1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 03:39:59.08 ID:lwNp2nd60
キョン「おいハルヒ、それは本当か?」
ハルヒ「本当よ!ついに我がSOS団も新入部員を入れることにしたわ!」
昼休みの終わりごろにいきなりハルヒが俺に告げてきた。
おいおいマジか!新たな被害者が増えるっていうのか?
なんて可愛そうな奴なんだ、南無。
キョン「ええっとハルヒ、それは一体誰なんだ?」
ハルヒ「内緒よ内緒!放課後になればわかるわ、楽しみに待ってなさいよね」
一体どこのどいつだ?ハルヒのお気に入りがいたってことだろうか。
そんなことを考えながら、俺は午後の退屈な授業をただただ受けていた。
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 03:41:37.85 ID:lwNp2nd60
そして放課後。
ハルヒはその新入部員とちょっと話をしてくると言い、俺は一人で部室へと向かった。
部室には残りのメンバーが全員そろっていた。
キョン「ういーす」
って俺は谷口か!と自分にツッコミを入れながらいつも通りの指定席へと向かった。
みくる「キョンくんこんにちは、いまお茶いれますね」
あぁ、やっぱり朝比奈さんの天使顔負けの笑顔を見れるだけでここにくる価値があるってもんだ。
長門は相変わらずの無表情で、古泉は俺に軽く会釈をし、いつもどおりの0円スマイルを作っていた。
キョン「古泉、ちょっと話がある」
古泉「はい、何でしょうか?僕でよければ何でも聞きますよ」
俺は読書に夢中になっている長門、せっせとお茶汲みの準備をしている朝比奈さんを横目に古泉に話しかけた。
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 03:44:39.72 ID:lwNp2nd60
キョン「実は今日、ハルヒが新入部員を入れるって言ってたんだ。お前なにか知ってるか?」
古泉「……それは本当ですか?」
キョン「ああ本当だ。お前なら心あたりがあると思ってたんだがな」
古泉「機関からは何の情報も入っていませんね、でもまさか新入部員が、ね……」
古泉は何か思い当たる節でもあるのか、思いつめた顔をしていた。
古泉「……以前、あなたには話したかもしれませんが、宇宙人・未来人・超能力者はすでに揃っています。
まだ揃っていない人物、いえ、種別とでも言ったほうがよいでしょうか」
古泉がそこまで言うと、俺はあることに気づいた。いや、まさかな…。
あの涼宮ハルヒが新学期早々言い放った強烈な自己紹介は今でも覚えている。
『……この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところにきなさい。以上』
お分かりになっていただけただろうか。そう、まだ揃っていない人物、いや種別。
………異世界人である。
そんなこんなで色々と考え事をしていると、廊下からものすごい足音が聞こえてきた。
古泉「涼宮さんがくるみたいですね、さて、どんな新入部員が来るのでしょうか」
古泉はいつも通りの笑みに戻り、俺に微笑みかけた。
コイツは一体何を考えてやがるのか、まったくわからん。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 03:50:44.38 ID:lwNp2nd60
ハルヒ「みんなお待たせ!今日は重大な発表があるわよ!!」
嵐のようにやってきたハルヒは怒号のように告げたのだった。
キョン「新入部員だろ。今度はどんな理由つけて連れてきたんだ?」
ハルヒ「なによキョン、もっと喜びなさいよ!つまんないわね」
また被害者が増えるだけだからな、素直に喜んだら本人に悪いってもんだろ。
それにお前は知らないだろうが、異世界人の可能性だってあるんだ。
少しは凡人たる俺の気持ちもわかってくれ。
みんなが一心にハルヒの方を見つめている。
あの長門でさえ読書をやめ、その液体ヘリウムのような眼差しを向けていた。
ハルヒ「ふふーん。みんな楽しみでしょうがないようね!それじゃあ新入部員ちゃん入りなさい!」
ハルヒの後ろから現れた人物は女性だった。
パープルの長髪をツインテールに束ねているその少女に不覚にもドキッとさせられてしまった。
「……柊かがみよ、みんなよろしくね」
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 03:56:51.07 ID:lwNp2nd60
古泉「古泉一樹です、よろしく」
みくる「朝比奈みくるです、柊さんよろしくおねがいしますね」
長門「…………長門有希」
キョン「俺は……」
ハルヒ「こいつはバカキョン!で、さっきも言ったけど私が団長の涼宮ハルヒ!よろしくね!」
名前を言おうとしたら何か知らんが遮られた。ええい、本名を言わせろ!!
自己紹介を言い終えるとハルヒは用事があるとか言ってすぐさま部室を飛び出て行ってしまった。
まぁこの方がこっちとしても都合がいいんだがな。
さて、何から聞くべきかね。
キョン「えっと、柊さん?でいいのかな。ハルヒに何て言われたんですか?」
かがみ「かがみ、でいいわよ。同級生だしね。涼宮さんがいきなり教室にきてね…」
それから彼女はSOS団に誘われた経緯をかいつまんで話してくれた。
驚いた、ハルヒの願望能力がここまでだとはな…古泉の『力が弱まっている説』はどうなったんだ?
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 04:04:17.93 ID:lwNp2nd60
結論から言おう、彼女は異世界人だった。
しかし、彼女にはなんの能力も備わってないみたいだった。
ただ本当に異世界から来ただけのようだ。
彼女が元々住んでいた世界は俺たちと一緒で日本のような世界だったらしい。
そこでは本当に普通の、そう――俺が高校入学時に望んでいたような平凡な生活だったという。
ある日、目を覚ましたらこの世界に来ていたということだった。
それにしても順応しすぎじゃないか?もっと動揺するだろ普通は。
かがみ「ああ、そのことなんだけどさ……実はあなた達のいる世界って私が元々いた世界から見れば
異世界なのよね。というか、ライトノベルが原作の世界なのよ」
古泉「ライトノベル、ですか…驚いた。まさか僕たちの存在がライトノベルだとは」
みくる「ライトノベルって何ですかぁ?」
キョン「ええっと、まぁ簡単に言うと表紙とか挿絵にアニメ調の絵が入ってる小説の簡易版みたいなもんです」
長門「明確な定義というのは存在しない。ほとんどが文庫版の版型をとっており、比較的安価であることが挙げられる。
読者の年齢層としては主としては中高生を対象としているが、最近ではその対象を30代前後まで拡大していると
言われている。ライトノベルの発祥は…」
キョン「もういい長門、やめとけ。説明助かったよ」
長門「……わかった」
かがみ「……えっと、いいかしら?長門さんって本当に想像通りの人なのね」
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 04:12:31.38 ID:lwNp2nd60
かがみ「さっきも言ったけど私が元いた世界ではあなたたちはライトノベルの世界の人たちなのよ」
普通なら驚くだろうな。だが俺は免疫がついているからか、それほど驚かなかった。
かがみ「少し前にアニメ化もされててね、最近はかなりブームにもなってるのよ」
キョン「何てこったい。もう何でもアリだな、あの団長さんは」
みくる「ふぇぇ、アニメ化ですかぁ?ってことは私のあんな姿も…ふぇぇ〜ん」
朝比奈さん……見られたと言っても異世界の方々だけですから大丈夫ですよ、たぶん。
うなだれてしまった朝比奈さんは置いといてかがみは話を続ける。
かがみ「本のタイトルは『涼宮ハルヒの憂鬱』っていうの。今現在では9巻まで出てるけどね。最後の二文字が変わって
涼宮ハルヒシリーズとして売り出されてるわ。」
キョン「おいおい!憂鬱なのは俺だっての。ほかのタイトルはあれか?溜息とか退屈とか暴走とかそんな感じか?」
かがみ「すごい…!全部当たってるわよ。さっすが涼宮さんが選んだだけあるわね」
キョン「…かがみまでそんなこと言わないでくれ。俺はただの平々凡々な人間なんだからな」
かがみ「ま、私もそんなもんよ。異世界人なのは確かだけどなんら普通の人間よ。お互い気苦労が絶えないしね」
一瞬、何の話かと思ったが、元の世界でのことだろう。きっとツッコミ役なんだ、周りが暴走しまくりなんだろ。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 04:19:42.44 ID:lwNp2nd60
かがみ「で、私はこの世界に来る直前にその『涼宮ハルヒの憂鬱』っていうのを見てたんだけど…何ていうのかな、
あなたの言葉を借りると日常の中の非日常?だっけ。すごい羨ましくってさ」
まさか、そんな理由だけで異世界に来ちゃうのか?っていうか今回の場合ハルヒが望んだわけじゃないのか?
かがみ「この世界に行ってみたいなーなんて事を考えながら、その日は寝たんだけど…そしたら夢を見てね。
夢の中で涼宮さんがいたのよ。今でもハッキリと覚えてるわ」
古泉「夢の中で涼宮さんは何とおっしゃっていたんですか?」
かがみ「…自分で言うのってすっごい恥ずかしいわ……。『あなたこそ私が探してた真のツンデレよ!』って言われたわ。
思わず『ちょっおまっ!」って言っちゃったわよ。いきなり何言い出すんだコイツって感じでね」
そりゃそうだ、あいつはいつでも突拍子ないこと言い出すからな。というか、かがみはツンデレなのか?
ちょっと気になるじゃないか……って自重しろ!オレ!!
キョン「そういやあいつ『真のツンデレ』がどうこうとか言ってたな。そのことに関係あるのかもしれん」
古泉「それは初耳ですね、もしかすると……」
キョン「何だ古泉。もったいぶらずに言え」
古泉「あくまでこれはまだ仮説の段階なのですが…いえ、話してみる価値はあるかもしれませんね」
そういうと古泉はいつになく真剣な表情で語り始めた。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 04:25:51.49 ID:lwNp2nd60
古泉「柊さんは元いた世界でライトノベルとして僕たちの世界に触れていた。そして僕たちの世界に行ってみたいという
強い思いがありました。しかしながら、そんなことが現実に起こることは考えられず、夢を見れたらいいな程度で
済ませていました。」
キョン「何が言いたい?」
みくる「ふえぇ、話が見えないですぅ」
古泉「……似ているんですよ、涼宮さんに。現実では不可能な出来事が起こってほしいという願望と、そんなことは不可能
だという常識的な考え方がね。そして涼宮さんは、彼女の言葉を借りるとすれば『真のツンデレ』を捜し求めていた。
ここに、柊さんのこちらの世界に来たい願望と、涼宮さんが捜し求めていた『真のツンデレ』という目的が一致します」
キョン「うーん、わかるようなわからんような」
俺が頭を唸らせているとずっと無言で成り行きを聞いていた長門が口を開いた。
長門「普通、このような現象が起こることは確率的には0.0004%程度。しかし、お互いの目的が合致し、なおかつ涼宮ハルヒが
求めていた『真のツンデレ』に対して相当な整合率があったと思われる。よって異常なほどのシンクロ率を形成した上、
このような事態になったと考えるのが妥当であるというのが情報統合思念体の意見」
なーるほどね。ウチの団長さんには毎度のことながら驚かされるよ。
かがみ「って、二人して『真のツンデレ』言うなっ!!」
キョン「っていうか、『真のツンデレ』ってなんだ?」
かがみ「知るかっ!!」
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 04:34:29.07 ID:lwNp2nd60
かがみ「で、夢の中で涼宮さんが『こっちの世界に来て!大丈夫よ!ちょっとの間だけでいいの、すぐ元の世界に戻れるから!
だから家族のこととか、友達のこととかは心配しないで!!』って言ってくれたわ」
キョン「だから落ちついてるのか?だとしてもそんな確証はないだろうに…」
言った後、俺はしまったと思った。
しかし、かがみは気にする様子などなく続けた。
かがみ「何でだろ、私自身も近いうちに元いた世界には戻れるってわかるの。理屈とかじゃないのよ。えっと、古泉君なら
わかるでしょ?この感覚がさ」
古泉「ええ、柊さんのいうことはとてもわかります。この世界には理屈で説明できないことというのは多々あります」
かがみ「目が覚めたとき、こっちの世界の両親がいてさ、もちろん私が元いた世界にいた両親とは別なんだけど。
学校にも自然と前からいるみたいな扱いになっててね。それにライトノベルで読んでたからみんなのことは
結構わかってるつもりだしさ。実際に話してみてそれが確信に変わったわ」
みくる「ほぇぇ、そうなんですかぁ。それで涼宮さんに誘われてここに来たんですかぁ?」
かがみ「うん、それで今に至るってカンジかな」
そんなこんなで話していると、ハルヒが勢いよくドアを蹴飛ばし戻ってきた。
ハルヒ「みんな!今日は柊ちゃんの歓迎会よ!部活はここまで!!」
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 04:45:13.62 ID:lwNp2nd60
駅の近くにあるファミレスで短い時間ながらも歓迎会を開いた。
ハルヒは今までのSOS団の活動を洗いざらい一方的に喋っていた。
かがみはそれを嫌な顔一つすることなく聞いていた。
俺としては何だか複雑な心境である。
異世界人かもしれないということでかなり疑ってかかっていたが、実際は至って常識人だ。
しかもツインテールときた!髪がパープルなのもなぜか違和感がない。
かがみ本人は、感覚で元にいた世界に帰れることがわかる、と言っていたがその方法はどんなもんだろう。
そして今日は日曜日。
前日、夜更かししてたせいか昼まで睡眠を決め込もうと思ってた俺を起こしたのはハルヒの電話だった。
ハルヒ「キョン!今日はSOS団の課外活動をするわよ!9時にいつもの駅前に集合!ビリは奢りだからね!」
キョン「お、おいちょっとまて、話がいきなりすぎ…」
ツー…ツー…ツー…
切りやがった、なんてやつだ。こっちの予定はお構いなしか。
55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 13:07:17.86 ID:lwNp2nd60
重い目をこすりながら俺は急いで支度をした。
日曜の朝7時30に電話をしてきて、9時に集合だぞ?普通ありえんだろ。
結局行ってしまう俺も俺なんだがな…。
いーや、わかってるさ。
不思議探検とか言ってるが本当はみんなと遊びたいんだ、それが素直に言えない奴だってこともな。
集合場所にはギリギリに到着した。
駅前に集合している面々を見渡してみると…かがみ以外全員いるようだった。
キョン「かがみ以外全員きてるか」
みくる「そうみたいです、私もさっききたばっかりなんですけど」
そりゃそうだ。レディは何かと準備に時間がかかるだろうからなぁ。
未来人とはいえ、遅刻しないだけでも立派ってもんだよ。
ふと、駅の方に目をやるとかがみが改札からすごい勢いで走ってきていた。
かがみ「ごっめーん!遅刻しちゃっ…って9時ぴったしか。それでも奢らなきゃダメなの??」
そりゃそうだよなぁ、遅刻してないのに奢らされるって…酷ってもんだ。
しかも初めての団員活動でいきなり奢りとはな。
ハルヒ「とーぜんよ!新人だからとか甘えは許されないわ!!それがSOS団のルールなのよ!例外はないわ!」
かがみ「くっ…!いつも遅刻してくる友達がいたから油断してたわ。複雑な気分ね」
ドンマイ、かがみ。
そんなやりとりをして俺たちはいつもの喫茶店へと入ったのだった。
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 13:20:19.46 ID:lwNp2nd60
全員各々のメニューを注文し、ウェイターが下がった所でハルヒが提案した。
ちなみに俺はアイスティーを頼んだ。
ハルヒ「これからくじ引きで班分けして市内探索をしてもらうわよ。何か発見したらすぐ私に連絡すること!」
キョン「今回は6人いるから、3人づつに分かれるのか?」
ハルヒ「うーん、なるべく広範囲を探索したいし、2人づつで3組にしましょう!」
古泉「なるほど、大変すばらしい案かと」
相変わらずのイエスマンだぜ、コイツは。まぁ今回ばっかりは俺も賛成だがな。
ハルヒは家で準備していたのか、紙切れにあみだのようなものを書いてきていた。
あみだくじで班分けするってことか。
結果、古泉と朝比奈さん、長門とハルヒ、俺とかがみ、という班分けになった。
よかったよかった、正直ハルヒや古泉とは朝っぱらから二人っきりになりたくなかったからな。
俺としてはSOS団に新たな良識人の仲間ができたと思っているし、今日はそこんとこ語り合おうぜ。
そんなことを考えながら俺は心の中でガッツポーズを決めていた。
その後ハルヒは30分くらいこの課外活動の目的や、具体的に探すモノ、注意事項など延々と説明していた。
俺は相変わらずボーっと流していたが、かがみはやたらとまじめに聞いていた。
ったく、遠足かっての。素直に遊びたいって言えばいいのに。
俺たちは1時間くらい喫茶店で居座り、そこを後にした。
58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 13:34:53.35 ID:lwNp2nd60
ハルヒ「いーい、キョン!デートじゃないのよ?もしサボってることがばれたら殺すわよ!」
キョン「わかってるって。ちゃんとやることはやるさ。お前もサボるなよ?」
ハルヒ「うっさいバカキョン!私がサボるわけないでしょ!……一旦解散!12時にまたここに集合!」
駅を中心として、俺たちはそれぞれの方向へばらばらと散会した。
さーて、どこへ行こうかね。
キョン「かがみ、行きたい所あるか?今日はお前の要望があればそこに行こうと思ってるんだが」
かがみ「うーん、そうねぇ。じゃあさ、キョン。朝比奈さんが未来人だって暴露したあの川縁の道、覚えてるわよね?」
キョン「ああ、あそこか。わかった、そこに行こうか」
そういえば、あまりに自然に受け入れてしまってたが、俺はかがみの世界でいう所のライトノベルの住人だったんだな。
だからかがみは俺たちの世界のことをその本を通してある程度は知ってるわけか。
ん…?待てよ。どこまで知ってるんだ?
まさか俺がハルヒと一緒に閉じ込められたあの閉鎖空間のことも知ってるっていうのか!?
かがみ「ちょっとキョン、どうしたのよ!そんな考え込んじゃって」
俺はずっと考え事をしていたせいか、かがみが話しかけてくるまでぜんぜん気がつかなかった。
キョン「え、ああスマン。ちょっと考え事をしていてだな…気にするな」
気になる…どこまで知ってるんだ?あの空間内でのことは俺の心の奥底にしまっておきたかったのに!
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 13:48:39.01 ID:lwNp2nd60
俺はそのことが気になって気になって仕方がなかった、のだが…。
お互い何を話すわけでもなくただ川縁を歩いていると、かがみが沈黙を破った。
かがみ「私さ、こんな風に男子と歩くっていうの初めてなのよね」
キョン「そうなのか?意外だな。てっきり経験豊富かと思ってたよ」
かがみ「ちょっ、経験豊富ってどういう意味だ!!変な先入観抱くな!」
キョン「悪い悪い。でもモテそうだけどな。どこぞの団長さんみたいにならなければ俺は嬉しいよ」
かがみ「……涼宮さんって素直じゃないわよね。根はいい子なのに、それはキョンだってわかってるでしょ?」
キョン「…まあな。少なくともこの1年間SOS団を通じてハルヒのことはある程度わかってきたつもりだ」
実際そうなんだ。谷口とかはあいつの表層部分しか見てないからわからないんだろうが、俺は知っている。
あいつは素直じゃない奴なんだ。何かと行動に理由をつけたがる、ちょっと恥ずかしがりやなだけだってな。
かがみ「なーんか何気にすっごいセリフ言ってるわよね。まぁ、アンタらしいけどさ」
キョン「俺らしいって何だ俺らしいって。正直に言ったまでだって」
かがみ「あそこのベンチに座ろうよ」
ふと、かがみが指差したベンチはというと……忘れるわけがない、あのベンチだ。
俺が朝比奈さんから未来人暴露を受けたあのベンチ。
あの時は衝撃だったな、まさか俺がこんな世界に足を踏み入れるだなんて思ってもいなかった。
俺は無言で頷き、そのベンチへと腰を降ろしたのだった。
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 14:03:31.06 ID:lwNp2nd60
俺は身構えていた。
この光景は以前の朝比奈さんの時と同じである。
何かかがみから重大な発表でもあるんじゃないかと勘ぐっていた。
かがみ「どうしたのキョン?また考え事?」
キョン「あ、いや…。かがみ、お前は本当に異世界人なのか?」
かがみ「………禁則事項です」
キョン「…はっ?」
かがみ「ぷっ、冗談よ!冗談!!どう、似てた?」
キョン「知らん。あんまり俺を驚かすな!」
まったく、肝を冷やしたぜ。
まあでもいきさつは昨日、部室で話したからそれが全てなんだろう、嘘つく理由なんかないしな。
話したいことはいっぱいあったはずなんだが、実際面と向かうと何を話せばいいのかわからなくなる。
こういうことって結構日常でもあるんじゃないか?今の俺はまさにそんな感じである。
キョン「……なぁ、かがみ。お前は俺たちのことをどこまで知っているんだ?」
咄嗟に搾り出した答えがこれだった。まぁ頑張ったほうだろ。
かがみ「昨日も話したけど、この世界での出来事は涼宮ハルヒシリーズとして現在は9巻まで出ているのよ。
私は途中までしか読んでないけどね。えっと6冊目の『涼宮ハルヒの動揺』だったかな」
そういえば9巻まで出てるのか。ったく、自分で読んでみたいぜ、その話とやらをな。
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 14:13:13.92 ID:lwNp2nd60
キョン「動揺…ねぇ。あのハルヒが動揺なんかしてたことがあったっけな。それはどんな話なんだ?」
かがみ「そうねぇ、短編集だったっけな。文化祭でのライブの話とか、あんたの中学の頃の同級生が長門さんに惚れた話とか」
なんてこったい……こんな話までかがみのいる世界では書籍化されてるのかよ。俺は一躍有名人か!
かがみ「文化祭のライブすごかったわよね。あ、私はアニメの方もみたからさ」
キョン「ああ、確かにアレには驚かされたよ。あいつって何でも器用にこなすからな」
かがみ「文化祭かぁ。みんな元気にしてるかなぁ…」
なんか重たい空気になってしまった。どうするオレ!
結局、俺の足りない脳みそでは打開策は見つからずに、かがみの方から話を続けてくれた。
かがみ「私も、文化祭ではちょっとした催し物をやってね。あれは楽しかったな」
キョン「へぇ、何やったんだ?まさか焼きそば喫茶でもやったのか?」
かがみ「違うわよ。ダンス踊ったのよ。……チアガール姿で」
キョン「ダンスか、ってチアガール姿でか!?かがみも結構ノリノリなんだな、意外だぜ」
かがみ「べ、べつにノリノリなんかじゃないって!最初は嫌だったけど、こなたがどうしてもって言うから仕方なく…」
『こなた』というのは名前だろうから、だとすれば元の世界で仲がよかった友人のことだろう。
72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 14:24:34.67 ID:lwNp2nd60
キョン「こなたっていうのは、友達の名前か?」
かがみ「え、あ…うん。そいつがさーすっごい変わった奴でさー………」
それからかがみは延々とそのこなたのことと、元の世界でのことをしゃべってくれた。
よっぽど仲が良かったんだな、そのこなたってやつと。
そして、やっぱりお前は元の世界が大好きなんだな。
誰しも一度は本、アニメ、漫画などの世界に行きたいって思うことくらいあるだろ?
それが実現できたらどんなにいいことか、俺だってわかるさ。
だけど、それは元々あった大切なモノを失うってことなんだ。
それら全てを失ってまで行く世界に価値なんかあるか?
……いーや、ないね。俺はそれを味わったんだ。
俺はあの日、このSOS団を全て失って気づいたんだ。
やっぱり俺はこのSOS団が好きなんだ。
あいつに振り回されてる日々だって、顔には出さないけど本当は好きなんだ。
それは俺だけじゃない、長門、朝比奈さん、古泉だってそうだろう。
元々は立場が違った3人だって、いまじゃ立派なSOS団の不可欠な団員だ。
かがみには、そんな思いは味わってほしくない。
実際にかがみの話を聞いていると、やっぱかがみは元の世界に帰るべきなんだよ。
そりゃこんなに常識的な考え方で、俺の気苦労がわかるような友達ができて嬉しいさ。
でも、他人の人生を棒に振るわせることなんて俺にはできるはずがない。
きっとかがみが元の世界に帰る方法だって俺がなんらかのキーとなってるんだろう。
よし、やってやろうじゃないか!かがみが元の世界に帰る為ならなんだってするぜ、俺は!
76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 14:38:07.48 ID:lwNp2nd60
かがみの話をひたすら聞き役に徹していた俺は、ふと時計を見てみた。
時計は11時55分を指していた。
キョン「っと、もうこんな時間か、戻ろうぜ。団長様が鬼の形相になる前にな」
かがみ「って一方的に私が話しちゃったわね、ごめんねキョン」
キョン「いいっていいって。こういうのは古泉と長門で慣れっこだ、気にすんな」
俺たちは急いで駅前へと向かったのだった。
駅前にはすでに俺たち以外のメンバーが揃っていた。
ハルヒ「おっそいわよ!キョン!何やってたのよ!」
キョン「あのなぁハルヒ、遅いっていっても12時ぴったしじゃねぇか」
ハルヒ「言い訳無用!で、何か発見はあったの!?」
ずっと二人で駄弁ってました、なんて言えるはずもなく俺が言い訳を考えていると…。
かがみ「ごめんごめん涼宮さん。怪しいと思われるところは探してみたんだけどさ。まだまだ私じゃ力になれないかな。
涼宮さんが期待するようなモノは発見できなかったわ…」
ハルヒ「…そう。でも柊ちゃん、よくやったわよ!そこのバカキョンも少しは見習いなさいよ!」
キョン「そうかい」
ふぅ、何とかごまかせたようだな。
でもハルヒだって本当は何か見つかるかなんて思っちゃいないんだ。
あいつ自身がそれを認めたくないだけなのさ。
78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 14:48:07.55 ID:lwNp2nd60
駅前のファーストフードで簡単に昼飯を済ませると、午後の探索のくじわけが行われた。
その内訳は、朝比奈さんとかがみ、ハルヒと古泉、長門と俺だった。
集合は4時に駅前とのことだ。
長門と二人になったら行くところは決まっている。
キョン「長門、図書館でいいか?」
長門「………いい」
即決だ。
長門は図書館につくとすぐに長門ウォークで自分の世界に入り込んでしまった。
ま、アイツらしいっちゃアイツらしくて俺は一安心だ。
俺はどうしようかと考えたが、朝っぱらからハルヒに叩き起こされ適度に眠くなっていたので
本来はこういう利用の仕方はよくないんだろうが、館内のイスで眠らせてもらうことにした。
目を覚ますと3時40分だった。
あぶねぇ、あの時の二の舞になる所だったぜ。
俺は急いで長門を探すと、半ば強引に引っ張るように図書館をでた。
長門は少し不服そうだったが…許してくれ。遅刻とかそんな理由で閉鎖空間が出現したらたまらん。
急いで戻るとやはり俺たち以外のメンバーは揃っていた。
何かの嫌がらせか?と思ったが、朝比奈さんの古泉の100万倍の価値あるスマイルをみたらそんな思いは吹き飛んだ。
ま、このあとはいつものようにハルヒが問いただして俺が言い訳をするってカンジなわけだ。
そんなこんなで今日のSOS団の課外活動は終わったのだった。
79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/26(火) 14:56:04.74 ID:lwNp2nd60
夜、俺はどうすればかがみが元の世界に帰れるのかをずっと考えていた。
しかし、答えがないような問題に立ち向かってるようなもので、一向によい解決案は見出せなかった。
ずっとベッドに横たわり考えても見つかるはずもない答え。
………そうだ!何でいままで気づかなかったんだよ。
長門に聞いてみればいいじゃねえか。
いや、それはダメだ。長門にはお世話になりっぱなしだ。
こんなんじゃいつまで経っても俺は凡人のままだ。
いや、凡人でありたいとは思っているんだが…そういう意味じゃなくてだな。
なんてことを考えてたら妹がノックもせずに部屋に入ってきた。
妹「キョンくんはさみぃ〜明日の図工で使うの」
おいおい、まだ自分専用のハサミ買ってもらってないのかよ。
こう毎度毎度部屋に入られたんじゃ俺のプライベート空間はどこに存在するんだ。
キョン「机の引き出しの二段目に入ってる、勝手に持ってけ。あと部屋入るときノックくらいしろ」
妹「はぁ〜い、キョンくんありがとぉ〜」
……ふぅ。
もう今日は寝るか。考えてても埒が明かん。
そう思うと俺は歯を磨いてすぐに眠りについたのだった―――――――――。
144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 01:45:57.13 ID:fNjhE6xA0
「……キョン」
誰だ?俺を深い眠りから起こそうとしてるのは。
俺はまだ寝たいんだ、眠りを妨げないでくれ。
朝比奈さんの呼びかけでもない限り、この眠りを妨げるのは許されんぞ。
「ねぇ、起きてってば!」
―――バシッと鮮烈な音が俺の頬を通り抜けた。
残るのはじわじわとした痛みだけだ。
キョン「いってぇな、オイ!」
俺は声を荒げ、咄嗟に目を開くとそこにいたのは……かがみだった。
キョン「って、かがみか。いきなり何すんだお前は」
かがみ「だって、いくら揺さぶっても起きないから。…不可抗力よ。文句ある?」
キョン「不可抗力の使い方間違ってないか?まぁいいけど」
何でだろう、これがハルヒだったら怒鳴り返してたんだろうが…。
俺は不思議といきなりビンタされたにも関わらず受け入れてしまった。
寝起きでまだ視界がはっきりとしない。
いまにも下がってきそうな瞼をこすって、周囲を確認しようとする。
…………………………………………って!!
147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 01:55:48.05 ID:fNjhE6xA0
一面に広がる灰色の世界。
俺はこの光景に見覚えがある。
そう、かなり昔の話になるがハルヒと来たことがある。
今でもハッキリとあの日のことは覚えている。
いや、思い出したくはないんだがな。
人間、いやな記憶というものは忘れられないもんだ。
……ここは閉鎖空間であると同時に学校でもあった。
俺は感覚で理解していた。
ずいぶんと立派になったもんだな俺。
などと寝起きの頭で考えていると、かがみが顔を覗き込んできた。
かがみ「ねぇ、ここって…」
キョン「ああ、お前も知ってるとは思うが閉鎖空間だな」
かがみ「やっぱり……。本当にあるのね、驚いた」
にしてはやけに静かだな。
極限の驚きの目の前では、言葉も出ないっていうが、本当みたいだな。
無理もないがな…むしろ冷静に対処している俺のほうがおかしいんだよ、普通は。
さて、何が原因でここに来たのか俺にもよくわからんな、今回ばっかしは。
何といっても、張本人のハルヒがここにはいないんだ。
かがみ「……ねぇキョン、ちょっと散策してみない?」
かがみの提案を断る理由もなく、俺たちは校舎へと向かっていた。
148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 02:06:42.29 ID:fNjhE6xA0
前にハルヒと来たときも俺はやけに冷静だった。
そして今回はいつも以上に冷静な自分がいるのが手に取るようにわかる。
俺はいままでSOS団を通じて様々な経験をしてきた。
死にそうになったことだってあるんだぜ?
もうこれくらいで俺を驚かそうだなんて無理があるってもんさ。
しかし、ハルヒのときもそうだったが騒がれない分マシってもんだ。
かがみに至っては、驚いてはいるんだろうが、自然に受け入れているようにも思える。
まぁ、ライトノベルで読んでるし、アニメでも見たっていうんだから変な耐性でもついてるのかね。
部室へとたどり着いた俺たちは、さっそくパソコンの起動ボタンを押し、長門からのメッセージを待った。
いつもならOSのロゴマークが出る、のだが…。
予想通りといったところか、OSのマークが出ることはなくモニターは真っ黒のままだ。
かがみ「これって、もしかして…?」
キョン「ああ。長門からのメッセージに間違いないな」
10秒くらい経っただろうか。
画面の左上にあるカーソルが文字をなぞっていった。
YUKI.N> みえてる?
あぁ、見えてるぜ長門。
今回の俺は至って冷静だからな。
俺は見えてるという旨の返信を長門に返した。
151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 02:17:47.39 ID:fNjhE6xA0
今回はどうすればいいのか、という答えを提示してくれるであろうと俺は期待していた。
YUKI.N> 今回、このような閉鎖空間を形成した原因は涼宮ハルヒによる苛立ちに起因しているわけではない。
『じゃあなにが原因だっていうんだ?』
YUKI.N> 涼宮ハルヒによる願望と、柊かがみによる願望が異常なシンクロ率を形成した結果、柊かがみがこちらの世界に
きたことは以前述べた。そのあまりにもシンクロしている願望の余波として、今回のような疎外された空間が形成された。
『なんてこったい…。一体どうすりゃいいんだ?』
YUKI.N> 今回もキーとなっているのはあなた。情報統合思念体としては直接的な解答を明示することはできない。
『そうか。じゃあヒントだけでも教えてくれないか?』
YUKI.N> 柊かがみの夢の中で涼宮ハルヒがいった『真のツンデレ』。解決の糸口はこのキーワードにあると思われる。
『「真のツンデレ」だけじゃわかんねぇよ長門。もうちょっと具体的にだな…』
YUKI.N> 涼宮ハルヒがなぜ柊かがみをこちらの世界へと呼び寄せたのか、それは涼宮ハルヒの『真のツンデレ』に対する欲求に
起因するものだと考えるのが妥当であるとわれわれは考えている。
『ちょっとまて!欲求ってなんだ!?もっとわかりやすく…』
YUKI.N> 時間がない。あなたに賭ける。大丈夫、あなたは自分の信じることをすればいい。
長門の最後のメッセージが浮かび上がって数秒後、パソコンは音もなくシャットダウンしてしまった。
154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 02:28:13.41 ID:fNjhE6xA0
キョン「くそ!途切れちまった」
かがみ「っていうか何なのよ!『真のツンデレ』って!」
キョン「知るか!俺が聞きたいところだ」
かがみ「元いた世界でも仲のいい友達にしょっちゅう言われてたけど、私自身よくわからないわよ!そんなの…」
まぁそうだろうな、ツンデレっつうのは本人が無意識のうちにやってることだしな。
意識してやってたらそりゃ確信犯ってもんだ。
朝比奈さんのような天然キャラもそうだが、ああいうのは無意識下でやってるからいいんであってだな。
こういうのは口で説明するもんでもないんだが…しかしどうすりゃいいんだ?
だいたい当人であるハルヒがいないという事態である。
それに、神人がいないのが気がかりだ。
かがみ「キョン、私たちどうなっちゃうの?」
キョン「大丈夫だ、俺がなんとかする、心配するな」
かがみ「……キョン…」
くそっ、どうすればいいんだ?
何とかするといってもな、何をすれば……。
前回のハルヒの時のようにキスでもするのか?
いや、それはあり得ないだろう。
それだったら長門がそういう風にメッセージを残してくれるはずだ。
第一、ハルヒが望んでいる『真のツンデレ』というのはハルヒの願望だ。
あいつがこの場にいなきゃいけないんだ…どこにいやがる……!ハルヒ!
156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 02:36:30.52 ID:fNjhE6xA0
重い空気が流れているのがわかる。
さっきまで冷静だった俺も少々あせり始めている。
時折かがみのほうを向くが、かがみは何か考え事をしているようで視界は上の空だった。
ハルヒ…鍵ってのはな、鍵穴がなきゃ意味がないんだよ。
お前はその鍵穴の存在なんだ、お前がいるからこそ俺の存在意義があるってもんだ。
一体どこにいやがる?隠れてないで出てきやがれ。
かがみ「ねぇ、涼宮さんはいないのかな?」
キョン「…みたいだな」
かがみ「あ、携帯!かけてみ…」
キョン「無駄だ。この空間内では携帯は繋がらない。外部との連絡は遮断されちまってるんだ」
かがみ「そんな……」
159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 02:40:32.94 ID:fNjhE6xA0
再び重い沈黙が流れた。
時計の秒針が刻む音だけが無機質に流れている。
キョン「すまん、ちょっとトイレいってくる」
かがみ「え、あ…うん」
俺が重い空気に耐えられずに席を立とうとしたそのときだった。
「…キョン!それに柊ちゃんも!!」
キョン「……ハルヒ!お前……」
かがみ「涼宮さん!!!」
紛れもない。そこにいたのは我等がSOS団団長、涼宮ハルヒであった。
206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 13:58:00.06 ID:fNjhE6xA0
キョン「ハルヒ!!お前いままでどこにいたんだよ!?」
かがみ「そうよ!涼宮さんがいなくて心配したんだから!」
ハルヒ「えっ…?何か目が覚めたら屋上にいてさ、もしかしたら、と思ってすぐ部室にきたんだけど…
二人してそんな心配してくれて一体どうしたっていうのよ?」
まるで最初からハルヒがいることが前提みたいな話し方をしたのはまずかったかと一瞬思ったが
ハルヒはそんなことは全然気にしていないようで俺としては助かった。
発言には気をつけないとな。
多分、俺たちより少しあとにこの閉鎖空間に来たのだろう。
俺はそう納得することで、もっと問いただしたい気持ちを冷静に抑えたのだった。
さて、一体どう話を切り出そうかと思案していた俺より先にハルヒが話しかけてきた。
ハルヒ「ねぇキョン、私以前にもこういう夢をみたことあるのよね」
キョン「……ほう。こんな感じの状況だったのか?」
俺は慎重に言葉を選びながら、ハルヒに促した。
ハルヒ「うん。あたり一面灰色の世界だったわ。ほかには誰もいなくて……いるのはキョンと私だけ。
あ、あと他に変な青色の巨人みたいな怪物がいたわね」
恐らく神人のことだろう。俺はそこに突っ込むこともせず、そうか、とだけ告げた。
208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 14:09:28.90 ID:fNjhE6xA0
ハルヒ「今でもはっきりと覚えてるわ。……私が人生の夢の中でのワースト3に入るくらい後味の悪い夢だったしね」
そりゃ俺だって一緒だっつうの!!
反論したい気持ちがこみ上げてきたが、俺は無理やりその怒りを押し殺した。
かがみ「………ぷっ。あはは、あっはははは!!」
キョン「おい、なんだよかがみ!」
かがみ「ワースト3だってさ、相当後味の悪い夢だったみたいね涼宮さん?」
ハルヒ「ええ、思い出したくもないわね、あれほど寝覚めの悪い朝もなかったわよ」
かがみ「でもポニーテール似合ってたわよ!」
ハルヒ「………なっ!」
いきなり何を言い出すんだかがみは。
キョン「かがみ!そんなことより今はどうするかを考えたほうがいいんじゃないか?」
俺はこれ以上話がややこしくならないように静止をかけた。
さて、どうしようかね。
何かアクションを起こすにしても、神人がいなきゃ話にならん気がするぜ。
あのときのキスだって神人がいたからこそ、だ。
…って思い出したくもねぇ!!
神人を出現させるには……ハルヒの機嫌を損ねるしかない…か。
210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 14:19:49.28 ID:fNjhE6xA0
じっとしてるよりまずはアクションを起こすことが大事だと思った俺はさっそく行動に出た。
キョン「なぁ、ここでじっとしてても埒が明かないのは明白だ。少し周囲を探索しないか?」
かがみ「それもそうね、なんだかただの夢じゃないよ、これ…」
ハルヒは何かを思い返しているように黙りこくっていた。
キョン「そうだな…じゃあ俺とかがみが周囲を見てくる。ハルヒはここに残っててくれ」
ハルヒ「え、ちょっとキョン!3人で行ったほうがいいんじゃ…」
キョン「よし、じゃあ行って来る!かがみ、行くぞ!」
かがみ「え、ちょ、おまっ!」
俺は半ば強引にかがみの手をとり、部室を飛び出した。
211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 14:25:43.59 ID:fNjhE6xA0
ちょっと無理矢理すぎたか、許せ、ハルヒ。
かがみ「ちょっとキョン、どういうことよ!?」
キョン「かがみ、お前ならわかると思うが神人はハルヒの潜在意識の現われなんだよ。今ここに神人がいないってことは
あいつは比較的上機嫌ってこった。ここから脱出するにはまず神人を出現させるべきだ」
かがみ「でもどうするのよ?神人を出現させるといったって…」
キョン「ハルヒの機嫌を損ねるしかないな。お前も一芝居うってくれ」
かがみ「……涼宮さんの前で?」
キョン「ああ、そうだ。今はその話をするために強引に連れ出した。悪く思わないでくれ」
かがみ「そういうのはあんまり好きじゃないけど…わかったわ」
キョン「じゃあ、部室に戻ったら唐突に好きな人の話題でも振ることにするか。かがみが俺に振ってくれ」
かがみ「…はぁ?」
キョン「俺にいい考えがある。そこからはまかせてくれ」
212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 14:32:37.25 ID:fNjhE6xA0
手ぶらで戻るのは釈然としないので、俺たちは購買部でパンと飲み物をかっさらってきた。
あいにく財布は持っていなかったのだが、緊急時だから悪く思わないでくれよな。
ハルヒ「ちょっとキョン!どこ行ってたのよ!」
キョン「いやぁ、何か腹が減っちまってな。探索ついでに購買部行ってきた」
ハルヒ「あんたねぇ、この緊急時に…。それにどうするか考えようって言ったのあんたじゃないの!」
キョン「まぁまぁハルヒ、落ち着け。人間、腹が減っては何もできんぞ。なぁかがみ?」
かがみ「…そ、そうね。一理あるわね」
ハルヒ「柊ちゃんまで!」
俺たちは購買部でかっさらってきたパンをむさぼりながら、話はじめた。
かがみ「…ね、ねぇキョン。あんたって好きな人いるの?」
ハルヒ「ちょっと、柊ちゃん!何を呑気な…」
キョン「そうだなぁ、特定の人はいないんだが。好きなタイプっていうのならあるな」
かがみ「へぇ、聞かせて聞かせて!」
キョン「好きなタイプっていうよりは、嫌いなタイプを挙げた方が早いな」
それから俺は、俺の中での嫌いなタイプを挙げていった。
結構本音も混じってるかもしれんな。
214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 14:44:34.05 ID:fNjhE6xA0
キョン「まず、人遣いが荒い奴は嫌いだな、雑用を何でも押し付けちゃうような奴は特にな。相手の話を聞かない奴もアウトだ、
人間、自分に不都合な話っつうのは流したくなるもんだが、一方的に話をするってのは俺は好かん。あとは休日の日の
早朝に電話をかけてきて、こっちの都合も聞かずに約束を取り付けたりする奴なんかはもっての他だね、俺の休日の睡眠を
妨げていいのは、天使たる朝比奈ボイスだけだからな」
…まぁこれ全部ハルヒに当てはまるんだがな。
かがみ「へ、へぇ。なかなか厳しい条件のようね」
キョン「そうか?こんな性格の奴なんか滅多にいないだろ。当てはまるほうがオカシイぜ」
俺は心を鬼にして言いまくった。
少々、心が痛むが…許せハルヒ、俺たちの命運がかかってるんだ。
世界に比べりゃ安いもんだろう。
俺は散々まくし立てた後にハルヒの方をちらっと見た。
さすがにこんだけ言われりゃ…怒るどころか、傷つけちまったか?
ハルヒ「………………………………キョン、あんたもワガママなのね、本当に」
キョン「そうかぁ?こんな条件当てはまる奴の方が希少価値があるってもんだぜ」
かがみ「あはは……そ、そうね」
……これでだいぶ機嫌を損ねたはずだ。
神人、くるならきやがれってんだ!今日は大歓迎するぜ。
こんなにお前が待ち遠しいと思った日はないぜ。
216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 14:55:08.81 ID:fNjhE6xA0
再び、長い沈黙が流れる。
さすがの俺もこれには良心が痛まずにはいられないな。
ひたすら待たなきゃいけないってのはつらいぜ。
でも俺は神人はきっと来ると信じていた。
もうハルヒとの付き合いは1年以上になる。
その間に俺はあいつのいろんな感情の起伏を見てきたし、見せられてきた。
ハルヒ専属カウンセラーの古泉にも散々話を聞かされてきた。
それに、今の俺は長門の些細な表情の変化も見逃さないほど優れた眼力を持ってるんだ。
自分で言うのも何か変なカンジだけどな。
さぁ、こい!神人!!
かがみ「二人とも見て!!!」
俺はそのかがみの声でふっと我に返った。
部室の窓を覗いてみると………いた!神人だ。
ついに現れやがったか、この野郎!
ハルヒ「あ……あのときの青い巨人!!」
ハルヒはさっきまでのしょんぼりしてたのが嘘のように目を輝かせ始めた。
217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 15:06:05.97 ID:fNjhE6xA0
神人は校庭の中心部に突如出現したようで、すごい遅いペースだが部室へと向かってきていた。
今回は破壊活動が主な目的ではないみたいだな。
狙いはハルヒか?
いや、そんなことはありえないだろう。
ハルヒの内面が表出した神人がハルヒ自身を狙うなんてことありえない。
じゃあ…もしかして俺か?さっきの発言で苛立った神人が俺を攻撃するために?
ありえなくはないだろう。
しかし、ハルヒは常識的な考えを持っていると古泉は述べていた。
それは俺も痛いほど知っている。
そんな個人的な感情で人を攻撃したりするだろうか?
……まさか!
そうだ、俺は見落としていた。
先ほど、長門とのメッセージでのやりとりを思い返してみる。
「…涼宮ハルヒの『真のツンデレ』に対する欲求に起因するもの…」とあいつは言ってたな。
ってことは狙いはかがみか!?
俺はすぐさま大声で叫んだ。
キョン「かがみ!神人の狙いはお前だ!ここは危ない一旦外に出るぞ!!」
かがみ「え、え、私!?なんで…」
俺はかがみとハルヒの手を取るとすぐさま外へと駆け出した。
両手に花っっつうのはこういうことなのかね。
今は素直に喜べる状況じゃあないんだがな。
219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 15:17:23.58 ID:fNjhE6xA0
何でだろう。
俺の足は自然に中庭に向かっていたのだった。
ここでハルヒと文化祭をやった翌日の昼休みに話をしたっけ。
そんで、バンドを組むことになったんだよな。
……けど、まさかあんなダンスを踊らされるのは意外だったがな。
長門が思いのほかノリノリだったのは見てて楽しかったが。
ここには大きな一本の木が立っている。
この〜木なんの木〜気になる木〜みたいなカンジの木だ。
わかりやすい形容だろ?
まさにあんな風な一本木が立ってるワケで。
神人はすごい遅いペースながらも着実にこちらへと向かってきている。
残された時間はそう多くはない。
ここで何か決定打を打たないといけない気がするぜ。
ハルヒ「ちょっとキョン!こんな所に連れてきて一体どうするっていうのよ!」
そりゃそうだろうな。俺自身よくわかってないんだからな。
無意識下でここにきちまったんだ。
俺が答えを知りたいくらいだぜ。
くそ、どうすりゃいいんだ!?
だいたいなぁハルヒ、『真のツンデレ』ってなんだよ。
普通のツンデレじゃダメなのか?
そこんとこ詳しく教えやがれってんだ。
221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 15:28:13.54 ID:fNjhE6xA0
考えていてもどうしようもないので俺はハルヒに直接問いただした。
キョン「ハルヒ!数日前に話したツンデレの話覚えてるか!?」
ハルヒ「はぁ?こんな時になに呑気なこと言ってんのよ!」
キョン「いいから!覚えてるかって聞いてんだよ!!」
強引に怒鳴り散らしてやった、悪く思うなよハルヒ。
ハルヒ「……覚えてるわよ」
キョン「教えてくれ!!お前の中の『真のツンデレ』の定義を!」
ハルヒはこんなときに何を言い出すんだ、とばかりに俺のことをにらみつけてきた。
が、俺は全力で睨み返してやった。
ツンデレの定義を本気で聞き出そうとしてる俺、なんか悲しいったらありゃしないぜ。
ハルヒ「……普段はツンとした態度をとるけど、特定の条件下では恥ずかしがってそれを隠しちゃうような子ね。
外見的な特徴としてはやっぱりつり目は外せないわね。あとは髪の色がパープルで…ツインテールなんかも悪くない」
…………。
外見だけなら思いっきりかがみじゃねぇか、何で気づかないんだコイツは。
かがみも、それって思いっきり私じゃないのと言わんばかりに唖然としていた。
ハルヒ「あとは、そうね。若干の百合気質なんかがあると非常にグッドだわね。それだけで私の中の萌えポイントは
うなぎのぼりだわ。ただし、若干っていうのが重要よ。大っぴらなのはNGね」
それはかがみのことを言ってるのだろうか……。
222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 15:38:08.60 ID:fNjhE6xA0
はいまハルヒの述べた情報を元に、どうすればいいかの答えを導き出すのに精一杯だった。
そんな間にも刻一刻と神人は迫っている状況には変わりない。
ハルヒは『真のツンデレ』を望んでいた。
そしてかがみは『日常の中の非日常』を望んでこの世界にきた。
そしてハルヒが望んでいるような相手は…目の前にいる。
しかも、若干の百合気質をもった相手という条件付きだ。
……………。
俺はひとつの結論にたどり着いた。
俺はかがみが元の世界に帰る為にはなんだってするって以前決意した。
しかし、これは……。
キョン「ハルヒ!すぐ戻ってくる、そこの木の下で待ってろ!!」
ハルヒ「ちょ、ちょっとキョン!また勝手に…!」
考えてたってどうしようもないと判断した俺はかがみの腕を引っ張って校舎の方へと引っ張って行った。
キョン「かがみ、聞いてくれ。この世界から脱出する方法なんだが―――――――――――」
225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 15:44:07.74 ID:fNjhE6xA0
かがみ「えぇぇぇえぇぇっ!!ちょ、マジで言ってるのかそれは!」
キョン「……おおマジだ」
かがみは呆気に取られたような顔をしていた。
俺は一呼吸置いてから、話を続けた。
キョン「かがみ、俺はお前という新しい友達ができてすごいうれしかったよ。SOS団唯一の良心であった俺に新しい愚痴仲間が
できたってことでもな。まぁ、なんつうか、痛み分け的な意味でもあるんだがな。できればずっといたいと思ったさ。
けどな、昨日の課外活動のときの話を聞いてると、やっぱりはお前はここにいちゃいけないんだ。お前には帰るべき
場所っていうのがちゃんとあるんだ。それは昨日のお前の話を聞いてると痛いほど伝わってきたよ。やっぱり居心地の
いい場所っていうのは人それぞれ違うんだ。こっちの世界にいたって最初の数日間は楽しいかもしれない。けれど、
お前の大切な家族、友人たちはそれを望んでいないだろう」
かがみは頷くことも、首を横に振ることもせず、ただただ聞いていた。
キョン「だから、今日ここでお別れだ。本当に短い時間だったが楽しかったぜ。この夢から覚めたら元の世界に帰れるだろう。
それは保障するぜ。長門と朝比奈さんと古泉には俺からよろしく言っとくよ。……かがみ、お前のことは絶対忘れねぇ。
お前もこのSOS団のことを絶対に忘れないでくれよな。約束してくれるか?」
かがみの目からは涙が滲んでいた。
かがみ「あ、当たり前じゃない!バカ!忘れたくても忘れらんないわよ、こんなの。死んでも覚えててやるわよ!
……………………さようなら、キョン。あなたに会えて本当に良かった」
キョン「ああ、俺もだ。よし、じゃあ行ってこい!ハルヒが待ちくたびれてるぜ」
226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 15:46:10.65 ID:fNjhE6xA0
俺はかがみをハルヒの元へ送り出すと、声がギリギリ聞き取れるような場所でそれを見守っていた。
いよいよ、クライマックスだな―――――――――――――。
かがみ「涼宮さん………」
ハルヒ「柊ちゃん!なにしてたのよ?私にも教えなさいよね!!」
かがみ「実は私、ポニーテール萌えなのよ!!!」
ハルヒ「な、なに言って…」
かがみ「いつだったかのあなたのポニーテールは反則なまでに似合ってたわ!」
ハルヒ「は、ハァ!?」
かがみは、ハルヒの方をじっと見つめている。
ハルヒも、かがみの圧倒する目線から逸らすことができずに見つめ返している。
遠くからでは細部までは見えなかったが、かがみがハルヒに唇を重ねるのが見えた。
終わったな、これで全て。
229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/27(水) 15:48:39.64 ID:fNjhE6xA0
先程までこちらへ向かっていた神人がゆっくりと空に吸い込まれていくように拡散していった。
そのまばゆい光は俺から視界の全てを奪って行き、体全体を気だるい無重力感が襲った。
俺たちがいたこの閉鎖空間が解体されていくのだろう。
そう信じてやまなかった俺はそっと目を閉じ、己の全てを空中に委ねた。
目を覚ますと、四角い天井が俺の視界に入ってきた。
ここは…紛れもなく俺の家だ。
背中に打ち付けるベッドの感覚がそれを確かなものとしている。
帰ってきたのか。
一安心すると同時に、妙な空虚感が俺を襲ってきた。
…………もう、かがみはいないんだな。
俺は何も考えずに再び目を閉じた―――――――――――――――。
312 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/28(木) 02:20:48.39 ID:s8bDYEMQ0
何時間くらい寝たのだろうか。
重い目をこすって俺はベッドから這い出た。
今日は月曜日、もちろん学校がある。
いつもなら妹に叩き起こされる俺だが、今日はいつもより早く目が覚めた。
学校にいくまではまだ時間がある。
せっかく早起きしたのだから時間を有効に使おうと思ったのだが…
特にこれといってやることはなく、俺はベッドの上にただ座り込んでいた。
ふと手元の携帯を手に取り、かがみの電話番号にかけてみた。
『おかけになった電話番号は現在使われていないか、電源が入っていない為かかりません。おかけに…』
ま、そりゃそうだよな。
いるわけないんだ、いるわけ……。
俺は妹がいつも通りの時間に起こしに来るまで、ベッドの上で昨日の出来事を思い返していた。
あれは夢なんかじゃない。いや、夢のようなもんではあるんだが、夢じゃあないんだ。
学校に行ってもかがみがいることはありえないんだ。
314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/28(木) 02:27:58.52 ID:s8bDYEMQ0
学校へと続く最後の上り坂、ここが最大の難関である。
俺はいつもここで気力を使い果たしてしまい、教室へ辿り着いたらへたりこんでしまうのだ。
昨日あんなことがあっても俺が今日この坂道を登るという事実は変わることがないわけだ。
「よっ、キョン!」
朝っぱらから一番見たくない顔に会ってしまった、谷口である。
キョン「おう」
俺は素っ気無く返事を返すと、振り返ることもせずに一人で先を歩き始めた。
谷口「どーしたんだよキョン?元気ねーなー、顔がしょぼくれてるぜ。ま、いつもしょぼくれてるけどな」
キョン「そうかい」
朝っぱらから谷口と無駄話をしている気力なんて俺にはなかった。
教室へ着くと真っ先にハルヒの姿を確認したがいなかった。
まぁいい、今はハルヒに説明するような言葉を俺は持ち合わせていない。
あいつがかがみのことを覚えているのかもわからないしな。
そういえば、かがみのクラスとか聞いてなかったな。
何組だったんだろうか。
俺たちと同じ学年とは言っていたが、俺のクラスではないし長門や古泉のクラスでもないだろう。
ホームルームが始まるまでのちょっとの時間、ほかのクラスを見回ったがやはりかがみはいなかった。
316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/28(木) 02:34:22.81 ID:s8bDYEMQ0
かがみがいないだけじゃなく、ホームルームが始まってもハルヒは学校に来なかった。
いつも俺より早く学校に来てるあいつが遅刻?まさかな。
4時限目が終わってもハルヒは現れなかった。
俺は部室へ行って昼飯を食べようと思ったのだが、気が向かなかったので教室で食べた。
昼休みは何をするわけでもなく、机に突っ伏していた。
午後の授業も全然頭に入るわけなんかなく、いやいつも入っていないんだが…。
ただただ放課後になるのをひたすら待っていた。
結局ハルヒはこなかった。
俺は何か頭にモヤモヤしたものを抱えながら部室へと足を運んだ。
ま、あいつだって風邪のひとつやふたつくらいかかるだろう。
そう無理やり言い聞かせている自分がいた。
部室にはハルヒとかがみがいないことを除けば全員そろっていた。
みんなはいつも通りのようで何だか俺は一安心してしまった。
みくる「こんにちはキョンくん。いまお茶いれますね」
そこには当たり前の光景が広がっていた。
古泉は相変わらずの0円スマイルだったし、長門は窓際の指定席で読書に勤しんでいた。
ハルヒとかがみがいないことをのぞけば。
320 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/28(木) 02:41:18.75 ID:s8bDYEMQ0
俺は自分の席へと座ると鞄を机の上に放り投げ、ふぅっと溜息をついた。
古泉「涼宮さんのことなんですが……」
古泉が唐突に話しかけてきた。
キョン「ハルヒなら今日は学校に来てないみたいだぜ?」
古泉「……いえ、実は僕に連絡があったんですよ」
キョン「連絡…お前にか?」
古泉「はい。昨日すごい夢を見たそうなんですが、起きたらもう午後だったようです。部活だけはどうしても出たいというので
今から学校へ向かうとさっき連絡がありました」
キョン「俺にはそんな連絡なかったし、担任は何も言ってなかったんだがな」
古泉「きっと涼宮さんのプライドが許さなかったのでしょう。なぜ僕に連絡があったかはよくわかりませんが」
キョン「………まぁいい。じゃあハルヒは来るんだな?」
古泉「そのようです」
とにかく一安心した。
323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/28(木) 02:49:00.66 ID:s8bDYEMQ0
みくる「はいキョンくん、粗茶ですが」
キョン「ありがとうございます、朝比奈さん」
うーん、やっぱり生き返るね朝比奈さんお茶は。
キョン「あの、朝比奈さん…」
みくる「は、はい何でしょうか?」
キョン「昨日のこと、すべて知っているんですか?」
みくる「あ…はい。詳細は長門さんと古泉君から聞きました」
なんだ、やっぱり知ってやがったのか古泉は。
相変わらずのポーカーフェイスめ。
古泉「別に隠していたわけではありませんよ。ただこちらから問いただすのはどうかと思いまして」
お前のそういう所が気に食わん、お前らしいといえばそうなんだが。
キョン「……どこまで知ってる?」
古泉「すべて、と言えばよいでしょうか」
キョン「ならかがみのことも…………」
場が重たい空気に包まれそうになったが、沈黙を守っていた長門が語りかけるようにしゃべり始めた。
326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/28(木) 02:59:29.25 ID:s8bDYEMQ0
長門「柊かがみと思われる有機生命体は現在この世界に存在していない。昨夜2時23分47秒にこの世界から消滅した。
彼女は元々いた世界へ無事帰還したと思われる。涼宮ハルヒの記憶も昨夜の出来事以前は消失していると思われる。」
そっか、無事帰れたんだな、かがみ。
みくる「柊さんに、さよならを言えなかったのが悔しいです……」
キョン「かがみがよろしくって言ってましたよ。長門と古泉にもな」
古泉「そうですか…実際我々が柊さんと共に過ごした時間は本当に短いものでしたね」
キョン「そうだな。でも俺は本当に楽しかったよ。とても異世界人とは思えなかったしな」
古泉「異世界人とは言え、何の能力も持っていませんからね」
キョン「結局、『真のツンデレ』っていうのは俺にはよくわからなかったがな」
古泉「それは、涼宮さんにもう一度聞いてみるといいでしょう」
キョン「いーや、遠慮しとくさ」
みくる「なんだか寂しくなりますね……」
キョン「仕方ないですよ、朝比奈さん。かがみには帰るべき場所があったんです、それを止めることなんてできませんよ」
みくる「そうですけど…でも、でも………」
キョン「それ以上言わないでください、思い出は心の中にしまっておくから綺麗なんですよ」
これは俺自身にも言い聞かせている言葉だな、ほんとに。
327 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/28(木) 03:05:47.01 ID:s8bDYEMQ0
ハルヒがきたら何て話そうか。
キョン!昨日すっごい夢を見たのよ!!とか言ってくるんだろうな。
あいつは最悪な夢だったとか言うのだろうか。
それとも最高な夢だったとでも言うのかね。
あいつ自身はどう認識しているんだろう。
どっちにしろ、俺はこの出来事をハルヒに話すつもりだ。
柊かがみは、確かにそこにいたんだよ。
ハルヒ、お前は夢の中の出来事で終わらせるんだろうな、まぁそれも仕方ないさ。
でも俺が過ごしてきたこの数日は、本当にそこに存在していた。
それは、とても夢だったとは思えないような瞬間の積み重ねだったよ。
夢なんかじゃない、現実として俺の目の前で起こってたんだ。
おっと、団長さんが満を持して登場のようだぜ。
329 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/28(木) 03:10:37.11 ID:s8bDYEMQ0
ハルヒ「みんなお待たせ!遅刻しちゃって悪いわね!!」
キョン「よっ、ハルヒ。遅かったな」
ハルヒ「どうしたのよ、キョン!なんか嬉しいことでもあったの?」
キョン「まぁな。お前に話したいことがある、それはなハルヒ――――――――――――――――――」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――俺たちにとってかけがえのない人の話さ。
331 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/28(木) 03:13:17.19 ID:s8bDYEMQ0
目が覚めると、私はいつもの見慣れている部屋で寝ていた。
いつもと同じ四角い天井、私は戻ってきたんだ。
あれは夢?
ううん夢なんかじゃないわ。
ここ数日間のことはハッキリと覚えている、忘れるハズがない。
ううん、忘れないよ。だって、約束したものね。
SOS団。
本当に短い時間だったけど、あの中にいたんだ。
私はたしかにあの中で存在してたんだ。
それだけは確実なことなんだ。
こんなこと誰かに話したら笑われちゃうかな?
普通そうよね、ありえないものねこんなの。
今日も学校だ、元気よくいかなくちゃね!
333 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/28(木) 03:16:56.24 ID:s8bDYEMQ0
かがみ「おっす、こなた」
こなた「どったの、かがみん〜?今日は機嫌よさそうじゃん〜」
つかさ「お姉ちゃん朝からニヤニヤしっぱしなんだよぉ〜、何でか教えてくれないし〜」
かがみ「私ね、すごい夢見たんだ!ううん夢なんかじゃない、それはね―――――――――――――――――――」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――私にとってかけがえのない人たちの話よ!
334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/28(木) 03:20:10.43 ID:s8bDYEMQ0
これで完結です。
見てくださった方はありがとでした。
所々厳しい指摘がありますが、そのとおりだと思います。
あとで読み返すと恥ずかしいっていうね
そもそもこのメンバーじゃかがみんのツンデレを生かしきれないのが最大の誤算だったかな