533 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/18(金) 03:31:11.89 ID:qBp6+AzS0
「うわー、ぜんっぜん変わってないわねぇ」
8月も半ばを過ぎた頃、ハルヒは自宅にいた。
隣の部屋からは夫と娘の声が聞こえてくる。
「いきなり声かけて驚かしてやるわ!」
ドアが半開きだったので音は出なかった。
忍び足で夫の後ろに立つハルヒ。
思わず笑いが漏れてしまいそうになる。
「わっ!!」
「・・・・・・・」
夫はハルヒに見向きもせず、先日買ったばかりのデジカメをいじっていた。
「あ、そっか。あたし死んでるんだったわ・・・」
534 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/18(金) 03:31:51.45 ID:qBp6+AzS0
「毎年忘れちゃうけど・・・まさかあたしが幽霊になるとはねぇ。」
言いながら、彼女は寂しそうに笑った。
居間の隅に小さな仏壇があった。
「うんうん、ちゃんときれいにしてるじゃない」
整理された仏壇には、ハルヒの遺影があった。
遅い新婚旅行で撮ったときのものだ。
「もっといい写真なかったかしら」
それでも、写真のハルヒは笑っていた。
535 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/18(金) 03:32:23.24 ID:qBp6+AzS0
「それにしても年に一度しか戻ってこれないなんて・・・
日本のお盆制度には納得いかないわ」
などと愚痴をこぼしていると、夫と娘の会話が耳に入ってきた。
「頼むよ、来週の運動会でこのカメラを使わせてくれ!」
「イヤよ恥ずかしい。もうそんな年じゃないの!」
夫は新しく買ったカメラを使いたくてしょうがないらしい。
しきりに頼んでいる。
娘はというと、そっぽを向きテレビに見入っている。
「キョンも苦労してるわね。まったく誰に似たんだか・・・」
高校1年生になった娘は、在りし日のハルヒに瓜二つだった。
ポニーテールが似合う美少女だ。
536 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/18(金) 03:32:55.48 ID:qBp6+AzS0
「大きくなったわね・・・。」
ぼそっとつぶやいた後で、悲しくなりそうな自分に気づいて、そしてこらえた。
もっと一緒にいたかった。
もっとみんなで遊びたかった。
家族でキャンプも、不思議探しだってしてない。
考えだすと止まらなくなる。
思わず、ハルヒはキョンに駆け寄った。
椅子に座るキョンの後ろから、その少したくましくなった背中を抱きしめた。
「キョン・・・」
「ハルヒ・・・・・?」
537 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/18(金) 03:33:20.09 ID:qBp6+AzS0
「え・・・?」
驚いたのはハルヒの方だった。
「どうしたの?キョンくん・・・」
不意に後ろを振り返るキョンであったが、彼女の姿は見えていない。
でも、懐かしい暖かさを感じた。
「いや。なんでもないさ」
すっと立ち上がるキョン。
「なぁ、運動会は諦めるよ。でも今1枚だけ一緒に撮ろう」
娘はちょっと考える素振りを見せ
「い、1枚だけよ?」
二人はテーブルにカメラを乗せ、その正面に立った。
538 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/18(金) 03:34:01.63 ID:qBp6+AzS0
「あぁ。もう時間か・・・。今年も早かったわね」
何かを悟ったようにハルヒが言った。
「ふふ、家族写真なんだからあたしが入っても問題ないわね」
ハルヒは並んでいる二人の方へと歩みよった。
そして、娘をはさんでそこに立った。
カシャッ
539 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/18(金) 03:34:37.48 ID:qBp6+AzS0
「キョンくん・・・なんか変なのが写ってるよ・・・」
撮影したデータを見ながら娘が声を震わせて言った。
「どれどれ?ん、ほんとだ・・・」
心霊写真なんかあいつに見せたら喜ぶだろうな、と一瞬彼は思った。
「こういうのも、たまにはあってもいいじゃないか」
彼はふふっと笑った。
「キョン、この子のことお願いね・・・」
後日、彼の家のアルバムに新しい写真が1枚加えられた。
おしまい