ハルヒ「キョン!リオレウスってのを狩りに行くわよ!」


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35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/11(金) 18:45:43.95 ID:lSYjkb0BO

モンハン的なハルヒ

俺は洞窟の片隅で、身を屈め、音を殺し、いずれ来るだろう奴を待っていた。
空を切る羽の音が響き、ペイントボール独特の匂いが洞窟の中を満たす。
(……来たか)
丸い穴の開いた天井から、身体中に傷を負った《大怪鳥イャンクック》が姿をあらわした。
巨体を揺らす《イャンクック》が着地するのを、今か今かと待ちながら、胸の高鳴りを押さえる。
《イャンクック》の着地と同時に土煙があがり、身体が傾き、地面に沈む。
(……今だ)
落とし穴によって体の半分近くが埋まり、身動きがとれずにいる《イャンクック》めがけて走る。
「うおおおおぉぉぉぉ」
俺の背中に掛かる大剣《バスターソード改》の柄を握り、全体重を掛けて振り下ろした――

馬車に揺られながらも、俺は荷物を大事に抱えていた。
「これで《街》に行ける……」
思わず呟いてしまってから辺りで、くすり、と忍び笑いが起こったことに気付く。慌てて唇を引き締めるが、喜びが込み上げてくる。
家業を継ぐと思っていた親は、ハンターになるのを反対したが、
「一ヶ月で《イャンクック》を倒せるなら考えやろう」
と、親父が条件を出してきた。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/11(金) 19:04:52.77 ID:lSYjkb0BO

俺は死に物狂いでランポスと戦い、防具と武器を揃え、経験を積んだ。
閃光玉や落とし穴などを使いながらも、一ヶ月で《イャンクック》を倒せるまでになった。
そして、俺は街に向かっている。
一ヶ月で倒したのなら早い成長だろうが、今年で十七になる俺の年齢的には遅い方かもしれない。
街では同い年で《飛竜》を狩る奴がいると聞いている。
ハンターとしてはまだまだ半人前なのは分かるが、嬉しさが込み上げてくるのは仕方がない。
街に着いた俺は、酒場に向けて歩いた。
ここでハンターとして活動するには、ギルドの組合に登録をしないといけない。
酒場の扉の無い入り口をくぐると、煙草と酒の匂いが満たしている。ここにいるだけで酔ってしまいそうだ。
カウンターに向かって歩くが、誰も俺を見ようともしない。
それもそうだろう。武器もそうだが、防具は《ハンターシリーズ》で揃えてある。
新人ハンターが来た、としか認識していないのだろう。
「おや? 君は新人かい? 今めがっさ忙しいから、奥にいる喜緑さんに登録を頼むといいにょろ」
そう言って変な語尾を使う女性は、ジョッキを手に持ち奥のテーブルにいった。
俺はその人が言った方へ行き、喜緑さんらしき人に声をかけた。
「あなたが喜緑さんですか?」
荷物の中から紹介状を取り出し、カウンターの上に置く。
「ここの《ギルド》に登録したい」
喜緑さんは折り畳んだそれを丁寧に開き確認する。
読み終わると、一冊の帳面を出して、俺の前に置いた。
「ここの記入事項に答えて」
帳面を受け取り、羽ペンで、名前、年、性別、得意な武器、を書き込む。
喜緑さんは帳面を受け取ると、
「登録証を作るから待ってて」
そう言って、カウンターの奥の扉の向こうに話かけた。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/11(金) 19:28:06.87 ID:lSYjkb0BO

「会長(マスター)、彼の《ハンターランク》はどうします?」
喜緑さんの声に対して、壁の向こうから返事がする。
「《レンジャー》」
返ってきたのは、たった一言。
「それで十分」
いや、二言で俺のランクは決まった。
登録証を受け取った俺は、荷物を宿舎に持って行くことにした。
「ちょっと待って」
後ろから喜緑さんが呼び止める。
「《アプトノス》のステーキをサービスしとくから、荷物を置いたら来てね」
今日は何も食ってなかったことに気付いた俺は、お言葉に甘えさせてもらおうことにた。
「有難うございます」
俺は荷物を部屋に置くと、すぐに酒場へと向かった。
「今、手が離せないの。別の子に持ってこさせるから、適当なとこに座って待ってて」
別の子ね……。変な語尾を使う女性が持ってきてくれるのだろうと思いつつ、席を探す。
どこもかしこも席は埋まっているが、一つのテーブルだけ空いている。
いや、正確に言うと、一人のハンターの周り、半径三メートルに人がいないのだ。
そのハンターは《グラビィトンハンマー》という巨大なハンマーを背中に負って、腕と腰と足には《レイアシリーズ》の防具を身につけ、
胴鎧は《スティールメイル》、頭には兜ともいえない、黄色いリボンの付いたカチューシャをつけている。
しかも、美人と言っていいほどの女性がそこにいた。
長い髪を一つに纏めたポニーテールが、なんとも良い。
男の一人や二人、近くにいてもいいくらいだ。が、誰もいない。
席も空いているし、せっかくなので声ぐらい掛けておこうと思ったこの俺を、誰が責められよう。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/11(金) 22:52:26.56 ID:lSYjkb0BO

>>38の続き

「この席、座ってもいいか?」
問う俺に、鋭い眼光が刺さる。
「あんた何? 新人?」
その問いに俺は頷いた。
「なら、向こうに行ってくれる。ただのハンターには興味ないから。
あたしが求めているのは凄腕のハンター。もしくは古龍種の情報のみ。
だから、あっちに行ってくれる。邪魔だから」
まるで眼だけで《飛竜》を殺そうとするように俺を睨む。それと同時に、周りから笑い声があがった。
訳の解らない俺は、物凄く居心地が悪い。早くここから立ち去りたい。それほど気恥ずかしい。
「おーい、新人!」
奥のテーブルから声がする。振り向くと同い年くらいの男が手を振っている。
「こっちに来いよ!」
丁度いい。この女の下から離れられるなら。
俺は駆け足でその場を去った。
「お前、あの涼宮に声かけただろ」
今では太刀に分類される《鉄刀・神楽》を背負った男が言う。
俺もこんな武器が欲しいと、恨めしく思いながら話を聞くことにした。
それと同時に《アプトノス》のステーキが目の前に置かれた。
「お待たせしましたぁー」
舌足らずな声だが、可愛らしい。
礼を言おうと振り向くと、受け付け服からはち切れんばかりの胸を、横から突き出した女性がいた。
「有難うございます」
礼を言うと、女性は軽く会釈して立ち去った。
「鼻の下のばしてないで話を聞け」
男の言葉で我に返った俺は、肉に噛り付き、話を聞いた。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/11(金) 23:17:42.64 ID:lSYjkb0BO

「いいか。あの女の名前は《涼宮ハルヒ》って言う、この街のハンターの中でも、ずば抜けた変人だ」
 「みくるちゃーん! ビール!」
後ろから、あの女の声が聞こえる。
「腕がいいから、いろんな隊に呼ばれてんだけど……」
「ちょっと待ってくださぁ〜い」
俺にステーキを持ってきてくれた女性の、とても可愛らし声が返ってくる。
「一度、隊に入れた奴らは、二度と組もうとはしないらしい……」
「また始まるのか」
と、周りのハンターの声。
「涼宮と組んだ隊は必ず依頼を成功させ、生きて返ってくるが……」
「うりゃー!」
「いやああああぁぁぁぁ」
飛び掛かるような声。
そして、天使の声が悲鳴に変わり、俺は涼宮なる女の方へ振り向いた。
「必ず、何らかのトラウマを植え付けていくらしい」
「いやぁ、ひゃぁ、はふぅ」
 天使の声は途切れ途切れに聞こえ、それと同時に胸が揺れる。
涼宮と言う女は、後ろから抱きつき、服の中を天使の胸を弄っていた。
(たしかに変人だな……)

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/11(金) 23:57:09.26 ID:lSYjkb0BO

《涼宮ハルヒ》と言う変人に出会って、もう一ヶ月経つ。
けっして忘れる事がないだろう名前とともに、腕の良いハンターや受け付け嬢の人達の名前も、ある程度覚えた。
この《街》や宿舎での暮らしにも慣れ、ハンターとしての一歩を踏み出している。

そんなある日、俺は大剣《バスターブレイド》を背負い、走っていた。
「早くしろ、キョン」
俺はその声の主を追い、馬車に足を掛け、中に乗り込む。
ちなみに、《キョン》と言うのは俺のあだ名だ。
そして、その名を呼ぶのは《涼宮ハルヒ》のことを教えてくれた男、谷口だ。
「キョンは本当、昔から変わってないね」
そう言ったのは、国木田という男。
そして、《キョン》というあだ名を広めた本人だ。

国木田とは小さい頃からの友達で、その時から俺のことを《キョン》というあだ名で呼んでいた。
三年程前に、国木田は両親と一緒に村を離れたが……まあ、いろいろとあったのだろう。
旅の途中でモンスターに襲われるなんて事は、よくあることだ。

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/11(金) 23:59:30.39 ID:lSYjkb0BO

まあ、詳しい話は知らないが、俺がハンターになる二年程前にハンターになっていた。

「準備はいいか? 行くぞ!」
谷口と国木田の隊のリーダーで、俺達より十程歳上の先輩ハンターの岡部が言うのと同時に馬車は動き出す。
今日は待ちに待った、街に来て初の狩りである。

今まで、肉やキノコを集めては収納し、鉱石類を採掘して街に帰るといったことしかしていなかった。
そんなとき、谷口が声を掛けてきた。

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/12(土) 00:04:22.34 ID:ZoB1YdZsO

「街に来て一ヶ月経つが、そろそろ狩りがしたいんじゃないか?」
と。そして、付け加えるように、
「《イャンクック》の討伐依頼を受けて、明日、三人で行くんだが……どうだ? 行くんなら、契約金は俺達がだしとくけど」
俺は谷口の言葉に歓喜し、二つ返事で承諾した。

この日をどれだけ楽しみにしていたか。
胸の高鳴りを押さえつつ、俺達の乗る馬車は《森と丘》に向かっていた。


その頃、街の酒場の奥の部屋に、一つの依頼書が届いていた。
その依頼書を受け取った男の瞳が、眼鏡の奥から覗き込む。
会長と呼ばれているマスターは、眼鏡をついと指で押し上げると一人の受け付け嬢を呼び止た。
「喜緑くん。この依頼書の対応を頼む」
呼び止められた受け付け嬢《喜緑江美里》は、依頼書を受け取るとカウンターに戻り、内容を確認した。

『《リオレウス》を村に住むハンター達で撃退したが、また戻って来るかもしれない。
その前に、そちら側のハンターで討伐してほしい』

そう書かれていた依頼書には、村長の名前、報酬金、逃げた場所が書かれてあった。
「困まりましたわ……」
小さな溜め息を吐く。

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/12(土) 00:31:00.51 ID:ZoB1YdZsO

一度、ハンター達の攻撃から生き延びた《飛竜》は、知識をつけ、さらに手強くなる。
腕の良いハンターならどうにか出来るため、差程問題では無いが、如何せん場所が悪かった。
依頼書に記された場所は《森と丘》。
そこには今、四人のハンターが《イャンクック》の討伐依頼を受けて、馬車は走らせている。
そのハンター達は、この事を知らない。
例え《リオレウス》に気付いたとしても、新人ハンターを連れて、手強くなった《リオレウス》と戦うのは自殺行為に等しい。
本来なら、運が無かった。と言われるだろうが、何の対応もしなかったら、ギルドの信頼性を落とすことになる。
喜緑さんは考えた挙句、一人の女性を呼び止めた。
「鶴屋さん。少し宜しいですか?」
呼ばれた女性は、手に持っていたビールをテーブルに置くと、長い髪を揺らし、カウンターの前までやってきた。
「ん? あたしに用かい?」
喜緑さんは依頼書をカウンターの上に置くと、簡単な説明をした。
「そりゃー困ったね。あたしが行かなきゃならないとこだけど、ちょっち用事があるから、みくるに頼んでみるよ」
「お願いします。それでは、私は馬車の準備を頼みにいきますので」
喜緑さんは背を向けると、酒場から出ていった。

「みっくるー! 今すぐカウンター前に集合ー!」
鶴屋さんの声は酒場の中に響き渡り、何人かのハンターは耳を押さえる。
そんな中を胸を揺らし、《朝比奈みくる》はカウンター前に駆け寄った。
「何ですか? 鶴屋さん」

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/12(土) 00:45:00.43 ID:ZoB1YdZsO

朝比奈さんの問いに、鶴屋さんは依頼書の事を説明した。そして、今から四人のハンターに事情を説明するように、と。
「戻って来るなら、契約金の方は返すからって言っといてよ」
「はい」
「あ! それと、そこに置いてある《傘》とトランクを持っていっていいよ!」
「分かりました」
朝比奈さんはそう言うと、傘に手を伸ばし、掴もうとした。
「どこ行くの、みくるちゃん?」
それを遮るように、誰かが腕を掴む。涼宮ハルヒだ。
「今日は、あたしの相手をしてくれるんじゃないの?」
「あ、いえ、あの……今から《森と丘》に行かないといけないので……」
「《森と丘》?」
涼宮ハルヒはその言葉を聞くと、クエストボードを睨み、カウンターの上に視線を移し、歩を進めた。
鶴屋さんはカウンターの上にある物に気付き、手を伸ばすが、遅かった。
涼宮ハルヒは神速の動きで依頼書を手に取り、内容を読む。そして、場所を確認したその顔が、驚きと笑顔に変わる。
「みくるちゃん、《リオレウス》の討伐に行くの! それなら、あたしも行くわよ!」
その言葉に、朝比奈さんは言葉を失った。
これは別に感動しているわけでは無い。逆に心配で仕方ないのだ。自分の命が……。
「違うんだよ、ハルにゃん!」
涼宮ハルヒを呼び止め、鶴屋さんはすぐに事情を説明したが、

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/12(土) 01:38:41.64 ID:ZoB1YdZsO

「どっちにしても、暇だからついていくわ」
その言葉に、鶴屋さんも言葉を失った。

涼宮ハルヒがどんなハンターか、この街の人間は知っている。
だからこそ、心配で仕方なく、どうする事も出来ないのだ。
鶴屋さんは、誘拐されるように連れていかれる朝比奈さんを、ただ、見守る事しか出来なかった。

二人が酒場から出ようとしたとき、《フルフルシリーズ》に身を包んだ一人の少女が中に入ってきた。
その少女の顔を見た鶴屋さんは、すぐに二人を呼び止め、
「有希っ子。そこの二人についていってくれないかい?」
鶴屋さんの言葉に《長門有希》は、了承の返事をし、二人に近づいた。
「有希って言ったかしら? あなたと隊を組むのは初めてね」
「そう」
「よろしくね」
「わかった」

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/12(土) 01:40:37.79 ID:ZoB1YdZsO

そう言って、三人は酒場を出ていった。

三人を見送る鶴屋さんは、胸の中にある不安が、「隊を組む」の言葉によって確信へと変わった。
涼宮ハルヒは《リオレウス》の討伐をするだろう、と。


《森と丘》に到着した俺達は、馬車から荷物を降ろしていた。
ある程度、荷物を降ろし終わると、岡部はランス《ブロスホーン》を地面に置き、
支給品で届いた携帯食料を噛みながら、調合した爆薬を大タルに詰め込んでいく。
国木田はライトボウガン《グレネードボウガン》用の弾を作り、谷口は閃光玉と音爆弾を作りだした。
俺も何かしないといけないと思い、馬車に積んでいた荷物に手を伸ばす。
「何してんだ?」
調合を終えた谷口が言う。
「テントを造るんだが」
当たり前のように答えたが、なぜか谷口達は笑っていた。
「ここに何日いるつもりだ?」
「それは《イャンクック》を討伐すりまでに決まっているだろ」
「それは何日だ?」
「知らん」
この俺の言葉に、谷口達は溜め息をついた。

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/12(土) 01:42:07.70 ID:ZoB1YdZsO

「俺達は四人で狩りに来ているだぜ。
《リオレウス》ならまだしも、《イャンクック》相手に、二、三日戦い続ける奴なんて街にはいないぜ」
荷物を持ち上げ、付け加えるように、
「俺達は、ハンターになって一ヶ月で《イャンクック》を倒した、お前の度胸だけは評価しているだからな」
谷口は大タル爆弾を背負い歩きだす。
なるほど。お前が言いたい事は、よく分かった。
つまり、今日中に《イャンクック》を狩って帰る、と。
なんだか馬鹿にされた気分だが、最後の言葉は褒め言葉として受け取っておくよ。

「何をしている? 準備はいいのか」
谷口の作った閃光玉と音爆弾を手にした岡部が言う。
「キョン、これを持っていきなよ」
国木田が駆け寄り、閃光玉を一つ渡してきた。
「もしもの時は、これを使って逃げなよ」
俺はそれを受け取りつつ「逃げねーよ」と、返事をした。

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/12(土) 01:44:02.16 ID:ZoB1YdZsO

「それじゃ、行くとするか」
岡部が言い、歩きだす。俺も岡部が用意しておいた大タル爆弾を背負い、後をついていった。

《アプトノス》の群れを避け、森の中に入り込み《ランポス》がいないか確認する。
馬車の中であらかじめ《イャンクック》のいそうな場所を検討していた俺達は、身をかがめながら奥の水場に向かった。

先頭の岡部が歩を止めて、数十メートル先を見据える。
そこには《大怪鳥イャンクック》が辺りを見回していた。
茂みの中に身を隠していた俺達に気付いた様子は無いが、顔を持ち上げ、警戒している。
大タル爆弾の爆薬の匂いが、風に乗り届いたのだろう。
「先制攻撃を掛けるぞ」
そう岡部が言うと、荷物を降ろして中から音爆弾を取り出す。
「キョン。俺達も行くぞ」
谷口は荷物を地面に置き、大タル爆弾を抱え直す。
俺もそれに従い、大タル爆弾を抱え、《イャンクック》めがけて走った。

―――クワカッカカカカ

俺達に気付いた《イャンクック》が吠える。
見据える先は、俺と谷口。

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/12(土) 01:45:59.52 ID:ZoB1YdZsO

本来、大タル爆弾を持った状態で突っ込むのは危険な行為だが、それでも俺達は突っ込んだ。
後ろにいる岡部を信じて。

「くらえ! ハンドボールで鍛えたこの投球術を!」
岡部が高らかに叫び、音爆弾を投げた。
力投珠を身に付けた、防具の重さを感じさせない投球は、俺達の頭上を越え、《イャンクック》の目の前で爆発する。
耳のいい《イャンクック》は、聴覚にダメージをおい、脳を揺する。
頭を揺らし、足をふらつかせ、なんとかそこに立っている。
「今のうちに」
谷口は懐に潜り込み、足下に大タル爆弾を仕掛ける。
つづけて俺も大タル爆弾を仕掛けて、《イャンクック》から距離をとった。
直後、一発の銃声とともに爆発が起こる。

熱風が体を突き抜け、土煙があがる。
その中で《イャンクック》は、甲殻に穴をあけ、片足が吹き飛び、地面に倒れた。

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/12(土) 01:51:04.95 ID:ZoB1YdZsO

その中に岡部が走り込み、甲殻の穴にランスを一直線に突き刺す。
谷口は背中の太刀を引き抜き、逃げられないように翼膜を斬りきざむ。
そして俺も大剣の柄を握り、顔面に振り下ろした。


「これが隊の狩りだ」
と、《イャンクック》の甲殻の一つを剥ぎなが岡部が言う。
確かに、一人で狩りをした時より断然早さが違う。
それは、隊の人間一人一人が役割を果たしたからだろう。

「よし。俺達は先に帰らせてもらうとするか。依頼が成功した証拠があれば十分だから、他の素材はお前にやるよ」
と岡部が言い、背中を向けてもと来た道へ帰っていく。
谷口と国木田も岡部のあとを追って歩きだす。
俺はお言葉に甘えて、イャンクックの素材を剥ぎ取ることにした。
腰のナイフを抜いて、イャンクックの身体に刃をとおし甲殻と鱗を剥ぐ。

161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/12(土) 18:38:30.28 ID:ZoB1YdZsO

>>120

荷物の余裕を確認し、火炎袋をイャンクック身体から取り出す。
手についたイャンクックの血が糸を引き、垂れ落ちる。

剥ぎ取りを終えた手で額の汗を拭き、重くなった荷物を抱えなおす。
そこに風がそよぐ。木が獣のように唸る。大地に写る巨大な影。
俺は手に持つ荷物を強く握り締め、上空を見た。

―――ギャオオォゥゥ

雄叫びをあげ、舞い降りたのは《雄火竜リオレウス》。
こんな話は聞いてない。
《リオレウス》がここにいるなんて。
あれか。二週間前に卵を持って行ったのが原因か?
いや、あれだ。それとは関係なく、ただ、水を飲みに来ただけだろう。
そうだ! そうに違いない!
俺は気づかれないように一歩、また一歩、後ろに下がる。

バキッ!

え?
俺の足が、枝を踏んでいた。

165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/12(土) 18:55:33.30 ID:ZoB1YdZsO

《リオレウス》はその音に気付いたのだろう。
振り返り、俺を睨み、怒りの叫びをあげた。
これは危険だ。逃げたほうがいい。
本能が体の中を駆け巡り、国木田から貰った閃光玉を投げていた。
まばゆい光を放ち、《リオレウス》は動きを止める。
そのままおとなしくしてくれればいいものの、《リオレウス》は尾を振り回し暴れている。
もと来た道には《リオレウス》がいるため、進めない。
周り道にはなるが、丘を経由して行くしかないようだ。
重い荷物を抱え直し、全速力で逃げた。

百、二百近く走ったあたりで、俺は足を止めた。
多少入り組んでいるせいか、背後には《リオレウス》の姿は見えていない。
途中出会うと思っていた《ランポス》は、何故か死んでいた。
安心した俺は、乱れた呼吸を整えようと大きく深呼吸した。

―――ギャオオォゥゥ

遠くにいるはずの《リオレウス》の雄叫びが間近に響く。

167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/12(土) 19:12:30.17 ID:ZoB1YdZsO

そして俺の目の前に降り立った。
本日二回目。
そんなに俺に会いたかったのか……俺に……。
正直嬉しくない。逃げ切る自信が無い。
そんな俺の心境に関係なく、《リオレウス》は突撃する。
そしてその攻撃は、俺にあたらなかった。
一発の銃声が、弾丸が《リオレウス》の足に当たり、爆発した。
お陰で《リオレウス》は地面に頭から激突する。
俺は《リオレウス》から距離をとり、銃声のした方へ振り向く。
そこには、涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、長門有希の三人がいた。

「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人がうわっ!」
前口上を唱えていた涼宮は、起き上がった《リオレウス》が炎弾を飛ばすや否や、横に飛び込むようにして避けた。
「くっ! ちょっと何よ今の! 前口上ぐらい言わせなさいよ!」
涼宮は通じることのないだろう文句吐いて走りだしす。
長門有希も片手剣を引き抜き走りだした。
目指すは《雄火竜リオレウス》。

168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/12(土) 19:38:00.29 ID:ZoB1YdZsO

思わぬ救援に俺は歓喜し、見入っていた。
長門は脚を攻撃し、涼宮はハンマーを頭に叩き込む。
《リオレウス》が反撃しようとしたときには距離をとり、そこに朝比奈さんが弾丸を打ち込む。
流れるような攻撃に、《リオレウス》の身体から鱗が剥げ、甲殻にヒビが入る。
好機と察した涼宮は、手に持つハンマーに力を込める。
「もらったー!」
振り抜く一撃を《リオレウス》は首を反らして回避した。
「うそ!」
態勢を崩した涼宮に《リオレウス》は反らした頭を利用して頭突きを繰り出す。
避けることができず、もろに直撃した涼宮の体を吹っ飛ばし、二回、三回地面を転がり、動きを止める。
「おい! 大丈夫か!」
俺は涼宮に駆け寄り、抱き起こした。
「くっ……前……」
涼宮は吐き出すように言葉をもらし、前を振り向くと《リオレウス》の口から炎弾が吐き出されていた。

炎弾は俺の防具では防ぎきれずに燃えつきるだろう。
涼宮だって同じだ。剥き身の部分にあたればどうしようもない。

171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/12(土) 19:54:34.02 ID:ZoB1YdZsO

どうせ死ぬなら……。
俺は《リオレウス》に背を向けて、涼宮の身体を覆い隠す。
せめてこいつぐらいは、涼宮ぐらいは救けてみせようと。
ポニーテー……いや、考えるのは止そう。理由なんてどうでもいい。

「え……」
腕の中にいる涼宮が声を洩らす。
そして、俺の背にハンマーで叩きつけるような衝撃が伝わる。
「うあっ」
全身を突き抜ける炎に、燃えるような痛みを感じながら、遠くで悲鳴にならない声を聞きながら、俺の意識は途絶えた。


暗い暗い闇の世界。
俺は死んだのか?
ここは地獄なのか?
思考の中にある答えは、体を駆け巡る痛み。

176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/12(土) 20:15:04.06 ID:ZoB1YdZsO

その痛みを和らげるかのような冷たさと温もり。
そして、俺は目を覚ました。

「目が覚めた?」
俺の瞳を覗き込むように涼宮は顔を近付けた。
ガタガタと揺れるのを背中に感じ、身体を起こす。
不意に動かしたせいか、身体が悲鳴をおこし、痛みに顔が歪む。
「ちょっと、無理に動かなくていいわよ」
涼宮は両手で俺の体を押し倒す。
「俺は……生きて……」
身体を横にしながら辺りを見回し、自分が荷馬車の中にいることを確認する。
「生きてるわよ。……たく、あんた大剣使いで良かったわね。
それが背中に無かったら、全身が丸焦げになってたわよ」
その言葉に俺は自分の身体を確認した。
上半身裸になっていたのは気になるが、俺の両肩には熱したように赤々としている。
「みくるちゃんが持ってきたトランクの中に薬があったから、手当てしといたわ」
成る程。それで裸に……。

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/12(土) 20:30:01.89 ID:ZoB1YdZsO

「……涼宮」
「なに」
「……ありがとう」
俺は簡単な言葉で礼を言った。
「礼を言うのは、あたしの方よ」
そう言って涼宮は、
「けどね……あたしは言葉で礼をする気はないわ。借りたものは三倍にして返す」
それはどういう事だ?
俺に何かしてくれるのか?
「あたしと隊を組みなさい!」
………………は?
『礼』と『隊を組む』のがどう関係しているんだ?
「救けてもらったからには、あたしがあんたを三回救ける」
「ちょっと待……」
「拒否権はないから」
「いや、しかし……」
「返事!」
その瞳の鋭さに畏怖し、
「は……はい……」
返事をしていた。
「うん。よろしい!」
その時の涼宮の笑みは、とても輝いてみえた。
出会った時とは大違いだ。

180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/12(土) 20:34:05.16 ID:ZoB1YdZsO

「それと、涼宮と呼ぶのはやめて。ハルヒと呼んでちょうだい! いい?」
……わかったよ。ハルヒ。


あれから数日後。
ハルヒに呼ばれて酒場に俺と長門と朝比奈さんは集まっていた。
集まった俺達にハルヒが言ったことは、
「SOS団! これがあたし達の隊の名前よ!」
涼宮ハルヒは酒場に居たハンター達に宣言して、席に着いた。
周りがどよめき、変な言葉が飛びかっているが、気にしないでおこう。
「ハンマーに大剣に片手剣にボウガン……。あと、ランス使いが欲しいわね……」
あらぬことか、ハルヒは五人目のハンターを望みはじめた。
五人目なんて、不吉な事を言いやがる。
「おい、ハルヒ。さすがに五人目は……」
「大丈夫よ。あたし達は『隊』じゃなくて『団』だから。一人二人増えたところで変わりないわよ」
ハルヒにとって、俺の意見など無意味なのだろ。
団であるという理由で打ち切られた。
せめて長門や朝比奈さんに危害が及ばないようにしないとな。
そう心に決め、この日は酒を飲み交わして一日を過ごした。

そして翌日。
五人目のランス使いが仲間に加わったのは、言うまでもないだろう。

182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/12(土) 20:37:18.04 ID:ZoB1YdZsO

これで終わりです。
古泉が最後の最後まで出なかったけど……いいでしょう。

長く書くと、ぐだぐだになるので、これくらいにしておきます。

ありがとうございました



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