涼宮ハルヒの崩壊


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1 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 23:32:45.67 ID:/SDJOG5b0

あー、もううんざりだ。
俺は今回の不思議探索でつくづくそう思った。家に帰って誰もいないところを見てもそう言える。くそっ、俺だけおいてけぼりかよ。
妹も含め、今俺の家族は皆出かけている。何でも親戚のじいさんが倒れたとかで、俺が出かけている間に出かけてしまったらしい。
何件もの着信履歴とともに用件を伝えるメールが二通入っていた。一通は先ほど述べた家族が出かけた理由ともう一通は何でもなかったから一泊してから帰ってくる。という内容だ。
丁寧に妹からも『御馳走がいっぱいあったよ。残念だったね、キョンくん(^∀^)』と言う報告まであった。ったく、いつもいろんなところに連れて行ってやってるのにこういうときは薄情な奴だ。

4 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 23:34:31.80 ID:/SDJOG5b0

結局、カップめんで夕食を済ませた次の日俺は学校へとやってきてすぐにハルヒに捕まった。
「ねぇ、キョン。不思議なんてこの街だけを探検してても見つからないと思うの。
で、次は活動範囲を広げて隣町まで行ってみようと思うの」
それに参加することは決定なのか?
「当然じゃない!団長の言うことは絶対なの」
「あのな、ハルヒ。俺は昨日の不思議探索のせいで御馳走を食い逃してしまったんだ」
「あらそう。残念ね」
俺の不満をあっさりと、しかも大して悪びれるわけでもなく聞き流す。
「でも、あんたもSOS団の団員なんだから御馳走なんかよりも不思議を見つける事に集中しなさいよ。それに」
「それに、何だ?」
ハルヒの言ったことに、今回だけでなく、普段からの理不尽な命令やら出来事を思い出してつい、語気を荒げてしまう。
「俺はお前のせいで久々の小旅行にも行けなかったうえに、昨日食えるはずだった晩飯がカップ麺になっちまったんだぞ。
そしてすぐに次の事か?団長命令だか何だか知らんが、俺にはそんなもん関係ないだろ!
宇宙人?未来人?超能力者?そんなものいても迷惑なだけだろ、いい加減人のことも考えずに何でもかんでもやらせるな」
いってから、言いすぎたなと思った。が、
「何よ!キョンのくせに。生意気よ」
と、捨て台詞をはいて行ってしまったハルヒを見ると罪悪感は起こらなかった。いや、俺の方が全面的に正しいなと思った。

5 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 23:36:19.10 ID:/SDJOG5b0

部室で古泉とオセロをしていると、携帯が鳴った。お袋の携帯からだった。
「あ、キョンくん」
電話に出てすぐに妹の声が聞こえる。
「あのね、おじいちゃんの様子見も兼ねて、もう一日泊まることになったの。だからね、今日まで自分で何か買って食べてって」
妹はそれだけ言い終わるとすぐに電話を切ってしまった。
「どんなご用件だったのですか?」
古泉がいつもの笑顔でそう尋ねる。
「お前には関係ないだろ」
そう言って俺は盤上の白を一列黒に変えた。
二日間カップ麺は、親戚の家でうまいものを食っているであろう家族のことを考えると悔しかったのでコンビニで弁当でも買おうと思い、寄り道をしていた。
コンビニよりもスーパーの方が学校に近いことに気づき途中で向かう方向を変えると、何故か長門のマンションの前に出る。
そうか、あの道をこちら側に来れば長門のマンションの前に来るんだな。マンションを見上げてそんなことを考えているとスーパーの袋を提げた人影が見えた。
長門だ。
「買い物の帰りか?」
「そう」
俺の問いかけにそっけなく答える。
「貴方は」
そう聞かれて思い出した。
「晩飯を買いにな。そしたら偶然ここを通りかかった」
「そう」
やはりそっけない返答だったがこの後に言葉が続いた。
「貴方がよければ、夕食を御馳走する」
渡りに船とはこのことだな。
「悪いな。それなら頼む」
俺は長門の申し出を素直に受け、マンションの長門の部屋へ招待された。
この日の晩飯はカレーだった。

6 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 23:37:45.79 ID:/SDJOG5b0

長門のカレーで腹を満たした俺は、マンションを出て歩き出した。
家にたどり着くためには結局スーパーの前を歩かなければならず、まぁ、それなら、と、夜食代わりに菓子でも買おうと立ち寄った。
「おや、あなたも買い物ですか?」
「古泉か」
入口で古泉に出くわした。古泉はいつもの笑顔を張り付けたまま立ち話を続けるつもりらしかった。
「ところで、また涼宮さんと何かあったのですか?」
古泉の質問に一瞬ドキリとしてしまうが、よくよく考えればこいつがそのことを知る簡単な方法がある。
「また閉鎖空間か?」
「お察しのとおりです。しかもいつもより少しばかり大きめの」
閉鎖空間が大きいということはそれだけハルヒが気に食わないことがあったということだろう。
「おそらく、今日部室に彼女が来なかったのも・・・おっと、失礼」
一瞬何か言いたげな表情をしてから古泉は電話に出た。顔はいつもの笑顔のままだが、少しだけそれがこわばったようにも見えた。
「わかりました。はい。それでは・・・。すいません、またもバイトのようです」
電話をしまうと俺の方を見てそう言った。
「明日はできるだけ涼宮さんのご機嫌をとってください。それでは」
そう言うと、ちょうどスーパーの前に止まったタクシーに乗り込み行ってしまった。
機嫌をとる?なんで俺が?
結局、このまま俺は何も買わずにスーパーを後にした。古泉の口ぶりからハルヒは明日何らかのアクションを起こすに違いない。
俺は、肩をすくめていつもの一言を言った。
「やれやれ」

8 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 23:39:01.69 ID:/SDJOG5b0

交差点に通りかかり、信号が青に変わるのを待っていると、遠くに見なれた制服とリボンをつけた人影が見えた。
「ハルヒ?」
暗くてよく分からないが、おそらくそうだ。ハルヒは片手にスーパーの袋を提げて遠ざかっていく。追いかけて声をかけた方がいいか?
いや、そんなことをすればハルヒのことだ。
「何よ、バカキョン!」
と、大声で怒鳴られた後に人目もはばからず、いや、もうかなり遅い時間だから人目はないだろうが、近所迷惑も考えずに説教されそうだ。
明日、学校で聞いた方がいいだろう。その時は今日のことも含めていろいろ言われるだろうが適当に聞き流せばいい。
信号が変わったのを合図に、人影から目を離し、そのまままっすぐ家へと向かった。

翌日、俺はうっかり遅刻をして担任に説教を食らった。原因は寝坊だ。
職員室でこってりしぼられた後、教室に入ると俺の席の後ろで不機嫌そうに窓の外を眺めるハルヒの姿があった。
ハルヒは俺が席に着いても気がつかない振りをするようにしている。
「なぁ、ハルヒ」
結局俺から話しかけて昨日のことを聞くしかなさそうだ。
「何よ」
「昨日お前家の近くにいなかったか?スーパーの袋提げて」
明らかに不機嫌そうなハルヒの反応を気にしないようにして訊ねる。
「何であたしがあんたのうちにわざわざ行かなきゃいけないのよ」
そう言ってハルヒは俺をにらみつけ、口をもごもごと動かして何かを言おうとした後に、への字に口を結んでそっぽを向いてしまう。
今はこれ以上何かを言っても無駄だな。俺はそう考えて放課後に腹立たしげに部室に入ってくるであろうハルヒに何を言おうかと考えながらハルヒに背を向けて授業を受けた。

9 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 23:41:00.77 ID:/SDJOG5b0

部室に着くとハルヒがふんぞり返っていた。長門は相変わらず黙々とハードカバーを読みふけっている。
ハルヒは俺が部室に来たのを確認すると立ち上がるわけでもなく、やはり不機嫌そうに俺のことをにらんでいた。
「で?話ってのはなんだ?」
一向に口を開かないハルヒの真意を聞くために俺から声をかける。
「昨日」
「昨日?」
単語を唐突に声に出したハルヒに同じ単語を繰り返す。
「何で声かけなかったのよ」
何だ、俺に気づいてたのか?
「違うわよ。あんたあたしのこと見かけたんでしょ?だったら声くらいかけてくれたっていいじゃない。
大体、あんた何時ごろ帰ってきたのよ!それまで何してたわけ?ずっと待ってたのよ」
どうやら昨日の人影はハルヒで間違いなかったらしい上に俺の帰りを待っていたらしい。何のために?
「あんたが言ってたじゃない。食べられるはずだった御馳走が食べられなかったって。
それに妹ちゃんから聞いた話だと今日もあんたはろくなもの食べてなさそうだったから、団長直々に哀れな団員に食事を作ってやろうと思ってたのに」
だからスーパーの袋を持っていたのか。しかし何で妹からそんな話を?
「妹ちゃんがわざわざあたしにあんたの面倒みるように頼んできたのよ」
いつの間に妹とそんな仲になってたんだ
「で、昨日は何してたのよ。おかげでせっかく買った材料が無駄になっちゃたんだから」
「いや、昨日は」
まさか長門の家でカレーを食ってたとは言えまい。
「彼は昨日、私の家でカレーを食べていた」
そんな考えをぶち壊すかのように、長門が無機質に答えた。

10 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 23:41:50.57 ID:/SDJOG5b0

「有希の家に!?なんであんたが有希の家でカレーなんて食べてるのよ!まさかあんたそのまま有希の家に泊るつもりじゃなかったんでしょうね」
怒りが頂点に達したのか怒涛の勢いで俺に向かって怒鳴る。長門の家に泊まる?そんなことになったらいつの間に3年後なんてこともあり得るね。
「とにかく、あたしはそんなこと許しません。まさかあんた達、付き合ってるわけじゃないでしょうね?だとしたら大問題よ。団長の許可もなくそんなこと・・・」
許可があればいいのか?
「いい訳ないでしょ!」
理不尽だな、おい。
「んじゃ、もし俺が今本当に長門と付き合ってるとしたらどうするんだよ。無理やりにでも別れさせるのか?」
俺がハルヒを非難すべくそんなことを言うと、突然顔面蒼白となった。
「ま、まさか本当に付き合ってるの?」
態度はあくまで平静を保とうとしていたが、動揺しているのは明らかだった。
「そのような事実はない」
長門がハードカバーに眼を落したまま冷静に答えた。俺はハルヒの動揺を見て思わず「本当だ」と答えそうになっていた。
ハルヒの動揺が意外だった俺も思いがけず動揺してしまっていた。長門に助けられたな。
「へ、変な冗談言わないでよ!思わず信じちゃったじゃない」
ホッとしているのか、驚いているのか、よく分からない言い方でそう言った。が、そのあとに怒りが込み上げてきたのか、俺のことをにらむと
「話は終わり!今すぐ出て行きなさいっ!」
と、大声で怒鳴られ追い出されてしまった。しかし、俺が長門と付き合っていることの何がハルヒを動揺させたのか。
いや、ハルヒのことだ。単に長門が誰かと付き合っていることが不快だったのかもしれない。いつか長門を部の備品扱いしていたしな。
俺はもう一つの予想を考えないようにするために、無理にきっとそうだと言い聞かせることにした。

12 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 23:46:05.12 ID:/SDJOG5b0

放課後まで不快そうに俺のことを睨んでいたハルヒは放課後部室に現れることもなく帰ってしまったようだった。
古泉はバイトがあるということで先に帰ってしまったらしい。悪いな、古泉。
よって今部室にいるのは久しぶりにメイド服に袖を通した朝比奈さんといつものようにハードカバーを読みふける長門、そして俺だけだった。
朝比奈さんは今年三年生ということもあり放課後に部室にいないことが多くなった。
おかげで俺は日々の癒しである朝比奈さんのメイド服姿とどんな高級茶葉にも勝るとも劣らない極上のお茶をいただくことができなかった。
昨日ハルヒにキレたのもそれが原因か?まぁ、普段のハルヒの理不尽な要求に耐えてこれたのもひとえに朝比奈さんのおかげだろうしな。
そんな阿呆なことを考えながらお茶をすする。
「涼宮さん今日も来ませんでしたね」
いいんですよ、あいつのことなんて放っておけば
「でも、今日見かけたときはすごく怒っているようでしたよ」
それもいつものことです。明日になればいつも通り偉そうにそこに座って無茶な命令を下してきますよ
「それならいいんですけど・・・」
不安そうにキョロキョロとしながらそう答える。まぁ、しかしハルヒがいつも以上に不機嫌なのは確かだし、今日の昼休みのこともある。
誤解を解く意味でも早めにハルヒに怒鳴られておくべきかな。

13 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 23:47:04.55 ID:/SDJOG5b0

「少し話がある」
帰り際に長門にそう話しかけられた。長門が俺に?
「今日の昼休みの件について」
朝比奈さんがいれば控え目に食いついてきそうな話ではあるが、その朝比奈さんはすでに下校し学習塾で勉強をしているはずだ。
つまり、今部室には長門と俺の二人しかいない。
「あの後、涼宮ハルヒにあなたとの関係を詳しく追及された」
そうか、悪かったな長門。
「いい。私は彼女にあなたとの関係は普通の友人程度だと答えた」
まぁ、間違ってはないな。
「あなたは私のことをどう思っているのか知りたい」
俺は長門の大胆な発言に思わずお茶を吹き出してしまった。いや、長門のことだから深い意味はないのだろう。
「お前と同じだ」
「そう」
そんな俺の様子を見ても眉一つ動かさずにいた。
「でも、あなたは涼宮ハルヒにとって特別な存在。今日のような迂闊な発言は控えてほしい」
長門はそう言うとハードカバーをたたみ、立ち上がる。これはSOS団の帰宅の合図でもあるので俺もそれに習って立ち上がり、帰り支度を始めた。
と、言っても鞄を手に取るだけだ。
「それと」
長門が口を開く。
「彼女は私たちの関係をまだ疑っている。別々に帰るべき」
長門が淡々と警告する。長門の警告に従って得することはあっても損することはないだろう。俺は素直にその言葉を聞き先に部室を出た。
長門は少し時間がたってから部室を出るのだろう。
俺が廊下の角を曲がっても部室のドアが開くことはなかった。

14 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 23:47:46.88 ID:/SDJOG5b0

「あんたこんな時間まで何してたのよ」
校門を出てすぐにハルヒが俺の目の前に現れた。
「お前こそなんでこんな時間まで」
「いいでしょ、別に」
俺の質問には答えないのな
「うるさいわね。ところで有希は?出てくるところ見てないし、みくるちゃんに聞いたらあんたと部室にいるって言うし」
朝比奈さんが帰る時間からここにいるのか
「いいじゃない、何をしようとあたしの勝手でしょ」
なら、俺も何していようと勝手だろう
「あんたは別。SOS団のためにしっかり働きなさい」
相変わらず勝手な奴だ
「で?有希はどこなのよ?一緒だったんでしょ?」
あぁ、さっきまでな。長門はまだ部室だよ
「ふーん」
ハルヒは疑わしい、と言いたげな表情をして俺の顔を見ていたが、腕を組んで顔をそらすと
「まぁいいわ。それじゃぁ帰るわよ、キョン」
と、言って歩き出す。
「やれやれ」
俺はため息をついてハルヒの後に続く。とりあえずは一件落着か?

15 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 23:48:16.96 ID:/SDJOG5b0

特に何を話すわけでもなく、二人並んで坂道を下っていく。
「ねぇ、あんた日曜は暇?」
先に口を開いたのはハルヒだった。
「あぁ、今のところはな」
「じゃぁ、その、隣町まで不思議探索に行こうと思うのよ」
ハルヒの方を見る。ハルヒは少しうつむき気味で話していた。
「その、あんたがよければだけど」
俺の様子をうかがう様な、いつもの強気な態度とは違った言い方だった。昨日言ったこと気にしてたんだな。
「で?どうなの?」
弱気だったのは一瞬だったようで今度はいつもの強気な、問い詰めるような言い方だった。
「そうだな、何もなければいいぞ」
反省しているようだし、この様子なら奢らされるということも・・・ないとは言えないな。
「そ、それでもうひとつ提案があるの」
俺がいいと言ったことでいつもの元気を取り戻したらしい。うっとおしいくらいに輝く瞳が俺のことを見ている。
「ふ、二人で行きましょ!不思議探索」
二人で?
「勘違いしないでよ。変な意味じゃないんだから。隣町まで行くつもりだから交通費がかかるでしょ」
俺はいいのか
「当然よ。あたしの分も交通費を出すこと。ほかの団員がいないんだから一人分で済むのよ」
俺の分も含めれば二人分だな。新手の詐欺みたいだ
「いいから黙って出す。男なんだからそれくらいの甲斐性は見せなさい」
良くも悪くも普段のハルヒだな。反省しているのかしていないのか
「それから」
まだ何かあるのか?
「言っとくけど、不思議探索よ!前にも言ったけどデートじゃないんだから」
分かってますよ、団長さん

16 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 23:48:55.19 ID:/SDJOG5b0

家に帰ると家族はすでに帰宅していた。まぁ、高校生の息子ほったらかして二日も家を空けるのがおかしい気もするが。
「キョンくん、ハルにゃんのご飯食べたの」
帰宅した兄を見ての第一声がそれか
「いや、長門にカレーを作ってもらってな。ハルヒのは食べてないんだ」
「ふーん。有希っこに作ってもらったんだ。ハルにゃん可哀そう」
可哀そう?ハルヒがか?
「うん。すっごく張り切ってたよ。大きな声で『あたしに任せなさい』って」
本当にお前が頼んだんだな
「うん。ハルにゃんキョンくんよりしっかりしてるもん」
妹から俺はそんな風に見られてたんだな。そんなことを思うとともに少し、ハルヒには申し訳ないなと思った。一応明日もう一度謝っておくか。
日曜の電車賃も食事の材料費とハルヒの気遣いに比べれば安いくらいかもな。
「キョンくん、日曜日お出かけするの?」
妹は目を輝かせている。
「言っておくが連れて行かないからな」
俺がそう言って頭を押さえると妹は不満そうに顔を膨らませていた。何かハルヒに似てきてないか?お前。

23 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 23:58:33.62 ID:/SDJOG5b0

翌日、翌々日とハルヒはなぜかご機嫌だった。
古泉もバイトが入るような事態にはなっていないらしく、いつものニヤケ顔で俺とオセロを楽しんでいた。
「一体どんな魔法を使ったんです?」
さあな。俺にもわからんよ。
「それでは、深く追及するようなことはしないでおきます。・・・おっと、そうきますか」
縦横斜めに白をひっくりさえた古泉ははたして本気なのかが疑わしいほどの笑顔で盤面を見ていた。
「しかし、奇妙なことが一つあるんですよ」
無造作に黒を白に変えながら古泉が言う。
「涼宮さんはおそらく、長門さんを敵視しています」
ハルヒが?長門を?
「えぇ、表面には出しませんが、心なしかいつもよりも長門さんとは距離を置いているようです」
「ハルヒが、ねぇ」
おそらく原因は昨日のことだろうな
「何か心当たりが?」
「長門にでも聞いてくれ」
俺は黒を打ち、古泉を逆転する。いつものパターンだな。
「では、そうすることにしましょう」
そう言ったきり古泉はその件に触れることはなかった。

26 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 00:16:56.84 ID:qzpJkQxA0

それからは特に何が起こるわけでもなく、ハルヒがいつもの傍若無人ながらに横暴な態度でふるまう日常に戻っていた。
古泉は長門から話の詳細を聞いたのか、「あなたも罪な人ですね」と言われた。
罪なのはハルヒだと思うがね。あいつの横暴っぷりは何とかならないのか?
「僕が言いたいのはそう言うことではありませんよ」
だったら何が言いたいんだ
「貴方はもう既に気づいてるはずですよ」
全く心当たりがないし、気づくつもりもないね。
「困ったものです」
そういって肩をすくめると、いつもの顔で駒を進める。
「チェックメイト」
俺は、あらかじめ決めていた通りに駒を動かしお茶を飲んだ。

その日の帰りに俺はハルヒの命令で一緒に帰ることとなった。
「あんた、日曜日の約束覚えてるんでしょうね」
「あぁ、覚えてるよ」
おそらくこの話をするためであろうことは想像がついていたのでそう返す。模範回答だな。
「いい?集合は朝10時。一秒でも遅れたら死刑なんだから」
どことなく嬉しそうなハルヒの頬は夕日に照らされているせいか少し赤く染まっていた。
「で?明日はどこに行くんだ?隣町がどうのって言ってたが」
「秘密よ。どこかでスパイが聞き耳を立てているかもしれないわ」
隣町って言う情報は重要じゃないんだな
「重要なことにきまってるでしょ。いつもとは違った場所を探索するんだから」
ハルヒはそう言うと小走りになり俺の前に駈け出した。
「いい?もう一度言っておくけど遅刻したら許さないんだから。特にあんたは遅刻癖があるんだから集合の一時間前には到着すること。いいわね」
そう言うとハルヒはそのまま手を振って走り去ってしまった。
集合時間の一時間前ねぇ。せっかくの日曜日になぜ早起きせねばならんのだ。
まぁ、それもいいだろう。俺は自分の決め台詞をわざわざ言うようなことはしなかった。

28 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 00:26:32.41 ID:qzpJkQxA0

日曜の朝俺はなぜか目覚ましがなるよりも早くに目が覚めた。いや、覚めさせられた。
「キョンくん、起きて。電話だよ」
電話?誰から?
「ん?ハルにゃん」
妹はニコニコと俺の方を見ている。いや、むしろにやにやだな。
俺は眼を二、三度こすり起き上がると、のろのろと電話へと向かった。
『遅い!今頃おきたの?』
電話口からいやと言うほど元気な声が聞こえる。まごうことなくハルヒだ。
「約束は10時だろ?今何時だと思ってる。まだ7時前だぞ」
約束の一館前に着くにしても起きるには早すぎる。これじゃぁ二時間前には着いちまうぞ。
『いいじゃない、遅刻するよりはましよ』
あぁ、そうだな。これが学校や試験ならな
『あんたもSOS団の団員なら団の活動にもっと意欲を持ちなさい。
わかったら、今すぐ駅前に来なさい。いいわね』
それだけ言うとハルヒは電話を切ってしまった。妹はその隣で俺の方を見ている。
「キョンくん、お出かけ?」
あぁ、無理やりな
「行ってらっしゃい」
そう言うと妹は部屋に戻ってしまった。珍しいなあいつがついてこないなんて。
俺はなぜかすでに用意された朝食を腹に入れ、出かける。
昨日はあんなことを考えたが、これだけは言わせてくれ。
「やれやれ」

32 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 00:37:54.55 ID:qzpJkQxA0

家を出てしばらく歩くとどこかで見たような人影があった。
「あ、見つけた。キョンくん、ですね」
「あ、朝比奈さん(大)」
見間違うはずもない特盛りを携えて朝比奈さん(大)が俺の目の前にあらわれた。
「時間がないので細かい事情は説明できませんが、よく聞いてください」
朝比奈さん(大)は真面目に、焦りを見え隠れさせながら俺に忠告を始めた。いや、それは警告ともいえるものだ。
「いいですか、今日一日の行動で未来の出来事、いえ、世界を狂わしてしまうほどの出来事が起こる分岐点があります」
分岐点?一体何時?どんな状況で?
「禁則事項です。とにかく、行動の選択は慎重に行ってください」
そんなことを突然言われましても
「大丈夫です。もし、選択を誤ったとしてもそれを挽回する機会はきっとあります。
ですから、涼宮さんにできるだけ悟られないように、ごく自然に振る舞って、且つ、選択を間違えないようにしてください」
もし、間違えたら
「禁則事項です」
そう言い残すと朝比奈さん(大)はいつの間にか消えていた。時計を見るとまだ8時前だった。
「一体何が起こるってんだよ」
俺は一体どうすればいいのか頭をかきながら考え、ハルヒの待つ駅前へと向かった。

俺は分岐点での選択をすでに一つ間違えてしまったのだ。

37 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 00:49:47.21 ID:qzpJkQxA0

「遅い」
駅前で待ち構えていたハルヒが仁王立ちで俺にそう言った。いつも通り、だよな?
「ほら、さっさと行くわよ」
いや、いつもと違う。俺とハルヒ以外のSOS団のメンバーがいないのだ。
一度だけそんなことがあったが、あれは偶然(なのか?)ほかのメンバーに用事があったからで、今回のようなハルヒの作為はない。
まさか、ハルヒが何かを企んでいて、俺がそれを阻止しなければ世界が滅茶苦茶になるとか?
とにかく、油断はできないな。俺はそんなことを考えながら券売機に硬貨を投入した。
待てよ?隣町?どっちの隣町だ?俺がボタンの上で指を硬直させているとハルヒが腹立たしげに唸り
「違う、こっち!」
と、間髪入れずにボタンを押してしまった。おい、ハルヒ。もう少し落ち着け。
「うるさいわね、落ち着いてるわよ」
いや、落ち着いてないだろ。
俺は今選択を間違えたのではないかと考えたが、選択する暇もなくハルヒが行動したぞ。
すでにシャツが冷や汗でびっしょり濡れている俺は、今日一日中こんな心境で過ごすのかと考えると恐ろしくなった。
いや、ここでハルヒを怒らせて何かされたらたまったものではない。俺はため息をつきながらもハルヒの行動を監視すべく改札を通り抜けた。

選択肢、その2、だ

40 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 00:58:17.84 ID:qzpJkQxA0

電車に揺られる間はハルヒからの本日の計画を説明されていた。
一応相槌を打ってはいたが実際は、今に何か起こるのでは?この計画の中に何か仕組まれたものがあるんじゃないかと疑心暗鬼だ。
今日一日のストレスだけで間違いなく死ねるね。いや、すでに胃に穴があいているに違いない。
「ちょっとキョン?ちゃんと聞いてる?」
そんな言葉と同時に電車が減速し、やがて停車した。
あぁ、聞いてるとも世界の行方がかかってる(らしい)からな。
ハルヒは俺を疑うように眺めると
「ま、いいわ」
と言って席を立った。
まずはじめはハルヒのたてたコースをぶらりと散歩だ。
俺は、ハルヒの計画にあるコースのすべてに対してうっすらとこんなことを考えていた。
これはデートではなかろうか、と

ちょっと、チェリオ取ってきます

41 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 01:13:06.83 ID:qzpJkQxA0

デートコース、基、散策のコースは青々とした並木が並ぶおしゃれな歩道沿いだった。
日曜日の、朝にもかかわらず人が多い。しかもそのほとんどが、
「見事にカップルばかりね」
ハルヒがぼやく。周りは皆手をつなぐか、一つのベンチに二人で腰かけているカップルばかりで、そうでないのは俺たちぐらいしか見当たらない。
いや、ハルヒと俺の二人だけで歩いている時点でカップルに見えているのかもしれない。
「ちょっと、キョン」
気がつくと俺は立ち止まっていて、ハルヒがその二、三歩前で俺のことを睨んでいた。
「何ボーっとしてんのよ。ほら、早く歩きなさい」
そう言ってハルヒが手を差し出す
「あぁ、悪い」
俺はポケットに手を突っこんだまま歩きだしハルヒの横を通り過ぎようとした。
「ちょっと、待ちなさいよ」
ハルヒが慌てて俺の横に並ぶ
「鈍い、鈍すぎるわよ。ほら」
再び手を差し出されて気づく。手をつなげってことか?
「当たり前でしょ。周りはみんな手をつないで歩いてるアベックばかりなのよ」
アベックって・・・親父かよ
「うるさいっ!わかったら手をつなぐ。恥かかせないでよ」
そう言うハルヒの顔はよく見れば赤くなっている。
「お前でも恥ずかしいとかあるんだな」
「違うわよ、バカキョン。もういいわ、いきましょ」
ハルヒは怒ってそそくさと先へ行ってしまった。そして気づく。
「しまった」

分岐点。額に汗がにじんだ

43 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 01:23:47.03 ID:qzpJkQxA0

散歩道の終わりに来たらしく。ハルヒは足を止めた。
振り向いて見せた表情はかなり不機嫌そうだ。
「次はどこ?」
俺がきちんとコースを覚えているか確認したいらしい。確か、次は
「公園で小休憩、だったか?」
俺がそう言うとハルヒはさして感心した様子もなく「ふーん」と言うと
「まぁ、キョンにしては上出来ね」
と、言って、俺の方に近づいてきた。おい、ハルヒ。顔が近い
「あたし先に行ってるから。そうそう、喉が渇いたわ、何か買ってきて」
そう言うと近づけていた顔を引っ込めてさっさと歩きだしてしまった。
分岐点か?俺は近くに自動販売機を見つけた。
『行動の選択は慎重に行ってください』
朝比奈さん(大)の言葉が頭に浮かぶ。くそ、たかがジュースに何故こんなに悩まされなきゃならん。
俺は意を決してボタンを押した。俺は出てきた二本の炭酸飲料を持ってハルヒの待つ公園へと走る。

「キョン?」
俺はこのとき数十メートル離れたオールバックの存在に気づくことができなかった。

分岐点、5

45 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 01:38:12.40 ID:qzpJkQxA0

公園を見渡すと、子供たちがボール遊びをしていた。
その奥のベンチにハルヒが腕を座っている。
「遅い」
不機嫌そうな仏頂面から出てきたのはそれだけだった。慎重に選んでたんだよ
「あ、そのジュース」
俺の持つ炭酸飲料は二つとも違う種類だ。選択肢は多い方がいい。
本当なら全種類を一本ずつ買ってもよかったのだが、それはあからさまに怪しいし、朝比奈さんも
『涼宮さんにできるだけ悟られないように』
と言っていた。そうなればその選択はベターでも、ましてやベストでもない
「どっちだ?」
両方をハルヒの前に差し出す。選ばせてやるよ、世界のためにな
「それじゃぁ、右の方」
俺はハルヒから見て右、俺から見て左の缶をハルヒに渡す。ハルヒはそれを受け取るとすぐにそれを開け、飲み始めた。
「まあまあって所ね」
偉そうに味を吟味したあとそれを一気に飲み干した。
「ほら、行くわよ」
ハルヒは近くにあるゴミ箱に向かって缶を投げる。それは見事にくずかごの中へ入った。
おーっ、と感嘆の声が子供たちから上がった。
俺はハルヒのように投げ入れるようなことはせずに、くずかごへ近づいてから捨てる。
「ぐずぐずしない!さっさと行くわよ」
ハルヒがわざわざ大声で俺を呼ぶ。聞こえてるよ。
「おい、あの人尻に敷かれてるぜ」
「あぁ、しかれてるな。きょうさいかだ」
聞こえてるぞ、ガキども

-------------------------------------------------------------------
ジュース、安価したら面白かったかな、とか思いました。

50 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 01:53:19.21 ID:qzpJkQxA0

公園の次は再び散歩道だった。
時刻はすでに11時前。カップルばかりでなく、男同士の集団やスーツを着たサラリーマンが通りかかるようなこともあった。
「少しまずいかもな」
「何が?」
周囲の人間が増えるに従ってそんな危機感が芽生えてきた。
よくよく考えれば今SOS団の不思議探索のために歩いているのは俺とハルヒだけなのだ。
こんなところを同じ高校の人間に見つかればたちまちに妙な噂が立つ可能性もある。
「なぁ、ハルヒ。もう帰らないか?」
気づけば俺はそんな提案をしていた。
「何言ってんのよ!まだ来たばかりじゃない」
腹立たしげに言うハルヒに俺はこの探索の危険性を説明した。
「なぁんだ。それだけ?」
それを聞いたハルヒの返答はそんなものだった。
「それだけってお前」
俺はハルヒのそんなそっけない反応に対してたじろいでしまった。

51 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 01:53:58.33 ID:qzpJkQxA0

「いいじゃない。人の噂なんてすぐに消えるわよ。それとも、あんた何か困ることでもあるの?」
ハルヒが俺の真意を探るように見つめる。そういえば、こいつ俺と長門のことを疑ってたんだったな。
「困るというか、谷口あたりにからかわれそうだしな」
相変わらず疑うように俺の方を見るとさらに顔を近づける。やめろ、恥ずかしい
「ま、あたしもあんたと付き合ってるなんて噂、恥ずかしいからパスね」
それだけ言うとつんとしてそっぽを向いた。はぁ、まったく
「ほらよ」
今度は俺が手を差し出した。
「何よ」
不機嫌そうにそう言ってはいるが俺のしようとしていることの意図は掴めたらしい。
俺の手をとると、うれしそうに横に並んだ。

「キョンと涼宮・・・あいつらまさか」
電柱の陰から不審なオールバックがこちらを見ていたことを知るのは翌日のことだ。

分岐点6。歯車はすでに大きく狂っていた。

55 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 02:09:25.26 ID:qzpJkQxA0

一通り散歩道を歩きまわると喫茶店の前にたどり着いた。ちょうど12時少し過ぎだ。
「ちょうどいいところに喫茶店があるじゃない。中で休みましょ」
よく言うぜ。電車の中で聞いた計画に組み込まれてたぞ。
「ちゃんと覚えてたのね。バカキョンでも少しはやるじゃない」
バカキョンって呼ばれたのはこれで何回目だ?まぁいいさ
従業員に案内されて座ったのは窓際の、通りの様子がよく見える場所だった。
ハルヒの力か?そんなことを考えながらメニューを開く。
「あ、言っとくけど」
「俺のおごりだろ?」
「分かってるじゃない。店員さん、あたしこれとこれ。こいつはこれとこれ」
一通りのやり取りを終えるとハルヒは勝手に俺のメニューまで決めてしまう。
俺に選択権はないのか?
「何?団長に逆らうって言うの?それにあたしが決めたメニューに外れはないの。文句ある?」
俺はため息を吐く。まったく、やれやれだ。
それから数十分すると料理が運ばれてきた。
もっとも、痺れを切らしたハルヒが、厨房に怒鳴りこもうとする粗相をやらかしたが、俺の制止もあり、なんとかとどめさせた。
恥ずかしながらこの頃には、ハルヒと手をつないでいたせいで頭に血が昇っていた上に、延々とハルヒから
「これはデートじゃないのよ」
と、言う言い訳を聞かされていたせいで朝比奈さんの警告を頭の中から放り出していた。
純粋に今の時間が楽しかったせいもあるし、何よりあんな恐ろしい緊張状態の中で活動していたのでは身が持たないと思っていたせいもある。
ハルヒの選んだ料理は確かに美味く、その上値段もお手ごろだった。
珍しくこれだけ綿密な計画を立てているのだ。いろいろと調べたのだろう。
そう思いながらハルヒが上品とは言えない食べ方で料理を食べるのを眺めていた。

56 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 02:22:11.78 ID:qzpJkQxA0

喫茶店を出て向かったのは何故か水族館だった。ハルヒ曰く
「海には未だに不思議な生き物が沢山いるの。だから誰も知らないような不思議があるかもしれないでしょ」
と、言うことらしい。時間はたっぷり3時間。イルカショーが3時半からあるらしいからそれも見るつもりなんだろうな。
「ほら、キョン、見て変な顔」
ハルヒはと言えば不思議探索そっちのけで水槽の中を泳ぐ魚を観察していた。
「これはちっちゃくておどおどしてるからみくるちゃんね
 これは無口でメガネかけてるみたいだから有希
 こっちの強そうなのはたぶん古泉君ね」
何の根拠もなくそんなことを言っている。とても俺にはそんな風には見えんがね
「あんたの想像力が乏しいからよ。いい?SOS団員たるもの日頃からそう言う観察眼は養っておきなさい」
一体どこでそれが役立つんだよ。
「いい?不思議はどこにあるか分からない。だから先に想像力で探すのよ」
そうか、頑張って見つけてくれ
「で、これがあんた」
そう言ってハルヒが指差したのは
「クラゲじゃねえか」
「そうよ、あんたなんてこれで充分。いつもふにゃふにゃしててお似合いよ」
「んじゃ、お前はどれなんだよ」
散々な言われようだったので思わず聞き返してみていた。
「あたし?あたしはあれよ」
そう言って指差した先にはド派手でバカでかい魚が悠々と泳いでいた。なるほど、ある意味納得だな。
俺はハルヒの象徴であろう毒々しい魚とくらげを見比べる。
「ふにゃふにゃ、ねぇ」
優柔不断ってことか?遠くで手招きするハルヒを見てため息をついた。
もう一度クラゲを見てその場を後にする。
「くらげ、かわいいのに」
後ろからそんな声が聞こえた気がした。

61 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 02:30:57.13 ID:qzpJkQxA0

イルカショー開演の時間の10分前には会場にたどり着き、特等席ともいえる最前列を確保した。
「はい、これあんたの分。着ないと濡れるわよ」
渡されたのは透明ビニールのレインコートだった。やはり初めからイルカショーが目的か。
用意が周到なことも見ても間違いないだろう。意外と女の子っぽいのか?
「きっと、イルカたちはものすごい量の水しぶきをあげると思うのよ。
もし、クジラが同じことをしたらきっと津波が起こるわ」
・・いや、ただ単にガキっぽいのか。
イルカショーが始まるとハルヒは興奮しっぱなしで、時折俺の服をつかんでは大きく揺さぶっていた。
やめろ、視界がぶれて何も見えん。
「あたしが見えてるからいいのよ」
満足げな笑顔を浮かべて喜びを表すハルヒは素直にかわいいと思った。
ふだんからこういう表情をしてればな、などと考えたが、そんなことになれば地球が滅びかねない。
俺は強く左右に首を振りそれを忘れた。そして、思い出しかけていた大事なことも。
イルカショーが終わった後、その興奮からハルヒが予定にはなかった場所へと向かう。

最後の分岐点を超え、運命は崩壊を始める

69 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 02:59:34.81 ID:qzpJkQxA0

続きです。

ハルヒはショーの興奮が冷めないらしく。結局一時間もイルカの水槽に話しかけていた。
その間俺は退屈しのぎに携帯をいじるだけで、ハルヒの横でいるかを見るようなことはしなかった。
「もう満足よ。帰りましょ」
ハルヒがそう言いだした時には安堵のため息をついたくらいだ。
ちなみにハルヒはちゃっかりと土産物店でイルカのぬいぐるみを買っていた。もちろん俺の金だ。
俺はそんなハルヒを横目に妹へのお土産を買った。

分岐点、いや、崩壊への一歩を確実に刻む

ぬいぐるみの袋は俺に持たせ最後の場所、商店街へやってきた。
アーケードの入口には『ショッピングモール隣町』と書かれた看板があったが、
どう見ても寂れた商店街だ。ハルヒは婦人用の店でウィンドウショッピングを楽しんでいる。
「このヘアピン・・・」
ハルヒがガラスに顔を近付けて何かをまじまじと見ていた
「なんだ?欲しいのか?」
思わず聞いてから、しまった、と思った。ハルヒのことだ。
「何?買ってくれるの?」
と、図々しく聞いて、無理やりにでも買わせるだろう。そう思った。
「いいわ、遠慮しとく」
予想に反してハルヒはすんなりと辞退した。その表情はどこか寂しげだ。
「ゴメン、先に行ってて」
そう言うとハルヒはどこかへ行ってしまった。
「また駅で」
そう言い残したのだけがかすかに聞き取れた。

74 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 03:18:04.83 ID:qzpJkQxA0

俺はハルヒの後を追いかけるわけでもなく商店街をぶらついていた。
あの背中を俺は一度見たことがある。
『近づかないで』
そんな意思表示の表れだ。
ついさっきまで隣にうるさいやつがいたせいか、寂れた商店街の雰囲気が何となく一人でいることの悲しさを強めた。
特に用があるわけでもなく商店街に並ぶ店の数々を眺めているとそこに
『壱岐の国屋古本店』と言う看板を掲げた書店を見つけた。
俺はなぜか吸い寄せられるようにその書店へと足を運ぶ。不思議だった。
「長門?」
そして、そこで長門を見つける。見つけてしまった。
「今日は涼宮ハルヒと二人だけでデートのはず」
長門は本から目を離すと俺に向かってそう言った。
「さっきハルヒが急にどっかに行っちまったんだ。後で駅で、ってな」
長門は俺の方をじっと見ている。顔は相変わらず無表情だ。
「そうだ、これやるよ。妹に買ったけど、お前にやった方がいいだろ」
長門の鞄や持ち物、さらに部屋に至るまですべて無機質で何も飾り気がなかった。
だからこそ、キーホルダーの一つでも持っていればそんな状態から何か変化が起こる。
そんな安直な考えからの行動だった。が、
「あなたは今、最悪の選択をした」
長門が俺を見ていないことに気づいたのはその時だった。長門の見つめる先には
「ハルヒ!」
目にうっすらと涙を浮かべ、顔面蒼白のまま硬直しているハルヒの姿だった。
「おい、待て!ハルヒ」
ハルヒは俯いて走り去る。そのあとを必死に追う。
今更になって思い出したのは朝比奈さん(大)の忠告だった。
『選択を間違えないようにしてください』
『未来の出来事、いえ、世界を狂わしてしまうほどの出来事が起こる』
事態は限りなく最悪だった

79 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 03:31:02.61 ID:qzpJkQxA0

ようやくハルヒに追い付いたのは駅に近い、人気のない暗い場所だった。
いつのまにか、日は完全に落ち、道を照らしているのは頼りないオンボロ街灯と月明かりだった。
「ハルヒ、誤解だ」
「誤解?一体何の?」
「俺と長門は何でもない!あれは偶然で」
「もういい!」
俺の言い訳を叫び声をあげて途中で遮る。
「いいのよ、隠さなくても」
「だから、俺は」
「有希のこと、ホントはどう思ってるのよ」
今度はか細い声が遮った。俺の言葉はもう届かないのかもしれない。
「俺は、長門はただの」
ただの、何だ?
「ただの、何よ?」
自分の疑問を声に出したのはハルヒだった。
「友達だよ」
一瞬詰まってしまった。これは致命的なミスだ。自分でもわかる。説得力がない。
「有希も、同じこと言ってた。何回聞いても」
ハルヒの声は今にも鳴き声を上げそうなほど追いつめられていた。
「じゃぁ、あたしは」
この質問は意外だった。何も言えない。何が正しいのかが分からない。
「あたしは、あんたのことが、好き」
聞こえない振りをしたくなる。が、目の前のハルヒの姿がそれを許さなかった。

83 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 03:49:12.46 ID:qzpJkQxA0

「恋愛なんて下らない。一時の気の迷いだと思ってた。
高校に入ってなかなか友達ができなかったし、
あたしのやりたいことを手伝ってくれそうな人はいなかった。
でも、あんたは、文句いいながらだったけどわがまま聞いてくれたし、
不満そうだったけどあたしの話すことも聞いてくれた」
頬を水滴が濡らす。
「変な話だけど、あんたは一番席が近くて、なんだか見覚えがあって、特別に思えて、
それに、あたしこうなってほしいと思ったことが叶えられてた気がする。
いや、あんたが叶えてくれていた気がする」
そう言うとハルヒは髪を纏め、後ろで束ねた。ポニーテールだ。
「夢の中で、あんたが言ってた。俺はポニーテール萌なんだ、
お前はそれが似合ってるって」
一歩、一歩、ゆっくりと近づく。涙でぬれた顔と月の光がその姿を妖艶に見せた。
「あんたが有希と付き合っててもいい。みくるちゃんとだったり、
実は古泉君と、なんてことがあってもいい」
ハルヒは俺の胸に顔を押し当てた。
「いいから、あたしと、付き合いなさいよ」
ハルヒはそれ以上何も言えなくなったのか、大声で泣きじゃくり始めた。

84 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 03:50:04.52 ID:qzpJkQxA0

「ハルヒ・・・」
何か、言わなくてはいけない。
「悪い」
ようやくその一言が出た。俺は、ハルヒとは付き合えない。
ハルヒが嫌いなわけではない。むしろ、付き合ってもいいとさえ思っている。
それでも、今このまま付き合うことになれば、それは俺が、そしておそらくハルヒも望まない結果になる。
「俺はお前のことをかわいいと思うし、実はいい奴だとおもう」
違う、俺が言いたいのはそんなことじゃない。
「でも、」
後に続く言いたいことは、何故か言葉にならなかった。
「じゃぁ、何で・・・」
ようやくひねり出したような、悲しい、誰にも聞こえないような叫び声だった。
「悪い」
俺はその言葉をいつの間にかまた繰り返していた。

92 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 04:06:04.60 ID:qzpJkQxA0

次の日、ハルヒは学校に来なかった。
いや、そのほうが都合がよかった。
「だから、見てたんだよ!お前らが公園でいちゃついてる所から水族館に入るまで」
谷口が俺が教室に入ってくると同時に昨日のことを問い詰めてきた。
「だから、あれはSOS団の活動で、ハルヒとは何でもないんだよ」
谷口にそう言う。何でもない、か。我ながらよく言ったものだ。
「いいや、嘘だな。決定的な瞬間を俺は見た」
そう言って携帯の画面を俺の目の前に出す。
「お前と涼宮のキッス・シーンだ」
その言葉に野次馬が一気に押し寄せてきた。
「お、押すな!順番だ順番」
谷口がそう言う間にすでに携帯は谷口の手から他人の手、さらにそれを求める他人の手によって
「あぁ!俺の携帯が」
粉砕されていた。正確には足だな。足跡がくっきりと残っている。
「とにかく、俺は」
俺はすでに谷口の話を聞いていなかった。窓の外をぼんやりと眺める。
空は雲ひとつなく、真夏を思わせるほど青かった。まるで、
「まるで、何だ?」
未だに昨日の問いの答えも出ない。長門、ハルヒ、朝比奈さん、古泉。
お前らは俺のいったい何なんだろうな。
答えは出ないことは分りきっていた。昨日寝ずに考えて、気づいたら朝になっていたんだからな。
時計を見るたびに変わっていく時間を見て、この針が逆回転を始めればいいとさえ思った。
ハルヒがそれを望めば・・・。
「聞いてるのか?どうなんだ、キョン」
尋問する刑事気取りの谷口の声が、まるで昨日のハルヒの声のように聞こえてしまうほど、何も考えられなかった。

95 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 04:17:03.92 ID:qzpJkQxA0

翌日も、その翌日も。結局ハルヒは一週間学校に来なかった。
そのことについて様々な憶測や噂が流れたが、何故か週末になると噂は小さくなっていき、
土曜日には全く聞かなくなっていた。何でももうすぐ有名人が来るらしいといううわさが流れたらしい。
古泉の差し金か、長門の情報操作か。いずれにせよ俺は少しの間は助かったらしい。
そして、おそらく助け船を出したSOS団には顔を出せないでいた。
古泉や朝比奈さんは事情を聞かれそうで、長門には今回のことで一番迷惑をかけたことになるからだ。
ハルヒが来れば、などと都合のいいことも考えたが、おそらく気まずいだけだ。
こんな状況であれば必ず出ていたあのセリフもすっかり忘れてしまっていた。
そんな場合じゃない。何とか、しないとな
「なぁ、ハルヒ」
代わりに出てきたのはそんな言葉だった。

97 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 04:32:19.99 ID:qzpJkQxA0

「ようやく、お話ができそうですね」
日曜日にうっかり出かけてしまったのが運のつき、とばかりに古泉が現れた。
いつものニヤケ顔がひきつっているのが分かる。古泉、お前でも怒るんだな。
「それは何かのジョークですか?まぁ、立ち話も何です。あのお店へ」
俺は小泉の言葉に従い、歩き出す。
古泉と遭遇した場所は、SOS団の不思議探索の集合地点。案内されたのは、いつもハルヒが俺に奢らせる喫茶店だった。
「では、日曜日。何があったのか詳しくお聞きしましょうか?」
古泉の真剣な顔を初めて見た気がする。口元や、頬のあたりが笑ってはいたが、眼だけがウソを見抜こうと鋭くなっていた。
「特に何も。ただハルヒといつものように不思議探索をさせられてただけだ」
それを知りながらも、俺は嘘をつくことを選んだ。
「そうですか、いつもは手をつないでいるのですか」
古泉がやんわりとそう言った。その言葉は鋭く何かに突き刺さる。
「実はすでに長門さんに詳しい話を聞いています。何が起こったか、あなたが何をしたのか」
「だったらなんで!」
「では?あなたはなぜ?」
怒りをあらわに怒鳴る俺に静かに聞き返す。古泉の言葉は冷たい。
怒りと言うよりも焦りから出たその言葉は熱くも冷たくもない。無意味だった。
「あなたは何故、未来から来た朝比奈みくるの忠告を聞かず、
その上、関係を疑われていることを承知の上で長門有希にプレゼントを?」
何も言い返せない。ただ、何となく、良かれと思ってやったことだ。
「まぁ、そのことをとやかく言うつもりはありません」
どういう意味だ?
「あなたと涼宮さん、そして長門さんの関係を修復します」
古泉の表情はいつものやんわりとしたものに変わっていた。

100 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 04:46:18.18 ID:qzpJkQxA0

古泉の提案は、こうだった。
ハルヒはすでにある程度立ち直り、月曜日には学校にやってくるだろう。
その日の放課後ハルヒを部室へ誘導。
そこでハルヒのことを相談する長門と俺の話を盗み聞きさせるというものだ。
「ハルヒがこそこそ盗み聞きするとは思えんぞ」
古泉に疑問をぶつける。
「大丈夫です。彼女は今あなたと顔を合わせづらいはず。
あなたが長門有希と会話をしている場面に出くわせば必ず真相を暴こうと聞き耳を立てるはずです」
もし、ハルヒが俺と長門が話しているのを見た瞬間に誤解をした場合は?
「彼女の性格からしてそれはあり得ないでしょう。
もし、僕が長門さんから聞いたことがすべてであればね」
古泉が長門から聞いた話は書店での出来事のみらしい。
他の情報は校内に流れた噂を筋が通るように組み立てたもので、大方正しかった。
つまり、古泉たちが持っているのは書店での出来事までと言うことになる。
「長門さんでもあなた方の位置や行動の情報を読み取ることはできなかったそうです」
古泉がそう付け加えた。ハルヒの力によるものなのだろうか。
「あなたが知っていることでこの作戦に大きな支障が出ることが起きていたのなら今お話しください」
俺は、しばらく考えて
「いや、問題ない」
と、答えた。

あぁ、そうか。この時に運命は崩壊していたんだな。
この作戦に穴が大量にあることは古泉も俺もわかっていたはずだ。
何故これを実行したのか、まったくもって理解できないね

103 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 05:09:43.18 ID:qzpJkQxA0

月曜日になると、古泉の話通りハルヒは登校した。
が、いつもの覇気はなく、瞳の輝きも半分にも満たない気がした。
そして、俺はと言えば
うっかり寝坊したのだ。一家全員丸ごと。
「くそっ、こんな大事な日に」
朝食を抜き、急いで学校へ向かったものの朝のHRには間に合わず、さらには
俺の席とハルヒの席は遠く離れてしまっていた。
突然担任が席替えをやるといったらしい。間違いなくハルヒはそれを望んだ。望ませてしまった。
「何だ?愛しの涼宮と席が離れたのがそんなにショックか?」
相変わらず、空気が読めない男は国木田に引かれ、俺の席を離れた。
この教室に、俺とハルヒの関係を噂する人間は、谷口以外にいなくなっていた。
いや、ハルヒの変貌ぶりを見て何かを察し、その話題をタブーにしたのだろう。
俺とハルヒの距離は離れるばかりだ。悩んでいても、何かを言おうとしても、ハルヒを見ると何も言えなかった。

104 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 05:10:51.93 ID:qzpJkQxA0

昼休みに俺は古泉に呼ばれ部室へとやってきた。
放課後の作戦の予行練習をするためだ。
長門はすでに部室でハードカバーを開いていた。
「なぁ、長門」
俺は遠慮がちに話しかける。
「何も言わなくていい。悪いのは私」
ハルヒの時もそうだったが、誰も俺の言い訳を聞いてはくれないのだろう。
いいや、聞いてくれなくていい。俺が悪いんだ、長門や古泉が何と言おうと。
「すべて涼宮ハルヒが望んだこと」
俺は、その言葉の意味が分らなかった。
「ハルヒが?望んだ?」
その意味を何度も何度も、考える。ここ最近で一番俺の脳を酷使したが答えは出ない。
「涼宮ハルヒは私があなたと交際していることを望んだ」
長門はハードカバーをたたみ、立ち上がる。
「あなたは涼宮ハルヒにとって特別な存在」
長門が俺の方へ近づく。足取りがおかしい
「長門!お前大丈夫か?」
「月曜日の午後から突然各機能に障害が発生し始めた。修正プログラムそのものもダメージを受けている」
どういうことだ?
「私を、支えては、いけない」
突然長門が崩れ落ちるかのように俺の方へ近づく。俺は、それを抱きかかえるように受け止めた。
ガチャリ。ドアが開く。
「古泉!大変だ!長門が」
ドアを開けたのはまぎれもなく、

105 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 05:12:36.75 ID:qzpJkQxA0

涼宮ハルヒだった。


運命は、もうすでに崩壊していた。

107 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 05:21:47.16 ID:qzpJkQxA0

それから数か月、俺はハルヒと話をすることはなく、
部室に行ってもハルヒと遭遇することはあり得なかった。

古泉は超能力を失い、朝比奈さんは未来へ帰れなくなり、長門は宇宙人から人間になっていく。

古泉は何度か原因究明のためと俺を訪ねた。
俺は、あの日のことを話さなかった。
そして、二か月前、俺は部室へと行かなくなった。いや、行けなかった。
俺はもう、SOS団を名乗ってはいけない。そう思った。
あの日のことを忘れるため、勉強を始め、成績を伸ばす。親は喜んだが、妹だけは俺を心配そうに見ている。
「キョンくん、ハルにゃんはね」
時折、そんなことを口にしていたが、俺はそのたびに「忙しい」といって逃げた。
妹はある日を境にその言葉を封印し、代わりに明るく振る舞う。
いつも通りの明るさの時もあれば、子供ながらに無理をしているように見える日もあった。
俺が心地よく思えた高校生活は、すでに消えていた。

だから、俺はそれを終わらせるために、閉鎖空間にいる

108 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 05:30:10.60 ID:qzpJkQxA0

〜昨晩〜
「ハルヒ」
俺は正面からハルヒに向き合い、話しかけていた。
「・・・・キョ・・・」
かすかに俺の名前が聞こえる。まだ間に合う、俺は名乗った。
「俺は、ジョン・スミスだ」
「ジョン・スミス?」
一種の冒険であり、博打だった。危機を救ってきたのは俺ではなくジョン・スミスだ。
「よく聞けハルヒ、お前はこの世界の神だったんだよ」
俺が蹴りをつけるために考え出したのは、ハルヒにすべてを教えることだった。
朝比奈さんは未来人
長門は宇宙人
古泉は超能力者
そして、経験した冒険の数々を、思い出を、閉鎖空間のことを
「そんなこと、信じるわけがないじゃない」
ハルヒの目は輝いていた。それはハルヒが生気を取り戻したからではない。
瞳に浮かぶ涙が月明かりを反射しているだけだった。目は、死んだままだ。

「ハルヒ、お前が望むものは目の前にある。お前が願えば何でもかなうんだよ」
「願えば・・・何でも?」
俺はそれだけを伝え、背を向けて立ち去った。
「・・・って」
何かが聞こえたが、俺は無視をした。

最後の分岐点(ターニングポイント)だった。

113 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 05:44:26.35 ID:qzpJkQxA0

なぁ、ハルヒ。何が見える?もう真っ暗なんだ。音だけはまだ聞こえるんだぜ?
腹も、熱いけど、痛くはないんだ。なぁ?ハルヒ。実はな、ずっと言いたいことがあったんだよ。
あの日言いたかったこと、やっとわかったんだ。しかもそれ、たった一言なんだぜ?笑っちまうよな?
なぁ、ハルヒ・・・

114 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 05:44:55.49 ID:qzpJkQxA0

「バカキョン。よーく見なさい。あれがあたしが望んだこと」
あぁ、聞いてるよ。
「もう部室なんて木端微塵でしょうね。ここからじゃ見えないけど」
部室は、消えちまったのか
「ほら、見えてきた。あたしたちのクラスよ、キョン」
あぁ、俺は今そんなところにいるのか。
「影も形も見当たらないけどね」
なんだ、ないんじゃないか
「校庭なんて穴だらけね。あそこであたしたちキスしたのよね」
そうだな、俺が無理やりした。
「嫌なものなんてなーんにも残ってない。気持ちがいいわ、清々しいわ」
そうか、そいつはよかった

「よく・・・ない」
体が急に軽くなった気がした。目を開く。何かが顔に落ちてきた。
「よくないわよ、こんなの」
泣いてるのか?
「あたしは、別にあんたが有希と付き合っててもよかった。いや、付き合ってて欲しかった」
だったらなんで?
「知らないわよ、バカ。諦められなかったんだもん。嫌だったんだもん」
そうか、ハルヒは・・・
「あたしは、あんたのことが好き。あんたのこと愛してるの。
だから、有希と二人っきりでいることがいやだった、抱き合ってるのが嫌だった。
そうであって欲しいのに・・・有希は、有希は」
そうだ、長門は、ハルヒは、朝比奈さんは、古泉は
「仲間、なんだもん」
あの時、俺がそう答えていれば、俺がそれに気づいていれば、こんなことにはならなかったんだな。
ハルヒ、せっかくだから告白の返事をしてやるよ。たった一言だ。

115 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 05:46:05.88 ID:qzpJkQxA0

「お、れ・・・も・・・だ」


運命は輝きを取り戻し、再び動き出す

118 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 05:54:46.23 ID:qzpJkQxA0

ぼやけていた視界がはっきりとする。いや、ハルヒの顔はぼやけたままだ。
違う、ぼやけてるんじゃない。光ってるんだ。
「ハルヒ」
体を起こす。痛くない、見える、・・・おい、俺も光ってるぞ!
「キョン、凄い」
ハルヒが見つめる先は崩壊した教室、のはずだった。
「綺麗」
うっとりと、はっきり、ハルヒがそう言った。見間違いじゃない
「お前の方が・・・」
言おうと思ったがやめた。俺は何をいおうとしてたんだ?
「あたしの方が?」
聞き返すそのハルヒは、希望に満ちあふれていた。
「あたしが望んだのはこんなことじゃない」
はじめは誰に向かって言っているのか分からなかったが、気づいた。
「あたしが望んだのは」
自分自身だ。ハルヒがハルヒと俺に言っているんだ。
「もっと綺麗で仲間が元気でいるところよ!」
強く、強く、光る。
神人の放つまがまがしい光は、黄金の、ハルヒの光に消されていく。
「ハルヒ、お前」
そんな中俺が見ていたのは

トレードマークのリボンで縛られたポニーテールだった。

119 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 05:55:49.61 ID:qzpJkQxA0

              柊

133 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 09:23:31.08 ID:qzpJkQxA0

あれから数週間。俺は今、部室の前にいる。ドアをノックすると、
「どうぞ、大丈夫ですよ」
と言う朝比奈さんの舌足らずな返事が返ってきた。
「受験勉強の方は大丈夫なんですか?」
俺はメイド服を身にまとった朝比奈さんにそんな質問を投げかける。
「えぇ、もうほとんど必要ありませんから」
そんなことを言いながら湯呑にお茶を注いでくれた。
朝比奈さんはあの後、なんとか未来とコンタクトをとることが可能になったらしい。
それは、事件の数日後に現れた朝比奈さん(大)が証明してくれた。
「最後の選択肢は、間違えなかったのですね」
朝比奈さん(大)はそのあとに「信じてましたよ」と付け加えると、どこかへ消えてしまった。
最後の選択肢。それはたぶんハルヒと向き合うことだったのだろう。いや、そのあとにもまだ何かあったのかもしれない。
朝比奈さん(大)に正解を聞こうと思ったが、いたずらっぽく
「禁則事項です」
と、言われて終わりになる気がした。まぁ、自分で考えろってことだな。
お茶をすするとパラり、と本のページをめくる音がした。

134 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 09:29:14.95 ID:qzpJkQxA0

「またその本か」
「ええ、なかなか興味深い本ですよ。あなたも読んでみてはいかがです?」
今ここで本を読んでいるのは長門ではなく古泉だ。
あの一件以来、古泉は長門のハードカバーを読むようになった。
今読んでいるのは『アルジャーノンに花束を』。よほど気に入ったのか、週に一度は読んでいる。
「遠慮するよ」
俺はそれだけを言って、何気なく部室の入口を見る。タイミングよく扉が開き、中へと入ってきた。

135 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 09:41:19.81 ID:qzpJkQxA0

「図書委員会が思ったより長引いた」
そう告げたのは長門だ。長門は死んだはず?確かにあの時長門は息を引き取った。
対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース『長門有希』は。
いや、あのままハルヒが無気力のままだったなら、長門はあのままだっただろう。
しかし、ハルヒは生気を取り戻し、同時に長門の死を望まなかった。
つまり、対有機生命体コンタクト用・・・ええい、長い。宇宙人としてではなく人間としてよみがえったのだ。
もう何でもありだな。
しかし、長門はかなり人間味をもったとはいえ、しゃべり方や考え方は昔のままだった。
閉鎖空間での儚げな少女らしい口調は見当たらなかった。残念ではあるがそんなことを言ったらまた怒られそうだ。
ちなみに、宇宙人としての役目を果たせなくなった長門は小泉の“組織”が保護している。
古泉が上の方にかなり無理を言って保護したとか。今は一緒に暮らしているとかいないとか。
ちなみに、長門のチート能力は頭脳面以外は完全に失われている。
蓄えられた知識や記憶だけは残っているそうだ。
同時に、古泉も超能力者としての能力をほぼ完全に失っている。

それは、ハルヒの力が存在しないことも示していた。

136 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 09:51:42.57 ID:qzpJkQxA0

ハルヒは今完全に一般人と同じ、とも言えないが、力をなくしている。
以前のように都合よく何か事件が起こるようなことがなくなったし、
何よりそのせいで明らかにイライラしているようであっても、閉鎖空間が発生することはなかった。
俺が、全てをハルヒに教えてしまったことが原因なのか、
それとも、神人を光で消したことが原因なのか。古泉も“機関”も分からないということだった。
そのハルヒは今課外授業を受けている真っ最中だろう。
「涼宮さん、遅いですね」
大丈夫ですよ、朝比奈さん。
あいつはもうすぐどかどかと足音を立てて部室へとやってきます。
リボンでまとまられたポニーテールとお気に入りのヘアピンで整えた髪に
うっとおしいくらいに目を輝かせて、大声で叫ぶのだろう。

「SOS団、活動開始!!」

何せ、とびきりわがままな団長で

傍若無人な俺の彼女なんですから

                              fin

139 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 10:05:53.60 ID:qzpJkQxA0

このスレを見てくださった皆さん。ありがとうございました。
初VIP、初SSで、最後まで続けられるか不安でしたが、なんとか結末まで書くことができました。
wktkされるような文章が書けて嬉しかったです。
最後に、徹夜で朝まで見てくださったり、レスで励ましてくださった方。ありがとうございました。
もっと投下スピードを上げて、尚且つ叩かれても、きもがられても、全レスをしていこうと思います。
何かダメなところや、ここはよかったというところを教えてくださるとうれしいです。



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