また能力で避けやがったのか…。

小此木「貴様…」

圭一「へへ。やっぱ当たらねぇな」

小此木「今のは…氷のつぶてか」

86 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:52:24.80 ID:2jqzZfL/0

圭一「へぇ。あの一瞬でよくわかったな。
   ああ。雹をとばしたんだよ」

小此木「ほぉ…」

梨花「すごい…」


小此木「すると貴様の新しい能力は、
    "空気中の水分を操る能力"か?」

圭一「そう思うかい?」

小此木「なに?」

87 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:53:12.20 ID:2jqzZfL/0

圭一「ふっ」

小此木の回りに風をイメージする。


ビュォオオオ!


小此木「こ、これは!風か!」

圭一「へへ。これでどうだ?」

小此木は能力を使っているのだろう、俺が発生させた
暴風域の中を軽々と動き脱出した。

小此木「…」

圭一「わかったかい?俺の能力が」

88 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:53:49.29 ID:2jqzZfL/0

小此木「…"天候を操る能力"」

圭一「…よくわかったな。その通りだ」


小此木「…それより、なんだ今の風は」

圭一「?」

小此木「意味も無く、俺の回りに風を作ったことだ。
    まるで俺に貴様の能力をわからせるように…」

圭一「そりゃあ、俺の能力を知らないなんて、フェアじゃないからな」

小此木「…舐めやがって」

89 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:54:44.54 ID:2jqzZfL/0

小此木を挑発したのはまずかっただろうか。

小此木が言っていた、俺が覚醒したばかりで能力を把握し切れていない、
というのは当たっていた。
いまのところ雹を発射するか風を起こす、それくらい
しか攻撃手段は無かった。

だからこの能力に慣れるためにもうすこし時間を稼ぎたい。
しかし俺の願いとは裏腹に小此木は俺に特攻してきた。

小此木「くたばれ!」

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/09(火) 02:55:33.98 ID:2jqzZfL/0

圭一「くそっ、いけぇ!」

雹を生成し小此木に向かって撃ち出す。

小此木「雹か。無駄だ」

3発の雹は軽々と避けられる。

圭一「ちっ…なら、これでどうだ!」


ビュオオオオオ!


奴の進路に強風を生み出し追い返そうとする。

小此木「風は無駄と言っただろうが!」

91 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:56:40.54 ID:2jqzZfL/0

風の中を奴は能力を使って、
尋常じゃない速さで俺に突っ込んでくる。

小此木「はぁ!」


ガッ

圭一「ぐっ!…」

奴の打撃をもろにくらってしまう。

梨花「圭一ぃ!」

92 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:57:28.47 ID:2jqzZfL/0

いてぇ…スタンドで多少防御できたが…。
やっぱり風や雹じゃ駄目か。

小此木「ふふ…さっきと攻撃の手段が同じじゃないか」

梨花「圭一…」

小此木「これでわかっただろう。俺に攻撃することは無駄だ」

くやしいが、その通りみたいだな…。

あいつには攻撃というものが当たらない。
雹なんか飛ばしても能力でスローにされて避けられちまう。
風さえも動きを捕らえる前に脱出される…。

隙が、なさすぎる。

93 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:58:25.04 ID:2jqzZfL/0

小此木「もう終わりか。残念だったな。
    折角スタンドを発現させたのに」

圭一「くっ……」


梨花「…け、圭一はあんたなんかに負けないわよ」

梨花ちゃんが急に声をあげて小此木に言い返す。

小此木「ほお。ここまでやられてもそう思うかい」

94 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 02:59:19.63 ID:2jqzZfL/0

梨花「圭一!勝つためには手段を選ばず、最大限の努力を、でしょ!
   他力本願だけど、きっとあなたなら…圭一ならこんなのすぐ
   やっつけてくれるって、信じてる!」

小此木「最後までこの坊主に頼るつもりか」

梨花「圭一はここからが本気なのよ!あんたなんかに負けるもんか!!」

…へへ、きついぜ梨花ちゃん。
こんなにボロボロだってのにさ…。
だけど、ありがとよ。いまので俺の何かが燃えたぜ。

96 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 03:00:04.99 ID:2jqzZfL/0

よく考えろ…

奴は、1秒を5秒に変える…。
つまり能力を使った1秒だけ奴は5倍の速さで動く。
そこになにか付け入ることはできないか…?

奴は5倍の早さで体を動かし、目を動かし、耳を働かせている。
つまり脳の反射処理も通常の5倍。

ということは、音や光が俺達とは違うように見えるんじゃないか?
そこを狙って攻撃すれば…だめだ。奴に攻撃は通用しない。

97 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 03:01:03.95 ID:2jqzZfL/0

何かが肌に触れた瞬間に感知して避けられる…。

それじゃあ他になにか弱点はないか。
…心拍数、血液の循環量、呼吸量も5倍……これなら…

圭一「う、うぅ…」

体の痛みをこらえながら立ち上がる。

体の中からギシギシと音が出ているように感じられる。
どうやら体は限界に近いようだ。

梨花「圭一!だ、大丈夫なの!?」

圭一「心配すんなって…梨花ちゃん」

98 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 03:01:54.71 ID:2jqzZfL/0

小此木「ほお。もう体も悲鳴を上げているだろうに、よく立てるもんだ」

圭一「へへっ…もう腕はうごかねぇし、
   足だってガクガクだよ馬鹿野朗」

小此木「それじゃおとなしくそこに座っていろ。貴様が何をしようが
    俺に敵わんことはわかったろう?」

圭一「そうもいかねぇんだよ」

梨花「圭一…」

圭一「女の子残して気絶なんてマネしたら…
   前原家末代までの恥だからな」

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/09(火) 03:02:37.86 ID:2jqzZfL/0

小此木「そうかい」

圭一「へへっ…」

小此木「…今度は死ぬかもしれんぞ?」

圭一「…どうかな」

小此木「…」

圭一「…」


ダッ!

100 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 03:03:19.94 ID:2jqzZfL/0

小此木「うおおおおお!」

小此木が猪のごとく俺に突進してくる。
すかさず俺は奴との間に強風を幾つか発生させる。

小此木「無駄だと、言ったろうがあああ!」

小此木は風にかまわず俺に向かってくる。
奴が風の中へ入り能力を使う。
そのとき、その瞬間が勝負…

101 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 03:03:56.81 ID:2jqzZfL/0

小此木「はああ!」

今だッ!

圭一「ごめん梨花ちゃん!」

梨花「…え?」


シン――

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/09(火) 03:04:37.03 ID:2jqzZfL/0

小此木「……ぐぉ」


ドサッ

小此木はその場で力が抜けたように倒れこみ、苦しみ始めた。

梨花「…う…」

圭一「く…」

俺と梨花ちゃんもよろめく。
だが小此木ほどは苦しんではいない。

103 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 03:05:25.12 ID:2jqzZfL/0

小此木「…う、はぁ、はぁ、…うぉえぁ…」

小此木はたまらず胃の中のものを吐き出したようだ。
奴の顔色は蒼白で、かなり苦しいのだろう様子が見て取れる。

梨花「…なんだか、めまいがする…」

圭一「…すまん。俺がやった」

梨花「圭一が…?」

小此木「…ぐっ、…うう…、小僧…なにを…」

104 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 03:07:07.42 ID:2jqzZfL/0

圭一「…この部屋全体の酸素濃度を…数秒だけ減少させた」

梨花「酸素を…減少?」

圭一「ああ…」

梨花「なにか、体がふらついて、気分が悪いのはそのせいなの?」

圭一「空気中に約21%含まれる酸素。
   それが18%を下回ると空気は俺達にとって害をなす。
   酸素欠乏症…。
   俺達のめまいや、奴が苦しんでいるのはそのためだ」

小此木「……酸素…だと…」

105 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 03:07:47.38 ID:2jqzZfL/0

梨花「小此木と私達とでは、随分症状に差があるけど…」

圭一「その酸素が減少した数秒間で…あいつは能力を使った。
   …その間で酸素が減少した空気を俺達よりも長く吸ったからさ」

梨花「でも、酸素がないならたくさん呼吸したほうが多く酸素を
   得られるんじゃないの?」

圭一「空気中の酸素が18%より薄い場合は呼吸によって
   体内の酸素が空気中にもっていかれるんだ」

106 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 03:08:41.51 ID:2jqzZfL/0

梨花「…圭一ってそんな頭よかったっけ」

圭一「…なんとなくわかった。スタンドのせいかな」

小此木「ふふ…なる、ほど…くぅ…うう」

圭一「動かないほうがいいぞ。今はまだマシだが、
   後々もっと苦しくなる」

小此木「…体が…まったく、…手も、足も……くそ…うぅ……」

圭一「俺の、勝ちだ」

小此木「く…うぅ…」

107 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 03:09:49.53 ID:2jqzZfL/0

圭一「よし…先を急ごう」」

梨花「…大丈夫かしら」

圭一「?」

梨花「ここに小此木を置いていって」

圭一「…この様子から見ると一時間はろくに立てないはずだ」

小此木「…くっそ……このまま、かよ…く、恥だぜ…」

圭一「そこで寝てな。忘れてなけりゃ拾ってってやる」

小此木「く…ふふ……忘れる…なよ…」

圭一「さ、行こう」

梨花「ええ!」

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/09(火) 03:10:25.68 ID:2jqzZfL/0

監視室を出て俺達は鷹野の元へと向かう。
しかし小此木にさんざんやられた俺の体は歩くのも辛い。

圭一「く、いたた……」

梨花「圭一…」

梨花ちゃんが心配そうな目で俺を見る。
ここは男前原圭一、我慢の時だ!根性みせてやる!

圭一「へへ、これくらい…ぐおあっ!!?」

梨花「け、圭一!?」

ろ、廊下の壁に折れた腕をぶつけてしまった…

圭一「ぬおぉぉぉぉ…」

おもわず座り込んでしまう。

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/09(火) 03:11:29.94 ID:2jqzZfL/0

梨花「腕が折れているの!?」

梨花ちゃんが俺の折れた右腕を見る。
腕が赤黒く変色し、かなり腫れていた。

こりゃバレるか…だが根性だ!

圭一「こ、こんなの全然へいき……?!」

梨花「…」

圭一「へ…!?ちょっと…?!」

急に何を思ったのか、梨花ちゃんは俺を抱きしめた。

111 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 03:12:10.65 ID:2jqzZfL/0

圭一「り、梨花ちゃん?…えっと…」

梨花「…圭一、こんなになるまで…本当にごめんなさい」

圭一「え?あ、…なんてことないさ、これくらい」

梨花「私は…あなたが小此木にやられている間、
   ただ見てるしかできなかった…」

圭一「…梨花ちゃん」

梨花「私があの場で…何もできないことはわかってたけど…
   あなたがぼろぼろになっても、私は、ただ見てるだけ」

圭一「…」

112 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 03:12:50.38 ID:2jqzZfL/0

梨花「今日ほど自分の能力の無力さをうらんだことは無いわ…」

梨花ちゃんは俺の胸のなかで泣いていた。
俺には見えることのないよう俺の胸に顔を押し付けて…。

梨花「…それで、あなたを…こんな傷だらけに…」


圭一「…梨花ちゃんは無力なんかじゃないさ」

梨花「で、でも何も出来なかった…」


圭一「いや、俺の力になった」

113 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 03:13:37.97 ID:2jqzZfL/0

梨花「圭一の、力…?」

圭一「ああ。俺がどれだけやられてもさ」

梨花「…」

圭一「俺が最後に勝つってこと、信じていてくれてたろ」

梨花「あ…」

圭一「それが俺の力になったよ」

梨花「そうなの…?」

圭一「ああ。勝てたのはそのおかげさ」

梨花「…圭一」

114 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 03:14:23.13 ID:2jqzZfL/0

梨花ちゃんは胸から離れ、俺に顔を向ける。
目には涙の跡が残っていた。
俺はそれを手で拭う。

圭一「…さ、行こうぜ。まだ終わっちゃいない」

梨花「…ありがとう、圭一」

俺達は鷹野の待つ場所へと進む。

115 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 03:15:20.83 ID:2jqzZfL/0

朝日の昇る頃に・中編 終


ここまで見ていただいてありがとうございました。

116 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/09(火) 03:17:32.35 ID:2jqzZfL/0

次で終わるといっておきながら中編とかにしちゃって
ごめんなさい。最後どうしても書き足したいところがあったので
加筆してたら膨らんでしまいました。

次回は本当に最後です。三日後、朝日の昇る頃に・後編です



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